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【デザイア!】叶わぬ恋路を喰らう馬




 砂を巻き上げながら走る蒸気バイクを、馬が追う。ゴールのないデッドヒートは、常であれば疲弊しないバイクの勝利だっただろう。しかし。
「まっすぐギルバークに売りに行くべきだった、か……?」
 バイクを運転する青年がサイドカーに乗せた『商品』である女性に視線をくれれば、彼女は泣きそうな表情で青年に訴えかける。
「わたくしが囮になればご主人様は助かります! どうか、死ねとお命じに」
「駄目だ!」
 肌の所々を覆う鱗はマザリモノの証。黒い首輪は奴隷の証。この国においていくらでも替えの効く物であるはずの彼女は、青年にとって掛け替えのない女性だった。
「あいつら、いつまで追ってくるんだ……!」
 ただの馬ならばとうに撒いていただろうが、彼らを追っているのは三頭のイブリース。このままレースを続けたところで、疲れ知らずの太い脚を持つ悪魔が諦めるよりも先にバイクの燃料が尽きそうだ。
「私は……遠回りをして、君と少しでも長く一緒に居たかっただけなんだ」
「わたくしは奴隷です。ご主人様を守る義務があります」
「ああ、君が奴隷じゃなければ」
「奴隷でなくとも、世継ぎを産めぬわたくしでは相応しくありません」
「家の事なんか知るか! 私だって奴隷商など継ぎたくな――くっ」
 バイクが大きく揺れる。慣れたハンドル捌きで辛うじて持ち直すが、馬は不毛な言い争いをする男女の事情などお構いなしに追ってくる。
 距離を詰めてくる死の足音に、青年は自嘲気味に奴隷へ問いかけた。
「……このまま一緒に死ぬのも悪くないと思わないかい?」


 ヘルメルアで開催される一大奴隷マーケットである『スレイブマーケット』。とある奴隷オークションに潜入した自由騎士達が持ち帰った書類の中に、出品予定の奴隷リストがあった。すぐに強奪した奴隷とリストを照合すると、「一名足りない」という事が判明。どうやら到着していない奴隷商人が居るようだ、と自由騎士達は該当の奴隷商人が使うであろう経路を辿り、ギルバーク郊外の荒地まで来たのだが――

 これはどういう状況だろうか、と自由騎士達は考える。
 奴隷商が間違えたのか故意なのかはわからないが、道を外れてイブリース化した野生動物に遭遇し、追いかけまわされる羽目になった。ここまでは良い。
 だが奴隷を物としか見ていないヘルメリアにおいて、『奴隷と一緒に逃げる奴隷商人』というものに違和感を覚える。普通ならば囮に使って自分だけは逃げる所だ。一人減ればバイクも軽くなる。リストを見る限りでは命懸けで守りたいほど高価な奴隷とは思えない。

 何であれ、まずはイブリースの排除だ。自由騎士達は武器を構えた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
宮下さつき
■成功条件
1.奴隷(マザリモノの女性)の保護
宮下です。スレイブマーケットもそろそろ架橋でしょうか。
前回のシナリオ『【デザイア!】潜入、奴隷オークション。』にて、潜入した自由騎士達が情報収集を行ってくれたおかげで、出品予定の奴隷が1名行方不明になっていた事がわかりました。
(前回のシナリオは読まなくても問題ありません)

●戦場
ギルバーク郊外の荒野
近くに民家は無く、あっても廃屋や遺跡跡くらいで人目を気にする必要はありません。
木々もまばらで、遮蔽物はほぼゼロだと思って頂いて大丈夫です。

●敵情報
イブリース化した馬×3
攻撃方法は噛みつく、【ブレイク1】効果を持つ踏みつけくらいです。
さほど強くはありませんが、無駄に高い反応速度とひたすら走り回ったり跳び回ったりする鬱陶しさがあります。

●保護対象
女性のマザリモノ1名。戦闘能力はありません。
奴隷の保護はどのような手段で行っても構いません。
穏便に買い取る事も強奪する事も出来ます。

●その他
奴隷商人(見習い)の青年1名。戦闘能力はありません。
エネミーとの戦闘を優先しても、助けてくれた人達を放ったらかしにするような恩知らずではないようなので、奴隷を連れて逃げられるような事はありません。
父親の言いつけで奴隷を売りに来ましたが、寄り道をしてイブリースに遭遇。
出品するはずだった奴隷に愛着があるようです。
彼の無事は成功条件に含まれませんので、どのような扱いにするかはお任せ致します。

