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ゲスのゲスによるゲスのための楽しいショウ。再演

●
「お前たちが手に入れてくれたカード。やっと出所が判明したぜ」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
黒いカード──以前自由騎士たちが対応したゲスのゲスによるゲスのための残虐ショウ。その招待客が持っていた、所謂会員証のようなものだ。
その入手に成功した自由騎士団は、その出所を探っていた。来る日も来る日も地道な解析と調査。そしてその調査が実を結び、今日に至ったのだ。
「このカードを暇で暇でしょうがねぇ貴族どもにばら撒いて、あのクソったれなショウを開いていたのは……貿易商のリチャード・ディ・ドトールってヤツだ。もしかしたら聞いたことくらいはあるかもしれないな」
リチャード・ディ・ドトール。早くより通商連に取り入り成功を収め、莫大な財産を築いたやり手の男。だが……やり手と同時に、その強引な取引方法や違法ぎりぎりの高利貸しなど悪い噂も聞く男でもあった。
「なるほど。そいつが黒幕ならあんな立派な設備のショウを秘密裏に行えるのも合点がいくな」
前回対応に当たった自由騎士は一様に頷く。
「わかった。で、これからどうするんだ」
「今日、またあのショウが行われる事を掴んだ。今度こそこの悪夢のようなショウを終わらせてくれ」
テンカイが強い瞳で自由騎士を見る。テンカイもまた許せないのだ。このようなショウを行う、リチャードを。そしてもっと早くにショウを止める演算を導きだせなかった自分自身を。
「ああ。あと今回は同行人がいる。……入ってくれ」
ガチャ、と音がし、部屋に独特の体躯を持つ男が入ってきた。
「お前は──」
「色々思うところもあるかもしれないが……彼もまた過去を悔いているんだ」
「いこう」
自由騎士は同行者とともに走り出す。
今度こそショウを終わらせる。その強い気持ちを胸に抱いて──
「お前たちが手に入れてくれたカード。やっと出所が判明したぜ」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は集った自由騎士にそう告げた。
黒いカード──以前自由騎士たちが対応したゲスのゲスによるゲスのための残虐ショウ。その招待客が持っていた、所謂会員証のようなものだ。
その入手に成功した自由騎士団は、その出所を探っていた。来る日も来る日も地道な解析と調査。そしてその調査が実を結び、今日に至ったのだ。
「このカードを暇で暇でしょうがねぇ貴族どもにばら撒いて、あのクソったれなショウを開いていたのは……貿易商のリチャード・ディ・ドトールってヤツだ。もしかしたら聞いたことくらいはあるかもしれないな」
リチャード・ディ・ドトール。早くより通商連に取り入り成功を収め、莫大な財産を築いたやり手の男。だが……やり手と同時に、その強引な取引方法や違法ぎりぎりの高利貸しなど悪い噂も聞く男でもあった。
「なるほど。そいつが黒幕ならあんな立派な設備のショウを秘密裏に行えるのも合点がいくな」
前回対応に当たった自由騎士は一様に頷く。
「わかった。で、これからどうするんだ」
「今日、またあのショウが行われる事を掴んだ。今度こそこの悪夢のようなショウを終わらせてくれ」
テンカイが強い瞳で自由騎士を見る。テンカイもまた許せないのだ。このようなショウを行う、リチャードを。そしてもっと早くにショウを止める演算を導きだせなかった自分自身を。
「ああ。あと今回は同行人がいる。……入ってくれ」
ガチャ、と音がし、部屋に独特の体躯を持つ男が入ってきた。
「お前は──」
「色々思うところもあるかもしれないが……彼もまた過去を悔いているんだ」
「いこう」
自由騎士は同行者とともに走り出す。
今度こそショウを終わらせる。その強い気持ちを胸に抱いて──
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.リチャードの捕縛
2.帝王ズールの打破
3.若者達の生存
2.帝王ズールの打破
3.若者達の生存
麺です。ゲスなショウ、ハードに再演。
この依頼はブレインストーミングスペース
エルシー・スカーレット(CL3000368) 2019年01月20日(日) 21:13:41
の発言等を元に作成されました。
夜な夜な行われる非道なショウ。
一度は自由騎士の手によってショウは壊滅させましたが、その悪意は消えることは無く未だ場所を変え行われています。
これをとめられるのは自由騎士の皆さんだけです。
ショウでの元闘技者とともに主催者を捕縛。二度とこのようなショウが行われないようにしていただき、可能であればラスカルズの幹部の足跡を追っていただくのが今回の依頼です。
●ロケーション
首都近郊の別荘地にある、とある屋敷。
表立っては持ち主不明で放置されている事になっている。
その地下では夜な夜な闘技が行われていた。それは禁止事項の一切無いパンクラチオン。
だが殆どは絶対的強者に対して宛がわれた挑戦者の一方的な虐殺である。
賭けは勝敗ではなく、何分生き延びられるか。常軌を逸した闇の住人達の宴は今日も開催される。
闘技場への最初の進入は、そのゲートの仕様上一人だけです。侵入者が現れた時点でロックされ、なんびとも中へ入る事はできなくなります。必然的に最初にゲートをあがったものほど、帝王との戦いは長いものになります。
(所謂コロッセオと同じような地下から競りあがってくるタイプの入場ゲートです)
今回は同行する名も無き自由騎士が操作室制圧にあたります(制圧には5分ほどかかります)が、サポートメンバーが参加した場合、より早く操作室を制圧する事が出来、闘技場に追加の自由騎士を送り出す事が可能になります。
まず屋敷内部から地下へ続く闘技場入り口へ進み、そのまま闘技場下部にある入場ゲートへ、
ズォールと対峙し若者達を助けるチームと、謎の部屋に向かいリチャードに対応するチームに分かれて行動し、成功条件の達成を目指していただきます。
・地下闘技場
屋敷の闘技場入り口から潜入すると、地下には闘技場、入場ゲートのある部屋(闘技場真下)、VIPスペース、操作室、謎の部屋があります。
闘技場には入場ゲートからしか入れません。また謎の部屋は屋敷の闘技場入り口からの通路からは行く事が出来ません。ただし今回は謎の部屋への進入経路もがわかっているため、同時に攻略する事が可能です。謎の部屋にはリチャードと側近がいます。
●敵&登場人物
・リチャード・ディ・ドトール 58歳。
貿易会社「サンライズサン」を経営する男。通商連との二次取引により莫大な富を手に入れた。だが男の欲望は尽きることは無く、果てには他人の生死を見ることでしか満足が得られないようになっている。
本人もたまにショウに出演するほどには強い。ノウブル、軽戦士スタイル。軽戦士スタイルのランク2までのスキルを取得。弱者をいたぶることに快感を感じる正真正銘のゲスである。自らが強者である事を自覚しており、戦いを挑まれれば逃げる事はありません。
・リチャードの側近 2人
リチャードのボディーガード。とはいえリチャードの方が実力は遥かに上。格闘スタイルのランク1スキルを複数所持。リチャード守るように戦います。
・帝王ズォール
マザリモノといわれているがどのようなモノが混じっているかは不明。128戦128勝。すべての挑戦者を嬲り、血祭りに上げ、その命を奪ってきた絶対王者。
強靭な肉体を持ち、生半可な刃物はその身を通さない。非常にタフネスで怪力。
