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超鋼の角と職人の矜持

●
「なぁ、皆の衆。聞いてくれ」
チュウベエ・モリノミヤは炉で燃え盛る炎を眺めながら、ぷはぁとキセルをふかす。
「今アマノホカリに卸してるモノももちろんいい品だ。わしらが作ったんじゃからな。……だがこれから打つ業物はわしらを救ってくれた恩人への品だ。更に上を目指さん訳にはいくまいよ」
チュウベエの言葉に他の鍛冶職人も一様に頷く。受けた恩は必ず返す──そして返すからには最高の物を用意したい。皆気持ちは同じだった。
「それでな……今こそアレの再現を試みようと思う」
「アレって……あの地紋の刀剣の事ですかい?」
「ああ、そうじゃ。乱れ映りの波紋。……確かにわしらが今打っとる刀剣の波紋は美しい。じゃが今の様式とは一閃を画す、古刀期のそれを復元したい。今以上に武器としての強靭さを持ち合わせるあの時代の刀剣こそが彼らにはふさわしいと思うんじゃ」
「チュウベエさんの言いたいことは分かる。だがそもそもあの製法は失われておるじゃないか」
「そこは心配いらん」
チュウベエが懐から取り出したのは、使い込まれぼろぼろとなった書。そこにはこれまでチュウベエが調べ上げた数々の伝書の内容や試行錯誤の成果がびっしりと書き込まれていた。
「なんと……それなら話は早い。早速取り掛かるとしよう」
「最高の業物を仕上げてやるぜいっ!!」
しかし職人達が威勢よく作業に向かおうとした最中、難しい顔を見せたのはチュベエその人。
「ん? どうしたチュウベエさん」
「製法は確立しとる。しとるんじゃが……必要なものの中にイ・ラプセルでは手に入らんものがあるんじゃ」
「なんだって?!」
「代わりになりそうな物はあるんじゃが……」
「じゃぁそれを使えばいいじゃないか」
「……それを手に入れるには危険が伴う。……最悪命を落とす事になるかもしれん」
チュウベエが厳しい目を皆に向ける。
「……」
俯き黙りこむ職人たち。
だがその静寂はすぐに破られる。
「……一度は失いかけた命じゃねぇか」
「ああ。そうだ。彼らがいなければ今の俺達は無ぇんだ」
「チュウベエさん、やろう!!」
こうして職人達は魔物巣へと向かったのであった。
●
「うわぁああ!! 助けてくれぇぇええーーー!!!」
「ダメだ。囲まれた!!!」
「チュウベエさん、しっかりしてくれ!! アンタが死んだら俺達どうすりゃいいんだ!!」
「ぎゃぁぁぁああああ!!!!」
断末魔が渓谷に響く。
そしてチュウベエたちが村へ戻る事は無かった。
●
「鍛冶職人たちが全滅する。アマノホカリのあの素晴らしい技術が失われてしまう」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)が自由騎士へ告げたのは、以前自らが助けた者達の悲壮な最期だった。
「鍛冶職人たちが向かったのはとある渓谷。スチールゴートという強靭な角を要する魔物の巣だ。彼らはそこで……全滅する」
「一体何故わざわざそんなところへ……」
「詳しくはわからなかった。……だけど彼らがアタシらのために何かを成そうとした事だけは確かなんだ」
「私達のために……?」
「ああ。一度救った命がまたも失われるなんて見たくねぇよな。今ならまだ間に合う」
テンカイが自由騎士達を強く見つめる。
「……行こう」
自由騎士達は急ぎ行動する。失われゆく命を唯の一つも取りこぼさぬがために。
「なぁ、皆の衆。聞いてくれ」
チュウベエ・モリノミヤは炉で燃え盛る炎を眺めながら、ぷはぁとキセルをふかす。
「今アマノホカリに卸してるモノももちろんいい品だ。わしらが作ったんじゃからな。……だがこれから打つ業物はわしらを救ってくれた恩人への品だ。更に上を目指さん訳にはいくまいよ」
チュウベエの言葉に他の鍛冶職人も一様に頷く。受けた恩は必ず返す──そして返すからには最高の物を用意したい。皆気持ちは同じだった。
「それでな……今こそアレの再現を試みようと思う」
「アレって……あの地紋の刀剣の事ですかい?」
「ああ、そうじゃ。乱れ映りの波紋。……確かにわしらが今打っとる刀剣の波紋は美しい。じゃが今の様式とは一閃を画す、古刀期のそれを復元したい。今以上に武器としての強靭さを持ち合わせるあの時代の刀剣こそが彼らにはふさわしいと思うんじゃ」
「チュウベエさんの言いたいことは分かる。だがそもそもあの製法は失われておるじゃないか」
「そこは心配いらん」
チュウベエが懐から取り出したのは、使い込まれぼろぼろとなった書。そこにはこれまでチュウベエが調べ上げた数々の伝書の内容や試行錯誤の成果がびっしりと書き込まれていた。
「なんと……それなら話は早い。早速取り掛かるとしよう」
「最高の業物を仕上げてやるぜいっ!!」
しかし職人達が威勢よく作業に向かおうとした最中、難しい顔を見せたのはチュベエその人。
「ん? どうしたチュウベエさん」
「製法は確立しとる。しとるんじゃが……必要なものの中にイ・ラプセルでは手に入らんものがあるんじゃ」
「なんだって?!」
「代わりになりそうな物はあるんじゃが……」
「じゃぁそれを使えばいいじゃないか」
「……それを手に入れるには危険が伴う。……最悪命を落とす事になるかもしれん」
チュウベエが厳しい目を皆に向ける。
「……」
俯き黙りこむ職人たち。
だがその静寂はすぐに破られる。
「……一度は失いかけた命じゃねぇか」
「ああ。そうだ。彼らがいなければ今の俺達は無ぇんだ」
「チュウベエさん、やろう!!」
こうして職人達は魔物巣へと向かったのであった。
●
「うわぁああ!! 助けてくれぇぇええーーー!!!」
「ダメだ。囲まれた!!!」
「チュウベエさん、しっかりしてくれ!! アンタが死んだら俺達どうすりゃいいんだ!!」
「ぎゃぁぁぁああああ!!!!」
断末魔が渓谷に響く。
そしてチュウベエたちが村へ戻る事は無かった。
●
「鍛冶職人たちが全滅する。アマノホカリのあの素晴らしい技術が失われてしまう」
