MagiaSteam
猫だー!



●ねこねこにゃーにゃー
 戦いは長らく続いていた。
 神の国シャンバラ。
 蒸気の国ヘルメリア。
 二つの大国を打ち倒し、だが、イ・ラプセルは止まらない。
 神アクアディーネが見た虚無の世まで残り一年。しかし、世界にはまだパノプティコンとヴィスマルクという二つの大国が存在している。
 戦いは、まだ続くのだろう。そして人々は常に緊張の日々を送ることになるだろう。
 だから猫だ。
「ニャ~」
 三毛猫だ。ドラ猫だ。白猫だ。黒猫だ。あと何か、色々猫だ。
「にゃ~」
「みゃう」
「みゃ~」
「にゃう」
 猫、猫、猫、猫だらけ。
 ここはアデレードの一角につい先日オープンした、猫カフェの中での風景である。
 緊張にまみれ、気づかれしやすい戦争の世に少しでも癒しを。
 そんな思いのもと、元王国騎士の店主が開いた店である。
 この店では、料金を払えば一定時間、自由に猫と戯れることができるのだ。
「お~、にゃんこたんにゃんこたん、かわいいでしゅね~。どうしたんでしゅか~、エサでしゅか~、おもちゃで遊びましゅか~、ん~、ゴロゴロのど鳴らしてかわいいかわいでしゅね~、は~、なでなでなでなで~」
 と、三毛の子猫をあやしている男性が、やってきた自由騎士にはたと気づいた。
「む、汝らも来ていたのか。奇遇であるな」
 ジョセフ・クラーマーであった。
「うむ、終わることなく続く戦いは、やはり人民の心にどうしても悪い影響を与えてしまうもの。それが国を守り、世を救うのに必要なこととはいえ、闘いばかりが続けば人の心も乱れ、疲れも溜まろう。だからこそ癒しを人々に提供する。この店の主の考えは私から見ても実に素晴らし――お~、何でしゅかおねむでしゅか、おなかまるだしかわいいでしゅね~。は~い、こしょこしょこしょこしょ~」
 ジョセフ・クラーマーは、猫好きだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常α
担当ST
吾語
■成功条件
1.猫カフェで猫と遊ぶ
厳格な人物程、そのイメージが壊れたときのギャップはすごい。
その論で言うとすでにジョセフ師は酒を飲んだ時に請われているので特にギャップなどはないはずです。
吾語です。

イベシナ!
猫と遊ぼう!

エサあるよ! 持ち込み可能!
おもちゃ各種あります! ねこじゃらしもな!
ジョセフは勝手に猫と戯れてます! 話したい人はどうぞ!

複数参加の場合はお相手様のお名前をプレイング中に名器どうぞ!

以上!
ねこねこにゃーにゃー!

次回予告!
いぬいぬわんわん! かもね!
状態
完了
報酬マテリア
1個  0個  0個  0個
9モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
21/50
公開日
2020年05月20日

†メイン参加者 21人†

『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)
『アフェッツオーソは触れられない』
御巫 夜一(CL3000671)
『背水の鬼刀』
月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)


