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【シャンバラ】聖霊門開通阻止作戦



●イ・ラプセル北の森にて
 すでに、建設は半ばを過ぎようとしていた。
「司教様、司教様、“門”の開通にはどれくらいかかりますかね? ねぇ?」
 革鎧に身を包んだ大柄な男が、儀式を進めている人物に軽々しく声をかけた。
 問われたのは、黒い円錐形の頭巾で頭を覆っている司教服の男だった。
「まだ時間はかかる。それについては何度も言っているだろう、ゲオルグ」
「ああ、そうでした。そうでございましたね。いやいや、申し訳ない。申し訳ない」
「そんなに辛抱できないならばさっさと魔女を狩りに行ってきたらどうなんだ!」
 茶化すような男の態度に、黒頭巾は苛立ってつい声を荒げてしまう。
 大男は言われると途端に泣きそうな顔になり、
「何という無慈悲なお言葉! このゲオルグにそのような無信心なマネはできませぬ!」
 言って、彼はいきなり黒頭巾に縋りついた。
「このゲオルグ・クラーマーが魔女狩りなどに身をやつしまして、このような異郷にまで足を運んだのは、ひとえに我らが主ミトラースの御心に沿わんがため! ええ、ええ、魔女などという淫乱にして邪悪な輩めを捕らえ、ミトラースの教えを説く。それこそが我ら“魔女狩り”のお役目にてございます! ただただ私欲で魔女を狩るなどと、そのような我らが主を冒涜するが如き所業、どうしてできましょうや!」
「ええい、分かった! 分かったから邪魔だけはするな! 貴公が私にちょっかいをかければ、それだけ“門”の開通は遅れるのだぞ!」
「おおっと、それは失敬。いやはや申し訳ございませぬ。央都の司教様であれば、私めがこのように話しかけたところで、片手間に相手をしながら“門”の開通を遂げられておりましたので、ああ、そうでございましたね。そういえば司教様は央都には入れぬ“準神民”でございましたね。これは何という失礼を! ええ、これ以上は邪魔せぬようにいたしましょう。ププ、ククク……! ああ、腹痛ェ……!」
 ――この男は! わざわざ聞こえるように言いおって!
 “魔女狩り将軍”ゲオルグ・クラーマー。
 この場で唯一、頭巾をかぶっていない男。
 そしてこの場でただ一人の、ノウブルのオラクル。
 つまりは“上級神民”として央都に入る資格を持つ男である。
 だがこの“魔女狩り将軍”は、『魔女を狩る』という目的のために未だ聖央都ウァティカヌスに入ることなく、こんなところで“魔女狩り”を続けている。
 シャンバラの“魔女狩り”のほとんどは自らの信仰心と得られる褒賞のために魔女を狩るが、この男は違う。
 この男だけは、『“魔女狩り”がしたいから“魔女狩り”をしている』。
 所詮、央都に入れぬ“準神民”でしかない司教からすれば、そのような目的で魔女を狩るなど主ミトラースへの冒涜に他ならない。
 しかし、“魔女狩り”の元締めである審問教師会がこの男の存在を認めている。
 ならば自分如きがゲオルグの処遇について口を出すことなどできるはずはなかった。
 人格や動機はどうあれ、ゲオルグが『史上最も多くの魔女を狩った男』であることに間違いはないのだから。
 しかし、気にくわないものは気にくわない。
 黒頭巾は大男をなるべく視界に入れないようにして、儀式を再開する。
 連れてきた“魔女狩り”二十五名全員(ゲオルグを除く)を動員し、運んできた資材を使って“門”施設自体はすでに建設を終えている。
 あとは、敷設された聖霊陣の真ん中での儀式が終われば完成する。
 この異郷と故国シャンバラとを繋ぐ神なる門、“聖霊門”が。
 その功績をもって自分は今よりもさらに大きな管区を担当し、やがては聖央都に!
 我らが主ミトラースの御許に参じるのだ!
 そのためにも――
「よいか“魔女狩り”共! 私はこれより“門”開通のための最終調整に入る!」
 “門”と自分とを囲うように集まっている白頭巾の“魔女狩り”連中へ、司教は大きな声で指示を飛ばした。
「長い時間の集中が必要となる! その間、貴様らが私を守れ! 何人たりともここに通すな! いいな!」
 だが命じられた“魔女狩り”達から返答らしい返答はなく、
「魔女一匹も狩れぬ役立たずどもめ。そんなことだから貴様らは“上級信民”止まりなのだ」
 吐き捨てるように言って、黒頭巾は儀式に戻った。
「チッ――」
「テメェだって央都に入れない“準神民”のクセに……!」
「俺達だって、いつかは“準神民”になるんだよ……」
 集まった“魔女狩り”達は口々に黒頭巾に対する不満を口にする。
 しかし、ゲオルグがパンと手を打って彼らの意識を自分へと集めた。
「はいはい、くだらない嫉妬、みっともない。みっともないですよ? 私達、同じシャンバラの民。共に主ミトラースの光の下に生きる家族なのですから、いがみ合うのは悲しいこと。悲しいことですよ。ね? 慈悲も与えずに踏み潰していいのは魔女だけ。魔女だけなのですからね? ウフフフフ――」
 そして彼は、誰にも聞こえないように呟いた。
「だから待っててよねぇ、マリアンナちゃ~ん?」

