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この依頼の参加者はほぼ確実に頭がおかしくなります



●らめぇ、こんなのおかしくなっちゃうぅ~!
 唐突だが、少しずつ春が近づいている。
 いやしかし、今はまだ真冬。
 季節的に見ても最も寒さが厳しい時期だろう。
 そのように言う人が大半かもしれない。
 実際その通りだ。
 一年で、一番寒い時期は今頃なのだと、毎年毎年冬なるものを経験している人類諸君はそのように言うに違いない。
 それでも、主張せざるを得ない。
 春は近づきつつある。
 恐怖のくしゃみ・せき・鼻水・目のかゆみ・その他もろもろの症状と共に。
 そう、花粉症の季節が、もうすぐやってくる。

「はくしょん」
 男は、真顔ではっきりとそのように発音をした。
 最初の「は」の発音から、最後の「ん」の発音まで、全てはきはきとした発音だった。
「はくしょん」
 また男は、そのように発音した。
 男の名はジョセフ・クラーマー。あまり表情を変えない説教坊主であった。
「最近、くしゃみが止まらぬ」
「それくしゃみなのか?」
 集められた自由騎士のうちの一人が、当然すぎる疑問を彼に投げかけた。
 しかし、問われたジョセフはじろりと相手を見て、首をかしげた。
「あくびに聞こえたかね?」
「いや、発音はくしゃみだったけど……」
「ではくしゃみではないか」
「あれ、こっちがおかしいの?」
「はくしょん」
 ジョセフがみたび、くしゃみ(仮)をして、ようやく本題に入る。
「実はアデレードの近くにある村がイブリースに襲われるという予知が出た。皆にはこれの対処をしてもらいたい。村が襲われれば、大きな被害が出るとのことだ」
「ほぉ、イブリース……」
 国家間の戦争が長らく続いているが、それとは別に人々の脅威となるもの。
 それが、イブリースである。
 発生の原理などは一切不明だが、それが国民の安寧を脅かすものであることに間違いはなく、発生したとなれば、自由騎士が出動するのも当然のことであった。
「一体、どんなイブリースなんだ?」
 尋ねられて、ジョセフは答えた。
「スギイブリースだ」
「……杉?」
「うむ。そのスギだ」
「あの、真っすぐ長い木か?」
「うむ。根っこを足のようにして地上を移動するらしい」
「スギ……」
 この時点で、自由騎士は嫌な予感を覚えた。
「このスギイブリースだが、攻撃方法は一つだけという単純な相手だ」
「一つだけか。だったらそこまで危なく――」
「スギイブリース花粉を撒き散らす」
「待て」
「どうした?」
「スギイブリース花粉なのか?」
「うむ。スギイブリース花粉だ。これを吸い込むとだな――」
「吸い込むと?」
「スギイブリース花粉症になってしまい、くしゃみ・せき・鼻水・目のかゆみ・動悸・息切れ・スリップダメージ・感度3000倍(推定)・頭がおかしくなる、などの諸症状が……」
「待て」
「どうした?」
「頭がおかしくなるって何だ?」
「言った通りの症状だ。花粉が脳に回って頭がおかしくなり、恐るべき奇行に走る」
「こっわ」
 自由騎士は自分の頭がおかしくなったところを想像し、肝を冷やした。
「スギイブリースは二体だけらしい。いや、二本か? まあいい、とにかく倒せば終わりだ。スギイブリース花粉症もイブリースを倒せば消えてなくなるはずだ」
 花粉対策はバッチリ決めていかなければ。
 そう決意する自由騎士達であった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
吾語
■成功条件
1.スギイブリース×2を倒す
大型シリアス依頼が続いたので堪忍袋の緒が切れて頭がおかしくなった吾語です。
今回は参加する皆さんにもちょっと頭おかしくなってもらおうと思います。

※このシナリオは「あなた、覚悟してきてる人ですよね。このシナリオに参加するってことは自分のキャラがどう扱われても構わないっていう覚悟をもってきてる人ってことですよね?」という方向けのシナリオです。

