MagiaSteam
スモーキークォーツと深淵の闇




「待たせたな。導き出したぜ。ただ……良い話と悪い話がある。どっちから聞くかい?」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は呼び出した自由騎士達へ不自由な選択を迫る。
 先日自由騎士によって解決に導かれた娘達の失踪事件。
 敵組織との交戦の中、怪力フンヌの発した言葉より知りえた『マスター』の存在。
 その重要人物と思われる存在について、プラロークへ調査が依頼されていたのだ。
「じゃぁまずは良いほうからいこうか。マスターと呼ばれていたのはやはり老紳士だ。ヤツが数人の側近と共にアデレード港の倉庫にいる事は割り出せたぜ」
 テンカイはその場所を地図で示す。
 どうやら老紳士はプラロークによって自分の居場所がばれる事も全て見通していたようだ。
 この場所で自由騎士達が来るのを待つかのように、静かに時を過ごしているという。
「そして悪い話だ。例の老紳士。名をレオナルト・A・ヴィルフリート。ヤツは……イ・ラプセル正騎士団の隊長だったらしい。もちろんすでに退役はしているんだが……『衝撃のレオナルト』といえば勇猛果敢な騎士として結構有名だったらしいぜ」
「何故そのような人が……」
 自由騎士達の疑問はもっともだ。
「それはワタシにもわからねぇ。だけど、なんっつーか……うまく言えないんだけどすげぇ強い意志を感じるんだ」
 完全無欠の演算結果を出すことを目標としているテンカイだが、今はまだそこまでが精一杯だったようだ。
「お前たちが気にかけていた攫われた娘たちの行方もヤツが知っているはず。……伝えるべき事はこれで全部だ。あとはお前達に任せるぜ」
 そういうとテンカイは手をひらひらと振りながら演算室の奥へと消えた。


 アデレード港のとある倉庫。
「彼らは来るでしょうな。この場所もすでに突き止めているでしょう」
 老紳士は表情一つ変えず、静かに一人語る。
「彼らに我々を止める理由があるように、私にもまた理由があるのです」
 穏やかな物言いだが、その表情には強い決意が見える。コホッ、老紳士が咳き込む。その咳には血が混じる。
 老紳士はポケットから古びたロケットを取り出し、何も言わず握り締める。その目はどこか温かく、優しい。
「さて……お客人をお出迎えしなければなりませんね。さぁ……準備を」
 老紳士は静かにその時を待っている。
 静寂の中、ロケットに鏤められたスモーキークォーツは鈍い光を放っていた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.老紳士(マスター)を止める。
2.攫われた娘達の行方を聞き出す。
強い老人が好きです。長く生きてきたその積み重ねがそのまま強さであるような。そんな風に年老いたい。麺二郎です。

この依頼はブレインストーミングスペース
ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357) 2018年11月07日(水) 02:44:54
エルシー・スカーレット(CL3000368) 2018年11月07日(水) 19:15:25
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069) 2018年11月07日(水) 19:23:36
アリア・セレスティ(CL3000222) 2018年11月08日(木) 22:29:53
の発言等を元に作成されました。

奴隷売買組織の上役と思われる老紳士との直接対決です。
老紳士の秘めたる決意に、自由騎士はどう答えるのでしょうか。


●ロケーション
 アデレード港、西の端にある倉庫。深夜。
 中は貨物も少なく、戦闘するのに十分なスペースがあります。
 明かりもついており、視界に不便はありませんが、特殊なガスが充満しており、対策がなければターン毎に【パラライズ1】【ポイズン1】【コンフュ1】【アンガー1】の中からランダムに効果を受けます。
 
 倉庫の一番奥に老紳士と6人の側近が待ち構えています。 


●敵

・老紳士 レオナルト・A・ヴィルフリート 68歳
 執事スタイルに身を包んだ老紳士。ノウブル格闘スタイル。
 元イ・ラプセル正騎士。衝撃のレオナルトの異名を持つ騎士団隊長だった。すでに退役。
 技と呼べるものは殆ど使わないがその一撃一撃は重く、鋭い。
 老紳士はある理由にガスの影響を受けません。

