MagiaSteam
歌は響くよどこまでも




 キラキラと輝くスポットライト。
 降り注ぐ熱、鼓動の高まり。真っ白に光る視界の中、何よりもまぶしい笑顔がはじける。
 観客たちの沸き立つ声援。最高潮に達するボルテージ。
 伝い落ちる汗すら自らを飾る宝石に変えて。ステージの上、少女はとびきりの笑顔とともにその歌声を振りまいた。
 誰もが幸せそうに、楽しそうに、この瞬間をかみしめている。

 ――ああ、いいな。
 誰にも届くことのない、かすかな声。
 ステージの上、主役とともに在りながらけしてライトを当てられることがないモノ。
 それは、ステージの熱とともに静かに冷め、消えゆくはずの小さな想いだった。



「歌い続ける町?」

 『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)の口から放たれた耳を疑う話。自由騎士たちは思わず彼の言葉を繰り返した。

「そうなんだよ。俺も聴いたときにはマジ? って思ったもんさ。けど、情報は確かだ。イ・ラプセル郊外の町で延々とリサイタルが続いている。最初の一人が歌い始めてからもう一週間。昼夜問わずの騒音騒ぎで、町の人達はすっかり疲弊しきってるそうだ」

 ヨアヒムの話によると、道ばたに落ちていたマイクを拾った人が突然歌い出したことがはじまりらしい。あまりの大音量に歌を止めさせようとマイクを奪うと、今度は奪ったその人が歌い始める。
 こうして、延々と終わらないリサイタルが繰り返されるようになったという。

「思うに、そのマイクはイブリースだ。なんとか倒すことができればリサイタルを止められるはず。このままじゃ住民みんなノイローゼになっちゃうからさ。早いとこ解決して、安眠を取り戻してあげちゃってよ」

 ヨアヒムは自由騎士たちの健闘を願い、ぐっと親指を立てた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
柚茉
■成功条件
1.イブリースを浄化する。
終わらないリサイタルを止めて、町に平穏を取り戻しましょう。

[エネミー]
・マイクイブリース
自分も歌って目立ちたい、そんなマイクの怨念のようなものがイブリースとなったもの。触れた人は問答無用で歌って踊り出してしまう魔のマイク。
ごく普通の町の人が握りしめているので、そのまま攻撃すると巻き込んでしまいます。
マイクを持った人は自分の意志で離すことができないので、誰かが奪って持つ必要があります。
マイク自体は攻撃を仕掛けてきませんが、持ち主が絶えず踊ってしまうので狙って攻撃を当てることは難しくなっています。
※マイクを持っている間はノリノリで歌ってしまうので攻撃行動はできません。体力に関わらず踊り続けてしまうので、限界がくる前に倒すか交代する必要があります。【フリーズ3】
(美声を響かせるも、衝撃の音色を響かせるも自由です。)

・スピーカーイブリース(レフト・ライト)
左右一組の巨大スピーカー。マイクが拾った歌声はここから大音量で吐き出されます。
妨害攻撃を行ってきます。

大音量 魔遠全【ウィーク1】
→絶えず大音量で歌を流し、相手の動きを阻害し続ける。
音撃波 魔遠範 【パラライズ1】
→マイクの歌を音の波動にして前方に放ってきます。ターゲットとの距離が近いほどダメージ大。身体がしびれるほどの重低音。
体当たり 攻近単【ノックバック】
→ターゲットに勢いよく体当たり。

[地形]
町の広場。
開けていて視界も良好。道も舗装されているので足場は良い。
街中ですが周辺に住居はないので、戦闘に巻き込む心配はありません。せいぜいベンチや電灯があるくらいです。


皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2020年02月17日

†メイン参加者 6人†




 ずんずんと、心臓を揺らす重低音が町中に響いていた。
「歌が聞こえてくるぞ! ……なんだかとってもしんどそうなんだぞ」
 『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は銀色の耳をぴんとそばだて、表情を歪めた。
 聞こえてくるのは歌声。しかし、その声は枯れ果てて、疲れと苦痛に満ちていた。
「楽しいはずの音楽が苦痛になってしまうなんて、残念なことであります……」
 相棒のヴァイオリンを抱えて、『だいすきなおんがく』ドロテア・パラディース(CL3000435)も表情に悲痛を滲ませた。音楽を愛する彼女にとって、歌が人々を苦しめているこの状況は許し難いものだった。
「さすがに一週間も大音響での歌唱大会もどきが続いたらたまらないわよね。一刻も早くイブリースを浄化して、この騒ぎを終わらせましょう」
 翠玉を思わせる瞳に闘志を燃やして、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は己を鼓舞するように拳を握りしめた。
 彼女の言葉に自由騎士達はうなずく。目的はひとつ、イブリースを浄化して終わらないリサイタルから住民を解放するのだ。
 決意と共に士気を高めて、可憐なる自由騎士たちは町を進む。その少し後方で、唯一の少年であるセーイ・キャトル(CL3000639)が逸る胸の鼓動を掌で感じていた。
 ――ドキドキするなあ……。先輩方と一緒とはいえ、決戦とか以外での一人行動は初めてだし。
 彼の脳裏に浮かぶのは、双子であるノーヴェの姿。隣に彼女が居なくても大丈夫、そう思ってはいるものの、離れてみるとその大きさを実感する。
 ――俺って意外とノーヴェに助けられてた部分があったのかな……認めたくないけど!
 ふるふると首を振って、セーイは来るべき戦いに意識を向ける。こうして戦いに赴く緊張も自由な楽しみの時間なのだ。先輩達と並び立てるよう、気合いを入れなくては。
「よし、行きますか!」
 小さく呟いて、先を歩く女性陣に追いつこうと走り出した。


 狂乱に満ちたリサイタル会場は、もはや本来歌の持つ楽しさとはかけ離れた地獄と化していた。巨大な二対のスピーカーは地の底から振るわすようなリズムを絶えず吐き出し、四方から降り注ぐ音響にさらされた人々は屍のようにぐったりとうなだれている。
 荷運び用の木箱をひっくり返した即席のステージの上に立つ、本来ならば喝采を浴びるべき歌い手も、息も絶え絶え、絞り滓のような声を喉から吐き出していた。
 マイクの拾い上げた歌とも呻きともとれない奇妙な音がスピーカーによって増幅され、耳を覆いたくなる騒音があたりを支配している。
「これは……昼夜問わず誰かが歌い続ける。そして騒音で睡眠も十分に取れない。中々いやらしい敵ですね」
 想像以上の惨状。内耳を直に突き刺す音響に『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は眉根を寄せた。
 このままイブリースの好きにさせるわけにはいかない。深紅の眼光が鋭く光る。人々に、一刻も早い救いを。オーディオエフェクトを素早く展開し、鳴り響くスピーカーの音量を和らげる。
 その影で『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は静かに動き出す。気配を殺し、闇に紛れるが如く悪魔達の意識の隙間を駆け抜ける。
 そして、カエリビトのように青ざめた歌い手からマイクをすっと抜き去った。瞬間、カノンの身体はどくんと脈打ち、衝動が駆けめぐる。ああ、これがイブリースの力か。直ぐに理解して、ならばそれを利用してしまおうと口角を上げる。
「みゅーじかるで鍛えた喉を披露するよ♪」
 イブリースが歌わせてくるというなら、その歌で人々を楽しませてしまえばいい。くるりと身を翻した彼女のステージが始まる。
『ああ 貴方がどんなに変わっても 私の思いは変わらない この我が身も魂も 私の全ては貴方の物――♪』
 カノンの唇が紡ぐのは、せつなく悲しい恋のバラード。彼女が所属する劇団アマリリス公演「オムレット」の劇中歌だ。
 響きわたる甘く切ない歌声は、狂騒に疲れきった町の人たちの心をも掴み、物語の世界へと誘う。聴き入る全てを魅了する、ステージの上の少女は歌姫そのものだった。

