MagiaSteam
チクチク兎と追いかけっこ



 とある草原に揺れる緑に混じり、黄色い螺旋を描く棘のような物が生えている。
「あれ、なんだろう……」
 遊びに来ていた子ども達が近づいていくと……兎である。
「え……」
 視線をあげると、棘。下げると、兎。問題はその兎が大型犬くらいの大きさがあるってことかな。
「でかっ!?」
 驚いた子どもの一人が声を上げた途端、急にあがった大声にビクンッと跳ねた兎は混乱したように角を振り回し、危くひっかかれそうになった子ども達が大慌てで逃げていった。

「こんな噂を知っているかい?」
 ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は街を行く女の子に手を振るが、愛想笑いを返して素通りしていく彼女にため息をこぼして、こちらに振り向いた。
「町外れに草原があるだろう? そこで遊んでいた子ども達がちょっと変わった動物に襲われたらしい。まぁ、襲われたって言っても怪我をしたわけじゃなく、驚いて逃げ帰ってきたらしいんだけどね」
 どうやら被害者はいないらしい、と安堵のため息をつくとヨアヒムが困ったように視線を逸らして。
「しかし、その変わった兎……恐らく幻想種なんだけど、結構大きい上に角があるらしくてね。何匹かいたって話もあるから、もしかしたら巣を作ろうとしてるのかもしれない。もしそんなことになったら、子ども達の遊び場が一つ失われる事になるね」
 体格や角の問題を考えると、遊び場云々以前に、一般人が草原に近づくことそのものが危険になる可能性がでてきた。放っておくわけにはいかないだろう、と眉根を寄せた途端、ヨアヒムが口角をあげる。
「実は、この件については正式に依頼も出ているらしい。君達の手は空いているかい? もしよかったら受けてあげて欲しいな。実はその子ども達の親御さんに頼まれててね……」
 ヨアヒム自身もこの案件を頼まれてしまった身らしい。君達は人々の為に草原まで出向いてもいいし、何も聞かなかったことにしてもいい。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
残念矜持郎
■成功条件
1.角兎の撃退
皆さま初めまして、残念なSTこと、残念と申します

今回の情報は

【現場】

草原

町から少し離れた、ちょっと背の高い草が生えている地域

子ども達の遊び場で、兎の姿が見えそうで見えない

ここから離れると草の背が低くなる

【敵】

角兎

角のある兎で、身の危険を感じると角でつついて襲いかかってきます

が、基本的に大人しく、臆病で大きな音や声にビックリすることもあるとか

数は複数いるようですが、恐らくオラクル達と同じ数くらいでしょう

なお、子ども達から殺さないであげて欲しいと言われて人参を持たされています

【目的】

この地域から兎を排除すること

兎を全部倒してしまってもいいですし、人参などの餌を用いてどこかへ誘導しても構いません

……が、餌を持っていると「餌くれ餌くれ」って迫ってきます

具体的にどうなるか? お尻や背中をチクチクされるんじゃないかな!

なお、距離が開きすぎると追いかけてこなくなるため、めっちゃ逃げてノーリスクの誘導、という事はできません


【おまけ】

十分に子ども達が遊び場にしてる辺りから離れると、また草の背が低い開けた地点にでます

ここまで来れば依頼は達成となりますが、折角だからここでピクニックしたり、チクチクされるの覚悟で兎をモフモフしてもいいんじゃないかな……
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
19モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年06月20日

†メイン参加者 8人†

『やっぱりぷりけつまみー』
タマキ・アケチ(CL3000011)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『皐月に舞うパステルの華』
ピア・フェン・フォーレン(CL3000044)


