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パールホワイトと無垢なる魂

●
ゴォーン……ゴォーン……
教会の鐘が鳴る。舞い散る花びら、次々と送られる祝いの言葉。喜びの涙。歓喜の歌。
今二人はまさに人生最高の瞬間に居た。
ダァァァァァーーーーーーーーン
それは一発の銃声だった。
悲鳴。嗚咽。そしてまた悲鳴。新婦の胸部に咲いた紅の薔薇はどこまでも広がっていく。
「へへ……お前が悪いんだぜ……俺を捨てて……そんな男と……へへ……へへへ……」
男にはわからなかった。なぜ離れていったのか。なぜ他の男の隣で笑っているのか。
わかラないワカラなイわかラナイわカラない──
男の心はすでに壊れていたのだ。
●
「花嫁が、花婿を迎えに来る」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)はそう告げた。
「??」
演算室に呼び出された自由騎士たちはその意図をつかめない。
「どういう事です?」
フレデリックはすぐには語らない。語れない。
これは善良なる一般市民を守るために当然の指示なのだ。心の中でそう言い聞かせる。
「還リビトが一般市民を……襲う。それを阻止して欲しい」
拳を握り締める。彼女は何も悪くない。彼女はただ彼を愛しているのだ。死してなお。愛するものの隣に居たいのだ。だがそれは許されない。許すことは出来ない。フレデリックの顔には隠し切れぬ葛藤がにじみ出ていた。
「詳しい状況は別の者が説明する。それではよろしく頼む」
そう言うとフレデリックは演算室を後にする。演算士(プラローク)から得た事件の全容。やり場の無い憤り。全てを知ってしまったが故だった。
●
デニー……どこにイるの? ずっとズっとあいシテいるわ……
ゴォーン……ゴォーン……
教会の鐘が鳴る。舞い散る花びら、次々と送られる祝いの言葉。喜びの涙。歓喜の歌。
今二人はまさに人生最高の瞬間に居た。
ダァァァァァーーーーーーーーン
それは一発の銃声だった。
悲鳴。嗚咽。そしてまた悲鳴。新婦の胸部に咲いた紅の薔薇はどこまでも広がっていく。
「へへ……お前が悪いんだぜ……俺を捨てて……そんな男と……へへ……へへへ……」
男にはわからなかった。なぜ離れていったのか。なぜ他の男の隣で笑っているのか。
わかラないワカラなイわかラナイわカラない──
男の心はすでに壊れていたのだ。
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「花嫁が、花婿を迎えに来る」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)はそう告げた。
「??」
演算室に呼び出された自由騎士たちはその意図をつかめない。
「どういう事です?」
フレデリックはすぐには語らない。語れない。
これは善良なる一般市民を守るために当然の指示なのだ。心の中でそう言い聞かせる。
「還リビトが一般市民を……襲う。それを阻止して欲しい」
拳を握り締める。彼女は何も悪くない。彼女はただ彼を愛しているのだ。死してなお。愛するものの隣に居たいのだ。だがそれは許されない。許すことは出来ない。フレデリックの顔には隠し切れぬ葛藤がにじみ出ていた。
「詳しい状況は別の者が説明する。それではよろしく頼む」
そう言うとフレデリックは演算室を後にする。演算士(プラローク)から得た事件の全容。やり場の無い憤り。全てを知ってしまったが故だった。
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デニー……どこにイるの? ずっとズっとあいシテいるわ……
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビトの討伐
麦です。面です。二です。郎です。4人合わせて麺二郎です。
米粉の麺の方が低カロリーとは思いつつも小麦の麺に飛びつきます。
今回は心情メインのお話となります。
男女間の情愛の縺れ。いつの時代もそれは起こったのでしょう。
たった一発の銃声は人生最高の瞬間を人生最悪の瞬間に変えました。
花嫁を撃った男はその場で自殺。花嫁と共に教会近くの墓地に埋葬されました。
それから7日後。花嫁と男は戻ってきます。還リビトとして。
花嫁は花婿への愛のため、男もまた花嫁への歪んだ愛のため。
還リビトの殲滅をお願いいたします。
●ロケーション
惨劇の起きた教会近くの墓地から、少し離れた自然公園。深夜。明かりは外灯が少し。深夜のためか人気はありません。
ショックから立ち直れないデニーは悪夢に魘され、まともに眠ることが出来ず、この日も深夜一人で自然公園のベンチに座っています。
自由騎士たちはデニーの居る場所から300mほど離れた場所で還リビトたちと遭遇します。
戦闘になれば、音に気づいたデニーは様子を見に近づいてきます。
●登場人物
・デニー 22歳。花婿。元彼の相談をシンシアから受けるうち、本気でシンシアを愛するようになりました。元彼とは一度直接話をつけたため、すべては解決したと思っていました。この事件により心身ともに疲れ果て、生きる希望が見出せない状況です。
