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それは『英雄』だった者の話




 かつてイ・ラプセルの田舎町を獣が襲ったという話がある。ただそれは国を動かすほどの大きなものではなく、その村のある地域にひっそりと伝わった話だった。
 その獣から命を賭して村を救った男がいた。その男の名はウエニア・ルミカンと言った。男はその獣と相打ちになりその骸は村のはずれにある共同墓地へと埋められた。『英雄ここに眠る』という石碑の文字と共に。そしてそれは時が経った今でも語り継がれている。
 何か大きなことにチャレンジする時。幸福を願う時。病や災いを鎮める時。そういった時に村の人々はその石碑の前でお供え物を供えたり、お祈りをしたりしていた。
 ある日のことだった。
 とある男女がその墓へと足を運んでいた。女性のお腹は膨らんでおり、一目で子を宿していることはわかるだろう。和気藹々と話していることから、安産祈願なのだろうか。手を合わせて拝むと二人は一礼をし村へと帰ろうとした。

 突然、聞き慣れない音が辺りに響いた。

 それはまるで、蒸気を吹き出す音。少なくともこの村の付近では聞かない音だ。音は徐々に近づいていき、何事も無く遠ざかっていった。二人は一緒に首を傾げ「不思議なことがあるものだ」と笑いあい、そして男性の首が飛んだ。息をつく間もなく女性の背中に抉るように傷が走る。
 二人の後ろにいたのは、鎧を着た人、否、ゾンビのような姿だった。二人が見ることができなかっであろうそれは、とてもよく似ていた。村の伝承に描かれた『英雄』の姿に。
「---!!!!」
 ゾンビは意味を伴わない咆哮を一度あげると、二人を取り込みそのまま村へと歩き出した。


 
「お集まりいただき感謝する」
 集められた自由騎士達の前にいたのは『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)であった。
「水鏡の情報によると、還リビトによって二人、いや三人の命が犠牲になることと、近くの村が壊滅することが予見できた」
 一度死んだ人間が魔素によって生き返ったように見えるものである還リビト。三人を襲い、村を襲いたくさんの人を取り込めばもっと強くなるだろう。自由騎士達は容易に想像できるだろう。
「諸君らにはこれを回避してほしい。村の将来の命運がかかっている」
 自由騎士達は頷いた。村を襲い人を取り込むのを放っておけばいずれこの国の脅威になるほどのものになってしまうだろう。それは避けたい。
「急げばこの二人が墓地へちょうど着いた時に間に合うだろう。還リビトを倒して、そしてこの三人と村を救ってほしい」

 オラクル達は出口へと向かうと、急いで件の村へと向かった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
■成功条件
1.還リビトの討伐
2.三人の救出
はじめまして。荒木です。
英雄『ウエニア・ルミカン』とよく似た還リビトの話です。

このままでは二人の命と、新しく生まれるはずの命が失われてしまいます。
騎士として、ぜひ彼らが襲われる前に還リビト討伐をしてください。


●敵について
ウエニア・ルミカンとよく似た還リビト×1体
・無骨な鎧を身にまとい、大きな剣を持っている
・大柄で屈強な体躯ですが、その分スピードは遅そうです
・防御力が強く、普通の攻撃では太刀打ちが難しいかもしれません


●墓場について
少し大きめの共同墓地が戦場となります。
森の中にぽつんとある20m×20m程度の大きさで、墓石が数個あります。墓地の中は木は無く原っぱの様になっています。


●天候・時間帯について
真夏の夕方になります。晴れているので少し湿度が高く暑いですが、夕方ということもあってたくさん汗をかくほどではありません。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
21モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
5/8
公開日
2018年07月29日

