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《オラトリオ1819》塵塚怪王。或いは、大掃除…



●ガラクタたちの賛歌
「困ったわねぇ」
黒いドレスに白い肌。
銀の髪を揺らめかせ、その女性は溜め息を零す。
困ったわねぇ、と言うわりにさほど困った風でもなく。
飄々と、目の前の現実を直視しているようである。
そんな彼女の視線の先では、3階建の洋館と、洋館の中へ向かって移動している大量のガラクタたちがいた。

彼女の名はアンリカと言う。
年齢不詳の高貴な雰囲気を纏う女性であった。
彼女は国の至るところに家を持っているのだが、今回数年ぶりにそのうち一つを訪れた。
年の瀬をそこで過ごすため……ではなく。
その家を売りに出すために、家財の類を処分するために。
業者に頼んで、家具などをすべて廃棄した。
それがつい昨日のことである。
処分忘れが無いか確認するために館を一度訪れたのだが……。

「どうして戻って来てしまうのよ?」
タンスが、テーブルが、椅子が、ベッドが、鏡が、カーテンが……。
処分したはずのすべての家財が、列を成して館へと戻って行くのである。
「これ、どうすればいいのかしら?」
困ったわ、と。
再びそう呟いて、アンリカは重たい溜め息を零した。

●階差演算室
「悪魔化した家具、家財がターゲット……でよいのかな。アンリカからの依頼では、家財の処分ということになっているのだが」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は困ったような顔をして、集まった自由騎士たちへと視線を投げた。
「家財一つ一つが悪魔化したわけではなく、どれか一つ……館内にある何かしらの家具が悪魔化し、それが他の家財を操っているようだな」
戦闘力の高い敵ではないようだが、いかんせん家具が多く探すのは骨が折れそうだ。
そして、家財や家具たちは侵入者を襲い、館の外へと追い出すように動くらしい。
そのためアンリカも館の外で、様子を眺めていることしか出来ないでいる。
「操られた家具一つ一つが、ターゲットである(塵塚怪王)のスキルのようなものだな。[ノックバック]には気を付けてほしい」
そして、館内にある家具のどれか一つが悪魔化したターゲット(塵塚怪王)の正体である。
一見すると、どれも普通の家具にしか見えない。
「塵塚怪王は他の家具を操ることが出来る。おそらく正体を突き止めてからが本格的な戦闘になるだろうな。怪王本体は[パラライズ][ブレイク]を付与した攻撃を行うため、判別するのも簡単だろう」
大人しく破壊されるか、それとも激しい戦闘になるか。
それは自由騎士たちの行動次第と言ったところだろうか。
「まぁ、大掃除の手伝いだと思ってくれたまえ。諸君らの検討を祈る」
やり方は任せるよ、と。
そう言ってクラウスは階差演算室を後にした。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
病み月
■成功条件
1.塵塚怪王の撃破
2.館内にある家具すべての廃棄
●ターゲット
塵塚怪王(イブリース)
家具のどれかが悪魔化した存在。
他の家具を操る能力を持つ。
・ガラクタの王剣[攻撃] A:攻近単[ブレイク2]
塵塚怪王渾身の一撃。

・ガラクタの咆哮[攻撃] A:魔遠単[貫2][パラライズ2]
小さな家具やガラクタ、食器の類を浮かせターゲットへ向けて撃ち出す攻撃。

・ガラクタ[攻撃] A:攻遠単[ノックB]
家具による体当たり。
威力は低いが、的確に館の外へ向けて侵入者を弾き飛ばそうとしてくる。


●場所
とある洋館。
3階建。館の前には広い庭。館の後方には湖がある。
通路は広く、4人は並んで移動できそうだ。
階段は各階に1つ。
1階は主に客間や食堂、談話室、図書室、浴室などがある。
2階は住人たちの寝室。
3階は館主の私室や書斎などがある。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
9日
参加人数
4/8
公開日
2020年01月10日

