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【逆天螺旋】余命、100分

●おとぎばなしのまほうのとう
せきぞうのきしをやっつけたもりのえいゆうは、さらにとうをおりた。
わるいまほうつかいが、とうのそこにあるすごいまほうをねらっているからだ。
とうのそこのすごいまほうは、なんでもねがいがかなうまほう。
むかしむかし、せかいをつくったかみさまがせかいといっしょにつくったまほう。
でも、すごいまほうはすごすぎて、みんながつかいたいといいだした。
だから、せかいをつくったかみさまはとうのそこにしまいこんだ。
そしてながいじかんがすぎて、だれもがそれをわすれたはずだった。
でも、どこからかあらわれたわるいまほうつかいはとうのひみつをしっていた。
わるいまほうつかいがとうのまほうをねらっている。
かみさまからおつげをうけたもりのえいゆうは、とうのそこへとおりていく。
わるいまほうつかいにすごいまほうをわたしてはいけない。
きっとみんながとてもかなしむことになるだろう。
もりのえいゆうはとうをおりる。
そしてもりのえいゆうは、じぶんとたたかうことになった。
●余命、97分
パーヴァリの体が、石化を始めていた。
「……ハハ、僕は彫像になるみたいだ」
「バカなことを言うな。さっさと底まで下りるぞ」
笑いながらも気弱なコトをいうパーヴァリを、背負う自由騎士が叱責する。
地上に戻っている時間はない。
ならば、この遺跡の底まで下りて、この先にいるであろうエルベ隊から解毒の手段を聞きだすか、それとも、塔の底に眠るとされる『究極の魔導』に縋るか。
いずれにせよ、パーヴァリの生存率は今、極めて低い。
その事実を噛み締めながら、自由騎士達は塔を降りていく。
通路の左右には、相変わらずの機械仕掛け。
真新しいようにしか見えない歯車が、ガリガリと音を立てながら回っている。
それは別の歯車を回して、どこかの何かへ、力を伝えている。
これが何なのか、そんなことを気にしている余裕も、自由騎士にはない。
塔は長く、降りていくだけでも時間が過ぎていく。
それはパーヴァリの命が削れていっているということでもある。
「まだか……!」
塔を降り続ける自由騎士の中に、焦りが大きくなっていく。
そんな中、ついにひらけた場所に出た。
「……ここは?」
広い、ドーム状の部屋だ。天井には魔導によるものと思われる灯りもある。
自由騎士達が入ってきた側の向こうに、閉ざされた両開き式の扉。
そして、扉の前には大盾とハンマーを携えた男と、ポールアクスを肩に担いでいる男。
「エルベ隊……」
見覚えのある自由騎士が、彼らを見て呟く。
「まさかとは思ったが」
「フィーア、やられたか」
盾の男――、ゼクス。
斧の男――、ドライ。
エルベ隊の二人は一瞬だけ悔しげな表情を浮かべて、すぐに顔を引き締める。
「だがどうやら、役割は果たしたようだな」
「ああ、ヤツのことだ。しっかりと時間を稼いだんだろうよ」
「ならば俺達がやるべきことは」
「うむ、何も変わらない。何人たりとも、この先には通さんよ」
言って、ゼクスが指を鳴らす。
すると天井付近の魔導の灯りがいきなり光量を増して、ドーム状の部屋をまばゆいまでに照らし出す。そして、カーブを描く壁面にも変化が生じた。
「これは、鏡……?」
部屋の壁全体が鏡となって、そこに立つ自由騎士達をいびつに映し返す。
直後、彼らは驚愕する。
鏡となった壁の向こうから、鏡像でしかないはずの自分達が抜け出てきたからだ。
さらに、自由騎士を驚かせたのはこれだけではない。
何かを飲み下したエルベ隊の二人の姿が、その場から消えてしまったのだ。
「自分自身と殺し合え、自由騎士」
せきぞうのきしをやっつけたもりのえいゆうは、さらにとうをおりた。
わるいまほうつかいが、とうのそこにあるすごいまほうをねらっているからだ。
とうのそこのすごいまほうは、なんでもねがいがかなうまほう。
むかしむかし、せかいをつくったかみさまがせかいといっしょにつくったまほう。
でも、すごいまほうはすごすぎて、みんながつかいたいといいだした。
だから、せかいをつくったかみさまはとうのそこにしまいこんだ。
そしてながいじかんがすぎて、だれもがそれをわすれたはずだった。
でも、どこからかあらわれたわるいまほうつかいはとうのひみつをしっていた。
わるいまほうつかいがとうのまほうをねらっている。
かみさまからおつげをうけたもりのえいゆうは、とうのそこへとおりていく。
わるいまほうつかいにすごいまほうをわたしてはいけない。
きっとみんながとてもかなしむことになるだろう。
もりのえいゆうはとうをおりる。
そしてもりのえいゆうは、じぶんとたたかうことになった。
●余命、97分
パーヴァリの体が、石化を始めていた。
「……ハハ、僕は彫像になるみたいだ」
「バカなことを言うな。さっさと底まで下りるぞ」
笑いながらも気弱なコトをいうパーヴァリを、背負う自由騎士が叱責する。
地上に戻っている時間はない。
ならば、この遺跡の底まで下りて、この先にいるであろうエルベ隊から解毒の手段を聞きだすか、それとも、塔の底に眠るとされる『究極の魔導』に縋るか。
いずれにせよ、パーヴァリの生存率は今、極めて低い。
その事実を噛み締めながら、自由騎士達は塔を降りていく。
通路の左右には、相変わらずの機械仕掛け。
真新しいようにしか見えない歯車が、ガリガリと音を立てながら回っている。
それは別の歯車を回して、どこかの何かへ、力を伝えている。
これが何なのか、そんなことを気にしている余裕も、自由騎士にはない。
塔は長く、降りていくだけでも時間が過ぎていく。
それはパーヴァリの命が削れていっているということでもある。
