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《オラトリオ1819》爆走チュウ意!守り抜け誕生祭

●
オラトリオ・オデッセイ。
それは神がこの大地に降り立った奇跡を祝うまつりだ。
創造神はこの世界に自分の体を10に分けて実在なる神を与えた。
創造神は一週間かけて神を作った。神は一週間かけてこの世界を知った。
12月24日から年があけ、1月7日までの間。
人々は神の誕生を祝う。
朝日が登る。海より出る光が、今日も新たな門出を祝うかのように大地へと満ち満ちる。
世界は祝福の声に溢れ、人々も自然も大地も、動物達ですらこの健やかなる祝いのひとときを喜んでいるようだった。
ドドドドドドド……。
砲撃のような、極東の国の打楽器を打ち付けたような、唸りのごとき重低音が穏やかな静寂をかき乱す。土煙を上げ、大地を揺らし、祝福の世界を乱す影――もとい、群れがひとつ。
列を成し、野山を荒らしながら脇目も触れず一目散に走る。鈍色の短い毛に覆われた、饅頭を思わせる体。丸い耳に、大きく鋭い歯。体と同じほどの長さはあるであろう、細い尻尾をちょろちょろと振り乱す。
ひた走るそれはネズミの姿をしていた。しかしその大きさは1メートルを越え、ネズミの範疇を優に越えていた。ネズミというより、イノシシと形容した方が相応しいかもしれない。
彼らは走る。ただひたすらに、まっすぐに。その目的がなんなのか、どこを目指して走るのか。それは誰にもわからない。
その歩みは悪魔の行軍。過ぎ去った後には何一つのこらない。荒れ果てた大地が延々と続いているだけ。
ドドドドドドドド……。
彼らの行く手の先あるのは、祭りににぎわう一つの町。迫り来ようとしている悪夢など何も知らない人々が神の誕生を喜び、祝い、楽しい時を過ごしている。
ネズミ達は止まらない。それどころか、勢いは激しさを増していく。
大地を揺るがす災厄が、人々を脅かすまで、あと…………。
●
「そんなわけで! みんなにはこのネズミ型イブリースを急いで退治してほしいんだ」
水鏡階差運命演算装置の前で、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は自由騎士たちに告げた。
「このままネズミ達が進めば、町に直撃して大きな被害がでちゃう。そうなる前にイブリースたちを倒す。これが今回の依頼だよ。群れは全部で10匹。先頭の一番大きなネズミがリーダーで、他のネズミ達の統制をとってるみたい。彼の進行方向さえ変えられれば、町に向かうのを避けられるかも」
クラウディアはイブリースの情報を告げると、むぅと唇をとがらせた。
「自由騎士のみんなもお祭りを楽しんでたのに、ほんと迷惑なイブリースだよね」
アクアディーネ様の誕生祭に水を差すとは、なんと空気の読めないイブリースなのだろうか。彼女は憤慨する。楽しいお祭りをこれ以上邪魔させるわけにはいかない。
自由騎士たちも、武器を握る手に力がこもる。
「みんな、頑張ってね! 任務が終わったらめいっぱいパーティしよう! 私、とびっきりのお菓子を用意して待ってるから!」
そう言うと、クラウディアはぎゅっと小さな拳を握りしめた。やる気満々、気合い十分といった感じだ。楽しみにしててねと見送る彼女に、自由騎士達はぎこちない笑顔を浮かべたのであった。
オラトリオ・オデッセイ。
それは神がこの大地に降り立った奇跡を祝うまつりだ。
創造神はこの世界に自分の体を10に分けて実在なる神を与えた。
創造神は一週間かけて神を作った。神は一週間かけてこの世界を知った。
12月24日から年があけ、1月7日までの間。
人々は神の誕生を祝う。
朝日が登る。海より出る光が、今日も新たな門出を祝うかのように大地へと満ち満ちる。
世界は祝福の声に溢れ、人々も自然も大地も、動物達ですらこの健やかなる祝いのひとときを喜んでいるようだった。
ドドドドドドド……。
砲撃のような、極東の国の打楽器を打ち付けたような、唸りのごとき重低音が穏やかな静寂をかき乱す。土煙を上げ、大地を揺らし、祝福の世界を乱す影――もとい、群れがひとつ。
列を成し、野山を荒らしながら脇目も触れず一目散に走る。鈍色の短い毛に覆われた、饅頭を思わせる体。丸い耳に、大きく鋭い歯。体と同じほどの長さはあるであろう、細い尻尾をちょろちょろと振り乱す。
ひた走るそれはネズミの姿をしていた。しかしその大きさは1メートルを越え、ネズミの範疇を優に越えていた。ネズミというより、イノシシと形容した方が相応しいかもしれない。
彼らは走る。ただひたすらに、まっすぐに。その目的がなんなのか、どこを目指して走るのか。それは誰にもわからない。
その歩みは悪魔の行軍。過ぎ去った後には何一つのこらない。荒れ果てた大地が延々と続いているだけ。
ドドドドドドドド……。
彼らの行く手の先あるのは、祭りににぎわう一つの町。迫り来ようとしている悪夢など何も知らない人々が神の誕生を喜び、祝い、楽しい時を過ごしている。
ネズミ達は止まらない。それどころか、勢いは激しさを増していく。
大地を揺るがす災厄が、人々を脅かすまで、あと…………。
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「そんなわけで! みんなにはこのネズミ型イブリースを急いで退治してほしいんだ」
水鏡階差運命演算装置の前で、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は自由騎士たちに告げた。