●猫好きどもがにゃーにゃーのたまう
「ねこちゃん、ほんまかわええわー」
 ゴロゴロとのどを鳴らす猫ののどをちょいちょい触り、『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が顔の相好をふにゃりと崩す。
「ここがえんか? ここがええんか?」
 アリシアにのどをなでられて、猫は幸せそうにゴロゴロゴロゴロ。
 その様が、また何とも可愛らしい。
「はぁ~、たまらん……」
 猫と戯れるだけの店と侮っていたが、これはダメだ。やみつきになりかねない。
 そう――、
「おぉ~、よちよちよちよち、遊んでほしいんでしゅねぇ~」
 猫じゃらしをもって醜態を晒している、そこの元大司教のように。
「……猫の魅力こわいわ~」
 普段は決して見られないジョセフの姿に、アリシアは軽く苦笑いするのだった。
「しかし、あの猫の扱い方は少し乱暴なのではないか?」
「うひぃ!?」
 そこに、物静かに背後から声をかけてくる『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)。完全に不意を突かれて、アリシアは悲鳴じみた声を出す。
「ここにいる猫の種類は幅広い。さすがに専門店だけあって様々なニーズに応じられる態勢を整えているということか。しかしそれでもジョセフは無節操な気がするが――」
 どうやらジョセフを観察しているらしい彼から、アリシアは徐々に距離をとった。
 しかし、それに気づく様子もなく、ライモンドはさらに観察を続けた。
「む、そのなで方は少し違うのではないか? 見ろ、猫が乱れた毛を下でつくろっている。いや、あのジョセフの顔、確信犯か。猫の毛づくろいを見たいがための、あえての荒いなで方。そういうのもあるのか……。しかし、それはどうなのだ……?」
「……気になるのならば、ライモンドも猫をなでてみてはどうだ?」
 ブツブツ呟く彼に気づいた『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が、ライモンドに提案する。しかし、言われたライモンドはコホンと咳払いを一つ。
「いや、別にいい。毛がつくので、眺めているだけで結構だ」
 眼鏡のブリッジを知的にクイっとやって、彼は静かに猫の観察を始めた。
「そういうものか……」
 ヨツカはうなずき、自分もそれにならって猫を眺めようとする。
 するとどうしても視界にジョセフの姿が入り込んでしまう。
「ジョセフは、大丈夫なのか」
「む? 何を言っているのかがわからぬが。見ての通り、私には何らおかしいところはないであろう? でしゅよね~、ねこたん。ね、こ、た、ん!」
「今、ヨツカの中にあるジョセフ像が瓦解する音を確かに聞いたぞ」
 いかめしい顔つきのまま、ヨツカは猫じゃらしを振っているジョセフにそう告げる。
 さて、ここからどうしたものか。
 軽く悩むヨツカの足元に、茶トラの子猫がとことこと歩いてくる。
「みぃ」
 そして子猫は彼を見上げた。
「……ううむ」
 どうすればいいのだろうか。ヨツカの悩みは増す。
 猫に触れ合う機会などあまりに少なく、どうやればいいのかがわからない。
 彼は周囲を軽く観察し、それにならってまずはあぐらをかいてみた。子猫が待ってましたといわんばかりにその足の上に乗ってくる。
「……こうするのがいいのか?」
 と、子猫の背をなでてヨツカはハッとした。
 自然と猫に語りかけていた。これが猫か、おそるべし。
 そう思わざるを得ない、ヨツカであった。

