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【楽土陥落】この城砦は落とさせない!

●
「皆様。真価が問われておりますわ」
マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)の笑顔は浮かぶというより漂うようだ。
「イ・ラプセルとヘルメリア・ヴィスマルクの三カ国の介入した作戦により、シャンバラは多くの小管区を奪われ、聖域の出力を下げられました。シャンバラ攻略も大詰め。向こうの奥の手はデウス=ギアであるアルス・マグナのみ。ですが方向の違う三方に一度に打ち込まなければ意味はありませんわね?」
国土への直接攻撃のリスクの分散は大事だ。三国介入の利点と言える。
「講和会議での時間稼ぎも失敗となっては、シャンバラもいよいよ窮地――いえ、もはや死に体ですわね。イ・ラプセルがシャンバラにとどめを刺します」
令夫人の嗜みとして婉曲な言い回しを好むオラクルが、断言した。
「介入した三か国それぞれがミトラースに兵を向けるでしょう。ヴィスマルクとヘルメリアの介入を阻止――武力行使で――すると同時にミトラースに兵を送ります」
「そして、戦争には火事場泥棒が出ますのよ。シャンバラは三国で分割されるでしょうが、自分の取り分を増やそうとなさる方々がいらっしゃいますの。ケーキの土台を整えてデコレーションしたのは、イ・ラプセルでしてよ。ヴィスマルク建築様式にしたから、自分の分と勘違いなさったのかしら。困ったものですわね。分はわきまえていただきましょう」
シャンバラ攻略の橋頭保として整えられたニルヴァン要塞は、初期のイ・ラプセル介入をごまかすため、ヴィスマルク様式の外壁でおおわれている。
シャンバラの教会をベースに地下を掘り下げ、武器弾薬庫及び籠城用の貯蔵庫を敷設。
大きな城門は両方フェイク。偽装された出入り口を使用する。
いかにもおどろおどろしい尖塔は、対空哨戒に用いられる。
外壁に銃眼を多数配備し、敵の哨戒距離になって改めて像を結ぶように迷彩塗装を施す。これは耐火・耐熱塗装を用い、敵の攻撃の命中率を下げ、砦の耐久度を上げる。
砦の周囲には経路を誘導するように柵が作られ、簡易的な檻になる仕掛けを設置する。更に堀や溝が掘られ、場合によっては水を流す算段をつける。
更に同船を断ち切る箇所に落とし穴が掘られた。
広範囲に薬剤を散布する投石機もどきも作られた。
自由騎士による襲撃演習及び修補演習及び侵攻対策済み。
殺る気の粋を集めて作った城砦は、一つ一つを吟味すればそれは考えられて作られた逸品だったが、何も知らないで見た第一印象は、枯れそうな密林に突如現れた呪われた異国の館そのものだった。
ここにヴィスマルク様式の館があるのだから、この土地はヴィスマルクが管理する。などとごり押しされてはたまったものではないし、大陸への振興拠点を奪われるばかりか、イ・ラプセル攻略の橋頭保を与えることになる。断じて死守だ。
「ヴィスマルクは――昨年のことで大体お分かりですわね。高飛車で頭に血が上りやすくて穏やかと言い難い性格の方が主流ですわ」
強硬派しかいない。皇帝の意に反すれば、寒い強制収容所でよくて強制労働。悪ければ人体実験で――死なせてもらえなくなるだろう。
「今こそ、たっぷりしかけた新型兵装を試す格好の機会ですわ。幸い火事場泥棒に、そう大規模に兵は割けなかったようですわね。10人規模の中隊レベル。本当にずっとこうやって侮っていてもらえると、こちらも各個撃破できてようございますわね」
兵力の逐次介入は愚策である。が、イ・ラプセルがぬるいという先入観がその愚策を誘発する。ある意味、イメージ戦略万歳だ。
「来るのは、工作員ですね。建物は残したまま、中の人間だけ始末して再利用しようという計画のようです。状態異常系への対策を厳として下さい。目が覚めたら、北へ向かう敵の護送列車の中でしたなどシャレになりませんので」
もしそうなったら、人体実験用だ。死ににくいからギリギリまで使われる。
「――実際は講和の時の交渉材料のため捕虜でしょうね。死んでいなければ。がんばって抵抗してくださいませね」
すでに一般人は戦域から退避済み。残っているのは国家を背景に己と相手の命を天秤にかけることを覚悟をした戦闘員だ。
「そもそも、要塞に入れないことが肝要です。的は空からと森伝いの陽動で来ます。屋根伝いで入るようなので、その前に撃ち落とし、せめて落下点を、建物から離れた場所にずらす。森からこっそり組は、罠と誘導路敷設地帯に入らざるを得ないようにする。敵戦力をそぎ落し、各個捕縛してくださいな。ええ、ヴィスマルク風の建物ですもの。『間違って』『迷い込んでくる』『間抜けな』部隊がいても『おかしくはない』ですわ」
つまり、こちらの分割統治領域を広げる材料にするということか。確かに、その方が快適に暮らせるものも多いだろう。統治されるとしたら、イ・ラプセルの方がましなのではなかろうか?
