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【試練】老人の挑戦状。或いは、酩酊の霧



●酩酊の庭
 薄紫の霧が漂う山の上。
 開けた土地に、20棟ほどの家屋が並ぶ。
 けれど、人の気配は感じない。
 霧に包まれた山頂の集落は、シンと静まり返っていた。
 村の入り口には、木で作られた看板が突き立てられている。
 曰く……。
『試練に挑む者へ。
 霧の中に現れる怪物たちを退け、見事我を捕らえて見せよ』
 とのことである。
 
 霧に包まれた村の何処かで、しわがれた声で誰かが笑う。
 おそらくは、老人なのだろう。
 その笑い声につられるように、霧の中で巨大な影が蠢いた。

●緊急事態まで後……
「まぁ、今のところは誰の迷惑にもなっちゃいないんだけどな……」
 と、髪を掻きながら『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は言う。
 なるほど確かに、老人の住まう場所は山の頂。
 そこに村があると知らなければ、近寄る者など誰もいないだろう。
 紫の霧にも、老人にも、怪物の影にも気づく者さえ長い間現れない。
 けれど……。
「もうじき、この山の付近には雨期が訪れる。毎年雨期になるとな、山の頂上付近の霧が麓の街に流れ込むんだ。気圧だか、気流だかの関係らしいが……」
 その結果、老人が発生させたであろう紫の霧が街に降りることになる。
 ヨアヒムは、それが“問題”だと言っているのだ。
「霧の効果なんだが【スロウ1】や【ヒュプノス1】の状態異常を引き起こす。それと、視覚・嗅覚・聴覚に関わる非戦闘スキルを遮断する効果もだな」
 街の住人に関係があるのは、主に前者の問題だ。
 突然、人が眠りに落ちて目覚めない。
 下手をすれば、街がまるごと機能を停止する可能性もある。
「雨期はおよそ1ヵ月ほど続くらしい。その間、飲まず食わずが続くとな……」
 身体の弱い老人子供は、命を落とす可能性もあるだろう。
「それと、霧の中に現れる怪物だがどうやら命ある生物ではないようだ。正しく“影の怪物”といったところでな……ある程度ダメージを与えると雲散霧消する代わりに、2~5ターンほどで復活するらしい」
 復活までにかかる時間は、おそらく倒された際の損傷規模によって異なる。
 眉間に1発銃弾を撃ち込むのと、粉々に粉砕するのでは、後者の方が復活まで多くの時間が必要になるのだ。
「霧の中に踏み込んだ対象1人につき2体が出現するらしい。要するに、怪物の攻撃を捌きながら老人を見つけて捕まえろ、ってことなんだろうな」
 それが、老人の言うところの「試練」の内容である。
 老人が何のために集落を作ったのかは分からない。
 単なる娯楽か、それとも何かに備えての文字通り“試練”なのか。
「まぁ、老人を捕まえればはっきりするだろ。少なくとも、霧だけは消す約束を取り付ける必要がある」
 すまないが、よろしく頼む。
 と、そう言ってヨアヒムは仲間たちを送り出した。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
病み月
■成功条件
1.紫の霧を消失させる
●ターゲット
老人(ノウブル)×1
村のどこかに隠れ潜んでいる。
影の怪物と紫の霧を発生させているのはこの老人であるようだ。
老人に戦闘能力があるか否かは不明だが、今のところ攻撃を仕掛けてくるつもりはない模様。


影の怪物“シャドウ”×?
霧の立ち込める集落に立ち入った対象1人につき2体発生する影の怪物。
サイズは1メートルほどの小さなものから、2メートル超えのものまで様々。
ある程度ダメージを受けると消滅するが、2~5ターンほどで復活する。
戦闘能力は高くないが、紫の霧を消滅させない限り半永久的に復活し続ける。

