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止まれ止まれ止まれ!

●止まらない
ベニー・クルス。
哀れにも愚かな盗賊だ。
彼は小遣い稼ぎに盗みに入り、夜な夜な散財しては金欠を嘆き、また盗む。
救いようのない悪党ではあるが、彼の哀れさは今現在とどまるところを知らなかった。
「止まってくれええええええええええええええええ」
いつも通り盗みに入った彼が目につけたのは装飾華美な旅馬車。
普段は金目の宝石などをちょろまかすに止めていた彼だが、この日だけは事情が違った。
惚れ込んだ娼婦を身請けする。だから金がいる。
どうしようもなく哀れなベニーだが、それでもこれまでなんだかんだ盗みはバレず、幸運の女神に愛されているなどと吹いていた。
それも今日までの話ではあるが。
彼は見事な手際で旅馬車を盗み出し、馬に鞭打ち満点の星空の下駆け抜ける。
これだけの一品だ、高く売れるに違いない。加えて引く馬も一級品ときた。
あの娘の身体は俺のもの。そう確信してやまないベニーに奇妙な影が落ちる。
月光を遮るように空をかけるのは、幽霊列車。ベニーと並走するように魔術で編まれた線路を行くそれに恐怖し、慌てて馬を止めようと手綱を取るが、止まらない。
「おい、どうしたってんだ!? 止まれよ! 止まれってんだ!」
いつの間にか空を飛ぶ列車は見えなくなっていたが、どうにも馬の様子がおかしい。
まるで言うことも聞かず、進路も変えられず、速度も乗っていて降りるに降りられないのだ。
彼の叫びは月夜に響き、車輪と蹄鉄だけがそれを聞いていた。
●止めねば
一つ嘆息した『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は素知らぬ顔で自由騎士を招集する。
「諸君、お集まりいただき恐悦至極。イブリースが出現した」
水鏡が映し出した月夜の暴走馬車。おそらくはゲシュペンストの影響でイブリース化したのだろう。
水鏡によればこのまま放置するとイブリースの引く馬車は、近くにある街まで続く街道を暴走しつつけ、いずれ街に到達する。
そうなれば被害は恐ろしいことになるだろう。
「馬車の走るルートを地図に書き写した。諸君らには現地に赴き、馬車を迎撃してほしい」
幸い馬車が来るまでには時間があるようだ。既に街へは先んじて避難を促す使者を送っている。
とはいっても、自由騎士達が今から出発して街に着く頃には数刻しか残っていない。
その残された猶予で街道に障害物を作るなり、待ち構え奇襲するなりして馬車を止めてほしい。
「難題ではあるが、諸君らならば成し遂げられると信じている。健闘を祈る」
ベニー・クルス。
哀れにも愚かな盗賊だ。
彼は小遣い稼ぎに盗みに入り、夜な夜な散財しては金欠を嘆き、また盗む。
救いようのない悪党ではあるが、彼の哀れさは今現在とどまるところを知らなかった。
「止まってくれええええええええええええええええ」
いつも通り盗みに入った彼が目につけたのは装飾華美な旅馬車。
普段は金目の宝石などをちょろまかすに止めていた彼だが、この日だけは事情が違った。
惚れ込んだ娼婦を身請けする。だから金がいる。
どうしようもなく哀れなベニーだが、それでもこれまでなんだかんだ盗みはバレず、幸運の女神に愛されているなどと吹いていた。
それも今日までの話ではあるが。
彼は見事な手際で旅馬車を盗み出し、馬に鞭打ち満点の星空の下駆け抜ける。
これだけの一品だ、高く売れるに違いない。加えて引く馬も一級品ときた。
あの娘の身体は俺のもの。そう確信してやまないベニーに奇妙な影が落ちる。
月光を遮るように空をかけるのは、幽霊列車。ベニーと並走するように魔術で編まれた線路を行くそれに恐怖し、慌てて馬を止めようと手綱を取るが、止まらない。
「おい、どうしたってんだ!? 止まれよ! 止まれってんだ!」
いつの間にか空を飛ぶ列車は見えなくなっていたが、どうにも馬の様子がおかしい。
まるで言うことも聞かず、進路も変えられず、速度も乗っていて降りるに降りられないのだ。
彼の叫びは月夜に響き、車輪と蹄鉄だけがそれを聞いていた。
●止めねば
一つ嘆息した『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は素知らぬ顔で自由騎士を招集する。
「諸君、お集まりいただき恐悦至極。イブリースが出現した」
水鏡が映し出した月夜の暴走馬車。おそらくはゲシュペンストの影響でイブリース化したのだろう。
水鏡によればこのまま放置するとイブリースの引く馬車は、近くにある街まで続く街道を暴走しつつけ、いずれ街に到達する。
そうなれば被害は恐ろしいことになるだろう。
「馬車の走るルートを地図に書き写した。諸君らには現地に赴き、馬車を迎撃してほしい」
幸い馬車が来るまでには時間があるようだ。既に街へは先んじて避難を促す使者を送っている。
とはいっても、自由騎士達が今から出発して街に着く頃には数刻しか残っていない。
その残された猶予で街道に障害物を作るなり、待ち構え奇襲するなりして馬車を止めてほしい。
「難題ではあるが、諸君らならば成し遂げられると信じている。健闘を祈る」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースの街への侵入阻止。
2.イブリースの浄化。
2.イブリースの浄化。
こんにちは、櫟井庵です。
暴走馬車二十四時です。
●敵などの情報
・ウマのイブリース 二頭
歪な双角を生やしたウマのイブリースです。それぞれ白馬と黒馬ですが、能力に差はありません。旅馬車を引いているため障害を飛び越えることは出来ませんが、双角を活かした体当たりはとてつもない破壊力でしょう。
想定される攻撃方法は角での突き上げ、蹄での蹴りつけです。
・ベニー・クルス
