MagiaSteam
ソーダライトとラスカルズ




 夜。イ・ラプセル地方都市イッシュ。オリオン孤児院。
「ハァ……今月も赤字か……この孤児院もいつまで続けられるか……」
 この孤児院を一人できりもりするアージンは深いため息をつく。
 これまで私財を擲ちながらなんとか続けてきた孤児院だったが、その私財も殆ど底をついてしまった。このままでは孤児院を続けていく事は困難だろう。
「さて、一体どうしたものか……」
 悩むアージンの耳に突然入ったもの。それは扉が破壊されるような音と、騒がしい男達の声。
「ヒャッハー!!!」
 それは突然やってきた。
 子供達が寝静まった頃、何の躊躇もなく扉を破り進入してきた男達。
「なんなんだ!?」
 アージンはすぐに音のした裏口へ駆けつける。そこには10数名の見るからに粗野な男達。
「大人しくガキ達を渡しな」
 その男達は孤児院にいる子供達を渡せという。
「なぜお前達なんかに私の可愛い子供達を渡さなければいけなんいだ」
 当然アージンは拒否する。
「おいおい、知ってるんだぜぇ。ここはもう潰れる寸前なんだろ? オマエをそこまで追い詰めたのは誰だ? ここにいるガキ共じゃねぇか」
「それは……」
 アージンは押し黙ってしまう。
「悪い話じゃ無いと思うぜぇ。今日渡せば大サービスだ。ガキ一人毎にこの原石をくれてやる」
 男はそういうと青く輝く鉱石をアージンへ見せる。
「そ、そういう問題じゃないっ!!」
「俺達が善意で厄介払いしてやろうってんだぜ? 感謝こそされ文句を言われる筋合いはねぇと思うんだけどよぉ。それとも何かい? 俺達とやるってのかい」
 男達は醜悪な貌を晒しながら嗤う。
「く……」
 アージンは拳を握り締め肩を震わせる。今この状況では対抗しうる手段は皆無なのだ。
「どうしたの……」
 そこへ騒がしい音に起きてしまったのか、アージンの後ろから子供の声がした。
「こっちに来ちゃダメだ!!」
 振り返った瞬間、アージンの背中に激痛が走る。
 男の一人がアージンを切りつけたのだ。
 そのまま倒れたアージンは薄れていく意識の中、確かに聞いた。
「お前はどの道死ぬんだよ。おっと心配しなくていいぜ。男は立派な兵士に。女はしっかり働いてもらうからよぉ」
「そ……んな……っ」

 あとに響くのは子供達の泣き声と男達の嗤い声だけだった。


「ヤツらが動くぜ」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテンが、導き出した演算結果を集った自由騎士に告げる。
「身寄りの無い子供をターゲットにした人攫い。それに……孤児院の園長も犠牲になっちまう。ヤツラを止めるのはもちろんだが、指示してるやつの情報を出来るだけ聞き出してくれ。その情報さえあれば……アタシが必ず元凶を探り出してみせる。頼むぜ」
 いつものように必要なことを伝えるとテンカイは演算室の奥へ消えていった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.ラスカルズの撃退。
2.直属の幹部の情報を聞きだす。
冷蔵庫にはそばとうどんが常に3玉ずつ。麺二郎です。

ラスカルズの次なるターゲットは孤児院の子供達。
もしラスカルズに攫われてしまえばこの子達に待っているのは地獄の日々です。
子供達の未来を守り、かつこのような行為を行う幹部の情報を得ることが今回の依頼です。


●ロケーション

 イ・ラプセル地方都市イッシュ。その外れにあるオリオン孤児院。
 現在ここで生活している孤児は6~17歳の男女30名ほど。マザリモノが多いが、亜人種も数名いる。
 子供達が寝静まった夜更けに突然ラスカルズはやってきます。
 自由騎士はラスカルズが裏口の扉を叩き壊した瞬間に孤児院の正面玄関に辿りつきます。正面玄関には鍵がかかっています。正面玄関と裏口は中央廊下でまっすぐ繋がっており、その距離は50Mほど。最速で移動すればアージンが凶刃を振り下ろされる寸前にたどり着けます。
 孤児院はすでに消灯しているため、明かりは殆どありません。
 戦闘が行われるのは孤児院の中央の廊下。それなりに広く、通常の戦闘に支障はありませんが、戦闘によって過度に破壊されてしまうと孤児院の財政は更に逼迫してしまいます。