・シンシア 20歳。花嫁。最初はただの相談相手だったデニーの存在。その存在が何よりも大きくなったとき、彼女は元彼と別れる決心をしました。やっと開けた希望の未来。ですがこれから始まる幸せを感じる事無く、その命を散らしました。
・リュー 28歳。元彼。ロクに働きもせず、シンシアに寄生する正真正銘のクズ。暴力でシンシアを支配していました。自身の行動を省みず全ては自身から離れたシンシアが悪いと逆恨みし、今回の凶行に及びました。シンシア射殺後に自身も自殺。
●敵
・シンシア(還リビト)
血染めの花嫁衣裳を着た還リビト。彼女は探しています。愛しい彼の事を。ただただそれだけです。彼への思いは非常に強く、邪魔をするものには容赦なく攻撃します。その指にはパールホワイトの結婚指輪がはめられています。
毒の爪 物近単 【ポイズン1】 愛する人を優しくなでる指。今はもう死を呼ぶ毒手でしかありません。
奇声 魔近範 【パラライズ1】 愛する人を呼ぶ澄んだ声。今はもう怪音でしかありません。
指輪 回復 念じると自身の体力を回復します。使うたび消耗し、最後には粉々に砕けます。
・リュー(還リビト)
元彼。還リビトとなった今もなお正真正銘のクズ。シンシアとデニーを合わせない為にシンシアを壊しにかかります。シンシア以外には全く興味を示しません。
粘着 物近単 一度捕まえたら離さない。対象にひたすら粘着し、行動を阻害します。(シンシアのみ対象)
破壊 物近単 対象を動かなくなるまで殴打します。(シンシアのみ対象)
・名も無き還リビトx2
シンシアの強い念に感化されたのか、すぐ近くに埋葬されていた者まで還リビトとなりました。
シンシアを守るように行動しますが、同じ還リビトであるリューには攻撃しません。
毒息 物近単 【ポイズン1】 毒の息を吐きます。
引っ掻き 物近単 【スクラッチ1】 力任せに引っ掻いてきます。
●同行NPC
・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければ皆さんの回復に専念します。
所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。
皆様のご参加お待ちしております。
米粉の麺の方が低カロリーとは思いつつも小麦の麺に飛びつきます。
今回は心情メインのお話となります。
男女間の情愛の縺れ。いつの時代もそれは起こったのでしょう。
たった一発の銃声は人生最高の瞬間を人生最悪の瞬間に変えました。
花嫁を撃った男はその場で自殺。花嫁と共に教会近くの墓地に埋葬されました。
それから7日後。花嫁と男は戻ってきます。還リビトとして。
花嫁は花婿への愛のため、男もまた花嫁への歪んだ愛のため。
還リビトの殲滅をお願いいたします。
●ロケーション
惨劇の起きた教会近くの墓地から、少し離れた自然公園。深夜。明かりは外灯が少し。深夜のためか人気はありません。
ショックから立ち直れないデニーは悪夢に魘され、まともに眠ることが出来ず、この日も深夜一人で自然公園のベンチに座っています。
自由騎士たちはデニーの居る場所から300mほど離れた場所で還リビトたちと遭遇します。
戦闘になれば、音に気づいたデニーは様子を見に近づいてきます。
●登場人物
・デニー 22歳。花婿。元彼の相談をシンシアから受けるうち、本気でシンシアを愛するようになりました。元彼とは一度直接話をつけたため、すべては解決したと思っていました。この事件により心身ともに疲れ果て、生きる希望が見出せない状況です。
・シンシア 20歳。花嫁。最初はただの相談相手だったデニーの存在。その存在が何よりも大きくなったとき、彼女は元彼と別れる決心をしました。やっと開けた希望の未来。ですがこれから始まる幸せを感じる事無く、その命を散らしました。
・リュー 28歳。元彼。ロクに働きもせず、シンシアに寄生する正真正銘のクズ。暴力でシンシアを支配していました。自身の行動を省みず全ては自身から離れたシンシアが悪いと逆恨みし、今回の凶行に及びました。シンシア射殺後に自身も自殺。
●敵
・シンシア(還リビト)
血染めの花嫁衣裳を着た還リビト。彼女は探しています。愛しい彼の事を。ただただそれだけです。彼への思いは非常に強く、邪魔をするものには容赦なく攻撃します。その指にはパールホワイトの結婚指輪がはめられています。
毒の爪 物近単 【ポイズン1】 愛する人を優しくなでる指。今はもう死を呼ぶ毒手でしかありません。
奇声 魔近範 【パラライズ1】 愛する人を呼ぶ澄んだ声。今はもう怪音でしかありません。
指輪 回復 念じると自身の体力を回復します。使うたび消耗し、最後には粉々に砕けます。
・リュー(還リビト)
元彼。還リビトとなった今もなお正真正銘のクズ。シンシアとデニーを合わせない為にシンシアを壊しにかかります。シンシア以外には全く興味を示しません。
粘着 物近単 一度捕まえたら離さない。対象にひたすら粘着し、行動を阻害します。(シンシアのみ対象)