●水鏡はそれを告げた
「これは、非常に由々しき事態なのである」
 集められた自由騎士達に『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) は開口一番そう告げた。
「先日、マリアンナ君を救助した北の森で、シャンバラの者達が何かを建設しているようなのである」
 何か、とは一体何なのか、自由騎士達はそれを問う。
「魔方陣のようなものが描かれた祭壇らしきものが映し出されていたのである。しかもそれは、すでに完成を目前としているようなのである」
 クラウスの説明に、自由騎士達もにわかにどよめく。
 シャンバラの魔導技術についてはほぼ未知数。
 その祭壇がどのような役割を果たすのかは知れないが、わざわざ海を越えた先に設置するのだ。
 ロクなものであるはずがなかった。
「諸君らにはこの施設の完成を阻止していただきたいのである。しかし、敵はおそらく二十を超えるのである。そこは注意していただきたい」
 言われるまでもないことだ。
 早くも訪れたシャンバラ皇国との二度目の接触。
 どうやらそれは、かなりの難題であるようだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXシナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.“聖霊門”の開通を阻止する
汝、隣人を愛せよ(魔女除く)。
吾語です。

北の森でシャンバラの皆さんが余計なことをしようとしているようです。
やっつけちまおうぜ!

◆成功条件詳細
 魔女狩り全員を倒す必要はありません。
 今回は、敵首魁である黒頭巾の司教を仕留めることができれば成功となります。

◆敵
・魔女狩り
 軽戦士×6
 重戦士×6
 魔導士×5
 医術士×5
 ガンナー×3

・黒頭巾の司教
 バトルスタイルは不明です。

・ゲオルグ・クラーマー
 バトルスタイルは不明です。

◆舞台
 イ・ラプセル北の森の奥。
 魔女狩りが木を伐採して広場のようになっている場所です。
 時間帯は前回と同じく夜となります。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
17モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
10/10
公開日
2018年09月30日

†メイン参加者 10人†



●魔女狩りの森に
 静まり返った夜の森の中を、いくつかの影が歩いていた。
「……どうだ、柊」
 小さな声。
 尋ねたのは目立たないよう顔を包帯で覆った『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)である。
 木々の間に身を潜ませ、息を殺しながら彼は隣の『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)を見た。
「いるな。聞いてた通りの連中が。顔まではわかんねぇけど」
 彼女の瞳はしっかりと、闇の向こう側にいる頭巾の集団を捉えていた。
 柊は今見た光景をしっかりと記憶に焼きつけながら、ウェルスと共に移動を開始した。
 足音は鳴らない。
 いや、どれだけ静かに進んでも音は鳴るが、それが周りに響かないのだ。
「今のところは、順調かな」
 音を抑制しているのは『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)である。
 場所を変えてから、まず柊が自分が見たものをウェルスに伝えていく。
「……白い、石造りの祭壇みたいなのがあったな」
「白い祭壇か」
 呟いたウェルスが広げた紙に手を添えると、表面に彼が想像したものが浮かび上がった。
「そうそう、まさにこんな感じだぜ」
「純白の祭壇。こんな森の中に、そぐわないな。趣味が悪い」
 紙に浮かんだ像を見て、カノンが小さく毒を吐く。
「よし、行こうか」
 作業を終えたのち、三人は仲間が待つ森の奥へと戻っていった。
 ――ゆらりと、ランタンの中の火が揺れる。
 十分に距離を取って、集まった自由騎士は帰ってきたウェルスらから情報を受け取った。
「敵は、総勢二十人あまり。……数で言えばこちらの倍をさらに超えている、か」
「フン、だが戦いに慣れていない連中など、所詮は烏合の衆よ!」
 得られた情報に苦い顔を見せる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)を、『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が豪快に笑い飛ばした。
 作戦上、彼女には最も重要な役割が与えられている。だが緊張した様子はなかった。
「相手がどれだけ軟弱でも容赦するつもりはないわ」
 一方で、『魔女狩りを狩る魔女』エル・エル(CL3000370)の顔はいつになく厳しい。
「そうだよ。魔女狩りなんて許せない。本当に」
 『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)もエルに同調して拳を握る。
「やる気になるのはいいですが、気負いすぎないようにしてください」
 そんな二人を『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)が静かな声でたしなめた。
 敵であれば斬ればいい。カスカの考えは非常に明快だ。
「権能のこともあるわ。そこは、気を付けておかないとね」
 フードに顔を隠した『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)の目的は、シャンバラへの情報収集だ。
 自由騎士達は各々、理由を持ってこの場にいる。
 だがやるべきことはただ一つ――
「往こう」
 『やさしいひと』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が腕組みを解く。
 シャンバラの魔女狩り共に目にモノを見せてやること。
 それが、彼ら自由騎士が果たすべき、この戦いの意義である。

