MagiaSteam
ブラック・ファクトリー・ストライキ事件



●革命

 がちゃこん、がちゃこん、がちゃこん……。
 ここはブラックマン工場。
 アデレード港町付近にある蒸気機関で製造する工場である。
 ちょうど海も近いので、蒸気船なんかの製造部品の生産が主流の工場だ。

 だが、ここの工場はその名の通り、「ブラック」でちらほら有名であった。
 なにしろ、社長のブラッキー・ブラックマンという男は相当な腹黒であったそうな。

 来る日も来る日も、ブラックマン工場では無情な労働環境が強いられていた。
 毎日残業、休日出勤は当たり前。
 幼い子どもや弱った老人ですら一日16時間以上も働かされることなんてよくあることだ。

 王政がエドワード・イ・ラプセルになってから、工場環境はだいぶ改善されたはずだった。
 工場法という、労働者の工場での勤務環境が守られる法律も施行されているはずだ。
 もっとも、この工場ではそんなものはあってないようなもの。

 当然、労働者たちの不満は募る……。

(家に幼い子どもがいるのに、なんで、毎日、こんなに働かないといけないのかしら? しかも賃金が恐ろしく低いわ! いくらあたしがアウトローでも、こんなのってあんまり!)

(ははは、世間は豊穣祭ムード真っ盛りだな? 今年のワインはどんなだろう? ふう、もう何年もワインなんて飲んでねえ! 毎日、過剰な労働時間で飲む暇すらねえ! 酒の味なんて忘れちまったよ!)

(はぁ……。彼女にふられた。実家とはケンカ別れして来たので今さら帰れない。友達なんてそもそもいない。ここにいる工場の仲間たちも友達というよりは、奴隷の同志みたいなもんだ。これも何もかも、この工場のせい! 僕は死ぬまでこんなことしているのかな?)

(くぅぅ……。もう、だめ。くたくたよ……。こんなに働けないって! なんで、意味も目的もなく、こんな安い賃金でこき使われないといけないのかしら? もう娼婦にでも転職した方がましなくらいよ!)

 みんな、それぞれが強い不満を持つものも、どうして良いかわからず、ひたすら、がまんして、働かされていた。

 みんな、それぞれが変化を求めていた。そう、この工場での過酷な労働が終わり、解放される日を求めて、危うい何かを渇望していた。

 ある日、ある時、一人の男がふと言葉をもらす。
 何も彼はカリスマがある指導者なんかではなく、なんてことない一般人だ。
 彼の声は、皆の無意識の声だった。

「そうだ……。革命を起こそう! ストライキだ!」

 賛同者たちは続く。

「うん、そうね!」
「そうだな、それがいい!」
「間違いない!」

 もっとも、社長は並みの腹黒ではない。
 利益を吸い上げて、ブラック工場の経営を楽しんでいる変質者だ。
 ならば、ちょっとだけ驚かせるつもりで、武装して交渉を……と、別の誰かが提案する。

 あくる日、武装をした従業員たちが社長室の戸を叩く。
 社長は迷惑そうな顔をしていたが、どうも皆が穏やかではない様子なので話だけ聞く。
 そして、彼らを追い出して、こう吐き捨てる。

「ダメだ。おまえらは死ぬまで、黙ってここで働けばいいんだ!」

 カチン!!

 従業員たちの中で何かが決定的にぶっ壊れた。

 本日、武装ストライキを起こす者たちの数は100人。
 工場内にいる全員が武装している。

 善良な従業員たちは、この日、この時を境にして、狂った暴徒たちになる。

『革命だ! 革命だ! 革命だ! 革命だ! 革命だ! …………!!』

 皆が一斉に暴れ出した!

