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黒騎獅ライル・ウィドル、絶体絶命の大ピンチ!

●ライル・ウィドル最大の危機
『黒騎獅』ライル・ウィドル(nCL3000013)といえば、国防騎士の中でも武闘派として知られる騎士である。
ヴィスマルクの連中を人未満の『ヴィス公』と呼んで蔑み、シャンバラの連中を自分で考える頭もない『首無し』と呼んで罵倒する。
しかも誰がいるところでもそれを成すなど、剛毅かつ過激な性格の男である。
獅子のケモノビトに生まれたがゆえの気質なのかもしれないが、しかし彼のそんな言動も全ては祖国イ・ラプセルへの愛国心から来ている。
今は一人の自由騎士として、来たるべきシャンバラとの本格的な闘争に向けて、日夜鍛錬を欠かすことなく行なっていた。
さて、そんな彼であるが、現在独身である。
男性としては適齢期を迎えているのだが、しかし、、
デカイ。
見た目が厳つい。
言動が怖い。
それを直すつもりがない。
という完全無欠役満コースにより今まで女性と付き合ったことはない。
「俺は国家と婚姻を果たした。女の出る幕はない」
などと当人も言って憚らず、女っけのない現状を憂う様子も見られない。
軍人の家系に生まれ、幼いころから軍人となるべく育てられてきた結果、出来上がったのがこの愛国堅物童貞ライオンである。
そんな、何事にも全力直球粉砕剛球なライルが、今、窮地に陥っていた。
彼の自宅でのことである。
「…………ムゥ」
来客用のソファを前に、身長2mのデカブツが汗ダクダクになっている。
何だこれは。
どうすればよいのだ。
俺が学んできたものの中に、この状況を打開する知識はないぞ!
と、半ば白目を剥きながら思考をグルグルさせている彼の視線の先には――
「あぅ~」
赤ちゃんがいた。
玉のように可愛らしい、ノウブルの赤ん坊である。
一日だけこの子を預かってほしい。
と、友人の国防騎士夫婦に言われたのが、昨日の話である。
何でも遅まきの新婚旅行に行くという話らしい。
この戦時下に新婚旅行とは軟弱な、と、思わなくもないが、これから戦いはさらに激しくなってくるのは目に見えている。
ならば、英気を養う機会は逃すべきではない。
そう思って引き受けたライルではあったが――どう考えても無理ゲーです。
「あぅ……、あぶ」
「む、何だ貴様、何を指など舐めている。甘ったれるな。男だろう!」
赤ん坊の指しゃぶりを叱ってやめさせようとする黒ライオン。
「あ、あぅ、う……、ひぐ。ひっ、びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「おあああああああああああああああああああああああああ!!?」
そらそーだよ。
「ま、待て! 何故泣く! ええい、この程度で泣くな! 貴様もイ・ラプセル男子の端くれだろうが! 泣くのをやめろ、やめろと言って――」
「びええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「ぐおああああああああああああああああああああああああ!!!?」
根本的に向いてないんだよなぁ。
「くっ、実家の使用人ならば赤子一人どうとでも……、いや、ダメだ! この程度もできずずして何がウィドル家の嫡男か! 困難こそ成長の機会よ!」
そしてまた泣かれる。
「何故だああああああああああああああああああああああああッッ!!?」
結局、考えに考え抜いた結果、ライルは自分のマキナ=ギアを手に取った。
「個の力でどうしようもないのならば、個の力を結集して解決にあたるのみ。これは逃げるのではない。任務達成のために必要な行動なのだ!」
と、自分に言い聞かせて、ライルは助けを求めるのだった。
●水鏡が映すことかコレ
「何でこんなの映しちゃったんだろうなー、水鏡」
集まった自由騎士を前に『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は無味乾燥み全開の半笑い顔でため息をついていた。
「えーっと、特に話すことはないよ。あえて言うならライル君の気力体力がそろそろ0になりそうってくらい? じゃあ、一日子守がんばってねー」
平坦な声のまま、見送られました。
『黒騎獅』ライル・ウィドル(nCL3000013)といえば、国防騎士の中でも武闘派として知られる騎士である。
ヴィスマルクの連中を人未満の『ヴィス公』と呼んで蔑み、シャンバラの連中を自分で考える頭もない『首無し』と呼んで罵倒する。
しかも誰がいるところでもそれを成すなど、剛毅かつ過激な性格の男である。
獅子のケモノビトに生まれたがゆえの気質なのかもしれないが、しかし彼のそんな言動も全ては祖国イ・ラプセルへの愛国心から来ている。
今は一人の自由騎士として、来たるべきシャンバラとの本格的な闘争に向けて、日夜鍛錬を欠かすことなく行なっていた。
さて、そんな彼であるが、現在独身である。
男性としては適齢期を迎えているのだが、しかし、、
デカイ。
見た目が厳つい。
言動が怖い。
それを直すつもりがない。
という完全無欠役満コースにより今まで女性と付き合ったことはない。
「俺は国家と婚姻を果たした。女の出る幕はない」
などと当人も言って憚らず、女っけのない現状を憂う様子も見られない。
軍人の家系に生まれ、幼いころから軍人となるべく育てられてきた結果、出来上がったのがこの愛国堅物童貞ライオンである。
そんな、何事にも全力直球粉砕剛球なライルが、今、窮地に陥っていた。
彼の自宅でのことである。
「…………ムゥ」
来客用のソファを前に、身長2mのデカブツが汗ダクダクになっている。
何だこれは。
どうすればよいのだ。
俺が学んできたものの中に、この状況を打開する知識はないぞ!
