MagiaSteam
スペッサルティンと純白と漆黒




 もう食べないってどういう事?

 決めたんだ
 
 それじゃぁ死んでしまう

 それでもいいんだ

 ずっと一緒にいたのに

 ごめんね

 そんなのゆるさない

 ……

 ……

 じゃぁいくね

 どうせ死ぬなら

 死ぬなら?

 アタシの手で殺してあげる──



「依頼は2体の幻想種の討伐。……いや違うな、討伐するかどうかはお前たちが決めればいい」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテンは自由騎士を見るなりそう言った。
「どういう事だ?」
 しかしその問いにはテンカイは答えず、静かに語り始める。


 あるところに心優しい身寄りの無い娘が一人で暮らしていた。
 いつものように娘が山菜を取りに山へ入ると、そこには傷だらけで息も絶え絶えの青年の姿があった。
 娘はその青年を家につれて帰り、献身的に看病をした。
 結果青年は一命をとりとめ、みるみる回復していく。
 その青年は自らを「ハクメイ」と名乗った。
 人では無い事は明白であったが、不思議と娘はその青年を怖いとは思わなかった。
 そのまま青年と娘は一緒に暮らすようになる。
 肌や髪の毛、すべてが雪のように白いその青年は見るものを魅了する。
 娘が青年に特別な感情を抱く事もさほどの時間はかからなかった。
 しかし平穏の日々は長くは続かない。
 ある日突然、倒れたのをきっかけにハクメイは変わっていく。
 何かを必死で抑えるように苦しそうな表情を見せるようになり、それはすぐに破壊行動へと変わっていく。日に日に失われていくハクメイの中の何か。
 症状が穏やかなときに、何か方法は無いのかと娘が尋ねるがハクメイは答えない。
 時折何かを言いかけるが、口を摘むんでしまう。
 見かねた娘は何か方法は無いものかと町へ出向き、ハクメイについて調べた。
 そこでたどり着いたのは想像もしない恐ろしい事実。
 ハクメイはかつては人食いと恐れられた幻想種だったのだ。
 人を食う(正確には人間からエネルギーのようなものを吸い取る)事で、力を蓄え、数百年もの長きを生きる。
 彼は人を食べることを止めたのね──娘は本能的にそう悟る。
 だがどうすればいいのかわからぬまま娘は家へ戻る。
 するとそこには──正気を失ったハクメイの姿と、闇のように漆黒の幻想種。
 少女の姿をしたその幻想種は「やっと見つけた」といった。
 きっとハクメイと出合った時の傷もこの幻想種によるものだったのだろう。
 考える間も無く娘は走り出していた。暴走するハクメイの元へ。
 もう我慢しなくていいんだよ。私? 私なら大丈夫。

 だってアナタとずっと一緒になれるのだから──


「黒い幻想種、白い幻想種。どちらも遥か昔から人を食う幻想種として、恐れられていたみたいだな。黒いヤツは今も人を食ってる、そして暴走した白いほうもこのままじゃぁまた人を喰らうようになるかもしれねぇ」
「どちらも討伐対象ってワケか」
「ああ、そうだ。だが……ここ数十年は白い幻想種の起こした事件は確認されてねぇんだ。アタシは白い幻想種は何らかの理由で人を食うのを止めた、もしくは喰う必要が無くなったんじゃないかと思ってる」
 止めた理由を聞くが、テンカイもアタシもわからんの一言だった。
「アタシからは以上だ」
 いつものごとく、演算室の奥へ帰りそぶりを見せるテンカイだったが。
「そういえば……アカデミーの専用図書館には様々な幻想種の資料があるはず。時間はあまり無ぇけど入れるヤツがいるなら行く価値はあるかもな」
 自由騎士に聞こえるようにそういうと、そのまま奥へと消えていった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.黒い幻想種と白い幻想種への対処
2.娘の生存。
最近急激に寒くなりました。風邪を引く気配に怯えながら日々過ごしています。
でもこの時期のラーメンは美味しいですよね。悩ましいです。麺二郎です。