破壊 物近単 対象を動かなくなるまで殴打します。(シンシアのみ対象)
・名も無き還リビトx2
シンシアの強い念に感化されたのか、すぐ近くに埋葬されていた者まで還リビトとなりました。
シンシアを守るように行動しますが、同じ還リビトであるリューには攻撃しません。
毒息 物近単 【ポイズン1】 毒の息を吐きます。
引っ掻き 物近単 【スクラッチ1】 力任せに引っ掻いてきます。
●同行NPC
・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければ皆さんの回復に専念します。
所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
8日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2018年10月17日
2018年10月17日
†メイン参加者 6人†
●
現場へ向かう道中。
「還リビトになってまで探しに来るなんて、二人はよっぽど愛し合ってたんだな」
ヴィンセント・ローズ(CL3000399)がぽつりと呟く。
恋愛に関してはよくわからないけど、それだけはわかる。そして人の幸せを壊す野郎は……。
「絶対に許せねぇ。覚悟しろよ
無意識にヴィンセントの拳に力が篭っていた。
『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は現場に着くまでの間、何も話さない。その表情には明らかなイラつき。それはこの原因を作ったリューという男への圧倒的な怒り。これ以上無いほど身勝手な理由で幸せな未来を奪われた花嫁。この男は絶対に認めない。今はこの気持ちをぶつける相手の元へ早くたどり着きたい一心だった。
ディルク・フォーゲル(CL3000381)は思う。死んでまで会いたいと願う花嫁の心、とても美しい。ただ……少々無粋なのもついてきてるみてーだが。人の恋路を邪魔するものは、さくっとさらっとご退場願いましょう。
ディルクは誰にも聞こえぬほどの声でそう呟くと仲間と共に現場へ急ぐ。その手には明かり確保のためのカンテラ。その炎はこれから遭遇するであろう花婿と花嫁の運命の如くゆらゆらと揺らめいていた。
●
「見つけたっ!!」
暗視スキルを持つ『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)がいち早くターゲットを認識し、指を刺して皆に場所を伝える。アリシアの示す先には確かにシンシアと他還リビトの姿があった。
アリシアの内心もまた複雑だ。やっとクズ男卒業して幸せになるはずやったのに、ヘビみたいなしつこい相手に殺されてまうなんてほんま世の中世知辛いわ。想いが強すぎたのか、落ち込んでるデニーが心配になったんかわからんけど、還リビトでデニーと接触するのは危険や。
「……二度殺してまうことになるけどほんまごめんしたってな」
唐突かつ至極当然ではあるのだが、シンシアは還リビトである。還リビトには生前の記憶や思考能力などは無いとされている。そしてそれはリューや他の還リビトもまた然り。
だが胸元が真っ赤に染まった純白のドレスを着た彼女は……美しかった。生気は無い。邪気も無いわけではない。無論還リビトであることは確かだ。それでも月の光に照らされた彼女は神秘的な美しさを携えていた。
そして彼女のすぐ後ろには……その美しさにまるで引き寄せられるように、同じく還リビトと化したリューがいた。リューは自由騎士たちがたどり着く前までにもすでにシンシアへの攻撃を行い続けていた。後ろから追うリューは彼女を背面から容赦なく殴打していた。彼女の背中はリューの穢れた攻撃によって、泥にまみれ傷つき、見るも無残な状態になっていた。そしてその手にはめられた指輪には僅かな亀裂。
それでも彼女は前に進む。何のため? わからない。還リビトと化した彼女に生前の記憶は無い。
でも何かを伝えに。誰かに。会いたい。その衝動だけが彼女を突き動かしていた。
「では、皆手筈どおりにっ」
『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)がノートルダムの息吹で皆に癒しの加護を与え、戦闘は開始される。
「そこのクズさんには容赦無用です! 皆さん、最優先でボッコボコにしちゃってくださいッ!」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)が叫ぶ。同時にフーリィンも皆にノートルダムの息吹で戦闘をサポートする。
「当然だぁ──っ!!」
アンの拳銃から発射された二連の弾丸は疾風を巻き込みながらリューの頭部へ命中する。
「グォォァアアアァアアアアア!!!!!」
リューにとって生前も死後も暴力は常に相手に向けて行うものだった。もっとも死後のリューにその意志があるかどうかは定かではない。初めて自らが受ける暴力(こうげき)にリューは激しく反応する。が、それでもシンシアへの攻撃は止まらない。
「リュー、そこまでだぜっ!」
