MagiaSteam
遺光の霊園




 イ・ラプセル領となったシャンバラの地の一角。そこには先の戦の戦没者の墓が並んでいる。そこにちらほらと墓参りに訪れた元シャンバラの民がいた。
 死者へと手向けられた花が風に揺れる中、どこからともなく声がする。
 ――我らが主よ。
 それは冷たい土の下から響いていた。
 ぼこりぼこりと土がひとりでに盛り上がっていく。
 ――我らが主、ミトラース。
 手向けられた花が無慈悲に潰されていく。
 土の下から這い出てきたのは、既に死した神を崇拝し、過去の光に縋る哀しき亡者の群れだった。


 太陽が徐々に地平線に近付く中、君たちは水鏡が示した未来が訪れる場所を目指して早足に進んでいた。
 諸君には、今回、この還リビトの群れの討伐をお願いしたい。
 水鏡に映し出された未来を語りそう締めくくったのは『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)だった。
 今回出現すると思われる還リビトの多くはかつて前線にいた者だ。それ相応の戦闘技術を持っていると考えていいだろう。また、数も決して少なくはない。
 そう言ったクラウスの眉間に深い皺が寄った。
 現在、イ・ラプセルとシャンバラ間の行き来が難しくなっている。それを考慮すると、今から出てぎりぎり間に合うかどうかと言ったところだ。被害が出ないうちに、というのはおそらく難しいだろう。そのため、被害が最小限になるように立ち回ってもらいたい。
 その言葉を受け、君たちはすぐにイ・ラプセル領となったシャンバラの地を目指した。
 もう少し、後少しでその場所にたどり着く。
 そんなときだった。突如目指していた地点から絹を裂いたような悲鳴が響く。次いで金属音や打撃音。それが戦いの音であることに気付くのにそう時間は必要ないだろう。
 君たちは駆け出す。まだ守れるものがあると信じて。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
酒谷
■成功条件
1.還リビトの討伐
 こんにちは、酒谷と申します。
 今回は元シャンバラ領での還リビトの討伐となります。

●敵情報
・還リビト 17体
 墓の下から這い出てきた還リビトです。17体中10体は訓練を受けた兵士程度の戦闘能力を持ち、武器(片手剣)を持っています。

攻撃方法
・斬りつけ 攻撃/近距離/単体
 近距離にいる敵を持っている剣で斬りつけます。
・投石 攻撃/中距離/単体
 そこらへんに落ちている石ころを投げつけます。ただ、無差別に投げつけてくるのでたまに還リビトの投げた石ころが還リビトに当たったりします。
・殴る 攻撃/近距離/単体
 近距離にいる敵を自身の手や落ちているもので殴ります。

●場所情報
 時刻は夕刻で、あまり時間をかけると日が沈み周囲は薄暗くなって視界は悪くなります。
・墓地
 還リビトが出てきたお墓は穴が空いていたりと若干足元が不安定です。それ以外はしっかりとした地面なので問題ありません。

●その他
 墓地には還リビト以外にも墓参りに来た元シャンバラの民もいます。彼らの救助も行うならば、自由騎士団への心象は悪いものにはならないでしょう。

 どうぞよろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年05月29日

†メイン参加者 8人†




 水鏡で予知できても距離がある。そんな問題を抱えながら自由騎士達は元シャンバラ領を目指していた。
「まずは一刻も早い現着だ。多くを救助できるかどうかはそこに懸かっている」
 そう言って自分が先行すると名乗り上げたのは『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)だった。続いて『牛串の舞』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が名乗りを上げた。アデルは自身の脚にある蒸気鎧装と足底にある蒸気ローラーでの移動、シノピリカは自身の愛馬に乗っての移動で先行することが可能だという。馬ならもう一人乗せていけるのではという言葉でさらに『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が彼女と共に先行することになった。
「で、ではお願いするよ。シノピリカさん」
「任せておけ。こちらこそ頼んだぞ、アダム殿」
 気恥ずかしいのかやや顔を赤らめているアダムにシノピリカは力強い笑みを浮かべた。
「なら俺達は後から追いかけてって形になるな」
「お墓参りに来ている人達の避難と支援はこちらで行いましょう」
 『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の言葉に『柔和と重厚』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が頷いた。
「俺達は俺達にできることを、だな」
「はい」
 『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)の呟きに『新緑の歌姫(ディーヴァ)』秋篠 モカ(CL3000531)がそう答え、『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)も頷いた。
 間もなく、かつての宗教国家へと自由騎士達は足を踏み入れる。