と、半ば白目を剥きながら思考をグルグルさせている彼の視線の先には――
「あぅ~」
赤ちゃんがいた。
玉のように可愛らしい、ノウブルの赤ん坊である。
一日だけこの子を預かってほしい。
と、友人の国防騎士夫婦に言われたのが、昨日の話である。
何でも遅まきの新婚旅行に行くという話らしい。
この戦時下に新婚旅行とは軟弱な、と、思わなくもないが、これから戦いはさらに激しくなってくるのは目に見えている。
ならば、英気を養う機会は逃すべきではない。
そう思って引き受けたライルではあったが――どう考えても無理ゲーです。
「あぅ……、あぶ」
「む、何だ貴様、何を指など舐めている。甘ったれるな。男だろう!」
赤ん坊の指しゃぶりを叱ってやめさせようとする黒ライオン。
「あ、あぅ、う……、ひぐ。ひっ、びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「おあああああああああああああああああああああああああ!!?」
そらそーだよ。
「ま、待て! 何故泣く! ええい、この程度で泣くな! 貴様もイ・ラプセル男子の端くれだろうが! 泣くのをやめろ、やめろと言って――」
「びええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「ぐおああああああああああああああああああああああああ!!!?」
根本的に向いてないんだよなぁ。
「くっ、実家の使用人ならば赤子一人どうとでも……、いや、ダメだ! この程度もできずずして何がウィドル家の嫡男か! 困難こそ成長の機会よ!」
そしてまた泣かれる。
「何故だああああああああああああああああああああああああッッ!!?」
結局、考えに考え抜いた結果、ライルは自分のマキナ=ギアを手に取った。
「個の力でどうしようもないのならば、個の力を結集して解決にあたるのみ。これは逃げるのではない。任務達成のために必要な行動なのだ!」
と、自分に言い聞かせて、ライルは助けを求めるのだった。
●水鏡が映すことかコレ
「何でこんなの映しちゃったんだろうなー、水鏡」
集まった自由騎士を前に『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は無味乾燥み全開の半笑い顔でため息をついていた。
「えーっと、特に話すことはないよ。あえて言うならライル君の気力体力がそろそろ0になりそうってくらい? じゃあ、一日子守がんばってねー」
平坦な声のまま、見送られました。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.子守をする
シリアスやりきったらネタに走りたくなるのは人のサガ。
吾語です。
そもそもコイツに子守頼むのが間違いなんだよ。
という意見は聞きますが同時に流します。だって言い返せないモン。
みんなで協力して子守しましょう。
面倒を見るのはノウブルの赤ちゃんで名前はレニー君です。男の子です。
生後2か月で生まれたばっかだよ、ころっころしてるよ。かーわいー。
子守をする時間帯は【午前】・【午後】・【夜】です。
リプレイ開始時点で朝9時くらいと思ってくだせぇ。
子守は翌朝までとなります。
参加者の皆さんはまずどの時間帯にライルの家に行くかを決めてください。
プレイングにその旨記載した上で、どういう風に面倒を見るか書いてください。
時間帯の明記がない方はこっちで適当に振り分けます。
ライルは現在、実家の別宅を借り受けてそこに一人暮らししています。
場所は王都の郊外で、そこそこの広さがある家です。
なので多人数で押しかけても無問題です。
なお、愛国堅物童貞ライオンのライルさんは子守については無能オブ無能です。
なので食事から着替えからお風呂から、まずあらゆる全てについて協力が必要です。
このデカいだけの百獣の王(笑)をどうか助けてやってください!
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。
吾語です。
そもそもコイツに子守頼むのが間違いなんだよ。
という意見は聞きますが同時に流します。だって言い返せないモン。
みんなで協力して子守しましょう。
面倒を見るのはノウブルの赤ちゃんで名前はレニー君です。男の子です。
生後2か月で生まれたばっかだよ、ころっころしてるよ。かーわいー。
子守をする時間帯は【午前】・【午後】・【夜】です。
リプレイ開始時点で朝9時くらいと思ってくだせぇ。
子守は翌朝までとなります。
参加者の皆さんはまずどの時間帯にライルの家に行くかを決めてください。
プレイングにその旨記載した上で、どういう風に面倒を見るか書いてください。
時間帯の明記がない方はこっちで適当に振り分けます。
ライルは現在、実家の別宅を借り受けてそこに一人暮らししています。
場所は王都の郊外で、そこそこの広さがある家です。
なので多人数で押しかけても無問題です。
なお、愛国堅物童貞ライオンのライルさんは子守については無能オブ無能です。
なので食事から着替えからお風呂から、まずあらゆる全てについて協力が必要です。
このデカいだけの百獣の王(笑)をどうか助けてやってください!
