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スネーク・パニック!

●
アオダ・イショウは森にいた。
季節は葉が赤みを覚える頃だった。
アオダの目的はある物だった。それは噂で聞いた幻の食材だった。
葉が赤みを帯びてきた時に土の上に落ちている『クリ』と呼ばれる食材を求めていた。
この国では植生地域が狭く、また採れる期間も短いため、あまりお目にかかれない高級食材だった。
「これを食べさせてあげたら、彼女喜ぶだろうなぁ!」
恋人思いのアオダは脳裏に愛しい人を思い浮かべつつ森の中を歩んでいった。
しばらくすると木の種類が変わった。
「おおっ!」
アオダが視線を下げると、とげとげした殻がたくさん落ちていた。図鑑でみたものと一緒だった。
ほとんどのものは中身が食われていたが、中には無事なものもあった。
アオダは食べられそうなクリを拾い、背中に担いだ籠へと入れる。朝から拾い続けてたためか、日が暮れるごろにはもう籠は一杯だった。
「これだけ採れたら充分だ!」
アオダは満足すると、来た方向へと振り返った。瞼を閉じれば彼女がスープを飲みながらにっこりと笑う姿が思い浮かんだ。
楽しみだ、そんな思いを胸に目を開き、目が合った。
「……蛇」
●
「いいな~! 私もクリ食べたーい!!」
バタバタと自由騎士達の前でわめくのは『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)だ。
「1人の男の人が蛇の幻想種に襲われる未来をみたの! だから助けてあげて!」
すぐに向かえばアオダがクリをちょうど拾い終えたところに間に合うだろう。
このまま放っておけばいずれ人の味を覚えた蛇は街へと出てきて街は荒れるだろう。自由騎士達は真剣な面持ちでうなずき早速出かけようとする。
良ければなんだけど、とクラウディアはにっこりと笑い自由騎士達を呼び止めた。
「あと、クリも拾ってきてくれると嬉しいな!」
自由騎士達の背中に悪寒が走った。何か嫌な予感がする。
「クリの美味しいお菓子、一杯作ってあげるからね!」
自由騎士たちは『壊滅的な料理センスの持ち主』の言葉に怯えつつ、逃げるように森へと向かった。
アオダ・イショウは森にいた。
季節は葉が赤みを覚える頃だった。
アオダの目的はある物だった。それは噂で聞いた幻の食材だった。
葉が赤みを帯びてきた時に土の上に落ちている『クリ』と呼ばれる食材を求めていた。
この国では植生地域が狭く、また採れる期間も短いため、あまりお目にかかれない高級食材だった。
「これを食べさせてあげたら、彼女喜ぶだろうなぁ!」
恋人思いのアオダは脳裏に愛しい人を思い浮かべつつ森の中を歩んでいった。
しばらくすると木の種類が変わった。
「おおっ!」
アオダが視線を下げると、とげとげした殻がたくさん落ちていた。図鑑でみたものと一緒だった。
ほとんどのものは中身が食われていたが、中には無事なものもあった。
アオダは食べられそうなクリを拾い、背中に担いだ籠へと入れる。朝から拾い続けてたためか、日が暮れるごろにはもう籠は一杯だった。
「これだけ採れたら充分だ!」
アオダは満足すると、来た方向へと振り返った。瞼を閉じれば彼女がスープを飲みながらにっこりと笑う姿が思い浮かんだ。
楽しみだ、そんな思いを胸に目を開き、目が合った。
「……蛇」
●
「いいな~! 私もクリ食べたーい!!」
バタバタと自由騎士達の前でわめくのは『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)だ。
「1人の男の人が蛇の幻想種に襲われる未来をみたの! だから助けてあげて!」
すぐに向かえばアオダがクリをちょうど拾い終えたところに間に合うだろう。
このまま放っておけばいずれ人の味を覚えた蛇は街へと出てきて街は荒れるだろう。自由騎士達は真剣な面持ちでうなずき早速出かけようとする。
良ければなんだけど、とクラウディアはにっこりと笑い自由騎士達を呼び止めた。
「あと、クリも拾ってきてくれると嬉しいな!」
自由騎士達の背中に悪寒が走った。何か嫌な予感がする。
「クリの美味しいお菓子、一杯作ってあげるからね!」
自由騎士たちは『壊滅的な料理センスの持ち主』の言葉に怯えつつ、逃げるように森へと向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.アオダ・イショウの救出
こんにちは。荒木です。
幻想種に襲われそうなアオダ・イショウの救出になります。
アオダが蛇に食べられればいずれ街にも被害が及ぶ危険性があります。
被害をなくすためにも、ぜひアオダを救出してください。
幻想種を倒す必要はありませんが、このまま放っておくと、また同じような目に遭う人が現れるかもしれません。
●敵について
幻想種:蛇
・蛇の形をした幻想種で大きさは長さ10m、横幅1m
・鱗はそこまで硬くないが、顎が強い
・攻撃方法は
かみつく(ポイズン1)
まきつく(フリーズ1)
尾を振る
突進する
となります。
・完全に人を敵と思っているため話はできても和解することはありません。
・蛇の移動方法は地面を這って動きますが、木にも登ります。
●戦闘場所について
森の中です。
木々には丈夫な枝が生えているため登れます。
地面は木の根っこでぼこぼことしています。
たまにクリの殻が落ちています。肌に触れると、痛い。
●天候・時間帯について
秋の夕方になります。いい天気ですが、森の中なので薄暗いです。
●クリについて
目を凝らすと案外そこらへんに落ちているかも……?