ヴィンセントの放つ弾丸がリューを撃ち抜く。更にディルクの放った人形兵士の鋭き刃がリューの体を貫く。一瞬リューの動きが止まる。
「女大事にできん自己中男、1回死んだくらいじゃあほは治らんかったみたいやな!」
そこにラピッドジーンで速度強化したアリシアのヒートアクセルが炸裂する。
仰け反るリュー。凄まじい轟音と共にその威力によって辺りには粉塵が巻きあがる。
だがしかしそれでもリューは止まらない。
そこにあるのは異常なまでの執着。自己満足で利己的で、そして何よりも身勝手な執着。
「こいつ……どんだけなんだっ」
ディルクが思わず口にする。その言葉遣いはいつもの穏やかなものとは少し違う。
自由騎士がリューの執着に驚きを隠せない中、遅れてついてきていた名も無き還リビト達がシンシアを守るように自由騎士たちとシンシアの間に割り込んでくる。
「先に他の還リビトをどうにかしなければいけないな、ワタシも前に出ようっ」
回復役として待機していたラメッシュが前に出る。彼はヒーラーでありながら格闘系スキルを有する格闘ヒーラーで前に出て戦うこともまた、彼の得意とするところなのだ。
アリシアとラメッシュが一気に距離を縮め、まずは名も無き還リビトを蹴散らすべく、会心の一撃を入れようとした瞬間。
「キイイイイァァァァァャヤヤヤァァァァアアアア!!!!!」
シンシアの奇声が響き渡った。
「くっ!?」
その全身が凍るような声を至近距離で浴びたアリシアとラメッシュの動きが一瞬止まる。
そこへ還リビトの毒息と鋭いつめが襲い掛かる。
「ぐっ……油断したっ」
ラメッシュの腕からは鮮血が流れ落ちる。アリシアは毒を吸い込んでしまったようだ。一気に顔色が悪くなる。
シンシアにはわからない。自由騎士が何をしに来たのか。ただわかるのは自由騎士たちの明らかな殺意。例えそれが自分に向けてのものではないとしても。
「すぐに回復しますっ」
フーリィンがアリシアへクリアカースを唱える。
「ケホッケホッ……ありがとっもう大丈夫やっ」
アリシアの顔に生気が戻る。ラメッシュも一旦引き、自身へクリアカースを試みる。
「近づいての攻撃は危険だな。特にあの声を至近距離で浴びるのはまずい」
商人として培われた洞察力なのかディルクは冷静に状況を分析する。
「ンじゃぁ、遠距離から撃ち抜けばいいだけだっ!!」
「ビンゴっ! その通りですっ!!」
アンとヴィンセントの放つ神速の銃弾が名も無き還リビトを撃ち貫く。ただ魔力の続く限り。
程なく名も無き還リビトは、浄化のときを迎えた。
「一体何が……!? シンシ、ア……? シンシアなのかっ?」
名も泣き還リビトが浄化され、消滅したその時だった。自由騎士たちの背後から声がした。
「デニーさんっ」
フーリィンがいち早くその存在に気づく。
「君たちは? なぜ僕の名前をっ。それにシンシア……シンシアがなぜここにっ!! シンシアは……シンシアはもうっ」
デニーは明らかに動揺していた。近くに居たディルクに詰め寄り矢継ぎ早に言葉を放つ。
「あれはシンシアなのか? どうして? どういうこと何だ? 教えてくれっ!! シンシアは生きていたのか?? シンシ……」
「いいから落ち着けっ!!」
パシン! という乾いた音と共にデニーの頬が赤く染まる。アンだった。
一瞬呆けるデニーにディルクがゆっくりと、穏やかな口調で話しかける。
「あれは彼女であって彼女ではありません。彼女は貴方の事を愛していた、だから死してなお
このように還リビトになって戻ってきてしまった」
「カエリ……ビト……」
デニーがひざから崩れ落ちる。そして涙が溢れ出す。
何かの間違いであってほしい。あれはすべて夢だった。現実として受け止めきれない中、自分の目の前に現れた彼女がもう彼女では無かったのだ。
「魂が穢されて還リビト化した人を救う術は私達にはありません。せめて安らかにと、セフィロトの海で眠らせてあげる事くらいしか出来ないのです」
フーリィンが崩れ落ちたデニーにそっと手を当て、そう告げる。
「すぐに理解してくれとも言わねぇ。俺達を恨んでくれてもいいっ。それでも俺たちはやり遂げなきゃいけねぇんだ! 先を進むためにっ!!」
ヴィンセントもまた苦しい胸のうちを表に出さず、デニーへそう告げた。
デニーにとって、最近起こったのはやりきれねえことばっかりだろう。けど、それでも生きていくのが残された者の役目だと思う。そして次の一歩を進んでもらうためにも今は。
自由騎士たちはデニーへ思いのたけを伝えていく。
大粒の涙を流し、慟哭していたデニー。
デニーも頭では理解していた。死んだものが戻ってくるはずも無いことを。過去が無かったことにはならないことも。
それでも、シンシアを見たとき、そこにあるはずの無い未来を見てしまった。
シンシアは死んでいなかった。何かの間違いだった。これからすばらしい未来が、あるはずだった未来が戻ってきたのだと。
だが、それは違うと気づいた。いや、気づかせてもらったのだ。この人たちに。
いつしかデニーの涙は止まり、その瞳はこれから起こる現実を受け止めるだけの決意を宿していた。
「思うところもあるでしょうから逃げろとは言いませんが、危険なので絶対に離れないでくださいね!」