『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)が自由騎士へ告げたのは、以前自らが助けた者達の悲壮な最期だった。
「鍛冶職人たちが向かったのはとある渓谷。スチールゴートという強靭な角を要する魔物の巣だ。彼らはそこで……全滅する」
「一体何故わざわざそんなところへ……」
「詳しくはわからなかった。……だけど彼らがアタシらのために何かを成そうとした事だけは確かなんだ」
「私達のために……?」
「ああ。一度救った命がまたも失われるなんて見たくねぇよな。今ならまだ間に合う」
テンカイが自由騎士達を強く見つめる。
「……行こう」
自由騎士達は急ぎ行動する。失われゆく命を唯の一つも取りこぼさぬがために。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スチールゴートの討伐
2.職人達の生存
2.職人達の生存
ご無沙汰しておりました麺です。
あれよあれよで季節は巡り、気付けば辺りは冬模様。
インンンンンンンンンフルエンザの脅威に怯えながら今日も一日を過ごしておりますです。はい。
以前自由騎士の手によって救われ、新たな武器を卸す事を約束してくれた村の職人達が命の危機に晒されています。これを救助していただければと思います。
●ロケーション
むき出しの岩と背の低い草木がところどころに茂るとある渓谷。深夜。月明かりはありますが全体的に薄暗く、傾斜もきついため、何かしらの対応をする事が望ましいです。
職人達は少しでも成功率を上げようと魔物の寝込みを狙うためにこの時間を選びましたが、逆に眠りを妨げられた魔物は激高し、返り討ちにあってしまいました。
魔物達は殺意をむき出しにしながら、逃げ惑うチュウベエたちを追い詰め、止めを刺さんと襲い掛かろうとしています。ここに割って入る形で自由騎士は辿りつきます。ぎりぎりでたどり着くため事前付与等は出来ません。
●登場人物&敵
・チュウベエ・モリノミヤ 78歳
鍛冶職人の頭領。命を救われた恩義を人一倍感じており、最高の業物を作るために行動した。スチールゴ-トの鋭い角で体を貫かれ瀕死の状態です。処置しなければ3分(18ターン)で絶命します。
・男衆 15人
チュウベエと同じ鍛冶職人たちです。刀や鍬、鎌などを持って交戦中ですが、チュウベエほどではないものの皆軽傷を負っています。戦力としては4,5人で魔物一匹をなんとか抑えられる程度です。
・スチールゴート 10匹
イブリース化により超鋼で鋭い6本の角を生やしたヤギの魔物。その角は自らの意思で動かす事が出来、強固さと柔軟さを併せ持つ。
ホーンアタック 攻近単 角で前面を装甲し、体当たりを仕掛けてきます。【ノックバック】
ホーンプリック 攻近貫2 角をまっすぐ前に伸ばし、敵を串刺しにします。
雄叫び 自 自身の攻撃と防御を大幅にアップさせます。効果12ターン。近距離に攻撃する敵がいない場合にのみ使用します。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ回復サポートを行います。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。
あれよあれよで季節は巡り、気付けば辺りは冬模様。
インンンンンンンンンフルエンザの脅威に怯えながら今日も一日を過ごしておりますです。はい。
以前自由騎士の手によって救われ、新たな武器を卸す事を約束してくれた村の職人達が命の危機に晒されています。これを救助していただければと思います。
●ロケーション
むき出しの岩と背の低い草木がところどころに茂るとある渓谷。深夜。月明かりはありますが全体的に薄暗く、傾斜もきついため、何かしらの対応をする事が望ましいです。
職人達は少しでも成功率を上げようと魔物の寝込みを狙うためにこの時間を選びましたが、逆に眠りを妨げられた魔物は激高し、返り討ちにあってしまいました。
魔物達は殺意をむき出しにしながら、逃げ惑うチュウベエたちを追い詰め、止めを刺さんと襲い掛かろうとしています。ここに割って入る形で自由騎士は辿りつきます。ぎりぎりでたどり着くため事前付与等は出来ません。
●登場人物&敵
・チュウベエ・モリノミヤ 78歳
鍛冶職人の頭領。命を救われた恩義を人一倍感じており、最高の業物を作るために行動した。スチールゴ-トの鋭い角で体を貫かれ瀕死の状態です。処置しなければ3分(18ターン)で絶命します。
・男衆 15人
チュウベエと同じ鍛冶職人たちです。刀や鍬、鎌などを持って交戦中ですが、チュウベエほどではないものの皆軽傷を負っています。戦力としては4,5人で魔物一匹をなんとか抑えられる程度です。
・スチールゴート 10匹
イブリース化により超鋼で鋭い6本の角を生やしたヤギの魔物。その角は自らの意思で動かす事が出来、強固さと柔軟さを併せ持つ。
ホーンアタック 攻近単 角で前面を装甲し、体当たりを仕掛けてきます。【ノックバック】
ホーンプリック 攻近貫2 角をまっすぐ前に伸ばし、敵を串刺しにします。
雄叫び 自 自身の攻撃と防御を大幅にアップさせます。効果12ターン。近距離に攻撃する敵がいない場合にのみ使用します。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示が無ければ回復サポートを行います。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年12月18日
2019年12月18日
†メイン参加者 6人†
●
もうダメだっ!! やられるっ──
目の前に迫る巨大な角の魔物。
男たちが死を覚悟したその時だった。
「間に合った! ハァァーーーーーーーー!!!!!!」
勇ましい声と共に『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が間に割って入る。
「やらせないよっ!!」
(職人さん達はカノン達の為に何かをしようとしてくれてたんだよね……そんな人たちを見捨てたら女がすたるよ! きっと救い出してみせるんだから!)