◆敵
・スギイブリース×2
 根っこを足のようにわさわささせて地上を移動するイブリース化した杉。
 デカイ、長い、頑丈。花粉撒き散らす。以上!
 直接戦闘力はありません。
 しかし、撒き散らすスギイブリース花粉によって地獄を生み出します。

 ・スギイブリース花粉
  スギイブリースの花粉。
  吸い込んだ者はスギイブリース花粉症になる。
  この花粉症は普通の花粉症の効果+動悸・息切れ、
  さらにスリップダメージ(ポイズン2相当)、
  全身の感度3000倍(推定値)、
  頭がおかしくなる(読んで字のごとく。頭がおかしくなる)、
  などの症状が出る。スギイブリースを倒せば上記症状はすべて消える。

※「頭がおかしくなる」について
 プレイングにどうおかしくなるか記載したらそれを参考にします。
 記載されない場合は吾語が全身全霊をもってキャラクターを崩壊に導きます。
 なお「こういう扱いはNG」というモノがあれば、それもプレイングにお願いします。

・戦場
 広い平原。特に記すことはありません。
 村からは遠いので花粉が風に乗って村に行くということはありません。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年02月16日

†メイン参加者 8人†



●もうダメだ、おしまいだ
 最初から、クライマックスだった。
「空気に、色がついてる……!?」
 スギイブリースがいる場所に到着した自由騎士が見たものは、『本音が建前を凌駕する男』ニコラス・モラル(CL3000453)の言葉通りの景色だった。
 わっさ~。
 わっさぁ~~~~。
 二体のスギイブリースが、根っこを足代わりにして歩いている。
 しかし当然、その長い体は左右に揺れて、そのたびに茂った葉から花粉が散っていた。
「これは……、普通にタチが悪いな……」
 色を持った空気を前に、ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)がわずかにおののく。
 そんな中――、
「ハァーイ! ここで今日の商品を紹介ヨー! 取り出したるはこのマスク、花粉用に特別に作ったマスクネ! 本当なら原価も考えてそれなりにもらうところだけど、なななななな、ナント! 今回はみんなにタダで提供するネ! おとなしくアタシに実用データえお提供するといいネ!」
 『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)が大声で言って手に持ったマスクを掲げた。
 なお、飛ぶように売れた。皆、花粉の恐怖は知っているようだ。
「ふむふむ、こういうとこだと煽れば売れるネ。まずは有用なデータ取れたヨ」
 鬼のようなことを言うが彼女は商売人。つまりは鬼なのだった。
 さて、こうして対花粉症マスクを手に入れた自由騎士達だが、マスクさえ手にできればOK勝ったも同然だ。もはや我々の勝利は決まったも同じ、突撃だ!
 とはいかなかった。
「……入って大丈夫なのでしょうか、あの花粉色の空気の中」
 『パスタ宣教者(ゴブリン史)』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がさすがに警戒する。マスクしていても、やっぱり不安なものは不安だった。
 しかしそこに、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)が敢然と立ちあがる。全身重武装の彼は、左右に揺れるスギイブリースを前に叫んだ。
「待てよ、樹木のイブリース! おまえがいるとみんなが悲しむ。そんなの許さない!」
 何と雄々しい叫びであろうか。
 何と頼もしい騎士であろうか。
 自由騎士達は、ナバルのこの叫びに心を熱くし、何人かは拳を握った。
「こんなものが村に行ったらと思うと、イヤな予感しかしないな。一気に片付けよう」
 『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)がスラリと軍刀を抜き放つ。
「よーし、やってやるもんね!」
 『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は両の拳を打ち合わせ、
「大丈夫、私とて自由騎士。花粉などに絶対に負けたりはしないさ!」
 『永遠のアクトゥール』コール・シュプレ(CL3000584)も自信ありげに笑った。
「行くぞ、みんな!」
 ナバルを先頭に、自由騎士達がスギイブリース目指して一斉に突撃する。
「「「うわ――――ッ!!?」」」
 そして彼らは頭がおかしくなった。

