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キッシェ教養ゼミ「おうし座流星群の天体観測会」



●天体観測会のお誘い

 イ・ラプセルから紅葉が散る頃、そろそろ冬の寒さが訪れる。
 初冬の早朝、自由騎士たちはキッシェ・アカデミーの教養ゼミに参加していた。

 教養ゼミの担当教員を任されている『魔導科学者』レオ・キャベンディシュ(nCL3000043)は、今朝も早くから元気はつらつだ。

「おはようございます、自由騎士団の皆さん! いよいよ本格的に冬になろうとしていますね。冬と言えば、何を思い浮かべますか? 何人か指名していいですか?…………あはは、暖かい部屋で酒盛り、今年の冬着ファッション、寒中水泳ね…………。それらもいいですが、私は冬と言えば、冬の『流星群』の天体観測会なんて思いつきますね。天体観測もなかなかオツなものですよ?」

 レオは黒板の前にポスターを広げた。

「本日の授業では天文学について触れさせて頂きます。ところで、『流星群』という現象。これがどうやって起こるものかご存知でしょうか。そうですね……では、本日はまずその辺りから解説して行きましょう」

 レオが掲げたポスターには以下のものが描かれていた。
 暗い宇宙空間の中に、まず『太陽』があり、その周りを『ビオトープ』(注:この世界でいう地球)が回っている。さらに『彗星』が軌道を描いて、『太陽』付近を横切っている。その軌跡には『塵の帯』が描かれている。

「順番に説明して行きましょう。まず、私たちの世界は、ご存知の通り、地動説を取る立場ですので、『ビオトープ』が『太陽』の周りを回っています。そして、『彗星』が軌道を描いて、『太陽』の周辺を飛んでいたりします」

 レオは教鞭を取り出して、『彗星』の軌道をなぞる。

「『彗星』は氷と岩石でできています。つまり、軌道で『太陽』を通るとき、その中身が解けて零れたりします。この『彗星』から零れたものは、やがて『塵の帯』となり、『ビオトープ』の軌道上に残ってしまいます」

 レオは、ポスター上にある『ビオトープ』の位置を軌道に沿って、『塵の帯』がある場所に持ってくる。そこに衝突のイラストを付け加える。

「当然、この残っている『塵の帯』は、公転している『ビオトープ』の大気と衝突します。この衝突が起こる時、『塵の帯』から『ビオトープ』に流れてくる欠片が、いわゆる『流星群』なんですよ」

 レオは次のポスターを開く。

「さらにこの図を見て頂きたいのですが……。『塵の帯』には、『放射点』という中心点ができます。この点を中心にして、流星がいくつもいくつも四方八方、出てくるんです。その集合体が、『流星群』ですね。『流星群』には、ふたご座流星群やペルセウス座流星群などメジャーなものがありますが……。今回、授業で取り上げたい『流星群』は、『おうし座流星群』です」

 そして、『おうし座流星群』のポスターを新たに黒板に貼る。
 レオは教鞭を指す。

「『おうし座流星群』は、その名の通り、冬の星座であるおうし座の位置で出てくる『流星群』です。冬の今ぐらいの時期に起こる『流星群』でして、観測するならば、まさに、今がチャンスです。そこで、皆さんに提案があります。近々、教養ゼミの授業で、夜の時間帯になりますが、『おうし座流星群』の天体観測会をやりませんか? 『おうし座流星群』は、流星の数こそ少ないですが、『火球』といった流星が観られる貴重な体験となることでしょう」

 レオは教室を見渡す。
 天体観測か、たまにはいいかも……などと、小さな声が聞こえてきた。

「天体観測会に来られる方は、来週の土曜の夜あたりはいかがでしょうか? 場所は、キッシェ敷地内のキャンプ場で行います。授業の時間帯は深夜から6時間程度行う予定です。当日は寒いと思いますので、十分に防寒対策をするようお願いします。『流星群』を観ながら、夜食や雑談なども歓迎しますよ。まあ、せっかくの天体観測会ですので、そう気張らずに、のびのびとやりましょうか?」

