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怪盗ロマンス。或いは、真夜中のスペクター…



●怪盗
 闇に紛れて駆け抜ける。
 今宵もまた、彼は髑髏の面を被って、黒装束に身を包む。
 きっかけは、些細なことだった。
 彼の友人から金を奪ったチンピラから、奪われた金をとり返し気づかれぬよう友人に返した。
 友人は、名も知れぬ誰かに感謝した。
 彼はそれを、素知らぬ顔で聞いていた。
 次は近所に住む老人だった。骨董品収集を趣味とするその老人から、家宝の壺をだまし取った商人がいた。
 彼はその夜、商人宅に忍び込み壺を盗み出した。
 老人は彼に感謝した。
 だからこそ、彼にとって“悪人からの窃盗”は正義なのである。
 それから十数年。
 今夜も彼は盗み続ける。
 悪人……少なくとも、彼がそう判断した相手……から金品や貴重品を盗み、元の持ち主に返したり、極貧に喘ぐ人々に配って回った。
 感謝のために、正義のために……そして、誰も自分を捕らえられないという快感を味わうために。
「さぁ、行こうか」
 黒いフードを深く被って、彼は空へと舞い上がる。
 真夜中に現れ、いかなる場所にも忍び込む。
 まるで影か幻のごとく……いつしか彼は“スペクター”とそう呼ばれるようになっていた。

●正義の名のもとに
「なんて、いろいろ言っているけどね……要するに彼は愉快犯って奴なわけよ」
 と、そう言って『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はため息を零す。
 他国との戦争や、イブリースの討伐だけが自由騎士の仕事ではない。
 むしろ、国内で起きるトラブルこそその根は深いのかもしれない。
 戦争が終わっても、イブリースが現れなくなっても、国内の犯罪者はきっと存在し続ける。
「今のところ、人を殺していないだけが救いかしら? でも、装備を見るにきっかけさえあれば、彼はきっと人を殺すわ」
 何しろ捕まってしまっては、彼の愛する“正義”を行使できないのだから。
「とはいえ、少々厄介なのも確かなのよね。少なくとも、街中で彼……スペクターを捕らえることは不可能に近いわ」
 街の立地を知り尽くし、素早く身軽に宙を駆けるスペクターにとって、家屋の並ぶ街中などは庭のようなものだろう。
 そこで、バーバラは考えた。
「ちょうどね、町の外れの方に今は誰も住んでいない屋敷があるの」
 広い敷地に立ち並ぶ大きな屋敷が1つと、小さな家屋が4つ、物置小屋が2つ、見張り塔が1つ。
 とある富豪の所有する屋敷であり、それをバーバラが借り受けた形になる。
 屋敷の周辺には民家が無いので、スペクターも屋根伝いに逃げるという特技を活かしきれない。
「屋敷には、犯罪組織の溜め込んだ大量のお金が隠されている……そういう噂を流したわ」
 スペクターの性格からして、きっと盗みに入るだろう。
 少なくとも、水鏡の予想ではそう出ていた。
「実際にお金は隠したけれどね、まぁ件の富豪が正規の手段で稼いだものよ」
 つまり、今回の自由騎士たちの任務は「富豪の財産を守ること」と「スペクターを捕縛すること」の2つとなる。
「お金は塔の最上階。スペクターが着ている黒装束には【グラビティ耐性】【スロウ耐性】【パラライズ耐性】が付与されているわ」
 状態異常によって速度を低下させるには、まずは黒装束を破損させる必要がある。
 また【ポイズン2】を付与するかぎ爪や投げナイフを装備しているようだ。
「素早い動きと手数で翻弄するタイプね。戦闘よりも逃げる方が得意みたいだけど」
 迅速に決着をつけることをおすすめするわ、と。
 そう言ってバーバラ、仲間たちを送り出す。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
病み月
■成功条件
1.スペクターの捕縛
2.財産の護衛
●ターゲット
スペクター(ノウブル)×1
【重耐】【鈍耐】【痺耐】
黒装束に髑髏の仮面を被った怪盗。
素早く、身軽な動きが特徴。
装備しているかぎ爪を使って壁を昇る程度のことは平然とこなす。
彼は幼いころの体験から“悪人からの窃盗”は“正義”であると考えている。
だが今は、正義を執行する快感によった単なる盗人になりかけているようだ。