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
0個
1個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
10/100
10/100
公開日
2019年01月25日
2019年01月25日
†メイン参加者 10人†
●午前 ~まだだ、まだ慌てるような時間じゃない~
朝、ライル・ウィドル邸。
「ふええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
最初からクライマックスだった。
「何だ、貴様は何を欲しているのだ! 飯か! 便か! ええい、口がきけんというのがここまで厄介だとは! 神よ、アクアディーネよ、我に力を!」
始まって早々神頼み。すでに絶望がおまえのゴールだ状態です。
と、そのとき、
リンゴーン。
ウィドル邸の呼び鈴が鳴った。
「……何者!」
「わっ、びっくりした! ライル先輩、僕です、アダムですよ」
家主に殺気濃厚な視線をぶつけられ、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が恐縮しつつ家に入ってくる。
「む、アダムか。何をしに来た」
「いえ、先輩が救援を要しているとのことで、僕が来ました」
「おお! 救援か! 国は俺を見放していなかったか!」
アダムの説明を受けて、しかめっ面だったライルの顔が一瞬綻ぶ。
「大丈夫です、僕が来たからにはもう安心です!」
言って、アダムは思い切り胸を張った。
何と力強い言葉であろうか。少し見ないうちに、この後輩騎士はここまで頼りになる男に育っていたのか。
男子、三日会わざれば刮目して見よ、とはこのことか。
「ライル先輩――」
「うむ、アダムよ――」
「「それで、何をすればいい」」
「ですか?」
「のだ?」
二人の声はきれいに重なっていた。
「…………」
「…………」
ライルとアダムが、お互いに顔を見合わせる。
「アダムよ」
「何ですか、先輩」
「貴様、子守りのやり方を知っているのではないのか?」
「知りません!」
彼は力強く断言した。
「ですが、騎士として力になれることがあるなら全力で力になります!」
「そうか、では」
ライルがアダムにレニー君を渡した。
「びえええええええええええええええええええええん!」
「うわあああああああああ!? 先輩、ライル先輩! 泣いてます!」
「見ればわかる! どうにかしろ!」
「無理です! これは騎士の領分ではない気がします!」
アダムの決断は早かった。
「お主ら、ちょっと情けなさすぎるじゃろ……」
そこに割り込んでくる、第四の声。
いつの間にか、部屋の中に『まま。』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)がいた。
「もしかしたらと思って来てみたら、想像を超えて絶望的状況ではないか」
シノピリカは呆れ顔になりつつもアダムに向かって手を伸ばす。
「ほれ、その子をこっちに」
「は、はい……」
生まれたての小鹿のようにプルプルしながらアダムがレニー君を彼女に渡す。
するとシノピリカはレニー君を抱いて優しく揺らした。
「ほれほれ、どうしたどうした。おなかがすいたのか? ん?」
「ふええ、あぅぅ~」
リズミカルに体を揺らすシノピリカに、レニー君の泣き声が小さくなる。
それを見ていた役立たず二人が、そろってガッツポーズをした。
「さすがです、シノピリカさん!」
「この難行をやり抜くとは、まさに自由騎士の鑑よ!」
「お主らが木偶の坊以下なだけじゃよ?」
「「グハァ!」」
木偶の坊×2、魂にクリティカルヒット!
「むぅ、どうやらおなかがすいているようじゃのう……。粉ミルクは、この缶じゃな? ふむ、台所は向こうか。ライル殿、ちと台所を借りるぞ」
ライルの答えをきかないまま、シノピリカは台所に向かっていった。
その、およそ二分後――
「……何をしているのだ、キミ達は」
新たにやって来た『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が、部屋の真ん中で仁王立ちで向き合っているライルとアダムを見て尋ねた。
二人は声を揃えて答えた。
「「騎士の在り方について考えていた」」
「なるほど」
つまり子守りには全く関係ないのだな。
と、それだけは確かに理解したテオドールであった。
●午前 ~イ・ラプセルよ、これが子守りだ~
「ほれれろろろぷるるるぱ~!」
「きゃっきゃっ!」
シノピリカの変顔にレニー君バカウケ!
ライルは引いた。
アダムは苦笑いした。
テオドールはノーコメントを貫いた。
「誰もお主らの評価など聞いていおらぬわ!」
レニー君を抱えつつ、シノピリカは実に微妙そうな顔で男連中を見る。
「全く、本当に何しに来たんじゃ、お主ら……?」
「失敬な。私をこの二人と一緒にしないでいただきたいのだが」
デカブツ二人を横目に、テオドールが不満を漏らす。
「お、言いおったな。ではほれ、抱いてみい」
「む……」
シノピリカからレニー君を受け取って、テオドールは難しい顔をした。
「……案外、重いのだな。それに柔らかい」
「今にも壊れそうでしょう。それが、赤ちゃんなんですよ」
声は、その場にいる誰のものでもなかった。
皆が部屋の入り口を見る。そこに、エプロン姿の『理系のマドンナ』フーリィン・アルカナム(CL3000403)がニコリと微笑み立っていた。
「おはようございます。皆さん、お早いですね」
「おはよう、フーリィン。……君は赤子の扱いには慣れているのか?」
おそるおそるレニー君を抱きながら、テオドールが尋ねる。
「ええ、孤児院にいたもので、そこそこは慣れてますよ」