 絶拳(EX) 攻近単 その拳は体内の気の流れを強制的に停止させ、深いダメージと共に対象を行動不能にする。【防御力無視】【ショック】【行動不能】 

 彼は側近がすべて倒されるまで何もしてきません。
 倒された後、静かに構えを取ると自由騎士に問いかけます。
 【あなたは何のために戦うのか】と。
 この答えもまた彼に示してください。

・側近 軽戦士x2、格闘x1、ヒーラーx1、魔導士x1、錬金術x1
 それぞれのスタイルスキルのランク1をLv3まで複数個取得しています。
 全員ガスマスクを装備しています。
 軽戦士はハイバランサー、他はパラライズ耐性を所持。


●同行NPC

・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければ皆さんを回復支援します。
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。

ご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年01月26日

†メイン参加者 6人†




 深夜。アデレード港某倉庫前。そこには6人の自由騎士の姿があった。
(敵の目的は何かしらね……聞いて答える訳はないでしょうけど。しかもただ拐うだけじゃなくて、こうなる事も予想して拐ってる。じゃなきゃ、ここまで迎え撃つ準備が整ってるはずもないもの)
「答えなきゃ、力付くになっても──」
『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)の拳に自然と力が篭る。
「それにしても……話を聞くほどに立派な人物だったみたいね」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は出発前の僅かな時間、レオナルトに付いて聞き込みを行っていた。そこで得たのは未だに残る騎士達の敬意の念。誰もがその強さを尊敬し、その優しさを敬愛した人物だったようだ。そして理由はともあれ、そんな人物と一戦交える事が出来る事にエルシーは僅かに高揚していた。
「しかしそうなると……なぜそのような出来たお方が今まで守ってきたこの国の人を売るようなことを……」
 ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)の問いに答えられる者は居ない。
「今は彼を止めないと、ですよね」
 そういうティラミスの声を遮るように『イ・ラプセル自由騎士団』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は言い放つ。
「奴隷売買組織をぶっ潰す! なんかただのお金儲けが目的じゃないみたいだけど……それでも容赦しないよっ!」
 例えどんな人物だろうと今誤った道を進んでいるならぶっ潰すだけ。カーミラの思考は単純明快。それゆえにどんな相手にも迷い無く拳を打ち込む事が出来る。
「皆さん、準備はいいですか」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)が合図すると自由騎士達は各々事前準備を済ませる。
 扉を開ければそこには敵がいる。やや緊張した面持ちで自由騎士達は扉に手をかけたのだった。


「自由騎士よ! 観念しなさい!!」
 エルシーが勢い良く扉を開く。そしてそれと同時に、ガスマスクをつけた側近全員が戦闘態勢に入る。
 さすがというべき、手際だった。それぞれが自身の長所を最大限に活かし、間合いを把握し、無理をしない。側近6人の卒の無い動きは自由騎士と互角かと思わせるほどのものだった。
 火花を削りあう双方の攻撃。ティラミスとジローが回復を試みるも、じわじわと双方共に消耗していく。
 体力回復に加えて、ガスによる状態以上の回復。思った以上に状況は不利に働いていた。
 そしてその様子を何もせず眺めているレオナルト。
 風向きが変わったのは暫くの交戦後だった。柳凪で物理攻撃に耐性のあるエルシー、カーミラが前に出て拳をふるい敵をひきつけながら、アリアが後方より気の矢を放つ。一糸乱れぬ連携に、側近達がその意識を集中させたその時。ラピットジーンで速度強化したライカが、影狼で一気に後方の側近へ接敵した。
「なにっ!?」
「遅いっ!!」
 ライカの放った狼牙が如き攻撃は、側近回復役の急所を的確に捉える。意識を失った側近からガスマスクを剥ぎ取るとライカはそのガスマスクをティラミスへ投げ渡す。
 敵回復役を落とした事、ティラミスがガスの影響を受けなくなった事、この2つが同時に達成された効果は大きかった。
 ここまで護りに徹していた『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。ガスによる怒りや混乱への耐性を持ち、パリィングで自らをティラミスの盾と化したナイトオウルの護りは固く、側近達の攻撃は回復の要であるティラミスに一切届いていなかった。それゆえの潤沢な回復支援が自由騎士にはある。そしてその一番の功労者でもあるナイトオウルが攻勢へ打って出る事で、自由騎士の攻撃の勢いは更に増していた。
「URYYYYYYEEEEEEEE!!!!」
 ナイトオウルの口元から洩れるのは凡そ人語とは思えない唸りのような言葉。
 そこからの時間は1分にも満たない僅かなものだったであろう。
「……ぐはっ」
 最後の側近が倒れた。
 倉庫中に充満していたガスは、開け放たれた扉や戦闘中にライカやエルシーが意図的に割った窓からの外気によって急激に薄まっていった。その影響はすでに僅かなものになっていた。


