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猛火絢爛。或いは、インフェルノを消火せよ…

●燃えさかる屋敷
その屋敷で火事が起きたのは4日前だ。
誤って燭台を倒してしまったことがその原因。
即座に住人たちは逃げだし、近隣の者たちに助けを請うて消火にあたる。
大きな屋敷とはいえ1日もあれば消火は完了するだろう。
誰もがそう考えていたのだが……。
『ォォォオオオオオオオ』
炎が唸る。
否、それは獣の雄叫びのようだった。
屋敷は依然燃え続けたまま、とうとう4日の時間が過ぎる。
炎に包まれ、焼け焦げてはいるが未だに崩れ落ちることもなく屋敷はその場にあり続けていた。
そして、その日……。
「こりゃ、どうなってやがるんだ?」
消火にあたっていた街人の1人が、その異変に気がついた。
彼の足下には1本の炭木。元は屋敷の柱か何かだったのだろう。
真っ赤な炎が纏わり付いたその炭木は、燃焼し灰になることもなく男の足下で燃え続けていた。
まるで、炎が炭木を依り代としてその場に留まり続けているかのようだ、と男は思う。
なるほど、と。
つまり屋敷は、この異常な炎がその場に留まり続けるために、今もこうしてその場に建っているのだろう。
そう思い、男は屋敷へ視線を向ける。
炎の中に、人の影が見えた気がした。
●階差演算室
「イブリース化した“何か”……燃えさかる外見から、個体名は[インフェルノ]ね。皆にはそいつの討伐をお願いしたいの」
そう言って『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は演算室に集まった自由騎士たちの顔を見渡した。
各々の信じる“何か”のために戦いへ身を投じる、頼もしき仲間たちである。
「ターゲットの数は1体。だけど、炎が邪魔で接近できないのが問題ね。炎には[バーン]が付与されているから何か対策が必要かも」
この場合考えられる対策として、クラウディアは以下のものをあげた。
遠距離攻撃によるインフェルノの討伐。
挑発しインフェルノを業火の外へとおびき出す。
建物ごと業火をなぎ払い、強引にインフェルノへ接近する。
あるいは、対策を施した後、炎の中を突き進む。
「まぁ、ほかにも方法はあるかもしれないけどね。インフェルノは炎弾による遠距離攻撃と、格闘による近距離攻撃の手段を保有しているよ」
それぞれの攻撃にはともに[バーン]が付与されているとのことである。
「一度、周囲の炎を消したとしても油断は禁物だよ。木材や植物があればすぐにそれらを燃やして、自分に有利な戦場を整えてくるからね」
また、可燃性物質が無い場合でも周囲の酸素を燃やすことで一時的に周辺一帯を炎に包むことが可能なようだ。
幸い[バーン]以外の状態異常を付与してこないので比較的戦いやすい相手といえない事も無いかも知れない。
「なにはともあれ、これ以上火事が広がらないとも限らないわけだし、なるべく早めに解決してほしいかな?」
よろしくね、と。
信頼の笑顔とともに、クラウディアは仲間たちを送り出す。
その屋敷で火事が起きたのは4日前だ。
誤って燭台を倒してしまったことがその原因。
即座に住人たちは逃げだし、近隣の者たちに助けを請うて消火にあたる。
大きな屋敷とはいえ1日もあれば消火は完了するだろう。
誰もがそう考えていたのだが……。
『ォォォオオオオオオオ』
炎が唸る。
否、それは獣の雄叫びのようだった。
屋敷は依然燃え続けたまま、とうとう4日の時間が過ぎる。
炎に包まれ、焼け焦げてはいるが未だに崩れ落ちることもなく屋敷はその場にあり続けていた。
そして、その日……。
「こりゃ、どうなってやがるんだ?」
消火にあたっていた街人の1人が、その異変に気がついた。
彼の足下には1本の炭木。元は屋敷の柱か何かだったのだろう。
真っ赤な炎が纏わり付いたその炭木は、燃焼し灰になることもなく男の足下で燃え続けていた。
まるで、炎が炭木を依り代としてその場に留まり続けているかのようだ、と男は思う。
なるほど、と。
つまり屋敷は、この異常な炎がその場に留まり続けるために、今もこうしてその場に建っているのだろう。
そう思い、男は屋敷へ視線を向ける。
炎の中に、人の影が見えた気がした。
●階差演算室
