MagiaSteam
クリソベリルと異を唱えるもの




「で、貴族サマ。あんた達みたいなお偉いさんが、直々に俺たちみたいなのに用があるってぇのはどういう事だい?」
 部屋に通されたハミルトン達の目の前には、すわり心地のよさそうなソファーでくつろぐ一人の男。
 その男は『ガゼル』と名乗った。飄々とした態度ではあるが相応の実力者である事はその場の空気が醸し出している。
「私の名はハミルトン・ドナー。イ・ラプセル直系貴族の一人である。君がラスカルズのボスか。単刀直入に言おう。……私は現王政を快くは思っていない。それは君たちも同じだろう。理由は違うかもしれないが……向かう方向は同じはずだ」
 ハミルトンがガゼルへ自己の弁を述べる。
「……なるほど。俺たちと組みたいって事か。まぁそれに付いてはじっくり話すとして……まずお前さんは二つ間違ってるぜ」
 ガゼルはにやりと笑うと、ハミルトンとその従者に目をやる。
「どういうことだっ」
 不穏な気配を察した従者が、態勢を整えながらガゼルへ問いかける。
「まず、俺はボスじゃねぇよ。こんな場所に俺たちのボスがわざわざ顔を出すワケねぇだろ」
「……っ!? 私はボスに会いたいと伝えたはずだが……」
 ハミルトンは不機嫌を隠す事無く言葉を続ける。
「この話は非常に大きな影響を与えるものだ、ボスでないお前に話して意味はあるの──」
 まくし立てるように言葉を発していたハミルトンが思わずごくりと息を飲む。
 目の前のソファーに座っていたはずの男の姿はそこには無く、いつの間にか自身の首元にナイフが突きつけられていた。
 それはまさに一瞬の出来事。警戒していたはずの従者でさえ全く反応が出来なかった。
「ごちゃごちゃうるせぇな。この件は俺がボスから任されたんだ。何か文句があるのか」
 ナイフがすぅっとのど元から滑る。鈍い痛みと共に浅い傷口から血が滲む。
「わ、わかった! あなたを信用しよう! だからこのナイフをどけてくれないか」
「わかればいいんだよ」
 どすん、とへたり込むハミルトン。この場の力関係が決まる。
「それで……も、もう一つの間違いとはなんでしょう」
 ハミルトンは丁寧な口調を心がけながら恐る恐る尋ねる。
「それはな──」

 その時、ハミルトンは大きな間違いに気付く。ラスカルズなど所詮盗賊まがいのチンピラ集団。われらが魔道の力を持ってすれば容易く利用できるであろうと。

 しかしそれは違った。利用して喰うつもりがこれでは喰らい尽くされる──。
 ハミルトンは安易に事を進めた自分を呪う。


 それから数ヶ月もせず、ラスカルズの勢力拡大と共にドナー家は破産、消滅の道をたどる事となる。




「ある貴族が全ての財を奪い尽くされ、その命をも奪われるというという未来が予測された」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集った自由騎士たちに、ある貴族に起きる結末を語った。
「だがこの未来には一連の事件へ繋がる『始まり』があるのだ。今回君たちにはその『始まり』を阻止してもらいたい」
 そういうとフレデリックは大まかな屋敷の見取り図と共に詳細を語る。
「今後を考えれば、不穏の種は出来る限り早急に摘み取らなければなるまい。宜しく頼んだぞ」
 


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.ラスカルズに接触した貴族および従者の捕縛
2.廃屋敷の制圧
麺二郎です。
ブレインストーミングスペース。
様々な意見やアイデアが日々展開され、大変興味深く拝見しております。

この依頼はブレインストーミングスペースの
猪市 きゐこ(CL3000048) 2018年09月28日(金) 21:37:32
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017) 2018年09月28日(金) 23:30:43
カノン・T・ブルーバード(CL3000334) 2018年10月08日(月) 13:01:24
等の発言を参考に作成されました。

