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<<豊穣祭WBR>>ちびっこ勇者の悪霊退治




 豊穣祭ウィート・バーリィ・ライ。
 麦の穂には悪霊を払う効果があるという話から発祥した風習。水の国のお祭りのひとつ。
 大人も子供も様々な仮装をして、大人たちは無料で振舞われるエールを、子供たちはお菓子を求めて街を歩き回る。そんな賑やかで楽しいお祭り。
 ただでさえ、お祭り好きが多い国だ。誰も彼もが、お祭りの日を今か今かと待っている。
 けれど、お祭りのことを考えながらも、なんだか苦しそうな顔をしている人物がひとり。
 初老の男性が穏やかな眼差しを向ける先には、子供たちがすやすやと眠っている。
 そう、此処は、とある孤児院。そして、男性は孤児院の院長だ。
 院長は、眠る子供の手に握られた手作りのオモチャの剣を見て、ひとり、溜息を溢す。
 ああ、この子たちにも、豊穣祭をめいっぱい楽しませてあげることが出来ればよいのだけど。


「ちびっこ勇者たちに、倒されてきてほしいんだよ」
 今日も眠そうな『芸術は爆発』アンセム・フィンディング(nCL3000009)が言う。
 思わず首を傾げていると、アンセムは今にも寝そうな雰囲気でむにゃむにゃと話を続けた。
「とある孤児院で、豊穣祭のお手伝いを、探してる。悪霊役。子供たちに叩かれてくれるひと」
 アンセムの話によると、ちびっこ勇者とはどうやら孤児院の子供たちのことのようだ。
 孤児院の少ない職員で子供たちを街に連れていくことは難しい。けれど、子供たちにも豊穣祭を楽しませてあげたい。
 そんな気持ちはあるのだが、子供たちの世話、お菓子の用意、それから悪霊役もして、と考えると、職員だけではとても手が回らない。
 だから、お手伝いをしてくれるひとを探すことになったようだ。
「ぼくは豊穣祭では描きたいものがあって、お手伝いはちょっと難しい。ふあ、あ」
 大きなあくびをひとつ。遂にアンセムがうつらうつらと船を漕ぎはじめた。
「……終わったら、みんな、で……、……お菓子食べようって、言って、……むにゃむにゃ」
 もうすこし頑張って。けれどその思いが届くことなく、アンセムはもう半分夢のなか。
 お願いが書かれたメモを差し出す形で、アンセムはそのままむにゃむにゃと眠りに落ちた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
日常σ
■成功条件
1.孤児院の子供たちと豊穣祭を楽しむ
 あまのいろはです。
 うぃーと・ばーりぃ・らーい! 叩き叩かれ?楽しみましょう。

●ちびっこ勇者たち
 孤児院にいる子供たちです。
 種族も性別もバラバラで20人ほど。年齢は5歳から15歳くらいまで。
 お手製の王冠とマントでかカッコよく、ドレスで可愛らしくしている子もいます。

●場所
 イ・ラプセルの孤児院。苦しくもないけれど、楽でもない程度の経営のようです。
 基本的には室内ですが、孤児院内でしたらどこを使っても大丈夫です。
 あまり広くはありませんが庭もあります。

 派手でも豪華でもないですが、
 職員さんたちで豊穣祭向けに室内を飾り付けたり、お菓子を作ったりして
 自由騎士の皆さんが来るのを、子供たちも職員も楽しみに待っています。

●補足
 仮装の衣装について、プレイングに一言だけでも書いて頂けると嬉しいです。
 可愛い仮装でも、本格的な仮装でも、お好きな格好でどうぞ。
 でも、本格的な仮装の場合、子供たちのトラウマにならない程度にしてあげてね。

 基本的には悪霊役として叩かれてお菓子をあげるお仕事ですが、
 ちびっこ勇者たちと一緒に、悪霊退治する人がいても大丈夫です。

 情報は以上となります。楽しんできてくださいね。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  1個  2個
11モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
5日
参加人数
8/8
公開日
2018年11月14日