●暗中への遁走
 森を切り開いて敷設された純白の祭壇に魔女狩りが集まっていた。
 祭壇の床面には淡く明滅する光の円陣。
 それは一見して何らかの魔導の陣だと分かる。
 光る円陣の上で、黒い頭巾をかぶった司教と魔女狩り達が礼拝を行なっている。
 近くの茂みから異音がしたのは、まさにそのとき。
「――何者だ!」
 ほんの小さな音だった。
 しかし、礼拝を邪魔されたからか、近くにいた魔女狩りが過敏に反応した。
「しまった、見つかってしもうたか!?」
 茂みの向こうにいたシノピリカが慌てた様子で声をあげる。
 シノピリカの姿を認め、魔女狩り達がざわめいた。
「キジン……!」
「異端がいるぞ!」
「おのれイ・ラプセルの愚物共! やはり我らの邪魔立てをするか!」
 驚く者。騒ぐ者。憤る者。
 反応は様々なれど、直後にそれは怒りのみで統一された。
 頭巾の奥に垣間見える魔女狩り達の瞳は、揃って強い殺気を宿していた。
 魔女狩りの敵意を全身に浴び、シノピリカは目を丸くする。
「ちぃ、藪蛇であったか!」
「ええい、何だこの数は! こんなにいるとは聞いていないぞ!」
 シノピリカの隣には狼狽するツボミの姿。
 キジンと同じく異端の身分にあるマザリモノの姿に、魔女狩り達はさらに怒りを深くした。
「「「異端を殺せ!」」」
 キジンとマザリモノは露骨に怯えて、あとずさった。
「くっ、退け! 逃げるぞ、ツボミ!」
「分かっている。こんな連中、相手にしていられるか!」
 二人は一目散に森の向こうへ逃げていく。当然、魔女狩りはそれを追った。
「逃がすな! 追え! 殺せ! 異端を殺して皮を剥げ!」
 過激な言葉を口にしながら、頭巾をかぶった男達が森の中に突っ込んいった。すると――
「み、見ろ、あれは……!?」
 近くにある木と木の間、そこに、弓を持った少女がいたのだ。
 マリアンナ・オリヴェル。魔女狩りが海を越えて追ってきた、魔女の姿がそこにあった。
 今の魔女狩り達にとって彼女という存在はまさに火に油。
「邪悪なッ!」
「邪悪、何たる邪悪! 殺せ、あの異端と魔女を殺せ!」
 がなる言葉はもはや憤怒と殺意のみ。魔女狩り達は目の色を変えて異端と魔女を追いすがる。
 しかし、マリアンナの姿はすぐに消えてしまった。
 それがシアが生み出した幻影であることに、魔女狩り達は気づけなかった。
 これは罠。
 自由騎士達が魔女狩り達に仕掛けた、囮という名の罠である。
「待っていたぞ、シャンバラのクズ共」
 魔女狩り達が追った先で、待ち構えていたボルカスがショートスピアを突きつけた。
「こ、これは……!」
「釣られたんだよ、あんたらは」
 ライフルを手にしたウェルスの言葉に、魔女狩り達はようやく気づく。
「しまった! 貴様ら……!?」
「オレ達をナメすぎなんだよ、魔女狩り共」
 柊がまっすぐに魔女狩りを睨んで告げる。
「く……!」
 自分達が罠にかかったことを知り、魔女狩りの間に動揺が広がる。
 そこに生じる隙を、ボルカスは見逃さない。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 己を奮い立たせる雄叫びが、魔女狩り数人をおののかせる。
 彼はさらにそのまま相手に動く間を与えず、渾身の一撃を叩きつけた。
「ギャアアアアアアアア!?」
 魔女狩りの一人が炎に包まれ絶叫した。
 それが、魔女狩り共の同様を加速させた。機が巡ってくる。
「わしらも畳みかけるぞ!」
「分かってるって!」
 シノピリカとウェルスもそこに加わって、なし崩しのうちに戦いは始まった。
「入れ食いってやつだな! 一気に仕留めさせてもらうぜ!」
 柊もまた、ギアをあげて敵の死角に回り込み、自由騎士の攻勢が一気に始まった。
 先制攻撃は見事に成功といってよいだろう。
 ――しかし、危惧がある。
 最初に気づいたのはツボミだった。
 回復を担う者として奥に控え、戦場を俯瞰していたからこそ彼女は気づくことができた。
「数が、少ないだと?」
 そこにいる魔女狩りを数えてみれば、その数は十五人。
 偵察で確認したのは二十五人のはず。
 ならば、こちらに来ていない他の魔女狩りは一体……?
「――まさか」
 イヤな予感がした。
 そしてその予感を裏付けるかのように、一つの記憶が彼女の脳裏に浮かんだ。
 自分とシノピリカが魔女狩り達の前に出たとき、彼らは何と言った。
“おのれイ・ラプセルの自由騎士共! やはり我らの邪魔立てをするか!”
 ――やはり。と、魔女狩りは言っていた。
 そして予感は確信へと変わる。
 ツボミは目を見開き、祭壇がある方を向いた。
 自分達の襲撃は、すでに魔女狩り達に予測されていたのだ。