「なんて素敵な歌声でしょう!」
 カノンの歌声に聴き入りながら、アンジェリカは地面を蹴り跳躍する。敵との距離を詰めると、スピーカー・ライトに対しギアインパクトをお見舞いする。
 それに続けて龍氣螺合によってリミッターを解除したエルシーが疾風を思わせる速さの拳撃でもって追撃を食らわす。
「安眠妨害なリサイタルはここまでよッ!」
「歌ってた人達はサシャが安全なところまで連れて行ってあげたぞ! これで周囲を気にせずに戦えるんだぞ!」
「では……行くであります!」
 周辺の一般人の避難を終えたサシャが戦線へと復帰する。それを確認すると、ドロテアは周囲を巻き込む巨大な大渦を巻き起こす舞曲を奏でた。
 渦に呑まれたスピーカー達の動きが鈍ったところを、アンジェリカのピンポイントシュートが貫く。正確無比な一撃は振動板を穿ち、まずはライトの音響機能を確実に削ぐ。
 しかし、イブリースも反撃にでる。ライトの損傷を補うかのように、レフトが音撃波を放つ。
「ぐっ」
 三半規管すら揺るがすほどの轟音が自由騎士達を襲う。元の歌声の美しさの面影もない、圧倒的な音の暴力。広範囲に及ぶ攻撃は後方の自由騎士達をも巻き込み、町の景観すらも歪めるほど。ベンチが吹き飛び、広場の電灯がひしゃげて曲がった。
 壁に叩きつけられるような衝撃に、鼓膜が破れたのではと錯覚する。音が止んでもなお、びりびりとした痺れが全身を苛む。
 至近距離から音の砲撃を受けたアンジェリカとエルシーの動きが鈍る。その隙を見逃さんと、二人に向かってライトが怒濤の勢いで体当たりを仕掛けてくる。サシャが素早くクリアカースで回復を試みるが、決死のイブリースの突進を前に数刻の後れをとる。迫り来る巨大スピーカー。高速で叩き込まれる質量が直撃したならば、その衝撃は測りしれない。
 だが、その程度では自由騎士達の意志を揺るがすには至らない。回避が間に合わないならば迎え撃つのみ。前衛二人は闘気に瞳をぎらつかせ、武器を構える。
「間に合え! コキュートス!」
 後方からセーイが援護するように水の魔導を放った。氷雪がライトの身体を覆い、勢いを削ぐ。
「「はあああああ!」」
そうして生まれた道筋を、十字架と拳がまっすぐに撃ち抜いた。
 ――――!
 中心に穴を穿たれたスピーカーは慣性のまま地面へと転がり、沈黙した。


 残るスピーカーはひとつ。戦況が動くにつれて、ステージの様相もまた変化しようとしていた。
 カノンの紡ぐ物語が終演を迎えようとしている。ハーベストレインで戦場に癒しの雨を降らせ、サシャはステージへと向かう。
「次はサシャも歌ってみたいんだぞ!」
 カノンを回復すると、飛びつくようにマイクを受け取る。
「教会で鍛えた美声を聞いてみるといいんだぞ!」
 ――頑張る町の人を、戦う皆をサシャの歌で元気づけるんだぞ!
 大きく息を吸って、胸の内からこみ上げる言葉を歌に乗せて放つ。
『ぼええええええー!!!!♪』
 生まれてきたメロディは聴く者を震わせる前衛的で衝撃的な音楽だった。
「こ、これは……!」
 残るスピーカーに相対する自由騎士達も、思わず戦いの手を止める。
「まあ、情熱的で……いいんじゃないかしら?」
 語尾に戸惑いを滲ませながら、エルシーは感想を述べる。
「わ、私にまかせるのであります!」
 ドロテアはヴァイオリンを構えるとサシャの歌声にあわせて弦をならした。生み出された音色がサシャの歌と混ざり合い、耳触りの良いメロディに調和していく。
「な、ナイスです。ドロテアさん!」
 セーイの声にドロテアは笑顔でもって応えた。
「みんな、ただいま! カノンも戦うよ!」
 カノンが戦線へと戻ってくる。視線の先は残る一体のスピーカー。
 しかしなにやら様子がおかしい。ガタガタと不規則に身体を震わせ、まるで苦しみもがいているようだ。
「スピーカーの故障でありますか!?」
「まさか、歌声によって内部破壊をおこしているのでは……?」
 アンジェリカが分析する。ドロテアの演奏によって周囲に響く音色は調和されているが、スピーカーの内側にまではその効果は及ばない。増幅し、外へと吐き出すはずのサシャの声が、スピーカーの内部で燻り、内側から蝕んでいく。
「サシャちゃんすごい!」
 思わず感嘆するカノン。ステージの上のサシャは、そんな様子にも気づかず、気持ちよさそうに歌声を響かせている。
 ピーー! ガーーーー!
 もがきながら、スピーカーは振動板を目一杯震わせて、歌声を砲撃へと変換し放つ。決死の一撃。対してカノンは真っ向から立ち向かう。
「声ならカノンも負けないよ!」
 黄金の瞳に闘志を燃やし、猛々しくも麗しい獅子の如く咆哮を放つ。スピーカーの音はかき消され、カノンの闘気が牙を向き圧倒する。
 ……! …………!
 負荷に耐えきれず、スピーカーはついに限界を迎える。陸に打ち上げられた魚のようにぎこちなく揺れ動いた後、やがて完全に動かなくなった。
「自らの音によって壊れるなんて、なんていうか、因果応報ってやつだね」
 淡々としたセーイの口調にはわずかに哀れみの念が滲む。
 スピーカーを倒したことで、歌声が正常な音量に戻ったようだ。ステージをみると、こちらの戦果を知ったサシャがぐっと親指を立てていた。
「残るマイクのみ、ですね。破壊するのは簡単ですが……」
 マイク自体がこちらに危害を加えることはない。あとはピンポイントシュートで的確に破壊すればいいだけだ。しかし、直ぐにそうすることをアンジェリカは躊躇った。
 彼女の視界には、異変の終息を察して集まり始めた町の人たちの姿。
「町の人たちが集まってきたわね」
 と、エルシー。耳やしっぽをぴょこぴょこと動かしながら、楽しそうに歌うサシャの周りには小さな人だかりができていた。
 カノンはマイクを握り、歌っていた時の感覚を思い出す。
「カノン、マイクを持ってみて思ったんだよね。どうしてマイクはイブリースになったのかなって。イブリース化してるっていっても、本当にただ歌わせるだけで。それ以外は何も悪いことはしてないんだよね」
「そうね、何か理由があるのかも。であれば少し様子を見てみましょう? 町の人たちも歌を楽しんでいるようだし。せっかくだからもう少しマイクにつきあってあげましょうか」
 そう言って、エルシーはステージへと向かった。


