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ダンスでダイエットしてみたんだって

月が天上で淡く輝き、かつては栄えたのであろう屋敷跡、今となってはただの更地を照らし出す。
ボコ、ボコリ、土が膨れ、白く無機質な手が、腕が、肩が這いだして、やがて全身を露わにして骸骨は紳士、あるいは淑女然りとした一礼を交わした。
寄せ集めたガラクタで作った楽器を鳴らし、骸たちは手を取り歪なダンスを踊る。カタカタ、ケタケタ、頭蓋骨が顎を鳴らし、楽し気な音に応えるように、どこか遠くで汽笛が鳴り響いた……。
「こんな噂を知っているかい?」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は街を行く女の子にキリッとした視線を送るが、気づいてもらえなかったらしく何の反応もなかったことにほんのり落ち込みながらこちらに振り向いた。
「町外れの空き地を知っているかい? 昔は豪華な屋敷があったってやつ。最近そこで、夜な夜な還リビトが湧いてはダンスパーティーを開いているらしい」
還リビトといえば生命力を求め、生物と見れば無差別に襲いかかってくる危険な存在のはずだが、噂が流れる……つまり、目撃者がいるという事は、生前の行動に引っ張られてダンスを踊る事に執心らしい。とはいえ、それは近づかなければ、の話であって、相手が危険な存在であることに変わりはない。
「ここまで言えば、もう、分かるだろう?」
ヨアヒムのチラッ、チラッとした視線に大体察した。王国騎士団は今そちらまで手が回せなく、こうしてこちらに助けを求める声が飛んできたのだと。
君たちは気づかなかったフリをしてとぼけて立ち去ってもいいし、良心の導くままに夜間の討伐に挑むのも、襲われるのを覚悟で折角だから踊ってみるのも自由だ。
ボコ、ボコリ、土が膨れ、白く無機質な手が、腕が、肩が這いだして、やがて全身を露わにして骸骨は紳士、あるいは淑女然りとした一礼を交わした。
寄せ集めたガラクタで作った楽器を鳴らし、骸たちは手を取り歪なダンスを踊る。カタカタ、ケタケタ、頭蓋骨が顎を鳴らし、楽し気な音に応えるように、どこか遠くで汽笛が鳴り響いた……。
「こんな噂を知っているかい?」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は街を行く女の子にキリッとした視線を送るが、気づいてもらえなかったらしく何の反応もなかったことにほんのり落ち込みながらこちらに振り向いた。
「町外れの空き地を知っているかい? 昔は豪華な屋敷があったってやつ。最近そこで、夜な夜な還リビトが湧いてはダンスパーティーを開いているらしい」
還リビトといえば生命力を求め、生物と見れば無差別に襲いかかってくる危険な存在のはずだが、噂が流れる……つまり、目撃者がいるという事は、生前の行動に引っ張られてダンスを踊る事に執心らしい。とはいえ、それは近づかなければ、の話であって、相手が危険な存在であることに変わりはない。
「ここまで言えば、もう、分かるだろう?」
ヨアヒムのチラッ、チラッとした視線に大体察した。王国騎士団は今そちらまで手が回せなく、こうしてこちらに助けを求める声が飛んできたのだと。
君たちは気づかなかったフリをしてとぼけて立ち去ってもいいし、良心の導くままに夜間の討伐に挑むのも、襲われるのを覚悟で折角だから踊ってみるのも自由だ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビトの討伐
皆さま初めまして、前回お会いした方はまた会ってしまったなッ!
という感じの残念です
今回は踊り過ぎて骨になるほどダイエットした人々……もとい、毎晩踊ってる還リビトの討伐です
【現場】
広い空き地
遮蔽物がなく、月明かりに照らされるため夜間でも照明は不要
足場はステップが刻める程度にはしっかり
【敵】
還リビト(骸骨の紳士淑女)
数はオラクル達の倍くらいいそうだけど、個体の戦闘力はそんなでもないから、油断しなければ問題ない……はず?
武器などは持ち合わせておらず、基本素手か、せいぜい落ちてるゴミをフェンシング風に振り回す程度
【目的】
還リビトの討伐
きちんと全滅させましょう
【おまけ】
還リビトは生物を見るや否や生命力をムシャムシャしようとしてきますが、理性を持ち合わせず、生前の行動に引っ張られて動いている為、ダンスを披露してその姿が魅力的であれば、襲いかかってくる前に一曲踊ってくれるかもしれませんし、そも近づかなければ襲いかかって来ない為、遠くで一緒に踊ってから戦ってもいいかもしれません
という感じの残念です
今回は踊り過ぎて骨になるほどダイエットした人々……もとい、毎晩踊ってる還リビトの討伐です
【現場】
広い空き地
遮蔽物がなく、月明かりに照らされるため夜間でも照明は不要
足場はステップが刻める程度にはしっかり
【敵】
還リビト(骸骨の紳士淑女)
数はオラクル達の倍くらいいそうだけど、個体の戦闘力はそんなでもないから、油断しなければ問題ない……はず?