「まだか……!」
塔を降り続ける自由騎士の中に、焦りが大きくなっていく。
そんな中、ついにひらけた場所に出た。
「……ここは?」
広い、ドーム状の部屋だ。天井には魔導によるものと思われる灯りもある。
自由騎士達が入ってきた側の向こうに、閉ざされた両開き式の扉。
そして、扉の前には大盾とハンマーを携えた男と、ポールアクスを肩に担いでいる男。
「エルベ隊……」
見覚えのある自由騎士が、彼らを見て呟く。
「まさかとは思ったが」
「フィーア、やられたか」
盾の男――、ゼクス。
斧の男――、ドライ。
エルベ隊の二人は一瞬だけ悔しげな表情を浮かべて、すぐに顔を引き締める。
「だがどうやら、役割は果たしたようだな」
「ああ、ヤツのことだ。しっかりと時間を稼いだんだろうよ」
「ならば俺達がやるべきことは」
「うむ、何も変わらない。何人たりとも、この先には通さんよ」
言って、ゼクスが指を鳴らす。
すると天井付近の魔導の灯りがいきなり光量を増して、ドーム状の部屋をまばゆいまでに照らし出す。そして、カーブを描く壁面にも変化が生じた。
「これは、鏡……?」
部屋の壁全体が鏡となって、そこに立つ自由騎士達をいびつに映し返す。
直後、彼らは驚愕する。
鏡となった壁の向こうから、鏡像でしかないはずの自分達が抜け出てきたからだ。
さらに、自由騎士を驚かせたのはこれだけではない。
何かを飲み下したエルベ隊の二人の姿が、その場から消えてしまったのだ。
「自分自身と殺し合え、自由騎士」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.階下に降りること
2.パーヴァリの救援
3.エルベ隊ゼクス、ドライの撃破
2.パーヴァリの救援
3.エルベ隊ゼクス、ドライの撃破
自分との戦い!
どうも、吾語です。
今回は広い場所で自分自身と戦っていただきます。
さらにエルベ隊の二人が『透明化して』襲いかかってきます。やりにくい!
◆敵勢力
・自由騎士の鏡像
皆さんと全く同じ能力、装備、行動パターンを備えます。
また、仮に鏡像のHPを0にしても新たな鏡像が壁から出てきます。
要するに無敵のお邪魔キャラです。
鏡像を狙う場合、25~50%の確率で本物を攻撃してしまいます。
何も対策を取らなければ50%の確率です。
何らかの対策を取り、それが有効なら最大で25%まで下がります。
なお、ゼクスとドライを倒せば鏡像は消えます。
・エルベ隊のドライ、ゼクス
ポールアクスを持っている方がドライ、盾とハンマー持っている方がゼクス。
二人は錬金術の秘薬を飲むことで一定時間透明化しています。
ただし効き目は不安定であり、目を凝らせばかすかにその姿を視認できます。
あ、この「目を凝らせば」の前には「リュンケウス・急を使って」がつきます。
彼らを個別で狙う場合、命中率は1/16に激減します。
リュンケウスの瞳を使えば序で1/8、破で1/4、急で1/2まで上げられます。
また、この状態のエルベ隊からの攻撃に対しては回避率が半減します。
秘薬には持続時間があり、30分で効果が切れます。
まぁ、待てるかどうかは別の話ですが。
それでは、今回も皆さんには地獄に付き合っていただきます。
プレイング、お待ちしています。
どうも、吾語です。
今回は広い場所で自分自身と戦っていただきます。
さらにエルベ隊の二人が『透明化して』襲いかかってきます。やりにくい!
◆敵勢力
・自由騎士の鏡像
皆さんと全く同じ能力、装備、行動パターンを備えます。
また、仮に鏡像のHPを0にしても新たな鏡像が壁から出てきます。
要するに無敵のお邪魔キャラです。
鏡像を狙う場合、25~50%の確率で本物を攻撃してしまいます。
何も対策を取らなければ50%の確率です。
何らかの対策を取り、それが有効なら最大で25%まで下がります。
なお、ゼクスとドライを倒せば鏡像は消えます。
・エルベ隊のドライ、ゼクス
ポールアクスを持っている方がドライ、盾とハンマー持っている方がゼクス。
二人は錬金術の秘薬を飲むことで一定時間透明化しています。
ただし効き目は不安定であり、目を凝らせばかすかにその姿を視認できます。
あ、この「目を凝らせば」の前には「リュンケウス・急を使って」がつきます。
彼らを個別で狙う場合、命中率は1/16に激減します。
リュンケウスの瞳を使えば序で1/8、破で1/4、急で1/2まで上げられます。
また、この状態のエルベ隊からの攻撃に対しては回避率が半減します。
秘薬には持続時間があり、30分で効果が切れます。
まぁ、待てるかどうかは別の話ですが。
それでは、今回も皆さんには地獄に付き合っていただきます。
プレイング、お待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
4個
8個
4個
4個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2021年02月24日
2021年02月24日
†メイン参加者 8人†
●余命、96分
自由騎士の判断は速かった。
「鏡像ならば、左右に差が出るかもしれないな。皆、腕に印を!」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、自由騎士に向かって叫んだ。
「……合言葉は?」
「最近あったアレでいいんじゃないか?」
指示のまま、右腕に布を巻いた『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)の質問に、『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)が適当にそう返す。その言葉に、ミルトスは「わかりやすいですね」とうなずいた。
