MagiaSteam




【極東航路】かの地、東の島国へ2

●遭遇、東への航路にて
船が、海を往く。
蒸気機関は問題なく稼働し、煙突からは黒い煙。
今、ジョセフ・クラーマーと自由騎士を乗せた蒸気船が、遥か東の果て、アマノホカリに向かって航行を続けていた。
「……さて」
その甲板に立って、ジョセフは水平線の向こうを眺めている。
「何を見てるんだ?」
それに気づいた自由騎士の一人が、彼に話しかけた。
「見ているのではない、待っているのだ」
「待ってる? 何を?」
「出迎えだ」
と、ジョセフは聞き返してきた自由騎士に向かって返した。
「考えてみるがよい。イ・ラプセルに漂着したアマノホカリの船では、激しい戦闘があった。つまり、あの船の存在は改国派に知られているということだ」
「ああ、確かにそうなるが……」
「だったら当然、連中はすでに待ち構えているはずだ。この海で」
「出迎え。……じゃあ、まさか!」
言われて気づいた自由騎士がハッとした、その瞬間、
ドッ、パァァ――ン!
船から少し離れた場所に、水柱が派手に上がった。
「――砲撃。来たか」
目を細め、船の行く先を眺めるジョセフの視界に、幾つかの影が見えてくる。
「敵、どれだけだ!」
「一、二……、おそらくは三隻。蒸気船ではない、木造の船だ」
「アマノホカリの……!」
さらに幾度かの砲撃がなされ、そのたびに波に煽られ船が揺れる。
しかしこの程度の状況、ジョセフにしても自由騎士にしても、もはや慣れたもの。
彼らは一切動じることなく、敵船の観察を続ける。
「所属を示す旗はない。そして船自体も大きさはさほどではない、これは……」
「――海賊、か?」
「おそらくは、な。考えられるのは、宇羅幕府か、改国派に属する諸侯なりが金で海賊を雇って傭兵として使っている、といったところか」
海の上を舞台とするならば、むしろそれは官軍を使うよりも効率的かもしれない。
そう思うジョセフの元へ、他の自由騎士も集まってくる。
「前哨戦だ」
彼は端的に告げた。
「おそらく、知識共有時に出たサムライとニンジャはここには出てこまい。しかし、それは敵を侮ってよい理由にはならぬ。まずはこの戦いを制し、先へと進むぞ」
「わかってるさ。こっちの船を沈めさせるワケにもいかないしな」
彼らが乗っているこの蒸気船には、聖霊門を建造するための主要な資材も載せてある。それを考えれば、必ずしも海賊を全滅させる必要はなく、追われないところまで逃げ切ることも視野に入れておくべきだろう。
かくして東への航路にて、最初の戦いが始まった。
船が、海を往く。
蒸気機関は問題なく稼働し、煙突からは黒い煙。
今、ジョセフ・クラーマーと自由騎士を乗せた蒸気船が、遥か東の果て、アマノホカリに向かって航行を続けていた。
「……さて」
その甲板に立って、ジョセフは水平線の向こうを眺めている。
「何を見てるんだ?」
それに気づいた自由騎士の一人が、彼に話しかけた。
「見ているのではない、待っているのだ」
「待ってる? 何を?」
「出迎えだ」
と、ジョセフは聞き返してきた自由騎士に向かって返した。
「考えてみるがよい。イ・ラプセルに漂着したアマノホカリの船では、激しい戦闘があった。つまり、あの船の存在は改国派に知られているということだ」
「ああ、確かにそうなるが……」
「だったら当然、連中はすでに待ち構えているはずだ。この海で」
「出迎え。……じゃあ、まさか!」
言われて気づいた自由騎士がハッとした、その瞬間、
ドッ、パァァ――ン!
船から少し離れた場所に、水柱が派手に上がった。
「――砲撃。来たか」
目を細め、船の行く先を眺めるジョセフの視界に、幾つかの影が見えてくる。
「敵、どれだけだ!」
「一、二……、おそらくは三隻。蒸気船ではない、木造の船だ」
「アマノホカリの……!」
さらに幾度かの砲撃がなされ、そのたびに波に煽られ船が揺れる。
しかしこの程度の状況、ジョセフにしても自由騎士にしても、もはや慣れたもの。
彼らは一切動じることなく、敵船の観察を続ける。
「所属を示す旗はない。そして船自体も大きさはさほどではない、これは……」
「――海賊、か?」
「おそらくは、な。考えられるのは、宇羅幕府か、改国派に属する諸侯なりが金で海賊を雇って傭兵として使っている、といったところか」
海の上を舞台とするならば、むしろそれは官軍を使うよりも効率的かもしれない。
そう思うジョセフの元へ、他の自由騎士も集まってくる。
「前哨戦だ」
彼は端的に告げた。
「おそらく、知識共有時に出たサムライとニンジャはここには出てこまい。しかし、それは敵を侮ってよい理由にはならぬ。まずはこの戦いを制し、先へと進むぞ」
「わかってるさ。こっちの船を沈めさせるワケにもいかないしな」
彼らが乗っているこの蒸気船には、聖霊門を建造するための主要な資材も載せてある。それを考えれば、必ずしも海賊を全滅させる必要はなく、追われないところまで逃げ切ることも視野に入れておくべきだろう。
かくして東への航路にて、最初の戦いが始まった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.海賊を撃退する
2.または、海賊船の追撃を振り切る
2.または、海賊船の追撃を振り切る
前回に続きまして、アマノホカリを目指すシリーズ第2回。
いよいよ本格的に極東の島国を目指し、船旅が始まります。と思ったら海賊!