「イブリース化した“何か”……燃えさかる外見から、個体名は[インフェルノ]ね。皆にはそいつの討伐をお願いしたいの」
そう言って『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は演算室に集まった自由騎士たちの顔を見渡した。
各々の信じる“何か”のために戦いへ身を投じる、頼もしき仲間たちである。
「ターゲットの数は1体。だけど、炎が邪魔で接近できないのが問題ね。炎には[バーン]が付与されているから何か対策が必要かも」
この場合考えられる対策として、クラウディアは以下のものをあげた。
遠距離攻撃によるインフェルノの討伐。
挑発しインフェルノを業火の外へとおびき出す。
建物ごと業火をなぎ払い、強引にインフェルノへ接近する。
あるいは、対策を施した後、炎の中を突き進む。
「まぁ、ほかにも方法はあるかもしれないけどね。インフェルノは炎弾による遠距離攻撃と、格闘による近距離攻撃の手段を保有しているよ」
それぞれの攻撃にはともに[バーン]が付与されているとのことである。
「一度、周囲の炎を消したとしても油断は禁物だよ。木材や植物があればすぐにそれらを燃やして、自分に有利な戦場を整えてくるからね」
また、可燃性物質が無い場合でも周囲の酸素を燃やすことで一時的に周辺一帯を炎に包むことが可能なようだ。
幸い[バーン]以外の状態異常を付与してこないので比較的戦いやすい相手といえない事も無いかも知れない。
「なにはともあれ、これ以上火事が広がらないとも限らないわけだし、なるべく早めに解決してほしいかな?」
よろしくね、と。
信頼の笑顔とともに、クラウディアは仲間たちを送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ターゲット、インフェルノの撃破
●ターゲット
インフェルノ(イブリース)×1
屋敷にあった“何か”がイブリース化した存在。
炎に包まれた成人男性のような姿をしている。
現在、燃えさかる屋敷内部に留まっている。
消火活動を行う一般人など歯牙にもかけず好きにさせていたようだが……。
一定範囲内の炎を自身に似た形に変化させる能力を持つようだ。
・炎拳[攻撃] A:攻近単【バーン2】
炎を纏った拳による攻撃。
・炎弾[攻撃] A:魔遠貫【バーン2】
炎で作った弾丸による攻撃。
●場所
燃えさかる屋敷とその庭。
屋敷はその形を保ったまま燃え続けている。
もっとも柱や屋根は焼け焦げ、すでに炭と化しているので強度はさほどないようだ。
自由騎士たちの攻撃により、炎ごと吹き飛ばすことが可能だろう。
炎の影響により長時間同じ場所に留まることで[バーン1]の状態異常を受ける。
まずは炎と屋敷をどうにかするか、インフェルノを炎の外へおびき出さねば接近戦は行えない。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年03月31日
2020年03月31日
†メイン参加者 4人†
●
4日間。
屋敷を覆う炎が燃え続けている期間である。
消火活動など意味をなさず、ただただ炎は燃え続ける。
燃え盛る屋敷の中央で、黒い人影が揺らいだ。
それはイブリース……屋敷にあった“何か”が悪魔へと変じた超常の存在だ。
「ま、放っておいたら大惨事になりかねないわよね。だから、いまのうちに、イブリースを叩く!」
バケツに並々と注がれた水を頭からひっかぶり『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は獣染みた笑みを浮かべた。
水に濡れ、頬に張り付いた赤い髪を指で払って炎の中のイブリース……インフェルノへと、籠手に包まれた拳を突き付ける。
「しっかし、すげーな。コレずっと燃えてるのか!」
エルシーに続いて、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)もまた頭から水を被って足元に置いていた戦斧を手にした。
今にも駆け出して行きそうな2人を横目に見ながら、キース・オーティス(CL3000664)は「ふむ」と顎に手をやり首をかしげる。
「だがどうする? 屋敷の内部は炎に包まれ、我々が行動する事はまず無理がある。さらに、突入できたとしてもそこはイブリースにとって優位な場所だ」