●登場人物

・アージン・サチモフ 43歳ノウブル。
 若い頃より奉仕活動に興味を持ち、寄付と自らこつこつ貯めたお金を元手にオリオン孤児院を5年前に設立。設立当時は順当であったが悲しいかな世間の興味は次第に薄れ、徐々に寄付金は減り、蓄えを切り崩す状態が続いていた。このままでは年を越すことも難しい状態に追い込まれています。
 自由騎士が一足遅れ、ラスカルズに切りつけられた場合は何もしなければ6ターンで絶命します。

・オリオン孤児院の子供達
 6~17歳の男女30名ほど。騒ぎで男の子が起き、部屋から出てきています。

・ラスカルズ 8人
 全員軽戦士スタイルで暗視と痛覚遮断を所持。武器は投擲ナイフと投斧。比較的遠距離攻撃を得意としています。
 ネームドはいないものの、それなりの実力ですが、半数以上が倒されると逃亡します。

 ラスカルズはさも当然といわんばかりに子供を人質に取ろうとするため、起きてしまった男の子と、子供部屋へのドアを守る必要があります。 
 

●同行NPC

 ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示が無ければ回復サポートを行います。
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。

 皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2018年12月17日

†メイン参加者 6人†




 自由騎士は憤りを隠さない。
(孤児院を標的にするとは……相も変わらず程度の低い連中め)
『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)はこれまでのラスカルの所業を思い起こす。
(やはり度し難い屑の集まりのようだな、ラスカルズは)
 隣を走る『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)も心内は一緒だ。
(園長も子ども達も、絶対傷つけさせてなるものか)
 顔を見合わせると互いに頷く。ラスカルズ許すまじ──。これまでもラスカルズとの戦いを共にした2人の間には言葉など必要ない。
(孤児院を襲撃……子供達を誘拐……)
 ぎりり、と奥歯をかみ締める音。
(私の前でそれをやるとはいい度胸ね!!!!)
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)もまた強い憤りを抑えきれない。
 自身も孤児であった過去を持つエルシーにとって、ラスカルズの今回の所業は到底許せるものではない。
 滾る感情を己に感じながら現場へ急ぐ。
「見えたぞ! あの建物だ!!」
『本音が建前を凌駕する男』ニコラス・モラル(CL3000453)が孤児院を指差す。
 そこに倒すべき敵がいる。護るべき命がある。
 自由騎士達は現場へ急ぐ。

 ガチャリ。
「開い──」
『キッシェ博覧会学芸員』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)が鍵を開けた瞬間。言葉も言い終わらぬうちに『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は駆け出していた。鍵を開けるその瞬間まで集中し、溜めた力で一気に駆け抜ける。
 通常の移動では間に合うかどうかはわからない。だがアリアには策がある。影狼──攻撃と同時に移動を可能とする技。消費はあれどその移動距離は格段に伸びる。