イブリースの引く馬車に乗せられた盗賊です。ぶっちゃけ死んだほうがマシな程度なクズですが、もしイブリースが止まって無事生きていたら逃走を試みます。余力があれば捕縛を試みるのもいいかもしれません。
・旅馬車
今現在の持ち主の手に渡るまで血なまぐさい歴史を歩んできた馬車です。
曰く持ち主が不審死を遂げる、曰く走行中にウマもヒトも忽然と消えるなど、おかしな噂が耐えませんでした。
これもイブリース化しており、ウマの牽引無くとも暴走し、強烈な体当たりをしてきます。
・街道
街道は馬車がすれ違える程度に広い、無舗装の道路です。
街に向かって右脇は小高い崖に、左脇は密度の高い雑木林が広がっていて、脇にそれることは出来ません。
緩やかな孤を描いた後、街まで直線が続いています。
暴走馬車二十四時です。
●敵などの情報
・ウマのイブリース 二頭
歪な双角を生やしたウマのイブリースです。それぞれ白馬と黒馬ですが、能力に差はありません。旅馬車を引いているため障害を飛び越えることは出来ませんが、双角を活かした体当たりはとてつもない破壊力でしょう。
想定される攻撃方法は角での突き上げ、蹄での蹴りつけです。
・ベニー・クルス
イブリースの引く馬車に乗せられた盗賊です。ぶっちゃけ死んだほうがマシな程度なクズですが、もしイブリースが止まって無事生きていたら逃走を試みます。余力があれば捕縛を試みるのもいいかもしれません。
・旅馬車
今現在の持ち主の手に渡るまで血なまぐさい歴史を歩んできた馬車です。
曰く持ち主が不審死を遂げる、曰く走行中にウマもヒトも忽然と消えるなど、おかしな噂が耐えませんでした。
これもイブリース化しており、ウマの牽引無くとも暴走し、強烈な体当たりをしてきます。
・街道
街道は馬車がすれ違える程度に広い、無舗装の道路です。
街に向かって右脇は小高い崖に、左脇は密度の高い雑木林が広がっていて、脇にそれることは出来ません。
緩やかな孤を描いた後、街まで直線が続いています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
8日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月16日
2019年07月16日
†メイン参加者 8人†
●止めるために前準備
月明かりの下、暴走馬車の進路上襲撃に適した地点へと急行した自由騎士達。
「ば、馬車が暴走したまま街に入ってしまったら大変です!
そうなる前に止めなきゃですっ」
『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)がカンテラで月明かりの届かない森の中を照らし歩いていく。
「よし、このあたりが良いだろう」
ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)が目星をつけ、切り倒す木、方向、数などを指揮していく。その指示に従い、『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)がのこぎりを使い倒れる方向を調整、それを『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)がぶん殴る。
「せいやぁ!」
ざわ、と震撃が木の葉を揺らし、音を立てて街道へと綺麗に倒れ込む。
「この調子だね! 絶対街には行かせないんだよ!」
「おう、次行くぞ」
オニヒト二人が連携し木を順調に切り倒す横で『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がその手に得物を構え。
「ガブリエラ様、こちらの木でよろしいんですよね?」
「ああ、あちらの方向に倒してくれ」
「かしこまりました。不肖アンジェリカ、全身全霊全力全壊で尽力致します!」
ごうっと空気が振動し、周囲の木の葉を巻き上げ、恐るべき速度と威力を持って叩きつけられる十字架。
根本からちぎるように樹木を倒し、ふぅと一息。
「さぁ、次に参りましょう!」
アンジェリカの張り切りに空いた口が塞がらない面々であった。
一方その頃、崖上に登り手頃な岩を落とす組。
「さ、準備はできまして?」
「はい! よろしくおねがいします!」
『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)が『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)を抱きかかえ、崖上へと舞い上がる。キリがなるべく負担を減らそうと跳躍したうえに、華奢なこともあって軽々と崖上に到達した。
「手頃な岩、あるかしら?」
キリを下ろし、そのまま飛び上がって周囲を見渡す。事前に打ち合わせた地点にほど近く、上手く落石させれば街道の大部分を防げそうな岩。
「ありましたわ! キリさん、こちらですわ!」
誘導され、岩を見上げるキリ。
「……これを落とすんですか?」
「ええ、場所も大きさもぴったりではなくて?」
「確かにそうなんですけど……どうやって落とします?」
「決まっていますわ。パワーで」
「えええ……」
キリは多分コレを落とすのはムリ、と判断し、この大岩を目印に周囲にあった程々の岩を体当たりで転がしながら集めていった。
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)はその間街道に穴を掘っていた。おそらく通るであろう道路に、前足が嵌りそうな程度の深さのものをいくつかと、障害物を避けようと逸れるであろう左右にいくつか。
「ふぅ。まあこんなもんか」
「お疲れ様です、ザルクさん」
ティルダがカンテラで明るく照らし、割りと重労働であった穴掘りを終えたザルクをねぎらう。
「おう、気をつけろよ? その辺りも掘ったから」
「は、はいっ、気をつけます!」
カンテラでよく足元を照らしながら、慎重に待機地点へと二人は向かった。
●止まれ!