どーも、吾語です。
今回のシナリオは船上がそこそこ特殊なので下記の情報を確認してください。
制限時間は5分間、その間、船が一定のダメージを受けなければ逃げ切れます。
では、以下詳細です。
◆敵勢力
・敵船A:海賊軽戦士×8 海賊医術士×2
・敵船B:海賊格闘士×8 海賊医術士×2
・敵船C:海賊銃使い×8 海賊医術士×2
めっちゃいっぱいいます。
それぞれ強さはシナリオ参加者のレベル平均値-3です。
全員がランク2スキルをレベル4で使ってきます。
しかも、3の倍数ターンと6の倍数ターンの開始時、増援が発生します。
3の倍数ターン開始時、それぞれの船の攻撃スタイルの海賊が2人増えます。
6の倍数ターン開始時、それぞれの船のヒーラー海賊が2人増えます。
なお、海賊は全員、
ハイバランサー 急
リュンケウスの瞳 急
を活性化しています。めんどくさいですねー!
◆戦場
・敵船
船上が戦場です。あ、石を投げないで!
今回はちょっと特殊ですので、よく確認してくださいねー。
船上は「敵船A・B・C」から一つを選んでもらうことになります。
そしてここが重要ですが「範囲:全体」の効果が船1隻分にしか適用されません。
1つのスキルで敵船3隻全部巻き込めないってことですね。
それができるなら戦術兵器級だもんね、仕方がないね!
また、リプレイ開始時点での自由騎士の立ち位置は自分達の蒸気船の甲板です。
そこから、自分が選んだ戦場に向かうまで3ターンが必要となります。
蒸気船の甲板上から敵船のいずれかに攻撃する、とかは無理です。距離的に。
ただし、「飛行」を持っているなら移動が1ターンで済みます。
「浮遊」かハイバランサー「破」以上を持ってれば、移動は2ターンで済みます。
参加者の種族がミズヒトでである場合も移動は2ターンで済みます。
3倍数ターン開始時に敵船のいずれかから蒸気船に向かって砲撃が行なわれます。
砲撃は阻むことができませんが、自由騎士が受け止めることができます。
受け止めた場合、防御力に関係なく最大HPの15%分のダメージを受けます。
しかし逆に、3倍数ターンの最後、蒸気船から敵船に向かって砲撃することもできます。
ただし、支援砲撃を行なう場合、どの船に砲撃するかを指示する必要があります。
この状況で蒸気船が5分耐えきれば勝利条件達成となります。
がんばっていきましょー!
※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。
・今回のS級指令依頼は前回と合わせて全4話構成でアマノホカリへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。
アマノホカリとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信がかろうじてできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
現在運営中の他のシナリオに参加していてもかまいません。(時系列がちがいます)
いよいよ本格的に極東の島国を目指し、船旅が始まります。と思ったら海賊!
どーも、吾語です。
今回のシナリオは船上がそこそこ特殊なので下記の情報を確認してください。
制限時間は5分間、その間、船が一定のダメージを受けなければ逃げ切れます。
では、以下詳細です。
◆敵勢力
・敵船A:海賊軽戦士×8 海賊医術士×2
・敵船B:海賊格闘士×8 海賊医術士×2
・敵船C:海賊銃使い×8 海賊医術士×2
めっちゃいっぱいいます。
それぞれ強さはシナリオ参加者のレベル平均値-3です。
全員がランク2スキルをレベル4で使ってきます。
しかも、3の倍数ターンと6の倍数ターンの開始時、増援が発生します。
3の倍数ターン開始時、それぞれの船の攻撃スタイルの海賊が2人増えます。
6の倍数ターン開始時、それぞれの船のヒーラー海賊が2人増えます。
なお、海賊は全員、
ハイバランサー 急
リュンケウスの瞳 急
を活性化しています。めんどくさいですねー!
◆戦場
・敵船
船上が戦場です。あ、石を投げないで!
今回はちょっと特殊ですので、よく確認してくださいねー。
船上は「敵船A・B・C」から一つを選んでもらうことになります。
そしてここが重要ですが「範囲:全体」の効果が船1隻分にしか適用されません。
1つのスキルで敵船3隻全部巻き込めないってことですね。
それができるなら戦術兵器級だもんね、仕方がないね!
また、リプレイ開始時点での自由騎士の立ち位置は自分達の蒸気船の甲板です。
そこから、自分が選んだ戦場に向かうまで3ターンが必要となります。
蒸気船の甲板上から敵船のいずれかに攻撃する、とかは無理です。距離的に。
ただし、「飛行」を持っているなら移動が1ターンで済みます。
「浮遊」かハイバランサー「破」以上を持ってれば、移動は2ターンで済みます。
参加者の種族がミズヒトでである場合も移動は2ターンで済みます。
3倍数ターン開始時に敵船のいずれかから蒸気船に向かって砲撃が行なわれます。
砲撃は阻むことができませんが、自由騎士が受け止めることができます。
受け止めた場合、防御力に関係なく最大HPの15%分のダメージを受けます。
しかし逆に、3倍数ターンの最後、蒸気船から敵船に向かって砲撃することもできます。
ただし、支援砲撃を行なう場合、どの船に砲撃するかを指示する必要があります。
この状況で蒸気船が5分耐えきれば勝利条件達成となります。
がんばっていきましょー!
