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蝗害。或いは、蝗の群れを殲滅せよ……。

●集団喰宴
遠くの空が黒に染まった。
その正体は、、数えきれないほどの蝗の群れだ。
耕地から耕地へ移動し、食物という食物を喰らい尽くす。
世に蝗害と呼ばれる蝗たちの習性であった。
蝗害に襲われた町や村では食物が枯渇し、飢える者が現れる。
そのため、ひどく恐れられている現象であるが、今年のそれは些か様子が異なった。
「あいつら、作物だけじゃなくて何でも喰いやがる。牛も羊も馬も……人まで喰われちまったんだ」
そう語るのは、体中に血のにじんだ包帯を巻いた老人であった。
包帯の下は、皮膚を食いちぎられて酷いことになっている。
「その中に1匹、馬鹿みたいにでかい個体がいた。蝗じゃねぇぞ、ありゃあ」
血の混じる唾液を唇の端から零しながら、老人は語る。
曰く、その個体は体長1メートルを超えていた。
6本の脚も、4枚の翅も太く分厚く……昆虫のそれには見えなかった。
脚の側面や翅にも口が付いていて、触れるものは食物であれ、ほかの蝗であれ、何でも喰らった。
そして何より、その口は身体の半ばほどまでに及ぶ巨大なものだった。
「悪魔ってのは、あぁ言うのを指して言うんだろうぜ」
なんて、言って。
それっきり老人は、身体を震わせ口を噤んだ。
●作戦発令
「おそらく、蝗の群れの中にイブリースが紛れ込んでいるのね」
放置してはおけないわ、と『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はそう告げる。
蝗の群れの正確な数は分からない。
1000や10000ではないことは確かだが……そうは言っても、所詮は虫だ。
自由騎士たちの攻撃であれば、一度で結構な数を減らすことも不可能ではない。
ましてや範囲攻撃や全体攻撃のスキルを使えばなおのこと。
問題となるのは、蝗の群れに紛れたイブリース……“レギオン”の存在だ。
「喰えば喰うほど巨大になる性質を持っているようね。そして、活動すればするほどに小さくなっていく。喰い続けなければ、生き残れない……そんなイブリースよ」
だからこそ、蝗の群れと共に新たな餌場を探して移動を続けているのだろう。
時には、ほかの蝗を喰らうこともある。
「現在は体長1.5メートルほど。飛行能力を備えているのが厄介ね」
地上での戦闘に比べ、空中戦を得意とする者は存外少ない。
幸いなことに、遠距離からの攻撃手段を持ってはいないようだが……6本の脚による運動能力は侮れないだろう。
「普通の蝗に紛れているから、まずは探し出すところからね。それと、攻撃には【スクラッチ】の状態異常が付与されているから注意して」
そういってバーバラは、集まった自由騎士たちの前に地図を配った。
とある山間部の農村。
それが、今回の戦場である。
村を囲むように、山の各所に畑や果樹園が展開されている。
また、村の中では馬や牛が飼育されているようだ。
「戦場となるのはこの村ね。村人たちは避難済みだけど、家畜はまだ村に残っている」
今回の任務は、村の作物と家畜を半分以上残した状態でレギオンを討伐することだ。
村の規模はそう大きくはないため、蝗の接近を確認してから現場へ移動しても、十分に被害は抑えられるだろう。
「農作物や家畜を喰われ続ければ、いずれレギオンは手に負えない大きさになるわ。その前に討伐してちょうだい」
と、そう言って。
バーバラは仲間たちを送り出す。
遠くの空が黒に染まった。
その正体は、、数えきれないほどの蝗の群れだ。
耕地から耕地へ移動し、食物という食物を喰らい尽くす。
世に蝗害と呼ばれる蝗たちの習性であった。
蝗害に襲われた町や村では食物が枯渇し、飢える者が現れる。
そのため、ひどく恐れられている現象であるが、今年のそれは些か様子が異なった。
「あいつら、作物だけじゃなくて何でも喰いやがる。牛も羊も馬も……人まで喰われちまったんだ」
そう語るのは、体中に血のにじんだ包帯を巻いた老人であった。
包帯の下は、皮膚を食いちぎられて酷いことになっている。
「その中に1匹、馬鹿みたいにでかい個体がいた。蝗じゃねぇぞ、ありゃあ」
血の混じる唾液を唇の端から零しながら、老人は語る。
曰く、その個体は体長1メートルを超えていた。
6本の脚も、4枚の翅も太く分厚く……昆虫のそれには見えなかった。
脚の側面や翅にも口が付いていて、触れるものは食物であれ、ほかの蝗であれ、何でも喰らった。
そして何より、その口は身体の半ばほどまでに及ぶ巨大なものだった。