美味。
幻想種に襲われそうなアオダ・イショウの救出になります。
アオダが蛇に食べられればいずれ街にも被害が及ぶ危険性があります。
被害をなくすためにも、ぜひアオダを救出してください。
幻想種を倒す必要はありませんが、このまま放っておくと、また同じような目に遭う人が現れるかもしれません。
●敵について
幻想種:蛇
・蛇の形をした幻想種で大きさは長さ10m、横幅1m
・鱗はそこまで硬くないが、顎が強い
・攻撃方法は
かみつく(ポイズン1)
まきつく(フリーズ1)
尾を振る
突進する
となります。
・完全に人を敵と思っているため話はできても和解することはありません。
・蛇の移動方法は地面を這って動きますが、木にも登ります。
●戦闘場所について
森の中です。
木々には丈夫な枝が生えているため登れます。
地面は木の根っこでぼこぼことしています。
たまにクリの殻が落ちています。肌に触れると、痛い。
●天候・時間帯について
秋の夕方になります。いい天気ですが、森の中なので薄暗いです。
●クリについて
目を凝らすと案外そこらへんに落ちているかも……?
美味。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2018年10月09日
2018年10月09日
†メイン参加者 6人†
●
6人は森の中を歩いていた。
正確に言うと、5人は歩いていたが、1人は担がれていた。
「……森には……勝て……ません……でした……っ」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)は彼女の友人の兄にあたる『砕けぬ盾』オスカー・バンベリー(CL3000332)に担がれていた。数分前には
「大人になった今の私なら、森なんて余裕ですよ!」
とドヤ顔を見せていた面影は一切残っていない。自慢の銀色の髪も萎れて見えた。
「フーリィン嬢、あまり無理をするな。まだヘビも見えていないし森にも入ったばっかりだからな」
「……オスカーさぁん」
フーリィンは涙目でオスカーの後頭部を見た。彼女の体はボロボロだった。まだ始まったばかりだが。
「そのヘビはどうするのかしら? 個人的には倒した方が良いと思うのだけれど」
足を進めながら2人の前を進むのは黒髪を肩より少し短いあたりまで伸ばした『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)だ。
「ヘビ自体に恨みはないけれどね」
「賛成かな。駆除する方向で良いんじゃない?」
「そうね、悪い芽は早いうちに摘んでおかなきゃ」
眼鏡をくいとあげて後方を歩く『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)もエルの発言に同意した。
「ですがまずはアオダさんの救出が最優先ですね」
「クリ! サシャ、クリが食べたいぞ!」
やや進んだ場所を歩くのはブロンドの髪を揺らす『修業中』サラ・ケーヒル(CL3000348)。そしてすでに地面に落ちているクリをじっと眺めながら歩くサシャ・プニコフ(CL3000122)だ。
「あ、サシャ、クリが目的じゃなくて人助けが目的だったんだぞ!」
「余裕があれば持って帰りましょうね。色々なスイーツが作れそうで楽しみです」
「そうね。でもその話は終わってからにしましょうか。止まって」
いつのまにか宙を飛んで他の5人よりも先を進んでいたエルが制止した。
「いたわ。まだこっちに気づいてないみたいだけど。アオヘビさんもいたわ」
「アオヘビさん?」
オスカーの背から降りてやや顔色が戻ったフーリィンが首を横に傾げる。
「アオダ・イショウだったかしら。なんかそんな生き物の名前どこかで聞いたことあるのよ」
「あぁ、あだ名でしたか」
「そうよ、フーちゃん」
「フーちゃん!?」
「……遊んでいないで準備をしよう」
「ごめんなさい、ちょっと面白かったから」
「エルさん!?」
すかさずフォローに入ったオスカーとツッコミを続けるフーリィン、そしてやや面白そうなものを見つけた子供のような表情を浮かべるエル。
「あ、サシャも遊ぶぞ!」
「うわぁ、ヘビの口でっかぁ……」
「……用意、しましょうか」
そんな3人を見て楽しそうなサシャとヘビの生態について興味深く観察するクイニィー。
5人を見てサラはやや呆れ顔で5人に準備を促した。
幸いにもアオダとヘビの距離はまだあった。
●
各々戦闘前の準備を終えて、武器を構える。それと同時にアオダがヘビの存在に気がついた。
「う、うわぁっ!」
「行くぞ!」
先陣を切ったのはオスカーだ。
「伏せろ!」
アオダの前へと現れると黒く光る槍を構える。その構え方は普通の槍を使う持ち方とは異なる。それは相手からの攻撃を受けるのではなく、いなす構えだ。
