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Reボマー

「還リビト一体が市外地に出現との情報!至急の応援要請です」
のんびりとしたランチタイムの後、どことなくまったりとした空気に包まれていた『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)へと、騎士団員の一人が慌てふためいて報告した。
「そうか。それで、相手の戦力は?」
いささかも動じることなく、落ち着き払った口調でミハイロフが尋ねた。
「個体数は一体のみ。知能は低く、特殊能力も目立ったものは見受けられないそうです」
その答えに、ミハイロフの顔がわずかに歪む。
「なんだそれは?何故そんな目を瞑りながらでも片付けられそうな事件が、緊急報告されてくるんだ。通常の事件として粛々と処理すればいい話ではないか」
本来、処理の難しい事件以外は、団員が個別に責任者となって事件にあたる。だが今回のように緊急で入ってくるような事件は、デリケートで困難な作業が予想されるのでミハイロフ自らが指揮をとることになっている。ただ、伝わってくる報告からは、その必要性があるようには思えなかった。
「それが還リビトとなった人物は、生前テロリストとして活動していたそうです。そして運悪く心臓発作で死ぬ直前、彼は自爆テロを目論んでいたようなのです」
ミハイロフの顔に、わずかな動揺が走った。
「……なかなか、波瀾万丈な人生だな」
呆れたようにミハイロフは言った。
「順を追って説明しますと、その人物は爆弾を自分の身体に埋め込み自爆テロを企てていたところ、その作業中に心臓発作で死亡。そのわずか数分後に還リビトになったとのことです」
室内の団員全員が、その出来過ぎた成り行きに息を呑んだ。
「自爆テロ自体は、事前に演算士によって予測されていたため団員が対処にあたっていたそうです。しかしそのテロリストが心臓発作を起こし死亡し、すぐ次の瞬間に還リビトとなるところまでは演算士の予測からは漏れていたようでして」
「つまりはこういうことか。その市外地に現れた還リビトはただの人型ではなく、爆弾内蔵型還リビト、ということなんだな?」
些細な情報伝達ミスがないように、改めてミハイロフは確認する。
「はい。遠目からの確認によると、爆弾は還リビトの全身に行き渡るよう埋め込まれているそうです。なので迂闊に攻撃すれば爆破の恐れがあるため、静観を余儀なくされている状況、とのことです」
現場の緊張が伝わってくるような、固い声音で団員は告げた。
「なるほどな。そのテロリスト、よほど生前の行いがよかったんだろう。死してなお自分の願いが受け継がれることなんて、めったにあるもんじゃない」
ミハイロフはそこでいったん言葉を切り、団員へと視線を向けた。
「だがしかし……その願い、決して聞き届けられることはないがな」
テロリストの願いを握りつぶすように、ミハイロフは拳を握りしめた。
「爆弾なんて屁とも思わぬ胆の据わった奴ら、もしくは爆弾には目がない三度の飯より爆弾好きなマッドな連中をかき集めるのだ!」
のんびりとしたランチタイムの後、どことなくまったりとした空気に包まれていた『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)へと、騎士団員の一人が慌てふためいて報告した。
「そうか。それで、相手の戦力は?」
いささかも動じることなく、落ち着き払った口調でミハイロフが尋ねた。
「個体数は一体のみ。知能は低く、特殊能力も目立ったものは見受けられないそうです」
その答えに、ミハイロフの顔がわずかに歪む。
「なんだそれは?何故そんな目を瞑りながらでも片付けられそうな事件が、緊急報告されてくるんだ。通常の事件として粛々と処理すればいい話ではないか」
本来、処理の難しい事件以外は、団員が個別に責任者となって事件にあたる。だが今回のように緊急で入ってくるような事件は、デリケートで困難な作業が予想されるのでミハイロフ自らが指揮をとることになっている。ただ、伝わってくる報告からは、その必要性があるようには思えなかった。
「それが還リビトとなった人物は、生前テロリストとして活動していたそうです。そして運悪く心臓発作で死ぬ直前、彼は自爆テロを目論んでいたようなのです」
ミハイロフの顔に、わずかな動揺が走った。
「……なかなか、波瀾万丈な人生だな」
呆れたようにミハイロフは言った。
「順を追って説明しますと、その人物は爆弾を自分の身体に埋め込み自爆テロを企てていたところ、その作業中に心臓発作で死亡。そのわずか数分後に還リビトになったとのことです」
室内の団員全員が、その出来過ぎた成り行きに息を呑んだ。
「自爆テロ自体は、事前に演算士によって予測されていたため団員が対処にあたっていたそうです。しかしそのテロリストが心臓発作を起こし死亡し、すぐ次の瞬間に還リビトとなるところまでは演算士の予測からは漏れていたようでして」
「つまりはこういうことか。その市外地に現れた還リビトはただの人型ではなく、爆弾内蔵型還リビト、ということなんだな?」
些細な情報伝達ミスがないように、改めてミハイロフは確認する。
「はい。遠目からの確認によると、爆弾は還リビトの全身に行き渡るよう埋め込まれているそうです。なので迂闊に攻撃すれば爆破の恐れがあるため、静観を余儀なくされている状況、とのことです」
現場の緊張が伝わってくるような、固い声音で団員は告げた。
「なるほどな。そのテロリスト、よほど生前の行いがよかったんだろう。死してなお自分の願いが受け継がれることなんて、めったにあるもんじゃない」