「まぁ、そうだな。周囲に炎を発生させる能力ってことは酸素不足もだが、有害な気体の発生と、それを吸い込むことにより身体へのダメージが懸念される」
それに植物を燃やすのも気に入らん、と『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は焼け焦げた地面……灰と化した芝や野花を悲しそうに一瞥し、コートの内側からダガーを取り出す。
皆、戦意は十全。
だが、問題はインフェルノの立ち位置だ。
燃え盛る業火の中では、いかに自由騎士といえど満足に活動することはできない。
ならば、どうするか。
「ここまで燃えてしまっては、再建するために一度解体作業が必要でしょう。となれば、屋敷は吹き飛ばしてしまってもいいわよね?」
チラとオルパへ流し目をやり、エルシーは笑みを浮かべてそう告げた。
「たしかに、これだけ燃えてしまっては屋敷はもう使えまい。火を消し止めたとしても、あとは残骸が残るのみ……か」
そう言ってオルパは、鋭い眼光で燃え盛る屋敷を見やる。
構えたダガーに、黒い魔力が纏わりついた。
腰を低くし、攻撃態勢を整えるオルパを見て、キースは苦い笑みを浮かべた。
「たしかに、『屋敷を破壊した上でイブリースと戦う』という策は理に適っていると言えなくもない。屋敷を吹き飛ばす、という常識外れな行動に目を瞑ればだが……」
「オルパさん、はやくはやく!」
「……私がおかしいのか? いや、そんなはずは……」
オルパを急かすジーニーを見やり、キースは頭を抱えて悩む。
ジーニーも、オルパも、エルシーも、全員が屋敷を吹き飛ばすことに賛成らしい。
この場においての常識は、どうやらキースの理解を外れたものであるようだった。
●
タン、と地面を蹴り飛ばしオルパは宙へ身を躍らせた。
「ふっ、まぁ見ていろ。この俺のとっておきで、見事消し飛ばしてやろう」
振り抜かれた2本のダガー。
目にも止まらぬ速度で、続けざまに虚空へ向けて斬撃が放たれた。
ダガーに充填された魔力は、黒い矢へと形を変える。
「インフェルノと言ったか。屋敷ごと吹き飛ぶがいい。アウトレンジホーミング!」
屋敷の上部に展開された魔力の矢は、その数100を超えていた。
次の瞬間……展開された魔力の矢は、一斉に燃え盛る屋敷へと降り注いだ。
まるで豪雨のように、魔力の矢はインフェルノの炎を掻き消していく。
さらに……。
「一発で無理なら、屋敷が吹き飛ぶまでもう一発お見舞いするぜ」
オルパは追加で、魔力の矢を解き放った。
「よっしゃ、私も手伝おう! 熱くても頑張るぜ!」
矢の勢いが弱まったところで、ジーニーが屋敷目掛けて突撃をかけた。
大上段に掲げた戦斧を、力任せに地面へ向けて振り下ろす。
衝撃派が巻き起こり、瓦礫と共に炎を宙へと巻きあげた。
飛び散る火の粉の中、ジーニーは獰猛な笑みを浮かべる。
そんなジーニーの眼前に迫る黒い影が一つ。
「ん……なっ!?」
業火によって形成された人型……インフェルノの操る炎の人形がジーニーの腹部を殴り飛ばした。
身体をくの字に折り曲げ、ジーニーはその場に倒れ伏す。
「あ、っちちち!!」
腹部に灯った炎を叩いて消しながら、ジーニーは地面を転がった。そんなジーニーの元へ、ゆっくりとインフェルノが歩み寄っていく。
オルパとジーニーの攻撃により、屋敷はすでに崩壊していた。
炎の勢いも衰え、もはや残骸が燻る程度。
自身の住処をめちゃくちゃにされたインフェルノは、おそらく怒っているのだろう。
ゆっくりと、けれど力強く地面を踏みしめ前へと進む。
そんなインフェルノの眼前に迫る赤い影。
「こちとら女神アクアディーネ様に祝福されたオラクルよ! 炎が怖くてアクア神殿で働けるかっての!」
振り抜かれたエルシーの拳が、インフェルノの頬を打ち抜いた。
「熱いのは苦手だ。速攻で決めてくれよ、お二人さん」
大技を放った疲労からか、オルパの額にはびっしりと汗が滲んでいる。
まき散らされたとはいえ、つい先ほどまでこの場は業火に包まれていたのだ。熱された周囲の温度も、オルパの疲労の原因だろう。
そんなオルパを庇うように、キースは数歩前へ出る。
インフェルノ自身がまき散らした炎が、人型を形成し2人の元へと迫って来たのだ。
「炎の人型か……あれを囮や身代わりに使われるのは厄介だな。だが、炎のイブリースであれば、氷結魔法が弱点である事は疑いなかろう」