黒い幻想種と白い幻想種、そして一人の心優しい娘の物語。
この物語の結末は自由騎士の皆さんで決めていただければと思います。


●ロケーション

 イ・ラプセル西の山脈地帯。麓の村より2時間ほど歩いた山の中腹。夕暮れ時。
 娘と白い幻想種の暮らす木造の簡易的な家の前。
 自由騎士がたどり着いた時、黒い幻想種と、すでに正気を失い暴走している白い幻想種が戦っており、帰り着いた娘が白い幻想種に駆け寄ろうとする瞬間です。
 家の周りは高い木々に囲われた湿地帯。コケなどが多く自生し足場も悪い状態ですので、何らかの対処がなければ行動に支障が出るでしょう。

・アカデミー専用図書館
 アカデミーの生徒など限られた者が利用できる図書館。幻想種のより詳しい資料がある。
 利用できるものがいれば別行動し資料を調べる事ができます。


●敵および登場人物

・黒い幻想種
 すべてが漆黒の少女型幻想種。森の構造を知り尽くしています。
 今も定期的に人を食らい生きています。
 白い幻想種に対する怒りは強い殺意へ変貌しています。場に割り込んできた自由騎士を敵と認識します。

 斬爪 物近単 鋭い爪で攻撃します。
 髪弾 物遠単 髪の毛を針のように飛ばします。
 髪放 物近範 鋼鉄のように硬くなった髪の毛を四方に伸ばします。
 喰  人からエネルギーを吸い取る。攻撃力と防御力が跳ね上がります。この攻撃を受けてもオラクルである自由騎士は死ぬ事はありませんが、一時的に大幅にすべてのステータスが下がります。吸っている間は無防備です。【効果3ターン】

・白い幻想種
 すべてが純白の青年型幻想種。いつからか人を食うことを止めている。
 暴走しているため、黒い幻想種に比べ、すべての攻撃が強化されています。
 また行動を阻害するBSは効果がありません。場に割り込んできた自由騎士を娘を奪う敵と認識します。

 斬爪 物近単 鋭い爪で攻撃します。【パラライズ1】【ポイズン1】
 髪弾 物遠単 髪の毛を針のように飛ばします。【パラライズ1】【ポイズン1】
 髪放 物近範 鋼鉄のように硬くなった髪の毛を四方に伸ばします。【パラライズ1】【ポイズン1】
 喰  人からエネルギーを吸い取る。攻撃力と防御力が跳ね上がります。この攻撃を受けてもオラクルである自由騎士は死ぬ事はありませんが、一時的に大幅にすべてのステータスが下がります。吸っている間は無防備です。【効果5ターン】

・娘
 白い幻想種を介抱し、生活していく中で恋心を抱く。町で得た知識により、幻想種の正体を知り、自身を白い幻想種に食べさせようとしている。白い幻想種を討伐する場合、彼女は身を挺してでも止めようとするでしょう。


●同行NPC

 ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示が無ければ回復サポートを行います。
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。

皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2018年12月13日

†メイン参加者 6人†




「幻想種に付いての資料は……ここね」
『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は一人別行動をとっていた。
 此度の事件において必要となるであろう、白と黒の幻想種についてのより詳しい知識。
 その情報収集にはアカデミーの学生であるアリアが適任だった。
 アカデミー専用図書館──学生など限られた者のみが利用できる施設だ。利用が制限されている分、通常の図書館に比べ、より専門的学術的な資料が多く貯蔵されている。
 所持する図鑑も確認してみたが、それらしき記載は載っていない。
「まずは……彼らの正確な名前ね。容姿や性質から絞れないかな」
 アリアは重ね置かれた膨大な量の資料を、一行も漏らさず丁寧に調べていく。
「みんな、待ってて。必ず誰も悲しまない結末を探し出して見せるから」


