MagiaSteam




【北方迎撃戦】水の国に祝福を

●水の国に祝福を
「イ・ラプセルに住まう者は幸いである」
イ・ラプセル北部の森、海岸。
そこに、いくつもの船が接岸していた。
中でも目立つのが、船体も帆も全て純白に染め上げられた大きな船だ。
真白の船は岸に着くと、そこから真っ白い司祭服を着た長身の男が降りてくる。
続くように六人の騎士が船から降りてきた。
いずれもが穢れなき純白の鎧に身を固め、その顔も白銀の仮面に覆われている。
彼らは聖堂騎士。
シャンバラ国軍である聖堂騎士団に所属する、歴とした正規兵であった。
さらにその後に、純白の巨大な虎のような獣が二匹、鎖に繋がれて続いた。
それこそは“聖獣”。
シャンバラの魔導技術によって改良された戦闘用の幻想種である。
「――イ・ラプセルに住まう者は解放されなければならない」
聖堂騎士を率いて、その男は厳かにそう告げる。
他の船からは次々に頭巾をかぶった準神民や魔女狩りが降りてきていた。
ゲオルグの報告を受けて派遣された、聖霊門設置部隊の第二陣だ。
「異なる神アクアディーネの妄言に惑わされ、未だ真なる光を得られぬ哀れな徒」
背筋を伸ばし、全く乱れなく歩きながら、白い男は言い続けた。
「我らが汝らに救いを与えるために来た。汝らの罪は拭われなければならない」
聖堂騎士を率いて歩く。それだけでもまるで何かの儀式の如き荘厳さがあった。
「神とは天に一つなるミトラースのみを指す言葉である」
その声に抑揚はない。
その声に感情はない。
ただただ淡々と、男は祝福の言葉を述べた。
「イ・ラプセルに住まう者は幸いである。我らの来訪によって汝らは解放されるからである。異なる神は滅びよ。真なる光を受け入れよ。目覚めよ。悪しき夢から覚めるときが来た。神とはミトラース唯一つ。法とはミトラース唯一つ。不浄の業を捨てよ。神の叡智を得よ。蒼き水の国に住まう者。汝らもまた我らが同胞となりて、主が与えし祝福に歓喜せよ。悪しき神は主の光に焼かれ罪と共に虚無へと堕ちよ」
述べて、歩く。粛々と。
「そのために必要なものは門である。この地に聖霊の門を築け。一つで足りぬならば二つ。二つで足りぬならば三つ。全ては主の幸いをこの地にもたらすために。我らは天に一つなるミトラースが子である。主は、我らを見守り給う」
そしてその手で印を切り、男は手を合わせて祈りを捧げた。
向かうべき場所は、自由騎士によって開通が阻止された聖霊門がある場所だ。
半ばまで築かれたそれを再び奪取できれば、シャンバラ側はその行動を格段に早めることができる。
同時に、新たな聖霊門の建設準備も整えてある。
前回、門の建設を阻まれたからこその奪還と建設の同時進行。
どちらもが本命であり、どちらもが予備である。
この白き男は、誰が相手であろうと決して油断をしない。
「歓喜せよ、水の国の民。我らは汝らに祝福を与えよう。その罪を拭おう」
男の名はジョセフ・クラーマー。
シャンバラ皇国の大司教たる“上級神民”にして、“魔女狩り将軍”ゲオルグ・クラーマーの実の弟である。
●大きなお世話だ顔なし共が
「シャンバラの顔なし共が性懲りもなく我らが国土に踏み入った。潰すぞ」
水鏡の間。
そこに、すでに自由騎士達が集められていた。
彼らを前に力強く告げたのは、『黒騎獅』ライル・ウィドル(nCL3000013)であった。
隣にはクラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)の姿もある。
「先ほど、水鏡が新たな予知を映し出した! シャンバラの顔なし共が、こちらが確保したあの魔導装置の祭壇を奪いに来る! 連中め、どうやらまたわざわざ新しく北の森に祭壇を築き直すつもりのようだが、それと並行してこちらが鹵獲した祭壇の再占領もやる気らしい! だがこれは好都合だ。何故なら、確保に来るのが敵の中核部隊だからだ! 連中がしていることは我が国に対する明確な侵略行為である! ゆえにこちらは祭壇を待ち伏せて、敵を叩く! 倒す! 捻り潰す! 以上が作戦概要となる!」
ライルの説明は実に明快。
敵が来るから叩き潰す。というだけのことである。
すでに、敵の襲撃時刻は水鏡の解析によってある程度絞れている。
現在、イ・ラプセルが鹵獲した聖霊門には国防騎士団が常駐しているが、彼らだけではシャンバラのオラクルを防ぐことはできないだろう。
だからこその、自由騎士の出番だ。
前回までの敵拠点を、今回は防衛することになる。
実に奇妙な話だが、敵の襲撃タイミングが判明している分やりやすくはあった。
「全く、ヴィス公といい、顔なし共といい、どうにもイ・ラプセルを低く見すぎているようだな、バカめが。我ら、蒼きアクアディーネの祝福を与えられたる自由騎士の意地、連中に見せつけてやろうではないか!」
意気軒高たるライルの言葉に、自由騎士達も揃ってうなずく。
彼らに与えられた任務は聖霊門を襲う敵中核部隊を叩くこと。それだけだ。
「イ・ラプセルに住まう者は幸いである」
イ・ラプセル北部の森、海岸。
そこに、いくつもの船が接岸していた。
中でも目立つのが、船体も帆も全て純白に染め上げられた大きな船だ。
真白の船は岸に着くと、そこから真っ白い司祭服を着た長身の男が降りてくる。
続くように六人の騎士が船から降りてきた。
いずれもが穢れなき純白の鎧に身を固め、その顔も白銀の仮面に覆われている。
彼らは聖堂騎士。
シャンバラ国軍である聖堂騎士団に所属する、歴とした正規兵であった。
さらにその後に、純白の巨大な虎のような獣が二匹、鎖に繋がれて続いた。
それこそは“聖獣”。
シャンバラの魔導技術によって改良された戦闘用の幻想種である。
「――イ・ラプセルに住まう者は解放されなければならない」
聖堂騎士を率いて、その男は厳かにそう告げる。
他の船からは次々に頭巾をかぶった準神民や魔女狩りが降りてきていた。
ゲオルグの報告を受けて派遣された、聖霊門設置部隊の第二陣だ。
「異なる神アクアディーネの妄言に惑わされ、未だ真なる光を得られぬ哀れな徒」
背筋を伸ばし、全く乱れなく歩きながら、白い男は言い続けた。