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この共通タグ【デザイア!】依頼は、連動イベントのものになります。この依頼の成功数により八月末に行われる【デザイア!】決戦の状況が変化します。成功数が多いほど、状況が有利になっていきます。
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それではよろしくお願い致します。
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2019年09月02日

†メイン参加者 6人†




 ド、ド、ド。蒸気バイクのエンジン音よりも重い地響きが、荒野を駆ける自由騎士達の足元を揺らす。
「ど、どうして自分だけ逃げないのでしょう」
 『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)の疑問はもっともだ。たった一言「バイクから飛び降りろ」と命じれば、イブリースと化した馬は憐れな生贄に群がるだろう。
「……たしかに妙ね。いままでヘルメリアでみてきた奴隷商人と奴隷との関係とは、ちょっと違うかしら?」
 薄々感付いてはいるようだが、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も同意する。闇雲に走り回ったところで蹄の餌食になるのは時間の問題だ。そんな中、『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)だけはふわりと口元を緩ませた。
「あらあらまぁまぁ、これはラブロマンスな予感がしますぅ?」
 頬に手を当て、コイバナに花を咲かせる少女のような輝きを瞳に湛えて。
「わたしそうゆうのに弱いんですぅ〜!」
 とはいえ見つめる先で繰り広げられているのは、愛の逃避行というより決死の逃走劇。その時、最もバイクに接近していた馬が、重たい馬体を押し上げるように地を蹴った。飛越動作に似たそれをリュンケウスの瞳で攻撃の予備動作と見たガラミド・クタラージ(CL3000576)が、即座にテレパスを飛ばす。
「射程外だが仕方ないな。『右へハンドルを切れ!』」
「?! ゾーイ、掴まれ!」
 閃くように届いた言葉はまるで天啓で。藁にも縋る思いで青年がハンドルを切れば、彼らはすんでの所で振り下ろされた脚を躱した。地面に蹄がめり込むのとほぼ同時、馬達の進路上でガラミドのスモークボムが炸裂する。馬達は直撃は免れたものの、間近で発せられた轟音と閃光に、多少の混乱が見て取れた。
 背後の爆音にも振り返らず、一心不乱にバイクを走らせた青年はようやく前方に六つの人影を認めた。彼の鼓膜が受けた衝撃は決して小さくなく、酷い耳鳴りが幾分周囲の音を掻き消してはいたが、小柄な女性が張り上げた声が微かに耳に届く。
「救援だ!」
 何故このような場所に。彼らは何者か。疑問は多々あれどこの際どうでも良いと、青年は自由騎士達に向けて最高速度で直進した。
「助けっ、助けてくれ!」
「イブリースを倒すまで後ろに隠れていろ! 余裕があればバイクをバリケードにしとけ!」
 自分達の脇を駆け抜けるバイクに最低限の指示を告げ、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が前方を睨む。三頭の馬は地面を掻くように前足を動かしており、興奮状態に陥っているようだ。
「ウワー!」
 すれ違いざまに奴隷の女性の姿を目にした『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)は奇声を上げ、胸周りがやや窮屈そうな礼服の中を覗き込んだ。
「アー、もうダメネ、今日は商売やめるヨ」
 父親譲りの龍鱗と奴隷の女性を交互に見やり、額に手を当てる。思うところはあれ、今自分がやるべき事は。
「そうそう、商売の前にまずはイブリースの浄化よね」
 エルシーに促され、前へ出る。視線の先では、自由騎士達に向かって突進する馬が鋭く嘶いた。