オスカーはヘビの噛みつきを槍でいなす。その勢いの強さに手が痺れるだろう。
「アオダさん、ですよね1?」
アオダの元へ現れたのはフーリィンだ。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫。腰が……」
「痺れたり熱かったり変なところはないかー?」
サシャもその場にたどり着き簡単に状況を問う。幸いにもアオダの身体に特に異常は無いようだ。
2人は腰が抜けたアオダを担ぐとなるべくヘビの攻撃が当たらない後ろへと連れて行く。オスカーのライオットシールドの準備も終えたため、その後方へと連れて行った。
「皆さんにノートルダムの加護を!」
フーリィンが手を合わせて祈る。すると周囲にいるアオダを含めた7人の体がすっと軽くなった。
「これで多少無理してもなんとかなると思います! あ、でも本当の無理はしないくださいね!」
「サシャもフーリィンと協力して回復頑張るんだぞ!」
「それじゃあ行こうじゃないの!」
回復担当の2人の隣に立つのはクイニィーだ。彼女はぶつぶつと言葉を唱え始めた。
それを察知したのか、ヘビはクイニィー向けて攻撃の矛先を向けた。強い顎を何度も開けたり閉じたりして攻撃の準備をしているようだ。
「 邪魔はさせないわよ」
ヘビの上空から声がした。途端ヘビのお頭が氷に閉ざされた。上空のエルが状況を分析して攻撃したのだった。
しかし氷はヘビの抗いに瞬く間に崩される。しかし凍らせることが目的ではなく時間を稼ぐことが目的だった。
その怯みを待っていたかのようにヘビの真ん前にサラがいた。ヘビの動体視力でも追いつくので精一杯だった。
後衛から走った彼女はその流れのまま、一切の無駄をなくした華麗な動きでヘビの顔面にパンチを入れた。が、ヘビは一瞬意識が遠ざかろうとしていたもののすぐに取り戻すと、眼を鋭くした。「うわっ!」
ヘビはサラへと突進をかまそうとする。サラはそれを強化した素早さで間一髪で避けた。
「さて、それじゃあ行ってみようか!」
ちょうどクイニィーが声をあげた。クイニィーの前にはやや小さめのホムンクルスが生成されていた。形は人と同じようにややスリムに作られていた。
クイニィーが指示をするとホムンクルスはサラを横切りヘビの前へと出た。
「あれ、ホム食べられちゃうんだぞ!」
「まああれだけでかいと丸呑みされちゃうよね……でもむしろそれが突破口、かな」
サシャの声に回答しつつもホムンクルスの動きは変えずヘビの前でうろちょろさせる。クイニィーの予想通り、ホムンクルスは数秒後、ヘビの大きな顎に吸い込まれていった。
「あ、ヘビって本当に丸呑みするんだ」
「そんなこと言っている場合ですか!?」
思わず隣に立っていたフーリィンがクイニィーに話す。
「そ。あとあときっと良い感じに働くから」
「ほら、話す暇があるんならその場から動いて。ヘビの尻尾当たるわよ」
上空から見ていたエルが後方にいた3人とアオダへと注意を促す。エルにはパッと目が行きやすい頭以外に尾の動きが暗い中でもよく見えていた。
後方の人達が場所を移動するのに時間が取れるように、なるべく尻尾の方にアイスコフィンを連発していた。
「ふんっ!」
一方頭の攻撃はオスカーが器用に盾で防いでいた。オスカーのライオットシールドはヘビの顎を物ともせずに彼の身を守る。
しかしヘビの尻尾の目標は後方の人達ではなかった。
「オスカーさん! その場から離れて!」
「む!?」
尻尾はぐるりと進路を変えるとオスカーを囲うように向かった。オスカーはヘビの顔の相手をしていて盾を構えていたため瞬時に動けなかった。
「あー、間に合うかしら!?」
空中からはエルがアイスコフィンでヘビの尻尾を凍らせようとするが、その勢いからか、氷は瞬時に破壊されてしまう。 ダメージは通っているようだが動きは止められなかった。
「ぐうっ!」
一方向からは堅牢な防御を誇る盾も全方向から来てしまえば世話ない。
オスカーの身を硬い鱗が巻きつきギリギリとしめつけた。短時間であれば身動きが取れないだけで済むだろうがこれが長時間続けば危険だということは、全員わかった。
「フーリィン! サシャ助けてくる!」
「わかりました!」
「私も援護します!」
その場から離れたサシャを追いかけるようにサラが走る。
「あたしもいっちょ頑張りますか」
その隣のクイニィーも足早にヘビへと向かう。クイニィーの前を走るのは彼女が生成したスパルトイ。竜の牙の猛者の意味を持つ人形兵士はクイニィーよりも前を走ってヘビの顔へと向かった。
「顔がガラ空きだから一斉にそこを狙うわよ。そうすればオーくんも少し動けるようになるでしょ」
「悪い……ぐっ」
空中から攻撃を繰り返していたエルだったが、一旦攻撃をやめると皆にテキパキと指示を出した。