 巨大な蒸気機関室で多数の機械を攻撃して大爆発を目指す者。
 工場の出入り口付近で暴れて機械と工場を破壊する者。
 社長室へ引き返して、社長をぼこぼこに叩きのめす者。

 ブラック・ファクトリー・ストライキ事件が幕を開けた。

●密偵の取材

 最近、ブラックマン工場から黒い噂が絶えない。
 残酷な労働環境から病気になった者や自殺した者が後を絶たないという。

 そこで方々からの依頼を受けて、みんなの便利屋『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)が立ち上がった。

 本日、ヨアヒムは密偵としてブラックマン工場に偵察へ来ている。
 表向きには、雑誌の取材ということで副社長にインタビューをするという話になっているのだ。

 さて、どうするか、とヨアヒムは木陰から工場をじっと見ていた。

 すると……。
 本日、インタビューする予定だった副社長が何やら慌てて工場から出て来た。
 工場からは誰かが何かを叫ぶ奇声や騒音すらも聞こえるようだが……。

「あら? もしかしてここの副社長じゃないかな? 取材の時間にはまだ少し早いよね?」

 ヨアヒムはいつもの調子でフランクに話しかける。
 一方の副社長は、緊迫した表情だ。

「ん? あ、あんたか? 今日、うちを取材しに来る記者って人は? 悪いが、本日の取材は中止にしてくれ。何分、諸般の事情で工場にトラブルがあったので、本日の営業は中止になったんだよ。じゃあな!」

 副社長がそう言い終えるや否や……。

 どっかああああああん!!
『うおおおおおおおおお!!』

 工場から爆発が起こり怒声も響いた。
 この事態がただ事ではないことをヨアヒムは瞬時に把握した。

「え? ちょっと、待てよ? どっかああん、うおお、って何それ!? ねえ、もしかしてさ、今、工場がすんげえやばいことになっているんじゃない!?」

 ヨアヒムが去っていく副社長の左肩を右手でつかんで問い質す。

 焦っている副社長は……。

「あ、あんなところに全裸の美少女がいるぞ!!」
「え!? な、なんと!? どこだー!!」

 ヨアヒムはスキを突かれて逃げられてしまった!

「ぬおお!! 俺のバカ、バカ!! 俺としたことがあああ!! って、それどころじゃねえ! 俺1人で事件を鎮圧なんてさすがにできねえ! 国防騎士団に通報しなきゃ! いや、せめて、この場に自由騎士団のみんながいれば!!」

 ヨアヒムは港町の方へ走って引き返した。
 もしかしたら、道中、どこかで自由騎士団のメンツと出くわす可能性に賭けて。

 そして、……!!
 いた、自由騎士団だ!!

「なあ、突然ですまないが、緊急で力を貸してくれないかな!? 実はさ、…………」

 ヨアヒムが事情を説明していると、雲行きが怪しくなり、ぽつぽつと降り出した。

「ちっ、こんなときに雨か……。なんか、これ以上嫌なことでも起こらないといいが……」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.暴れているモブ100人を鎮圧すること。
2.1人も死者を出さないこと。
3.工場の大爆発を未然に防ぐこと。
ストライキですよ、皆さん!
しかも武装ストライキです!
その昔、自動車学校でガチなストライキを見て驚いたことのあるST、ヤトノカミです。

<概略>

アデレード港町付近の工場で武装ストライキが起こりました。
自由騎士団の皆さんは、たまたまその付近に居合わせた設定からゲームが始まります。
今回、メインで参加できる人数は8人までです。

対するに、暴れている一般人の敵対NPCは100人います。
つまり、単純計算で1人頭12、3人を相手にする、10倍程度の戦力と戦って頂きます。

暴徒の中には一応のリーダーが社長室にいます。
「そうだ……。革命を起こそう! ストライキだ!」とOPの中で発言した男です。
ですが、彼は成り行きでなってしまったリーダーですので、特別強くはなく、特別権限を持っているわけでもありません。
みんな、溜まっている色々なものが爆発して、好き勝手に暴れています。

何としてでも100人全員を鎮圧しないといけません。
死者も1人も出してはいけません。
工場が大爆発を起こすと大惨事ですので、大爆発も防ぎましょう。

<攻略エリア>

皆さんに戦闘して頂くエリアは3つに分かれています。
以下に【1】から【3】までエリアを解説します。

基本的な方針は、全てのエリアに繋がるエリアAをまずは皆さんで制圧します。
その後、エリアBあるいはエリアCへ分かれて進みます。
当然、エリアBとエリアCも制圧して頂きます。
エリアBあるいはエリアCへ進む担当者と人数は皆さんにお任せします。
今回の戦闘は、2段戦闘になりますので、お気をつけください。