†メイン参加者 4人†




快晴。
吹く風は冷たく、そして空気は乾いている。
とある洋館のその前で、黒いドレスの淑女は笑う。
白い手で背後……自身の所有する洋館を指し示し、困ったように、けれど少し楽しげに。
「これ、貴方たちがどうにかしてくれるのかしら?」
ザッザ、ザッザと規則正しい足音が響く。
否、足音……と、そう呼ぶのは正しくないだろう。
ザッザ、ザッザ。
一定の速度で、列をなして行進している家具の群れ。
タンスが、テーブルが、椅子が、ベッドが、鏡が、カーテンが……。
吸い込まれるように、或いは自分の意思により洋館へと向かって進む。
ザッザ、ザッザ。
それらの家具は、アンリカがかつて所有していた物である。
所有し、そして廃棄した。洋館を売りに出すために、不要な家具を処分したというそれだけの話。
家具の撤去が完了したと連絡を受け、アンリカは最終確認に訪れたのだが、どうやら洋館か家具に何らかの異変が起きたようである。
異変。もしくは、異常事態と言い換えてもいいだろう。
棄てた筈の家具たちが、イブリースと化し洋館へと戻って来たのだ。
「えぇ、私たちが責任を持って解決します。……ですが、その……家具も、イブリース化するのですね……」
困惑の表情を浮かべ、セアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう告げた。
アンリカは困ったようにはにかんで「不思議な光景よねぇ」と、のんびりとした口調でそんな言葉を吐き出したのだ。
「アンリカさん、家具がこうなった原因に心当たりは?」
セアラを押し退けるようにして前に出たのは、褐色肌の女丈夫・ジーニー・レイン(CL3000647)である。戦斧を肩に担いだ姿勢のままに、彼女はチラと家具の列へ目を向けた。
アンリカは静かに首を横に振る。
家具が“こうなってしまった”原因に、どうやら心当たりはないらしい。
「私にもさっぱりだわ。そもそも、一度は棄てたはずの物なのに……戻って来るなんて」
「そうですか。それでは、遠慮なく叩き壊してしまっていいのですね?」
赤い髪を風に踊らせ『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は拳を鳴らす。
家具を破壊する気は満々だ。とはいえ、その目には僅かな躊躇いの色。
高価な家具を破壊することに、勿体なさを感じているらしい。
そんなエルシーの隣では『おうじょのともだち』海・西園寺(CL3000241)がどうにも浮かない顔をしている。
「どうかしたのですか?」
海の様子が気に掛ったのか、エルシーは囁くようにそう問うた。
「長い年月を経た物は魂が宿るのだとおっしゃっていましたよね。もし、家具たちにも魂があるのなら、アンリカに売られてしまう事……捨てられてしまった事を“悲しい”と感じているのかもしれないな、と思いました」
瞳を伏せて、海はそう言葉を返す。
とはいえ、家具たちは既にイブリースと化しているのだ。
このまま放置するわけにもいかない。
ふむ、とエルシーは顎に手を当て何事かを思案する。
そして……。
「あの~、どうせ捨てるんでしたら、私がいただいたらダメですか?」
と、アンリカに向け彼女はそう問うたのだ。


「家具は好きにしたらいいわ。壊すも、持ち帰るも……あぁ、でも館に火を放ったりするのはやめてね」
売れなくなってしまうから、と。
アンリカは、エルシーの提案に快くそう答えを返す。
それから、館の間取りなどを聞き出して、4人は揃って洋館へ足を踏み入れた。
その瞬間。
ギュオン、と風が唸る音。
廊下の角から、皿や銀食器が飛んで来たのだ。
「あら、シンプルだけれど、質と品のいい食器ですね」
飛来するナイフやフォーク、大小様々な皿たちをエルシーは素早く拳で打ち抜いた。
皿が砕け、ナイフやフォークは折れ曲がる。
力を失い足元へと落下したそれらを一瞥し、海は悲しそうに唇をぎゅっと噛み締めた。
「あの……出来る限り、家具を壊さず先へ進むことはできないでしょうか?」
恐る恐る、といった様子で海は仲間たちへそう提案した。エルシーとジーニーは顔を見合わせ、難しい顔。
「どうだった?」
と、ジーニーは問うた。
エルシーは難しい顔をして、うぅん、と唸り声をあげる。
「不可能ではないと思います……ただ」
「ただ?」
ちら、とエルシーは廊下の先へと視線を向けた。
ガタン、ゴトンと重たい物が動く音。
セアラは頬を引き攣らせ、囁くように仲間たちへ注意を促す。
「これは、怒りの感情……何か、何かが沢山やって来ます!」
セアラが注意を喚起するのとほぼ同時。
廊下の角から、タンスやテーブル、ソファーの群れが姿を現す。