「ちょうどいいいわ。スパルトイに合わせて攻撃するとしましょう」
「うちの子はたぶん……あと5秒くらいで斬りかかる、かな」
「フーリィンさんは回復の準備をお願いします」
「わ、わかりました!」
クイニィーが自身も武器を構えつつカウントを始めた。
「5、4、3、2」
カウントが進むにつれエル、クイニィー、サシャ、サラはヘビへと近づき、各々の武器を用意する。
「1」
クイニィーは自身の作成したスパルトイとは反対の方角から暗殺針を煌めかせる。エルは宙に浮かびながら空中に緋色の文字を描いた。サシャはヘビの前の空気を凍らせるための準備をしている。サラは素早い速度を活かした無駄のない動きでヘビに近づいた。
「0!」
「冷たいの食らえ!」
「燃えなさい!」
「オスカーさんを離しなさい!」
各々の攻撃が炸裂する。それは見事にヘビの頭部へと集中し、ヘビがオスカーにまきつく強度が少し弱まった。
「もういっちょ!」
そしてヘビの体内で轟音が鳴り響いた。ヘビはその場で暴れ狂いのたうち回る。その隙にオスカーはヘビの拘束から離れ一旦後方へと下がった。
「オスカーさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ。なんとか大丈夫だ」
やや苦しそうにするも、フーリィンの回復で大分顔色が良くなってきていた。
「ところでさっきの爆発は一体……」
少し離れた場所でのたうち回るヘビを眺めながらサラが疑問符を浮かべた。
「あれはあたしのホムちゃん。ヘビの体内で爆発したの。ヘビの食べ方が丸呑みで良かったよ」
遠隔によってクイニィーが生成したホムンクルスがなんとか時間内に爆発でき硬い鱗などない内部から直接ダメージを負わす、というものだった。ヘビは暴れながらもやがて落ち着いてきたようで、騎士たちがあつまる方へと目を向けた。
その視線の先は自由騎士達、ではなくその後ろの木だった。その木の近くにはエルが浮かんでいた。
ヘビは突進にも似たような動きで自由騎士達へと突っ込む。ホムンクルスの爆発の影響で、やや動きが鈍っているようで難なく避けることはできたが、ヘビは器用にも木に登り始めた。
「サシャ知ってるぞ! あいつら木の上からジャンプして口開けて襲ってくるんだぞ!」
「それともあたしが狙いかしら……」
獣が威嚇するようにうー、と唸りつつヘビから目を外さないサシャと、身の危険を感じてヘビの登った木から離れるエル。しかし森の中では木が密集しており、ある木から離れたところで近くにまだ木はたくさんある。
「なんとかしてヘビを地面に戻さなければ」
「これじゃああたしのスパルトイもちょっと難しいなぁ……」
「これだったらあたしがなんとかできるわ」
ヘビを木から降ろそうと考えていたオスカーとクイニィーを見ていたエルは、妙案を思いついたのかヘビを誘導するように木々の合間を移動し始めた。あまり離れていない場所をぐるぐると回るエルをヘビはじっくりと吟味するように追いかける。
周りのことなどおかまいなしにただじっとエルを見つめていた。そして、それが仇となった。
急にヘビの体勢が崩れた。今まで軽やかに枝と枝を移動していたが、突然ガクンと頭部が下がった。
「落ちてきます!」
フーリィンは大きな声で叫んだ。
エルはいろいろな場所を回って細くて弱そうな枝を探していたのだった。全長10m、横幅1mのヘビとなると、木が密集するところであれば木と木の間の移動は難しくは無い、しかし木々の間が遠いところならば話は別だ。
ペンほどの太さの枝が耐えられるわけもない。
「さぁ、正念場です!」
サラはヘビの落下地点を見据えて動き始めた。
●
「はぁっ!」
森の地面の構造や根の張り具合を熟知したサラは転んだり足をひっかけたりすることなくヘビの元へと向かった。最大限まで強化された速さでヘビが落下するより速くたどり着く。しかし待っていたのは間抜けな顔をしたヘビではなく、牙を光らせて狙いを定めるヘビだった。
「うそっ」
「避けろ、サラ嬢!」
呆然とするサラを横から吹っ飛ばすかの如く、オスカーが身をサラの前へと差し出した。ヘビの牙はそんなオスカーのプレートメイルへ傷をつける。幸運にも牙が鎧を貫通することは無く牙から滴る毒を浴びることも無かった。
「た、助かりました……」
「なに、これが俺の役目だ。気になさるな」
ヘビは攻撃を防がれたことを恨みがましく思ったのか、しばらく2人にじりじりと詰め寄っていたが、ヘビを攻撃するエルの緋文字を受けると途端に攻撃対象を変えた。
「もしかしてフーちゃんに聞いたように熱に反応しているのかしら」
「かもしれないですねー。となるとまた木に登るのでしょうか?」
木に登られるとエルはともかく地上にいる騎士達の攻撃は途端に当たりにくくなる。なんとかして阻止したい。