†メイン参加者 8人†




 誰もが楽しみにしていた豊穣祭ウィート・バーリィ・ライ当日。
 通りからはエールを振舞う声や、子供たちが笑う楽しそうな声が聞こえてくる。
 そんなお祭りの日に、自由騎士たちが向かったのは、イ・ラプセルのとある孤児院。人手が足りないため、子供たちを楽しませる手伝いをして欲しいと頼まれたのだ。
「孤児院、か。……まあ私も孤児だしね」
「エルシーさんもですか。私も孤児院の出身です」
 セクシーなサキュバスの仮装をした『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の言葉に、魔女の仮装をした『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)が答えた。
 ふたりとも、孤児院だった過去を持っている。そんなふたりがこの依頼を断る理由もなかった。アリアは、自らの手に持つカボチャの形をしたカゴを見詰めながら微笑む。
「みんな、喜んでくれると良いんだけど……」
 カゴの中身は、彼女が一生懸命用意した手作りのクッキー。ハートや星などの形の他に、ケロンやメモリアの形のクッキーも作った。プロには及ばない味かもしれない。けれど、気持ちはたっぷり込めた。
「俺も、子供達には楽しい豊穣祭を過ごして貰いたい。その為なら全力を尽くそう」
「えっと……」
 エルシーとアリアに声を掛けたのは、お化けカボチャの騎士。
 その正体は『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)だが、すっぽり顔が隠れているため、一瞬誰だか分からない。
「………アリスタルフだ」
 カボチャの頭を指で軽く掻きながら、すこしだけ気まずそうにアリスタルフが答える。
「還リビトの仮装だと刺激が強すぎるかもしれないし、そもそも俺は目つきが少し悪いからな」
「……ああ、だからなんだか面白くて可愛い格好なのね」
 頭にはすっぽりお化けカボチャの被り物。けれど、服はきりりと凛々しい騎士の服。手には飴が刺さった槍を持っている。ちぐはぐなバランスがちょっと面白い。
「そういうエルシー殿も、子供には刺激が強すぎるような……」
 セクシーサキュバスの名の通り、惜しみなく晒される肌。うっかりハプニングが起きたら、いろいろ見えてしまいそうだ。
「……私もあまり裕福じゃないのよ」
 エルシーは視線を逸らしながら答える。そう、自由騎士にも皆いろいろ事情があるのです。

「準備完了! よーっし、サシャは子供たちに麦の穂を配ってくるんだぞ!」
「私も行くよ! うぃーと・ばーりぃ・らーい!」
 『銀の癒し手』サシャ・プニコフ(CL3000122)と、『麦盾の勇者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)のふたりは勇者の仮装だ。
 サシャは、ピンクのスカートに青いマント。動くたびにマントがひらひら揺れて可愛い勇者。
 カーミラは、さいきょーの聖剣(ハリボテ)とさいこーの麦盾(ハリボテ)を持った、カッコいい勇者だ。
 ふたりの勇者は、麦の穂を両手いっぱいに持って、準備のための部屋から飛び出した。
 けれど、部屋を出てすぐの廊下には、院長と『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)の姿が。ふたりとも、何かの入った箱を抱えている。
「これで足りますか?」
「充分です、これだけあれば――― ……おっと!」
 箱を抱えたままのアンネリーザは、走ってきたふたりの勇者を器用に避けて。
「元気がいいのは結構だけれど、ケガしちゃ駄目よー?」
「分かってるよ!」
「サシャよりおにーさん、おねーさんにはそれなりに敬意をはらうのも忘れないんだぞー!」
 そう言いながら走っていく姿を見て、本当に分かっているのかしらと、アンネリーザは笑みを溢す。そんなふたりの姿を見た院長も、元気ですねと笑っている。
 ふたりの勇者を見送りながら、差し支えなければと院長が布の入った箱を覗きながら聞く。
「それにしてもアンネリーザさん、この布をどうするつもりですか?」
 要らなくなった服やテーブルクロスなどの柄物の布が欲しいと言ったことを不思議に思ったのだろう。
「ちびっこ勇者たちに、ちょっとした贈り物をと思いまして」
 アンネリーザが箱のなかを覗きながら微笑んで。詳しくはまだナイショです、と続けると悪戯っぽくふふふと笑った。

