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少年の願いと父の生きた証

●
「じゃぁ、行ってくる。いい子にして待ってるんだぞ」
父さんはいつもどおり悪い幻想種をやっつけに出て行った。
ボクの家ではずっと悪い事をする幻想種をやっつける仕事にしてるんだ。お爺さんも曾お爺さんもその前も、ずっとそうだって父さんは言ってた。だから父さんが幻想種をやっつけに行くのはいつもの事だった。
もちろんボクも大きくなったら悪い幻想種をやっつけるんだ。
「さぁ今日もとっくんするぞ」
ボクはいつもどおり庭に作ったとっくん場で剣を振るう。いつか父さんと一緒に幻想種を倒しに行くために。
「早く帰ってこないかな」
父さん今日はどんな幻想種をやっつけるのかな。早くお話しを聞きたいな。
ボクはいつもどおり父さんの帰りを待ってたんだ。
●
「ブォォォォォォーーーーー!!!!」
凄まじい吼え声がした。
「ガハッ!?」
強烈な打撃を受け滲む血を拭う男。それは軽い仕事のはずだった。畑を荒らす小動物系幻想種の巣を探し、森の奥へと追い払う。ただそれだけの仕事のはずだった。
だが……その巣の奥には恐ろしい幻想種が住み着いていた。それは人食い幻想種バンニップ。
男は腕には自信があった。経験もあった。だがその幻想種は男が積み重ねたものを一蹴するような圧倒的な存在だった。
「グフ……ッ」
男が大量の血を吐く。最初から到底勝ち目の無い戦い。逃げるという選択肢もあったはずだ。だが男は自らの信念に従い、剣を抜いた。
(すまないな……エミリオ……今日は帰れそうにない……)
ズズズズズ……
バンニップの地面を這いずる音が泉の中へと消えると辺りに静寂が戻る。そこに男の姿は無く、無残にも真っ二つに折れた剣だけが打ち捨てられていた。
だが刃はこぼれ、折られてもなお輝きを失わない男の剣(しんねん)。
それはまるで……誰かに見つけてもらうのを待っているかのようだった。
●
「父さ……父を……一緒に探してくれませんか」
少年は気丈にも自らの言葉で自由騎士たちへ依頼の内容を伝えた。
5日前に仕事へと出かけ、そのまま帰ってこない父。少年はすでに覚悟はしている。だが自分の目ですべてを確かめたい。その覚悟が少年には見て取れた。
「手伝ってやってはくれまいか」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)が改めて自由騎士たちへ依頼する。
この少年は今、一つの大きな試練に挑もうとしている。それは何より辛い選択。僅かな希望を捨てる行為。だが少年は先に進むために選択をした。
「よろしくお願いします」
頭を下げる少年。その肩は僅かに震えている。年端も行かぬこの小さな身体でどれだけの現実を受け入れようというのだろうか。
「わかった」
自由騎士はそっと少年の頭を撫でる。
「約束する。必ず見つけよう」
そう言うと自由騎士たちは少年と共に旅立ったのだった。
「じゃぁ、行ってくる。いい子にして待ってるんだぞ」
父さんはいつもどおり悪い幻想種をやっつけに出て行った。
ボクの家ではずっと悪い事をする幻想種をやっつける仕事にしてるんだ。お爺さんも曾お爺さんもその前も、ずっとそうだって父さんは言ってた。だから父さんが幻想種をやっつけに行くのはいつもの事だった。
もちろんボクも大きくなったら悪い幻想種をやっつけるんだ。
「さぁ今日もとっくんするぞ」
ボクはいつもどおり庭に作ったとっくん場で剣を振るう。いつか父さんと一緒に幻想種を倒しに行くために。
「早く帰ってこないかな」
父さん今日はどんな幻想種をやっつけるのかな。早くお話しを聞きたいな。
ボクはいつもどおり父さんの帰りを待ってたんだ。
●
「ブォォォォォォーーーーー!!!!」
凄まじい吼え声がした。
「ガハッ!?」
強烈な打撃を受け滲む血を拭う男。それは軽い仕事のはずだった。畑を荒らす小動物系幻想種の巣を探し、森の奥へと追い払う。ただそれだけの仕事のはずだった。
だが……その巣の奥には恐ろしい幻想種が住み着いていた。それは人食い幻想種バンニップ。
男は腕には自信があった。経験もあった。だがその幻想種は男が積み重ねたものを一蹴するような圧倒的な存在だった。
「グフ……ッ」
男が大量の血を吐く。最初から到底勝ち目の無い戦い。逃げるという選択肢もあったはずだ。だが男は自らの信念に従い、剣を抜いた。
(すまないな……エミリオ……今日は帰れそうにない……)
ズズズズズ……
バンニップの地面を這いずる音が泉の中へと消えると辺りに静寂が戻る。そこに男の姿は無く、無残にも真っ二つに折れた剣だけが打ち捨てられていた。
だが刃はこぼれ、折られてもなお輝きを失わない男の剣(しんねん)。
それはまるで……誰かに見つけてもらうのを待っているかのようだった。
●
「父さ……父を……一緒に探してくれませんか」
少年は気丈にも自らの言葉で自由騎士たちへ依頼の内容を伝えた。
5日前に仕事へと出かけ、そのまま帰ってこない父。少年はすでに覚悟はしている。だが自分の目ですべてを確かめたい。その覚悟が少年には見て取れた。
「手伝ってやってはくれまいか」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)が改めて自由騎士たちへ依頼する。
この少年は今、一つの大きな試練に挑もうとしている。それは何より辛い選択。僅かな希望を捨てる行為。だが少年は先に進むために選択をした。
「よろしくお願いします」
頭を下げる少年。その肩は僅かに震えている。年端も行かぬこの小さな身体でどれだけの現実を受け入れようというのだろうか。
「わかった」
自由騎士はそっと少年の頭を撫でる。
「約束する。必ず見つけよう」
そう言うと自由騎士たちは少年と共に旅立ったのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.父親の生きた証を見つける
2.エミリオの無事
2.エミリオの無事
ゴールデンウィークの10連休。どこも混みそうで引きこもる気満々の麺です。大丈夫麺の買い置きは十分にあります。
ある日自由騎士団に現れた少年。その理由は帰ってこない父親の捜索の依頼。
父さんを探して欲しい──少年はそう願いますが……職業上父親に何が起こったのかはすでに感じ取っており、ある程度の覚悟は出来ています。
少年が前に進めるように、父親の生きた証を見つけ、その仇を討伐していただくのが今回の依頼です。