武器などは持ち合わせておらず、基本素手か、せいぜい落ちてるゴミをフェンシング風に振り回す程度
【目的】
還リビトの討伐
きちんと全滅させましょう
【おまけ】
還リビトは生物を見るや否や生命力をムシャムシャしようとしてきますが、理性を持ち合わせず、生前の行動に引っ張られて動いている為、ダンスを披露してその姿が魅力的であれば、襲いかかってくる前に一曲踊ってくれるかもしれませんし、そも近づかなければ襲いかかって来ない為、遠くで一緒に踊ってから戦ってもいいかもしれません
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年07月22日
2018年07月22日
†メイン参加者 8人†
●ネタネタするつもりが皆シリアス寄りで困ってます
「還リビトとして戻って最初にした事が舞踊とはね。彼ら、彼女らもまた芸術に生きて死した哀れな迷い子なんだろう……同情の余地は無いけれど、同じ芸術に生きる者として、せめてもの手向けくらい贈らせて貰いたいね」
そう語る『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)がヴァイオリンを調律する傍ら、『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)は額に手をかざしてジッと目を細める。
十分に距離を取ったその先にあるのは、骸の舞踏会……ていうか、あんた鳥なのに夜目効くのね。
「鳥じゃねぇ、ケモノビトだ!」
あ、はい。
「……ったく、遠くから見ているぶんには毎日踊ってのんきなもんだと思うが、所詮生者と死者は相容れぬ。蹴散らさせてもらうぜ!」
バサリ、全身を隠していたマントを翻した下から出てきたのは、隠すべき場所に多少の布を巻き、その上から透き通った煌びやかな布を纏った姿。
「ふふふ。ベリーダンスを選ぶのはスタイルに自信がなくては出来るものではない! 見よ、贅肉のない腹回りを!」
「体の話なら負けぬぞ!」
キュッ、と細くなったお腹をポンと叩いて見せるオルステッドの隣、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が張り合い始めた。
「ワシの恵体はちゃんと筋肉なので。体動かす為の重さなので。ダイエットなどしゃらくさいわー!」
誰に向けた言い訳なのか知らないが、ドーンと言い張ったシノピリカがお腹をパンと叩く。
「……おや?」
お気づき頂けただろうか? オルステッドがポン、中身が空洞である……つまり、余分な脂肪を持たず、消化器官という名の空白に音を響かせられる証拠である音がした事に対し、シノピリカは、パン。中身がみっちり詰まっている音だった。これだけでは筋肉なのか脂肪なのか分からないが、シノピリカは恐る恐る自分の腹に触れてみる。
……硬い。ほとんどは筋肉だった、が。
「腹が……つまめる?」
鍛え抜かれた肉体の表面に、活動の為に体が蓄積していた油分が溜まってしまっていたもよう。
「良し! 踊ろう!」
この時のシノピリカはまだ知らない。一回や二回踊ったくらいでは、ダイエットのダの字も達成できないという事実を……。
「還リビトには死の直前の強い思念が宿るっていうけど……死に瀕してまで踊りたいと願っていたなんて、よほどの踊り好きだったのかしら? せめてその願いだけは叶えてあげたいわね」
『深窓のガンスリンガー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は感慨深そうな目をするが、それは感傷故にではなく、踊りたかったという彼らの思念に、思い当たる節があったからだ。同じく感じる物があったのだろう。ヒルダの手を、シノピリカが取る。
「では、一曲いかがかの?」
「えぇ、喜んで」
●踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆ならツッコミがいない
「あそれ、パパンがパン! だーれが殺したサーロイン♪」
「って何よこれぇ!?」
顔の横で手拍子しながら屍共のど真ん中を歩くシノピリカに、同じ動きをしていたヒルダが絶叫。当のシノピリカは首を傾げ。
「牛串一筋ウン百年、必殺の串焼き音頭じゃが? あ、音頭とは遠いご先祖様が……」
「そんなのはどうでもいいのよ! これ何か違うでしょう!?」
実は周りの骸骨は音頭なるダンスが珍しすぎて興味深々なのだが、単にヘイトを稼いだのではないかと警戒するヒルダは、たった二人で十六もの還リビトに囲まれ内心ビクビクである。
「にふふ~♪ 依頼で踊れるとは思わなかったにゃ♪」
若干二名がピンチともそうでもないとも言い難い状況下にあるなか、『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)は待ちきれないと言わんばかりにうずうず……したのも僅か数秒。屍たちの前に文字通り躍り出て腰蓑を揺らし、翻る布の陰で尾の鈴を鳴らす。
「踊りとくればミケの出番でしょっ♪ 職業踊り子の魅せる踊りをとくとご覧あれっ」
まずは小手調べと言わんばかりにステップを刻んだミケは片手で腰蓑をつまみ、大きく広げるようにして黒布のドレープを見せながら、片手を伸ばしてウィンク一つ。