●来いよ、何処までもクレバーにおかしくなってやる
 それでもまだ、最初の方は良かったんです。
「うおお、見つけたぜスギイブリース! 俺が、俺達が自由騎士だー!」
 まずはナバルが突っ込んでいった。この時点ですでにやや頭がおかしい。
「俺はファランクスで防御力を上げつつ、ダブルカバーリングで味方をガードだ!」
 叫びながら、彼がやったのはシールドバッシュだった。
 ブッ叩かれたスギイブリースが激しく左右に揺さぶられる。
 わっさ~。
 わっさ~~~~。
 空気に混じる花粉の色が、濃くなった!
「ファランクス! ファランクス! ファランクス! ダブルカバーリング!」
 シールドバッシュ!
 シールドバッシュ!
 シールドバッシュ!
 シ ー ル ド バ ッ シ ュ !
 花粉が、いっぱい飛びました。
「おお、凄いネ! 花粉飛び飛びヨ! でも全然苦しくないヨ! このマスク、花粉対策にバッチ――、っくしょい! っくしょい! っっくしょい! ……よし、ダメだネ!」
 ルーがマスクの売り出しを諦めた瞬間だった。
「それでは私も、ばっちり戦いましょうねー」
 今度は、アンジェリカがスギイブリースに向かっていく。
 彼女の持っている武器は巨大だ。そして、それを振り回せばすごい威力だ。
 ガッツン!
 当然、スギは左右に揺れて、花粉が舞い散るワケだ、これが。
「あら、あらあら。あらあらあらあら。っくしゅ」
 アンジェリカのくしゃみは可愛かった。
「うおおおお、いくよいくよいくよいくよー!」
 敵が全く攻撃手段を持たないのをいいことに、今度はカーミラが突っ込んでいった。
 彼女は呼吸法と自己暗示によって肉体のリミッターをある程度解除し、そこに得た力を使ってスギイブリースをバッコンバッコン叩いていった。
「っくしょ! くしょい! ぶぇ~っくしょい! とくらぁ!」
 殴り方も派手だが、くしゃみもこれまた派手である。オッサンか?
 そして、今回参加している中で唯一のオッサンはといえば――、
「オイオイ、どいつもこいつも何やってんだァ? バカかよ!」
 舌打ちをしながら、ニコラスが癒しの魔導を行使する。
 彼は今回唯一のオッサンであり、そして回復役であった。
 すでにスギイブリース花粉によって頭おかしくなりかけている仲間達を見ながら、彼は魔導によって癒しをもたらした。
 ――スギイブリースに。
 はい、殴られた分だけ治りました。そして花粉が飛び散ります。
「まだ足りないかァ!? よーし、おじさん大盤振る舞いにガッツリとヒポクラテスの誓いでもいっとこうか! しかも二連で! 三連で! そーれ治れ治れー!」
 こうして、オッサンのMPは三分と経たずに無くなり、回復役としての役割を果たしたニコラスには、唯一のオッサンという役割しか残らないのだった。
 彼もちょっと頭がおかしくなっているから、仕方がないね(強弁)。
「ああ、こんな……、こんな……!」