「さすがは自由騎士」
 老紳士は静かに立ち上がると、自由騎士たちを見渡した。
「投降して貰えませんか? 例え強者でも、刃を向けたくないのです」
 アリアが言葉を投げかける。
 だが老紳士はその言葉に静かに首を横に振る。穏やかな表情とは裏腹に老紳士から放たれる気は一流のそれを感じさせる。

「いくわよっ!!!」
 最初に飛び込んだのはライカ。
「貴方の目的は何なの?」
 剣を交えながらライカはレオナルトの本心を探ろうとする。
「それは私を倒したあとで聞くべき事ですな」
 相手は齢70にもなろうかという年齢。通常で考えれば戦闘においてライカが劣る点などあるはずも無い。
 だがライカの繰り出す神速の攻撃をレオナルトは意図も容易くいなしていく。
 無論ライカが手を抜いている訳ではない。ライカの最速の一撃はトップスピードを保っているのだ。
(この気迫……とても退役した老兵のものとは……っ)
「でもアタシは負けるわけにはいかないっ!! うぉぉおおおおおお!!!」
 ライカが更にスピードを上げる。その攻防は激しさを増し、老紳士にも変化をもたらす。
「貴方は……何のために戦っているのです?」
 老紳士はライカに問いかける。その間ももちろんお互いの攻撃の手は休まることは無い。
「戦うのは、生きるために必要だから。それから、復讐をするためよ」
 そう答えるとライカの口からは堰を切ったかのように言葉が溢れる。
「守りたいものとか大義なんてものはないわ。アタシはアタシが赦さない正義を打ち砕く悪でしかないわ」
「自らを悪と称しますか」
「アタシは自分が正義だとは思わない。アタシが赦さない正義は、人が人らしく生きられない事が是とするものよ」
 ライカが深く構える。血心一閃【絶神】。その拳は神をも殺す──ライカの今放てる最高威力の技だ。
「──遅いっ」
 交差する2人。より深くダメージを与えたのはレオナルト。その幾多の経験からなる未来予知にも匹敵する洞察力はライカの僅かな動作の違いを見極め、その打点をコンマ数ミリずらしていたのだ。
「ぐ……ふっ」
 倒れるライカ。レオナルトの放った絶拳によって行動不能に陥っていた。
「貴方の考えは良くわかりました。人が人らしく生きる事。それがどれ程すばらしい事か……今の私には望むべくも無いものですが……」
 薄れ行く意識の中、ライカは一瞬レオナルトの表情に影が落ちた様に見えた。

