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折れた剣を手にしながら

●彼は悪くない
――俺が悪いんだ。
手にした剣は半ばから折れて、着ている甲冑も動きにくいから胴体部分だけを残して捨てた。
見るからにみすぼらしいが、それでもいい。動きやすければ問題ない。
そろそろ人が通る時間だろうか。街道の方に向かうべきか。
いや、待て。
あっちの街道ではこれまで何回か略奪を行なってる。
そうすると、そろそろ目をつけられているかもしれない。
下手を打てば捕縛される。
それはいい。別に自分だけならばいい、
元々この生活だっていつまでも続くとは思っちゃいない。
だが仲間たちは違う。誘ったのは自分なのだから、責任を持つべきだ。
だったら、まだ捕まるわけにはいかない。
そうだ。まだだ、せめて仲間たちを逃がすだけの手はずを整えてから。
「移動しよう。そろそろ別の街道に移るべきだ」
言うと、反対は起きなかった。
皆も同じように思っていたらしい。うれしく思う。
別の街道へ、そしてまたそこを通る行商なりを襲って食料を奪う日々が始まる。
いつかきっと自分の同僚か、後輩か、先輩なりが自分を捕らえるその日まで。
戦いを前にして逃げ出した自分はもう、騎士団に戻ることなどできないのだから。
イ・ラプセルの同胞を傷つける。やっちゃならないことだとはわかっている。
しかし、町に戻れないこの身ができることなんて、他にはない。
すまない。
すまない。
俺が悪いんだ――
●盗賊団を捕縛せよ
「水鏡がね、盗賊団の襲撃を予測したの!」
集められた自由騎士を前に、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)がまずはそう切り出した。
盗賊団。この現代にあってもなかなかいなくならない、元気な悪役連中である。
が――
「それで、今回はちょっと特別な盗賊団っていうか……」
何やら、クラウディアの歯切れが悪い。
「どうやらその盗賊団、元王国騎士団みたい、なの」
「何だって?」
「ヴィスマルクからの侵攻のときに逃げちゃった人がいて、その人たちみたい」
「…………」
恐怖は、誰だって持っている普遍的な感情だ。
騎士団といえども、それを克服できる克己心を持つのは容易なことではなかろうが、
「何で盗賊の真似なんかを」
「帰るに帰れなくなったんじゃないかな。でも、生きていくには食べ物が必要で――」
「だからって……」
自由騎士たちは顔を見合わせて、困惑する。
「でも、結構大きな被害も出てるから、何とか止めてほしいの」
クラウディアの話によれば、これまでの被害件数は三件。
そのうちの一件で一人、死者が出てしまったのだという。
「酷い有様だったみたい。死者まで出てたら、もう対処しないわけにはいかないよ」
至極もっともなクラウディアの言葉だ。
しかし、まさか元とはいえイ・ラプセルの騎士が同胞をあやめるとは――
「水鏡が予測した次の襲撃場所はアデレードの北東の街道。盗賊団は五人だよ。何としても、止めてね!」
――俺が悪いんだ。
手にした剣は半ばから折れて、着ている甲冑も動きにくいから胴体部分だけを残して捨てた。
見るからにみすぼらしいが、それでもいい。動きやすければ問題ない。
そろそろ人が通る時間だろうか。街道の方に向かうべきか。
いや、待て。
あっちの街道ではこれまで何回か略奪を行なってる。
そうすると、そろそろ目をつけられているかもしれない。
下手を打てば捕縛される。
それはいい。別に自分だけならばいい、
元々この生活だっていつまでも続くとは思っちゃいない。
だが仲間たちは違う。誘ったのは自分なのだから、責任を持つべきだ。
だったら、まだ捕まるわけにはいかない。
そうだ。まだだ、せめて仲間たちを逃がすだけの手はずを整えてから。
「移動しよう。そろそろ別の街道に移るべきだ」
言うと、反対は起きなかった。
皆も同じように思っていたらしい。うれしく思う。
別の街道へ、そしてまたそこを通る行商なりを襲って食料を奪う日々が始まる。
いつかきっと自分の同僚か、後輩か、先輩なりが自分を捕らえるその日まで。
戦いを前にして逃げ出した自分はもう、騎士団に戻ることなどできないのだから。
イ・ラプセルの同胞を傷つける。やっちゃならないことだとはわかっている。
しかし、町に戻れないこの身ができることなんて、他にはない。
すまない。
すまない。
俺が悪いんだ――
●盗賊団を捕縛せよ
「水鏡がね、盗賊団の襲撃を予測したの!」
集められた自由騎士を前に、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)がまずはそう切り出した。