 次々に引き起こされる自由騎士達の奇行に、コールはただただ戦慄した。
 ここで顔を青ざめさせているのだから、彼女はまだまともなのだろう。
 しかし、まともだからこそ今目の前にある光景は見るに堪えないものだった。
 舞い散る花粉。
 色のついた空気。
 目立ち始めた自由騎士達の狂気。
「それでも、負けないと言ったんだ!」
 だがコールは退こうとはしない。彼女もまた、自由騎士であった。
「花粉対策に用意しておいた――」
 言ってコールが取り出したのは、花粉用の秘密兵器!
「この蜂蜜があればオールオッケーさ!」
 そして彼女は、持ってきた蜂蜜をなめるのではなく、自分の頭にブチまけた。
「あ、ゃだ……、ぬるぬる、する……!」
 やっぱり、彼女も頭がおかしくなっていた。
「……まずいな」
 つぶやいたのは、ウィルフレッドだった。
 間一髪、空を舞うことで花粉から逃れていた彼だったが、それでも少し吸い込んでしまったらしく、目のかゆみと感度3000倍が徐々に押し寄せつつあった。
 特に怖いのが、感度3000倍だ。
 すでに、敏感になりすぎた肌がさきほどからピクピク痙攣してる。
 くすぐったいのだ。風どころか、ちょっとした空気の流れ一つで体が反応してしまう。
「む、むむ……、くふぅ……、お。おぉ……」
 ヤバかった。これはヤバい。イイ。とてもイイ。
 もしこの場に愛すべきふわもこアニマルがいたならば、ああ、いたならば!
 と、そんなことを考えてしまう程度には、空気の触り心地がマジヤベェ。
 そんな彼の視線は、アンジェリカを捉えて離さなかった。
 彼女はケモノビトである。しかも、かなりケモケモしている感じのケモノビトである。
 その身、間違いなく、ふわもこッッッ!
「う、ぉぉ……。ぉぉぉ……!」
 空中で、彼の体は震えた。ガタガタと激しく震えた。
 もふりたい。心底もふりたい。もふってもふって、ハグハグしてすりすりしたい。
 感度が超上がっている今ならば、そのふわもこふわ×3000もこ×3000になるのだ。何だそれは楽園か。神はスギ花粉にこそ宿っているのか。
 しかし、彼に残った一握りの理性が「あきまへん」と彼に訴えた。もしアンジェリカにハグを敢行すれば、その先に待っているのは物理的にDIE(だぁ~い)、のち、社会的にDEAD(でぇ~っど)である。このシナリオ唯一の重傷者は確実だろう。
 そんなことになるくらいならば――――!
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ」
 ウィルフレッドは、自ら花粉空気の中へと飛び込んでいった。中途半端に理性や欲望を残すくらいなら、頭おかしくなってしまえばいいとぴう結論だった。
 そしてただ一人、かろうじて花粉空気の圏外に逃れていたグローリアは呟いた。
「みんにゃ、何と戦っているんにゃ……?」
 ――彼女も、頭おかしくなりかけていた。