「他部隊がミトラースを落とすまで、ニルヴァン要塞を死守。戦争は終わってからの評定が肝要ですのよ。火中の栗を拾わせておいて、おいしいところだけかすめ取るような真似はさせません」
「皆様。真価が問われておりますわ」
マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)の笑顔は浮かぶというより漂うようだ。
「イ・ラプセルとヘルメリア・ヴィスマルクの三カ国の介入した作戦により、シャンバラは多くの小管区を奪われ、聖域の出力を下げられました。シャンバラ攻略も大詰め。向こうの奥の手はデウス=ギアであるアルス・マグナのみ。ですが方向の違う三方に一度に打ち込まなければ意味はありませんわね?」
国土への直接攻撃のリスクの分散は大事だ。三国介入の利点と言える。
「講和会議での時間稼ぎも失敗となっては、シャンバラもいよいよ窮地――いえ、もはや死に体ですわね。イ・ラプセルがシャンバラにとどめを刺します」
令夫人の嗜みとして婉曲な言い回しを好むオラクルが、断言した。
「介入した三か国それぞれがミトラースに兵を向けるでしょう。ヴィスマルクとヘルメリアの介入を阻止――武力行使で――すると同時にミトラースに兵を送ります」
「そして、戦争には火事場泥棒が出ますのよ。シャンバラは三国で分割されるでしょうが、自分の取り分を増やそうとなさる方々がいらっしゃいますの。ケーキの土台を整えてデコレーションしたのは、イ・ラプセルでしてよ。ヴィスマルク建築様式にしたから、自分の分と勘違いなさったのかしら。困ったものですわね。分はわきまえていただきましょう」
シャンバラ攻略の橋頭保として整えられたニルヴァン要塞は、初期のイ・ラプセル介入をごまかすため、ヴィスマルク様式の外壁でおおわれている。
シャンバラの教会をベースに地下を掘り下げ、武器弾薬庫及び籠城用の貯蔵庫を敷設。
大きな城門は両方フェイク。偽装された出入り口を使用する。
いかにもおどろおどろしい尖塔は、対空哨戒に用いられる。
外壁に銃眼を多数配備し、敵の哨戒距離になって改めて像を結ぶように迷彩塗装を施す。これは耐火・耐熱塗装を用い、敵の攻撃の命中率を下げ、砦の耐久度を上げる。
砦の周囲には経路を誘導するように柵が作られ、簡易的な檻になる仕掛けを設置する。更に堀や溝が掘られ、場合によっては水を流す算段をつける。
更に同船を断ち切る箇所に落とし穴が掘られた。
広範囲に薬剤を散布する投石機もどきも作られた。
自由騎士による襲撃演習及び修補演習及び侵攻対策済み。
殺る気の粋を集めて作った城砦は、一つ一つを吟味すればそれは考えられて作られた逸品だったが、何も知らないで見た第一印象は、枯れそうな密林に突如現れた呪われた異国の館そのものだった。
ここにヴィスマルク様式の館があるのだから、この土地はヴィスマルクが管理する。などとごり押しされてはたまったものではないし、大陸への振興拠点を奪われるばかりか、イ・ラプセル攻略の橋頭保を与えることになる。断じて死守だ。
「ヴィスマルクは――昨年のことで大体お分かりですわね。高飛車で頭に血が上りやすくて穏やかと言い難い性格の方が主流ですわ」
強硬派しかいない。皇帝の意に反すれば、寒い強制収容所でよくて強制労働。悪ければ人体実験で――死なせてもらえなくなるだろう。
「今こそ、たっぷりしかけた新型兵装を試す格好の機会ですわ。幸い火事場泥棒に、そう大規模に兵は割けなかったようですわね。10人規模の中隊レベル。本当にずっとこうやって侮っていてもらえると、こちらも各個撃破できてようございますわね」
兵力の逐次介入は愚策である。が、イ・ラプセルがぬるいという先入観がその愚策を誘発する。ある意味、イメージ戦略万歳だ。
「来るのは、工作員ですね。建物は残したまま、中の人間だけ始末して再利用しようという計画のようです。状態異常系への対策を厳として下さい。目が覚めたら、北へ向かう敵の護送列車の中でしたなどシャレになりませんので」
もしそうなったら、人体実験用だ。死ににくいからギリギリまで使われる。
「――実際は講和の時の交渉材料のため捕虜でしょうね。死んでいなければ。がんばって抵抗してくださいませね」
すでに一般人は戦域から退避済み。残っているのは国家を背景に己と相手の命を天秤にかけることを覚悟をした戦闘員だ。
「そもそも、要塞に入れないことが肝要です。的は空からと森伝いの陽動で来ます。屋根伝いで入るようなので、その前に撃ち落とし、せめて落下点を、建物から離れた場所にずらす。森からこっそり組は、罠と誘導路敷設地帯に入らざるを得ないようにする。敵戦力をそぎ落し、各個捕縛してくださいな。ええ、ヴィスマルク風の建物ですもの。『間違って』『迷い込んでくる』『間抜けな』部隊がいても『おかしくはない』ですわ」
つまり、こちらの分割統治領域を広げる材料にするということか。確かに、その方が快適に暮らせるものも多いだろう。統治されるとしたら、イ・ラプセルの方がましなのではなかろうか?
「他部隊がミトラースを落とすまで、ニルヴァン要塞を死守。戦争は終わってからの評定が肝要ですのよ。火中の栗を拾わせておいて、おいしいところだけかすめ取るような真似はさせません」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ヴィスマルク侵攻部隊の無力化
ごきげんよう。田奈です。
ヴィスマルク様式建造物だからうちの建物だと言い張るつもりの連中をふんじばるお仕事です。
建物内部で一定時間経過すると毒ガス撒かれちゃうから、建物の中に入れないようにして下さいね。
*場所 ニルヴァン要塞及びその周辺。
詳細は、「キノコではない城砦をプロデュース!」を参照ください。
要塞の施設を有効に使う描写を具体的にすると、判定が有利になります。
外壁はヴィスマルク様式ですが、内装はイ・ラプセル様式なので、移動に利用している皆さんに分があります。要塞内部は戦闘を想定されているので、二人並んで戦闘できるくらいの幅があります。
*ニルヴァン要塞にいる自由騎士は、襲撃演習及び修補演習及び侵攻対策のレクチャーは受けていますので、内部の施設は問題なく使えます。要塞内にいる自由騎士に指示を出すという形で利用可能です。今回のサポートさんはメインメンバーから指示を出された自由騎士さんということになります。