「仕方あるまい。これを試してみよう」
少し離れていてくれ、とオスカーが周りへ促す。既にヘビは木に登り始めていた。
ライオットシールドを傍に置くと、コルウスを構えて。そのまま地面へと叩きつけた。その衝撃波すさまじいもので、離れた場所にいる騎士達の足元がびりびりと長い間揺れ、木々もその場を起点として波のように揺れた。
「いたい!」
そしてサシャの頭にクリが落ちた。
ヘビは木の揺れに耐えられずそこから真っ逆さまに地面へと落ちていく。
「さて、それじゃあもう決めちゃおうか! あと2体くらいならいけるよ!」
「サシャにクリぶつけたのだれー? ヘビ?」
クイニィーはスパルトイを生成すると、落下したヘビへと向けて突進させる。クイニィーの気力的にもうそんなに作れはしない。
「あたしの作った超優秀人形兵士の威力を知るといいよ!」
「もう回復は大丈夫そうか? ならサシャも攻撃だぞ!」
サシャも落下したヘビへアイスコフィンをかける。ほぼ虫の息であるヘビを見て、回復はフーリィンで充分だと考えたのだろう。
「いっけー! スパちゃん!」
クイニィーの掛け声とともにスパルトイがヘビへと斬りかかる。その後にヘビの身体が凍り付いた。
「これで、最後です!」
旋風のようにサシャの横をサラが通る。その動きはやはり徹頭徹尾無駄が無い洗練された動きだった。
宙に浮いていたエルもまた火のマナを空中へ描く。それは別れを意味する言葉。
「これで、最後です!」
「あんたに恨みは無いけどね!」
サラの一撃とエルの緋文字を受け、ヘビは体をくねらせて暴れ狂った。しかし最後の力を振り絞ったかのように、ピタリと動きを止めた。
●
「よっしゃー!」
「やりましたね!」
サシャとフーリィンがハイタッチを交わす。そして。
「「クリ!」」
本題へと向かった。
「あ、ちょっと待って! あたし牙欲しい! って溶けてる! なんで!? もしかして毒で自壊してるの!?」
ヘビの前で百面相のように目をキラキラさせたかと思えば、次には目を見張り、最後には天を仰ぐクイニィーの姿もあった。
「あ、ここにありましたよ! マロングラッセとか作りたいですね」
森の中をすいすいと歩き美味しそうなクリを見つけるサラ。
「これ、あの子に渡さないといけないのよね?」
「そうだな」
「これ調理したあとのお菓子を渡した方が平和に収まるんじゃない?」
「しかし頼まれたものだからな。無下にはできないだろう」
「ならオーくんがちゃんと責任取って食べてあげなさいよ」
「…………承知した」
「あ、オスカーくん。穴が開いた奴は拾っちゃダメだからね」
少しだけではあるがクリを拾うエルと、隣で顔色を悪くしながらクリ拾いを手伝うオスカー。牙をさっさと諦めてクリ拾いに勤しむクイニィー。
少しの間クリ拾いを楽しんだのち、アオダと共に森を抜け街へと戻った。
後日、破壊的な料理を前にして笑顔で冷や汗をかくフーリィンと、一口食べて意識を飛ばさないように必死で魂を抑え込むオスカーの姿が見られたが、それはまた、別の話。
6人は森の中を歩いていた。
正確に言うと、5人は歩いていたが、1人は担がれていた。
「……森には……勝て……ません……でした……っ」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)は彼女の友人の兄にあたる『砕けぬ盾』オスカー・バンベリー(CL3000332)に担がれていた。数分前には
「大人になった今の私なら、森なんて余裕ですよ!」
とドヤ顔を見せていた面影は一切残っていない。自慢の銀色の髪も萎れて見えた。
「フーリィン嬢、あまり無理をするな。まだヘビも見えていないし森にも入ったばっかりだからな」
「……オスカーさぁん」
フーリィンは涙目でオスカーの後頭部を見た。彼女の体はボロボロだった。まだ始まったばかりだが。
「そのヘビはどうするのかしら? 個人的には倒した方が良いと思うのだけれど」
足を進めながら2人の前を進むのは黒髪を肩より少し短いあたりまで伸ばした『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)だ。
「ヘビ自体に恨みはないけれどね」
「賛成かな。駆除する方向で良いんじゃない?」
「そうね、悪い芽は早いうちに摘んでおかなきゃ」
眼鏡をくいとあげて後方を歩く『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)もエルの発言に同意した。
「ですがまずはアオダさんの救出が最優先ですね」
「クリ! サシャ、クリが食べたいぞ!」
やや進んだ場所を歩くのはブロンドの髪を揺らす『修業中』サラ・ケーヒル(CL3000348)。そしてすでに地面に落ちているクリをじっと眺めながら歩くサシャ・プニコフ(CL3000122)だ。