※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。
・今回のS級指令依頼は前回と合わせて全4話構成でアマノホカリへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。
アマノホカリとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信がかろうじてできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
現在運営中の他のシナリオに参加していてもかまいません。(時系列がちがいます)

状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
5個
5個
5個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年06月15日
2020年06月15日
†メイン参加者 8人†
●蒸気船:肉の壁になってでも
蒸気船のすぐ近くに、再び大きな水柱が上がる。
「ちょっとー! なかなか狙いいいじゃない! クソ海賊の分際で!」
揺れる船に煽られながら、『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)が大きく声を張り上げる。船の激しい揺れが、不快指数を跳ね上げていた。
甲板の真ん中には、天哉熾 ハル(CL3000678)の姿。
他の自由騎士達が敵船へと向かった一方で、蒸気船の防備を任されたのがこの二人であった。当然、ただの留守番というワケではない。
「――来たわ!」
敵船を観察していたハルが、敵船の一隻を指差す。
きゐこがすぐに動いた。
「わかってるわよ――、っこいしょお!」
敵船が撃ってきた砲撃を、きゐこが身を乗り出して魔導の攻撃で迎撃する。
しかし、命中こそしたものの、砕けた砲弾の破片が、彼女の身に降りかかった。
「あっつ! あづ! あっづい! バカ――――ッ!」
防具の上からでもしっかり伝わる灼熱の感触に、きゐはこ走り回って喚き散らした。
「まだ回復は必要なさそうね」
しかし、のたうち回るきゐこに告げられた、ハルの残酷すぎる一言。
確かに負傷としては大したものではないのだが――、熱いものは熱いんだっての。
きゐこが砲弾の破片を手で払っている間にも、蒸気船の近くに幾つも水柱が上がった。
「さすがに敵全部を抑えつけられるワケがない、か」
ハルが小さく嘆息。
三隻ある敵船には、それぞれ二人ずつ自由騎士達が向かっていった。
今頃は、すでに戦いが始まっている頃だろう。
そのおかげで、最初に比べれば敵からの砲撃が幾分減っている。
しかし、全てなくなったワケではなかった。
「フン、この程度、なんだってのよ!」
復活したきゐこが、波間に揺れる敵船を見て鼻息を荒くする。
「数撃ったって当たるのなんてそうそうないわ、それさえ見極めて潰せばいいのよ!」
「たった今、それを実践した人が言うことは説得力が違うわね」
「何よー!」
と、騒いだ直後に、きゐこの足がもつれた。
そして彼女はよろよろと船のへりへと寄りかかって、思い切り肩を落とす。
「…………きっつ」
「船、苦手だったのね」
顔色を真っ青にしているきゐこを見て、ハルが意外そうに言った。そして、
「でも回復魔導はなしよ?」
「わかってるわよ! ……わかってるわよぉ」
「浜辺に打ち上げられたワカメみたいにしなびていくわね……」
二人がそんなやり取りをしているところに、すぐ近くから何やら異音がする。
刹那、きゐこの顔つきが変わる。
「来たわね! 盾兵の皆さ――――ん!」
新たに来た砲撃へ、彼女がそう叫んで対応を指示する。
すると、準備を終えた数人の盾兵が、何とか砲撃を受け止めた。と同時に盾が壊れる。
「……さすがにそう何回も耐えられるモンじゃないわね」
それを見て、ハルは結局は自分達が体を張るしかないのだと悟る。
きゐこは、船の激しい揺れにそろそろ自分の中身をブチまけたい気分になっていた。
●敵船A:薙ぎ払え、癒しきれ
「「海上戦闘教義、一番! 海は広いが足場は狭い!」」
敵船の一隻へと乗り込んだ『ヤバイ、このシスター超ヤバイ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)と『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が声を揃える。
ちなみに、二人が知る海上戦闘教義にそういった内容はない。
単に、乗り込んでみたら案外足場が狭くてやりにくいからあてこすっただけだ。
木製の船は、蒸気船と比べて小さく、その分揺れも大きい。
しかし、敵はさすがに慣れた者で、そんな甲板の上でもしっかりと動けている。
「全く、こういう場は好かん!」
叫ぶツボミが、敵の攻撃を紙一重で回避する。
「お互い、戦えないワケではないのですけれどね」
アンジェリカがツボミのボヤキを受けて軽く苦笑し、処刑用の大剣を振り回した。
その薙ぎ払いは、しかし敵に回避される。
軽やかな動きはいかにもといった軽戦士だが、しかし実は、速度はアンジェリカの方が上だったりする。その勢いに任せて、彼女は大剣で薙ぎ払いを連発。
「普段はトンチキなウセに、こういった場面では本当に頼りになるなぁ、貴様」
「フッフッフ、これもパスタの思し召しです! ちょいさー!」
後ろから切りかかってきた敵の一閃を側転でアクロバティックに避けてみせ、アンジェリカが両手に強く握りしめた大剣を、やたらめったらブン回し始める。
「聖なるパスタよ! 敵キャンフラ――――イ!」
すっとんきょうな祈りの言葉によって金色の輝きを纏った刃が、強烈な衝撃波を生み出して敵全体へと押し寄せていく。
海賊達が金色の剣閃に吹き散らされるのを見て、ツボミは眉間を強く押さえた。
「うむ、本当に頼りになるんだが、本当にトンチキなのは何とかならんか? なぁ?」
「フライングパスタモンスター教はあなたの入信をお待ちしております!」
「女神信仰はどこいった!」
会話だけを挙げれば、むしろ気楽なようにも聞こえる。
しかし、それは己の不利を見ないようにするための、いわば自己暗示。
アンジェリカがいかに強くとも、ツボミがいかに優れた癒し手であろうとも、やはり二人では戦線を維持するだけで精いっぱいなのだった。
押し寄せる多数の敵の攻撃に、アンジェリカは自ら闇の法衣を纏って身を晒す。
「物理力を相殺する便利な技ですけれど、長い時間もたないのが難点ですね!」
敵の攻撃に耐え続けるも、それができるのも残り数秒。
その隙に、アンジェリカは大剣による衝撃波を海賊達数人にお見舞いする。
しかし、
「耐えろ! たった二人にどれだけ時間をかけてやがる!」
杖を持った海賊が、だみ声を響かせる。
同時に癒しの魔導が発動して、倒れかけていた海賊数人が起き上がる。
さらに、船内からまた数人の海賊が増援として加わった。
「また来やがった。アンジェリカ、あとどれだけ壁になれる!?」
「たった今、効果が切れました」
ツボミが見ると、アンジェリカが海賊の攻撃によってズバズバ斬られていた。
「ええい、すぐに治す! 術をかけ直せ!」
舌打ちをして、ツボミがアンジェリカの傷を急いで癒そうとする。
揺れる船の上で、敵の数は決して減ることがない。その状況で、あとどれだけもつ?