 僕らはヒトだから──。
『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は改めて考える。
 僕らはヒトだから、ヒトとしての目線で生きてしまいがちになる。故にヒトを害する者は敵と見做してしまうのは至極当然だ。
 けれど本当はそうじゃないはずだ。ヒトで無い彼らもまた、神がこの世界に産み落としたこの世界で生きる者なのだから。
 アダムの瞳には強い決意が宿っていた。
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は感じていた。きっと恋愛感情の縺れだよね、と。確信とも思える女性特有の勘。
「……みんな助ける」
 エルシーがさらりと発した短い言葉には、今の気持ちが全て乗っている。
 まずは……この拳で止める。エルシーは思いをのせた両の拳をガシャリと胸の前で合わせた。
「ふ〜むぅ、なんだかとっても悲しいお話の様相ですぅ〜」
 八の字眉でそう言うのは『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)だ。
「人を食べる以外にも、生き長らえる方法があるはずですぅ。元々必要なのはきっと生気のようなものなのですよね? それなら1人からの摂取を抑えるとか、人以外から何か生気を取り入れるとか……きっと、何かしらの方法があるはずですぅ~~」
何とかしてみんなが幸せになれる道を探せないか。今はまだ見えないその道に希望を抱き、シェリルは先を急ぐ。
 それぞれがそれぞれの感情を抱いて自由騎士達は山道を駆け抜ける。
 行き着く先に待つものが、誰もが望む結末である事を願って。
 唐突にエルシーのマキナ=ギアに通信が入る。
「…ガガ…リアです! 方法が……ガガ……りましたっ!!!」


 時は少し遡る。
「あった!!」
 アリアが思わず声を上げる。分厚い資料を調べ終え、次にと見始めた簡単に閉じられただけの研究者達によるレポート資料。その中にとうとう該当すると思われる幻想種に付いて書かれたものを発見したのだ。

『新種のヒト型幻想種について。この幻想種はヒトの生命エネルギーを糧とする。
 始祖は両性の特徴を持つ闇灰色が特徴であった。が、進化の過程で大きな核変があり、現在は雄と雌に分かれそれぞれ純白漆黒が特徴となったようだ』

「……見つけた!」 
 アリアが見つけたのはとある学者の幻想種生態観察記録。 
 あの幻想種はどこから来たのか。本当に人を食うのか。そして弱点や苦手なもの。
 そして……人食いであるならばそれに代替するものはないのか──。
 僅かでもいい。手がかりが見つかれば。アリアはそう思いながらレポートに目を通していく。
「くぅ……っ」
 思わず目を逸らす。そこにアリアが欲した情報があるのは確かだ。だがそれ以上に目に付いたのは狂気とも思える観察記録。アリアの望まぬもの、見たくないものがこと細かく記されている。ヒトの尽きぬ探究心の業がそこにある。

『我々はこの幻想種をアナザーフィアーと名づけた。この研究は我々ヒトの発展に繋がる崇高なものだ──』

 アリアの目に涙が滲む。体は震え、呼吸は荒く、動悸は胸を締めつける。
 それでも読み進めなければならない。今まさに新しい悲しみが生まれないために。

『4月6日 栄養を取る過程においてヒトを食すことで得るエネルギー以外のものでの代替が可能かどうかの実験を開始する。やれやれ、これでエネルギーを調達する必要が無くなる。
 5月8日 エネルギー供給を止めて1ヶ月が経つ。様々な食べ物を与えてみるが殆ど栄養にはならないようだ。目に見えて弱っている。』

「ひどすぎる……こんな事が……過去に……」
 アリアの瞳からはぽろぽろと涙の粒が零れ落ちる。そこには幻想種を同じ生あるものとしては到底見ていないであろう、非人道的な実験の記録。

『11月17日 我々はとうとう実験に成功した。だが少々遅かったようだ。衰弱しきったこの検体では正確な結果は得られないだろう。新しい検体を用意しなければ。』

「……スペッサルティン」
 アリアは震えながらも、手にしていた資料を床へ叩きつけると走り出す。
 一刻も早く仲間の元へ。はやる気持ちを抑えながらマキナ=ギアを取り出す。
「アリアです! 方法が……見つかりましたっ!!」
 震える手で顔を拭う。目の周りを少し腫らしたアリアの顔には、強い決意。
 見つけたレポートの最後の日付は1年ほど前。つい最近まで行われていた事は間違いない。だが過去の清算より、今は。
 先を急ぐアリアの震えはいつしか止まっていた。


 陽は山稜に半身を預け、辺りが茜色に染まっていく。
 街から戻った娘が見た光景。 
 全ての情景が茜色に染まる中、何者にも染まらない存在2つ。
 それはハクメイと漆黒の幻想種。
 2人の呼吸の乱れから、すでに幾度と無く交戦している事は明白だった。

 このままではハクメイは殺される──!!