デニーはフーリィンのその言葉に、力強く頷いた。
「シンシア。僕は君の姿を最後まで、ちゃんと……見届けるよ」
自由騎士たちが代わる代わるデニーの説得をしている間もリューへの攻撃は続いていた。
「暴力で愛は得られない、聞こえてるかは分からねぇがな」
殺しても己の物にはならない事を思い知っただろうに。ディルクはそんな事を思いながらリューへの攻撃の手を休めない。
名も無き還リビトを屠ったことで自由騎士たちはリューへの攻撃を行えるようになっていた。
「グォオォオオアアアアアアオオオォォォアアア!!!!」
驚くほどのタフネスを見せるリューであったが、アンの、ヴィンセントの、ディルクの遠距離からの一斉攻撃を受け続け、さすがに限界が近づいていた。体中に幾多のダメージを追い、かろうじて繋がった体の幾箇所は今にも崩壊寸前だった。もう少し。自由騎士たちがそう感じたその時。リューが動いた。
粘着。
シンシアを背後から羽交い絞めにし、その今にも崩壊せんとする体でシンシアを苦しめる。最後の最後まで。リューは嗤う。常人が見れば吐き気を催すような嫌悪感を体現しながら。崩れ落ちんとする今のその瞬間も。執念。まさに執念。
その怨念にも似たリューの行動に、自由騎士たちが飲まれそうになる瞬間。
ダァァァーーーーーン。
一発の銃声。動いたのはアン。これで終わってもいい。魔力が尽きん限りの攻撃をリューへ叩き込む。
……女に寄生してて、別れられたらキレて殺して自分も自殺。挙句の果てに還リビトになってまでまだ女が憎いだと? 反吐が出るような悪党は今までも何人も見てきた。だが、こいつはそんなヤツラ以下のクズだ。
お前の一番の間違いは自ら死を選んだことだ……もう死んでおけよ。アンがポツリと呟く。
「死んで負けた奴が、勝って生き続けている人間の邪魔をするんじゃねぇぇぇぇぇ──っ!!!!」
アンの全身全霊を込めた連弾によってリューの頭部は完全に消滅。
それを追う様にリューの体もまた崩れ落ちる。
リューの浄化は終わった。
●
「今のシンシアさんには通じないのを承知で言いますけど! 恋愛とかろくにしたことの無い私でも分かるくらいに、その愛の在り方は間違っていますよッ!」
フーリィンはただ一人残った討伐対象に向かってそう言った。
「これからワタシたちは彼女を浄化する。還リビトには生前の記憶は無いと聞いている。それでも……何か彼女に伝えたい事はないかね?」
ラメッシュがデニーへそう伝える。
「愛する人が還リビトとなってあんたに会いに来たんはあんたが落ち込んでるのを心配してるからかもしれんよ。でも……一緒に死にたいとかあほなこといわんといてや」
アリシアも続ける。デニーの目を見て、もう大丈夫だと確信したためか、その口調は冗談交じりだ。
後追い。それはディルクも心配していたことであったが、今のデニーならきっと大丈夫だろう。
「辛いでしょうけど、それでもきちんと終わりを見届ける事は必要なのだと思います」
フーリィンがデニーを促す。
デニーはすっと立ち上がり、シンシアへまっすぐ視線を向ける。
言葉は無い。ただ、デニーはシンシアを見つめる。
その視線に気づいたのか、シンシアがゆっくりとデニーに向かって歩を進め始めた。
それはまるで花婿の待つ祭壇に向けて、花嫁がバージンロードを歩くかのように。
二人の時間がまた動き出したかのように。
ねぇ。アなたはダれ? ワタしは? なニもわからなイ。
でモ、ワタしは……アなたを──
「じゃぁ、やるぜ。皆で一斉にだ」
アンが最後の銃弾をセットする。
「待ってくれ」
ディルクが持っていた花束をシンシアへ向けて投げる。
還リビトとなったシンシアにそれ(花束)は何なのかは理解できない。理解できるはずも無い。
……理由は誰にもわからない。それでも確かに彼女はそれを手に取ったのだ。
「じゃぁ、今度こそ終わらせるぜ」
皆がこくりと頷き、それぞれの思いを乗せた攻撃(祝福)をシンシアに向けて放つ。
辺りはまばゆい光に包まれる。血や泥にまみれ清らを失っていた花嫁の衣装はその尊い光によって純白へと変わる。
それはまるで──花嫁が花婿への永遠の愛と純潔を取り戻したかのようだった。
浄化された還リビトは消滅する運命だ。シンシアもまた然り。
その体は徐々に光の欠片となって天へ召されていく。
光の消えたその場所に残ったのは花嫁のドレス。そして亀裂の入ったホワイトパールの指輪。
フーリィンが指輪を拾い上げ、デニーへ手渡す。
「きっと、シンシアさんが届けてくれたのかもしれませんね――頑張れって」
デニーは黙って頷いた。
「シンシアのことも、愛し合ってたことも、忘れなかったらあんたは独りじゃねえさ。彼女の為にも、前を向いて生きていこうぜ」
シンシアの残したドレスをデニーに託し、ヴィンセントはそう告げる。
少し、クサかったか。そう思いつつも少しでもデニーの為になるならと言葉にする。
その気持ちにこたえるように、まだたどたどしいながらもデニーの表情は明るかった。
●
──ありがとう
浄化のさなか、自由騎士たちはそんな声が聞こえた気がしていた。
微笑を浮かべるシンシアと共に。
