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蒸気仕掛けのジャッカル

●闇夜に紛れてやってくる
野生のシカが歩いている。
木の皮をはみ、しずかに生きるシカだ。
それがふと、ものを食べる口を止めて顔をあげた。
何かに気づいた。
闇の中。茂みのむこう。
光る目のようなものに気づいた。
その直後、ぶわりと上がる灰色の煙に気づいた。
危機を察し、走り出すシカ。
だがその走りが始まったか否かという速度で、背の低い動物がシカの足に噛みついた。
否、噛み千切った。
肉を食い破り骨を折り、シカを派手に転倒させたのだ。
すぐに同じ茂みから無数の動物が飛び出し、シカの喉に噛みつき息の根を止め、腹をさいて食べ始める。
もしモンスター知識に詳しいのであれば気づくだろう。
これがただの動物ではなく、スチームジャッカルという害あるモンスターであるということに。
●煙と共にやってくる
「煙胡狼、スチームジャッカル、死体食い……呼び名はいくつもあるんだけど、共通してるのはとにかく迷惑なモンスターだってことさ」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はカフェテラスで足を組み、コーヒーカップを手に肩をすくめた。
「この近くの漁村、ニミミトモラカナクって知ってるよね? あの寂れた感じの漁村だよ。あそこに最近スチームジャッカルの集団が現われたらしい。自治体は老人ばっかりだし、青年団も組織できないしで……自由騎士の出番ってわけさ!」
スチームジャッカルは知っている者は知っている、よくいる害獣のひとつだ。
イ・ラプセルの山側で暮らすなら見たことがある者も少なくないだろう。
名前の通りイヌ科動物の特徴をもつモンスターで、前足の付け根や脇腹などの部位から骨のパイプが伸び、蒸気を噴射して加速や加熱を行なうのが特徴である。
それで大型の動物に襲いかかり、馬の足を食いちぎったり噛みついた牛を殺したりといった被害が出ることがある。
「スチームジャッカルは夜、定期的にやってくる。こっちは待ち構えて、戦えばいい。集団でやってくる筈だから、そいつらをやっつければ暫く被害は出なくなるだろう。
それじゃ、よろしく頼んだよ」
ヨアヒムはコーヒーを口につけ、あっついと言って吹き出した。
野生のシカが歩いている。
木の皮をはみ、しずかに生きるシカだ。
それがふと、ものを食べる口を止めて顔をあげた。
何かに気づいた。
闇の中。茂みのむこう。
光る目のようなものに気づいた。
その直後、ぶわりと上がる灰色の煙に気づいた。
危機を察し、走り出すシカ。
だがその走りが始まったか否かという速度で、背の低い動物がシカの足に噛みついた。
否、噛み千切った。
肉を食い破り骨を折り、シカを派手に転倒させたのだ。
すぐに同じ茂みから無数の動物が飛び出し、シカの喉に噛みつき息の根を止め、腹をさいて食べ始める。
もしモンスター知識に詳しいのであれば気づくだろう。
これがただの動物ではなく、スチームジャッカルという害あるモンスターであるということに。
●煙と共にやってくる
「煙胡狼、スチームジャッカル、死体食い……呼び名はいくつもあるんだけど、共通してるのはとにかく迷惑なモンスターだってことさ」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はカフェテラスで足を組み、コーヒーカップを手に肩をすくめた。
「この近くの漁村、ニミミトモラカナクって知ってるよね? あの寂れた感じの漁村だよ。あそこに最近スチームジャッカルの集団が現われたらしい。自治体は老人ばっかりだし、青年団も組織できないしで……自由騎士の出番ってわけさ!」
スチームジャッカルは知っている者は知っている、よくいる害獣のひとつだ。
イ・ラプセルの山側で暮らすなら見たことがある者も少なくないだろう。
名前の通りイヌ科動物の特徴をもつモンスターで、前足の付け根や脇腹などの部位から骨のパイプが伸び、蒸気を噴射して加速や加熱を行なうのが特徴である。
それで大型の動物に襲いかかり、馬の足を食いちぎったり噛みついた牛を殺したりといった被害が出ることがある。
「スチームジャッカルは夜、定期的にやってくる。こっちは待ち構えて、戦えばいい。集団でやってくる筈だから、そいつらをやっつければ暫く被害は出なくなるだろう。
それじゃ、よろしく頼んだよ」