 教養ゼミで開催される初の天体観測会。
 冬の寒い日の夜、『流星群』を観測しながら教養を深めてみてはいかがだろうか。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.教養ゼミの天体観測会に楽しんで参加する。
今回のレオゼミのテーマは天文学、天体観測!
冬の夜空を見上げてUFOを願うST、ヤトノカミです。

<概略>

天体観測の授業で流星群を観に行きます。
時期的には11月半ば過ぎの深夜から、おうし座流星群の流星を観測します。

真面目に流星群を観測していてもいいですし、雑談するなり夜食を食べるなり仮眠を取るなりしていてもいいです。

それぞれのやり方でゆったりと楽しんでくだされば、と。

<おうし座流星群について>

11月頃に観測できる冬の星座であるおうし座から流れる流星群です。
夜空に「放射点」という中心点があり、そこから流星が四方八方に流れてきます。
おうし座流星群の特徴は、「火球」の流星が多いことです。
火球は、その名の通り赤い火の球の流星で、数秒程度のろのろと流れて行きます。

また流星が流れる頻度は、1時間につき2、3回程度です。
(今回のゼミ活動では合計6時間程度、観測します)
つまり、あまり流れる数が多いタイプの流星群ではありません。
じっくりと観測されると良いでしょう。

<その他星座など>

おうし座の近くには、正面向かって左方向にオリオン座。
正面向かって右方向におひつじ座とペルセウス座。
主面向かって上方向にぎょしゃ座とふたご座。
などの星座もあります。

星座を観測するのが今回のメインではありませんが、満天の夜空を見上げた際には、RPの一部として星座の話も使えます。

ここは地球ではありませんので、星座の神話もまた微妙に違います。
星座についての神話や英雄譚など世界観に沿ったお話を創られてもかまいません。

<時間帯と場所>

深夜0時が今回の授業の開始時刻です。
深夜0時にキッシェ・アカデミーのキャンプ場に現地集合です。
当日は、ゼミ日程のため、貸し切りです。学内にある広々としたキャンプ場です。

深夜0時から早朝6時までの間が授業です。
(キッシェの天文学者によれば、この時間帯が今回の流星群の見どころの時間帯です)

ですが、授業と言いましても、レオが特に解説などをするわけではありません。
飽くまでおうし座流星群を観測するのがメインですので各自、自由行動です。
早朝6時の日の出を迎えたら授業が終了し、現地解散です。

<天気と月>

当日の夜空ですが、晴天です。月も新月です。
つまり、夜空に雲や月明りが全然ないので、星や流星が観やすい夜となります。

カンテラや火など、明かりを点けるのには気を付けましょう。
あまり明るいと夜空の星が観づらくなります。

<気温、防寒対策、テント>

当日、冬の夜ですので、冷えます。気温は10℃程度です。
防寒対策はちゃんとしておきましょう。
防寒具などない人は、キッシェ・アカデミーから無料で借りることができます。
他にも、テント(組み立て式)、毛布、寝袋、レジャーシート、椅子とテーブル(組み立て式)、カンテラなども用意されています。

テントは、男性用、女性用、その他性別用があります。
それぞれ大きなテントです。
レオは寒くなったら男性用テントに入ります。

テントの中で仮眠もできますし、寝転がっていてもかまいません。
何かあったとき、カンテラもありますので、明かりも点きます。

<必要な道具など>

望遠鏡や双眼鏡などは今回、基本的に必要がありません。
なぜなら、肉眼で観た方が幅広い視野から流星群を観測することができるためです。
また、基本的に裸眼で観測するものですので、目を暗さに慣らしておきましょう。

(今回のシナリオは、リュンケウスの瞳などのスキル使用を禁止していません)

<流星群の方向>

流星群を見上げる方向ですが、特に方向は気にしなくても大丈夫です。
放射点から星が流れて来ますので、夜空のどこを見ていても観測することができます。
たまに関係ない流れ星も流れます。それは、放射点からずれているので、一発でわかります。