・若者 3人
ショウの生贄。とある流儀の武術の弟子たち。それなりの心得はあるもののズォールの前では歯が立たず、自由騎士たちがたどり着いたときにはズタボロの状態です。
早めに何かしらの対処をしなければ3人とも危ない状態です。
・ヨコヅナ
元闘技者。ショウに出演していたが自由騎士に倒された事により改心。アクアディーネの洗礼を受け、イ・ラプセルの民となった。今回自身のこれまでの行いを悔い、清算すべく同行者として参加。道案内とともに戦闘もこなします。
・闘技場組織員 12人
黒いスーツに身を包んだ戦闘員兼管理スタッフ。
銃を所持しているものの戦闘経験は浅い。操作室に8人。闘技場入場ゲートに3人。屋敷の地下闘技場への入り口に1人が配置されています。
・VIP客 8人
全員仮面をつけ、お互いの素性がばれないようしています。自由騎士が闘技場に突入すると慌てて逃げ出します。
※サポートの方が居る場合は、サポートの人数に合わせてデメリット無く捕まえる事が可能ですが、今回はあまり有益な情報は得られないでしょう。
・ドミニク・オーソリティ
この地下闘技に挑戦者という名の生贄を提供しているラスカルズの幹部と思しき男。
今回はこの場にはいませんが、詳しい調査を行う事で足取りがつかめる可能性があります。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。
この依頼はブレインストーミングスペース
エルシー・スカーレット(CL3000368) 2019年01月20日(日) 21:13:41
の発言等を元に作成されました。
夜な夜な行われる非道なショウ。
一度は自由騎士の手によってショウは壊滅させましたが、その悪意は消えることは無く未だ場所を変え行われています。
これをとめられるのは自由騎士の皆さんだけです。
ショウでの元闘技者とともに主催者を捕縛。二度とこのようなショウが行われないようにしていただき、可能であればラスカルズの幹部の足跡を追っていただくのが今回の依頼です。
●ロケーション
首都近郊の別荘地にある、とある屋敷。
表立っては持ち主不明で放置されている事になっている。
その地下では夜な夜な闘技が行われていた。それは禁止事項の一切無いパンクラチオン。
だが殆どは絶対的強者に対して宛がわれた挑戦者の一方的な虐殺である。
賭けは勝敗ではなく、何分生き延びられるか。常軌を逸した闇の住人達の宴は今日も開催される。
闘技場への最初の進入は、そのゲートの仕様上一人だけです。侵入者が現れた時点でロックされ、なんびとも中へ入る事はできなくなります。必然的に最初にゲートをあがったものほど、帝王との戦いは長いものになります。
(所謂コロッセオと同じような地下から競りあがってくるタイプの入場ゲートです)
今回は同行する名も無き自由騎士が操作室制圧にあたります(制圧には5分ほどかかります)が、サポートメンバーが参加した場合、より早く操作室を制圧する事が出来、闘技場に追加の自由騎士を送り出す事が可能になります。
まず屋敷内部から地下へ続く闘技場入り口へ進み、そのまま闘技場下部にある入場ゲートへ、
ズォールと対峙し若者達を助けるチームと、謎の部屋に向かいリチャードに対応するチームに分かれて行動し、成功条件の達成を目指していただきます。
・地下闘技場
屋敷の闘技場入り口から潜入すると、地下には闘技場、入場ゲートのある部屋(闘技場真下)、VIPスペース、操作室、謎の部屋があります。
闘技場には入場ゲートからしか入れません。また謎の部屋は屋敷の闘技場入り口からの通路からは行く事が出来ません。ただし今回は謎の部屋への進入経路もがわかっているため、同時に攻略する事が可能です。謎の部屋にはリチャードと側近がいます。
●敵&登場人物
・リチャード・ディ・ドトール 58歳。
貿易会社「サンライズサン」を経営する男。通商連との二次取引により莫大な富を手に入れた。だが男の欲望は尽きることは無く、果てには他人の生死を見ることでしか満足が得られないようになっている。
本人もたまにショウに出演するほどには強い。ノウブル、軽戦士スタイル。軽戦士スタイルのランク2までのスキルを取得。弱者をいたぶることに快感を感じる正真正銘のゲスである。自らが強者である事を自覚しており、戦いを挑まれれば逃げる事はありません。
・リチャードの側近 2人
リチャードのボディーガード。とはいえリチャードの方が実力は遥かに上。格闘スタイルのランク1スキルを複数所持。リチャード守るように戦います。
・帝王ズォール
マザリモノといわれているがどのようなモノが混じっているかは不明。128戦128勝。すべての挑戦者を嬲り、血祭りに上げ、その命を奪ってきた絶対王者。
強靭な肉体を持ち、生半可な刃物はその身を通さない。非常にタフネスで怪力。
・若者 3人
ショウの生贄。とある流儀の武術の弟子たち。それなりの心得はあるもののズォールの前では歯が立たず、自由騎士たちがたどり着いたときにはズタボロの状態です。
早めに何かしらの対処をしなければ3人とも危ない状態です。
・ヨコヅナ
元闘技者。ショウに出演していたが自由騎士に倒された事により改心。アクアディーネの洗礼を受け、イ・ラプセルの民となった。今回自身のこれまでの行いを悔い、清算すべく同行者として参加。道案内とともに戦闘もこなします。
・闘技場組織員 12人
黒いスーツに身を包んだ戦闘員兼管理スタッフ。
銃を所持しているものの戦闘経験は浅い。操作室に8人。闘技場入場ゲートに3人。屋敷の地下闘技場への入り口に1人が配置されています。
・VIP客 8人
全員仮面をつけ、お互いの素性がばれないようしています。自由騎士が闘技場に突入すると慌てて逃げ出します。
※サポートの方が居る場合は、サポートの人数に合わせてデメリット無く捕まえる事が可能ですが、今回はあまり有益な情報は得られないでしょう。
・ドミニク・オーソリティ
この地下闘技に挑戦者という名の生贄を提供しているラスカルズの幹部と思しき男。
今回はこの場にはいませんが、詳しい調査を行う事で足取りがつかめる可能性があります。
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無い場合は、回復サポートに従事します。
所持スキルはステータスシートをご確認ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年05月13日
2019年05月13日
†メイン参加者 6人†
●
ヨコヅナを見ながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は思う。
(改心してくれたのね。嬉しいわ)
エルシーはこの男と全身全霊をかけて拳を交えた。エルシーの額には僅かに残る傷跡。それはヨコヅナの目を覚まさせるためにエルシーが放った渾身の一撃の名残。もう殆ど消えかけた傷を指でなぞるとヨコヅナに話しかける。
「今度ちゃんこ鍋、ご馳走してよね」
「……え? あ、ああ」
ヨコヅナ少々ぎこちない笑顔で相槌を打つ。
「約束よ」
「あー………ども。ヨロシクヨロシク」
続けてヨコヅナに声を掛けたのは『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。
(しかし……以前戦った相手に守ってもらうのも何だか複雑だな……。いや、守ってもらえるなら出来れば綺麗なオネーチャンの方がよかったとか、それって成人男性としてどうなのかとか、そういう事は、決して! ナイトオモウ!)