ヨアヒムはコーヒーを口につけ、あっついと言って吹き出した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スチームジャッカル全個体の撃破
皆さん初めまして。
もしくはとってもお久しぶりです。八重紅友禅です。
なんだか長い間眠っていた気がします。
【エネミーデータ】
・スチームジャッカル
スペックは平均的ですが、一時的に命中率・反応速度・会心率を引き上げるスキルを使います。
攻撃方法は主に噛みつき。高速で迫ってガブッとやります。
基本的にすばしっこく、回避率がちょっと高めです。
数は6~10匹と言われており、その夜にやってくる個体数はその間のいくらかになるはずです。
皆さんはやってくるであろう山側の小屋で待機し、相手を確認したら飛び出してばーっと戦う流れになります。
ニミミトモラカナクの村民は穏やかで排他的と言われていますが、こちらも人気の自由騎士ですので、急に銃を向けたりするんでもなければ普通に小屋を貸したりしてくれるはずです。
戦闘する時間は夜間、そして野外になります。
近くに明かりはないので、自分で明かりになるものをその辺において戦うとよいでしょう。
もしくはとってもお久しぶりです。八重紅友禅です。
なんだか長い間眠っていた気がします。
【エネミーデータ】
・スチームジャッカル
スペックは平均的ですが、一時的に命中率・反応速度・会心率を引き上げるスキルを使います。
攻撃方法は主に噛みつき。高速で迫ってガブッとやります。
基本的にすばしっこく、回避率がちょっと高めです。
数は6~10匹と言われており、その夜にやってくる個体数はその間のいくらかになるはずです。
皆さんはやってくるであろう山側の小屋で待機し、相手を確認したら飛び出してばーっと戦う流れになります。
ニミミトモラカナクの村民は穏やかで排他的と言われていますが、こちらも人気の自由騎士ですので、急に銃を向けたりするんでもなければ普通に小屋を貸したりしてくれるはずです。
戦闘する時間は夜間、そして野外になります。
近くに明かりはないので、自分で明かりになるものをその辺において戦うとよいでしょう。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年07月25日
2018年07月25日
†メイン参加者 8人†
●ニミミトモラカナク漁村にて
馬車の座席に揺られる。未舗装の土路は転がった石や浮き出た木根に車輪が躓いて、あまり座り心地のよいものではなかった。それでも徒歩でゆくよりはずっと良い。現に『星にバナナを』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は上機嫌だった。気合い充分と言ってもいい。機械化した左手を元気よくぐーぱーしている。
「煙胡狼、スチームジャッカル……うむう、あれは我が故郷ゼッペロン村でも出没していたぞ。家畜に害をなし民草の暮らしを脅かす害獣――許しがたし!」
ぎゅっと握った機械手。
その横で、『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)はぽつりと呟いた。
「スチームジャッカルって……食べられるのかな?」
「えっ」
「多少臭みがあっても、山羊みたいに血抜きをしてカレー粉をまぶせば食べられるんじゃないかな」
「う、ううむ……?」
食べるって発想が無かったシノピリカが返答に困っていると、『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)が慣れた調子で相づちを打ち始めた。
「害獣騒ぎのことは聞いたことがあるけど、食べられないらしいよ。硬くてすごくまずいから、飢饉の時に食べたって話はあるみたいだけど……普通は捨てるしかないみたい」
「詳しいんだな?」
「教会のラジオで聞いただけ。ホンモノを見るのは初めてだよ」
イーイーは座席の背もたれによりかかり、こてんと頭を預けた。
「二人とも初めてか? おいらもなんだ。蒸気で加速するとか、ロマンがあるよなスチームジャッカル。むっふー」
『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が獣めいた鼻をすすって、グーにした手を縦に振った。
「興味深いなあ。どういう仕組みなのかなあ。ばらしてみないと……」
『船は水鳥に学べ』がどの時代の言葉だったのかは定かでないが、生き物の構造から機械工学を学ぶのはいつの時代も変わらぬものらしい。
おのおのの期待や決意をのせ、馬車は漁村……ニミミトモラカナクへと到着した。