自由騎士による還リビトの浄化。これまでもこれからも幾多とあるであろう。
そしてその一つ一つには対応した自由騎士や人物たちの物語がある。
現場へ向かう道中。
「還リビトになってまで探しに来るなんて、二人はよっぽど愛し合ってたんだな」
ヴィンセント・ローズ(CL3000399)がぽつりと呟く。
恋愛に関してはよくわからないけど、それだけはわかる。そして人の幸せを壊す野郎は……。
「絶対に許せねぇ。覚悟しろよ
無意識にヴィンセントの拳に力が篭っていた。
『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は現場に着くまでの間、何も話さない。その表情には明らかなイラつき。それはこの原因を作ったリューという男への圧倒的な怒り。これ以上無いほど身勝手な理由で幸せな未来を奪われた花嫁。この男は絶対に認めない。今はこの気持ちをぶつける相手の元へ早くたどり着きたい一心だった。
ディルク・フォーゲル(CL3000381)は思う。死んでまで会いたいと願う花嫁の心、とても美しい。ただ……少々無粋なのもついてきてるみてーだが。人の恋路を邪魔するものは、さくっとさらっとご退場願いましょう。
ディルクは誰にも聞こえぬほどの声でそう呟くと仲間と共に現場へ急ぐ。その手には明かり確保のためのカンテラ。その炎はこれから遭遇するであろう花婿と花嫁の運命の如くゆらゆらと揺らめいていた。
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「見つけたっ!!」
暗視スキルを持つ『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)がいち早くターゲットを認識し、指を刺して皆に場所を伝える。アリシアの示す先には確かにシンシアと他還リビトの姿があった。
アリシアの内心もまた複雑だ。やっとクズ男卒業して幸せになるはずやったのに、ヘビみたいなしつこい相手に殺されてまうなんてほんま世の中世知辛いわ。想いが強すぎたのか、落ち込んでるデニーが心配になったんかわからんけど、還リビトでデニーと接触するのは危険や。
「……二度殺してまうことになるけどほんまごめんしたってな」
唐突かつ至極当然ではあるのだが、シンシアは還リビトである。還リビトには生前の記憶や思考能力などは無いとされている。そしてそれはリューや他の還リビトもまた然り。
だが胸元が真っ赤に染まった純白のドレスを着た彼女は……美しかった。生気は無い。邪気も無いわけではない。無論還リビトであることは確かだ。それでも月の光に照らされた彼女は神秘的な美しさを携えていた。
そして彼女のすぐ後ろには……その美しさにまるで引き寄せられるように、同じく還リビトと化したリューがいた。リューは自由騎士たちがたどり着く前までにもすでにシンシアへの攻撃を行い続けていた。後ろから追うリューは彼女を背面から容赦なく殴打していた。彼女の背中はリューの穢れた攻撃によって、泥にまみれ傷つき、見るも無残な状態になっていた。そしてその手にはめられた指輪には僅かな亀裂。
それでも彼女は前に進む。何のため? わからない。還リビトと化した彼女に生前の記憶は無い。
でも何かを伝えに。誰かに。会いたい。その衝動だけが彼女を突き動かしていた。
「では、皆手筈どおりにっ」
『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)がノートルダムの息吹で皆に癒しの加護を与え、戦闘は開始される。
「そこのクズさんには容赦無用です! 皆さん、最優先でボッコボコにしちゃってくださいッ!」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)が叫ぶ。同時にフーリィンも皆にノートルダムの息吹で戦闘をサポートする。
「当然だぁ──っ!!」
アンの拳銃から発射された二連の弾丸は疾風を巻き込みながらリューの頭部へ命中する。
「グォォァアアアァアアアアア!!!!!」
リューにとって生前も死後も暴力は常に相手に向けて行うものだった。もっとも死後のリューにその意志があるかどうかは定かではない。初めて自らが受ける暴力(こうげき)にリューは激しく反応する。が、それでもシンシアへの攻撃は止まらない。
「リュー、そこまでだぜっ!」
ヴィンセントの放つ弾丸がリューを撃ち抜く。更にディルクの放った人形兵士の鋭き刃がリューの体を貫く。一瞬リューの動きが止まる。
「女大事にできん自己中男、1回死んだくらいじゃあほは治らんかったみたいやな!」
そこにラピッドジーンで速度強化したアリシアのヒートアクセルが炸裂する。
仰け反るリュー。凄まじい轟音と共にその威力によって辺りには粉塵が巻きあがる。
だがしかしそれでもリューは止まらない。
そこにあるのは異常なまでの執着。自己満足で利己的で、そして何よりも身勝手な執着。
「こいつ……どんだけなんだっ」
ディルクが思わず口にする。その言葉遣いはいつもの穏やかなものとは少し違う。