そんなニコラスの葛藤はなんとも不自然な笑顔に現れていた。
「あ、ああ」
言葉を返すヨコヅナもまた戸惑いの表情。一度は敵として対峙しているのだ。単純な感情でないのは双方同じであろう。
(しかし……黒幕がイ・ラプセルに暮らしてりゃ聞いたことくらいはあるだろう豪商だったとはな。ドミニクもドミニクだが、こっちの方が反吐が出るな。……楽しいなぁ、色々と)
ニコラスの口角が自然と上がる。それは反吐が出るほどのクズを相手できる事への愉悦なのか。
「迅速な行動が必要そうですね……私も尽力しましょう」
演算室で『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が聞いた状況はこれまでに無く逼迫していた。言うまでもなく瀕死の若者達の命は自由騎士に委ねられている。
(それにしても……まぁ大物があらしゃりましたなぁ。大顧客がこんなことにならはるなんて、マダムが悲しむわぁ……)
ふぅとため息をつくのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。生業上、狼華やマダムの相手する客は地位のあるものや成功者も多い。リチャードもまた、サロン・シープの上顧客の1人であった。上客が消える事はもちろん良い事ではない。だが狼華は悲しそうな素振りを見せながらも……どこか愉悦を押し殺しているように見えた。
「本当に懲りない人達ですね」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が追い続ける男。未だ姿形すら知れない男。
(それにしてもここまで痕跡を残さないなんて、どこまでも慎重ですね……今度こそ足取りを掴んで見せます──)
アリアの決意はこの日、とうとう実を結ぶことになる。
「そろそろ着くぜ」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が声を掛けると皆の表情が再度引き締まる。さらにその後ろには途中で合流した心強い8人の自由騎士たち。
このくそったれのショウを今度こそ止める──皆の思いは重なっていた。
●
「お前達、何者だ!?」
入場ゲート前の黒服たちが異変に気付いたときには、すでにアンジェリカの持つ巨大な十字架は振り下ろされた後だった。
「ぐわぁああああーーーっ!?」
その衝撃波はゲート前にいた男達の体勢を崩し、入場ゲートまでの道を開く。
「後は頼んだぜっ」
「よろしくお願いします」
ウェルスとアリアがゲートへと乗り込み、上昇スイッチを押す。
ブシュゥゥゥーーーー
大きな蒸気機関の駆動音と共にゆっくりとゲートは上がっていく。
その様子を見送るアンジェリカとジロー。
「早くゲートをとめろ!!」
ゲートの上昇を止めようと、ゲート近くの操作パネルに駆け寄ろうとする男達。
「ハッハッハ。させませんぞ」
それを遮るように立ちはだかるは2人の自由騎士。上半身裸で腕を組み筋肉隆々の男と巨大な十字架と鉄塊をもつケモノビトのシスター。
「あなた方のお相手は私達ですよ」
そういうとアンジェリカはステップを踏み始める。それは輝く命の力。
「我らに女神の御加護があらん事を……(すぐに続きます。それまでどうかご無事で……)」
先に昇った2人を按ずるアンジェリカのダンスと共に一分一秒を争う制圧戦の幕は切って落とされたのだった。
「さて……忘れられない程に刺激的で……素敵な夜にいたしましょう」
アンジェリカがエモノを振り上げる。そして今日も、懺悔室は現れる。
●
バァァアーーン。
謎の部屋の扉が勢いよく開かれる。
「っ!? どうしてここが!?」
明らかに動揺する側近の男達。
「はじめまして、ミスター・リチャード。大人しく捕まるか、お仕置きされてから連行されるか、どちらがお好みかしら?」
そういうとエルシーはヨコヅナに目で合図する。それを見たヨコヅナはこくりと頷くとニコラスを庇うように位置どる。
すると──タンッタタンッと床を打ち鳴らす音がした。
「うおっ?!」
「なんだこの音はっ!?」
狼華のタップが音を奏で側近達に軽い混乱状態を引き起こす。
「……お前達。何者だ」
だがこの状況に眉一つ動かさない男。椅子に座り横柄な態度を取るこの男は自由騎士たちに鋭い目線を向けながら問いかける。
「よう、お初にお目にかかるな。コレ、客の忘れモンだ。こういうのはちゃんと管理させなきゃダメだぜ? 好き者に嗅ぎ付けられちゃうんだからよ」
そういって見せたのは黒いカード。それはいわばこのショウのメンバーズの証。
「なるほど……あの時の招かざる客はお前達だったという事か……それに──」
リチャードが目を向けたのはヨコヅナ。
「まさかお前が手引きするとはな」
少ない言葉の中に満ちたリチャードの怒気。絶対的強者へ反旗を翻す事への恐怖がヨコヅナを襲っていた。
だがそんなヨコヅナが思い出したのは──向かう途中エルシーから掛けられた言葉だった。
『いい?自由騎士は生きて帰るまでが任務だから。殉職なんてアクアディーネ様と私が許さないから。そんな覚悟はいらないわよ──』