 フーリィンからノートルダムの息吹をかけてもらったアデルは自身の足に取り付けた蒸気機械で目的地へ先行していた。
 黄昏の空の下、その時はやってくる。
 悲鳴、次いで金属のぶつかり合う音が響いた。自身の優れた目で墓地の様子を確認していたアデルは、墓から目覚めた還リビトが地面に倒れ込んでいる人に向かって独善の刃を振り下ろそうとしているのを見た。その間に滑り込んで還リビトの身体にジョルトランサーを突き付ける。そして、切り札であるジョルト・アサルトを叩き込んだ。
 戦場と化した墓地に響き割った轟音。その音に多くの還リビトがアデルの方を向いた。その敵意を一身に受けながらも彼は背後に庇っていた人に伝える。
「ここは俺達が引き受けた。応援の仲間が来る。あちらへ逃げろ! 走れ!」
 そう言ってアデルは自身がやってきた方向を指差した。
 生きるか死ぬかの瀬戸際、迷うことなくその人はアデルの指差した方向へ転がるように駆け出した。それを横目で確認したアデルは数多の敵意に向き直って武器を構え直す。そんな彼に還リビト達が一斉に飛びかかった。剣が、石が、拳が、あらゆる暴力がアデルに降りかかる。それでもアデルは後からやってくる仲間を信じて還リビト達に立ち向かった。

 一方、アデルとは別に馬で先行してきたシノピリカとアダムは、荒れ果てた墓地に辿り着くと馬が止まるか否かのところで飛び降りてその勢いのまま襲われている民の元に向かった。
「シャンバラの民よ! 我が名は自由騎士アダム・クランプトン! 聖堂騎士に代わり貴方達を救いに来た!」
 アダムが民を庇うように立つ。その声に人々の意識がアダムとシノピリカに向く。シノピリカは自身の愛馬に労りの言葉と離れているように指示を出すと、怯えて動けなくなったのか立ち尽くし、あるいは、へたり込んでいる人々に声を掛ける。
「我々は自由騎士団である。救出に来たので安心してほしい」
 自由騎士団、ミトラースを屠りシャンバラを奪った者達。それが自分達元シャンバラの民を助けに来たというのか。
 信じていいのか、しかし、このままでは死んでしまうかもしれない。そんな極限状態に民はいた。
 そのとき、こちらに避難してください、という声が響いた。
「この声がする方へ避難してほしい」
 シノピリカの声に、そしてアダムの背に、人々は声の聞こえた方に駆け出す。それを追うように還リビトの何人かが動き出す。だが、それを防ぐように灼熱の弾幕が張られた。
「そこから先へは進ませないよ」
 強い意志を持った瞳のアダムの左腕からは硝煙が立ち上っていた。その煙が消える前にアダムはさらに避難を呼びかけながら還リビトの攻撃から人々を守るように盾を構えた。必死にシノピリカが示した先に逃げる人々、しかし、その中でへたり込んだままの青年とその腕を引っ張っている娘がいた。その二人に向けて還リビトが大きめの木の棒を振りかぶっていた。シノピリカはそれに気付いて急いでそちらに向かう。そして還リビトと彼らの間に滑り込み還リビトが振り下ろした木の棒を弾き飛ばすと、バーチカルブロウで敵を吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
 敵が遠ざかったことを確認したシノピリカは青年達にそう問いかける。すると青年が戸惑いながら立てないのだと零す。ズボンの裾から覗く足は痛々しく腫れ上がっておりとても歩ける状況ではなかった。自分はいいので彼女をという彼に対して一緒じゃなきゃいやだと娘が泣き叫んだ。それならとシノピリカは彼らをまとめて抱きかかえる。
「アダム殿! 怪我人を避難させてくる。ここを頼めるか?」
「もちろんだとも!」
 銃で、剣で、あるいは盾で民を守るために力を振るいながらもアダムは力強く頷いた。それを聞いた直後、シノピリカはその場から駆け出した。