●ロケーション
この依頼は演算された依頼ではないため、敵の詳細情報は遭遇するまで自由騎士たちはわからず、強い敵がいるであろう程度の認識となります。
洞窟内最奥の泉。明かりなどは無く非常に入り組んだ地形ですが、泉の周りはある程度の広さがありますので戦闘に問題はありません。泉のほとりには折れた剣がころがっており、それを回収しようとすると突然バンニップは現れます。不意打ちに対抗できる手段が無い場合は先制攻撃を許す形になります。またバンニップは絶命の際、洞窟を崩壊させるほどの衝撃の断末魔を上げます。討伐後は素早く洞窟を出る必要があります。
すべてが終わり洞窟を出た後は、少年へ何か声を掛けてあげて頂ければと思います。
●登場人物&敵
・ルーベルト
35歳。幻想種ハンター。地元では有名な幻想種ハンターの家系。バンニップと戦いすでに死亡。その身は食いつくされ骨の一本も残っていません。
・エミリオ
10歳。幻想種ハンターである父親を尊敬している。いつの日か父親と一緒に幻想種退治に行く日を夢見て、毎日特訓を行っている聡明な少年。父親探しを依頼しに自由騎士団を訪れた。帰ってこない父親の死はすでに予感はしている。が、父親の遺品を見つけた際、自制できず父親の敵であるバンニップへ特攻する可能性があります。
・幻想種バンニップ
凶暴な人食い幻想種。全長20Mほど。巨大な蛇のような体形をしているが、頭は鳥に似ており非常に硬い嘴を持つ。女性を好んで襲うといわれている。自由騎士たちが父親の遺品である折れた剣を回収しようとすると泉の中から襲い掛かってきます。1ターンに2度攻撃を行ってきます。
鋭い嘴 物近単 鎧をも貫く鋭い嘴の一撃。【スクラッチ1】【パラライズ1】
撓る尾 物近範 尻尾を鞭のように撓らせ周囲の敵をなぎ払う。【ノックバック】
締付け 物近単 尻尾で締め上げます。この攻撃を受けているキャラクターは一切攻撃できません。
咆哮 物遠全 恐ろしいほどの吼声。【コンフュ1】【アンコントロール1】
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければBS回復をサポートします。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆さまのご参加心よりお待ちしております。
ある日自由騎士団に現れた少年。その理由は帰ってこない父親の捜索の依頼。
父さんを探して欲しい──少年はそう願いますが……職業上父親に何が起こったのかはすでに感じ取っており、ある程度の覚悟は出来ています。
少年が前に進めるように、父親の生きた証を見つけ、その仇を討伐していただくのが今回の依頼です。
●ロケーション
この依頼は演算された依頼ではないため、敵の詳細情報は遭遇するまで自由騎士たちはわからず、強い敵がいるであろう程度の認識となります。
洞窟内最奥の泉。明かりなどは無く非常に入り組んだ地形ですが、泉の周りはある程度の広さがありますので戦闘に問題はありません。泉のほとりには折れた剣がころがっており、それを回収しようとすると突然バンニップは現れます。不意打ちに対抗できる手段が無い場合は先制攻撃を許す形になります。またバンニップは絶命の際、洞窟を崩壊させるほどの衝撃の断末魔を上げます。討伐後は素早く洞窟を出る必要があります。
すべてが終わり洞窟を出た後は、少年へ何か声を掛けてあげて頂ければと思います。
●登場人物&敵
・ルーベルト
35歳。幻想種ハンター。地元では有名な幻想種ハンターの家系。バンニップと戦いすでに死亡。その身は食いつくされ骨の一本も残っていません。
・エミリオ
10歳。幻想種ハンターである父親を尊敬している。いつの日か父親と一緒に幻想種退治に行く日を夢見て、毎日特訓を行っている聡明な少年。父親探しを依頼しに自由騎士団を訪れた。帰ってこない父親の死はすでに予感はしている。が、父親の遺品を見つけた際、自制できず父親の敵であるバンニップへ特攻する可能性があります。
・幻想種バンニップ
凶暴な人食い幻想種。全長20Mほど。巨大な蛇のような体形をしているが、頭は鳥に似ており非常に硬い嘴を持つ。女性を好んで襲うといわれている。自由騎士たちが父親の遺品である折れた剣を回収しようとすると泉の中から襲い掛かってきます。1ターンに2度攻撃を行ってきます。
鋭い嘴 物近単 鎧をも貫く鋭い嘴の一撃。【スクラッチ1】【パラライズ1】
撓る尾 物近範 尻尾を鞭のように撓らせ周囲の敵をなぎ払う。【ノックバック】
締付け 物近単 尻尾で締め上げます。この攻撃を受けているキャラクターは一切攻撃できません。
咆哮 物遠全 恐ろしいほどの吼声。【コンフュ1】【アンコントロール1】
●同行NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければBS回復をサポートします。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆さまのご参加心よりお待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年05月11日
2019年05月11日
†メイン参加者 6人†
●
物語は自由騎士団詰所からすでに始まっていた。
(彼の父親が行方不明になってから5日か……)
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の脳裏には最悪の結末が過る。でも……希望は捨ててはいけないわね──エルシーは頭をふるふると左右に振り、悪い予感を振り払う。
(手練れの幻想種ハンターが不覚を取ったという事は、敵は相当な強さと予想できるわね……気を引き締めて臨む必要がありそうね)
「この依頼、エルシー・スカーレットが引き受けたわ!」
まだ視ぬ強敵の存在を感じつつもエルシーは、エミリオを安心させるように声高らかに宣言するのだった。
一方の『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)はいつもの調子でエミリオと話しながら、父親との関係性を巧みに引き出そうとしていた。
「ずっと鍛錬してたみたいだが、他にはどんな事を教わってんだ?」
例えば行動する際、どういう事を心掛けないといけないのかとか──。だがエミリオに明確な答えは無い。まだ10歳。父親もそこまでの想定はしていなかったのだろう。エミリオは寂しげな笑顔を見せる。