イ・ラプセルには大きな反抗勢力はありません。
ただそれは現状の話。いつそういった勢力が生まれるとも限りません。
今回はその勢力になりうる可能性を一つ、未然に防いで頂ければと思います。
なお、依頼の成否にラスカルズへの対応は含まれていません。

●ロケーション
 首都外れにある屋敷。元は貴族の別荘地だったようですが、今は所有者不明で近隣住民からは幽霊屋敷といわています。
 ラスカルズはアジトの一つとしてこれを利用しています。

 深夜。ラスカルズの幹部の一人と思われる男とそれなりの数の手下が居るところへ
 身なりのきちんとした貴族風の男とその従者3人が訪れます。
 真夜中の密談。その最中に自由騎士は到着します。

 屋敷は二階建てで玄関と裏口があります。目立つためと外に見張りは居ませんが玄関、裏口の中には見張りがそれぞれ2人と1人配置されています。玄関裏口共に中から鍵がかけられています。開錠スキルが無ければ扉を破壊、もしくは中から扉を開けさせる必要があります。

 一階には、2階へ続く階段のある広い玄関口、応接間、キッチンと食事専用の部屋、トイレ、従者用の生活の間などがあります。
 ラスカルズの殆どは応接間におり、トイレとキッチンに一人ずつ。
 二階は部屋が3つあり、資材置き場として使われています。


●登場人物

・ハミルトン・ドナー
 46歳ノウブル。ラスカルズに密談を持ちかけた貴族。魔道士スタイル。ランク1のスキルを全てLv2まで取得。その首にはクリソベリルの首飾り。
 ノウブル至上主義。現王政による種族を問わない平等化を快く思っていない。
 ドナー家はその昔クリソベリルの採掘で財をなし、王族への過剰なリベートにより爵位を得た成金貴族。そのため他の貴族からは蔑まれている。
 
・ハミルトンの従者 3人
 魔道士スタイル。ランク1スキルLv1を全て取得。

・ガゼル・シュタインノーム
 32才男。幻想種(カマイタチ)とのマザリモノ。『疾風のガゼル』の異名を持つ。ラスカルズの幹部の一人。
 軽戦士スタイルをメインに様々なスタイルのスキルを使用する。スピードを生かした物理攻撃が多い。
 ラスカルズでは珍しい頭脳派の男。戦闘力も高い。今回の密談自体の内容はどうでもよく、この貴族サマ(カモ)からどれだけの財を毟り取れるかのみに興味を持っている。
 非常に狡猾な男で、すべてを犠牲にしてでも自己を保身します。ガゼルいわく「他人の命は俺を生かすためにある」

 疾風刃(EX) ガゼルオリジナル技。疾風を刃に変え標的を切り刻む。【スクラッチ1】

・ガゼルの手下 8人
 3人は応接間、1人はキッチン、1人はトイレ、玄関口に2人、裏口に1人います。
 全員軽戦士スタイルでナイフ使い、ランク1のスキルを1,2個取得しています。


●同行NPC

ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければ回復支援を行います。
 所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。

皆様のご参加お待ちしております

2018.11.14
ロケーションと登場人物の説明にて人数に差異があり、修正が行われました。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2018年11月21日