ミハイロフはそこでいったん言葉を切り、団員へと視線を向けた。
「だがしかし……その願い、決して聞き届けられることはないがな」
テロリストの願いを握りつぶすように、ミハイロフは拳を握りしめた。
「爆弾なんて屁とも思わぬ胆の据わった奴ら、もしくは爆弾には目がない三度の飯より爆弾好きなマッドな連中をかき集めるのだ!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビトの討伐
はじめまして、荒谷と申します。
この依頼は、爆弾を内蔵した還リビトの討伐です。還リビトの討伐および、内蔵している爆弾の処理が成功条件となります。
爆弾はほぼ一体化しているので、遠距離から攻撃すると、ほぼ確実に爆破します。爆破させずに倒すのであれば、近距離から爆弾を抉り取る、などの方法になります。(アイデア次第では、精密な攻撃で遠距離から抉り取る、という方法もあり得るかもしれません)。還リビト化して正常な意識を失っているため、還リビト自ら爆破させることはありません。
タイマー型の爆弾となっているため、時間制限があります。おおよそ10ターン前後とお考えください。できるだけ迅速にお願いします。
還リビトの戦闘能力としては、テロリストとしての基礎的な訓練で身につけた近接格闘術に加え、銃の射撃能力も持ち合わせています。近距離遠距離ともに攻撃の威力はそれなりですが、命中精度はあまり高くはありません。力押しのタイプです。
特殊能力としては、還リビトになることで直感的な回避能力を得ています。攻撃そのものを見切ることができなくても、ヤマ勘で避けることのできる一種のチート能力です。直線的で単純な単独での攻撃は、当たりづらいものとお考えください。
私事になってしまいますが、初のシナリオとなります。当ライターの記念すべき筆下ろしを手伝っていただけると、たいへんありがたいです。よろしくお願いします。
この依頼は、爆弾を内蔵した還リビトの討伐です。還リビトの討伐および、内蔵している爆弾の処理が成功条件となります。
爆弾はほぼ一体化しているので、遠距離から攻撃すると、ほぼ確実に爆破します。爆破させずに倒すのであれば、近距離から爆弾を抉り取る、などの方法になります。(アイデア次第では、精密な攻撃で遠距離から抉り取る、という方法もあり得るかもしれません)。還リビト化して正常な意識を失っているため、還リビト自ら爆破させることはありません。
タイマー型の爆弾となっているため、時間制限があります。おおよそ10ターン前後とお考えください。できるだけ迅速にお願いします。
還リビトの戦闘能力としては、テロリストとしての基礎的な訓練で身につけた近接格闘術に加え、銃の射撃能力も持ち合わせています。近距離遠距離ともに攻撃の威力はそれなりですが、命中精度はあまり高くはありません。力押しのタイプです。
特殊能力としては、還リビトになることで直感的な回避能力を得ています。攻撃そのものを見切ることができなくても、ヤマ勘で避けることのできる一種のチート能力です。直線的で単純な単独での攻撃は、当たりづらいものとお考えください。
私事になってしまいますが、初のシナリオとなります。当ライターの記念すべき筆下ろしを手伝っていただけると、たいへんありがたいです。よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2018年10月31日
2018年10月31日
†メイン参加者 5人†

ピッ、ピッ、ピッ……
緊急召集要請に応じた面々が現場に到着するやいなや耳にしたのは、還リビトに内臓された爆弾が爆発までのカウントダウン刻み始めた無機質な電子音だった。
「ナンか音スル」
世界各地を五感で感じ取ってきた来歴を持つ『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)が、その鋭敏な耳をそば立てながら呟いた。
「さっきまで応対してた騎士団の人からの情報によると、どうも一定時間爆破されないと自動的に爆破されるようタイマーセットされてたみたい。てかヤバくない?なんか最初っからクライマックスって感じで」
危機感を口にはしているが、どことなくワクワクした面持ちに見えぬでもないのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)。その尾っぽは興奮したように左右にピョコピョコ揺れている。
「とにかくまずは、人払いが急務だね」
未だ完遂されてない周囲の避難状況を機敏に察知した『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が、自身のセフィラであるホドの能力に加え、威風破を用いて周囲に避難を呼びかける。
「おっと、すっかり忘れてた。おいらも手伝うよ」
ジーニアスがアダムに倣い、マルクトの能力で人払いに助力した。普段はこの能力をイタズラや機械弄りをしてる時に使っているので、人助けのためにも使用できるということをすっかり失念していたようだ。
「忙しいところ申し訳ないが聞いてくれ」
人払いが的確に行われている間に、エネミースキャン急でターゲットの還リビトを解析していた『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)が、芯の通った声を発した。
「どうやら敵は周囲の空気の対流を敏感に感じ取ることで、ほぼ直感的に自身へと向けられた攻撃を回避する能力を持っているようだ。日々テロリストとして隠れた生活を送ることで身に着いた能力なのだろう。バレぬようよほど警戒した日々を送っていたのだろうな」