【1】エリアA 工場の出入り口(フロント)

・まずこのエリアを突破しないと、エリアBにもCにも行けません。裏口は封鎖されています。

・暴れているNPCの人数は30人程度です。このエリアに制限時間はありません。1階の間口が広い出入り口付近で特に人が溢れていますので、通行が厳しいです。乱戦必須です。

・蒸気機関が出入り口に入ってすぐに数機ありますので、これらを爆発させられると厄介です。このエリアの爆発は、工場全体が大爆発になるゲームオーバーはありません。

・このエリアは工場の外でも中でも戦闘ができます。工場前の広さは、20人程度が余裕で歩ける程度の大きさのやや広い道路になっています。周辺は木々で囲まれています。ガス灯の街灯がぽつぽつとあります。

【2】エリアB 蒸気機関のメイン機関室

・このエリアは、エリアAから来られます。エリアCとは繋がっていません。階層は1階です。この工場内で一番大きな部屋です。収容人数100人は超えます。機械がわんさかとあります。特に部屋中央には、巨大な蒸気機関が位置しています。エリアBの蒸気機関(周辺17機(最初は20機でしたが既に3機破壊済み)+中央1機)が全て破壊されると工場が大爆発してゲームオーバーになります。

・暴れているNPCの人数は50人程度です。このエリアの制限時間は、PCの皆さんがエリアBに到着してから約18ターン(180秒)以内です。約18ターンの間にエリアBで暴れているNPC全員を鎮圧しないと大爆発が起こりゲームオーバーです。なお、18ターン以内でも暴徒の行動により小爆発がたまに起こりえます。

【3】エリアC 社長室

・このエリアはエリアAから来られます。エリアBとは繋がっていません。階層は2階です。窓やベランダもあります。この工場内では比較的小さな部屋です。それでも20人以上が余裕で収容できる部屋です。蒸気機関なども部屋内になく、爆発の心配はありません。

・暴れているNPCの人数は20人程度です。このエリアの制限時間は、PCの皆さんがエリアCに到着してから約9ターン(90秒)以内です。何も対策をしないと、約9ターンの間にエリアCで暴れているNPCたちによって社長が殺されます。

・社長には一応、ボディガードがいました。社長を守りながら戦っていたのですが、皆さんがエリアCに到着する頃にちょうど撤退してしまいました。

・ここのエリアに一応の「リーダー」であるNPCがいます。どうするかは皆さんにお任せします。

<NPC情報>

・各エリアで暴れている敵対モブNPCは色々な種族の老若男女がいます。暴れている全員が工場への不満が爆発して、止まらなくなっています。バトルスタイルやスキルなどは特になく、皆、武装していて単純な近接攻撃のみ使います。当然、暴徒の皆さんはオラクルなどではなく、名もなき一般人たちです。

・社長はブラッキー・ブラックマンという名のノウブルの中年男です。蒸気機関の工場で一発当てた成金ですが、とても嫌な性格をしていて社員たちから嫌われています。なにせ、工場法を無視してブラック企業を楽しく経営していたぐらいですから。あまり助けたい人間ではありませんが、それでも自由騎士として人命は救いましょう。社長は特に戦闘力もありません。ひたすら、ぼこられている役です。ちなみに彼は、イ・ラプセルでは黒い噂の方面でちょっとした有名人ですので、この人物に「既知設定」を付けて頂いてもかまいません。

・リーダーは、ジョン・シンプソンと言います。犬のケモノビトの男性で20代半ばです。もともとは気が弱い性格ですが、ちょっとした正義感があります。それで、ストライキだ! とみんなの前で言ったのかもしれません。成り行きでリーダーになったものの、正直なところ、もはや止まれなくなっています。名もない一般人ですので、上記で説明したモブNPCと同じ程度の戦闘力です。

<時間帯、場所、天候など>

・事件が起きるのは正午頃になります。PCの皆さんは、休暇だったり、何かの仕事だったりで、偶然、その時間帯、事件が起こる工場付近にいます。(理由付けは各自自由)