*ヴィスマルク空挺部隊×4
囮。あわよくば本隊。要塞の屋根に降りて、爆発系魔法をぶっ放し、中に侵入。要塞の真ん中で催眠ガスを放出。根こそぎ捕虜にしようとしている。
魔導系のやたらと敏捷なのが四人と考えてください。
落下傘降下してくるので、尖塔に取り付けた高射砲および壁にかいた幻惑塗装およびやたらとしかけた銃眼、投石機もどきが有効です。
*ヴィスマルク陸戦部隊×6
本隊。場合によっては囮。森から館を強襲。地下基底部を爆破して要塞2そのものをなかったことにしようとしています。
砦周囲の柵、檻、水を流せる堀に落とし穴。投石機もどきも有効です。
回避が高い軽戦士による電撃作戦です。
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「この共通タグ【楽土陥落】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
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ヴィスマルク様式建造物だからうちの建物だと言い張るつもりの連中をふんじばるお仕事です。
建物内部で一定時間経過すると毒ガス撒かれちゃうから、建物の中に入れないようにして下さいね。
*場所 ニルヴァン要塞及びその周辺。
詳細は、「キノコではない城砦をプロデュース!」を参照ください。
要塞の施設を有効に使う描写を具体的にすると、判定が有利になります。
外壁はヴィスマルク様式ですが、内装はイ・ラプセル様式なので、移動に利用している皆さんに分があります。要塞内部は戦闘を想定されているので、二人並んで戦闘できるくらいの幅があります。
*ニルヴァン要塞にいる自由騎士は、襲撃演習及び修補演習及び侵攻対策のレクチャーは受けていますので、内部の施設は問題なく使えます。要塞内にいる自由騎士に指示を出すという形で利用可能です。今回のサポートさんはメインメンバーから指示を出された自由騎士さんということになります。
*ヴィスマルク空挺部隊×4
囮。あわよくば本隊。要塞の屋根に降りて、爆発系魔法をぶっ放し、中に侵入。要塞の真ん中で催眠ガスを放出。根こそぎ捕虜にしようとしている。
魔導系のやたらと敏捷なのが四人と考えてください。
落下傘降下してくるので、尖塔に取り付けた高射砲および壁にかいた幻惑塗装およびやたらとしかけた銃眼、投石機もどきが有効です。
*ヴィスマルク陸戦部隊×6
本隊。場合によっては囮。森から館を強襲。地下基底部を爆破して要塞2そのものをなかったことにしようとしています。
砦周囲の柵、檻、水を流せる堀に落とし穴。投石機もどきも有効です。
回避が高い軽戦士による電撃作戦です。
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「この共通タグ【楽土陥落】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
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状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
6個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2019年04月21日
2019年04月21日
†メイン参加者 10人†
●
壁面に施された塗装がゆがんで見える。
化け物が目を細め、口をゆがめて笑っているようだ。
無垢を気取って、着々と他国を侵略しようとしている海の魔女の眷属がこちらを見ている。目玉が揺らいでいるように見える。
「――『海魔の顔』だ。総員、降下準備せよ」
「降下後、速やかに内部に侵入。中枢部と思われる階層に浸透せよ」
海魔だ。海の化け物が笑っている。
「銃眼確認、撃ってくるぞ。総員回避。回避―!!」
奇襲作戦だとっさの応戦のわりに銃線が多すぎるそれともこれが通常対応なのか情報が漏れたのだどこからだ裏切り者がいるのか何で撃たれているのだ海魔が笑っている撃たれている海魔が笑っている海魔が海魔が海魔が。
壁が。
●
城砦の中では、敵侵攻予想時間までのカウントダウンが始まっている。
「それでは銃眼から随時射撃を頼むよ」
「投石機もだろ。任せろよ」
すれ違いざま互いの武運を祈りつつ、それぞれに必要そうなものを渡し合う自由騎士の向かう先は主に二手に分かれていた。
「こんな要塞になってたんですね……」
『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)は、周囲を見回した。外は異国風なのに、内部は勝手知ったるイ・ラプセル様式だ。
「ニルヴァンの要塞を近くでゆっくり見たのは初めてかもしれないぞ! こんなのを短時間で作れる自由騎士はやっぱりすごいんだぞ!」
踏ん反りながら急いで回廊を抜ける『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は割と忙しいのだ。アリアも、何だかんだで二ルヴァン要塞付近での戦闘は初めてで、そこまで構造に明るくなかった。銃眼がある区画を横切って、外に出るルートを確認したのだ。もしも突入されたときに駆け付けられるように。
(決して此処は落とさせはしない)
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の胸に、この城砦を構築した際のあれこれが去来する。
「ニルヴァン要塞はうちら仲間が頑張ったんやし――うちもちょっとだけ手伝うたし――ここはしっかり守っていかなあかんな」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、にっと笑って見せた。
「ヴィスマルクの電撃戦に相対するのはアデレード以来かな?」
カチリ。
アリアの手指が普段なら音もなく抜き放つ柄頭を滑った。今、気づいた。先を急ぐ爪先。足を前に出す膝が震えている。
物陰から飛び出してくるヴィスマルク兵。森の中から飛び出してくるヴィスマルク兵。
アデレード防衛戦で、アリアは不覚を取っていた。まだ命があるのは、アクアディーネのご加護としか言いようがない。アリアを蹂躙したヴィスマルク兵は援軍に追われて潰走していった。その時起こったことはまだアリアの中でも整理できていなくて、口に出せるのはまだ先になりそうだ。