「――もたせてやるわ、この程度!」
心に生じた不安を一口に呑み込んで、ツボミは癒しの魔導を使う。
蒸気船は、未だ敵船の囲いを破れてはいなかった。
●敵船B:気張れ、踏ん張れ、耐え忍べ
二隻目の敵船を担当する二人は、どちらも魔導を得意とする。
「数は減らぬが、しかし余とて容易に近づけさせるつもりはないぞ?」
ひょうたんの酒を煽り、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)が溜めていた魔力を一気に解放し、自分を狙おうとしていた海賊達を派手に巻き込んだ。
超極小の神の星より放たれた熱波は、敵を焼くと同時にその禍々しき呪詛の力によって動きを縛って接近を阻害する。そこへ自由騎士の次なる一手。
「全く、手荒すぎる歓迎だな、これは!」
『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が叫び、発動させた雷撃の魔導が呪詛に蝕まれた敵を呑み込み、重力の鎖でがんじがらめにする。
「ぐ、くそ、こいつら……!」
この船に乗っている海賊は、そのほとんどが格闘技者だ。
動ける範囲が広く、それなりに素早いのが特徴だが、だからこそ天輝とロジェが見せる『束縛し、動きを封じる戦い方』には弱かった。
「どうした? 海賊というてもその程度か? 海の猛者ではないのか? ん?」
「やめろ、氷面鏡。そこで無用な挑発をしてどうする」
ケラケラ笑う天輝を、ロジェがたしなめる。
その間にも、海賊の一人が素早く動いて天輝を狙おうとした。
「させん!」
だがそこに、壁となる盾兵が割り込んだ。
天輝を守るように、蒸気船の乗組員の何人かが盾を持って参戦していたのだ。
「実にナイスよ、お味方殿」
笑って、天輝は一歩後退。そして盾兵越しに魔導の一撃。
「ぐ、はァ……!?」
「小娘が、ナメやがって!」
敵が傾ぐ。しかし、すぐ別の敵がやってくる。
「ぬぅ……ッ」
さすがに、全ての攻撃をかわしきることはできない。
突っ込んできた海賊の繰り出した前蹴りが、天輝の腹にモロに命中する。
格闘技者の蹴りは、突き出すのではなく突き刺す蹴りだ。
爪先か、あるいはかかとで相手の腹を深くまで抉る蹴りは、ただの一撃といえども受けた者に実際のダメージを超えた苦痛をもたらす。
「う……、ッ!」
激痛に顔色を変え、天輝が体をくの字に折り曲げた。
「――だから無用な挑発をするなと!」
たちまちロジェが動いた。
彼が癒しの魔導をそこで使わなければ、その時点で勝負は決していただろう。
しかし、盾兵が海賊の攻撃をいくらか防いでいる間に、天輝が戦線に復帰した。
「いやいや、すまぬ。油断はしていなかったつもりであったが……」
苦笑する天輝ではあったが、酔いがしっかり醒めてしまった。
敵の能力は、自分の方が優っている。それについては確信があった。
しかし、やはり数の差が響いていた。
こちらには盾兵と、ロジェと共に行動する歩兵がいるが、だがそれらを自分達と同じ一個戦力として数えられるかといえば、そんなことはない。
防ぐ、阻むはできるだろうが、攻める、倒す、癒す、の辺りは自分とロジェが何とかするしかない部分だ。ゆえに、どうしても手が足りない。
「敵はどこだァ!」
また、船の中から敵が出てくる。
できれば敵の船自体に攻撃を仕掛けてしまいたいが、そんな余裕はどこにもない。
たかが五分間、されど五分間。なかなかにスリリングな時間だと思えた。
本来であればそんなこと考えている場合でもないのだが。
「ヒリつくのう……!」
魔力を右手に圧縮し、天輝が笑みを深くする。
「そうか。こっちはこっちでなかなか大変だ」
天輝の様子に気づいたロジェが、深々とため息をつく。
「む、何事か? 魔力が尽きたか?」
「いや、違うな」
かぶりを振って、彼は答えた。
「相方がいささかじゃじゃ馬のようでな、乗りこなすのが大変なだけだ」
「フハハ、言いよる!」
そして天輝が、広域に魔力の熱波を炸裂させた。
「なぁに、あとほんの少しのこと。その暴れ馬、見事乗りこなしてみせるがよい!」
「誰も暴れ馬とまでは言ってないがな!」
そしてロジェも天輝に続いて魔導を炸裂させる。
蒸気船はもうすぐ、越える。
●敵船C:寄らば斬る、寄らずとも斬る
「どォりゃァァァァァァ――――ッ!」
群れる敵海賊へと向かって、『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が突撃していく。敵は銃兵。多数の弾丸が彼を狙うが、その全てから、一気に突き抜けた。
持った得物は人の背丈ほどもある野太刀。
しなやかにして強靭な倭刀の切っ先が、銃兵数人をまとめて抉った。
「はぁい、そこに隙ができましたねぇ~」
ヨツカの攻撃によって生じた敵陣の穴めがけ『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が魔導を炸裂させる。
「ひぎゃああああああああああ!」
強烈な熱に焼かれ、敵銃兵と回復役が揃って場に転がり回った。
「やってくれる!」
しかし耐えた者もいた。
銃弾が、シェリルの肩に命中し、彼女は勢いに数歩後退させられた。
「あいたた……、ひどいですねぇ……」
痛みに耐えることはできても、慣れたワケでもなければ痛みが心地よいワケでもない。
なるべくならこんな傷、負うことなく前に進みたい。
誰もが思うことだろう。
そのためにまず考えるのは、早々に敵全滅させること、ではあるのだが、
「敵はどこだ! あいつらか!」
船の中から、銃を持った海賊が新たにやってくる。
それを見たシェリルは、不承不承ながら認めるしかなかった。
「全部叩くのは無理ですねぇ~……」
絶望的な気分になって、嘆息する。