・影縫い[攻撃] A:魔近単[スクラッチ2]
対象の体に影を絡みつかせる攻撃。


●場所
とある山頂の集落。
紫色の濃い霧に、集落全体が覆われている。
集落に人が住んでいる様子はない。
また、視覚・嗅覚・聴覚に関する非戦闘スキルを無効にする効果がある。
霧を発生させているのは、おそらくとある老人のようである。
集落には間に5メートルほどの距離をあけ、都合20の民家が並ぶ。
また、低確率で【スロウ1】や【ヒュプノス1】の状態異常を付与する。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2020年06月03日

†メイン参加者 4人†




 薄紫の霧が立ち込める山の頂。
 立ち並ぶ家屋の数は20。されど、人の気配は感じられない。
 それもそのはず。
 この村……否、集落に住まうは老人が1人だけなのだから。その老人にしても、何故この場に人の住まない集落を作ったのかは分からない。
 だが、集落の入り口に立てられた看板には、以下のような言葉が記されていた。
『試練に挑む者へ。
 霧の中に現れる怪物たちを退け、見事我を捕らえて見せよ』
 この霧の中に潜む老人を見つけ出すことが試練の内容なのだろう。

「『見事我を捕らえて見せよ』か。コレは鬼ごっこというよりはかくれんぼが近いのかな?」
 立て看板に視線を向けて、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はそう呟く。
「試練、ですか……」
 ジーニーの隣に立つセアラ・ラングフォード(CL3000634)が、困ったように眉をひそめた。
 老人がいつこの集落を作ったのかはわからない。
 けれど、つい最近ではないだろう、ということだけは看板の風化具合から見て取れた。
 薄紫の奇妙な霧も、村の誕生と同じ時からあるのだろう。
「……とにかく被害を出す訳にはいきませんから、御老人を探しましょうか」
立て看板の先、薄紫の霧に手を触れセアラは言う。
 もうしばらくすれば、雨期が訪れる。
 山の頂で雨が降れば、紫の霧が麓の街へと流れ込むのだ。
 霧には、人を強制的に眠りに誘う効果がある。
 加えて、視覚・嗅覚・聴覚に関わるスキルを無効化するという性質も併せ持っているようだ。こちらは普通に生活している人々にはさほど影響はないだろうが、自由騎士たちにとっては、重い枷となるだろう。
 雨期の間、街が霧に包まれることになったとしたら……。
「案の定、霧が深いわね。明かりを用意してきて正解だったわ」
 そう声を上げたのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だ。
 手元で灯った淡い光が、周囲をぼんやりと明るくする。
 霧の中でも、多少は物が見やすくなるだろう。
 とはいえあくまで〝多少〟である。
「紫の霧か……視界はかなり悪いの」
 『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)の言うように、カンテラの火でカバーできる範囲は限られている。感覚系のスキルを封じられた状態で、この霧の中、老人を探すことを思うと不安は残るが、とはいえしかし、いつまでも集落の入り口で立ち止まっているわけにはいかない。
「行きましょう」 
 仲間たちの準備が整ったのを確認し、エルシーは拳を打ち鳴らす。
 彼女を先頭に、4人は集落へと足を踏み入れたのだった。


 濃い霧の中、鼻を鳴らして天輝は首を傾げてみせる。
「……ふむ。なんとなく酒の気配がするような、しないような」
 視覚、聴覚、嗅覚に関わるスキルを阻害する霧だ。
 ともするとその感覚は、酒に酔って5感が麻痺している状態に似ているのかもしれない。
 いつもの癖だろうか。天輝の手は、自然と腰に下げたひょうたんへと伸びていた。ひょうたんの中身は酒である。
 その様子を見ながら、セアラは困ったように笑っていた。
 酒の気配の発生源はご自身なのでは? と、まるでそう言っているかのような視線である。目は口ほどにものをいうとはよくぞ言ったものである。
 とはいえ……。
「っと……なるほど。〝視る〟のはダメか。普通の視覚スキルとは違うと思ったけど【未来視】が発動しない」
 右目を押さえてジーニーがそう呟いた。
 霧の中に現れるという影の怪物〝シャドウ〟の襲撃に備え、未来を覗こうとしたが上手くいかなかったのだろう。
「視覚・嗅覚・聴覚に関わるスキルを無効化するって事は……逆に言えばこれらの感覚が有効だってことよね。匂いや音に気を付けながら老人を探しましょう」
 足を止めたエルシーは、その場で腰を落として拳を構えた。 
 エルシーに次いで、セアラもまた腰に下げた聖遺物を引き抜いた。その頬には、一筋の汗が滴り落ちる。
 いつの間にそれはそこに現れたのか……。
「これが……試練ですか」
 4人の周囲には、大小さまざまな影の怪物が展開していた。