「猫カフェ……。こんなお店があったなんて……!」
 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ。
 猫を両手で堪能しているのは、『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)である。
「猫さん可愛いです猫さん」
 なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。
「にゃ~お」
「大人しくしててくれて嬉しいですっ」
 そりゃあもう、これ以上ないくらいに猫を堪能し続けている。
 隣では、同じくジョセフが猫をなでていた。
 真顔である。
 恐ろしいほどに真顔である。
 まばたきもせずに、唇を引き結んで猫をなでる様は、シャンバラ陥落後アクアディーネの祝福を受けると告げたときの顔にも匹敵する真剣さであった。
「ジョセフさん、猫お好きだったんですね……」
「――静かに」
「あ、はい」
 その真剣さに、ティルダも何となく真顔になった。
 きっと、癒しが必要なのだろう。彼にも。ティルダはそう思うことにした。
 さて、そうして彼女が猫を堪能していると、その前を一匹の黒猫が横切っていった。
 続いて白猫が横切っていった。
 続いて赤毛猫が横切っていった。
 続いて三毛猫が横切っていった。
 続いて――、
 続いて――、
「できたよぉ~、ねこは~れむぅ~」
 周りに多くの猫を集めて、メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)が間延びした声で告げる。そう、メーメーが猫に好かれるオーラを用いて、この恐怖の猫城壁を創り上げたのだ。何という恐るべきメーメーであろうか。
 それはそれとしてティルダは膝の上に載せた子猫をなで続けていた。
「ああいうこともできるんですねー」
 と、のんびりとした感想を漏らす。
 一方――、
「ふふふぅ~、これでみんなの嫉妬を煽ってぇ~」
 恐るべき猫独占計画を実行しようとするメーメーであったが、だがそれは叶わなかった。
 突如として、メーメーを囲む猫城壁の一角が崩れたのだ。
「あれぇ~?」
「独り占めはいけませんよぉ~?」
 メーメーに匹敵するねこまっしぐらなオーラの使い手。
 それは、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)であった。
 フフンと余裕の笑みを見せるアンジェリカのもとへ、次々に猫が寄っていく。
「むむむむぅ~」
「あらあらまぁまぁ、いらっしゃいませ。何にしますか猫さん達。バッシュ? オーバーロード? それともト・ロ・リ・ジー?」
「やめろ」
 笑顔でヤバイワードを口にするアンジェリカを、ジョセフが諫めた。
「いやですねジョセフさん。ただの猫じゃらしテクニックですよ」
 アンジェリカが笑いながら猫じゃらしで見事なトロリジーストライクを決めていた。
 つまり、一本の猫じゃらしで猫三匹。一本の猫じゃらしで猫三匹である。
「……なかなかやるねぇ~」
 彼女の見事なじゃらしを見て、不敵に笑うメーメーであった。
 そしてねこまっしぐら二大巨塔による頂上決戦が――、
「「よ~しよしよしよしよしよしよし」」
 特に始まりませんでした。

●猫だ、たわむれろ!
 穏やかに時が過ぎる店内に、緩やかな旋律が流れ始める。
「ああ、猫さん、猫さん、可愛いです。嬉しいです」
 奏でるのは『夜空の星の瞬きのように』秋篠 モカ(CL3000531)。
 友人である『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)と共にこの店に来て、猫を存分に堪能しているうちに、溢れる気持ちを奏でることにしたのだ。
 当然、キリの方もこの演奏には混じっている。
「我ながらいつもより力強い演奏ができている気がするわ」
 キリは言いながら、モカと共に楽器を奏でる。
 このところ戦いばかりで楽器に触れる機会が減って、腕が落ちてないか不安はあった。
 しかし、戦いのおかげで鍛えられたからか、むしろ楽器を扱いやすくすら感じる。
 そしてモカとの共演だ。
 当然のことながらテンションが上がる。
 さらには、その音色を聞きつけてか、何匹かの猫が二人の周りに集まってきている。
 これは、ダメだ。ただでさえ高まっているテンションが、うなぎのぼり!
「わぁ、キリさん楽しそうな音ですね!」
 言って、モカもさらに音色を澄ませていく。
 ああ、何ということだろう。
 二人はただ、楽しい気持ちを音楽で表現しているにすぎない。
 それなのにどこまでも止まらずに奏でられそうな気がする。
 キリも、モカも、こんな気分になるのは久しぶりだった。
「楽しいね、モカちゃん」
「はい、猫さんも一緒で、楽しいです」
 見れば、モカの前に座った猫達が尻尾を振ってリズムをとっている。
 その様子の、なんと愛らしいことか。
 ついつい、演奏にも力が入る。
 そしてついには、猫が歌い出した。
「うなー、うなー」
 調子っぱずれの声ではあるが、これはいけません。モカの表情がさらに輝く。
「見てください、キリさん! 猫さんが歌ってます!」
 と、キリの方を見てみれば、そこにあるのは何とも言い難いキリの仏頂面。
「何でよ」
 キリが呻く。
「どうしてみんな、モカちゃんの方に行っちゃうのよぉ!」
 キリとモカ、その周りに集まる猫の数。その差、歴然!
「……何ででしょうねぇ?」
 軽く苦笑しつつ、モカが首をかしげた。
 演奏者二人、場を賑わせるには十分だったが、特に意味のない明暗は何故だかはっきりとわかれてしまったようだった。