「……慎重にだ。命懸けの仕事、だが命は1つ。それだけは持ち帰らないといけない。そうだろ?」
ニコラスはそう言うとニカッと笑いながらエミリオの頭をぽん、と撫でた。
「じゃぁいくか」
自由騎士たちは旅立つ。行く先には待つのは恐らくは避けようの無い悲しみの未来。だがそれはエミリオにとって前へ進むための大事な大事な、未来。
●
「エミリオさんこんにちはぁ〜シェリル・ミツハシですぅ。よろしくお願いしまぁす」
エミリオから聞いた父親が向かった言う洞窟への道中。
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は皆の雰囲気が暗くならないよう、勤めて明るく振舞っていた。
「ふふふ。未来の立派なハンターさんですね。お父様、一緒に見つけましょう」
言葉を慎重に選びながらもシェリルは俯きがちなエミリオを元気付け、ともに未来を見ようとする。たとえ……その未来がどのようなものであったとしても。
(とうさん。ちち。パパ。よびかたはいろいろ)
『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)は様々な父親の呼び方をまるで他人事の様に口にする。
わたしにもいたみたいだけど──リムリィの中にある遠い記憶。そのおぼろげな記憶の中の存在は、思い出そうとするリムリィの胸をズキリと痛める。それはまるでリムリィ自身が思い出すことを拒否しているかのようだ。リムリィにとっての父親とはそういうもの。でもエミリオにとってはとても大切な人。ううん、大体の子供にはきっと大切な存在。
(わたしにとってはたいせつじゃなくても……)
誰かにとって大切な存在なら。私の手で守れるなら。守ってあげたいと、思う。
だけど──
こわすことしかできないわたし
ちからまかせにぶきをふるうことしかできないわたしにいったいなにができるのだろう
リムリィの問いに答えられる者はいない。それはいつかリムリィ自身が見つけなければいけない大切なこと。
「さて、奥へ進むとするか」
リュンケウスの瞳を使い、目の前に広がる洞窟の暗闇の奥を確認しながらニコラスが先頭で歩き出す。後ろにはカンテラを持つエルシー、シェリル、リムリィが続く。
「エミリオ君、暗いから足元に気を付けてね」
エルシーが周囲を注意深く見回しながら声を掛けると、うんと言葉少なく返すエミリオ。
「危ないから私から離れないでね?」
エミリオのすぐ横には『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)。詰所にたまたま来ていたアリアは、エミリオの切なる願いを直接聞く事になった。その時脳裏に浮かんだのは孤児院の子供達の顔。その後アリアがとった行動はいうまでも無いだろう。
そして今アリアはエミリオと並んでここにいる。
「なぁ、エミリオの旦那は何故、父親の為に命をかけるんだ?」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の突然の問いに、なぜそんな事を聞くのという顔をするエミリオ。少しの沈黙。大切だから──エミリオは小さく呟いた。
「……悪い、親がどういうのかは知識や常識として知ってるけど、イマイチどういうものか感覚が無くてな」
ウェルスに親の記憶は無い。何故なら30年程前、通商連に拾われた曇った冬の海に浮かぶ小さな篭。『それ』こそがウェルスだったから。
恨んじゃいない。
憎むほどの感情(おもいで)を持ってないからな──
羨んでもいない。
憧れるほどの夢(きぼう)を持ってないからな──
その後孤児院へ引き取られたウェルスはライヒトゥーム家にて奉公し、家と商売を引きついだ。そうして今があるのだ。
「変なこと聞いて悪かったな、さっさとルーベルトの旦那を見つけようぜ」
ウェルスは話を切り上げると少々急ぎ足で先へ進む。
(他人の家族にとやかく言うつもりは無い。むしろ幸せな家庭は祝福するさ。けれど結局の所、俺にとって俺の両親は『その程度』としか思えないんだろうな)
家族というものをどこか他人事のように捉えるウェルス。そんなウェルスの様子をエミリオは不思議そうに見つめていた。
自由騎士たちは奥へ奥へと進んでいく。運命の場所まで……あとわずか。
●
「どうやら……ここが最奥みたいだな」
前を行くニコラスの足が止まる。その先には水の気配。どうやら地下に沸いた泉のようだ。
エルシーとシェリル、そしてリムリィはカンテラで辺りを灯しながら周辺を見回す。
「ちょっと待って! 泉に続いているあの跡はなに?」
エルシーが照らした先には泉へと続く、何かが這いずったような跡。
「なにか、ある」
リムリィがカンテラを向けた先には光る何か。それは……無残にも折られ放置された剣。
「……!?」
エミリオはその剣の柄に見覚えがあった。
『フフフ。この剣はな、俺が爺ちゃんから受け継いだんだ。
ん? 何? 欲しいだって。馬鹿いうな。これが無いと俺がハントできないじゃないか。
……まぁ、いずれは……な──』
「アレは……!?」
思わず走り出し、その剣に駆け寄ろうとしたエミリオをふわりと包み込むもの。
「……ダメだよ」
少年の急く心を優しく包みこんだのはアリア。行動を察知したアリアは即座に反応し、咄嗟にエミリオを後ろから抱きしめたのだ。
「エミリオ、よく見て。エルシーさんが照らしている地面を」
まだ新しい地面の跡。明らかに何かがいる気配にエミリオも気付いたのか身体が強張る。
「まずは状況をしっかりと把握よ」
イェソドのセフィラを持つエルシーとニコラスは周囲を警戒しながらも折れた剣の元へ。その剣を手にしようとしたその時だった。
「キシャァァァーーーーーー!!!!」
「きゃあっっ!!」
咄嗟に避けるエルシー。泉から突然飛び出してきたもの──這いずる長い胴体はまるで蛇のよう。鋭い嘴はまるで鳥のよう。それはあきらかに異形の幻想種。
「大蛇!? こいつがルーベルトさんをっ!?」
エルシーは直感で感じ取る。こいつがエミリオの父親を襲ったのだと。そして……その命を奪ったのだと。
「はぁぁぁぁーーーー!!!!」
必ず倒す。エルシーは迷う事無く敵の懐へ飛び込んだ。
「ぜったい、たおす」
リムリィは龍氣螺合で一気に攻撃力を高める。
シェリル、リムリィ、ニコラスはすぐに後方へと下がり、攻撃と回復支援を開始する。
「さぁいくぜ!!」
「後ろから狙ううちますぅ~」
皆が戦闘体制をとる中、アリアはエミリオと共に憎き仇をしかりと見つめる。
攻撃範囲は? 回避はできる? 予備動作はどう?
