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古代の軍勢。或いは、骨兵襲撃…



●王国の軍勢
 とある森林地帯の奥深く、かつて栄えた1つの王国があった。
 その王国は、けれどある日火山の噴火により一夜にして滅亡したという。
 それから時は流れ、王国についてはおよその位置のみが文献により伝わるのみ。
 王国の存在さえも、ある種の伝説として語られる……けれど。

 とある街。周辺を囲う高い外壁の見張り台。
 月夜の光に照らされた何かの影を見つけ、見張りの兵士が「何だアレ?」と声をあげた。
 見張り台に設置されたカンテラを高く掲げ、暗闇の中に目を凝らす。
 果たして……。
「は? あれは……骨?」
 その数はおよそ30体ほど。
 ガチャガチャと重たい音を鳴らしながら、骨の軍勢が街へ向かって進行して来る。
 この距離まで接近を許してしまったのは、骨がどれも真っ黒に焦げ付いていたからだ。
 粗末な青銅の武器。一糸乱れぬ揃った動き。
 その先頭に立っていたのは、骨の馬に乗った、背丈2メートルに迫る男性の骨だ。
 言葉を発することはできないが、代わりに手にした鉄槍を振り下ろし背後の骨兵たちに指示を出す。
 直後……。
 青銅の武器を打ち鳴らし、地面を踏みしめ、骨の兵団は外壁目掛けて駆け出した。

●防衛作戦
「街を襲っているのは、かつて滅んだ名もなき王国の王と兵……それが、還リビトとして蘇ったものね」
 この街を襲う理由は不明だけど、と。
 そう言って『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はため息を零す。
 幸いなことに、古い時代の兵士ということもあり骨兵たちの装備はさほど質が良くない。
 また、その身も風化で崩れ去る寸前だ。
 現代の武具を用いれば、破壊は比較的容易だろう。
「もっとも〝王〟の存在で、その欠点もある程度補われているわ」
 そう言ってバーバラは、自由騎士たちに視線を向けた。
「王の指揮下にある兵士たちは、全パラメーターが3~5割ほど上昇するみたい。
 王1体を討伐されれば失われるものとはいえ、その上昇率はかなり高い。
「また王の攻撃には【トリプルアタック】や【バーン】の状態異常が付与されるわ。その点も要注意ね」
 王は確かに軍勢の戦闘に立っている。
 だが、王への攻撃は軍勢たちが阻むだろう。
 速攻で王を討つか、それとも守りから崩すか。
 それは自由騎士たちの作戦次第だろう。
「それと、忘れないで欲しいのだけど……軍勢の狙いは街よ。そのことを忘れないで」
 と、そう言って。
 バーバラは仲間たちを送り出す。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
病み月
■成功条件
1.古の軍勢および王の討伐
●ターゲット
骨の王(還リビト)×1
大昔に滅んだ名もなき王国の王。
焼け焦げた黒い身体をしている。
一般兵と違い、鉄の槍や鉄の装備品を身に着け、骨の馬にまたがっている。
背丈は2メートルほどとかなり高く、また力も強い。
〝骨の軍勢〟の全パラメータを3~5割ほど上昇させる能力を持つ。
※上昇率は王と近い位置にいる者ほど高い模様。


・死霊炎舞[攻撃] A:物近単【三連】【バーン1】
炎を纏った槍による攻撃。

・業火の礫[攻撃] A:魔遠貫【バーン2】
槍に纏わせた炎を撃ち出す遠距離攻撃。


骨の軍勢(還リビト)×30
大昔に滅んだ名もなき王国の兵士。
青銅の剣を装備している歩兵。風化のせいか身体は脆い。
王の指揮により一糸乱れぬ行動をとる。




●場所
とある街の外壁前。
外壁の前には荒涼とした土地が広がっている。
周囲に身を潜めるような場所はない。
外壁は頑丈だが、街と外部を隔てる扉は劣化しており長い時間、軍勢の進行をとどめることはできない。

 
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
7モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
5/8
公開日
2020年07月04日