・戦闘場所であるブラックマン工場は、蒸気機関で機械を製造する工場です。アデレード港町付近にある工場ですので、蒸気船など海上関係の機械を主に扱ったりしています。要するに、破壊されたら危ない機械類がわんさかある工場です。常時、100人程度の従業員を余裕で収容できるほどの大きな工場です。工場周辺は木々に囲まれていて港も近いです。付近に住宅はありませんが、小さな工場もぽつぽつとあります。大爆発すると周辺も巻き込んでの大惨事になります。

・当日の天候は雨です。ちょうど正午頃から雨が降り始めます。雨はすぐに大雨になります。当日、外で戦闘する方は、視界や足場が悪いのでお気をつけください。気温は、秋にしてはやや寒い、冬の訪れを感じさせる温度です。

<サポート参加>

今回の場合、サポート参加で戦場に入る場合は、戦闘が開始されてから1テンポ程度遅れての登場となります。また、ヨアヒムは戦闘に参加しませんが、ヨアヒムと一緒に国防騎士団を呼びに行くという役割でも良いです。逃げた副社長を追う役割などでもかまいません。

<その他>

戦闘開始前の事前付与が今回はできません。
(PCの皆さん、現場への急行で忙しいためです)


解説は以上です。
よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
14モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
5日
参加人数
8/8
公開日
2018年11月08日

†メイン参加者 8人†



●工場前

 煙が上がるブラックマン工場から聞こえて来る騒音は凄まじい。
 雨風も強くなってきた。

 集まった自由騎士の者たちは、出入り口で暴れる群衆にどう対応するのだろう?

『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)が一歩、前に出る。
 2丁の愛銃を群衆へ向け、こう叫ぶ。

『両手を挙げて大人しく投降することをお薦めするわ!』

 群衆はヒルダの呼びかけなど気にせず、工場や蒸気機関を破壊する行為を止めない。

 ヒルダが本当に撃とうとしたところで、今度はローラ・オルグレン(CL3000210)が前に出た。ここは任せて、とローラがウィンクする。

『うっふぅ~ん! アデレードのみんな~! ローラと楽しいことしな~い!?』

 お尻をふりふりしながら投げキッスをするローラ。
 そう、これはただの誘惑なんかではなく、ハーレムのマスターである者が使う必殺の……。

『うおおお! (犯)やってやるぜえええ!!』

 出入り口付近で固まって暴れていた30人程のうち、男が10人ほど動き出した。
 皆、それぞれ手に持っている武器を掲げてローラに向かって突進だ!

「いやん! さすがは、おバカなアデレードの男たち☆」

 ともかく、これで突入不能だった出入り口が何とか割れた。

 後衛に逃げるローラに代わり、今度は、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)と
『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)が代わって前に出る。

 カノンとラメッシュ、それぞれが重い拳から衝撃を繰り出し、向かってくる者たちの後衛までをも貫通して倒す。既に何人かは戦闘不能だが、暴徒たちは恐れずに向かって来る!

「手荒い真似をしてすまない! しかし今はこうすることが最善なのだ、許してほしい」
 正義感の強いラメッシュは苦しそうにそう言うと、再び拳に力を込めて放つ。

「皆、止めるんだよ!(演劇の取材で来ただけなのに、なぜこうなの!?)」
 カノンも本当はこんな戦いなんてしたくはない。それでも悲しそうに、力のこもった拳を振り回す。

 群衆の流れがカノンとラメッシュに集中している。
 ヒルダはそのすきに銃器を乱射しながら直進する。

「行くわよー、アリア―!! 今のうちに突入よ!! あたしたちのランチ・デートを邪魔した代償は高くつくわよー!!」

「ええ、いつでも!!」

 ヒルダに続き、『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)も木刀を振り回しながら突入する! アリアは本日、愛刀を装備することをやめて、森林に落ちていた即席の枝で戦うのである。アリア曰く、「不殺の権能があるとは言え、自国の民を斬ることはできませんから」

 ヒルダ、アリアに続き、『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)も動いた。ちょうど、女性二人の後衛の位置で突入する。

(前衛の二人は元気があっていいですね? でも回復役もちゃんといませんと!)