†メイン参加者 5人†



 ●『英雄』現る
 森の小道に二人はいた。仲が良さそうな男女二人だった。男性はよく日に焼けていて、農作業を生業としているのか、服には土や泥があちこちについていた。女性は大きいお腹をさすりながら、話しかけていた。
「そこのお二人」
「あら?」
 軽く肩で息をしながら男女に話しかけた『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は、道の先にある彼らの向かう場所であろう広場を一瞥した。
「実はこの先に大きな化け物がでるという情報があったのです。ここは森の中ですから、腹を空かせた動物が獲物を求めてこちらを徘徊しているのかもしれません」
「まぁまぁ、それは大変!」
 二人はまた顔を見合わせた。森の近くに住む二人だ、腹を空かせた動物の怖さを知っているのだろう。
「ありがとう、大事なことを教えてくれて。村の人達にも言っておくわ」
 その時汽笛が森に響いた。もうすぐウエニアが現れるだろう。
「たぶん、その動物がいるようです。お二人はなるべくはやくここから立ち去って、村の方々にもこちらへくるのを控えるように行ってください!」
「わ、わかった!」
 女性はお腹を支えてゆっくりと、男性は女性を支えながらゆっくりと村の方角へと向かった。
「さて、戦闘の準備です」
 カスカは己を加速させるための準備をして、墓地へと向かった。やがて大きな体躯が視界に現れるだろう。男だとしても随分大きい。鎧を着た還リビト、ウエニア・ルミカンが姿を現した。
 身長と同じくらいの大剣を難なく持つと、カスカをみやった。

 ―――ォォォオオオオオ!!

 雄たけびと共に、カスカへと剣を振り下ろそうとし、固まった。
「穴あきチーズと冷凍マグロ、英雄様はどっちがお好みかな!」
 それは、こちらへ向かって走りながら両手で銃を持った『旅するプレイベアー』ウェルス・ライヒトゥーム(CL3000033)だった。
「俺の特製冷凍魔導弾の方が美味いだろ!」
「カスカおねーさん、おまたせ!」
 その後ろからは『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)がウェルスの横を通り過ぎてカスカの元へと近づいた。
「お待たせいたしました! 初めてなのですけど、お役に立てるよう頑張ります!」
 ウェルスの隣にはライフルを構えて、やや緊張気味の『学ぶ道』レベッカ・エルナンデス。
 そして、トミコ・マール(CL3000192)が翼をはためかせながら墓地へとやってきた。氷から解き放たれたウエニアはやがて一歩一歩、ゆっくりとだが歩き始めた。その方向は今しがた男女が帰っていった方向、村だ。
「ここから先へは絶対に行かせないんだよ!」
 カノンと、そして他の四人も各々武器を構えた。ウエニアは一つ、大きく唸り上げると、大剣を上段に構えて、振り下ろした。

 ●『英雄』との戦い
「時間の問題だからな、速攻カタを付けるぞ!」
 初めに攻撃を繰り出したのはウェルスだった。
「やっぱり英雄様のお好みは穴あきチーズか!」
 自身の武器で素早い二連撃をウエニアめがけて放つ。しかしそれはウエニアの鎧に傷を付けるも、貫通はしない。
「ぐっ、物理はそんなに効かないのか!?」
「それなら、狙いは鎧の無い、頭ですわ!」