●魔女狩り将軍
「方法は何だっていいんですよ。密通者がいようと、未来を予知できようと、何だってね。重要なのは、イ・ラプセルが情報収集に長けているという事実。それだけですよ。ン~フフフフ!」
 純白の祭壇で、“魔女狩り将軍”ゲオルグ・クラーマーは朗々と語った。
「フン、こやつらが自由騎士とやらか」
 偉そうに鼻を鳴らしたのは、ゲオルグの背後に立つ黒頭巾の司教だ。
 そして、ゲオルグの周りには白頭巾の魔女狩りが十人。
 それぞれの武器を手に並んで壁を作っていた。
「……見透かされていましたか」
 カスカが口惜し気に言い、唇を噛んだ。
「魔女狩り風情が……!」
 空から襲撃しようとしたエルも、敵のガンナーに弾幕を張られてその行動を阻まれた。
「あなた達はすでに聖霊門の情報を得ている。それを前提としただけですよ、ええ。そこにあの異端は現れた。何かあるに違いない。そのような結論にいたるのは必然。必然ですねぇ」
 囮作戦が半ば失敗した理由はそれだ。
 敵は自由騎士の襲撃を警戒し、司教は手元に半分近い魔女狩りを残していたのだ。
「しかししかし、遣わされた刺客がたったの二人とは嘆かわしい!」
「どうぞ、勝手に嘆いていてください」
 ゲオルグの軽口に一声返し、カスカが抜き打ちの一閃。
 刃は、近くにいる杖を持った魔女狩りの腹を深々と切り裂いた。
「ぐえあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な……!?」
 突然の反抗に、優位を悟っていた魔女狩り達が驚き、動きを強張らせた。
「隙あり――!」
 カスカが一気に踏み込んで、司教の懐へ飛び込もうとした。
 ――できなかった。
「警戒してるっつっただろうが。アバズレ」
「な……!?」
 カスカは愕然となった。
 見れば足元の地面が泥化し、意志を持つかのように足に絡みついてきている。
 これは何だ? スキルか? まさか、これがシャンバラの……!?
 踏ん張ってみるが、ダメだ。
 これでは持ち前の素早さがほとんど発揮できない。
「さすがにナメすぎですよ、お嬢さん。……何でこの状況で勝てる気でいるんだ、おまえ?」
「ふざけてんじゃ、ないわよ!」
 今度は上から、エルが司教めがけて銃を連射しようとする。
 しかし、彼女の前にソラビトの魔女狩りが立って、邪魔してきた。
「どきなさいよ!」
 連射、連射、連射。
「ぐ、ひぃ……!?」
 弾丸に胸と腹を抉られ、魔女狩りは血を散らしながら墜落しかける。
 しかし直後、ソラビトは後ろに回り込んでエルを羽交い絞めにしてきた。
「……そんな、確かに倒したはずよ!?」
 手応えは確かにあった。
 ほぼ致命傷。動ける傷ではない。それなのにどうして。何故!?
 理解できないまま。がっしりと捕まえられてエルは地面に落ちてしまう。
「なるほど、そこまでは我々の内情は掴めていない、と。ふむ、そうですかそうですか」
 カスカとエルの様子を見て、ゲオルグがあごに手を当て呟いた。
 未だもがくカスカとエルを魔女狩りが囲もうとした。――そのときだ。
「戦えなくなった仲間を操るなんて、これはえげつないわ」
 緋色の文字が、夜の闇に瞬いた。
「ぐぉあ!!?」
 炸裂した火炎に、魔女狩り達が驚きのけ反る。
 きゐこだ。
 間一髪。駆けつけた彼女の魔導が魔女狩りの足元に着弾したのだ。
 さらに飛び込んだシアがソラビトに体当たりし、エルを束縛から解放する。
「やぁ、間に合ったようだね」
 ヒラリと空から舞い降りたカノンが、カスカに笑いかけた。
「ここは、お礼を言っておきますよ。ええ、してやられました」
 カスカは素直に認めた。自分が知らない未知の能力。それを侮りすぎていた。
 彼女はシャンバラにいたことがあったが、どういうワケか重要そうな情報ほど記憶に霞みがかかって思い出すことができなかった。
 或いは、それもミトラースが関係しているのかもしれない。
 だが代わりに、きゐこがその未知を暴きたてた。
「ネクロマンサー。それがあなたのスタイルよね、魔女狩り将軍さん」
 ゲオルグ・クラーマーは静かに醜く笑ってみせた。