そう言ってキースは、手にしたレイピアを一閃させる。
放たれた青い魔力が、迫る人型を凍り付かせた。
「さて、これで少しは戦いやすくなったかな」
凍り付いた炎の人型をマンゴーシュで突き、崩壊させながらキースは言う。
「それにしても、先輩自由騎士達の鬼気迫る戦いぶり……私もいずれあのレベルで戦えるようになるのだろうか」
彼の視線の先では、インフェルノ相手に真正面から殴り合うエルシーとジーニーの姿があった。
「熱いわね、やっぱり。見た目通りというか……でも、これぐらいの! 熱さで! 退くわけにはいかない!」
渾身の拳打を、続け様にインフェルノの胴へ叩き込む。
炎が飛び散り、エルシーの頬を、肩を、拳を、腕を焼いた。
だが、インフェルノもまた拳を武器とする猛者だ。
その身を形成する炎の勢いが増し、熱波と共に殴打を繰り出す。突き出された炎の拳が、エルシーの腹部へ突き刺さる。
じゅう、と皮膚の焼ける臭いが辺りに漂った。
「ぐ……」
唇の端から血を零し、エルシーは数歩後退した。
苦し気な表情で……しかし、エルシーの口元には微かな笑みが浮かんでいる。
「どおりゃーっ!!」
追撃のため、1歩踏み出したインフェルノの懐へ、雄叫びと共にジーニーが迫る。手にした戦斧を力任せに横に薙ぎ、インフェルノの腕を一太刀のもとに斬り飛ばした。
切られた腕は、空中で炎へと変わり、火の粉と化して消えていく。
「なんでも燃やしちまうってのは、やっぱりダメだわ。私はお前を止めるぜ!」
さらに一撃。
ジーニーの斧が、インフェルノの胴を切り払った。
インフェルノの身は炎で形成されたものだ。
ゆえに、たとえ手足を切り裂かれようと完全消火しない限りはいくらだって再生する。
切られた腕が、抉られた胴が。
わずか数秒で元に戻る。
けれど、ノーダメージというわけではない。
確実に、インフェルノの炎はその勢いを減少させていた。
『----------------!』
咆哮とともに、火炎が舞う。
インフェルノの指先から放たれた炎の礫が、接近していたジーニーの肩を焼き貫いた。
「ぐ……」
たたらを踏み、後退したジーニーとインフェルノの間に、炎の人型が姿を現す。
だが……。
「インフェルノの名にふさわしい攻撃をしてきやがるな!」
ジーニーの横をすり抜け、オルパが炎の人型へと迫る。
振り抜かれたインフェルノの拳を、ダガーで受け流しオルパはその懐へと転がるように潜り込んだ。
振り抜かれた2本のダガーが、人型の胸部を十字に切り裂く。
飛び散った火の粉を払うようにコートを翻し、オルパは素早く視線を周囲へ巡らせた。
いつの間にか、燻る瓦礫の上に立つようにして都合3体の炎の人型が出現していた。
「一見して、どれが本物のインフェルノか見分けがつかんな」
舌打ちと共にオルパはそう呟いた。
そんなオルパの横に立ち、エルシーは両の拳を打ち付け鳴らす。
「なら、全部ぶっ飛ばせばいいんじゃない?」
「そうそう。わからないなら、とにかくぶっ叩くまでだぜ!」
戦斧を構えたジーニーもまた、好戦的な視線をインフェルノたちへと向けて笑った。
そんな3名の背後から、キースが叫ぶ。
「皆、インフェルノの本体は一番奥だ!」
炎弾でジーニーを遠方へと追いやった後、インフェルノが出現させた人型は全部で4体。内1体は即座にオルパが排除したが、そのころにはインフェルノと人型は移動しており、前線で戦うジーニーたちからはどれが本体なのか判別がつかなくなっていた。
けれど、後衛から戦況を観察していたキースには、インフェルノの動きが見えていたのだ。
「我が魔法の奥義を喰らうがいい。そして、凍てつき砕け散るがいい!」
レイピアを一閃させ、青く光る魔弾を放つ。
極寒の冷気をまき散らしながら、魔弾はまっすぐインフェルノ本体へと疾駆。
だが、本体を庇うように間に割り込んだ人型が、代わりに魔弾をその身で受けた。
解き放たれた冷気によって、炎の人型は凍り付く。
「だぁぁっらぁっ!」
前蹴り一発で凍り付いた人型を砕き、ジーニーはインフェルノへと迫った。
残る1体の人型はオルパに阻まれ、その場からは動けない。
「どこが急所だ? 人型とはいえ炎の塊だ。さっぱりわからん」
人型の首を、胸を、腹を。
次々にダガーで切り裂きながら、オルパは問うた。
当然、インフェルノの造り出した炎の人型から返答などあるはずもなく。