***

 出入り口付近で蒸気機関をひたすら破壊している者たちもいる。『機械仕掛けの』アンジェリカ・ジゼル・メイフィールド(CL3000421)は、その者たちの行為を止めさせようと必死だ。

「あなたさま方! させませんわよ!!」

 金属鞭を振り回して、一人ひとり、蒸気機関から注意をそらす。
 暴徒たちの手首や足首に鞭をひっかけて、転ばせ、なるべく外へ誘き出す。
 ともかく爆発寸前の機械から離さなくては!
 暴徒たちは奮闘する彼女に向かって鈍器で殴り、スパナを投げる!

「ちっ、お前らのせいで飯食い損ねた……。邪魔させてもらうぜ!」

 出入り口付近、後方20m辺りから、魔弾の制圧射撃が炸裂する!!

 どがががががん、びりびりびぃ!!

 暴徒たちは容赦なく結界爆破を浴びて、全身が猛烈に痺れ、その場に膝をつく。
 銃士の眼力を強化している彼ならば狙うことがこうもた易い。

『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)のパラライズショットが決まった瞬間だ。ちなみにザルクは工場付近の木の上に身を隠しながら狙撃している。

「1機守れたな。もう1機の方も行くぜ!!」

 ザルクはもう1機の前に集っている群衆も狙撃で蹴散らしたものの……。

 ずだだだん!!

「なっ! しまった!!」

 狙撃の位置がばれ、銃器を持っている群衆から狙撃され、そのまま落下した。

***

 工場に突入した組は奮闘していた。
「あたしのバレッジファイヤを食らって大人しくなさあああい!」

 ヒルダが両手に構えるブランダーバスは猛烈な勢いで灼熱の弾丸を吐き散らす。
 容赦なく暴徒たちが次々と撃ち倒されて行く。

 ヒルダが奮闘しているすぐ近くでアリアは……。

「苦しいのはわかります、でも暴力に頼ってはダメです!」

 木刀をもって最速の一撃を与え暴徒を倒していくものの……。

(暴力はダメと言いつつも……。大きな悲劇を避けるためには、力で鎮圧するしかないの!?)

 本当に気乗りがしない戦闘だ。
 そんなことだから!

 どがっ!
 どがががん!

 いつもの調子が出せないアリアは、暴徒から鈍器と銃器で攻撃されてしまう!

「きゃあああ!」
 頭を抱えて倒れるアリア。

「ちょっと!! あたしのアリアに何すんのよ!」
 怒りの銃器を噴いて標的を排除するヒルダ。

「アリアさん! 今、ボクが!!」
 治癒の術で、後方から優しい光を放つサブロウタ。

 全力が出せないアリアをヒルダとサブロウタがフォローしつつも、工場内の出入り口にいる暴徒は全て鎮圧できた。

***

 カノンは持ち前の技量で足場と視界の悪さを補いつつも、多数に対処する。
 戦いながらも、彼女は暴徒たちに問いかける。

「なんで、こんなことするの?」
「へ、俺らはここで奴隷みたいに働かされているんだ!」

「だからって、こんなひどいことを?」
「騎士様に下々の者の何がわかるんだ!」

「そう? どんなことされたの?」
「一日16時間労働は当たり前、残業と休日出勤は強制! 家族に会えない!」
「姉が入院しました!」
「弟が自殺したのよ!」

 ここで暴徒たちが一斉にかかり、カノンがぼこぼこにされる。
 後方に控えているローラは、癒しの光でカノンを援護するが……。

 カノンは、泣きそうな表情でも、必死に拳で次々と暴徒を鎮圧して行く。

「くぅぅぅ……。辛かったんだね……ごめんね、ごめんね!!」

 工場外の暴徒たちも全員が鎮圧された。

 権能不殺が効いていても、苦しそうにうめき声をあげている者たちもいる。
 そこに、癒しの光が雨のように降り注いだ。暴風雨とは違い、優しい雨だ。

「どうかアナタ方に祝福があらんことを……」

 工場内での戦いは続く。
 だがラメッシュは、自身の魔力の残量も気にせず、ケガ人たちを癒した。
 ありがとう、助かりました、すみませんでした、とそれぞれが謝罪する。