<その他の活動>

流星が出るのを待つのには忍耐が必要です。
授業だからといって、正座して星を直視して待たなくても良いです。

雑談する場合は、絡みたいPCさんやNPCに話しかけてみましょう。

夜食など飲食する場合は、お菓子や飲み物など持参してOKです。
所持しているアイテムを使用しても良いですし、キッシェの購買部から買ったなどの設定でもかまいません。

お菓子と飲み物は、レオも持ってきてくれます。
なお、夜食代は、キッシェの予算から出ます。
(今回、シナリオの性質上、お酒は禁止です。(成人も))

<NPC紹介>

今回もレオ・キャベンディシュというキッシェ・アカデミーの教員NPCが登場です。
ネコミミで、メガネで、学究肌の優男です。
彼は、オラクルの皆さんや学生さんが好きですので、気兼ねなく話しかけることができます。
「リプレイ」で特に彼と絡みたい方は、「プレイング」入力があれば可能な限り対応します。
(基本的に彼の役割は、司会進行です)

レオとお話をするとき、皆さんのPCさんの口調はそのままでも大丈夫です。
「キャベンディシュ先生」よりも「レオ先生」の方が呼ばれ慣れているそうです。

<EX>

アドリブを特に入れたい人は、「アドリブ多め」とご入力を。ラーメンで例えると、「ニンニクアリヤサイマシアジカラメ」みたいなものです。


解説は以上です。
よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  2個  1個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2018年11月24日

†メイン参加者 6人†



●観測会開始

 星々が煌めく深夜零時、キッシェ・キャンプ場の一角で教養ゼミが開催される。
 早めに来ていた教員レオと『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)により、既にテントやシートの準備は完成していた。

『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は、ぐるぐる巻きの防寒着でご登場だ。

「おや? テオドールさん、すごい着こなしですね?」

 レオに質問されて、テオドールがにこやかに答え返す。

「レオ先生、こんばんは。流星群を見に行くのだと伝えたら家人がアレやコレや随分着せてくれてな。動きやすさか防寒で随分言い争った結果、こうなったんだよ……」

 あはは、と二人で思わず笑ってしまった。

 赤いマフラーを巻いた黒いコート姿の『楽器と共に歩むもの』ドロテア・パラディース(CL3000435)も手提げ持ちで現れた。

「こんばんは、であります! 流星群を見るのは初めてでして、とても楽しみであります。今夜のためにお昼寝をしてきましたので、授業時間いっぱいまで起きているつもりであります!」

 元気が良さそうなドロテアにレオも思わず笑みを浮かべた。

「こんばんは、ドロテアさん。ご参加ありがとうございます。授業と言いましても、今回の場合は途中で仮眠を取られても問題ないですよ。とても気合が入っていて良いと思います」

 厚手のコート、革の手袋、藍色のマフラーで防寒している『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)が大きな袋を抱えてやって来た。

「こんばんは! レオ先生、例の物、持って来ましたが、どこに置いておけばいいですか?」

「こんばんは、月秋さん。例の物の回収お疲れ様です。アレはまだテントのテーブルの上にでも置いておいてください」

 例の物とは? まだ秘密だ。

 フェミニンなコートを着込んだ『蒼の彼方の傍観者』サラ・アーベント(CL3000443)も翼を動かしながらぱたぱたとやって来た。

「皆さん、こんばんは。流星群の観測、とても楽しみにして来ました。それにしても、若い方ばかりですね。見た目からじゃ判別できませんから、私と変わらない方もいらっしゃる? 女性も少ないですね?」

 サラがくすくす笑い、レオも後頭部に手を当てて笑った。

「こんばんは、サラさん。女性に年を聞くのは失礼でしょうが、たしか、名簿によれば、サラさんは、130才ぐらいでいらっしゃるのでしたか? この中では年長者ですね。いやはや、私の方が若輩者です。それとお察しの通り、女性は2名のみの参加です」

 テントの中からアリスタルフが出て来た。彼も軍用コートに厚いブーツと防寒対策をしている。両手にはメモとペンを持っていた。

「コーヒーと紅茶を淹れる準備ができました。あとは淹れるだけです。全員の希望を聞きたいのですが、それぞれ、どちらがいいですかね? あと、金平糖を砂糖代わりに入れたいのですが、それの有り無しも。え? なぜ金平糖かと? ははは、星に似ていて良いかなと?」