代わりとばかりに、燃える拳がオルパの頬をかすめて焦がした。
●
人型の拳を回避するべく、オルパはその身を翻す。
頬をかすめた炎の拳が、オルパの肌を焦がすが、けれどそれは致命傷には程遠い。
人型の腕をダガーが切り裂く。
「しかし、火の不始末がイブリース化してここまで大事になるとはな……まったく、厄介この上ないな」
さらに、一閃。
人型の首を切り落とし、消滅させながらオルパはぼやく。
そんな彼の視線の先には、インフェルノ本体へと迫るジーニーとエルシーの姿があった。
「援護に……いや」
これで十分か、と。
そう呟いて、オルパは2人へ【スクリプチャー】を行使した。
「消火活動も任務のうちだろう。貴族たる者、市民の生活を守る責務があるからな」
ひゅおん、とレイピアが空気を切り裂く音がする。
連続して放たれた青い魔弾が、いまだ燻る屋敷の残骸を次々と凍り付けにしていく。
限りのあるMPを無駄に消費しないよう、キースは勢いの強い炎から順に凍らせていた。炎を残しておけば、またインフェルノが人型を形成しかねない。
最前線で戦うジーニーとエルシーの負担を、少しでも軽減するためにキースは自身にできることをただ淡々とこなすのだ。
ただ、仲間や市民のために。
それが、彼の役割であり、そして貴族としての矜持であった。
ジーニーの斧が、エルシーの拳がインフェルノの身を穿つ。
2人とも全身火傷だらけ、血だらけだ。
斧も籠手も炎に焼かれ、2人の手の皮膚や無残にも焼けただれている。もはや拳を開くことさえ、ままならないほどの大火傷。
戦闘が長引けば、後遺症さえ残りかねないほどだ。
だが、2人は止まらない。
「火傷の跡が残っちゃうかもしれないわね。まぁ、オラクルにとっては勲章か」
などと嘯きながら、エルシーはインフェルノの胸部へ拳を放った。
インフェルノの胸部が爆ぜ、エルシーの身を炎が包む。
「……今、何か硬質なものに拳が触れたわ。インフェルノの核……本体かしら?」
身を包む炎を振り払いながら、エルシーは言う。
炎とは違った、硬質な手応え……インフェルノの胸部の奥には、何かが埋まっているらしい。
だが、遠い。
火炎に包まれた胸部を抉り“何か”へ拳を届かせるにはそれ相応の攻撃を加える必要があるだろう。
だが、エルシー渾身の一撃をもってしても“何か”に拳が触れる程度。
到底、破壊へは至らない。
ならば、と。
前に出たのはジーニーだった。
「力仕事なら任せておけって!」
腰の位置で斧を構えて、ジーニーは滑るよう前へ出る。
インフェルノの拳が、ジーニーの頬を捉えた。
熱気と火炎、殴打の衝撃に視界がぼやける。
けれど、ジーニーは奥歯を噛みしめることで途切れそうになる意識を繋ぎ止めた。
そして……。
「いくぜ! おりゃーっ!!」
気合いを込めた斧の一撃が、インフェルノの胸部を抉る。
火炎が飛び散り、胸部の奥に黒い影が覗いた。
「へ、へへっ……どうよ!」
にやり、と。
笑みを浮かべて、ジーニーはその場に倒れ伏す。
そんなジーニーの頭上を飛び越え、エルシーはインフェルノへと肉薄。
「助かったわ。おいしいトコロはもらっていくわね」
渾身の力を込めて一撃を、胸部目掛けて打ち込んだ。
果たして。
炎が掻き消え、後に残ったのは砕け散った頭蓋骨。
真っ黒に焦げたそれは、聞けば屋敷の主人が収集した魔術の触媒であるらしい。
遠い異国の地で死んだ、どこかの誰かの頭の骨だ。
「この地は当家の領地というわけではないがな。 それを理由に放っておくというのも後味が悪いだろう……屋敷の主人には詳しい話を聞く必要がありそうだ」
と、そう呟いて。
火事が起きた後、姿を消した屋敷の主を捕らえるためにキースはその場を後にする。
4日間。
屋敷を覆う炎が燃え続けている期間である。
消火活動など意味をなさず、ただただ炎は燃え続ける。
燃え盛る屋敷の中央で、黒い人影が揺らいだ。
それはイブリース……屋敷にあった“何か”が悪魔へと変じた超常の存在だ。
「ま、放っておいたら大惨事になりかねないわよね。だから、いまのうちに、イブリースを叩く!」
バケツに並々と注がれた水を頭からひっかぶり『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は獣染みた笑みを浮かべた。
水に濡れ、頬に張り付いた赤い髪を指で払って炎の中のイブリース……インフェルノへと、籠手に包まれた拳を突き付ける。