「え、何、俺?」
話題に上がったのが自分のことと気づき、『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が自らの顔を指さす。
「そうらしい」
と、腕に布を巻きながら『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が返した。
ヨツカが自分の鏡像を見てみれば、何ということ、右腕には赤い布。
「リアルタイムで姿が写し取られていくということか。それに、左右の差もない。そこまで甘くは内容だな。……自分との戦闘か、望むところだ」
「皆さん、できる限り、早くお願いします!」
血の滾りを顔に表しつつあったヨツカだが、背後から聞こえてきたセアラ・ラングフォード(CL3000634)の声にその表情が厳しく引き締まった。
パーヴァリの体は、徐々に石化が進行している。
ここで時間をかけるわけにはいかない。改めて、自由騎士達はそう認識した。
「打ち破りましょう。そして前――」
言いかけた『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)の体が、唐突に吹き飛んだ。それは、見えない敵からの攻撃によるものだった。
「大丈夫かい?」
受け止めた『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が、答えを確かめないうちに癒しの魔導によってアンジェリカの傷を回復させる。
「問題はありませんが、なるほど、これは厳しいですね……」
復帰したアンジェリカが、よく目を凝らしながら辺りを見回すが、見えない敵と化したドライとゼクスの姿はまるで見つけられない。足音も、動く影すらも。
「来るぞ!」
一方、鏡から飛び出てきた自由騎士達の鏡像が、各々武器を構えて迫ってくる。
アデルが警戒を呼び掛け、己もまた突撃槍を構えた。
アデルが突っ込んでくる。アデルへと。
「なるほどな……!」
同じ形状の突撃槍が、真っ向からぶつかって耳障りな音を立てた。
「俺は自分が臆病なつもりでいたが、傍から見るとなかなかどうして、勇猛なようだ。こんなに一直線に突っ込んでくるとはな。……勉強になる!」
自分相手に力の限り押し合って、アデルは仮面の奥で苦く笑う。
鏡の向こうの自分と見えないエルベ隊。
上で戦った敵を思えば、彼らの目的は自由騎士の殲滅か、あるいは時間稼ぎ。
攻略にどれほどの時間がかかることになるか、すでに幾人かの自由騎士は避けられざる長期戦を予想し、肝を冷やしていた。
パーヴァリの死まで、あと――。
●余命、91分
――動かない。
戦いが始まってすでにそれなりの時間が過ぎた。
状況に何か変化があったかといえば、ほとんど何も変わっていなかった。
「――――」
鏡像のアンジェリカが、巨剣を振るう。
その膂力、その身のこなし、まさしくアンジェリカそのもの。
切り結ぶ相手は、アンジェリカ当人。
ガツンガツンと重い音を響かせながら、分厚い刃が互いを潰そうと激突する。
「……チッ、こいつは!」
外からウェルスが狙うが、ダメだ。まるで区別がつかない。
「アマノホカリで大手柄を挙げたのは!」
「ウェルス様ですね!」
と、片方のアンジェリカが叫ぶ。
そっちか、と、ウェルスは答えなかった方のアンジェリカを狙った。
しかし二人のアンジェリカは目まぐるしく動き、その位置も次々変わっていく。
「……そこっ!」
ウェルスが撃った一発が、鏡像の肩に食い込んだ。
見事命中。しかし、彼は小さく舌を打つ。狙ったのは心臓だった。
「ウェルスさん、来ています!」
そこに、セアラからの切迫した声。慌てて身を避けると、重い何かがすぐ頭上を過ぎていった。見えないが、何かはわかる。ドライのポールアクスだ。
「クソッ、目に見えないってのがこんなに厄介だとは――」
肩に、穴が空いた。
「グッ、おォ!?」
「――――」
それは、自分の鏡像による銃撃であった。
「……なるほど、そりゃあ、一息ついた瞬間なんて見逃すはずがないわな」
肩を抑えながら、ウェルスは苦笑する。
それは裏返せば自身の戦士としての優秀さの証明でもあったが、何も嬉しくなかった。
同時に、彼は己の甘さを痛感する。
敵の存在を知る技能。それによって姿を隠しているエルベ隊の位置を掴もうとした。
しかし、感じ取れなかった。まるっきり反応しなかったのだ。
見る以外の手段では、エルベ隊の位置を捉えることはできそうにない。
それは、ウェルス以外も実感していることだった。
「ダメだね、これは……」
呟いたのは、マグノリア。
生み出した猫型のホムンクルスと共に、戦場を俯瞰することでエルベ隊の位置を絞ろうとしたのだが、無理だ。これは、とてもではないが探していられない。
二組の自由騎士が入り混じり、激突するこの空間で、姿を消しながら同じように動き回っている二人の敵を探すのは、少なくとも自分には不可能だ。
そう結論付ける他はない。
「――――」
そして、立ちはだかったのは自分の鏡像。その足元には、ご丁寧に猫のホムンクルスまでいる。それを見た瞬間、ホムンクルスの鏡像が飛びかかってきた。
「ぐ……!」
後退するも、しつこく追いすがってくる。
自分も牽制にと、猫型ホムンクルスを自分の鏡像へと放つが、これでは到底、早期の決着は望めない。腰を据えてかからねばならないだろう。
「……参ったね、これは」
飛びかかってくる黒猫を己の武器で打ち払いながら、マグノリアは小さく息をついた。
戦いは、まだまだ決着が見えない。
●余命、86分
「アマノホカリの名探偵!」
「ウェルス!」