本当であれば父であるルーベルトがエミリオの教えていたのかもしれない。冷静に戦況を見極め、敵の情報を可能な限り得る術。
こういう状況になったからこそ復讐に縛られて欲しくない。だからこそアリアはただ守るのではなく、共に戦う事を選んだ。ここで決着をつける──そうアリアは心に決める。
パリィングでエミリオをしっかりと守りながらアリアは戦況を見極める。
一撃──ただの一撃でいい。欲しいのはエミリオが父の仇を倒した者達と共に戦った証。
そのチャンスをエミリオを守りながらアリアはその一瞬のチャンスを待ちつづけていた。
「うおっ!? こいつはデカイな」
後方から銃を構え狙う打つウェルス。その大きさは全長20Mはある。確かにこのサイズなら人を飲み込む事も他愛ないだろう。
「はわ~~~」
アニマムンディで自らの魔導を引き上げていたシェリルもまた、驚きの声を上げる。
「アイツか……」
ニコラスの表情が変わる。その目は獲物を狙うハンターの目。マナウェーブを自らに掛けるとすぐに皆へも息吹を施す。敵は確実に強い。長期戦に備える姿勢はすでに整っていた。
「とおー」
前で巨大なハンマーを振るうのはリムリィ。その表情はいつもと変わらない。渾身の力でハンマーを打ち込んでいくリムリィ。その攻撃力は絶大。だが代償も大きい。標的は二度動くのだ。柳凪を使用し耐性はあれども、攻撃する度にリムリィの身体の傷も増えていく。だが痛覚遮断によりリムリィはその痛みを感じない。自らの危機を遮断しているのだ。それはとても危険な行為。だが自分を壊すことしか出来ないと思っているリムリィにはそれこそが自分の存在理由。もしその命尽きる事があろうと最後の最後まで破壊する。今のリムリィにはそれが全てであった。
「はぁぁーーー!!!」
前に出たエルシーも苦戦を強いられていた。さすがの身体能力のエルシーといえど全ての攻撃を裂け切ることは出来ない。
「くっ」
相対する敵の尾の攻撃はひとたび食らえば大きく後退させられる。鋭い嘴の一撃はエルシーの身体に軽い痺れを与えていた。
ニコラスとジローの回復もあれど、状態回復と体力回復を同時に要求されるこの状況においては事態は逼迫していた。
「おとりに、なる」
リムリィが不意に動いた。無防備に敵の前に立ったリムリィ。その身体には敵の尾が巻きついていく。
「ぐ……ぅ……」
ぎしぎしと骨の軋む音。いかにリムリィと言えどもその表情は歪む。痛みは無くとも身体が壊れていくことはわかるのだ。
だが、これで尻尾での攻撃は封じられた。あとは嘴の攻撃にだけ注意すればいい。リムリィの捨て身の行動は自由騎士たちへ確かなチャンスを作ったのだ。
「このチャンス逃さない!! 行くわよ! 緋色の衝撃ぉぉぉぉぉーーー!!!」
エルシーが渾身の力で拳を叩き込む。
「弾丸充填! いくぜ!! 特製収束魔砲弾!!!」
ウェルスの銃から放たれた術式は大気中の魔力をも吸収し、極大の魔導の弾丸となって対処へ襲い掛かる。
「キェェェェェ-----!!」
極大の攻撃の連続に叫び声を上げる幻想種。
「わたしの攻撃もくらうのですぅ~~~~」
大きく開けたその口へシェリルが放った緋文字が炸裂し、爆炎を上げる。
「今よ!!」
アリアが叫んだ。とん、とエミリオの背中を押す。
「ヤァァーーーー!!」
エミリオが振り下ろした刃は確かに目の前の仇に傷をつける。
「やった!」
エミリオが声を上げた瞬間、幻想種の鋭い嘴が襲い掛かる。
「く……ぅ……っ」
ぽたり。鮮血が流れ落ちる。エミリオを庇ったアリアの肩に嘴が突き刺さる。
「アリア!!」
エルシーが、ウェルスが、シェリルが、ニコラスが。皆が幻想種へ更なる攻撃を叩き込む。
「お、おねえちゃん……」
エミリオと共に後方へと下がったアリア。肩口の傷は深く、血が止まらない。僅かにしびれも感じている。
「すぐに回復しますぞ」
ジローが駆け寄りアリアの回復に専念する。
「これでおわりだ!」
「これでおわりよ!」
自由騎士たちが最後の力を振り絞る。尻尾の呪縛から解き放たれたリムリィもまたぼろぼろの身体でハンマーを振り下ろす。
「これで、おわり」
ズガァァァァーーーーーンン
「ギャオオオオオォォォオオオオーーーー!!!」
凄まじい断末魔の声をあげ、幻想種は息絶えたのであった。
●
「マズイ、洞窟が崩れそうよ!早く脱出しないと!」
バンニップが事切れる間際の咆哮。それは洞窟内で共鳴し、大きな揺らぎを引き起こした。
エルシーとウェルスが急いで折れた剣の欠片を回収し、ちからもちのリムリィはエミリオはひょいと抱えるとそのまま出口へ向けて駆け抜ける。
「うおーーー!! こんなところで、サンドイッチになる予定は無いからな!! 茶色いからカツサンドってか喧しい!!!!」
ゴゴゴッゴゴゴゴオオ……──
自由騎士たちが脱出し、地鳴りが収まった頃には……かつて洞窟だった場所は岩や土砂で埋め尽くされていた。バンニップとともにこの洞窟もまた人の手の届かぬ場所へと変わったのだ。
「おわりましたね」
アリアがエミリオのほうを見る。崩落した洞窟の前で呆けるエミリオ。ただ無表情に立ち尽くす。
受け入れがたい現実。10歳の子供の感情が追いつくはずもなかった。
「……まにあわなかった。……ごめん。……おこっていい」
そういうとリムリィは折れた剣の欠片をエミリオへと手渡した。
「怒るだなんて……逆です。ありがとう……ございました……」
エミリオの全身が小刻みに震えている。涙を見せまいと空を仰ぐ。この少年はこれから自分の力で生きていかなくてはならない。強く生きなければならないのだ。
──それでも。
リムリィはそっと寄り添い「いいよ」と、呟いた。
溜め込むのはとても辛いこと。ただの八つ当たりでもいい。怒りも悲しみも吐き出してしまえばいい。わたしに出来る事はこのくらいしか無いのだから──。
「感情を曝け出すのは恥ずかしい事じゃないからね。恥ずかしいのは、いつまでも前に進めない事なんだから」