「可能な限り、壊さないようやっては見るけど……」
飛来するタンスの真下を滑り抜け、エルシーはそう言葉を発す。
そんな彼女の影に隠れて、セアラと海も先を目指して廊下を駆けた。
「よし、皆抜けたな! それなら……っ!!」
大上段に戦斧を振り上げ、ジーニーは凶暴な笑みを浮かべる。
迫りくる家具の群れに向け、彼女は力任せに斧を叩きつけた。
建て物全体が……地面が揺れて、巻き散らかされる衝撃派。窓ガラスが割れ、直撃を受けたソファーは無残に砕け散る。
割れた窓からタンスは外へと弾き飛ばされ、方やテーブルはその場で真っ二つにへし折れた。
後に残るは大規模な破壊の痕跡。
建て物を傷つけるなとアンリカは言っていたが、この程度ならば御愛嬌だろう。
無事な家具が残っていないことを確認し、ジーニーは斧を担ぎ直した。
そして4人は、2階へ向けて駆けて行く。

2階へつながる階段を、一列になって駆け上がる。
先頭を駆けるエルシーは、飛来する花瓶を拳で粉々に打ち砕き仲間たちのために道を開いた。
だが、しかし……。
「っ……これは、無理!!」
階段を昇り終えたその瞬間、上下左右から額入りの絵画が一斉に彼女へ襲いかかった。
頭上から迫る1枚を、素早く拳で払いのけるが……。
「っ……!! しま……」
左右から同時に攻撃を受け、エルシーの身体が宙へ浮く。
絵画に弾かれ、エルシーは窓の外へと弾き出された。
2階から落下した程度で戦闘不能になるほどやわな身体はしていないが、それでもしばらくは戦線復帰できなさそうだ。
となると、前衛はジーニー1人……ということになるのだが。
「数が多いな。1人じゃ対処し切れねぇ」
廊下の先から、壺や絵画、化粧台、ベッドなどの家具が列をなして迫りくる。
さすがにジーニー1人では、それら全ては抑えきれない。
褐色の頬を、一筋の汗が滴り落ちる。
「でしたら西園寺が敵の数を減らします」
戦斧を構えたジーニーを抑え、代わりに海が前に出た。
その手には、小さな身体に不似合いな大口径の拳銃が握られている。
両手で銃をしっかり構え、海は視線をまっすぐ前へ。
そして彼女は、拳銃のトリガーを引き絞った。
放たれるのは大口径の鉛弾。
それも1発や2発ではない。
弾倉が空になるまで打ち尽くし、かと思えば即座に新たな弾倉へと入れ替える。
それを繰り返すこと5、6回ほど。
放たれた弾丸は、40発に近いだろうか。
廊下に硝煙が充満し、視界を白く塗りつぶす。
けほ、と小さく海が咳き込み「……まだ、残っていますね」と、セアラは仲間へ注意を促した。
それと同時、硝煙の中で何かが動く。
それは1枚の小さな鏡。
くるくると高速で回転しながら、前衛に出たジーニー目がけて襲いかかるが……。
「回復はまだ不要そうですからね。ここは私が受け持ちます」
セアラは素早く、鏡に向けて手を翳す。
浮かび上がる魔力の紋様。
青白い燐光が、その手回りを舞っていた。
周囲の気温が、数度ほど低下しただろうか。
宙を舞う鏡に、青白い光が纏わりついた。
青白い光……それはどうやら冷気のようだ。
凍り付けとなった鏡は、床に落下し砕けて割れた。

視界の悪い2階を抜けて、4人はついに3階へと至る。
1階は主に客間や食堂、談話室、図書室、浴室。
2階は住人たちの寝室。
3階は館主の私室や書斎などがある。
「アンリカの私室へ行ってみませんか? 西園寺は、塵塚怪王の正体は鏡であると予想しています。アンリカは私室の鏡で沢山自身を映していたと思いますから……アンリカに捨てられたことを一番悲しんでいるのも、鏡じゃないかと」
と、廊下の途中で海は言う。
「奇遇ですね。私も私室か書斎あたりで大切に使われた家具が塵塚怪王になっているのでは、と思っていました」
即座にその提案に賛同したのはエルシーだ。
2階から外へと弾き出された彼女であったが、すでに戦線に復帰している。
弾き出された際に負ったダメージも、セアラによって治療済みだ。
「私室……たしか、廊下の最奥だと言っていましたね」
視線を廊下の先へ向け、セアラはアンリカから聞いた部屋の配置を思い出した。
海の提案に対してとくに反対意見も出なかったため、4人はそのままアンリカの私室へ向けて歩を進める。どちらにせよ、塵塚怪王が見つかるまで館内を虱潰しに探しまわる予定なのだ。
どこから捜索しようとも、結果は同じ、というわけである。