貧しいスラムの生まれだが幼い頃よりしっかりとした教育をうけたため、周囲にはまじめすぎると言われるほど曲がったことの許せないラメッシュだが、ほんのわずか同情の色がその顔には滲んでいた。
「しかし事前に受けた騎士団からの言づてでは、敵には特殊能力などないと言われていたのだが……まぁ情報の食い違いは起こりうることではあるが」
情報の伝達ミスへの苛立ちをぐっとこらえ、ラメッシュは自分へと言い聞かせるように言った。まじめに実直に生きてきたラメッシュは、とにかく曲がったことは許せないのだ。
「皆さん、仕事が早いですねぇ。敵さんも敵さんで身体に爆弾を埋め込んでしまうとはボマーの鑑というか、ある意味ご立派。それに比べて私ときたら右往左往するばかりで、皆さんに着いていくのがやっとというか」
他の面々の邪魔にならぬよう、隅の方でおとなしくしていた『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)だったが、その手には人目を惹かずにはいられない肉斬包丁が握られていた。爆弾魔撃退という任務を聞いたその瞬間から、解体した爆弾を持ち帰りたい! という妄念に憑りつかれたエミリオは、肉を切って爆弾を抉り取るイメージが頭から離れず、衝き動かされるように精肉用ブッチャーナイフプロフェッショナルマスターを購入してきたのだ。フィクションなどからイメージするごつい見た目のものではなく、あくまで実際の機能性に即した使いやすいコンパクトサイズを調達してきところが、エミリオという人物の性格をよく表していた。
「けどただでさえ時間がないのに、敵さんはよけるのが上手なんでしょ?しかもこっちは無闇やたらに攻撃しちゃうと爆弾に当たってドカン! それってもしかして、最初からクライマックスどころか、最初から詰んじゃってない?八方塞がりっていうか……」
王手! というように掴んだ駒をピシャリと打ち込むような仕草をしながら、ジーニアスが困った顔になる。
「ハッポウ塞がり……ソレだ!」
全身の随所に生え、精神状態やコンディションで増減する棘を持つエイラが、突如として頭に降りてきたアイデアに昂奮し、身体中から四方八方に棘を突き出した。
「なるほどな、そういうことか」
ラメッシュはエイラの頭に浮かんだであろう作戦を聞くまでもなく理解し、深く頷いた。
「なるほど。それなら確かにいけそうだね」
アダムも同様に、エイラの呟いた八方塞がりというキーワードから作戦の概要を理解したようだった。
「う、うんうん、なるほど! そ、そういうことかぁ」
なんとなく周りが皆理解してるので、流れに乗っかり理解しているフリを装うジーニアス。ちなみにジーニアスとは英語では天才を意味する単語である。
「え? え? な、なんか皆さん納得されてますけど、どういうこと?」
自分だけ理解の及んでないことを隠す様子もないエミリオに、エイラが改めて作戦を確認するように説明した。
エイラの立案した作戦、それは回避能力の高い還リビトを四方八方から取り囲み、敵を挟んだ対角線上に常に仲間が居るような陣形で構えを取る。つまり還リビトからすると一方を向けば一方に背後を取られる形。そうした状態から最大限のプレッシャーをかけてまず敵に先に手を出させる。その後全員が順々に攻撃を仕掛け、こちらの攻撃ターンを途切れなく連続させることで敵の行動を挟ませない様にする、というものだった。
「状況にもよるけど、可能なら全員同時、無理なら出来る限り対角線上の仲間と呼吸を合わせて背面を狙う。途切れない攻撃をするためにも各自の距離感の調整が必要だね。ある種のチェーン(鎖)のように包囲網を形成し、ローテーションで攻撃を仕掛けるようなイメージで。うん、いいんじゃないかな。失礼だけどエイラさんは、見た目によらず真面目な人なんだね。咄嗟に浮かんだとは思えないほどしっかりとした作戦だ」
感心するようにアダムが言った。
「確かに現状を鑑みればこれ以上の策はないだろう。真面目でしっかり、なんてよい言葉だ。それに比べてあの騎士団の連中ときたら、情報も満足に伝えられないのだから」
未だ腹に据えかねている、といった様子でラメッシュは苦虫を噛み潰している。
「な、なるほどねぇ、そういうことかぁ。ってもちろんおいらもその作戦には、最初っから気づいてたけどね……あれっ、でもさ、そうすると誰かと誰かが常に向かい合うような並びにならないといけないってことだよね。つまり常にペアとなる必要があるっていうか。けどおいら達って、イチ、ニィ、サン……」
ジーニアスが自分から順に他の面々へと指を差していく。
「四……ゴ」
最後に指差されたのは
「わ、私だけ、余っちゃってる! ななな、仲間外れですか!」
驚愕したように奇声を発するエミリオ。
「いや、別にエミリオさんがどうこうっていうわけじゃなくて」
単に隅っこにいたから順番的に最後になっただけで、深い意味もなくやってしまったジーニアスは申し訳なさそうに弁解した。
「うむ、問題なのはこの作戦を実行するには人数的に奇数ではなく偶数の方が都合が良いということだ」
ラメッシュが極めて実務的な態度で言った。
「そうだね。これもある意味、イチ足りないってやつかな? まあ急な呼び出しだったしね」
アダムが苦笑しながら言った。
「はは、それに仕方ないよ。爆弾なんて屁とも思わぬ胆の据わった奴、もしくは爆弾には目がない三度の飯より爆弾好きなマッドな連中は集まってくれ、なんて言われて集まるのなんてここにいる物好きくらいのもんだよ」
ケラケラと笑うジーニアスだったが、彼もまた身体に爆弾を埋め込むという行為にロマンを感じ、がくじゅつてききょーみから出来れば取り除いた爆弾をお持ち帰りしたいと密かなる野望を持っているという意味では、間違いなく物好きな類に属していた。