「次は私がお手合わせ願うわ」
 エルシーだ。側近との戦いにて最前線で攻防を繰り広げたエルシー。潤沢な回復があったとはいえそのダメージは確実に蓄積している。動くたびに鈍い痛みがエルシーの身体中を駆け巡る。残る魔導力を考えても繰り出せる技も多くは無い事は明白だ。それでもエルシーは瞳に強い意思の炎を宿し、レオナルトの前に立つ。
 無論、彼を止める為であるのは確かなのだが──それ以上にエルシーを突き動かすのは純粋な格闘士としてのレオナルトへの尊敬の念。そして自身という存在の更なる昇華。その絶好の機会が今、目の前にあるのだ。
「貴方程の方がなぜこんな事に手を染めたんですか? 自由騎士……いえ、私では貴方の抱える闇を解決する事はできませんか?」
「先ほども言いましたよ。それを聞きたければ私を倒すことです」
「そうでしたね。ならあとはこの拳で全てを語りましょう」
 エルシーは深く深呼吸をすると攻撃耐性を自身に付与する。
「たぁぁぁああああっ!!!」
 エルシーが一気にレオナルトとの距離を縮め、幾多の拳を打ち込む。
 レオナルトもまた真正面からのエルシーの攻撃に呼応する。
 数百にも及ぶ拳と拳のやり取り。鍛え上げられたその拳がぶつかり合い、火花を散らす。
「ハァ……ハァ……そういえば戦う理由を聞いてたわね。今戦ってる理由は……単純よ。貴方達に攫われた娘達を助けるため。人は……皆幸せになる権利がある。いかなる理由でも……その権利は奪われていいものじゃないわ」
「幸せになる……」
 僅かに表情を変えたレオナルト。エルシーはその後も力の続く限り拳を交えた。レオナルトの足捌き、呼吸法、その戦い方をしっかりとその身に刻み込んでいく。
 まるで稽古をつけているよな時間の中、先に限界が訪れたのはエルシー。
 気力の尽きたエルシーが最後に放ったのは緋色の衝撃。これを紙一重で交わしたレオナルトの拳はエルシーに深く突き刺さる。
「さすが……ね……これ程とは……」
 絶拳。ライカを行動不能に陥れたその拳は、エルシーをも地に伏せさせたのだった。
「掠っただけでこの威力とは……」
 レオナルトに残ったのは紙一重で避けたはずのエルシーの一撃が残した鈍い痛み。

「さぁ次はどなたですかな」
 レオナルトが自由騎士へ問いかける。
 そしてその言葉に振り下ろす剣で答えたのは、黒騎士ナイトオウルだった。
 この老人も相応の意志で拳を振るうのだろう。そうでなくば、騎士団隊長だった身で女神に叛逆するとは思えない。ナイトオウルにとって女神という存在は生きる全て。その存在に反旗を翻した老紳士の思考などナイトオウルには到底理解できるものではない。
 それでも元は同じ女神に仕える騎士として払うは最大限の敬意。それこそ全力を持って今の彼を止める事。
「URYYYYYEEEEEE!!!」
 ナイトオウルが振り下ろす一撃を紙一重で交わす老紳士。
 狂える獣と化した黒騎士。ナイトオウルは女神に生かされ、女神に選ばれ、そして女神から刃を授かった。その女神の為に命を捨てる事すら厭わぬ意志を示すには、目の前の敵を殲滅する事以外に無いのだ。
 ナイトオウルとレオナルトの間には交わす言葉は無い。だがその一撃一撃はナイトオウルにとっての闘いの意味を、むしろ生き様そのものを明確に物語っているようだった。
「なるほど。それが貴方にとっての闘いという事ですか」
 奇声を発しながら強靭な一撃を振り下ろし、攻撃し続けるナイトオウル。
 そこからは両者防御をかなぐり捨てたような剣と拳の応酬。それはまるで交わす一撃一撃でお互いの強い意思を確かめ合うべく会話しているようだった。
「ぐ……ふっ……」
 幾多の攻防を繰り広げた後、ナイトオウルが膝を折る。その鳩尾には深くレオナルトの拳が突き刺さっていた。
「……その命をも捧げども成し遂げようとする信念。私もあの時一歩踏み出す事が出来ていれば……」
 