アンリカの私室。
扉を開けたその瞬間、ジーニーは海とセアラを突き飛ばす。
驚いたような表情を浮かべる2人だが、詳しく説明している暇はない。
時間がないのだ。
未来視のスキルによって、ジーニーは5秒先の光景を観測した。
釘やナイフに貫かれ、傷だらけになったセアラと海の姿……その未来を回避するため、ジーニーは2人を突き飛ばしたのだ。
代わりに、ジーニーの腹部や肩へナイフや釘が突き立った。
「う、くう……正解みたいだぜ。この部屋のどこかに塵塚怪王がいる……隠れてないで、さっさと出てきやがれってんだ!」
傷口を押さえ、ジーニーはその場に膝を突く。
ジーニーを庇うようにエルシーが前へ飛び出した。
追撃として放たれた羽ペンやインク壺による攻撃を、エルシーは鋭い手刀で叩き落とす。砕けたインク壺からインクが飛び散り、エルシーの赤い髪を黒に濡らした。

傷ついたジーニーに駆け寄ったのは、セアラであった。
ジーニーの身体へ手を翳し、回復術を行使する。セアラを中心に飛び散った淡い燐光が、ジーニーの傷口に収束し癒していった。
「行動不能……どこから攻撃が来るか分からない状態では厄介ですね」
セアラの頬を一筋の汗が伝って落ちた。
ターゲットである塵塚怪王の正確な居場所が分からない。加えて、室内には大量の小物。どこから攻撃が飛んで来るか分からない状態だ。
だからと言って、仲間の治療を後回しにするわけにはいかない。
今回のパーティーにおいて、ジーニーは貴重な前衛戦力なのだから。
「ラングフォードはそのまま治療を続けてください。あなたたちへの攻撃は、西園寺が防ぎます」
セアラに向かって飛来した花瓶を、1発の銃弾で撃ち砕きながら海は告げた。
正確無比な海の射撃は、必要最低限の弾数で次々に飛来する家具を撃ち落としていく。


「やっぱり……そこですね!」
そう叫び、海は部屋の最奥へ……壁際に立てかけられた大きな姿鏡へ銃口を向けた。
放たれた弾丸は、まっすぐ鏡の中心へ。
ガチャン、と硬質な音を立て……鏡は銃弾を弾き飛ばした。
「わぉ……この鏡、すっごく頑丈ですね。持って帰って使いたいわ」
そう告げるなりエルシーは、姿鏡の真正面へと滑るように移動する。
そうして彼女は、脚を開き、腰を捻り……握り締めた拳を鏡の真ん中へと叩き込んだ。
「壊れずに残っていれば、のお話ですけどね」
などと、言ってはみたものの。
エルシーの拳でも、鏡に傷を付けることは叶わなかった。

「まったく効果がないわけではなさそうですね。攻撃を続けていればいずれは……」
鏡に向けて、大音声の雄叫びをぶつけるエルシーの姿を観察しながらセアラは鏡……塵塚怪王について分析をする。
姿鏡の周辺を覆うように、不可視の壁か鎧のようなものがあるのだ。拳や銃弾はそれに弾かれており、そしてその不可視の壁か鎧こそが、塵塚怪王の装甲なのだろう。
本体である姿鏡を守るために鎧を着ている、と考えれば理解しやすいか。
「それなら、私も加勢してすぐにスクラップにしてやるぜ!」
回復したジーニーが、戦斧を肩にかるって前に出る。
エルシーたちの加勢に向かうつもりのようだが「待ってください」とセアラはそれを呼び止めた。
「何?」と疑問の表情を浮かべるジーニーに謝りながら、セアラはゆっくり塵塚怪王の方へと近づいて行く。