 自らの危険も省みず娘がハクメイの元へ駆け寄ろうとしたその時。ふっと娘の体が後ろへ引き寄せられた。
「近付いてはダメよ!危険だわ!!」
 娘を引き寄せ止めたのはエルシー。娘を止める腕に力が篭る。 
「ストーップですぅ~~! 争いはやめてください~~!」
 シェリルの放った緋色の業火は、白と黒の幻想種の間に割り込むように地面を焼き、幻想種を分つ。
「あなたは、彼が食事を取らず死を選ぶ事を悲しいと思ったはずですぅ!」
 黒い幻想種に向かい、シェリルは語りかける。
『……るさい』
「それを、あなたが自ら行う事はあなた自身を傷付ける行為です! 自らを苦しめては行けません!」
『五月蠅い!! 五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!! ヒトに何がわかる!!!』
 黒い幻想種が叫ぶ。様々な感情が入り時混じっているのか、黒い幻想種の顔が歪む。
「ダメだ。少なくとも今は黒い方も興奮状態だ。ろくに聞き耳は持たないだろう」
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)がシェリルの肩にそっと触れる。振り向くシェリルの顔にはやり切れなさが滲む。
 テオドールとて気持ちは同じだ。できれば幻想種も娘も救いたい。それに全てを注ぐ事に躊躇は無いが、先ずはこの闘いをとめないことには始まらない。
 やはり戦うしかないのか。自由騎士達は腹を決める。
「くぅ……っ」
 エルシーの背中に激痛が走る。黒い幻想種が放った髪弾。娘を狙ったであろうその攻撃はエルシーが身を挺したことで防がれる。背中から回った毒はじわじわとエルシーの体力を奪う。
「離して! ハクメイが!! ハクメイが!!!」
 エルシーの腕の中で暴れる娘。その表情は青ざめ、我を忘れているようだった。
 パンッ。乾いた音が響く。頬に手をあて呆気にとられる娘。
「しっかりしなさい! ハクメイを助けたいのでしょう!!」
 娘はこくりと頷くと、ほろほろと涙を流し始める。
「貴方、名前は?」
「ユキ……」
「ユキさんね。よく聞いて。私達は助けに来たのよ。貴方も……ハクメイも!!」
 それを聞くとユキは堰が切れたように嗚咽を漏らしながらエルシーに懇願する。
「ハクっ……えぐっ……メイをっ……助っ……助けて」
 涙ながらにエルシーに訴える。
「大丈夫。必ず助けるから。だから貴方はここからできるだけ離れるの。出来る?」
 エルシーはユキが落ち着くのを少し待つと優しく語りかけた。
『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)もまたユキを出来るだけ安心させようと穏やかな口調で話しかける。
「私達は彼の暴走を止めます。そして絶対に命まで奪ったりしない事を約束します」
 たまきの持つなんとも心地よい雰囲気故だろうか。あれほど動揺していたユキは次第に平静を取り戻していく。
「……はい。ハクメイを……助けてくださいっ!」
 ユキは涙を拭うとその場から駆け出す。その後姿が遠ざかっていくのを確認すると、エルシーは踵を返す。その鋭い瞳は仲間と交戦中の2体の幻想種へ向けられていた。
 たまきもまた回復支援を再開する。
「……約束しましたから」