 厚底ブーツに中が見えない大きなマント。頭には王冠を被って、王冠の真ん中にペットであり相棒のハムスター、おもちをちょこんと座らせれば―――
「大魔王ナナンなのだ!」
 いつもよりすこしだけ高くなった視線に満足そうに、ふふふと笑う『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)。
「ナナンもちびっこだけどぉ、もっとちびっこの子達に、いーっぱい楽しんで貰うのだ!」
「オマエ、魔王? オレも、魔王! オナジ!!」
 『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)が、ギザギザの歯を見せてニカっと笑った。
 額の渦巻きに目のシールをぺったり。肩幅しっかりの大きな鎧は、ぶつかっても安全なやわらか素材でトゲトゲを増設。マザリモノの見た目も最大限に生かしたエイラの仮装は迫力満点。
「エイラちゃん、気合十分だねぇ!」
 ナナンがエイラのトゲトゲを指で軽くつんつんと突っつきながら笑った。エイラは真面目な目つきでこくりと頷いて。
「子供向ケと子供騙シは違ウ。ちびっこ勇者は、勇者。だカラ。倒サれるオレも。チャント悪霊ヤル。甘ク見ル駄目。良イ無イ」
 エイラは、遊びだからと言って手は抜かない。それに、遊びは本気でやるから楽しいのだ。
「本気だから楽シ。ミンナで、楽シが良イ。頑張ルル!」
 エイラはぐっと握った拳をナナンに突き出す。ナナンは一度、二度とぱちくり瞬いてから、エイラに向かって拳を突き出して、こつんとぶつけた。
「ふふー、ナナンだって大魔王として負けないよぉ?」
「悪者得意! オマエオレ、勝負!」
 くすくす笑うナナンと一緒におもちも揺れている。そうして笑いあうふたりは、悪巧みをする魔王そのものだった。


「みんなー! 突撃だーっ!」
 剣を掲げたカーミラの号令とともに、孤児院でのお祭りが始まった。カーミラに先導されて、子供たちがわぁっと悪霊へと駆けていく。
「ふふふ、魔法の力で子犬に変えてしまいますよー」
「はーっははは、我は呪われしカボチャの騎士! さぁ、勇者達よ、かかってくるがいい!」
 魔女が、カボチャの騎士が、いろんな悪霊たちが、子供たちの前に立ちはだかる。我先にと立ち向かっていく子供もいるが、怯えて動けなくなってしまう子ももちろんいた。
「だいじょーぶ、私がついてるからねっ! ほら、あそこに悪霊がいるよっ!」
 カーミラはそんな子供たちを励ますと、近くに居たカボチャ騎士のアリスタルフへと子供たちを引き連れて突撃。麦の穂がアリスタルフを襲う。
「ははは、そんな攻撃痛くも痒くもないわ!」
 けれど、すぐにやられてしまう悪霊では、きっと子供たちも面白くないだろう。そう考えたアリスタルフは子供たちの包囲を掻い潜り、あちらこちらと器用に逃げる。
「ぐっ、なかなかやるな……! 戦略的撤退をさせて貰う!」
「逃がさないんだからー!」
 キャンディと落としながら逃げるアリスタルフを、カーミラと子供たちが追いかける。逃げる背中に追いついた子供たちが、麦の穂を振り被って一撃!
「ぐわーっ!! む、無念……やーらーれーたー……」
 叩かれたアリスタルフがその場に倒れると同時に、マントに仕込んであったお菓子がいっぱいにばら撒かれる。綺麗に包まれたキャンディとヌガーが辺りいっぱいに広がった。
 子供たちが嬉しそうにお菓子を拾う姿を見ながら、アリスタルフは微笑む。けれど、いつもよりほんのすこし優しくなった彼の目つきは、カボチャの被り物に隠れて誰にも見えなかった。

「ふっふっふっ、大悪魔エルシー様の登場よ。特に男の子はひれ伏すがいいわっ」
 自由騎士たちの悪霊にも慣れてきた子供たちの前に、エルシーが登場する。生意気な勇者は可愛がってあげましょうと、色気たっぷりに笑うエルシーだったが。
「えるしーおねーちゃん?」
 不意に名前を呼ばれたエルシーが振り返る。そこには、エルシーをじっと見詰める男の子が立っていた。その姿を見て、エルシーの笑顔がちょっとだけ硬くなる。
 ほんのちょっとだけ心配していたのだ。こんな展開になることを。そう、孤児院同士で交流で会ったことのある子供がいることを!
「しーっ! 空気を読んでほしいわ」
 しゃがんで男の子の視線に合わせ耳打ち。けれどまだまだ幼い彼には、配慮だとか気遣いだとかは、一切ない。だからこそ子供なのだ。
「えー? えるしーおねえちゃん、でしょ? おねーちゃ」
「ほらほら、勇者様の力はこの程度? もっとがんばりなさい」
 予備動作ゼロ。格闘技にハマり、格闘技術の向上に努めてきた彼女の技は伊達じゃない。エルシーはいとも簡単に男の子を転がすと、そのまま痛くない程度の寝技を決める。
「わー!! ずるい! えるしーおねーちゃんずるい!!」
「大魔王エルシー様とお呼びなさい」
 ばたばたともがくが、逃げられる訳もなく。こうして子供は、大人になっていくんだね。