ニミミトモラカナク漁村の雰囲気は、お世辞にも明るいものではなかった。
奇妙にしんと静まっていて、木製の窓が僅かにひらいている。ちらりとのぞき見ればあちら側から住民らしき人が覗いていて、すぐさま窓が閉じるという有様だ。
「すみません。あまり外の者が訪れぬ場所ですから。皆接し方が分からぬのでしょう」
そう語るのは面長の老人。自由騎士たちの案内を担っている人物だ。振る舞いから村で何かしらの責任を負っていそうな人物だが、村長や役場の人間というわけでもなさそうである。
村社会にはこういう『ただの顔役』みたいな人はよくいる。と、シノビリカが懐かしむように言ったものである。
「しかし、助かりました。村の者は魚をつるか魚をさばくかしかできぬものですから」
謙遜を交えて言う老人に、『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は胸を叩いて見せる。
「集団で村を襲う危険な害獣……このままにはして置けません。ボクらに任せてください」
サブロウタは礼儀正しく老人に接していた。排他的な村だけに皆遠巻きにのぞき見るだけではあったが、彼の振る舞いを見て悪印象を抱くものはいないだろう。少なくとも嫌われはしないはずだ。
こっくりと頷くたまき 聖流(CL3000283)。
「村の人々に危険が及ぶかも知れないと聞いていますし、私も自由騎士の一人として、皆さんのお手伝いをしたいです」
「ご立派なことでございます」
老人は小さく頭を下げた。
「スチームジャッカルを待つのに小屋がいるそうで……貸せる者のところへ案内いたしましょう。こちらです」
「要するにそのスチームなんとかをぶっとばしゃいいんだろ? カンタンだぜ!」
腕をぶんと振ってみせる『双盾機神』マリア・スティール(CL3000004)。
「しかしスチームなんとかに嗅ぎ回られるなんて運のねー村だなあ」
「そうでもございません。よくあることでございますから」
マリアはざっくりとものを言うが、好感のもてるさばさば系のテンションである。老人も気を悪くする様子もなく会話に応じていた。
「それも今日までだぜ! オレらオラクルが来たんだからな」
ぶんぶんと腕を振り回すマリア。
「ここが小屋でございます」
「ありがとう」
一方で、『山吹色の拳騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)は丁寧に老人に礼を言った。『彼らは守るべき民だ、その民に対して強引に迫りたくはないからね』とは彼の弁である。
「中に持ち主がおりますので……おい、おい」
老人が戸を叩くと、中から髪の長い女性が顔を出した。
「自由騎士のみなさんだ。応接なさい」
「まあ。こんなところへようこそおいでくださいました。あまり手入れのできていない小屋ですが、こんな所でよろしければ、ご自由に使ってくださいましね」
にこりと笑う女性に、アダムは直立不動で『ああ』とだけ応じた。
両サイドから覗き込むマリアと聖流。
「どーしたんだ?」
「緊張なさってるみたいです」
「へへっ、しょーがねーなー。姉ちゃん! よろしくな! 戦いでちょっと壊れちゃうかもだけど、大丈夫か?」
「使ってない場所ですから。構いませんわ」
けっこうけっこう! と、マリアはアダムの背中を叩いた。
「あ、ああ……世話になるよ……いや、なり、ます」
●夜闇とスチームジャッカル
ぷしゅんぷしゅんという奇妙な空気音。
それが複数近づいてくることを察して、アダムは立ち上がった。
小屋の持ち主という女性は『戦闘に巻き込まれてはいけないから』と一旦家に帰し、自由騎士たちだけで小屋に詰めていたところである。
皆思い思いに暇を潰していたが……。
「皆、来たようだ」
アダムが戦闘体勢を促すと、皆一様に武器を取り、小屋から飛び出した。
用意していたカンテラを滑らせるように投げてみれば、山側からスチームジャッカルの数匹が現われるのが見えた。
小屋の明かりと飛び出した複数の人間をみつけ、スチームジャッカルたちもまた警戒の構えをとっていた。
「自由騎士アダム・クランプトン! いざ参る!」
蒸気鎧装がうなりをあげ、アダムはスチームジャッカルへと突撃した。
迎撃のために飛びかかろうとしたスチームジャッカルだが、アダムが殴りつける方がいくらか早い。
初動の差で彼の拳がスチームジャッカルをとらえ、飛ばし、木の幹へと叩き付ける。
「イーちゃん火つけて、火!」
「ほら、急いで準備して」