 ウェルスの攻撃が通らない所を見たレベッカは即座に状況を把握し、引き金を引いた。狙いは文字通りヘッドショット、顔だ。ウエニアは一瞬動きが止まり、一歩後退するも何事も無かったかのように再び動き出した。
「とりあえず、鎧の無い所を狙えばいいんだな!」
「そうらしいですわ!」
 ウエニアから少し離れた場所から、精神を研ぎ澄ませて、二人は急所であろう場所を狙い始めた。
 ウエニアのすぐ近くの場所では、カスカ、カノン、トミコが戦っていた。
 トミコは地面を鉄塊で思い切り叩きつける。通常ではあり得ないほどの衝撃に衝撃波が森を揺らし、それはウエニアを襲う。羽根をヒラヒラと動かしながら、ゆったりとした動きながらも確実にウエニアの動きを遅くしようとした。
「せやあ!」
 カノンは身軽な動きで近くの石を飛び越えて助走を付ける。勢いをためてそのまま、拳をウエニアへとぶつけた。それは敵の体内奥底まで攻撃する技。
「……あれ!?」
 しかし鎧が分厚いのか手ごたえはイマイチで、困惑している間にもカノンを大剣が襲い掛かった。
「おおっと!」
 その大剣の攻撃を受けながらも、巧くいなして自身へのダメージを減らす。
「これならどーだ!」
 再びウエニアへと拳を叩きつける。衝撃を広げず一点に絞り、障壁の向こうへと力を伝える技。
 その攻撃を受け、ウエニアは大きな咆哮をあげ、たまらずカノンから逃げようとする。
「よし、これが効いてる!」
 ウエニアが逃げようとした、その先にはカスカが、その愛剣の逢瀬切乱丸を向けて立っていた。
「どうやらあなたの時代では頑丈な鎧に巨大な剣、というのが英雄像らしいですね。確かに強いです。ですが……遅い!」
 ウエニアの動きを圧倒的に凌駕するその速さで、カスカは一撃を加える。全てに意味があり、意味が無いものなどない様な動き、そして剣撃。
 ウエニアの鎧の一部は壊れ、ゾンビのような足が一部見えた。
「冷凍マグロ一丁、凍れ!」
 突如、その足が氷に閉ざされた。ウェルスがウエニアの膝の関節あたりを凍らせたためか、ウエニアの動きが止まった。
 それに追随するようにカスカはさらにもう一撃加える。
「私が目指すのは柔剛一体、敵を斬る為に速度と力を併せ持った妥協なき剣」
 ウエニアの大剣が振り下ろされたその直後を狙う。
「故に、貴方には負けるわけにはいきません!」
 再度、剣を水平に構え、ウエニアを斬る。
「わたくしも……やれますわ!」
 緊張気味で肩が凝り固まっていたレベッカだったが、どうやら温まってきたようで、どんどんウエニアへと銃弾を当てていく。ウエニアが動き出そうとした方向を妨害するように、タイミングをずらした二連撃でウエニアの意識を翻弄させていた。
 トミコは飛行しながら一度大きく吠える。自身を奮い立たせ、闘争心の火を大きくする。たかがそれだけ、されどそれだけ、トミコの叩きつける鉄塊の強さ、勢いは段違いに強くなった。無造作に見えるその鉄塊で叩きつける様子も、トミコの技術の内の確かな一振りであり、確実にダメージを負わせていた。
「ねぇ、ウエニアさん! 貴方も村を襲うことは本意じゃないよね!」
 カノンは意思疎通ができないとは知りながらも、還リビトと化したウエニアへ話しかけながら攻撃を続ける。
「貴方を操ってる悪いヤツをぶちのめして、絶対貴方も村も救って見せるから!」
 ウエニアの耳へと、そしてその先へと届いたかどうかはわからない。しかしカノンの頭上に振り下ろされた大剣の動きが止まり、ウエニアが一瞬自我を取り戻したような錯覚を五人は覚えるだろう。

