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怒りのうさぎリンゴ~ジューシーな飛び蹴り~




 連日の曇天から解放されて、珍しく冬晴れのある日。
 灰色の曇り空ばかり見て気持ちまでどんよりしていた子供たちも開放的な気分になり、仲良し5人グループで近所の森へピクニックに行くと言い出したのである。
 
 「まぁこの寒いのに……カゼ引かないでねー?」
 心配顔とも呆れ顔ともつかない表情の母親にマフラーをぐるぐると巻き付けられながらも、言い出したら聞かない強情な坊やはどこ吹く風のニコニコ顔だ。
 「そんなのへっちゃらだよ。いってきまーす!」
 喜び勇んで玄関のドアをバーンと開け放ったまま駆け出した。

 雲一つない、優しい水色の空。弱々しいけれども少しの温もりをくれる日差し。
 子供たちは横一列に並んで森の道をとてとて歩いていく。
 この森は公園に隣接しており、道も子供にもわかりやすく整備されている。
 ちょうど食べ頃の豊潤なリンゴが実った、幅の広い並木道をみんな鼻やほっぺたを赤くさせつつも楽しげに歌いながら進む。

 「さぁ、このへんでランチにしよっか」
 「さんせー!」
 「キライなものあったら交換しよーねー」
 道の真ん中だというのにみんな腰を下ろし、リュックサックからお弁当を取り出そうとしたところで

 「ブゥ、プン……」

 リンゴ並木の奥から、鼻を鳴らすような低くくぐもった声が聞こえてきた。
 「やだ、なに今の声……」
 「もしかして、オオカミ……??」
 子供たちは途端に泣きそうな顔になり、互いに身を寄せ合った。
 身じろぎもできない子供たちの前にのっそりと現れたのは、大型犬ほどもあるかと思われる巨大なうさぎリンゴだった。
 「うわー!! リンゴのおばけだー!!」
 子供たちは泣き叫んで立ち上がり、反対側の並木に逃げようとした。
しかしそれよりも速くうさぎリンゴは後から後から飛び出して、その赤い皮の付いた頭で彼らに突撃する――
 「きゃああ!!」
 

 「――とまあ、こんな具合でおっきなうさぎリンゴの幻想種が大勢寄ってたかって子供たちに頭突きや飛び蹴りを喰らわせちゃうんだ」
 階差演算室にて『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)の話す事の粗筋をそこまで聞いたところで、自由騎士たちは皆一様に「え?」と疑問符を立てる。

 頭突きはともかく、飛び蹴り?足無いのに?

 自由騎士たちが脳内でツッコミを入れたのをよそに、クラウディアは話を続ける。
 「どうも幻想種たちは子供たちに怒りを覚えているようだね。実体はリンゴみたいだから大半は思う存分斬るなり、‘‘煮るなり焼くなり’’好きにしてオッケーだけど、一匹くらいは生け捕りして話を聞いてあげればいいんじゃないかな?」
 クラウディアは冷静に話しつつも、頬を紅潮させどこかうずうずとして落ち着かない様子だ。
 旬の果物、あまーいリンゴ。嫌な予感が自由騎士たちの胸をよぎる。
 眼前の少女はやっと言えるぞとばかりに大きく息を吸い込み、声を張り上げた。
 「もしそのリンゴ持って帰ってきてくれたら、クラウディア特製の極上アップルパイをみんなにたっぷり食べさせてあげるよ!!」
 予感的中。自由騎士たちは暗黙の了解で目配せした。

 倒した後、その場でリンゴパーティーを開催し跡形もなく食べ切ること。

 「ああ、私もついていきたいくらいだよー!」
 両手を握りしめて弾む楽しげな彼女に悪いと思いつつ、自由騎士たちは決意を胸に階差演算室を後にしたのだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
■成功条件
1.幻想種を退治する。
2.幻想種1体を確保した上で、言い分を聞く。
はじめまして、ルイーゼロッテと申します。

●エネミー
うさぎリンゴそっくりの幻想種(×50)
森の木に実るごく普通のリンゴがなんらかの理由を持って幻想種となったようです。
一般的によく見られる、V字型の赤い皮でうさぎの耳に見立てた8つ切のリンゴが大型犬くらいのサイズになって襲いかかってきます。
襲撃時は全く言葉は話せませんが、冷静になると会話することが可能です。
赤い皮の付いた頭で頭突き、皮の付いていないお尻の部分で飛び蹴りというようにまともにタックルされるとPCは尻もちをついてしまい、なかなかの痛さです。