 二人はまず、一緒に店に入った。
「じゃあ、ここからはお互い自由行動で」
 片割れのセーイ・キャトル(CL3000639)がそう言って、もう片方のノーヴェ・キャトル(CL3000638)もそれにコクリとうなずいた。
 ノーヴェはとことこと歩いていくと、寝転がっている猫の一匹を抱き上げて、セーイの方へと歩み寄ってくる。
「……どうかした?」
 尋ねるセーイに、ノーヴェはいつも通り途切れ途切れの喋り方で、
「猫……、あたたかい……」
「お、おう」
「……マギアス」
「え?」
「猫……、は、マギアス……」
 ちょっと何を言っているのかわからないセーイ。
「あたたかい……、やわら、かい……、ふにゃふにゃの、魔導……」
 さらにちょっと何を言っているのかわからないセーイ。
「猫、マギアス……」
 猫はマギアスらしい。
 いやはや、何というか自由な見解というべきか。
 そんな自分の中に浮かんだものに、セーイはふむ、と少しばかり考え込む。
 ノーヴェの考えていることはともかくとして、自由というものについて、彼は少しばかり思うところがあるのだった。
 自由。
 自由とは何だろう。
 思うように振る舞うのは自由とは呼ばない。それはきっと、無法だ。
 セーイは考える。
 全ては己の責任に帰する。自由とは、それなのだと。
 そう考えると――、
「ぶにゃ」
「おまえの自由は、自由って言っていいのか?」
 人に飼われるその状態は、きっと人の基準で判断すれば自由とは言えまい。
 しかし、ノーヴェに抱かれている猫を見ていると、不自由にも見えず、なんというか人が思い描く自由そのもののようにも思えるのだ。
 ここで飼われている猫と野良猫と、果たしてどっちがいのだろうか。
「な~ぉ」
「ん……?」
 考えこんでいるところに猫の鳴き声。
 ふと足元を見れば、猫いっぱい。猫たくさん。
「うおお!?」
「猫、あそんで、欲しい……、って……」
 猫を一匹抱き上げながら、ノーヴェが言ってきた。
「お、おう……」
 そして自身も一匹抱き上げてセーイは思う。
 ここは、考え事をするには向いてなさすぎる場所だな、と。

 さて、この店は猫カフェである。
 つまり、猫がいるカフェなのだ。
 そう、飲食ができるのである!
「さすがに猫のいるゾーンとは区切られているんだな」
 注文を終えて、タイガ・トウドラード(CL3000434)は店の中を見渡して軽く呟く。
 希望者は猫に餌をやれるシステムになっているらしいが、さすがに飲食をする場所とは区切られているらしく、近くに猫はいない。
 とはいえ、すぐそこから常に猫の鳴き声が聞こえるここは、それだけでもすでにかなり和むというか、にゃんこな空気が満ち満ちていたりするのだが。
「何頼んだんだ、タイガ」
 タイガの向かい側、彼女との久々のデートにウキウキしているロイ・シュナイダー(CL3000432)が軽く尋ねてみた。
「ん? デミオムライスだよ」
「カフェと言いつつそんなのもあるのかよ、ここ……」
 と、二人が雑談を交わしているうちに、店員が注文の品を持ってくる。
「……美味しいな」
「ああ、しっかりと美味くできてるな、ここの料理」
 猫メインの店と思わせておきながら、カフェとしてのレベルとも高いとは。
 タイガもロイも、これには少し驚かされた。
「おいおい、タイガ」
「ん?」
「口の端、デミグラスがついてるぜ」
 気づいたロイがハンカチでタイガの口元を拭う。
「よし、OK。って、何でこっち睨んでんだよ」
「……気づかないロイが鈍いのか、何なのか」
 若干頬を赤くしつつ、だが目をパチクリさせるロイに、タイガは小さくため息。
 やがて、食事を終えた二人は、ついに猫エリアへの突入を果たした。
「わぁ、見てよロイ。こんなに小さい」
「お~、生まれたてか、こいつ」
 近寄ってきた子猫を拾い上げて抱くタイガが、笑ってロイに促す。
 こうして猫と戯れる彼女を見たことがなかったロイは、その光景に微笑んだ。
「命って、あったかいね」
「……ああ、そだね。命は、あったかい」
 それからしばらくの間、二人はときを忘れて、猫達をかわいがるのだった。