†メイン参加者 6人†




 ハミルトン・ドナー。僕は貴方に、伝えたい事がある──


 深夜、首都郊外。幽霊屋敷と揶揄される古屋敷。
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)はこの依頼をフレデリックから聞きされた時から思っていた事がある。
「私はノウブル至上主義は大嫌いだけど、別に反骨心を持つ事自体は悪いとは思わないわ。でもね、それにしても反社会組織の作り方がなって無いのだわ! ラスカルズに関して私は詳しくないけど……少し調べただけでも明らかに思想が合わない事ぐらい分かるじゃないっ! 馬鹿なの!? こんなの私がラスカルズの立場だったとしても絞れるだけ絞ろうと思うわよ! 良い様に使ってポイッだわ!」
 ハミルトンの考え無しの行動に、すっかりぷんすかモードのきゐこ。
「では、打ち合わせどおり僕達は正面に回るよ。カスカさんとウェルスさんは裏口から。あと……アリアさんは単独行動になるから十分気をつけてね」
『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は今回の作戦内容を確認した。
 皆、頷くとそぞれに分かれ一斉に行動を開始する。
「では私は上で待機します」
正面玄関と裏口の中間辺り。2階に窓を見つけた『裏街の宵の天使』アリア・セレスティ(CL3000222)は音も無く跳ぶ。その跳躍は華麗に空を蹴り、瞬く間に二階の窓際へたどり着く。
 アリアはそっと窓から中を覗いてみるが情報どおり人の気配はない。テレパスで意識を繋ぐとアリアはその場で待機する。
 一方正面玄関へと向かうアダムの横には『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)。ジュリエットにとって頼もしい先輩であるアダム。少し前までは彼の後ろをついていくのが彼女の常だった。だが幾多の経験がジュリエット自身を後押しする。堂々と彼の隣を歩きなさい、と。
「国を脅かす可能性の芽は、早急に排除しなければなりませんわ」
 アダムの横を歩くジュリエットは緊張を解すかのように話しかける。
「確かにそうだね。この負の連鎖の始まり。必ず止めなければ」
 アダムの顔には若干の緊張が見られながらも、その瞳の奥には強い意思を宿す。
「全く……捕まえたらお説教だわ」
 2人の後ろでは未だぷんすかモードのきゐこが息巻いている。

 ドンドンドンッ!!

「誰だっ!?」
 アダムが扉を慌しく叩くと中から見張りの男らしくの声がした。
「私はドナー家の遣いですっ! 急ぎ報せたい事がありやって参りました! ドナー様と直接お話させて下さいっ」
「ダメだ。今は誰も通すなと言われている」
「あの……貴殿方のボスとも関係ある話なのです。もし不利益があればあなた方も責任を取らされるかもしれませんよ」
 きゐこは緊急性を匂わせつつも責任という言葉を用い、巧みに見張りの男の動揺を誘う。
「一刻も早くお目通し願いますわっ!!」
 しばしの静寂。耳を澄ますとどうやら見張り2人でなにやら話しているようだ。
「……入れ」
 ガチャ──。ゆっくりと扉が開いた。


『正面班、突破した模様』
『逢瀬切』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)にアリアからのテレパスが跳ぶ。
 と同時に『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)にもジュリエットからの通信が入る。
『正面、今突入しましたわっ』
「了解だっ!!」
 ウェルスがすぐにピンポイントシュートで鍵穴を撃ち抜いた。が、開かない。
「……あれっ?」
 どうやら裏口は鍵だけでなく、中から何かで固定されているようだ。
「どいてください」
 カスカは剣を構えると一呼吸する。
「ハッ!!」
 剣の奇跡が幾重にも重なる。
 カチンと刀が鞘に収まる音と同時に扉は音も無く崩れ落ちた。
「ひゅーー!! さすがカスカ嬢だぜっ」
「世辞はいりませんよ」
 感心するウェルスを尻目にカスカは屋敷内へ。
「おかしいですね。確か裏口にも人がい──」
 ヒュッ。ナイフが空を裂く音と共に物陰から男がカスカを襲う。
「大丈夫かっ!!」
 遅れてウェルスも屋敷内へ。
「バカなっ。なんで今のを避けられるんだ」
 暗所、しかも完全な死角からの攻撃。男からすれば確実に致命傷を与えるだけの有利な状況。にもかかわらずその一撃は空を切り、相手に掠りすらしなかった。
「なんて事は無いですよ。ただの勘です」
 カスカは人差し指をこめかみに当てながら、さも当たり前といわんばかりだ。
 持って生まれたセフィラの能力。更には研ぎ澄まされた第六感が相乗効果となり、カスカに常人を遥かに凌駕する直感を与えている。
「化け物めっ!!」
 再びカスカに襲い掛かろうとする男。
 だが男は次の瞬間には意識を失い、その場に倒れこむ。
「うら若き女性に向かって化け物なんて、おいそれと口にするモンじゃねぇぜ」
 ウェルスの放った弾丸が正確に相手の急所捉えていた。
「どうも。まぁ気絶しなければ私が滅多切りにしていたところですが」
「ひぇ~。カスカ嬢、あんまり怖い事言いなさんなよ」
 カスカは南国鉤付きロープで意識を失った男を縛り上げる。
「まずは一人目。では次へ」
 暗闇を物ともしないカスカとウェルスはそのまま闇深い館の中へ消えた。