 影で形成された獣のようなその姿。
 老人の張った薄紫の霧の中でのみ存在できる奇妙な怪物……その名はシャドウとそう言った。
 霧の中でしか生存できず、そして霧の中に限り何度倒されても、時間経過で復活するという性質を持つ。
「どおりゃぁ~っ!」
 探索者1人につき2体。
 それがシャドウの最大発生数であった。その数を多少なり減らないことには、落ち着いて老人の捜索もできない。
 そう考えたジーニーは、仲間たちから一歩跳び出し、戦斧を大きく振り抜いた。
 力任せの一撃に地面が揺れる。
 風圧で霧を押しのけながら、ジーニーの斧はシャドウの1体を細く。その薄い胴を抉るようにして、大きく宙へと跳ね上げる。
 弾き飛ばされたシャドウの身体は、地面に落下するより先に薄れて消えた。
「よっしゃ、道は開いたぜ!」
 後方に控えた仲間たちへ向け、ジーニーはそう呼びかけた。
 その声に反応したのはエルシーだ。
 接近してくるシャドウへ向け、牽制のジャブを数発打ち込む。
「どこから敵が出てくるかわからないから、私は前を……天輝は隊列の後ろでセアラさんを守って」
「うむ、心得た。しかし……こやつらには殺気もないのか。やっかいじゃのう」
 ジーニーの切り開いた道を、エルシー、セアラ、天輝の順に駆け抜ける。
 追いすがるシャドウの顔面を、天輝の掌打が打ち抜いた。
 よろけるシャドウをそのままに、4人は民家へと駆ける。
「感情探査には何も引っ掛かりませんね……」
 民家の扉に×印を刻みつけながら、セアラはそう言葉を零す。
 都合20ほどある民家の中に、霧の発生源たる老人が潜んでいるとは限らない。
 けれど、ほかに手がかりもないのが現状だ。
 4人にできることと言えば、こうしてシャドウの追撃を捌きながら、地道に老人を探すことだけ。
 あるいはこれが……。
 この、いつ終わるとも分からない捜索が、老人の言う「試練」とやらなのかもしれない。

 シャドウの戦闘能力は高くない。
 自由騎士であれば、1対1で遅れを取ることはまずなく、この霧の中という悪条件下でさえ2体がかりで襲われてようやく互角と言う程度。
 気を抜けばダメージを受けるが、警戒していれば敗北はない。
 だが……。
「くっ……所詮は人形風情、物の数ではないと思っておったが。いかん、眠気が……」
 霧によってもたらされる【ヒュプノス】の状態異常によって、天輝はシャドウの爪をその身に受けた。
 頬から胸にかけて、鋭い切り傷が刻まれる。
 ダメージこそ大したことはないが、問題は状態異常の方だ。加えて、殿を務める天輝が戦線を離脱してしまえば、集落の捜査も思うように行えない。
「MPの節約などと言っている場合ではありませんね。治療します!」
 眠気に負け、倒れる天輝の肩を支えて、セアラはそう言葉を紡ぐ。
 2人の足元に展開される魔法陣から、淡い燐光が舞い散った。
 ふわり、と。
 霧を押しのけるように舞い上がり、渦を巻く燐光によって天輝の身を侵す状態異常は取り除かれる。
 数度、確認するように頭を振って天輝は短く礼を告げた。
「この霧の中、はぐれたらと思うと……こまめに声を掛けあいながら進むとしよう」
 浮き上がるように、霧の中からシャドウの姿が現れる。
 天輝はその喉元に手刀を叩き込みながら、ジーニーとエルシーの両名へ向け視線を投げた。天輝の視線から、その意図を汲んだのか、2人は無言で頷きを返す。
 そして……。
「ほっぺたをツネりながら歩けば、寝なくてすむんじゃないかな?」
 天輝の頬へ向け、ジーニーの手が伸ばされた。
 天輝はその手頸を掴むと、胡乱気な眼差しをジーニーへ向ける。
「ジーニーの馬鹿力でツネられたらたまったものではないぞ? ちゃんと加減はするのじゃぞ?」
「わ、わかってるって」
 心配性だな、と不機嫌そうに頬を膨らませたジーニーは、肩に担いでいた戦斧をなんとはなしに足元へ降ろした。
 どしん、と重たいものが地面を叩く音がした。
 重量のある戦斧を軽々と振るうジーニーの膂力を想像し、天輝は頬に一粒の汗を浮かべる。それからそっと、片手を自分の頬へ伸ばした。
「いや、いい。自分でつねる」
 これこの通り、と。
 白い肌にくっきりと赤い痕が残るほど強く、天輝は自分の頬をつねった。