その隣に、ヨツカが立った。
「どうした」
言葉少なな彼の問い。
シェリルは頬に手を当ててまた嘆息し、
「痛いの、苦手なんですよねぇ……」
そんな悩みを告げると、ヨツカは珍しく「ハッ!」と笑い飛ばした。
「簡単な話だ」
「と、申されますとぉ?」
何か、痛みを感じずに済む方法があるというのだろうか。
もしあるならば聞いておきたいシェリルであったが、
「痛みなど感じるヒマもないほど、戦いに没頭すればいい」
その言葉を聞いて気づいた。
ヨツカが浮かべている笑みは、手負いの猛獣が牙を剥く顔そのままだ。と。
「……ヨツカさぁん?」
「さぁ、敵がくるぞ。挑んだのはこちら、謝っても無駄だ。ならば戦うしかあるまい。戦って、道を切り拓くしかない。それをせねば死ぬだけだ。痛みを感じているヒマも惜しい。ならばどうする。ならばどうする!」
野太刀を手に、噛み合わせた奥歯をむき出しにして、ヨツカは笑う。
飛び来る銃弾。それが、彼の右腕に命中した。
「クハ」
ヨツカの笑みが深まった。
「剣林弾雨と呼ぶには、この場はまだまだ甘い。たかが弾雨だ。何するものぞ」
そして彼は、野太刀を地面に叩きつけ、生じた衝撃波で海賊数人を吹き飛ばした。
「寄らば斬る、寄らずとも斬る! 月ノ輪・ヨツカ、参る!」
敵陣へと自ら突貫していくヨツカの背中を見送って、シェリルはハッと我に返った。
「……何とも、男の子ですねぇ」
いささかピントのズレた感想を言いつつ、だが、彼の言葉にも理はあった。
「でも、そうですねぇ。確かにここは戦い抜かなければ意味がない場」
ヨツカが作ってくれた隙を活用し、彼女は魔力を充填する。
そして発動した魔導は、より多くの海賊達を巻き込み、その動きを止めた。
「余計なことを考えるのはやめましたぁ。とにかく、戦いますねぇ~」
「そうだ、ヨツカもそうする!」
海賊を確実に打ち倒しながら、二人は船上でなお戦い続けた。
そしてついに――、五分が経過する。
●脱出:そしてアマノホカリへ
「くぅ~~~~、結局支援砲撃も大してできなかったじゃない!」
蒸気船、きゐこが名残惜しそうに叫びつつ、マキナ=ギアで連絡を入れる。
敵船からの砲撃は結局五分間一度も途切れることはなく、だからこそ彼女が率いる盾兵も込みで防御で手一杯、そしてきゐこもハルも、相応にダメージを被っていた。
「……五分間って、こんなにも長かったのね」
敵船の囲いを抜けつつある船の上で、ハルがしみじみ呟いた。
「そうよ。普通の五分と戦場の五分じゃ、体感上、数十倍の開きはあるわね」
「慣れてるだけあって、同時ないのね……」
「フン! そんなことよりあんまり砲撃出来なかったのが悔しいったらないわね!」
やはりきゐこはブレないのだった。
そこへ――、
「戻ったぞ!」
最初に帰還したのは、当然というべきかロジェだった。
飛行手段という面ではアンジェリカもはばたき機械なるモノを持ち込んでるが、こちらは残念ながら戦闘中に破損しており、帰還には使えなかった。
次いで、ロジェと共に戦闘に参加していた天輝が何とか敵船から跳躍して帰ってくる。
「なかなかに長い五分であったのう……」
やはり帰還して緊張が解けたか、天輝は汗に濡れる額を手で拭った。
「む、先に戻っていたか」
「お疲れさまでございますぅ~」
そして、ヨツカとシェリルも蒸気船の甲板に到着。
回復手段に乏しかったせいか、二人は相応の負傷していた。
「ちょっと、傷が大きいわね。すぐに治すわ」
「かたじけない」
比較的、余力が残っているハルが急ぎ回復の魔導を使った。
アンジェリカとツボミが帰還したのは、ヨツカ達の傷がある程度癒えたあとだった。
「何だ、私達が一番最後か」
「全員お帰りになられているようで、よかったです」
こちらは、ほとんど負傷はなかった。
「ああ、疲れた……。本当にこの手の作戦は体感時間が長すぎる!」
しかし、ツボミがその場にへたり込む。
負傷こそ少ないが、魔力と気力のほとんどを使い切っているようだった。
「全員、戻ったか」
そこに、ずっと船内にいたジョセフが顔を出す。
まだ敵からの砲撃が続く中、現れた彼にきゐこが噛みついた。
「ちょっと! 何で顔出してるのよ、もう少し隠れてなさいよ!」
「そうは言うが……」
「いや、こいつはきゐこの言う通りだ。この旅は、おまえをアマノホカリに届けるためのものだぞ。こんなところでおまえは倒れたら、私達の任務はおじゃんだ」
渋るジョセフに、ツボミがピシャリと言い切った。
そうまで言われてはジョセフも返す言葉がない。彼は一言「すまない」とだけ告げた。
やがて、元よりの船の性能の差もあって、海賊船は影も形も見えなくなる。
砲撃も止まって、元のゆったりとした海の景色が戻ってきた。
「何とか凌いだな」
言うヨツカに、シェリルも「そうですねぇ」とうなずいた。
アマノホカリまでの道はまだ半ば。しかし、確実に近づいてはいる。
「絶対、まだ何かあるわよね~」
それをほぼ確信しながら、きゐこはげんなり呟いた。
しかしその彼女とて、今の時点ではまだ知る由もなかった。
まさか、次に戦う相手が宇羅幕府の棟梁――、二代将軍であるなどとは。
蒸気船のすぐ近くに、再び大きな水柱が上がる。
「ちょっとー! なかなか狙いいいじゃない! クソ海賊の分際で!」
揺れる船に煽られながら、『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)が大きく声を張り上げる。船の激しい揺れが、不快指数を跳ね上げていた。
甲板の真ん中には、天哉熾 ハル(CL3000678)の姿。
他の自由騎士達が敵船へと向かった一方で、蒸気船の防備を任されたのがこの二人であった。当然、ただの留守番というワケではない。