 窓を破壊し、2階から進入したアリアは、部屋を見渡しながら暗闇に目を慣らす。
 埃まみれの部屋の中には様々な道具が乱雑に置かれている。情報どおり物置として以外は使われていなさそうだ。
 今回の任務はあくまで謀反を起こそうとしている貴族の捕縛。その交渉相手となるラスカルズについては不問だ。アリアもソレはわかっている。
 だが、状況は理解しつつもこれまでのラスカルズとの幾多の関わりが、鮮烈な記憶と共にアリアの脳裏をよぎる。
「私にとってはどちらも悪。討つべき対象です」
 次の瞬間その場にはすでにアリアの姿は無く、アリアの放った言葉の余韻と埃混じりの一陣の風が残されているだけだった。


 けたたましい音と共に応接室の扉が開かれる。
「おーっほっほっほ! わたくし達は貴方方を捕らえに参じた自由騎士団ですわっ!」
 ジュリエットが高らかなと名乗りを上げる。その登場は華々しくその場にいた全視線を釘付けにする。
「抵抗するとただではすみませんわよ! 神妙にお縄に付きなさいな!!」
 決めポーズといわんばかりに指をビシッと。ビシッと? ジュリエットの指先がゆらゆらとガゼルとハミルトンの間で揺れている。
「(…ジュリエットさん、今回はハミルトン候だよっ)」
 アダムが耳打ちするが、突然耳元でアダムの声を聞いたジュリエットは激しく動揺。
「ふわっ!? む、むむむ、むしろ両方ともお縄ですわっ!!」
 思わず両手でそれぞれを指差す。
「……何なんだお前らは。俺達は何もしてねぇぜ。ただこの貴族サマと話してただけだ」
 突然入ってきた来訪者にガゼルは苛立ちを隠す素振りもない。
「っ!? 自由騎士団が何故ここにっ!?」
 その名乗りに明らかに動揺したのはハミルトンと従者たち。一斉に戦闘体制を取る。
「遅いっ!! 食らうといいのだわ! 鵺泣く空の霹靂鏃!!」
 詠唱を終えたきゐこが術式を展開。部屋中広がらんばかりの雷の矢は一斉に対象へ降り注ぐ。
「ぐわっ!?」「うわぁっ!!」
 きゐこの一撃はその場を瞬く間に戦場へと変える。
「おいおい、冗談だろ。問答無用かよ。……お前ら、本気でいけよ」
 手下に指令を出し、ここでガゼルが初めて構えを取る。低い体勢のその構えはどこか猛禽類を思わせる。
「お前達の相手は私だぁーーーっ!!!」
 そこへ勢いよく飛び込んだアリアから放出される白き風は、強烈な力場を生み出す。
「うおっ!!」「なんだこれはっ!?」
「おいおい、あぶねぇな」
 だがこの攻撃をガゼルは寸前で交わす。ガセルのすぐ近くにいた男達の動きも一瞬鈍る。が、すぐに反撃の刃がアリアを襲う。
「くぅっ……」
 反撃に距離をとった腕に鋭い痛みを感じたアリア。その腕からは鮮血が滲む。ガゼルを取り巻く手下もまた精鋭。一方的な展開とはいかない。
「大丈夫かっ!!」
 ウェルスがすぐに回復を行う。
「ヒャッハァァァー!! まずはその服をズタズタに切り裂いてやるゼェーーーーッ!!!」
 男たちの追撃がアリアを襲う。
「そうはさせないわよっ」
 きゐこの放った白き風のマナは更なる力場を生みだす。
「ぐぐ……」「これはっ……っ」
 男達がきゐこの放った磁場に動きを鈍らせる。そしてその記憶が彼らのこの戦いでの最後の記憶。
「チャァァァァァァーーーーンス!!!」
 ウェルスの特製収束魔砲弾が、アリアの最速の一撃が、男達の意識を奪い去ったのだ。
「おいおい、マジかよ。こいつら結構強いんだぜ。……まぁ俺と比べるとザコだけどなぁあああっ!!」
 ガゼルのアリアへの猛攻が始まる。上下左右から無尽蔵に繰り出される斬撃。疾風を纏うその攻撃は鋭く、速い。
「くそっ!! 狙いきれねぇ!!」
「くぅぅう~~~当たらないのだわっ!!」
 ウェルスときゐこの遠距離から狙い打つが、その攻撃は空を切りガゼルを捉えきれない。
「ギャハハハハ!! お前らの攻撃はツマんねぇなぁ!! もっと楽しませろよう!!」
 この時のガゼルには余裕があった。自身の実力。そして屋敷の至る所にある仕掛け。其の全てが自身の優位を揺るがせない。彼にとってこの状況はまだ遊びの範疇を出ていなかったのだ。
 しかしこの後、彼はこの行為を死ぬほど後悔する事になる。