・正義の爪[攻撃] A:物近単【ポイズン2】
毒の塗られたかぎ爪による攻撃。

・正義の弾丸[攻撃] A:物遠範【ポイズン2】
毒の塗られた投げナイフを複数放つ範囲攻撃。

※どちらの攻撃も移動しながらの行使が可能。


●場所
とある富豪の屋敷。
球技場ほどの広い敷地。
周囲は背の高い塀で囲まれており、いかにスペクターといえど侵入は容易ではない。
中央に屋敷。
屋敷の傍に5階建ての塔。
塀の近くには、4つの家屋が点在している。
また、屋敷の裏手には2つ、物置小屋がある。
屋敷を中心に、東西南北に出入口がある。
どのルートでスペクターが侵入してくるか不明だが、目的地は塔となるだろう。
また、侵入経路が分かればスペクターの逃走経路も割り出せるかもしれない。
背の高い塀を超えるには、何等かの仕掛けか手段が必要だろうから。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2020年05月15日

†メイン参加者 4人†




 黒装束に髑髏の仮面。夜闇に紛れ、かぎ爪を壁に突き立てる。
 身のこなしと、腕の力だけで黒衣の男……スペクターは見張り塔を這いあがる。
 ここはとある富豪の屋敷。
 その傍にそびえる5階建ての塔に、ある犯罪組織の集めた大金が隠されているという噂を聞きつけ、スペクターは今宵、屋敷に盗みに入った。
 屋敷には明かりが付いているが、人の気配は希薄であった。おそらくは、誰もスペクターの侵入に気付いていないのだろう。
 いつものことだ。
 犯罪者の金を盗み、街の住人達にばらまき配る。
 そのためにスペクターは、夜ごと盗みを働いているのだ。彼にとって、それが「正義」なのだから。
「……容易い」
 あっという間に塔の5階へたどり着き、スペクターはそう告げた。
 音もなく窓を押し開けて、部屋の中へと転がり込んだ。仮面の下で視線を巡らす。部屋の隅に置かれた金庫……おそらくその中に大金が詰まっているのだろう。
 スペクターは解錠の技も備えている。これまでだって、星の数ほどの金庫や錠を開けてきた。今回もそうなるはずだ……口の端をにぃと吊り上げ、彼は笑った。
 その直後……。
「おぉ、来たか。待ちくたびれたぞ、スペクター」
 なんて、言って。
 扉の影から『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)が現れた。

「まぁ、気持ちはわからんでもないがな。いつの世でも、どの国でも、弱者が強者や悪人に苦しめられている事に変わりはない」
 世知辛いのぅ、と天輝はそう告げて、手にしたひょうたんに口を寄せる。
 ひょうたんの中身は酒である。酒を一息に喉へ流し込み、ひっくと小さく喉を震わす。
 そんな天輝の背後から、ひょこりと顔を覗かせたのはノーヴェ・キャトル(CL3000638)である。
「ここに、来ると……思った。塔の……一番……上……。宝物……が、ある……ところ」
 その両手には奇妙に湾曲した剣とナイフが握られている。
 戦闘態勢は既に万全。それを見て、スペクターはかぎ爪を構えた。
 
 スペクターの後方、空中を舞う『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)がくすりと小さな笑みをこぼした。
「残念ながら、貴方の動向はすべて筒抜けなのですわ」
 スペクターがワイヤーロープを使い塀を乗り越えたその瞬間から、彼の行動はレオンティーナに見張られていた。
 彼女は逐一、マキナギアで仲間へスペクターの現在地を報告していたのである。おかげで、塔に控えていた天輝とノーヴェも、スペクターがどういうルートで移動していたのかを知っている。
 加えて言うなら、スペクターが侵入に使用し、そして脱出時のために残していたであろうワイヤーロープも、庭に隠れていたセーイ・キャトル(CL3000639)によって回収済みだ。
「さすがに空は飛べないでしょうから……セーイさんは、そのまま庭で待機していてくださいな」
『了解。レオンティーナさんも、気を付けてね』
 マキナギア越しにセーイの返答。
 それと共に、庭の一角から空中を舞うレオンティーナへ向けて【アステリズム】が行使された。
 セーイによる支援だ。レオンティーナは身体に力が満ちるのを感じる。
そうして彼女は、翼を大きく羽ばたかせ、鉄塔へ向け飛翔した。