●この部隊色んな意味で大丈夫か?
 街から少し離れ、青々と草が茂り、吹き抜ける風と重なり合って静かな旋律を紡ぐ大平原。その真ん中で、少女の声がポツリ。
「普通のウサちゃんはいないの……? 空間跳躍したり、角生えてたり……」
 どこか遠くを見る目をしている『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレスティ(CL3000222) 。動物好きな彼女としては、この手の依頼は微妙に受け入れ難い物が……。
「可愛いから良いんだけどね。可愛いは正義ね!」
 ないんかい!
「いいの。アリアが可愛いからそれでいいの……!」
 ヤバい目でアリアを見つめて息を荒げる『深窓のガンスリンガー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)。こいつ自由騎士に紛れ込んだ変質者じゃないよね? でも、こんな危ないオラクルばかりじゃないのがこの部隊。『見習い騎士』シア・ウィルナーグ(CL3000028)が人参を……なんでロープの先に結んでるの?
「いっくよー……」
 頭上で振り回して十分に加速させた人参ロープをシューッ! 茂みの向こうに投げ飛ばした……なお、非力なシアではあんまり遠くへ飛ばせないのはご愛敬。それを引っ張り戻したところで角兎達がいるわけもなく。
「うーん、だめだねっ!」
 元気なのはいいことですが、八重歯見せてニコッとしてる場合じゃないよ?
「ウサちゃん、おいで~」
 アリアは人参を振りながら呼びかけてみるものの、反応はない。しかし、大声出したり人参投げ込んだり、割と騒がしいため、臆病な角兎の感情に動きがあるはず、とアリアはそっと瞳を閉じて耳の代わりに心を澄ますと……。
「ヒルダちゃん! ヒルダちゃんとアケチさんの方から、く、る……よ?」
 振り向いたアリアが見たのは、真後ろで怪しく手を動かしているヒルダと、自らを抱きしめて恍惚の表情を浮かべる『変態紳士』タマキ・アケチ(CL3000011)。一先ず、それぞれの言い分を聞こうか。
「違うの、あたしは悪くないわ。目を閉じて無防備なアリアが可愛すぎるのがいけないの……!」
 こいつやっぱり……で、もう一人はというと。
「……ふ、ふふ。愛らしくも力強い……私好みのうさたん、ふふ……!」
 ダメだこいつ早く何とかしないと……あ、こっち向いた。
「お子様達の遊び場を守るため、角うさたん達を誘導しましょう。勿論、お子様達の願い通り、倒す気はございません」
 おぉ、人に見られてる時はまともに……。
「どの程度の脅威なのか、身を持って感じて参ります……! ふふ、ふふふ……!」
 なってねぇ!?
「ウサギさん、なんで出てこないんだろう?」
 長い棒の先に人参を刺した『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)が首を傾げるが、客観的にこの部隊を見てみろよ。
「あぁ……アリア……アリア……っ!」
「きゃっ!? もー!」
「どうして姿を見せてくれないのでしょう……はっ! これが焦らすというテクニック……!」
 グラマラスながらも幼さを残す遊撃騎士に抱き着き興奮通り越して発狂してる銃士と、兎が見つからなさ過ぎてセルフでイッちゃってる変態な紳士。
「んー、なんで感情も見つからないのかな?」
 現実から目を背けるように人参棒をブンブン振るアラド。
 アリアが兎達の感情(恐らく恐怖)を探ってくれてはいるが、正直濃すぎるヒルダの好意とタマキの興奮。ただでさえ三つも強い感情が混じって感情探査の精度が落ちてんのに、その上で至近距離に二人もヤベーのがいたら、そりゃ見つからないよ。
「あっ」
 どしたのシア? って、人参ロープを引くのに勢いつきすぎて……あっ。
「んほぉ!?」
 シアが吹っ飛ばした人参が見事にタマキの口にマウスインワン! 深々と刺さって喉にダイレクトアタック!
「アケチさんが大変……こういう時は、背中を叩いて……」
「ごふぅ!?」
 アラドが棒でタマキの背中をスマッシュ! 人参は抜けたがついでにタマキも吹っ飛んで地面に転がりビクンビクン。
「前から後ろから攻め立てるなんて……いいっ……!」
 なんで喜んでるんですかね、この人?