†メイン参加者 5人†




 とある街。周辺を囲う高い外壁。
 月明りの中、街に迫るは約30の骨の軍勢。
 その先頭には骨馬に乗る骨の王。
 彼らはかつて滅んだとある王国の者たちだ。火山の噴火に巻き込まれ、そして命を落としたという。それが今になって〝還リビト〟として蘇ったのだ。
 それがなぜ、街を目指して進んでくるのか。
「かつて滅んだ名もなき王国、か。そこにどんなドラマがあるのか興味があるところだけど、
今は太古のロマンに思いを馳せるより目の前の惨劇を止めるのが先だな」
 背後の外壁を振り返り『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は腰の剣を抜く。
 リュエルの背後、壁の向こうの街人たちは、いつもと同じ日常を送っているはずだ。
 彼らは軍勢の進行など知りもしない。
 下手に知らせると、余計な混乱を招きかねないという判断によるものだ。
「古い王国の軍勢か。いまになってどんな想いでこの街を攻めるのかしら?」
 朱色の籠手を打ち鳴らし、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は小首を傾げた。
 それから身に纏う修道服を脱ぎ捨てて、エルシーは獣のような笑みを浮かべた。
「まぁ、考えてもわからないことよね。わかっているのは、ココは絶対通さないってコトよ!」
 胸を張り、拳を握り前へと進む。
 エルシーの姿を確認したのか、骨の王は鉄の槍を振り下ろす。それを合図に、軍勢たちがぴたりとその足を止めた。
「亡者が命ある者を深淵へ引きずり込んで良い道理なんてありません。食い止めましょう、悲劇を」
 エルシーに続き前に出たのは『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505) だ。
 狐に似た顔には、強い決意の色が浮かんでいた。
 彼女の背後には大十字架が、彼女の手には大きな剣が握られている。
 大質量の武器に打ちのめされてしまったのなら、劣化した骨の軍勢たちなどほんの数発で粉々に砕かれてしまうだろう。
 もっとも、骨の兵たちがそのことを理解しているかは分からない。
「えぇ、街の方達に被害を出す訳にも……ですよね」
 憂いた表情でそう囁いて、セアラ・ラングフォード(CL3000634)は胸の前で手を組んだ。
 彼女の祈りに応えるように、暖かな風が吹き抜ける。
 風には、淡い燐光が含まれていた。
 それは自然に存在する無形の魔力を、癒しの力に変換したものだ。
 仲間たちの身に降り注ぎ、その肉体に自動修復の恩恵を付与する。
「ずっと、森林地帯で眠っていれば良かったのに」
 錐に似た形状の剣を引き抜き、サーナ・フィレネ(CL3000681)はそう告げる。
 小さな身体に銀の髪。他人に対し苦手意識を抱く彼女は、ほかの4名からは僅かに離れた位置に立つ。
 各々が武器を構えたことにより、王は自由騎士たちを正しく〝敵〟と認識したようだった。
 カカカ、と歯を打ち鳴らし、王は槍を頭上へ掲げる。
 静寂は一瞬。
 王が槍を振り下ろしたその瞬間、骨の軍勢が歩み始めた。


 一糸乱れぬ揃った歩調で、骨の軍勢は前進を続ける。
 軍勢の数は約30体。
 だというのに、足音は一つに重なっている。
 リュエル、エルシー、アンジェリカの3名はそれぞれの武器を手にして駆け出した。
 これ以上、軍全を壁に近づけてしまうと抑えきれずに街への侵入を許してしまう危険があるからだ。
 街へ至るための大門はアンジェリカの盾兵隊が守護しているが、数に圧されて突破される可能性もある。
「王は俺がっ!」
 地面を蹴ってリュエルは加速。
 まるで時間を飛ばしたかの如く、一瞬で骸骨兵たちとの距離を詰めた。
 放たれるは加速の勢いを乗せた神速の突きが放たれた。
 骸骨兵たちに囲まれるように控えた王へ、最短距離で近づくつもりだ。
 けれど、王へ至るルートは骸骨兵たちによって塞がれていた。
 最前線に立つ骸骨兵たちが、一斉に剣を振り上げリュエルへと斬りかかる。
 リュエルが判断に迷ったのは一瞬。
 止まるか、それともこのまま突き進むか。
「ここは……取り巻きの数を減らしていく!」
 鋭い突きが、骸骨兵の胸部を貫く。さらに、剣の切っ先はその背後にいた別の骸骨兵の頭部を砕いた。
 2体の骸骨兵を無力化したところで、突きの姿勢で伸ばされたリュエルの腕に骸骨兵の剣が食い込む。
 ミシ、と。
 リュエルの骨が軋んだ音を鳴らす。
 歯を食いしばり、痛みを耐えたリュエルは身体ごとぶつかるようにして骸骨兵を突き飛ばす。腕から刃が抜け、血飛沫が散った。
 金の髪が朱に濡れる。リュエルは歯を食いしばり、悲鳴を堪えた。
 倒れ伏した骸骨兵から剣を引き抜き、迫る青銅の剣を打ち払う。
 再度の突撃を慣行するべく、リュエルは素早く後ろへ下がった。