一方でグリッツは足下にカンテラを置くと、ライフルでスチームジャッカルへと狙いをつけた。視界が確保できるようにとマッチをこすってカンテラをともすイーイー。
木製のストックを頬につけ、グリッツはアイアンサイトごしにスチームジャッカルを見た。相手もまたこちらをにらみ、肩口から薄灰色の蒸気を放ち、凄まじいロケットスタートでもって飛びかかってくる。
「グリ、気をつけて」
接近を阻んだのはイーイーの斬撃だった。開いた牙に挟み込むようにフランベルジュを打ち込むと、強引に、そして空気ごと薙ぐようにして払う。
打ち返された形になったスチームジャッカル。すかさずグリッツは引き金を引いた。撃鉄が雷管をうち、聞き慣れた破裂音と共に弾丸が銃口から放たれる。
同時に飛び出したのはシノビリカとサブロウタだ。
サブロウタは魔導書を握り、比較的安全な陣内側に下がる。
「回復はお任せくださいっ」
積極的にメセグリンとハーベストレインを使い分け、回復に専念し始める。
一方で、サブロウタたちを守るように円形の陣を築いたシノピリカは五指が銃身と化した特別な蒸気機手を握り込んだ。
「そっちがスチームジャッカルなら、こっちはスチームお姉さんじゃ!」
蒸気排出口から勢いよく蒸気を噴出すると、こちらを取り囲もうと展開するスチームジャッカルの一匹へと殴りかかった。
「うおーっ! 次鋒シノピリカ行きます!」
アダムほど景気よく先手をとれる段階ではないにしろ、こちらも充分に構えている。スチームジャッカルの噛みつきを左腕で受けながら、重々しい右腕武装で殴りつけた。
胴体を派手に打たれ、歪むようにして離れるスチームジャッカル。
「むむう、これは……」
加速しきったスチームジャッカルの牙。それが一度食い込んだシノビリカの左腕はまるではんだでも押しつけたかのように焦げ付いていた。
蒸気の熱を顎の骨にまで循環させているようだ。
「準備して、正解でした」
聖流はマジックスタッフを握って、周囲の木々や夜露に含まれる魔力を収集、変換してシノビリカの腕に残った熱をぬぐい去っていく。
「その内オレが食うかもしれない肉になる予定かもしれない牛や馬をやらせるかよ!」
小屋側へ回り込んでくるスチームジャッカルも逃すこと無く両腕を広げて通せんぼするマリア。
「スチームジャッカルの弱点はよーく知ってんだ。それはな……」
飛びかかるスチームジャッカル。
両手をガチンと合わせるようにして構えるマリア。
一度開いた両手のひらを、スチームジャッカルの両肩へと叩き付けた。
「噛みつくことしかできねーからこっちも殴りやすいってことだ!」
スチームジャッカルの攻撃が完全に殺された。
どころか空中で掴まれるような状態になり、ほぼ無防備だ。
今こそ好機。ジーニアスは白い機械剣の作動レバーを握り込んだ。
仕込んだ蒸気噴射機能が働き、彼の斬撃が加速する。
要領でいえばスチームジャッカルと同じだ。相手の肉を勢いで裂き、強引に斬り進み、しまいには熱で抜く。
血を吹いて転がるスチームジャッカルを前に、ジーニアスはもう一方の剣のレバーも握り込んだ。
「もっとよく見せてくれよな! 殺した後じゃ、生の動きは見れないんだから!」
スチームジャッカルは狡猾な動物系モンスターだ。
だが人間ほどの知性やいやらしさを持ってはいないようで、山羊の群れと同じように取り囲んで同じように喉元を狙って食らいついたまでは良かったが、相手に高い防衛能力があることはまるで想定できていないらしかった。
「噛みつきすぎだぞ! このっこのっ!」
マリアの腕に噛みついて唸るスチームジャッカル。一方のマリアはそのボディにげんこつを叩き付け続けていた。
普通なら腕を食いちぎられている所だが、マリアの腕は鉄パイプでも噛んでいるかのようにまがらない。
「仕方ないな。じっとしてて」
イーイーはそんなスチームジャッカルめがけて剣を高く振り上げ、刀身の重さと腕力の全てを使って振り下ろした。
多くの切断道具がそうであるように、スピードと重量と圧力があればものは切れる。スチームジャッカルの食べられないくらい硬い肉や蒸気噴出機能のオマケとして頑丈な骨もまた、これを続けていれば断ち切ることが出来た。
真っ二つになって転がるスチームジャッカル。
が、次の瞬間イーイーの喉元めがけてスチームジャッカルが飛びかかった。
蒸気噴射の加速による跳躍とひねり。並の反射神経では対応もままならぬが――。
「イーちゃん伏せて!」
発砲音。
横から殴られたようにねじれるスチームジャッカル。
振り向くと、銃口から硝煙をあげるグリッツの姿があった。