小刻みにステップを刻んで布を翻し、その姿を隠したかと思えばそこには一匹の獣。くるりと回った獣が布に包まれ姿が見えなくなると、一周するうちに再びミケの姿が現れる。舞と奇術を組み合わせたような光景に、観客からは骸骨故の乾ききった音とはいえ、惜しみない拍手が送られた。
「最近本当に多いわね、犠牲者が出る前で何よりだけど」
歓声っぽい無機質な骨がぶつかり合う音を響かせる屍共を見回し、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はため息を溢す。
「あいにく、社交界などといった世界には全く縁がないもので……実践一辺倒の花のない型ではありますが、披露する事に迷いはありません」
ミルトスがチラと視線を投げると、カノンがヴァイオリンを構えた。奏でる旋律は緩急付けた動的なリズム。緩やかに流れる音色に乗ってミルトスが腕と脚をゆっくり上げ、切るような素早く甲高い衝撃に合わせて地面を踏み締め、虚空を拳が穿つ。
再び始まるなだらかな旋律に合わせて伸ばした腕と脚を引き絞り、その頂点で再び響く鐘のような音色に導かれるように震脚と正拳を打ち、微動だにせずその一撃の姿のまま制止して見せる。
鳴り響く無機質な拍手に応えて一礼しながらも、さりげなく、少しずつ距離を詰めていくミルトス。あくまでも、演武は屍達の興味を引くためのものであり、本来の目的は彼らの討伐。仲間とタイミングを合わせて自分の距離に持ち込む為、動きは華やかなままに、歩幅は一足に拳を届ける為に。
「あぁ、なんて優雅で華麗な動き……! まるで舞踏会のようです……!」
次々と披露される演武と舞踏に『ノンストップ・アケチ』タマキ・アケチ(CL3000011)が欲情の眼差しを……間違えた、感動の視線を……。
「んんっ、皆さま素晴らしすぎて体の震えがとまりませんね、ふふ……!」
びくんびくん。いや待て落ち着こう、あれはあくまでも感動に打ち震えて……ダメだ、どう見てもイッちゃってる人の目だ……!
「なんだろうこの状況……」
『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)の目が死んだ。待って帰って来て! 今回は真面目にやるって決めたんでしょう? シリアスにいくって決めたんでしょう!?
「踊っているところに不意打ちは無粋ね……」
そっと下がっていくアリア……逃げた? あのアマ、このカオスを放置して逃げやがった!?
「さーて、ダンス合戦といこうじゃねぇか」
オルステッドはふわりと両手を広げ、空を行く鳥から抜け落ちた羽根が風に舞うように緩やかに指先から手を、腕を、肩を揺らして、腰は吹き荒れる風のように荒々しくもリズミカルに。体の上下で異なるリズムを刻むオルステッドに合わせ、纏った薄布が振り乱されて織り込まれた煌びやかな糸が月光を浴び、銀線が幻想的な軌跡を描く。
「あ、これ音頭とかじゃなかったやつかの? では月夜のワルツと洒落込むかな」
「最初からそう言ってるじゃない……!」
ようやく雰囲気的な何かを正しく感じ取ったっぽいシノピリカに、ヒルダが頭痛を覚えたようにこめかみを押さえると、二人は正面から向き合い一礼。
頭一個分ほど背が高いシノピリカはヒルダの負担にならないよう、やや低めに手を差し出し抱き寄せる。
カノンがテンポを遅らせて、ゆったり刻む三拍子。ヒルダが体を預け、シノピリカが支え、視線を重ねて一、二、三……淡い音色にゆったりしたステップ。穏やかな一時にまどろみが誘われ……。
「んふ、ふふふ、私も興奮してまいりました……!」
うん、静かに終わるわけねーなって気はしてたよ!
●芸術家って時々頭おかしいと思う
「皆さまの情熱的なダンス、しかと見届けさせていただきました……私も負けませんよ……!」
自由騎士達に触発されたのか、各々勝手にリズムを取る還リビトが混じっている。その中の一体の前に飛び出したタマキは真っ赤な布を翻し、手にはカスタネットを備え口に一輪の薔薇を咥える。顎をクイッと起こし、屍を誘えば、鏡映しのように構えた。
「一曲、お付き合い願います……!」
荒々しいヴァイオリンの旋律に乗ってカスタネットを打ち鳴らし、踵で地を打ち音を重ねながらクルクルと舞い布を翻す。バサリと音が響くほどに派手に舞う布の陰で二人が入れ代わり、背中合わせにフィニッシュ。カスタネットと骨の手拍子がラストを飾り、骸は空を見上げて静かに朽ち果てていく……その姿が見えないのか、理解できないのか、溢れんばかりの拍手が響き、タマキは布と楽器を投げ捨てて。
「まだまだ参りますよ……レッツ、フィーバー!」
タマキは腰に手を当て、逆の手は人差し指を立てて天を示す。見たことも聞いた事もないスタイルに屍だけでなく、自由騎士達まで釘付けである。
「な、なんだありゃ……?」
オルステッドがポカンと見やる前でタマキは腰を前後に振りながら両手を上下に振るという奇妙な舞を披露。
「ふふ、夢に見た動きをダンスで表現してみました……!」
夢だけでダンス作るとか、芸術家は頭おかしいと思う。でももっとおかしいのは、その事実上の即興ダンスに的確な曲を引き続けるカノンと、初見のはずなのに動きを把握してタマキの横で四つのステップで前を向いたまま、グルグル回るような動きで一緒に踊ってるミケの方かも知れない。お前らなんで分かるんだよ?