「ごめんくださ~い、どなたかいませんか~」
 何件目かの民家の扉をノックしながらエルシーは叫ぶ。
 この集落に人は住んでいない。そのことは既にエルシーも知るところなので、この場合の〝どなたか〟とは、霧の元凶である老人のことだ。
「……駄目ね。ここにもいない」
 カンテラを顔の高さに上げて、エルシーは小さなため息を零した。
 その直後、窓ガラスを割って部屋の中へシャドウが侵入。不意打ちに備えていたエルシーは、動じることなくその顔面に突きを放った。
 家屋の外からは、天輝とジーニーの雄叫びが聞こえてくる。
 どうやら後衛にもシャドウが襲い掛かったようだ。

 時間をかけて、集落にあった20の家屋の捜索を終えた。
 集落の隅々までを捜索し、すべての家屋を探索し、それでも老人は見つからない。
 シャドウに襲われながら、集落中を駆け回った4人だが、この結果は途中から予想できていた。
 シャドウの襲撃が途切れた今のタイミングで、天輝はひょうたんの中身を喉へ注いだ。
 強い酒精が、乾いた喉を熱くする。
「人の足跡やら、なにか手掛かりがないか気を配りながら探索したが……それらしいものは終ぞ見つからなかったからの」
 天輝の言葉に同意を示すように、ジーニーは深く頷いている。
「とにかく最低でも、見つけ出して霧を出すのをやめてくれるようにお願いしないとだな! たぶん、私達がシャドウに絡まれながら村を彷徨っている様子をきっとなんらかの方法で見ているに違いないぜ」
 戦斧を地面に突いて、鼻息も荒く憤るジーニー。
 だが、フラストレーションがたまっているのは何もジーニーだけではないのだ。エルシーもまた、じくじくと痛む頬を押さえて、剣呑な視線を霧の中へと向けていた。
 遅い来るシャドウの攻撃を受けて、頬にダメージを負ったのだ。治療が必要なほどに大きな怪我ではないのだが、僅かな痛みと僅かな熱が、エルシーの気を荒立てる。
「試練……私たちの様子を、見ている……それに、霧の中に現れる怪物たちを退け、見事我を捕らえて見せよ、でしたか」
 ちら、とセアラは視線を霧の中へと向けた。
 霧の中では、8体のシャドウが揺らめくようにこちらの様子を観察している。