問いかけに答えたのは、まさに攻撃しようとしていた方。
ミルトスは一瞬で標的を切り替えて、鏡像のアデルを思い切り打ち据える。
が、これは防がれ、反撃の刺突をスレスレでかわす。
「動きのキレ、多彩な引出し、アデルさんそのままじゃないですか!」
「そこで俺を叱られても、そうだなとしか言えん」
殴りかかってくるミルトスの鏡像を突撃槍で受け止めて、アデルがボヤいた。
そこに――、チラリと揺らぐ影。
「アデルさん!」
「ああ、わかって、いる!」
言葉の最後と共に、放たれる強烈な突撃槍の一撃。
穂先が、何もない空間にぶつかって激しく鈍い音を立てる。
「……チッ」
舌打ちが聞こえた。
手応えと声からして今のはゼクス。盾を持った方か。
「退いたか。ヒット&アウェイに徹するつもりか」
「厄介ですね……。モロに、時間をかける戦い方じゃないですか」
「熱源探査も効かん。これは、そういう対策を取っているということか」
「尚更厄介ですね。目で見て確認するしかない、と」
「そういうことだろうな。こっちが考えることはあっちも考えるワケだ」
「最前線で生き抜く精鋭というのは、これだから……」
お互いに背中を合わせ、自分の鏡像と拳と槍を交えながら、アデルとミルトスが冷静に状況を分析する。だが内心、ミルトスは色々苦労していた。
「参りましたねー……」
今戦っているドライとゼクスも、上で戦ったフィーアのように命を賭してこの戦いに臨んでいるに違いない。ソレを思うと、どうにも――、
「……愉しくなってしまいそうか?」
ギクリとした。
背中越しに、アデルに本心を言い当てられたからだ。
「わかってしまいますか?」
「さほど付き合いがあるワケでもないが、戦場で肩を並べた回数だけは多いからな」
鏡像ミルトスの鋭いケリを槍で受け止め、アデルがカウンターを繰り出す。
「仕事を果たす分には何も言わん。好きなだけ愉しめ」
「意地悪ですね。私自身、自分のそういうところには困っているんですけど」
鏡像アデルの薙ぎ払いを跳躍してかわし、落下の勢いを利用して見る年が踵落としをお見舞いした。それが、鏡像アデルの肩に思い切り食い込む。
「困っているだけか。否定しない辺り、すでに諦めているんじゃないか?」
「そう思います? ……私としては、答えにくいところですけど」
打ち、防ぎ、蹴り、避けて、二人が二人の鏡像と互角の戦いを演じる。
そこに、今度はドライが迫った。
「えい」
気づいたミルトスが、傷口から吸い上げた血を、思い切りぶっかける。
一瞬、ドライの姿が血によって浮かび上がった。
「そこかっ!」
アデルが鏡像を無視して、全力の一撃をドライのみぞおちにブチ当てる。
「ガハッ、ァ……!?」
声。
しかし、その姿はすぐに消えた。
「……あらら、血も透明になっちゃいました」
「触れたものを透かす、魔導の薬品か何からしいな」
己の鏡像を相手にしながら、二人は至極冷静に状況を把握する。
常在戦場。数多の戦いを潜り抜けてきた二人にとって、戦いは緊急事態ではない。
だからこそ、共に実感する。
――この戦いは、長くなりそうだ。
●余命、81分
手の上で踊らされている。
それが、ヨツカが感じているこの戦いに対する感想だった。
徐々にではあるが、エルベ隊を捉えることができるようにはなってきている。
自分達も相応に傷ついてはいるが、敵もまた、無事ではない。
鏡像が邪魔をしてくるが、時間さえかければエルベ隊を追い込むことはできるだろう。
――時間をかければ。
ヨツカはチラリとパーヴァリを見た。
セアラと、衛生兵達に守られて、彼は苦しげに呼吸を繰り返している。
その首筋の一部が、灰黒色に変色し、肉ではなく石の質感に変わりつつある。
「……ここまでは、連中の思い通りにコトが進んでいる」
己の鏡像と幾重にも切り結び、景気のいい音を立てながらヨツカは苦い顔をする。
そこへ飛び込んでくるアンジェリカ。
「アマノホカリの大手柄!」
「――――」
答えない。――鏡像!
「そちらは私が」
と、後方より声が響いた。それこそは、本物のアンジェリカだ。
ヨツカ同士が鳴らす軽快な金属音の応酬に、今度はアンジェリカ同士の重く低い金属音が加わった。時折組み合わせが変わりもするが、音は見事にリズムを刻んだ。
「よぉ~、久しぶり。調子はどうだい?」
そこに、自分の鏡像に追っかけられてきたニコラスが加わる。
「うらぁ!」
彼が放った氷結の魔導が、鏡像アンジェリカの動きを一瞬止める。
しかし、鏡像ニコラスの魔導が、それを即座に癒して鏡像アンジェリカは解放された。
「見事な対応ですね」
「見事すぎてムカつくんだよ! あいつ絶対俺より判断力あるぞ!」
「……自虐なのか自賛なのか、難しいところだ」
笑うアンジェリカにニコラスが吼えて、ヨツカが首をかしげる。
一方で、対する鏡像三人にはいささかの動きもなく。だからこそ、ニコラスは息をつく。
「ま、あっちより俺の方が面白ェ自信はあるけどな」
「そうだな、ヨツカもニコラスはそこそこ面白親父だと思っているぞ」
「そこそこ……」
言っている最中に、ニコラスが突如動く。
彼は、その手に握っていたものを地面に撒くと、それがいきなりパキパキと鳴った。
「いるぜ、そこだ!」
「承知!」
「了解です!」
今まさに襲いかかろうとして来る鏡像に背を向けて、ヨツカとアンジェリカが同時に背後へと攻めかかる。長大な野太刀とアンジェリカの巨剣が、見事に交差した。
ガッ、という鈍い金属音。
それは、分厚い壁を叩いたかのような手応えだ。盾。それも、分厚い盾。
「――ゼクス!」
「だったら、そっちにいるのがドライってことだよなァ!」
床に撒いたモノが音を立てた別の場所。そちらへと、ニコラスが指をさす。
同時に発動した魔力が、そこにいた見えないドライを見事に捉える。
