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【極東航路】かの地、東の島国へ4

●やっと着いたよ、アマノホカリ。なお、
ついに、アマノホカリに到着した。
蒸気船が停留したのは、朝廷が本拠としている梗都にほど近い港町、酒井(さかい)だ。
そこはほぼ他国との交流を持たないアマノホカリにおいて、数少ない外に向けて開かれた港の一つであり、通商連の船なども行き来している商業都市だった。
その、はずだった。
「うおおおおおおおおおおおお、異人じゃ――――ッッ!」
「またしても異人の黒船がワシらの神州を汚しにきおったぞ――――!」
「守れ、ワシらの神州を守るんじゃァ――――!」
ジョセフ・クラーマー達が船を降りる前、蒸気船の前にそんな感じで騒ぎ立てる男達が集まってきていた。かなりの数で、全員、どうやら漁師らしい。
各々、手に銛を持って、随分と剣呑な雰囲気を醸し出している。
「あれが神州ヤオヨロズだ」
「なるほど、わかりやすい連中だな」
船の上から騒ぐ漁師達を眺め、自由騎士に説明を受けたジョセフが呟く。
「しかし、連中をどうにかせねば船を降りれないのではないか?」
「そうだなぁ。どうにかしないとだろうなぁ……」
隣にいる自由騎士も些か困った様子で息をつく。
武装しているとはいえ、所詮は銛。武器と呼ぶには貧相なブツである。
その上、船の前で騒いでいる男達は人数こそ多いが、オラクルではないだろう。
自由騎士達であれば、そう時間をかけずに無力化できそうではある。
「……困っている理由は、他にあるのだな」
自由騎士の様子から、ジョセフは懸念の対象が漁師達でないことを察する。
「言っただろう。あれが神州ヤオヨロズだ、と」
「そうか、つまり――」
言われてジョセフが気づく。と、同時、
「土地守様、土地守様ァァァァァァァ――――ッ!」
漁師の一人が、海に向かって大きく声を張り上げる。
すると、蒸気船脇の海面がいきなり山のように盛り上がって、爆ぜた。
『うななななななななななななななななななァァァァァァァァァァァァァァァ!』
現れたのは、あまりにも巨大なうなぎであった。
「連中が祀っている幻想種が一緒でも、何もおかしくないということか」
「それにしたってバカだろう。あのデカさは……!」
舞い上がった海水をシャワーのように浴びながら、自由騎士が顔をしかめる。
船の前に集まっているのは、ここ酒井の街の近くにある漁村を拠点としている漁師達であった。海に隣接しているがゆえに、祀っている幻想種も魚介のたぐいらしい。
「うなぎは海の魚と呼ぶべきかどうかは不明だが」
「そういう細かいことはいい!」
冷静に言うジョセフに叫びつつ、自由騎士は武器を抜き放った。
「何か知らんが、今はデカイうなぎに襲われかけているという状況だ!」
「やっとアマノホカリに着いたと思ったのだがなぁ……。何とも騒ぐのが好きな連中だ」
『うななななななななななななななアァァァァァァァァァァァァァ――――!』
ため息をつくジョセフの頭上で、巨大ウナギ幻想種が声も大きくいなないた。
ついに、アマノホカリに到着した。
蒸気船が停留したのは、朝廷が本拠としている梗都にほど近い港町、酒井(さかい)だ。
そこはほぼ他国との交流を持たないアマノホカリにおいて、数少ない外に向けて開かれた港の一つであり、通商連の船なども行き来している商業都市だった。
その、はずだった。
「うおおおおおおおおおおおお、異人じゃ――――ッッ!」
「またしても異人の黒船がワシらの神州を汚しにきおったぞ――――!」
「守れ、ワシらの神州を守るんじゃァ――――!」
ジョセフ・クラーマー達が船を降りる前、蒸気船の前にそんな感じで騒ぎ立てる男達が集まってきていた。かなりの数で、全員、どうやら漁師らしい。
各々、手に銛を持って、随分と剣呑な雰囲気を醸し出している。
「あれが神州ヤオヨロズだ」
「なるほど、わかりやすい連中だな」
船の上から騒ぐ漁師達を眺め、自由騎士に説明を受けたジョセフが呟く。
「しかし、連中をどうにかせねば船を降りれないのではないか?」
「そうだなぁ。どうにかしないとだろうなぁ……」
隣にいる自由騎士も些か困った様子で息をつく。
武装しているとはいえ、所詮は銛。武器と呼ぶには貧相なブツである。
その上、船の前で騒いでいる男達は人数こそ多いが、オラクルではないだろう。
自由騎士達であれば、そう時間をかけずに無力化できそうではある。
「……困っている理由は、他にあるのだな」
自由騎士の様子から、ジョセフは懸念の対象が漁師達でないことを察する。
「言っただろう。あれが神州ヤオヨロズだ、と」
「そうか、つまり――」
言われてジョセフが気づく。と、同時、
「土地守様、土地守様ァァァァァァァ――――ッ!」
漁師の一人が、海に向かって大きく声を張り上げる。
すると、蒸気船脇の海面がいきなり山のように盛り上がって、爆ぜた。
『うななななななななななななななななななァァァァァァァァァァァァァァァ!』
現れたのは、あまりにも巨大なうなぎであった。
「連中が祀っている幻想種が一緒でも、何もおかしくないということか」
「それにしたってバカだろう。あのデカさは……!」
舞い上がった海水をシャワーのように浴びながら、自由騎士が顔をしかめる。