「このままネズミ達が進めば、町に直撃して大きな被害がでちゃう。そうなる前にイブリースたちを倒す。これが今回の依頼だよ。群れは全部で10匹。先頭の一番大きなネズミがリーダーで、他のネズミ達の統制をとってるみたい。彼の進行方向さえ変えられれば、町に向かうのを避けられるかも」
クラウディアはイブリースの情報を告げると、むぅと唇をとがらせた。
「自由騎士のみんなもお祭りを楽しんでたのに、ほんと迷惑なイブリースだよね」
アクアディーネ様の誕生祭に水を差すとは、なんと空気の読めないイブリースなのだろうか。彼女は憤慨する。楽しいお祭りをこれ以上邪魔させるわけにはいかない。
自由騎士たちも、武器を握る手に力がこもる。
「みんな、頑張ってね! 任務が終わったらめいっぱいパーティしよう! 私、とびっきりのお菓子を用意して待ってるから!」
そう言うと、クラウディアはぎゅっと小さな拳を握りしめた。やる気満々、気合い十分といった感じだ。楽しみにしててねと見送る彼女に、自由騎士達はぎこちない笑顔を浮かべたのであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースを退治する。
2.町への侵入を防ぐ。
2.町への侵入を防ぐ。
はじめまして、柚茉と申します。
2020年はネズミ年ということで、走るネズミイブリースをどうにかする感じにしてみました。彼らがなぜ走っているのか、それには干支の物語が関わっているのかもしれません。
[エネミー]
・ネズミ型イブリース(x10)
特殊なスキルは使ってきませんが、ネズミなので動きが素早いです。また、ものすごい勢いで前方へと走ってくるので、その動きを止めないことには攻撃が通りません。
リーダーを先頭に一列で走ってきます。リーダーを叩くか、横から列を崩すと有効かもしれません。
攻撃は基本的に体当たり、たまに発達した歯で噛みついてきます。大きい個体は尻尾をムチのように使ってくることもあります。
歯はむき出しになっているので比較的狙いやすいです。
ネズミなので嗅覚や聴覚が優れています。餌の匂いで気を引くこともできますが、走っている間は匂いにも目もくれないので要注意です。
ネズミ(リーダー)
10匹のうち、先頭の1匹がリーダーです。他のネズミより大きく、攻撃や耐久が高いです。他の9匹はリーダーに従うので、リーダーを失えば統制をなくします。(ですが、混乱したネズミが散り散りに逃げ出す、なんてこともあるのでタイミングが重要です。)
ネズミ(A~I)
リーダー以外の個体です。
Aから順に並んでいます。Aが一番大きさや力が強く、後ろになるにつれ小さく弱くなります。Iが一番小さく弱いです。
ネズミたちは町に向けて走っているので、対応に時間がかかりすぎてしまうと町に到達してしまい被害が出てしまいます。
フィールドは昼間。見通しが良く平坦な道。天気も良いです。
それでは、皆様の参加をお待ちしております。
2020年はネズミ年ということで、走るネズミイブリースをどうにかする感じにしてみました。彼らがなぜ走っているのか、それには干支の物語が関わっているのかもしれません。
[エネミー]
・ネズミ型イブリース(x10)
特殊なスキルは使ってきませんが、ネズミなので動きが素早いです。また、ものすごい勢いで前方へと走ってくるので、その動きを止めないことには攻撃が通りません。
リーダーを先頭に一列で走ってきます。リーダーを叩くか、横から列を崩すと有効かもしれません。
攻撃は基本的に体当たり、たまに発達した歯で噛みついてきます。大きい個体は尻尾をムチのように使ってくることもあります。
歯はむき出しになっているので比較的狙いやすいです。
ネズミなので嗅覚や聴覚が優れています。餌の匂いで気を引くこともできますが、走っている間は匂いにも目もくれないので要注意です。
ネズミ(リーダー)
10匹のうち、先頭の1匹がリーダーです。他のネズミより大きく、攻撃や耐久が高いです。他の9匹はリーダーに従うので、リーダーを失えば統制をなくします。(ですが、混乱したネズミが散り散りに逃げ出す、なんてこともあるのでタイミングが重要です。)
ネズミ(A~I)
リーダー以外の個体です。
Aから順に並んでいます。Aが一番大きさや力が強く、後ろになるにつれ小さく弱くなります。Iが一番小さく弱いです。
ネズミたちは町に向けて走っているので、対応に時間がかかりすぎてしまうと町に到達してしまい被害が出てしまいます。
フィールドは昼間。見通しが良く平坦な道。天気も良いです。
それでは、皆様の参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
1個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2020年01月14日
2020年01月14日
†メイン参加者 6人†
●
ドドドドドドド……。
近づいてくる喧噪が周囲の空気をざわめかせる。
勢いを少しもゆるめることなく、走りくるネズミたち。その進撃をくい止めるべく、自由騎士たちは武器を構えていた。
「新年早々騒がしいですね……。喧噪が悲鳴に変わる前に、ネズミ達にはここで立ち止まって頂きましょう」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が燃えるような赤い瞳を細めて敵の姿を確認する。
対象との距離はまだ離れているにも関わらず、大地を揺るがす震動がびりびりと伝わり、彼女の黄金色の毛を逆立てた。
「うわー、凄い勢いでこっちに来るよー」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)もまた、敵の姿をとらえたようだ。進む先にあるもの全てをなぎ倒して走る、ネズミ達の勢いは凄まじいものだ。
