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命刻む本

「ねえ、こんな話しを知っているかしら?」
そう話を切り出したのは井戸端会議を趣味としている受付嬢『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)だ。
「これ、ちょっとした噂話なんだけどね、とある作家の男がこの街にいるんだけどその男の様子がなんだか変らしいのよ。話しかけると普通で、最近上手くいっているみたいなのに顔色はだんだん悪くなっているって聞くのよね。あなた、ちょっとその男のこと調べてくれないかしら? えっ、名前? アンデ・セルンよ」
●
「はっ、はっ、はっ」
どういう事だろうか。なんだか最近息切れが酷い。
「書かなきゃ」
最近上手く行っているのだ。書くもの書くもの全てが売れ嬉しい悲鳴を上げる毎日だ。
ああ、そうだ。また願掛けに昔出版した売れなかった本に願い事を書こう。昔からの習慣だが、最近はこの本に願いを書いたことが現実になっているのだ。
【また、みんなに自分の作品が買われますように】
とあるどこにでもある一軒屋のとある一部屋で彼はまたそんな願いを書き込み命を刻んでいた。その後ろ姿を心配そうに見る彼の妻セイレ・セルンに見られながら……。
そう話を切り出したのは井戸端会議を趣味としている受付嬢『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)だ。
「これ、ちょっとした噂話なんだけどね、とある作家の男がこの街にいるんだけどその男の様子がなんだか変らしいのよ。話しかけると普通で、最近上手くいっているみたいなのに顔色はだんだん悪くなっているって聞くのよね。あなた、ちょっとその男のこと調べてくれないかしら? えっ、名前? アンデ・セルンよ」
●
「はっ、はっ、はっ」
どういう事だろうか。なんだか最近息切れが酷い。
「書かなきゃ」
最近上手く行っているのだ。書くもの書くもの全てが売れ嬉しい悲鳴を上げる毎日だ。
ああ、そうだ。また願掛けに昔出版した売れなかった本に願い事を書こう。昔からの習慣だが、最近はこの本に願いを書いたことが現実になっているのだ。
【また、みんなに自分の作品が買われますように】
とあるどこにでもある一軒屋のとある一部屋で彼はまたそんな願いを書き込み命を刻んでいた。その後ろ姿を心配そうに見る彼の妻セイレ・セルンに見られながら……。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.アンデ・セルンに本を見せてもらう
2.本を浄化する
2.本を浄化する
魔物退治。魔物退治? って感じですが、本と言うイブリースを浄化する話です。
【エネミー】
本のイブリース
書き手の命を吸い取る能力しか持たないイブリースです。
【NPC】
アンデ・セルン
だんだん売れてきた作家。自身の最初に世に出た作品である本を塗り潰す様に文字を書いていた。劣等感や絶望といった負の感情をその本に叩き込んでいたのだ。最近自身の作品が売れる様になったのがこの本のおかげであると勘違いしているため、直球で本を見せて欲しいと言っても聞かないだろう。
皆様のご参加お待ちしています。
2/27追記
情報が足りないと判断した為、以下情報の追記となります。(表現的に上記と重複している部分もございます)
エネミー:文字を書いた相手の命を削る
アンデ:家に篭りきりで、一心不乱に自身の昨日を書いている。普通に優しい人で話にも素直に応じるがエネミーの本に何かしらの力があることを感づいていて手放す様言っても聞かない。なので説得の工夫が必要です。
セイレ:アンデの妻で彼女を経由して家に連れて行かれるなり、招き入れてもらうなりすると良いでしょう。彼女は夫のアンデがやつれていく事に不信感を持っている。
【エネミー】