「我らが汝らに救いを与えるために来た。汝らの罪は拭われなければならない」
聖堂騎士を率いて歩く。それだけでもまるで何かの儀式の如き荘厳さがあった。
「神とは天に一つなるミトラースのみを指す言葉である」
その声に抑揚はない。
その声に感情はない。
ただただ淡々と、男は祝福の言葉を述べた。
「イ・ラプセルに住まう者は幸いである。我らの来訪によって汝らは解放されるからである。異なる神は滅びよ。真なる光を受け入れよ。目覚めよ。悪しき夢から覚めるときが来た。神とはミトラース唯一つ。法とはミトラース唯一つ。不浄の業を捨てよ。神の叡智を得よ。蒼き水の国に住まう者。汝らもまた我らが同胞となりて、主が与えし祝福に歓喜せよ。悪しき神は主の光に焼かれ罪と共に虚無へと堕ちよ」
述べて、歩く。粛々と。
「そのために必要なものは門である。この地に聖霊の門を築け。一つで足りぬならば二つ。二つで足りぬならば三つ。全ては主の幸いをこの地にもたらすために。我らは天に一つなるミトラースが子である。主は、我らを見守り給う」
そしてその手で印を切り、男は手を合わせて祈りを捧げた。
向かうべき場所は、自由騎士によって開通が阻止された聖霊門がある場所だ。
半ばまで築かれたそれを再び奪取できれば、シャンバラ側はその行動を格段に早めることができる。
同時に、新たな聖霊門の建設準備も整えてある。
前回、門の建設を阻まれたからこその奪還と建設の同時進行。
どちらもが本命であり、どちらもが予備である。
この白き男は、誰が相手であろうと決して油断をしない。
「歓喜せよ、水の国の民。我らは汝らに祝福を与えよう。その罪を拭おう」
男の名はジョセフ・クラーマー。
シャンバラ皇国の大司教たる“上級神民”にして、“魔女狩り将軍”ゲオルグ・クラーマーの実の弟である。
●大きなお世話だ顔なし共が
「シャンバラの顔なし共が性懲りもなく我らが国土に踏み入った。潰すぞ」
水鏡の間。
そこに、すでに自由騎士達が集められていた。
彼らを前に力強く告げたのは、『黒騎獅』ライル・ウィドル(nCL3000013)であった。
隣にはクラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)の姿もある。
「先ほど、水鏡が新たな予知を映し出した! シャンバラの顔なし共が、こちらが確保したあの魔導装置の祭壇を奪いに来る! 連中め、どうやらまたわざわざ新しく北の森に祭壇を築き直すつもりのようだが、それと並行してこちらが鹵獲した祭壇の再占領もやる気らしい! だがこれは好都合だ。何故なら、確保に来るのが敵の中核部隊だからだ! 連中がしていることは我が国に対する明確な侵略行為である! ゆえにこちらは祭壇を待ち伏せて、敵を叩く! 倒す! 捻り潰す! 以上が作戦概要となる!」
ライルの説明は実に明快。
敵が来るから叩き潰す。というだけのことである。
すでに、敵の襲撃時刻は水鏡の解析によってある程度絞れている。
現在、イ・ラプセルが鹵獲した聖霊門には国防騎士団が常駐しているが、彼らだけではシャンバラのオラクルを防ぐことはできないだろう。
だからこその、自由騎士の出番だ。
前回までの敵拠点を、今回は防衛することになる。
実に奇妙な話だが、敵の襲撃タイミングが判明している分やりやすくはあった。
「全く、ヴィス公といい、顔なし共といい、どうにもイ・ラプセルを低く見すぎているようだな、バカめが。我ら、蒼きアクアディーネの祝福を与えられたる自由騎士の意地、連中に見せつけてやろうではないか!」
意気軒高たるライルの言葉に、自由騎士達も揃ってうなずく。
彼らに与えられた任務は聖霊門を襲う敵中核部隊を叩くこと。それだけだ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ジョセフ・クラーマーの撃破
2.聖霊門の防衛
2.聖霊門の防衛
ライルさんヤる気満々。
吾語です。
しつこい。シャンバラの皆さんしつこい。
ということでこちら、ボス戦シナリオでございます。
なお、この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。
同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません。
◆成功条件詳細
・“大司教”ジョセフ・クラーマーの撃破
生死は問いません。
彼を無力化させることが第一の成功条件です。
・聖霊門の防衛
門を確保するために敵軍勢が襲撃してきます。
これを阻止することもまた成功条件の一つです。
敵は一体でも残っている限り確保を諦めないので、敵を壊滅させる必要があります。
◆敵戦力
・“大司教”ジョセフ・クラーマー
バトルスタイルはネクロマンサーです。
大司教に数えられる彼の力量は、通常のネクロマンサーを上回ります。
・聖堂騎士×6
シャンバラ皇国正規軍である聖堂騎士団の兵士です。
いずれも上級神民であり、その実力は魔女狩りよりも高く連携も取れています。
構成は、ネクロマンサー×2、重戦士×2、医術士×2、です。
・聖獣×2
シャンバラの魔導技術によって改良が加えられた戦闘用の幻想種です。
見た目はホワイトタイガーのようですが、頭に二本の角が生えています。
鋭い爪と牙で攻撃してきます。
また、咆哮によって遠距離範囲にパラライズのBSを与えてきます。
体力、攻撃力、速度が高いですが防御力は低いです。
◆国防騎士団とライルについて
戦闘時に自由騎士を援助してくれます。
具体的には、自由騎士側は二回まで国防騎士に援助を要請できます。
援助1回=レベル2のランク1スキルを1回使用してもらえる。
という感じとなります。
要請できる範囲は、レンジャー以外のバトルスタイルのスキルまでです。
また、ライルについては皆さんの指示に従います。
彼は重戦士のランク1スキル全てをレベル3で使用できます。
◆戦場
前回と同じく、聖霊門がある場所が戦場となります。
森の一部を切り開いた広場です。今回の時間帯は昼間となります。