二人が待機地点へと到着する頃、綺麗に切り倒された木が三本と、ちぎれ飛んだ木が三本積み上がり、一筋縄では突破できそうもない障害が出来上がっていた。
崖上へ目を向ければ手ごろな岩を集め終えた二人がこちらに手を振っていて、準備が出来たことを報せている。
カノンがリュンケウスの瞳で街道の先をじっと見据える。
少しずつ張り詰めていく空気。夜風に葉擦れの音だけが響いていたが。
「来るよッ!」
カノンの警告から数秒後、けたたましく鳴り響く車輪と蹄鉄の駆ける音。
「ふふっ、それではしっかり浄化してあげましょうね! 頑張っていきましょう!」
「うむ。作戦通りいこう」
ガブリエラのノートルダムの息吹が森林で待機している自由騎士達を包み込み、アンジェリカがサンシャインダンスによる自己強化を済ませ、待ち構える。
「うおおお!? なんだありゃあ! とまれえええ! とまってくれえええええええええええええええ!!!!」
おそらくベニー・クルスの悲鳴だろう。積み上がった木を見ていよいよ己の命運が尽きたことを悟る。それでも最後まで生き延びてやるとあがき、旅馬車の中に入り衝撃に備えた。
ベニーの懇願はやはり聞き入れられず、減速するどころか加速していくイブリース達。
いよいよ障害まで残す距離も僅か、といったところで黒馬が落とし穴に前足を引っ掛けバランスを崩す。馬車に繋がれた一頭が体勢を崩せばつられてもう一頭もよろめき、馬車も最高速を意地出来なくなってしまう。
「今だ!」
目論見通り減速させることが出来た瞬間、ガブリエラの指示によってティルダが馬車へとスワンプをかける。
突如道路が底なし沼へと変化、車輪が空転し、泥に嵌まってしまう。留め具がばちんと音を立てて外れ、再度加速し始める白馬と黒馬。そこへ打ち込まれる不可視の魔弾が魔法陣を形成、束縛結界が馬の動きを阻害する。
次いで崖上へと合図を送り逃げ道を塞ぐ岩落としを狙う。
●止めます!
がらがらと音を立てて崩れ落ちる大小様々な岩によって戦場が区切られた。
「ふんぎぎぎぎぎ」
「レオンティーナさん! それはムリですって!」
「はぁ、仕方ありませんわね。行きますよ、キリさん! このような暴れ馬車が街へ行けば大変な惨事になってしまいます。必ずここで喰い止めますわ!」
キリは気を取り直し、少しゆるい空気を振り払うようにパチリと頬を叩いて気合を入れる。
「はい! 行きましょう!」
助走をつけ、崖から跳躍、もう一度空を跳ね一直線に馬車へ跳ぶ。
「はぁああああああッ!」
纏うローブから暴走した魔力膜。それを強引に束ね魔剣とす。その名をにんじんソード。可愛らしい名前と裏腹に、強烈な威力をもってして車輪を完全破壊。かろうじて地面に噛んでいた右前方の車輪が破壊され、もはや移動することができなくなり無力化された馬車からベニーが這いずり出てくる。
「おえっ。世界が回ってやがる……死ぬ……。もう俺は死ぬんだ……」
「それだけしゃべることが出来れば充分です! 行きますよ!」
キリはベニーをとっ捕まえて一度後衛まで引くことにするのだった。
●止めるよ!