●機関室

 メイン機関室へ入ると、既に蒸気機関が3台爆発した後だった。
 煙が立ち上がる中、50人もの暴徒たちが武器を手にして、叫んで破壊を続けている。

 アンジェリカが前に出る。
『わたくしの声を聞きなさい!』

 声域が拡張された彼女の声は、大きな部屋に響き渡った。
 暴徒の何人かが振り向く。
 そして、民を率いる貴族らしく、堂々とした態度と口調で説得にかかる。

『皆様の正義、しかと受け取りました! お怒りになる心、わたくしにも理解できました。……ですが、少しだけ冷静になってくださいませんか?』

 説得にラメッシュも加わる。

「不遇への対応を間違えて、暴力に及んだ者が信頼を得ることができようか? 一時的な感情に支配されてはいけない!」

 二人の心のこもった説得を受けて、数人の少年少女たちが泣き出し、降参した。
 本当は、こんなこと、やりたくなかったのだ、と。

 だが……。

 ずきゅうううん!

 狙撃をしてくる者がいる。
 アンジェリカは機械の左肩を撃ち抜かれた。

「おらあ!」

 殴りかかって来る者がいる。
 ラメッシュはセフィラの加護の下、不意打ちを回避し、暴徒そのものを無力化する。

「説得があまり通じてないな? 俺に任せろ!!」

 後方に控えていたザルクが魔弾を撃ち込む。
 痺れの力を持つ制圧射撃が容赦なく暴徒たちに被弾する!
 彼はそのまま付近を射撃して回り、制圧に入る。

 そうしている間にも、別の蒸気機関が小爆発を起こす!

「間に合ってー!!」

 アリアは残像をまといながら、猛速度で蒸気機関まで全力で走る。
 今にも爆発寸前の機関の前にいる暴徒を最速の一撃で沈める!

(全部爆発したら、近隣にも被害が及ぶわ!)

 爆発寸前の蒸気機関は1機だけではない。
 カノンは小爆発を起こしている付近の機関に煤の騎士隊のマフラーを巻いて、鎮静化に努める。

 もちろん、そんなカノンを放っておく彼らではなく……。

(カノンたちは戦うしかないの? どうすれば……!!)

 迷いながらも、拳の力を信じて、カノンは向かって来る群衆を叩きのめす。
 しかし数が多い。集られて、ぼこられて、カノンはここで英雄の欠片を燃やした。

 ザルクも遠距離同士の撃ち合いだけでなく、近距離からも攻撃される。
 撃たれ、打たれ、斬られ、散々だ。さっき木から落下して足腰も痛む。
 ここで、英雄の欠片を燃やした。

(ちっ、爆破も止めねえと!)

 ザルクは、付近の制圧が終わると、蒸気機関の破壊者たちを隠れながら狙撃することにした。

***

 何しろ敵は数が多い。
 その上、蒸気機関の爆発も未然で守らないといけない。

 アリアは体力の限界だった。
 広い蒸気機関室を走り回り、爆発を防ぐために、各個撃破の戦闘に入る。
 もはや木刀は折れて、途中から拳に変えて戦っていた。

 アリアは気力も限界だった。
 暴徒鎮圧のためとはいえ、イ・ラプセルの民同士で争わないといけない。
 もう、心が折れそうだ……。

 どがっ!!

 油断をしていた。
 後方からアリアは背中を鈍器でおもいっきり叩かれた。
 ふらついた拍子に、どこかから狙撃も受けて、倒れてしまう。

 アリアは精魂疲れ果てて、ぶるぶる震えていた。
 暴徒たちは、暴漢にだってなりうる。

「犯れ、犯れ、犯っちまえー!!」

 荒れ狂う野郎たちがアリアをぼこぼこにして、服も切り裂く!
 アリアの英雄の欠片が燃えた。

「させるか!!」

 そこに所々傷を負ったラメッシュが援護に入る。
 拳から衝撃の一撃が打ち込まれ、後衛も貫通で同時に倒す。

 ラメッシュが暴漢たちを撃退している間、アリアは何とか逃げ延びた。
 しかし逃げ延びた先が悪かった。
 ちょうど爆発を起こしている機関に巻き込まれ、吹き飛ばされた!