「……ッ、退くぞ、ゼクス!」
「しゃらくさい!」
怒りに満ちた声を残し、エルベ隊がその場から後退する。
直後、三人の鏡像が隙だらけの己をそれぞれ激しく攻め立てる。
「ぬう!」
「あいたた……」
エルベ隊を狙ったゆえに、自由騎士は己の鏡像に隙を晒してしまった。
しかし、エルベ隊に有効打を与えられた。それを思えば、この程度の対価は安い。
「今すぐ治すぜ」
傷も、まだ魔力が残っているニコラスの魔導によってすぐに癒された。
「ところでニコラス、何を撒いたのだ」
「米」
ヨツカが問うと、そんな答えが返ってきた。
「透明になった連中の位置を掴めるかなと思って、持ち込んできた米を撒いたんだが、ぶっちゃけこれは失敗。他の連中がしっちゃめっちゃか動く中で米なんてあっという間に散るしよぉ。割れる音だって、周りがうるさすぎて聞こえやしない」
「だから、全体に撒くのをやめて狙いを絞った、と?」
「そういうこった。こっちは成功したが――、米、もうねぇわ」
再び攻めてくる自分達を見据えながら、ニコラスが苦笑する。
「だったらここから先は、全力で頑張るしかないな」
「そういうこったなー。めんどくせぇが、仕方がない」
エルベ隊が離れたそこで、三人の自由騎士が、己の写し身を鋭く睨み据えた。
●余命、 分
このままでは敵の狙い通りになってしまう。
そう思ったのは、セアラである。
自分達と同等の力を持つ鏡像と、極めて捉えづらい二人のエルベ隊。
時間をかければ勝てる。
しかし、時間を稼ぐことが敵の狙いなら、それは結局相手の思う壺なのだ。
そして状況は敵の思う通りの流れで膠着しつつある。
エルベ隊は徐々にダメージを蓄積しているが、まだ健在だ。
何か、流れを変える一手が必要となる。
「――行きます」
セアラが動いた。
これまで、後方で回復役に徹していた彼女は、自ら戦域を離れて壁伝いに歩いて、部屋の奥にある大扉を目指した。当然、鍵はかかっているだろう。
しかし、ここで今までと違う動きをしなければ、負ける。それだけは認められない。
「私、奥に行ってきます!」
自ら声をあげて、セアラは一気に駆け出した。
このとき、エルベ隊はそれぞれ分かれて戦っていたが、共にセアラの動きに気づいた。
鍵は、自分達が持っている。
だが仮に、もしも、彼女が自分達の知らない解錠手段を持っていたならば――?
殊更慎重であろうとする最精鋭ゆえの、それは心理的な落とし穴であった。
「ドライ!」
「ああ、わかっている!」
エルベ隊が、揃ってセアラを狙う。
当然、彼女は後方から追ってくる二人をすぐに捉えることはできない。
「自由騎士!」
「行かせんぞォ!」
ゼクスの大盾によるブチかましがセアラの体を壁際に吹き飛ばし、ゼクスの振り下ろしたポールアクスが、彼女の背中をバッサリと切り下ろした。
大量の血しぶきが舞って、そこに立つ二人のエルベ隊をいっとき、露わにする。
「……今、です」
セアラのかすれた声を、皆が聞いた。
「とんだ蛮勇だ、それは」
アデルが呆れ声で呟いて、
「だからこそ、奮い立つ。そこまでされたのではな!」
一気にエルベ隊へと駆け出した。
「鏡の自分はもう無視しろ! 全員で、あの連中タコ殴りだァ!」
ニコラスがそれに続き、自由騎士達が今いる戦場を全て放棄してエルベ隊へと集まる。
こうなれば、もう、決着はついたも同然だった。
攻撃してくる鏡像は完全に無視して、自由騎士はエルベ隊に集中砲火を浴びせる。
ゼクスの防御能力も大したもので、自由騎士達も無傷とはいかなかった。
しかし――、
「ここであなた達を仕留められなければ、セアラさんに報いることができないんですよ」
そのミルトスの言葉こそ、自由騎士達の総意を代弁するものだった。
「やらせるか、やらせるもの……、か!」
「悪いが、やる」
ヨツカの一突きが、盾を貫きゼクスの胸を穿った。
「ゼクス!?」
「いたね。そこだよ」
驚くドライの首筋に、黒猫が噛みついた。マグノリアのホムンクルスである。
「う、おおおおおお!?」
「おうおう、しっかり見えるぜ、この位置ならな!」
そこにさらに、ウェルスの立て続けの銃撃。
アンジェリカの振り下ろした刃が、ポールアクスを半ばからへし折り、ドライの体を深く深く、切り裂いた。直後、自由騎士達の鏡像がスゥと消える。
倒れ伏す、エルベ隊。
自由騎士達は、そちらではなく血まみれのセアラの方へと駆け寄る。
「無茶しやがるぜ……」
「本当にね」
ニコラスとマグノリア、癒し手二人が急いで彼女の傷を塞ごうとする。
「だがそれが突破口になりましたね」
言うアンジェリカに、ヨツカがうなずいた。
ドライとゼクスが飲んだ連金薬の効果は約30分。それだけの時間を稼ぐことが、彼らの目的であった。しかし、実際に稼げた時間が20分。
決して短い時間ではないが、それでもエルベ隊は、目的を果たせなかった。
「すまん、ツヴァイ……」
「アインス――」
それぞれ、同胞の名を呼び、二人の戦士は息絶えた。
地面に、血に濡れた鍵が転がっている。奥の扉を開くための鍵なのだろう。
「……少ししたら、進もう」
自由騎士の誰かが言う。
本来であればしっかり休まねばならないだろうが、その時間も惜しい。
皆の視線が、意識を取り戻さないパーヴァリへと注がれる。
その余命、76分。
自由騎士の判断は速かった。
「鏡像ならば、左右に差が出るかもしれないな。皆、腕に印を!」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、自由騎士に向かって叫んだ。
「……合言葉は?」
「最近あったアレでいいんじゃないか?」