勿論一発撃っただけで終わりにはしない。素早くバーを操作してリロード。空薬莢が落ちるよりも早く構え直すと、地面に転がったスチームジャッカルに追撃をしかけた。
一方で、イーイーたちのラインを超えてねじ込んできたスチームジャッカルもいた。
聖流の翳した杖に噛みつき、振り回そうとしてくる。
さほど大きな身体はしていないにもかかわらず、蒸気噴射のパワーも相まって聖流の身体が押し倒されそうだ。
しかし聖流はしっかりと足を開いて力を受け止め、その間にもハーベストレインの回復空間を広げていった。
「少し我慢していてください。すぐに回復しますっ」
サブロウタが魔導書を開いて魔道医学のページを参照した。書かれているとおりに魔力を集め、癒やしの力にかえて撒いていく。
「待たせたな! これでとどめじゃ!」
サブロウタたちに襲いかかるスチームジャッカル。その首を無理矢理掴んでひっぺがすシノビリカ。
腕のあちこちから蒸気を噴射すると、フルパワーで地面に叩き付けた。
叩き付けられたスチームジャッカルは勿論、その周囲にあったスチームジャッカルたちもまとめて吹き飛んでいく。
ジーニアスが飛び込み、左右の手にそれぞれ握った剣のレバーを握り込む。吹き出る二本の蒸気。回転をかけ、スチームジャッカルを切り裂いていく。
一方でアダムが右腕の蒸気鎧装にエネルギーを充填。マックスまでため込むと手のひらが山吹色に輝いた。
「そこだ――!」
輝く掌底がスチームジャッカルへと叩き込まれ、その肉体を粉砕していく。
●やがて平和は戻りて
サブロウタが小屋へと入ってくる。
「ジーニアスは?」
「スチームジャッカルを解体したいんですって。楽しそうだったので、暫くそっとしておこかと」
「そうだね」
イーイーとグリッツは、大きく切られたツナのサンドイッチをぱくついていた。
小屋を管理しているという女性が差し入れに持ってきてくれたものである。
「こんなものしかなくてごめんなさいね。スチームジャッカルが魚を食べてしまうからって、男たちが漁を控えていますの」
「いーって、ウマイウマイ」
マリアがあーんと大きく口を開けてはツナサンドを一口で頬張っていく。
魚をなんやかんやして長期保存が可能な状態にしたもので、漁をしていない時のご飯でもあるらしかった。
ぱっと見豪華ではないが、備蓄を開放しているという意味ではこの村なりにかなり好意的なもてなしをしている……と見ていいのかもしれない。
その一方では、聖流が怪我をしたシノビリカにタオルを巻いたりギアの調子を整えたりしていた。
「……これでどうでしょうか」
「おお、いい具合じゃ。肩が軽くなったぞ」
腕を上下に振ってみせるシノビリカ。
「しかし、スチームジャッカルの根絶が難しいとなれば、定期的に巡回せねばなるまいのう」
「同感だね」
ツナサンドを受け取ったアダムが頷いた。
「とはいえ国の騎士を巡回させるには人手不足だろうから……時折顔を出してみたいね」
「うむうむ」
シノビリカはサンドイッチを頬張って、勢いよく飲み込んだ。
「平和は手ずから守らねば!」
こうして、ニミミトモラカナク漁村のスチームジャッカル被害は収まりを見せた。
この先にどんな未来がやってくるかどうかは……もしかしたら、自由騎士たち次第かもしれない。
馬車の座席に揺られる。未舗装の土路は転がった石や浮き出た木根に車輪が躓いて、あまり座り心地のよいものではなかった。それでも徒歩でゆくよりはずっと良い。現に『星にバナナを』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は上機嫌だった。気合い充分と言ってもいい。機械化した左手を元気よくぐーぱーしている。
「煙胡狼、スチームジャッカル……うむう、あれは我が故郷ゼッペロン村でも出没していたぞ。家畜に害をなし民草の暮らしを脅かす害獣――許しがたし!」
ぎゅっと握った機械手。
その横で、『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)はぽつりと呟いた。
「スチームジャッカルって……食べられるのかな?」
「えっ」
「多少臭みがあっても、山羊みたいに血抜きをしてカレー粉をまぶせば食べられるんじゃないかな」
「う、ううむ……?」
食べるって発想が無かったシノピリカが返答に困っていると、『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)が慣れた調子で相づちを打ち始めた。
「害獣騒ぎのことは聞いたことがあるけど、食べられないらしいよ。硬くてすごくまずいから、飢饉の時に食べたって話はあるみたいだけど……普通は捨てるしかないみたい」