●神に仕えるがゆえに
「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
 猛々しい声と共に、ボルカスが槍を地面に叩きつける。
 ズドンと、重い音がする。
「ぐあぁぁぁ!?」
 巻き起こった衝撃波に、近くにいた魔女狩り数名が巻き込まれて吹き飛んだ。
「ク、クソ! こいつら。数の差が分かってないのか!?」
 斧を手にした白頭巾が狼狽して叫ぶ。
 それに対し、ボルカスは挑発するようにこう答える。
「何だ、数に頼らねば粋がることもできないのか」
「何を!」
 彼の軽い挑発だけで、斧の魔女狩りは激昂した。
 自分達が追い込まれているという実感が、白頭巾から余裕を奪っているのだろう。
「ぐぬうううう!」
 苦し紛れに魔女狩りが斧を振り回す。
 ボルカスは盾でその一撃をしっかりと受け止めた。だが、
「ぐぉ!?」
 声は彼のものではなく、同じく前線に立つシノピリカが出したものだ。
 やはり権能。攻撃を防いだはずなのに、防げていない。
「神に逆らう不届き者めが! 思い知ったか!」
「そんな腰も入っていないような攻撃で、わしを屠れると思うな!」
 彼女の言葉通り、不意を突かれはしたものの威力自体は高くはなかった。
「――この権能、攻撃を強めることはできないということか」
 シノピリカに向けて治癒の魔導を発動しながら、ツボミが冷静に分析する。
 だがまだ情報が足りない。もう少し、正体を探る必要がありそうだ。
「うおお!」
 少し離れた場所、剣を使う白頭巾が二人、柊と刃を交えていた。
「甘い甘い甘い! そんなもん当たってやれねぇな!」
 敵の攻撃をひらりとかわし、柊は近くの木の枝へと飛び移ってさらにすぐさま他の枝に移る。
 縦横無尽に動き回る彼女に同じ魔女狩り達は翻弄された。
「そこだぜ!」
 飛び降り間際、加速の一撃。刃が確かに肉を裂く。
「ぎひぃ!」
「おのれ、おのれ、おのれぇ!」
 背後より、攻撃直後の柊を狙ってもう一人の魔女狩りが襲い掛かろうとした。
 だが銃声。ウェルスによる牽制の一発であった。
「オイオイ、数ばっかりか? もうちょっと連携ってモンを考えろよ」
 言うと、さらにウェルスは素早く狙いをつけてトリガーを二度、絞る。
「ぐッ!?」
「おお、クソォ!」
 弾丸は見事、前衛の二人を捉えて的確にダメージを与えた。
「チッ! 愚図共が!」
 杖を手にした魔女狩りが、仲間に向かって毒づきながら治癒の魔導を使おうとする。
 ウェルスはそれを見逃さなかった。
「させねぇよ!」
 実のところ、彼の本命はこちらだった。
 魔導士も混じる中、医術士を確実に狙うならば実際に治癒の魔導を使わせればいい。
 まさに狙い通り。必殺の意が込められた一射が、敵医術士のわき腹に命中した。
「ぐ、があああああ!?」
「決めさせてもらう!」
 そこに踏み込んだボルカス、渾身の強撃。炎を纏った穂先が白頭巾の医術士を串刺しにする。
 崩れ落ちる医術士に、他の魔女狩り達がどよめいた。
「そんな、こいつら……!?」
 自由騎士が全員健在なのに対し、魔女狩り側はすでに五人が倒れている。
 こうなると自然、勢いにも差がつく。
 シノピリカが一歩前に出て、狼狽から動けずにいる魔女狩りへと吠え猛った。
「くだらぬ、実にくだらぬ! お主ら如きの何が魔女狩りか!」
「ぐ、う……!」
 シノピリカの気迫に魔女狩り達は気圧された。
 数では未だ優りながらも、彼らは自由騎士が放つ圧に呑まれつつあった。
 しかし――
「アクアディーネ様のご加護と陛下のご威光の前では、ミトラースなど敵では無い!」
「…………何?」
 そのシノピリカの言葉に、魔女狩り達が揃って小さな反応を示す。
 彼らは、目を大きく見開いて呟いた。
「主ミトラースが異なる神に劣るだと?」
「我らが父がアクアディーネなる神の敵ではないだと?」
「我らが主の名を穢したな」
「我らが父の名を貶めたな」
 空気が変わる。
 目の色が変わる。
 魔女狩り達の気配が変わる。
「――チィッ!」
 異変を感じ取ったウェルスが、射線上にいた重戦士の魔女狩りを狙い撃った。
 着弾。しかし、重戦士は揺るがなかった。