ただし、ゲオルグからの情報によりジョセフは自由騎士を十分に警戒しています。
ご注意ください。
なお、タイミングとしては自由騎士到着後1時間程度で敵が襲撃してきます。
吾語です。
しつこい。シャンバラの皆さんしつこい。
ということでこちら、ボス戦シナリオでございます。
なお、この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。
同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません。
◆成功条件詳細
・“大司教”ジョセフ・クラーマーの撃破
生死は問いません。
彼を無力化させることが第一の成功条件です。
・聖霊門の防衛
門を確保するために敵軍勢が襲撃してきます。
これを阻止することもまた成功条件の一つです。
敵は一体でも残っている限り確保を諦めないので、敵を壊滅させる必要があります。
◆敵戦力
・“大司教”ジョセフ・クラーマー
バトルスタイルはネクロマンサーです。
大司教に数えられる彼の力量は、通常のネクロマンサーを上回ります。
・聖堂騎士×6
シャンバラ皇国正規軍である聖堂騎士団の兵士です。
いずれも上級神民であり、その実力は魔女狩りよりも高く連携も取れています。
構成は、ネクロマンサー×2、重戦士×2、医術士×2、です。
・聖獣×2
シャンバラの魔導技術によって改良が加えられた戦闘用の幻想種です。
見た目はホワイトタイガーのようですが、頭に二本の角が生えています。
鋭い爪と牙で攻撃してきます。
また、咆哮によって遠距離範囲にパラライズのBSを与えてきます。
体力、攻撃力、速度が高いですが防御力は低いです。
◆国防騎士団とライルについて
戦闘時に自由騎士を援助してくれます。
具体的には、自由騎士側は二回まで国防騎士に援助を要請できます。
援助1回=レベル2のランク1スキルを1回使用してもらえる。
という感じとなります。
要請できる範囲は、レンジャー以外のバトルスタイルのスキルまでです。
また、ライルについては皆さんの指示に従います。
彼は重戦士のランク1スキル全てをレベル3で使用できます。
◆戦場
前回と同じく、聖霊門がある場所が戦場となります。
森の一部を切り開いた広場です。今回の時間帯は昼間となります。
ただし、ゲオルグからの情報によりジョセフは自由騎士を十分に警戒しています。
ご注意ください。
なお、タイミングとしては自由騎士到着後1時間程度で敵が襲撃してきます。

状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2018年10月29日
2018年10月29日
†メイン参加者 10人†
●穢れなきもの、穢れしもの
「やはり、待ち構えていたか」
大司教ジョセフ・クラーマーはその場にいる面々を見て小さく呟く。
森を広く拓いた広場の奥には、置かれたままの純白の祭壇。
数人の国防騎士が、祭壇を守るようにしてそこにいた。
そして、さらに前線には――
「汝らがイ・ラプセルの自由騎士であるな」
「そしてあなたは、シャンバラの大司教ジョセフ・クラーマーだね」
シャンバラの一団を阻むように並び立つ十人の自由騎士。
その中の一人、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が問い返す。
「すでに私のことまで認知していようとは、愚兄より報されしイ・ラプセルの情報把握力。なるほど、とてもではないが侮れるものではないな」
静かに、そして厳かに、ジョセフはそう言ってアダムを見た。
「して、異端の騎士よ。何ゆえに敵である私を呼ぶか」
「僕はあなたと話がしたい」
「アダム、何を言ってるのよ!」
彼の言葉に『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)が目を見開いた。
「こんな魔女狩り連中と、話? 何を考えているの!」
「エル、彼らを魔女狩りじゃない。正規軍だ。それに彼らの考えも聞いて――」
「無為なるかな」
だがエルとアダムの話を、ジョセフが一言で切り捨てた。
「無為である。そして無駄である。汝らの言葉では、我らの歩みは止められぬ」
告げると、後方に控えていた六名の純白の騎士と二匹の“聖獣”が進み始める。
「汝らは幸いである。闇を彷徨うに等しき今の汝らに、我らが祝福を与えよう」
「やはり魔女狩りはどうにも好かないな。上から目線で、迷惑なだけだ」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が翼を開いて敵を睨んだ。
「――所詮はノウブルの集まりってことかねぇ」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)も愛銃を構えた。
「抗うのも今だけだ。我が神の愛の前に、汝らは地に伏し涙することとなるだろう」
「うっさい! 御託並べたってやってることはただの侵略でしょ!」
拳を突き付け、身も蓋もないことを叫ぶ『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)にジョセフの顔色がかすかに変わった。
「愚かな。我が神の愛を否定するか」
彼の声に応じるように、聖堂騎士達が歩みを速めた。
六人二体が徐々に広がり、慣れた動きで必殺の陣形を作ろうとする。
淀みのない、美しさすら感じさせる前進だ。
だが最前を行く騎士が、急に大きく前につんのめった。
「む」
ジョセフが小さく反応する。騎士のつま先に、結ばれた草が引っかかっていた。
「ゴガォオ!」
次に聖獣が叫んだ。こちらは、踏み出した前足を落とし穴に突っ込ませている。
罠だ。シャンバラの軍勢が来るまでの間に、自由騎士達が仕掛けていたのだ。
「引っかかりましたわね! 今ですわ!」
戦いが始まる直前より、力を溜め込んでいた『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が、動きを乱した敵陣に向かって魔力を解放する。