 ―――オレヲ ハヤク タオシテクレ

 一瞬正気を取り戻したかのように話すと、すぐにまた大剣を振り回し始めた。
「おかしい! 還リビトは意思疎通できないはずだろ!?」
 思わずウェルスの攻撃の手が止まり、今しがた起きた事態を理解しかねていた。
「今のはどう足掻いたって意味のない言葉なんかじゃないだろ!」
「そうですわ、しっかりと言葉を話しましたわ!」
 五人に動揺と違和感が駆け抜けた。しかし動揺して攻撃をやめている場合ではない。このまま手を止めていればいずれかウエニアは村を襲ってしまうだろう。言葉を介すとはいえやはり還リビト、害をなす存在だ。
「わかった! 絶対、ぜーったい、貴方も貴方の村も救うから!」
 カノンはウエニアの目の前でそう叫ぶ。
 ウエニアの繰り出す攻撃を避けながら、何度も何度も、そう叫んだ。

 ●『英雄』を救う
 黒が橙を侵食して空を覆い始めた。
 電気の無い墓地はいっそう暗くなり始めていた。
 ウエニアの鎧は大半が崩れ落ち、むきだしになったその体躯も傷がつき、動きが鈍くなっていた。もう一息、そう五人は確信するだろう。
 ウエニアも最後の力を振り絞るように、五人の攻撃を受けながらも必死に足を前に動かし、大剣を振り上げ、前に進もうとしていた。
 レベッカは移動しているウエニアから一定の距離を開けながら移動し、ウエニアの鎧が無い急所を重点的に狙う。なるべく安定した硬い石の上から銃弾を放つ。
「人の形をしている……抵抗がないわけではありませんけれど……やはり亡くなった方は決して生き返りませんわ!」
 先ほどのウエニアの言葉を聞いて多少自問自答していたが、結論がついたのか、先ほどよりも的確に攻撃をしていく。
「ラストスパートだ、気合入れていくぜ!」
 ウェルスは銃を細かに微調整しながらウエニアへと銃弾を放つ。戦闘でたくさん使ったためか魔導や器用な技を使う余裕はすでに無かったが、ウエニアの急所を狙うことはできていた。力を宿した弾丸は鎧の無い顔や足を的確に貫いた。
 同じくトミコも既に鉄塊を叩きつけて衝撃波を起こしたり、鎧の上から通用するような一撃を与えたりする余裕はすでに無かった。しかし、肝っ玉母さんと周りから言われるようなその性格から、逃げる、諦める、手を抜く、そういう感情は毛頭なかった。
 残った力をなんとか使い、鉄塊をウエニアへと叩きつけた。
「英雄さん、もう少しで貴方をちゃんと元の場所に戻せるから!」
 カノンは振り下ろされたり横に薙いだりするウエニアの大剣を器用に避けたりいなしたりしつつ、その合間合間を縫って鉄山靠を繰り出す。
「絶対に、英雄さんを殺戮者になんかさせないから!」
「さて、そろそろ眠らせてあげましょう」
 ウエニアの動きが鈍くなった、その時を狙ってカスカが動いた。器用に攻撃を躱しながらウエニアのすぐ近くまでたどり着くと、剣を鞘へとしまった。
「天理真剣流」
 剣を抜いた。空気が破裂する音が森に響く。鞘の中で起きたその破裂は居合抜きによる剣を加速させる。鞘の先が破損するほどの勢いがすべて剣へと伝わり、その速さは目にも留まらぬものだった。
「発破抜打!」
 カスカのその技名の声が終わると同時に、剣は止まり、ウエニアの体躯は上下に真っ二つとなった。

 ―――オォォォ

 静かに、話しかけるように唸るウエニア。その真意はわからないが、倒れたその時の顔は、どうやら安心した顔だった。

 ●『英雄』の終わり
 すでに日は落ち、もうそろそろで夜となりそうなころ。
 墓地には唄が響いていた。それは哀しい、しかし希望の見えた鎮魂歌。カノンは身体の目の前で手を合わせながら唄っていた。
「きっと英雄さんはセフィロトの海に還れた、よね」
 カノンは目を開けると、空を見上げた。
「さ、はやくこれを終わらせて村にいってみよー!」
 還リビトを倒したあと、すぐにウエニアは遺体、というよりも風にさらわれそうな骨の粉となった。随分昔に生きた人だからだろうか。それをウェルスとカスカ、トミコの三人が墓地の下へと埋め直していた。レベッカは近場の石で初めての自由騎士の活動で得た勝利と、そして安堵をかみしめていた。
「庭師が墓穴を掘るなんて、どこかで聞いた桜の木の下に死体を埋める怪談みたいですね」
 笑いながら「笑い話ではありませんが」とカスカは言った。トミコはその後ろでハッハッハと腹から声を出して笑いながら作業を続けていた。
「くそっ」
「どうされましたか、ライヒトゥーム様?」
 毒づきながら地面を整えるウェルスにレベッカは不思議そうに問いかけた。
「交霊術でウエニアにいろいろ聞こうと思ったんだけどよ、何一つ大事なこと聞けなかったぜ」
「どんなことを話されていたんですか?」
 ウェルスは近くの石にどっかりと座ると、腹立たしそうな顔をして頭を掻きむしった。
「あいつの相棒は『アル・ミカーンノ』なんだと、こんなしょうもないことで予想が当たるなんて、無駄に無駄な運を使った気がするぜ」
「まぁ! でもあながちそれが後々大事になるかもしれませんわ」
「どうだかなぁ……」
 ふと、二人は今しがた直した墓地を見遣った。
 つられて残りの三人もウエニアの墓地を見るだろう。
 昔の英雄をも還リビトになる現象、そして謎の汽笛。
 それはきっと、決して楽観してはいけない現象なのだろう。しかし、今は、英雄を『救った』今日だけは、少しくらい休んでもいいだろう、そんな考えが浮かんでくるだろう。

 埋葬を終えて五人は墓地に建てられた石碑を見た。
 そこには近くの村を救った英雄の名前が書かれていた。
 去る間際、五人は石碑に向かって手を合わせた。
 もう起きてこないように。そして村の人々を見守ってほしい、そんな願いを込めて手を合わせるだろうか。少しして、墓地からは人影が無くなった。


 これは『英雄』だった者を救う話。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

ご参加いただきありがとうございます。荒木です。
 はじめてのリプレイいかがだったでしょうか?
 楽しんでいただけたのであれば幸いです。

 MVPの理由としては率先してまとめ役をして頂いていたためです。

 それではまた次のお話でお会いできるのを楽しみにしております。
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