 そこに慌てて『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)が走って来た。彼は出身地にちなんだ和風の厚着をしている。手元には大きな何かを抱えていた。

「わりいわりい、作業していて時間ぎりぎりになっちまった。そうそう、レオ先生、カンテラ貸してくれるか? みんなにプレゼントがあるんだ!」

 ちょっと息を切らしている虎鉄にレオは嬉しそうに微笑む。

「こんばんは、虎鉄さん。大丈夫、セーフです! カンテラねえ……。実は、本日、天体観測会という都合上、使うカンテラはテントの中にある物のみなんです。あまり明るいと星が見えづらくなってしまいますからね。カンテラをお貸しするのはかまいませんよ」

 テントの中に通されると、虎鉄は大きめの紙細工を展開して、カンテラに被せた。
 もちろん、紙が火で燃えてしまわないように、適度に距離を取っての設置だ。
 すると……。カンテラの光から幻想的に飛び出るものが……。

「あら? 小さな蝶がたくさんいるのです!?」
 ドロテアが、はっと驚く。

「おや? ビオトープや月なんかの天体も再現されていますね?」
 月秋が感心してテント内を見渡す。

「ふふ。満天の夜空をテントに移したみたいですね?」
 サラも興味深そうに眺める。

「ふむ? つまり、これは?」
 テオドールに促されて、虎鉄が照れくさそうに答える。

「そう、夜空を再現したミニチュアさ。実は今回、自由騎士団での初依頼なんだ。それでよ、挨拶代わりにいいかなって思ってさ。ま、こういう細工とか機械系は得意なんで、そっち系で何かあった時、俺を頼ってくれよな?」

 やり取りを見ていたレオはにこにこしている。

「素敵なミニチュアをありがとうございます。良い仲間がまた増えましたね」

●ティータイム

 一同は顔合わせが終わると、流星が降るまでティータイムに入ることにした。
 ちょうど、アリスタルフが淹れてくれるお茶類が出来上がる頃でもある。

 一方で、月秋ががさごそと大きな袋(例の物)を持って来た。

「実は、レオ先生らと一緒に購買部で買い物をしました。お菓子、持ってきたので皆さんどうぞ! お口に合えば良いのですが……」

 月秋からの差し入れは星型クッキーと三種のパウンドケーキだ。
 しかもアツアツの出来立てだ。

 レオが補足する。

「月秋さんの案です。24時間営業の購買部に頼んで今の時間までに完成をお願いしたんですよ」

 ドロテアも大きな菓子袋を取り出す。

「さらに購買で買ったびっくりチョコというのがあるのです。ぜひ食べてびっくりするでありますよ!」

 見計らったようにテオドールも袋から夜食を取り出す。

「私からは、モッツアレラチーズとナッツの詰め合わせだ。先日、ワイン工場の見学会へ行ってね。そこで教えてもらったお勧めの逸品さ」

 一同は、シートに腰を下ろして、お茶類を一服する。

 サラは、ふぅふぅと息を吹きながら、熱い紅茶を啜る。
「眠たくなるといけませんから」と金平糖なしのストレートだ。
「あらま? このチョコ、びっくりするほど苦いのですね?」

 月秋もそっと紅茶を飲みながら、人形のカワホリやタタラバにも飲ますふりをする。
「もぐもぐ……。レオ先生と選んだラムレーズンのパウンドケーキ、もふもふで美味しいですね! 皆さんも食べていますか? 淹れて頂いた紅茶もまたケーキにあいます!」

 ドロテアは紅茶とチーズとナッツを交互に味わっていた。
「どれも美味であります! テオドール殿、アリスタルフ殿、ありがとうであります!」

 テオドールはコーヒーを一口飲むと、これは良い物だ、ということがわかった。

「ヴィノクロフ卿。美味しい一杯をありがとう。やはり寒い時に飲む暖かい飲み物は良いな。いい苦味だ。豆はどこで手に入れられたのかな?」

 問われたアリスタルフも待っていました、と言わんばかりに答える。
 一度、濃いめの紅茶をカップごと置いた。

「コーヒー豆はキッシェ・マウンテン産のものです。酸味が少なく、苦すぎなくて飲みやすいものを、と。独特の香ばしさも特徴ですね。実は、この豆も先ほど購買部で月秋やドロテアらと一緒に購入した物です」