 赤を基調としたうつくしい羽がふわふわ揺れる。アンネリーザのハーピーの仮装は子供たちの目を引くようで、すっかり人気者だ。
「さぁ、勇者達よ、この私を倒せるかな?」
「すごい! きれい!」
「おねーちゃん、この羽どうなってるの?」
 子供たちがきらきらとした瞳でアンネリーザの仮装を見詰めている。ハーピーの衣装は、アンネリーザのお手製だ。それを褒められて悪い気分になる訳がない。
「えーっと、これは……って、そうじゃなくて! 私は、こわーいハーピーよ!」
 職人としての血が騒いで、思わず衣装についてのアレコレを語りたくなったアンネリーザだったが、はっと我に返る。今日は悪霊になりきると決めたのだ。
 驚かすようにばっと羽を広げて見せれば、きゃあきゃあと子供たちがはしゃぎながらアンネリーザを麦の穂で叩いた。
「きゃー! やられたァ!」
 ふらふらと倒れるフリをすると、用意していたお菓子を子供たちへと手渡した。
「ふっふっふ、よく私を倒したわね……。ご褒美にお菓子をあげましょう」
 それからこれを、とアンネリーザは子供たちの胸に何かをつけてあげる。それは、用意してもらった布で作った、手作りの勲章。
「オンリーワンの勲章よ! 小さな勇者たちに敬意を評してね」
 勲章を胸につけた子供たちの心から嬉しそうな笑顔を見ながら、この子たちが国の未来を憂うことなく健やかに育ってくれることを、アンネリーザは願うのだった。

 素早い反応速度を生かして、するりと麦の穂を交わして子供たちを翻弄しているのは、アリアだった。移動手段として、スキルの影狼を使えば、まるで瞬間移動したように見える。
「私においつけるかなー?」
 子供たちは不思議がってアリアの後を追いかけるが、なかなか彼女を捉えることが出来ない。
「麦の剣は勇者の証だぞ! みんな頑張って悪霊を退治するぞ!」
 苦戦する子供たちを、サシャが鼓舞している。サシャの言葉に励まされた子供たちが、一生懸命に麦の穂を振るう。
「むむ、やるな、ちびっこ勇者たちめ」
「サシャが悪霊を抑えておくから、今のうちにやっつけてほしいぞ!」
 サシャがアリアの行く手を阻み、アリアの動きが止まる。その隙にぱしぱしと麦の穂をアリアに向かって振るう子供たち。
「うわー、やーらーれーたー」
 そうして、手強い魔女もちびっこ勇者たちの麦の穂によって魔女も倒される。苦労したぶん、喜びもひとしおだ。
「悪霊をやっつけたらお菓子がもらえたぞ、よかったんだぞ!」
 しっかりと子供たちと視線を合わせて、アリアがお菓子を渡す。ちゃっかりアリアからのお菓子を受け取ったサシャも嬉しそうだ。
「頑張ったご褒美にサシャのお菓子もあげるんだぞ」
 魔女退治はみんな楽しく無事成功、と思いきや。子供たちに囲まれお菓子を配るサシャとアリアは、背後からそろりと近づく不穏な影に気付かない。
「ひゃっ!?」
 そう、マセた子供はどこにでもいるもので。ふわりと、アリアのスカートがふわりと捲れ上がる。見えてしまった下着の色は、貴方だけのヒミツだよ。
 慌ててスカートを抑えるが、もはや起きてしまった一瞬の出来事。羞恥で耳まで赤くなったアリアは思わず涙目。言葉を失ったアリアを見て、真っ先に動いたのはサシャだった。
「こらー! イタズラする悪い子は、実は悪霊だったサシャがおしおきするんだぞ、がおー!」
 アリアは、イタズラをした子供を追いかけるサシャを見ながら、仕方ないなあと苦笑い。
 その後、結局サシャに捕まっておしおきされている子供を見ながら、後ろも気をつけなきゃ、とスカートを押さえるのだった。