「私はただ、己の正義に準じているだけだがな」
その生真面目なラメッシュの顔つきは、命が失われてもなおボマーとして己が信念を貫き通す還リビトのその顔と、どこかしら重なるところがあるように見えなくもなかった。
「僕もまぁ、爆弾好きなわけでも爆弾が怖くないわけでもないんだけどね」
そうは言いつつも、いざとなったら自分の身体で爆弾を抑え込むことも厭わないだけの覚悟を心の内に秘めていたアダムもまた、ある意味で傲慢とも言えるほどに「優しい世界」を目指している殉教者と言ってもいいのかもしれない。
「私は皆さんに比べるのもおこがましいくらい、極めて普通な人間ですが」
肉斬包丁を手にしたエミリオに対し、そこにいる誰もがオマエガイウナ、という突っ込みを飲みこまずにはいられなかった。
「此処にイるミンナ、人ソレぞれ。ダケドきっと、ミンナ物好き。Reボマー、放っとけナカッタ物好き仲間。ヘンテコ仲間」
にかっと顔を崩したエイラの笑みには、一片ほどの邪気も含まれていなかった。その笑顔のあまりの透明度に、場の空気が洗い流されていくようだった。
「ヘンテコ仲間か。いいねそれっ、おいら気に入ったよ。実はさ、ヘンテコ繋がりってわけでもないんだけど……」
ジーニアスがごそごそと工具ポーチを漁り始めた。取り出したのは蒸気の噴射機能が組み込まれた黒い軽機械剣オセロット速度強化型。
「おいらが遊びで作ってみた、まあ言ってみればオモチャみたいなものなんだけど、ロープの重りとしてこれをつけて投擲すると、少しだけ蒸気の出力機が飛距離を伸ばしてくれるんだ。これを上手く使えば、還リビトのいるあたりの上空にロープを張り渡すことができるんじゃないかな。んで、小柄な人ならそのロープを足場にすることもできると思うんだ……一応だけど」
自信がないのかジーニアスの語尾には力がない。
「ソウか! ピラミッド!」
いちはやくピンと来たエイラが叫んだ。
「なるほど。四人で四方から取り囲み、残りの一人は敵の頭上にポジショニングするということか。余った一人は、大地とペアを組んで敵を挟みこめばよい、というわけか」
その発想はなかった、と感嘆するラメッシュ。
「確かに平面からの攻撃で誘っておけば、立体的な攻撃には対応できない可能性は高いね」
アダムもまた、ジーニアスの思い付きに賞賛の声を上げた。
「小柄な人っていうと」
エミリオがメンバーの中で一番背の低いジーニアスに視線を向けたが、
「だ、駄目駄目おいら、実は高い所が苦手で」
ぶるんぶるんと首を横に振るジーニアス。
「なら、オレが行ク」
二番目に背の低い引き締まった体躯のエイラが任せろ、とばかりに自分の胸を拳で叩いた。
「け、けど、おいらの思いつき、本当にできるかどうかは未知数なんだけど……」
万が一失敗すれば、とても責任の取れない事態に発展してしまう案件だけに、ジーニアスはここにきて二の足を踏んでしまう。
「ダイジョブ。オレお前、信じテル。ヘンテコ仲間のヘンテコあいであ信じテル。今はトニカク、時間ナイ。レッツGo!!」
「……そっか。そうだね。ヘンテコ仲間だもんね。よしっ、なら任せろ! 急いで細かいメンテナンスやっちゃうから」
額のゴーグルを目元に降ろし、カチャカチャとドライバーでオセロット速度強化型をいじくりまわすジーニアス。
「どうやら本当にそろそろクライマックスのようだ。奴の爆弾のタイマーは、残り約一分を切ってしまっている」
作戦立案の間も、エネミースキャン急を絶やさずに敵の状況を解析し続けていたラメッシュが、時間切れを宣告するように皆に告げた。
「よしっ、準備オーケー。エイラ、後は任せたよ」
ジーニアスが自分の子供を預けるように、オセロット速度強化型をエイラへと手渡した。
「ヨシっ、ミンナ配置つく」
エミリオの号令に従い、他四人が作戦通りのポジショニングを開始した。
それぞれが心の中で爆発までの刻(とき)をカウントダウンしながら、還リビトを四点から取り囲み、じりじりとプレッシャーをかけていく。その間にエイラは、敵に気づかれぬようやや離れたところから回り込むようにして、上空に足場を張り巡らすための準備を始めた。
刻々と数を減らしていく秒読みに焦りながらも還リビトを取り囲んだ四人は、決して自分達からは動かずに殺気だけを放出することで、今にも弾けそうなほどに張りつめた空気を四方から形成していく。その尋常ではないプレッシャーに、ついにしびれを切らした還リビトが、弾かれるようにその拳を振り上げ、大地を蹴り上げた。
「わわ、私ですかぁ?」
本人は一番目立たないようにしてたつもりだし、その発する殺気も四人の中では一番か弱いものだったのだが、その肉斬包丁には還リビトも反応しないわけにもいかず、エミリオへ向けて攻撃が放たれた。
「けど来るとわかっていれば、躱せない攻撃ではありませんね。ボマーなのに拳で攻撃とは、ボマーの風上にもおけませんね」
たしなめるように言いながら、エミリオは還リビトの攻撃をさらりと躱す。そのエミリオの回避移動に合わせて、他の三人もまるでチェーンで繋がれたように距離を保ちながら移動し、改めて還リビトを適切な距離感で四点から取り囲む陣形を形成する。まるで鳥が編隊を組んで空を飛びまわるように、魚の群れが計ったようにいっせいに方向転換するように、一糸乱れぬ統率された動きだった。とても即興で集められた者たちとは思えぬほどに。
「ヘンテコ仲間、イイね」
還リビトに気づかれぬことなく、その頭上を盗ることに成功したエイラが、そっと呟いた。それが合図となったように、その極限まで高めたプレッシャーを解放し、弾けるようにまず飛び込んだのは、