●こっちの人達がいなかったら……
「皆元気でえぇなぁ……」
 騒ぐ面子を見守るアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は地道に草を掻き分けて角兎を捜索する。
「遊んでた子らが見つけた言うとったし、そんなに隠れてばっかやないと思うねん。それに人参の匂いもあるし、そんなに遠くにはおらへんと思うんやけど……」
 などとちょっと草が少ない場所に出た時だった。周りの草を噛み切って寝床にしていた角兎が八匹。何かを警戒するように一塊になっていた角兎を刺激しないよう、アリシアは後方へ手を振り発見を知らせつつ。
「怖がらんでええで。うちらはあんさんらをちょっと遠くまで連れて行きたいだけやねんな」
 そーっと人参を差し出し、兎の一匹がふんふん、鼻を鳴らして興味を示す。その横から別の角兎……というか、兎に変身した『皐月に舞うパステルの華』ピア・フェン・フォーレン(CL3000044)がひょこり。一瞬ビクリとした角兎達だったが、人参の一角と、人参の葉で編んだワンピースのお蔭か、そこまで警戒はされていないもよう。
「人間、優しい、食べ物もらえる」
 変態組含めて敵ではないとアピールするのだが。
『お前、美味そうだな』
 角兎の方はピアの体から漂う人参の匂いに夢中である。
「ピアはん、兎さん達なんやって?」
「お腹を空かしているみたいですね」
「そか、ほんならいい感じに誘導して……」
 アリシアは後退しようとして、ハッとする。角兎達がジッと自分を見つめているではないか。
「あかん、これあかんやつや。餌を求めて刺殺しに来るような勢いで襲いかかってく……」
 シュバッ、角兎が一斉に跳んだ。
「あかーん!?」
 アリシアも跳んだ。
「はっ! ついにうさたんが!?」
 アリシアの後を追うように角兎達が飛び出し追いかけっこが始まるのだが、両脚がカタクラフトのアリシアは脚を高く上げる事が苦手であり、階段にも苦戦する彼女にとって草の背が高く走りにくいこの一帯は天敵である、ていうか今まさにお尻をつつかれている。
「無理無理無理やってこれ! 騒いだらあかんてわかっとっても、痛いもんは痛いし怖いもんは怖い! アケチはん、パス!」
「ふ、ふふ、お任せください……!」
 バトンならぬキャロットパスを受けたタマキに角兎達の狙いが移った。
(あぁなんと愛らしいうさたん……! 立派なモノもお持ちで……あんなので突かれたら私、快楽の渦に……)
 口の端から唾液を垂らしつつ両手を広げ、ウェルカムなポーズで後ろ向きに全力疾走という芸当を披露する。
「ほぅら、人参と私を捕まえてください……!」
「さてと、みんなを見る限りは兎の対処はよほどのことが無い限り、あの子達に任せておいて大丈夫そうだねぇ」
 動き出した角兎達をやや遠巻きに眺めて、トミコ・マール(CL3000192)は手を打つ。
「さ、追いかけるよ!」
 オラクル達も動き始めた頃、町の入り口で一行を見つめている人影が二つ。その片方、大柄な機人が、文字通り指を咥えて自由騎士本隊の背中を見送ると、彼女の肩を熊の獣人が叩く。
「食うかい? 餌にバナナも用意したんだが、与え過ぎは良くないからな。余った分があるんだ」
「いただくのじゃ……」

●ちぃ、抜け穴に気づいたか
「おー、これなら安心安全だー」
 アラドは長い棒の先に刺した人参で角兎を誘導しつつ、草原を走る。何が問題って、数メートルある棒の先に人参があって、それを抱えてると兎達はアラドより前を走るから無傷なんだよ。
「皆は大丈夫ー?」
 自分は安全圏にいる余裕からか、横を見ると。
「あぁ、愛が痛気持ち良い……!」
 普通に走り始めたアケチタマキが尻を刺される度にビグンッと跳ね、走ってるはずなのに兎のようにぴょんぴょこ。
「アケチさんはいいや」
「ぞんざいな扱いも、イィ……ッ!」
 アラドが次に見たものは。
「ああぁん……」
 自らの脚力を強化し、思いっきり刺される事こそないものの、角の完全回避は叶わず微妙につつかれて、それはそれでくすぐったいアリアが嬌声を漏らす。そこまでならアラドも「そっかー」と視線を外しただろう。しかし、彼は眠そうな半眼でじーっと見つめていた、主にアリアの後ろの角兎……に、混じってるヒルダ。
「アリアのお尻、太もも……ぱ、ぱんつ……み、見えそう……えへ、えっへっへっ……」
 どう見ても、ギルティ。
「はっ! ち、違うの、アリアのお尻や太腿をチクチクしてる兎が何かの拍子に離れてしまわないよう、フォローしてるだけよ。決して兎を羨ましいなんて思ってないし、アリアつんつんに混ざる隙を覗ってもいないんだからね!?」
 両手を必死に振って否定するヒルダから、フイとアラドが視線を外す。ホッとため息をつくヒルダだが、気が付いたらアリアが隣を走っていて。
「ヒールーダーちゃーん?」
「いつの間に!?」
 ヒルダの煩悩を思いっきり聞き遂げたアリアは持っていた人参をヒルダのドレス、その腰元のリボンにスポッ。
「行って! ウサちゃん達!」
「いやー!?」
 アリアの号令を聞いてか聞かずか、角兎達の狙いがヒルダに移る。
「痛っ!? あいたっ、ひゃあんっ!? ちょっ、やめ……この美少女のお尻をチクチクなんて、いくら兎だからってハレンチにも程があるわよ!」
 涙目のヒルダが両手で自分の尻を隠しながら走り、ふと豆知識を思い出す。
「そういえば兎って年中発情期だって聞いたことがあるわね……まさか、このあたしの美脚に発情しちゃってんじゃないでしょうね!?」
 落ち着け。お前のドレスは前こそ動きやすさ重視で開いてるが、後ろ側は膝下まで丈があるから角兎には見えないだろうが。
「それもそうね……つまり、私の美貌が兎達を魅了し……いったーい!?」