 レオナルトの目の前にはアリアの伸ばした蛇腹剣の切っ先があった。
「もう一度だけ聞きます。投降しては頂けませんか」
 アリアの言葉にレオナルトはやはり首を横に振る。わかっていた。この老紳士が絶対に投降しないであろう事は。それでもアリアは。
「ならばこの剣に私の想いを込め、貴方を討ちます。応えてくれますか?」
 レオナルトは言葉の変わりに構えを取った。その姿を見てもこれまでの攻防で幾多のダメージを追っている事は明白だ。それでも彼から放たれる気迫は全くといっていいほど衰えてはいなかった。
「先に聞いておきましょう。貴方はなぜ戦うのです?」
「孤児院の子ども達が、大切な親友が、笑顔で暮らせる国を護るためです」
「貴方の周りの人たちだけのためなのですか?」
 アリアはすぅと両手を胸の前に持ってくる。
「それで精一杯です。私が望む事は……ただこの手で掬える、この目が届く世界を護る事。この両手で掬えるものを絶対に零したくない。それだけです」
「貴方はどうなのです? 貴方の幸せはそこにあるのですか?」
「それで十分です」
 アリアはどこか儚げに笑ってみせた。
「……」
 レオナルトはそれ以上何も言わず拳を構える。
 アリアは駆け抜けた。ただ真っ直ぐに全速力で老紳士に向かって駆け、葬送の願いにありったけの力を込めて陽炎う煌星を放つ。直撃は逃したものの、その一撃はレオナルトに深いダメージを与えていた。
 その後も幾多繰り返される剣と拳の鬩ぎあい。決着のときは近い。
 アリアの速度を生かした猛攻の中、レオナルトは静かに針の穴の通すようなそのただ一点の好機を狙う。
「潜り抜けた修羅場の数。差はただそれだけです」
 絶拳。その拳は4度、自由騎士の自由を奪ったのであった。

「次は私だーーーーーっ!!!!!」
 ダッシュする勢いのままレオナルトにとび蹴りを放ったのはカーミラ。
「ぐ……っ!!」
 さすがのレオナルトも連戦からの疲労か体勢を崩す。カーミラの猛攻は止まらない。その拳が、その肘が、その踵が、カーミラにとって全身は全てが武器。スキルに頼らない素の体術がカーミラの動きを変幻自在にしていた。
「ケモノビトは他の国では差別される。そりゃあ、ここでもゼロってワケじゃあないけどさ」
 カーミラは巧みに体躯を使い分け、レオナルトに打撃を与えていく。
「でもパパとママはこの国を安住の地と思って死んだ。だから私はこの国が、ケモノビトが安らいで生きられる国であるように……お前たちみたいなのを! 全部ぶっ潰すために戦うんだ!!!」
 カーミラの全体重を乗せた強烈な蹴り。レオナルトは腕をクロスさせ全力防御する。
「それが貴方の戦う理由ですか」
「そうだ!!」
 レオナルトが見たカーミラの瞳。その瞳はどこまでも澄みきっていた。迷いの色など微塵も無い。
「お前を倒すのは私だっ!!」
 全力全開全身全霊。その拳にはカーミラの持つ強さそのもの、その全てが凝縮されていた。
(私は……まだ倒れるわけには……いかないの……です)
 一方的に打ち込まれているかに見えたレオナルトが動く。それはノーモーションからの絶拳。全くの予備動作無しからの攻撃だった。
 勝負は決まったかに見えたのだが。
「ぐっ……」
 カーミラの勝負への執着が、その所作を何一つ見逃さないという執念にも似た観察眼が、レオナルトの無からの絶拳からカーミラを護ったのだ。
 無論カーミラも無傷ではない。犠牲になったのは右腕。すでに感覚は無い。
「何っ!?」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
 残った左腕がやけに熱い。片腕の感覚を失ってなお漲る闘志。カーミラの猛攻は止まらない。
 その後カーミラがその意識を失ったのは、運命の炎をも燃やして立ち上がり、3度目の絶拳をその身に受けた後だった。