それは地面へと働きかけて地質を鋭い水晶の刃に変え、敵を一斉に貫いた。
「派手だな、全く」
そして『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)もまた、聖堂騎士が動きを立て直す前に己の得物に炎を纏わせ、それを叩きつける。
「ゴォォオオ!」
そばにいた“聖獣”がすぐさま頭を低くしてボルカスに飛び掛かろうとした。
だが、その肩に二発、銃弾が突き刺さった。
「麻痺を呼ぶ獣。悪いが、先に対処させてもらうぞ」
呟いて、『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)が新たに弾丸を込めた。
「今のうち、今のうち!」
仲間が攻勢を開始すると同時、『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は錬金術でホムンクルスをスパルトイを生み出していた。
そして、
「よーし、いい位置だ! これでも喰らいな!」
ジョセフの位置を確認したマリア・スティール(CL3000004)が近くに張ってあった蔓を切れば、連動してジョセフの直上に仕掛けられた罠が発動する。
ボタボタと、茶色い何かが一斉に降ってきた。それは――
「糞、か」
「ヘヘヘ、おまえらみたいなのにはお似合いだぜ!」
マリアは森で動物の糞を集め、それを罠に使用していたのだ。
ジョセフの純白の聖職衣が糞まみれになっている。彼はマリアへと言った。
「実に穢らわしいな」
「そうだろそうだろ、臭ェだろ! これがホントの生臭坊主ってな!」
「否。そうではない」
「……あ?」
大笑いするマリアへ、ジョセフは落ち着いた声で諭すように続けた。
「我らが信仰に穢れなし。汝らが信念に穢れあり。この程度の稚拙な行いで我らを貶めたのだと得意になるその幼さこそが穢れ。やはり汝らには救済が必要である」
「なっ……、うるせぇ!」
マリアが怒りに顔を赤くしてジョセフに襲い掛かろうとした。
だが、割って入った聖堂騎士の一人が地面に巨大なハンマーを叩きつける。
巻き起こった爆風が、マリアの身を派手に吹き飛ばした。
「――異端、滅せよ」
聖堂騎士と自由騎士、戦いはここから始まる。
●聖堂騎士団の脅威
「ゴガァァァァァァァァァ!」
“聖獣”の咆哮が迸る。
それは聞く者の動きを奪う、力叫びだ。
「グッ、おのれ……!」
途端に手が動かなくなったボルカスへ“聖獣”が飛び掛かろうとした。
しかし間一髪、ウェルスが魔導で彼の痺れを取り除き、ボルカスは横に飛ぶ。
だが完全にはかわし切れず、長く鋭い爪が彼の脇腹を切り裂いた。
「おのれ、顔無しの飼い犬めがァ!」
騎士ライル・ウィドルが“聖獣”に大剣を叩きつけようとするも、かわされる。
「オイオイ、今のかわすのかよ……」
近くで見ていたウェルスが眉をしかめて呟いた。しかしそこで思いついて、
「なぁ、おまえらこんな連中に与してないでこっちに来ないか?」
彼は持ち前の動物交流で“聖獣”に寝返りを提案したのだ。
しかし返ってくるのは強い敵意と殺意のみ。他に意志らしきものは感じない。
「ああ……、そういうところも含めて、改造済みかよ……」
ウェルスの目つきが険しくなる。
もう一方の“聖獣”が麻痺の咆哮を繰り出そうとする。
しかし、その動きが急に止まった。先んじて撃たれたザルクの一撃による麻痺。
「隙ありィィィィィィィ!」
カーミラが突っ込んで、その“聖獣”を一気呵成に攻め潰そうとする。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
だが“聖獣”は応戦してきた。
闘争本能を剥き出しにして、己のダメージなど気にも留めず攻撃してきた。
「ぐッ、くぅぅぅ! こ、のおォォォォォォォ!」
噛まれ、裂かれ、血を噴かせながらもカーミラは己の全力で“聖獣”を叩いた。
「が、っフゥ……!」
先に退いたのは、“聖獣”の方。
「やった!」
と、カーミラが思ったのも束の間。
“聖獣”は四肢を曲げた状態で身を引き力を溜めて、そして突っ込む。
「ゴォア!」
「――――ッッ!」
カーミラに、それを避けるすべはなかった。
腹部に強烈な一撃をもらい、彼女は大きく後方に吹き飛ぶ。
「……ンニャロウ!」
だが攻撃直後、“聖獣”にも大きな隙ができていた。
そこを、ウェルスとボルカスが突く。“聖獣”はそれを回避できない。
「ゴガァァァァァァ!」
“聖獣”は恐るべき戦闘用生物兵器だが防御面に難がある。それが欠点であった。
自由騎士の多重攻撃によってまずは一匹に大ダメージ。だが、まだ一匹。
「シャオオオオオオオオオオオ!」
轟く、麻痺の咆哮。
厄介なのはそれは範囲攻撃である点だ。
今まさに、ウェルス達全員が咆哮の範囲に巻き込まれてしまい、聖堂騎士が動く。
「神敵、滅せよ」
重戦士である。手にしているのは、巨大な鎚。
「させられないな!」
だが、アダムがカバーに入って、その身で敵の攻撃を受け止め――きれない。
「この、一撃の重さは……!?」
180cmを超えるアダムの身体が敵の横薙ぎの一撃によって吹き飛ばされた。
さらに、続けて大剣の重戦士が立とうとするアダムを狙ってくる。
「アダム様!」
近寄ろうとするジュリエットだが、しかし足元が急ぬかるんで動きが取れない。
ネクロマンサーの業だと、すぐに気が付いた。
「ロジェさん、お願いします!」
「ああ、分かってる!」
動けないジュリエットに代わり、空を舞うリュリュがアダムの傷を癒した。
「オォォォ……」
しかし敵もまた同じように、ヒーラーが倒れかけた“聖獣”を回復していた。
「この魔女狩り連中、これまでと違って隙が無い……!」
うめくように言うリュリュに、「当然だ」とジョセフが返す。
「これらは聖堂騎士。魔女狩りなどという有象無象とは比較することすら愚かしい、央都にて神に仕えることを許されし神の力。神の刃。真白き精鋭達よ」
尊大な物言いだが、しかしここまでで自由騎士はそれが嘘ではないと知った。
魔女狩り共にはなかった確かな連携。戦術。戦いの駆け引き。