「教会以外で歌ったのは初めてだぞ! 中々気持ちよかったんだぞー!」
 眼下に手を振りサシャは満足げにステージを降りていく。彼女に代わり姿を現したのはエルシーだ。
「あーあー、それでは。自由騎士エルシー、歌います。『振り向けばエルシー』」

 振りむけば~ らら~ エルシー
 セクシー&キュート
 ぼん☆きゅっ☆ぼん

 妖艶に身体をくねらせ、豊満でありつつ程良く引き締まった肉体美を存分に披露する。くるり、ステップを踏むごとに赤い髪がヴェールのようにひらめく。
 マイクを握ったその瞬間、イブリースの想いが伝わってくる感覚がした。
 ――そう。貴方もスポットライトを、皆の注目を浴びたかったのね! いいわ。その想い、私と一緒に叶えましょう!

 振りむいた貴方の視線は私に釘付け
 街角で 人生で
 すれ違う貴方は振り向くの~

 ガンスピンのようにマイクをくるりと回し、天高く放り投げてキャッチする。
 音楽に乗せて身を翻す様子は、まるでマイクと共にダンス踊っているかのようだ。
「いいぞいいぞ! ねえちゃん!」
「エルシー!」
 美しくも情熱的なパフォーマンスに、町の人たちは楽しそうに盛り上がっている。
「はは、さっきまで歌はうんざりって感じだったのに、みんな元気だなあ」
 人々のタフネスにセーイは思わず驚嘆の息をもらす。
 ――まあ、元気があるのは良いことか。……ちょっとくらいならいいかな。
 先ほどの戦いで折れ曲がった電灯をテレキネシスでこっそりと動かす。ライトの向きをエルシーへと変えて、即席のスポットライトの完成だ。

 そう
 振りむけば~ らら~ エルシー♪

 エルシーの歌声に花を添えるように、ドロテアの演奏が寄り添い、アンジェリカが踊る。
 集まる人はどんどん増え、広場は熱気に満ちていく。地獄を思わせた狂騒からは一変して、笑顔が咲き誇る。にぎやかな歌の祭典となっていた。
「さあ、次はセーイおにーさんの番だよ!」
「え」
 カノンがセーイの手を引き、ステージへと誘う。導かれるままステージへ向かったセーイは情熱的な歌を歌い上げたエルシーからマイクを受け取る。
「ありがとう! 『恋はエルシー』もよろしくね!」
 マイクを手渡す際に、観客にそう告げると、投げキッスを残してエルシーはステージを後にした。
 観客の声援がいっそう熱を持つ。なんだか歌いづらいな。そう思いながら、エルシーが上げた会場のボルテージを冷まさぬよう、セーイはゆっくりとマイクに歌声を吹き込んでいく。
 澄んだ歌声が空に解き放たれ、会場に響く。
 触れた掌から感じる、マイクの思い。セーイの声はまっすぐにそれを運び、人々へと伝える。