船の前に集まっているのは、ここ酒井の街の近くにある漁村を拠点としている漁師達であった。海に隣接しているがゆえに、祀っている幻想種も魚介のたぐいらしい。
「うなぎは海の魚と呼ぶべきかどうかは不明だが」
「そういう細かいことはいい!」
冷静に言うジョセフに叫びつつ、自由騎士は武器を抜き放った。
「何か知らんが、今はデカイうなぎに襲われかけているという状況だ!」
「やっとアマノホカリに着いたと思ったのだがなぁ……。何とも騒ぐのが好きな連中だ」
『うななななななななななななななアァァァァァァァァァァァァァ――――!』
ため息をつくジョセフの頭上で、巨大ウナギ幻想種が声も大きくいなないた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.巨大ウナギ幻想種を撃退する
勉強会→vs海賊→vs侍・忍者、と来てシリーズ最終話。
vs巨大生物&おまけのうるさい取り巻き。というお話になります。
吾語です。以下詳細となりまーす。
◆敵勢力
・みずち様
みずちと言いつつデカイうなぎの形をした幻想種です。体長15mくらい。
しかも電気うなぎなので体から電撃を放つことが可能です。
電撃は単体攻撃と範囲攻撃の二種類。
単体攻撃の電撃は魔遠単で高威力。パラライズ3がついてきます。
範囲攻撃の電撃は魔遠範で中威力。パラライズ2がついてきます。
体表面を包む粘液のおかげで【攻耐】、【魔耐】持ち。何なんだこの生き物。
ただし一定以上のダメージで粘液がなくなり2ターン間、無防備になります。
・神州ヤオヨロズ・みずち様一派
アマノホカリカルト教団連合体である神州ヤオヨロズの一派です。
舞台となる酒井港の近くにある漁村の漁師達であり、全員非オラクルです。
そのクセに、異人なんぞぶっ殺したらァとばかりの過激派だらけです。
戦闘時、直接的に戦闘に介入することはありません。
ただし毎ターン開始時、邪魔するために銛を投げつけてきます。
この漁師達を無力化することもできますが、その場合は2ターン必要です。
その2ターンの間は、みずち様に攻撃できなくなります。
◆戦場
・酒井港
一応港に降りて戦うこともできますが、その場合は港に被害が出ます。
甲板上で戦う場合は、一定時間内は港に被害は出ません。
戦闘が長く続いてしまった場合、一定確率で港に被害が出ます。
今回は甲板で戦う場合、海上戦闘教義が使えません。
だって海上戦闘教義に巨大うなぎとの戦闘に関する内容はないので!
つまり、甲板上で戦う場合は命中・回避に若干のペナルティが入ります。
港に降りて戦う場合は、それらのペナルティは発生しませんが、被害が出ます。
大体こんな感じです! アマノホカリは騒がしい場所ですね!
それではシリーズ最後の戦いです。頑張っていってみましょー!
※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。
・今回のS級指令依頼は前回と合わせて全4話構成でアマノホカリへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。
アマノホカリとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信がかろうじてできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
現在運営中の他のシナリオに参加していてもかまいません。(時系列がちがいます)
vs巨大生物&おまけのうるさい取り巻き。というお話になります。
吾語です。以下詳細となりまーす。
◆敵勢力
・みずち様
みずちと言いつつデカイうなぎの形をした幻想種です。体長15mくらい。
しかも電気うなぎなので体から電撃を放つことが可能です。
電撃は単体攻撃と範囲攻撃の二種類。
単体攻撃の電撃は魔遠単で高威力。パラライズ3がついてきます。
範囲攻撃の電撃は魔遠範で中威力。パラライズ2がついてきます。
体表面を包む粘液のおかげで【攻耐】、【魔耐】持ち。何なんだこの生き物。
ただし一定以上のダメージで粘液がなくなり2ターン間、無防備になります。
・神州ヤオヨロズ・みずち様一派
アマノホカリカルト教団連合体である神州ヤオヨロズの一派です。
舞台となる酒井港の近くにある漁村の漁師達であり、全員非オラクルです。
そのクセに、異人なんぞぶっ殺したらァとばかりの過激派だらけです。
戦闘時、直接的に戦闘に介入することはありません。
ただし毎ターン開始時、邪魔するために銛を投げつけてきます。
この漁師達を無力化することもできますが、その場合は2ターン必要です。
その2ターンの間は、みずち様に攻撃できなくなります。
◆戦場
・酒井港
一応港に降りて戦うこともできますが、その場合は港に被害が出ます。
甲板上で戦う場合は、一定時間内は港に被害は出ません。
戦闘が長く続いてしまった場合、一定確率で港に被害が出ます。
今回は甲板で戦う場合、海上戦闘教義が使えません。
だって海上戦闘教義に巨大うなぎとの戦闘に関する内容はないので!
つまり、甲板上で戦う場合は命中・回避に若干のペナルティが入ります。
港に降りて戦う場合は、それらのペナルティは発生しませんが、被害が出ます。
大体こんな感じです! アマノホカリは騒がしい場所ですね!
それではシリーズ最後の戦いです。頑張っていってみましょー!