「高いとこをエイラに任せちゃったんだから、その代わりに攻撃の一番手はおいらの役目だ!」
本来なら自分がやるべき仕事を他者に任せてしまった申し訳なさもあって、ジーニアスは一番リスクの高い先陣に名乗りを上げた。ジーニアスとはラテン語で、守護霊を意味する単語である。彼はこの場において皆を守護する役目をその身に引き受けたのだ。
刹那に繰り出される二連の剣閃、デュアルストライク。還リビトに埋め込まれた爆弾を抉りとるように切りかかったが、テロリストとして養なわれた超直感回避能力によりその攻撃は空を切った。しかしジーニアスの攻撃はあわよくば、という程度の期待値で放たれたもので、あくまで攪乱のための一手に過ぎない。攻撃を躱したことで体勢が崩れ、次の行動に移れない還リビトへと続けざまに攻撃が浴びせかけられる。
「君はこの重みに、耐えられるかな?」
右腕の蒸気鎧装に蒸気と魔導の力を溜め放つ掌撃、山吹色の掌撃。突き出したアダムの腕は、蒸気により赤熱し魔導が合さる事で山吹色に光り輝いた。
「手応えは、かすかにあり、かな?」
そのチート級の回避能力でアダムの拳を間一髪で躱した還リビト。だったのだが、アダムの拳の小指の先端が、わずかに還リビトの身体を掠め、山吹色の衝撃のグラビティ効果が発動し、還リビトの身体が重みを増し回避能力が低減していく。
「重くなった今のあなたなら、蝶も止まることができるかもしれませんね」
ホムンクルスLv3、一時的に人ならざるかりそめの生命を生みだす錬金術を用い、エミリオは羽を硬化させた蝶をその肉斬包丁に纏わせて、還リビトに切りかかった。
「残念ながら、肉斬包丁の方は不発ですか……けど蝶の羽は、少し引っかかってくれたみたいですね」
爆弾を抉りにいった肉斬包丁の攻撃こそかわされたものの、鋭い刃と化した蝶の羽が、爆弾が埋め込まれた周囲の一片を切り裂いた。今まで完全に還リビトと一体化していた爆弾が、わずかながら還リビトから切り離される。
「一点集中、一気に決めるとしよう」
衝撃を分散させず極点に凝縮された一撃、鉄山靠を間髪入れずにラメッシュは打ち放った。もはやその攻撃を躱す余裕は還リビトにはなく、急所を守るのがやっとという有様だ。だがそのガードを固めた防御の構えがラメッシュの攻撃をわずかに逸らし、爆弾を完全に抉りとるまでにはいたらない。
「残念ながらフィニッシュは私ではないのだよ。我が正義のため、地に帰りたまえ」
その言葉とは裏腹に、ラメッシュは天を仰ぎみた。
「ヘンテコあいであサイコー」
張り渡したロープから飛び降り、幻惑の魔力をまとわせるアローファンタズマを使用しながら還リビトへと落下していく一人の人物。還リビトとなったテロリストが最後に目にしたのは、太陽を背に受けて逆光となりながら自分へと降ってくるエイラの姿だった。
「誰でモ死んダらホトケ。テロリストもソウ。連れて帰って、チャンと埋葬」
その精密な一撃は爆弾を見事に抉り取り、それと同時にテロリストの生命も奪い獲った。
「結局、暴力に訴えてまで何をしたかったのか、最後までわからずじまいか。できればもう少し早くお会いしてみたかったよ」
アダムが寂し気な顔を浮かべた。
「何も分からナイまま。ちょっと寂しイ」
エイラも悼むような眼差しで抉りとった爆弾を見つめている。アダムはそっと、エイラの肩に手を置いた。
そんな二人の脇では、ジーニアスとエミリオが抉りとった爆弾の所有権をめぐって小競り合いを演じていた。
「もしかしたら我々は、新たなReボマー、ReReボマーを生み出してしまったのでは」
爆弾を奪い合う二人を見ながら、ラメッシュが憂いを帯びた顔で、極めて真面目に呟いたのだった。
緊急召集要請に応じた面々が現場に到着するやいなや耳にしたのは、還リビトに内臓された爆弾が爆発までのカウントダウン刻み始めた無機質な電子音だった。
「ナンか音スル」
世界各地を五感で感じ取ってきた来歴を持つ『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)が、その鋭敏な耳をそば立てながら呟いた。
「さっきまで応対してた騎士団の人からの情報によると、どうも一定時間爆破されないと自動的に爆破されるようタイマーセットされてたみたい。てかヤバくない?なんか最初っからクライマックスって感じで」
危機感を口にはしているが、どことなくワクワクした面持ちに見えぬでもないのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)。その尾っぽは興奮したように左右にピョコピョコ揺れている。
「とにかくまずは、人払いが急務だね」
未だ完遂されてない周囲の避難状況を機敏に察知した『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が、自身のセフィラであるホドの能力に加え、威風破を用いて周囲に避難を呼びかける。
「おっと、すっかり忘れてた。おいらも手伝うよ」
ジーニアスがアダムに倣い、マルクトの能力で人払いに助力した。普段はこの能力をイタズラや機械弄りをしてる時に使っているので、人助けのためにも使用できるということをすっかり失念していたようだ。
「忙しいところ申し訳ないが聞いてくれ」
人払いが的確に行われている間に、エネミースキャン急でターゲットの還リビトを解析していた『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)が、芯の通った声を発した。
「どうやら敵は周囲の空気の対流を敏感に感じ取ることで、ほぼ直感的に自身へと向けられた攻撃を回避する能力を持っているようだ。日々テロリストとして隠れた生活を送ることで身に着いた能力なのだろう。バレぬようよほど警戒した日々を送っていたのだろうな」