「ふっ……芸術家の感性を舐めないで欲しい。その中でも僕は音楽においては天才だと自負している。たとえ初めて聞いたエチュードだろうと、それが五線譜を駆ける黒き旅人ならば、エンディングまで導いてみせよう」
「にっふっふー、ミケにかかればダンスなんて、ワンフレーズで全部お見通しにゃ!」
静かに笑うカノンにドニャッと立派な胸を張るミケ。
「んんっ、見られてる、私、今、見られてる……! あぁ、恥ずかしい、そして気持ちいい……」
何かビクビクしてるタマキを放置して、カノンがヴァイオリンの構えを変えると曲調が段々速度を失っていく。それは、自由騎士たちが先に決めていた合図。
「さぁフィナーレだ」
最後の音符が風に攫われ消えて行き、騎士団は一斉に得物を構える。
「その偽りのパルティトゥーラに今こそフェルマータを刻み込もう!!」
●還リビトさん達はお帰りになるそうです
「数は多くとも踊るばかりの烏合の衆。確実に仕留めよう。集中してぶったたけ!」
オルステッドが吠えると同時に脚部に意識を集中。筋繊維を組成し直して急接近、からの緊急離脱で異変に臨戦態勢を取った屍に一発空振りさせる。攻撃後の隙に刺突剣を突き立て突き崩しながら、背面から迫る一体へ得物を投擲、頭蓋をぶち抜き打ち砕いて見せた。
「まだまだ踊り足りないけど、ここまでにゃっ♪」
シャンシャン、ダンスと異なるステップで後方へ跳び退きながら残していく音で大気の魔力を手繰り寄せ、軽く呼吸を整え、胸を叩いて喉の調子を確かめる。
「にふふふっ。ミケの氷と炎の舞をとくと味わうといいにゃっ」
歌い踊る一夜限りの歌劇を前に、繰り広げられるは業火と氷牢。魔力を指先に宿して踊り、その軌跡が意思を持った炎のように骸を追えば火柱が走る。紡ぐ言の葉に呼吸で取り込んだ魔力を乗せれば、逃げ惑う屍を捕えるように氷壁が立ちはだかり、飲み込んだ。
「武とダンスの真髄とは近い所にあると思うの」
相反するものが駆け巡る戦場で、ミルトスは足音もなく獲物に距離を詰めていて。
「終わらない曲が無いように、終わらない命もないのです。修道士として、責任を持って送らせていただきます」
拳を合わせ、武闘家としての一礼をしつつ修道女として祈りを捧げ、一足の踏み込みと同時に押し付けた拳は、真っ直ぐに力を伝えるが、止まらない。さらに一歩、踏み込むように拳を送り出し、殴り飛ばした屍を後ろに控えていた一体に叩き付け、瓦解させながら怯んだ二体目の前に脚を降ろす。
「これで、お別れです」
姿勢を落とさぬままに、すくい上げるような軌道で掌底を当て、宙へと放つ。
「……私もまだまだ修行不足。この程度ではとても絶招とは言い張れませんね」
思っていたよりも派手な音を残し、還リビトの一体が粉砕された。
「私達も続くわよ!」
「うむ、しばし待たれよ!」
銃を構えたヒルダの横で、シノピリカがトランクを投げる。空へ舞った鞄は勝手に開き、彼女の左腕に食いつくと、反転するようにして巨大な拳を形作る。指先を一度開き、順に握り込んで神経の接続を確認したシノピリカと、散弾銃に装填を終えたヒルダが背中を重ね。
「「Shall We……?」」
釣られるように突っ込んでくる還リビトを、シノピリカが頭突きで迎撃。頭蓋を割りながら額が割られるが、その痛みと出血に興奮を覚える。それは、誰かが受けるはずだった痛みを、自分が引き受ける事ができた、騎士の誉れの証だから。
「まだまだぁ! どんどんかかってくるがいいのじゃぁ!!」
苦痛にむしろ笑みを浮かべるシノピリカに還リビトが一瞬足を止め、その瞬間に巨女の陰から少女が躍り出る。
「この距離ならまとめて吹き飛びそうね?」
微笑み一つ、引き金一発。ばら撒かれる弾丸が骸の群れを削り潰し、もはや原型の残らぬ白き残骸へと変えてしまう。硝煙代わりに吐き出される蒸気の向こう、一体の生き残りが突進を仕掛けるもヒルダはくるりと舞い、突き出してきた無骨な機械腕がその頭を掴み、吊し上げた。
「しーげーるー……」
ミシリ、悲鳴をあげる骸に向けて、ガチリ、腕甲の内部機構が起動する。己が義腕に呼応して、深く息を吸って下腹部に力を溜め体幹を固定、肘、肩のバネでその一撃を叩きこむ。
「インパクトッ!!」
ガインッ!! 重厚な金属音と共に闘気と衝撃が放たれ、排熱機関から蒸気が噴き出した。頭を粉微塵にされた屍が崩れ落ち、残された一体へ、アリアがスカートの裾をそっとつまみ上げる。