「悪魔ってのは、あぁ言うのを指して言うんだろうぜ」
なんて、言って。
それっきり老人は、身体を震わせ口を噤んだ。
●作戦発令
「おそらく、蝗の群れの中にイブリースが紛れ込んでいるのね」
放置してはおけないわ、と『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はそう告げる。
蝗の群れの正確な数は分からない。
1000や10000ではないことは確かだが……そうは言っても、所詮は虫だ。
自由騎士たちの攻撃であれば、一度で結構な数を減らすことも不可能ではない。
ましてや範囲攻撃や全体攻撃のスキルを使えばなおのこと。
問題となるのは、蝗の群れに紛れたイブリース……“レギオン”の存在だ。
「喰えば喰うほど巨大になる性質を持っているようね。そして、活動すればするほどに小さくなっていく。喰い続けなければ、生き残れない……そんなイブリースよ」
だからこそ、蝗の群れと共に新たな餌場を探して移動を続けているのだろう。
時には、ほかの蝗を喰らうこともある。
「現在は体長1.5メートルほど。飛行能力を備えているのが厄介ね」
地上での戦闘に比べ、空中戦を得意とする者は存外少ない。
幸いなことに、遠距離からの攻撃手段を持ってはいないようだが……6本の脚による運動能力は侮れないだろう。
「普通の蝗に紛れているから、まずは探し出すところからね。それと、攻撃には【スクラッチ】の状態異常が付与されているから注意して」
そういってバーバラは、集まった自由騎士たちの前に地図を配った。
とある山間部の農村。
それが、今回の戦場である。
村を囲むように、山の各所に畑や果樹園が展開されている。
また、村の中では馬や牛が飼育されているようだ。
「戦場となるのはこの村ね。村人たちは避難済みだけど、家畜はまだ村に残っている」
今回の任務は、村の作物と家畜を半分以上残した状態でレギオンを討伐することだ。
村の規模はそう大きくはないため、蝗の接近を確認してから現場へ移動しても、十分に被害は抑えられるだろう。
「農作物や家畜を喰われ続ければ、いずれレギオンは手に負えない大きさになるわ。その前に討伐してちょうだい」
と、そう言って。
バーバラは仲間たちを送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.畑や果樹園、家畜の半分以上を残した状態でレギオンを討伐する。
●ターゲット
レギオン(イブリース)×1
蝗がイブリース化したもの。
現在の体長は1.5メートルほど。
喰えば喰うほどにサイズが大きくなるが、喰えない状態で動き回ると縮んでいく。
常に喰い続けなければ、その巨体は維持できないようだ。
脚や翅、身体の各所に口があるため、どこからでも食事が可能。
また、頭部の口は最大で体の半ばほどまで開くため、人や馬であっても飲み込める。
また、飛行能力を備えている。
・蝗蓋[攻撃] A:物近範[スクラッチ2]
身体中にある口で対象を喰らうレギオンの基本行動。
蝗の群れ
空を黒く染める蝗の大群。
レギオンに使役されているわけでもないため、被害が大きくなると悟れば逃走するかもしれない。
●場所
とある山間部の農村。
全部で20世帯ほどの人間が住んでいる。
畑や果樹園から取れる作物が村の主な資金源。
村より下方に果樹園、上方に畑がある。
村の中では馬や牛が飼育されている。
畑か果樹園、居住区のいずれかが戦場となるだろう。
レギオン(イブリース)×1
蝗がイブリース化したもの。
現在の体長は1.5メートルほど。
喰えば喰うほどにサイズが大きくなるが、喰えない状態で動き回ると縮んでいく。
常に喰い続けなければ、その巨体は維持できないようだ。
脚や翅、身体の各所に口があるため、どこからでも食事が可能。
また、頭部の口は最大で体の半ばほどまで開くため、人や馬であっても飲み込める。
また、飛行能力を備えている。
・蝗蓋[攻撃] A:物近範[スクラッチ2]
身体中にある口で対象を喰らうレギオンの基本行動。
蝗の群れ
空を黒く染める蝗の大群。
レギオンに使役されているわけでもないため、被害が大きくなると悟れば逃走するかもしれない。
●場所
とある山間部の農村。
全部で20世帯ほどの人間が住んでいる。
畑や果樹園から取れる作物が村の主な資金源。
村より下方に果樹園、上方に畑がある。
村の中では馬や牛が飼育されている。
畑か果樹園、居住区のいずれかが戦場となるだろう。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年06月06日
2020年06月06日