 よたりよたりと、おぼつかない足取りで、けれど着実に天輝はスペクターとの距離を詰めていく。
 投げられたナイフを紙一重で回避し、ついでとばかりにひょうたんから酒を呷った。
 ふざけた態度だ……けれど、スペクターは努めて怒りを押し留め、冷静に天輝の動きを観察する。
 おぼつかない足取り。とろんとした眼差し。吐息に混じる酒精は、まさしく酔っ払いのそれである。けれど、その動きには確かな意思が感じられた。
「まさか……酒に酔うことで技や動きが冴えるのか?」
 信じられない、と。
 自身の予想を確かめるべく、スペクターはナイフを放る。
「っとと。牽制か? 余の隙を突いて逃げるつもりではあるまいな? じゃが、余は鬼ごっこは得意じゃぞ? なにしろ、オニヒトじゃからのう」
 ぬるりと流れるような動作で、天輝の手が泳ぐ。
 その指先に挟み込まれたナイフを一瞥し、天輝はつまらなそうにそれを背後へと捨てる。
「毒などとは姑息な。つまらぬのう。さっさと任務を片付けて、つまみの旨い店に繰り出したいところよ」
 ふん、と酒精の混じった吐息を吐き出す天輝の背後にノーヴェが寄った。
 その小さな手で、天輝の袖を引き彼女は視線をスペクターへと向ける。
「お仕事……終わらせ、ないと……だめ。目的は……スペクターを……捕まえる、こと」
 両手に武器を携えたまま、ノーヴェはしきりに周囲へと視線を巡らせていた。
 スペクターの動向はもちろん、天輝や、外にいるレオンティーナ、果ては地上のセーイの動きにも気を配り、上手く連携を取るためだ。
 彼女の持つスキル【未来視】により5秒先の未来を覗けることもあり、今のところはこうして天輝の背後で待機するに留まっているに過ぎない。
 もしも、スペクターが逃走を図る素振りを見せれば……。
「逃が、さ……ない……よ」
 カタールを構え、ノーヴェは姿勢を低くする。
 下半身に力を込めて、来るべき瞬間に備えるのであった。

 一定の距離を挟んで対峙するスペクターと天輝&ノーヴェ。
 しばしの沈黙。
 互いに動き出すきっかけを探っている状態だ。
 ある種の保たれた均衡。それを崩したのは、突如としてスペクターの背後に舞い降りたレオンティーナの登場であった。
「回復が必要ないのなら……攻撃に参加いたしますわ」
 引き絞った弓から放たれる魔力の矢。
 スペクターは、かぎ爪を振るいそれを弾いた。
 弾かれた矢が天井に逸れ、ランプを粉々に打ち砕く。
 室内に舞い散るガラスの破片。
 そして落ちる、宵闇の帳……。
 その一瞬、天輝とレオンティーナはスペクターの姿を見失った。
 その場で動けたのは2人だけ。  
 逃走すべく、割れた窓ガラスから空中へと跳び出したスペクターと、その後を追うノーヴェのみ。
 ノーヴェの覗いた5秒先の未来と、まったく同じスペクターの行動。
 知っていれば、後は対処するだけだ。
 床を蹴って、ノーヴェは駆けた。一瞬でトップスピードに加速する。
「きゃっ!?」
 レオンティーナの真横を一迅の風となって駆け抜ける。
 風圧でスカートがなびき、レオンティーナは悲鳴を上げた。
「今のは……ノーヴェさ、ん……え?」
 背後を振り返ったレオンティーナは、思わず我が目を疑った。
 窓から跳び出し、屋敷の屋根に向けてワイヤーロープを投擲するスペクター。
 そんな彼を追って、命綱もなしに空中を舞うノーヴェの姿。
「え、えぇっ!?」
「いかん! 追うのじゃ、レオンティーナ!」
 現状を理解すると同時に、天輝は怒鳴るように指示を出す。
 飛行能力を持たない彼女では、空中に跳び出したノーヴェを救助することはできない。
 ならば……。
「わかっていますわ」
 翼を広げ、レオンティーナはノーヴェを追って飛び出した。