自由騎士がリューの執着に驚きを隠せない中、遅れてついてきていた名も無き還リビト達がシンシアを守るように自由騎士たちとシンシアの間に割り込んでくる。
「先に他の還リビトをどうにかしなければいけないな、ワタシも前に出ようっ」
回復役として待機していたラメッシュが前に出る。彼はヒーラーでありながら格闘系スキルを有する格闘ヒーラーで前に出て戦うこともまた、彼の得意とするところなのだ。
アリシアとラメッシュが一気に距離を縮め、まずは名も無き還リビトを蹴散らすべく、会心の一撃を入れようとした瞬間。
「キイイイイァァァァァャヤヤヤァァァァアアアア!!!!!」
シンシアの奇声が響き渡った。
「くっ!?」
その全身が凍るような声を至近距離で浴びたアリシアとラメッシュの動きが一瞬止まる。
そこへ還リビトの毒息と鋭いつめが襲い掛かる。
「ぐっ……油断したっ」
ラメッシュの腕からは鮮血が流れ落ちる。アリシアは毒を吸い込んでしまったようだ。一気に顔色が悪くなる。
シンシアにはわからない。自由騎士が何をしに来たのか。ただわかるのは自由騎士たちの明らかな殺意。例えそれが自分に向けてのものではないとしても。
「すぐに回復しますっ」
フーリィンがアリシアへクリアカースを唱える。
「ケホッケホッ……ありがとっもう大丈夫やっ」
アリシアの顔に生気が戻る。ラメッシュも一旦引き、自身へクリアカースを試みる。
「近づいての攻撃は危険だな。特にあの声を至近距離で浴びるのはまずい」
商人として培われた洞察力なのかディルクは冷静に状況を分析する。
「ンじゃぁ、遠距離から撃ち抜けばいいだけだっ!!」
「ビンゴっ! その通りですっ!!」
アンとヴィンセントの放つ神速の銃弾が名も無き還リビトを撃ち貫く。ただ魔力の続く限り。
程なく名も無き還リビトは、浄化のときを迎えた。
「一体何が……!? シンシ、ア……? シンシアなのかっ?」
名も泣き還リビトが浄化され、消滅したその時だった。自由騎士たちの背後から声がした。
「デニーさんっ」
フーリィンがいち早くその存在に気づく。
「君たちは? なぜ僕の名前をっ。それにシンシア……シンシアがなぜここにっ!! シンシアは……シンシアはもうっ」
デニーは明らかに動揺していた。近くに居たディルクに詰め寄り矢継ぎ早に言葉を放つ。
「あれはシンシアなのか? どうして? どういうこと何だ? 教えてくれっ!! シンシアは生きていたのか?? シンシ……」
「いいから落ち着けっ!!」
パシン! という乾いた音と共にデニーの頬が赤く染まる。アンだった。
一瞬呆けるデニーにディルクがゆっくりと、穏やかな口調で話しかける。
「あれは彼女であって彼女ではありません。彼女は貴方の事を愛していた、だから死してなお
このように還リビトになって戻ってきてしまった」
「カエリ……ビト……」
デニーがひざから崩れ落ちる。そして涙が溢れ出す。
何かの間違いであってほしい。あれはすべて夢だった。現実として受け止めきれない中、自分の目の前に現れた彼女がもう彼女では無かったのだ。
「魂が穢されて還リビト化した人を救う術は私達にはありません。せめて安らかにと、セフィロトの海で眠らせてあげる事くらいしか出来ないのです」
フーリィンが崩れ落ちたデニーにそっと手を当て、そう告げる。
「すぐに理解してくれとも言わねぇ。俺達を恨んでくれてもいいっ。それでも俺たちはやり遂げなきゃいけねぇんだ! 先を進むためにっ!!」
ヴィンセントもまた苦しい胸のうちを表に出さず、デニーへそう告げた。
デニーにとって、最近起こったのはやりきれねえことばっかりだろう。けど、それでも生きていくのが残された者の役目だと思う。そして次の一歩を進んでもらうためにも今は。
自由騎士たちはデニーへ思いのたけを伝えていく。
大粒の涙を流し、慟哭していたデニー。
デニーも頭では理解していた。死んだものが戻ってくるはずも無いことを。過去が無かったことにはならないことも。
それでも、シンシアを見たとき、そこにあるはずの無い未来を見てしまった。
シンシアは死んでいなかった。何かの間違いだった。これからすばらしい未来が、あるはずだった未来が戻ってきたのだと。
だが、それは違うと気づいた。いや、気づかせてもらったのだ。この人たちに。
いつしかデニーの涙は止まり、その瞳はこれから起こる現実を受け止めるだけの決意を宿していた。
「思うところもあるでしょうから逃げろとは言いませんが、危険なので絶対に離れないでくださいね!」
デニーはフーリィンのその言葉に、力強く頷いた。
「シンシア。僕は君の姿を最後まで、ちゃんと……見届けるよ」
自由騎士たちが代わる代わるデニーの説得をしている間もリューへの攻撃は続いていた。
「暴力で愛は得られない、聞こえてるかは分からねぇがな」
殺しても己の物にはならない事を思い知っただろうに。ディルクはそんな事を思いながらリューへの攻撃の手を休めない。
名も無き還リビトを屠ったことで自由騎士たちはリューへの攻撃を行えるようになっていた。
「グォオォオオアアアアアアオオオォォォアアア!!!!」