「そうか、それは助かる! わしもそろそろ出ねばならぬゆえな」
シノピリカはわざわざ仕事の前に駆けつけてくれたらしい。
「あ、僕も行くよ!」
それはアダムも同じようだった。
「ふむ、では私は引き続きウィドル卿と共にこの子を見ていよう」
「私ももう少し見ておきますね」
代わって、テオドールとフーリィンがこの場に残った。
シノピリカとアダムがウィドル邸を去って、フーリィンがシノピリカの残した引継ぎ用のメモを見る。書かれている内容はほぼ予想通りのことだった。
「おしめはさっき取り換えたんですね」
「あ、ああ、うむ。大変だったが、何とか」
レニー君をベッドに寝かせて、テオドールがうなずいた。
「男子たるもの排便も一人でできぬとは」
ちなみにライオン野郎は変わらずこの様子である。
「ウィドル卿、それは些か無体が過ぎるというもの。未だ分別もつかぬ子供にそれを求めたところで、求めるウィドル卿こそが笑われよう」
しかしそこで、テオドールが口を挟んできた。
「む……」
「そも、卿に生後二か月ごろの記憶はおありか?」
「いや、それは……」
「ないだろう? ならば黙していることこそ務めだろう。なぁ?」
水を向けられたフーリィンが、「難しいですね」と小さく苦笑する。
「私は慣れていますけど、そうではない方はやっぱり色々と分からないことも多いと思いますよ。ねぇ?」
と、今度はフーリィンが同意を求める。
その視線の先に、ドアの隅から部屋を覗き込んでいるマザリモノの少年『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)がいた。
「ぴ」
一声鳴いて、鈴はドアの陰に隠れた。
そしてそろりそろりと出てきたすけっちぶっくに『そうですね』という筆談。
「おお、新たな応援か! 心強いぞ!」
「はい、おもてなし、します。赤ちゃんでも、関係ないです」
顔に喜色を浮かべるライルに、鈴がペコリとお辞儀をする。
「これだけいれば安心できるというものだな」
だがテオドールが言うと、鈴は答えずすけっちぶっくに『はい』と筆談。
「……キミはノウブルとは話せない感じかね?」
『ちょっとだけ、怖いです』と筆談。
「人それぞれ色々ですからね。私は大丈夫ですよ」
「ふむ、そうだな。事情はきくまい。とにかく短い時間だが、共に頑張ろう」
『ハイ!』と鈴の筆談。
ノウブルには筆談で会話する鈴を、二人のノウブルは受け入れる。
そして昼まで、騒がしくもほのぼのとした子守りの時間が続くことになった。
「むむ、何やら臭うぞ、フーリィン……?」
「まぁ、しちゃったんですね。鈴さん、おむつを持ってきてくれませんか?」
『了解です』と筆談。
一方その頃、ライオンは外で素振りの鍛錬をしていた。
「わっぷ! こ、こら! 私の顔におしっこをかけないでくれたまえ!」
「あらまぁ、元気ですね。ハイ、テオドールさん、手ぬぐいです」
『ぼくはもふもふですよー、さわりますかー。もふもふー』と筆談。
一方その頃、ライオンは二階に上がって愛用の剣の手入れをしていた。
「ミルクはこのくらいの温かさだろうか……?」
「ん~、ちょっと熱すぎるかも、ですね。もう少し覚ましてください」
『わ、わ、泣かないでください。もうすぐ、もうすぐごはんですよ~』と筆談。
その頃、ライオンは人数分の肉を焼いていた。
「お前達! そろそろ昼食にしたらどうだ!」
レニー君がミルクをいただいている最中、昼食の用意を終えたライルが皆に告げた。
「もうそんな時間かね」
そろそろ多少慣れた手つきでレニー君をベッドに移動させ、テオドールが振り向いた。
「そうですね。ではご飯を頂いたら、私達は戻りましょうか」
『はいです』と筆談。
そして昼間、自由騎士達は四人そろって昼食の時間と相成ったのだった。
なお、ライルの味付けはめちゃめちゃ辛かったらしい。
●午後 ~子守りは終わらぬ、いつまでも!~
「こんにちはー」
「助っ人に来たでありまーす!」
昼下がり、レニー君がちょうどお昼寝すやすや中に新たな仲間はやって来た。
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)と『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)の二人である。
「ちょうどドロテアさんとバッタリ出くわしまして。一緒に来ちゃいました」
「私達が来たからにはもう安心であります!」
ウィドル邸に入って、二人はまず持ってきた荷物を置く。
「おしめ用の布と、差し入れと」
「で、ライル殿は何をしているのでありますか?」
ドロテアが見ると、ライルがジッとレニー君を覗き込んでいた。
「いや、いつ泣き出すのかと思ってな」
「……別に待つ必要はないのでは?」
「果たしてそうか? こいつはまるで狙ったかのようなタイミングで泣き出してくる。俺をこの場から移動させまいという意思すら感じるのだぞ」
「いや、それは……」
「俺は同胞よりこやつの世話を頼まれた。未熟ゆえ失敗を重ねてはいるが、しかし、頼まれた以上は何としてもそれをやり遂げねばならんのだ。この心身朽ち果てようとも!」
「えい」
拳を握って熱弁を振るうライルの後頭部を、エルシーが軽く小突いた。
「いきなり何をする!」
「疲れすぎですよ」
怒鳴ろうとするライルへ、彼女は一言指摘を飛ばす。
「……何だと」
「慣れないことできを張りすぎて、完全に疲れ切ってるじゃないですか。休んでてください。ここは私達に任せてください」
「そうであります。今のライル殿は明らかにグッタリグロッキーなのであります。なので、少しだけでも休んだ方がいいであります!」
「だが……」
寝ているレニー君の方を見て、ライルは食い下がろうとする。
「「いいから休んでください」であります!」