聖堂騎士達にはそれがある。
「――強敵だ」
それは、ボルカスも認めざるを得なかった。
「だからってね、こっちも引くつもりはないの! 数で押してやるんだから!」
クイニィーがスパルトイを生み出して聖堂騎士へ押し付けようとする。
だが戦鎚の聖堂騎士が、己の武器で骨の兵士を破壊しようとした。
「そう来ると、思ってた!」
彼女の狙いは、重戦士ではない。
重戦士へと意識を向けていた、ヒーラーの方だ。
「むぅ!?」
ヒーラーは驚いただろう。いつの間にか足元に、ホムンクルスが立っていたのだ。
ホムンクルス渾身の体当たりが、ヒーラーの腹部を直撃する。
「おのれ……!」
無論、それだけで聖堂騎士は倒れない。
しかし反撃の起点には十分だ。すかさず動いたのは、エルだった。
「何が魔女狩りと違う、だ。おまえ達だって、魔女を殺してきたんだろう!」
憎悪を込めた弾丸がヒーラーの身体に幾つもの穴を開けた。
ザマァ見ろと、心の中に思う。だが仲間を撃たれても、敵に動揺は生じない。
「――神敵、滅せよ」
「あああああああああああああああ!!?」
敵ネクロマンサーの放った魔導の一撃が、エルに耐えがたい激痛をもたらした。
「エルさん!」
そこに、後方に控えていた騎士の一人が回復の魔導を使ってくれた。
痛みが一気に楽になった。
「ハァ、ハァ……!」
「ナイスファイトだぜ、エル!」
肩を上下させるエルの背中を叩き、マリアがキツく拳を握った。
「こうなったら、俺だってやったらァァァァァァァ!」
もう一人のヒーラー。それめがけて、自身の最大威力の拳を撃ち放つ。
「ぬぐっ!」
その思いきりのよいまっすぐな一撃に、敵は大した反応もできず吹き飛んだ。
「どんなモンだい!」
「神敵、滅せよ」
「異端、滅せよ」
ガッツポーズをとるマリアへ、だが聖堂騎士は迫ってくる。
仲間が倒れようとも関係なく、自分が傷つこうとも意にも介さず、淡々と。
さらには――
「「…………」」
たった今倒れた聖堂騎士二人が、無造作に立ち上がった。
「……ネクロマンサー!」
ザルクが、ジョセフを睨みつける。
「水の国の騎士達よ、汝らの健闘は称賛に値する。されど――」
“魔女狩り将軍”を兄に持つ大司教は、あくまでも静かに告げた。
「汝らが信念では足りぬ。我らが信仰を砕くには、些か足りぬのだ」
「その言葉には、こう返すよ」
残る痛みに顔をしかめながら、立ち上がったカーミラが言う。
「――イ・ラプセルを、ナメるな!」
●嘆きの炎と終わりの一発
重い金属音が、戦場にひと際甲高く響いた。
敵は最後に残った重戦士。迎え撃つはボルカスだ。
戦鎚と短槍がそれぞれ大きく弧を描き、ぶつかった衝撃が大気を震わせる。
両者、反動で大きく弾かれながらも、先に立ち直ったのはボルカスの方であった。
「……おのれ、神敵」
聖堂騎士の呟きが聞こえて、ボルカスは舌を打った。
「ここまで追い込まれながらも心は折れないか。忌々しくも大したものだ。が――」
槍を大きく引く。
その隙を埋めるように、ウェルスが牽制に入った。
「俺達は――!」
彼の一射が、重戦士の肩に当たってその体勢を大きく崩した。
「もう二度と後れを取るわけにはいかんのだ!」
そしてボルカスの一突きが聖堂騎士の鎧を破って身を抉る。
「……主よ」
最後の聖堂騎士が祈りの言葉と共に崩れ落ちた。
見下ろすボルカスもこらえきれずに膝を突く。体はいいかげん限界だった。
「よくよく、大したものよ」
そこにある景色を睥睨してジョセフは小さく息をつく。
立っているのは自由騎士。
倒れているのは聖堂騎士。そして“聖獣”ももはや動かない。
ネクロマンサーによる倒れた騎士の再利用も自由騎士は跳ねのけた。そして今。
「降伏、してくれないか」
動かなくなった右足を引きずり、アダムが問いかけた。
ジョセフは未だ健在だが独り。
自由騎士達は揃って満身創痍だが全員立っている。
戦いの趨勢は決したも同然だった。少なくとも自由騎士はそう思っていた。
「そうよ。さっさと連行されなさい。後始末は、私がやっておくから」
次いでエルからの勧告。
だが、
「……どういう意味のお言葉ですの、エルさん」
それに反応したのは、ジュリエットだった。
エルが彼女を、「またおまえか」という顔で見ている。
「言葉の通りよ。ここに倒れてる騎士連中は全員殺すわ。魔女狩りだもの」
「あなたは、まだそんなことを……!」
今に始まったことではない、敵の生殺与奪に関する話。
自由騎士達はおろか国防騎士達までもがそこに意識を向けてしまった、刹那、
「蒙昧、ここに極まれり」
強烈な圧力が、自由騎士達に襲い掛かった。
「は、ぐゥ……、これは……!?」
無論、ジョセフであった。
「これもまた神の御業。主の愛がもたらしたる我が信仰の奇跡」
ネクロマンサーの魔導。それも、一段高いレベルのもののようだった。
彼が放つ圧力に抗える者はその場にいなかった。皆、抗うには傷つきすぎていた。
動けずにいる自由騎士達の間を歩き、ジョセフはエルの前に立つ。
「さて、魔女を名乗る娘よ」
「な、何よ……!」
「告発しよう。汝は魔女に非ず」
「な……」
その一言に、エルは固まった。
「汝、神敵なれどヨウセイに非ず。ゆえ、汝は魔女に非ず」
「……やめろ」
「魔女狩りを敵視する汝の行ないは醜いばかりの自己正当化に他ならぬ」
「――やめてよ」
「汝、魔女と呼ばれしこと過去にあったやもしれぬが、されどそれも我らと些かの関わりもなし。汝が行ないは所詮憂さ晴らし以上になりえぬものと知るがよい」
「言うな。それ以上、言うな……!」
「汝、魔女に非ず。汝の行ない、復讐に非ず。汝の正義、正義に非ず」
「言、うな……ッ」
「――されど私は汝を赦そう。その偽りに満ちた汝の信念を、私は赦そう」
「言うなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
絶叫と共にエルが重圧を脱した。
憎むべき相手。
殺すべき相手。
そう定めたはずの魔女狩りの元締めに、よりにもよって己の在り様を否定される。
その上、私の間違いを赦すなどと!