※今回のシナリオに参加する際には特に下記にご注意ください。
・今回のS級指令依頼は前回と合わせて全4話構成でアマノホカリへの少数精鋭での侵入ミッションになります。
(大まかな予定としましては、1週間の相談機関と1週間の執筆期間、執筆期間終了後に次のOPの発出になります)
また、シリーズ依頼になりますので、参加者には予約優先権がつきます。
2話以降予約をせずにいると、1話の参加者以外でも参加可能になった場合参加することができます。
其の場合、実は船にこっそりと乗っていたなどの理由が付けられます。また、新規参加者にも次回以降の予約優先権がつけられます。以上ご了承お願いします。
アマノホカリとイ・ラプセル間ではマキナ=ギアの通信がかろうじてできますが、状況によっては通じない可能性もあります。
シリーズ参加参加者は、現状発出している依頼の参加を禁止するものではありません。
時系列が違うということで参加しても構いませんが、RPとして参加しないということも構いません。(ギルド、TOPでの発言も同様です)
現在運営中の他のシナリオに参加していてもかまいません。(時系列がちがいます)

状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
5個
5個
5個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年07月14日
2020年07月14日
†メイン参加者 8人†
●怒りを越え、憎悪を越え、今、菩薩へと至る
全身から電撃を放出する超デカイうなぎ。
それが、このたび自由騎士達の前に現れた敵であった。
「みずち様ー!」
「異国の連中なんぞやっちまえー!」
「かば焼きだー!」
「いいや、白焼きだー!」
港の方では神州ヤオヨロズとおぼしき漁師達が声援を送っている。
だがその内容、果たして彼らが抱く感情は信仰と崇拝だけなのだろうか。
甚だ疑問が残る。
「こいつはまた、腹が減る幻想種だなぁ……」
そういえば昼食をとっていないことを思い出し、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が顔をしかめてぼやく。
「いやぁ、しかし本当に次から次に、飽きませんね。ここは」
空中に躍る超巨大うなぎを見上げ、『パスタ神職(侵食?)者』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)も半ば呆れたように呟いた。
「みずち様ー! やっちまってくだせぇー!」
「我らの守護神、みずち様ァァァァァ!」
騒ぐ漁師達を見た『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)が、面白がるようにケラケラと笑う。
「異国の船と見るや、こうまで敵意剥き出しとはのう。いっそ説得の手間も省けてやりやすいというものよ。――それに、幕府に付け入るすきも十分以上にありそうじゃ」
「言うは易いが、まずはこの場を切り抜ける必要があるぞ」
野太刀の鯉口を切りながら『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が言った。
「ここまで来て、うなぎの餌は勘弁願いたいものだ」
そんな彼の独り言に、応じる者がいた。
「食べましょう、あれ」
『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)であった。
「……何だと?」
ツボミがきゐこの方を向く。
そこにいたのは、いつものようにブチギレているきゐこではなかった。
優しい、それこそ人の域を超えた聖性すら感じさせる、アルカイックスマイルの彼女。
それを見た瞬間、皆が悟った。
――あ、限界突破してる。と。
度重なる襲撃に対する怒りにいつまでも船から降りられない苛立ちが重なり、そこにさらにこの一件による怒りが重なった結果、感情が一周回ってしまったのだ。
「あんなに大きなうなぎだったら、きっと精がつくわ。食べましょう」
「あー」
聖母の微笑みを湛えたまま言うきゐこに、ツボミはしばし返す言葉を考え、
「……うむ。良いなウナギ。精が付く食材は実際大いに良い。これは期待が膨らむな!」
即座に思考を放棄し、イエスマンへと華麗なる転身を遂げたのだった。
「え、本当に食べるの? じゃあアタシも調理の手伝いするわね。捌かなくちゃ!」
そこで天哉熾 ハル(CL3000678)がきゐこにうなずく。
この流れですぐさま合わせられる辺り、ハルも相当キモが太い人物であった。
「……本気か? 本気であれを食べるつもりなのか?」
みずち様を見上げてドンビキしている『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)の反応が、本来であれば普通なのであるはずだが――、
「本日の夕飯はうなぎづくしですよぉ。きっちり仕留めましょうねぇ~」
『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の方も、何故だかやけにノリノリであった。もしかしたら彼女も彼女でストレスが溜まっていたのかもしれない。
『うななななななななァァァァァァァ!』
「うるさいわよ。食材如きが」
放電をまき散らす巨大うなぎへ、きゐこが微笑みのまま言った。
慈愛と狂信と食欲と滋養強壮を賭けた海上決戦が、ここに幕を開ける!
●怪奇! 超巨大で電撃を飛ばして攻撃があんまり通用しないうなぎ!
デカイ!
うなぎがデカイ!
「これだけデカイと当てるのも楽じゃのう」
みずち様に向かって、天輝が氷の魔導をブチ当てる。
命中箇所がきれいに凍り付いた、かと思えばすぐに冷気はとけてなくなる。
その手応えに、天輝は違和感を覚えた。
「何じゃあ?」
続いて、アンジェリカが獲物である超巨大十字架を担ぎ上げた。
するとその一部がカパッと開き、軽い音を立てて炸裂弾頭が射出される。
見た目こそ軽快なものの、うなぎに着弾したそれは冗談ごとではない爆発を起こした。
「たーまやー、ですね」
何気に季節柄というものを理解しているアンジェリカである。が、
『うな! うななななななななななななな!』
あんまり効いていないようだった。
爆発も、効果を出せていない。
「……ふぅむ」
海水に身を叩きつけて派手に水柱をあげるうなぎを見て、アンジェリカは唸る。
「何かわかるか?」
尋ねてくるツボミに、彼女は小さくうなずき、
「体の表面を覆っている粘液ですね。あれが曲者です」
「……なるほど、我らで言う鎧のような感じか」
アンジェリカの言葉を受けて、ツボミもそれを理解した。
みずち様の体表を覆うぬめりは、どうやら物理的衝撃や魔導を緩和する効果があるらしい。幻想種らしい、なかなかに無茶な防御機構である。
どうするか、ツボミは一瞬考える。
その眼前をいきなり、飛来した銛が横切っていった。
「うおお!?」
「チッ、外しちまったぁ!」
飛び退くツボミの耳に、港の方から声が聞こえる。
みずち様をけしかけてきたヤオヨロズの漁師達が手に銛を構えているのが見えた。