「しっかし、すげーな。コレずっと燃えてるのか!」
エルシーに続いて、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)もまた頭から水を被って足元に置いていた戦斧を手にした。
今にも駆け出して行きそうな2人を横目に見ながら、キース・オーティス(CL3000664)は「ふむ」と顎に手をやり首をかしげる。
「だがどうする? 屋敷の内部は炎に包まれ、我々が行動する事はまず無理がある。さらに、突入できたとしてもそこはイブリースにとって優位な場所だ」
「まぁ、そうだな。周囲に炎を発生させる能力ってことは酸素不足もだが、有害な気体の発生と、それを吸い込むことにより身体へのダメージが懸念される」
それに植物を燃やすのも気に入らん、と『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は焼け焦げた地面……灰と化した芝や野花を悲しそうに一瞥し、コートの内側からダガーを取り出す。
皆、戦意は十全。
だが、問題はインフェルノの立ち位置だ。
燃え盛る業火の中では、いかに自由騎士といえど満足に活動することはできない。
ならば、どうするか。
「ここまで燃えてしまっては、再建するために一度解体作業が必要でしょう。となれば、屋敷は吹き飛ばしてしまってもいいわよね?」
チラとオルパへ流し目をやり、エルシーは笑みを浮かべてそう告げた。
「たしかに、これだけ燃えてしまっては屋敷はもう使えまい。火を消し止めたとしても、あとは残骸が残るのみ……か」
そう言ってオルパは、鋭い眼光で燃え盛る屋敷を見やる。
構えたダガーに、黒い魔力が纏わりついた。
腰を低くし、攻撃態勢を整えるオルパを見て、キースは苦い笑みを浮かべた。
「たしかに、『屋敷を破壊した上でイブリースと戦う』という策は理に適っていると言えなくもない。屋敷を吹き飛ばす、という常識外れな行動に目を瞑ればだが……」
「オルパさん、はやくはやく!」
「……私がおかしいのか? いや、そんなはずは……」
オルパを急かすジーニーを見やり、キースは頭を抱えて悩む。
ジーニーも、オルパも、エルシーも、全員が屋敷を吹き飛ばすことに賛成らしい。
この場においての常識は、どうやらキースの理解を外れたものであるようだった。
●
タン、と地面を蹴り飛ばしオルパは宙へ身を躍らせた。
「ふっ、まぁ見ていろ。この俺のとっておきで、見事消し飛ばしてやろう」
振り抜かれた2本のダガー。
目にも止まらぬ速度で、続けざまに虚空へ向けて斬撃が放たれた。
ダガーに充填された魔力は、黒い矢へと形を変える。
「インフェルノと言ったか。屋敷ごと吹き飛ぶがいい。アウトレンジホーミング!」
屋敷の上部に展開された魔力の矢は、その数100を超えていた。
次の瞬間……展開された魔力の矢は、一斉に燃え盛る屋敷へと降り注いだ。
まるで豪雨のように、魔力の矢はインフェルノの炎を掻き消していく。
さらに……。
「一発で無理なら、屋敷が吹き飛ぶまでもう一発お見舞いするぜ」
オルパは追加で、魔力の矢を解き放った。
「よっしゃ、私も手伝おう! 熱くても頑張るぜ!」
矢の勢いが弱まったところで、ジーニーが屋敷目掛けて突撃をかけた。
大上段に掲げた戦斧を、力任せに地面へ向けて振り下ろす。
衝撃派が巻き起こり、瓦礫と共に炎を宙へと巻きあげた。
飛び散る火の粉の中、ジーニーは獰猛な笑みを浮かべる。
そんなジーニーの眼前に迫る黒い影が一つ。
「ん……なっ!?」
業火によって形成された人型……インフェルノの操る炎の人形がジーニーの腹部を殴り飛ばした。
身体をくの字に折り曲げ、ジーニーはその場に倒れ伏す。
「あ、っちちち!!」
腹部に灯った炎を叩いて消しながら、ジーニーは地面を転がった。そんなジーニーの元へ、ゆっくりとインフェルノが歩み寄っていく。
オルパとジーニーの攻撃により、屋敷はすでに崩壊していた。
炎の勢いも衰え、もはや残骸が燻る程度。
自身の住処をめちゃくちゃにされたインフェルノは、おそらく怒っているのだろう。
ゆっくりと、けれど力強く地面を踏みしめ前へと進む。
そんなインフェルノの眼前に迫る赤い影。
「こちとら女神アクアディーネ様に祝福されたオラクルよ! 炎が怖くてアクア神殿で働けるかっての!」