「あ、サシャ、クリが目的じゃなくて人助けが目的だったんだぞ!」
「余裕があれば持って帰りましょうね。色々なスイーツが作れそうで楽しみです」
「そうね。でもその話は終わってからにしましょうか。止まって」
いつのまにか宙を飛んで他の5人よりも先を進んでいたエルが制止した。
「いたわ。まだこっちに気づいてないみたいだけど。アオヘビさんもいたわ」
「アオヘビさん?」
オスカーの背から降りてやや顔色が戻ったフーリィンが首を横に傾げる。
「アオダ・イショウだったかしら。なんかそんな生き物の名前どこかで聞いたことあるのよ」
「あぁ、あだ名でしたか」
「そうよ、フーちゃん」
「フーちゃん!?」
「……遊んでいないで準備をしよう」
「ごめんなさい、ちょっと面白かったから」
「エルさん!?」
すかさずフォローに入ったオスカーとツッコミを続けるフーリィン、そしてやや面白そうなものを見つけた子供のような表情を浮かべるエル。
「あ、サシャも遊ぶぞ!」
「うわぁ、ヘビの口でっかぁ……」
「……用意、しましょうか」
そんな3人を見て楽しそうなサシャとヘビの生態について興味深く観察するクイニィー。
5人を見てサラはやや呆れ顔で5人に準備を促した。
幸いにもアオダとヘビの距離はまだあった。
●
各々戦闘前の準備を終えて、武器を構える。それと同時にアオダがヘビの存在に気がついた。
「う、うわぁっ!」
「行くぞ!」
先陣を切ったのはオスカーだ。
「伏せろ!」
アオダの前へと現れると黒く光る槍を構える。その構え方は普通の槍を使う持ち方とは異なる。それは相手からの攻撃を受けるのではなく、いなす構えだ。
オスカーはヘビの噛みつきを槍でいなす。その勢いの強さに手が痺れるだろう。
「アオダさん、ですよね1?」
アオダの元へ現れたのはフーリィンだ。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫。腰が……」
「痺れたり熱かったり変なところはないかー?」
サシャもその場にたどり着き簡単に状況を問う。幸いにもアオダの身体に特に異常は無いようだ。
2人は腰が抜けたアオダを担ぐとなるべくヘビの攻撃が当たらない後ろへと連れて行く。オスカーのライオットシールドの準備も終えたため、その後方へと連れて行った。
「皆さんにノートルダムの加護を!」
フーリィンが手を合わせて祈る。すると周囲にいるアオダを含めた7人の体がすっと軽くなった。
「これで多少無理してもなんとかなると思います! あ、でも本当の無理はしないくださいね!」
「サシャもフーリィンと協力して回復頑張るんだぞ!」
「それじゃあ行こうじゃないの!」
回復担当の2人の隣に立つのはクイニィーだ。彼女はぶつぶつと言葉を唱え始めた。
それを察知したのか、ヘビはクイニィー向けて攻撃の矛先を向けた。強い顎を何度も開けたり閉じたりして攻撃の準備をしているようだ。
「 邪魔はさせないわよ」
ヘビの上空から声がした。途端ヘビのお頭が氷に閉ざされた。上空のエルが状況を分析して攻撃したのだった。
しかし氷はヘビの抗いに瞬く間に崩される。しかし凍らせることが目的ではなく時間を稼ぐことが目的だった。
その怯みを待っていたかのようにヘビの真ん前にサラがいた。ヘビの動体視力でも追いつくので精一杯だった。
後衛から走った彼女はその流れのまま、一切の無駄をなくした華麗な動きでヘビの顔面にパンチを入れた。が、ヘビは一瞬意識が遠ざかろうとしていたもののすぐに取り戻すと、眼を鋭くした。「うわっ!」
ヘビはサラへと突進をかまそうとする。サラはそれを強化した素早さで間一髪で避けた。
「さて、それじゃあ行ってみようか!」
ちょうどクイニィーが声をあげた。クイニィーの前にはやや小さめのホムンクルスが生成されていた。形は人と同じようにややスリムに作られていた。
クイニィーが指示をするとホムンクルスはサラを横切りヘビの前へと出た。
「あれ、ホム食べられちゃうんだぞ!」
「まああれだけでかいと丸呑みされちゃうよね……でもむしろそれが突破口、かな」
サシャの声に回答しつつもホムンクルスの動きは変えずヘビの前でうろちょろさせる。クイニィーの予想通り、ホムンクルスは数秒後、ヘビの大きな顎に吸い込まれていった。
「あ、ヘビって本当に丸呑みするんだ」
「そんなこと言っている場合ですか!?」
思わず隣に立っていたフーリィンがクイニィーに話す。
「そ。あとあときっと良い感じに働くから」
「ほら、話す暇があるんならその場から動いて。ヘビの尻尾当たるわよ」
上空から見ていたエルが後方にいた3人とアオダへと注意を促す。エルにはパッと目が行きやすい頭以外に尾の動きが暗い中でもよく見えていた。