「素敵な殿方、私と踊って下さ……」
「そのスカートでカーテシーは無理があるんじゃない? っていうかパンツ見えちゃうわよ! あたしに見せてくれるっていうなら歓迎するけど!」
「こういうのは形が大事なの!」
シリアスな雰囲気をヒルダにぶち壊されたアリアがため息を溢し、還リビトは苦笑するように首を傾けた。
改めて手を伸ばせば、肉と皮を失った手は優しく受け止めて、引き寄せてくれる。身を委ねれば腰に手を回し、動きやすいよう余裕を持ってリード。二人で踊るのではなく、アリアを『躍らせて』くれるその動きは、生前誰かと共にあったのであろうことを思わせた。
「せめて、生前愛した遊戯と共に……」
アリアにターンさせていた還リビトは、彼女がそっと離れていく様を見守る様に動かない。戻ってきた彼女は手を取ろうとするが、屍は応えなかった。
「あなたは、もしかして……」
還リビトに理性はなく、その行動は生前の記憶に引っ張られているに過ぎない。裏を返せば、それは生前の最期の想い。果たせなかった未練。つまり、彼は『最後まで』踊れなかったのだろう。
祈る様に目をつむり、振るう刃に軽い手応え。カツリ、地面に落ちたシャレコウベが軽い音と、言葉を遺す。
「ありがとう、素敵なお嬢さん。けれど、そのお気持ちだけで十分です。どうか、貴女は貴女の幸せを追ってください」
それは、結ばれなかった想い。貴族の間にはよくあることだ。当人たちの心は関係なく、権力の為に結ばれるなど。
「え……?」
還リビトの言葉に意味はない。それはきっと、生前の言葉の繰り返しに過ぎないのだから。だが、何の価値もないはずの声に、アリアは目を見開く。
「こっちを、見た……?」
還リビトに会話を行う知性はない。故に、彼らの声は一方的な言の葉の吐露に過ぎないはずだ。
だから、それはきっと気のせいなのだろう、勘違いなのだろう。あるいは頭蓋骨が地面に落ちた時、偶然そのようになっただけなのだろう……還リビトの目が、アリアを見つめていただなんて。
「還リビトとして戻って最初にした事が舞踊とはね。彼ら、彼女らもまた芸術に生きて死した哀れな迷い子なんだろう……同情の余地は無いけれど、同じ芸術に生きる者として、せめてもの手向けくらい贈らせて貰いたいね」
そう語る『極彩色の凶鳥』カノン・T・ブルーバード(CL3000334)がヴァイオリンを調律する傍ら、『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)は額に手をかざしてジッと目を細める。
十分に距離を取ったその先にあるのは、骸の舞踏会……ていうか、あんた鳥なのに夜目効くのね。
「鳥じゃねぇ、ケモノビトだ!」
あ、はい。
「……ったく、遠くから見ているぶんには毎日踊ってのんきなもんだと思うが、所詮生者と死者は相容れぬ。蹴散らさせてもらうぜ!」
バサリ、全身を隠していたマントを翻した下から出てきたのは、隠すべき場所に多少の布を巻き、その上から透き通った煌びやかな布を纏った姿。
「ふふふ。ベリーダンスを選ぶのはスタイルに自信がなくては出来るものではない! 見よ、贅肉のない腹回りを!」
「体の話なら負けぬぞ!」
キュッ、と細くなったお腹をポンと叩いて見せるオルステッドの隣、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が張り合い始めた。
「ワシの恵体はちゃんと筋肉なので。体動かす為の重さなので。ダイエットなどしゃらくさいわー!」
誰に向けた言い訳なのか知らないが、ドーンと言い張ったシノピリカがお腹をパンと叩く。
「……おや?」
お気づき頂けただろうか? オルステッドがポン、中身が空洞である……つまり、余分な脂肪を持たず、消化器官という名の空白に音を響かせられる証拠である音がした事に対し、シノピリカは、パン。中身がみっちり詰まっている音だった。これだけでは筋肉なのか脂肪なのか分からないが、シノピリカは恐る恐る自分の腹に触れてみる。
……硬い。ほとんどは筋肉だった、が。
「腹が……つまめる?」
鍛え抜かれた肉体の表面に、活動の為に体が蓄積していた油分が溜まってしまっていたもよう。
「良し! 踊ろう!」
この時のシノピリカはまだ知らない。一回や二回踊ったくらいでは、ダイエットのダの字も達成できないという事実を……。