 異端たるキジンのシノピリカが、他の神の名を出してミトラースを貶める。
 それは彼女自身が思っている以上に、魔女狩りにとっては重大な意味を有していた。
「ミトラースこそ天に一つ。我らが父は偉大なり」
「ミトラースこそ世に一つ。我らが主は至高なり」
「ミトラースこそ天に一つ――」
「ミトラースこそ世に一つ――」
 魔女狩り達が陣形を捨てて動き出す。
 自由騎士はそこに、得体の知れない不気味さを感じ取った。
「叩け! 早々に叩かねば――!」
 言いかけたボルカスに、軽戦士二人が抱きついてきた。
 何を、と彼が思った瞬間、敵の魔導士数人がボルカスめがけて魔導を連発してきた。
「ぐあああああ!」
「仲間諸共だと……? 貴様ら……!」
「異端だ。異端を殺せ。ミトラースを貶める愚かな異端を八つ裂きにしろ!」
 驚くツボミへ、ソラビトの魔女狩りが空から強襲してくる。
 一瞬虚を突かれた彼女は、背後に迫っていた軽戦士に気づけなかった。
「異端は殺せ」
 刃が、背中からツボミを貫く。
「くっ……、何たる……」
「ふざけるなァ!」
 ウェルスが絶叫し、その軽戦士に何発もの銃弾を浴びせた。だが、止まらない。
「異端を殺せ、異端を殺せ……!」
 体を穴だらけにしながら、魔女狩りが倒れたツボミを幾度も幾度も蹴りつける。
「やめんか!」
 割って入ったシノピリカが軽戦士を吹き飛ばすが、今度は彼女が標的となった。
「異端に罰を」
「異端に死を」
「邪悪なる異端よ、救いなき虚無の果てに堕ちるがいい!」
「お主ら如きに、やられるわしと思うなァ!」
 シノピリカも怒号を飛ばし、魔女狩りに抗った。
「クソ、どけよおまえら!」
 カバーに入ろうとする柊も、魔女狩りに阻まれて身動きが取れずにいた。
 ここまで、自由騎士達は士気の高さから精神的に優位に立ち、数の差の不利を補っていた。
 だが、それは崩れた。
 狂信とは正気で計れるものではない。それを痛感することとなってしまったのだ。
 叩いても、叩いても、魔女狩り共は神を賛美する言葉と共に立ち上がる。
 自由騎士もまた、己の魂を燃やして戦うものの、いよいよ数の差がモノを言い始めた。
「まだじゃ……、まだじゃああああああ!」
 満身創痍となったシノピリカが、己を奮い立たせて強く叫ぶ。
 だがその腹に、彼女以上に傷だらけの重戦士が振り回してきたハンマーがめり込んだ。
「か、は……! お、のれェェェェ……!」
 シノピリカは血を吐きながら、最後の力を込めた一撃で重戦士を薙ぎ倒す。
「はぁ……! はぁ……!」
「ミトラースこそ天に一つ。我らが父は偉大なり」
「ミトラースこそ世に一つ。我らが主は至高なり」
 すると、次の魔女狩りが彼女を狙ってきた。
 ずっとずっとこの繰り返しだ。このままではらちが明かない。
 無論、魔女狩り達も無傷ではない。彼らも確実に弱ってきている。
 が、それ以上に自由騎士側が限界だった。
 魔導を使うにも魔力は尽き、傷を癒す手段も残されていない。
 この状況でどちらが先に力尽きるか。もはや火を見るよりも明らかだった。
「……ここまでだ」
 ボルカスに肩を借りて何とか立っているツボミが、小さな声でそう告げた。
「これ以上はいかん。……ジリ貧だ」
「くっ……!」
 彼女の言葉に隣のボルカスがうめいた。
 反論したいができない。彼も現状は嫌というほど理解していた。
「権能のタネは割れた……。その情報だけでも、持って帰らねばならん」
 敵の権能の正体を、ツボミは看破していた。
 それは、攻撃の範囲を広げる権能。
 戦闘においては非常に強力な力といえるだろう。
 この情報を持ち帰れず死ぬなど、そんなものは無駄死にですらない。
 何としても生還する必要がある。
「クソ、こんな連中に背を向けなきゃいけねぇのかよ!」
 柊が毒づく。そんな彼女も、気を抜けばすぐに意識を失うだろうという状態だ。
「異端に死を」
「異端に罰を」
「来るぞ、追いつかれる前に、逃げろ!」
 そして五人の自由騎士は与えられた役割の半ばにして戦線を離脱することとなる。
 鉛のように重くなった体を引きずりながら、ウェルスはその顔に悔恨を浮かべて言った。
「笑えねぇよ、こりゃ……」