本のイブリース
書き手の命を吸い取る能力しか持たないイブリースです。
【NPC】
アンデ・セルン
だんだん売れてきた作家。自身の最初に世に出た作品である本を塗り潰す様に文字を書いていた。劣等感や絶望といった負の感情をその本に叩き込んでいたのだ。最近自身の作品が売れる様になったのがこの本のおかげであると勘違いしているため、直球で本を見せて欲しいと言っても聞かないだろう。
皆様のご参加お待ちしています。
2/27追記
情報が足りないと判断した為、以下情報の追記となります。(表現的に上記と重複している部分もございます)
エネミー:文字を書いた相手の命を削る
アンデ:家に篭りきりで、一心不乱に自身の昨日を書いている。普通に優しい人で話にも素直に応じるがエネミーの本に何かしらの力があることを感づいていて手放す様言っても聞かない。なので説得の工夫が必要です。
セイレ:アンデの妻で彼女を経由して家に連れて行かれるなり、招き入れてもらうなりすると良いでしょう。彼女は夫のアンデがやつれていく事に不信感を持っている。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/6
4/6
公開日
2020年03月20日
2020年03月20日
†メイン参加者 4人†
「これ……欲しいです」
そうとある人物に言ったのはノーヴェ・キャトル(CL3000638)だ。彼女はアンデ・セルンの噂を聞き本を買うに至った。そこには色々な目的があり、その手段として彼女はアンデの本を買うことに決めた。
興味が惹かれたと言うのもあるのだろう。彼の本がどんなものなのかと言う知的好奇心に揺られたと言うのもある。
だが、第一に彼女がその本を買ったのは噂に聞くアンデに元気になってもらいたいと思ったのが一番の理由だろう。
そう言う意味では彼女はその本を欲していた。
「そう、ですか。……申し訳ありませんがこれ、私も読みたい本なんです」
しかし、そんな彼女と同じようにその本を読みたい人物がいた。それが、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だ。彼女もまた、ノーヴェと同じようにアンデの噂を聞き、彼の本を知り彼を知ろうとしている人物だった。噂の出本から彼女はイブリースと関連があるのではないかと睨んでおりその調査の一環で彼の本を読んでいた。
彼女達の目的は一致しており、協力を結べる関係にあるのだが、そんな事を知らない二人は譲ろうにも譲れない事情でその本を取り合っていた。
「私、この本を……読んでもらいたい、人がいるの」
ノーヴェは途切れ途切れながらそう言うとエルシーは少し面食らった後顔を緩ませた。
「そう、そうなのね」
その笑みは昔のことを思い出してか暖かい笑みだった。
「だから、この本を……私に、ください」
「そうね、でも私はこの本を読まなければならない」
「っ……」
「だから、こうしましょう。私が読んだら今本をあなたにあげるわ」
「っ! うん、それで……いい」
「よかった。じゃあ、お金は私が出してあげる」
「っ! それは、悪い……」
「いいのよ。ちょっと困らせちゃったお詫びよ」
そう言ってエルシーはその本を手に取るとさっさと店員にお金を払いに行った。残されたノーヴェはその手際の良さに呆気にとられながらエルシーの後を追うのだった。
●
「ふんふん、面白そうじゃん! 人気作家の人気の秘密、悪魔に心を売った作家の死期は近い! ……とか?ゴシップ誌の見だしとしては及第点じゃないかな? さて、真相はいかに」
「あなたは……楽しそうですね」
「それはそうでしょ。あたしぐらいの年頃の女はそう言う話し大好きよ」
そういった女と言うには幼い見た目の女性『譎詐百端』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタインの話しを聞いてそう評した。