驚くほどのタフネスを見せるリューであったが、アンの、ヴィンセントの、ディルクの遠距離からの一斉攻撃を受け続け、さすがに限界が近づいていた。体中に幾多のダメージを追い、かろうじて繋がった体の幾箇所は今にも崩壊寸前だった。もう少し。自由騎士たちがそう感じたその時。リューが動いた。
粘着。
シンシアを背後から羽交い絞めにし、その今にも崩壊せんとする体でシンシアを苦しめる。最後の最後まで。リューは嗤う。常人が見れば吐き気を催すような嫌悪感を体現しながら。崩れ落ちんとする今のその瞬間も。執念。まさに執念。
その怨念にも似たリューの行動に、自由騎士たちが飲まれそうになる瞬間。
ダァァァーーーーーン。
一発の銃声。動いたのはアン。これで終わってもいい。魔力が尽きん限りの攻撃をリューへ叩き込む。
……女に寄生してて、別れられたらキレて殺して自分も自殺。挙句の果てに還リビトになってまでまだ女が憎いだと? 反吐が出るような悪党は今までも何人も見てきた。だが、こいつはそんなヤツラ以下のクズだ。
お前の一番の間違いは自ら死を選んだことだ……もう死んでおけよ。アンがポツリと呟く。
「死んで負けた奴が、勝って生き続けている人間の邪魔をするんじゃねぇぇぇぇぇ──っ!!!!」
アンの全身全霊を込めた連弾によってリューの頭部は完全に消滅。
それを追う様にリューの体もまた崩れ落ちる。
リューの浄化は終わった。
●
「今のシンシアさんには通じないのを承知で言いますけど! 恋愛とかろくにしたことの無い私でも分かるくらいに、その愛の在り方は間違っていますよッ!」
フーリィンはただ一人残った討伐対象に向かってそう言った。
「これからワタシたちは彼女を浄化する。還リビトには生前の記憶は無いと聞いている。それでも……何か彼女に伝えたい事はないかね?」
ラメッシュがデニーへそう伝える。
「愛する人が還リビトとなってあんたに会いに来たんはあんたが落ち込んでるのを心配してるからかもしれんよ。でも……一緒に死にたいとかあほなこといわんといてや」
アリシアも続ける。デニーの目を見て、もう大丈夫だと確信したためか、その口調は冗談交じりだ。
後追い。それはディルクも心配していたことであったが、今のデニーならきっと大丈夫だろう。
「辛いでしょうけど、それでもきちんと終わりを見届ける事は必要なのだと思います」
フーリィンがデニーを促す。
デニーはすっと立ち上がり、シンシアへまっすぐ視線を向ける。
言葉は無い。ただ、デニーはシンシアを見つめる。
その視線に気づいたのか、シンシアがゆっくりとデニーに向かって歩を進め始めた。
それはまるで花婿の待つ祭壇に向けて、花嫁がバージンロードを歩くかのように。
二人の時間がまた動き出したかのように。
ねぇ。アなたはダれ? ワタしは? なニもわからなイ。
でモ、ワタしは……アなたを──
「じゃぁ、やるぜ。皆で一斉にだ」
アンが最後の銃弾をセットする。
「待ってくれ」
ディルクが持っていた花束をシンシアへ向けて投げる。
還リビトとなったシンシアにそれ(花束)は何なのかは理解できない。理解できるはずも無い。
……理由は誰にもわからない。それでも確かに彼女はそれを手に取ったのだ。
「じゃぁ、今度こそ終わらせるぜ」
皆がこくりと頷き、それぞれの思いを乗せた攻撃(祝福)をシンシアに向けて放つ。
辺りはまばゆい光に包まれる。血や泥にまみれ清らを失っていた花嫁の衣装はその尊い光によって純白へと変わる。
それはまるで──花嫁が花婿への永遠の愛と純潔を取り戻したかのようだった。
浄化された還リビトは消滅する運命だ。シンシアもまた然り。
その体は徐々に光の欠片となって天へ召されていく。
光の消えたその場所に残ったのは花嫁のドレス。そして亀裂の入ったホワイトパールの指輪。
フーリィンが指輪を拾い上げ、デニーへ手渡す。
「きっと、シンシアさんが届けてくれたのかもしれませんね――頑張れって」
デニーは黙って頷いた。
「シンシアのことも、愛し合ってたことも、忘れなかったらあんたは独りじゃねえさ。彼女の為にも、前を向いて生きていこうぜ」
シンシアの残したドレスをデニーに託し、ヴィンセントはそう告げる。
少し、クサかったか。そう思いつつも少しでもデニーの為になるならと言葉にする。
その気持ちにこたえるように、まだたどたどしいながらもデニーの表情は明るかった。
●
──ありがとう
浄化のさなか、自由騎士たちはそんな声が聞こえた気がしていた。
微笑を浮かべるシンシアと共に。
自由騎士による還リビトの浄化。これまでもこれからも幾多とあるであろう。
そしてその一つ一つには対応した自由騎士や人物たちの物語がある。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
MVPはキザなセリフの中に優しさを感じたあなたへ。
シンシアの魂は無事昇っていきました。
デニーもその愛を確かに感じたことでしょう。
ご参加ありがとうございました。
シンシアの魂は無事昇っていきました。
デニーもその愛を確かに感じたことでしょう。
ご参加ありがとうございました。
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