†メイン参加者 4人†
●
遠くの空が黒に染まった。
その正体は、数えきれないほどの蝗の群れだ。
とある山岳地帯の農村。住人たちの避難はすでに終えている。
残るは家畜と、それから4人の自由騎士。
住人のいない民家の軒先に腰掛けて、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は双眼鏡を覗き込む。
「央華大陸にいた頃は、度々イナゴの被害を目にしたの。連中が飛び去った後は、すべてが食い散らかされた大地が残るのみじゃった」
吐き出すように言葉を紡ぎ、ひょうたんの中身を喉の奥へと流し込む。
「ここが絶対防衛線じゃな」
口元を濡らす酒の雫を荒く手の甲で拭い去り、天輝はよっと立ち上がる。
天輝の後に続いて、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)もまた大十字架を肩に担いで歩み始めた。
「えぇ、これは互い譲れない生存競争、勝者が生きる自然界のルール。であれば私達は勝つだけです!」
蝗の群れは本能に従い、喰らい、そして増えるだけ。
そこには悪意や害意は介在しない。
けれど、人類にとって蝗たちの食欲は命にかかわる脅威足りえる。
そして、自由騎士たちは人類の側に立つ存在だ。
ましてや、蝗の群れにイブリースが混じっているとなれば見過ごす理由は存在しない。
「皆さん、できるだけ被害を抑えないと。村の方達が大変になりますから」
蝗の群れを駆除したとしても、帰るべき村がなくなっていては意味がない。
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は手にした聖遺物を握りしめ、じっと蝗の群れを睨んだ。
空を埋め尽くす蝗の大群。
空気を震わせる羽音。
開戦の時は、すぐそこにまで迫っている。
村の外れへ向け進んでいく仲間たちを見送って、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は民家の庭に作られていた小さな畑に視線を向けた。
「大丈夫だ、俺が守ってやる。蝗なんぞにお前達を喰わせやしないぜ」
種族の特性として【自然共感】のスキルを所持するオルパは、ある程度ならば植物と意思を通わせられる。
蝗の群れが迫る前の段階で、オルパは村のあちこちを歩き回っていた。畑を、果樹園を、村の周囲を囲む木々を、一つずつ丁寧に見て、そして語りかけた。
この村で作られる作物や果実は、どれも村人たちから愛情を持って育てられていた。
その事実を知り、オルパは静かにその痩身に猛る戦意を漲らせる。
蝗の群れから村を救う戦いは、こうして静かに幕を開けた。
●
ぐしゃり、と。
蝗の群れが、見えない何かに圧し潰された。
空を黒く染めるほどの蝗の群れだ。圧し潰された蝗は、そのごく一部にしか過ぎない。
額に汗を滲ませて、セアラは後方へと下がる。
「後は基本的に後衛で……私が戦線を支えてみせます!」
開幕早々、セアラの放った【大渦海域のタンゴ】は、確かに蝗の数を大きく削った。
それでも、減らせた数は1割にも満たないだろうか。
蝗の群れが、縦に伸びていたことも思ったほど数を減らせなかった理由の1つだ。村への被害を抑えるためには、これ以上引き付けることは叶わなかった。
「来やがったな、悪魔ども」
魔力の渦が霧消した。蝗の群れは再侵攻を開始する。
セアラと代わってオルパは前へ。
両手のダガーに魔力を込める。
オルパの魔力に呼応するように、周囲に風が渦巻いた。黒いコートと銀の髪が激しく踊る。
ダガーを大きく後方へと引き絞り……。
一閃。
解き放たれた魔力は、空中で矢を形成。
それはまるで散弾のように、蝗の群れへと降り注ぐ。
小さな蝗は、オルパの魔矢に射貫かれた瞬間、蒸発するように消えていく。
後に残るは、燃え尽きた死骸の欠片のみ。
そうして、セアラとオルパが時間を稼いだその隙に、アンジェリカは影の鎧を纏う。
少しの間、物理ダメージを無効にする絶対防御の鎧である。
セアラ、オルパと続いて放たれた大規模攻撃を潜り抜け、蝗の群れが村へ迫った。
「全体攻撃をばら撒いていきましょう。とにかくイブリースの捕食回数を減らし、弱体化を狙っていきますよ」
蝗の群れに混じるイブリース〝レギオン〟は、食物や他の蝗を喰らってその力を増す能力を持つ。
ターゲットが強化されるリスクを多少なりとも軽減するため、アンジェリカもまた蝗の数を減らすことを優先するべく駆け出した。
高度を落とし、接近してくる蝗の群れの中央へアンジェリカは跳び込んだのだ。
地面に十字架を突き立てて、周囲に灼熱の魔弾をばら撒いた。