 一方アダム、ジュリエット、カスカの3人はハミルトン及びその従者との戦いを繰り広げていた。
 ハミルトンと従者が繰り成す魔導攻撃は容易にアダムとカスカを近づかせない。
 「全く……ラスカルズは所詮私利私欲の徒の集団でしかないんですがね。彼らと然程接触の多くない私でも理解出来る程度の話ですよ」
 やれやれといった様子でカスカはハミルトンへ語りかける。
「うるさいうるさいうるさいっ!! お前なんぞに言われなくともそんな事はわかっている!!」
 ハミルトンは貴族である。だがドナー家は元々は貴族の血筋ではない。石材加工で富を得て成り上がる事で貴族社会への扉を開いた家系だった。ドナー家が夢見ていたのは誇り高く優雅で誉れ高い憧れの貴族社会。しかし其の実態は見栄と権力が複雑に入り混じるこの上なく醜い世界だった。成り上がり貴族を疎ましく思う生粋の貴族達とも折が合わず、ドナー家が貴族社会の中で孤立していったのはある意味必然であった。
 そして長い孤立は深い孤独を生む。その孤独の末の現状がこれだ。
「あの連携した魔導攻撃、厄介ですわね」
 アダムとカスカを回復でサポートするジュリエットだが、このまま近づけなければ状況は変わりそうに無い。
「ジュリエットさん。少しでいい、彼らの攻撃を止められるかい?」
 一旦後ろへ下がったアダムがジュリエットへ声をかける。
「ま、任せてください! ですわっ!!」
 ジュリエットが燃える!
 ──柘榴石の流れ星。二条の流れ星のように対象へ向けて放たれる深紅の魔導は美しい流線を画き、ハミルトンのすぐ傍で床を抉る。その美しさと威力にハミルトンと従者の攻撃の手が止まる。
 ハミルトンがこちらを見る。その顔は焦燥しきっていた。現状を打破しなければならないという誰から与えられたわけでもない強迫観念によって。
 攻撃の止んだそのタイミングを見計らい、アダムはその良く通る声でハミルトンへ語りかける。
「ハミルトン候。貴方はノブレス・オブリージュを知っていますか」
「ノブレス……オブリージュ」
 ハミルトンがアダムを見る。彼のセフィラの影響もあるだろう。その威風堂々たる物言いももちろん影響している。だがそれを超えるほどの強い意志を持つ彼の目がハミルトンを射抜く。
 思わずハミルトンは攻撃を止め、立ち尽くす。
「は、ハミルトン様っ!? いかがされました!!」
 未だ攻撃を続ける従者もハミルトンの様子がおかしい事に気づく。
「力持つ者は持たざる者に対し責務がある。この場にいる貴方は真の意味で貴族と名乗れますか」
 此度の行動が何を生むのか。ハミルトンも本当は理解しているのかもしれない。だが、それでも。ハミルトンは踏み出した。それが誤っていると知りながら。
「私は……違う……私は他の腐った貴族とは違う……そのためには……為にはっっ」 
「この国を想う心があるのならば思い直して下さい。誰にも屈さず! 責務を全うする本物の貴族になって下さい!」
 立場も年齢も種族だって関係ない。ヒトは過ちを認め、前を向き、進む事が出来るんだ。だからどうか、どうかお願いだ。ハミルトンさん、正しき道を進んでくれ。アダムは心からハミルトンの改心を願う。
「本当の……貴族……か」
 はは、と力なく笑うとハミルトンはその場に崩れ落ちた。
「現王政に文句があるのなら、正々堂々と言いたいことを仰いなさい!!」
 ジュリエットもまた強く言い放つ。
「ハミルトン様っ!?」
 従者も攻撃をやめ、ハミルトンの元へ駆け寄る。ハミルトンの計画は水泡と帰したのだ。