「こちらに避難してください! その先に他の自由騎士の人達がいますから!」
 これからの戦闘に備えてサンシャインダンスを踊ったモカは自身の羽を駆使して空を飛び避難の道標を叫ぶ。その声に引かれるように人々はモカの方を目指した。その全員が無傷であるとは言えない状況であることにモカは密かに唇を噛みしめた。けれど、止まっている暇はない。モカは避難誘導をしながら先行した三人を追うように戦場となった墓地を進んでいく。進んだ先ではシノピリカが青年達を抱えて走ってくるのが見えた。
「シノピリカさん!」
「モカ殿! ここからすぐのところでアダム殿が戦っておる。ワシはこの者達を避難させてくるから援護してやってくれ!」
「はい!」
 口早に言葉を交わすと二人はやるべきことのために前に進んだ。
 モカが少し進んだところではアダムがアデルの引きつけから外れた還リビトを相手にしていた。モカはアイドルオーラで敵の注意をアダムから自身へと移してから、己の全速力を乗せた疾風刃・改を放った。
「アダムさん、大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫。だけど、このままだとアデルさんが危ないな」
 アダムの視線の先には多数の還リビトを一人で相手取っているアデルの姿があった。彼と合流するには目の前の還リビトから片付けなければならない。アダムとモカはそれぞれの武器を構えながら敵を見据えた。

 アダムとモカが奮闘している一方、避難してきた人々を守るために他の自由騎士達も奮闘していた。
「皆さん、私の後ろに下がっていてください」
 避難民にそう言ったアンジェリカは、彼らが射程外に避難したことを確認するとオーバーブラストを放った。その衝撃で引きつけから漏れた還リビト三人が地に崩れ落ちた。しかし、その中の一人だけは起き上がって最も近くにいた親子に狙いを定める。自分達が狙われたことに気付いた親子も必死に逃げるが、途中で息子のほうが地面に空いた穴に躓いて倒れてしまった。走っていた母親はすぐに気付いて息子の方に駆け戻るが、もうすでに還リビトの攻撃からは逃げられない距離だった。せめてと息子を抱きしめて庇った母親だったが、還リビトが親子に危害を加える前に還リビトを切り裂く刃があった。
「さあ、今の内にお下がりください。ココは我らイ・ラプセル自由騎士が収めましょう」
 それはオルパのダガーだった。オルパはホークアイによってこの親子の危機に気付いたのである。
 彼の姿を見た母親はサッと表情を変えて息子を連れて逃げるように駆け出してしまった。そこには簡単に埋まらない溝があった。分かっていただろうと独り言つとオルパは再び助けられるものを助けるために駆け出した。

 オルパが還リビトの一人を仕留めた一方で、アンジェリカが開いた道をウェルスとフーリィンが駆け出していた。ウェルスは走りながら愛銃を構える。そして、敵の姿を射程内に収めた瞬間その引き金を躊躇いなく引いた。マズルフラッシュが闇に染まりつつある墓地で鋭く光った。
「大丈夫か? アダムの旦那にモカ嬢!」
「こちらに来た方はみんな安全な場所に避難できました!」
 フーリィンの知らせを聞いてアダムとモカはほんの少しだけ瞳に安堵の色を宿したが、それも一瞬だけだった。
「数が多くてアイドルオーラで何人か引きつけきれず……」
「それは大丈夫だ。アンジェリカ嬢とオルパの旦那が対処してくれたぜ」
 モカが悔しそうに漏らした言葉にウェルスはそう返しながら次の攻撃の準備をする。フーリィンは自然に存在する無形の魔力を癒やしの力に変えながら一足先にアデルの元へと駆けた。
 フーリィンと入れ替わるようにしてアンジェリカ、オルパ、そしてシノピリカが戻ってきた。アンジェリカは走ってきた勢いも乗せて思い切りオーバーブラストを放つ。そして、まとめて弾き飛ばされた敵を狙ってウェルスのライフルが再び火を吹いた。それによってアデルとフーリィンの向かった地点への道を塞いでいた還リビト達が地に崩れ落ちる。その隙にオルパ、モカ、シノピリカ、そしてアダムが一足先にアデル達の元へと急ぐ。そして、一拍置いて武器を持ち直したウェルスとアンジェリカもアデル達の元へ向かった。