「――来たわ!」
敵船を観察していたハルが、敵船の一隻を指差す。
きゐこがすぐに動いた。
「わかってるわよ――、っこいしょお!」
敵船が撃ってきた砲撃を、きゐこが身を乗り出して魔導の攻撃で迎撃する。
しかし、命中こそしたものの、砕けた砲弾の破片が、彼女の身に降りかかった。
「あっつ! あづ! あっづい! バカ――――ッ!」
防具の上からでもしっかり伝わる灼熱の感触に、きゐはこ走り回って喚き散らした。
「まだ回復は必要なさそうね」
しかし、のたうち回るきゐこに告げられた、ハルの残酷すぎる一言。
確かに負傷としては大したものではないのだが――、熱いものは熱いんだっての。
きゐこが砲弾の破片を手で払っている間にも、蒸気船の近くに幾つも水柱が上がった。
「さすがに敵全部を抑えつけられるワケがない、か」
ハルが小さく嘆息。
三隻ある敵船には、それぞれ二人ずつ自由騎士達が向かっていった。
今頃は、すでに戦いが始まっている頃だろう。
そのおかげで、最初に比べれば敵からの砲撃が幾分減っている。
しかし、全てなくなったワケではなかった。
「フン、この程度、なんだってのよ!」
復活したきゐこが、波間に揺れる敵船を見て鼻息を荒くする。
「数撃ったって当たるのなんてそうそうないわ、それさえ見極めて潰せばいいのよ!」
「たった今、それを実践した人が言うことは説得力が違うわね」
「何よー!」
と、騒いだ直後に、きゐこの足がもつれた。
そして彼女はよろよろと船のへりへと寄りかかって、思い切り肩を落とす。
「…………きっつ」
「船、苦手だったのね」
顔色を真っ青にしているきゐこを見て、ハルが意外そうに言った。そして、
「でも回復魔導はなしよ?」
「わかってるわよ! ……わかってるわよぉ」
「浜辺に打ち上げられたワカメみたいにしなびていくわね……」
二人がそんなやり取りをしているところに、すぐ近くから何やら異音がする。
刹那、きゐこの顔つきが変わる。
「来たわね! 盾兵の皆さ――――ん!」
新たに来た砲撃へ、彼女がそう叫んで対応を指示する。
すると、準備を終えた数人の盾兵が、何とか砲撃を受け止めた。と同時に盾が壊れる。
「……さすがにそう何回も耐えられるモンじゃないわね」
それを見て、ハルは結局は自分達が体を張るしかないのだと悟る。
きゐこは、船の激しい揺れにそろそろ自分の中身をブチまけたい気分になっていた。
●敵船A:薙ぎ払え、癒しきれ
「「海上戦闘教義、一番! 海は広いが足場は狭い!」」
敵船の一隻へと乗り込んだ『ヤバイ、このシスター超ヤバイ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)と『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が声を揃える。
ちなみに、二人が知る海上戦闘教義にそういった内容はない。
単に、乗り込んでみたら案外足場が狭くてやりにくいからあてこすっただけだ。
木製の船は、蒸気船と比べて小さく、その分揺れも大きい。
しかし、敵はさすがに慣れた者で、そんな甲板の上でもしっかりと動けている。
「全く、こういう場は好かん!」
叫ぶツボミが、敵の攻撃を紙一重で回避する。
「お互い、戦えないワケではないのですけれどね」
アンジェリカがツボミのボヤキを受けて軽く苦笑し、処刑用の大剣を振り回した。
その薙ぎ払いは、しかし敵に回避される。
軽やかな動きはいかにもといった軽戦士だが、しかし実は、速度はアンジェリカの方が上だったりする。その勢いに任せて、彼女は大剣で薙ぎ払いを連発。
「普段はトンチキなウセに、こういった場面では本当に頼りになるなぁ、貴様」
「フッフッフ、これもパスタの思し召しです! ちょいさー!」
後ろから切りかかってきた敵の一閃を側転でアクロバティックに避けてみせ、アンジェリカが両手に強く握りしめた大剣を、やたらめったらブン回し始める。
「聖なるパスタよ! 敵キャンフラ――――イ!」
すっとんきょうな祈りの言葉によって金色の輝きを纏った刃が、強烈な衝撃波を生み出して敵全体へと押し寄せていく。
海賊達が金色の剣閃に吹き散らされるのを見て、ツボミは眉間を強く押さえた。
「うむ、本当に頼りになるんだが、本当にトンチキなのは何とかならんか? なぁ?」
「フライングパスタモンスター教はあなたの入信をお待ちしております!」
「女神信仰はどこいった!」
会話だけを挙げれば、むしろ気楽なようにも聞こえる。
しかし、それは己の不利を見ないようにするための、いわば自己暗示。
アンジェリカがいかに強くとも、ツボミがいかに優れた癒し手であろうとも、やはり二人では戦線を維持するだけで精いっぱいなのだった。
押し寄せる多数の敵の攻撃に、アンジェリカは自ら闇の法衣を纏って身を晒す。
「物理力を相殺する便利な技ですけれど、長い時間もたないのが難点ですね!」
敵の攻撃に耐え続けるも、それができるのも残り数秒。
その隙に、アンジェリカは大剣による衝撃波を海賊達数人にお見舞いする。
しかし、
「耐えろ! たった二人にどれだけ時間をかけてやがる!」
杖を持った海賊が、だみ声を響かせる。
同時に癒しの魔導が発動して、倒れかけていた海賊数人が起き上がる。
さらに、船内からまた数人の海賊が増援として加わった。
「また来やがった。アンジェリカ、あとどれだけ壁になれる!?」
「たった今、効果が切れました」
ツボミが見ると、アンジェリカが海賊の攻撃によってズバズバ斬られていた。
「ええい、すぐに治す! 術をかけ直せ!」
舌打ちをして、ツボミがアンジェリカの傷を急いで癒そうとする。
揺れる船の上で、敵の数は決して減ることがない。その状況で、あとどれだけもつ?