「異人め、運がいい奴らじゃ!」
「どんどん投げろ、みずち様の贄にしちゃるんじゃあ!」
「ええい、セコいことをしやがって……!」
オラクルである自由騎士達からすれば、漁師達の妨害などさしたる脅威ではないが、しかしみずち様という脅威を前にした今、それは絶妙に邪魔であった。
「私が行こう。こっちは頼んだぞ!」
翼を広げ、ロジェが船から飛び出した。彼は一気に漁師達の前まで行くと、
「申し訳ないが、少し大人しくしてもらえないか?」
「ぬおお! 何じゃ貴様ァ!」
「人に銛を投げてはならないと教わらなかったのか? 全く……」
言って、ロジェは自分に投げつけられた銛をおもむろに掴み取る。
前衛職ではないが、彼とてオラクル。その程度は造作もないことだった。
「ぬ、ぬぅ……!」
いきなり現れた彼に、ヤオヨロズの面々は鼻白む。
そこに生じた隙を突いて、ロジェは魔導によって生み出した水銀を操り、漁師達のリーダーとおぼしき男にそれを絡みつかせた。
「う、おお!?」
「大人しくするなら手荒な真似はしない。が、それでも抗うならば……」
言外に圧をかけるロジェ。これで相手も身動きできまい。そう思ったのも束の間、
「グハハハハハハハハ! やるならやらんかい!」
響いたのは、水銀を絡みつかせた漁師の哄笑であった。
「……何?」
「ワシらはみずち様と共にある者よ! ワシを倒そうともワシの信心まで挫くことは出来んわ! なぁ、皆の衆よォ! そうじゃろうが!」
「そうじゃ、甘く見るな異人めが!」
「腕が折られようともみずち様いるかぎり俺らの心は折れんぞぉ!」
脅しをかけた結果、非オラクルであるはずの漁師達はさらに強く反発してきた。
この流れに、ロジェは既視感を覚えた。
「……シャンバラのようだな」
心にある信仰という支柱が折れない限り、決して屈することのなかったシャンバラの民。神州ヤオヨロズの漁師達は、まるで彼らを想起させた。これが、狂信か。
『うな! うなななななななァァァァァァァァァァァァァ!』
自由騎士へと電撃をまき散らすみずち様。
それを見て、漁師達から喝采が湧いた。そして漁師の一人が銛を投げる。
「みずち様ァ! ワシらの土地を踏み荒らす異人共を罰してくれやぁ!」
「……あれをどうにかしなければ、というワケか」
振り向いたロジェが、苦々しく呟いた。
●しばいてしばいてしばいてしばいてしばいてしばき倒して焼いて食う
みずち様はタフだった。
そもそもデカイから体力がある上、デカイから体も頑丈で、デカイから自由騎士の攻撃にビクともせず、デカイから小さな傷も気にせずに済むからだ。
そして身を守る体表粘液もあって、攻撃そのものがそもそも効果が薄いのが辛い。
「――こんなナリをしていても、土地守と崇められるワケだな!」
珍しく声を張り上げ、ヨツカが突っ込んでいく。
彼が振るった野太刀はうなぎの体に命中する。そして刃は皮を断ち肉に達するも、そこで滑る。ぬめる。結果、本来の半分の切れ味も発揮できず、刃は振り抜かれた。
「……クハハ」
しかしそこで笑うのが、戦いのさなかにあるヨツカであった。
飛来する電撃に身を貫かれ、激痛が走った。
「オイ、まだ立っていられるか!?」
焦燥に満ちたツボミの声。彼女の魔導によって傷は癒され、ヨツカは彼女の方を向く。
「問題ない」
顔には、笑みが刻まれたままだった。
「とんだデカブツだ。ヤり甲斐があるというものよな!」
天輝が、彼の横を通り過ぎて行った。
彼女の纏う装備には、濃い焦げ目がついていた。電撃によるもの。何度、それを浴びせられたことか。それでも天輝はまるで堪えた様子もなく、戦線に復帰していく。
「どぉりゃ!」
発動する氷の魔導。荒れ狂う火の魔導。されど、うなぎはジタバタしている。
「これはなかなかに、辛いのう……」
叩いても叩いても効果が見られない。
戦いの中にあって、それは戦意を挫くに十分な悪夢であろう。ましてや、自由騎士達の総攻撃を受けてなお動きに全く乱れが出てこないなど。
だが、しかし――、
「はァッ!」
ハルが放った螺旋の一撃が、みずち様に命中。
やはりそれも体表粘液によって滑り、大した効果を発揮できなかったが、そこでハルははたと気づいた。攻撃が当たった箇所のぬめりが、薄くなっている。
「……もしかして?」
「どうかしましたかぁ?」
隣に並んだシェリルに、彼女は告げた。
「あのうなぎのぬめり、薄くなってきてない?」
「あらあらぁ~?」
言われて、シェリルが目を凝らす。すると確かに、巨体を包む粘液のぬめりが、全体的に薄まっているように感じられる。
海中を泳ぐみずち様だが、粘液の光沢は水濡れのそれとは違っていて、はっきりと見て取ることができた。そして気づいたシェリルはパンと手を打って、
「今が焼き頃とおいうことですねぇ~」
いつも通りの、間延びした声。ハルが眉間にしわを寄せる。
「ああ、そうなるの?」
「ですよぉ~。あんなに大きなうなぎ、どう捌きましょうか~」
「捌きだったら手伝うわ。あんな大きな得物、腕が鳴るわね」
希望が見えたからか、ハルがシェリルに乗って軽口を叩き始める。
「初めの一発は私が行くわ」
と、後ろから声。
二人が振り向くと、そこには還リビトがいた。いや、違う。きゐこだ。
顔色どころか体全体の肌の色がゲシュペンストを経由した色になり果てているが、これはきゐこだ間違いない。
「戦闘中の揺れがひどすぎて四回吐いたわ」
「もう胃の中も完全に空になって胃液しか出てこないヤツですねぇ~……」
「考えたのよ」
「何を?」
端的に言ってくるきゐこに、ハルが問い返す。
「どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないのか。全部、誘い受けだったのよ」
きゐこがワケのわからないことを言い始めた。
「誘い、受けですかぁ……?」
「そうよ。あのうなぎの誘い受けよ。きっと仕留めてほしいのよ。美味しく食べてほしいのよ。だからあんなに暴れてアピールしてるのよ。そうよ、そうだわ。そうに違いないわ」
見事なまでの決めつけの三段活用。きゐこの周りで魔力が渦巻く。
それを見て、シェリルとハルはつい先日見た、きゐこのブチギレ連発魔導を思い出した。
「手伝うわ」
「やっちゃいましょうかぁ~」
そして三人が横に並ぶ。
「お、何じゃ何じゃ、面白そうじゃのう。余も加えよ」
そこに天輝も追加で入って、
「力を合わせるのだな、了解したぞ」
「強大な敵に皆で協力して立ち向かう。王道ですね」
アンジェリカもやってきた。
「行くわ!」
「応ともさ!」
初撃は、ハルのスクライドとヨツカのライジング。
苛烈な二重の攻撃に、みずち様の粘液が吹き散らされた。そして、穿たれた傷めがけて、今度はアンジェリカが巨大十字架を構えて、ありったけの炸裂弾頭を発射する。
「目印があると、狙うのが楽ですね」
立て続けに轟く爆音の中に告げながら、彼女は後方の魔導士達に促そうとした。
『うなななななななななななななななァァァァァァァァァァァァ!』
しかし、ここでみずち様が身をくねらせ、最大威力の電撃を放ってきた。
これから攻撃しようという魔導士達にそれを避けるすべはなく、電撃が直撃!