貧しいスラムの生まれだが幼い頃よりしっかりとした教育をうけたため、周囲にはまじめすぎると言われるほど曲がったことの許せないラメッシュだが、ほんのわずか同情の色がその顔には滲んでいた。
「しかし事前に受けた騎士団からの言づてでは、敵には特殊能力などないと言われていたのだが……まぁ情報の食い違いは起こりうることではあるが」
情報の伝達ミスへの苛立ちをぐっとこらえ、ラメッシュは自分へと言い聞かせるように言った。まじめに実直に生きてきたラメッシュは、とにかく曲がったことは許せないのだ。
「皆さん、仕事が早いですねぇ。敵さんも敵さんで身体に爆弾を埋め込んでしまうとはボマーの鑑というか、ある意味ご立派。それに比べて私ときたら右往左往するばかりで、皆さんに着いていくのがやっとというか」
他の面々の邪魔にならぬよう、隅の方でおとなしくしていた『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)だったが、その手には人目を惹かずにはいられない肉斬包丁が握られていた。爆弾魔撃退という任務を聞いたその瞬間から、解体した爆弾を持ち帰りたい! という妄念に憑りつかれたエミリオは、肉を切って爆弾を抉り取るイメージが頭から離れず、衝き動かされるように精肉用ブッチャーナイフプロフェッショナルマスターを購入してきたのだ。フィクションなどからイメージするごつい見た目のものではなく、あくまで実際の機能性に即した使いやすいコンパクトサイズを調達してきところが、エミリオという人物の性格をよく表していた。
「けどただでさえ時間がないのに、敵さんはよけるのが上手なんでしょ?しかもこっちは無闇やたらに攻撃しちゃうと爆弾に当たってドカン! それってもしかして、最初からクライマックスどころか、最初から詰んじゃってない?八方塞がりっていうか……」
王手! というように掴んだ駒をピシャリと打ち込むような仕草をしながら、ジーニアスが困った顔になる。
「ハッポウ塞がり……ソレだ!」
全身の随所に生え、精神状態やコンディションで増減する棘を持つエイラが、突如として頭に降りてきたアイデアに昂奮し、身体中から四方八方に棘を突き出した。
「なるほどな、そういうことか」
ラメッシュはエイラの頭に浮かんだであろう作戦を聞くまでもなく理解し、深く頷いた。
「なるほど。それなら確かにいけそうだね」
アダムも同様に、エイラの呟いた八方塞がりというキーワードから作戦の概要を理解したようだった。
「う、うんうん、なるほど! そ、そういうことかぁ」
なんとなく周りが皆理解してるので、流れに乗っかり理解しているフリを装うジーニアス。ちなみにジーニアスとは英語では天才を意味する単語である。
「え? え? な、なんか皆さん納得されてますけど、どういうこと?」
自分だけ理解の及んでないことを隠す様子もないエミリオに、エイラが改めて作戦を確認するように説明した。
エイラの立案した作戦、それは回避能力の高い還リビトを四方八方から取り囲み、敵を挟んだ対角線上に常に仲間が居るような陣形で構えを取る。つまり還リビトからすると一方を向けば一方に背後を取られる形。そうした状態から最大限のプレッシャーをかけてまず敵に先に手を出させる。その後全員が順々に攻撃を仕掛け、こちらの攻撃ターンを途切れなく連続させることで敵の行動を挟ませない様にする、というものだった。
「状況にもよるけど、可能なら全員同時、無理なら出来る限り対角線上の仲間と呼吸を合わせて背面を狙う。途切れない攻撃をするためにも各自の距離感の調整が必要だね。ある種のチェーン(鎖)のように包囲網を形成し、ローテーションで攻撃を仕掛けるようなイメージで。うん、いいんじゃないかな。失礼だけどエイラさんは、見た目によらず真面目な人なんだね。咄嗟に浮かんだとは思えないほどしっかりとした作戦だ」
感心するようにアダムが言った。
「確かに現状を鑑みればこれ以上の策はないだろう。真面目でしっかり、なんてよい言葉だ。それに比べてあの騎士団の連中ときたら、情報も満足に伝えられないのだから」
未だ腹に据えかねている、といった様子でラメッシュは苦虫を噛み潰している。
「な、なるほどねぇ、そういうことかぁ。ってもちろんおいらもその作戦には、最初っから気づいてたけどね……あれっ、でもさ、そうすると誰かと誰かが常に向かい合うような並びにならないといけないってことだよね。つまり常にペアとなる必要があるっていうか。けどおいら達って、イチ、ニィ、サン……」
ジーニアスが自分から順に他の面々へと指を差していく。
「四……ゴ」
最後に指差されたのは
「わ、私だけ、余っちゃってる! ななな、仲間外れですか!」
驚愕したように奇声を発するエミリオ。
「いや、別にエミリオさんがどうこうっていうわけじゃなくて」
単に隅っこにいたから順番的に最後になっただけで、深い意味もなくやってしまったジーニアスは申し訳なさそうに弁解した。
「うむ、問題なのはこの作戦を実行するには人数的に奇数ではなく偶数の方が都合が良いということだ」
ラメッシュが極めて実務的な態度で言った。
「そうだね。これもある意味、イチ足りないってやつかな? まあ急な呼び出しだったしね」
アダムが苦笑しながら言った。
「はは、それに仕方ないよ。爆弾なんて屁とも思わぬ胆の据わった奴、もしくは爆弾には目がない三度の飯より爆弾好きなマッドな連中は集まってくれ、なんて言われて集まるのなんてここにいる物好きくらいのもんだよ」