「還リビトには死の直前の強い思念が宿るっていうけど……死に瀕してまで踊りたいと願っていたなんて、よほどの踊り好きだったのかしら? せめてその願いだけは叶えてあげたいわね」
『深窓のガンスリンガー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は感慨深そうな目をするが、それは感傷故にではなく、踊りたかったという彼らの思念に、思い当たる節があったからだ。同じく感じる物があったのだろう。ヒルダの手を、シノピリカが取る。
「では、一曲いかがかの?」
「えぇ、喜んで」
●踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆ならツッコミがいない
「あそれ、パパンがパン! だーれが殺したサーロイン♪」
「って何よこれぇ!?」
顔の横で手拍子しながら屍共のど真ん中を歩くシノピリカに、同じ動きをしていたヒルダが絶叫。当のシノピリカは首を傾げ。
「牛串一筋ウン百年、必殺の串焼き音頭じゃが? あ、音頭とは遠いご先祖様が……」
「そんなのはどうでもいいのよ! これ何か違うでしょう!?」
実は周りの骸骨は音頭なるダンスが珍しすぎて興味深々なのだが、単にヘイトを稼いだのではないかと警戒するヒルダは、たった二人で十六もの還リビトに囲まれ内心ビクビクである。
「にふふ~♪ 依頼で踊れるとは思わなかったにゃ♪」
若干二名がピンチともそうでもないとも言い難い状況下にあるなか、『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)は待ちきれないと言わんばかりにうずうず……したのも僅か数秒。屍たちの前に文字通り躍り出て腰蓑を揺らし、翻る布の陰で尾の鈴を鳴らす。
「踊りとくればミケの出番でしょっ♪ 職業踊り子の魅せる踊りをとくとご覧あれっ」
まずは小手調べと言わんばかりにステップを刻んだミケは片手で腰蓑をつまみ、大きく広げるようにして黒布のドレープを見せながら、片手を伸ばしてウィンク一つ。
小刻みにステップを刻んで布を翻し、その姿を隠したかと思えばそこには一匹の獣。くるりと回った獣が布に包まれ姿が見えなくなると、一周するうちに再びミケの姿が現れる。舞と奇術を組み合わせたような光景に、観客からは骸骨故の乾ききった音とはいえ、惜しみない拍手が送られた。
「最近本当に多いわね、犠牲者が出る前で何よりだけど」
歓声っぽい無機質な骨がぶつかり合う音を響かせる屍共を見回し、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はため息を溢す。
「あいにく、社交界などといった世界には全く縁がないもので……実践一辺倒の花のない型ではありますが、披露する事に迷いはありません」
ミルトスがチラと視線を投げると、カノンがヴァイオリンを構えた。奏でる旋律は緩急付けた動的なリズム。緩やかに流れる音色に乗ってミルトスが腕と脚をゆっくり上げ、切るような素早く甲高い衝撃に合わせて地面を踏み締め、虚空を拳が穿つ。
再び始まるなだらかな旋律に合わせて伸ばした腕と脚を引き絞り、その頂点で再び響く鐘のような音色に導かれるように震脚と正拳を打ち、微動だにせずその一撃の姿のまま制止して見せる。
鳴り響く無機質な拍手に応えて一礼しながらも、さりげなく、少しずつ距離を詰めていくミルトス。あくまでも、演武は屍達の興味を引くためのものであり、本来の目的は彼らの討伐。仲間とタイミングを合わせて自分の距離に持ち込む為、動きは華やかなままに、歩幅は一足に拳を届ける為に。
「あぁ、なんて優雅で華麗な動き……! まるで舞踏会のようです……!」
次々と披露される演武と舞踏に『ノンストップ・アケチ』タマキ・アケチ(CL3000011)が欲情の眼差しを……間違えた、感動の視線を……。
「んんっ、皆さま素晴らしすぎて体の震えがとまりませんね、ふふ……!」
びくんびくん。いや待て落ち着こう、あれはあくまでも感動に打ち震えて……ダメだ、どう見てもイッちゃってる人の目だ……!
「なんだろうこの状況……」
『安らぎへの導き手』アリア・セレスティ(CL3000222)の目が死んだ。待って帰って来て! 今回は真面目にやるって決めたんでしょう? シリアスにいくって決めたんでしょう!?
「踊っているところに不意打ちは無粋ね……」
そっと下がっていくアリア……逃げた? あのアマ、このカオスを放置して逃げやがった!?