炎は連鎖し、蝗の群れの一部が燃え上がる。
瞬間、周囲に熱波が吹き抜けた。
まるで地上で花火が弾けたようだ。
アンジェリカを敵と判断したのだろう。或いは、アンジェリカを餌と捉えたのか。
鋭い牙をアンジェリカの腕や足に突き立てるが……影の鎧は、それを完全に阻んでみせる。
けれど、それも長くは続かない。
アンジェリカの攻撃により蝗は数を減らしていくが、以前その大部分は生存している。
「空が真っ黒になる位の群れじゃ。あれではイブリースの位置がわからんな」
蝗の群れの中にレギオンの姿は確認できない。
ひょうたんを腰に下げ直し、天輝は酒精の混じった息を吐く。
「イナゴごときにちと大仰じゃが、数が数だしのう。跡形もなく消え失せるがいい」
流れるような動作で、天輝は片腕を頭上へ掲げてみせる。
展開する魔法陣。
形成されるは、ごく小規模な惑星だった。
熱風が、そして衝撃が吹き荒れる。
豪華に焼かれ、蝗の群れは数を減らした。
蝗の群れに視線を走らせ、セアラは唇を噛みしめる。
「蝗の群れが村の中に来れば分かりやすいかもしれませんね」
もう一度【大渦海域のタンゴ】を行使するか、それとも仲間たちの支援に回るか。
迷った時間はほんの一瞬。
蝗の群れから弾き出される、血塗れのアンジェリカを見たからだ。
セアラは即座に回復術を行使する。
魔法陣から溢れる淡い燐光が、アンジェリカを包み込む。
体力を回復させたアンジェリカは、素早く身を起こすと大十字架を地に突き立てた。
直後……。
ガツン、と地面を震わせるほどの大音声が鳴り響く。
「く……重っ」
蹴散らされるように、アンジェリカの周囲に留まっていた蝗の群れが飛び散った。
現れたのは巨大な影。
その形状は、たしかに蝗のそれだった。
けれど、その脚や身体、巨大な翼には無数の口。
「来たな……レギオン! この先へは行かせん!」
両手のダガーを逆手に構え、地面を蹴ってオルパが跳んだ。
オルパの放った魔力の矢が、レギオンの腹部を貫いた。
無数の口を大きく開き、レギオンは金切り声を吐き出した。レギオンの正面で、その動きを抑え込んでいたアンジェリカは、絶叫を浴び顔をしかめる。
けれど、後退することはなく、大十字架を体の後ろへ振りかぶる。
大十字架が眩く輝く。
十字架に込められた願いは勝利。
金色の輝きを纏った全身全霊の一撃が、レギオンの頭部を打ち抜いた。
「どれ、良い具合に酔いも回ってきたことじゃし、そろそろ出番かの」
蝗の群れを燃える惑星で焼き殺し、天輝は前に出る。
よろり、と。
その足取りは覚束ない。けれど、彼女にとってはその状態がまさにベストコンディション。
天輝の納めた酔拳は、酔えば酔うほどその技の冴えを増すのである。
最優先の討伐対象はレギオンだ。
けれど、蝗の群れを放置するわけにもいかない。
レギオンの元へ駆け寄りながら、天輝は燃える惑星を呼び出した。酔拳による接近戦を得意とする天輝だが、魔導にもまた長けている。
果樹園へ向かって飛翔した蝗の一団を、天輝の惑星が焼き尽くす。
天輝を脅威と判断したのだろう。
蝗の群れの一部が、天輝へと襲い掛かった。
歩みを止めた天輝は、頭の横に左右の腕を掲げてみせる。
蝗の群れの強襲を、流れるような動作で受け流し、1匹1匹丁寧に、けれど素早く地面へと叩き落していった。
大質量を伴うラッシュ。
大十字架をレギオンと、その周辺の蝗の群れに叩きつけた反動で、アンジェリカは後ろへ跳んだ。
「更に追い込んでいきましょう」
「あぁ、こいつらはココで仕留める。別の場所で植物が襲われるのは避けねばならん」
アンジェリカの退避を確認したオルパは、レギオン周辺へ魔矢を降らせる。
矢の数本が、レギオンの翅を貫いた。
地面に腹部を付けたレギオンは、脚を広げて周囲の蝗を片っ端から喰らっていった。
1.5メートルほどの巨体を誇るレギオンだが、蝗を喰らうたびにその身はさらに肥大していく。
レギオンの特性として、喰えば喰うほどに巨大になるという特性がある。
反面、喰わずに動けばその分、小さくなっていくのだが……。
地面を蹴ってオルパは跳んだ。
コートを翻し、レギオンの背に飛び乗るオルパはダガーを翅へと突き付ける。
けれど、オルパのダガーは翅の口に喰い止められた。
ギシ、とダガーの刃が軋む音。
「な……ぐっ!?」
跳び退ろうとしたオルパだが、痛みに顔をしかめて呻いた。見れば、その脚からは血が溢れている。
レギオンの背に付いた口が、オルパの足の肉を食いちぎったのだ。
その隙を突いて、蝗がオルパに群がった。
オルパの腕を、背を、腹部を、蝗が喰らう。
体勢を崩したオルパが地面に落ちた。