「――もたせてやるわ、この程度!」
心に生じた不安を一口に呑み込んで、ツボミは癒しの魔導を使う。
蒸気船は、未だ敵船の囲いを破れてはいなかった。
●敵船B:気張れ、踏ん張れ、耐え忍べ
二隻目の敵船を担当する二人は、どちらも魔導を得意とする。
「数は減らぬが、しかし余とて容易に近づけさせるつもりはないぞ?」
ひょうたんの酒を煽り、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)が溜めていた魔力を一気に解放し、自分を狙おうとしていた海賊達を派手に巻き込んだ。
超極小の神の星より放たれた熱波は、敵を焼くと同時にその禍々しき呪詛の力によって動きを縛って接近を阻害する。そこへ自由騎士の次なる一手。
「全く、手荒すぎる歓迎だな、これは!」
『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が叫び、発動させた雷撃の魔導が呪詛に蝕まれた敵を呑み込み、重力の鎖でがんじがらめにする。
「ぐ、くそ、こいつら……!」
この船に乗っている海賊は、そのほとんどが格闘技者だ。
動ける範囲が広く、それなりに素早いのが特徴だが、だからこそ天輝とロジェが見せる『束縛し、動きを封じる戦い方』には弱かった。
「どうした? 海賊というてもその程度か? 海の猛者ではないのか? ん?」
「やめろ、氷面鏡。そこで無用な挑発をしてどうする」
ケラケラ笑う天輝を、ロジェがたしなめる。
その間にも、海賊の一人が素早く動いて天輝を狙おうとした。
「させん!」
だがそこに、壁となる盾兵が割り込んだ。
天輝を守るように、蒸気船の乗組員の何人かが盾を持って参戦していたのだ。
「実にナイスよ、お味方殿」
笑って、天輝は一歩後退。そして盾兵越しに魔導の一撃。
「ぐ、はァ……!?」
「小娘が、ナメやがって!」
敵が傾ぐ。しかし、すぐ別の敵がやってくる。
「ぬぅ……ッ」
さすがに、全ての攻撃をかわしきることはできない。
突っ込んできた海賊の繰り出した前蹴りが、天輝の腹にモロに命中する。
格闘技者の蹴りは、突き出すのではなく突き刺す蹴りだ。
爪先か、あるいはかかとで相手の腹を深くまで抉る蹴りは、ただの一撃といえども受けた者に実際のダメージを超えた苦痛をもたらす。
「う……、ッ!」
激痛に顔色を変え、天輝が体をくの字に折り曲げた。
「――だから無用な挑発をするなと!」
たちまちロジェが動いた。
彼が癒しの魔導をそこで使わなければ、その時点で勝負は決していただろう。
しかし、盾兵が海賊の攻撃をいくらか防いでいる間に、天輝が戦線に復帰した。
「いやいや、すまぬ。油断はしていなかったつもりであったが……」
苦笑する天輝ではあったが、酔いがしっかり醒めてしまった。
敵の能力は、自分の方が優っている。それについては確信があった。
しかし、やはり数の差が響いていた。
こちらには盾兵と、ロジェと共に行動する歩兵がいるが、だがそれらを自分達と同じ一個戦力として数えられるかといえば、そんなことはない。
防ぐ、阻むはできるだろうが、攻める、倒す、癒す、の辺りは自分とロジェが何とかするしかない部分だ。ゆえに、どうしても手が足りない。
「敵はどこだァ!」
また、船の中から敵が出てくる。
できれば敵の船自体に攻撃を仕掛けてしまいたいが、そんな余裕はどこにもない。
たかが五分間、されど五分間。なかなかにスリリングな時間だと思えた。
本来であればそんなこと考えている場合でもないのだが。
「ヒリつくのう……!」
魔力を右手に圧縮し、天輝が笑みを深くする。
「そうか。こっちはこっちでなかなか大変だ」
天輝の様子に気づいたロジェが、深々とため息をつく。
「む、何事か? 魔力が尽きたか?」
「いや、違うな」
かぶりを振って、彼は答えた。
「相方がいささかじゃじゃ馬のようでな、乗りこなすのが大変なだけだ」
「フハハ、言いよる!」
そして天輝が、広域に魔力の熱波を炸裂させた。
「なぁに、あとほんの少しのこと。その暴れ馬、見事乗りこなしてみせるがよい!」
「誰も暴れ馬とまでは言ってないがな!」
そしてロジェも天輝に続いて魔導を炸裂させる。
蒸気船はもうすぐ、越える。
●敵船C:寄らば斬る、寄らずとも斬る
「どォりゃァァァァァァ――――ッ!」
群れる敵海賊へと向かって、『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が突撃していく。敵は銃兵。多数の弾丸が彼を狙うが、その全てから、一気に突き抜けた。
持った得物は人の背丈ほどもある野太刀。
しなやかにして強靭な倭刀の切っ先が、銃兵数人をまとめて抉った。
「はぁい、そこに隙ができましたねぇ~」
ヨツカの攻撃によって生じた敵陣の穴めがけ『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が魔導を炸裂させる。
「ひぎゃああああああああああ!」
強烈な熱に焼かれ、敵銃兵と回復役が揃って場に転がり回った。
「やってくれる!」
しかし耐えた者もいた。
銃弾が、シェリルの肩に命中し、彼女は勢いに数歩後退させられた。
「あいたた……、ひどいですねぇ……」
痛みに耐えることはできても、慣れたワケでもなければ痛みが心地よいワケでもない。
なるべくならこんな傷、負うことなく前に進みたい。
誰もが思うことだろう。
そのためにまず考えるのは、早々に敵全滅させること、ではあるのだが、
「敵はどこだ! あいつらか!」
船の中から、銃を持った海賊が新たにやってくる。
それを見たシェリルは、不承不承ながら認めるしかなかった。