宵闇を疾駆する白馬と黒馬。迎え撃つのはカノン。
「この先へは行かせないよ!」
爛々と金の瞳を輝かせ、その内に燃える闘志を宿し躍り出る。
駆けてくる馬達に対しあえてカノンも駆け出し、一気に彼我の距離を埋める。そのまま角を突き出しカノンを撃退しようと試みる馬達を前に、地面へ飛び込み速度を殺さないまま前転からの倒立、運動エネルギーを鍛え抜かれた体幹によりそのまま足先へと収束させる。
強靭な脚力を持ってそれをコントロールし、両足を大きく開きながら地についた手を軸に回転蹴りを放つ。
『バヒィイイン!?』
左右二連の回転蹴りは白と黒をほぼ同時に捉え、弾き飛ばす。回転により中に浮いていたカノンが衝撃に後ろへ飛び、空いた空間へ踏み込むアンジェリカ。
「最速の重撃、とくとご覧あれ!」
強烈な踏み込みにより地面が叩き割れる。直後、ほぼ同時に叩き込まれる三連撃。目にも留まらぬ速度で繰り出された剛撃三閃全てが白馬を捉え、巨体が宙を舞う。
一撃一撃全てに祈りを込め全力で振るうのだ。その威力、推して知るべし。
●止まれっていってんだ!
よろけ立ち上がる白馬に、己を奮い立たせたヨツカが肉薄する。
『――――――――!!!!』
「おおおおおおおッ!!!!」
死力を尽くす嘶きに負けぬ咆哮。真正面から突き出される角を迎え撃つ。
「その角、へし折る……ッ!」
己の背丈程もある野太刀を振るい、歪な双角へと叩きつける。甲高い金属音。半ばから叩き折られた角が地に突き刺さり、白馬の痛哭が天を刺す。
「危ねぇッ!」
「避けて!」
その嘶きに応えるように駆ける黒馬の突進。味方の声虚しく、打ち終わりの硬直に回避は間に合わない、自身を襲うであろう衝撃に備えるヨツカがせめてもと野太刀を身体の前に割り入れる。
空から放たれた魔力矢とザルクの放った銃弾が黒馬を射抜く。事前に落とし穴で痛めた前足を撃ち抜かれ、横合いから叩きつけられる魔力矢によっていくらか威力の削がれた双角がヨツカをとらえる。
「ぐああっ!?」
援護もありかろうじて受けは間に合ったが、それでもとてつもない衝撃に吹き飛ばされるヨツカ。
角の恨みを晴らさんとばかりに震える足で地を蹴る白馬。
「!? 間に合って下さいッ……!」
ティルダの放った魔力が氷の棺となって白馬を阻む。
その隙きにレオンティーナがすかさず飛んで行き、治療を施す。
「大丈夫ですの? 今メセグリンしますわね」
「すまん……!」
時を同じくしてベニーを連行し、ガブリエラに治癒と捕縛を任せキリが前線へと復帰する。
「あなたの相手はキリです!」
追撃に駆け出す黒馬の双角を打ち払い、ヨツカ達をかばうように立ちはだかる。そこへ降り注ぐ銃弾の嵐。
「纏めて吹き飛ばすッ!」
言葉通り白馬も黒馬も纏めて銃弾でぶち抜き、ひるんだ白馬へとカノンが肉薄、木をもなぎ倒す震撃を叩き込む。全身を走り抜ける衝撃に、崩れ落ちる白馬。
「これでトドメです!」
氷塊が白馬を抱き、沈黙させた。
白馬が氷塊に包まれる頃、黒馬を襲う三連撃。最初に見せた剛撃ほどではないが、それでも神速をもって振るわれる十字架は絶大な威力を誇っていた。たまらずたたらを踏む黒馬がくるりと後ろを向く。
「!? 危ないッ!」
よろけて逃げるのではない。強靭な後ろ足による蹴りがアンジェリカに向けて放たれた。
キリはアンジェリカを体当たりをするようにしてかばうが、不完全な体勢で攻撃を受けたため威力を殺しきれず吹き飛んでしまう。
「きゃああああっ!?」
「キリさん!?」
治療を終えたヨツカが黒馬へと野太刀を振るい、ひるませる。
「大丈夫か、キリ!」
「っ……! これ、くらい平気、です……!」
激痛をこらえ立ち上がるキリを制止したのはレオンティーナだった。
「どうみても平気じゃありませんわよね。いいからメセグリンしますわよ」
「うぅ……、すいません……」
「どれ、見せてみろ」
ベニーの治療と簡単な拘束を終えたガブリエラも治療に参加し、事なきを得た。
その間も絶え間なく銃声が月夜に響き、激しく打ち合う音と協奏曲を紡いでいた。
数度の攻防の結果、機動力を奪われ、抵抗する術を失った黒馬はそれでも角を振り乱し暴れ狂う。
「さぁ、大人しくしてください……!」