少なくとも、今ここで臆している場合ではないことはわかっている。
「ほな、いこか」
「ええ」
戦える。手指が震え、膝が震えようとも。足の裏は地面を踏みしめ、いつも通り宙を舞える。それだけの修羅場は越えてきた。
「毒ガスとか巻かれたら大変なことになるからサシャ達の力でしっかりお守りするんだぞ!」
その後ろから、がっちりプレートメイルを着込んだ『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)が付いていく。
ナバルには、国家間の争いとか難しいことはわからない。困ってる人を助けて、ちょっと田舎に仕送りできればいいかなーと思っている大義もない分アクアディーネに顔向けできないようなこともしない。わからないが。
「――この砦にいる人をさらおうっていうのはほっとけない! 絶対阻止だ!」
●
「さて、ヴィスマルクの真の力見せていただこうか――彼らは確かに魔導士だが――回避行動や機動関係を特化させているね。高速で城砦の中を走られたら追いつくのは骨かな」
『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)の言葉を信じざるを得ないヴィスマルク兵の損耗率の低さだ。練達度もさることながら銃弾を見切ってよけているような手合いも視認される。
遠ざかっていく対地部隊の足音と入れ替わるように、視界に招いていない客が入ってくる。
「飛んでるうちに落とせりゃ楽なんですけどねー……お互い様ですが」
双眼鏡を目に当てたまま、コジマ・キスケ(CL3000206)が呟いた。向こうも飛んでる間に催眠ガスをぶち込めれば楽だろうなと思っているに違いない。
「地面に真っ赤なお花を咲かせてくれたらよいんですけど、たぶん木に引っかかる感じですかね……」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)がいう真っ赤なお花が野に咲き乱れるものでないのは時代が悪いのだ。
「十字砲火で行こうぜ。点じゃなくてばらまいて面でな」
『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)に親指を立てる自由騎士達。
「落下傘は狙うなよ。下手に生き残られると色々――大変だからな」
ひょい。と銃座に乗せられるリボルバー・ルークカスタム。元は回転式拳銃だったのだ、原形をとどめていないが。
「身体の中心線を狙う。当てにくい上向きの斜線で上下に多少ずれても、これなら外れはしないだろう」
ドン。ニッと笑う。ヴィスマルク兵の腹が赤い花を咲かせた。
「一人一人確実にしとめようぜ」。
海魔が海魔が海魔が笑う。制御を失った腹を赤く染めたヴィスマルク兵が壁に激突した。
戦争において捕虜はいうなれば戦利品だ。末端の兵士から得られる情報はほとんどないが、身代金は通商連経由でとれる。常なら大事な財源だ。しかし、今回に限って言えば城砦に下手に入られるのもまずい。獅子身中の虫。牢屋から砦を崩す策もあるという。
(ニルヴァン要塞を狙う……か。要塞攻めなど、普通に行えば被害が大きくなるものだ。おそらくは搦め手でくるのだろう)
ならば、今回数人分の身代金と城砦をはかりにかける愚を犯すわけにはいかない。
(とはいえ、素直に着地させてやる意味もありません)
ヴィスマルクのやり方に異を唱えイ・ラプセルに亡命した両親を持つコジマは、プロパガンダ半分で散々に言われているのは理解している。が、実際、常に荒れているので、ひどいのは事実だ。
「こっちの屋根から、ここを伝って、こう入ってもらうのが、一番被害が少なそうですね」
切り立った屋根伝いに来るなら、降下経路の予測や誘導もできると、コジマは考えた。
「射程に入り次第、撃ちまくって下さいね――さ、屋根爆破される前にアレの頭を爆破ですよー」
すっと立ち上がる自由騎士の一団。
(今回は作戦上、他の自由騎士に指示できてますけど。こうやって指示主体でやっていく立場になることは、自由騎士でい続ける限りは夢なんですよなぁ……)
自由騎士団に国の内外に響き渡る名声はあっても、階級的出世――俸給とかお手当てとか将来の年金とか――はない。少なくとも、現時点では。コジマが老齢軍人年金をもらうためには三年を切った未来の続きを勝ち取り、この場で死なない必要がある。
●
テオドールは、派手に降下してくる舞台に乗じて森から進行してくる一団に備えていた。
「みんな我慢だよ。レバーを動かすのは、魔法効果が持続しているのを確認してからだ。抜け出されたらもったいない」
堀の水かさを上げ、通路と見せかけた柵の突き当りを封鎖して檻とし、落とし穴へ誘導する手はずになっている。
低く、低く。途切れてはいけない詠唱。
原初の海の深いところを起点にそれは表れる。呼び声を途切れさせてはいけない。
ユリカ・マイ(CL3000516)は、館に向かって降下してくるヴィスマルク兵が弾幕にさらされているのを横目に入れつつ、索敵をしていた。
無謀ともいえる降下作戦に乗じて陸戦部隊が突入してくるのはわかっている。
「私を壁になさってくださいね」
じっと一点を見つめたままこくこくとうなずくサシャが、ユリカに触れた。
『いま――ありしあとてぃらみすにもしらせた――てきがもりからきてるの、みつけた――!』
●
おどろおどろしい尖塔から高射砲の発射音と人の声がする。
「敵着地後乱戦となれば俯瞰情報は超重要です!」というコジマの主張から、目が効く人員が複数回された。
『お知らせです。もりからきつねがさんびき、あなぐまがにひき。あなをほらせないようにしてくださいね?』
森から軽歩兵が三人、工兵が二人、地下基底部に入らせないように留意。
アデレードなまりは神代共通語でも他国の者には聞き取りにくいそうだ。
イ・ラプセルの誰でも知っているが、よその国では知名度が低い童話になぞらえられた符丁は、笑ってしまうという話が出たが、教育水準も出身地方も違う自由騎士団が全員きちんとニュアンスを共有しているのがその童話くらいしかなかったのでしょうがない。今後のことを鑑み、何か共通した「かっこいい」符丁を開発するのもいいかもしれない。
ヴィスマルク本営が聞き分けたら鼻白むような森の動物のお話になぞらえながら、陸戦部隊は包囲網を狭められている。