盗賊団。この現代にあってもなかなかいなくならない、元気な悪役連中である。
が――
「それで、今回はちょっと特別な盗賊団っていうか……」
何やら、クラウディアの歯切れが悪い。
「どうやらその盗賊団、元王国騎士団みたい、なの」
「何だって?」
「ヴィスマルクからの侵攻のときに逃げちゃった人がいて、その人たちみたい」
「…………」
恐怖は、誰だって持っている普遍的な感情だ。
騎士団といえども、それを克服できる克己心を持つのは容易なことではなかろうが、
「何で盗賊の真似なんかを」
「帰るに帰れなくなったんじゃないかな。でも、生きていくには食べ物が必要で――」
「だからって……」
自由騎士たちは顔を見合わせて、困惑する。
「でも、結構大きな被害も出てるから、何とか止めてほしいの」
クラウディアの話によれば、これまでの被害件数は三件。
そのうちの一件で一人、死者が出てしまったのだという。
「酷い有様だったみたい。死者まで出てたら、もう対処しないわけにはいかないよ」
至極もっともなクラウディアの言葉だ。
しかし、まさか元とはいえイ・ラプセルの騎士が同胞をあやめるとは――
「水鏡が予測した次の襲撃場所はアデレードの北東の街道。盗賊団は五人だよ。何としても、止めてね!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.元王国騎士の盗賊団を制圧する。
戦争は様々なドラマを内包するものです。
吾語です。
国に戻れなくなった逃亡兵が食い詰めて盗賊となりました。
これを制圧してください。
彼らが出没する街道では襲撃によって死者も出ています。
場所はアデレード北東の街道。
町からある程度離れたそこに盗賊団五人が出没します。
武器防具共にボロボロで、戦力自体は低いでしょう。
この五人を鎮圧すればそれで一応の成功扱いとなります。
ですが――
襲撃の時間帯は夕刻。
予測を受けてその時に移動するはずだった隊商は移動を控えることになっています。
それでは、皆様のご参加をお待ちしています。
吾語です。
国に戻れなくなった逃亡兵が食い詰めて盗賊となりました。
これを制圧してください。
彼らが出没する街道では襲撃によって死者も出ています。
場所はアデレード北東の街道。
町からある程度離れたそこに盗賊団五人が出没します。
武器防具共にボロボロで、戦力自体は低いでしょう。
この五人を鎮圧すればそれで一応の成功扱いとなります。
ですが――
襲撃の時間帯は夕刻。
予測を受けてその時に移動するはずだった隊商は移動を控えることになっています。
それでは、皆様のご参加をお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年06月13日
2018年06月13日
†メイン参加者 8人†
●誰だって思うこと
のどかな風景が続いている。
街道はそこだけを切り取れば平和そのものだった。
しかし平和そうに見えても、危機というものは突然やってくる。
「おい、止まれ」
街道を進んでいた馬車の前に、男が三人現れた。
後方には二人。合計五人だ。
揃って、壊れかけた甲冑を身に帯びて、みすぼらしい風体をしている。
「はい、何でございましょう」
御者を務めていた小柄なオニヒトの少年が、きょとんとした様子で応じた。
真ん中に立つ男が腰に差していた剣をすらりと引き抜く。
その剣は半ばから折れていたがその断面は尖っており、十分用途は果たしそうだ。
「この馬車は何を積んでいる。答えろ」
「何、って……。食料ですけど? アデレードへ運んでいって売るための品です」
答えたのは、御者の少年の右隣に座っている同じくオニヒトの少女だ。
反対の左側には、ノウブルの少女がドギマギしている。
食料と聞いて、厳めしかった男達の顔が一気に明るいものになった。そして中央の男が言う。
「積荷を寄越せ。全てだ」
「え、何でそんなこと……!?」
ノウブルの少女が派手に驚いた。大して脅してもいないのに随分な怯えようだ。
そんな彼女の様子が、男達を若干調子づかせた。
「別に怪我をさせるつもりはない。荷物を置いていけば何もしないでいてやるよ」
男はあからさまに上からものを言った。
しかし御者の少年は顔を青くしながらも反論してくる。
「でも、この荷物はまだ復興途中のアデレードの人たちが必要としているものなんです」
「知ってますよね、アデレードであった戦いのこと」
オニヒトの少女も言う。聞いた男はグッと言葉を詰まらせた。
「――だから、通してくださいよ。元騎士様」
「なっ」
少年の一言に、男達の表情が一気に青ざめた。何故それを知っている!