後方の人達が場所を移動するのに時間が取れるように、なるべく尻尾の方にアイスコフィンを連発していた。
「ふんっ!」
一方頭の攻撃はオスカーが器用に盾で防いでいた。オスカーのライオットシールドはヘビの顎を物ともせずに彼の身を守る。
しかしヘビの尻尾の目標は後方の人達ではなかった。
「オスカーさん! その場から離れて!」
「む!?」
尻尾はぐるりと進路を変えるとオスカーを囲うように向かった。オスカーはヘビの顔の相手をしていて盾を構えていたため瞬時に動けなかった。
「あー、間に合うかしら!?」
空中からはエルがアイスコフィンでヘビの尻尾を凍らせようとするが、その勢いからか、氷は瞬時に破壊されてしまう。 ダメージは通っているようだが動きは止められなかった。
「ぐうっ!」
一方向からは堅牢な防御を誇る盾も全方向から来てしまえば世話ない。
オスカーの身を硬い鱗が巻きつきギリギリとしめつけた。短時間であれば身動きが取れないだけで済むだろうがこれが長時間続けば危険だということは、全員わかった。
「フーリィン! サシャ助けてくる!」
「わかりました!」
「私も援護します!」
その場から離れたサシャを追いかけるようにサラが走る。
「あたしもいっちょ頑張りますか」
その隣のクイニィーも足早にヘビへと向かう。クイニィーの前を走るのは彼女が生成したスパルトイ。竜の牙の猛者の意味を持つ人形兵士はクイニィーよりも前を走ってヘビの顔へと向かった。
「顔がガラ空きだから一斉にそこを狙うわよ。そうすればオーくんも少し動けるようになるでしょ」
「悪い……ぐっ」
空中から攻撃を繰り返していたエルだったが、一旦攻撃をやめると皆にテキパキと指示を出した。
「ちょうどいいいわ。スパルトイに合わせて攻撃するとしましょう」
「うちの子はたぶん……あと5秒くらいで斬りかかる、かな」
「フーリィンさんは回復の準備をお願いします」
「わ、わかりました!」
クイニィーが自身も武器を構えつつカウントを始めた。
「5、4、3、2」
カウントが進むにつれエル、クイニィー、サシャ、サラはヘビへと近づき、各々の武器を用意する。
「1」
クイニィーは自身の作成したスパルトイとは反対の方角から暗殺針を煌めかせる。エルは宙に浮かびながら空中に緋色の文字を描いた。サシャはヘビの前の空気を凍らせるための準備をしている。サラは素早い速度を活かした無駄のない動きでヘビに近づいた。
「0!」
「冷たいの食らえ!」
「燃えなさい!」
「オスカーさんを離しなさい!」
各々の攻撃が炸裂する。それは見事にヘビの頭部へと集中し、ヘビがオスカーにまきつく強度が少し弱まった。
「もういっちょ!」
そしてヘビの体内で轟音が鳴り響いた。ヘビはその場で暴れ狂いのたうち回る。その隙にオスカーはヘビの拘束から離れ一旦後方へと下がった。
「オスカーさん、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ。なんとか大丈夫だ」
やや苦しそうにするも、フーリィンの回復で大分顔色が良くなってきていた。
「ところでさっきの爆発は一体……」
少し離れた場所でのたうち回るヘビを眺めながらサラが疑問符を浮かべた。
「あれはあたしのホムちゃん。ヘビの体内で爆発したの。ヘビの食べ方が丸呑みで良かったよ」
遠隔によってクイニィーが生成したホムンクルスがなんとか時間内に爆発でき硬い鱗などない内部から直接ダメージを負わす、というものだった。ヘビは暴れながらもやがて落ち着いてきたようで、騎士たちがあつまる方へと目を向けた。
その視線の先は自由騎士達、ではなくその後ろの木だった。その木の近くにはエルが浮かんでいた。
ヘビは突進にも似たような動きで自由騎士達へと突っ込む。ホムンクルスの爆発の影響で、やや動きが鈍っているようで難なく避けることはできたが、ヘビは器用にも木に登り始めた。
「サシャ知ってるぞ! あいつら木の上からジャンプして口開けて襲ってくるんだぞ!」
「それともあたしが狙いかしら……」
獣が威嚇するようにうー、と唸りつつヘビから目を外さないサシャと、身の危険を感じてヘビの登った木から離れるエル。しかし森の中では木が密集しており、ある木から離れたところで近くにまだ木はたくさんある。
「なんとかしてヘビを地面に戻さなければ」
「これじゃああたしのスパルトイもちょっと難しいなぁ……」
「これだったらあたしがなんとかできるわ」
ヘビを木から降ろそうと考えていたオスカーとクイニィーを見ていたエルは、妙案を思いついたのかヘビを誘導するように木々の合間を移動し始めた。あまり離れていない場所をぐるぐると回るエルをヘビはじっくりと吟味するように追いかける。