「こいつらが町に到達したら大変なことになるな。アクアディーネ様の誕生を祝うお祭りに水を差すわけにはいかない。ここできっちり食い止めなくてはな」
巨大な戦斧を両手で構えて、ジーニー・レイン(CL3000647)は来る嵐の接近に備える。異なる色彩を放つ双眼、その緋色の右目は僅か先の未来を視ることができる。至るべき未来、人々を守り抜く勝利の為に彼女は戦いへと身を投じる。
その隣で『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)の金色の瞳が輝いた。
「熱源の接近を確認。…………クラウディアの情報の通り、敵の数は10。状態異常をともなうような攻撃はなさそうだね」
神秘の力を持った彼の瞳がネズミ達を解析する。それをうけて『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)ははつらつと声を上げる。
「よーっし! 敵が変な攻撃を使ってこないなら、思いっきり戦えるんだぞ! 町の皆の為に身体をはってがんばるんだぞ!」
サンタフェの奇跡で戦いに向けた強化を施すと、拳を握った両腕を元気良く上空へと突きだした。その天真爛漫な様子は、戦い前の張りつめた空気を幾分か和らげる。
「そうだね。頑張るとしよう」
静かに微笑んで、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷いた。
――僕個人としても気になることがあるのだけれど。其れはまあ、戦いの中で判るだろう。
大地を揺さぶる狂騒が近づいてくる気配がする。身体に伝わる重低音が激しさを増してゆく。
「標的が近づいてきたようだ。距離はあと、3000……、2000……、1000……」
アルビノが刻々と迫るイブリースとの距離を告げる。それはまさしく、戦いへのカウントダウン。
「…………迎撃距離に到達」
「はあっ!」
開戦を告げたのは、勢いよく飛び出したアンジェリカの一撃。振り上げた身の丈ほどの巨大な十字架を、走り迫るイブリース達に思い切り叩き込んだ。
ウォーモンガーで威力を底上げした、渾身のギアインパクト。地面すら抉るほどの衝撃が土煙を舞い上げる。
進むこと以外には目もくれず走り続けていたネズミ達にとっては、青天の霹靂となる一撃であった。
「それでは、狩りをはじめましょう」
土煙の中、紅蓮の双眼がぎらりと煌めいた。
●
「カノンもいっくよー!」
ギアインパクトによって動きの止まったリーダーネズミへカノンは横から神嵐をお見舞いする。吹き荒れる嵐を思わせる足技にネズミの身体が大きくはね飛ばされる。
彼らを率いていたリーダーへの攻撃を受けて、ネズミ達の進軍はぴたりと動きを止める。
カノンは着地するや否や、ネズミ達の前に猪の干し肉を取り出してみせる。
「ほうらほうら、美味しい干し肉があるよー」
驚き戸惑うかのようにきょろきょろと当たりを見回すネズミ達。その興味は一気に、ひらひらと揺れる魅惑の芳香へと注がれる。くんくんと鼻をならし、引きつけられるようにそちらへと進んでゆく。
カノンはそのまま町とは逆の方向に動いて彼らを誘導する。身動きのとれなくなったリーダーを残して、ネズミはカノンの思惑通りに動く。
「ネズミ達の進路、町から完全に外れたようだよ」
右目でネズミ達の状況をサーチしていたアルビノが作戦の成功を告げる。
それを合図に、自由騎士達は動き出す。
「君たちの動きは封じさせてもらうよ」
マグノリアの細く、引き締められた肢体がたおやかにタンゴのリズムを刻む。絹糸のようなコーラルピンクの長い髪がその動きにあわせてうねる。荒れ狂う海原を思わせる魔導のダンスはやがて敵陣に大きな渦を巻き起こす。
「さあ、今のうちに」
「了解!」
「任せろ!」
見えない大渦に飲まれ、身動きがとれなくなったネズミ達をめがけてカノンとジーニー飛び出す。カノンは前方の個体めがけて容赦のない回し蹴りの乱舞を、ジーニーは後方へ思い切り戦斧による衝撃波で圧倒する。
「誕生祭に沸く町には似つかわしくない客だ。お前達にはココでお帰り願おうか」
地面にめり込んだ斧を抜き、ジーニーは不適に笑う。
「おまけに食らうといいぞ!」
サシャは後方から氷の魔導を唱える。吹き飛び、地面に倒れ伏したネズミ達を氷の牢獄に閉じこめて、その動きを完全に封じる。
「ネズミ達! さては町をめちゃくちゃにしたついでに美味しいものを食べようとしているに違いないんだぞ! サシャ達が阻止してやるからお覚悟するといいぞ!!」
びしっと人差し指を突きだして、揚々として氷付けのネズミ達に言い放つ。堂々の決めポーズである。
だが、ジーニーの瞳はそんなサシャに降り注ぐ災厄の未来を視た。
「サシャさん! そこを離れろ!」
「へ? って、ぎゃうぅぅッ!?」
ジーニーの声も空しく、勢いよく飛び出してきたネズミの体当たりによってサシャの身体は後方へと跳ね飛ばされる。
「くっ、よくもサシャさんを……!」
サシャを跳ね飛ばしたネズミに向かって戦斧を振り下ろす。しかし、素早い動きでネズミは攻撃を回避する。
マグノリアの放った大渦の効果は未だ消えていない。動きを阻害されていてもなお、これだけの素早さを持っているということだ。
「なるほど。情報通りすばしっこい連中だ。ウロチョロしやがって」
斧を振り下ろし次の攻撃に移る。その僅かな隙を狙って、ネズミは全体重を乗せた体当たりを食らわせてくる。武器を盾にして攻撃を受け止めるも、ずしりと重い衝撃が全身にのし掛かってくる。
「ぐ……!」
ぐらり、バランスを崩したところに大きなネズミの大きな歯が迫る。
――ドォン!