「今ならまだ、間に合うんじゃないかな」
御者をしていた『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)がそう告げる。
「……今もこんな場所にいるなんて、本当は戻りたい気持ちがあるからじゃないの?」
彼の隣に座る『イ・ラプセル自由騎士団』猪市 きゐこ(CL3000048)も続けてそう指摘した。
「お、お前ら……!」
「これ以上、罪を重ねないでほしいと思っているわ」
怯えていた少女は『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレスティ(CL3000222)であった。
隊商を装って盗賊団をおびき出す。きゐ子提案の作戦は上手くいったようだ。
そして、この馬車がおびき寄せの道具なのだとすれば、当然――
「うおお、何だお前ら!?」
後方より、そちらに回っていた盗賊の声。
馬車の中に隠れていた他の自由騎士たちが、一斉に外へと飛び出してくる。
「……その鎧、その剣、本当に騎士だった者が盗賊に成り下がったのか」
同じく騎士の身分にある『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が顔を苦く歪めた。
「そんな装備で、僕らに勝てる道理はない。どうか、投降してくれ」
絞り出すようなアダムの声。
しかし元騎士の盗賊たちは揃って顔に怒りを浮かべてかぶりを振った。
「冗談じゃない! 今さら、どのツラ下げて戻れるものか!」
「だからって盗賊なんて、子供じゃないんだから。身の振り方くらい考えなさいよ!」
憤りのままに『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が叱責を飛ばす。
「言わせておけば、貴様ら……!」
リーダー格と思しき男がさらに怒りを強めて握った拳を震わせる。
だがアンネリーザは止まらない。彼女もまた怒っているのだ。
「どうして、こんなことするのよ。何で、奪う側に回るのよ!」
彼女の声に、しかし盗賊側に答えられる者はいなかった。
いるはずがなかった。
リーダーの男とて同じだ。拳を震わせているが、それ以上は何もできずにいる。
それを見る『「チューベローズ快賊団」団長』リナ・チューベローズ(CL3000272)の隣で、
「戦争は怖いですよ。正気で行うようなものではありません。逃げだすことも――」
『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)が理解を示そうとする。
「黙れ!」
だが元騎士の盗賊団リーダーは彼の言葉を遮った。
残る四名の盗賊たちも、武器を手にして殺気を強める。これ以上、話をする気はないようだ。
「こうなっては仕方がないな」
『イ・ラプセル自由騎士団』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が大剣を構えた。
「話すべきこと、知るべきこと、明らかにすべきこと、様々あるが今は置こう」
「捕まってたまるか!」
抵抗の意志を明らかにする元同僚の盗賊共へ、ボルカスは剣の切っ先を突き付ける。
「言葉での問答はもはや無用! 自らの意を通したくば、その折れた剣に語ってみろ!」
戦士の雄叫びを皮切りにして戦いは始まった。
●それでも追いかけてくる
――こんな戦い、始まる前から結果は見えている。
それをすでに察しているからこそ、ジークベルトはまず言った。
「同胞同士で戦う必要なんてないでしょう! 武器を捨ててください!」
誰しもがボルカスのように割り切れているワケではない。
ジークベルトは何とか盗賊達を説得したかった。しかしその想いは、
「わざわざ俺達を捕まえに来て、余裕のつもりか!」
追い詰められている盗賊のリーダーには通じなかった。
ジークベルトは察していた。この盗賊達は、誰よりも自分自身に追い詰められている。
彼らは悪人ではない。それがヒシヒシと伝わってくる。
だが戦いは始まってた。
馬車から離れて街道の脇、平原で盗賊五人と自由騎士が相対する。
「ゆくぞ!」
ボルカスが大剣で地面を叩いて強烈な衝撃を発生させた。
本来であれば牽制に過ぎない一撃。しかし、前に出ている盗賊数名がそれだけで体勢を崩す。
「ぐ、クソ! クソォ!」
身を傾がせたまま、いきり立った盗賊が無理やりボルカスを狙おうとする。
そこに、アダムが割って入った。
「動きが大きすぎるよ」
切っ先が欠けた剣の一閃を蒸気鎧装の籠手で受け止め、そのまま威力を脇へとそらす。
柳の如き柔らかな動き。アダムは呼吸を細めて盗賊を睨んだ。
「見え見えじゃないか!」
握り込んだ拳がまっすぐに振るわれて、その盗賊の胸を守る甲冑がべコリと凹んだ。
「が、ふゥ……!」
こらえきれず、盗賊がその場に膝をついてしまう。
「そういうことなのね……」
アリアは気づいた。
ただの拳の一撃。それで盗賊は倒れてしまった。
アダムの攻撃が強力すぎたのか。
いや、確かに痛烈ではあったろう。しかし、本来の騎士達であれば耐えられたはずだ。
単純に弱っているのだ。この盗賊達が。
「そんな……、そんなフラフラになってまでどうして抵抗しようとするのよ!」
不本意な逃亡生活。常に追い詰められた精神状態に、ロクに食事もできていないような環境。
いかに訓練を重ねた騎士といえども、心身共に衰弱するに決まっていた。
「もう、やめてよ。これ以上あがいたって……!」