そんな傲慢、エル自身が赦せるはずがなかった。
嘆きと共に命を燃やす。
自分の目の前に現れ出た傲慢に満ちた赦しを、跡形もなく焼き尽くすために。
それは炎となってジョセフへと押し寄せた。
「……小癪ッ!」
ジョセフがエルの炎を防ごうとする。
身にまとった聖職衣と籠手はシャンバラでも最高級の耐魔装備だ。
いずれも魔女を素材とし、宿る魔抗力もかなりの高さを誇る。
だが、エルの炎は衣を焼き、籠手を砕き、ジョセフの左腕をも炭に変えた。
「ンッ、ぬうううオオオオォォォォォ!!?」
そしてジョセフも吹き飛ばされて、自由騎士達は重圧から解放された。
「エルッッ!」
「エルさんッ!」
マリアやアダムが倒れたエルに駆け寄る。
エルは衰弱しきっていた。
当たり前だ。底を尽きかけた体力で、己の魂を極限まで燃やしたのだから。
「ク、ククク……」
ゆらりと、ジョセフが立ち上がった。
左腕は二の腕の半ばから炭と化し、顔も左半分がケロイド状に焼け爛れていた。
「実に、実に大したもの! エル。そう、エルと言ったな! その名、覚え――」
銃声は、一度。
「悪いが、囀るなら教会なりで勝手にやってくれ。……ここは戦場だ」
構えを解いて、ザルクが言った。
ジョセフはもう答えることもできず、グラリと傾いでそのまま倒れた。
「殺したの?」
尋ねてくるカーミラに、ザルクはかぶりを振る。
「不殺だ。とっておきの一発だぞ。じっくり味わってもらわないとな」
彼は肩をすくめて意地悪く笑って見せた。
「殺さずに、済んだのですね」
「……ああ」
ジュリエットはホッと胸を撫でおろした。
それぞれの正義、それぞれの信念、それぞれの信仰。
例え、決して相容れない相手であろうと、尊重するべきものはあるはずだ。
互いにぶつからざるを得ない部分があろうとも。
「とにかく、少し休みたいな」
「ああ、チクショウ。もう少し余力があればあの虎の毛皮はがしたいんだけど……」
戦いは終わった。
しかし自由騎士達はそれを喜ぶの気力も残っていない。
それだけ、大変な戦いであった。
国防騎士団が駆け寄る中で、自由騎士達はとりあえず、安堵の息をつくのだった。
「やはり、待ち構えていたか」
大司教ジョセフ・クラーマーはその場にいる面々を見て小さく呟く。
森を広く拓いた広場の奥には、置かれたままの純白の祭壇。
数人の国防騎士が、祭壇を守るようにしてそこにいた。
そして、さらに前線には――
「汝らがイ・ラプセルの自由騎士であるな」
「そしてあなたは、シャンバラの大司教ジョセフ・クラーマーだね」
シャンバラの一団を阻むように並び立つ十人の自由騎士。
その中の一人、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が問い返す。
「すでに私のことまで認知していようとは、愚兄より報されしイ・ラプセルの情報把握力。なるほど、とてもではないが侮れるものではないな」
静かに、そして厳かに、ジョセフはそう言ってアダムを見た。
「して、異端の騎士よ。何ゆえに敵である私を呼ぶか」
「僕はあなたと話がしたい」
「アダム、何を言ってるのよ!」
彼の言葉に『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)が目を見開いた。
「こんな魔女狩り連中と、話? 何を考えているの!」
「エル、彼らを魔女狩りじゃない。正規軍だ。それに彼らの考えも聞いて――」
「無為なるかな」
だがエルとアダムの話を、ジョセフが一言で切り捨てた。
「無為である。そして無駄である。汝らの言葉では、我らの歩みは止められぬ」
告げると、後方に控えていた六名の純白の騎士と二匹の“聖獣”が進み始める。
「汝らは幸いである。闇を彷徨うに等しき今の汝らに、我らが祝福を与えよう」
「やはり魔女狩りはどうにも好かないな。上から目線で、迷惑なだけだ」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が翼を開いて敵を睨んだ。
「――所詮はノウブルの集まりってことかねぇ」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)も愛銃を構えた。
「抗うのも今だけだ。我が神の愛の前に、汝らは地に伏し涙することとなるだろう」
「うっさい! 御託並べたってやってることはただの侵略でしょ!」
拳を突き付け、身も蓋もないことを叫ぶ『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)にジョセフの顔色がかすかに変わった。
「愚かな。我が神の愛を否定するか」
彼の声に応じるように、聖堂騎士達が歩みを速めた。
六人二体が徐々に広がり、慣れた動きで必殺の陣形を作ろうとする。
淀みのない、美しさすら感じさせる前進だ。
だが最前を行く騎士が、急に大きく前につんのめった。
「む」
ジョセフが小さく反応する。騎士のつま先に、結ばれた草が引っかかっていた。
「ゴガォオ!」
次に聖獣が叫んだ。こちらは、踏み出した前足を落とし穴に突っ込ませている。
罠だ。シャンバラの軍勢が来るまでの間に、自由騎士達が仕掛けていたのだ。
「引っかかりましたわね! 今ですわ!」
戦いが始まる直前より、力を溜め込んでいた『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)が、動きを乱した敵陣に向かって魔力を解放する。
それは地面へと働きかけて地質を鋭い水晶の刃に変え、敵を一斉に貫いた。
「派手だな、全く」
そして『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)もまた、聖堂騎士が動きを立て直す前に己の得物に炎を纏わせ、それを叩きつける。
「ゴォォオオ!」
そばにいた“聖獣”がすぐさま頭を低くしてボルカスに飛び掛かろうとした。
だが、その肩に二発、銃弾が突き刺さった。
「麻痺を呼ぶ獣。悪いが、先に対処させてもらうぞ」
呟いて、『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)が新たに弾丸を込めた。
「今のうち、今のうち!」
仲間が攻勢を開始すると同時、『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は錬金術でホムンクルスをスパルトイを生み出していた。
そして、
「よーし、いい位置だ! これでも喰らいな!」
ジョセフの位置を確認したマリア・スティール(CL3000004)が近くに張ってあった蔓を切れば、連動してジョセフの直上に仕掛けられた罠が発動する。