「詳しいんだな?」
「教会のラジオで聞いただけ。ホンモノを見るのは初めてだよ」
イーイーは座席の背もたれによりかかり、こてんと頭を預けた。
「二人とも初めてか? おいらもなんだ。蒸気で加速するとか、ロマンがあるよなスチームジャッカル。むっふー」
『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が獣めいた鼻をすすって、グーにした手を縦に振った。
「興味深いなあ。どういう仕組みなのかなあ。ばらしてみないと……」
『船は水鳥に学べ』がどの時代の言葉だったのかは定かでないが、生き物の構造から機械工学を学ぶのはいつの時代も変わらぬものらしい。
おのおのの期待や決意をのせ、馬車は漁村……ニミミトモラカナクへと到着した。
ニミミトモラカナク漁村の雰囲気は、お世辞にも明るいものではなかった。
奇妙にしんと静まっていて、木製の窓が僅かにひらいている。ちらりとのぞき見ればあちら側から住民らしき人が覗いていて、すぐさま窓が閉じるという有様だ。
「すみません。あまり外の者が訪れぬ場所ですから。皆接し方が分からぬのでしょう」
そう語るのは面長の老人。自由騎士たちの案内を担っている人物だ。振る舞いから村で何かしらの責任を負っていそうな人物だが、村長や役場の人間というわけでもなさそうである。
村社会にはこういう『ただの顔役』みたいな人はよくいる。と、シノビリカが懐かしむように言ったものである。
「しかし、助かりました。村の者は魚をつるか魚をさばくかしかできぬものですから」
謙遜を交えて言う老人に、『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は胸を叩いて見せる。
「集団で村を襲う危険な害獣……このままにはして置けません。ボクらに任せてください」
サブロウタは礼儀正しく老人に接していた。排他的な村だけに皆遠巻きにのぞき見るだけではあったが、彼の振る舞いを見て悪印象を抱くものはいないだろう。少なくとも嫌われはしないはずだ。
こっくりと頷くたまき 聖流(CL3000283)。
「村の人々に危険が及ぶかも知れないと聞いていますし、私も自由騎士の一人として、皆さんのお手伝いをしたいです」
「ご立派なことでございます」
老人は小さく頭を下げた。
「スチームジャッカルを待つのに小屋がいるそうで……貸せる者のところへ案内いたしましょう。こちらです」
「要するにそのスチームなんとかをぶっとばしゃいいんだろ? カンタンだぜ!」
腕をぶんと振ってみせる『双盾機神』マリア・スティール(CL3000004)。
「しかしスチームなんとかに嗅ぎ回られるなんて運のねー村だなあ」
「そうでもございません。よくあることでございますから」
マリアはざっくりとものを言うが、好感のもてるさばさば系のテンションである。老人も気を悪くする様子もなく会話に応じていた。
「それも今日までだぜ! オレらオラクルが来たんだからな」
ぶんぶんと腕を振り回すマリア。
「ここが小屋でございます」
「ありがとう」
一方で、『山吹色の拳騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)は丁寧に老人に礼を言った。『彼らは守るべき民だ、その民に対して強引に迫りたくはないからね』とは彼の弁である。
「中に持ち主がおりますので……おい、おい」
老人が戸を叩くと、中から髪の長い女性が顔を出した。
「自由騎士のみなさんだ。応接なさい」
「まあ。こんなところへようこそおいでくださいました。あまり手入れのできていない小屋ですが、こんな所でよろしければ、ご自由に使ってくださいましね」
にこりと笑う女性に、アダムは直立不動で『ああ』とだけ応じた。
両サイドから覗き込むマリアと聖流。
「どーしたんだ?」
「緊張なさってるみたいです」
「へへっ、しょーがねーなー。姉ちゃん! よろしくな! 戦いでちょっと壊れちゃうかもだけど、大丈夫か?」
「使ってない場所ですから。構いませんわ」
けっこうけっこう! と、マリアはアダムの背中を叩いた。
「あ、ああ……世話になるよ……いや、なり、ます」
●夜闇とスチームジャッカル
ぷしゅんぷしゅんという奇妙な空気音。
それが複数近づいてくることを察して、アダムは立ち上がった。
小屋の持ち主という女性は『戦闘に巻き込まれてはいけないから』と一旦家に帰し、自由騎士たちだけで小屋に詰めていたところである。
皆思い思いに暇を潰していたが……。