「うるさい。俺達をそんな目で見るな! 見るんじゃあない!」
喚き散らし、リーダーが剣を振り回す。
しかしアリアは軽快な動きでそれを易々かわし、返す刀でリーダーの肩口を切りつける。
浅い。切っ先が甲冑の表面をかすめてギャリンと金属音を鳴らした。
アリアが攻撃に失敗したのではない。
彼女は、リーダーにも分かるよう、手加減をしたのだ。
「ぐ、ぐぎ……!」
勝負にならない。
彼女は言外にそう言っているのだ。そしてリーダーも察して、奥歯を擦り合わせている。
「どうしても投降しないなら……、ね?」
アラドが指先に魔力の光を灯し、空中に緋色の軌跡を描きながら言った。
盗賊のすぐ脇を炎が炸裂した。アラドは表情を変えずに、彼らを見守りながら一言、
「ぼくたちも、ただただ優しくするためにここにいるんじゃないんだよ?」
「く……!」
脅す側、脅される側、完全に逆転してしまっている。
「戻れるか……、ノコノコとあそこに戻れるもんかよォォ!」
盗賊達が一斉に襲い掛かってくる。
彼らの脳裏にあるのは捕縛への恐怖ではない。アデレードで逃げた自分達。その悔恨だ。
「俺達はもう、騎士じゃないんだよ!」
「……だったらきっちり、盗賊として捕まえてあげるわよ」
盗賊の一人が炎に巻かれる。きゐ子の放った緋文字は疲弊した彼を容赦なく焼いた。
もはや、勝負の結果は誰の目から見ても明らかだ。
「後ろめたいかもしれません。でも、それを飲み込んで、降ってくれませんか?」
ジークベルトの再度の通告に盗賊達は顔を見合わせた。
自由騎士の無理に捕まえようとしない姿勢は十分に伝わっているだろう。
しかし、それでもまだ彼らは己を許すことができなかった。
「う、うああああああああ!」
半ば狂乱し、まだ健在な一人がジークベルトを狙って剣を振り上げようとする。
「分からず屋!」
だが銃声が轟く。弾丸は見事にその盗賊の剣に命中し、刀身が根元から折れてなくなった。
撃ったのはアンネリーザ。身を震わせて、彼女は涙目になって自分の想いを叩きつける。
「そんな疲れ果てるまで逃げ続けて、一体どうするのよ!」
「うるさい、言うな。俺達は……!」
盗賊は反論しようとする。しかしアンネリーザはさらにまくし立てた。
「逃げたって無駄よ! どこまで逃げたって、目をそらしたって、背を向けたって――」
心の底から、彼女は訴える。
「追いかけてくるのは自分自身の心なんだから、逃げられるはずないじゃない!」
「…………!」
盗賊が、衝撃に目を見開いた。
「この国を守りたいって気持ち、あったんでしょう?」
「そうだな」
うなずいたのはリーダーだった。
「それがいつまでも追ってくるのよ?」
「それも、そうだな」
認めたのもリーダーだった。
「ああ、そうだ。その通りだ」
ひとりごちて、彼は剣を地面に投げ捨てた。残る盗賊達も続けて武器を捨てていく。
逃げた。怖くなって逃げた。そして戻ることもできないまま悪事に手を染めた。
それでも――
自嘲したくなるほどの愚かしさだ。
まだ自分たちの中にはこの国を守りたいという意志が燻っていたんじゃないか。
目の前の自由騎士達によって、それを自覚させられてしまった。
ならばもうどうしようもなかった。
「そうか。……やっと、終われたんだな」
リーダーが吐いたその言葉には、根深い疲れと諦めと、確かな安堵がこもっていた。
●手を下したのは誰なのか
「こんなもの、かな?」
アラドが馬車に積んでいたロープで五人を縛る。
投降したとはいえ、相手は明確に罪を犯した咎人である。
今の時点ではこう扱わざるを得なかった。
「ハハハ……、この格好で戻るのか、俺達は……」
「落ちるところまで落ちちまったんだ、ちょうどいい扱いってもんだろ」
盗賊達に一切抵抗する様子はなく、彼らはただ粛々と捕縛されていった。
「罪を償う意思がある。そう思っていいんだな」
確かめるようにボルカスが尋ねた。
リーダーは「ああ」と応じて、深く首肯する。
「こうなった以上は大人しく従うさ。みっともないところを見せて、すまなかった」
認めてしまえば、気分も晴れやかだった。
もう自分から逃げずに済む。それだけでこんなにも心が軽くなるのだ。
リーダーはむしろ、自分達を捕らえてくれた自由騎士達に感謝の念すら抱いていた。
しかし自由騎士達は互いに顔を見合わせて、何かを考え込んでいる。
「やっぱりおかしいわ。違和感が拭えない……」
アリアがそう言って、リーダーの方を見やる。無論、リーダーには何の話かさっぱりだ。
「ぼくも、かな。どうしても違うような気がする。きいてみようよ」
アラドもアリアに同調する。
ワケが分からず、リーダーの男は眉をひそめた。
「待ってくれ、一体何の話だ?」
「聞かせてください。今まで何回、街道で人を襲ってきましたか」
「……答えにくいことを」
ジークベルトに尋ねられて、リーダーは苦い顔をした。
だが何か重要そうな話である。彼は何一つ隠さずに答えることにする。
「悪いが、覚えていない。……何回かやったよ。でもそのどれも、覚えていたくなかったんだ」
嘘ではない。本当の話である。でなければもたなかったのだ。
しかし意識したつもりもないのに、リーダーの声は低くかすれたものに変わっていた。
心の中にギシギシと軋むものがある。
激しい呵責に彼の域は詰まりそうになってしまっていた。
「……じゃあ、その犯行の中で誰かを殺したことは?」
「――何?」
きゐ子の問いにリーダーの動きが止まる。
