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海上戦! 空飛ぶおさかなをやっつけろ!




「やけにカモメが多いな」
「魚の群れが居るんだろ。ほら、あそこ」
「ああ、ほんとだ」
 水夫の指した先、凪いだ海面に不自然な細波が立った。水鳥達が歓喜の声を上げて舞い降りる。
「……は?」
 跳び上がった魚が、鳥を喰らった。
「おい、なんかおかしいぞ!」
 ぎゃあぎゃあとけたたましい鳴き声がいくつも上がり、水鳥達が海中へと引き込まれていく。白い羽が飛び散り、水面に濁った赤が広がる。
「危ねえ!」
 船員目掛けて船上にまで跳び上がった魚を、護衛の水兵が叩き落とした。
「イブリース化してやがる! 数が多い、突破は無理だ!」
「旋回、旋回ーッ!!」
 苦々しい表情で舵を切る船長に、若い水夫が提案する。
「積み荷に火薬ありませんでした? いっそ海に放り込んで……」
「下手に刺激するな! 大体ここはイ・ラプセルの領海だ、無許可で爆薬なんか使ったら漁業関係者から苦情が――」
 そこまで言い、ふと思い出したように呟いた。
「イ・ラプセルならメイヴェンさんに相談すれば……」


「そんなわけで、通商連からお仕事の依頼が来たわ」
 集まった自由騎士を見渡し、『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)が微笑んだ。イブリース化したトビウオの群れが商船の航路上に出現し、その海域を避けざるを得ない状況になっているという。
「トビウオって海面を滑空するように飛ぶお魚で、海の表層に近い所に生息してるのよ。今は通商連の船が遠回りすれば済む話なんだけど、暑くなってくると舟遊びとかで海上に出た一般市民が被害に遭う可能性があるわ。今のうちに駆除をお願いしたいの」
 トビウオには鋭い牙による噛みつきくらいしか攻撃手段がなく、一匹一匹は弱い為、オラクルであれば一撃で倒す事も不可能ではない。ただ非常に数が多く、水面から突然弾丸のように飛び出してくる為、油断は禁物だ。
「あ、船は通商連が出してくれるそうよ。小型の軍用船くらい出してくれるんじゃないかしら。何か必要な物資があれば、それも手配して貰えるわ」
 船員はイブリースとの戦闘に参加するわけではないが、戦闘の心得がある者で構成する為、船員や船への攻撃は考慮しなくて良いそうだ。とはいえ、船自体にあまりにも甚大なダメージを与えてしまうと転覆の恐れはあるのだが。
「海が荒れる心配は無いけど、船上の戦闘だから多少の揺れは覚悟してね。いってらっしゃい!」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
宮下さつき
■成功条件
1.イブリースの群れの殲滅
宮下です。通商連からのお仕事です。

●敵情報
イブリース化したトビウオ×いっぱい
結構な速度で飛んできますが、自由自在に方向を変えられるわけではないので軌道を読む事は難しくありません。

●戦場
海の上です。該当の海域に入ればトビウオの方から飛び掛かってきます。
特に指定が無ければ船の甲板に配置されます。
ソラビトさんやミズヒトさんもプレイング内に記載が無ければ船で戦います。

それではよろしくお願い致します。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
14モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年06月02日