 リュエルの左右を骸骨兵が駆け抜ける。
 骸骨兵たちの目的はあくまで街への侵攻であり、自由騎士たちの相手はその過程でしかないのだ。
 リュエルの攻勢を受け止めつつ、残りの兵は門の破壊を試みる。それが王の指示なのだろう。骸骨兵たちが迫る中、門の正面に立ったエルシーは拳を構えて腰を落とした。
「王の装備だけは鉄製か。鉄が貴重、もしくは鉄の加工が難しかった頃の人達かしら」
 左右から振り下ろされた青銅の剣を、エルシーは2発の裏拳で打ち砕く。
 青銅と籠手がぶつかる激しい音が鳴り響いた。砕けた剣の欠片が散った。
 エルシーのカバーをするように【エルシー親衛隊】が骨の軍勢の行く手を塞ぐ。親衛隊に襲い掛かる骸骨兵の背後から、エルシーは鋭い突きを放った。
 骸骨兵の頭部が砕け、その体は力を失い倒れ伏す。
 倒れた仲間を踏みつけて、骸骨兵たちは前進を続けるが……。
「安心しなさい。拳で語り合った後はしっかり弔ってあげるわ」
 抉るようなフックによって、骸骨兵の胸が砕けた。

 アンジェリカは身体の前面に十字架を構え、祈りを紡ぐ。
 それは死者たちの安らかな眠りを願う祈りであった。
 展開される灼熱の弾丸が、一斉に骸骨兵たちへと降り注ぐ。火炎に包まれながらも、けれど骸骨兵たちは前進。
 炎に包まれた剣を振り上げ、アンジェリカへと斬りかかる。
 アンジェリカは十字架から手を放し、地面に突きさしていた大剣へと持ち帰る。遠心力を利用した薙ぎ払いが、青銅の剣を打ち砕いた。
 よろけた骸骨兵の喉元へ、鋭い突きを放ち……。
「一気にダメージを与えて……外側から削って行きましょう」
 骸骨の王には、周囲の配下を強化する能力が備わっていた。
 強化の率は王に近いものほど高い。反面、王から離れた外側の兵は、さほどの強化を受けてはいない。
 事実、アンジェリカの放った弾雨に撃たれ骸骨兵たちは次々に崩れ去っていく。
 外周を囲んでいた兵はほんの数発で崩壊したが、王やその周辺の兵士はさほど大きなダメージを受けていないように見受けられる。
「……兵士や王様と対話は可能なのかしら」
 倒れた仲間を踏みつけて、なお前進を続ける兵士たちを見てアンジェリカはそう呟いた。
 
 数体の骸骨兵が、とうとう壁に辿り着く。
 青銅の剣を背に負って、骸骨兵たちは壁に指を突き立てた。
「まさかあそこから昇るつもり? ……皆さん、私は遊撃に回ります!」
 仲間たちに一声かけて、サーナは軍勢に背を向ける。
 手にした剣を素早く一閃。
 圧縮した気を刃に変えて、斬撃に乗せ解き放つ。
 外壁に張り付いていた骸骨兵は、背後からの斬撃を受けなすすべもなく切断された。泣き別れた上半身と下半身が、地面に落ちて粉々に散る。
 高所からの落下に耐えられるほど、骸骨兵たちの身体は頑丈にできてはいないのだ。
 土の中に数百年もいたせいか、その身体はすっかり脆くなっていた。
 サーナは壁の真下まで駆け、さらに一撃。
 気を乗せた鋭い突きが骸骨兵を襲う。
 だが……。
「え……なっ!?」
 突如として、骸骨兵は壁から跳んだ。
 落下する勢いを乗せた、青銅の剣による突きがサーナの肩に突き刺さる。衝撃を受け止めきれず、倒れ込んだサーナの背後に骸骨兵が群がった。
「っ……サーナさん、早く体勢を!」
 骸骨兵たちの間へ駆け込みながら、セアラは手にした得物を振るう。
 骸骨兵たちの注意がサーナから逸れたその一瞬の隙を突き、サーナは肩に突き刺さった剣を引き抜く。
 痛みを堪えながらも、剣による突きで落ちてきた骸骨兵を打ち砕いた。
 サーナの復帰を確認したセアラは、迫る青銅剣を回避しながら兵列の中から逃げ出した。
 撤退を図りながら、セアラは静かに祝詞を紡ぐ。
 展開された魔法陣。淡い燐光が飛び散って、サーナの傷を癒していく。
「交霊術を使えば、軍勢がこの街を襲う理由がわかるかしら……?」
 軍勢たちは撤退したセアラやサーナへ襲い掛かることはなかった。
 彼らの主目的は、あくまで街への侵入らしい。