 空は赤から黒へ。それはまるで血が酸化する様だった。
 世界が黒に変わってもアデルの目に支障はない。今はそれ以上に敵によって視界が埋まっていることの方が問題であった。墓石を背後にして時に攻撃をいなし、時にオーバーブラストで敵を叩くも相手はかつて前線にいた者達、容易に倒れてはくれない。アデルはすでに体力、気力ともに大幅に消耗していた。さすがにこれ以上は厳しいだろうか、そんな考えが頭をかすめたときアデルの周りに漂う魔力が彼の傷を癒やし始めた。
「お待たせしました、アデルさん!」
 メセグリンでアデルの傷を癒やしながらフーリィンが彼を呼ぶ。アデルはもう一度オーバーブラストを放つと敵の包囲から抜け出し、フーリィンに合流した。
「参拝者は?」
「無傷とはいきませんでしたが、今の所は安全な場所に避難できました」
 フーリィンの言葉によかったと返すのはまだ早い。体勢を立て直した還リビト達はすぐにアデルとフーリィンに狙いを定める。還リビトの攻撃に対しアデルはフーリィンを庇いながらバッシュで迎え撃つ。その近くでフーリィンは彼の回復に努めた。しかし、振り下ろされる刃は徐々にしかし確実にアデルとフーリィンの体力や気力を削っていく。二人の背後、彼らの注意から一瞬逸れた還リビトは手にした石礫を二人に向かって投げようとしていた。そのとき、華やかなオーラと共に派手な音が響いた。それに気を取られた還リビトに舞のように振るわれたレイピアが突き刺さる。それに続いて圧倒的とも言える弾丸の嵐が吹き荒れた。それに巻き込まれないようにアダムとフーリィンはその場から退く。
 暗闇の中に複数の光、オルパやモカ、アダムの持つカンテラの炎が瞬いていた。
「アデルさん、フーリィンさん、大丈夫かい!?」
「よくここまで耐えてくれたのじゃ!」
 腕部蒸気鎧装をガンモードに変形させたアダムと義手を盾代わりにしたシノピリカがアデルに並ぶ。
「さぁ、来いよ。この世に未練を残さないようになぁ! きっちり浄化してやるぜ」
「私も頑張ります!」
 オルパとモカがそれぞれの武器を構えて敵に接近する構えを見せる。
「あとはこの者達を討伐すれば参拝者の方々も安心できますね」
「ああ。それと、この還リビト達もしっかり元の場所に還してやらないとな」
 追いついたアンジェリカとウェルスも各々の武器を構えた。
 フーリィンは再び回復魔法の準備をする。そこに還リビトの一人が迫る。それにいち早く反応したのはオルパだった。
「動けないレディを狙うとは性根まで腐り切ったか?」
 オルパは器用に地面に空いた穴を避けるとすばやくフーリィンと還リビトの間に滑り込み、片手のダガーで敵の刃をいなしてもう片方の手に握られているダガーでカウンターをした。
 また別の方向からも還リビトの攻撃が飛んでくる。
「っと、まだそれなりに動けるようじゃな……ならこれで、どうじゃ!?」
 シノピリカは自身に向かって振り下ろされた刃を自身の義手で受け止めると、そのまま相手にバッシュを叩き込んだ。
「これはオマケだぜ!」
 吹き飛ばされた還リビトにウェルスが止めのウェッジショットを撃ち込む。その背後でアンジェリカに向かって二人の還リビトが斬りかかってきた。
「そろそろあなた方も静かに眠りたいでしょう?」
 彼女はそれをあえて受け止めて最もダメージの入りやすい位置からオーバーブラストを叩き込んだ。
「ここです!」
 間髪入れずモカがオーバーブラストで飛ばされた還リビトの一人に追撃した。
「皆さん、もう少しです!」
 フーリィンは準備をしていたハーベストレインを発動させる。癒やしの力が自由騎士達の傷を癒やす。
 そう、後少し。自由騎士達が傷を負ってきた分、還リビト達も傷を負っている。
「これで終わらせよう」
「ああ」
 アダムとアデルは残りの還リビト達に狙いを定めて持てる力を次の攻撃に注ぎ込む。そして、アダムのバレッジファイアが西側の還リビト達をまとめて撃ち抜き、アデルのオーバーブラストが東側の還リビト達をまとめて吹き飛ばした。