ボタボタと、茶色い何かが一斉に降ってきた。それは――
「糞、か」
「ヘヘヘ、おまえらみたいなのにはお似合いだぜ!」
マリアは森で動物の糞を集め、それを罠に使用していたのだ。
ジョセフの純白の聖職衣が糞まみれになっている。彼はマリアへと言った。
「実に穢らわしいな」
「そうだろそうだろ、臭ェだろ! これがホントの生臭坊主ってな!」
「否。そうではない」
「……あ?」
大笑いするマリアへ、ジョセフは落ち着いた声で諭すように続けた。
「我らが信仰に穢れなし。汝らが信念に穢れあり。この程度の稚拙な行いで我らを貶めたのだと得意になるその幼さこそが穢れ。やはり汝らには救済が必要である」
「なっ……、うるせぇ!」
マリアが怒りに顔を赤くしてジョセフに襲い掛かろうとした。
だが、割って入った聖堂騎士の一人が地面に巨大なハンマーを叩きつける。
巻き起こった爆風が、マリアの身を派手に吹き飛ばした。
「――異端、滅せよ」
聖堂騎士と自由騎士、戦いはここから始まる。
●聖堂騎士団の脅威
「ゴガァァァァァァァァァ!」
“聖獣”の咆哮が迸る。
それは聞く者の動きを奪う、力叫びだ。
「グッ、おのれ……!」
途端に手が動かなくなったボルカスへ“聖獣”が飛び掛かろうとした。
しかし間一髪、ウェルスが魔導で彼の痺れを取り除き、ボルカスは横に飛ぶ。
だが完全にはかわし切れず、長く鋭い爪が彼の脇腹を切り裂いた。
「おのれ、顔無しの飼い犬めがァ!」
騎士ライル・ウィドルが“聖獣”に大剣を叩きつけようとするも、かわされる。
「オイオイ、今のかわすのかよ……」
近くで見ていたウェルスが眉をしかめて呟いた。しかしそこで思いついて、
「なぁ、おまえらこんな連中に与してないでこっちに来ないか?」
彼は持ち前の動物交流で“聖獣”に寝返りを提案したのだ。
しかし返ってくるのは強い敵意と殺意のみ。他に意志らしきものは感じない。
「ああ……、そういうところも含めて、改造済みかよ……」
ウェルスの目つきが険しくなる。
もう一方の“聖獣”が麻痺の咆哮を繰り出そうとする。
しかし、その動きが急に止まった。先んじて撃たれたザルクの一撃による麻痺。
「隙ありィィィィィィィ!」
カーミラが突っ込んで、その“聖獣”を一気呵成に攻め潰そうとする。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
だが“聖獣”は応戦してきた。
闘争本能を剥き出しにして、己のダメージなど気にも留めず攻撃してきた。
「ぐッ、くぅぅぅ! こ、のおォォォォォォォ!」
噛まれ、裂かれ、血を噴かせながらもカーミラは己の全力で“聖獣”を叩いた。
「が、っフゥ……!」
先に退いたのは、“聖獣”の方。
「やった!」
と、カーミラが思ったのも束の間。
“聖獣”は四肢を曲げた状態で身を引き力を溜めて、そして突っ込む。
「ゴォア!」
「――――ッッ!」
カーミラに、それを避けるすべはなかった。
腹部に強烈な一撃をもらい、彼女は大きく後方に吹き飛ぶ。
「……ンニャロウ!」
だが攻撃直後、“聖獣”にも大きな隙ができていた。
そこを、ウェルスとボルカスが突く。“聖獣”はそれを回避できない。
「ゴガァァァァァァ!」
“聖獣”は恐るべき戦闘用生物兵器だが防御面に難がある。それが欠点であった。
自由騎士の多重攻撃によってまずは一匹に大ダメージ。だが、まだ一匹。
「シャオオオオオオオオオオオ!」
轟く、麻痺の咆哮。
厄介なのはそれは範囲攻撃である点だ。
今まさに、ウェルス達全員が咆哮の範囲に巻き込まれてしまい、聖堂騎士が動く。
「神敵、滅せよ」
重戦士である。手にしているのは、巨大な鎚。
「させられないな!」
だが、アダムがカバーに入って、その身で敵の攻撃を受け止め――きれない。
「この、一撃の重さは……!?」
180cmを超えるアダムの身体が敵の横薙ぎの一撃によって吹き飛ばされた。
さらに、続けて大剣の重戦士が立とうとするアダムを狙ってくる。
「アダム様!」
近寄ろうとするジュリエットだが、しかし足元が急ぬかるんで動きが取れない。
ネクロマンサーの業だと、すぐに気が付いた。
「ロジェさん、お願いします!」
「ああ、分かってる!」
動けないジュリエットに代わり、空を舞うリュリュがアダムの傷を癒した。
「オォォォ……」
しかし敵もまた同じように、ヒーラーが倒れかけた“聖獣”を回復していた。
「この魔女狩り連中、これまでと違って隙が無い……!」
うめくように言うリュリュに、「当然だ」とジョセフが返す。
「これらは聖堂騎士。魔女狩りなどという有象無象とは比較することすら愚かしい、央都にて神に仕えることを許されし神の力。神の刃。真白き精鋭達よ」
尊大な物言いだが、しかしここまでで自由騎士はそれが嘘ではないと知った。
魔女狩り共にはなかった確かな連携。戦術。戦いの駆け引き。
聖堂騎士達にはそれがある。
「――強敵だ」
それは、ボルカスも認めざるを得なかった。
「だからってね、こっちも引くつもりはないの! 数で押してやるんだから!」
クイニィーがスパルトイを生み出して聖堂騎士へ押し付けようとする。
だが戦鎚の聖堂騎士が、己の武器で骨の兵士を破壊しようとした。
「そう来ると、思ってた!」
彼女の狙いは、重戦士ではない。
重戦士へと意識を向けていた、ヒーラーの方だ。
「むぅ!?」
ヒーラーは驚いただろう。いつの間にか足元に、ホムンクルスが立っていたのだ。
ホムンクルス渾身の体当たりが、ヒーラーの腹部を直撃する。
「おのれ……!」
無論、それだけで聖堂騎士は倒れない。
しかし反撃の起点には十分だ。すかさず動いたのは、エルだった。
「何が魔女狩りと違う、だ。おまえ達だって、魔女を殺してきたんだろう!」
憎悪を込めた弾丸がヒーラーの身体に幾つもの穴を開けた。
ザマァ見ろと、心の中に思う。だが仲間を撃たれても、敵に動揺は生じない。
「――神敵、滅せよ」
「あああああああああああああああ!!?」
敵ネクロマンサーの放った魔導の一撃が、エルに耐えがたい激痛をもたらした。
「エルさん!」
そこに、後方に控えていた騎士の一人が回復の魔導を使ってくれた。
痛みが一気に楽になった。
「ハァ、ハァ……!」
「ナイスファイトだぜ、エル!」
肩を上下させるエルの背中を叩き、マリアがキツく拳を握った。
「こうなったら、俺だってやったらァァァァァァァ!」
もう一人のヒーラー。それめがけて、自身の最大威力の拳を撃ち放つ。
「ぬぐっ!」
その思いきりのよいまっすぐな一撃に、敵は大した反応もできず吹き飛んだ。
「どんなモンだい!」
「神敵、滅せよ」
「異端、滅せよ」
ガッツポーズをとるマリアへ、だが聖堂騎士は迫ってくる。