だから、いまは泣いてもいいのよ──エルシーもまたエミリオに優しく語り掛ける。
長い沈黙。……いつしかエミリオの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。その胸に折れた剣をしっかりと抱きながら。
「うぅ……あぁあ……お父さん!! お父さん!! うわぁあああ……お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!!」
折れた剣を抱え、父の名を呼ぶエミリオ。ずっと我慢してきた思い。誰にも、どこにも吐き出す事の出来なかった深い悲しみ。それが今堰を切ったかのようにあふれ出していた。
「お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さーーーーーんっ──」
自由騎士たちはただ静かにその様子を見守っていた。
しばらくの後。
涙の乾ききらないエミリオに声を掛けたのはシェリル。
「わたしも、幼い頃に両親を亡くして居るんです。……うちは、祖母の代から続くアマノホカリ発祥のお菓子屋さんです。わたしはその味を受け継いで、お父さんやお母さんが生きていた証を残していこうって、思ってるんです」
俯いていたエミリオが穏やかな表情を浮かべるシェリルに顔を向ける。
「ずっとずーっと繋がっている。それこそが、確かな証明になると、思うのです。ですからエミリオさん、貴方もこれからお父さんの意志を受け継いで、お父さんの生きた証を証明してください。お父さんが貴方に残したもの、きっと、沢山あるでしょうから」
「……うん」
エミリオは小さく、でもはっきりと頷いた。
「さて、戦いの後は甘いもの食べたくなりません?」
シェリルにとっての証は、今も脈々と息づいている。
「ポッキリ折れちまってるし、このまま修復したって使い物にはならないな」
それを聞いたエミリオの表情には影が落ちる。
「ちょっと! そんな言い方しなくても」
「いいや、修復じゃあ駄目だ。イチから剣に打ち直してもらうのが妥当だろ、ちょっと探してみるか」
ニコラスはマキナ=ギアでツテに連絡をとりはじめた。
「なぁ、エミリオ。親父さんと一緒にというのは叶わないが……親父さんの剣と一緒には戦えるぞ」
ニコラスの言葉に、エミリオは元気よく「うん!」と答えた。
少し離れた場所。
「いいのか?」
場所を変えたウェルスは交霊術を用いて、ルーベルトと最後の会話を行っていた。
(ああ。俺がのこのこ出てきちゃあエミリオはいつまでも前に進めない。アイツは先へ進む道を自分で選んだんだからな──)
ウェルスは当初エミリオと直接話させる事も考えていた。だがルーベルトは一言やめておくよと首を振ったのだった。
「あー……否定する気は無いし、理解もできるんだが……でもエミリオの旦那も大切だったんだろ? 何で……死ぬって分かってた結果を選択したんだ? 子を選ぶのが親じゃないのか?」
(……無論大切だった。死ぬつもりなどなかったさ。後悔は無いといえば嘘になる。それでも俺は信念に従った。それは俺や先祖達が代々受け継いできた大切な矜持なんだ──)
「……そうか。最後に何か伝えたい事はあるか?」
(俺はエミリオにずっと背中を見せてきた。確かに言葉は足りなかったかもれない……でも伝わっているはずだ──)
少しの沈黙。ウェルスはルーベルトの次の一言を何も言わずに待つ。
(……一言だけいいか? お前をずっと愛している、と──)
そう言い終えるとルーベルトは、穏やかな笑みを浮かべながらすぅと消えた。
「愛している……か」
1人残されたウェルスの周りに一陣の風が舞う。その風に乗ってウェルスの耳に確かに届いたのは、ありがとうそしてきっといつかわかるさ、というルーベルトの言葉。それはそれは穏やかで温かみのある声だった。
「さぁ行こう」
自由騎士とともにその場を離れるエミリオ。
(父さん……ボクはもう大丈夫だよ)
空を見上げるエミリオ。その穏やかな表情には確かに父ルーベルトの面影が重なっていた。
物語は自由騎士団詰所からすでに始まっていた。
(彼の父親が行方不明になってから5日か……)
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の脳裏には最悪の結末が過る。でも……希望は捨ててはいけないわね──エルシーは頭をふるふると左右に振り、悪い予感を振り払う。
(手練れの幻想種ハンターが不覚を取ったという事は、敵は相当な強さと予想できるわね……気を引き締めて臨む必要がありそうね)
「この依頼、エルシー・スカーレットが引き受けたわ!」
まだ視ぬ強敵の存在を感じつつもエルシーは、エミリオを安心させるように声高らかに宣言するのだった。
一方の『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)はいつもの調子でエミリオと話しながら、父親との関係性を巧みに引き出そうとしていた。
「ずっと鍛錬してたみたいだが、他にはどんな事を教わってんだ?」
例えば行動する際、どういう事を心掛けないといけないのかとか──。だがエミリオに明確な答えは無い。まだ10歳。父親もそこまでの想定はしていなかったのだろう。エミリオは寂しげな笑顔を見せる。
「……慎重にだ。命懸けの仕事、だが命は1つ。それだけは持ち帰らないといけない。そうだろ?」
ニコラスはそう言うとニカッと笑いながらエミリオの頭をぽん、と撫でた。
「じゃぁいくか」
自由騎士たちは旅立つ。行く先には待つのは恐らくは避けようの無い悲しみの未来。だがそれはエミリオにとって前へ進むための大事な大事な、未来。
●
「エミリオさんこんにちはぁ〜シェリル・ミツハシですぅ。よろしくお願いしまぁす」
エミリオから聞いた父親が向かった言う洞窟への道中。
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は皆の雰囲気が暗くならないよう、勤めて明るく振舞っていた。