「殺したりしたことは、あるのかしら?」
「殺すかッ!」
一転、リーダーは絶叫していた。周りの他の盗賊も、口々に怒りを叫ぶ。
「ふざけるな!」
「落ちぶれようとも、祖国の民をあやめるものか!」
「殺したりするもんか! そんなことするかよ!」
先ほどまで大人しかった彼らが完全に怒り一色に染まっている。
その様子から、自由騎士は彼らの潔白を確信した。
「待て……!」
そしてリーダーは、状況から話の概要をほぼ察した。
「死者が出たのか? この街道で……!?」
「ええ。かなりひどい事件だったようです。だから違和感があったんですよね」
「やはり違ったようだがな」
ジークベルトとボルカスは今夏の事件について事前にある程度調べていた。
その上で、二人の見解は完全に一致していた。
「じゃあ、やっぱり……?」
「そうだね。犯人は別にいるってことになってしまう」
アンネリーザもアダムも、これについては「やはり」という想いが強い。
「それでも一応確認するけれど、本当に君達じゃないんだね?」
「食うのに困ったくらいでそんな下劣な真似はしない」
固い声で言い返してくるリーダーに、尋ねたアダムは大きくうなずく。
祖国の民の死に怒る。それはイ・ラプセルを守ろうとする気高き騎士の姿そのものだった。
それでも間違うことはある。
彼らのように、道を誤って罪人へと身を落とすことだってあるのだ。
気をつけなくちゃいけない。アンネリーザはそう考える。
「行こうか」
アラドが御者席に座った。
抵抗の意志を見せない盗賊達は荷台に置かれ、馬車は街へと向かって進み始めた。
「……罪を償ってもここに居づらいなら、旅にでも出たらどうかしら」
「フ、ハハハ、まぁ、考えておくさ」
きゐ子の提案にリーダーが笑う。実際にどうなるのか、決まるのはこれからだが。
こうして事件はひとまず幕を閉じた。
だが結局、死者が出た一件については分からず仕舞い。ジークベルトは危惧を覚えていた。
――もしかしたら、火種が燃え広がるのはこれからなんじゃないだろうか。
見上げれば空は曇天。
これから一雨来そうだった。
●そこにいる邪悪
その日の夜のことである。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
雨が激しく降る街道に、悲鳴が響き渡った。
「荷は奪え。人は殺せ。馬はバラして持ってこい。後で煮込んで食う。証拠は残すな」
それは、奪い、喰らい、蔑み、殺すことを何とも思っていない者の声である。
「助けて、助け……!」
馬車に乗っていた男が必死に命乞いをしてくる。
それを聞いていた手下が指示を仰いできた。
「どうします、兄貴」
「前と同じだ」
真っ暗な空に亀裂のような稲妻が走り、一瞬だけ景色を照らした。
そこに露わになったのは体の半分が焼け爛れた、醜い狼のケモノビトの姿。
――ボーデンであった。
「全殺しだ。男はすぐに殺す。女は犯してから殺す。一番は俺だ、報告忘れるんじゃねぇぞ」
「承知してますって!」
下卑た笑いを浮かべながら、手下が襲った馬車の方へ戻っていく。
女の悲鳴が聞こえた。
運がいい。今夜は気持ちよくなれそうだ。
そう思って笑おうとしたとき、全身に激痛が走った。
「痛ェ、痛ェ……! クソォ、畜生が、ドクソがぁ!」
炎に焼かれた体はもうかなりの時間が経過した今もなお、痛みを残して彼を苛んでいた。
「殺してやる、絶対に殺してやるぞ、イ・ラプセルのクソ共ッ……!」
大事な二人の弟を殺し、そして自分をこんなにしたあの連中。
許せるものか。
許せるものか。
あいつらも、この国も、何もかも、奪って犯して壊して殺して、喰らってやる。
「――楽しみだぜ、自由騎士共!」
のどかな風景が続いている。
街道はそこだけを切り取れば平和そのものだった。
しかし平和そうに見えても、危機というものは突然やってくる。
「おい、止まれ」
街道を進んでいた馬車の前に、男が三人現れた。
後方には二人。合計五人だ。
揃って、壊れかけた甲冑を身に帯びて、みすぼらしい風体をしている。
「はい、何でございましょう」
御者を務めていた小柄なオニヒトの少年が、きょとんとした様子で応じた。
真ん中に立つ男が腰に差していた剣をすらりと引き抜く。
その剣は半ばから折れていたがその断面は尖っており、十分用途は果たしそうだ。
「この馬車は何を積んでいる。答えろ」
「何、って……。食料ですけど? アデレードへ運んでいって売るための品です」
答えたのは、御者の少年の右隣に座っている同じくオニヒトの少女だ。
反対の左側には、ノウブルの少女がドギマギしている。
食料と聞いて、厳めしかった男達の顔が一気に明るいものになった。そして中央の男が言う。
「積荷を寄越せ。全てだ」
「え、何でそんなこと……!?」
ノウブルの少女が派手に驚いた。大して脅してもいないのに随分な怯えようだ。
そんな彼女の様子が、男達を若干調子づかせた。
「別に怪我をさせるつもりはない。荷物を置いていけば何もしないでいてやるよ」
男はあからさまに上からものを言った。
しかし御者の少年は顔を青くしながらも反論してくる。
「でも、この荷物はまだ復興途中のアデレードの人たちが必要としているものなんです」
「知ってますよね、アデレードであった戦いのこと」
オニヒトの少女も言う。聞いた男はグッと言葉を詰まらせた。
「――だから、通してくださいよ。元騎士様」
「なっ」
少年の一言に、男達の表情が一気に青ざめた。何故それを知っている!