『きつねとあなぐまのわきをするするぬけてきたのねずみさんは、ちーずにありつくことはできませんでした』
豪壮な装飾が施された正面門。見張りと照明を焚かれ、城壁を登らなきゃ入れないかな? と思わせる様式。
その一角にすぐわきに窓がある登りやすそうな装飾が連なった個所がある。そこには影が落ちていて、いかにものんきなイ・ラプセルの連中が気が付かない手薄な死角に侵入者には見えた。
そこにとりつこうとしたヴィスマルク兵は死角に潜む巨大な影に気が付いていなかった。
体側に強烈な衝撃。それが何から生じるのか認識する暇もないまま、城壁に叩きつけられ、そのまま意識を手放した。
「しっかし、殺意高いなこの砦! 誰が考えたんだか!」
『ここにかくれられます』と砦に改修するときに作られた仕掛けMAPがあるのだ。
「きっとめちゃくちゃ性格の悪いやつだぜ! 間違いない!」
担当の署名に気が付いたナバルは思わず周囲を確認した。
「……えっ、フーリーンさんが関わってんの? ……い、今のは聞かなかったことに」
周辺にいる自由騎士の面々の口がそれなりに重いことを祈るしかない。
「俺、テオドールさんのところに行くから!」
テオドールの詠唱が佳境に差し掛かっている。収束するマナの脅威に詠唱を中断させようと飛びかかるヴィスマルク兵を先ほど兵を押しつぶした盾で受け流す。
「其は悲嘆の荒波――無慈悲たる不帰の奔流!」
母なるセフィロトの海に宿る多様性。内包される呪詛という概念がテオドールのマナを縁にして現世に放たれ奔流と化す。
荒れ狂う概念が無慈悲にたたきつけられ、ヴィスマルク兵から彼の女神の慈悲を引きはがす。
「君たちは、『うっかり』『迷い込んで』『虫に刺され動きが鈍くなり』『生活水路に落ちたり』『獣避けの檻や堀に落ちた』というところだろうかな」
大きく呼吸をしてマナを体内に取り込むテオドールのおっとりとした物言いはヴィスマルク兵の耳に届いただろうか。
踊り子たちが踏むステップは凪を表し、なおかつ剣呑。
重たい足を引きずりながら、迷路のように張り巡らせた垣根がヴィスマルク兵によって破壊されていく。
城砦側は援軍を待てばいいが、ヴィスマルク側には時間的制約があるのだろう。垣根に阻まれている場合ではない。それでなくともすでに重篤なダメージを負っている。「待ち構えていたような」イ・ラプセルの動きはヴィスマルクの想定外なのだ。
「いくで」
アリシアが先陣を切った。
一拍目は大きく大胆に。旋回、旋回、さらに旋回。敵という名のパートナーはダンサーに制御不能の混沌の中で振り回される。
三半規管は機能停止。前後不覚。その場にへたり込むよりほかはない。
「アリアさん!」
「はい!」
念入りに、森から城砦までは荒れた海と化していた。
魔導の詠唱と舞踏で作り出された「海」が、ヴィスマルク兵を飲み込んだ。
「――そろそろいいかな。さあ、檻に追い込もう」
堀に水が流される。
本当の水が侵入者をさらに脅かすのだ。
海魔が、城砦の壁の海魔が笑っている。揺らぐ視界の中、ヴィスマルク兵がうめいた。
●
悲報。誘導した場所に近づくほどに焦げ臭くなっていく。
「せっかく鍵が外してある窓に誘導してやったのに、吹っ飛ばすとはどれだけしつけがなってないんでしょうね」
屋根の爆破は避けたかった。とコジマは唸ったが、戦争とは相手がされたくないことをするのが基本である。ヴィスマルク兵の手順は、戦術面においては正しい。ただ、迎撃する方のやる気に火をつけた点はいかんともしがたい。
回復術を互いに施し合っていたのだろう。敗れた軍服の下から真新しい皮膚が見えている。
「回復は任せてくれ。君達は攻撃に集中を」
アルビノが言うと、体が原形をとどめているうちはどうにかして戦わせてくれる感じがする。
「行きます」
ウサギの足は幸運の象徴。部屋の外から白くてふかふかの大砲が飛んでくる。
爆散し、黒く焦げた部分がティラミスの攻撃範囲だ。
基礎のみをしみこませた蹴りに迷いはなく、その分余計に蹴ることがで、動きはのびやかで、結果ダメージが大きい。
「のねずみはおりのなか。ぼろぼろのきつねいっぴきとあなぐまは――」
窓の外から尖塔からの声が聞こえる。
「我が人形達よ。敵はあちらだ」
けしかけられる戦闘人形。
「この部屋から出られると思わないでほしいな」
銃眼区域から援軍の足音が近づいてくる。
ヴィスマルク兵の叩き割った容器の薬効は、コジマの対抗術式に中和された。
●
「空からの方はぼちぼち片付きそうやわ。こっちもきつねとあなぐま片付けんとな」
捕縛して、檻に入れて、武装解除するまでが城砦守備です。アリシアは追撃に余念がない。
ユリカも、サシャのガードできる位置を維持しつつ、先に立つアリシアとアリアのフォローに余念がない。
「どけえ!」
回復術式の心得があったと見える。あるいは回復が早い者か。
飛びかかってくるヴィスマルク兵の目は、追い詰められた者の気迫がみなぎっていた。このタイミングでここを離脱されてヴィスマルクに返してはいけない。
掲げられるラウンドシールド。吸い込んだ古希を腹の底に据え、裂ぱくの気合とともにヴィスマルク兵の浮いた体を水に満たされた堀の中に叩き落とす。
「!?」
「アイスコフィンすると、素早くなっちゃうかな。お邪魔かな。よし、サシャ、大人しくしておくぞ」
サシャはできる女なので、作戦をきちんと理解しているのだ。
「おとなしくしてるんだぞ! 悪いことするならサシャ達がお仕置きするんだぞ!」
ごぶっと返事するようにヴィスマルク兵の喉が異音を立てた。
ほどなく、アリシアの風の刃が潜伏していたヴィスマルク兵を落とし穴に誘導し、建物に肉薄しようとした最後の一人が――、
「ここを通しはしません!」
どこから追いついてきたのか、いつ斬られたのかわからない。アリアの斬撃がその足を切り裂いていた。
アリアの膝も手も、もう震えてはいなかった。
●
「いやあ。お利口なヴィスマルク兵ならば、特攻なんかしないでしょう。対抗装備してますよね」
サポートの自由騎士が呪文発動待機しつつの、全員の知見を総合しての追いはぎ。
職業軍人としての教育を受けたユリカとコジマの意見。アウトローのルークの意見をメインにして、全員が思いついたことを発言して、実行に移された。