●変な花粉~、だから、変な花粉~。花ッ粉だ!
 さて、自由騎士達はフリーダムという意味での自由騎士になりつつあった。
 自由。
 自由って何さ?
 誰にも俺は止められない。って意味さ!
 ヒャッハァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――! で、ある。
「いや、果たしてそれは許されることなのだろうか。汝らもよく考えてみるがよい。例を出そう。片やソラビト。できたての煮えたぎるシチューが入った鍋を両手でつかみ、今まさに歩き出そうとしているところだ。しかしソラビトの目の前にはこれまた熱く煮えたぎったブイヤベースが。ソラビトが足をつまづかせればブイヤベースとシチューのどちらが先にソラビトの顔を焼き尽くすことになるのか。これはつまりそういう話で――」
 左右に揺れるスギイブリースに向かって、頭おかしくなったジョセフ・クラーマーが頭のおかしい説法を続けていた。そのメタリックな左腕には、涙と鼻水を垂れ流しながらウィルフレッドがすがりついて、
「ぬおおおおおおおおおおおおお、つるつるの、すべすべの! つるつるのッ、すべすべがッ! つるつるのッッ、すべすべでェェェェェェッッ! ふわもこなんて、ふわもこなんて大キ、大キラ、大――、大々々々好きだァァァァァァ――――!」
 必死に何かを堪えながら、頭おかしくなっていた。
「いけません。これは、いけません!」
 それを見ていたアンジェリカが、厳しい顔つきで深くうなずく。
 こんな時に、彼女は自ら果たすべき使命を心得ていた。
 麺!
 油!
 皿!
 ソースのもと!
「パスタですッッッッ!」
 叫ぶ彼女の目は、血走っていた。
「いけません。これはいけません。世界には悪徳が満ち満ちています。罪が罰を呼び、西から昇ったお日様が東を経て北に沈む。右の頬を殴った者は痛みを喜び左の頬を切り落として猟奇的に微笑む。そんな社会は間違っています。だからパスタです!」
 彼女も、順調に頭がおかしくなっていた。
 しかしその割に、始めた調理の手つきがやたら手慣れている。上手い。
「ここで煮立った湯に、パスタ麺と、隠し味の花粉を一握り!」
 そして早速台無しだった。
「ソースの方も下ごしらえに花粉を少々。アクセントに花粉を一さじ。味を引き締めるのに花粉を三つまみ。最後の一手間に花粉を少しだけ」
 パスタソースに見せかけて、出来上がったのはただの花粉汁だった。
 さらにゆで上がったパスタ(花粉)を皿に盛り、パスタソース(花粉)をかけて、上から粉チーズの代わりに花粉をパラパラ。
「できました、いただきますわ! ズルル! ズルルル! ズビビビビ――! ハウッ」
 アンジェリカが完成したパスタ(花粉)を思い切りすすり上げると、突然、それまで闇に閉ざされていた意識に大きく光明が射し込んだ。
「見えます。見えますわ……。ああ、虚無とは……、パスタとは……」
 涙を流しながら、ついでに鼻からパスタをもしつつ、アンジェリカは倒れた。花粉の過剰摂取による呼吸困難が原因だった。
 一方そのころ、誰もスギイブリースに挑んでいなかったワケではない。
「とりゃあああああああああ!」
 と、いう勇ましい掛け声と共に、カーミラがスギイブリースに体当たりをカマす。
 強烈な一撃に、イブリースの巨体がミシミシ揺れた。
「うーん……」
 そしてそれを見上げ、彼女は言う。
「むきー! 暑い! さっきからむずむずする!」
 そうなのだった。さっきからどうにも体が火照って仕方がなく、その上、どういうわけかむずがゆくして仕方がないのだ。なので彼女は、
「脱ぐ!」
 また一枚、着ているものを脱いだ。
 ちなみに今脱いだのは、上の下着。
 上着ではない。上の下着である。つまり、おっぱいまるだしになりました。
「うああああああん! かゆいの止まらないィィィィィィ!」
 さわぎつつ、カーミラは「おまえのせいだー!」とスギイブリースに八つ当たりに向かった。彼女のむずがゆさは言ってしまえば感度3000倍なので、間違ってはいない。
 しかし、カーミラは気づいていない。
 人の体というものは、熱を持てば持つほどに感覚は鋭敏になっていく。つまりは――、
「うはァ、ん……! かゆぃぃ、やだ。やだァ、もう、何なんだよぉぉ~……!」
 そろそろ「らめぇ~」とか言い出しそうな調子であった。
 ――閑話休題。
 ところで、咳やくしゃみが続けば、当然、のどを痛める。
 常人よりも丈夫なオラクルとはいえ、イブリース由来の花粉症なのだから油断はできない。だが、のどを痛めたときに頼りになる料理があるのはご存知だろうか。
「つまりそれが、ハチミツ大根だ!」
 誰もいない空間に向かって得意げに叫んだのは、新進気鋭の大根農家ナバルであった。