●敗走
 祭壇での戦いも、厳しい状況が続いていた。
「ン~フフフ、少ない数でよくもまぁ頑張るものですね。実に頑張る」
 魔女狩りの壁の向こうで、ゲオルグは戦いに加わらずただ腕組みをして笑っている。
 さらにその後ろでは司教が光る円陣に手をついて何かを呟き続けていた。
 あれが儀式、なのだろう。
「一人だけ楽しやがって……!」
 前に出ている医術士が、肩越しにゲオルグを見て舌を打った。
「何を、余裕を見せているのですか?」
「なッ!?」
 そこに、カスカが突撃してくる。
 横薙ぎの一閃に胴を裂かれ、医術士は声なき悲鳴をあげてそこに倒れた。
 魔女狩りの壁に穴が開く。
 その向こうにいるゲオルグと司教へと、カスカが駆け出そうとした。
「見えてます。見えてますよぉ~?」
 だがまたしても、足が重くなって彼女はその場に釘付けにさせられた。
「ゲオルグ……!」
 きゐこが暴いたところの、ネクロマンサーというスタイルの力。その一端。
 カスカにとっては忌々しいことこの上ない。
「神敵、我らが信仰の前に滅するが――、ぐがっ!」
「どけ! いいかげんにどきなさいよ!」
 いつまでも邪魔をしてくる魔女狩りに、いきり立ったエルが銃弾をぶっ放す。
「殺せ、神敵を殺せ! 殺した者には、私の名においていつも以上の褒賞を約束する!」」
「「オオオオオ!」」
 しかし自由騎士が場を制圧しようにも、敵は士気も高くなかなか前に進ませてくれなかった。
 質の上では自由騎士が優っていても、それは数の差を補えるほどではない。
 ましてや、
「…………おぉ」
「もぉ、こいつもなの!?」
 シアの前に、一度倒した重戦士が立ちはだかる。
 その身は傷だらけで、瞳にも生気はない。だが立ち上がり、しかも彼女を狙ってきた。
「ネクロマンサー、本当に邪魔ね……!」
 きゐこが恨みがましく呟いた。
 己の知的好奇心を満たしうる未知を目の前にしながら、しかし、手が届かない。
 彼女は苛立ち紛れに杖を振り回し、近くの魔導士に炎の魔文字をくらわせる。
「ぐぅ……! この、程度で!」
 ダメージはあるが、やはり効果は薄かった
「どうしました。どうしたのです。自由騎士の意地、見せてくださいよ」
 戦う魔女狩りの向こう側で、ゲオルグが煽るように手を叩いた。
 だが彼の前へとカノンが降り立った。
「自分は戦わずに高みの見物とは、まるで小物っぷりを露呈しているようじゃないか」
「……ほほぉ?」
「聞いてるよ、女の髪を服に編み込んで悦んでいるんだって? 下劣な品性を自ら語っているようじゃないか」
「そこまで知っているとは。なるほど、マリアンナ嬢はすでにそちらの手の内、と」
 カノンの言葉にも、ゲオルグは余裕を崩さずに笑ったままうなずいた。
 その顔を見て、シアが苦々しげに顔を歪めて叫ぶ。
「やってることも、言ってることも、嫌悪感しか覚えないよ。っていうより生理的にムリっ!」
「おや残念。実に残念。嫌われましたか。これでもセンスには自信があるのですがね」
「豚め」
 まるで悪びれる様子のないゲオルグに向けて、カノンが一言吐き捨てる。
「煽り、見下し、根拠もなしに勝ち誇る。そんな無様な君などに、あの子に触れる資格はない」
「……ン~フフフ」
 ピシャリと言い切る彼へと、魔女狩り将軍は軽く笑って目を細めた。
「いい。実にいいですね。そのまなざし。マリアンナ嬢のようです。ええ」
 そして、ゲオルグは舌を舐めずりして言う。
「おまえ達はあの小娘と同じく、我が神の敵となってくれるのかな?」
「――何?」
 聞いたカノンは直感する。
 ゲオルグが見せるマリアンナへの執着は、単なる性癖、嗜好から来ているものではない。
「女の子の髪を服にするような変態が、大物ぶらないでよ!」
 近くの魔女狩りをレイピア二刀で切り裂いて、シアが大声で罵った。
「ああ、ところで――」
 しかしシアの罵倒に構うことなく、ゲオルグは自分が纏っている革鎧の表面を撫でた。
「この鎧、何の革を使っていると思いますか? 魔導に対して強い防御力を持つのですが」
 瞬間、場の空気が凍り付いた。
「……おまえェェェェェェェ!」
 怒りを激発させて、飛び込んできたのはエルだった。
 彼女はゲオルグめがけて銃を連射する。
 弾丸が彼の肩や太ももを貫くが、魔女狩り将軍は顔に汗を浮かべますます笑みを深めた。
「ハハハハハ! フハハハハハハハハハハハ!」
「やはり最低の豚だよ、君は」
 カノンが目つきを険しくしてそう断じる。
 直後のことだった。突然、祭壇の円陣が強い光を放ち始めたのだ。
「無駄話にお付き合いいただきましてありがとうございます! 感謝、心より感謝ですよ!」
 時間を稼がれた。
 カスカときゐこが舌を打つ。これは、間違いなく儀式魔法が完成する兆候だ。
 自由騎士達の間で一気に危機感が強まった。
 もし、聖霊門が転移系の機構だとしたら、発動すればどうなるか。
「司教です。何としても司教を潰してください!」
 未だ身動きが取れないカスカが、血相を変えて叫んだ。
 聖霊門が転移装置だったなら、完成すれば間違いなく敵の増援が送られてくる。
 そうなればここにいる人員ではどうしようもなくなる。
 聖霊門を、完成させてはならない。