いや、捕虜から装備をすべて引っぺがすのは基本である。西面ガスの類は言うまでもなく、自決用毒などもってのほかだ。キジンの四肢や奥歯の治療跡も確認しなくては。これは人道的処置であり、断じて拷問ではない。誤解はしないでいただきたい。
「彼らを使って何かの実験を……と思いましたけど、特に思いつかないですし捕まえるだけにしましょう」
と、ティラミスが言ったのを全員が受け入れたのだ。イ・ラプセルは文化国家だ。
実際、装備はいい。閉ざす口はない。自壊機構がないことを祈るばかりだ。アルケミーがニンマリするのを止めるすべはない。
「こちらで取る捕虜は一人でも多い方が望ましい、と理解しておりますが……」
ユリカの判断は正しい。武装解除さえできれば人が死なないに越したことはない。生き残った者は、身代金と交換で故国に帰ってもらいたい。死せる兵士には弔いを。還リビトにならず、速やかにセフィロトの海に帰っていただきたい。
●
「なんや――」
アリシアは、プレートメイルをようやく脱ぐことができたナバルを捕まえて、にっこりと笑った。
「ナバルくんが奢ってくれるってほんまなん?」
ほんまと違うといった瞬間、「へぇ~、そうなん」と地獄がやってきそうな、そんな笑顔だった。
「無事皆で帰ったらナバルが奢ってくれるとか。それも楽しみにしていましたよ?」
アルビノの証言。端正な微笑みの圧はアリシアとは別ベクトルで振り切れている。
「麦ジュースより肉ジュースを要求してやるんだぞ!」
サシャが注文を付けた。トッピングにチーズ、サイドメニューにはカリカリのトーストだ。
もちろんナバルが仕送りに手を付けるような事態にはなるまい。アクアディーネのオラクルは仲間を大事にするのだ。
見よ。自由騎士団の奮闘により精霊門は守られた。ゆえに、イ・ラプセルのおいしい酒場という天国はすぐそこにある。
壁面に施された塗装がゆがんで見える。
化け物が目を細め、口をゆがめて笑っているようだ。
無垢を気取って、着々と他国を侵略しようとしている海の魔女の眷属がこちらを見ている。目玉が揺らいでいるように見える。
「――『海魔の顔』だ。総員、降下準備せよ」
「降下後、速やかに内部に侵入。中枢部と思われる階層に浸透せよ」
海魔だ。海の化け物が笑っている。
「銃眼確認、撃ってくるぞ。総員回避。回避―!!」
奇襲作戦だとっさの応戦のわりに銃線が多すぎるそれともこれが通常対応なのか情報が漏れたのだどこからだ裏切り者がいるのか何で撃たれているのだ海魔が笑っている撃たれている海魔が笑っている海魔が海魔が海魔が。
壁が。
●
城砦の中では、敵侵攻予想時間までのカウントダウンが始まっている。
「それでは銃眼から随時射撃を頼むよ」
「投石機もだろ。任せろよ」
すれ違いざま互いの武運を祈りつつ、それぞれに必要そうなものを渡し合う自由騎士の向かう先は主に二手に分かれていた。
「こんな要塞になってたんですね……」
『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)は、周囲を見回した。外は異国風なのに、内部は勝手知ったるイ・ラプセル様式だ。
「ニルヴァンの要塞を近くでゆっくり見たのは初めてかもしれないぞ! こんなのを短時間で作れる自由騎士はやっぱりすごいんだぞ!」
踏ん反りながら急いで回廊を抜ける『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は割と忙しいのだ。アリアも、何だかんだで二ルヴァン要塞付近での戦闘は初めてで、そこまで構造に明るくなかった。銃眼がある区画を横切って、外に出るルートを確認したのだ。もしも突入されたときに駆け付けられるように。
(決して此処は落とさせはしない)
『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の胸に、この城砦を構築した際のあれこれが去来する。
「ニルヴァン要塞はうちら仲間が頑張ったんやし――うちもちょっとだけ手伝うたし――ここはしっかり守っていかなあかんな」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、にっと笑って見せた。
「ヴィスマルクの電撃戦に相対するのはアデレード以来かな?」
カチリ。
アリアの手指が普段なら音もなく抜き放つ柄頭を滑った。今、気づいた。先を急ぐ爪先。足を前に出す膝が震えている。
物陰から飛び出してくるヴィスマルク兵。森の中から飛び出してくるヴィスマルク兵。
アデレード防衛戦で、アリアは不覚を取っていた。まだ命があるのは、アクアディーネのご加護としか言いようがない。アリアを蹂躙したヴィスマルク兵は援軍に追われて潰走していった。その時起こったことはまだアリアの中でも整理できていなくて、口に出せるのはまだ先になりそうだ。
少なくとも、今ここで臆している場合ではないことはわかっている。
「ほな、いこか」
「ええ」
戦える。手指が震え、膝が震えようとも。足の裏は地面を踏みしめ、いつも通り宙を舞える。それだけの修羅場は越えてきた。
「毒ガスとか巻かれたら大変なことになるからサシャ達の力でしっかりお守りするんだぞ!」
その後ろから、がっちりプレートメイルを着込んだ『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)が付いていく。
ナバルには、国家間の争いとか難しいことはわからない。困ってる人を助けて、ちょっと田舎に仕送りできればいいかなーと思っている大義もない分アクアディーネに顔向けできないようなこともしない。わからないが。
「――この砦にいる人をさらおうっていうのはほっとけない! 絶対阻止だ!」
●
「さて、ヴィスマルクの真の力見せていただこうか――彼らは確かに魔導士だが――回避行動や機動関係を特化させているね。高速で城砦の中を走られたら追いつくのは骨かな」
『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)の言葉を信じざるを得ないヴィスマルク兵の損耗率の低さだ。練達度もさることながら銃弾を見切ってよけているような手合いも視認される。
遠ざかっていく対地部隊の足音と入れ替わるように、視界に招いていない客が入ってくる。
「飛んでるうちに落とせりゃ楽なんですけどねー……お互い様ですが」