男たちににこりと笑顔を見せた後、魔物達をにらみつけるのは『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)。
(職人としての矜持か。しかしそれで命を落としても遺した物が無ければ笑い話にもならんよ)
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は誰に言うわけでもなく呟く。そこには若干の落胆。だが心意気がわからない訳ではなかった。
「うふふ、お久しゅうございます皆々様。積もる話もありましょうが……まずはうちの舞を見ていただきましょか」
妖艶に微笑む『艶師』蔡 狼華(CL3000451)の奏でる音階が魔物の心を乱す。
「今だ! 吹き荒れろ! 神嵐!!」
カノンの高速の回転蹴りが暴風と共に魔物達を巻き込んでいく。
「うわっと! 危ねぇっ!?」
そこへ羽ばたき機で空から着地してきたウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。カノンの蹴りの風圧に危うく巻き込まれかけたが無事だ。
「ったく……かわいいヤギちゃん以外はお断りなんだがな……」
文句を言いながらもにやりと笑うと一息。
「せいぜい引き付けてやるぜ!!」
みるみるウェルスの体が巨大な熊へと変化していく。
「グォオァァァァァー!!!!」
その大いなる咆哮は渓谷中に響き渡り、魔物達の注意を引き付ける。
「いくわよ!」
カノンの先制、ウェルスの咆哮の隙に柳凪で自己強化したエルシー。
数多くの魔物を眼前に一歩も引かず、唸る拳を振り上げ、魔物達と対峙する。程よく使い込まれた籠手は手になじみ、エルシーに更なる力を与えているようだった。
「ご自慢のその角、私の拳で叩き折ってあげるわよ!」
呼吸を整えエルシーがリズムを口ずさむ。
(タン……タタタン……タタタ……)
刻まれたリズムは魔物達への殺戮の輪舞。エルシーは流れるような攻撃を魔物へへ叩き込んでいく。
「……」
リズムに乗せ踊るように拳をふるうエルシー。その場にいた職人たちは言葉もなく目を奪われる。ただ、それを美しいと感じていた。
「おっと、呆けてる暇はないぜ」
獣化を解いたウェルスが男たちへ話しかける。
「見た顔もいると思うが俺たちは自由騎士。助けに来たぜ」
そういいながらニカッと笑うウェルス。
「た、助かった。いた、それよりもチュウベェさんが……俺の身代わりに……助けてくれっ!!」
チュウベェが庇った男がウェルスに詰め寄った瞬間ひと際大きな衝撃が走った。
「我、迫りし混沌より全てを護る盾──守護白陣!!」
『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)が放った結界はチュウベェにとどめを刺さんと突進してきた魔物を吹き飛ばす。
「もう大丈夫です。チュウベェ様は私が」
リンネはチュウベェを担ぎ上げる。
「ここでは治療に集中できません。少し魔物と距離を取ります。……心配しないでください。チュウベェ様は私が必ず治します」
常日頃より自己を高めるための戦いを望んでいるリンネ。だがしかしその本質は癒し。治す事においても戦いに勝るとも劣らず積み上げてきた。回復スキルにとどまらず医学知識も蓄え、有事に備えた応急手当セットを常に持ち歩く。そこには強い信念があるのだ。
リンネの強く美しい瞳に男たちは全てを感じ取る。チュウベェを抱えるリンネを何も言わずに後方へと送り出した。
「ワタシも手伝いますぞ」
ジローもリンネを追いかける。
「よし、とりあえずは問題は一つクリアだぜ。あとは……」
ウェルスは辺りを見渡す。
「さぁ、前衛通させはしまへん。うちの舞はたとえ獣だろうと心も惑わしますえ」
狼華が靴をけたたましく鳴らしながら舞う。
(取り敢えずは後衛に流れ込ませずチュウベイはんを治癒する時間を稼がないけまへん……得意な戦法やあらへんけど、たまにはこういうのもええやろ。いくらでもご披露しますえ)
ツイスタータップ──物理的ダメージこそないが敵を惑わし、不運を呼び込む魅惑の音階を生み出す。狼華の優れた平衡感覚は渓谷の足場の悪さをものともせずにリズムを刻んでいく。
「こちらに来てもらっては困るのだ」
テオドールは抜群のバランス感覚で岩場に上ると無詠唱でトロメーアを展開する。本来詠唱にかかる時間もテオドールには独自に得た詠唱短縮技術がそれを無にしている。そうして瞬時に発展したスキルは戦場全体を覆いこみ、魔物達にダメージ共に鈍い痺れを引き起こす。
(私は己が役目をブレさせる事はない。今行うべきは決まっている。ただ一心に味方の援護を行う事だ)
テオドールには不退転の決意があった。自身が援護を完ぺきにこなせばそれで事は成る。それは仲間に絶大な信頼を寄せている証拠でもあった。
「くっ!? やってくれたわね、この硬質毛むくじゃら共!」
1対1であればまず後れを取らないであろうエルシーも複数の敵を同時に相手では、全てをいなすのは至難の業だった。かわし切れずその身に受けた突進によって吹き飛ばされたのだ。
(焦りは禁物。どんな状況にも活路はあるはずよ)
どんな環境であろうとも──その環境をも味方にし、利用して戦えてこそ真の実践格闘。エルシーは常々そう考える。
(そうよ、この滑りやすく不安定な傾斜だって……色々な角度から攻撃できるって事じゃない──!)