花瓶が宙を舞う。
海の弾丸が、撃ち砕いた。
ローテーブルが滑るように疾駆する。
エルシーの放った鋭い手刀によって、それは真っ二つに粉砕された。
本棚の本が、塊となって飛来する。
ジーニーの戦斧による一閃が、それをばらばらに切り裂いた。
皆が見守る中、セアラは鏡の真正面へ辿り着く。
「廃棄されるのが嫌だというのなら……このお屋敷には置く訳にはいかないかもしれませんけれど、他のお屋敷で使って頂ける所を探します。それでどうか、矛を収めてもらうわけにはいきませんか?」
イブリース相手に説得が通じるかどうか、セアラには分からない。
否、十中八九説得は通用しないだろう。
だが、声をかけずにはいられなかった。
持ち主に棄てられ、イブリース化してまで元の洋館に戻って来た塵塚怪王に対し、救いの道を提示せずにはいられなかったのだ。
セアラの問いに、返って来たのは静寂だった。
カッチコッチと、壁にかけられた振り子時計が時を刻む音がする。
どれだけの時間が経過しただろうか。
やがて……。
セアラの前に現れたのは、鏡の破片を寄せ集めて出来た歪な形状の剣だった。
まるで初めからそこにあったかのように。
鏡の大剣は、空気を切り裂きセアラへと迫る。

セアラの身体を突き飛ばし、割り込んだのはエルシーだった。
頭の前で両の腕を交差させ、鏡の剣を受け止める。
ギシ、と籠手に覆われたエルシーの腕が軋む音。
「ぐぅぅ……家具の分際でぇ~、私に傷を負わせるとかぁ、ナメるなぁっ!!」
雄叫びと共に、渾身の力でもって鏡の剣を押し返す。
弾かれた鏡の剣は粉々に砕け、現れた時と同様に音もなく消えてなくなった。
エルシーの隣を駆け抜け、前に出たのはジーニーだ。
「おらおらおらっ!」
渾身の力を持って、戦斧の刃を塵塚怪王へ向けて叩き込む。
一発、二発、三発と。
一見するとがむしゃらに斧を振り回しているようにしか見えないかもしれない。
だが、その実彼女の一撃一撃は確かな技術と狙いで持って叩き込まれたものである。
塵塚怪王の纏う、不可視の鎧が軋む音。
そして、遂に……。
「これで、どうだぁっ!!」
大上段から振り下ろされた一撃が、不可視の鎧を打ち砕く。
ガシャン、と何かが砕ける硬質な音が部屋に響いた。
音、だけだ……塵塚怪王の本体である姿鏡は未だ健在。
「……もしも大好きな人から“いらない”と言われてしまったら、悲しくて仕方がなくなってしまいます……あなたも、そうですよね? だから、こんなことをしたのでしょう?」
そう語りかける海の頬に、一筋の涙が伝わった。
涙の粒が床に落ちて、弾けて消える。
それと同時に、海は拳銃の引き金を絞った。
敵意などなく、殺意などなく、ただ優しく指先に力を込めただけ。
そして放たれた弾丸は、今度こそ姿鏡を粉々に砕いた。

「無事に終わったみたいねぇ」
洋館の前に積まれた壊れた家具を見上げながら、アンリカはそう呟いた。
彼女の前には4人の自由騎士たちが並んでいる。
「……家具、少なくなぁい? 全部壊してくれたのかしら?」
アンリカの問いに、4人は視線を交差させ……代表して海が1歩前に出た。
「あのですね、このお家や家具達が“誰かに必要”になれる様にしたいんです」
「……そう。それで?」
「だから、まだ無事な家具は館内に残してあります。家具付き物件として売ったり、バザーを開いたりして、家具たちがまだ活躍できるように取り計らっては貰えないでしょうか?」
駄目ですか?と、そう問いかけた海の手には鏡の欠片が握られている。
塵塚怪王の本体を、持ち帰って来ているようだ。
アンリカも、今回の事件を起こしていた犯人が自分の姿鏡だったということは聞いている。
だから、だろうか……。
しばらく考え込んだ後、仕方ないわね、と苦笑とともに溜め息を零す。
「家具は孤児院やお友達に寄付しましょう。そうすれば、まだまだ誰かに使って貰えるでしょうから」
アンリカの答えを聞いた4人は、笑顔で手を叩きあう。
塵塚怪王は撃破し、家具も大部分は壊さずに済んだ。
「よかった」
なんて、呟いて。
セアラはそっと、目尻にたまった涙を拭う。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『鏡の欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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