「ふふふ。未来の立派なハンターさんですね。お父様、一緒に見つけましょう」
言葉を慎重に選びながらもシェリルは俯きがちなエミリオを元気付け、ともに未来を見ようとする。たとえ……その未来がどのようなものであったとしても。
(とうさん。ちち。パパ。よびかたはいろいろ)
『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)は様々な父親の呼び方をまるで他人事の様に口にする。
わたしにもいたみたいだけど──リムリィの中にある遠い記憶。そのおぼろげな記憶の中の存在は、思い出そうとするリムリィの胸をズキリと痛める。それはまるでリムリィ自身が思い出すことを拒否しているかのようだ。リムリィにとっての父親とはそういうもの。でもエミリオにとってはとても大切な人。ううん、大体の子供にはきっと大切な存在。
(わたしにとってはたいせつじゃなくても……)
誰かにとって大切な存在なら。私の手で守れるなら。守ってあげたいと、思う。
だけど──
こわすことしかできないわたし
ちからまかせにぶきをふるうことしかできないわたしにいったいなにができるのだろう
リムリィの問いに答えられる者はいない。それはいつかリムリィ自身が見つけなければいけない大切なこと。
「さて、奥へ進むとするか」
リュンケウスの瞳を使い、目の前に広がる洞窟の暗闇の奥を確認しながらニコラスが先頭で歩き出す。後ろにはカンテラを持つエルシー、シェリル、リムリィが続く。
「エミリオ君、暗いから足元に気を付けてね」
エルシーが周囲を注意深く見回しながら声を掛けると、うんと言葉少なく返すエミリオ。
「危ないから私から離れないでね?」
エミリオのすぐ横には『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)。詰所にたまたま来ていたアリアは、エミリオの切なる願いを直接聞く事になった。その時脳裏に浮かんだのは孤児院の子供達の顔。その後アリアがとった行動はいうまでも無いだろう。
そして今アリアはエミリオと並んでここにいる。
「なぁ、エミリオの旦那は何故、父親の為に命をかけるんだ?」
『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の突然の問いに、なぜそんな事を聞くのという顔をするエミリオ。少しの沈黙。大切だから──エミリオは小さく呟いた。
「……悪い、親がどういうのかは知識や常識として知ってるけど、イマイチどういうものか感覚が無くてな」
ウェルスに親の記憶は無い。何故なら30年程前、通商連に拾われた曇った冬の海に浮かぶ小さな篭。『それ』こそがウェルスだったから。
恨んじゃいない。
憎むほどの感情(おもいで)を持ってないからな──
羨んでもいない。
憧れるほどの夢(きぼう)を持ってないからな──
その後孤児院へ引き取られたウェルスはライヒトゥーム家にて奉公し、家と商売を引きついだ。そうして今があるのだ。
「変なこと聞いて悪かったな、さっさとルーベルトの旦那を見つけようぜ」
ウェルスは話を切り上げると少々急ぎ足で先へ進む。
(他人の家族にとやかく言うつもりは無い。むしろ幸せな家庭は祝福するさ。けれど結局の所、俺にとって俺の両親は『その程度』としか思えないんだろうな)
家族というものをどこか他人事のように捉えるウェルス。そんなウェルスの様子をエミリオは不思議そうに見つめていた。
自由騎士たちは奥へ奥へと進んでいく。運命の場所まで……あとわずか。
●
「どうやら……ここが最奥みたいだな」
前を行くニコラスの足が止まる。その先には水の気配。どうやら地下に沸いた泉のようだ。
エルシーとシェリル、そしてリムリィはカンテラで辺りを灯しながら周辺を見回す。
「ちょっと待って! 泉に続いているあの跡はなに?」
エルシーが照らした先には泉へと続く、何かが這いずったような跡。
「なにか、ある」
リムリィがカンテラを向けた先には光る何か。それは……無残にも折られ放置された剣。
「……!?」
エミリオはその剣の柄に見覚えがあった。
『フフフ。この剣はな、俺が爺ちゃんから受け継いだんだ。
ん? 何? 欲しいだって。馬鹿いうな。これが無いと俺がハントできないじゃないか。
……まぁ、いずれは……な──』
「アレは……!?」
思わず走り出し、その剣に駆け寄ろうとしたエミリオをふわりと包み込むもの。
「……ダメだよ」
少年の急く心を優しく包みこんだのはアリア。行動を察知したアリアは即座に反応し、咄嗟にエミリオを後ろから抱きしめたのだ。
「エミリオ、よく見て。エルシーさんが照らしている地面を」
まだ新しい地面の跡。明らかに何かがいる気配にエミリオも気付いたのか身体が強張る。
「まずは状況をしっかりと把握よ」
イェソドのセフィラを持つエルシーとニコラスは周囲を警戒しながらも折れた剣の元へ。その剣を手にしようとしたその時だった。
「キシャァァァーーーーーー!!!!」
「きゃあっっ!!」
咄嗟に避けるエルシー。泉から突然飛び出してきたもの──這いずる長い胴体はまるで蛇のよう。鋭い嘴はまるで鳥のよう。それはあきらかに異形の幻想種。
「大蛇!? こいつがルーベルトさんをっ!?」
エルシーは直感で感じ取る。こいつがエミリオの父親を襲ったのだと。そして……その命を奪ったのだと。
「はぁぁぁぁーーーー!!!!」
必ず倒す。エルシーは迷う事無く敵の懐へ飛び込んだ。
「ぜったい、たおす」
リムリィは龍氣螺合で一気に攻撃力を高める。
シェリル、リムリィ、ニコラスはすぐに後方へと下がり、攻撃と回復支援を開始する。
「さぁいくぜ!!」
「後ろから狙ううちますぅ~」
皆が戦闘体制をとる中、アリアはエミリオと共に憎き仇をしかりと見つめる。
攻撃範囲は? 回避はできる? 予備動作はどう?