ジーニーへと突き立てられようとした歯が、寸前でバラバラに砕け散った。
「ギャッ!」
潰れたような音を喉から漏らして、イブリースが転げ回る。
打ち抜いたのはアンジェリカだ。自らの腕を銃器に変えて放つ、必中の一撃。
「すまない。助かった」
「いいえ。お気になさらないでください。お怪我は?」
「問題ない!」
体勢を立て直したジーニーの体力をアルビノのハーベストレインが回復する。
「アルビノ様。イブリーズの残数は?」
「……最初の一撃でネズミの数は減っているよ。残るはリーダーを含めた7体、ですね」
「分かりました。ジーニー様。私がネズミの歯を砕いて戦力を削ぎます。弱ったところを一気に叩いてください」
「わかったよ」
アンジェリカの提案に、ジーニーは頷く。
「サシャもまだまだやれるんだぞ!」
先ほどネズミに吹き飛ばされたサシャが、後方からひょっこりと顔を出した。
その無事を確認して、前線のカノンは安堵する。
彼女の間合いには群れの中でも特に大ききな3体。
ネズミ達はその大きさと戦闘力が比例しているようだ。範囲攻撃ではなく、一体一体を確実に仕留めるやり方ではないと簡単には倒せない。
ネズミ達は代わる代わる目にも留まらぬ速さで突進してくる。カノンは攻撃を風にそよぐ柳を思わせる動きでいなしてゆく。どんなに素早い攻撃であっても、簡単には彼女の守りを砕くことはできない。
「はあっ!」
回避行動とともに、震撃で相手を打ち抜く。臓腑をも揺さぶる強烈な一撃に穿たれたネズミは大きく吹き飛び、そのまま地面へと沈黙する。
一体を仕留め、もう一体の気配を背後に感じる。振り向きざまに回し蹴りを入れる。
「ギイイッ」
感触は良くない。鉄を蹴ったような堅さにじんと脚が痺れる。ネズミが発達した歯で攻撃をガードしたのだ。
「……っ、もう!」
体制を立て直すため後方へと跳躍。一度距離をとる。が、ネズミはあっという間にその距離を詰めてくる。
万事休すと思われたそのとき、ネズミの歯が砕ける。アンジェリカのピンポイントシュートだ。
「ナイス! アンジェリカちゃん!」
ひるんだ敵の動きが止まる。カノンの瞳がぎらりと光る。
「ごめんねー。君達に恨みはないけど、ここでおねんねしててね」
ブンブンと腕を振り回し、容赦なく拳を叩き込んでゆく。冷酷ささえ覗かせる声色とは裏腹に、その表情は輝かしいほどの笑顔で満ちていた。
カノンの猛攻を視界に捕らえながら、アンジェリカは残るネズミにも次々と銃撃を打ち込む。
マグノリア、アルビノからのアンチトキシスによって、魔力は十分にある。今の彼女に捕らえられない獲物はいない。全てを確実に打ち抜き砕く。そうして弱り切った敵をサシャの氷で捕捉。ジーニーが斬り伏せてゆく。
「……アルビノさん、そちらに一体ネズミが向かいます!」
ジーニーの瞳が先のネズミの行動を予知する。
「わかっているよ。ふふ、ボクが作った劇薬。試してみるかい?」
自らの前に走りくる敵にアルビノはにやりと口元をゆがませる。敵の情報はたっぷりと得ている。彼等にとってとっておきの毒を錬金術で生成、炸裂させる。
自由騎士達の隙のない連携でネズミの数はあっという間に減っていく。
「ギィ……」
自らに及ぶ危険を察知した一体は、その包囲をかいくぐって逃れようとする。
その身体が一瞬で爆ぜた。
「残念だったね。……一匹たりとも逃がしはしないよ」
淡々とした声が、動かなくなったネズミを哀れむ。マグノリアによって生み出された賢者の雫が、伝い落ちたその瞬間に身体を破り裂いたのだ。
「ギ、ギギギィィ……」
残るはリーダーのみだ。初撃のダメージが回復したのだろう。ゆっくりと身体を起こして、脚を前へと動かそうとする。
「! させませんよ」
アンジェリカが十字架を担ぎ、再びギアインパクトで動きを封じる。
「一気に仕留めてやる!」
ジーニーが猛々しくアンジェリカに続く。
「…………」
飛び出していく自由騎士達を少し離れてマグノリアがみつめる。
「どうかしたんだぞ?」
その様子を感じ取ったサシャが問いかける。
「リーダーの様子をどう思う?」
「リーダー? でっかいんだぞ」
「そう言うことではなく、彼の行動をだ」
「うーん」
サシャが首を傾げる。リーダーネズミの行動、とはどういうことだろうか。マグノリアの言葉の意図を感じ取って、観察する。
「前に、進もうとしているんだぞ?」
「そう。町から進路を外れてもなお、彼からは先へ進もうという意志を感じるんだ。これは、彼らが町を襲おうとしていたのではなく、何か別の目的を持って走っていたと考えられないか?」
「な、なるほど……!?」
ネズミ達は町に美味しいものを食べにきたわけではない。では一体、何のために?