「ヨツカは止まるわけにはいかないんでな……ッ!」
アンジェリカとヨツカの攻撃が左右同時に襲いかかり、がくりと崩した左前足を捉えるアイスコフィン。右前足を的確な射撃が射抜き、崩れ落ちる黒馬へ。
「せいやぁあッ!」
渾身の震撃が打ち込まれ、大きくのけぞりぶるりと一つ震えて、黒馬は浄化された。
●止まりましたね。
「どぅどぅ、貴方達も大変な目に遭ってしまいましたわね。もう大丈夫ですからね」
「お馬さん、にんじん食べます?」
無事浄化を終えた馬をなだめ、餌付けなどをしながらベニー・クルスを縄で縛り上げ。
「どうしようもない奴だが、確かにお前は運が良いぞ。
ヨツカ達に助けられたんだからな」
「うっ、ちょっと縄きつくないっすか?」
「イブリース災害で死ぬよかずっとマシだろ、我慢しろ」
「そりゃそうっすけど……ここは一つ、見逃しちゃくれませんかね」
「君の罪はもう露呈している。逃げずに大人しく我々に従ったほうが身のためだぞ」
「つ、罪を犯したのなら、ちゃんと償ってもらわないとですから」
「へぇーい……。ああ、ごめんよブレンダちゃん、迎えにはいけねえや……」
「汚れた金で身請けされて喜ぶ程度の女なのか、そいつは」
「なっ、てめえ俺はともかくブレンダちゃんをバカにすんじゃねえよ!」
「違うなら、ちゃんと態度で示すといい。
縄に付け。相応の処罰を受けろ。それから、だ」
「……っ。ふん……」
取り敢えず縛ったベニーは転がしておいて、街道の後片付けをしなくてはならないだろうということで自由騎士たちは分担して片付けにあたるのだが。
積み上がった大量の木、崩落した岩、ところどころに開いた穴。
「ヨツカは少し後悔しているぞ」
愚痴を溢しつつもせっせとのこぎりで横枝を落とし、運びやすいよう切り分けていく。
「お腹空いたなー。でもその前に後片付けしないとね」
束ねた横枝を一所にまとめ、汗を拭うカノン。
岩は上へ持ち上げるなど幾ら時間があってもできそうにないので取り敢えず道の脇に片付けておいた。
「この馬車は動くかしら」
「し、車軸が壊れていますから、修理しないと難しいんじゃないかなと。
それにしても素敵な装飾です。これは何の意匠でしょうか……」
浄化された馬車は外装こそ無事なものの車輪が破壊され、車軸も歪んでしまって残った車輪も動く気配がない。
ザルクが掘った穴を埋め、踏み固めていると。
「あ、おつかれさんです」
「おい」
「こんなことで捕まってたまるかってんだよおおおおお! 待っててくれ! ブレンダちゃあああああん」
皆が撤去作業に勤しんでいる間に縄抜けし脱走したベニーが走りさる。しかし自由騎士達を前に堂々と脱走など成功するはずもなく。
パラライズショットによって束縛され地面を転がったベニーにあっという間に追いついたカノンが抑え込む。
「大人しくするんだよ!」
「お待ちなさい。貴方には窃盗の容疑が掛かっていますわ」
上空から弓を向けるレオンティーナ。
逃亡劇僅か一分未満で終幕。
「コソ泥のベニーは助けられずに死んで、現地で埋葬してきた」
押さえつけられたベニーの前にしゃがみ込み、銃口をこめかみに突きつけてザルクがつらつらと。
「そうはなりたくないだろ? なあ?」
「ひいいっ」
「ザルク様、お戯れは程々に。罪を償うのに怪我をされても困りますから」
優しい声音のアンジェリカに、まさに聖女だ! なんてベニーが振り向くと。
「私は歩く懺悔室、檻に入る前に悔いが無いように全て吐いて頂いて構いませんよ」
聖女のごとく微笑み左手を胸元に添えるアンジェリカが右手で大木を抱えて静々と立っていた。
「ひっ」
別に威圧するつもりではなく、ただ片付けの途中だったのだが、まさか一人で木を持ち上げ運ぶシスターがこの世に居るとは思うまい。
ストレスの限界を迎えたのだろう、ベニー・クルスは短い悲鳴を上げこてっと気絶した。
「あ、おいこら、寝てんじゃねえ! 今までの盗みの物件や手口も全部吐いてもらうからな!」
こうして哀れなベニー・クルスの引き起こした珍事件は幕を閉じたのであった。
月明かりの下、暴走馬車の進路上襲撃に適した地点へと急行した自由騎士達。
「ば、馬車が暴走したまま街に入ってしまったら大変です!