「おいおい、あちらの貴族サマは降参したのかい? 全くマヌケな貴族もいたもんだぜ!! ギャハハハ!」
 ガゼルは嗤う。楽しそうなおもちゃが一つ無くなった。ガゼルにとってはたかがそれだけの事。
 変わらずガゼルは3人を翻弄していた。
「くそっ!! 回復が間に合わねぇっ!!」
 ウェルスが回復を行うものの、その回復量は専門職には及ばない。
 特に前衛で戦うアリアの消耗は激しく、息を整える事も出来ないほどだ。
「ハァッ……ハァッ……」
 だがガゼルの猛攻を受けながらアリアは、何かを掴もうとしていた。
 (これは……この技は……カスカさんの疾風のような速さ? 風の魔法?)
 ガセルの攻撃は自身の速度を疾風へ変え、攻撃へ転化する。アリアはその本質を見抜こうとしていた。
 (痛い……でも感じるのは痛みだけじゃない。操られた風の流れ……今なら見えるっ!!)
 ガゼルの攻撃を避けながらアリアはふいに目を閉じる。そこに感じるのは風。

 ガキィィィン!!!!

「うおっ!?」
 ガゼルは驚きを隠せない。ただの小娘だと侮っていた目の前の敵が突然、自らの技を模倣して見せたのだ。
「どういう事だ。まさかお前も風を掴んだのか」
 アリアが閉じた目を開く。
「お前の技、すべて理解したっ。観念し……うっ」
 その身を持って攻撃を見極めたアリアに、限界が訪れる。崩れ落ちるように倒れるアリアを支える人影。
「全く、無茶をしますね。あなたは」
 そこにいたのはカスカ。そしてアダムにジュリエットだ。
「はっはー!! これで一気に形勢逆転だぜ!!」
 ウェルスが威勢よくまくし立てる。
「依頼で仲間が傷つくのは承知の上ですが……ここまで弄ばれるといつもは寛容な私もさすがに不快ですよ」
 アリアを部屋の隅に寝かせるとカスカが刀を構えなおす。その表情には確かな怒気。 
「おいおい、たったこれだけの人数で俺をどうにかできると思ってるのか?」
 ガゼルはそういいながら自由騎士達の立ち位置を見る。
「お前らの行く先は地獄だぜぇ……。ラスカルズはどこまでもお前たちを追うぜ。男は生きたまま臓器をうっぱらい、女は愛玩奴隷にしてやるぜぇ」
 ガゼルはそういうとねっとりとまとわりつくような視線を送りながらにたぁと嗤う。この状況においてもまだ余裕を崩さない。何かあるのだ。
「ギャハハハっ!!! まずは2人ぃぃぃーーー!!」
 ガゼルが手に持ったボタンを押す。が、何も起こらない。
「何ぃぃ!? どういう事だ」
 ガゼルはボタンを連打するが何もおきない。
「もごもご、もしかしてもごもご、『落とし穴』でもあったのかしら?」
 気絶したラスカルズの側近から補給をしながらきゐこが語りかける。
「それなら発動しないわよ。だって全部聞いたから対処しといたもの」