「ワシは……」
「なんだ? 今ならまだ許してやる」
「ワシは……ワシはもう嫌なんじゃ!! もう二度と誇りを失いたくはないんじゃ!!!」
はっきりと示した組織への拒絶。
「わかった。じゃぁお前も……死ね」
そういうとすっと立ち上がる。こいつは強い──自由騎士にそう感じさせるだけの雰囲気をその男は醸し出していた。
「リチャードさまっ!」
正気に戻った側近達もリチャードを守るように戦闘体勢に入る。
「さぁ場外戦といこうか。参加費は……そうだな。お前たちの命でいいだろう──」
リチャードが動く。
決着がつくまでの僅かな時間。壮絶な命のやり取りが今、始まった。
●
「……ちっ。なんだよこいつらつまんねえ。ほんとに有名な武術使いの弟子なのかよ」
ぼろ雑巾のように横たわる若者達を前にズォールは大げさにため息をつく。
「ほんと無駄だよなぁ、お前たちの人生。どうせ弱ぇえままなのにひたすら頑張って、汗水たらして修行とかしてるんだろ? そしてそんな努力もむなしくいまここで俺様に殺されるってわけだ」
「ぐ……ぅ……」
言葉すら発せられないほどに嬲られた若者達。涙を流しながら最後の力を振り絞り、きつく握り締めた拳がその無念さを物語る。
「おいおい、何だその顔は? その拳はよぉ? いいんだぜ。殴って来いよ。今ならタダで殴らせてやるゼェ」
ズォールは動く事すら出来ない若者達に頬を向ける。
「ほらっ。どうした? 無理か? 無理だよなぁ。お前たちなんてそんなモンだ。ほん……っとに無駄な人生だったな。同情するぜぇ……あまりにも弱く、何も得る事が出来ない存在として生まれた事によぉ。ギャハハハハハ」
ズォールが奪うのはその命だけでない──その尊厳も、希望も、何もかもを奪いとる。絶望の末で息絶えるその様子を見る事こそ、男にとっての最高の暇つぶしだった。
「さすがにもう飽きてきたな」
ズォールが止めをさそうと拳を振り上げたその時だった──。
「そこまでだ!!」
「そこまでよ!!」
ゲートから現れたのは……なぜかアリアを肩車するウェルス。
「おい! なんだあのふざけたやつらは? どうなってやがる!!」
闘技場に設置されたカメラに向かって叫ぶズォール。だが反応は無い。
(仲間が揃うまで若者も俺も倒れないように時間を稼ぐが……)
「別に、倒してしまっても構わないのだろう?」
ウェルスはわざとズォールに聞こえるよう言い放つ。それに即座に反応するズォール。
「あ”あ”ぁ!?」
血管がぶち切れんばかりの表情を見せるズォール。
「このクソがぁーー!!」
ゆうに常人の3倍はあろうかという豪腕がウェルスに振り下ろされ、闘技場には重く鈍い音が響いた。
「グハハハ!! この阿呆が。俺様のパンチをまともに食らいやがるとは」
ぽたり。ぽたり。ウェルスの頭から鮮血が滴る。
「なんなんだぁいまのはぁ? 頬でも撫でられたのかと思ったぜ」
効かぬ筈も無い。ウェルスは若者たちの命を繋ぐため、碌なガードもせずノートルダムの息吹を発動させた。自らを犠牲に彼らの体力回復を優先したのだ。
(クソ痛てぇぇぇぇぇぇ!!!! だが我慢だ! 俺!!)
途切れ掛ける意識を何とか保ちながら、余裕の表情をみせるウェルスにズォールはさらに逆上して襲い掛かる。
「私とも踊って貰いますよ……帝王さん」
そこへ二重螺旋のボレロで回避力を向上させたアリアが一気に近づく。
そして逆上を利用して二連の剣撃を叩き込もうとした瞬間──ズォールが思いがけない行動をとった。ガードせず突然その両腕を広げたのだ。無防備に広げられた両腕に思わず体勢を崩したアリアの剣がズォールの肩に深く突き刺さる。
(どういうこと!?)
アリアの躊躇は一瞬の空白時間を生む。強者同士の戦いにおいてそれは致命的であった。
「……つぅかまえた」
アリアの腕を掴んだのはズォール。その顔は冷静そのもの。逆上したように見えたのはすべて演技だったのだ。
「は、離せっ!!」
振り払おうとするアリアだったが、凄まじいまでの握力はアリアは離さない。
「さぁて……悪戯子猫チャンにはオシオキが必要だよなぁ」
ズォールがにたりと嗤う。
「アリア嬢!!」
「おっと、そっちのクマ野郎は動くんじゃねえぞ。少しでも動いたら……わかってるよな」
ウェルスは動けない。若者達もまだ回復の途中。何かあれば庇いきれないのは明白だった。
「きゃぁああーーーーーー!!!!」
ズォールの手によってアリアの衣服は乱暴に破られ、引き剥がされていく。
「ギャハハハ!!! 今日は特別サービスだ。子猫チャンのストリップショウも開催だぜぇ!!」
沸きあがる歓声。どよめく闘技場。首をいやいやと振りながら目に涙を浮かべて抵抗するアリア。だが、その抵抗は一層ズォールの嗜虐心を煽るだけだった。
「ギャハハハ!! オラ、どうした!! もっと抵抗しろよ!! ……それとも見てもらいたいのかよぉ。とんだビッチだぜ、こいつはよぉぉーーーー!! ……おうおう……どこもここも柔らけぇなぁ……安心しろよ。ストリップショウの後は更なるおたのしみが待ってるぜ」
「嫌……イヤ……嫌ぁぁぁああああ!!!!