 何体の骸骨兵を打ち壊しただろう。
 肩を上下させながら、エルシーは熱い吐息を吐いた。
 降り注ぐ淡い燐光が傷を癒し、体力を回復させるが精神的な疲労までは防げない。
 加えて、残りの骸骨兵たちは王に近い位置にいる。つまりその分、王のバフを受けパラメーターが上昇しているのだ。
 1体1体が、それなりに頑丈で、そして力も強かった。
「いくらなんでも、数が多すぎる……」
 振り下ろされた剣を、手の甲で受け流しながらエルシーはそう呟いた。
 後衛へと抜けた骸骨兵たちを殲滅したいが、立て続けに襲い来る剣戟を捌くのに精一杯で、今の彼女にそんな余裕は存在しない。
 けれど、しかし……。
「私がこのまま暴れていれば!」
 その分、敵の注意がエルシーに向く。
 
 空気の唸る音がした。
 振り抜かれた大十字架が、骸骨兵を粉砕する。
 アンジェリカの近くにいた骸骨兵はこれで最後だ。
 奮闘により生まれた一瞬の隙。だが、休んでいる時間はない。
 王や軍勢に背を向け、アンジェリカは外壁へと体を向けた。
「その動き、一度止めさせていただきます!」
使用するスキルは【大渦海域のタンゴ】。十字架に宿る膨大な魔力は、不可視の渦となって壁に張り付く骸骨兵たちを飲み込んだ。
 魔力の奔流の中、骸骨兵は十全に動くことはできない。
 移動不能を付与された骸骨兵が、外壁から剥がれ落ちた。地面に落ちた骸骨兵へ、降り注ぐのは氷矢の雨だ。
「これなら、狙いをつけなくても自動的に兵隊に当たる」
 吹き抜ける冷たい風が、サーナの髪を躍らせる。
 銀の髪を風になびかせ、骸骨兵たちを屠るその姿はある種の神話かおとぎ話の一幕を想起させた。
 惜しむらくは、観客となる者は言葉を発さぬ骸骨ばかりという点だろうか。
 その観客たちも、氷矢に穿たれそのほとんどは舞台を降りた。

 それはきっと、嘶きだろう。
 骨の馬が前肢を持ち上げ、雄々しく高く天を仰いだ。
 その背の上で、骸骨の王が槍を構える。
「っ……!?」
 王の前面に控えていた骸骨兵たちが、次の瞬間一斉に左右へと展開。王の駆けるべき道を作った。
 骸骨馬の蹄が地面を抉る。
 土煙を巻き上げながら、骸骨馬は一気に加速。その背の王は、突進の勢いを乗せた突きを放った。
 鉄の槍に炎が宿る。
 咄嗟の判断でリュエルは剣を眼前に。
 ガキン、と金属がぶつかる音が響いた次の瞬間、リュエルの身体が僅かに浮いた。
 骸骨馬の突進を、咄嗟に受け止めきることはできなかったのだ。
 弾かれた剣が宙を舞う。
 剣を取るべく伸ばされた手は、けれど虚しく空を掻く。
(こいつ……何の感情も……!?)
 攻撃の瞬間、王には何の意志もなかった。
 怒りも、喜びも、楽しみも、敵意も、悲しみも、何も。
 王はただ機械的に兵士たちに指示を出し、邪魔する者を薙ぎ払い、街へ向けて進むだけ。
 果たして、そこにどんな意味があるのか。
 わからないまま、リュエルは呻く。
その脇腹を、炎を纏った槍が抉った。

 地面に落ちたリュエルの剣を拾い上げ、セアラはそれを王へ向けて投げつけた。
 セアラの腕力では、王にダメージを与えるほどの威力は出ない。
 これは単なる牽制だ。
 飛来する剣を、王は槍で弾き落した。空気を切り裂き、長槍は大きく旋回する。
 その隙に、セアラは胸の前で手を組み祝詞を紡ぐ。
 展開される魔法陣。
 ぱっと舞い散る淡い燐光。
 暖かな光が、リュエルの身体へ降り注ぎ傷を癒した。
「王の攻撃には要注意ですね……皆さん、怪我をしたらすぐに声をかけてください。早めに治療いたします!」
 骸骨兵たちは3分の1ほどにまでその数を減らしる。
 残るは王の周囲を囲む、強化された個体ばかりだ。
 王の猛攻や、骸骨兵たちの連携攻撃を防ぐためにはセアラによる戦線維持が欠かせない。
 それを理解しているからこそ、セアラは急ぎ後衛へ。
 入れ替わるように、骸骨兵たちを掃除し終えたアンジェリカとサーナの2人が前衛近くへと上がる。