「私から沈めておかないから、こうなるのだ」
が、そこは安心と信頼の癒し手であるツボミの出番。
彼女の発動した癒しの魔導が、電撃による傷をたちまち癒していく。
「お、おのれェ! みずち様を守るんじゃ!」
「みずち様ァァァァァァァァ!」
みずち様の形勢不利と見るや、ヤオヨロズの漁師達が騒ぎ始めるが――、
「黙って見ていろ」
いきなり地面が凍てつき、氷柱が生まれる。ロジェによる威嚇であった。
漁師達の信心が本物であろうとも、彼らは戦士ではない。いきなり現れた氷柱に全員が度肝を抜かれて動けなくなり、そして、
「「フォーマルハウトフォーマルハウトフォーマルハウト! かーらーの!」」
「くらえ、愛と怒りと悲しみの、エコォォォォォォズ!」
シェリルと天輝が火の魔導でみずち様の傷口を広げ、そこに、きゐこが全身全霊渾身本気の魔導の矢をあらん限りの怒りを込めて発射。
『うなァァァァァァァァァァァァァァァ…………!』
自由騎士の集中攻撃に耐え切れず、みずち様は断末魔の声をあげて海に身を投げ出した。
ドパァン、と飛び散る水しぶき。
かくして、自由騎士達を襲った土地守は、酒井の海に倒れたのであった。
●そして、梗都へ
「――そのとき、かの神殲組副長土方の刃が私を襲ったのです! そして!」
「「「おおおぉぉぉぉぉ~!」」」
酒井上陸後、アンジェリカが酒井の民達の前でこれまでの旅路を身振り手振りを交えて話していた。元よりノリがいいのか、民達はそれにいちいち大きく反応する。
「かば焼き、一つ上がりましたよぉ~」
「うおお! はい! はい! こっちです、はい!」
一方で、近くにあったお食事処の台所を借りていたシェリルが言うと、出来上がった行列の先頭に立つ町人がサッと手を挙げた。
「はい、新しいの、切り分けて来たわ」
「ありがとうございますぅ~」
町人にかば焼きを提供したのち、ハルから新たに捌かれた身を受け取るシェリル。
戦闘ののち、酒井の港はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
自由騎士も町人も関係なく、そこには大量の料理が振る舞われている。作っているのはシェリル他、料理ができる自由騎士と有志の酒井町人達であった。
食材はもちろん、みずち様だ。
当初、巨大すぎるみずち様の肉は美味いのか、という疑念があった。
しかし、実際に焼いて食ってみたらこれが何と、普通にうなぎ!
そして行列ができた。
「うなぎ以上でも以下でもないのが、何か釈然としねぇ……」
言いながら、ツボミも手渡された白焼きを食べている。
「みずち様がァァァァァァァ!」
「何の恨みがあってワシらの土地守様を……!」
町人から袋叩きされて縛り上げられたヤオヨロズの漁師達が騒ぎ立てるも「町襲われた恨みだよバカヤロウ」と、怒り心頭の町人がそんな彼らを小突いていた。
「ほれ、ロジェよ、喰わぬのか?」
「……いや、遠慮する」
天輝が差し出したかば焼きを見て、ロジェは顔を青くしていた。
本当にあのうなぎ食べてる……。と、半ばヒいているが、彼はそれを声には出さない。
場には、読むべき空気というものが確実に存在していた。
「うう……、うなぎ……」
「無理言うな」
地面に敷かれたゴザの上、横たわっているきゐこが呻くが、ツボミがそれを却下する。
「美味しそうな匂い~、美味しそうな匂いぃぃぃぃぃ~……。うっぷ」
「身体が完全にガタついてるのによく食欲湧くな、貴様も。まぁ、食わせんが」
きゐこは、残念なことにうなぎを食べられなかった。
吐きすぎて、胃のダメージが大きくなりすぎていたのが原因だった。今は、彼女のために町人がおかゆを作ってくれているところである。
ちなみにヨツカはこの場にいない。
何でも、探している師匠の痕跡がないか確かめるため、町を散策するとのことだった。
そんなこんなで、酒井の港が騒がしくなっているところに、
「これは何の騒ぎか!」
外から声をあげる者がいた。槍を持ち、アマノホカリの甲冑に身を固めている兵士だ。
突如として姿をやってきた兵士達に、場の空気は一気に塗り替わる。
「私が出よう」
これまで後方に控えていたジョセフが前に出ようとした。すると、
「もしや、イ・ラプセルの御方か!」
それを言ったのは、特に立派な鎧を着た一人の男性であった。雰囲気が兵士らしくない。
「……何故、それを?」
「おお、やはりそうであったか!」
ジョセフが尋ねると、男は兜を脱いで素顔を露わにした。
頭に髷を結った、精悍な顔立ちの青年であった。ジョセフと自由騎士へ、彼は名乗る。
「我が名は吉備真比呂(きびつ・まひろ)。蒼き水の国の方々よ、あなた方の来訪は陰陽寮の占術によってかねてより知っていた。心より歓迎いたしますぞ」
これが、朝廷の実質的代表者である吉備真比呂との邂逅であった。
全身から電撃を放出する超デカイうなぎ。
それが、このたび自由騎士達の前に現れた敵であった。
「みずち様ー!」
「異国の連中なんぞやっちまえー!」
「かば焼きだー!」
「いいや、白焼きだー!」
港の方では神州ヤオヨロズとおぼしき漁師達が声援を送っている。
だがその内容、果たして彼らが抱く感情は信仰と崇拝だけなのだろうか。
甚だ疑問が残る。
「こいつはまた、腹が減る幻想種だなぁ……」
そういえば昼食をとっていないことを思い出し、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が顔をしかめてぼやく。
「いやぁ、しかし本当に次から次に、飽きませんね。ここは」
空中に躍る超巨大うなぎを見上げ、『パスタ神職(侵食?)者』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)も半ば呆れたように呟いた。
「みずち様ー! やっちまってくだせぇー!」
「我らの守護神、みずち様ァァァァァ!」