†メイン参加者 8人†




「色々注文をつけて悪かったな」
 商人の顔で笑う『欲にまみれて大興奮♡薬師もネ』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)に、操縦士の男も釣られて白い歯を見せた。
「いやぁ、最初に注文書を見た時には戸惑いましたが……」
 指定された船は『船倉の大きなもの』、自由騎士達が求めた物は武器の類ではなく刺し網や小舟、そしていくつかの調理器具に氷。いくら浄化の権能を人伝に聞いていたとはいえ、イブリース退治に持参する物資とは程遠い要望に、担当者は困惑したに違いない。
「まあ軍用船の武装はあんな小型のイブリースを想定してませんから、お役に立てそうもありませんしね」
 通商連では駆除出来ず、かといって交易を止めるわけにもいかず、大幅に時間を掛けての航行。積み荷によっては鮮度が落ち、値下げを余儀なくされた。そう溜息混じりに話す操縦士を、『アイギスの乙女』フィオレット・クーラ・スクード(CL3000559)が励ます。
「それは難儀じゃったのぅ。まぁ、それをなんとかする為にくー達がいるのじゃがのぅ!」
「良い報告が出来るように尽力するよ」
 胸を張るフィオレットの隣で『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)が応えれば、船員達から「頼りにしている」との声がいくつも上がった。
「輸送船の中を拝見しましたらぁ、おさかなさんを運ぶのに最適でしたよぉ~」
 ふんわりと笑んだ『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が言うには、保冷用の氷を搬入する前から庫内にはひんやりとした空気が流れていたそうだ。船員の一人が、商品の品質を保つ為に、船内の断熱加工や蒸気の排熱に工夫があるのだと教えてくれた。
「トビウオで満タンにして戻ってくるぞ」
 冗談めかして言う『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)の表情は鎧装に覆われていて読めない。船員は半信半疑といった様子で、小さく笑った。
「トビウオか。結構美味いのだよなあ……ま、何れにせよ先ずは浄化か」
 大きな医療鞄を手に船に乗り込む『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)の後を、幾分硬い表情でフリオ・フルフラット(CL3000454)が続く。
「この手脚も馴染みましたけれども――どれだけ役に立てますか、さて」
 意気込む彼女の背中をばしりと叩き、『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が軽い足取りで追い越して行く。
「おさかなー!」
「ピリカ姉様?! い、痛いであります」
 少しは肩の力を抜けただろうか。生身の部分を叩かれた事に抗議の声を上げる、可愛い妹分から水平線へと視線を移し、シノピリカは眩い日差しに目を細めた。
 願わくは、彼女の自由騎士としての船出が、今日の空のように晴れやかであるようにと。


 何処までも続く青は陽光に煌き、頬を撫でる潮風が心地良い。陸地が遥かに遠ざかり、問題の海域が近付くにつれて慌ただしくなる船上で、フィオレットは長閑に景色を楽しんでいるようであった。
「ほら、あれじゃ、あれ。 果報は寝て待てというやつじゃな?」
「あちらから飛んできてくださるそうですからねぇ~。煮てよし焼いてよし、フライにしても美味しいおさかなですぅ〜、腕がなりますねぇ」
 果たしてシェリルの腕が鳴るのは戦闘だろうか、それとも調理だろうか。和やかな空気が流れる中、望遠鏡を覗いていた水兵に動きが見られた。
「前方から濃い魚影が接近!」
 ぱしゃ。水兵が叫ぶが早いか、海面から飛び出した魚が牙を剥いた。
「さぁて、沢山お持ち帰りさせてもらうぜ」
 真っ先に動いたのはウェルス。既に呼吸を整え、万全の態勢で引き金を引く。弾丸の如き速度で迫るトビウオを、弾丸を以て撃ち落とす。
「配置に着くのじゃ!」
「船員の皆様、甲板より退避願います! 」
 シノピリカがノートルダムの息吹で仲間を包み込む傍ら、フリオが船員を誘導する。彼女は今日が初陣だと言うが、信頼のおける仲間が近くに居る為か、至って冷静だ。
「来るぞ」
 舳先で眼下を見下ろし、水中の様子を探っていたアデルが忠告するとほぼ同時、四方から何匹ものトビウオが跳ねた。
「貫ける物なら……貫いてみるのじゃなぁ!」
 フィオレットはそう気を吐くと自身の身の丈に迫る大きさの盾を構え、迫りくる魚達を弾く。床に落ちてびたんと濡れた音を立てた魚は気絶したのか、ぴくりとも動かない。
「……ふむ、しかしトビウオは如何にして海中より私達を見定めているのでしょう?」
 フリオが疑問に思うのも、無理からぬ事だ。今しがた長剣で斬り伏せたそれは、普通のトビウオと何ら変わりなく見える。
「攻撃手段に関しては、事前情報通りだね。イブリース化で普通の魚より鱗の硬度や咬合力が高まっているようだし、視力の増強も有り得るかもしれない」
「魚類ならば側線辺りが強化されて敵の気配を感知出来るようになった、という可能性もあるな」
 金瞳に光を宿してイブリースを分析するアルビノに、ツボミもまた興味深げに見解を述べた。
「ま、何にせよ……こりゃぁ、取り放題って奴だな」
 間を置かずに宙を舞う魚達を、ウェルスの弾幕が撃墜する。数には数での応酬だ。同じくアデルが複数の敵を見据え、槍を振りかぶる。ただし、視線は跳び上がった魚でなく、海面へと向けられてはいたが。
「――少し揺れるぞ」
 ザアアァッ!
 水面に叩き付けられた衝撃波が海水諸共トビウオ達を吹き飛ばした。魚達が予め仕込んであった刺し網に掛かり、速度が落ちた隙を突いた攻撃に、かなりの数が巻き込まれている。
「はあ、大したもんですなぁ」
 各々がウェルスの要望によって張られたロープを手に身体を支える中、最も揺れる船首で器用に重心を移動させたアデルに、後方で操舵室を守る水兵の一人が感心するような声を漏らした。
「……良い買い物だった」
「なるほど、あなたがあの時の」
 海上で戦う技術の対価は決して安い額ではない。目の前の自由騎士の財布に与えた打撃を想ってか、水兵の視線は何処か同情的だ。
「ご本人の前じゃが活用させて頂こう!」
 一歩間違えれば海に落ちそうな船の外縁部で、シノピリカはからからと笑いながら、己から溢れる気でトビウオの群れを払い落としている。戦闘教義を得たからこその足さばきだ。
 イブリースの駆除は、危なげなく、極めて順調に進んでいる。そう思われた時、不意に強い風が吹いた。