ケラケラと笑うジーニアスだったが、彼もまた身体に爆弾を埋め込むという行為にロマンを感じ、がくじゅつてききょーみから出来れば取り除いた爆弾をお持ち帰りしたいと密かなる野望を持っているという意味では、間違いなく物好きな類に属していた。
「私はただ、己の正義に準じているだけだがな」
その生真面目なラメッシュの顔つきは、命が失われてもなおボマーとして己が信念を貫き通す還リビトのその顔と、どこかしら重なるところがあるように見えなくもなかった。
「僕もまぁ、爆弾好きなわけでも爆弾が怖くないわけでもないんだけどね」
そうは言いつつも、いざとなったら自分の身体で爆弾を抑え込むことも厭わないだけの覚悟を心の内に秘めていたアダムもまた、ある意味で傲慢とも言えるほどに「優しい世界」を目指している殉教者と言ってもいいのかもしれない。
「私は皆さんに比べるのもおこがましいくらい、極めて普通な人間ですが」
肉斬包丁を手にしたエミリオに対し、そこにいる誰もがオマエガイウナ、という突っ込みを飲みこまずにはいられなかった。
「此処にイるミンナ、人ソレぞれ。ダケドきっと、ミンナ物好き。Reボマー、放っとけナカッタ物好き仲間。ヘンテコ仲間」
にかっと顔を崩したエイラの笑みには、一片ほどの邪気も含まれていなかった。その笑顔のあまりの透明度に、場の空気が洗い流されていくようだった。
「ヘンテコ仲間か。いいねそれっ、おいら気に入ったよ。実はさ、ヘンテコ繋がりってわけでもないんだけど……」
ジーニアスがごそごそと工具ポーチを漁り始めた。取り出したのは蒸気の噴射機能が組み込まれた黒い軽機械剣オセロット速度強化型。
「おいらが遊びで作ってみた、まあ言ってみればオモチャみたいなものなんだけど、ロープの重りとしてこれをつけて投擲すると、少しだけ蒸気の出力機が飛距離を伸ばしてくれるんだ。これを上手く使えば、還リビトのいるあたりの上空にロープを張り渡すことができるんじゃないかな。んで、小柄な人ならそのロープを足場にすることもできると思うんだ……一応だけど」
自信がないのかジーニアスの語尾には力がない。
「ソウか! ピラミッド!」
いちはやくピンと来たエイラが叫んだ。
「なるほど。四人で四方から取り囲み、残りの一人は敵の頭上にポジショニングするということか。余った一人は、大地とペアを組んで敵を挟みこめばよい、というわけか」
その発想はなかった、と感嘆するラメッシュ。
「確かに平面からの攻撃で誘っておけば、立体的な攻撃には対応できない可能性は高いね」
アダムもまた、ジーニアスの思い付きに賞賛の声を上げた。
「小柄な人っていうと」
エミリオがメンバーの中で一番背の低いジーニアスに視線を向けたが、
「だ、駄目駄目おいら、実は高い所が苦手で」
ぶるんぶるんと首を横に振るジーニアス。
「なら、オレが行ク」
二番目に背の低い引き締まった体躯のエイラが任せろ、とばかりに自分の胸を拳で叩いた。
「け、けど、おいらの思いつき、本当にできるかどうかは未知数なんだけど……」
万が一失敗すれば、とても責任の取れない事態に発展してしまう案件だけに、ジーニアスはここにきて二の足を踏んでしまう。
「ダイジョブ。オレお前、信じテル。ヘンテコ仲間のヘンテコあいであ信じテル。今はトニカク、時間ナイ。レッツGo!!」
「……そっか。そうだね。ヘンテコ仲間だもんね。よしっ、なら任せろ! 急いで細かいメンテナンスやっちゃうから」
額のゴーグルを目元に降ろし、カチャカチャとドライバーでオセロット速度強化型をいじくりまわすジーニアス。
「どうやら本当にそろそろクライマックスのようだ。奴の爆弾のタイマーは、残り約一分を切ってしまっている」
作戦立案の間も、エネミースキャン急を絶やさずに敵の状況を解析し続けていたラメッシュが、時間切れを宣告するように皆に告げた。
「よしっ、準備オーケー。エイラ、後は任せたよ」
ジーニアスが自分の子供を預けるように、オセロット速度強化型をエイラへと手渡した。
「ヨシっ、ミンナ配置つく」
エミリオの号令に従い、他四人が作戦通りのポジショニングを開始した。
それぞれが心の中で爆発までの刻(とき)をカウントダウンしながら、還リビトを四点から取り囲み、じりじりとプレッシャーをかけていく。その間にエイラは、敵に気づかれぬようやや離れたところから回り込むようにして、上空に足場を張り巡らすための準備を始めた。
刻々と数を減らしていく秒読みに焦りながらも還リビトを取り囲んだ四人は、決して自分達からは動かずに殺気だけを放出することで、今にも弾けそうなほどに張りつめた空気を四方から形成していく。その尋常ではないプレッシャーに、ついにしびれを切らした還リビトが、弾かれるようにその拳を振り上げ、大地を蹴り上げた。
「わわ、私ですかぁ?」
本人は一番目立たないようにしてたつもりだし、その発する殺気も四人の中では一番か弱いものだったのだが、その肉斬包丁には還リビトも反応しないわけにもいかず、エミリオへ向けて攻撃が放たれた。
「けど来るとわかっていれば、躱せない攻撃ではありませんね。ボマーなのに拳で攻撃とは、ボマーの風上にもおけませんね」
たしなめるように言いながら、エミリオは還リビトの攻撃をさらりと躱す。そのエミリオの回避移動に合わせて、他の三人もまるでチェーンで繋がれたように距離を保ちながら移動し、改めて還リビトを適切な距離感で四点から取り囲む陣形を形成する。まるで鳥が編隊を組んで空を飛びまわるように、魚の群れが計ったようにいっせいに方向転換するように、一糸乱れぬ統率された動きだった。とても即興で集められた者たちとは思えぬほどに。
「ヘンテコ仲間、イイね」
還リビトに気づかれぬことなく、その頭上を盗ることに成功したエイラが、そっと呟いた。それが合図となったように、その極限まで高めたプレッシャーを解放し、弾けるようにまず飛び込んだのは、