 頭の上に槍を構えて、王はそれを旋回させる。
 業火が螺旋の軌跡を描き、火炎の礫が飛び散った。
 骸骨兵たちに進路を阻まれたアンジェリカとサーナの頭上から、炎の雨が降り注ぐ。
「炎ですか……でしたら、こちらも」
 大十字架を頭上を掲げたアンジェリカ。
 解き放たれた灼熱の弾幕が、火炎の礫目掛けて飛来。空中でそれらは衝突し、周囲に爆炎を撒き散らす。
 爆炎に煽られ、骸骨兵の一部がよろける。
 体勢を崩した骸骨兵へサ向け、サーナは剣を突き出した。
 圧縮させた気の刃が、骸骨兵の胸部を抉った。
「やはり王には届きませんか……ですが」
 そう呟いて、再びサーナは刺突を放った。
 遠方の骸骨兵の頭部にそれは命中し、その身体を地面に倒す。
 倒れた骸骨兵の顔面を踏み砕いたエルシーは、サーナの切り開いたルートを辿って、王の足元へと駆け寄った。
「今度は私が相手になるわ! その身体、私の拳で砕いてあげる!」
 駆ける勢いそのままに、エルシーの拳が王の顎へと放たれた。
 今まさに、リュエルへ向けて刺突を放とうとしていた王であるが、咄嗟に槍を引き戻しその拳を防いでみせた。
 籠手と槍とが打ち合って、暗闇の中に火花が散った。
 王の腕がギシ……と軋む。
「ちょっと栄養が足りてないんじゃない?」
 にぃ、と狂暴な笑みを浮かべてエルシーは拳のラッシュを放つ。
 防戦を強いられた王は、バランスを崩し馬の上から落下した。
 主を失った骨馬が、エルシーへと襲い掛かるが……。
「見上げた忠誠心だな……あんたたちの物語、俺の胸に刻んでおくよ」
 その眉間をリュエルのレイピアが穿つ。
 額から血を流し、身体に無数の火傷と刺し傷を負ったリュエルはよろけながらも王へと迫る。
 立ち上がった王は、ゆっくりと槍を構え直した。
 その暗い眼窩の奥に炎が灯る。
 その瞬間、骸骨兵たちは動きと止めた。剣を胸の前で構えて、直立不動の姿勢をとった。
 暗い眼窩の向く先には彼らの王。
 その様を、驚いた顔でセアラは見つめる。

 セアラは咄嗟に王へ向けて【交霊術】を行使する。
「どうしてこの街を襲うのですか」
 と、セアラは問うた。
 返ってきたのは、途切れ途切れの断片的な記憶の残滓。
 かつて、この場所には王国があった。
 火山の噴火に巻き込まれ、灰の下に埋もれる国に背を向けて王とその部下たちはその場を去った。
 民を、家臣を、自身の妻子さえ見捨て……それでも、生き延びてさえいればいずれ王国を復興できるはずと、血の涙を流しながら逃げたのだ。
 人である前に、王は“王”であらねばならない。
 けれど、しかし……。
 国から暫く離れた場所で、王とその配下たちもまた溶岩に飲まれ命を落とした。
「……つまり、古の王国は……」
 と、そう呟いてセアラは足元へと視線を落とす。
 砕け散った骸骨の散らばる地面。この場所こそが、彼らの帰るべき場所だった。

 一閃。
 王の槍と、リュエルのレイピアが交差する。
 リュエルの肩に赤熱した槍が突き刺さり、肉の焦げる臭いが漂う。
 リュエルの剣は……。
「還りな……あんた達の物語はもう終わったんだ」
 王の首を刺し貫いた。

 王が滅びると同時に、骸骨兵たちもまた役目を終えて崩れ落ちる。
 その亡骸を1つひとつ丁寧に拾い上げ、地面に掘った穴へと埋める。
 街を覆う石壁の下、王の墓には彼の愛槍が突き立てられた。
 かつての王国のその跡地。
 ここがそうだと知る者は、5人の自由騎士だけだ。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済