騒ぐ漁師達を見た『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)が、面白がるようにケラケラと笑う。
「異国の船と見るや、こうまで敵意剥き出しとはのう。いっそ説得の手間も省けてやりやすいというものよ。――それに、幕府に付け入るすきも十分以上にありそうじゃ」
「言うは易いが、まずはこの場を切り抜ける必要があるぞ」
野太刀の鯉口を切りながら『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)が言った。
「ここまで来て、うなぎの餌は勘弁願いたいものだ」
そんな彼の独り言に、応じる者がいた。
「食べましょう、あれ」
『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)であった。
「……何だと?」
ツボミがきゐこの方を向く。
そこにいたのは、いつものようにブチギレているきゐこではなかった。
優しい、それこそ人の域を超えた聖性すら感じさせる、アルカイックスマイルの彼女。
それを見た瞬間、皆が悟った。
――あ、限界突破してる。と。
度重なる襲撃に対する怒りにいつまでも船から降りられない苛立ちが重なり、そこにさらにこの一件による怒りが重なった結果、感情が一周回ってしまったのだ。
「あんなに大きなうなぎだったら、きっと精がつくわ。食べましょう」
「あー」
聖母の微笑みを湛えたまま言うきゐこに、ツボミはしばし返す言葉を考え、
「……うむ。良いなウナギ。精が付く食材は実際大いに良い。これは期待が膨らむな!」
即座に思考を放棄し、イエスマンへと華麗なる転身を遂げたのだった。
「え、本当に食べるの? じゃあアタシも調理の手伝いするわね。捌かなくちゃ!」
そこで天哉熾 ハル(CL3000678)がきゐこにうなずく。
この流れですぐさま合わせられる辺り、ハルも相当キモが太い人物であった。
「……本気か? 本気であれを食べるつもりなのか?」
みずち様を見上げてドンビキしている『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)の反応が、本来であれば普通なのであるはずだが――、
「本日の夕飯はうなぎづくしですよぉ。きっちり仕留めましょうねぇ~」
『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の方も、何故だかやけにノリノリであった。もしかしたら彼女も彼女でストレスが溜まっていたのかもしれない。
『うななななななななァァァァァァァ!』
「うるさいわよ。食材如きが」
放電をまき散らす巨大うなぎへ、きゐこが微笑みのまま言った。
慈愛と狂信と食欲と滋養強壮を賭けた海上決戦が、ここに幕を開ける!
●怪奇! 超巨大で電撃を飛ばして攻撃があんまり通用しないうなぎ!
デカイ!
うなぎがデカイ!
「これだけデカイと当てるのも楽じゃのう」
みずち様に向かって、天輝が氷の魔導をブチ当てる。
命中箇所がきれいに凍り付いた、かと思えばすぐに冷気はとけてなくなる。
その手応えに、天輝は違和感を覚えた。
「何じゃあ?」
続いて、アンジェリカが獲物である超巨大十字架を担ぎ上げた。
するとその一部がカパッと開き、軽い音を立てて炸裂弾頭が射出される。
見た目こそ軽快なものの、うなぎに着弾したそれは冗談ごとではない爆発を起こした。
「たーまやー、ですね」
何気に季節柄というものを理解しているアンジェリカである。が、
『うな! うななななななななななななな!』
あんまり効いていないようだった。
爆発も、効果を出せていない。
「……ふぅむ」
海水に身を叩きつけて派手に水柱をあげるうなぎを見て、アンジェリカは唸る。
「何かわかるか?」
尋ねてくるツボミに、彼女は小さくうなずき、
「体の表面を覆っている粘液ですね。あれが曲者です」
「……なるほど、我らで言う鎧のような感じか」
アンジェリカの言葉を受けて、ツボミもそれを理解した。
みずち様の体表を覆うぬめりは、どうやら物理的衝撃や魔導を緩和する効果があるらしい。幻想種らしい、なかなかに無茶な防御機構である。
どうするか、ツボミは一瞬考える。
その眼前をいきなり、飛来した銛が横切っていった。
「うおお!?」
「チッ、外しちまったぁ!」
飛び退くツボミの耳に、港の方から声が聞こえる。
みずち様をけしかけてきたヤオヨロズの漁師達が手に銛を構えているのが見えた。
「異人め、運がいい奴らじゃ!」
「どんどん投げろ、みずち様の贄にしちゃるんじゃあ!」
「ええい、セコいことをしやがって……!」
オラクルである自由騎士達からすれば、漁師達の妨害などさしたる脅威ではないが、しかしみずち様という脅威を前にした今、それは絶妙に邪魔であった。
「私が行こう。こっちは頼んだぞ!」
翼を広げ、ロジェが船から飛び出した。彼は一気に漁師達の前まで行くと、
「申し訳ないが、少し大人しくしてもらえないか?」
「ぬおお! 何じゃ貴様ァ!」
「人に銛を投げてはならないと教わらなかったのか? 全く……」
言って、ロジェは自分に投げつけられた銛をおもむろに掴み取る。
前衛職ではないが、彼とてオラクル。その程度は造作もないことだった。
「ぬ、ぬぅ……!」
いきなり現れた彼に、ヤオヨロズの面々は鼻白む。
そこに生じた隙を突いて、ロジェは魔導によって生み出した水銀を操り、漁師達のリーダーとおぼしき男にそれを絡みつかせた。
「う、おお!?」
「大人しくするなら手荒な真似はしない。が、それでも抗うならば……」
言外に圧をかけるロジェ。これで相手も身動きできまい。そう思ったのも束の間、
「グハハハハハハハハ! やるならやらんかい!」
響いたのは、水銀を絡みつかせた漁師の哄笑であった。