そうなる前に止めなきゃですっ」
『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)がカンテラで月明かりの届かない森の中を照らし歩いていく。
「よし、このあたりが良いだろう」
ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)が目星をつけ、切り倒す木、方向、数などを指揮していく。その指示に従い、『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)がのこぎりを使い倒れる方向を調整、それを『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)がぶん殴る。
「せいやぁ!」
ざわ、と震撃が木の葉を揺らし、音を立てて街道へと綺麗に倒れ込む。
「この調子だね! 絶対街には行かせないんだよ!」
「おう、次行くぞ」
オニヒト二人が連携し木を順調に切り倒す横で『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)がその手に得物を構え。
「ガブリエラ様、こちらの木でよろしいんですよね?」
「ああ、あちらの方向に倒してくれ」
「かしこまりました。不肖アンジェリカ、全身全霊全力全壊で尽力致します!」
ごうっと空気が振動し、周囲の木の葉を巻き上げ、恐るべき速度と威力を持って叩きつけられる十字架。
根本からちぎるように樹木を倒し、ふぅと一息。
「さぁ、次に参りましょう!」
アンジェリカの張り切りに空いた口が塞がらない面々であった。
一方その頃、崖上に登り手頃な岩を落とす組。
「さ、準備はできまして?」
「はい! よろしくおねがいします!」
『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)が『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547)を抱きかかえ、崖上へと舞い上がる。キリがなるべく負担を減らそうと跳躍したうえに、華奢なこともあって軽々と崖上に到達した。
「手頃な岩、あるかしら?」
キリを下ろし、そのまま飛び上がって周囲を見渡す。事前に打ち合わせた地点にほど近く、上手く落石させれば街道の大部分を防げそうな岩。
「ありましたわ! キリさん、こちらですわ!」
誘導され、岩を見上げるキリ。
「……これを落とすんですか?」
「ええ、場所も大きさもぴったりではなくて?」
「確かにそうなんですけど……どうやって落とします?」
「決まっていますわ。パワーで」
「えええ……」
キリは多分コレを落とすのはムリ、と判断し、この大岩を目印に周囲にあった程々の岩を体当たりで転がしながら集めていった。
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)はその間街道に穴を掘っていた。おそらく通るであろう道路に、前足が嵌りそうな程度の深さのものをいくつかと、障害物を避けようと逸れるであろう左右にいくつか。
「ふぅ。まあこんなもんか」
「お疲れ様です、ザルクさん」
ティルダがカンテラで明るく照らし、割りと重労働であった穴掘りを終えたザルクをねぎらう。
「おう、気をつけろよ? その辺りも掘ったから」
「は、はいっ、気をつけます!」
カンテラでよく足元を照らしながら、慎重に待機地点へと二人は向かった。
●止まれ!
二人が待機地点へと到着する頃、綺麗に切り倒された木が三本と、ちぎれ飛んだ木が三本積み上がり、一筋縄では突破できそうもない障害が出来上がっていた。
崖上へ目を向ければ手ごろな岩を集め終えた二人がこちらに手を振っていて、準備が出来たことを報せている。
カノンがリュンケウスの瞳で街道の先をじっと見据える。
少しずつ張り詰めていく空気。夜風に葉擦れの音だけが響いていたが。
「来るよッ!」
カノンの警告から数秒後、けたたましく鳴り響く車輪と蹄鉄の駆ける音。
「ふふっ、それではしっかり浄化してあげましょうね! 頑張っていきましょう!」
「うむ。作戦通りいこう」
ガブリエラのノートルダムの息吹が森林で待機している自由騎士達を包み込み、アンジェリカがサンシャインダンスによる自己強化を済ませ、待ち構える。
「うおおお!? なんだありゃあ! とまれえええ! とまってくれえええええええええええええええ!!!!」
おそらくベニー・クルスの悲鳴だろう。積み上がった木を見ていよいよ己の命運が尽きたことを悟る。それでも最後まで生き延びてやるとあがき、旅馬車の中に入り衝撃に備えた。
ベニーの懇願はやはり聞き入れられず、減速するどころか加速していくイブリース達。
いよいよ障害まで残す距離も僅か、といったところで黒馬が落とし穴に前足を引っ掛けバランスを崩す。馬車に繋がれた一頭が体勢を崩せばつられてもう一頭もよろめき、馬車も最高速を意地出来なくなってしまう。
「今だ!」
目論見通り減速させることが出来た瞬間、ガブリエラの指示によってティルダが馬車へとスワンプをかける。
突如道路が底なし沼へと変化、車輪が空転し、泥に嵌まってしまう。留め具がばちんと音を立てて外れ、再度加速し始める白馬と黒馬。そこへ打ち込まれる不可視の魔弾が魔法陣を形成、束縛結界が馬の動きを阻害する。
次いで崖上へと合図を送り逃げ道を塞ぐ岩落としを狙う。
●止めます!
がらがらと音を立てて崩れ落ちる大小様々な岩によって戦場が区切られた。
「ふんぎぎぎぎぎ」
「レオンティーナさん! それはムリですって!」
「はぁ、仕方ありませんわね。行きますよ、キリさん! このような暴れ馬車が街へ行けば大変な惨事になってしまいます。必ずここで喰い止めますわ!」
キリは気を取り直し、少しゆるい空気を振り払うようにパチリと頬を叩いて気合を入れる。
「はい! 行きましょう!」
助走をつけ、崖から跳躍、もう一度空を跳ね一直線に馬車へ跳ぶ。
「はぁああああああッ!」
纏うローブから暴走した魔力膜。それを強引に束ね魔剣とす。その名をにんじんソード。可愛らしい名前と裏腹に、強烈な威力をもってして車輪を完全破壊。かろうじて地面に噛んでいた右前方の車輪が破壊され、もはや移動することができなくなり無力化された馬車からベニーが這いずり出てくる。
「おえっ。世界が回ってやがる……死ぬ……。もう俺は死ぬんだ……」
「それだけしゃべることが出来れば充分です! 行きますよ!」
キリはベニーをとっ捕まえて一度後衛まで引くことにするのだった。
●止めるよ!