覆い被さるレギオンが、頭部の口を限界まで開く。
限界まで……胴の半ばほどまで開く、通常の蝗の体躯ではあり得ないほどの大口だ。
「くっ……まったく食い意地の張った奴だぜ」
レギオンの顎へ向け、下から上へとダガーを振り抜く。
溢れた蝗の体液がオルパの銀髪を黒く汚した。
だが、その程度ではレギオンの食欲は抑えられない。
舌打ちを零したオルパは、即座に片腕を犠牲にすることを選択した。
レギオンの口腔内へ、ダガーを握った右腕を突き刺す。
口内へのダメージは、さすがのレギオンも無視できなかったのだろう。
金切り声とともに、レギオンは1歩後ろへ下がる。
剣を引き抜き、アンジェリカは疾駆する。
姿勢を低くし、地面に倒れたオルパへ迫る。
「一旦治療を!」
オルパの襟首をひっつかみ、その身を後ろへ投げ捨てた。
振り抜いた大剣が、レギオンの片目を深く抉る。
「決して引きません、皆様の平穏な生活を無事取り戻すまで」
剣を地面に突きたてて、大十字架に両手を添える。
不安定な体勢から放つ牽制の一撃。
さらに……。
「はぁぁぁっ!!」
怒声と共に大十字架を振り回し、レギオンと蝗を薙ぎ払う。レギオンの体液が、砕かれた蝗の死骸が、そして抉られた地面の土が飛び散った。
蝗の群れが、セアラの横を飛び抜けていく。
一瞬、セアラはそちらへ視線を向けるが、唇を噛みしめ視線を前へ。
「多少なら大丈夫でしょうか……普通の蝗は家畜は襲わないでしょうから」
優先すべきはレギオンの討伐だと認識したのだ。
展開した魔法陣から、淡い燐光が立ち上る。
吹き抜けた風に運ばれて、燐光は仲間たちの元へと飛んでいく。
蝗の群れに飲まれた天輝を。
最前線でレギオンを抑えるアンジェリカを。
血に塗れながらも蝗の群れを切り裂くオルパを。
癒しの風による戦線維持が自身の成すべきことなのだ、と。
そう判断した以上、何があろうとセアラは自身の役目を果たす。
纏わりつく蝗の群れを蹴散らして、天輝はレギオンへ向け駆け出した。
「さすがにこれだけの数を相手にするのは骨が折れるの」
面倒くさい、と吐き捨てるようにそう告げて、天輝は後方へ向け素早く指を走らせる。
空中に刻まれたのは「別れ」を意味する古代文字。
直後、業火の柱があがった。
蝗の残りを焼き殺し、よしと天輝は大きく頷く。
蝗の群れも大きくその数を減らしているのだ。今ならば、速やかにレギオンへと接近できる。
蝗との戦闘で覚めた酔いを取り戻すべく、天輝は走りながらも腰のひょうたんへと手を伸ばした。
ぐびり、と酒を喉の奥へと流し込み、胃の腑へ落ちる酒精の熱に笑みを浮かべた。
酒があるなら、酔っているなら、まだまだ彼女は戦える。
負ったダメージもセアラのおかげで回復済みだ。
「地面に落ちれば、翅ももはや役には立つまい」
と、そう呟いて。
流れるように、レギオンの懐へと身を沈ませた。
そして放たれるは、急所を射貫く掌底の一撃。
その衝撃は、レギオンの胸から頭部を撃ち抜いた。
●
天輝の掌打が。
アンジェリカの大十字架が。
オルパの放った魔力の矢が。
レギオンの脚を、翅を、無数の口を潰していく。
数の暴力であらゆるものを食い尽くす蝗の怪異は、ここに来て今度は自身が数の暴力に苦しめられることとなった。
どれほどのダメージを負おうと、即座にセアラが治療を施す。
決して退くことのない自由騎士たちの猛攻を受け、レギオンは次第に弱っていった。
そして……。
『―――――――――――――――――!!』
声にならない悲鳴をあげて、レギオンは地面に倒れ伏す。
レギオンの討伐は完了したが、自由騎士たちの任務はまだ終わらない。
「さて、これだけの大量のイナゴ、ここで殲滅しておかねば別の場所が襲われるのは必定。魔力が続く限りイナゴの群れを消し炭にしてやるわ」
「いつもならイブリースを浄化すれば終わりですけれど……今回ばかりは」
拳を鳴らして魔法陣を展開する天輝は、蝗の残党を処理すべく村の方向へと向かう。
セアラもまた、果樹園の方角へと歩を進めた。
「蝗たちも自然の一部とはいえ……、連中が通った後は草木一本まともに残らない。なにより目の前の植物達をむざむざ蝗に喰われるような真似はこの俺がさせないぜ」
瞳を閉じて、オルパは言った。
植物の声に耳を澄ませ、蝗の居場所を探しているのだ。
各々、蝗の駆除に向かう3人を見送りアンジェリカは大十字架を地面に置いた。
「私は……とりあえず散らばった死骸の片付けをしましょうか」
彼女の所持する【スコップマイスター】のスキルを駆使すれば、常人とは比べものにならないほどの速度で大きな穴を掘れるだろう。
そうして、4人が村から蝗の群れを駆逐したのはこれから実に3時間後のことだった。