接近するとリンゴ特有の芳香を放ちます。
うさぎの特性を身に着けているので動きは素早いです。
体格は様々ですが、なかでも薄切り……細身のうさぎリンゴは厚切りのリンゴよりも素早く、仕留めづらいです。
斬られたり焼かれたりして倒されるなど生命活動をやめると、ただのリンゴに戻ります。

リンゴパーティーの予定を立てているので、生クリームやハチミツ、マシュマロなど食材や調理器具、食器は持ち込み可能なので持ち込みたい方はプレイングに書いてください。

●エネミーの攻撃方法
頭突き
飛び蹴り(見た目的にはヒップアタックと形容した方が近い?)
のみですが、厚切り……体格の良いものほど威力が強いので骨折に注意!

●場所情報
イ・ラプセル郊外の住宅地に隣接している森。よく整備されており、一本道の両側のリンゴ並木からうさぎリンゴの幻想種が続々と飛び出してくる。
道は太く足場も平らなのでその場で問題なく戦える。

行楽のために整備された森だが、冬場なのでほとんど人は通らない。
森は深く、本物のうさぎやリス、シカや野鳥なども生息している。

それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/6
公開日
2020年02月03日

†メイン参加者 4人†




 冬の旬の果物、あまーいリンゴ。 
 この時期あまり色彩の無い風景の中で一際目立つ、真っ赤なリンゴ。
 それがうさぎを模った姿ならいかにも可愛らしい。
 しかし、それが大型犬ほどの体躯で、なおかつ自分たちに襲い掛かろうとしていると分かれば、到底愛らしいと思える訳もなく。
 恐怖で逃げることもままならない子供たちに四方八方から巨大なうさぎリンゴが突撃するまで、あとわずか――

 「ヤアッ!!」

 突如飛び出してきた小柄な少女が、地面に両手を着いたかと思うと天を突くように勢いよく両の足を振り上げ
 
 ヒュルヒュルヒュル……

 竜巻を起こすかの如く速さで回転し、残像となった足がうさぎリンゴに打ち込まれた。

 「プギュゥッッ!!」

 舞い上がる飛沫……無論、血ではなく果汁――を振り切って、自分たちの半径10メートル以内はただの砕けたリンゴが転がっているばかりであることを確認した当の少女、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は呆然とする子供たちの方を振り返った。
 「心配しないで。お姉ちゃんたちが来たからもう大丈夫だよ!」
 ぱぁっと向日葵の花が開いたような眩しい笑顔で手を差し伸べ、森へと誘導する。
 そんな彼女の後から急いで戦線に出たのは、『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。
 凄まじい蹴り技によって遠くまで吹き飛ばされたリンゴたちが、しぶとく体制を立て直す姿に焦りを感じる。
 「カノンさん、すごい……初手から神嵐を繰り出せるなんて……わ、わたしもしっかりしなくちゃ」
 と気を引き締めて杖を構えた。
 しかし、実体はただのリンゴだということは分かっていながらも気の優しい彼女は、遠目から見ると可愛らしいうさぎリンゴたちに攻撃を下すことについ、躊躇が頭をもたげていく。


 「これでひと安心だね」
 「がんばってぇー」
 森の茂みの中。頼れそうなお姉さんたちに匿われたことで少し落ち着きを取り戻したやんちゃな子(男3女2)たちは、そーっと木々の陰から様子を観察しながらひそひそ話を始めていた。
 幼い子供にはヨウセイを目にするのは珍しいことの様で、ティルダの姿に興味津々だ。
 「ちょうちょみたいな羽が生えてるよー! あれって森の妖精さんかな?」
 「えーあんなに真っ白な肌でふわふわしたドレスだから毒リンゴ食べさせられちゃったお姫さまじゃない? なんかの絵本で読んだことあるよ。だからリンゴのおばけをやっつけたいんだ」
 と少しばかりかすっているようなそうでもないような憶測を次々としていく。