「今ならまだ、間に合うんじゃないかな」
御者をしていた『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)がそう告げる。
「……今もこんな場所にいるなんて、本当は戻りたい気持ちがあるからじゃないの?」
彼の隣に座る『イ・ラプセル自由騎士団』猪市 きゐこ(CL3000048)も続けてそう指摘した。
「お、お前ら……!」
「これ以上、罪を重ねないでほしいと思っているわ」
怯えていた少女は『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレスティ(CL3000222)であった。
隊商を装って盗賊団をおびき出す。きゐ子提案の作戦は上手くいったようだ。
そして、この馬車がおびき寄せの道具なのだとすれば、当然――
「うおお、何だお前ら!?」
後方より、そちらに回っていた盗賊の声。
馬車の中に隠れていた他の自由騎士たちが、一斉に外へと飛び出してくる。
「……その鎧、その剣、本当に騎士だった者が盗賊に成り下がったのか」
同じく騎士の身分にある『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が顔を苦く歪めた。
「そんな装備で、僕らに勝てる道理はない。どうか、投降してくれ」
絞り出すようなアダムの声。
しかし元騎士の盗賊たちは揃って顔に怒りを浮かべてかぶりを振った。
「冗談じゃない! 今さら、どのツラ下げて戻れるものか!」
「だからって盗賊なんて、子供じゃないんだから。身の振り方くらい考えなさいよ!」
憤りのままに『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が叱責を飛ばす。
「言わせておけば、貴様ら……!」
リーダー格と思しき男がさらに怒りを強めて握った拳を震わせる。
だがアンネリーザは止まらない。彼女もまた怒っているのだ。
「どうして、こんなことするのよ。何で、奪う側に回るのよ!」
彼女の声に、しかし盗賊側に答えられる者はいなかった。
いるはずがなかった。
リーダーの男とて同じだ。拳を震わせているが、それ以上は何もできずにいる。
それを見る『「チューベローズ快賊団」団長』リナ・チューベローズ(CL3000272)の隣で、
「戦争は怖いですよ。正気で行うようなものではありません。逃げだすことも――」
『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)が理解を示そうとする。
「黙れ!」
だが元騎士の盗賊団リーダーは彼の言葉を遮った。
残る四名の盗賊たちも、武器を手にして殺気を強める。これ以上、話をする気はないようだ。
「こうなっては仕方がないな」
『イ・ラプセル自由騎士団』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が大剣を構えた。
「話すべきこと、知るべきこと、明らかにすべきこと、様々あるが今は置こう」
「捕まってたまるか!」
抵抗の意志を明らかにする元同僚の盗賊共へ、ボルカスは剣の切っ先を突き付ける。
「言葉での問答はもはや無用! 自らの意を通したくば、その折れた剣に語ってみろ!」
戦士の雄叫びを皮切りにして戦いは始まった。
●それでも追いかけてくる
――こんな戦い、始まる前から結果は見えている。
それをすでに察しているからこそ、ジークベルトはまず言った。
「同胞同士で戦う必要なんてないでしょう! 武器を捨ててください!」
誰しもがボルカスのように割り切れているワケではない。
ジークベルトは何とか盗賊達を説得したかった。しかしその想いは、
「わざわざ俺達を捕まえに来て、余裕のつもりか!」
追い詰められている盗賊のリーダーには通じなかった。
ジークベルトは察していた。この盗賊達は、誰よりも自分自身に追い詰められている。
彼らは悪人ではない。それがヒシヒシと伝わってくる。
だが戦いは始まってた。
馬車から離れて街道の脇、平原で盗賊五人と自由騎士が相対する。
「ゆくぞ!」
ボルカスが大剣で地面を叩いて強烈な衝撃を発生させた。
本来であれば牽制に過ぎない一撃。しかし、前に出ている盗賊数名がそれだけで体勢を崩す。
「ぐ、クソ! クソォ!」
身を傾がせたまま、いきり立った盗賊が無理やりボルカスを狙おうとする。
そこに、アダムが割って入った。
「動きが大きすぎるよ」
切っ先が欠けた剣の一閃を蒸気鎧装の籠手で受け止め、そのまま威力を脇へとそらす。
柳の如き柔らかな動き。アダムは呼吸を細めて盗賊を睨んだ。
「見え見えじゃないか!」
握り込んだ拳がまっすぐに振るわれて、その盗賊の胸を守る甲冑がべコリと凹んだ。
「が、ふゥ……!」
こらえきれず、盗賊がその場に膝をついてしまう。
「そういうことなのね……」
アリアは気づいた。
ただの拳の一撃。それで盗賊は倒れてしまった。
アダムの攻撃が強力すぎたのか。
いや、確かに痛烈ではあったろう。しかし、本来の騎士達であれば耐えられたはずだ。
単純に弱っているのだ。この盗賊達が。