「くっ……やはり強いっ」
 アダムはハクメイと対峙していた。
 暴走したハクメイの攻撃はガーディアンとして新しい力を手に入れたアダムの防御力をしても生半可なものではなかった。
 接近して攻撃を行えば、鋭い爪が襲い掛かる。かといって距離をとれば鋼と化した髪がアダムの鎧へ深く突き刺さる。
 幾度と無くその身に受けた攻撃はアダムの身体に鈍い痺れと毒を齎す。
「これは……想像以上のタフネスだな」
 長期戦を予期したテオドールはマナウェーブで自身の魔導力を回復しながら、アダムを後方より援護する。
 ハクメイの放つ髪弾を木々を盾にしながらかわすテオドール。放つ極寒の氷礫は幾度となくハクメイを捉えるが、その動きを止めるには至らない。森という彼らの得意領域が幻想種に力を与えているようだ。
「致し方ないな」
 テオドールもまた覚悟を決める。いざとなれば──。
「ハクメイさん!! 僕の声が聞こえますか!!」
 アダムは必死にハクメイの名を呼ぶ。
 この暴走はきっと彼の決意の結末なのだろう。その決意が一体どういったものだったのかは今のアダムにはわかりえない。だがアダムは確信している。今の状態が望まれたものではない事を。少しでも彼に自我が残っているなら、呼びかけにきっと答えるはずだと。
 闘いはその後も鮮烈を極める。一進一退の攻防が続く。
「暖かな光の雨よ……皆を癒し給えっ」
 たまきの祈りは自然の力を得て皆を癒す恵みを雨をもたらす。それは自然に愛されたもののみが得る事が出来るこの世界の温かみ。
 前で戦う自由騎士達の後ろには、何よりも心強い癒し手がいる。

 一方、黒い幻想種を一人相手取るシェリルは焦りを隠せないで居た。
「ふぇぇぇ~~黒さんに全然当たりませんよぅ~~」
 アダムとテオドールが連携しながら対応するのに比べ、シェリル単体での攻撃は黒い幻想種を捉えきれず、動きを抑止するので精一杯の状態だったからだ。
『なんで邪魔をするの!!』
 なんとか接近戦は回避していたものの、黒い幻想種の放つ髪弾は容赦なくシェリルを襲う。万事休すか。シェリルが思わず目を瞑る。
「危ないっ!!」
 そこにはエルシーの姿。シェリルを襲う髪弾をエルシーの拳刃が打ち落とす。
「た、助かりましたぁ~」
「私が前に出ますっ! 援護をお願いします!」
 シェリルの攻撃に気をとられた一瞬の隙を狙い、一気に詰め寄ったエルシーは黒い幻想種に強力な一撃を叩き込む。
 手ごたえあり。エルシーの拳には確かに芯を捉えたのだが。
『なんで邪魔するの……嫌い……嫌い嫌い嫌い!!!!』
 一瞬ぐらりと揺れた黒い幻想種だったが力を振り絞るように叫んだ。
「ぐふ……っ」
 叫びと共に放たれた髪放がエルシーを貫く。
「エルシーさん!! 大丈夫ですかっ!?」
 シェリルはすぐさま緋文字を放ち、黒い幻想種を引き離す。
「油断した……わっ……でも……」
 エルシーの受けたダメージは大きい。だが唇をかみ締め必死に踏みとどまる。ユキと交わした約束。ここで倒れるわけには行かない。
『みんな嫌い!!! いなくなっちゃえ!!』
 襲い掛かる黒い幻想種。
「絶対に貴方を止めてみせる!!」
 エルシーは今一度拳に力を込める。エルシーの体が風を纏い、自らの速度を全て拳に乗せる。
「たぁぁぁぁぁ!!!!」
 エルシーの拳は、再び黒い幻想種の核を撃ちぬく。
『ぐ……ふっ……』
 エルシーの信念はついに黒い幻想種に膝を折らせた。
『こんな……私の……私が……ハクメイ……ハクメイッ……うわぁぁぁぁぁん!!!』
 黒い幻想種の目から大粒の涙こぼれる。そのまま幼子のように泣きじゃくる。
「聞いて欲しいの──」
 エルシーは黒い幻想種を優しく抱きしめた。

「アダムさん、あまり無理はっ」
 たまきは『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)と共に、回復の要としてフル稼働していた。ジローに指示を出しつつ、絶え間なく味方を回復し続ける。
 体力回復と状態異常の回復。交互に行い続けるたまきの消耗は思いのほか激しい。
(皆さんが必死で状況を変えようと頑張っているのです。私が真っ先に音を上げるわけにはいきませんっ)
 たまきの回復は皆を優しく癒し続ける。その献身は皆を奮い立たせる。