 ふかふかパウンドケーキのバナナ味や熱いクッキーをもぐもぐしつつ、紅茶も頂いているレオも会話に入る。

「んぐんぐ……。失礼。ところで、この紅茶もちょっと良いの使っているのですよ?」

 パウンドケーキのチョコ味をはふはふとかじっていたドロテアが続いて答える。

「ですね。ロイヤルブレンドであります。キッシェ学長御用達の!」

 アリスタルフが経緯を補足する。

「実は、先日、俺たちはキッシェの依頼を遂行した際に、学長からお礼の茶葉を頂きました。果実に似た甘さと香ばしさを持つこのお茶は、今回の天体観測会に相応しいと思いましてね」

 コーヒーを飲み干した虎鉄がシガーケースを取り出した。

「タバコ、吸っても良いか?」

 念のため、許可を取るが……。
 同じく喫煙者の月秋が挙手する。

「僕は、今夜のシガレットは控えましょう。即ち冬空に立ち上る紫煙を見るのは嫌いではないのですが、主役の星が霞んでしまっては困るので……」

 レオが助け船を出す。

「そうですね。月秋さんの言うことも一理あります。では、喫煙したい人はここから少し離れた場所にある喫煙スペースで吸ってきてはどうでしょうか?」

「おう、んじゃ、そうするぜ」

 虎鉄が立ち上がり、喫煙スペースへ向かった。
 喫煙スペースで美味い一服を味わいながら、虎鉄は夜空を見上げて思う。

(故郷で見た空も綺麗だったけど、ここの夜空も綺麗だな。俺の故郷は動乱でなくなっちまったけど、どこにいても、星空は楽しめるもんだ……)

 きらり☆
 夜空高くの放射点から流星が飛び散った。

 一瞬のことだった。
 皆、夜空の下で茶会をしたり、一服していたりの最中だったので、じっくりは観られなかったようだ。

●余興

 最初の2時間が過ぎた。
 ここのところ、流星がずっと出ていない。
 忍耐が必要ということだが、ここは一度、余興でもやろう、という流れになった。

「演奏はどうでしょうか?」
 サラが提案する。

「私も演奏家であります! ぜひお供しましょう!」
 ドロテアも立候補する。

 もちろん反対はない。
 音楽が専門の者も他にいなかったので、二人で同じ曲を演奏することになった。

 それぞれ、サラはブルーボウを弾き、ドロテアはリラを弾く。ちなみに、ブルーボウとは、半月の竪琴の形状をした弓であり、リラとは、古いタイプの竪琴だ。どちらも戦闘時では武器になるが、今回みたいな演奏にも使える。

 どこかメランコリックで、懐かしい曲が流れた。3拍子のリズムを特徴とした、古い民謡だ。なお、歌詞は付けていない。

『ずん、ちゃん、ちゃん……♪ ずん、ちゃん、ちゃん……♪』

 聴衆の皆も、どこかで聴いたことがあるのだが、と思い出しかけている。
 曲が流れている最中、思わずテオドールが手を三拍子で叩いてしまった。

「演奏がお上手な上に懐かしい曲だな? 私も手拍子で参加したくなったよ」

 月秋も手拍子を叩きながら鼻歌で加わる。人形たちも踊っている。

「まさに星空の下のフォークソングですね!」

 曲調を思い出したアリスタルフも手拍子と鼻歌で続いた。
 虎鉄は故郷の違いでわからなかったようだが、一緒に手を叩いた。
 レオは終始にこにこしていた。

 やがて1曲が終わり、拍手が起こる。

「ありがとうであります、聴衆の皆様!!」
 ドロテアが大仰にお辞儀をする。

「ふふ。皆さん、この曲をご存知なのですね? そう、この曲は、星にまつわる民謡である『星になったグース』です!」
 サラが曲の正体を明かすと、みんな、ああ、そうそう、それだ、と顔を合わせる。