●猫いろいろ、人それぞれ
 猫は可愛い。
 それは、当然すぎる事実である。
 いわば「人は息をする」、「犬はワンと鳴く」、「鳥は空を飛ぶ」と同列の、そして同レベルの当たり前さをもつ、当たり前の事実なのである。
「……可愛い」
 よって、ルエ・アイドクレース(CL3000673)が猫を前に真顔でそれを呟くのも、実に無理からぬことであると言えるのである。
 ちなみに彼は、何故か店の隅っこで猫を観察していた。
 自ら猫に触れようとしないのは、遊びすぎて猫を疲れさせないための配慮だった。
 他の自由騎士達は、猫と戯れて楽しそうだが、その様を見ているのもまた微笑ましい。
 そう、こんな時間を過ごせるなら自分は見ているだけで何も――、
「にゃ~ん」
「…………ほれ、ほれ」
 近寄ってきた猫に、猫じゃらしを向ける。
 そうは言っても、やはり猫と遊ぶのは楽しい。
 その真理の前に人の考えなど、さしたる意味もないのである。
 ルエのような猫を気遣う猫好きを陰の猫好きとするならば、『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)のように前へと進んでいく猫好きは陽の猫好きであろう。
 陰キャ、陽キャの話ではない。
 方向性の話である。いわば右と左の違い。赤と青の違いのようなものだ。
「猫ちゃん! です!」
 たまきは、だが決して猫に無理をさせるつもりはない。
 猫は猫のまま、それだけでもう心が癒されるのだ。
 決して、愛を押し付けてはならない。ましてや赤ちゃん言葉で猫に迫って一緒に転がって遊ぶなど、かのキャラ崩壊坊主のような真似はむしろヒく。ドンビく。
 それを胸に刻みながら、たまきは猫をなでようとする。
 が、その前にやることがあった。
 ここは猫カフェ。お店なのだ。
 猫と戯れるだけの場所ではない。
 感謝の気持ちと共に、お金を! 推しに対する謝礼を! 支払わねば!
「というわけでカフェオレです」
 いれたてのカフェオレを一口飲んで、そのほろ苦さと甘さに舌鼓を打ちつつ、いざ、猫ちゃんとの戯れへ。出陣。たまき 聖流、出陣である!
「…………」
 だが猫を前に、たまきは動かなかった。
 本日、彼女が選んだ戦術は待ちの一手。相性がよさそうな子が来るまで待つのだ。
 かくしてたまきのもとに猫がやってくるが、長い時間同じポーズで待ち続けたたまきの関節がベキボキなって猫が逃げるのは、それから五秒後のことであった。