 どがどがどがあああん!

 蒸気機関の対応をしているのはアリアとザルクだけであった。
 そのアリアが動いていない今、近隣にある機関が徐々に爆発して行く。

***

 アリアよりも悲惨だったのは、アンジェリカだったかもしれない。

 彼女は、戦闘開始直後から、ひたすら、説得を続けていた。

『機械を壊しても、社長に逃げられてしまったら『多少の痛手』で終わってしまいますわね? ですから、機械を壊すのではなく、会社を潰すほうが、有意義ではありませんか?』

 民衆は暴力で答え返した。アンジェリカがまた狙撃される。

『皆様には、証言を! この会社の不法行為について、包み隠さずお聞かせくださいまし!』

 民衆は耳を傾けてくれない。暴徒たちは彼女を殴るわ、蹴るわ、斬るわ、叩くわ、散々だ。

『……わたくしが、責任をもって、……かの悪を、罰して差し上げますわ……!!』

 アンジェリカの必死の訴えは届かない。暴徒たちは彼女を担いで、爆発寸前の蒸気機関に向かって、放り投げた!

 どがががああああん!!

 派手な爆発が起こり、アンジェリカは勢いよく被爆した。
 英雄の欠片を燃やしつつも、彼女はまだあきらめていない。

『民を、守るのは……わたくしの、役目……。どうか……!!』

 カノンは相手をしていた最後の一人を倒した後、アンジェリカに駆け寄った。
 そして、満身創痍の彼女のもとに膝をつき、涙ながら訴える。

「事情は聞いたよ! 皆が辛い目に遭ってきたことはわかった。でも、だからと言って工場を爆発させたりして良い訳ないじゃない! 結果は手段を正当化しないんだよ。何より皆は、自分の家族に人を殺したことを自慢できるの?」

 負傷しているラメッシュも、既に動かなくなったアリアを肩に抱えて最後の説得に出る。

「ふぅ、自由騎士のワタシたちを……ぼろぼろにして気が済んだか……? このお嬢様方を見てみなさい……。こんなになってまで……アナタ方を説得していたんだ……」

 ところで、戦闘は既に佳境を超えている。
 爆発していない蒸気機関はあと数台残すのみで、暴徒も残るところあと何人もいない。
 あとは……。

「うわあああん! 騎士様、ごめんなさい!」
「ああ、俺たちはなんてことをしたんだ!」
「もう降参しましょうよ! 無意味だわ!」

 民衆は、次々と泣き崩れ、投降して行く。

 対戦相手らを倒し終え、疲れ果てたザルクも出て来た。

「正直、ストライキはわかるし、この工場が酷い待遇だったってのもわかる。とはいえ、ちょいと考えなしに動きすぎたな? 蒸気機関が爆発しまくったらお前たちもただじゃ済まなかったし、ここら一帯も爆破被害で死傷者が多く出ただろうな? 間に合ってよかったぜ!」

 蒸気機関室の鎮圧には成功した。
 自由騎士側に被害が出たものの、最後は暴徒ら全員が降参し、大爆発も免れたのであった。

●社長室

 ヒルダたちは部屋に入った途端、阿鼻叫喚の地獄絵に驚いた。
 ブラックマン社長に恨みを持つ社員20人がみんなで彼をぼこぼこにしていた。

「そこまでよ! 全員、手を挙げて投降して!」

 銃口を向けているヒルダに答え返す者は誰一人いない。
 皆、社長に恨みを晴らすことに全力だ。

「ローラにサブロウタ。社長の保護をお願い!!」

 それだけ後方の仲間たちに頼むと、ヒルダは2丁銃を抱えて敵陣に流れ込んで行く。
 地獄絵をさらに地獄にするかのような、弾丸の嵐が暴徒たちを襲う!

「な、なんだ?」
「うぎゃあ!」

 20人はいただろう暴漢たちは5人削られた。
 逆上した10人がヒルダを迎え撃つ!