「どうしたの……」
 なにやら騒がしい音に気づいた男の子が眠そうに目を擦りながら部屋から出てくる。
「こっちに来ちゃダメだ!!」
 子供の声に反応し、ラスカルズに背を向けたアージンに凶刃が迫る。
「このマヌケがっ」
「させるかああああぁぁぁああああああっ!!!!!」
「ぐあっ!?」
 男のナイフをアリアの蒼い長剣が弾いた。闇の中に浮かぶのは強い光を放つ深碧の瞳。
 返す刀でアリアの放つ烈風刃・改は、強制的に男達をアージンから引き離す。
「あ、あなたたちは一体?」
 突然の出来事に状況をつかめないでいるアージン。
「大丈夫です。私たちはあなたを……この孤児院を救いに来たのです」
 ラスカルズに対する怒りを抑え、アリアは可能な限り穏やかな表情でアージンに経緯を伝える。
「かまうこたぁねぇ!! やっちまえ!!」
 虚を突かれた男達はナイフと斧でアリアに狙いをつける。
「あなたは安全な場所へ! すぐに仲間が来ますからっ!!!」
 その様子を空気で感じたアリアは左右に身を切り返し、跳躍に変化をつけ、投擲による男達の攻撃を翻弄する。
「クソがぁ! 当たらねぇ!! ……何だあの光は!?」
 眩い光が突進してくる。
「私たちは自由騎士だぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
 それはエルシーの持つカンテラ。夜目が利く男たちに対し、その明かりは慣れるまでの一瞬の視界を奪う。
「たぁぁぁぁっーーー!!!!」
 全速度を載せてエルシーが放った疾風の如き拳は、アージンを切りつけようとした男の鳩尾に深く突き刺さる。
「……ぐふっ」
 崩れ落ちる男。
「さぁ次は誰?」
 エルシーは冷たい笑みを見せながら、古竜の鱗で作られた真紅の籠手を打ち鳴らす。
 突然の出来事に男達は狼狽した様子を見せる。男の一人がとっさに子供のほうへ向かう。
「うっ」
 が、その行動はアリスタルフの遠当てによって阻止される。
「もう大丈夫だ。悪い奴らはすぐに捕まえる。少しの間良い子に出来るかい?」
 子供へ向けて投げられたナイフを手にした警棒で弾くと、アリスタルフは出来る限り柔和な表情で子供を落ち着かせようとする。
「くそっ!!!」
 ならばと男が向かったのは子供が出てきた部屋の扉。だがそこにはすでに先客が居た。
「無駄だぜ」
 腕を組み扉にダルそうにもたれかかる男。ニコラスだ。アリアやアリスタルフが男達の気を引いている間にニコラスが行った事。それはエルシーのカンテラの光で確認した子供部屋に対する扉強化と合言葉による施錠。
 ニコラスはにやりと笑うと、懐から取り出した戦輪をくるくると回しながら戦闘態勢に入る。
「ここは一歩も通さねえぜ」
 ニコラスの目がギラリと光る。
「クソがぁっ!!! やっちまえ!!」
 男達は自由騎士達に向かって一斉にナイフや斧を投げつける。
「──宜しい。此れより後、我が身は一畳の盾である」
 そこで一歩前に出たのはランスロットその人である。すさまじい殺気を放ちながら降り注ぐナイフや斧を大剣でなぎ払っていく。
 無論すべてをなぎ払えるわけではない。ランスロットの身に鈍い痛みが走る。それでもランスロットは敵を凝視し一歩も引く事は無い。
「大丈夫ですかっ!?」
「問題ない」
 アリスタルフの問いにランスロットは間髪居れず答える。
 その言葉に安心すると少年を避難させたアリスタルフは、子供部屋を一人守るニコラスの加勢に向かう。
「そちらが距離をとるならこちらも同様の事をするまでだ」
 矢継ぎ早に行われる遠距離からの攻撃に対して、ウィリアムは手の中に強毒の液体を練成し、男達へ投げつける。
「ぐわっ!? あ、熱いっ!! ぎゃぁぁ!!」
 男達の身を焦がし、肌を焼く。それは賢き者が愚者へと流す哀れみの涙。その行いにはもはやかける慈悲など無いのだ。