しかしエルシーとドロテアは声を揃え、バッサリと彼を切り捨てた。
「むぅ……、分かった。少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
「分かってますよ」
自室へと戻っていくライルを見送って、エルシーは軽く息をついた。
「ライルさんみたいな人でも育児疲れってするんですね」
「子供は元気の塊だって聞くでありますから」
「ライルさんはライルさんなりに、頑張ってたんでしょうけどね」
「それにしたって相性悪すぎであります」
「ですよねー……」
そうして二人が話し込んでいたところ、
「ふぇ……、うぇぇえ! んぎゃあ!」
寝ていたレニー君が元気な泣き声と共に目覚めた。
「あ、お坊ちゃんが起きましたねー。ええっと、引継ぎのメモは……」
「ミルクでありますか? おむつでありますか?」
フーリィンらが残したメモを見つつ、エルシーとドロテアの子守りタイムが始まった。
「あ、これはおむつみたいですね。布、多めに持ってきておいてよかった」
「ほらほら、これなんかどうであります~?」
エルシーがテキパキとおむつの用意を進めている間に、ドロテアは持参してきたリラをつま弾いて、軽い調子の音楽を奏でる。
泣いていたレニー君が、その音色にコロっと笑顔になった。
「ふぁ~ん、レニー君かわいいであります~」
「本当に、生まれたばっかりって感じですよね」
「眠たくなったら言うでありますよ~。子守歌でぐっすりであります!」
「それ、私まで眠くなると困りますから、ほどほどでお願いしますね」
女性二人がレニー君相手にキャッキャしている頃、
「グオゴゴゴゴ~!」
ライオンの部屋は、いびきによって揺れていた。
●夜 ~激闘! 真夜中の子守りクライマックス!~
ライルはドアを開けた。
「いつまでグースカ寝てんのよ、あんたは」
『魔女』エル・エル(CL3000370)に叱られた。
「むぅ……」
「クックック、ライルの旦那も随分とお疲れのようで」
同じく部屋にいた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が、恐縮するライルを見て小さく噴き出す。
「まぁまぁ、そこまでにしておくネ。こっち手伝ってほしいヨ」
ワン・フェイロン(CL3000492)がレニー君をあやしつつ、ウェルスをたしなめた。
「すっかり暗くなっているな……、寝すぎたか」
「ま、別にそのまま寝ててもよかったけどね。手は足りてるし」
肩をすくめるエルに、ライルは「そうはいかん」とかぶりを振った。
「頼まれたのは俺なのだ。その俺が怠けるなど、あってはならん!」
「しーっ! 旦那、静かにしてくれ」
力を込めて言うと、今度はウェルスに叱られた。
「ふぇ……、うぇぇぇぇぇ……」
だがそれも空しく、レニー君がぐずり始めてしまった。
「「「もー」」」
三人のジトッとした視線が、ライルへと突き刺さる。
「…………」
さすがにライルは押し黙った。
「あ~ぁ、もう、さっきまで笑ってたのに、やってくれたネ」
「慣れてないんだから仕方がないわね。それに、子供は泣くものだわ」
ブーたれるフェイロンに言うと、エルがレニー君を抱き上げた。
「ほらほら、どうしたの? 怖かった? あなたは何で泣いているの?」
ほのかに微笑んで、エルはレニー君をゆっくりと揺らす。
レニー君はまだぐずっているが、ひとまず泣くのはやめてくれた。
「あら、もっと泣いてもいいのよ。気が済むまでね」
「エルさんエルさん、マジで言ってるの? 今もうすっかり夜っすよ?」
ウェルスが眉根を寄せつつ尋ねると、エルはあっさり「当然よ」と言い返した。
「子供は、理由なく泣くものよ。そういうときは待っててあげればいいのよ」
「そんなものネ?」
「こっちが焦ったら、子供にも伝わってしまうもの」
「「なるほど~」」
言い切るエルを見て、フェイロンもウェルスも感心する。
「さすが、見た目少女の中身ババア。よく知ってらっしゃる」
「……燃やされたい?」
「いや~、それにしてもレニー君はちっちゃいなー!」
ウェルスはさっさとエルに背を向けて、レニー君の相手をし始めた。
指を伸ばすと、レニー君がその指を掴んでくる。
小さな、とても小さな手だった。
「人ってのは、生まれたばっかのときはこんなに小さいんだな」
「そうだヨ。だから大きい者が守らなきゃいけないネ」
子供好きなフェイロンもレニー君を覗き込みつつ、うなずいた。
などと、空気がややしんみりとしたところで、
「うえ、びええええええええええええええええええええええええん!」
夜 泣 き 。
「うおお、いきなりびっくりしたぁ!!?」
「ハハハ、エルも言ってたけど子供は泣くものネ。さて、こっから大変ヨ」
ケラケラ笑って、フェイロンがレニー君をあやしにかかる。
「ほ~ら、べろべろば~。笑うといいネ~」
「おっと、俺だってただ話に来たワケじゃないぜ? べ、べろべろば~?」
「うっわ、変顔ヨ」
「ブン殴るぞ、オイ」
「ふぇぇぇぇえええええええええええええええええん!」
「「べろべろば~~~~~!」」
男二人がレニー君に翻弄されている姿を見て、エルは笑った。
「あなたも混ざってきたら。こういうのも経験でしょう?」
彼女はライルを見た。
「む、しかし……」
「行ってきなさい。今日みたいなこと、またあるかもしれないでしょ」
そう言われては返す言葉もない。ライルも対夜泣き戦線へと突撃していった。
ふと、エルが窓から外を見る。
月はまだ高く、夜が明けるのはもうしばらく先だろう。
夜が明ければ子守りは終わる。それまでの、短い間ではあるが――
「フフ、退屈はしなさそうね」
子供相手にてんやわんやになっている男性陣に目を移し、エルはそう笑うのだった。
朝、ライル・ウィドル邸。
「ふええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