遠くの空が黒に染まった。
その正体は、数えきれないほどの蝗の群れだ。
とある山岳地帯の農村。住人たちの避難はすでに終えている。
残るは家畜と、それから4人の自由騎士。
住人のいない民家の軒先に腰掛けて、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は双眼鏡を覗き込む。
「央華大陸にいた頃は、度々イナゴの被害を目にしたの。連中が飛び去った後は、すべてが食い散らかされた大地が残るのみじゃった」
吐き出すように言葉を紡ぎ、ひょうたんの中身を喉の奥へと流し込む。
「ここが絶対防衛線じゃな」
口元を濡らす酒の雫を荒く手の甲で拭い去り、天輝はよっと立ち上がる。
天輝の後に続いて、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)もまた大十字架を肩に担いで歩み始めた。
「えぇ、これは互い譲れない生存競争、勝者が生きる自然界のルール。であれば私達は勝つだけです!」
蝗の群れは本能に従い、喰らい、そして増えるだけ。
そこには悪意や害意は介在しない。
けれど、人類にとって蝗たちの食欲は命にかかわる脅威足りえる。
そして、自由騎士たちは人類の側に立つ存在だ。
ましてや、蝗の群れにイブリースが混じっているとなれば見過ごす理由は存在しない。
「皆さん、できるだけ被害を抑えないと。村の方達が大変になりますから」
蝗の群れを駆除したとしても、帰るべき村がなくなっていては意味がない。
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は手にした聖遺物を握りしめ、じっと蝗の群れを睨んだ。
空を埋め尽くす蝗の大群。
空気を震わせる羽音。
開戦の時は、すぐそこにまで迫っている。
村の外れへ向け進んでいく仲間たちを見送って、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は民家の庭に作られていた小さな畑に視線を向けた。
「大丈夫だ、俺が守ってやる。蝗なんぞにお前達を喰わせやしないぜ」
種族の特性として【自然共感】のスキルを所持するオルパは、ある程度ならば植物と意思を通わせられる。
蝗の群れが迫る前の段階で、オルパは村のあちこちを歩き回っていた。畑を、果樹園を、村の周囲を囲む木々を、一つずつ丁寧に見て、そして語りかけた。
この村で作られる作物や果実は、どれも村人たちから愛情を持って育てられていた。
その事実を知り、オルパは静かにその痩身に猛る戦意を漲らせる。
蝗の群れから村を救う戦いは、こうして静かに幕を開けた。
●
ぐしゃり、と。
蝗の群れが、見えない何かに圧し潰された。
空を黒く染めるほどの蝗の群れだ。圧し潰された蝗は、そのごく一部にしか過ぎない。
額に汗を滲ませて、セアラは後方へと下がる。
「後は基本的に後衛で……私が戦線を支えてみせます!」
開幕早々、セアラの放った【大渦海域のタンゴ】は、確かに蝗の数を大きく削った。
それでも、減らせた数は1割にも満たないだろうか。
蝗の群れが、縦に伸びていたことも思ったほど数を減らせなかった理由の1つだ。村への被害を抑えるためには、これ以上引き付けることは叶わなかった。
「来やがったな、悪魔ども」
魔力の渦が霧消した。蝗の群れは再侵攻を開始する。
セアラと代わってオルパは前へ。
両手のダガーに魔力を込める。
オルパの魔力に呼応するように、周囲に風が渦巻いた。黒いコートと銀の髪が激しく踊る。
ダガーを大きく後方へと引き絞り……。
一閃。
解き放たれた魔力は、空中で矢を形成。
それはまるで散弾のように、蝗の群れへと降り注ぐ。
小さな蝗は、オルパの魔矢に射貫かれた瞬間、蒸発するように消えていく。
後に残るは、燃え尽きた死骸の欠片のみ。
そうして、セアラとオルパが時間を稼いだその隙に、アンジェリカは影の鎧を纏う。
少しの間、物理ダメージを無効にする絶対防御の鎧である。
セアラ、オルパと続いて放たれた大規模攻撃を潜り抜け、蝗の群れが村へ迫った。
「全体攻撃をばら撒いていきましょう。とにかくイブリースの捕食回数を減らし、弱体化を狙っていきますよ」
蝗の群れに混じるイブリース〝レギオン〟は、食物や他の蝗を喰らってその力を増す能力を持つ。
ターゲットが強化されるリスクを多少なりとも軽減するため、アンジェリカもまた蝗の数を減らすことを優先するべく駆け出した。
高度を落とし、接近してくる蝗の群れの中央へアンジェリカは跳び込んだのだ。
地面に十字架を突き立てて、周囲に灼熱の魔弾をばら撒いた。