双眼鏡を目に当てたまま、コジマ・キスケ(CL3000206)が呟いた。向こうも飛んでる間に催眠ガスをぶち込めれば楽だろうなと思っているに違いない。
「地面に真っ赤なお花を咲かせてくれたらよいんですけど、たぶん木に引っかかる感じですかね……」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)がいう真っ赤なお花が野に咲き乱れるものでないのは時代が悪いのだ。
「十字砲火で行こうぜ。点じゃなくてばらまいて面でな」
『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)に親指を立てる自由騎士達。
「落下傘は狙うなよ。下手に生き残られると色々――大変だからな」
ひょい。と銃座に乗せられるリボルバー・ルークカスタム。元は回転式拳銃だったのだ、原形をとどめていないが。
「身体の中心線を狙う。当てにくい上向きの斜線で上下に多少ずれても、これなら外れはしないだろう」
ドン。ニッと笑う。ヴィスマルク兵の腹が赤い花を咲かせた。
「一人一人確実にしとめようぜ」。
海魔が海魔が海魔が笑う。制御を失った腹を赤く染めたヴィスマルク兵が壁に激突した。
戦争において捕虜はいうなれば戦利品だ。末端の兵士から得られる情報はほとんどないが、身代金は通商連経由でとれる。常なら大事な財源だ。しかし、今回に限って言えば城砦に下手に入られるのもまずい。獅子身中の虫。牢屋から砦を崩す策もあるという。
(ニルヴァン要塞を狙う……か。要塞攻めなど、普通に行えば被害が大きくなるものだ。おそらくは搦め手でくるのだろう)
ならば、今回数人分の身代金と城砦をはかりにかける愚を犯すわけにはいかない。
(とはいえ、素直に着地させてやる意味もありません)
ヴィスマルクのやり方に異を唱えイ・ラプセルに亡命した両親を持つコジマは、プロパガンダ半分で散々に言われているのは理解している。が、実際、常に荒れているので、ひどいのは事実だ。
「こっちの屋根から、ここを伝って、こう入ってもらうのが、一番被害が少なそうですね」
切り立った屋根伝いに来るなら、降下経路の予測や誘導もできると、コジマは考えた。
「射程に入り次第、撃ちまくって下さいね――さ、屋根爆破される前にアレの頭を爆破ですよー」
すっと立ち上がる自由騎士の一団。
(今回は作戦上、他の自由騎士に指示できてますけど。こうやって指示主体でやっていく立場になることは、自由騎士でい続ける限りは夢なんですよなぁ……)
自由騎士団に国の内外に響き渡る名声はあっても、階級的出世――俸給とかお手当てとか将来の年金とか――はない。少なくとも、現時点では。コジマが老齢軍人年金をもらうためには三年を切った未来の続きを勝ち取り、この場で死なない必要がある。
●
テオドールは、派手に降下してくる舞台に乗じて森から進行してくる一団に備えていた。
「みんな我慢だよ。レバーを動かすのは、魔法効果が持続しているのを確認してからだ。抜け出されたらもったいない」
堀の水かさを上げ、通路と見せかけた柵の突き当りを封鎖して檻とし、落とし穴へ誘導する手はずになっている。
低く、低く。途切れてはいけない詠唱。
原初の海の深いところを起点にそれは表れる。呼び声を途切れさせてはいけない。
ユリカ・マイ(CL3000516)は、館に向かって降下してくるヴィスマルク兵が弾幕にさらされているのを横目に入れつつ、索敵をしていた。
無謀ともいえる降下作戦に乗じて陸戦部隊が突入してくるのはわかっている。
「私を壁になさってくださいね」
じっと一点を見つめたままこくこくとうなずくサシャが、ユリカに触れた。
『いま――ありしあとてぃらみすにもしらせた――てきがもりからきてるの、みつけた――!』
●
おどろおどろしい尖塔から高射砲の発射音と人の声がする。
「敵着地後乱戦となれば俯瞰情報は超重要です!」というコジマの主張から、目が効く人員が複数回された。
『お知らせです。もりからきつねがさんびき、あなぐまがにひき。あなをほらせないようにしてくださいね?』
森から軽歩兵が三人、工兵が二人、地下基底部に入らせないように留意。
アデレードなまりは神代共通語でも他国の者には聞き取りにくいそうだ。
イ・ラプセルの誰でも知っているが、よその国では知名度が低い童話になぞらえられた符丁は、笑ってしまうという話が出たが、教育水準も出身地方も違う自由騎士団が全員きちんとニュアンスを共有しているのがその童話くらいしかなかったのでしょうがない。今後のことを鑑み、何か共通した「かっこいい」符丁を開発するのもいいかもしれない。
ヴィスマルク本営が聞き分けたら鼻白むような森の動物のお話になぞらえながら、陸戦部隊は包囲網を狭められている。
『きつねとあなぐまのわきをするするぬけてきたのねずみさんは、ちーずにありつくことはできませんでした』
豪壮な装飾が施された正面門。見張りと照明を焚かれ、城壁を登らなきゃ入れないかな? と思わせる様式。
その一角にすぐわきに窓がある登りやすそうな装飾が連なった個所がある。そこには影が落ちていて、いかにものんきなイ・ラプセルの連中が気が付かない手薄な死角に侵入者には見えた。
そこにとりつこうとしたヴィスマルク兵は死角に潜む巨大な影に気が付いていなかった。
体側に強烈な衝撃。それが何から生じるのか認識する暇もないまま、城壁に叩きつけられ、そのまま意識を手放した。
「しっかし、殺意高いなこの砦! 誰が考えたんだか!」
『ここにかくれられます』と砦に改修するときに作られた仕掛けMAPがあるのだ。
「きっとめちゃくちゃ性格の悪いやつだぜ! 間違いない!」
担当の署名に気が付いたナバルは思わず周囲を確認した。
「……えっ、フーリーンさんが関わってんの? ……い、今のは聞かなかったことに」
周辺にいる自由騎士の面々の口がそれなりに重いことを祈るしかない。
「俺、テオドールさんのところに行くから!」
テオドールの詠唱が佳境に差し掛かっている。収束するマナの脅威に詠唱を中断させようと飛びかかるヴィスマルク兵を先ほど兵を押しつぶした盾で受け流す。
「其は悲嘆の荒波――無慈悲たる不帰の奔流!」
母なるセフィロトの海に宿る多様性。内包される呪詛という概念がテオドールのマナを縁にして現世に放たれ奔流と化す。
荒れ狂う概念が無慈悲にたたきつけられ、ヴィスマルク兵から彼の女神の慈悲を引きはがす。