 「な、なにためらってるの私……でも……」
 と逡巡を続けてしまうティルダ。
 再び戦線に戻ったカノンと共に、今度は茂みの反対側から飛び出てきたリンゴうさぎの群れに迎撃の真っ最中だった『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が振り返り、驚いて叫ぶ。
 「ティルダ様、危ない!!」
 「えぇっ?」
 ハッとした時には彼女の視界は一面、リンゴの皮の付いた頭が広がっていた。
 「きゃあっ!」
 すぐさま屈んだ。頭突きを避けられない――
 しかし、己に何の衝撃も感じない。恐る恐る目を開け前方を見ると、真鍮や鋼が輝く両の義足、それらと自らを覆い隠す巨大な銅の盾が確認できた。
 その主はまさしく、『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)だった。
 「ティルダ様、ご無事ですか? ここは私にお任せを」
 「はっ、はい! ありがとうございます、デボラさん……」
 ティルダは少し安堵の笑みを浮かべ、彼女の背中に隠れるようにそっと後衛に就いた。
 「騎士だ! かっこいーい!」
 「守られてるからやっぱりお姫さまなんじゃない?」
 なるほど、ティルダを庇うように前に立ち、ショートカットの髪を揺らして構えの姿勢を取る姿は王子さながらだ。称号的にはむしろこちらが‘‘姫’’なのだけれども。
 デボラは盾に跳ね返されて怪訝な様子のリンゴうさぎを睨みつける。
 彼女は昔から、子供たちを守るためなら何が脅威だろうと怯まない。
 顰められた凛々しい眉の下の翡翠の双眸は、強い正義感と好奇心でプリズムのような輝きを発していた。
 「おあいにく、うさぎリンゴさん!」
 言い放つとすぐさまバーチカルブロウ。放たれた気は近くのリンゴを全て吹き飛ばし、後には大破した果実が甘い香りとともに残った。
 これでうさぎリンゴの数は半分ほどになった。
 ティルダはデボラの気迫と勢いを目の当たりにして冷静さを取り戻し、再び杖を構えた。
 いささか疲弊したようで足がすくんでいるリンゴたちに向けて、トロメーアを放つ。
 果実の表面は霜が降りかかったように白くなり、全く身動きしなくなった。
 「やった、やりました!これで相手は手も足も出ません!」
 かくしてティルダは、うさぎリンゴたちを文字通り‘‘冷蔵’’することに成功した――のだが。

 「フフ、‘‘芯’’まで冷えたようですね」
 ザッ、とデボラの前に足を踏み入れたアンジェリカ。先刻までカノンと共に戦っていたが、どうやら向こうが落ち着いてこちらに加勢してくれるようだ。
 
 「……?」
 彼女たちは異変に気が付いた。戦意を喪失したかのようにぐったりとしていたリンゴたちが、彼女の気配に気づくなり見る見るうちに皮が燃えるような赤に戻り、薄く切られた耳をピンと立てたのである。
 訝しんでいたアンジェリカだったが、ハッとして口を覆った。
 彼女はホンドキツネのケモノビト。そう、うさぎの天敵、キツネ。
 うさぎリンゴたちは彼女の素性をこの時理解し、途端に士気を取り戻したのだ。
 そんなところはうさぎの本能を身に着けていたのか。厄介なリンゴである。
 「あらあら、煮リンゴのようですね……あんまり放置すると腐ってしまいます、手早くやらなければ!」
 そう力強く言い放つと、どこか熱っぽく小刻みな足取りでゆっくりと、徐々に早くリズムを取る。
 ダン、とリンゴたちは不機嫌を示す地団太を後ろ脚で強く踏み、彼女に飛び掛かった。
 狂おしくターンを続けるアンジェリカ。それに合わせてくるくると舞い踊る、キツネを通り越してライオンのたてがみのように燃える金髪のなんと美しいことか。
 しかし周囲の敵たちが見惚れる余裕など無い。十字架によって全方位に斬撃を下されているのだから。
 
 ただの塊となったリンゴを見下ろして彼女はほくそ笑む。
 しかし、どんなリンゴの艶肌よりも深紅の輝きを放つ瞳の奥で、彼女は秘かに思案していた。
 リンゴは何故怒っている?洞察力のあるアンジェリカでもそのようなことは考えたことが無い。動物なら気持ちを推し量ることが可能だが、やはり実体はリンゴ、意思は植物のようである。
 何だというのだ?とても重大なこと?それともわりとしょうもないこと?
 いや。彼女はとにかく最終段階であるリンゴソース・パスタの賞味に思いを馳せ、
 目の前の戦闘に再び集中、邁進した。