「あなたは……、いえやめておきましょう」
クイニィーの言葉に少し苛立ちを覚えたアンジェリカだったがここで糾弾するのをやめた。町の往来というのもあったが、人を待たせている身としてはこれ以上遅くなるわけにはいかなかったからだ。
「まあ、知ってたけどね」
アンジェリカの話しを聞き終えたクイニィーはにこりと悪戯が成功した子供のようなあどけない笑みを見せた。
「っ! クイニィー様、どういうつもりですか?」
「えー、ただどれくらいの情報を持っているかなって思っただけだよ。悪気はないよ」
ニコニコと悪いながらそう言うクイニィーに苛立ちが募ったのか一言言おうと口を開いた時だ。
「仕事だからね。下調べはちゃんとやらなきゃ」
クイニィーがそう言うと逆にアンジェリカは押し黙らざるを得なかった。『仕事』彼女にとってはこれは仕事の一環でしかないのだと言うことに気付いたからだ。アンデと言う男自身にはあまり興味を抱いていない。それがわかったからだ。彼女に何を言っても無駄だろう。そう思ったのだ。
「……そうですか。では、あなたもアンデ様のお話しを聞いて?」
「そう。面白そうだから行ってみようと思ったわけ」
「そう、ですか」
「そうそう。で、あなたのお連れさんとはどこで会えるのかな?」
「もう少し言った先ですよ。そろそろ見えてくるはずです。……あっ、いまし──」
「へー、彼女達がそうなの?」
「あっ、いえ、赤髪の方だけのはずだったのですが……」
「そうなんだ」
クイニィーは興味なさげにそう言った。
●
道中、彼女ノーヴェが一緒に来た経緯を聞きながら彼女達はアンデ・セルンの家を目指していた。
「それは、彼女が本を読んで欲しい相手がそれを書いたアンデ・セルン様で、自由騎士。で、あなたはそれを知って連れて来たと言うわけですか」
「そうなのよ」
「そうですか」
「それより、そっちも知らない少女をを連れて来ているけど貴方が呼んだの?」
「いいえ、偶然あったのよ」
「へー、偶然……ね」
エルシーはその偶然というものに作為的なものを感じながら今回は流すことにした。
そんな会話をしながら歩いていると、彼女達はアンデ・セルンの家に着いた。
アンジェリカは一番前に出て扉をノックした。
コンコン。
ノックの音を聞いてセイレ・セルンは扉を開いた。
「はい、どなたですか? ……!」
彼女が扉を開いて目にしたのはそれぞれ特徴的な四人の自由騎士達だった。
「こんにちは、ここはアンデ・セルン様のお宅で間違いないでしょうか?」
そう言ったのはアンジェリカだ。彼女はニコニコと笑っている。
「え、ええ……。えっと、あの、自由騎士の方々がいったい家になんの御用でしょうか?」
アンデ・セルンは四人の自由騎士の顔を見ながら何とか笑みを浮かべたもののその笑みは驚きか緊張で引きつっているのが見てとれた。
「ええ、こちらの家の主人アンデ・セルン様の噂を耳にしまして、こちらに立ち寄った次第です」
「うわさ……噂、と申しますと?」
「貴方のご主人の体調が日に日に悪くなっているって話しを聞いて来たのです」
アンジェリカの横に立つ赤い髪をしたエルシーは戸惑っている彼女に笑みを向けながらそう言った。
「何でも、アンデが日に日にやつれて行くって言うじゃない。なら、何かあったんじゃないかと思ってここに来た訳」
『譎詐百端』クイニィーは興味津々と言った様子だ。
「た、確かにそうですが、それが貴方達に何の関係が? ……いえ、目的は何ですか?」
セイレは訝しげにそう尋ねた。突然自由騎士ですと言って尋ねた来た者達をすぐに信じられる訳がなかったからだ。
もしかしたら、詐欺かも知れないと彼女は思った。
「目的…は…沢山…かも…」
「沢山? 何をするつも……あなた、それは」
ノーヴェが言った言葉にセイレはますます彼女等を怪しく思い始めた時だ。セイレはノーヴェの持つ本を見て表情を変えた。
「これ……?」
「それは、彼が初めて出版した本……」