「さーて、ダンス合戦といこうじゃねぇか」
オルステッドはふわりと両手を広げ、空を行く鳥から抜け落ちた羽根が風に舞うように緩やかに指先から手を、腕を、肩を揺らして、腰は吹き荒れる風のように荒々しくもリズミカルに。体の上下で異なるリズムを刻むオルステッドに合わせ、纏った薄布が振り乱されて織り込まれた煌びやかな糸が月光を浴び、銀線が幻想的な軌跡を描く。
「あ、これ音頭とかじゃなかったやつかの? では月夜のワルツと洒落込むかな」
「最初からそう言ってるじゃない……!」
ようやく雰囲気的な何かを正しく感じ取ったっぽいシノピリカに、ヒルダが頭痛を覚えたようにこめかみを押さえると、二人は正面から向き合い一礼。
頭一個分ほど背が高いシノピリカはヒルダの負担にならないよう、やや低めに手を差し出し抱き寄せる。
カノンがテンポを遅らせて、ゆったり刻む三拍子。ヒルダが体を預け、シノピリカが支え、視線を重ねて一、二、三……淡い音色にゆったりしたステップ。穏やかな一時にまどろみが誘われ……。
「んふ、ふふふ、私も興奮してまいりました……!」
うん、静かに終わるわけねーなって気はしてたよ!
●芸術家って時々頭おかしいと思う
「皆さまの情熱的なダンス、しかと見届けさせていただきました……私も負けませんよ……!」
自由騎士達に触発されたのか、各々勝手にリズムを取る還リビトが混じっている。その中の一体の前に飛び出したタマキは真っ赤な布を翻し、手にはカスタネットを備え口に一輪の薔薇を咥える。顎をクイッと起こし、屍を誘えば、鏡映しのように構えた。
「一曲、お付き合い願います……!」
荒々しいヴァイオリンの旋律に乗ってカスタネットを打ち鳴らし、踵で地を打ち音を重ねながらクルクルと舞い布を翻す。バサリと音が響くほどに派手に舞う布の陰で二人が入れ代わり、背中合わせにフィニッシュ。カスタネットと骨の手拍子がラストを飾り、骸は空を見上げて静かに朽ち果てていく……その姿が見えないのか、理解できないのか、溢れんばかりの拍手が響き、タマキは布と楽器を投げ捨てて。
「まだまだ参りますよ……レッツ、フィーバー!」
タマキは腰に手を当て、逆の手は人差し指を立てて天を示す。見たことも聞いた事もないスタイルに屍だけでなく、自由騎士達まで釘付けである。
「な、なんだありゃ……?」
オルステッドがポカンと見やる前でタマキは腰を前後に振りながら両手を上下に振るという奇妙な舞を披露。
「ふふ、夢に見た動きをダンスで表現してみました……!」
夢だけでダンス作るとか、芸術家は頭おかしいと思う。でももっとおかしいのは、その事実上の即興ダンスに的確な曲を引き続けるカノンと、初見のはずなのに動きを把握してタマキの横で四つのステップで前を向いたまま、グルグル回るような動きで一緒に踊ってるミケの方かも知れない。お前らなんで分かるんだよ?
「ふっ……芸術家の感性を舐めないで欲しい。その中でも僕は音楽においては天才だと自負している。たとえ初めて聞いたエチュードだろうと、それが五線譜を駆ける黒き旅人ならば、エンディングまで導いてみせよう」
「にっふっふー、ミケにかかればダンスなんて、ワンフレーズで全部お見通しにゃ!」
静かに笑うカノンにドニャッと立派な胸を張るミケ。
「んんっ、見られてる、私、今、見られてる……! あぁ、恥ずかしい、そして気持ちいい……」
何かビクビクしてるタマキを放置して、カノンがヴァイオリンの構えを変えると曲調が段々速度を失っていく。それは、自由騎士たちが先に決めていた合図。
「さぁフィナーレだ」
最後の音符が風に攫われ消えて行き、騎士団は一斉に得物を構える。
「その偽りのパルティトゥーラに今こそフェルマータを刻み込もう!!」
●還リビトさん達はお帰りになるそうです
「数は多くとも踊るばかりの烏合の衆。確実に仕留めよう。集中してぶったたけ!」
オルステッドが吠えると同時に脚部に意識を集中。筋繊維を組成し直して急接近、からの緊急離脱で異変に臨戦態勢を取った屍に一発空振りさせる。攻撃後の隙に刺突剣を突き立て突き崩しながら、背面から迫る一体へ得物を投擲、頭蓋をぶち抜き打ち砕いて見せた。
「まだまだ踊り足りないけど、ここまでにゃっ♪」
シャンシャン、ダンスと異なるステップで後方へ跳び退きながら残していく音で大気の魔力を手繰り寄せ、軽く呼吸を整え、胸を叩いて喉の調子を確かめる。
「にふふふっ。ミケの氷と炎の舞をとくと味わうといいにゃっ」
歌い踊る一夜限りの歌劇を前に、繰り広げられるは業火と氷牢。魔力を指先に宿して踊り、その軌跡が意思を持った炎のように骸を追えば火柱が走る。紡ぐ言の葉に呼吸で取り込んだ魔力を乗せれば、逃げ惑う屍を捕えるように氷壁が立ちはだかり、飲み込んだ。