「調理法は簡単だ! ここにある大根に――」
 と言って、彼が掴んだのはコールの足首であった。
「ふぁ?」
 花粉ですっかり意識がぼんやりしている彼女は、地面にへたばっていた。そこをナバルに足を掴まれ、彼の方に目をやる。すると、頭がおかしくなっている彼が見えた。
「ちょっと小ぶりな細身の大根だな。これに、ハチミツをぶっかける!」
 ナバルは、コールの太ももに近くに転がっていた誰かが持ってきたハチミツをブチまけた。そのときの、ヌルヌルとした感触が感度3000倍と相まって、コールの性感をこれ以上なく刺激して、彼女は瞳に涙をにじませながらか細い声で鳴いた。
「ぁ……、あ――、ャ……。く、くすぐ……、ぅ、ンッ……!」
「ハチミツはかけるだけじゃなく、馴染ませるためにこんな風にこすりつけて――」
「ひゃ……ッ、だ、だめ、ェ……。はぅ。ん、ンン……ッ」
 蜜まみれにされた太ももを優しくなでられて、コールは体を激しく震わせた。
「おお、イキのいい大根だぜ!」
 ナバルは朗らかに言って、さらにヌルヌルになった手で大根(ふともも)をすりつける(マッサージする)。するとまたコールが「ひゃぁん……!」と弱々しく鳴いた。
 ナバル作、ハチミツ大根の完成はまだ時間がかかりそうだった。
 みんな大体こんな感じで花粉でブッ壊れてしまっているが、しかし、最も壊れ方がひどかったのは、グローリアであろう。
「にゃにゃにゃ! んぁ~、んにゃにゃ! んにゃにゃにゃ~!(絶対に翻訳してはいけないレベルの罵詈雑言)」
「うおおお! ぬほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! そうやって俺を襲ってエロいことする気なんでしょ! 牛の本みたいに! 牛の本みたいに!」
「にゃにゃ! にゃ~にゃ! んにゃにゃにゃにゃにゃ~!(翻訳したらのちのち発言した本人が自殺しても仕方がないレベルの悪口雑言)」
「いやぁぁぁぁ、(生きる権利を)犯されるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 追っているのはグローリア。
 彼女は手に持ったサーベルを振り回し、崩壊した言語中枢をそのままに罵倒を続けていた。一方で、逃げているのはニコラス。彼は――、パンツ一丁です。
 一見つながりがなさそうなこの二人、一体、何があったのか――、
 ここで全てを知る証人にして商人ルー・シェーファーさんの証言をお聞きください。
「ニコラスのオジサン、アタシとグローリアを交互に見て言ったヨ、『スイカと、乗せる皿か』って。そしたらああなったヨ。……ご愁傷様ネ」
 何のことかはわからないが。
 全くもって何のことかはわからないが。
 あたまがおかしくなってしまったニコラスは殺されても文句が言えないことをしてしまったのだろう。全く本当に、何のことかはわからないが。
「さて、そろそろ時間ネ……」
 そう言って、ルーは腰かけていた場所から立ち上がった。
 彼女は、マスクをしていた。それは商品の試作品として作ったものの余りだが、結局、思っていたほどには役に立たなかった。
 今もこうしてルーが理性を保てているのはマスクのおかげだが、しかし、そのマスクもこれが最後。彼女にも、いよいよそのときが迫っているのだ。
「こうして、こうネ……」
 ルーは何もない方向へにこやかにダブルピースをすると、息を大きく吸い込んだ。
 花粉も一緒に吸い込んで、ルーの肢体がビクンと震える。そして、
「頭おかしくは、ならない、ヨ……!」
 襲いかかる感度3000倍に眼と鼻と口から汁という汁が垂れる。
 これが彼女の決断。
 頭おかしくなってワケも分からず醜態を晒すくらいなら、一発イキでさっさと逝く。
 まさにこれこそ、勇者の決断。
 かくして商人ルー・シェーファーは、アへ顔ダブルピースのまま、直立不動で失神した。
 のちに彼女は語る。
「――瞬間感度3000倍、凄かったヨ」
 と。
 なお、スギイブリースは全裸のカーミラが半泣きになりつつやっつけた。
 花粉症には気を付けよう!

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『アへ顔ダブルピース大往生』
取得者: ルー・シェーファー(CL3000101)
『ハチミツ大根ではない』
取得者: コール・シュプレ(CL3000584)
『新進気鋭の大根農家』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)

†あとがき†

お疲れさまでしたー。
みなさん、いい具合に頭おかしくなってましたね!

書いてて楽しかったッス!
また次の機会にお会いできればと思います!
FL送付済