「格闘家にはプラスにしかならないわよ!!」
実際はもちろんそうとばかりはいかない。だが状況を悲観して戦うものと、全てを好機と捉える者とで同じ結果になるだろうか。否。思いは確かに力になるのだ。
「ハァァーーー!! 鉄山靠!!」
エルシーの拳が勢いを増す。数ではまだ劣勢。だがその表情は笑っているように見えた。
(やはり数の差は埋めきれない……か)
周囲を見渡し、状況を把握したウェルス。やはり手伝ってもらう必要があると感じたウェルス。
「あとは──」
「あとはみんなにもお願いがあるよっ!!」
ウェルスの言葉に前方で魔物と交戦するカノンが続ける。その蹴りは身に着けたマスクの効果により異様なまでに柔軟でしなやか。放つ蹴りは鞭が如くしなり、敵へ絡みつくように重く鋭いダメージを与えていた。
「とと、そうだ。敵は数が多い。旦那達にも手伝ってもらうぜ。動ける奴は一緒に食い止めてくれ」
その言葉に男たちに動揺が走る。
「そんなこと言っても俺らの装備じゃ……」
「相手にならないんだ……」
無理もない反応だった。自由騎士が来る前にも抵抗はしていた。が、相手にならず追い詰められ、さらにはチュウベェが瀕死の重傷を負ってしまった。躊躇するのも当然だ。だがそんな重い空気を一人の少女が吹き飛ばす。
「勝利したら皆のほっぺにちゅーしてあげるよ!」
その少女は笑顔でそういった。少女自体すでに魔物を相手に戦い、体のあちこちを負傷していた。それでも笑顔を絶やさず語り掛ける。
「うぐぁっ!?」
魔物の突進を受け、少女男たちの元まで吹き飛んできた。
そんな少女に手も貸せず黙ってみている男たち。
吹き飛ばされた少女は立ち上げり、男たちに微笑みかける。
「だから、がんばろ!」
そういってまた魔物へと立ち向かう微笑みを絶やさない少女。
その少女の笑顔は──男たちの心に深く、強く、大きく響いた。
「……自由騎士とはいえこんな小さな子さえ戦ってるんだ」
「俺たち大人がそれを黙ってみてるのか」
男たちがもう一度自身の武器を強く握る。
まだ戦える。俺たちはまだやれる。
「「「う……うぉぉおおおおぉぉぉおおおお!!!!」」」
雄たけびを上げる男たち。
「どうすればいい? 俺たちは何をすればいい?」
男がウェルスに尋ねる。
「一人ずつ戦ったらだめだ、複数で相手してくれ!!」
ウェルスが男たちに指示する。
「わかった。たとえ倒せはしなくとも……食い止めて見せる」
こうして守られるだけだった男たちは立ち上がる。
数の劣勢も解消し、戦況は変わりつつあった。
●
「大丈夫ですか、チュウベェ様」
戦場より少し離れた場所。リンネは担いできたチュベェを下ろし、手当てを続けていた。
(思っていたより傷が深い。もしもに備えより効果的に回復スキルを使えるよう勉学を続けた甲斐がありました)
スキルによる回復にも時間もかかり、限度もある。それを補うようにリンネはその知識をフル活用して持参した応急セットで手際よく止血を行っていた。
(血さえ止まってくれればあとは時間が解決してくれるはずです)
「……ゴフッ!」
祈るように治療を続けるリンネ。その時意識を失っていたチュウベェが目を覚ます。
「お、おお……ゴフッ。ここ……は……ゲフッ」
「しゃべってはだめです。まだ傷が完全にはふさがっていません」
「おお……みな……は……ぶじゲフッ」
「大丈夫です。ですから今は暗線にしていてください。ほかの皆さんも無事です。今仲間の自由騎士たちが戦っています」
「そ……う……か……」
仲間の無事。その言葉に安心したのかチュウベェはまた気を失ったようだった。
呼吸も安定している。
「ここまで回復すれば……もう大丈夫ですね」
リンネはチュウベェを岩陰に隠し、少し安堵の表情を見せると振り返る。
「さて、それでは戻るとしましょうか」
一呼吸のあと、リンネの姿はすでにそこにはなかった。
●
回復の要であるリンネが離脱し、チュウベェの治療に専念している以上、相手から受けるダメージは最小限に抑えなければならない。必然的に防御回避優先の戦い方になる。だが防御をも貫く角の攻撃に自由騎士たちはダメージを蓄積しつつあった。
「さぁてここからが踏ん張りどころだな」
「そうですえ。リンネはんが戻るまでこの戦線維持しなければあきまへんえ」
テオドールがケイオスゲートで魔物達に超重力を与え、動きの鈍った魔物達へ狼華が舞を披露する。
「私もとっておきを披露するわ」
エルシーが構える。構える。構え……る? そのぽおーずは凡そ戦闘のそれとは思えないもの。
(い、いくわよ……。弾けろ! 私の魅力!)