●こっから先が本番?尺が足りぬ
「とーちゃーく」
 十分に町から離れた事を確認したアラドは走るのをやめ、棒の先の人参を狙って跳ねる角兎達をジッと見つめてから、周囲から一斉に突き立てられて恍惚の表情をしているタマキを見る。
「あげるー!!」
「ぐほっ!?」
 割と思いっきりいったせいか、脇腹に不意打ちの一撃で叩きこまれた人参棒にタマキが蹲りビクンビクン。
「ひ、酷い……だがそれが、いいッ!」
「へへ、てへぺろ♪」
「んんっ、そのてへぺろも愛らしい……!」
 片目をつむって舌を出すアラドにタマキがビクンビクン。誰かこいつ止めろよ。
「皆さまお疲れ様でした。さ、折角ですし、ピクニックをいたしましょう」
 バサリ、ピアはシートを広げると、風で飛ばされないよう、四隅に杭を打っておく。
「よーし、それじゃここからはアタシの出番だね」
 トミコはドン、と七つもの弁当箱を並べる。
「それじゃあ楽しいピクニックの始まりだねっ」
「ぴーくにっく、ぴーくにっく! どなどなどーなーどーなー、うさぎをのーせーてー♪」
 楽し気に歌いながらアラドが一つ目を開けると、そこにはドンとハンバーグが鎮座して、スパゲティとサラダが寄り添う。
 ふっくら仕立て上げられた肉料理を彩るデミグラスは生まれたままのパスタを包み、絡み合う事でハンバーグと重なった時とは異なる表情を見せる。レタスをベースにしてコーンの甘さとミニトマトの酸味にシンプルな味を介在させたサラダは、ソースで鈍くなった舌を叩き起こす清涼剤。野菜と肉をバランスよく食べる事で本来の美味しさを引き出す構成に仕上がっている。
「こっちのは何かな?」
 アラドの弁当箱を横目に、期待に胸を膨らませるアリアが開けた中身はほうれん草のキッシュとパスタのマリネ。
 黄緑色の生地はアクを抜いたほうれん草をすり潰してチーズと混ぜ合わせ、それ単体で一つのソースのように仕上げた物を、小さく刻んだベーコンを散らしたタルト生地に注いで焼き上げた一品。ほうれん草の臭みを取り除いて香りだけを添えられた濃厚なチーズのコクの中に、熟成されたベーコンの旨味が染み出して、それがほろほろと崩れるタルト生地の舌触りによって少しずつ浸透するように味覚を刺激する。濃厚過ぎる程のチーズの脂肪分に包まれる口内を、パプリカとズッキーニの角切りと和えられたペンネのマリネがすすぎ、駆け抜けるビネガーは次の一口を誘う。
「アリアのそれ、オシャレね……」
 ヒルダがジッと覗き込みながら次の蓋を退けると、ステーキにも似た物が出迎える。
 厚切りされた豚ロースは事前に小さな切れ込みを入れてあり、漬け込んだ生姜を基調にしてリンゴ、蜂蜜、玉ねぎを合わせたソースが深く染みたそれは噛めば噛むほどに旨味が染み出す一品。添えられたマッシュポテトとてシンプルではあるが胡椒とレモンを隠し味に混ぜられほんのりした酸味とピリッとした刺激が飽きを来させない。
「デザート担当としてはプレッシャーを感じますね……」
 日頃からスイーツには通じているピアだが、多様な仕事をこなすメイドと異なり、トミコは小さくとも大衆レストランを経営するその道のプロ。警戒に耳をピコピコしながら蓋を開けると。
「お魚……?」
 見た目はただの切った魚だが、口にすれば魚介の臭みを持たない身は舌にのせるだけでとろけるように解れ、そのうちに秘めた旨味を零す。魚本来の味を活かしたそれは、添えられた薄紅の薬味を齧り、口内に辛くも酸味を持つ独特の刺激を与える事で、更なる深みを増していく。
「なんや、どれもこれも美味しそうやん!」