「私……これを……アンデに読んでほしい……私、は……これ、読めないから。読んでもらいたい」
ノーヴェの言葉を聞いたセイレは目を丸くした。驚いたと言っても良いだろう。彼女は口をパクパク開閉させている。言いたいことが分からなくなっていると言う様子だ。
「……それと、気がかりなことが一つ、彼がイブリースに脅かされているかもしれないと思いここに訪れたのです」
ノーヴェの一つの目的に苦笑いを溢した後アンジェリカはセイレに向かってそう言った。
「イブ、リース……?」
「はい、もしそうならアンデ様は危険な状態です」
「そう、ですか……」
セイレは少しばかり考えてから、決めた。
「ではどうぞお入りください」
●
「君たちは誰だ?」
アンデは自身の書室に入って来た四人を見てそう言った。
「私はアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン」
「エルシー・スカーレット」
「ノーヴェ・キャトル」
「そして、あたしがクイニィー・アルジェント。よろしくアンデ。それよりさ、息切れがするようになったのはいつ頃から? 最近楽しいと感じたことは? お話を書くのに気をつけていることは? 自分の過去作を読み返すことは? 自分が黒く塗り潰されていると感じることは? 大切にしているものがあったりします?」
クイニィーは矢継ぎ早に質問を繰り出す。
「な、何だね?」
「良いから、答えて。息切れがするようになったのはいつ頃から?」
「……最近だ」
アンデは少し考えた後質問に答えることにした。
「最近楽しいと感じたことは?」
「そう、だな。書き物をしている時だ」
「お話を書くのに気をつけていることは?」
「誤字脱字だ」
「大切にしているものがあったりします?」
「っ! そ、それは……」
声をつまらせ、アンデはチラリと願いを書くことにしている本を見た。
クイニィーはその本が目当てのものであると言うことに当たりを付け、他の三人もそれに気付いた。
「私達は自由騎士です。そちらの本を見せていただけませんか?」
エルシーはそう言った。
「……ダメだ」
「何故?」
「……これは、本当に大事なものなんだ」
アンデはエルシーの言葉にそう返した。
「……」
頑なに離そうとしないアンデにこれはますますその本が怪しいと思ったが、アンデはその本を渡そうともしない。これはどうしようかと思っていると、ノーヴェがアンデの近くに寄って自身で買って来た彼が持っている本と同じ本を見せてこう言った。
「よん、で」
「……これは!」
「私、読めない……から、読んで」
「……いや、しかし……」
「だめ?」
「……」
黙り込んだアンデにエルシーが語りかける。
「あんたの作品、全部読んだよ」
「っ!」
「面白いものもあり、つまらないものもあったわ。けど、温かいものを貴方の作品に感じたわ」
「……」
「優しい本達だった」
「……そうか」
アンデはチラリと自身が願いを書き込んだ本を見た。
「ボロボロ、の本…を見る…と…「大切」が…「分かる」…って、セーイが…言ってた…」
「っ!」
「…この、本…が…アンデの…いちばん「大切」…な…本…?」
「……ああ、当時の情熱を注いだ大事な本だ」
アンデは、その本を撫でながらそう言った。
「君達は何故この本を?」
「イブリースに関係しているかもしれないからです」
アンジェリカはそう言った。
「……そうか」
アンデは本をじっと見ていたかと思うとおもむろに本を差し出した。
「じゃあ、見てくれ」
「わかりました」
アンジェリカはその本を手に取った。一目でこの本がイブリースであることがわかった。
「イブリースです」
「……そうか」
アンデは悲しげな顔でそれに頷いた。
「じゃあ、浄化ね」
エルシーはその本に触れると本のイブリースはたちまちに浄化された。