本当であれば父であるルーベルトがエミリオの教えていたのかもしれない。冷静に戦況を見極め、敵の情報を可能な限り得る術。
こういう状況になったからこそ復讐に縛られて欲しくない。だからこそアリアはただ守るのではなく、共に戦う事を選んだ。ここで決着をつける──そうアリアは心に決める。
パリィングでエミリオをしっかりと守りながらアリアは戦況を見極める。
一撃──ただの一撃でいい。欲しいのはエミリオが父の仇を倒した者達と共に戦った証。
そのチャンスをエミリオを守りながらアリアはその一瞬のチャンスを待ちつづけていた。
「うおっ!? こいつはデカイな」
後方から銃を構え狙う打つウェルス。その大きさは全長20Mはある。確かにこのサイズなら人を飲み込む事も他愛ないだろう。
「はわ~~~」
アニマムンディで自らの魔導を引き上げていたシェリルもまた、驚きの声を上げる。
「アイツか……」
ニコラスの表情が変わる。その目は獲物を狙うハンターの目。マナウェーブを自らに掛けるとすぐに皆へも息吹を施す。敵は確実に強い。長期戦に備える姿勢はすでに整っていた。
「とおー」
前で巨大なハンマーを振るうのはリムリィ。その表情はいつもと変わらない。渾身の力でハンマーを打ち込んでいくリムリィ。その攻撃力は絶大。だが代償も大きい。標的は二度動くのだ。柳凪を使用し耐性はあれども、攻撃する度にリムリィの身体の傷も増えていく。だが痛覚遮断によりリムリィはその痛みを感じない。自らの危機を遮断しているのだ。それはとても危険な行為。だが自分を壊すことしか出来ないと思っているリムリィにはそれこそが自分の存在理由。もしその命尽きる事があろうと最後の最後まで破壊する。今のリムリィにはそれが全てであった。
「はぁぁーーー!!!」
前に出たエルシーも苦戦を強いられていた。さすがの身体能力のエルシーといえど全ての攻撃を裂け切ることは出来ない。
「くっ」
相対する敵の尾の攻撃はひとたび食らえば大きく後退させられる。鋭い嘴の一撃はエルシーの身体に軽い痺れを与えていた。
ニコラスとジローの回復もあれど、状態回復と体力回復を同時に要求されるこの状況においては事態は逼迫していた。
「おとりに、なる」
リムリィが不意に動いた。無防備に敵の前に立ったリムリィ。その身体には敵の尾が巻きついていく。
「ぐ……ぅ……」
ぎしぎしと骨の軋む音。いかにリムリィと言えどもその表情は歪む。痛みは無くとも身体が壊れていくことはわかるのだ。
だが、これで尻尾での攻撃は封じられた。あとは嘴の攻撃にだけ注意すればいい。リムリィの捨て身の行動は自由騎士たちへ確かなチャンスを作ったのだ。
「このチャンス逃さない!! 行くわよ! 緋色の衝撃ぉぉぉぉぉーーー!!!」
エルシーが渾身の力で拳を叩き込む。
「弾丸充填! いくぜ!! 特製収束魔砲弾!!!」
ウェルスの銃から放たれた術式は大気中の魔力をも吸収し、極大の魔導の弾丸となって対処へ襲い掛かる。
「キェェェェェ-----!!」
極大の攻撃の連続に叫び声を上げる幻想種。
「わたしの攻撃もくらうのですぅ~~~~」
大きく開けたその口へシェリルが放った緋文字が炸裂し、爆炎を上げる。
「今よ!!」
アリアが叫んだ。とん、とエミリオの背中を押す。
「ヤァァーーーー!!」
エミリオが振り下ろした刃は確かに目の前の仇に傷をつける。
「やった!」
エミリオが声を上げた瞬間、幻想種の鋭い嘴が襲い掛かる。
「く……ぅ……っ」
ぽたり。鮮血が流れ落ちる。エミリオを庇ったアリアの肩に嘴が突き刺さる。
「アリア!!」
エルシーが、ウェルスが、シェリルが、ニコラスが。皆が幻想種へ更なる攻撃を叩き込む。
「お、おねえちゃん……」
エミリオと共に後方へと下がったアリア。肩口の傷は深く、血が止まらない。僅かにしびれも感じている。
「すぐに回復しますぞ」
ジローが駆け寄りアリアの回復に専念する。
「これでおわりだ!」
「これでおわりよ!」
自由騎士たちが最後の力を振り絞る。尻尾の呪縛から解き放たれたリムリィもまたぼろぼろの身体でハンマーを振り下ろす。
「これで、おわり」
ズガァァァァーーーーーンン
「ギャオオオオオォォォオオオオーーーー!!!」
凄まじい断末魔の声をあげ、幻想種は息絶えたのであった。
●
「マズイ、洞窟が崩れそうよ!早く脱出しないと!」
バンニップが事切れる間際の咆哮。それは洞窟内で共鳴し、大きな揺らぎを引き起こした。
エルシーとウェルスが急いで折れた剣の欠片を回収し、ちからもちのリムリィはエミリオはひょいと抱えるとそのまま出口へ向けて駆け抜ける。
「うおーーー!! こんなところで、サンドイッチになる予定は無いからな!! 茶色いからカツサンドってか喧しい!!!!」
ゴゴゴッゴゴゴゴオオ……──
自由騎士たちが脱出し、地鳴りが収まった頃には……かつて洞窟だった場所は岩や土砂で埋め尽くされていた。バンニップとともにこの洞窟もまた人の手の届かぬ場所へと変わったのだ。
「おわりましたね」
アリアがエミリオのほうを見る。崩落した洞窟の前で呆けるエミリオ。ただ無表情に立ち尽くす。
受け入れがたい現実。10歳の子供の感情が追いつくはずもなかった。
「……まにあわなかった。……ごめん。……おこっていい」
そういうとリムリィは折れた剣の欠片をエミリオへと手渡した。
「怒るだなんて……逆です。ありがとう……ございました……」