最初からクライマックスだった。
「何だ、貴様は何を欲しているのだ! 飯か! 便か! ええい、口がきけんというのがここまで厄介だとは! 神よ、アクアディーネよ、我に力を!」
始まって早々神頼み。すでに絶望がおまえのゴールだ状態です。
と、そのとき、
リンゴーン。
ウィドル邸の呼び鈴が鳴った。
「……何者!」
「わっ、びっくりした! ライル先輩、僕です、アダムですよ」
家主に殺気濃厚な視線をぶつけられ、『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が恐縮しつつ家に入ってくる。
「む、アダムか。何をしに来た」
「いえ、先輩が救援を要しているとのことで、僕が来ました」
「おお! 救援か! 国は俺を見放していなかったか!」
アダムの説明を受けて、しかめっ面だったライルの顔が一瞬綻ぶ。
「大丈夫です、僕が来たからにはもう安心です!」
言って、アダムは思い切り胸を張った。
何と力強い言葉であろうか。少し見ないうちに、この後輩騎士はここまで頼りになる男に育っていたのか。
男子、三日会わざれば刮目して見よ、とはこのことか。
「ライル先輩――」
「うむ、アダムよ――」
「「それで、何をすればいい」」
「ですか?」
「のだ?」
二人の声はきれいに重なっていた。
「…………」
「…………」
ライルとアダムが、お互いに顔を見合わせる。
「アダムよ」
「何ですか、先輩」
「貴様、子守りのやり方を知っているのではないのか?」
「知りません!」
彼は力強く断言した。
「ですが、騎士として力になれることがあるなら全力で力になります!」
「そうか、では」
ライルがアダムにレニー君を渡した。
「びえええええええええええええええええええええん!」
「うわあああああああああ!? 先輩、ライル先輩! 泣いてます!」
「見ればわかる! どうにかしろ!」
「無理です! これは騎士の領分ではない気がします!」
アダムの決断は早かった。
「お主ら、ちょっと情けなさすぎるじゃろ……」
そこに割り込んでくる、第四の声。
いつの間にか、部屋の中に『まま。』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)がいた。
「もしかしたらと思って来てみたら、想像を超えて絶望的状況ではないか」
シノピリカは呆れ顔になりつつもアダムに向かって手を伸ばす。
「ほれ、その子をこっちに」
「は、はい……」
生まれたての小鹿のようにプルプルしながらアダムがレニー君を彼女に渡す。
するとシノピリカはレニー君を抱いて優しく揺らした。
「ほれほれ、どうしたどうした。おなかがすいたのか? ん?」
「ふええ、あぅぅ~」
リズミカルに体を揺らすシノピリカに、レニー君の泣き声が小さくなる。
それを見ていた役立たず二人が、そろってガッツポーズをした。
「さすがです、シノピリカさん!」
「この難行をやり抜くとは、まさに自由騎士の鑑よ!」
「お主らが木偶の坊以下なだけじゃよ?」
「「グハァ!」」
木偶の坊×2、魂にクリティカルヒット!
「むぅ、どうやらおなかがすいているようじゃのう……。粉ミルクは、この缶じゃな? ふむ、台所は向こうか。ライル殿、ちと台所を借りるぞ」
ライルの答えをきかないまま、シノピリカは台所に向かっていった。
その、およそ二分後――
「……何をしているのだ、キミ達は」
新たにやって来た『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が、部屋の真ん中で仁王立ちで向き合っているライルとアダムを見て尋ねた。
二人は声を揃えて答えた。
「「騎士の在り方について考えていた」」
「なるほど」
つまり子守りには全く関係ないのだな。
と、それだけは確かに理解したテオドールであった。
●午前 ~イ・ラプセルよ、これが子守りだ~

「ほれれろろろぷるるるぱ~!」
「きゃっきゃっ!」
シノピリカの変顔にレニー君バカウケ!
ライルは引いた。
アダムは苦笑いした。
テオドールはノーコメントを貫いた。
「誰もお主らの評価など聞いていおらぬわ!」
レニー君を抱えつつ、シノピリカは実に微妙そうな顔で男連中を見る。
「全く、本当に何しに来たんじゃ、お主ら……?」
「失敬な。私をこの二人と一緒にしないでいただきたいのだが」
デカブツ二人を横目に、テオドールが不満を漏らす。
「お、言いおったな。ではほれ、抱いてみい」
「む……」
シノピリカからレニー君を受け取って、テオドールは難しい顔をした。
「……案外、重いのだな。それに柔らかい」
「今にも壊れそうでしょう。それが、赤ちゃんなんですよ」
声は、その場にいる誰のものでもなかった。
皆が部屋の入り口を見る。そこに、エプロン姿の『理系のマドンナ』フーリィン・アルカナム(CL3000403)がニコリと微笑み立っていた。
「おはようございます。皆さん、お早いですね」
「おはよう、フーリィン。……君は赤子の扱いには慣れているのか?」
おそるおそるレニー君を抱きながら、テオドールが尋ねる。
「ええ、孤児院にいたもので、そこそこは慣れてますよ」
「そうか、それは助かる! わしもそろそろ出ねばならぬゆえな」
シノピリカはわざわざ仕事の前に駆けつけてくれたらしい。
「あ、僕も行くよ!」
それはアダムも同じようだった。
「ふむ、では私は引き続きウィドル卿と共にこの子を見ていよう」
「私ももう少し見ておきますね」
代わって、テオドールとフーリィンがこの場に残った。
シノピリカとアダムがウィドル邸を去って、フーリィンがシノピリカの残した引継ぎ用のメモを見る。書かれている内容はほぼ予想通りのことだった。
「おしめはさっき取り換えたんですね」