 ほほー、と感嘆の声を漏らすアリシアが開いた箱には深い赤に沈む肉。添えられたアスパラの緑が輝いて見えるほどに暗いそれは、ワインと肉汁で作った特製のソース。煮こまれた鶏肉はホロリとした柔らかな食感にさっぱりとした味を持ち、深い味わいを持つソースと絡める事で真価を発揮する。
「心地良いチクチクの後のお食事は格別ですね、ふふ……!」
 タマキが蓋を開けたのは、キンピラゴボウとタマゴヤキなるアマノホカリ伝来の料理。
 甘く味の染みたゴボウと呼ばれる食材は歯切れも良く、味のみならず食感も楽しめる。対するタマゴヤキは素朴な味わいと包み込まれるかのようなふわりとした食感が特徴の不思議な一品。
「あ、僕のおにぎりもどうぞー」
 アラドが七つのおにぎりを差し出した瞬間、タマキの目が光る。
「では、こちらを……ぶほぉ!?」
「一回でひいた……!」
 中身が真っ赤な唐辛子おにぎりを、七分の一のそれを引いたタマキがびくんびくん。そんな彼に苦笑しながらシアが最後の弁当箱を開けると、そこには。
「わ、なんかすごい!」
 サフランで黄色く染まった米の海に白身魚、エビ、イカ、貝が踊る。水面に映った月のように中心に置かれた大きな目玉焼きが目を引くパエリアはただそこにあるだけで周囲にスパイシーな香りを振りまき、食欲を誘う。
「いただきますっ!」
 真っ先にスプーンを振るったシアに微笑みながらトミコは秘伝の調合を用いた芋の煮物を頬張り、食事を楽しむ自由騎士達を見つめて。
「このみんなの笑顔、これからも見てたいねぇ」
「そのためにも、私達は頑張らなくてはならないのです」
 そっと目を伏せたピアだったが、ふと微笑んで。
「けれど、気を張ってばかりではいつか倒れてしまいます。今日は楽しみましょう?」
 差し出したのはキャロットプリンとケーキ。人参ジュースを用いてオレンジ色に仕上げたそれはプルプルとした食感はそのままに、野菜がもつほんのりとした優しい甘味を閉じこめた一品にして逸品。ふわふわと膨らんだ人参のカップケーキを手に、アリシアがむむ、と唸る。
「キャロットケーキ、うちめっちゃ好きなんやけど上手く焼かれへんのよ。なんかコツとかあるんかな?」
「それはですね……」
 アリシアにピア特製ふわふわケーキの作り方が伝授される傍ら、食事を終えたシアが一カ所に固まって眠っている角兎達に気づいた。
「今なら触っても大丈夫かな? やっぱりもふもふしたいよ!」
 シアが足音を立てないよう、慎重に兎ににじり寄りそっと耳を撫でると、ピクッと動くが起きる気配はない。そーっと頭を撫でて、背中に頬を乗せる。
「えへへー、戦争中だって事を忘れちゃうね。この時間が幸せだなー」
 少し声量を押さえてすりすりもふもふ。その横で既に兎のお腹を枕にアラドがスヤァ。
「あはは……モフモフだぁ……」
「怪我をしないようにお気をつけてくださいませ」
「さすがに今は大丈夫だよ……」
「いえ、アリアさんではなくですね?」
 すっかりモフみにとろけるアリアにピアが警鐘を鳴らしつつ、アリシアと共にジャムサンドでティータイム。その視線はアリアのやや後方。
「アリアのお尻……ふかふか……」
「ひゃっ! ちょ、ヒルダちゃん!?」
 ヒルダが角兎と共に草原に寝そべるアリアの臀部に頬すりしたせいでアリアが悲鳴を上げた。その瞬間、角兎達はビクゥ!?
「あちゃー……やってもうたねぇ……」
 ジャムサンドをもきゅもきゅと頬張るアリシアは、ビックリして跳ねまわる角兎に突き回されるお昼寝組を遠目に高みの見物状態。自由騎士達の悲鳴(一部嬌声)は草原に吹く風に攫われて行った。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ノンストップ・アケチ』
取得者: タマキ・アケチ(CL3000011)
FL送付済