「確かめなくてはいけないね」
そう言うとマグノリアは、苛烈を極める戦場へと歩みを進めていった。
●
耳をつんざくようなうなり声をあげて、リーダーネズミは自由騎士達を威嚇する。
「っ、しぶといですね!」
アンジェリカは十字架を思い切り振り下ろす。カノン、ジーニーもそれに合わせて連続で攻撃。息つく間もない怒濤の攻撃だ。その全てを受けて敵も相当消耗しているはずだ。しかし、一向に倒れる気配がない。
自由騎士達を振り払うように、ネズミの長い尻尾がムチのようにしなる。
「くっ」
ひゅん、空を裂く横凪の一閃。跳躍では躱しきれす、武器で衝撃を防ぐ。
「何が一体彼をここまで駆り立ているのでしょう……!」
アルビノはネズミを分析する。攻撃のダメージは確実に蓄積している。ギアインパクトによる体機能の損傷も大きい。活動限界は近いはずだ。しかし、彼は止まる気配をみせない。
ネズミは興奮したまま、身体を大きくばたつかせ無作為に暴れ回っている。このままでは埒があかない。
「皆、待って欲しい」
突然の声に、自由騎士達が振り向くと。マグノリアの姿があった。
彼女は何の躊躇いもなく前線へと歩みを進めると、暴れ狂うネズミへと近づいてゆく。
「……僕には彼等の言葉が直接判る訳では無いけれど……彼等に何か助けが必要で、僕に其れが出来るなら、協力してあげたいとも思うよ」
独り言のような、静かに語りかけるような。言葉を紡ぎながら、マグノリアはじっとイブリースを見据える。
興奮状態のイブリースにその言葉が理解できるとは思いがたい。だが、凪いだ水面のような穏やかな声色に、少しだけ雰囲気が和らいだように見える。
「其れに……確か、今年の年神は君達なんだろう……? 大人しく出来るなら連れて行ってあげるよ」
「ギ、ギィ……」
マグノリアの声に答えるかのように、イブリースが小さく鳴いた。
その変化をアルビノの瞳は見逃さない。
「イブリースの沈静化を確認。仕留めるなら、今だよ」
「年神様? とか、サシャはよくわからないけど、さっさと浄化してあげるんだぞ!」 すかさず、サシャが全力のアイスコフィンを展開する。大気そのものを凍てつかせるほどの冷気がイブリースを包み、拘束する。
「なんにせよ、全ては戦いの後、ですね!」
アンジェリカが大きく跳躍、氷付けになったネズミの眼前へと飛ぶ。
「一気に仕留めますよっ」
「おう!」
「まかせて!」
アンジェリカに続いて、ジーニー、カノンも敵へと前進する。暴れ回っていたネズミの動きがぴたりとと止まったことで、確実に標的を打ち抜くことができる。
「「「くらえっ」」」
十字架、戦斧、ガントレットが交錯する。三人同時に放たれた。渾身の一撃であった。
氷にとらわれたイブリースの身体が光を放って砕け散る。その光はまるで、新しい世界に降り注ぐ祝いの雨のようだった。
●
「なるほど。そうだったのですね」
浄化され、すっかり小さくなったネズミを手のひらに乗せてアンジェリカはうなずいた。
「どうだい。彼等は何と?」
答えを待ちわびたマグノリアが問う。
「彼等はアクアディーネ様のもとへ向かいたかったようですね。一番にたどり着かなくてはならない、と。どういうことでしょう」
「一番? 競争でもしてたんだぞ?」
サシャが首を傾げる。
「恐らく、アマノホカリの風習さ」
文献で読んだことがある。マグノリアは語る。
新年に神様の元へ一番最初に挨拶に来た動物の順から、一年毎に年神に成れるという言い伝え。そこから十二の動物が神様として人々に親しまれるようになった。ネズミはその一番最初の動物だ。
「なんらかの要因……この場合はイブリース化だね。それによって、遙か昔の記憶が呼び起こされたんじゃないかな。だから、神の元へ行くために彼等は走っていた。その証拠に、彼等の進行方向のずっと先には王都がある」
腑に落ちたように、アルビノがうなずく。
「つまり、ネズミ達はアクアディーネに挨拶するために走っていた。ということだね」
これでやっと、ネズミ達の爆走の謎が解けた。すっきりした面持ちで、マグノリアは踵を返す。
「理由も判明したことだし、帰ろうか。約束したからね。彼等をアクアディーネに会わせてあげなければ」
「そうだね! 沢山動いたからお腹が空いたなー」
そう言うや否やカノンのお腹がくぅ、となる。
「クラウディアさんがお菓子を用意してくれてるって話だったな。さっさと帰ろうぜ」
武器を担ぎ上げて、ジーニーが歩き出す。それに次いで他の自由騎士達もそれぞれの岐路へと就こうとした。
「ああそうだ。大切なことを言い忘れてました」
アンジェリカが声を上げる。何事かと振り向いた一同に、晴れやかな表情で彼女は言う。
「みなさん、新年明けましておめでとうございます! 今年も宜しくお願いします!」
ドドドドドドド……。
近づいてくる喧噪が周囲の空気をざわめかせる。
勢いを少しもゆるめることなく、走りくるネズミたち。その進撃をくい止めるべく、自由騎士たちは武器を構えていた。
「新年早々騒がしいですね……。喧噪が悲鳴に変わる前に、ネズミ達にはここで立ち止まって頂きましょう」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が燃えるような赤い瞳を細めて敵の姿を確認する。
対象との距離はまだ離れているにも関わらず、大地を揺るがす震動がびりびりと伝わり、彼女の黄金色の毛を逆立てた。
「うわー、凄い勢いでこっちに来るよー」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)もまた、敵の姿をとらえたようだ。進む先にあるもの全てをなぎ倒して走る、ネズミ達の勢いは凄まじいものだ。