宵闇を疾駆する白馬と黒馬。迎え撃つのはカノン。
「この先へは行かせないよ!」
爛々と金の瞳を輝かせ、その内に燃える闘志を宿し躍り出る。
駆けてくる馬達に対しあえてカノンも駆け出し、一気に彼我の距離を埋める。そのまま角を突き出しカノンを撃退しようと試みる馬達を前に、地面へ飛び込み速度を殺さないまま前転からの倒立、運動エネルギーを鍛え抜かれた体幹によりそのまま足先へと収束させる。
強靭な脚力を持ってそれをコントロールし、両足を大きく開きながら地についた手を軸に回転蹴りを放つ。
『バヒィイイン!?』
左右二連の回転蹴りは白と黒をほぼ同時に捉え、弾き飛ばす。回転により中に浮いていたカノンが衝撃に後ろへ飛び、空いた空間へ踏み込むアンジェリカ。
「最速の重撃、とくとご覧あれ!」
強烈な踏み込みにより地面が叩き割れる。直後、ほぼ同時に叩き込まれる三連撃。目にも留まらぬ速度で繰り出された剛撃三閃全てが白馬を捉え、巨体が宙を舞う。
一撃一撃全てに祈りを込め全力で振るうのだ。その威力、推して知るべし。
●止まれっていってんだ!
よろけ立ち上がる白馬に、己を奮い立たせたヨツカが肉薄する。
『――――――――!!!!』
「おおおおおおおッ!!!!」
死力を尽くす嘶きに負けぬ咆哮。真正面から突き出される角を迎え撃つ。
「その角、へし折る……ッ!」
己の背丈程もある野太刀を振るい、歪な双角へと叩きつける。甲高い金属音。半ばから叩き折られた角が地に突き刺さり、白馬の痛哭が天を刺す。
「危ねぇッ!」
「避けて!」
その嘶きに応えるように駆ける黒馬の突進。味方の声虚しく、打ち終わりの硬直に回避は間に合わない、自身を襲うであろう衝撃に備えるヨツカがせめてもと野太刀を身体の前に割り入れる。
空から放たれた魔力矢とザルクの放った銃弾が黒馬を射抜く。事前に落とし穴で痛めた前足を撃ち抜かれ、横合いから叩きつけられる魔力矢によっていくらか威力の削がれた双角がヨツカをとらえる。
「ぐああっ!?」
援護もありかろうじて受けは間に合ったが、それでもとてつもない衝撃に吹き飛ばされるヨツカ。
角の恨みを晴らさんとばかりに震える足で地を蹴る白馬。
「!? 間に合って下さいッ……!」
ティルダの放った魔力が氷の棺となって白馬を阻む。
その隙きにレオンティーナがすかさず飛んで行き、治療を施す。
「大丈夫ですの? 今メセグリンしますわね」
「すまん……!」
時を同じくしてベニーを連行し、ガブリエラに治癒と捕縛を任せキリが前線へと復帰する。
「あなたの相手はキリです!」
追撃に駆け出す黒馬の双角を打ち払い、ヨツカ達をかばうように立ちはだかる。そこへ降り注ぐ銃弾の嵐。
「纏めて吹き飛ばすッ!」
言葉通り白馬も黒馬も纏めて銃弾でぶち抜き、ひるんだ白馬へとカノンが肉薄、木をもなぎ倒す震撃を叩き込む。全身を走り抜ける衝撃に、崩れ落ちる白馬。
「これでトドメです!」
氷塊が白馬を抱き、沈黙させた。
白馬が氷塊に包まれる頃、黒馬を襲う三連撃。最初に見せた剛撃ほどではないが、それでも神速をもって振るわれる十字架は絶大な威力を誇っていた。たまらずたたらを踏む黒馬がくるりと後ろを向く。
「!? 危ないッ!」
よろけて逃げるのではない。強靭な後ろ足による蹴りがアンジェリカに向けて放たれた。
キリはアンジェリカを体当たりをするようにしてかばうが、不完全な体勢で攻撃を受けたため威力を殺しきれず吹き飛んでしまう。
「きゃああああっ!?」
「キリさん!?」
治療を終えたヨツカが黒馬へと野太刀を振るい、ひるませる。
「大丈夫か、キリ!」
「っ……! これ、くらい平気、です……!」
激痛をこらえ立ち上がるキリを制止したのはレオンティーナだった。
「どうみても平気じゃありませんわよね。いいからメセグリンしますわよ」
「うぅ……、すいません……」
「どれ、見せてみろ」
ベニーの治療と簡単な拘束を終えたガブリエラも治療に参加し、事なきを得た。
その間も絶え間なく銃声が月夜に響き、激しく打ち合う音と協奏曲を紡いでいた。
数度の攻防の結果、機動力を奪われ、抵抗する術を失った黒馬はそれでも角を振り乱し暴れ狂う。
「さぁ、大人しくしてください……!」
「ヨツカは止まるわけにはいかないんでな……ッ!」
アンジェリカとヨツカの攻撃が左右同時に襲いかかり、がくりと崩した左前足を捉えるアイスコフィン。右前足を的確な射撃が射抜き、崩れ落ちる黒馬へ。