「緋色の誘惑(スカーレットテンプテーション)---っっ!!!」
エルシーの魅力のすべてが形となって魔物へ降り注ぐ。その魔物は後方におり、ここまで戦闘に参加させず、雄たけび続けていた個体。
(これで視線は釘付け。私からは目が離せない……え? 怒ってる?)
そう。エルシーの魅力ビーム(仮)は相手をメロメロにするのでなく、プンプンにするのだ。
「キュオオオォォォオオオ!!!!」
ここにエルシーだけを執拗に追いかける超強化された魔物(♂)が爆誕した。壮絶な鬼ごっこの末なんとか倒した。エルシーはとてつもなく疲労し、かける相手は慎重に選ぼうと心に決めた。
──間に合いましたね。
そこへチュウベェの治療を行っていたリンネが戦場へ戻り、皆を回復する。
「戻ったんだね!」
「助かるわ!」
リンネの癒しは皆の戦闘で傷ついた体を暖かく包み込む。
「頃合いか。いっきにいくぜ!!」
ウェルスがとっておきの弾頭を銃にセットする。
「くらいやがれっ!!」
空高く打ち上げられた弾頭は、爆発後無数の鉄矢となり、魔物達に襲い掛かる。
キュオオオオーーーーーーン
矢の雨を受けた魔物達の叫びがこだまする。
「特製圧縮矢弾・範囲型。その威力思い知ったか。だがこれで終わりじゃないぜ!」
言葉も言い終わらぬうちにウェルスは更なる追撃に入る。
「うぉぉぉおおお!!」
ウェルスが放つは遮熱の弾丸群。圧倒的な連射が魔物達を襲う。
そこへエルシーの燃える鉄拳が、カノンの鞭のようにしなる脚撃が、テオドールの与えた痛みが、そして。
「今回は回復にかかりきりで出番はないかと思っていたのですが……」
リンエが少し嬉しそうに拳握り構える。
「これで決めます。ハァーーー!!」
リンネの両足が大地をつかみ、体内で圧縮され練り上げられた気がその拳から放たれる。
こうしてスティールゴートの群れは全て崩れ落ちたのであった。
「……ちょっと待ってくれ! 浄化はまだだ。角を回収してからだぜ」
ウェルスは浄化を解くと角の形状と特性も変わってしまうことを皆に伝える。
寸前で思い出したのは商人としての日頃から集め蓄積した生きた情報だった。
●
戦闘後。カノンのほっぺにちゅーの嵐がひととおり吹き荒れた後。
「全く、なしてこないな所に来られはったん? あんまり危ないことされるとはらはらしますわ」
狼華は男たちに改めて理由を聞いた。すると男たちはそれぞれに理由を話し始めたのだった。
「うわー、見てみたいなー。でもカノン達の為に何かあったら悲しいもん。無茶はしないでね」
カノンは本当に泣きそうな表情になる。
「うちらは確かに刀を卸して欲しいと願いましたけども、それで命を落とされたらこちらは気が重なります。それを理解されますやろか?」
そうですよ、とリンネが続ける。
「いいですか? 餅は餅屋。今後も何か必要な素材があるなら遠慮なく頼ってください。もしお代や恩義が気になると言うのなら、最高の出来の武器を作ってくれれば良い故──」
リンネの少々長めのお説教。皆正座。男たちはしゅんとしながらもリンネの説教を聞いていた。
「──という事です。わかりましたか。まぁ……結構楽しみにしてます故」
いうべき事は言うがフォローも欠かさないリンネは間違いなくいい女に写ったことだろう。
「死ぬ気で困難に立ち向かうのは結構だが……いや、礼を言うべきだな。ありがとう。その心意気と矜持に素直に称賛と感謝を伝えたい」
テオドールは少々複雑な表情を見せたものの、男たちへの賛辞で締めくくった。
「まぁそのへんにしとこうぜ。皆無事だったんだ。手に入れたかったものも手に入れたしな」
ウェルスが魔物から採取した角が入った袋をみなに見せる。
「あぁ、そうだな。あとは任せるとしよう。この角を有益に使っていただきたい。それにもし他に必要なものがある場合は、私達にもそうd産してもらいたい。我が国は新たな領土も手に入れている。これまでは手に入らなかったものが今後手に入るようになる可能性もあるのだ」
「そうですえ。危ないことは自由騎士にいいなはれ。この角があれば、良い刀が出来はるんですね? チュウベイはん、早う良くなってうちの為にええ刀打って下さいまし」
自由騎士たちの言葉に男衆に肩を借りながらチュウベェが歩み寄る。
「あぁ、その時は頼むとしよう。角についてはもちろんじゃ。わしらの誇りにかけて」
一時は瀕死の状態だったチュウベェもリンネの適切な処置により一命をとりとめた。もちろんしばらくは安静が必要だが、きっとすぐに作業をしてしまうのだろう。彼の職人魂に火がついているのは明らかだった。
(それで、どんな刀を作ってくださいますの? 美しさと強さを兼ね備えた最高のもの、期待してます)
すれ違いざまチュウベェの耳元で狼華が囁く。チュウベェは何も言わずただ強いまなざしを返したのであった。
「じゃぁ帰りましょう。あ、それとも集落まで送っていきましょうか?」
エルシーが聞くとチュウベェはふるふると首を振った。
「大丈夫じゃ。……本当に助かった。感謝している」
男たちは改めて頭を下げると集落へと帰っていった。
「さて俺たちも帰るか」
「ええ」
そういって帰路につく自由騎士を月明かりはやさしく照らしていた。
もうダメだっ!! やられるっ──
目の前に迫る巨大な角の魔物。
男たちが死を覚悟したその時だった。
「間に合った! ハァァーーーーーーーー!!!!!!」
勇ましい声と共に『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が間に割って入る。
「やらせないよっ!!」
(職人さん達はカノン達の為に何かをしようとしてくれてたんだよね……そんな人たちを見捨てたら女がすたるよ! きっと救い出してみせるんだから!)