 悪霊たちがちびっこ勇者によって次々に倒されていく。たくさんのお菓子が渡され、子供たちの嬉しそうな笑顔が溢れる。
 けれど、まだ悪霊退治は終わっていない。そう、魔王がふたり、残っているのだから。
「フーハーハー! ワレ、魔王ガニュメギガデスなリー!」
「よくぞここまでやって来たのだ! ナナン大魔王が勇者達をやっつけちゃうんだよぉ!」
 満を持して現れたエイラとナナンの魔王ふたり。ナナンは跳び箱の上に立ち、子供たちの前にジャンプして華麗に着地! ―――の、はずが。ぐきり。なんだかちょっと鈍い音がした。
(うぅ……。ちょっとだけ足を挫いちゃったのは内緒なのだ!)
 しゃがんでふるふる震えるナナンの側へ、子供たちが心配そうに近づいてくる。
「だ、大丈夫! ちびっこ勇者達よ! 掛かってくるのだ!」
 けれど、すぐに立ち上がって。子供たちに向かって魔王らしく不敵に笑って見せた。
「ワレらに歯向カう。トは。愚カなー! カカッて来ル良イ勇者どもー」
 曲刀を振り回し、麦の穂に抵抗していたエイラだが、暫く叩かれたエイラは子供たちからばっと距離を取った。
「グワー!? な、中々ヤるでは無イかー。コうナったら真の姿を見セてヤるー!」
 幻想変身によって、エイラが栄螺鬼の形へと姿を変えていく。サザエの蓋が顔になっている鬼の身体。はじめて見る姿に子供たちはびっくりしたようで、動けずにその場に立ち竦む。
「フーハーハーハー! 見タか。コレこそワレのサイシューケータイよー!」
 けれど、そう言って鉤爪飾りのついた両手を構えるエイラは、姿が違えど先ほどまで一緒に遊んでいたエイラとなにも変わらない。子供たちがけらけら笑い出した。
「ナナン大魔王も負けないよっ!」
 本気で子供たちと遊ぶエイラを見て、ナナンもぐっと拳を握る。挫いた足がちょっとだけ痛いけど、ナナンには向かってくる子供たちの足止めをする秘策があった。
「足元を見るがいい勇者たち!」
 子供たちが足元を見ると、なんと! あろうことかそこにバナナの皮があったのです!
 どこからか現れたバナナの皮に、足止めされてしまう子供たちを見て、ナナンはえへんと胸を張る。
「ふふー!これで近付けまい!」
 足止めを食らう子供たちだったが、大きな子供たちがバナナの皮を退けて道を作ってあげると、小さな子供たちがその道を抜けて魔王へと一直線。
「はっ、卑怯な!」
 たくさんの麦の穂が一斉に魔王たちへ振り下ろされる。ぺちぺち、ぱちぱち。魔王を倒そうとする麦の穂の音が孤児院いっぱいに響き渡った。四方から襲い掛かる麦の穂は、流石の魔王たちも堪らない。
「マサかこの魔王ガ打チ倒サれるとはー。グギャアー」
「わーっ!? 勇者たちめ、覚えてろー!」
 ついに、魔王ふたりが倒れ伏す。エイラの貝殻と、ナナンのマントからたくさんのお菓子やフルーツ、それにオモチャが派手に飛び出した。
 オモチャ箱をひっくり返したようなその光景に、子供たちが群がってくる。そんな姿を見ながら、大成功だねとナナンが笑った。

 こうして、魔王たちも倒されれば、勇者も悪霊も一緒になってみんなで楽しくお菓子の時間。
「オレ、エイラ。オマエら名前。言ウ!」
 すっかり子供たちの人気者になったエイラが子供たちに囲まれている。
「ほらほら、綺麗で美人なエルシーお姉さんの登場ですよー」
 寝技を決められた子供が、仮装をやめたエルシーに何かを視線で訴えてくるが気にしない。
「あれ? もう仮装おしまいなの? 自慢大会したかったのに!」
「いつまでも仮装しているのは、私でも恥ずかしいし」
「俺も、被ったままではお菓子が食べられない」
 エルシーはカーミラの言葉に軽く頬を掻く。カボチャの被り物を外したアリスタルフも、いつものクールな彼に戻っていた。
 そうして、楽しい時間を過ごした自由騎士と子供たちだったが、楽しい時間はあっという間に過ぎていくもの。
 子供たちは名残惜しそうに自由騎士たちを見詰めているが、もうお別れの時間なのだ。楽しかったよ、また遊ぼうね、そんな会話をして。
「そうだ! 孤児院のおじちゃん、これあげる!」
 帰り際にナナンが手渡したのは、ひまわりの種。子供たちと一緒におもちにあげていたものが、すこし残ったのだ。
「皆で植えてみてねぇ! ひまわりが咲く頃に、また皆で遊びに来るよぉ!」
 新しい約束をひとつ。院長は嬉しそうに微笑むと、楽しみにしていますと告げた。
 孤児院の子供たちが手を振っている。それに応えるように手を振って、自由騎士たちは孤児院を後にした。
 孤児院の子供たちは、自由騎士たちの姿が見えなくなるまで、ずっとずっと手を振っていた。麦の穂を、お菓子を、大事そうに抱えながら。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ひまわりの約束』
取得者: ナナン・皐月(CL3000240)
特殊成果
『お菓子なオバケの詰め合わせ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
FL送付済