「御老人とは……戦うのなら、なるべく怪我をさせずに終わらせましょう」
 後衛の位置からシャドウたちを睨みつけ、セアラはそう告げたのだった。
 否、その視線はシャドウたちのさらに奥……霧の中へ向けられている。
「足跡さえも見当たらないのは妙だと思っていましたが……ずっと、私たちの後を付いて来ていましたね?」
 セアラの問いは、霧の中に潜む誰か……この集落を作ったであろう老人へと向けられたものだ。
 しばしの沈黙の後、シャドウたちの後方に1人の小柄な老人が姿を現した。
 白髪に長い白髭。
 衣服も杖も白で統一された、ひどく存在感の薄い老爺である。その年のころは、外見から判断するに80は超えているだろう。けれど、年齢の割に老爺の背はまっすぐ伸びていた。
「思ったよりも早々にバレてしまったの。これはもう一工夫加えねば試練にならんか?」
 何しろ今回が初稼働でのう、と老人は楽し気に笑って見せる。
 山の頂上などに集落を作ったはいいが、これまで誰も訪れる者はいなかったらしい。
「それで、試練とやらはこれで終わりかの?合格という事で良いのか?」
 シャドウに注意を払いつつ、天輝はそう問うた。
 老人は、楽しそうに笑いながら「構わんよ」と、そう返す。
 それならば、と前に出たのはエルシーだ。未だ姿を消さないシャドウを警戒しつつも、老人へ向けて歩を進める。
「霧を止めていただけませんか。これから雨季になると、麓の街まで霧が流れ込みます。街の皆様の生活に関わります」
「っていうか、どうしても霧を出さなきゃいけない理由でもあるのか?」
 エルシーに次いで、ジーニーもまた戦斧を肩に担いでそう問うた。
 老人はしばし考えた後、手にした杖で地面を数度コツコツと叩く。
 直後……。
 老人の身体を何かが宙に持ち上げる。
 黒く巨大な……それは、10メートルを超える巨大なシャドウ。
「なに、腕試しじゃよ。長年の研さんを積んで得たこの力のな。できるだけ俗世の皆に迷惑をかけぬよう、このような山奥に居を構えたが……雨期か。それは考えておらなんだ」
 迷惑をかけたの、と。
 そう言って、老爺は巨大なシャドウに乗って霧の中へと去っていく。
 それを追って、エルシーとジーニーが駆けだした。
 ここが仕掛け時だろう。セアラの回復術が、2人の負ったダメージを癒す。
 さらに2人に殺到するシャドウへ向け、青い魔弾が撃ち込まれた。
 それを放ったのは天輝だ。
 着弾と同時に冷気が解き放たれ、周囲の空気を凍り付かせた。
 さらに、流れるような……あるいは、よろけるような動作で天輝はシャドウへ接近。その胸に向け、掌打を叩き込んでいく。
 
 シャドウの爪が、ジーニーの足首を引き裂いた。
 痛みに歩みを止めたジーニーは、歯を食いしばり斧を大きく背後へ引いた。腰に、脚に、その両肩に力を溜めて、ジーニーはエルシーへ視線を向けた。
 視線が交差したのは一瞬。
 それだけで2人は意思の疎通を終えた。
 ジーニーは斧の腹を真横へ向ける。
 エルシーは、斧の腹に靴の底をぴたりと付けた。
 フルスイング。
 ジーニーの戦斧が、エルシーの身体を打ち出したのだ。
 まっすぐに、シャドウと老爺へ迫るエルシー。
 けれど……。
「うむ……あと一息、といったところか」
 鍛えるがいい、と。
 楽しそうに、老爺は笑う。
 直後……。
「ぐ……」
 エルシーの進路を阻むのは1体のシャドウ。その下半身の先端は、細く薄く地面に根を張っている。
 シャドウは黒い腕を振るう。
 その爪がエルシーの頬を掠めていく。
 ピ、っと鮮血が周囲に散って。
「この……霧は消えるんでしょうねぇっ!」
 エルシーの拳がシャドウの顔面を打つ。
 霧散し、消えていくシャドウの体。
 気が付けば、老爺の姿は霧に紛れて消えている。
 どこからともなく、笑い声だけが木霊する。

 老爺の声と気配はどこかへ消えた。
 それっきり、倒されたシャドウは復活しない。
 霧も心なしか、薄くなっているように思う。
「試練を乗り越えた勇者にはさ~、伝説の武器とかくれてもいいんじゃないの?」
 不満げな顔でジーニーはそうぼやいているが、その苦情を聞くべき老爺はすでにいない。
 とにもかくにも……。
「任務は達成……でしょうか」
 風に乗って、どこかへ流れていく霧を、なんとはなしに目で追いながらセアラはそう呟いた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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