「全部叩くのは無理ですねぇ~……」
絶望的な気分になって、嘆息する。
その隣に、ヨツカが立った。
「どうした」
言葉少なな彼の問い。
シェリルは頬に手を当ててまた嘆息し、
「痛いの、苦手なんですよねぇ……」
そんな悩みを告げると、ヨツカは珍しく「ハッ!」と笑い飛ばした。
「簡単な話だ」
「と、申されますとぉ?」
何か、痛みを感じずに済む方法があるというのだろうか。
もしあるならば聞いておきたいシェリルであったが、
「痛みなど感じるヒマもないほど、戦いに没頭すればいい」
その言葉を聞いて気づいた。
ヨツカが浮かべている笑みは、手負いの猛獣が牙を剥く顔そのままだ。と。
「……ヨツカさぁん?」
「さぁ、敵がくるぞ。挑んだのはこちら、謝っても無駄だ。ならば戦うしかあるまい。戦って、道を切り拓くしかない。それをせねば死ぬだけだ。痛みを感じているヒマも惜しい。ならばどうする。ならばどうする!」
野太刀を手に、噛み合わせた奥歯をむき出しにして、ヨツカは笑う。
飛び来る銃弾。それが、彼の右腕に命中した。
「クハ」
ヨツカの笑みが深まった。
「剣林弾雨と呼ぶには、この場はまだまだ甘い。たかが弾雨だ。何するものぞ」
そして彼は、野太刀を地面に叩きつけ、生じた衝撃波で海賊数人を吹き飛ばした。
「寄らば斬る、寄らずとも斬る! 月ノ輪・ヨツカ、参る!」
敵陣へと自ら突貫していくヨツカの背中を見送って、シェリルはハッと我に返った。
「……何とも、男の子ですねぇ」
いささかピントのズレた感想を言いつつ、だが、彼の言葉にも理はあった。
「でも、そうですねぇ。確かにここは戦い抜かなければ意味がない場」
ヨツカが作ってくれた隙を活用し、彼女は魔力を充填する。
そして発動した魔導は、より多くの海賊達を巻き込み、その動きを止めた。
「余計なことを考えるのはやめましたぁ。とにかく、戦いますねぇ~」
「そうだ、ヨツカもそうする!」
海賊を確実に打ち倒しながら、二人は船上でなお戦い続けた。
そしてついに――、五分が経過する。
●脱出:そしてアマノホカリへ
「くぅ~~~~、結局支援砲撃も大してできなかったじゃない!」
蒸気船、きゐこが名残惜しそうに叫びつつ、マキナ=ギアで連絡を入れる。
敵船からの砲撃は結局五分間一度も途切れることはなく、だからこそ彼女が率いる盾兵も込みで防御で手一杯、そしてきゐこもハルも、相応にダメージを被っていた。
「……五分間って、こんなにも長かったのね」
敵船の囲いを抜けつつある船の上で、ハルがしみじみ呟いた。
「そうよ。普通の五分と戦場の五分じゃ、体感上、数十倍の開きはあるわね」
「慣れてるだけあって、同時ないのね……」
「フン! そんなことよりあんまり砲撃出来なかったのが悔しいったらないわね!」
やはりきゐこはブレないのだった。
そこへ――、
「戻ったぞ!」
最初に帰還したのは、当然というべきかロジェだった。
飛行手段という面ではアンジェリカもはばたき機械なるモノを持ち込んでるが、こちらは残念ながら戦闘中に破損しており、帰還には使えなかった。
次いで、ロジェと共に戦闘に参加していた天輝が何とか敵船から跳躍して帰ってくる。
「なかなかに長い五分であったのう……」
やはり帰還して緊張が解けたか、天輝は汗に濡れる額を手で拭った。
「む、先に戻っていたか」
「お疲れさまでございますぅ~」
そして、ヨツカとシェリルも蒸気船の甲板に到着。
回復手段に乏しかったせいか、二人は相応の負傷していた。
「ちょっと、傷が大きいわね。すぐに治すわ」
「かたじけない」
比較的、余力が残っているハルが急ぎ回復の魔導を使った。
アンジェリカとツボミが帰還したのは、ヨツカ達の傷がある程度癒えたあとだった。
「何だ、私達が一番最後か」
「全員お帰りになられているようで、よかったです」
こちらは、ほとんど負傷はなかった。
「ああ、疲れた……。本当にこの手の作戦は体感時間が長すぎる!」
しかし、ツボミがその場にへたり込む。
負傷こそ少ないが、魔力と気力のほとんどを使い切っているようだった。
「全員、戻ったか」
そこに、ずっと船内にいたジョセフが顔を出す。
まだ敵からの砲撃が続く中、現れた彼にきゐこが噛みついた。
「ちょっと! 何で顔出してるのよ、もう少し隠れてなさいよ!」
「そうは言うが……」
「いや、こいつはきゐこの言う通りだ。この旅は、おまえをアマノホカリに届けるためのものだぞ。こんなところでおまえは倒れたら、私達の任務はおじゃんだ」
渋るジョセフに、ツボミがピシャリと言い切った。
そうまで言われてはジョセフも返す言葉がない。彼は一言「すまない」とだけ告げた。
やがて、元よりの船の性能の差もあって、海賊船は影も形も見えなくなる。
砲撃も止まって、元のゆったりとした海の景色が戻ってきた。
「何とか凌いだな」
言うヨツカに、シェリルも「そうですねぇ」とうなずいた。
アマノホカリまでの道はまだ半ば。しかし、確実に近づいてはいる。
「絶対、まだ何かあるわよね~」
それをほぼ確信しながら、きゐこはげんなり呟いた。
しかしその彼女とて、今の時点ではまだ知る由もなかった。
まさか、次に戦う相手が宇羅幕府の棟梁――、二代将軍であるなどとは。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
†あとがき†
『あとがき』
お疲れさまでした!
何とか五分間逃げ切りましたね!
ではでは、次のお話にご期待くださいませー!
ご参加ありがとうございました!
お疲れさまでした!
何とか五分間逃げ切りましたね!
ではでは、次のお話にご期待くださいませー!
ご参加ありがとうございました!
FL送付済