 正面突入組は玄関の2人を一瞬で片付けると応接間に向かった。その途中で台所にいた男とも出くわしすぐさま討伐、その上できゐこの魔眼で屋敷の情報を得ていたのだ。そしてその情報はすぐに裏口組にも伝えられ、ウェルスときゐこの手によって作動しないように細工されていたのだ。
「さぁどうするガゼルさんよぉ」
 ウェルスがにやりと笑う。
「おいおい嘘だろ……」
 ガゼルの顔色が変わる。
「お前ら、顔は覚えたぞ……。絶望を味あわせてやる……必ず、必ずだっ!!!」
 ガゼルからふっと戦闘色が消える。
 ガゼルが逃走を図ろうと窓へ走ったその時。瞬きの如き僅かな時間。
「逃がしはしないよ」
「逃がしませんよ」
 ガゼルの両耳元で声がした。
 影狼。音も無く対象への距離をつめ、その鋭い牙で敵を屠る。 
「……ゲフッ。余裕かましてるんじゃ……無かった……ぜっ」
 そのままガゼルの意識は暗転した。
「いざという時の『とっておき』。使うまでもありませんでしたね」
 そう言うとカスカは刀を納めた。
 

「ガゼルさん一体何があったんで? やたらドタバタと煩かったでやんすけど」
 扉をあけ、入ってきた一人の男。そこにはロープで捕縛されたガゼルと仲間。そしてカモにするはずの貴族達と知らない男女が6人。
「あら、まだいたの? そういえば……一人足りないね」
 きゐこが詠唱を始める。
「なーんか暴れたりなかったところなんだよなぁ」
 ウェルスが銃を構える。
「え? え? どういうことですかい? これ?」
 おなかを壊しトイレに駆け込み、状況が全くわからないまま、戦いを終えた6人の前に現れた不憫な男。

 あひぃぃいいぃぃぃ!!!

 男の声が星の輝く深夜の空にこだました。

 こうして自由騎士の弛まぬ日ごろからの活動により、イ・ラプセル国内の反抗勢力の芽は積まれてゆくのであった。
 なおハミルトン・ドナーの処分については自由騎士からの進言もあり、情状酌量の余地ありとして決定がなされたという。

†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

称号付与
『オープンセサミ』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)

†あとがき†

ガゼルは屋敷にも仕掛があり逃げ足にも自信があるため、状況が悪くなれば逃亡する気満々でしたが……これは逃げられない。
影狼対策は今後きっと悪いヤツラの中でもホットな話題となる事でしょう。

MVPは心に響く見事な説得を行った貴方へ。

また今回スキルのラーニングに成功しました。
(このラーニングスキルはアニムスを使用したものではないため、すべてのプレイヤーがスキルポイントを使用して取得することができます)

ラーニング成功!!
スキル名:疾風刃・改(しっぷじんかい)
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)

ご参加ありがとうございました。
FL送付済