男たちににこりと笑顔を見せた後、魔物達をにらみつけるのは『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)。
(職人としての矜持か。しかしそれで命を落としても遺した物が無ければ笑い話にもならんよ)
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は誰に言うわけでもなく呟く。そこには若干の落胆。だが心意気がわからない訳ではなかった。
「うふふ、お久しゅうございます皆々様。積もる話もありましょうが……まずはうちの舞を見ていただきましょか」
妖艶に微笑む『艶師』蔡 狼華(CL3000451)の奏でる音階が魔物の心を乱す。
「今だ! 吹き荒れろ! 神嵐!!」
カノンの高速の回転蹴りが暴風と共に魔物達を巻き込んでいく。
「うわっと! 危ねぇっ!?」
そこへ羽ばたき機で空から着地してきたウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。カノンの蹴りの風圧に危うく巻き込まれかけたが無事だ。
「ったく……かわいいヤギちゃん以外はお断りなんだがな……」
文句を言いながらもにやりと笑うと一息。
「せいぜい引き付けてやるぜ!!」
みるみるウェルスの体が巨大な熊へと変化していく。
「グォオァァァァァー!!!!」
その大いなる咆哮は渓谷中に響き渡り、魔物達の注意を引き付ける。
「いくわよ!」
カノンの先制、ウェルスの咆哮の隙に柳凪で自己強化したエルシー。
数多くの魔物を眼前に一歩も引かず、唸る拳を振り上げ、魔物達と対峙する。程よく使い込まれた籠手は手になじみ、エルシーに更なる力を与えているようだった。
「ご自慢のその角、私の拳で叩き折ってあげるわよ!」
呼吸を整えエルシーがリズムを口ずさむ。
(タン……タタタン……タタタ……)
刻まれたリズムは魔物達への殺戮の輪舞。エルシーは流れるような攻撃を魔物へへ叩き込んでいく。
「……」
リズムに乗せ踊るように拳をふるうエルシー。その場にいた職人たちは言葉もなく目を奪われる。ただ、それを美しいと感じていた。
「おっと、呆けてる暇はないぜ」
獣化を解いたウェルスが男たちへ話しかける。
「見た顔もいると思うが俺たちは自由騎士。助けに来たぜ」
そういいながらニカッと笑うウェルス。
「た、助かった。いた、それよりもチュウベェさんが……俺の身代わりに……助けてくれっ!!」
チュウベェが庇った男がウェルスに詰め寄った瞬間ひと際大きな衝撃が走った。
「我、迫りし混沌より全てを護る盾──守護白陣!!」
『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)が放った結界はチュウベェにとどめを刺さんと突進してきた魔物を吹き飛ばす。
「もう大丈夫です。チュウベェ様は私が」
リンネはチュウベェを担ぎ上げる。
「ここでは治療に集中できません。少し魔物と距離を取ります。……心配しないでください。チュウベェ様は私が必ず治します」
常日頃より自己を高めるための戦いを望んでいるリンネ。だがしかしその本質は癒し。治す事においても戦いに勝るとも劣らず積み上げてきた。回復スキルにとどまらず医学知識も蓄え、有事に備えた応急手当セットを常に持ち歩く。そこには強い信念があるのだ。
リンネの強く美しい瞳に男たちは全てを感じ取る。チュウベェを抱えるリンネを何も言わずに後方へと送り出した。
「ワタシも手伝いますぞ」
ジローもリンネを追いかける。
「よし、とりあえずは問題は一つクリアだぜ。あとは……」
ウェルスは辺りを見渡す。
「さぁ、前衛通させはしまへん。うちの舞はたとえ獣だろうと心も惑わしますえ」
狼華が靴をけたたましく鳴らしながら舞う。
(取り敢えずは後衛に流れ込ませずチュウベイはんを治癒する時間を稼がないけまへん……得意な戦法やあらへんけど、たまにはこういうのもええやろ。いくらでもご披露しますえ)
ツイスタータップ──物理的ダメージこそないが敵を惑わし、不運を呼び込む魅惑の音階を生み出す。狼華の優れた平衡感覚は渓谷の足場の悪さをものともせずにリズムを刻んでいく。
「こちらに来てもらっては困るのだ」
テオドールは抜群のバランス感覚で岩場に上ると無詠唱でトロメーアを展開する。本来詠唱にかかる時間もテオドールには独自に得た詠唱短縮技術がそれを無にしている。そうして瞬時に発展したスキルは戦場全体を覆いこみ、魔物達にダメージ共に鈍い痺れを引き起こす。
(私は己が役目をブレさせる事はない。今行うべきは決まっている。ただ一心に味方の援護を行う事だ)
テオドールには不退転の決意があった。自身が援護を完ぺきにこなせばそれで事は成る。それは仲間に絶大な信頼を寄せている証拠でもあった。
「くっ!? やってくれたわね、この硬質毛むくじゃら共!」
1対1であればまず後れを取らないであろうエルシーも複数の敵を同時に相手では、全てをいなすのは至難の業だった。かわし切れずその身に受けた突進によって吹き飛ばされたのだ。
(焦りは禁物。どんな状況にも活路はあるはずよ)
どんな環境であろうとも──その環境をも味方にし、利用して戦えてこそ真の実践格闘。エルシーは常々そう考える。
(そうよ、この滑りやすく不安定な傾斜だって……色々な角度から攻撃できるって事じゃない──!)