炎は連鎖し、蝗の群れの一部が燃え上がる。
瞬間、周囲に熱波が吹き抜けた。
まるで地上で花火が弾けたようだ。
アンジェリカを敵と判断したのだろう。或いは、アンジェリカを餌と捉えたのか。
鋭い牙をアンジェリカの腕や足に突き立てるが……影の鎧は、それを完全に阻んでみせる。
けれど、それも長くは続かない。
アンジェリカの攻撃により蝗は数を減らしていくが、以前その大部分は生存している。
「空が真っ黒になる位の群れじゃ。あれではイブリースの位置がわからんな」
蝗の群れの中にレギオンの姿は確認できない。
ひょうたんを腰に下げ直し、天輝は酒精の混じった息を吐く。
「イナゴごときにちと大仰じゃが、数が数だしのう。跡形もなく消え失せるがいい」
流れるような動作で、天輝は片腕を頭上へ掲げてみせる。
展開する魔法陣。
形成されるは、ごく小規模な惑星だった。
熱風が、そして衝撃が吹き荒れる。
豪華に焼かれ、蝗の群れは数を減らした。
蝗の群れに視線を走らせ、セアラは唇を噛みしめる。
「蝗の群れが村の中に来れば分かりやすいかもしれませんね」
もう一度【大渦海域のタンゴ】を行使するか、それとも仲間たちの支援に回るか。
迷った時間はほんの一瞬。
蝗の群れから弾き出される、血塗れのアンジェリカを見たからだ。
セアラは即座に回復術を行使する。
魔法陣から溢れる淡い燐光が、アンジェリカを包み込む。
体力を回復させたアンジェリカは、素早く身を起こすと大十字架を地に突き立てた。
直後……。
ガツン、と地面を震わせるほどの大音声が鳴り響く。
「く……重っ」
蹴散らされるように、アンジェリカの周囲に留まっていた蝗の群れが飛び散った。
現れたのは巨大な影。
その形状は、たしかに蝗のそれだった。
けれど、その脚や身体、巨大な翼には無数の口。
「来たな……レギオン! この先へは行かせん!」
両手のダガーを逆手に構え、地面を蹴ってオルパが跳んだ。
オルパの放った魔力の矢が、レギオンの腹部を貫いた。
無数の口を大きく開き、レギオンは金切り声を吐き出した。レギオンの正面で、その動きを抑え込んでいたアンジェリカは、絶叫を浴び顔をしかめる。
けれど、後退することはなく、大十字架を体の後ろへ振りかぶる。
大十字架が眩く輝く。
十字架に込められた願いは勝利。
金色の輝きを纏った全身全霊の一撃が、レギオンの頭部を打ち抜いた。
「どれ、良い具合に酔いも回ってきたことじゃし、そろそろ出番かの」
蝗の群れを燃える惑星で焼き殺し、天輝は前に出る。
よろり、と。
その足取りは覚束ない。けれど、彼女にとってはその状態がまさにベストコンディション。
天輝の納めた酔拳は、酔えば酔うほどその技の冴えを増すのである。
最優先の討伐対象はレギオンだ。
けれど、蝗の群れを放置するわけにもいかない。
レギオンの元へ駆け寄りながら、天輝は燃える惑星を呼び出した。酔拳による接近戦を得意とする天輝だが、魔導にもまた長けている。
果樹園へ向かって飛翔した蝗の一団を、天輝の惑星が焼き尽くす。
天輝を脅威と判断したのだろう。
蝗の群れの一部が、天輝へと襲い掛かった。
歩みを止めた天輝は、頭の横に左右の腕を掲げてみせる。
蝗の群れの強襲を、流れるような動作で受け流し、1匹1匹丁寧に、けれど素早く地面へと叩き落していった。
大質量を伴うラッシュ。
大十字架をレギオンと、その周辺の蝗の群れに叩きつけた反動で、アンジェリカは後ろへ跳んだ。
「更に追い込んでいきましょう」
「あぁ、こいつらはココで仕留める。別の場所で植物が襲われるのは避けねばならん」
アンジェリカの退避を確認したオルパは、レギオン周辺へ魔矢を降らせる。
矢の数本が、レギオンの翅を貫いた。
地面に腹部を付けたレギオンは、脚を広げて周囲の蝗を片っ端から喰らっていった。
1.5メートルほどの巨体を誇るレギオンだが、蝗を喰らうたびにその身はさらに肥大していく。
レギオンの特性として、喰えば喰うほどに巨大になるという特性がある。
反面、喰わずに動けばその分、小さくなっていくのだが……。
地面を蹴ってオルパは跳んだ。
コートを翻し、レギオンの背に飛び乗るオルパはダガーを翅へと突き付ける。
けれど、オルパのダガーは翅の口に喰い止められた。
ギシ、とダガーの刃が軋む音。
「な……ぐっ!?」
跳び退ろうとしたオルパだが、痛みに顔をしかめて呻いた。見れば、その脚からは血が溢れている。
レギオンの背に付いた口が、オルパの足の肉を食いちぎったのだ。
その隙を突いて、蝗がオルパに群がった。
オルパの腕を、背を、腹部を、蝗が喰らう。
体勢を崩したオルパが地面に落ちた。
覆い被さるレギオンが、頭部の口を限界まで開く。