 銃撃戦が開始された頃……。
 ローラとサブロウタは、混乱に紛れて、社長付近までこっそりと接近することができた。

 5人の暴徒が今でもひたすら社長をぼこっている。
 サブロウタが前に出た。

「あのお? お忙しいところすみません! この中に、リーダーって、いらっしゃいます?」

 あまりにも呑気な問いに犬のケモノビトの青年が顔を上げる。

「ん? 何? 今、忙しいのがわかんない?」

「イ・ラプセルは比較的平和な国です。だから日常生活の不満がすぐ出てしまうのですね……。戦争によって食べる物も住む場所もない人々がいる中、仕事での待遇程度で争うなんて、なんとも悲しい気分になりますね?」

 サブロウタの説得にリーダーのジョンは、かっとなった。
 社長を手放して、今度はサブロウタの襟をつかむ。
 他の4人も皆、サブロウタを囲んだ。

「もういっぺん言ってみろ!」
「はい……。そう、そう、ボクと目を合わせてお話しませんか?」

 ぎゅいん!
 サブロウタの眼が赤く光り、ジョンはふらり、ときた。

『ねえ? もうストライキなんて止めませんか?』
「そ……、そうだな? うん、止めようか……」

 取り巻きの4人が焦った。
 リーダーは今になって何を言っているのだ?

 ヒルダが暴れ、サブロウタがリーダーたちの相手をしている最中……。
 ローラは、ぼこぼこにされた社長を癒しの光で介抱していた。

「はい、起きて! もう大丈夫なはずだから!」
「うう……。すまない、ローラちゃん! ありがとう……」

「ねえ、業突く張りなブラッキーさん。ちゃんとみんなに謝ったら? これに懲りて、もう二度としないってね? もし繰り返すようならば……ローラ相手に散々ヤってきた変態プレイの数々を公表とかしちゃうよ?」
「ヒー!! ローラ様! どうかそれだけは!!」

***

 10対1であってもヒルダは善戦していた。
 それでも時には……。

「きゃ!!」

 撃たれることもあれば、打撃をくらうこともあった。

 敵勢もじわじわと削られて行く。
 残すところ数人というところで……。

「みんな! もう止めようこんなこと!」

 リーダーのジョンが止めに入った。

「すまなかった! この通りだ、許してくれ!」

 ブラックマンが土下座して社員に謝った。

 最初は、サブロウタやローラの力で彼らは言うことを聞いていたのかもしれない。
 だが、工場がめちゃくちゃになり、暴力で色んな人たちが負傷していく現実を受け止めるのが……。辛くなり始めていた。

 リーダーの降参、社長の謝罪があり、戦闘していた者たちも武器を捨てた。
 ヒルダは皆に訴えかける。

「怒りに任せて、自分や家族、みんなの生活や将来を台なしにするなんてバカげてるわよ!」

 ごもっともです、返す言葉もありません、申し訳ありません、と社長や労働者たちは次々と謝り始める。
 どうやら、社長室の鎮圧も無事に完了だ。

 ブラックマン工場のストライキ事件はこうして幕を閉じたのである。

●後日談

 自由騎士の活躍により事件の被害は最小限に防げ、社長、副社長、社員らは逮捕された。
 事件の記録はマスコミや劇団アマリリスの演劇でも民衆に啓蒙されたのであった。

 後日、この事件の判決はイ・ラプセルにとって大事な意味を持つことになる。
 ストライキに関わった者たちが内乱罪で死刑や無期懲役にならなかったのも、自由騎士たちが証言台に立ち、情状酌量を求めて争ったからだとも言われている。

 了

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ブラック社長のお友だち』
取得者: ローラ・オルグレン(CL3000210)
『劇団カリカチュア』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)

†あとがき†

初ハード・シナリオにお付き合い頂きありがとうございました。
皆さんのお陰で、事件が無事に治まりました。

MVPはアンジェリカさんへ。
戦闘するよりも、ぼろぼろになってでも全力で説得を続けたあなたへ。

称号は、ローラさんとカノンさんへ。
ローラさん、まさかのブラック社長と夜のお友だちでした!
カノンさん、演劇の力でブラック工場の悪を暴きました!

マギスチのどこかで皆さんと再会できることを祈っています。
FL送付済