「……何?」
「ワシらはみずち様と共にある者よ! ワシを倒そうともワシの信心まで挫くことは出来んわ! なぁ、皆の衆よォ! そうじゃろうが!」
「そうじゃ、甘く見るな異人めが!」
「腕が折られようともみずち様いるかぎり俺らの心は折れんぞぉ!」
脅しをかけた結果、非オラクルであるはずの漁師達はさらに強く反発してきた。
この流れに、ロジェは既視感を覚えた。
「……シャンバラのようだな」
心にある信仰という支柱が折れない限り、決して屈することのなかったシャンバラの民。神州ヤオヨロズの漁師達は、まるで彼らを想起させた。これが、狂信か。
『うな! うなななななななァァァァァァァァァァァァァ!』
自由騎士へと電撃をまき散らすみずち様。
それを見て、漁師達から喝采が湧いた。そして漁師の一人が銛を投げる。
「みずち様ァ! ワシらの土地を踏み荒らす異人共を罰してくれやぁ!」
「……あれをどうにかしなければ、というワケか」
振り向いたロジェが、苦々しく呟いた。
●しばいてしばいてしばいてしばいてしばいてしばき倒して焼いて食う
みずち様はタフだった。
そもそもデカイから体力がある上、デカイから体も頑丈で、デカイから自由騎士の攻撃にビクともせず、デカイから小さな傷も気にせずに済むからだ。
そして身を守る体表粘液もあって、攻撃そのものがそもそも効果が薄いのが辛い。
「――こんなナリをしていても、土地守と崇められるワケだな!」
珍しく声を張り上げ、ヨツカが突っ込んでいく。
彼が振るった野太刀はうなぎの体に命中する。そして刃は皮を断ち肉に達するも、そこで滑る。ぬめる。結果、本来の半分の切れ味も発揮できず、刃は振り抜かれた。
「……クハハ」
しかしそこで笑うのが、戦いのさなかにあるヨツカであった。
飛来する電撃に身を貫かれ、激痛が走った。
「オイ、まだ立っていられるか!?」
焦燥に満ちたツボミの声。彼女の魔導によって傷は癒され、ヨツカは彼女の方を向く。
「問題ない」
顔には、笑みが刻まれたままだった。
「とんだデカブツだ。ヤり甲斐があるというものよな!」
天輝が、彼の横を通り過ぎて行った。
彼女の纏う装備には、濃い焦げ目がついていた。電撃によるもの。何度、それを浴びせられたことか。それでも天輝はまるで堪えた様子もなく、戦線に復帰していく。
「どぉりゃ!」
発動する氷の魔導。荒れ狂う火の魔導。されど、うなぎはジタバタしている。
「これはなかなかに、辛いのう……」
叩いても叩いても効果が見られない。
戦いの中にあって、それは戦意を挫くに十分な悪夢であろう。ましてや、自由騎士達の総攻撃を受けてなお動きに全く乱れが出てこないなど。
だが、しかし――、
「はァッ!」
ハルが放った螺旋の一撃が、みずち様に命中。
やはりそれも体表粘液によって滑り、大した効果を発揮できなかったが、そこでハルははたと気づいた。攻撃が当たった箇所のぬめりが、薄くなっている。
「……もしかして?」
「どうかしましたかぁ?」
隣に並んだシェリルに、彼女は告げた。
「あのうなぎのぬめり、薄くなってきてない?」
「あらあらぁ~?」
言われて、シェリルが目を凝らす。すると確かに、巨体を包む粘液のぬめりが、全体的に薄まっているように感じられる。
海中を泳ぐみずち様だが、粘液の光沢は水濡れのそれとは違っていて、はっきりと見て取ることができた。そして気づいたシェリルはパンと手を打って、
「今が焼き頃とおいうことですねぇ~」
いつも通りの、間延びした声。ハルが眉間にしわを寄せる。
「ああ、そうなるの?」
「ですよぉ~。あんなに大きなうなぎ、どう捌きましょうか~」
「捌きだったら手伝うわ。あんな大きな得物、腕が鳴るわね」
希望が見えたからか、ハルがシェリルに乗って軽口を叩き始める。
「初めの一発は私が行くわ」
と、後ろから声。
二人が振り向くと、そこには還リビトがいた。いや、違う。きゐこだ。
顔色どころか体全体の肌の色がゲシュペンストを経由した色になり果てているが、これはきゐこだ間違いない。
「戦闘中の揺れがひどすぎて四回吐いたわ」
「もう胃の中も完全に空になって胃液しか出てこないヤツですねぇ~……」
「考えたのよ」
「何を?」
端的に言ってくるきゐこに、ハルが問い返す。
「どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないのか。全部、誘い受けだったのよ」
きゐこがワケのわからないことを言い始めた。
「誘い、受けですかぁ……?」
「そうよ。あのうなぎの誘い受けよ。きっと仕留めてほしいのよ。美味しく食べてほしいのよ。だからあんなに暴れてアピールしてるのよ。そうよ、そうだわ。そうに違いないわ」
見事なまでの決めつけの三段活用。きゐこの周りで魔力が渦巻く。
それを見て、シェリルとハルはつい先日見た、きゐこのブチギレ連発魔導を思い出した。
「手伝うわ」
「やっちゃいましょうかぁ~」
そして三人が横に並ぶ。
「お、何じゃ何じゃ、面白そうじゃのう。余も加えよ」
そこに天輝も追加で入って、
「力を合わせるのだな、了解したぞ」
「強大な敵に皆で協力して立ち向かう。王道ですね」
アンジェリカもやってきた。
「行くわ!」
「応ともさ!」
初撃は、ハルのスクライドとヨツカのライジング。
苛烈な二重の攻撃に、みずち様の粘液が吹き散らされた。そして、穿たれた傷めがけて、今度はアンジェリカが巨大十字架を構えて、ありったけの炸裂弾頭を発射する。
「目印があると、狙うのが楽ですね」
立て続けに轟く爆音の中に告げながら、彼女は後方の魔導士達に促そうとした。
『うなななななななななななななななァァァァァァァァァァァァ!』
しかし、ここでみずち様が身をくねらせ、最大威力の電撃を放ってきた。
これから攻撃しようという魔導士達にそれを避けるすべはなく、電撃が直撃!