「私が何のために戦うのか……うまく説明できないです……私はイ・ラプセで生まれました、今年で15になります。今の体制になる前は、この国でも亜人の差別が強かったという事はよく知ってます。そのせいか分かりませんが、私は早く大人になりたかったです。早く強い大人になれば、いろんな理不尽を何とかできる。そう思ってました」
 ティラミスはレオナルトの問いに答えながら前に出る。
「でも……よく分からないですけど……今は少しだけ、違います。お父さんとお母さん、いろんな人たち……貴方たち騎士団も含めて、そのおかげで今の私がいます。そして今、平和な世界のためにと沢山の様々な種族の方が自由騎士団として戦っています。私も、少しでもいいから、それに答えたいんです!」
 ティラミスはアルケミーだ。戦闘では回復や、後方からの支援が主な役割になっている。
 そんな彼女であるからして、当然本来はレオナルトと真正面から戦えるようなタイプではない。それはティラミスも理解している。だがそれでも。カーミラとの戦闘を終え、満身創痍のレオナルトの前に、敢えて抜き身で立ち塞がった。
 レオナルトもまた無事ではない。
 限界を超えて絶拳を撃ち続けたその拳はすでに使い物にならない状態となっていた。
「貴方が最後ですね」
 そういうとレオナルトは静かにティラミスに歩み寄る。
 ティラミスが防御の構えを取ったその瞬間、レオナルトがティラミスに身体を預けるように放ったのは力の無い拳。
 これがレオナルトにとって生涯最後の攻撃となった。


 自由騎士達が目を覚ますとそこには、レオナルトに必死に回復を施すティラミスの姿だった。
「レオナルトさん!! 目を覚ましてください!!! レオナルトさん!!!」
「私は身体は病に冒されていてね……もう何も効果は無いのだよ」
 それを聞いたティラミスは気づく。レオナルトにガスが効かなかったのはすでに命が尽きようとしていたからなのだと。
「貴方のような人がなぜこんな真似を……」
 絶拳をその身に受けた全員が感じた奇妙な感覚。それはまるでレオナルトの自由騎士への慈愛の様な。
 その実力差を考えれば自由騎士の命を奪う事も出来たはず。
 そうせずに自由騎士達に敢えて絶拳を受けさせたのにも理由があるのではないか。
「攫った娘達は隣の倉庫に……私は何にも変えがたいものを守るためとはいえ……道を……道を誤ってしまった……この命程度では到底償えるものではありません……だがもし、もし貴方達にすべてを託せるというのなら……」
 レオナルトが大量の血を吐く。ティラミスは回復を施し続けるが効果は見られない。
「貴方達はみな……強い信念と力を秘めている……最後に出会えて本当によかった……」
 そういうとレオナルトはポケットから取り出した何かをエルシーに手渡す。
 僅かに微笑みながら目を閉じるレオナルト。
「少し……疲れました……」
 そういったレオナルトはそのまま目を覚ます事は無かった。

 エルシーが手渡されたのは古ぼけたロケット。
 その中には緊張気味のレオナルトと、その傍で微笑む妻と娘の写真が収められていた。
 



†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『遺志を継ぐもの』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『遺志を継ぐもの』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『遺志を継ぐもの』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『遺志を継ぐもの』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『遺志を継ぐもの』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『遺志を継ぐもの』
取得者: ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)
特殊成果
『古ぼけたロケット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)

†あとがき†

返却にお時間を頂き誠に申し訳ありません。
老紳士は自由騎士に全てを託し、眠るように旅立っていきました。

MVPは脅威の粘りを見せた貴方へ。

ご参加ありがとうございました。
ご感想などいただければ幸いです。
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