「猫は好きだよ……」
 恍惚の中で、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は呟いた。
 その右手の上には、猫が乗っている。
 その左手の下には、猫が撫でられている。
 床に置いた右手の上には、警戒心の低い猫が乗ってきた。
 猫じゃらしを持っていた左手の方には、未だ距離を空けている警戒心の強い猫が来た。
 どっちも、マグノリアに猫というものの素晴らしさを教えてくれる尊い存在。
「猫の心は複雑だ……」
 再び漏れる、そんな呟き。
 抱こうとすれば離れるクセに、少しするとまたやってくる。
 そんな猫は、同時にとてもやわらかい。
 猫は液体などと言う冗談はよく聞くけれど、それが半ば本当だと思える程度には。
「……そう、やわらかいんだ」
 こうしてなでている今も、ヒシヒシとそれを感じる。
 猫。
 それは何という生物だろうか。
 この生物の前に、人が持つ猪口才な理など一切意味を持たない。
 可愛いは正義。
 その言葉を、マグノリアはこれ以上なく体感しているのだった。
「せめてここに窓があればいいと思う」
 そして、周りの誰もがその言葉の意味を理解できないのであった。
 だが、理解しようとも思わない人間にとっては、大したものでもないのは確かで、
「おもち、かごをがりがりしちゃだめだってばー!」
 この、『みつまめP』ナナン・皐月(CL3000240)などもその一人。
 猫カフェに虫かごなど持ってきているナナンだが、一体その中には何が入っているというのか。何やら、カリカリと中からかごを掻きむしっている音がするが。
「それでは早速ねこちゃんと遊んだり遊んだり遊んだり遊んだりするのだー!」
 と、意気揚々と猫をたわむれようとするナナン。
 しかし――、
「お客様~?」
 それを呼び止めたのは、ニコニコ笑顔の猫カフェの店員だった。
「何かな!」
「その虫かごは、何でしょうかー?」
 尋ねてくる店員に、ナナンは胸を張って答える。
「うちのかわいいおもちだよ!」
 そう言ってグイと突き出した虫かごの中には、ハムスターがいた。
「おもち!」
「……そうですかー」
 店員は笑みを深めて、虫かごをパッと取り上げた。
「あ」
「当店はペット同伴は禁止で~す。猫と遊ぶ場所ですので~」
「そんなぁ……」
「このようにハムスターが丸見えのかごですと、猫ちゃんがこの子を狙ってくる可能性もありますのでー、お客様がお帰りになられるまでこちらで預からせていただきます」
 情け容赦ない店員の眼光は、ナナンに反論を許さなかった。
「はぁい……」
「にゃ~ん」
 シュンとなってしまうナナンの足元に寄ってくる猫。
 その背をゆっくりなでて、心を癒そうとするナナンであった。
 なお、このときの心の傷は、猫をなでて五秒で癒えた。

 猫は絶対の真理である。
 何故なら、もふもふの毛玉だからだ。
 彼、『アフェッツオーソは触れられない』御巫 夜一(CL3000671)にとって、まさしく猫は絶対であり、真理であり、正義なのであった。
 だってもふもふだぞ。しかも毛玉だぞ。
 完璧な、あなりにも完璧なフォルム。その動きを見ているだけでお米が喰える。
 しかしこちらから手を出したのでは驚かせてしまうかもしれない。
 ゆえに、夜一はジッと待った。
 待って、待って、待ち続けた。すると、ついに――、
「にゃふ~」
 猫が、来た。
 猫、が、来た!
 それでもじっと動かず待ち続ける彼の足元に、猫はそのまま丸まった。
 恐る恐る、撫でてみる。きもちよさげ。
 軽く、マッサージをしてみる。きもちよさげ。
「ここか? ここが気持ちいいのか?」
 独り言をつぶやきつつ、マッサージを強めていく。
 すると猫が鳴いた。
「にゃふん」
 はぁ、幸せ……。
 夜一、至福のひとときであった。
 そして彼と同じように、猫と接して人生の至福を味わっている者がもう一人。
 食事を終えて今まさに猫へと突撃していった彼の名は――ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)。もふもふがもふもふでもふもふする、もふもふの天国!
 いやしかし待ってほしい。
 猫達はまだ彼の方に意識を向いていない。
 ならば、そう、観察だ。観察をしてまずは視覚をもって猫を堪能するのだ。
「むぅ……、癒える。心が、癒えるッ!」
 猫が驚かない程度の小声で叫ぶという高等技術をもって叫び、ウィルフレッドは猫をやわやわとマッサージした。その指先に感じる、もふもふとした感触。
「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
 高ぶるものを落ち着けるべく、鼻から盛大に深呼吸。
 だが、空気に漂うにゃんこスメルがそんな彼の鼻にダイレクトアタック!
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ――――↑↑↑↑」
 テンションがやばいことになってしまった。
 あぁ、もう、にゃんこ可愛い。にゃんこ可愛い……!
 目で楽しみ、指で楽しみ、香りで楽しむ。
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO↑→↓←」
 そろそろ、テンションが行方不明になりつつあるウィルフレッドであった。
「……全く、少しは静かにできないものか」
 膝に乗せた猫をゆっくりなでつつ、『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)が小さく嘆息する。
 だが人を狂わせるのも猫の仕業と思えば、叱る気もそうは起きない。
 しかし、同時に小さく儚い生き物でもある。
 今、自分の膝の上で寝ている猫とてそう。
 危険がないとわかっているから寝ているのだろう。
 その背をなでてやりながら、ガブリエラは微笑みつつ息をつく。
 かすかに上下する猫の背中に、確かな命の息吹を感じる。そして膝に少し重い。
「ふむ、これが命の重さであるか」
 小さく漏らしながら、彼女は猫をなで続ける。
 その脳裏に浮かぶのは随分と前、まだ自分が若かった頃の話。
 今さら、誰かに話すようなことではない。
 時折、こうして思い返すだけで、それだけで十分なものでしかない。
 そう、それだけで事足りる。ほんの小さな感傷に過ぎない。
「おまえはちゃんと生まれてきたんだ。これから生をまっとうすればいい」
「みぃ……」
 眠る猫の背をなでながら、ガブリエラはその感触を堪能した。