どす黒い悪意がアリアの心を侵食していく。まさに絶体絶命の状況。しかし事態を変えたのはたった一撃の超重攻撃であった。
「天穿つ喝采の一撃(ふ る す い ん ぐ)──」
凄まじい衝撃音と共に突然ズォールが悲鳴を上げる。
「そこまでにして頂けますか」
床に投げ出されるアリアの傍に立っていたのはアンジェリカ。途中で合流した8人の自由騎士達。その6人が操作室に向かった事で、アンジェリカは予想より早く闘技場へと上がってくる事が出来たのだ。
「グハッ……なんだこの攻撃は……ゴフッ……痛てぇ……痛てえよ……」
全く予想外の攻撃。会心ともいえる一撃をその身に受けたズォールは血を吐き散らしながら身悶える。
「大丈夫ですか?」
アンジェリカは聖母のような微笑でアリアを包み込む。
衣服はズタボロに破られ、その端々からは無垢な柔肌がのぞく。心さえも蹂躙されかけた。それでもアリアは前を向く。
「大丈夫です。それと……敵のスタイルは防御タンクです。私の攻撃をわざと受けたのはきっと確実なスキル発動のため」
アリアはこのような状況になりながらも敵をしかりと分析していた。
「アリア嬢でかした! それと……けが人はゲートで下ろしといたぜ」
乙女の大切な部分は何とか隠れているもののほぼ半裸のようなアリアに目を逸らしながらウェルスが若者達の無事を知らせる。
「ぶっ殺す!! コロス殺すころす!!」
血反吐を吐きながら襲い掛かってくるズォールに、ウェルスはこう言い放つ。
「これならどれだけ防御が硬かろうと関係ないぜ!」
ウェルスが放った二連の弾丸はズォールの急所を捉え、そしてその強固な防御力をも打ち抜いたのであった。
●
一方謎の部屋。側近2人を瞬時に倒したエルシーと狼華はリチャードと交戦を続けていた。
『嫌ですわぁ、ドトール様──』
『こうゆうんはもっと目の届かん所でやってもらわんと……マダムがかわいそうやわぁ──』
『うちも仲良う遊んで頂ける日を楽しみにしてましたのに──』
剣を交えるリチャードと狼華。その剣と剣が火花を散らす度、狼華はリチャードに小声で呟く。
「こいつ……」
イラつくリチャード。よもや自身の欲望のはけ口から反旗を翻される事になるとは思ってもみなかったのだろう。金さえ払えばなんでも思い通りになる世界。その世界の住人から今リチャードは攻撃されているのだ。
さらには一度距離をとれば、煽る様に胸元から取り出した黒いカードで口元を隠し、くすくすと笑う。それはまるで「なんでもお見通し」と言われるが如きであった。
その一挙一動に翻弄されるリチャード。そして心の動揺は如実にその行動に現れる。
「遅いっ!!」
それをエルシーが見逃すはずも無い。散漫となったリチャードの動きに合わせ、エルシーは魂こめた拳を一撃、また一撃と打ち込んでいく。
「なぜだっ!? 何故当たらない?!」
リチャードも応戦はするものの……三連の斬撃も、起死回生の混乱付与も、如何なる攻撃もエルシーと狼華の芯を捉える事は叶わなかった。
単純な実力だけであればリチャードを止めるのは精鋭の自由騎士達でもかなり難しかっただろう。だが狼華の紡いだ言の葉はリチャードの心を乱れさせ、その実力を半分も出せない状態にまで追い込んでいた。心理戦においてこの勝負はすでに決着していたのだ。
「くそう……だが……お前だけは……許さん!!!」
リチャードが攻撃の矛先に選んだのは……ヨコヅナだった。その剣を一直線にヨコヅナに向け、突進していく。
「死ねぇーーーー!!!」
だがヨコヅナは構えすら取らず、静かに目を閉じた。
(これでワシも……)
ザシュッ──。
ヨコヅナが目を開けると……そこには剣を受け止めるエルシーの姿。
切っ先を掴むエルシーの両手からは鮮血が滴る。
「くそがぁっ!!」
エルシーは受け止めた剣を投げ捨て、拳を握る。みるみる真紅に染まっていくエルシーの拳。
「終わりよ……」
「やめろ……やめろ!! やめろぉぉぉおおおお!!!!」
「緋色の衝撃(すかーれっといんぱくと)----っ!!!」
極至近距離から繰り出されたエルシー渾身の寸勁。リチャードの意識はそこで途切れる。
狂気のショウは終わったのだ。
●
「ドミニクの情報を貰えませんか?」
自由騎士たちは捉えたリチャードの尋問を行っていた。
「ラスカルズとは……裏で繋がってるはるんでしょう? 金だけの問題やあらしゃまへんのでしょう? ねぇ…うちに聞かせておくれやす……?」
狼華は体を枝垂れかけながら、甘い声色でリチャードに迫る。
「俺は何も知らん」
「隠しても無駄よ。共謀している事はわかっているわ」
殴りかからんばかりにエルシーが詰め寄る。
「や、やめてくれ!! ……本当に……本当に何も知らないんだ」
うな垂れる男。嘘をついているとも思えないその男の態度に自由騎士も戸惑いをみせる。
「一体どういうこと? いつも一緒に観戦してたんじゃないの?」
「俺はあいつの顔を見た事がねえ。いつもフードですっぽりだったからな。来るときだっていつも突然現れる。連絡先だって知らない。俺だって──」
「おいおい、冗談だろ……ここまで何も知らされて無いとはな」
ウェルスはぽりぽりと頭を掻く仕草をする。商売をやってりゃ慎重なヤツはいくらでもいる。だがここまでのヤツはそうはいない。
ビジネスパートナーとも思えるリチャードですら知らされていないドミニクの素性。
(また何の情報も得られないなんて……。悪行を共に行った者ですら連絡先もわからないなんて……)
今度こそと決意していたアリアはその肩を落とす。だがふとリチャードの言葉を思い出す。俺だって……?