限界まで……胴の半ばほどまで開く、通常の蝗の体躯ではあり得ないほどの大口だ。
「くっ……まったく食い意地の張った奴だぜ」
レギオンの顎へ向け、下から上へとダガーを振り抜く。
溢れた蝗の体液がオルパの銀髪を黒く汚した。
だが、その程度ではレギオンの食欲は抑えられない。
舌打ちを零したオルパは、即座に片腕を犠牲にすることを選択した。
レギオンの口腔内へ、ダガーを握った右腕を突き刺す。
口内へのダメージは、さすがのレギオンも無視できなかったのだろう。
金切り声とともに、レギオンは1歩後ろへ下がる。
剣を引き抜き、アンジェリカは疾駆する。
姿勢を低くし、地面に倒れたオルパへ迫る。
「一旦治療を!」
オルパの襟首をひっつかみ、その身を後ろへ投げ捨てた。
振り抜いた大剣が、レギオンの片目を深く抉る。
「決して引きません、皆様の平穏な生活を無事取り戻すまで」
剣を地面に突きたてて、大十字架に両手を添える。
不安定な体勢から放つ牽制の一撃。
さらに……。
「はぁぁぁっ!!」
怒声と共に大十字架を振り回し、レギオンと蝗を薙ぎ払う。レギオンの体液が、砕かれた蝗の死骸が、そして抉られた地面の土が飛び散った。
蝗の群れが、セアラの横を飛び抜けていく。
一瞬、セアラはそちらへ視線を向けるが、唇を噛みしめ視線を前へ。
「多少なら大丈夫でしょうか……普通の蝗は家畜は襲わないでしょうから」
優先すべきはレギオンの討伐だと認識したのだ。
展開した魔法陣から、淡い燐光が立ち上る。
吹き抜けた風に運ばれて、燐光は仲間たちの元へと飛んでいく。
蝗の群れに飲まれた天輝を。
最前線でレギオンを抑えるアンジェリカを。
血に塗れながらも蝗の群れを切り裂くオルパを。
癒しの風による戦線維持が自身の成すべきことなのだ、と。
そう判断した以上、何があろうとセアラは自身の役目を果たす。
纏わりつく蝗の群れを蹴散らして、天輝はレギオンへ向け駆け出した。
「さすがにこれだけの数を相手にするのは骨が折れるの」
面倒くさい、と吐き捨てるようにそう告げて、天輝は後方へ向け素早く指を走らせる。
空中に刻まれたのは「別れ」を意味する古代文字。
直後、業火の柱があがった。
蝗の残りを焼き殺し、よしと天輝は大きく頷く。
蝗の群れも大きくその数を減らしているのだ。今ならば、速やかにレギオンへと接近できる。
蝗との戦闘で覚めた酔いを取り戻すべく、天輝は走りながらも腰のひょうたんへと手を伸ばした。
ぐびり、と酒を喉の奥へと流し込み、胃の腑へ落ちる酒精の熱に笑みを浮かべた。
酒があるなら、酔っているなら、まだまだ彼女は戦える。
負ったダメージもセアラのおかげで回復済みだ。
「地面に落ちれば、翅ももはや役には立つまい」
と、そう呟いて。
流れるように、レギオンの懐へと身を沈ませた。
そして放たれるは、急所を射貫く掌底の一撃。
その衝撃は、レギオンの胸から頭部を撃ち抜いた。
●
天輝の掌打が。
アンジェリカの大十字架が。
オルパの放った魔力の矢が。
レギオンの脚を、翅を、無数の口を潰していく。
数の暴力であらゆるものを食い尽くす蝗の怪異は、ここに来て今度は自身が数の暴力に苦しめられることとなった。
どれほどのダメージを負おうと、即座にセアラが治療を施す。
決して退くことのない自由騎士たちの猛攻を受け、レギオンは次第に弱っていった。
そして……。
『―――――――――――――――――!!』
声にならない悲鳴をあげて、レギオンは地面に倒れ伏す。
レギオンの討伐は完了したが、自由騎士たちの任務はまだ終わらない。
「さて、これだけの大量のイナゴ、ここで殲滅しておかねば別の場所が襲われるのは必定。魔力が続く限りイナゴの群れを消し炭にしてやるわ」
「いつもならイブリースを浄化すれば終わりですけれど……今回ばかりは」
拳を鳴らして魔法陣を展開する天輝は、蝗の残党を処理すべく村の方向へと向かう。
セアラもまた、果樹園の方角へと歩を進めた。
「蝗たちも自然の一部とはいえ……、連中が通った後は草木一本まともに残らない。なにより目の前の植物達をむざむざ蝗に喰われるような真似はこの俺がさせないぜ」
瞳を閉じて、オルパは言った。
植物の声に耳を澄ませ、蝗の居場所を探しているのだ。
各々、蝗の駆除に向かう3人を見送りアンジェリカは大十字架を地面に置いた。
「私は……とりあえず散らばった死骸の片付けをしましょうか」
彼女の所持する【スコップマイスター】のスキルを駆使すれば、常人とは比べものにならないほどの速度で大きな穴を掘れるだろう。
そうして、4人が村から蝗の群れを駆逐したのはこれから実に3時間後のことだった。