指示のまま、右腕に布を巻いた『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)の質問に、『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)が適当にそう返す。その言葉に、ミルトスは「わかりやすいですね」とうなずいた。
「え、何、俺?」
話題に上がったのが自分のことと気づき、『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が自らの顔を指さす。
「そうらしい」
と、腕に布を巻きながら『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が返した。
ヨツカが自分の鏡像を見てみれば、何ということ、右腕には赤い布。
「リアルタイムで姿が写し取られていくということか。それに、左右の差もない。そこまで甘くは内容だな。……自分との戦闘か、望むところだ」
「皆さん、できる限り、早くお願いします!」
血の滾りを顔に表しつつあったヨツカだが、背後から聞こえてきたセアラ・ラングフォード(CL3000634)の声にその表情が厳しく引き締まった。
パーヴァリの体は、徐々に石化が進行している。
ここで時間をかけるわけにはいかない。改めて、自由騎士達はそう認識した。
「打ち破りましょう。そして前――」
言いかけた『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)の体が、唐突に吹き飛んだ。それは、見えない敵からの攻撃によるものだった。
「大丈夫かい?」
受け止めた『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が、答えを確かめないうちに癒しの魔導によってアンジェリカの傷を回復させる。
「問題はありませんが、なるほど、これは厳しいですね……」
復帰したアンジェリカが、よく目を凝らしながら辺りを見回すが、見えない敵と化したドライとゼクスの姿はまるで見つけられない。足音も、動く影すらも。
「来るぞ!」
一方、鏡から飛び出てきた自由騎士達の鏡像が、各々武器を構えて迫ってくる。
アデルが警戒を呼び掛け、己もまた突撃槍を構えた。
アデルが突っ込んでくる。アデルへと。
「なるほどな……!」
同じ形状の突撃槍が、真っ向からぶつかって耳障りな音を立てた。
「俺は自分が臆病なつもりでいたが、傍から見るとなかなかどうして、勇猛なようだ。こんなに一直線に突っ込んでくるとはな。……勉強になる!」
自分相手に力の限り押し合って、アデルは仮面の奥で苦く笑う。
鏡の向こうの自分と見えないエルベ隊。
上で戦った敵を思えば、彼らの目的は自由騎士の殲滅か、あるいは時間稼ぎ。
攻略にどれほどの時間がかかることになるか、すでに幾人かの自由騎士は避けられざる長期戦を予想し、肝を冷やしていた。
パーヴァリの死まで、あと――。
●余命、91分
――動かない。
戦いが始まってすでにそれなりの時間が過ぎた。
状況に何か変化があったかといえば、ほとんど何も変わっていなかった。
「――――」
鏡像のアンジェリカが、巨剣を振るう。
その膂力、その身のこなし、まさしくアンジェリカそのもの。
切り結ぶ相手は、アンジェリカ当人。
ガツンガツンと重い音を響かせながら、分厚い刃が互いを潰そうと激突する。
「……チッ、こいつは!」
外からウェルスが狙うが、ダメだ。まるで区別がつかない。
「アマノホカリで大手柄を挙げたのは!」
「ウェルス様ですね!」
と、片方のアンジェリカが叫ぶ。
そっちか、と、ウェルスは答えなかった方のアンジェリカを狙った。
しかし二人のアンジェリカは目まぐるしく動き、その位置も次々変わっていく。
「……そこっ!」
ウェルスが撃った一発が、鏡像の肩に食い込んだ。
見事命中。しかし、彼は小さく舌を打つ。狙ったのは心臓だった。
「ウェルスさん、来ています!」
そこに、セアラからの切迫した声。慌てて身を避けると、重い何かがすぐ頭上を過ぎていった。見えないが、何かはわかる。ドライのポールアクスだ。
「クソッ、目に見えないってのがこんなに厄介だとは――」
肩に、穴が空いた。
「グッ、おォ!?」
「――――」
それは、自分の鏡像による銃撃であった。
「……なるほど、そりゃあ、一息ついた瞬間なんて見逃すはずがないわな」
肩を抑えながら、ウェルスは苦笑する。
それは裏返せば自身の戦士としての優秀さの証明でもあったが、何も嬉しくなかった。
同時に、彼は己の甘さを痛感する。
敵の存在を知る技能。それによって姿を隠しているエルベ隊の位置を掴もうとした。
しかし、感じ取れなかった。まるっきり反応しなかったのだ。
見る以外の手段では、エルベ隊の位置を捉えることはできそうにない。
それは、ウェルス以外も実感していることだった。
「ダメだね、これは……」
呟いたのは、マグノリア。
生み出した猫型のホムンクルスと共に、戦場を俯瞰することでエルベ隊の位置を絞ろうとしたのだが、無理だ。これは、とてもではないが探していられない。
二組の自由騎士が入り混じり、激突するこの空間で、姿を消しながら同じように動き回っている二人の敵を探すのは、少なくとも自分には不可能だ。
そう結論付ける他はない。
「――――」
そして、立ちはだかったのは自分の鏡像。その足元には、ご丁寧に猫のホムンクルスまでいる。それを見た瞬間、ホムンクルスの鏡像が飛びかかってきた。
「ぐ……!」
後退するも、しつこく追いすがってくる。
自分も牽制にと、猫型ホムンクルスを自分の鏡像へと放つが、これでは到底、早期の決着は望めない。腰を据えてかからねばならないだろう。
「……参ったね、これは」
飛びかかってくる黒猫を己の武器で打ち払いながら、マグノリアは小さく息をついた。