「こいつらが町に到達したら大変なことになるな。アクアディーネ様の誕生を祝うお祭りに水を差すわけにはいかない。ここできっちり食い止めなくてはな」
巨大な戦斧を両手で構えて、ジーニー・レイン(CL3000647)は来る嵐の接近に備える。異なる色彩を放つ双眼、その緋色の右目は僅か先の未来を視ることができる。至るべき未来、人々を守り抜く勝利の為に彼女は戦いへと身を投じる。
その隣で『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)の金色の瞳が輝いた。
「熱源の接近を確認。…………クラウディアの情報の通り、敵の数は10。状態異常をともなうような攻撃はなさそうだね」
神秘の力を持った彼の瞳がネズミ達を解析する。それをうけて『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)ははつらつと声を上げる。
「よーっし! 敵が変な攻撃を使ってこないなら、思いっきり戦えるんだぞ! 町の皆の為に身体をはってがんばるんだぞ!」
サンタフェの奇跡で戦いに向けた強化を施すと、拳を握った両腕を元気良く上空へと突きだした。その天真爛漫な様子は、戦い前の張りつめた空気を幾分か和らげる。
「そうだね。頑張るとしよう」
静かに微笑んで、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷いた。
――僕個人としても気になることがあるのだけれど。其れはまあ、戦いの中で判るだろう。
大地を揺さぶる狂騒が近づいてくる気配がする。身体に伝わる重低音が激しさを増してゆく。
「標的が近づいてきたようだ。距離はあと、3000……、2000……、1000……」
アルビノが刻々と迫るイブリースとの距離を告げる。それはまさしく、戦いへのカウントダウン。
「…………迎撃距離に到達」
「はあっ!」
開戦を告げたのは、勢いよく飛び出したアンジェリカの一撃。振り上げた身の丈ほどの巨大な十字架を、走り迫るイブリース達に思い切り叩き込んだ。
ウォーモンガーで威力を底上げした、渾身のギアインパクト。地面すら抉るほどの衝撃が土煙を舞い上げる。
進むこと以外には目もくれず走り続けていたネズミ達にとっては、青天の霹靂となる一撃であった。
「それでは、狩りをはじめましょう」
土煙の中、紅蓮の双眼がぎらりと煌めいた。
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「カノンもいっくよー!」
ギアインパクトによって動きの止まったリーダーネズミへカノンは横から神嵐をお見舞いする。吹き荒れる嵐を思わせる足技にネズミの身体が大きくはね飛ばされる。
彼らを率いていたリーダーへの攻撃を受けて、ネズミ達の進軍はぴたりと動きを止める。
カノンは着地するや否や、ネズミ達の前に猪の干し肉を取り出してみせる。
「ほうらほうら、美味しい干し肉があるよー」
驚き戸惑うかのようにきょろきょろと当たりを見回すネズミ達。その興味は一気に、ひらひらと揺れる魅惑の芳香へと注がれる。くんくんと鼻をならし、引きつけられるようにそちらへと進んでゆく。
カノンはそのまま町とは逆の方向に動いて彼らを誘導する。身動きのとれなくなったリーダーを残して、ネズミはカノンの思惑通りに動く。
「ネズミ達の進路、町から完全に外れたようだよ」
右目でネズミ達の状況をサーチしていたアルビノが作戦の成功を告げる。
それを合図に、自由騎士達は動き出す。
「君たちの動きは封じさせてもらうよ」
マグノリアの細く、引き締められた肢体がたおやかにタンゴのリズムを刻む。絹糸のようなコーラルピンクの長い髪がその動きにあわせてうねる。荒れ狂う海原を思わせる魔導のダンスはやがて敵陣に大きな渦を巻き起こす。
「さあ、今のうちに」
「了解!」
「任せろ!」
見えない大渦に飲まれ、身動きがとれなくなったネズミ達をめがけてカノンとジーニー飛び出す。カノンは前方の個体めがけて容赦のない回し蹴りの乱舞を、ジーニーは後方へ思い切り戦斧による衝撃波で圧倒する。
「誕生祭に沸く町には似つかわしくない客だ。お前達にはココでお帰り願おうか」
地面にめり込んだ斧を抜き、ジーニーは不適に笑う。
「おまけに食らうといいぞ!」
サシャは後方から氷の魔導を唱える。吹き飛び、地面に倒れ伏したネズミ達を氷の牢獄に閉じこめて、その動きを完全に封じる。
「ネズミ達! さては町をめちゃくちゃにしたついでに美味しいものを食べようとしているに違いないんだぞ! サシャ達が阻止してやるからお覚悟するといいぞ!!」
びしっと人差し指を突きだして、揚々として氷付けのネズミ達に言い放つ。堂々の決めポーズである。
だが、ジーニーの瞳はそんなサシャに降り注ぐ災厄の未来を視た。
「サシャさん! そこを離れろ!」
「へ? って、ぎゃうぅぅッ!?」
ジーニーの声も空しく、勢いよく飛び出してきたネズミの体当たりによってサシャの身体は後方へと跳ね飛ばされる。
「くっ、よくもサシャさんを……!」
サシャを跳ね飛ばしたネズミに向かって戦斧を振り下ろす。しかし、素早い動きでネズミは攻撃を回避する。
マグノリアの放った大渦の効果は未だ消えていない。動きを阻害されていてもなお、これだけの素早さを持っているということだ。
「なるほど。情報通りすばしっこい連中だ。ウロチョロしやがって」
斧を振り下ろし次の攻撃に移る。その僅かな隙を狙って、ネズミは全体重を乗せた体当たりを食らわせてくる。武器を盾にして攻撃を受け止めるも、ずしりと重い衝撃が全身にのし掛かってくる。
「ぐ……!」
ぐらり、バランスを崩したところに大きなネズミの大きな歯が迫る。
――ドォン!