 ワイヤーロープを屋敷の屋根にかけ、振り子のようにスペクターは跳んだ。 
 屋根伝いに移動する、彼の基本スタイルだ。
 いつだってこれで逃げられた。騎士も警官も、スペクターを追っては来られない。人はそもそも高所での行動に不慣れであるうえ、騎士などの重武装ではスペクターほどの身軽な動きは不可能だからだ。
 だが、今回は違った……。
「……沢山……大きく、切る」
 ノーヴェだ。スペクターの後を追って、身一つで空中に踊り出したのである。
 そして、一閃。
 振り抜かれたカタールが、スペクターの背を斬り裂いた。
 否、正確に言うなら斬り裂いたのは黒衣である。
「何を……貴様、落ちるぞ」
 痛みをこらえ、ギリギリのところでスペクターはロープを握った手に力を籠める。
 重力に引かれ、地上へ落下するノーヴェ。
 それを後目に、スペクターは屋敷の屋根に着地した。

 実のところ、ノーヴェは何も捨て身でスペクターへ襲撃をかけたわけではないのだ。
 空中にはレオンティーナ、地上にはセーイが控えている。彼女たちなら、きっと自分を助けてくれると、そういう確信があったのである。
 事実……。
「ぎ、ギリギリですわ」
 ノーヴェが地面にぶつかる寸前、急下降をきめたレオンティーナが、掬うように彼女の身体を抱きとめた。

 ノーヴェの無事を確認し、セーイは屋敷へと駆ける。
 その手に握った宝杖を屋根の上のスペクターへと差し向けて、魔力の弾丸を練り上げた。
 杖の先端に灯る青い光。
 冷気を放つそれは、氷の魔弾だ。
「アンタは、元から“人助けの為”なんかじゃない……! 最初から全部「自己満足の為だけ」に、そういう行動を起こしただけだ!!」
 ひゅおん、と空気を切り裂く音。
 魔弾が宙を疾駆する。スペクターの足元に着弾した氷の魔弾は、屋根の一部を凍結させるが、それよりも早くスペクターは身を翻し、屋根の上から跳び下りた。
 ことここに至って、今更塔に隠された大金を奪うつもりはないようだ。
 牽制のために投げつけられた数本のナイフを、セーイは杖で払いのける。
「第一に泥棒は泥棒だ! “スペクター”なんかになる前に、そんな大事な情報を掴んでたんなら、国防騎士とかに相談に行けば良かっただろ!」
 そうセーイは言葉を投げる。
 だが、しかし……。
「決定的な証拠はなく、我らは力のない小市民! 騎士に相談したとして、権力に揉み消されない保証がどこにある! 欲しければ奪う、それしかないのだ!」
 そうしなければ、自分の思う“正義”を執行することはできなかったから。
 その想いが、彼を黒衣の怪盗“スペクター”へと変えたのである。 
 スペクターの行動は、確かに“誰か”を救ったのだろう。今だって“誰か”たちには感謝されていることだろう。
 けれど、それと同様に彼を恨んでいる者もいる。
 盗人である事実に変わりはない。そして、強奪は罪であり、裁かれるべき行いだ。
「貴様らが何者かは知らないが、行使する力は本物だ……その力を、人に向けて振るうこともあるだろう。戦争に出たこともあるんじゃないか? そこで命を奪ったことはないか? 殺生は罪だ。俺とどう違う!」
「ぐ……それは、確かに……絶対相手を傷つける俺達が言えた事じゃないと……思う、けど」
 ほんの一瞬。
 スペクターの言葉を聞いて、セーイは表情を強張らせた。
 自身の振るう力で人を傷つけたこともある。
 今回だって、既にスペクターはノーヴェや天輝の手により、それなりに大きな傷を負っているではないか。
 そのような思いが、セーイの集中をかき乱す。
 その刹那。
「動揺するか……なるほど。貴様は貴様なりに“正義”の在り方を思案しているのだな」
 青いな、と。
 呟くように、そう告げて。
 セーイの真横をスペクターが駆け抜ける。
「う……ぐ」
 セーイの脇腹はかぎ爪によって抉られた。 
 血を零し、その場に膝を突いたセーイの姿を一瞥し、スペクターはきっと笑った。
 嘲笑、ではなく。
 まるで自嘲するような、そんな寂しい笑みだった。