振り抜かれたエルシーの拳が、インフェルノの頬を打ち抜いた。
「熱いのは苦手だ。速攻で決めてくれよ、お二人さん」
大技を放った疲労からか、オルパの額にはびっしりと汗が滲んでいる。
まき散らされたとはいえ、つい先ほどまでこの場は業火に包まれていたのだ。熱された周囲の温度も、オルパの疲労の原因だろう。
そんなオルパを庇うように、キースは数歩前へ出る。
インフェルノ自身がまき散らした炎が、人型を形成し2人の元へと迫って来たのだ。
「炎の人型か……あれを囮や身代わりに使われるのは厄介だな。だが、炎のイブリースであれば、氷結魔法が弱点である事は疑いなかろう」
そう言ってキースは、手にしたレイピアを一閃させる。
放たれた青い魔力が、迫る人型を凍り付かせた。
「さて、これで少しは戦いやすくなったかな」
凍り付いた炎の人型をマンゴーシュで突き、崩壊させながらキースは言う。
「それにしても、先輩自由騎士達の鬼気迫る戦いぶり……私もいずれあのレベルで戦えるようになるのだろうか」
彼の視線の先では、インフェルノ相手に真正面から殴り合うエルシーとジーニーの姿があった。
「熱いわね、やっぱり。見た目通りというか……でも、これぐらいの! 熱さで! 退くわけにはいかない!」
渾身の拳打を、続け様にインフェルノの胴へ叩き込む。
炎が飛び散り、エルシーの頬を、肩を、拳を、腕を焼いた。
だが、インフェルノもまた拳を武器とする猛者だ。
その身を形成する炎の勢いが増し、熱波と共に殴打を繰り出す。突き出された炎の拳が、エルシーの腹部へ突き刺さる。
じゅう、と皮膚の焼ける臭いが辺りに漂った。
「ぐ……」
唇の端から血を零し、エルシーは数歩後退した。
苦し気な表情で……しかし、エルシーの口元には微かな笑みが浮かんでいる。
「どおりゃーっ!!」
追撃のため、1歩踏み出したインフェルノの懐へ、雄叫びと共にジーニーが迫る。手にした戦斧を力任せに横に薙ぎ、インフェルノの腕を一太刀のもとに斬り飛ばした。
切られた腕は、空中で炎へと変わり、火の粉と化して消えていく。
「なんでも燃やしちまうってのは、やっぱりダメだわ。私はお前を止めるぜ!」
さらに一撃。
ジーニーの斧が、インフェルノの胴を切り払った。
インフェルノの身は炎で形成されたものだ。
ゆえに、たとえ手足を切り裂かれようと完全消火しない限りはいくらだって再生する。
切られた腕が、抉られた胴が。
わずか数秒で元に戻る。
けれど、ノーダメージというわけではない。
確実に、インフェルノの炎はその勢いを減少させていた。
『----------------!』
咆哮とともに、火炎が舞う。
インフェルノの指先から放たれた炎の礫が、接近していたジーニーの肩を焼き貫いた。
「ぐ……」
たたらを踏み、後退したジーニーとインフェルノの間に、炎の人型が姿を現す。
だが……。
「インフェルノの名にふさわしい攻撃をしてきやがるな!」
ジーニーの横をすり抜け、オルパが炎の人型へと迫る。
振り抜かれたインフェルノの拳を、ダガーで受け流しオルパはその懐へと転がるように潜り込んだ。
振り抜かれた2本のダガーが、人型の胸部を十字に切り裂く。
飛び散った火の粉を払うようにコートを翻し、オルパは素早く視線を周囲へ巡らせた。
いつの間にか、燻る瓦礫の上に立つようにして都合3体の炎の人型が出現していた。
「一見して、どれが本物のインフェルノか見分けがつかんな」
舌打ちと共にオルパはそう呟いた。
そんなオルパの横に立ち、エルシーは両の拳を打ち付け鳴らす。
「なら、全部ぶっ飛ばせばいいんじゃない?」
「そうそう。わからないなら、とにかくぶっ叩くまでだぜ!」
戦斧を構えたジーニーもまた、好戦的な視線をインフェルノたちへと向けて笑った。
そんな3名の背後から、キースが叫ぶ。
「皆、インフェルノの本体は一番奥だ!」
炎弾でジーニーを遠方へと追いやった後、インフェルノが出現させた人型は全部で4体。内1体は即座にオルパが排除したが、そのころにはインフェルノと人型は移動しており、前線で戦うジーニーたちからはどれが本体なのか判別がつかなくなっていた。
けれど、後衛から戦況を観察していたキースには、インフェルノの動きが見えていたのだ。
「我が魔法の奥義を喰らうがいい。そして、凍てつき砕け散るがいい!」
レイピアを一閃させ、青く光る魔弾を放つ。