「私から沈めておかないから、こうなるのだ」
が、そこは安心と信頼の癒し手であるツボミの出番。
彼女の発動した癒しの魔導が、電撃による傷をたちまち癒していく。
「お、おのれェ! みずち様を守るんじゃ!」
「みずち様ァァァァァァァァ!」
みずち様の形勢不利と見るや、ヤオヨロズの漁師達が騒ぎ始めるが――、
「黙って見ていろ」
いきなり地面が凍てつき、氷柱が生まれる。ロジェによる威嚇であった。
漁師達の信心が本物であろうとも、彼らは戦士ではない。いきなり現れた氷柱に全員が度肝を抜かれて動けなくなり、そして、
「「フォーマルハウトフォーマルハウトフォーマルハウト! かーらーの!」」
「くらえ、愛と怒りと悲しみの、エコォォォォォォズ!」
シェリルと天輝が火の魔導でみずち様の傷口を広げ、そこに、きゐこが全身全霊渾身本気の魔導の矢をあらん限りの怒りを込めて発射。
『うなァァァァァァァァァァァァァァァ…………!』
自由騎士の集中攻撃に耐え切れず、みずち様は断末魔の声をあげて海に身を投げ出した。
ドパァン、と飛び散る水しぶき。
かくして、自由騎士達を襲った土地守は、酒井の海に倒れたのであった。
●そして、梗都へ
「――そのとき、かの神殲組副長土方の刃が私を襲ったのです! そして!」
「「「おおおぉぉぉぉぉ~!」」」
酒井上陸後、アンジェリカが酒井の民達の前でこれまでの旅路を身振り手振りを交えて話していた。元よりノリがいいのか、民達はそれにいちいち大きく反応する。
「かば焼き、一つ上がりましたよぉ~」
「うおお! はい! はい! こっちです、はい!」
一方で、近くにあったお食事処の台所を借りていたシェリルが言うと、出来上がった行列の先頭に立つ町人がサッと手を挙げた。
「はい、新しいの、切り分けて来たわ」
「ありがとうございますぅ~」
町人にかば焼きを提供したのち、ハルから新たに捌かれた身を受け取るシェリル。
戦闘ののち、酒井の港はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
自由騎士も町人も関係なく、そこには大量の料理が振る舞われている。作っているのはシェリル他、料理ができる自由騎士と有志の酒井町人達であった。
食材はもちろん、みずち様だ。
当初、巨大すぎるみずち様の肉は美味いのか、という疑念があった。
しかし、実際に焼いて食ってみたらこれが何と、普通にうなぎ!
そして行列ができた。
「うなぎ以上でも以下でもないのが、何か釈然としねぇ……」
言いながら、ツボミも手渡された白焼きを食べている。
「みずち様がァァァァァァァ!」
「何の恨みがあってワシらの土地守様を……!」
町人から袋叩きされて縛り上げられたヤオヨロズの漁師達が騒ぎ立てるも「町襲われた恨みだよバカヤロウ」と、怒り心頭の町人がそんな彼らを小突いていた。
「ほれ、ロジェよ、喰わぬのか?」
「……いや、遠慮する」
天輝が差し出したかば焼きを見て、ロジェは顔を青くしていた。
本当にあのうなぎ食べてる……。と、半ばヒいているが、彼はそれを声には出さない。
場には、読むべき空気というものが確実に存在していた。
「うう……、うなぎ……」
「無理言うな」
地面に敷かれたゴザの上、横たわっているきゐこが呻くが、ツボミがそれを却下する。
「美味しそうな匂い~、美味しそうな匂いぃぃぃぃぃ~……。うっぷ」
「身体が完全にガタついてるのによく食欲湧くな、貴様も。まぁ、食わせんが」
きゐこは、残念なことにうなぎを食べられなかった。
吐きすぎて、胃のダメージが大きくなりすぎていたのが原因だった。今は、彼女のために町人がおかゆを作ってくれているところである。
ちなみにヨツカはこの場にいない。
何でも、探している師匠の痕跡がないか確かめるため、町を散策するとのことだった。
そんなこんなで、酒井の港が騒がしくなっているところに、
「これは何の騒ぎか!」
外から声をあげる者がいた。槍を持ち、アマノホカリの甲冑に身を固めている兵士だ。
突如として姿をやってきた兵士達に、場の空気は一気に塗り替わる。
「私が出よう」
これまで後方に控えていたジョセフが前に出ようとした。すると、
「もしや、イ・ラプセルの御方か!」
それを言ったのは、特に立派な鎧を着た一人の男性であった。雰囲気が兵士らしくない。
「……何故、それを?」
「おお、やはりそうであったか!」
ジョセフが尋ねると、男は兜を脱いで素顔を露わにした。
頭に髷を結った、精悍な顔立ちの青年であった。ジョセフと自由騎士へ、彼は名乗る。
「我が名は吉備真比呂(きびつ・まひろ)。蒼き水の国の方々よ、あなた方の来訪は陰陽寮の占術によってかねてより知っていた。心より歓迎いたしますぞ」
これが、朝廷の実質的代表者である吉備真比呂との邂逅であった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
†あとがき†
お疲れさまでした!
うなぎは食べれば精がつく。
でも食べれないほど弱ってたら、食べれない! 無念!
ということでシリーズはここまでとなります。
次回は聖霊門建設後の場面からとなります。
建設のための資材も人員も揃ってるし、ノウハウもあるからね!
ということで、次回お楽しみに!
ご参加いただき、ありがとうございましたー!
うなぎは食べれば精がつく。
でも食べれないほど弱ってたら、食べれない! 無念!
ということでシリーズはここまでとなります。
次回は聖霊門建設後の場面からとなります。
建設のための資材も人員も揃ってるし、ノウハウもあるからね!
ということで、次回お楽しみに!
ご参加いただき、ありがとうございましたー!
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