周りのことなどおかまいなしにただじっとエルを見つめていた。そして、それが仇となった。
急にヘビの体勢が崩れた。今まで軽やかに枝と枝を移動していたが、突然ガクンと頭部が下がった。
「落ちてきます!」
フーリィンは大きな声で叫んだ。
エルはいろいろな場所を回って細くて弱そうな枝を探していたのだった。全長10m、横幅1mのヘビとなると、木が密集するところであれば木と木の間の移動は難しくは無い、しかし木々の間が遠いところならば話は別だ。
ペンほどの太さの枝が耐えられるわけもない。
「さぁ、正念場です!」
サラはヘビの落下地点を見据えて動き始めた。
●
「はぁっ!」
森の地面の構造や根の張り具合を熟知したサラは転んだり足をひっかけたりすることなくヘビの元へと向かった。最大限まで強化された速さでヘビが落下するより速くたどり着く。しかし待っていたのは間抜けな顔をしたヘビではなく、牙を光らせて狙いを定めるヘビだった。
「うそっ」
「避けろ、サラ嬢!」
呆然とするサラを横から吹っ飛ばすかの如く、オスカーが身をサラの前へと差し出した。ヘビの牙はそんなオスカーのプレートメイルへ傷をつける。幸運にも牙が鎧を貫通することは無く牙から滴る毒を浴びることも無かった。
「た、助かりました……」
「なに、これが俺の役目だ。気になさるな」
ヘビは攻撃を防がれたことを恨みがましく思ったのか、しばらく2人にじりじりと詰め寄っていたが、ヘビを攻撃するエルの緋文字を受けると途端に攻撃対象を変えた。
「もしかしてフーちゃんに聞いたように熱に反応しているのかしら」
「かもしれないですねー。となるとまた木に登るのでしょうか?」
木に登られるとエルはともかく地上にいる騎士達の攻撃は途端に当たりにくくなる。なんとかして阻止したい。
「仕方あるまい。これを試してみよう」
少し離れていてくれ、とオスカーが周りへ促す。既にヘビは木に登り始めていた。
ライオットシールドを傍に置くと、コルウスを構えて。そのまま地面へと叩きつけた。その衝撃波すさまじいもので、離れた場所にいる騎士達の足元がびりびりと長い間揺れ、木々もその場を起点として波のように揺れた。
「いたい!」
そしてサシャの頭にクリが落ちた。
ヘビは木の揺れに耐えられずそこから真っ逆さまに地面へと落ちていく。
「さて、それじゃあもう決めちゃおうか! あと2体くらいならいけるよ!」
「サシャにクリぶつけたのだれー? ヘビ?」
クイニィーはスパルトイを生成すると、落下したヘビへと向けて突進させる。クイニィーの気力的にもうそんなに作れはしない。
「あたしの作った超優秀人形兵士の威力を知るといいよ!」
「もう回復は大丈夫そうか? ならサシャも攻撃だぞ!」
サシャも落下したヘビへアイスコフィンをかける。ほぼ虫の息であるヘビを見て、回復はフーリィンで充分だと考えたのだろう。
「いっけー! スパちゃん!」
クイニィーの掛け声とともにスパルトイがヘビへと斬りかかる。その後にヘビの身体が凍り付いた。
「これで、最後です!」
旋風のようにサシャの横をサラが通る。その動きはやはり徹頭徹尾無駄が無い洗練された動きだった。
宙に浮いていたエルもまた火のマナを空中へ描く。それは別れを意味する言葉。
「これで、最後です!」
「あんたに恨みは無いけどね!」
サラの一撃とエルの緋文字を受け、ヘビは体をくねらせて暴れ狂った。しかし最後の力を振り絞ったかのように、ピタリと動きを止めた。
●
「よっしゃー!」
「やりましたね!」
サシャとフーリィンがハイタッチを交わす。そして。
「「クリ!」」
本題へと向かった。
「あ、ちょっと待って! あたし牙欲しい! って溶けてる! なんで!? もしかして毒で自壊してるの!?」
ヘビの前で百面相のように目をキラキラさせたかと思えば、次には目を見張り、最後には天を仰ぐクイニィーの姿もあった。
「あ、ここにありましたよ! マロングラッセとか作りたいですね」
森の中をすいすいと歩き美味しそうなクリを見つけるサラ。
「これ、あの子に渡さないといけないのよね?」
「そうだな」
「これ調理したあとのお菓子を渡した方が平和に収まるんじゃない?」
「しかし頼まれたものだからな。無下にはできないだろう」
「ならオーくんがちゃんと責任取って食べてあげなさいよ」
「…………承知した」
「あ、オスカーくん。穴が開いた奴は拾っちゃダメだからね」
少しだけではあるがクリを拾うエルと、隣で顔色を悪くしながらクリ拾いを手伝うオスカー。牙をさっさと諦めてクリ拾いに勤しむクイニィー。
少しの間クリ拾いを楽しんだのち、アオダと共に森を抜け街へと戻った。
後日、破壊的な料理を前にして笑顔で冷や汗をかくフーリィンと、一口食べて意識を飛ばさないように必死で魂を抑え込むオスカーの姿が見られたが、それはまた、別の話。