「あ、ああ、うむ。大変だったが、何とか」
レニー君をベッドに寝かせて、テオドールがうなずいた。
「男子たるもの排便も一人でできぬとは」
ちなみにライオン野郎は変わらずこの様子である。
「ウィドル卿、それは些か無体が過ぎるというもの。未だ分別もつかぬ子供にそれを求めたところで、求めるウィドル卿こそが笑われよう」
しかしそこで、テオドールが口を挟んできた。
「む……」
「そも、卿に生後二か月ごろの記憶はおありか?」
「いや、それは……」
「ないだろう? ならば黙していることこそ務めだろう。なぁ?」
水を向けられたフーリィンが、「難しいですね」と小さく苦笑する。
「私は慣れていますけど、そうではない方はやっぱり色々と分からないことも多いと思いますよ。ねぇ?」
と、今度はフーリィンが同意を求める。
その視線の先に、ドアの隅から部屋を覗き込んでいるマザリモノの少年『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)がいた。
「ぴ」
一声鳴いて、鈴はドアの陰に隠れた。
そしてそろりそろりと出てきたすけっちぶっくに『そうですね』という筆談。
「おお、新たな応援か! 心強いぞ!」
「はい、おもてなし、します。赤ちゃんでも、関係ないです」
顔に喜色を浮かべるライルに、鈴がペコリとお辞儀をする。
「これだけいれば安心できるというものだな」
だがテオドールが言うと、鈴は答えずすけっちぶっくに『はい』と筆談。
「……キミはノウブルとは話せない感じかね?」
『ちょっとだけ、怖いです』と筆談。
「人それぞれ色々ですからね。私は大丈夫ですよ」
「ふむ、そうだな。事情はきくまい。とにかく短い時間だが、共に頑張ろう」
『ハイ!』と鈴の筆談。
ノウブルには筆談で会話する鈴を、二人のノウブルは受け入れる。
そして昼まで、騒がしくもほのぼのとした子守りの時間が続くことになった。
「むむ、何やら臭うぞ、フーリィン……?」
「まぁ、しちゃったんですね。鈴さん、おむつを持ってきてくれませんか?」
『了解です』と筆談。
一方その頃、ライオンは外で素振りの鍛錬をしていた。
「わっぷ! こ、こら! 私の顔におしっこをかけないでくれたまえ!」
「あらまぁ、元気ですね。ハイ、テオドールさん、手ぬぐいです」
『ぼくはもふもふですよー、さわりますかー。もふもふー』と筆談。
一方その頃、ライオンは二階に上がって愛用の剣の手入れをしていた。
「ミルクはこのくらいの温かさだろうか……?」
「ん~、ちょっと熱すぎるかも、ですね。もう少し覚ましてください」
『わ、わ、泣かないでください。もうすぐ、もうすぐごはんですよ~』と筆談。
その頃、ライオンは人数分の肉を焼いていた。
「お前達! そろそろ昼食にしたらどうだ!」
レニー君がミルクをいただいている最中、昼食の用意を終えたライルが皆に告げた。
「もうそんな時間かね」
そろそろ多少慣れた手つきでレニー君をベッドに移動させ、テオドールが振り向いた。
「そうですね。ではご飯を頂いたら、私達は戻りましょうか」
『はいです』と筆談。
そして昼間、自由騎士達は四人そろって昼食の時間と相成ったのだった。
なお、ライルの味付けはめちゃめちゃ辛かったらしい。
●午後 ~子守りは終わらぬ、いつまでも!~
「こんにちはー」
「助っ人に来たでありまーす!」
昼下がり、レニー君がちょうどお昼寝すやすや中に新たな仲間はやって来た。
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)と『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)の二人である。
「ちょうどドロテアさんとバッタリ出くわしまして。一緒に来ちゃいました」
「私達が来たからにはもう安心であります!」
ウィドル邸に入って、二人はまず持ってきた荷物を置く。
「おしめ用の布と、差し入れと」
「で、ライル殿は何をしているのでありますか?」
ドロテアが見ると、ライルがジッとレニー君を覗き込んでいた。
「いや、いつ泣き出すのかと思ってな」
「……別に待つ必要はないのでは?」
「果たしてそうか? こいつはまるで狙ったかのようなタイミングで泣き出してくる。俺をこの場から移動させまいという意思すら感じるのだぞ」
「いや、それは……」
「俺は同胞よりこやつの世話を頼まれた。未熟ゆえ失敗を重ねてはいるが、しかし、頼まれた以上は何としてもそれをやり遂げねばならんのだ。この心身朽ち果てようとも!」
「えい」
拳を握って熱弁を振るうライルの後頭部を、エルシーが軽く小突いた。
「いきなり何をする!」
「疲れすぎですよ」
怒鳴ろうとするライルへ、彼女は一言指摘を飛ばす。
「……何だと」
「慣れないことできを張りすぎて、完全に疲れ切ってるじゃないですか。休んでてください。ここは私達に任せてください」
「そうであります。今のライル殿は明らかにグッタリグロッキーなのであります。なので、少しだけでも休んだ方がいいであります!」
「だが……」
寝ているレニー君の方を見て、ライルは食い下がろうとする。
「「いいから休んでください」であります!」
しかしエルシーとドロテアは声を揃え、バッサリと彼を切り捨てた。
「むぅ……、分かった。少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
「分かってますよ」
自室へと戻っていくライルを見送って、エルシーは軽く息をついた。
「ライルさんみたいな人でも育児疲れってするんですね」
「子供は元気の塊だって聞くでありますから」
「ライルさんはライルさんなりに、頑張ってたんでしょうけどね」
「それにしたって相性悪すぎであります」
「ですよねー……」