「格闘家にはプラスにしかならないわよ!!」
実際はもちろんそうとばかりはいかない。だが状況を悲観して戦うものと、全てを好機と捉える者とで同じ結果になるだろうか。否。思いは確かに力になるのだ。
「ハァァーーー!! 鉄山靠!!」
エルシーの拳が勢いを増す。数ではまだ劣勢。だがその表情は笑っているように見えた。
(やはり数の差は埋めきれない……か)
周囲を見渡し、状況を把握したウェルス。やはり手伝ってもらう必要があると感じたウェルス。
「あとは──」
「あとはみんなにもお願いがあるよっ!!」
ウェルスの言葉に前方で魔物と交戦するカノンが続ける。その蹴りは身に着けたマスクの効果により異様なまでに柔軟でしなやか。放つ蹴りは鞭が如くしなり、敵へ絡みつくように重く鋭いダメージを与えていた。
「とと、そうだ。敵は数が多い。旦那達にも手伝ってもらうぜ。動ける奴は一緒に食い止めてくれ」
その言葉に男たちに動揺が走る。
「そんなこと言っても俺らの装備じゃ……」
「相手にならないんだ……」
無理もない反応だった。自由騎士が来る前にも抵抗はしていた。が、相手にならず追い詰められ、さらにはチュウベェが瀕死の重傷を負ってしまった。躊躇するのも当然だ。だがそんな重い空気を一人の少女が吹き飛ばす。
「勝利したら皆のほっぺにちゅーしてあげるよ!」
その少女は笑顔でそういった。少女自体すでに魔物を相手に戦い、体のあちこちを負傷していた。それでも笑顔を絶やさず語り掛ける。
「うぐぁっ!?」
魔物の突進を受け、少女男たちの元まで吹き飛んできた。
そんな少女に手も貸せず黙ってみている男たち。
吹き飛ばされた少女は立ち上げり、男たちに微笑みかける。
「だから、がんばろ!」
そういってまた魔物へと立ち向かう微笑みを絶やさない少女。
その少女の笑顔は──男たちの心に深く、強く、大きく響いた。
「……自由騎士とはいえこんな小さな子さえ戦ってるんだ」
「俺たち大人がそれを黙ってみてるのか」
男たちがもう一度自身の武器を強く握る。
まだ戦える。俺たちはまだやれる。
「「「う……うぉぉおおおおぉぉぉおおおお!!!!」」」
雄たけびを上げる男たち。
「どうすればいい? 俺たちは何をすればいい?」
男がウェルスに尋ねる。
「一人ずつ戦ったらだめだ、複数で相手してくれ!!」
ウェルスが男たちに指示する。
「わかった。たとえ倒せはしなくとも……食い止めて見せる」
こうして守られるだけだった男たちは立ち上がる。
数の劣勢も解消し、戦況は変わりつつあった。
●
「大丈夫ですか、チュウベェ様」
戦場より少し離れた場所。リンネは担いできたチュベェを下ろし、手当てを続けていた。
(思っていたより傷が深い。もしもに備えより効果的に回復スキルを使えるよう勉学を続けた甲斐がありました)
スキルによる回復にも時間もかかり、限度もある。それを補うようにリンネはその知識をフル活用して持参した応急セットで手際よく止血を行っていた。
(血さえ止まってくれればあとは時間が解決してくれるはずです)
「……ゴフッ!」
祈るように治療を続けるリンネ。その時意識を失っていたチュウベェが目を覚ます。
「お、おお……ゴフッ。ここ……は……ゲフッ」
「しゃべってはだめです。まだ傷が完全にはふさがっていません」
「おお……みな……は……ぶじゲフッ」
「大丈夫です。ですから今は暗線にしていてください。ほかの皆さんも無事です。今仲間の自由騎士たちが戦っています」
「そ……う……か……」
仲間の無事。その言葉に安心したのかチュウベェはまた気を失ったようだった。
呼吸も安定している。
「ここまで回復すれば……もう大丈夫ですね」
リンネはチュウベェを岩陰に隠し、少し安堵の表情を見せると振り返る。
「さて、それでは戻るとしましょうか」
一呼吸のあと、リンネの姿はすでにそこにはなかった。
●
回復の要であるリンネが離脱し、チュウベェの治療に専念している以上、相手から受けるダメージは最小限に抑えなければならない。必然的に防御回避優先の戦い方になる。だが防御をも貫く角の攻撃に自由騎士たちはダメージを蓄積しつつあった。
「さぁてここからが踏ん張りどころだな」
「そうですえ。リンネはんが戻るまでこの戦線維持しなければあきまへんえ」
テオドールがケイオスゲートで魔物達に超重力を与え、動きの鈍った魔物達へ狼華が舞を披露する。
「私もとっておきを披露するわ」
エルシーが構える。構える。構え……る? そのぽおーずは凡そ戦闘のそれとは思えないもの。
(い、いくわよ……。弾けろ! 私の魅力!)
「緋色の誘惑(スカーレットテンプテーション)---っっ!!!」
エルシーの魅力のすべてが形となって魔物へ降り注ぐ。その魔物は後方におり、ここまで戦闘に参加させず、雄たけび続けていた個体。
(これで視線は釘付け。私からは目が離せない……え? 怒ってる?)