「武とダンスの真髄とは近い所にあると思うの」
相反するものが駆け巡る戦場で、ミルトスは足音もなく獲物に距離を詰めていて。
「終わらない曲が無いように、終わらない命もないのです。修道士として、責任を持って送らせていただきます」
拳を合わせ、武闘家としての一礼をしつつ修道女として祈りを捧げ、一足の踏み込みと同時に押し付けた拳は、真っ直ぐに力を伝えるが、止まらない。さらに一歩、踏み込むように拳を送り出し、殴り飛ばした屍を後ろに控えていた一体に叩き付け、瓦解させながら怯んだ二体目の前に脚を降ろす。
「これで、お別れです」
姿勢を落とさぬままに、すくい上げるような軌道で掌底を当て、宙へと放つ。
「……私もまだまだ修行不足。この程度ではとても絶招とは言い張れませんね」
思っていたよりも派手な音を残し、還リビトの一体が粉砕された。
「私達も続くわよ!」
「うむ、しばし待たれよ!」
銃を構えたヒルダの横で、シノピリカがトランクを投げる。空へ舞った鞄は勝手に開き、彼女の左腕に食いつくと、反転するようにして巨大な拳を形作る。指先を一度開き、順に握り込んで神経の接続を確認したシノピリカと、散弾銃に装填を終えたヒルダが背中を重ね。
「「Shall We……?」」
釣られるように突っ込んでくる還リビトを、シノピリカが頭突きで迎撃。頭蓋を割りながら額が割られるが、その痛みと出血に興奮を覚える。それは、誰かが受けるはずだった痛みを、自分が引き受ける事ができた、騎士の誉れの証だから。
「まだまだぁ! どんどんかかってくるがいいのじゃぁ!!」
苦痛にむしろ笑みを浮かべるシノピリカに還リビトが一瞬足を止め、その瞬間に巨女の陰から少女が躍り出る。
「この距離ならまとめて吹き飛びそうね?」
微笑み一つ、引き金一発。ばら撒かれる弾丸が骸の群れを削り潰し、もはや原型の残らぬ白き残骸へと変えてしまう。硝煙代わりに吐き出される蒸気の向こう、一体の生き残りが突進を仕掛けるもヒルダはくるりと舞い、突き出してきた無骨な機械腕がその頭を掴み、吊し上げた。
「しーげーるー……」
ミシリ、悲鳴をあげる骸に向けて、ガチリ、腕甲の内部機構が起動する。己が義腕に呼応して、深く息を吸って下腹部に力を溜め体幹を固定、肘、肩のバネでその一撃を叩きこむ。
「インパクトッ!!」
ガインッ!! 重厚な金属音と共に闘気と衝撃が放たれ、排熱機関から蒸気が噴き出した。頭を粉微塵にされた屍が崩れ落ち、残された一体へ、アリアがスカートの裾をそっとつまみ上げる。
「素敵な殿方、私と踊って下さ……」
「そのスカートでカーテシーは無理があるんじゃない? っていうかパンツ見えちゃうわよ! あたしに見せてくれるっていうなら歓迎するけど!」
「こういうのは形が大事なの!」
シリアスな雰囲気をヒルダにぶち壊されたアリアがため息を溢し、還リビトは苦笑するように首を傾けた。
改めて手を伸ばせば、肉と皮を失った手は優しく受け止めて、引き寄せてくれる。身を委ねれば腰に手を回し、動きやすいよう余裕を持ってリード。二人で踊るのではなく、アリアを『躍らせて』くれるその動きは、生前誰かと共にあったのであろうことを思わせた。
「せめて、生前愛した遊戯と共に……」
アリアにターンさせていた還リビトは、彼女がそっと離れていく様を見守る様に動かない。戻ってきた彼女は手を取ろうとするが、屍は応えなかった。
「あなたは、もしかして……」
還リビトに理性はなく、その行動は生前の記憶に引っ張られているに過ぎない。裏を返せば、それは生前の最期の想い。果たせなかった未練。つまり、彼は『最後まで』踊れなかったのだろう。
祈る様に目をつむり、振るう刃に軽い手応え。カツリ、地面に落ちたシャレコウベが軽い音と、言葉を遺す。
「ありがとう、素敵なお嬢さん。けれど、そのお気持ちだけで十分です。どうか、貴女は貴女の幸せを追ってください」
それは、結ばれなかった想い。貴族の間にはよくあることだ。当人たちの心は関係なく、権力の為に結ばれるなど。
「え……?」
還リビトの言葉に意味はない。それはきっと、生前の言葉の繰り返しに過ぎないのだから。だが、何の価値もないはずの声に、アリアは目を見開く。
「こっちを、見た……?」
還リビトに会話を行う知性はない。故に、彼らの声は一方的な言の葉の吐露に過ぎないはずだ。
だから、それはきっと気のせいなのだろう、勘違いなのだろう。あるいは頭蓋骨が地面に落ちた時、偶然そのようになっただけなのだろう……還リビトの目が、アリアを見つめていただなんて。