「皆、来たようだ」
アダムが戦闘体勢を促すと、皆一様に武器を取り、小屋から飛び出した。
用意していたカンテラを滑らせるように投げてみれば、山側からスチームジャッカルの数匹が現われるのが見えた。
小屋の明かりと飛び出した複数の人間をみつけ、スチームジャッカルたちもまた警戒の構えをとっていた。
「自由騎士アダム・クランプトン! いざ参る!」
蒸気鎧装がうなりをあげ、アダムはスチームジャッカルへと突撃した。
迎撃のために飛びかかろうとしたスチームジャッカルだが、アダムが殴りつける方がいくらか早い。
初動の差で彼の拳がスチームジャッカルをとらえ、飛ばし、木の幹へと叩き付ける。
「イーちゃん火つけて、火!」
「ほら、急いで準備して」
一方でグリッツは足下にカンテラを置くと、ライフルでスチームジャッカルへと狙いをつけた。視界が確保できるようにとマッチをこすってカンテラをともすイーイー。
木製のストックを頬につけ、グリッツはアイアンサイトごしにスチームジャッカルを見た。相手もまたこちらをにらみ、肩口から薄灰色の蒸気を放ち、凄まじいロケットスタートでもって飛びかかってくる。
「グリ、気をつけて」
接近を阻んだのはイーイーの斬撃だった。開いた牙に挟み込むようにフランベルジュを打ち込むと、強引に、そして空気ごと薙ぐようにして払う。
打ち返された形になったスチームジャッカル。すかさずグリッツは引き金を引いた。撃鉄が雷管をうち、聞き慣れた破裂音と共に弾丸が銃口から放たれる。
同時に飛び出したのはシノビリカとサブロウタだ。
サブロウタは魔導書を握り、比較的安全な陣内側に下がる。
「回復はお任せくださいっ」
積極的にメセグリンとハーベストレインを使い分け、回復に専念し始める。
一方で、サブロウタたちを守るように円形の陣を築いたシノピリカは五指が銃身と化した特別な蒸気機手を握り込んだ。
「そっちがスチームジャッカルなら、こっちはスチームお姉さんじゃ!」
蒸気排出口から勢いよく蒸気を噴出すると、こちらを取り囲もうと展開するスチームジャッカルの一匹へと殴りかかった。
「うおーっ! 次鋒シノピリカ行きます!」
アダムほど景気よく先手をとれる段階ではないにしろ、こちらも充分に構えている。スチームジャッカルの噛みつきを左腕で受けながら、重々しい右腕武装で殴りつけた。
胴体を派手に打たれ、歪むようにして離れるスチームジャッカル。
「むむう、これは……」
加速しきったスチームジャッカルの牙。それが一度食い込んだシノビリカの左腕はまるではんだでも押しつけたかのように焦げ付いていた。
蒸気の熱を顎の骨にまで循環させているようだ。
「準備して、正解でした」
聖流はマジックスタッフを握って、周囲の木々や夜露に含まれる魔力を収集、変換してシノビリカの腕に残った熱をぬぐい去っていく。
「その内オレが食うかもしれない肉になる予定かもしれない牛や馬をやらせるかよ!」
小屋側へ回り込んでくるスチームジャッカルも逃すこと無く両腕を広げて通せんぼするマリア。
「スチームジャッカルの弱点はよーく知ってんだ。それはな……」
飛びかかるスチームジャッカル。
両手をガチンと合わせるようにして構えるマリア。
一度開いた両手のひらを、スチームジャッカルの両肩へと叩き付けた。
「噛みつくことしかできねーからこっちも殴りやすいってことだ!」
スチームジャッカルの攻撃が完全に殺された。
どころか空中で掴まれるような状態になり、ほぼ無防備だ。
今こそ好機。ジーニアスは白い機械剣の作動レバーを握り込んだ。
仕込んだ蒸気噴射機能が働き、彼の斬撃が加速する。
要領でいえばスチームジャッカルと同じだ。相手の肉を勢いで裂き、強引に斬り進み、しまいには熱で抜く。
血を吹いて転がるスチームジャッカルを前に、ジーニアスはもう一方の剣のレバーも握り込んだ。
「もっとよく見せてくれよな! 殺した後じゃ、生の動きは見れないんだから!」
スチームジャッカルは狡猾な動物系モンスターだ。
だが人間ほどの知性やいやらしさを持ってはいないようで、山羊の群れと同じように取り囲んで同じように喉元を狙って食らいついたまでは良かったが、相手に高い防衛能力があることはまるで想定できていないらしかった。
「噛みつきすぎだぞ! このっこのっ!」
マリアの腕に噛みついて唸るスチームジャッカル。一方のマリアはそのボディにげんこつを叩き付け続けていた。
普通なら腕を食いちぎられている所だが、マリアの腕は鉄パイプでも噛んでいるかのようにまがらない。
「仕方ないな。じっとしてて」