「そんな……、そんなフラフラになってまでどうして抵抗しようとするのよ!」
不本意な逃亡生活。常に追い詰められた精神状態に、ロクに食事もできていないような環境。
いかに訓練を重ねた騎士といえども、心身共に衰弱するに決まっていた。
「もう、やめてよ。これ以上あがいたって……!」
「うるさい。俺達をそんな目で見るな! 見るんじゃあない!」
喚き散らし、リーダーが剣を振り回す。
しかしアリアは軽快な動きでそれを易々かわし、返す刀でリーダーの肩口を切りつける。
浅い。切っ先が甲冑の表面をかすめてギャリンと金属音を鳴らした。
アリアが攻撃に失敗したのではない。
彼女は、リーダーにも分かるよう、手加減をしたのだ。
「ぐ、ぐぎ……!」
勝負にならない。
彼女は言外にそう言っているのだ。そしてリーダーも察して、奥歯を擦り合わせている。
「どうしても投降しないなら……、ね?」
アラドが指先に魔力の光を灯し、空中に緋色の軌跡を描きながら言った。
盗賊のすぐ脇を炎が炸裂した。アラドは表情を変えずに、彼らを見守りながら一言、
「ぼくたちも、ただただ優しくするためにここにいるんじゃないんだよ?」
「く……!」
脅す側、脅される側、完全に逆転してしまっている。
「戻れるか……、ノコノコとあそこに戻れるもんかよォォ!」
盗賊達が一斉に襲い掛かってくる。
彼らの脳裏にあるのは捕縛への恐怖ではない。アデレードで逃げた自分達。その悔恨だ。
「俺達はもう、騎士じゃないんだよ!」
「……だったらきっちり、盗賊として捕まえてあげるわよ」
盗賊の一人が炎に巻かれる。きゐ子の放った緋文字は疲弊した彼を容赦なく焼いた。
もはや、勝負の結果は誰の目から見ても明らかだ。
「後ろめたいかもしれません。でも、それを飲み込んで、降ってくれませんか?」
ジークベルトの再度の通告に盗賊達は顔を見合わせた。
自由騎士の無理に捕まえようとしない姿勢は十分に伝わっているだろう。
しかし、それでもまだ彼らは己を許すことができなかった。
「う、うああああああああ!」
半ば狂乱し、まだ健在な一人がジークベルトを狙って剣を振り上げようとする。
「分からず屋!」
だが銃声が轟く。弾丸は見事にその盗賊の剣に命中し、刀身が根元から折れてなくなった。
撃ったのはアンネリーザ。身を震わせて、彼女は涙目になって自分の想いを叩きつける。
「そんな疲れ果てるまで逃げ続けて、一体どうするのよ!」
「うるさい、言うな。俺達は……!」
盗賊は反論しようとする。しかしアンネリーザはさらにまくし立てた。
「逃げたって無駄よ! どこまで逃げたって、目をそらしたって、背を向けたって――」
心の底から、彼女は訴える。
「追いかけてくるのは自分自身の心なんだから、逃げられるはずないじゃない!」
「…………!」
盗賊が、衝撃に目を見開いた。
「この国を守りたいって気持ち、あったんでしょう?」
「そうだな」
うなずいたのはリーダーだった。
「それがいつまでも追ってくるのよ?」
「それも、そうだな」
認めたのもリーダーだった。
「ああ、そうだ。その通りだ」
ひとりごちて、彼は剣を地面に投げ捨てた。残る盗賊達も続けて武器を捨てていく。
逃げた。怖くなって逃げた。そして戻ることもできないまま悪事に手を染めた。
それでも――
自嘲したくなるほどの愚かしさだ。
まだ自分たちの中にはこの国を守りたいという意志が燻っていたんじゃないか。
目の前の自由騎士達によって、それを自覚させられてしまった。
ならばもうどうしようもなかった。
「そうか。……やっと、終われたんだな」
リーダーが吐いたその言葉には、根深い疲れと諦めと、確かな安堵がこもっていた。
●手を下したのは誰なのか
「こんなもの、かな?」
アラドが馬車に積んでいたロープで五人を縛る。
投降したとはいえ、相手は明確に罪を犯した咎人である。
今の時点ではこう扱わざるを得なかった。
「ハハハ……、この格好で戻るのか、俺達は……」
「落ちるところまで落ちちまったんだ、ちょうどいい扱いってもんだろ」
盗賊達に一切抵抗する様子はなく、彼らはただ粛々と捕縛されていった。
「罪を償う意思がある。そう思っていいんだな」
確かめるようにボルカスが尋ねた。
リーダーは「ああ」と応じて、深く首肯する。
「こうなった以上は大人しく従うさ。みっともないところを見せて、すまなかった」
認めてしまえば、気分も晴れやかだった。
もう自分から逃げずに済む。それだけでこんなにも心が軽くなるのだ。
リーダーはむしろ、自分達を捕らえてくれた自由騎士達に感謝の念すら抱いていた。
しかし自由騎士達は互いに顔を見合わせて、何かを考え込んでいる。
「やっぱりおかしいわ。違和感が拭えない……」
アリアがそう言って、リーダーの方を見やる。無論、リーダーには何の話かさっぱりだ。
「ぼくも、かな。どうしても違うような気がする。きいてみようよ」
アラドもアリアに同調する。
ワケが分からず、リーダーの男は眉をひそめた。
「待ってくれ、一体何の話だ?」
「聞かせてください。今まで何回、街道で人を襲ってきましたか」
「……答えにくいことを」