「僕は、その本で一度挫折した。ダメなんだと思った。でも書きたくて、その本に不安を押し付けた。劣等感を拭い去りたくなった。だけど、うん、『あたたかい』そう言って貰えて目が覚めたよ。ありがとう」
「ちゃんとフィードバックして次回作に生かしてほしいね」
その礼にクイニィーはそう言った。
「はっはっ、これは手厳しい」
アンデはその言葉に朗らかに笑った。その顔にはやる気が満ち溢れていた。
●
彼はその後も多くの本を出し多くの人々の感情を揺さぶった。
時には泣き、時には笑い、時には心を暖かくして見せた。
そんな彼の所に通う少女達がいた。
彼女達は彼のもとへ訪れ、彼の新作を読ませてもらいながら楽しい時間を過ごした。
彼は後々も幸せに暮らし、多くの本を世に出したのだった。
そうとある人物に言ったのはノーヴェ・キャトル(CL3000638)だ。彼女はアンデ・セルンの噂を聞き本を買うに至った。そこには色々な目的があり、その手段として彼女はアンデの本を買うことに決めた。
興味が惹かれたと言うのもあるのだろう。彼の本がどんなものなのかと言う知的好奇心に揺られたと言うのもある。
だが、第一に彼女がその本を買ったのは噂に聞くアンデに元気になってもらいたいと思ったのが一番の理由だろう。
そう言う意味では彼女はその本を欲していた。
「そう、ですか。……申し訳ありませんがこれ、私も読みたい本なんです」
しかし、そんな彼女と同じようにその本を読みたい人物がいた。それが、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だ。彼女もまた、ノーヴェと同じようにアンデの噂を聞き、彼の本を知り彼を知ろうとしている人物だった。噂の出本から彼女はイブリースと関連があるのではないかと睨んでおりその調査の一環で彼の本を読んでいた。
彼女達の目的は一致しており、協力を結べる関係にあるのだが、そんな事を知らない二人は譲ろうにも譲れない事情でその本を取り合っていた。
「私、この本を……読んでもらいたい、人がいるの」
ノーヴェは途切れ途切れながらそう言うとエルシーは少し面食らった後顔を緩ませた。
「そう、そうなのね」
その笑みは昔のことを思い出してか暖かい笑みだった。
「だから、この本を……私に、ください」
「そうね、でも私はこの本を読まなければならない」
「っ……」
「だから、こうしましょう。私が読んだら今本をあなたにあげるわ」
「っ! うん、それで……いい」
「よかった。じゃあ、お金は私が出してあげる」
「っ! それは、悪い……」
「いいのよ。ちょっと困らせちゃったお詫びよ」
そう言ってエルシーはその本を手に取るとさっさと店員にお金を払いに行った。残されたノーヴェはその手際の良さに呆気にとられながらエルシーの後を追うのだった。
●
「ふんふん、面白そうじゃん! 人気作家の人気の秘密、悪魔に心を売った作家の死期は近い! ……とか?ゴシップ誌の見だしとしては及第点じゃないかな? さて、真相はいかに」
「あなたは……楽しそうですね」
「それはそうでしょ。あたしぐらいの年頃の女はそう言う話し大好きよ」
そういった女と言うには幼い見た目の女性『譎詐百端』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタインの話しを聞いてそう評した。
「あなたは……、いえやめておきましょう」
クイニィーの言葉に少し苛立ちを覚えたアンジェリカだったがここで糾弾するのをやめた。町の往来というのもあったが、人を待たせている身としてはこれ以上遅くなるわけにはいかなかったからだ。
「まあ、知ってたけどね」
アンジェリカの話しを聞き終えたクイニィーはにこりと悪戯が成功した子供のようなあどけない笑みを見せた。
「っ! クイニィー様、どういうつもりですか?」
「えー、ただどれくらいの情報を持っているかなって思っただけだよ。悪気はないよ」
ニコニコと悪いながらそう言うクイニィーに苛立ちが募ったのか一言言おうと口を開いた時だ。