 うさぎリンゴたちも数えられる程度となり、自由騎士たち4人は集まって共闘し着実に数を減らしていた。
 しかし、数が数である。ひたむきに震撃を繰り出していたカノンだったが、相手は彼女と大差無い体格でしぶとく、一体一体倒すごとに少しずつ消耗していった。 
 ピョン!
 中でも厚切りのリンゴが角張った足を向けて彼女に飛び掛かる。
 すぐさま柳凪の構えを取り手甲で受け流すも、ズザザザ……と地面の上を足が後退していく。
 「はぁ……何とか持ちこたえられた……」
 ホッとした次の瞬間、逆方向から別のうさぎリンゴの足が彼女に向けて飛ぶ――
 「うわぁっ!!」
 「「カノン様!!」」
 蹴り上げられた彼女は、勢いよく後ろに倒れ込んでしまう。
 「くっ……まだまだ!」
 立ち上がった彼女の両の目は、琥珀のような輝きを放っていた。
 うさぎに負けない視野範囲の広さを誇る、リュンケウスの瞳、発動。
 「ティルダちゃん、今のリンゴたちをアイスコフィンで冷凍しちゃって!!」
 「はっ、はい!」
 途端にリンゴたちを氷が覆いつくし凍てつかせる。
 「アンジェリカちゃん、リンゴをバッシュしよー!」
 「ええ!」
 リンゴの氷漬けは十字架によって飛散した。キラキラと日光に当たりながら宙を舞う、美しいリンゴ・シャーベット。
 「これにて、かーんせーい!!」
 すかさず大きな器で受け止める小さな司令塔、カノン。
 茂みの中の子供たちは、一連の素晴らしい連携プレーを目の当たりにし、圧倒されっぱなしだ。
 「あのちっちゃい戦士はぼくらとあんまりかわんないちびっこなのにたのもしいね」
 その声を耳にしたカノンが、子供たちに向かって「エヘン!」と胸を張りピースをしてみせた。
 
 「さーもう手出しさせませんよ!じっとしてて下さいねー!」
 一匹だけ残ったうさぎリンゴをデボラが抱きかかえ、羽交い絞めにする。
 なかなか手強く、ジタバタともがき続けるがデボラの豊満な胸に圧し潰されキュウ……と大人しくなった。
 「やれやれ……それでは皆様に恵みの雨を」
 ハーベストレインが自由騎士たち4人と1匹の上に優しく降り注ぐ。
 痛みも疲れも全て押し流していく。
 リンゴもデボラの胸の中でほー・・・・・・と一つ大きなため息を吐いたのち、ポツリポツリと話し始めた。
 「ワシらはお前さんたち大人に恨みがあるわけではない……」
 意外と渋いおじ様ボイス。デボラがキュン……とときめいたのは言うまでもない。
 「あやつら子供たちに怒っているのじゃ……」
 言いながら、ようやく茂みから出てこちらに近づいてきた子供たちのように顔を向ける。自由騎士たちも皆一様にそちらを向いた。
 「ここにピクニックやハイキングに来る子供たちはみーんな、野菜が嫌いだの果物が嫌いだのワガママばかり言うのじゃ。お弁当に嫌いなものが入っていたら捨てたり交換したりな。ワシらは木の上でいつもその様子を悲しい思いで眺めていた」
 ギクッと、顔を強張らせる子供たち。こちらに近づいてきていた足も止まる。
 「極めつけの出来事があった。ある日、子供の一人が『リンゴケーキなら食べられる』と言ったのが聞こえたのじゃ。何故なのか耳をそばたてると、『大量の生クリームでゴマかせば何とか我慢できる』などと抜かすのじゃ! こんな侮辱があっていいものか!!」
 リンゴは再び煮リンゴのようになって怒り出し、デボラは「熱っ」と声を上げてしまう。
 「ワシらは子供たちに復讐を考えた。この森のうさぎたちは喜んでワシらをどんどん食べてくれるというのに、人間の子供は……
 その思いが膨れ上がってこのような形に変化し、あの子たちに訴えかけようとしたのじゃ」
 「はぁ……なるほど」
 環境破壊などの深刻な問題では無かったので、自由騎士たちはほっとしたような拍子抜けしたような何とも言えない気持ちになった。
 その中でカノンが、器を持って子供たちの前に進み出る。
 「ほらほら、さっきの戦いでできたリンゴのシャーベットだよー! 溶けちゃうから食べて食べてー!」
 カノンの笑顔と勢いに押され、子供たちは言われるがままスプーンを手に取り、すくって口へ運ぶ。
 「お…おいしい!!」
 「リンゴってこんなにおいしかったんだ!!」
 ぱぁっと顔を輝かせる子供たち。
 「ワ…ワシも食べてはくれんか……」
 涙声で子供たちに訴えかけるうさぎリンゴに寄り添って、子供たちはおずおずと果肉に齧り付いた。
 「あれ、普通に食べられるじゃん!!」
 「慣れたらいけるね! 僕たち食わず嫌いだったんだー!!」
 子供たちの歓声を聞いたうさぎリンゴは、「プゥ……」と満足げな声を漏らしたのち、元のひんやりとした果実に戻った。