「高いとこをエイラに任せちゃったんだから、その代わりに攻撃の一番手はおいらの役目だ!」
本来なら自分がやるべき仕事を他者に任せてしまった申し訳なさもあって、ジーニアスは一番リスクの高い先陣に名乗りを上げた。ジーニアスとはラテン語で、守護霊を意味する単語である。彼はこの場において皆を守護する役目をその身に引き受けたのだ。
刹那に繰り出される二連の剣閃、デュアルストライク。還リビトに埋め込まれた爆弾を抉りとるように切りかかったが、テロリストとして養なわれた超直感回避能力によりその攻撃は空を切った。しかしジーニアスの攻撃はあわよくば、という程度の期待値で放たれたもので、あくまで攪乱のための一手に過ぎない。攻撃を躱したことで体勢が崩れ、次の行動に移れない還リビトへと続けざまに攻撃が浴びせかけられる。
「君はこの重みに、耐えられるかな?」
右腕の蒸気鎧装に蒸気と魔導の力を溜め放つ掌撃、山吹色の掌撃。突き出したアダムの腕は、蒸気により赤熱し魔導が合さる事で山吹色に光り輝いた。
「手応えは、かすかにあり、かな?」
そのチート級の回避能力でアダムの拳を間一髪で躱した還リビト。だったのだが、アダムの拳の小指の先端が、わずかに還リビトの身体を掠め、山吹色の衝撃のグラビティ効果が発動し、還リビトの身体が重みを増し回避能力が低減していく。
「重くなった今のあなたなら、蝶も止まることができるかもしれませんね」
ホムンクルスLv3、一時的に人ならざるかりそめの生命を生みだす錬金術を用い、エミリオは羽を硬化させた蝶をその肉斬包丁に纏わせて、還リビトに切りかかった。
「残念ながら、肉斬包丁の方は不発ですか……けど蝶の羽は、少し引っかかってくれたみたいですね」
爆弾を抉りにいった肉斬包丁の攻撃こそかわされたものの、鋭い刃と化した蝶の羽が、爆弾が埋め込まれた周囲の一片を切り裂いた。今まで完全に還リビトと一体化していた爆弾が、わずかながら還リビトから切り離される。
「一点集中、一気に決めるとしよう」
衝撃を分散させず極点に凝縮された一撃、鉄山靠を間髪入れずにラメッシュは打ち放った。もはやその攻撃を躱す余裕は還リビトにはなく、急所を守るのがやっとという有様だ。だがそのガードを固めた防御の構えがラメッシュの攻撃をわずかに逸らし、爆弾を完全に抉りとるまでにはいたらない。
「残念ながらフィニッシュは私ではないのだよ。我が正義のため、地に帰りたまえ」
その言葉とは裏腹に、ラメッシュは天を仰ぎみた。
「ヘンテコあいであサイコー」
張り渡したロープから飛び降り、幻惑の魔力をまとわせるアローファンタズマを使用しながら還リビトへと落下していく一人の人物。還リビトとなったテロリストが最後に目にしたのは、太陽を背に受けて逆光となりながら自分へと降ってくるエイラの姿だった。
「誰でモ死んダらホトケ。テロリストもソウ。連れて帰って、チャンと埋葬」
その精密な一撃は爆弾を見事に抉り取り、それと同時にテロリストの生命も奪い獲った。
「結局、暴力に訴えてまで何をしたかったのか、最後までわからずじまいか。できればもう少し早くお会いしてみたかったよ」
アダムが寂し気な顔を浮かべた。
「何も分からナイまま。ちょっと寂しイ」
エイラも悼むような眼差しで抉りとった爆弾を見つめている。アダムはそっと、エイラの肩に手を置いた。
そんな二人の脇では、ジーニアスとエミリオが抉りとった爆弾の所有権をめぐって小競り合いを演じていた。
「もしかしたら我々は、新たなReボマー、ReReボマーを生み出してしまったのでは」
爆弾を奪い合う二人を見ながら、ラメッシュが憂いを帯びた顔で、極めて真面目に呟いたのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『ReReボマー?』
取得者: エミリオ・ミハイエル(CL3000054)
『ヘンテコフォーリナー(降臨者)』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『ReReボマー?』
取得者: ジーニアス・レガーロ(CL3000319)
『ヘンテコジャスティス』
取得者: ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)
『優しきヘンテコ殉教者』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
取得者: エミリオ・ミハイエル(CL3000054)
『ヘンテコフォーリナー(降臨者)』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『ReReボマー?』
取得者: ジーニアス・レガーロ(CL3000319)
『ヘンテコジャスティス』
取得者: ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)
『優しきヘンテコ殉教者』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
†あとがき†
今回、オープニングでは「特殊能力も目立ったものは見受けられない」と記してある一方で、説明では「特殊能力としては、還リビトになることで直感的な回避能力を得ています」と不整合をおこしてしまい、参加者の皆様にはたいへんなご迷惑をかけてしまいましたことをお詫び申し上げます。またこのような拙いシナリオに参加していただき、本当にありがとうございます。以後不手際がないよう努めますので、今後ともよろしくお願い致します。
FL送付済