「……? 俺だって……何?」
アリアが問う。
「俺だって調べようとしたさ。だが、密偵はすべて音信不通になった。きっとアイツに始末されたんだ」
「おい、こりゃなんだ?」
その時、ニコラスが部屋の隅の屑箱から破られた写真を発見する。
「それは密偵が音信不通になる前、持ち込んだ写真だ。見てのとおり何も関係ないどこの誰かもわからない馬の骨だ」
「……見せてください」
アリアは破り捨てられた写真を貼り合わせてみたが、確かにそこには人のよさそうな普通の少年が写っているだけだった。
「やっぱり何の情報も……」
アリアの手からするりと抜け落ちた写真を拾おうとしたその時。
「……これは……?」
裏返った写真。そこにはかすかに「D.H」と書かれ、消されたような跡がはっきりと残っていた。
ヨコヅナを見ながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は思う。
(改心してくれたのね。嬉しいわ)
エルシーはこの男と全身全霊をかけて拳を交えた。エルシーの額には僅かに残る傷跡。それはヨコヅナの目を覚まさせるためにエルシーが放った渾身の一撃の名残。もう殆ど消えかけた傷を指でなぞるとヨコヅナに話しかける。
「今度ちゃんこ鍋、ご馳走してよね」
「……え? あ、ああ」
ヨコヅナ少々ぎこちない笑顔で相槌を打つ。
「約束よ」
「あー………ども。ヨロシクヨロシク」
続けてヨコヅナに声を掛けたのは『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。
(しかし……以前戦った相手に守ってもらうのも何だか複雑だな……。いや、守ってもらえるなら出来れば綺麗なオネーチャンの方がよかったとか、それって成人男性としてどうなのかとか、そういう事は、決して! ナイトオモウ!)
そんなニコラスの葛藤はなんとも不自然な笑顔に現れていた。
「あ、ああ」
言葉を返すヨコヅナもまた戸惑いの表情。一度は敵として対峙しているのだ。単純な感情でないのは双方同じであろう。
(しかし……黒幕がイ・ラプセルに暮らしてりゃ聞いたことくらいはあるだろう豪商だったとはな。ドミニクもドミニクだが、こっちの方が反吐が出るな。……楽しいなぁ、色々と)
ニコラスの口角が自然と上がる。それは反吐が出るほどのクズを相手できる事への愉悦なのか。
「迅速な行動が必要そうですね……私も尽力しましょう」
演算室で『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が聞いた状況はこれまでに無く逼迫していた。言うまでもなく瀕死の若者達の命は自由騎士に委ねられている。
(それにしても……まぁ大物があらしゃりましたなぁ。大顧客がこんなことにならはるなんて、マダムが悲しむわぁ……)
ふぅとため息をつくのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。生業上、狼華やマダムの相手する客は地位のあるものや成功者も多い。リチャードもまた、サロン・シープの上顧客の1人であった。上客が消える事はもちろん良い事ではない。だが狼華は悲しそうな素振りを見せながらも……どこか愉悦を押し殺しているように見えた。
「本当に懲りない人達ですね」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が追い続ける男。未だ姿形すら知れない男。
(それにしてもここまで痕跡を残さないなんて、どこまでも慎重ですね……今度こそ足取りを掴んで見せます──)
アリアの決意はこの日、とうとう実を結ぶことになる。
「そろそろ着くぜ」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が声を掛けると皆の表情が再度引き締まる。さらにその後ろには途中で合流した心強い8人の自由騎士たち。
このくそったれのショウを今度こそ止める──皆の思いは重なっていた。
●
「お前達、何者だ!?」
入場ゲート前の黒服たちが異変に気付いたときには、すでにアンジェリカの持つ巨大な十字架は振り下ろされた後だった。
「ぐわぁああああーーーっ!?」
その衝撃波はゲート前にいた男達の体勢を崩し、入場ゲートまでの道を開く。
「後は頼んだぜっ」
「よろしくお願いします」
ウェルスとアリアがゲートへと乗り込み、上昇スイッチを押す。
ブシュゥゥゥーーーー
大きな蒸気機関の駆動音と共にゆっくりとゲートは上がっていく。
その様子を見送るアンジェリカとジロー。
「早くゲートをとめろ!!」
ゲートの上昇を止めようと、ゲート近くの操作パネルに駆け寄ろうとする男達。
「ハッハッハ。させませんぞ」
それを遮るように立ちはだかるは2人の自由騎士。上半身裸で腕を組み筋肉隆々の男と巨大な十字架と鉄塊をもつケモノビトのシスター。
「あなた方のお相手は私達ですよ」
そういうとアンジェリカはステップを踏み始める。それは輝く命の力。
「我らに女神の御加護があらん事を……(すぐに続きます。それまでどうかご無事で……)」
先に昇った2人を按ずるアンジェリカのダンスと共に一分一秒を争う制圧戦の幕は切って落とされたのだった。
「さて……忘れられない程に刺激的で……素敵な夜にいたしましょう」
アンジェリカがエモノを振り上げる。そして今日も、懺悔室は現れる。
●
バァァアーーン。
謎の部屋の扉が勢いよく開かれる。
「っ!? どうしてここが!?」
明らかに動揺する側近の男達。
「はじめまして、ミスター・リチャード。大人しく捕まるか、お仕置きされてから連行されるか、どちらがお好みかしら?」
そういうとエルシーはヨコヅナに目で合図する。それを見たヨコヅナはこくりと頷くとニコラスを庇うように位置どる。
すると──タンッタタンッと床を打ち鳴らす音がした。
「うおっ?!」
「なんだこの音はっ!?」
狼華のタップが音を奏で側近達に軽い混乱状態を引き起こす。
「……お前達。何者だ」