 その時アダムが動いた──。
 ハクメイの鋭い攻撃を受けながらも、アダムはハクメイへ突進し、そのままハクメイを押し倒す。
『グガァァァァアアアアアア!!!』
 激しく暴れるハクメイ。食いちぎらんばかりにアダムにその牙を向ける。
「……僕を喰らうといい」
 そういったアダムは、自らの装甲を解いていた。
『グガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
 ハクメイの牙がアダムの肩口に深く食い込む。
 アダムは急激に全身の力が抜けていくような感覚に襲われる。

 ──僕は君達がどういった種族なのかは聞いている。それでも僕は君達に生きて欲しいと願う。

 生きろ──!!!!

 君達はこの世界に必要な命だ──

 数時間にも感じるような長い数秒が過ぎた。
『う……うぅ……私は一体……』
 ハクメイの気配が変わる。補給を行った事で飢餓状態から脱し、暴走状態は解けた様だ。
「やっと……僕の声が届いた」
 アダムは途切れそうになる意識に必死に抗いながらハクメイに話しかける。
『貴方達は……』
 困惑するハクメイ。
「それは私から説明します」
 アダムを回復するために駆け寄ったたまきが穏やかな表情でハクメイに話しかける。
 黒い幻想種と白い幻想種、そして心優しい娘。自由騎士は約束どおり全てを守った。
 誰も悲しまない結末を自らの手で掴み取ったのだ。 


『あたしの名は……ミコト』
 ひとしきり泣き終え目を赤く腫らした黒い幻想種はそう名乗り、ぽつぽつと語りだした。
 ミコトの一連の行動。それはやはり寂しさから来るものだった。数少ない同胞であるハクメイが違う道を行こうとする現実を受け止め切れなかったのだ。
「もう心配することもあるまい」
 テオドールは改めてアリアからの連絡で得た情報や、我々オラクルであれば多少エネルギーを吸ったとしても死に至る事は無いことなどを丁寧に説明した。
「──というわけだ。君たちは今度ヒトを殺める必要など全く無いのだ」 
『それじゃあこれからもハクメイは生きられるんだな』
 ミコトの顔がぱぁと明るくなる。
「ハクメイはもう苦しまなくてすむんですね……ハクメイ、もう大丈夫」
 それを聞いたユキは笑いながら泣いた。ハクメイはそんなユキにそっと寄り添っていた。
「でね……」
 シェリルはミコトに耳打ちをした。
(あなたの気持ちもちゃんと伝えなければ、伝わりませんよぅ。どんな結果になっても、あなた自身に嘘をついてはダメですぅ)
『なっ!?』
 ミコトは下を向いてしまった。
 たまきはそんな様子を見て微笑む。望んだ幸せはここにある。そう心から思えたからだ。

「皆さん!! 大丈夫ですか!!」
 声の主はアリア。白い幻想種と黒い幻想種。そして娘全員の無事を確認したアリアは心からの安堵の表情を浮かべる。
 仲間を信じて行った情報支援と仲間達の行動が、最善の結果を生み出せたのだと。

 その後、ミコトはハクメイとユキと共に暮らす事になる。
 ミコトとユキはよくハクメイの事で言い争いをしているようだ。
 そのことを聞いたたまきは思った。ミコトもユキも本当にハクメイの事が大好きなのだと。
 これから先もずっと仲良く暮らしていける事を祈りながら。
 テオドールもまた思う。いざとなれば命を燃やす覚悟であったが……全員の思いが一つになる事で、何物にも変えがたい結果を得る事が出来たと。

 ハクメイとミコトにとって新しいエネルギー源になりうる鉱石、スペッサルティン。
 その入手が安定するまでの間、持ち回りで自由騎士達が幻想種にエネルギーを分け与える事となった。
 しばらくは彼らの様子を間近で見る事になりそうだ。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『献身の聖女』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)

†あとがき†

白い幻想種と黒い幻想種、そして優しい娘。
その全てが救われる結果を導いた自由騎士の皆さんに深い感謝を。
ただユキとミコトの本当の闘いは始まったばかりなのかもしれません。

MVPは仲間を信じ、情報収集に徹した貴方へ。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済