 輝きに満ちたステージ。すばらしい歌声が、人々を笑顔にさせていく。
 けれどそれはけして自分の声ではない。誰かの声を運ぶことしか、自分はできない。自分も、誰かを笑顔にしたい。輝きを放ちたい、人々を楽しませたい。この声を、誰かに届けたい――。
 それこそが、マイクがイブリース化した理由。小さな思いは、長い年月をかけて大きく膨れ上がり、顕現した。
 積み重なった想いをただまっすぐに感じ取って、偽りなく人々へ伝える。透き通った少年の歌声は、イブリースの歌声そのもの。
 メロディとなって降り注いだ願いを、人々は静かに聴き入った。

 最後の一音が空気を震わせた。歌が終わる。握りしめたマイクは、もう誰かを歌わせようとはしない。イブリースは満足したようだ。
「もう、大丈夫みたいです。アンジェリカさん。お願いします」
 そういってセーイはマイクを掲げる。
「わかりました」
 まだ耳に残る歌の余韻を噛みしめながら、アンジェリカはマイクを打ち抜いた。



「良いこと思いついた!」
 声高に叫ぶと、カノンは浄化されすっかり元通りになったマイクにジュエリーを取り付けた。
「きらきらだぞ! ナイスアイデアだぞー!」
「これでマイクにも目がいくかな?」
 うんうんとサシャはうなずく。宝石の輝きを纏ったマイクはなんだか嬉しそうに見える。
「町の人たちがまたマイクを貸してくれって言ってます!」
 歌を求める町の人の声を伝えに、セーイがやってくる。
 望むままマイクを手渡すと、再び楽しげな歌声が響きはじめる。
「まさか、イブリースを浄化してもリサイタルが終わらないとは」
 苦笑するセーイ、アンジェリカが隣でうなずく。
「本当です。歌は活力を与えてくれますが、度が過ぎれば毒というもの……食事も薬も一緒ですね」
 歌って踊って、騒ぎ続けることは宴のようで楽しい時間だ。しかし、それは日常に少量のスパイスを加えるからこそ引き立つもの。何事も程々に。今回の良き教訓である。とはいえ……。
「ほらほら、難しい顔してないで、折角だから私たちも参加しましょう!」
 人々から離れて立っていた二人に駆け寄って、エルシーが手を引いた。
 絶えず聞こえてくるのは、賑やかで幸福に満ちた声。そうであるならば、この一時を楽しむのも悪くはないだろう。
「いいわ! マイクさん素敵! 貴方いますごく輝いてる! ひゅーひゅー!」
 ステージの歌声にコールを入れながら、楽しげな様子のエルシー。
「何事も程々が一番……ですけれど。皆様が楽しそうですし、これで良いのでしょう」
「まあ、そうですね。俺も、そう思います」
 はしゃぐ人々の様子に、自然と口元がほころんでゆく。

 聞こえくる歌声を彩るのはドロテアの奏でるヴァイオリン。
 人々を喜ばせ、笑顔にする。ああ、これこそが音楽だ。大好きな音楽だ。幸福感に心が満たされていく。
 私が持つこの楽器も、マイクのように何か思うものがあるのだろうか。
 ――私もいつか、楽器が語りかけてくれるくらいの演奏家にならねばと改めて思うのであります!
 決意を新たに、一人の奏者は澄み渡る大空へと音色を響かせる。

「サシャももう一度歌いたいぞ!」
「いや、それはもうやめとこう! ほら、あっちにお肉やさんがあるよ!」
 皆の楽しげな様子にうずうずと逸る心を抑えきれず、サシャはステージへと飛び出していこうとする。その腕をがしと掴んで、カノンは彼方を指さした。
「ほんどだぞ! にくー!」
 指し示された方向から漂うお肉の気配。きらり、目を輝かせてサシャは走り出す。歌よりお肉である。その後をカノンが笑いながら追いかける。

 音楽は鳴り響く。聴き入る人々の笑顔を乗せて。
 宴は続く。歌は続く。
 ささやかな幸せを運びながら、どこまでも。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

皆様、素敵な歌やパフォーマンスを披露してくださりありがとうございました。
のちに町には年に一回、マイクに感謝を込めて歌のお祭りが開かれるようになったそうです。
MVPは気持ちよく衝撃の音色を響かせてくれた貴女へ。
FL送付済