だがこの状況に眉一つ動かさない男。椅子に座り横柄な態度を取るこの男は自由騎士たちに鋭い目線を向けながら問いかける。
「よう、お初にお目にかかるな。コレ、客の忘れモンだ。こういうのはちゃんと管理させなきゃダメだぜ? 好き者に嗅ぎ付けられちゃうんだからよ」
そういって見せたのは黒いカード。それはいわばこのショウのメンバーズの証。
「なるほど……あの時の招かざる客はお前達だったという事か……それに──」
リチャードが目を向けたのはヨコヅナ。
「まさかお前が手引きするとはな」
少ない言葉の中に満ちたリチャードの怒気。絶対的強者へ反旗を翻す事への恐怖がヨコヅナを襲っていた。
だがそんなヨコヅナが思い出したのは──向かう途中エルシーから掛けられた言葉だった。
『いい?自由騎士は生きて帰るまでが任務だから。殉職なんてアクアディーネ様と私が許さないから。そんな覚悟はいらないわよ──』
「ワシは……」
「なんだ? 今ならまだ許してやる」
「ワシは……ワシはもう嫌なんじゃ!! もう二度と誇りを失いたくはないんじゃ!!!」
はっきりと示した組織への拒絶。
「わかった。じゃぁお前も……死ね」
そういうとすっと立ち上がる。こいつは強い──自由騎士にそう感じさせるだけの雰囲気をその男は醸し出していた。
「リチャードさまっ!」
正気に戻った側近達もリチャードを守るように戦闘体勢に入る。
「さぁ場外戦といこうか。参加費は……そうだな。お前たちの命でいいだろう──」
リチャードが動く。
決着がつくまでの僅かな時間。壮絶な命のやり取りが今、始まった。
●
「……ちっ。なんだよこいつらつまんねえ。ほんとに有名な武術使いの弟子なのかよ」
ぼろ雑巾のように横たわる若者達を前にズォールは大げさにため息をつく。
「ほんと無駄だよなぁ、お前たちの人生。どうせ弱ぇえままなのにひたすら頑張って、汗水たらして修行とかしてるんだろ? そしてそんな努力もむなしくいまここで俺様に殺されるってわけだ」
「ぐ……ぅ……」
言葉すら発せられないほどに嬲られた若者達。涙を流しながら最後の力を振り絞り、きつく握り締めた拳がその無念さを物語る。
「おいおい、何だその顔は? その拳はよぉ? いいんだぜ。殴って来いよ。今ならタダで殴らせてやるゼェ」
ズォールは動く事すら出来ない若者達に頬を向ける。
「ほらっ。どうした? 無理か? 無理だよなぁ。お前たちなんてそんなモンだ。ほん……っとに無駄な人生だったな。同情するぜぇ……あまりにも弱く、何も得る事が出来ない存在として生まれた事によぉ。ギャハハハハハ」
ズォールが奪うのはその命だけでない──その尊厳も、希望も、何もかもを奪いとる。絶望の末で息絶えるその様子を見る事こそ、男にとっての最高の暇つぶしだった。
「さすがにもう飽きてきたな」
ズォールが止めをさそうと拳を振り上げたその時だった──。
「そこまでだ!!」
「そこまでよ!!」
ゲートから現れたのは……なぜかアリアを肩車するウェルス。
「おい! なんだあのふざけたやつらは? どうなってやがる!!」
闘技場に設置されたカメラに向かって叫ぶズォール。だが反応は無い。
(仲間が揃うまで若者も俺も倒れないように時間を稼ぐが……)
「別に、倒してしまっても構わないのだろう?」
ウェルスはわざとズォールに聞こえるよう言い放つ。それに即座に反応するズォール。
「あ”あ”ぁ!?」
血管がぶち切れんばかりの表情を見せるズォール。
「このクソがぁーー!!」
ゆうに常人の3倍はあろうかという豪腕がウェルスに振り下ろされ、闘技場には重く鈍い音が響いた。
「グハハハ!! この阿呆が。俺様のパンチをまともに食らいやがるとは」
ぽたり。ぽたり。ウェルスの頭から鮮血が滴る。
「なんなんだぁいまのはぁ? 頬でも撫でられたのかと思ったぜ」
効かぬ筈も無い。ウェルスは若者たちの命を繋ぐため、碌なガードもせずノートルダムの息吹を発動させた。自らを犠牲に彼らの体力回復を優先したのだ。
(クソ痛てぇぇぇぇぇぇ!!!! だが我慢だ! 俺!!)
途切れ掛ける意識を何とか保ちながら、余裕の表情をみせるウェルスにズォールはさらに逆上して襲い掛かる。
「私とも踊って貰いますよ……帝王さん」
そこへ二重螺旋のボレロで回避力を向上させたアリアが一気に近づく。
そして逆上を利用して二連の剣撃を叩き込もうとした瞬間──ズォールが思いがけない行動をとった。ガードせず突然その両腕を広げたのだ。無防備に広げられた両腕に思わず体勢を崩したアリアの剣がズォールの肩に深く突き刺さる。
(どういうこと!?)
アリアの躊躇は一瞬の空白時間を生む。強者同士の戦いにおいてそれは致命的であった。
「……つぅかまえた」
アリアの腕を掴んだのはズォール。その顔は冷静そのもの。逆上したように見えたのはすべて演技だったのだ。
「は、離せっ!!」
振り払おうとするアリアだったが、凄まじいまでの握力はアリアは離さない。
「さぁて……悪戯子猫チャンにはオシオキが必要だよなぁ」
ズォールがにたりと嗤う。
「アリア嬢!!」
「おっと、そっちのクマ野郎は動くんじゃねえぞ。少しでも動いたら……わかってるよな」
ウェルスは動けない。若者達もまだ回復の途中。何かあれば庇いきれないのは明白だった。
「きゃぁああーーーーーー!!!!」
ズォールの手によってアリアの衣服は乱暴に破られ、引き剥がされていく。
「ギャハハハ!!! 今日は特別サービスだ。子猫チャンのストリップショウも開催だぜぇ!!」
沸きあがる歓声。どよめく闘技場。首をいやいやと振りながら目に涙を浮かべて抵抗するアリア。だが、その抵抗は一層ズォールの嗜虐心を煽るだけだった。
「ギャハハハ!! オラ、どうした!! もっと抵抗しろよ!! ……それとも見てもらいたいのかよぉ。とんだビッチだぜ、こいつはよぉぉーーーー!! ……おうおう……どこもここも柔らけぇなぁ……安心しろよ。ストリップショウの後は更なるおたのしみが待ってるぜ」
「嫌……イヤ……嫌ぁぁぁああああ!!!!