 この曲が終わったあと、アンコールが発生した。
 サラとドロテアも続いて、星に関する民謡をもう2曲披露した。

 3曲目が終わると、サラは新しい提案をする。
「さて、演奏も良いものですが、次は星占いでもやりませんか?」

 星占いにまず興味を覚えたのは月秋だった。

「え? アーベントさん、星座で占いもできるんですか? では、みんなの来年の運勢を占うのはどうでしょうか?」

 月秋の提案に対して皆、賛成した。来年、どうなるのか、知りたいところだ。
 サラはレオから紙とペンを借りた。

「では、ここに貴方たちの名前と誕生日を書いてください。それぞれの誕生日にある星座から来年の運勢を導き出します。なお、同じ星座の場合、セフィラもわかると精度が上がりますので、セフィラも念のためご記入くださいね」

 かきかき、とやがて全員が書き終わり、サラが占いを始める。

***

「まずは、英羽さん。9月25日、天秤座。待ち人が現れるでしょう。ラッキーカラーは赤。ラッキーアイテムは銀のスプーン」

「え!? そんな人が現れるんですか?(もしかして、待望していた戦場での相棒でしょうか? いや、まさか、恋人かも!?)」

「お次は、テオドールさん。10月27日、蠍座。金運に気を付けましょう。詐欺や窃盗に気を付ければ安全です。ラッキーカラーは紫。ラッキーアイテムは懐中時計」

「な、なんと!? 私の財産を狙う野盗共が現れるということか!? むむ、用心せねば! 懐中時計は手放せまい!」

「そして、虎鉄さん。4月9日、牡羊座。夢が完成するチャンスです。堅実に取り組みましょう。ラッキーカラーは白。ラッキーアイテムはスパナ」

「おう? 夢か……。そうだな、スパナで何かすげえの造るかな?」

「どんどん行きますよ! アリスタルフさん、ドロテアさん、私は山羊座です。ですが、セフィラがそれぞれ違いますので、違う運勢が導き出せます。で、アリスタルフさんは……。12月22日、山羊座。イェソド。大人を極める道が開けるでしょう。ラッキーカラーは青。ラッキーアイテムはボール」

「な、大人を極めると!? 青いボールでも買って投げてみるかな……」

「続きます。ドロテアさん。1月11日、山羊座。ビナー。事故に気を配りつつコツコツと生きましょう。ラッキーカラーは緑。ラッキーアイテムは包帯」

「えー? 事故認定前提でありますか!? 演奏家として注意せねば!(緑の楽器に包帯巻くでありますよ!)」

「私自身は……。12月25日、山羊座。ホド。探し物が見つかることでしょう。ラッキーカラーは灰色。ラッキーアイテムは箒……。なるほど、お掃除でもしながら、この130年でなくした物でも見つけてみましょうか……」

「あ、私は!? ぜひ!!」

「えっとレオ先生は……。2月22日、魚座。飲みすぎには注意しましょう。ラッキーカラーは茶色。ラッキーアイテムはキャットフード」

「ガーン! そのままです!(実は飲兵衛で猫)」

***

 きらり☆
 夜空から火球がのろのろと流れていた。
 皆が、気が付いたのは、ちょうど星占いが終わる頃だった。

●談話

 いよいよ最後の2時間だ。
 今回の観測会はアクティビティが豊富なので、あまりじっくりと夜空を観ていない。
 なので、最後の2時間は趣向を変えて、談話しながら星空をずっと見ることにした。