エミリオの全身が小刻みに震えている。涙を見せまいと空を仰ぐ。この少年はこれから自分の力で生きていかなくてはならない。強く生きなければならないのだ。
──それでも。
リムリィはそっと寄り添い「いいよ」と、呟いた。
溜め込むのはとても辛いこと。ただの八つ当たりでもいい。怒りも悲しみも吐き出してしまえばいい。わたしに出来る事はこのくらいしか無いのだから──。
「感情を曝け出すのは恥ずかしい事じゃないからね。恥ずかしいのは、いつまでも前に進めない事なんだから」
だから、いまは泣いてもいいのよ──エルシーもまたエミリオに優しく語り掛ける。
長い沈黙。……いつしかエミリオの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。その胸に折れた剣をしっかりと抱きながら。
「うぅ……あぁあ……お父さん!! お父さん!! うわぁあああ……お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!!」
折れた剣を抱え、父の名を呼ぶエミリオ。ずっと我慢してきた思い。誰にも、どこにも吐き出す事の出来なかった深い悲しみ。それが今堰を切ったかのようにあふれ出していた。
「お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さん!! お父さーーーーーんっ──」
自由騎士たちはただ静かにその様子を見守っていた。
しばらくの後。
涙の乾ききらないエミリオに声を掛けたのはシェリル。
「わたしも、幼い頃に両親を亡くして居るんです。……うちは、祖母の代から続くアマノホカリ発祥のお菓子屋さんです。わたしはその味を受け継いで、お父さんやお母さんが生きていた証を残していこうって、思ってるんです」
俯いていたエミリオが穏やかな表情を浮かべるシェリルに顔を向ける。
「ずっとずーっと繋がっている。それこそが、確かな証明になると、思うのです。ですからエミリオさん、貴方もこれからお父さんの意志を受け継いで、お父さんの生きた証を証明してください。お父さんが貴方に残したもの、きっと、沢山あるでしょうから」
「……うん」
エミリオは小さく、でもはっきりと頷いた。
「さて、戦いの後は甘いもの食べたくなりません?」
シェリルにとっての証は、今も脈々と息づいている。
「ポッキリ折れちまってるし、このまま修復したって使い物にはならないな」
それを聞いたエミリオの表情には影が落ちる。
「ちょっと! そんな言い方しなくても」
「いいや、修復じゃあ駄目だ。イチから剣に打ち直してもらうのが妥当だろ、ちょっと探してみるか」
ニコラスはマキナ=ギアでツテに連絡をとりはじめた。
「なぁ、エミリオ。親父さんと一緒にというのは叶わないが……親父さんの剣と一緒には戦えるぞ」
ニコラスの言葉に、エミリオは元気よく「うん!」と答えた。
少し離れた場所。
「いいのか?」
場所を変えたウェルスは交霊術を用いて、ルーベルトと最後の会話を行っていた。
(ああ。俺がのこのこ出てきちゃあエミリオはいつまでも前に進めない。アイツは先へ進む道を自分で選んだんだからな──)
ウェルスは当初エミリオと直接話させる事も考えていた。だがルーベルトは一言やめておくよと首を振ったのだった。
「あー……否定する気は無いし、理解もできるんだが……でもエミリオの旦那も大切だったんだろ? 何で……死ぬって分かってた結果を選択したんだ? 子を選ぶのが親じゃないのか?」
(……無論大切だった。死ぬつもりなどなかったさ。後悔は無いといえば嘘になる。それでも俺は信念に従った。それは俺や先祖達が代々受け継いできた大切な矜持なんだ──)
「……そうか。最後に何か伝えたい事はあるか?」
(俺はエミリオにずっと背中を見せてきた。確かに言葉は足りなかったかもれない……でも伝わっているはずだ──)
少しの沈黙。ウェルスはルーベルトの次の一言を何も言わずに待つ。
(……一言だけいいか? お前をずっと愛している、と──)
そう言い終えるとルーベルトは、穏やかな笑みを浮かべながらすぅと消えた。
「愛している……か」
1人残されたウェルスの周りに一陣の風が舞う。その風に乗ってウェルスの耳に確かに届いたのは、ありがとうそしてきっといつかわかるさ、というルーベルトの言葉。それはそれは穏やかで温かみのある声だった。
「さぁ行こう」
自由騎士とともにその場を離れるエミリオ。
(父さん……ボクはもう大丈夫だよ)
空を見上げるエミリオ。その穏やかな表情には確かに父ルーベルトの面影が重なっていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
少年は前へ進む。それは復讐のためではなく、誇るべき父の遺志を継ぐために。
MVPは亡き父から息子への大事な大事な一言を託った貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
MVPは亡き父から息子への大事な大事な一言を託った貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
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