 セーイの懐からワイヤーロープを回収し、スペクターは塀へ向かって駆けていく。
 侵入したのと同じ場所から、そのまま脱出を図るつもりのようだ。
 だが、そんなスペクターの眼前に天輝とノーヴェが立ちはだかった。
「セーイからテレパスで連絡を受けてな。先回りさせてもらったぞ」
「ここ、で……捕まえ、る。セーイの、努力……無駄には、しない……よ」
 舌打ちを零し、スペクターはナイフを投げた。
 ふらり、とよろけるような動作で天輝はナイフを回避。そのうち数本……つまり、ノーヴェの進路を塞ぐ数本だけは掌打でもって弾き飛ばした。
 それから、ひょうたんの中身を一口。
 強い酒精が天輝の五感をわずかに狂わす。
 ゆらり、と。
 揺れて……。
「まずは挨拶代わりじゃ」
 空気の壁を打つように、天輝は掌底を放つ。
 練り上げられた光球が、スペクターの胴を射貫いた。
「ぐ……」
 仮面の隙間から血が零れる。
 だが、それだけだ。
 天輝の射線から逃れるように、スペクターは即座に移動を開始した。
「ほぅ、疑っていたわけではないが、本当にスロウが効かぬのじゃな」
高速で駆け回るスペクターに狙いを定めることは困難だろう。
 けれど……。
「ん……見えて、た」
 タタン、と軽いステップの音。
 スペクターの前方へ、素早くノーヴェが回り込む。
 未来視と【疾風刃・改】の併用により、スペクターの移動先を予想し、高速で回り込んだのだ。
 スペクターの持つ耐性は、その黒衣に由来したもの。
 それを知るノーヴェは、ダメージよりも黒衣を裂くことを優先し、高速の斬撃を放つのだった。

 レオンティーナは翼を広げ舞い降りる。
 地に膝を突くセーイの隣。
 翳した手からほとばしる淡い燐光が、セーイの身体を包み込む。
 スペクターに抉られた傷は塞がり、その身を侵す毒も既に消えていた。
「私がいるかぎり、彼が武器に仕込んだ毒で仲間を傷つけさせません」
 さぁ、まいりましょう。
 そう言ってレオンティーナは、そっと手を差し伸べる。
 その手を握り、セーイは立った。
 血に濡れた手で頬を拭い、強い意思を秘めた瞳で夜闇を見据える。
 遠くから響く戦闘音が、セーイの耳に届くのだった。

「正義の味方気取りの盗人様よ。いい加減観念したらどうじゃ?」
 そう問うて、天輝はスペクターのかぎ爪をかわす。
 そのまま数歩、後ろへ跳んで入れ替わるように今度はノーヴェが前に出た。
 ノーヴェの剣に注意を向けた隙を突き、天輝はスペクターの側面へ回り込む。
 2人の波状攻撃に押されスペクターの黒衣は既にボロボロだ。
 舌打ちを一つ。
 スペクターが宙へ跳ぶ。壁を蹴って、遥か頭上へ。だが、塀の縁に手は届かない。
 落下地点に回り込むノーヴェだったが……。
「予想できるのは……5、6秒先までか?」
 長い滞空時間の末、スペクターは塀へ向けてワイヤーロープを投げつけた。
 それを伝って、塀へ張り付く。
 このまま逃走するつもりだろう。 
 けれど……。
「スペクターさん、どのような理由であれ、盗みはいけません。問題などありましたら役人に申し出て、法の下に解決なさってくださいませ」
 ブツン、と。
 急降下したレオンティーナによって、ワイヤーロープが切断される。
 支えを失い落下するスペクター。
 くるりと猫のように空中で姿勢を立て直すが……。
「やっぱり、泥棒しといて正義だなんて、おかしいよ……!」
 レオンティーナと共に戦場へ参じたセーイが、落下地点で待ち構える。
 スペクターのかぎ爪が届くより早く、セーイの刻んだ古代文字がスペクターの身を炎で包んだ。赤いマナで書かれた「別れ」を意味する古い文字。今となっては、それを読めるものも多くない……けれど、文字に込められた意味はいつまで経っても不変のまま。
 業火に飲まれ、スペクターは血に伏した。

「努々忘れぬことだ。強い力は人を救うことも、傷つけることもあるのだと。だが、力が無ければ人は決して救えない。俺のような紛い物にはならないでくれよ……」
 大火傷を負ったスペクターは、身動きもできない状態のまま屋敷から病院へと搬送される運びとなった。
 去り際、彼はセーイに向けてそう告げる。
 ともすると……スペクター自身も気づいていたのかもしれない。
 自身の「正義」が既に歪んでいることに。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済