 一方アージンと男の子の無事を確認したエルシーとアリアの2人は、飛び交うナイフや斧をかいくぐり、接近戦へ持ち込む。
「貴方達の事情なんて関係ない……絶対に許さない!!」
 速度を乗せたアリアの一撃一撃が、蒼い閃光となって襲い掛かる。
「くそっ!! なんて重てぇ一撃だ。一瞬も油断できねぇっ」
 しかし対するラスカルズもまた歴戦を戦ってきたものたち。その動きに迷いは無い。
 アリアの猛攻をぎりぎりで防ぎながらも虎視眈々とその隙を狙っている。
 幾度無く重なる刃と刃。闇の中で金属音を叩き付け合う音が響く。
「いい加減くたばりやがれ!!」
 男がナイフを大きく振り上げる。その隙をアリアは見逃さなかった。アリアの放った二連の攻撃は男の中心を捕らえる。
「クソがぁ……焦っちまっ……たぜ」
 男は静かに倒れた。が、アリアもまた大幅に体力を消耗し、膝をつく。
「アリア、大丈夫かっ!!」
 スパルトイで男達の動きを抑制していたウィリアムがすぐに駆け寄り、アリアにパナケアを施す。その傍らには男達を威嚇しつづける子犬型のホムンクルス。
 突入時からフル回転していたアリア。その身体への負担はいかほどのものか。
 エルシーもまた超近接戦の最中にいた。敵は2人。ナイフと斧を自在に操る男達は息のあった連携でエルシーに襲い掛かる。
「うへぇ……いい姿になってきたじゃねぇか」
 如何に接近戦を得意とし、回避能力に優れるエルシーと言えども、男たちの連携はいつしかその身体に疵をつけ、傷ついたコスチュームからは柔肌をのぞかせていた。
「俺たちにはちゃんと見えてるんだぜぇ……そんなエロい格好してんだ。楽しませてくれるんだろぅ?」
 攻撃と同時にエルシーに向けられる醜悪な言葉たち。
 そんな言葉に更なる怒りを感じつつ、エルシーは紅き籠手で攻撃を裁きつつ一撃を放つ機会を伺っていた。

「こいつ、動かねぇ……絶好の的だ、やっちまえ!!」
 ランスロットは、ある場所から動かない。飛び交ういかなる攻撃をも避けようとせず、大剣で打ち落とし、処理しきれない攻撃はその身を持って止める。事前に付与したチャージ効果があるにしても無傷ではない。ランスロットの体力はどんどん削られていく。
 だがその瞳から色が失われる事はない。それどころか何者をも寄せ付けぬ迫力は増してゆく。
「なんなんだコイツは!? なんで俺たちの攻撃を避けねぇ!? なんで……倒れねぇっ!?」
 男達がランスロットのえもいえぬ迫力に怯んだ瞬間、ランスロットが叫び声と共に凝縮された気を一気に打ち放つ。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
 気に圧倒され吹き飛ばされる男達。
「ハァ……ハァ……」
 満身創痍のランスロットが身を挺して護ったもの。それは壁一面に張られた子供たちの絵。
 第一に護るはその命。ランスロットは護るべき命が大切にしているものをも護ったのだ。
「お前達が壊せるものなど何も無い!!」
 鬼気迫る表情で吹き飛ばした男達をにらみつけるランスロット。
「クソが!! クソが!! クソがぁぁ!! 壊してやる!! 壊してやるぜぇぇぇぇえええ!!!」
 男達が一斉にランスロットに襲い掛かる。
「うぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!」
 迎え撃つはランスロットと一本の大剣。護るべきものありし戦士はかくも美しい。例えその身を犠牲にしようとも、威風堂々と凄然と前へ進むのだ。

 子供部屋の前でもこう着状態が続く。
 ドアの前で一歩も引かず交戦し続けるニコラスにアリスタルフが加勢する。
 互いに遠距離での攻防。ナイフと斧、戦輪と気の刃が交差する。
「ちぃーっと分が悪いなぁ」
 そういうニコラスの身体のあちこちからは血が滲む。ドアを護る行為がニコラスの回避範囲を狭めていた。
 意を決したアリスタルフが動く。攻撃を止め、クラウチングスタートのような体勢から一気に韋駄天足で男達の元へ。
 ナイフの空を切る音。頬から流れる温かいものを感じながらもアリスタルフは男の懐へ飛び込んだ。
 そのまま男の腕を取ると足を払って体勢を崩し、地面に突っ伏した男へ渾身の震撃を打ち込む。
「ごふっ!!」
 一撃、二撃、三撃。アリスタルフの怒りの篭った剛拳は男が気を失うまで放たれ続けた。