「一人。三時間で。あと、エサを二袋」
 それを告げる彼の佇まいは、猫カフェの店長をして「堂に入ってる」と言わしめるものだった。それほどまでに彼の――、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)の猫に対する態度は真摯なものであった。
 声は控えめに、動作はゆっくりと。
 踏み出すのは利き足から。逆の足で踏み出すと、下手をすると足音を鳴らしてしまう。
 猫ちゃんがいる場所でそれはあまりにも悪手。
 限界まで気配と存在を薄め、呼吸をか細くしながら、少しずつ猫へと近づいていく。
 他の客たちは、そんな彼を見て「猫のために生きている」と思った。
 すごい、すごい男だナバル・ジーロン。
 だが当の本人はそんなことは関係なく、ついに御猫様の前に到着していた。
「ここがいいな」
 彼が坐したのは壁際。猫が好みやすい隅っこである。
 そしてナバルはそこで――、
「たくさんの自由騎士が閉じ込められているという噂の建物はここですね」
 猫カフェの入り口前、そこに、『ティーヌの騎士を目指して』海・西園寺(CL3000241)は胸を張って立っていた。
 歴戦の自由騎士達が閉じ込められるという恐るべき場所。
 きっと、敵の拠点に違いない。
 しかし真の騎士を目指す者として、それを見過ごすわけにはいかない。
 そこに、どんな大きな壁が立ちはだかっていようとも……!
 意を決し、海はドアを開けた。
「自由騎士、西園寺です! 大人しく手を――」
「にゃふん?」
「あー、猫ちゃんだぁ……」
 って、そんな場合ではなくて、ここに囚われた自由騎士の先輩たちを……!
「みゃ?」
「にゃ~ん?」
「みぃ?」
「ああああああああああああ、猫ちゃんです~……」
 カ、カメラ。
 蒸気カメラを持ってきてなかったことを、海は心底後悔した。
 そんな彼女が、異様な気配に気づく。
「あ、あれは……」
 そこにいたのは、聖者であった。
 壁に背を預け、座っている一人の青年。
 胡坐を組むその足の上に三匹、両肩にそれぞれ一匹ずつ、そして頭に白猫が一匹。
 それぞれ寝ているのだった。
 全身を猫に任せながら、しかし、青年は――、ナバルは少しも身じろぎしない。
 百年の修行を経て大自然と一体化した聖者の如く、彼は今、猫と一体化していた。
「すごい、です……!」
 これこそ、カメラに収めておくべき瞬間なのではないか。
 そう思いながら、それはそれとして海は自分のお財布に入っている金額を思い返して、泣きそうになるのであった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『猫の聖者』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)

†あとがき†

にゃーにゃにゃにゃーにゃー。にゃー!
FL送付済