 静まり返った墓地をカンテラの炎が照らす。
 ウェルスは交霊術で遺体の名前を確認していた。確認が取れた遺体から順にアンジェリカやシノピリカ、アダムが避難民にいた墓守の指示の下で埋葬し直していた。
「……あなた達は自由騎士団、イ・ラプセルの民なんですよね」
 不意に墓守がそんな事を溢した。
「そうじゃ」
 墓守の言葉にシノピリカがはっきりと応えた。
「シャンバラを滅ぼした者達が、元シャンバラの民を救うのですか」
 墓守の声に滲むのは決していい感情ではなかった。奪ったものと奪われたもの、先の戦が彼らにそのラベルを貼り付けてしまった。
「そうだとも。民を救うのが騎士の努めだ」
 アダムは一瞬だけ瞳を固く閉じると背筋を伸ばしてそう言った。
「私達は私達にできることをするだけです」
「今やってることもそうだしな」
 アンジェリカとウェルスは普段と変わらない調子で至って冷静にそう返した。彼らの応えを聞いて墓守はそうですかと溢すと、それ以上は何も語らなかった。

 一方、モカやオルパは避難民に怪我の有無を確認していた。そして、重傷者から順にフーリィンが治療を施していく。アデルもその治療を受けていた。
 その最中、オルパに負の視線を向けるものも少なくなかった。その理由をオルパは痛いほど分かっている。
「どうした? 魔女をみるのはそんなに珍しいか?」
 かつてシャンバラにて行われていた魔女狩り。その被害者はヨウセイだった。
 シャンバラの民に染み付いた意識はそう簡単に拭えるものではない。それでも。
「魔女でも血を流すし、魔女でも倒れた者を悼む心は持っているんだ」
 怪我をした人がいれば心配するし、大切なものが傷付けば怒りも悲しみもする。それは変わらないのだ。
 埋まらない溝にその場の空気が重くなる。そんな中で一人の少年が場にそぐわない明るい声を上げた。
「ねえ、お兄ちゃん!」
 オルパの服の裾を引いた少年は彼が母親とともに還リビトから助けた少年だった。止める母親の声も聞かずに少年はオルパを見上げる。
「なんだい?」
「助けてくれてありがとう!」
 少年の言葉に母親の止める声が消えた。オルパは一瞬だけ固まったが、すぐに言葉を返した。
「どういたしまして」

 オルパと少年がそんなやり取りをしている中、怪我人の確認をしていたモカは不意にこんなことを言われた。
「お嬢さんの踊りは不思議な力があるね」
 それは初老の女性の言葉だった。
「そうでしょうか……?」
「私はそう思ったよ。誰かを守ろうとする、そんな踊りだった。私はその踊りを見て私の命をアンタに託そうって思えたよ」
 ここまで来てくれてありがとね、と彼女はそう言って口を閉じた。

 一方では、フーリィンから治療を受けているアデルに感謝を述べる者がいた。それはアデルが墓地に来た時に最初に庇った参拝者だった。
「あのときは本当にもう駄目かと思いました。ですから本当にありがとうございます」
 その人は語る、大切なものを奪った戦争は許せない、けれど今日、自分達を命がけで救ってくれたあなた達はきっと悪い人ではない、と。
「こんなにボロボロになって戦って、敵国の民だった自分達の怪我を治してくれる、そんなあなた達は悪い人には見えない」
 そう言ってその人物は少しだけ笑い損ねたような笑みを浮かべた。


 全ての遺体を埋葬し終えて墓守は言う。
「何が正義で、何が正しいことなのか。私にはわかりません。いつだって世界は勝者のものです。けれど、かつての敵のために戦い祈ってくれるあなた方自由騎士団ひいてはイ・ラプセルが勝者で良かったのかもしれませんね」

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済