 ぐら、と船が横に揺れた。ゆるやかに崩れるやや高い波から飛び出した魚達が、雨のように降下する。フィオレットの掲げた大盾が堅牢な傘として騎士達を守る中、周囲を警戒していたツボミが叫ぶ。
「フィオレットーッ! 左側面!」
「……避けたら皆に当たるじゃろうが!」
 フィオレットは一歩も引かない。盾を掲げ、無防備になった彼女の身体を目掛けて、何匹ものトビウオが群がった。歯を食いしばり、ひたすらに耐える。
「心意気はありがたいがな、無茶はするな!」
 ツボミは声こそ鋭いが、即座に齎した癒しは、ただただ優しい。ツボミの魔力が、慰撫するようにフィオレットの身体を撫ぜた。
 ぐら。傾いた船の復原力が、思いのほか強く働いた。再度、船が揺れる。
「……!」
 床板を踏み締める足と逆方向に力が加わり、フリオの身体が投げ出された。一瞬の浮遊感の後、急激に海面が迫る。
「はっ!」
 高速で踏み出した足は空気を蹴り、波に飲まれる寸前で離れる。
「手を出すのじゃ!」
 咄嗟に船へと伸ばされた腕を取り、トビウオに喰らい付かれるのも構わずにシノピリカはフリオを引き上げた。蒸気鎧装は相当に重いはずだ。目を見開いたフリオを安心させるように、アルビノが整った微笑を見せる。
「さぁ回復するよ」
 シノピリカの白い肌を万能なる雫が伝い、みるみるうちに傷口を塞いだ。何でもないとでも言うように拳を握って見せたシノピリカに、周囲は胸を撫で下ろす。彼女達を温かな視線で見守っていたシェリルが、ゆったりとした動作で両の腕を開いた。
「八千代堂三十秒クッキング〜! よぉ〜く練ったマナをぉ……」
 柔らかな笑みと女性的な仕草は、まるで飛び込んでくる魚達を抱擁するかのようだ。だが。
「どどーんと周囲に巡らせて、マナの大洪水を敷き詰めます〜!」
 ごうと唸りを上げて立ち昇る魔力が、魚達を襲った。その奔流は幸運すら押し流すというが、自由騎士達がこの依頼を受けた時点で、彼らは不運だったと言わざるを得ない。
「おさかなさんは、皆さんのお腹の中に美味しく収まる運命なのですぅ」
「しばらく飯に困らないな」
 立て続けに撃ち出されるウェルスの弾丸が次々に魚を捉え、甲板の上で何匹ものトビウオが跳ねている。そこにイブリース化していた時の醜悪な気配は欠片も無い。
「これが、浄化……」
 水兵の一人がそれをまるで奇跡を目の当たりにしたとでもいうような表情で見つめ、囁くように呟いた。
「俺も倒したトビウオはすり身か刺身になるんじゃないかと気を揉んだがな」
 浄化の権能を行使しつつも肩を竦め、アデルは振り抜いた槍の先を見やった。吹き飛ばした魚達は案外原型を留め、しかも高確率で生きている。例えるならば憑き物が落ちた、そんな印象だ。
「回復も足りてるようだし、ワタシも攻めさせてもらおうかな」
「トビウオも目に見えて減ってきたからな。あとの支援は私が引き受けよう」
 こつり。九矛目で床を突いた音を合図に、癒しの甘雨が降り注いだ。縦横無尽に飛び交っていた魚は着実に数を減らしており、もう回復手はツボミ一人で事足りそうだ。アルビノの足元から人形兵が立ち上がり、前方へと突進する。
「あっという間に、沢山のおさかなが手に入りましたぁ〜!」
 魔導書を抱きしめて嬉しそうに言うシェリルの足元には、凍り付いた魚が何匹も落ちている。操舵室から顔を出し、魔導の奥義が食材のお持ち帰り用に振るわれるのを呆然と眺めていた船員が、思わずといった様子で口を開いた。
「これは確かに、議長がこき使いたがるはずだ……あ、いや、その」
 口を滑らせた船員は慌て、近くに居たアルビノの顔色を窺う。しかしアルビノに不快そうな気配は微塵も無く、むしろ人形のように美しく微笑んで見せた。
「ふふ。浄化の依頼があれば、ワタシ達はいつでも謹んでお受けするよ」
 ――恩はいくら売っても損はなさそうだしね。声には出さないが、通商連とのコネクションが様々な状況でキーになると知っている彼は、柔らかな物腰で応じるのだった。