戦いは、まだまだ決着が見えない。
●余命、86分
「アマノホカリの名探偵!」
「ウェルス!」
問いかけに答えたのは、まさに攻撃しようとしていた方。
ミルトスは一瞬で標的を切り替えて、鏡像のアデルを思い切り打ち据える。
が、これは防がれ、反撃の刺突をスレスレでかわす。
「動きのキレ、多彩な引出し、アデルさんそのままじゃないですか!」
「そこで俺を叱られても、そうだなとしか言えん」
殴りかかってくるミルトスの鏡像を突撃槍で受け止めて、アデルがボヤいた。
そこに――、チラリと揺らぐ影。
「アデルさん!」
「ああ、わかって、いる!」
言葉の最後と共に、放たれる強烈な突撃槍の一撃。
穂先が、何もない空間にぶつかって激しく鈍い音を立てる。
「……チッ」
舌打ちが聞こえた。
手応えと声からして今のはゼクス。盾を持った方か。
「退いたか。ヒット&アウェイに徹するつもりか」
「厄介ですね……。モロに、時間をかける戦い方じゃないですか」
「熱源探査も効かん。これは、そういう対策を取っているということか」
「尚更厄介ですね。目で見て確認するしかない、と」
「そういうことだろうな。こっちが考えることはあっちも考えるワケだ」
「最前線で生き抜く精鋭というのは、これだから……」
お互いに背中を合わせ、自分の鏡像と拳と槍を交えながら、アデルとミルトスが冷静に状況を分析する。だが内心、ミルトスは色々苦労していた。
「参りましたねー……」
今戦っているドライとゼクスも、上で戦ったフィーアのように命を賭してこの戦いに臨んでいるに違いない。ソレを思うと、どうにも――、
「……愉しくなってしまいそうか?」
ギクリとした。
背中越しに、アデルに本心を言い当てられたからだ。
「わかってしまいますか?」
「さほど付き合いがあるワケでもないが、戦場で肩を並べた回数だけは多いからな」
鏡像ミルトスの鋭いケリを槍で受け止め、アデルがカウンターを繰り出す。
「仕事を果たす分には何も言わん。好きなだけ愉しめ」
「意地悪ですね。私自身、自分のそういうところには困っているんですけど」
鏡像アデルの薙ぎ払いを跳躍してかわし、落下の勢いを利用して見る年が踵落としをお見舞いした。それが、鏡像アデルの肩に思い切り食い込む。
「困っているだけか。否定しない辺り、すでに諦めているんじゃないか?」
「そう思います? ……私としては、答えにくいところですけど」
打ち、防ぎ、蹴り、避けて、二人が二人の鏡像と互角の戦いを演じる。
そこに、今度はドライが迫った。
「えい」
気づいたミルトスが、傷口から吸い上げた血を、思い切りぶっかける。
一瞬、ドライの姿が血によって浮かび上がった。
「そこかっ!」
アデルが鏡像を無視して、全力の一撃をドライのみぞおちにブチ当てる。
「ガハッ、ァ……!?」
声。
しかし、その姿はすぐに消えた。
「……あらら、血も透明になっちゃいました」
「触れたものを透かす、魔導の薬品か何からしいな」
己の鏡像を相手にしながら、二人は至極冷静に状況を把握する。
常在戦場。数多の戦いを潜り抜けてきた二人にとって、戦いは緊急事態ではない。
だからこそ、共に実感する。
――この戦いは、長くなりそうだ。
●余命、81分
手の上で踊らされている。
それが、ヨツカが感じているこの戦いに対する感想だった。
徐々にではあるが、エルベ隊を捉えることができるようにはなってきている。
自分達も相応に傷ついてはいるが、敵もまた、無事ではない。
鏡像が邪魔をしてくるが、時間さえかければエルベ隊を追い込むことはできるだろう。
――時間をかければ。
ヨツカはチラリとパーヴァリを見た。
セアラと、衛生兵達に守られて、彼は苦しげに呼吸を繰り返している。
その首筋の一部が、灰黒色に変色し、肉ではなく石の質感に変わりつつある。
「……ここまでは、連中の思い通りにコトが進んでいる」
己の鏡像と幾重にも切り結び、景気のいい音を立てながらヨツカは苦い顔をする。
そこへ飛び込んでくるアンジェリカ。
「アマノホカリの大手柄!」
「――――」
答えない。――鏡像!
「そちらは私が」
と、後方より声が響いた。それこそは、本物のアンジェリカだ。
ヨツカ同士が鳴らす軽快な金属音の応酬に、今度はアンジェリカ同士の重く低い金属音が加わった。時折組み合わせが変わりもするが、音は見事にリズムを刻んだ。
「よぉ~、久しぶり。調子はどうだい?」
そこに、自分の鏡像に追っかけられてきたニコラスが加わる。
「うらぁ!」
彼が放った氷結の魔導が、鏡像アンジェリカの動きを一瞬止める。
しかし、鏡像ニコラスの魔導が、それを即座に癒して鏡像アンジェリカは解放された。
「見事な対応ですね」
「見事すぎてムカつくんだよ! あいつ絶対俺より判断力あるぞ!」
「……自虐なのか自賛なのか、難しいところだ」
笑うアンジェリカにニコラスが吼えて、ヨツカが首をかしげる。
一方で、対する鏡像三人にはいささかの動きもなく。だからこそ、ニコラスは息をつく。
「ま、あっちより俺の方が面白ェ自信はあるけどな」
「そうだな、ヨツカもニコラスはそこそこ面白親父だと思っているぞ」
「そこそこ……」
言っている最中に、ニコラスが突如動く。
彼は、その手に握っていたものを地面に撒くと、それがいきなりパキパキと鳴った。
「いるぜ、そこだ!」
「承知!」
「了解です!」
今まさに襲いかかろうとして来る鏡像に背を向けて、ヨツカとアンジェリカが同時に背後へと攻めかかる。長大な野太刀とアンジェリカの巨剣が、見事に交差した。
ガッ、という鈍い金属音。
それは、分厚い壁を叩いたかのような手応えだ。盾。それも、分厚い盾。
「――ゼクス!」
「だったら、そっちにいるのがドライってことだよなァ!」