「君たちは、『うっかり』『迷い込んで』『虫に刺され動きが鈍くなり』『生活水路に落ちたり』『獣避けの檻や堀に落ちた』というところだろうかな」
大きく呼吸をしてマナを体内に取り込むテオドールのおっとりとした物言いはヴィスマルク兵の耳に届いただろうか。
踊り子たちが踏むステップは凪を表し、なおかつ剣呑。
重たい足を引きずりながら、迷路のように張り巡らせた垣根がヴィスマルク兵によって破壊されていく。
城砦側は援軍を待てばいいが、ヴィスマルク側には時間的制約があるのだろう。垣根に阻まれている場合ではない。それでなくともすでに重篤なダメージを負っている。「待ち構えていたような」イ・ラプセルの動きはヴィスマルクの想定外なのだ。
「いくで」
アリシアが先陣を切った。
一拍目は大きく大胆に。旋回、旋回、さらに旋回。敵という名のパートナーはダンサーに制御不能の混沌の中で振り回される。
三半規管は機能停止。前後不覚。その場にへたり込むよりほかはない。
「アリアさん!」
「はい!」
念入りに、森から城砦までは荒れた海と化していた。
魔導の詠唱と舞踏で作り出された「海」が、ヴィスマルク兵を飲み込んだ。
「――そろそろいいかな。さあ、檻に追い込もう」
堀に水が流される。
本当の水が侵入者をさらに脅かすのだ。
海魔が、城砦の壁の海魔が笑っている。揺らぐ視界の中、ヴィスマルク兵がうめいた。
●
悲報。誘導した場所に近づくほどに焦げ臭くなっていく。
「せっかく鍵が外してある窓に誘導してやったのに、吹っ飛ばすとはどれだけしつけがなってないんでしょうね」
屋根の爆破は避けたかった。とコジマは唸ったが、戦争とは相手がされたくないことをするのが基本である。ヴィスマルク兵の手順は、戦術面においては正しい。ただ、迎撃する方のやる気に火をつけた点はいかんともしがたい。
回復術を互いに施し合っていたのだろう。敗れた軍服の下から真新しい皮膚が見えている。
「回復は任せてくれ。君達は攻撃に集中を」
アルビノが言うと、体が原形をとどめているうちはどうにかして戦わせてくれる感じがする。
「行きます」
ウサギの足は幸運の象徴。部屋の外から白くてふかふかの大砲が飛んでくる。
爆散し、黒く焦げた部分がティラミスの攻撃範囲だ。
基礎のみをしみこませた蹴りに迷いはなく、その分余計に蹴ることがで、動きはのびやかで、結果ダメージが大きい。
「のねずみはおりのなか。ぼろぼろのきつねいっぴきとあなぐまは――」
窓の外から尖塔からの声が聞こえる。
「我が人形達よ。敵はあちらだ」
けしかけられる戦闘人形。
「この部屋から出られると思わないでほしいな」
銃眼区域から援軍の足音が近づいてくる。
ヴィスマルク兵の叩き割った容器の薬効は、コジマの対抗術式に中和された。
●
「空からの方はぼちぼち片付きそうやわ。こっちもきつねとあなぐま片付けんとな」
捕縛して、檻に入れて、武装解除するまでが城砦守備です。アリシアは追撃に余念がない。
ユリカも、サシャのガードできる位置を維持しつつ、先に立つアリシアとアリアのフォローに余念がない。
「どけえ!」
回復術式の心得があったと見える。あるいは回復が早い者か。
飛びかかってくるヴィスマルク兵の目は、追い詰められた者の気迫がみなぎっていた。このタイミングでここを離脱されてヴィスマルクに返してはいけない。
掲げられるラウンドシールド。吸い込んだ古希を腹の底に据え、裂ぱくの気合とともにヴィスマルク兵の浮いた体を水に満たされた堀の中に叩き落とす。
「!?」
「アイスコフィンすると、素早くなっちゃうかな。お邪魔かな。よし、サシャ、大人しくしておくぞ」
サシャはできる女なので、作戦をきちんと理解しているのだ。
「おとなしくしてるんだぞ! 悪いことするならサシャ達がお仕置きするんだぞ!」
ごぶっと返事するようにヴィスマルク兵の喉が異音を立てた。
ほどなく、アリシアの風の刃が潜伏していたヴィスマルク兵を落とし穴に誘導し、建物に肉薄しようとした最後の一人が――、
「ここを通しはしません!」
どこから追いついてきたのか、いつ斬られたのかわからない。アリアの斬撃がその足を切り裂いていた。
アリアの膝も手も、もう震えてはいなかった。
●
「いやあ。お利口なヴィスマルク兵ならば、特攻なんかしないでしょう。対抗装備してますよね」
サポートの自由騎士が呪文発動待機しつつの、全員の知見を総合しての追いはぎ。
職業軍人としての教育を受けたユリカとコジマの意見。アウトローのルークの意見をメインにして、全員が思いついたことを発言して、実行に移された。
いや、捕虜から装備をすべて引っぺがすのは基本である。西面ガスの類は言うまでもなく、自決用毒などもってのほかだ。キジンの四肢や奥歯の治療跡も確認しなくては。これは人道的処置であり、断じて拷問ではない。誤解はしないでいただきたい。
「彼らを使って何かの実験を……と思いましたけど、特に思いつかないですし捕まえるだけにしましょう」
と、ティラミスが言ったのを全員が受け入れたのだ。イ・ラプセルは文化国家だ。
実際、装備はいい。閉ざす口はない。自壊機構がないことを祈るばかりだ。アルケミーがニンマリするのを止めるすべはない。
「こちらで取る捕虜は一人でも多い方が望ましい、と理解しておりますが……」
ユリカの判断は正しい。武装解除さえできれば人が死なないに越したことはない。生き残った者は、身代金と交換で故国に帰ってもらいたい。死せる兵士には弔いを。還リビトにならず、速やかにセフィロトの海に帰っていただきたい。
●
「なんや――」
アリシアは、プレートメイルをようやく脱ぐことができたナバルを捕まえて、にっこりと笑った。
「ナバルくんが奢ってくれるってほんまなん?」
ほんまと違うといった瞬間、「へぇ~、そうなん」と地獄がやってきそうな、そんな笑顔だった。
「無事皆で帰ったらナバルが奢ってくれるとか。それも楽しみにしていましたよ?」
アルビノの証言。端正な微笑みの圧はアリシアとは別ベクトルで振り切れている。
「麦ジュースより肉ジュースを要求してやるんだぞ!」
サシャが注文を付けた。トッピングにチーズ、サイドメニューにはカリカリのトーストだ。
もちろんナバルが仕送りに手を付けるような事態にはなるまい。アクアディーネのオラクルは仲間を大事にするのだ。
見よ。自由騎士団の奮闘により精霊門は守られた。ゆえに、イ・ラプセルのおいしい酒場という天国はすぐそこにある。