ジーニーへと突き立てられようとした歯が、寸前でバラバラに砕け散った。
「ギャッ!」
潰れたような音を喉から漏らして、イブリースが転げ回る。
打ち抜いたのはアンジェリカだ。自らの腕を銃器に変えて放つ、必中の一撃。
「すまない。助かった」
「いいえ。お気になさらないでください。お怪我は?」
「問題ない!」
体勢を立て直したジーニーの体力をアルビノのハーベストレインが回復する。
「アルビノ様。イブリーズの残数は?」
「……最初の一撃でネズミの数は減っているよ。残るはリーダーを含めた7体、ですね」
「分かりました。ジーニー様。私がネズミの歯を砕いて戦力を削ぎます。弱ったところを一気に叩いてください」
「わかったよ」
アンジェリカの提案に、ジーニーは頷く。
「サシャもまだまだやれるんだぞ!」
先ほどネズミに吹き飛ばされたサシャが、後方からひょっこりと顔を出した。
その無事を確認して、前線のカノンは安堵する。
彼女の間合いには群れの中でも特に大ききな3体。
ネズミ達はその大きさと戦闘力が比例しているようだ。範囲攻撃ではなく、一体一体を確実に仕留めるやり方ではないと簡単には倒せない。
ネズミ達は代わる代わる目にも留まらぬ速さで突進してくる。カノンは攻撃を風にそよぐ柳を思わせる動きでいなしてゆく。どんなに素早い攻撃であっても、簡単には彼女の守りを砕くことはできない。
「はあっ!」
回避行動とともに、震撃で相手を打ち抜く。臓腑をも揺さぶる強烈な一撃に穿たれたネズミは大きく吹き飛び、そのまま地面へと沈黙する。
一体を仕留め、もう一体の気配を背後に感じる。振り向きざまに回し蹴りを入れる。
「ギイイッ」
感触は良くない。鉄を蹴ったような堅さにじんと脚が痺れる。ネズミが発達した歯で攻撃をガードしたのだ。
「……っ、もう!」
体制を立て直すため後方へと跳躍。一度距離をとる。が、ネズミはあっという間にその距離を詰めてくる。
万事休すと思われたそのとき、ネズミの歯が砕ける。アンジェリカのピンポイントシュートだ。
「ナイス! アンジェリカちゃん!」
ひるんだ敵の動きが止まる。カノンの瞳がぎらりと光る。
「ごめんねー。君達に恨みはないけど、ここでおねんねしててね」
ブンブンと腕を振り回し、容赦なく拳を叩き込んでゆく。冷酷ささえ覗かせる声色とは裏腹に、その表情は輝かしいほどの笑顔で満ちていた。
カノンの猛攻を視界に捕らえながら、アンジェリカは残るネズミにも次々と銃撃を打ち込む。
マグノリア、アルビノからのアンチトキシスによって、魔力は十分にある。今の彼女に捕らえられない獲物はいない。全てを確実に打ち抜き砕く。そうして弱り切った敵をサシャの氷で捕捉。ジーニーが斬り伏せてゆく。
「……アルビノさん、そちらに一体ネズミが向かいます!」
ジーニーの瞳が先のネズミの行動を予知する。
「わかっているよ。ふふ、ボクが作った劇薬。試してみるかい?」
自らの前に走りくる敵にアルビノはにやりと口元をゆがませる。敵の情報はたっぷりと得ている。彼等にとってとっておきの毒を錬金術で生成、炸裂させる。
自由騎士達の隙のない連携でネズミの数はあっという間に減っていく。
「ギィ……」
自らに及ぶ危険を察知した一体は、その包囲をかいくぐって逃れようとする。
その身体が一瞬で爆ぜた。
「残念だったね。……一匹たりとも逃がしはしないよ」
淡々とした声が、動かなくなったネズミを哀れむ。マグノリアによって生み出された賢者の雫が、伝い落ちたその瞬間に身体を破り裂いたのだ。
「ギ、ギギギィィ……」
残るはリーダーのみだ。初撃のダメージが回復したのだろう。ゆっくりと身体を起こして、脚を前へと動かそうとする。
「! させませんよ」
アンジェリカが十字架を担ぎ、再びギアインパクトで動きを封じる。
「一気に仕留めてやる!」
ジーニーが猛々しくアンジェリカに続く。
「…………」
飛び出していく自由騎士達を少し離れてマグノリアがみつめる。
「どうかしたんだぞ?」
その様子を感じ取ったサシャが問いかける。
「リーダーの様子をどう思う?」
「リーダー? でっかいんだぞ」
「そう言うことではなく、彼の行動をだ」
「うーん」
サシャが首を傾げる。リーダーネズミの行動、とはどういうことだろうか。マグノリアの言葉の意図を感じ取って、観察する。
「前に、進もうとしているんだぞ?」
「そう。町から進路を外れてもなお、彼からは先へ進もうという意志を感じるんだ。これは、彼らが町を襲おうとしていたのではなく、何か別の目的を持って走っていたと考えられないか?」
「な、なるほど……!?」
ネズミ達は町に美味しいものを食べにきたわけではない。では一体、何のために?