「仕事だからね。下調べはちゃんとやらなきゃ」
クイニィーがそう言うと逆にアンジェリカは押し黙らざるを得なかった。『仕事』彼女にとってはこれは仕事の一環でしかないのだと言うことに気付いたからだ。アンデと言う男自身にはあまり興味を抱いていない。それがわかったからだ。彼女に何を言っても無駄だろう。そう思ったのだ。
「……そうですか。では、あなたもアンデ様のお話しを聞いて?」
「そう。面白そうだから行ってみようと思ったわけ」
「そう、ですか」
「そうそう。で、あなたのお連れさんとはどこで会えるのかな?」
「もう少し言った先ですよ。そろそろ見えてくるはずです。……あっ、いまし──」
「へー、彼女達がそうなの?」
「あっ、いえ、赤髪の方だけのはずだったのですが……」
「そうなんだ」
クイニィーは興味なさげにそう言った。
●
道中、彼女ノーヴェが一緒に来た経緯を聞きながら彼女達はアンデ・セルンの家を目指していた。
「それは、彼女が本を読んで欲しい相手がそれを書いたアンデ・セルン様で、自由騎士。で、あなたはそれを知って連れて来たと言うわけですか」
「そうなのよ」
「そうですか」
「それより、そっちも知らない少女をを連れて来ているけど貴方が呼んだの?」
「いいえ、偶然あったのよ」
「へー、偶然……ね」
エルシーはその偶然というものに作為的なものを感じながら今回は流すことにした。
そんな会話をしながら歩いていると、彼女達はアンデ・セルンの家に着いた。
アンジェリカは一番前に出て扉をノックした。
コンコン。
ノックの音を聞いてセイレ・セルンは扉を開いた。
「はい、どなたですか? ……!」
彼女が扉を開いて目にしたのはそれぞれ特徴的な四人の自由騎士達だった。
「こんにちは、ここはアンデ・セルン様のお宅で間違いないでしょうか?」
そう言ったのはアンジェリカだ。彼女はニコニコと笑っている。
「え、ええ……。えっと、あの、自由騎士の方々がいったい家になんの御用でしょうか?」
アンデ・セルンは四人の自由騎士の顔を見ながら何とか笑みを浮かべたもののその笑みは驚きか緊張で引きつっているのが見てとれた。
「ええ、こちらの家の主人アンデ・セルン様の噂を耳にしまして、こちらに立ち寄った次第です」
「うわさ……噂、と申しますと?」
「貴方のご主人の体調が日に日に悪くなっているって話しを聞いて来たのです」
アンジェリカの横に立つ赤い髪をしたエルシーは戸惑っている彼女に笑みを向けながらそう言った。
「何でも、アンデが日に日にやつれて行くって言うじゃない。なら、何かあったんじゃないかと思ってここに来た訳」
『譎詐百端』クイニィーは興味津々と言った様子だ。
「た、確かにそうですが、それが貴方達に何の関係が? ……いえ、目的は何ですか?」
セイレは訝しげにそう尋ねた。突然自由騎士ですと言って尋ねた来た者達をすぐに信じられる訳がなかったからだ。
もしかしたら、詐欺かも知れないと彼女は思った。
「目的…は…沢山…かも…」
「沢山? 何をするつも……あなた、それは」
ノーヴェが言った言葉にセイレはますます彼女等を怪しく思い始めた時だ。セイレはノーヴェの持つ本を見て表情を変えた。
「これ……?」
「それは、彼が初めて出版した本……」
「私……これを……アンデに読んでほしい……私、は……これ、読めないから。読んでもらいたい」
ノーヴェの言葉を聞いたセイレは目を丸くした。驚いたと言っても良いだろう。彼女は口をパクパク開閉させている。言いたいことが分からなくなっていると言う様子だ。
「……それと、気がかりなことが一つ、彼がイブリースに脅かされているかもしれないと思いここに訪れたのです」
ノーヴェの一つの目的に苦笑いを溢した後アンジェリカはセイレに向かってそう言った。
「イブ、リース……?」
「はい、もしそうならアンデ様は危険な状態です」
「そう、ですか……」
セイレは少しばかり考えてから、決めた。