極寒の冷気をまき散らしながら、魔弾はまっすぐインフェルノ本体へと疾駆。
だが、本体を庇うように間に割り込んだ人型が、代わりに魔弾をその身で受けた。
解き放たれた冷気によって、炎の人型は凍り付く。
「だぁぁっらぁっ!」
前蹴り一発で凍り付いた人型を砕き、ジーニーはインフェルノへと迫った。
残る1体の人型はオルパに阻まれ、その場からは動けない。
「どこが急所だ? 人型とはいえ炎の塊だ。さっぱりわからん」
人型の首を、胸を、腹を。
次々にダガーで切り裂きながら、オルパは問うた。
当然、インフェルノの造り出した炎の人型から返答などあるはずもなく。
代わりとばかりに、燃える拳がオルパの頬をかすめて焦がした。
●
人型の拳を回避するべく、オルパはその身を翻す。
頬をかすめた炎の拳が、オルパの肌を焦がすが、けれどそれは致命傷には程遠い。
人型の腕をダガーが切り裂く。
「しかし、火の不始末がイブリース化してここまで大事になるとはな……まったく、厄介この上ないな」
さらに、一閃。
人型の首を切り落とし、消滅させながらオルパはぼやく。
そんな彼の視線の先には、インフェルノ本体へと迫るジーニーとエルシーの姿があった。
「援護に……いや」
これで十分か、と。
そう呟いて、オルパは2人へ【スクリプチャー】を行使した。
「消火活動も任務のうちだろう。貴族たる者、市民の生活を守る責務があるからな」
ひゅおん、とレイピアが空気を切り裂く音がする。
連続して放たれた青い魔弾が、いまだ燻る屋敷の残骸を次々と凍り付けにしていく。
限りのあるMPを無駄に消費しないよう、キースは勢いの強い炎から順に凍らせていた。炎を残しておけば、またインフェルノが人型を形成しかねない。
最前線で戦うジーニーとエルシーの負担を、少しでも軽減するためにキースは自身にできることをただ淡々とこなすのだ。
ただ、仲間や市民のために。
それが、彼の役割であり、そして貴族としての矜持であった。
ジーニーの斧が、エルシーの拳がインフェルノの身を穿つ。
2人とも全身火傷だらけ、血だらけだ。
斧も籠手も炎に焼かれ、2人の手の皮膚や無残にも焼けただれている。もはや拳を開くことさえ、ままならないほどの大火傷。
戦闘が長引けば、後遺症さえ残りかねないほどだ。
だが、2人は止まらない。
「火傷の跡が残っちゃうかもしれないわね。まぁ、オラクルにとっては勲章か」
などと嘯きながら、エルシーはインフェルノの胸部へ拳を放った。
インフェルノの胸部が爆ぜ、エルシーの身を炎が包む。
「……今、何か硬質なものに拳が触れたわ。インフェルノの核……本体かしら?」
身を包む炎を振り払いながら、エルシーは言う。
炎とは違った、硬質な手応え……インフェルノの胸部の奥には、何かが埋まっているらしい。
だが、遠い。
火炎に包まれた胸部を抉り“何か”へ拳を届かせるにはそれ相応の攻撃を加える必要があるだろう。
だが、エルシー渾身の一撃をもってしても“何か”に拳が触れる程度。
到底、破壊へは至らない。
ならば、と。
前に出たのはジーニーだった。
「力仕事なら任せておけって!」
腰の位置で斧を構えて、ジーニーは滑るよう前へ出る。
インフェルノの拳が、ジーニーの頬を捉えた。
熱気と火炎、殴打の衝撃に視界がぼやける。
けれど、ジーニーは奥歯を噛みしめることで途切れそうになる意識を繋ぎ止めた。
そして……。
「いくぜ! おりゃーっ!!」
気合いを込めた斧の一撃が、インフェルノの胸部を抉る。
火炎が飛び散り、胸部の奥に黒い影が覗いた。
「へ、へへっ……どうよ!」
にやり、と。
笑みを浮かべて、ジーニーはその場に倒れ伏す。
そんなジーニーの頭上を飛び越え、エルシーはインフェルノへと肉薄。
「助かったわ。おいしいトコロはもらっていくわね」
渾身の力を込めて一撃を、胸部目掛けて打ち込んだ。
果たして。
炎が掻き消え、後に残ったのは砕け散った頭蓋骨。
真っ黒に焦げたそれは、聞けば屋敷の主人が収集した魔術の触媒であるらしい。
遠い異国の地で死んだ、どこかの誰かの頭の骨だ。
「この地は当家の領地というわけではないがな。 それを理由に放っておくというのも後味が悪いだろう……屋敷の主人には詳しい話を聞く必要がありそうだ」
と、そう呟いて。
火事が起きた後、姿を消した屋敷の主を捕らえるためにキースはその場を後にする。