「せいやぁあッ!」
渾身の震撃が打ち込まれ、大きくのけぞりぶるりと一つ震えて、黒馬は浄化された。
●止まりましたね。
「どぅどぅ、貴方達も大変な目に遭ってしまいましたわね。もう大丈夫ですからね」
「お馬さん、にんじん食べます?」
無事浄化を終えた馬をなだめ、餌付けなどをしながらベニー・クルスを縄で縛り上げ。
「どうしようもない奴だが、確かにお前は運が良いぞ。
ヨツカ達に助けられたんだからな」
「うっ、ちょっと縄きつくないっすか?」
「イブリース災害で死ぬよかずっとマシだろ、我慢しろ」
「そりゃそうっすけど……ここは一つ、見逃しちゃくれませんかね」
「君の罪はもう露呈している。逃げずに大人しく我々に従ったほうが身のためだぞ」
「つ、罪を犯したのなら、ちゃんと償ってもらわないとですから」
「へぇーい……。ああ、ごめんよブレンダちゃん、迎えにはいけねえや……」
「汚れた金で身請けされて喜ぶ程度の女なのか、そいつは」
「なっ、てめえ俺はともかくブレンダちゃんをバカにすんじゃねえよ!」
「違うなら、ちゃんと態度で示すといい。
縄に付け。相応の処罰を受けろ。それから、だ」
「……っ。ふん……」
取り敢えず縛ったベニーは転がしておいて、街道の後片付けをしなくてはならないだろうということで自由騎士たちは分担して片付けにあたるのだが。
積み上がった大量の木、崩落した岩、ところどころに開いた穴。
「ヨツカは少し後悔しているぞ」
愚痴を溢しつつもせっせとのこぎりで横枝を落とし、運びやすいよう切り分けていく。
「お腹空いたなー。でもその前に後片付けしないとね」
束ねた横枝を一所にまとめ、汗を拭うカノン。
岩は上へ持ち上げるなど幾ら時間があってもできそうにないので取り敢えず道の脇に片付けておいた。
「この馬車は動くかしら」
「し、車軸が壊れていますから、修理しないと難しいんじゃないかなと。
それにしても素敵な装飾です。これは何の意匠でしょうか……」
浄化された馬車は外装こそ無事なものの車輪が破壊され、車軸も歪んでしまって残った車輪も動く気配がない。
ザルクが掘った穴を埋め、踏み固めていると。
「あ、おつかれさんです」
「おい」
「こんなことで捕まってたまるかってんだよおおおおお! 待っててくれ! ブレンダちゃあああああん」
皆が撤去作業に勤しんでいる間に縄抜けし脱走したベニーが走りさる。しかし自由騎士達を前に堂々と脱走など成功するはずもなく。
パラライズショットによって束縛され地面を転がったベニーにあっという間に追いついたカノンが抑え込む。
「大人しくするんだよ!」
「お待ちなさい。貴方には窃盗の容疑が掛かっていますわ」
上空から弓を向けるレオンティーナ。
逃亡劇僅か一分未満で終幕。
「コソ泥のベニーは助けられずに死んで、現地で埋葬してきた」
押さえつけられたベニーの前にしゃがみ込み、銃口をこめかみに突きつけてザルクがつらつらと。
「そうはなりたくないだろ? なあ?」
「ひいいっ」
「ザルク様、お戯れは程々に。罪を償うのに怪我をされても困りますから」
優しい声音のアンジェリカに、まさに聖女だ! なんてベニーが振り向くと。
「私は歩く懺悔室、檻に入る前に悔いが無いように全て吐いて頂いて構いませんよ」
聖女のごとく微笑み左手を胸元に添えるアンジェリカが右手で大木を抱えて静々と立っていた。
「ひっ」
別に威圧するつもりではなく、ただ片付けの途中だったのだが、まさか一人で木を持ち上げ運ぶシスターがこの世に居るとは思うまい。
ストレスの限界を迎えたのだろう、ベニー・クルスは短い悲鳴を上げこてっと気絶した。
「あ、おいこら、寝てんじゃねえ! 今までの盗みの物件や手口も全部吐いてもらうからな!」
こうして哀れなベニー・クルスの引き起こした珍事件は幕を閉じたのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
この度はシナリオに参加くださりありがとうございました。
思っていたよりベニーさん大人気でした。
MVPは角折に成功した月ノ輪・ヨツカさんへ。
今回も非常に楽しく書かせていただきました。重ね重ね御礼申し上げます。
思っていたよりベニーさん大人気でした。
MVPは角折に成功した月ノ輪・ヨツカさんへ。
今回も非常に楽しく書かせていただきました。重ね重ね御礼申し上げます。
FL送付済