 「うさぎリンゴさん……」
 少し切なくなって涙ぐんでしまう子供たち。
 彼らを取りなすように慌てて自由騎士たちは声をかける。
 「今からリンゴパーティーするから皆も一緒に食べよう♪」
 「いっぱいのリンゴさんたち、美味しく食べちゃいましょう。」
 「お母様に作っていただいたお弁当のデザートにどうですか?」
 「私は『料理上手』ですからね、期待していて下さい!」
 子供たちは顔を上げ、「うん!」と頷くと駆け寄った。


 森一帯に広がる、香ばしく甘い香り。
 カノンご自慢の調理器具セットで焼きリンゴを作っているのだ。
 「わ~おいしそ~!」
 「皮と実の間に栄養があるんだよ~召し上がれ♪」
 デボラは家から持ってきた食材、ライ麦パンにスライスした焼きリンゴを挟み、生クリームやハチミツをトッピングして子供たちに手渡し、一緒に頬張る。
 「ん~! 甘味のハーモニー!」
 思わず至福のため息が口から漏れてしまう。
 ティルダは、アンジェリカ特製のすり下ろしリンゴジュースを飲みながら手のひらサイズのリンゴに何やら細工をしている。
 興味を持った子供たちが近づくと彫刻刀から手を離し、リンゴを子供たちに見せた。
 「……よし、出来ました!」
 ティルダの手の上で、まるで本物のように精巧にうさぎの姿に彫られたリンゴが愛らしくちょこんと座っている。
 「すごーい!! 生きてるみたーい!!」
 「もったいなくて食べられないねー!」
 えへへ、とはにかんで笑うティルダの持つうさぎの彫刻に、ツン、と口づけした毛むくじゃらの唇。
 「あー!! 本物のうさぎさんだー!!」
 香ばしい香りをかいで居ても立ってもいられなかったのだろう、優しいロマンスグレーの毛並みのうさぎが黒曜石のような眼を見開き、ティルダのリンゴを食べたそうに背伸びしている。
 「あらあら、森の住民さん! どうぞ、召しませ」

 一心に齧り付くうさぎを撫でながら、やはり本物が一番かわいいなあと思うティルダ。
 気が付けば他にもリスやシカ、野鳥などたくさんの動物がリンゴをねだりに来ており、思っていた以上に盛大なリンゴパーティーとなった。
 
 アンジェリカは茹で上がったパスタに煮詰めて作ったリンゴジャムをたっぷりと掛けて賞味する。その味はアンジェリカのみぞ知るが、本人はとても満足そうに目を細めている。
 終始、笑い声の絶えない昼下がり。

 帰路、子供たちを家まで送るために皆で一緒に歩いている自由騎士たち。
 「お腹いっぱい食べたけど、持って帰る分もかなり多いねー!」
 めいめいの鞄の中には、リンゴジャムの瓶がゴロゴロと入っている。
 デボラがその中の一つを取り出してみせる。
 「クラウディア様があんなにウキウキなさっていたのですから、何もおみやげが無いのはお気の毒。この一瓶をお裾分けしようと思います」
 「さすがはデボラ様、気が利きますね」
 ふふふ、と笑い合う少女たち。
 夕焼け空の下、延びる影はあどけない子供たち、そして彼らを守り抜いた少女たち――自由騎士たち。
 晴れやかな気持ちの中、いつもこんなに楽しい戦いの結末を迎えられればいいのに――と、この一時を抱きしめるように胸に手を当てた。
 

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『リンゴジャム』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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