そう。エルシーの魅力ビーム(仮)は相手をメロメロにするのでなく、プンプンにするのだ。
「キュオオオォォォオオオ!!!!」
ここにエルシーだけを執拗に追いかける超強化された魔物(♂)が爆誕した。壮絶な鬼ごっこの末なんとか倒した。エルシーはとてつもなく疲労し、かける相手は慎重に選ぼうと心に決めた。
──間に合いましたね。
そこへチュウベェの治療を行っていたリンネが戦場へ戻り、皆を回復する。
「戻ったんだね!」
「助かるわ!」
リンネの癒しは皆の戦闘で傷ついた体を暖かく包み込む。
「頃合いか。いっきにいくぜ!!」
ウェルスがとっておきの弾頭を銃にセットする。
「くらいやがれっ!!」
空高く打ち上げられた弾頭は、爆発後無数の鉄矢となり、魔物達に襲い掛かる。
キュオオオオーーーーーーン
矢の雨を受けた魔物達の叫びがこだまする。
「特製圧縮矢弾・範囲型。その威力思い知ったか。だがこれで終わりじゃないぜ!」
言葉も言い終わらぬうちにウェルスは更なる追撃に入る。
「うぉぉぉおおお!!」
ウェルスが放つは遮熱の弾丸群。圧倒的な連射が魔物達を襲う。
そこへエルシーの燃える鉄拳が、カノンの鞭のようにしなる脚撃が、テオドールの与えた痛みが、そして。
「今回は回復にかかりきりで出番はないかと思っていたのですが……」
リンエが少し嬉しそうに拳握り構える。
「これで決めます。ハァーーー!!」
リンネの両足が大地をつかみ、体内で圧縮され練り上げられた気がその拳から放たれる。
こうしてスティールゴートの群れは全て崩れ落ちたのであった。
「……ちょっと待ってくれ! 浄化はまだだ。角を回収してからだぜ」
ウェルスは浄化を解くと角の形状と特性も変わってしまうことを皆に伝える。
寸前で思い出したのは商人としての日頃から集め蓄積した生きた情報だった。
●
戦闘後。カノンのほっぺにちゅーの嵐がひととおり吹き荒れた後。
「全く、なしてこないな所に来られはったん? あんまり危ないことされるとはらはらしますわ」
狼華は男たちに改めて理由を聞いた。すると男たちはそれぞれに理由を話し始めたのだった。
「うわー、見てみたいなー。でもカノン達の為に何かあったら悲しいもん。無茶はしないでね」
カノンは本当に泣きそうな表情になる。
「うちらは確かに刀を卸して欲しいと願いましたけども、それで命を落とされたらこちらは気が重なります。それを理解されますやろか?」
そうですよ、とリンネが続ける。
「いいですか? 餅は餅屋。今後も何か必要な素材があるなら遠慮なく頼ってください。もしお代や恩義が気になると言うのなら、最高の出来の武器を作ってくれれば良い故──」
リンネの少々長めのお説教。皆正座。男たちはしゅんとしながらもリンネの説教を聞いていた。
「──という事です。わかりましたか。まぁ……結構楽しみにしてます故」
いうべき事は言うがフォローも欠かさないリンネは間違いなくいい女に写ったことだろう。
「死ぬ気で困難に立ち向かうのは結構だが……いや、礼を言うべきだな。ありがとう。その心意気と矜持に素直に称賛と感謝を伝えたい」
テオドールは少々複雑な表情を見せたものの、男たちへの賛辞で締めくくった。
「まぁそのへんにしとこうぜ。皆無事だったんだ。手に入れたかったものも手に入れたしな」
ウェルスが魔物から採取した角が入った袋をみなに見せる。
「あぁ、そうだな。あとは任せるとしよう。この角を有益に使っていただきたい。それにもし他に必要なものがある場合は、私達にもそうd産してもらいたい。我が国は新たな領土も手に入れている。これまでは手に入らなかったものが今後手に入るようになる可能性もあるのだ」
「そうですえ。危ないことは自由騎士にいいなはれ。この角があれば、良い刀が出来はるんですね? チュウベイはん、早う良くなってうちの為にええ刀打って下さいまし」
自由騎士たちの言葉に男衆に肩を借りながらチュウベェが歩み寄る。
「あぁ、その時は頼むとしよう。角についてはもちろんじゃ。わしらの誇りにかけて」
一時は瀕死の状態だったチュウベェもリンネの適切な処置により一命をとりとめた。もちろんしばらくは安静が必要だが、きっとすぐに作業をしてしまうのだろう。彼の職人魂に火がついているのは明らかだった。
(それで、どんな刀を作ってくださいますの? 美しさと強さを兼ね備えた最高のもの、期待してます)
すれ違いざまチュウベェの耳元で狼華が囁く。チュウベェは何も言わずただ強いまなざしを返したのであった。
「じゃぁ帰りましょう。あ、それとも集落まで送っていきましょうか?」
エルシーが聞くとチュウベェはふるふると首を振った。
「大丈夫じゃ。……本当に助かった。感謝している」
男たちは改めて頭を下げると集落へと帰っていった。
「さて俺たちも帰るか」
「ええ」
そういって帰路につく自由騎士を月明かりはやさしく照らしていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
お疲れさまでした。
MVPは男たちをその行動と笑顔で鼓舞したあなたへ。
その姿には男たちも立ち上がらない訳にはいかなかったでしょう。
ほどなくチュウベェの力作はショップに並ぶかと思います。
お役に立てば幸いです。
MVPは男たちをその行動と笑顔で鼓舞したあなたへ。
その姿には男たちも立ち上がらない訳にはいかなかったでしょう。
ほどなくチュウベェの力作はショップに並ぶかと思います。
お役に立てば幸いです。
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