「ではどうぞお入りください」
●
「君たちは誰だ?」
アンデは自身の書室に入って来た四人を見てそう言った。
「私はアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン」
「エルシー・スカーレット」
「ノーヴェ・キャトル」
「そして、あたしがクイニィー・アルジェント。よろしくアンデ。それよりさ、息切れがするようになったのはいつ頃から? 最近楽しいと感じたことは? お話を書くのに気をつけていることは? 自分の過去作を読み返すことは? 自分が黒く塗り潰されていると感じることは? 大切にしているものがあったりします?」
クイニィーは矢継ぎ早に質問を繰り出す。
「な、何だね?」
「良いから、答えて。息切れがするようになったのはいつ頃から?」
「……最近だ」
アンデは少し考えた後質問に答えることにした。
「最近楽しいと感じたことは?」
「そう、だな。書き物をしている時だ」
「お話を書くのに気をつけていることは?」
「誤字脱字だ」
「大切にしているものがあったりします?」
「っ! そ、それは……」
声をつまらせ、アンデはチラリと願いを書くことにしている本を見た。
クイニィーはその本が目当てのものであると言うことに当たりを付け、他の三人もそれに気付いた。
「私達は自由騎士です。そちらの本を見せていただけませんか?」
エルシーはそう言った。
「……ダメだ」
「何故?」
「……これは、本当に大事なものなんだ」
アンデはエルシーの言葉にそう返した。
「……」
頑なに離そうとしないアンデにこれはますますその本が怪しいと思ったが、アンデはその本を渡そうともしない。これはどうしようかと思っていると、ノーヴェがアンデの近くに寄って自身で買って来た彼が持っている本と同じ本を見せてこう言った。
「よん、で」
「……これは!」
「私、読めない……から、読んで」
「……いや、しかし……」
「だめ?」
「……」
黙り込んだアンデにエルシーが語りかける。
「あんたの作品、全部読んだよ」
「っ!」
「面白いものもあり、つまらないものもあったわ。けど、温かいものを貴方の作品に感じたわ」
「……」
「優しい本達だった」
「……そうか」
アンデはチラリと自身が願いを書き込んだ本を見た。
「ボロボロ、の本…を見る…と…「大切」が…「分かる」…って、セーイが…言ってた…」
「っ!」
「…この、本…が…アンデの…いちばん「大切」…な…本…?」
「……ああ、当時の情熱を注いだ大事な本だ」
アンデは、その本を撫でながらそう言った。
「君達は何故この本を?」
「イブリースに関係しているかもしれないからです」
アンジェリカはそう言った。
「……そうか」
アンデは本をじっと見ていたかと思うとおもむろに本を差し出した。
「じゃあ、見てくれ」
「わかりました」
アンジェリカはその本を手に取った。一目でこの本がイブリースであることがわかった。
「イブリースです」
「……そうか」
アンデは悲しげな顔でそれに頷いた。
「じゃあ、浄化ね」
エルシーはその本に触れると本のイブリースはたちまちに浄化された。
「僕は、その本で一度挫折した。ダメなんだと思った。でも書きたくて、その本に不安を押し付けた。劣等感を拭い去りたくなった。だけど、うん、『あたたかい』そう言って貰えて目が覚めたよ。ありがとう」
「ちゃんとフィードバックして次回作に生かしてほしいね」
その礼にクイニィーはそう言った。
「はっはっ、これは手厳しい」
アンデはその言葉に朗らかに笑った。その顔にはやる気が満ち溢れていた。
●
彼はその後も多くの本を出し多くの人々の感情を揺さぶった。
時には泣き、時には笑い、時には心を暖かくして見せた。
そんな彼の所に通う少女達がいた。
彼女達は彼のもとへ訪れ、彼の新作を読ませてもらいながら楽しい時間を過ごした。
彼は後々も幸せに暮らし、多くの本を世に出したのだった。