「確かめなくてはいけないね」
そう言うとマグノリアは、苛烈を極める戦場へと歩みを進めていった。
●
耳をつんざくようなうなり声をあげて、リーダーネズミは自由騎士達を威嚇する。
「っ、しぶといですね!」
アンジェリカは十字架を思い切り振り下ろす。カノン、ジーニーもそれに合わせて連続で攻撃。息つく間もない怒濤の攻撃だ。その全てを受けて敵も相当消耗しているはずだ。しかし、一向に倒れる気配がない。
自由騎士達を振り払うように、ネズミの長い尻尾がムチのようにしなる。
「くっ」
ひゅん、空を裂く横凪の一閃。跳躍では躱しきれす、武器で衝撃を防ぐ。
「何が一体彼をここまで駆り立ているのでしょう……!」
アルビノはネズミを分析する。攻撃のダメージは確実に蓄積している。ギアインパクトによる体機能の損傷も大きい。活動限界は近いはずだ。しかし、彼は止まる気配をみせない。
ネズミは興奮したまま、身体を大きくばたつかせ無作為に暴れ回っている。このままでは埒があかない。
「皆、待って欲しい」
突然の声に、自由騎士達が振り向くと。マグノリアの姿があった。
彼女は何の躊躇いもなく前線へと歩みを進めると、暴れ狂うネズミへと近づいてゆく。
「……僕には彼等の言葉が直接判る訳では無いけれど……彼等に何か助けが必要で、僕に其れが出来るなら、協力してあげたいとも思うよ」
独り言のような、静かに語りかけるような。言葉を紡ぎながら、マグノリアはじっとイブリースを見据える。
興奮状態のイブリースにその言葉が理解できるとは思いがたい。だが、凪いだ水面のような穏やかな声色に、少しだけ雰囲気が和らいだように見える。
「其れに……確か、今年の年神は君達なんだろう……? 大人しく出来るなら連れて行ってあげるよ」
「ギ、ギィ……」
マグノリアの声に答えるかのように、イブリースが小さく鳴いた。
その変化をアルビノの瞳は見逃さない。
「イブリースの沈静化を確認。仕留めるなら、今だよ」
「年神様? とか、サシャはよくわからないけど、さっさと浄化してあげるんだぞ!」 すかさず、サシャが全力のアイスコフィンを展開する。大気そのものを凍てつかせるほどの冷気がイブリースを包み、拘束する。
「なんにせよ、全ては戦いの後、ですね!」
アンジェリカが大きく跳躍、氷付けになったネズミの眼前へと飛ぶ。
「一気に仕留めますよっ」
「おう!」
「まかせて!」
アンジェリカに続いて、ジーニー、カノンも敵へと前進する。暴れ回っていたネズミの動きがぴたりとと止まったことで、確実に標的を打ち抜くことができる。
「「「くらえっ」」」
十字架、戦斧、ガントレットが交錯する。三人同時に放たれた。渾身の一撃であった。
氷にとらわれたイブリースの身体が光を放って砕け散る。その光はまるで、新しい世界に降り注ぐ祝いの雨のようだった。
●
「なるほど。そうだったのですね」
浄化され、すっかり小さくなったネズミを手のひらに乗せてアンジェリカはうなずいた。
「どうだい。彼等は何と?」
答えを待ちわびたマグノリアが問う。
「彼等はアクアディーネ様のもとへ向かいたかったようですね。一番にたどり着かなくてはならない、と。どういうことでしょう」
「一番? 競争でもしてたんだぞ?」
サシャが首を傾げる。
「恐らく、アマノホカリの風習さ」
文献で読んだことがある。マグノリアは語る。
新年に神様の元へ一番最初に挨拶に来た動物の順から、一年毎に年神に成れるという言い伝え。そこから十二の動物が神様として人々に親しまれるようになった。ネズミはその一番最初の動物だ。
「なんらかの要因……この場合はイブリース化だね。それによって、遙か昔の記憶が呼び起こされたんじゃないかな。だから、神の元へ行くために彼等は走っていた。その証拠に、彼等の進行方向のずっと先には王都がある」
腑に落ちたように、アルビノがうなずく。
「つまり、ネズミ達はアクアディーネに挨拶するために走っていた。ということだね」
これでやっと、ネズミ達の爆走の謎が解けた。すっきりした面持ちで、マグノリアは踵を返す。
「理由も判明したことだし、帰ろうか。約束したからね。彼等をアクアディーネに会わせてあげなければ」
「そうだね! 沢山動いたからお腹が空いたなー」
そう言うや否やカノンのお腹がくぅ、となる。
「クラウディアさんがお菓子を用意してくれてるって話だったな。さっさと帰ろうぜ」
武器を担ぎ上げて、ジーニーが歩き出す。それに次いで他の自由騎士達もそれぞれの岐路へと就こうとした。
「ああそうだ。大切なことを言い忘れてました」
アンジェリカが声を上げる。何事かと振り向いた一同に、晴れやかな表情で彼女は言う。
「みなさん、新年明けましておめでとうございます! 今年も宜しくお願いします!」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『ネズミ型クッキー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
新年あけましておめでとうございます。
シナリオへのご参加ありがとうございます。
その後、イ・ラプセル城で行われたパーティ会場では、女神の傍らでクッキーを食べるネズミの姿が目撃されました。
その表情はどこか誇らしげで、神々しくもあったという噂です。
MVPはネズミの意図を読み取ったあなたへ。
改めまして、本年もよろしくお願い致します。新しい年が皆さまにとって良い一年でありますように。
シナリオへのご参加ありがとうございます。
その後、イ・ラプセル城で行われたパーティ会場では、女神の傍らでクッキーを食べるネズミの姿が目撃されました。
その表情はどこか誇らしげで、神々しくもあったという噂です。
MVPはネズミの意図を読み取ったあなたへ。
改めまして、本年もよろしくお願い致します。新しい年が皆さまにとって良い一年でありますように。
FL送付済