「ゴファッ!!」
 ランスロットが叩き付けた大剣は男の意識を完全に奪い去る。
「……くそっ!! 撤退だ!! 動けるやつはついて来い!!」
 男の一人が声をかけると男達は、蜘蛛の子を散らすように撤退を始める。
「待て!! 逃げるのかっ!!」
 機を狙い攻撃に耐えていたエルシーが叫ぶ。
 深追いはしない。そう決めていたとはいえエルシーは叫ばずにはいられなかった。
「ギャハハハ!! またなオンナぁ!!」
「これで終わると思うなよ……ラスカルズはどこにでも現れるぞ」
「お前ら!! 覚えてやがれっ!!!」
 常套句ともいえる言葉と気絶した仲間を残して、あまりにもあっさりとラスカルズは去っていった。

 こうして自由騎士の活躍により、オリオン孤児院は一人の犠牲者を出すこともなく危機を脱したのだった。


 捕まえたラスカルズは4人。
 エルシーが持っていた縄で縛り上げてはいるが、その口から吐かれるのは聞くに堪えない罵詈雑言。
 とてもまともに話が出来る連中ではなさそうだ。
 まずは、とアリスタルフが情報を得ようと話しかけたのだが。
「このクソが!」
「ロープを解きやがれ!!」
「ふざけんじゃねえぞド畜生が!!」
「覚えてやがれ……お前ら……絶対に復讐してやる!!!」
 一人はアリスタルフの手によって関節を壊されている。だが痛みを感じない彼らにとってそれは口を割る理由にはならない。 
 次にアリアやランスロットが幹部の存在を仄めかすも、反応は薄い。これまでの捕まった幹部に対しての扱いを見ているからだろうか。幹部と言えども捕まった時点で大きくその脅威を失っているようだった。
 それがどうした。男達は口をそろえてそう言う。
 このままでは埒が明かない。それから一人ずつ尋問していく事になり男達は別々の部屋に連行される。

 エルシーは男の一人と部屋に居た。捕まえた中でもとりわけ威勢のよかった男にすぅと近寄る。それは最初にエルシーの一撃を食らい気絶した男。
「オマエ……!!」
 エルシーの顔はほのかに上気し、艶やかな空気があたりを包む。周囲に誰も居ないからこそであろう発揮されるエルシーの持つもう一つの顔。
「さっきは殴ってごめんなさいね? でもああするしかなかったの」
 男の腕にその豊かな胸のふくらみを押し当てる。
「ほら、ココ……こんなに腫れちゃってるわ」
 エルシーの少しひんやりとした指先が男の体をゆっくりとなぞる。
「なぁ……縄を解いてくれよ……そうすりゃ極楽に連れて行ってやるぜぇ」
 エルシーの艶やかな唇から零れ出る吐息が男の耳を優しく愛撫する。
「……ねぇ、知ってる事を教えてくれたら、私が念入りに治療してあげるわよ……」

 ……………………………………
 …………………

 一際大きな音がした。エルシーは情報を聞き出す事に成功し、部屋を出る。
 残された男は恍惚の表情を浮かべたまま泡を吹いて気絶していた。

 ウィリアムが手にしているのは酒。
「おいおい、酒を振舞ってくれるのか。ギャハハハハ!! こいつはラッキーだぜ」
 ウィリアムはにこりと笑うと酒を男の口へ注ぎ始める。
「……げふっ……もオ無理だっ……やめてくれぇ……」
 男はすぐに後悔する事になった。ラッキーなどと口走ったことを。
「いえいえいえ。まだまだ飲み足りないでしょう」
 普段より冷静沈着でマイペースな彼であるが、今回のラスカルズの所業には許しがたいものを感じていたようだ。持ち物の全て。大量に用意した酒。それを余すところ無く男の口へ注ぎ込んでいく。
 痛みを遮断してしまったが故のこれまで味わったことの無い地獄。
 一切表情を変えずに酒を注ぎ続けるウィリアムに、男は涙を流しながら許しを請い、口を割る事になった。