イーイーはそんなスチームジャッカルめがけて剣を高く振り上げ、刀身の重さと腕力の全てを使って振り下ろした。
多くの切断道具がそうであるように、スピードと重量と圧力があればものは切れる。スチームジャッカルの食べられないくらい硬い肉や蒸気噴出機能のオマケとして頑丈な骨もまた、これを続けていれば断ち切ることが出来た。
真っ二つになって転がるスチームジャッカル。
が、次の瞬間イーイーの喉元めがけてスチームジャッカルが飛びかかった。
蒸気噴射の加速による跳躍とひねり。並の反射神経では対応もままならぬが――。
「イーちゃん伏せて!」
発砲音。
横から殴られたようにねじれるスチームジャッカル。
振り向くと、銃口から硝煙をあげるグリッツの姿があった。
勿論一発撃っただけで終わりにはしない。素早くバーを操作してリロード。空薬莢が落ちるよりも早く構え直すと、地面に転がったスチームジャッカルに追撃をしかけた。
一方で、イーイーたちのラインを超えてねじ込んできたスチームジャッカルもいた。
聖流の翳した杖に噛みつき、振り回そうとしてくる。
さほど大きな身体はしていないにもかかわらず、蒸気噴射のパワーも相まって聖流の身体が押し倒されそうだ。
しかし聖流はしっかりと足を開いて力を受け止め、その間にもハーベストレインの回復空間を広げていった。
「少し我慢していてください。すぐに回復しますっ」
サブロウタが魔導書を開いて魔道医学のページを参照した。書かれているとおりに魔力を集め、癒やしの力にかえて撒いていく。
「待たせたな! これでとどめじゃ!」
サブロウタたちに襲いかかるスチームジャッカル。その首を無理矢理掴んでひっぺがすシノビリカ。
腕のあちこちから蒸気を噴射すると、フルパワーで地面に叩き付けた。
叩き付けられたスチームジャッカルは勿論、その周囲にあったスチームジャッカルたちもまとめて吹き飛んでいく。
ジーニアスが飛び込み、左右の手にそれぞれ握った剣のレバーを握り込む。吹き出る二本の蒸気。回転をかけ、スチームジャッカルを切り裂いていく。
一方でアダムが右腕の蒸気鎧装にエネルギーを充填。マックスまでため込むと手のひらが山吹色に輝いた。
「そこだ――!」
輝く掌底がスチームジャッカルへと叩き込まれ、その肉体を粉砕していく。
●やがて平和は戻りて
サブロウタが小屋へと入ってくる。
「ジーニアスは?」
「スチームジャッカルを解体したいんですって。楽しそうだったので、暫くそっとしておこかと」
「そうだね」
イーイーとグリッツは、大きく切られたツナのサンドイッチをぱくついていた。
小屋を管理しているという女性が差し入れに持ってきてくれたものである。
「こんなものしかなくてごめんなさいね。スチームジャッカルが魚を食べてしまうからって、男たちが漁を控えていますの」
「いーって、ウマイウマイ」
マリアがあーんと大きく口を開けてはツナサンドを一口で頬張っていく。
魚をなんやかんやして長期保存が可能な状態にしたもので、漁をしていない時のご飯でもあるらしかった。
ぱっと見豪華ではないが、備蓄を開放しているという意味ではこの村なりにかなり好意的なもてなしをしている……と見ていいのかもしれない。
その一方では、聖流が怪我をしたシノビリカにタオルを巻いたりギアの調子を整えたりしていた。
「……これでどうでしょうか」
「おお、いい具合じゃ。肩が軽くなったぞ」
腕を上下に振ってみせるシノビリカ。
「しかし、スチームジャッカルの根絶が難しいとなれば、定期的に巡回せねばなるまいのう」
「同感だね」
ツナサンドを受け取ったアダムが頷いた。
「とはいえ国の騎士を巡回させるには人手不足だろうから……時折顔を出してみたいね」
「うむうむ」
シノビリカはサンドイッチを頬張って、勢いよく飲み込んだ。
「平和は手ずから守らねば!」
こうして、ニミミトモラカナク漁村のスチームジャッカル被害は収まりを見せた。
この先にどんな未来がやってくるかどうかは……もしかしたら、自由騎士たち次第かもしれない。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
お疲れ様でした。
ブレインストーミング掲示板にて、『ニミミトモラカナク漁村で見回りをする』旨の発言を行なうことでそのPCは見回りを定期的に行なう扱いになります。以後当地で事件が起きた際いちはやく察知でき、情報を深く獲得できるでしょう。
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