 午前4時を過ぎた現在、気温も10℃を切り、なかなかの寒さだ。
 テオドールや月秋が率先してみんなに毛布を配った。
 アリスタルフも追加のお茶類の用意をした。

 後半になるとそろそろ眠気や疲れも出てくる頃だが、あと一息。
 流星群をばっちり観測するにはここが正念場。

 テオドールは、口数が少なそうな虎鉄に話しかけた。

「キミはオニヒトだね? 故郷はアマノホカリかな? 彼の地の話は聞くばかりだ。興味は特にある」

 虎鉄も新しいコーヒーを啜りながら答える。

「ああ、その通り。故郷はアマノホカリの小さな町だ。しがない職人の子さ。ちょいと訳ありで、住む場所も家族も失ったから、イ・ラプセルに亡命して来たんだ」

「おや? これはまたデリケートなことを聞いてしまったかな?」

「いや、いいさ。俺も25で十分大人だから。過去は過去、今は今。さっきの占いじゃねえが、来年に向けて何か夢でも実現しようかね……」

 月秋とアリスタルフもそれぞれの一杯を飲みながら、毛布にくるまり、会話していた。

「ヴィノクロフさんは佇まいから凛とした騎士って感じで憧れます! 色々な任務もこなしていそうですし」

 月秋がそう褒めると、アリスタルフがうつむいて照れを隠した。

「いや、俺から言わせれば、年齢より大人びて見える月秋が少し羨ましい限りだ。俺はタバコを吸うと子どもと間違われるから、なるべく代わりに飴をなめるようにしているんだ」

 あはは、と二人は笑って打ち解けた。

 ソラビトの二人は、テント付近にある大きな木の枝に乗っていた。
 サラとドロテアは毛布にくるまって会話していた。

「そこにあるおうし座ですが……。正面向かって左方向にオリオン座。そして正面向かって右方向におひつじ座とペルセウス座ですね」

「わあ! 本当にお詳しいのでありますね?」

 星詠みが得意なだけあり、サラはすらりと解説する。ドロテアも楽しそうに聞いている。
 サラはちょっと上機嫌だ。ソラビトの仲間、しかも可愛い子が増えたからだ。

 きらり☆
 小さな火球が放射点から四方八方へゆらゆら飛び散る!
 冷たい夜空で輝いていた流れ星は、まさにおうし座流星群だった。

「あ、もしかしてあれが流星でありましょうか! なんとも神秘的な光景。燃えて揺らめく姿は儚くも美しいのであります。美しいものを見ると心が動かされるでありますね!」

 興奮するドロテアの隣で、サラも嬉しそうに、そうですね、と頷いていた。

 一方、地上のシートの上にいる5人もちょうど同じ頃、流星群を観ていた。

「わっ! 僕にも流星群が! 見えました!」
「お!? あれか、火球って奴は!?」
 月秋と虎鉄がとっさにはしゃぎだす。
 だが、我に返った後、ちょっと恥ずかしそうだ。

「ははは、気分が昂るのも仕方のない事だ。恥じる事などないさ、キミたち」
 テオドールは流星を眺めつつも、はしゃぐ二人の姿を見守っていた。

 アリスタルフは一人物静かに、暗視スキルも駆使して、夜空の火球を眺めていた。

(楽しいな……。自由騎士になる前は、人付き合いは苦手だと思っていたんだが……。うん、こういうのも悪くない!)

 レオも流星群を観測しつつ、ゼミ生たちが満足している様子に満足だった。

 最後に流星群をばっちり観られたところで、やがて朝日が昇り、ゼミは無事終了した。

 了

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『詠う占星術師』
取得者: サラ・アーベント(CL3000443)
『ぐるぐる巻きの貴族』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『夜食部隊隊長』
取得者: 英羽・月秋(CL3000159)
『星空の下の喫茶店長』
取得者: アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
『カンテラの紙細工師』
取得者: 虎鉄・雲母(CL3000448)
『星になったグースの弾き手』
取得者: ドロテア・パラディース(CL3000435)

†あとがき†

天体観測会へのご参加ありがとうございました。
皆さん、それぞれの過ごし方で流星群を楽しまれたでしょうか。

MVPは、サラさんです。
星に関する余興の演出の先導をありがとうございました。

称号は、皆さんです。
それぞれの今回の活躍にちなんだ称号を配布させて頂きました。

キッシェのお話は今後も続けていく予定です。
たまにキッシェ以外のお話も書いています。
また「マギスチ」のどこかで再会できれば幸いです。
FL送付済