「どきなさい、どけぇ!」
 シアが焦燥に駆られながら魔女狩りを超えようとした。
 しかし、ゲオルグに操られた重戦士がいつまでも彼女の前に立ちはだかる。
「動きが乱れましたね。好機。好機ですよ皆さん! 神敵を討てば褒賞は思いのままです!」
「「殺せ、神敵を殺せ! 天に一つなるミトラースのために!」」
 残る魔女狩りも、まだまだ士気は保たれて、その勢いはまるで衰えていなかった。
 無理に魔女狩りを超えようとすれば、多数の攻撃にさらされる。
 自由騎士は傷つきながらも、だが司教を目指して歩みを進めようとして、
「……この距離なら!」
 全身を刻まれながらも、エルがついに魔女狩りの壁を越えた。
 隣には、緑のローブをすっかり血に染めたきゐこが立っている。
 二人には、奥の手があった。
「いくわよ、きゐこ!」
「これが多分、最後のチャンス……! やってやるわよ!」
 祭壇が鳴動を始める。
 大規模の魔導の術式は、今にも発動しそうになっていた。だが――
「――悲想緋火葬天!」
「――黄泉路返しの白灰!」
 魔導士二人による、術式の重複攻撃。
 強烈な炎と寒波が今も儀式を続けている司教へと迫った。
「ぬ、ゥ……!?」
 司教にそれを防ぐ手立てはなく、氷焔が黒い頭巾を巻き込んで大きく爆ぜた。
「ぎあああああああああああああああ――――ッッ!!?」
 露わになったのは、オニヒトの顔。
「ぐぅおおおおお! おのれ、おのれェェェェェ!」
 だが、まだ倒れていない!
「そんな……!?」
 確かな手応えはあった。しかし倒し切れていない事実に、エルもきゐこも目を剥いた。
 この期に及んでミトラースの権能が邪魔をしてきたというのか。
「……ちっ」
 しかしここで、ゲオルグが初めてその顔から笑みを消して舌を打った。
 今の一撃、司教は倒れはしなかったものの、傷が深い。
 儀式を続行することは、これでは難しい。
 彼は地面に手をついて具合を確かめた。
「転移一回分ってところか。仕方がねぇな」
「待てゲオルグ、何を――」
 気づいたカノンが言いかけたところで、ゲオルグの姿がフッと消えた。
「な……」
 自由騎士も魔女狩りも、突然のことに揃って動きを止めた。
 そして、円陣から放たれていた強い光もゲオルグの転移と共に嘘のように消失した。
「が、ぁ……、おのれ、おの、れ……!」
 その場に倒れ呻き続ける司教へと、皆の視線が集まる。
 きゐこのマキナギアに連絡が入ったのは、まさにそのときであった。
「ウェルスさん、このタイミングで……?」
 そして一報を受けた彼女は、絶叫にも近い声で自由騎士達へと知らせた。
「あっちが負けたわ! ……撤退するわよ!」
「そんな、ここまで来て何を言ってるの!」
 エルが抵抗するが、その顔には強い動揺が浮かんでいた。
 仲間の敗走。
 その情報は自由騎士達に大きな衝撃を与えた。
「それでも、こっちはまだやれるわ!」
 と、エルは言うものの、
「間もなく、釣った敵が戻ってくる。そうしたら万に一つの勝ち目もありませんね」
「…………ッ!」
 結局、カスカの言葉には反論できなかった。
「無様だ……!」
 カノンが拳を握る。
 もはや、一刻一秒の猶予も残されていない。
「敵の医術士は残さず倒したはずです。儀式を再開されるにしても、数日はかかります」
「……何一つ、喜べる材料にはならないけどね!」
 憤懣やるかたない様子で言い捨てて、シアが踵を返した。
 逃げようとする自由騎士を、だが魔女狩り達は追うことができずにいた。
 彼らはもう一つの戦場の結果を知らない。
 そしてゲオルグはいなくなり、司教は呻くのみでまともな受け答えができる状態ではない。
 自分達だけで自由騎士に勝てるかどうか、判断できなかったのだ。
 こうして、自由騎士達は無事に逃げおおせることができた。

 この戦いは終わっていない。
 いや、次の戦いはまたすぐに始まるだろう。始めなければならない。
 ――この落とし前は、絶対につけてやる。
 自由騎士全員に共通する思いであった。

†シナリオ結果†

失敗

†詳細†


†あとがき†

・ミトラースの権能の情報を入手しました
 魔抗力を強化し、通常攻撃を範囲化する効果があるようです。

・ゲオルグのバトルスタイルの情報を入手しました
 バトルスタイル名は「ネクロマンサー」というようです。

・聖霊門の開通阻止に失敗しました
 ゲオルグが聖霊門を使ってシャンバラに帰還しました。
 ゲオルグが一度聖霊門を通ったためイ・ラプセルとシャンバラのパスが通り聖霊門が開通しました。
 ゲオルグの帰還によって聖霊門は機能停止しました。しかし破壊には至っていません。
 儀式を行なっていた司教が負傷し、儀式は中断されました。
 儀式が再開されるまでしばらくの時間がかかりそうです。

今回の結果は以上となります。
参加された皆様、お疲れさまでした。


*以下運営より。
 今作において、依頼が失敗した場合でも、経験は積んだという判定により経験点の減少はありません。失敗の場合は一律貢献度がゼロになります。
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