仲間が倒れようとも関係なく、自分が傷つこうとも意にも介さず、淡々と。
さらには――
「「…………」」
たった今倒れた聖堂騎士二人が、無造作に立ち上がった。
「……ネクロマンサー!」
ザルクが、ジョセフを睨みつける。
「水の国の騎士達よ、汝らの健闘は称賛に値する。されど――」
“魔女狩り将軍”を兄に持つ大司教は、あくまでも静かに告げた。
「汝らが信念では足りぬ。我らが信仰を砕くには、些か足りぬのだ」
「その言葉には、こう返すよ」
残る痛みに顔をしかめながら、立ち上がったカーミラが言う。
「――イ・ラプセルを、ナメるな!」
●嘆きの炎と終わりの一発
重い金属音が、戦場にひと際甲高く響いた。
敵は最後に残った重戦士。迎え撃つはボルカスだ。
戦鎚と短槍がそれぞれ大きく弧を描き、ぶつかった衝撃が大気を震わせる。
両者、反動で大きく弾かれながらも、先に立ち直ったのはボルカスの方であった。
「……おのれ、神敵」
聖堂騎士の呟きが聞こえて、ボルカスは舌を打った。
「ここまで追い込まれながらも心は折れないか。忌々しくも大したものだ。が――」
槍を大きく引く。
その隙を埋めるように、ウェルスが牽制に入った。
「俺達は――!」
彼の一射が、重戦士の肩に当たってその体勢を大きく崩した。
「もう二度と後れを取るわけにはいかんのだ!」
そしてボルカスの一突きが聖堂騎士の鎧を破って身を抉る。
「……主よ」
最後の聖堂騎士が祈りの言葉と共に崩れ落ちた。
見下ろすボルカスもこらえきれずに膝を突く。体はいいかげん限界だった。
「よくよく、大したものよ」
そこにある景色を睥睨してジョセフは小さく息をつく。
立っているのは自由騎士。
倒れているのは聖堂騎士。そして“聖獣”ももはや動かない。
ネクロマンサーによる倒れた騎士の再利用も自由騎士は跳ねのけた。そして今。
「降伏、してくれないか」
動かなくなった右足を引きずり、アダムが問いかけた。
ジョセフは未だ健在だが独り。
自由騎士達は揃って満身創痍だが全員立っている。
戦いの趨勢は決したも同然だった。少なくとも自由騎士はそう思っていた。
「そうよ。さっさと連行されなさい。後始末は、私がやっておくから」
次いでエルからの勧告。
だが、
「……どういう意味のお言葉ですの、エルさん」
それに反応したのは、ジュリエットだった。
エルが彼女を、「またおまえか」という顔で見ている。
「言葉の通りよ。ここに倒れてる騎士連中は全員殺すわ。魔女狩りだもの」
「あなたは、まだそんなことを……!」
今に始まったことではない、敵の生殺与奪に関する話。
自由騎士達はおろか国防騎士達までもがそこに意識を向けてしまった、刹那、
「蒙昧、ここに極まれり」
強烈な圧力が、自由騎士達に襲い掛かった。
「は、ぐゥ……、これは……!?」
無論、ジョセフであった。
「これもまた神の御業。主の愛がもたらしたる我が信仰の奇跡」
ネクロマンサーの魔導。それも、一段高いレベルのもののようだった。
彼が放つ圧力に抗える者はその場にいなかった。皆、抗うには傷つきすぎていた。
動けずにいる自由騎士達の間を歩き、ジョセフはエルの前に立つ。
「さて、魔女を名乗る娘よ」
「な、何よ……!」
「告発しよう。汝は魔女に非ず」
「な……」
その一言に、エルは固まった。
「汝、神敵なれどヨウセイに非ず。ゆえ、汝は魔女に非ず」
「……やめろ」
「魔女狩りを敵視する汝の行ないは醜いばかりの自己正当化に他ならぬ」
「――やめてよ」
「汝、魔女と呼ばれしこと過去にあったやもしれぬが、されどそれも我らと些かの関わりもなし。汝が行ないは所詮憂さ晴らし以上になりえぬものと知るがよい」
「言うな。それ以上、言うな……!」
「汝、魔女に非ず。汝の行ない、復讐に非ず。汝の正義、正義に非ず」
「言、うな……ッ」
「――されど私は汝を赦そう。その偽りに満ちた汝の信念を、私は赦そう」
「言うなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
絶叫と共にエルが重圧を脱した。
憎むべき相手。
殺すべき相手。
そう定めたはずの魔女狩りの元締めに、よりにもよって己の在り様を否定される。
その上、私の間違いを赦すなどと!
そんな傲慢、エル自身が赦せるはずがなかった。
嘆きと共に命を燃やす。
自分の目の前に現れ出た傲慢に満ちた赦しを、跡形もなく焼き尽くすために。
それは炎となってジョセフへと押し寄せた。
「……小癪ッ!」
ジョセフがエルの炎を防ごうとする。
身にまとった聖職衣と籠手はシャンバラでも最高級の耐魔装備だ。
いずれも魔女を素材とし、宿る魔抗力もかなりの高さを誇る。
だが、エルの炎は衣を焼き、籠手を砕き、ジョセフの左腕をも炭に変えた。
「ンッ、ぬうううオオオオォォォォォ!!?」
そしてジョセフも吹き飛ばされて、自由騎士達は重圧から解放された。
「エルッッ!」
「エルさんッ!」
マリアやアダムが倒れたエルに駆け寄る。
エルは衰弱しきっていた。
当たり前だ。底を尽きかけた体力で、己の魂を極限まで燃やしたのだから。
「ク、ククク……」
ゆらりと、ジョセフが立ち上がった。
左腕は二の腕の半ばから炭と化し、顔も左半分がケロイド状に焼け爛れていた。
「実に、実に大したもの! エル。そう、エルと言ったな! その名、覚え――」
銃声は、一度。
「悪いが、囀るなら教会なりで勝手にやってくれ。……ここは戦場だ」
構えを解いて、ザルクが言った。
ジョセフはもう答えることもできず、グラリと傾いでそのまま倒れた。
「殺したの?」
尋ねてくるカーミラに、ザルクはかぶりを振る。
「不殺だ。とっておきの一発だぞ。じっくり味わってもらわないとな」
彼は肩をすくめて意地悪く笑って見せた。
「殺さずに、済んだのですね」
「……ああ」
ジュリエットはホッと胸を撫でおろした。
それぞれの正義、それぞれの信念、それぞれの信仰。
例え、決して相容れない相手であろうと、尊重するべきものはあるはずだ。
互いにぶつからざるを得ない部分があろうとも。
「とにかく、少し休みたいな」
「ああ、チクショウ。もう少し余力があればあの虎の毛皮はがしたいんだけど……」
戦いは終わった。
しかし自由騎士達はそれを喜ぶの気力も残っていない。
それだけ、大変な戦いであった。
国防騎士団が駆け寄る中で、自由騎士達はとりあえず、安堵の息をつくのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
重傷
†あとがき†
激戦、お疲れさまでした。
無事に聖霊門を守ることに成功しました。
また次の機会にお会いしましょう!
無事に聖霊門を守ることに成功しました。
また次の機会にお会いしましょう!
FL送付済