 後衛までもが攻撃手に加わってからの展開はとにかく早かった。絶え間なく海から現れていたトビウオは次第にまばらになり、空中に飛び出したが最後、イブリースとしても魚としても海に帰る事なく船に積み込まれてゆく。やがて一匹も現れなくなり、船の動力部から響く蒸気の音と、穏やかに寄せる波の音だけが辺りに響いていた。
「あの、ピリカ姉様……先程は油断したであります。フォローありがとうございました」
 フリオはいかなる叱責も受けようと、おずおずとシノピリカに声を掛ける。だが予想に反し、彼女の唇は弧を描き、満足気に頷いた。
「よくあの状態から立て直した!」
 二段飛びのタイミングが素晴らしかった、海水に浸かると蒸気鎧装のメンテナンスが大変じゃからのう、と些か遠い目をするシノピリカからフリオを褒める言葉こそ出るが、彼女の口からお叱りの言葉を聞く事はついぞ無かった。
「よーし、大漁大漁っと」
「大漁旗でも上げるか?」
 ウェルスとアデルが回収した刺し網には、たくさんのトビウオが掛かっていた。浄化されて海に落ちた物全てというわけではないだろうが、どうやら船倉の大きな船を頼んだ甲斐はあったらしい。
「ふふふ、それにしてもこれだけ大量の魚が一気にイブリース化するなんて……面白いね」
 とはいえこの量では、船に乗る面々だけでは消費しきれないのではないか。アルビノは魚の山を見つめ、討伐の報告がてら通商連に引き取って貰う事も視野に入れる。
「食べきれないトビウオは干物にすれば遠方まで届けられるな。ま、料理の方は得意な奴に任せる」
「任されましたぁ~!」
 潮風に晒された蒸気鎧装のメンテナンスをすると言い残して船室に向かうアデルから魚の詰まった木箱を受け取り、シェリルが包丁を手にした。本業は菓子職人だが、祖母の遺したレシピは食事から子供のおやつ、酒の肴など多岐にわたる。
「アマノホカリでは、新鮮な魚肉を生で頂くと聞くが真かのう?」
 料理が出来るのを今か今かと待つシノピリカに問われるが、生憎ツボミは料理達者ではない。
「……と聞いた事はあるな。私は塩焼きくらいしか出来んがなあ。ああ、でも」
 にやり。口角を上げ、彼女が鞄から取り出したのは大きな瓶。
「酒ならちゃんと持参したぞ」
「何が『ちゃんと』なんだ」
「なんだクマ、貴様も飲みたいか」
「これを置いてきてからな」
 魚が劣化しないうちに、と甲板に無造作に積まれた魚をせっせと船倉に運び込むウェルスを横目で見やり、フィオレットはううむと唸る。
「浄化した魚を、本当にさくっと食うつもりなのじゃなぁ……」
 自身に噛みついてきた凶悪な魚を思い出すと、どうにも食べようという気が起きない。帰路は釣り糸を垂れ、のんびりと釣りを楽しむ事にした。
「くーはちょっと遠慮したいのじゃ……、次の機会にしておくのじゃ」
 ぐい。釣り竿が大きくしなる。
「お……おおお?」
「網を借りてくるであります!」
 海に引きずり込まれるような強烈な引き。フィオレットは駆けていくフリオの背に助けを求める。
「は、早くして欲しいのじゃー! 大物じゃ!」

 眩い孟夏の空の下、たくさんの笑い声を乗せた船は、ちょっぴり香ばしい匂いを漂わせながら、凪いだ海を進んでいた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『トビウオの一夜干し』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

範囲攻撃の権能見てみたいな~、わらわら系依頼を出そう!
……と思っていたら、全員が浄化を徹底してきたので大変笑わせて頂きました。
自由騎士の食欲に大敗です。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済