床に撒いたモノが音を立てた別の場所。そちらへと、ニコラスが指をさす。
同時に発動した魔力が、そこにいた見えないドライを見事に捉える。
「……ッ、退くぞ、ゼクス!」
「しゃらくさい!」
怒りに満ちた声を残し、エルベ隊がその場から後退する。
直後、三人の鏡像が隙だらけの己をそれぞれ激しく攻め立てる。
「ぬう!」
「あいたた……」
エルベ隊を狙ったゆえに、自由騎士は己の鏡像に隙を晒してしまった。
しかし、エルベ隊に有効打を与えられた。それを思えば、この程度の対価は安い。
「今すぐ治すぜ」
傷も、まだ魔力が残っているニコラスの魔導によってすぐに癒された。
「ところでニコラス、何を撒いたのだ」
「米」
ヨツカが問うと、そんな答えが返ってきた。
「透明になった連中の位置を掴めるかなと思って、持ち込んできた米を撒いたんだが、ぶっちゃけこれは失敗。他の連中がしっちゃめっちゃか動く中で米なんてあっという間に散るしよぉ。割れる音だって、周りがうるさすぎて聞こえやしない」
「だから、全体に撒くのをやめて狙いを絞った、と?」
「そういうこった。こっちは成功したが――、米、もうねぇわ」
再び攻めてくる自分達を見据えながら、ニコラスが苦笑する。
「だったらここから先は、全力で頑張るしかないな」
「そういうこったなー。めんどくせぇが、仕方がない」
エルベ隊が離れたそこで、三人の自由騎士が、己の写し身を鋭く睨み据えた。
●余命、 分
このままでは敵の狙い通りになってしまう。
そう思ったのは、セアラである。
自分達と同等の力を持つ鏡像と、極めて捉えづらい二人のエルベ隊。
時間をかければ勝てる。
しかし、時間を稼ぐことが敵の狙いなら、それは結局相手の思う壺なのだ。
そして状況は敵の思う通りの流れで膠着しつつある。
エルベ隊は徐々にダメージを蓄積しているが、まだ健在だ。
何か、流れを変える一手が必要となる。
「――行きます」
セアラが動いた。
これまで、後方で回復役に徹していた彼女は、自ら戦域を離れて壁伝いに歩いて、部屋の奥にある大扉を目指した。当然、鍵はかかっているだろう。
しかし、ここで今までと違う動きをしなければ、負ける。それだけは認められない。
「私、奥に行ってきます!」
自ら声をあげて、セアラは一気に駆け出した。
このとき、エルベ隊はそれぞれ分かれて戦っていたが、共にセアラの動きに気づいた。
鍵は、自分達が持っている。
だが仮に、もしも、彼女が自分達の知らない解錠手段を持っていたならば――?
殊更慎重であろうとする最精鋭ゆえの、それは心理的な落とし穴であった。
「ドライ!」
「ああ、わかっている!」
エルベ隊が、揃ってセアラを狙う。
当然、彼女は後方から追ってくる二人をすぐに捉えることはできない。
「自由騎士!」
「行かせんぞォ!」
ゼクスの大盾によるブチかましがセアラの体を壁際に吹き飛ばし、ゼクスの振り下ろしたポールアクスが、彼女の背中をバッサリと切り下ろした。
大量の血しぶきが舞って、そこに立つ二人のエルベ隊をいっとき、露わにする。
「……今、です」
セアラのかすれた声を、皆が聞いた。
「とんだ蛮勇だ、それは」
アデルが呆れ声で呟いて、
「だからこそ、奮い立つ。そこまでされたのではな!」
一気にエルベ隊へと駆け出した。
「鏡の自分はもう無視しろ! 全員で、あの連中タコ殴りだァ!」
ニコラスがそれに続き、自由騎士達が今いる戦場を全て放棄してエルベ隊へと集まる。
こうなれば、もう、決着はついたも同然だった。
攻撃してくる鏡像は完全に無視して、自由騎士はエルベ隊に集中砲火を浴びせる。
ゼクスの防御能力も大したもので、自由騎士達も無傷とはいかなかった。
しかし――、
「ここであなた達を仕留められなければ、セアラさんに報いることができないんですよ」
そのミルトスの言葉こそ、自由騎士達の総意を代弁するものだった。
「やらせるか、やらせるもの……、か!」
「悪いが、やる」
ヨツカの一突きが、盾を貫きゼクスの胸を穿った。
「ゼクス!?」
「いたね。そこだよ」
驚くドライの首筋に、黒猫が噛みついた。マグノリアのホムンクルスである。
「う、おおおおおお!?」
「おうおう、しっかり見えるぜ、この位置ならな!」
そこにさらに、ウェルスの立て続けの銃撃。
アンジェリカの振り下ろした刃が、ポールアクスを半ばからへし折り、ドライの体を深く深く、切り裂いた。直後、自由騎士達の鏡像がスゥと消える。
倒れ伏す、エルベ隊。
自由騎士達は、そちらではなく血まみれのセアラの方へと駆け寄る。
「無茶しやがるぜ……」
「本当にね」
ニコラスとマグノリア、癒し手二人が急いで彼女の傷を塞ごうとする。
「だがそれが突破口になりましたね」
言うアンジェリカに、ヨツカがうなずいた。
ドライとゼクスが飲んだ連金薬の効果は約30分。それだけの時間を稼ぐことが、彼らの目的であった。しかし、実際に稼げた時間が20分。
決して短い時間ではないが、それでもエルベ隊は、目的を果たせなかった。
「すまん、ツヴァイ……」
「アインス――」
それぞれ、同胞の名を呼び、二人の戦士は息絶えた。
地面に、血に濡れた鍵が転がっている。奥の扉を開くための鍵なのだろう。
「……少ししたら、進もう」
自由騎士の誰かが言う。
本来であればしっかり休まねばならないだろうが、その時間も惜しい。
皆の視線が、意識を取り戻さないパーヴァリへと注がれる。
その余命、76分。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
重傷
†あとがき†
お疲れさまでした!
さぁ、次が最終話となります。
気合を入れていきましょう!
さぁ、次が最終話となります。
気合を入れていきましょう!
FL送付済