そうして二人が話し込んでいたところ、
「ふぇ……、うぇぇえ! んぎゃあ!」
寝ていたレニー君が元気な泣き声と共に目覚めた。
「あ、お坊ちゃんが起きましたねー。ええっと、引継ぎのメモは……」
「ミルクでありますか? おむつでありますか?」
フーリィンらが残したメモを見つつ、エルシーとドロテアの子守りタイムが始まった。
「あ、これはおむつみたいですね。布、多めに持ってきておいてよかった」
「ほらほら、これなんかどうであります~?」
エルシーがテキパキとおむつの用意を進めている間に、ドロテアは持参してきたリラをつま弾いて、軽い調子の音楽を奏でる。
泣いていたレニー君が、その音色にコロっと笑顔になった。
「ふぁ~ん、レニー君かわいいであります~」
「本当に、生まれたばっかりって感じですよね」
「眠たくなったら言うでありますよ~。子守歌でぐっすりであります!」
「それ、私まで眠くなると困りますから、ほどほどでお願いしますね」
女性二人がレニー君相手にキャッキャしている頃、
「グオゴゴゴゴ~!」
ライオンの部屋は、いびきによって揺れていた。
●夜 ~激闘! 真夜中の子守りクライマックス!~
ライルはドアを開けた。
「いつまでグースカ寝てんのよ、あんたは」
『魔女』エル・エル(CL3000370)に叱られた。
「むぅ……」
「クックック、ライルの旦那も随分とお疲れのようで」
同じく部屋にいた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が、恐縮するライルを見て小さく噴き出す。
「まぁまぁ、そこまでにしておくネ。こっち手伝ってほしいヨ」
ワン・フェイロン(CL3000492)がレニー君をあやしつつ、ウェルスをたしなめた。
「すっかり暗くなっているな……、寝すぎたか」
「ま、別にそのまま寝ててもよかったけどね。手は足りてるし」
肩をすくめるエルに、ライルは「そうはいかん」とかぶりを振った。
「頼まれたのは俺なのだ。その俺が怠けるなど、あってはならん!」
「しーっ! 旦那、静かにしてくれ」
力を込めて言うと、今度はウェルスに叱られた。
「ふぇ……、うぇぇぇぇぇ……」
だがそれも空しく、レニー君がぐずり始めてしまった。
「「「もー」」」
三人のジトッとした視線が、ライルへと突き刺さる。
「…………」
さすがにライルは押し黙った。
「あ~ぁ、もう、さっきまで笑ってたのに、やってくれたネ」
「慣れてないんだから仕方がないわね。それに、子供は泣くものだわ」
ブーたれるフェイロンに言うと、エルがレニー君を抱き上げた。
「ほらほら、どうしたの? 怖かった? あなたは何で泣いているの?」
ほのかに微笑んで、エルはレニー君をゆっくりと揺らす。
レニー君はまだぐずっているが、ひとまず泣くのはやめてくれた。
「あら、もっと泣いてもいいのよ。気が済むまでね」
「エルさんエルさん、マジで言ってるの? 今もうすっかり夜っすよ?」
ウェルスが眉根を寄せつつ尋ねると、エルはあっさり「当然よ」と言い返した。
「子供は、理由なく泣くものよ。そういうときは待っててあげればいいのよ」
「そんなものネ?」
「こっちが焦ったら、子供にも伝わってしまうもの」
「「なるほど~」」
言い切るエルを見て、フェイロンもウェルスも感心する。
「さすが、見た目少女の中身ババア。よく知ってらっしゃる」
「……燃やされたい?」
「いや~、それにしてもレニー君はちっちゃいなー!」
ウェルスはさっさとエルに背を向けて、レニー君の相手をし始めた。
指を伸ばすと、レニー君がその指を掴んでくる。
小さな、とても小さな手だった。
「人ってのは、生まれたばっかのときはこんなに小さいんだな」
「そうだヨ。だから大きい者が守らなきゃいけないネ」
子供好きなフェイロンもレニー君を覗き込みつつ、うなずいた。
などと、空気がややしんみりとしたところで、
「うえ、びええええええええええええええええええええええええん!」
夜 泣 き 。
「うおお、いきなりびっくりしたぁ!!?」
「ハハハ、エルも言ってたけど子供は泣くものネ。さて、こっから大変ヨ」
ケラケラ笑って、フェイロンがレニー君をあやしにかかる。
「ほ~ら、べろべろば~。笑うといいネ~」
「おっと、俺だってただ話に来たワケじゃないぜ? べ、べろべろば~?」
「うっわ、変顔ヨ」
「ブン殴るぞ、オイ」
「ふぇぇぇぇえええええええええええええええええん!」
「「べろべろば~~~~~!」」
男二人がレニー君に翻弄されている姿を見て、エルは笑った。
「あなたも混ざってきたら。こういうのも経験でしょう?」
彼女はライルを見た。
「む、しかし……」
「行ってきなさい。今日みたいなこと、またあるかもしれないでしょ」
そう言われては返す言葉もない。ライルも対夜泣き戦線へと突撃していった。
ふと、エルが窓から外を見る。
月はまだ高く、夜が明けるのはもうしばらく先だろう。
夜が明ければ子守りは終わる。それまでの、短い間ではあるが――
「フフ、退屈はしなさそうね」
子供相手にてんやわんやになっている男性陣に目を移し、エルはそう笑うのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
お疲れさまでした!
レニー君は翌朝、無事に引き取られていったようです。
いやー、子守りって大変ですよね。
個人単位の戦争だという話も聞きます。
それだけに、自由騎士でなければ解決できない戦いでした!
ご参加ありがとうございました!
レニー君は翌朝、無事に引き取られていったようです。
いやー、子守りって大変ですよね。
個人単位の戦争だという話も聞きます。
それだけに、自由騎士でなければ解決できない戦いでした!
ご参加ありがとうございました!
FL送付済