 残る2人は廊下で縛られたままになっていた。
 相変わらず口から吐くのは身勝手で聞くに堪えない汚い言葉のみ。
 そんな男達の様子を壁にもたれかかり黙ってみていたニコラスだったのだが。
 男の一人に近づくと耳元で何かを囁く。男の表情はみるみる青ざめていく。
「……で……だ」
 男は目を見開きニコラスを見る。ニコラスにいつもの飄々とした空気は無い。そこにあるのは無機質で穏やかな表情。
「……をして……だろう?」
 男の体が小刻みに震えている。
「わ……わかった……オレが悪かった……知ってる事はなんでも話す……」
 男は知りうるすべての情報を話し始めた。
 
 男達から自由騎士が得た情報を纏めたものが以下になる。
 まず指示したのは『隻眼のドミニク』と呼ばれる幹部である事。
 ドミニクは錬金術スタイルである事。(ホムを生成できることから判明)
 男達が所属するその幹部の集団は人攫いを主に活動している事。
 西の山間部に複数のアジトを持つ事。
 アジトは巧妙にカモフラージュされており、かつ数カ月おきに新しいものが作られ場所が変わる事。
 それは断片的なものであったが、一定の収穫にはなり得るものだった。
 得た情報をテンカイに伝えればきっと何か新しい結果を導いてくれるだろう。


 ラスカルズの引渡しを済ませた自由騎士達はアージン達と話していた。
「皆さん、この度は本当に……本当にありがとうございました」
 アージンは改めてみなに深々と頭を下げる。
「頭を上げてくれ。それはともかく話しておきたい事がある」
 ウィリアムはアージンを促すと話し合いの空気を作る。
 自由騎士には襲撃とは別に、オリオン孤児院に関しての心配があった。
 それは院の維持について。今後を考えればある意味そちらの方が深刻な問題だ。
「あー、今後の事だけどな……子供ってのは親の背中を結構見てるもんだぞ。この場合だとアンタだな。物分かりのいいヤツにそれとなく零してみな。アンタの助けになりたいって慕ってくれてるなら一緒に考えてくれるさ」
 ニコラスは照れくさそうに頭を掻きながらアージンへ問いかける。
 その後も自由騎士の皆でアージンへ意見を出し合う。アージンは静かにどの言葉に耳を傾けていた。
「それと……これ少ないけど」
 エルシーはアージンに自らの蓄えから運営費を渡そうとした。自身の生い立ちからも何かしてあげたい。その気持ちゆえの行動だった。
 アージンはそれを笑顔でいなす。
「皆さんありがとうございます。様々なご意見とても参考になりました。その上で……助けていただいた身で……更にお願いする事は非常に恐縮なのですが……」
 アージンは少し考えたあと、真剣な眼差しで自由騎士へ自身の考えを伝える。
「子供達に何か技術を……大人になってからも自立できるよう、あなた方の持つ技術を何か教えていただけないでしょうか」
 寄付などはもちろんありがたい申し出だ。経営難の孤児院にとってはのどから手が出るほどのものである事は違いない。だが子供達の本当に明るい未来を得るためには子供達自身が自立する必要がある。そう考えた上でのアージンの言葉だった。
 その言葉への自由騎士の返事は言うまでも無いだろう。

「よく頑張ったな」
 アリスタルフは優しく少年の頭を撫でる。
「ねぇ! 部屋においでよ! 僕の宝物見せてあげる!!」
 こぼれんばかりの少年の笑顔に、アリスタルフは笑顔で答えるのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『信念の盾』
取得者: ランスロット・カースン(CL3000391)
特殊成果
『にがおえ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

オリオン孤児院は無事ラスカルズの手から守られ、施設の損傷も最小限に抑えられました。
この結果は自由騎士の皆さんの強い意思によるものです。
孤児院の今後に付いてはまた別の機会を頂ければと思います。

MVPは捕まえた男を底知れぬ恐怖に陥れたあなたへ。ダンディズム。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済