どす黒い悪意がアリアの心を侵食していく。まさに絶体絶命の状況。しかし事態を変えたのはたった一撃の超重攻撃であった。
「天穿つ喝采の一撃(ふ る す い ん ぐ)──」
凄まじい衝撃音と共に突然ズォールが悲鳴を上げる。
「そこまでにして頂けますか」
床に投げ出されるアリアの傍に立っていたのはアンジェリカ。途中で合流した8人の自由騎士達。その6人が操作室に向かった事で、アンジェリカは予想より早く闘技場へと上がってくる事が出来たのだ。
「グハッ……なんだこの攻撃は……ゴフッ……痛てぇ……痛てえよ……」
全く予想外の攻撃。会心ともいえる一撃をその身に受けたズォールは血を吐き散らしながら身悶える。
「大丈夫ですか?」
アンジェリカは聖母のような微笑でアリアを包み込む。
衣服はズタボロに破られ、その端々からは無垢な柔肌がのぞく。心さえも蹂躙されかけた。それでもアリアは前を向く。
「大丈夫です。それと……敵のスタイルは防御タンクです。私の攻撃をわざと受けたのはきっと確実なスキル発動のため」
アリアはこのような状況になりながらも敵をしかりと分析していた。
「アリア嬢でかした! それと……けが人はゲートで下ろしといたぜ」
乙女の大切な部分は何とか隠れているもののほぼ半裸のようなアリアに目を逸らしながらウェルスが若者達の無事を知らせる。
「ぶっ殺す!! コロス殺すころす!!」
血反吐を吐きながら襲い掛かってくるズォールに、ウェルスはこう言い放つ。
「これならどれだけ防御が硬かろうと関係ないぜ!」
ウェルスが放った二連の弾丸はズォールの急所を捉え、そしてその強固な防御力をも打ち抜いたのであった。
●
一方謎の部屋。側近2人を瞬時に倒したエルシーと狼華はリチャードと交戦を続けていた。
『嫌ですわぁ、ドトール様──』
『こうゆうんはもっと目の届かん所でやってもらわんと……マダムがかわいそうやわぁ──』
『うちも仲良う遊んで頂ける日を楽しみにしてましたのに──』
剣を交えるリチャードと狼華。その剣と剣が火花を散らす度、狼華はリチャードに小声で呟く。
「こいつ……」
イラつくリチャード。よもや自身の欲望のはけ口から反旗を翻される事になるとは思ってもみなかったのだろう。金さえ払えばなんでも思い通りになる世界。その世界の住人から今リチャードは攻撃されているのだ。
さらには一度距離をとれば、煽る様に胸元から取り出した黒いカードで口元を隠し、くすくすと笑う。それはまるで「なんでもお見通し」と言われるが如きであった。
その一挙一動に翻弄されるリチャード。そして心の動揺は如実にその行動に現れる。
「遅いっ!!」
それをエルシーが見逃すはずも無い。散漫となったリチャードの動きに合わせ、エルシーは魂こめた拳を一撃、また一撃と打ち込んでいく。
「なぜだっ!? 何故当たらない?!」
リチャードも応戦はするものの……三連の斬撃も、起死回生の混乱付与も、如何なる攻撃もエルシーと狼華の芯を捉える事は叶わなかった。
単純な実力だけであればリチャードを止めるのは精鋭の自由騎士達でもかなり難しかっただろう。だが狼華の紡いだ言の葉はリチャードの心を乱れさせ、その実力を半分も出せない状態にまで追い込んでいた。心理戦においてこの勝負はすでに決着していたのだ。
「くそう……だが……お前だけは……許さん!!!」
リチャードが攻撃の矛先に選んだのは……ヨコヅナだった。その剣を一直線にヨコヅナに向け、突進していく。
「死ねぇーーーー!!!」
だがヨコヅナは構えすら取らず、静かに目を閉じた。
(これでワシも……)
ザシュッ──。
ヨコヅナが目を開けると……そこには剣を受け止めるエルシーの姿。
切っ先を掴むエルシーの両手からは鮮血が滴る。
「くそがぁっ!!」
エルシーは受け止めた剣を投げ捨て、拳を握る。みるみる真紅に染まっていくエルシーの拳。
「終わりよ……」
「やめろ……やめろ!! やめろぉぉぉおおおお!!!!」
「緋色の衝撃(すかーれっといんぱくと)----っ!!!」
極至近距離から繰り出されたエルシー渾身の寸勁。リチャードの意識はそこで途切れる。
狂気のショウは終わったのだ。
●
「ドミニクの情報を貰えませんか?」
自由騎士たちは捉えたリチャードの尋問を行っていた。
「ラスカルズとは……裏で繋がってるはるんでしょう? 金だけの問題やあらしゃまへんのでしょう? ねぇ…うちに聞かせておくれやす……?」
狼華は体を枝垂れかけながら、甘い声色でリチャードに迫る。
「俺は何も知らん」
「隠しても無駄よ。共謀している事はわかっているわ」
殴りかからんばかりにエルシーが詰め寄る。
「や、やめてくれ!! ……本当に……本当に何も知らないんだ」
うな垂れる男。嘘をついているとも思えないその男の態度に自由騎士も戸惑いをみせる。
「一体どういうこと? いつも一緒に観戦してたんじゃないの?」
「俺はあいつの顔を見た事がねえ。いつもフードですっぽりだったからな。来るときだっていつも突然現れる。連絡先だって知らない。俺だって──」
「おいおい、冗談だろ……ここまで何も知らされて無いとはな」
ウェルスはぽりぽりと頭を掻く仕草をする。商売をやってりゃ慎重なヤツはいくらでもいる。だがここまでのヤツはそうはいない。
ビジネスパートナーとも思えるリチャードですら知らされていないドミニクの素性。
(また何の情報も得られないなんて……。悪行を共に行った者ですら連絡先もわからないなんて……)
今度こそと決意していたアリアはその肩を落とす。だがふとリチャードの言葉を思い出す。俺だって……?
「……? 俺だって……何?」
アリアが問う。
「俺だって調べようとしたさ。だが、密偵はすべて音信不通になった。きっとアイツに始末されたんだ」
「おい、こりゃなんだ?」
その時、ニコラスが部屋の隅の屑箱から破られた写真を発見する。
「それは密偵が音信不通になる前、持ち込んだ写真だ。見てのとおり何も関係ないどこの誰かもわからない馬の骨だ」
「……見せてください」
アリアは破り捨てられた写真を貼り合わせてみたが、確かにそこには人のよさそうな普通の少年が写っているだけだった。
「やっぱり何の情報も……」
アリアの手からするりと抜け落ちた写真を拾おうとしたその時。
「……これは……?」
裏返った写真。そこにはかすかに「D.H」と書かれ、消されたような跡がはっきりと残っていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『破り捨てられた写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
†あとがき†
ショウは終演を迎えました。そして残すは姿の見えなかった真のゲス。
MVPは葛藤する元闘技者をあらゆる意味で救ってくださった貴女へ。
ご参加ありがとうございました。
MVPは葛藤する元闘技者をあらゆる意味で救ってくださった貴女へ。
ご参加ありがとうございました。
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