ジークベルトに尋ねられて、リーダーは苦い顔をした。
だが何か重要そうな話である。彼は何一つ隠さずに答えることにする。
「悪いが、覚えていない。……何回かやったよ。でもそのどれも、覚えていたくなかったんだ」
嘘ではない。本当の話である。でなければもたなかったのだ。
しかし意識したつもりもないのに、リーダーの声は低くかすれたものに変わっていた。
心の中にギシギシと軋むものがある。
激しい呵責に彼の域は詰まりそうになってしまっていた。
「……じゃあ、その犯行の中で誰かを殺したことは?」
「――何?」
きゐ子の問いにリーダーの動きが止まる。
「殺したりしたことは、あるのかしら?」
「殺すかッ!」
一転、リーダーは絶叫していた。周りの他の盗賊も、口々に怒りを叫ぶ。
「ふざけるな!」
「落ちぶれようとも、祖国の民をあやめるものか!」
「殺したりするもんか! そんなことするかよ!」
先ほどまで大人しかった彼らが完全に怒り一色に染まっている。
その様子から、自由騎士は彼らの潔白を確信した。
「待て……!」
そしてリーダーは、状況から話の概要をほぼ察した。
「死者が出たのか? この街道で……!?」
「ええ。かなりひどい事件だったようです。だから違和感があったんですよね」
「やはり違ったようだがな」
ジークベルトとボルカスは今夏の事件について事前にある程度調べていた。
その上で、二人の見解は完全に一致していた。
「じゃあ、やっぱり……?」
「そうだね。犯人は別にいるってことになってしまう」
アンネリーザもアダムも、これについては「やはり」という想いが強い。
「それでも一応確認するけれど、本当に君達じゃないんだね?」
「食うのに困ったくらいでそんな下劣な真似はしない」
固い声で言い返してくるリーダーに、尋ねたアダムは大きくうなずく。
祖国の民の死に怒る。それはイ・ラプセルを守ろうとする気高き騎士の姿そのものだった。
それでも間違うことはある。
彼らのように、道を誤って罪人へと身を落とすことだってあるのだ。
気をつけなくちゃいけない。アンネリーザはそう考える。
「行こうか」
アラドが御者席に座った。
抵抗の意志を見せない盗賊達は荷台に置かれ、馬車は街へと向かって進み始めた。
「……罪を償ってもここに居づらいなら、旅にでも出たらどうかしら」
「フ、ハハハ、まぁ、考えておくさ」
きゐ子の提案にリーダーが笑う。実際にどうなるのか、決まるのはこれからだが。
こうして事件はひとまず幕を閉じた。
だが結局、死者が出た一件については分からず仕舞い。ジークベルトは危惧を覚えていた。
――もしかしたら、火種が燃え広がるのはこれからなんじゃないだろうか。
見上げれば空は曇天。
これから一雨来そうだった。
●そこにいる邪悪
その日の夜のことである。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
雨が激しく降る街道に、悲鳴が響き渡った。
「荷は奪え。人は殺せ。馬はバラして持ってこい。後で煮込んで食う。証拠は残すな」
それは、奪い、喰らい、蔑み、殺すことを何とも思っていない者の声である。
「助けて、助け……!」
馬車に乗っていた男が必死に命乞いをしてくる。
それを聞いていた手下が指示を仰いできた。
「どうします、兄貴」
「前と同じだ」
真っ暗な空に亀裂のような稲妻が走り、一瞬だけ景色を照らした。
そこに露わになったのは体の半分が焼け爛れた、醜い狼のケモノビトの姿。
――ボーデンであった。
「全殺しだ。男はすぐに殺す。女は犯してから殺す。一番は俺だ、報告忘れるんじゃねぇぞ」
「承知してますって!」
下卑た笑いを浮かべながら、手下が襲った馬車の方へ戻っていく。
女の悲鳴が聞こえた。
運がいい。今夜は気持ちよくなれそうだ。
そう思って笑おうとしたとき、全身に激痛が走った。
「痛ェ、痛ェ……! クソォ、畜生が、ドクソがぁ!」
炎に焼かれた体はもうかなりの時間が経過した今もなお、痛みを残して彼を苛んでいた。
「殺してやる、絶対に殺してやるぞ、イ・ラプセルのクソ共ッ……!」
大事な二人の弟を殺し、そして自分をこんなにしたあの連中。
許せるものか。
許せるものか。
あいつらも、この国も、何もかも、奪って犯して壊して殺して、喰らってやる。
「――楽しみだぜ、自由騎士共!」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
お疲れさまでした。
やはり皆さんの読み通り、死者が出た一件は別犯人でしたね。
今回の最後に出てきた黒いアイツはまたいずれ出てくるでしょう。
そのときはまた別事件で、となりますね。
それではまたの機会に!
ありがとうございましたー!
やはり皆さんの読み通り、死者が出た一件は別犯人でしたね。
今回の最後に出てきた黒いアイツはまたいずれ出てくるでしょう。
そのときはまた別事件で、となりますね。
それではまたの機会に!
ありがとうございましたー!
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