「ありがとうね」
 黒い軍馬の首を撫で、エルシーが戦場に降り立つ。相棒がその場を離れるが早いか、先頭を走っていた馬が彼女に狙いを定めた。エルシーは馬が僅かに顎を引いたのを見逃す事なく、馬が口を開いたタイミングで横へ跳ぶ。
「ずいぶんと元気じゃない。――ッ!」
 ドォンッ!
 着地とほぼ同時、体勢を立て直すよりも早く、別の馬がエルシーへと蹄を振り下ろした。馬達にも引けを取らない俊敏さが幸いし、彼女は咄嗟に馬の身体の下を転がるようにして避けていた。
「これは……調教のしがいがありそうね」
 馬が踏み砕いた岩を横目に、体内に気を巡らせる。
「みなさぁ〜ん! 時間を稼いでくださぁい!」
 後方で魔力の増幅を図るシェリルの頼みを受け、ルーが駆ける。右へ左へと走り回る馬に、彼女もまた右顧左眄していた。
「ええい、ちょろちょろしすぎヨ。人の恋路を邪魔する馬は人に蹴られて……あれ?」
 翻弄されつつも後衛に向かわせまいと馬の軌道上に飛び込んだルーは、はてと首を傾げる。
「逆だ」
「逆ネ?」
 がちり。ルーは噛みつかれる寸前、水平に構えたダガーを突き出した。
「ちょっと、離すネ!」
 刃に食いついたまま離そうとしない馬と彼女が攻防を繰り広げる中、ガラミドはヌディ・ムバの照準を合わせる。
「そのまま押さえといてくれよー……っと」
「ブルルッ」
 狙われている事に気付き、ダガーから口を離したが既に遅い。砲弾が首の付け根を捉え、巨体を支える脚がふらついた。
「うう、やっと離してくれたネ」
 追い打ちをかけるように叩き込まれる、ルーの拳。グローブの握り棒のように柄を握り込み、硬度を増した拳が筋肉の内側まで衝撃を伝える。
 どっと音を立て、馬が転倒する。これには駆け回っていた他の馬達も、仲間にぶつかるまいと速度を落とした。
「今、ですっ」
 三頭が範囲内に収まるその刹那、編み上がったティルダの呪術が放たれる。風も無いのに草木がさざめき、不穏な空気に馬達の両耳が忙しなく動く。
「ヒュイィィンッ!」
 一頭が首をもたげて警戒の鳴き声を上げるが、最早無意味だ。突然空気抵抗が増したような感覚に陥り、次々に失速する。
 厄介な速度さえ奪ってしまえば、抑えるのは容易い。だが油断する事なく、ツボミは後方の商人達へと声を掛けた。
「三匹とも抑える心算ではあるが、万一漏らせば逃げる者を追う可能性がある。離れ過ぎるな」
「は、はい!」
 バイクの陰から様子を伺っていた青年が、慌てて首を引っ込める。
「ご主人様……」
「大丈夫、大丈夫だ。とても強い人たちのようだよ」
 青年は自身の震えを噛み殺し、奴隷の背を撫でた。自由騎士達の強さに安心する反面、素性の知れない彼らに不安を覚える。
「……一体、何者なんだ?」


「よぉ~し、一気に押し流しますぅ!」
 例えるならば鉄砲水。堰を切ったように迸る魔力の洪水が、馬達を飲み込んだ。
「いくら反応が早くとも、そう簡単には避けさせませんよ!」
 えっへんと胸を張るシェリルには柔和な雰囲気と相俟って微笑ましさすらあるが、放たれた攻撃は凶悪だ。アニマ・ムンディに底上げされた火力が叩きつけた苛烈な波動に、一頭の馬が倒れる。
「グルゥ、ヒヒィン!」
 纏わりつく重圧を振り払うように頭を振り、最も傷の浅かった馬が跳躍した。脅威と判断したか、報復か。馬の大きな目に映るのは後衛、ティルダとシェリルだ。
「ここは通さないわよ」
 エルシーが頭上を飛び越そうとした馬へ、拳を突き上げた。彼女の十倍はあろうかという重量をしなやかな腕一本で受けただけに留まらず、そのまま振り抜く。めきめきと骨が軋む音をさせながら、馬の巨体が傾いた。それでも攻撃の手は緩めずに、再び打つ、打つ。
「おい、負担をかけ過ぎるなよ!」
「平気、まだいけるわ。――……ハァッ!」
「――痛むようならすぐに言えよ」
 振るい続ける腕を案じてノートルダムの息吹を掛け直すツボミを余所に、エルシーは馬を殴り飛ばした。
「まだ浅いわ!」
「オーケー、後は任せろ」
 放物線を描いた巨体の落下地点を正確に予測し、ガラミドが大砲を撃つ。馬がどうにか体勢を立て直そうと空中でもがいていたのも虚しく、着地の直前に胴体へと着弾した。受ける事も躱す事も叶わなかった馬は砲弾と共に地面へ叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。
「あ、あと少し、です……っ」
 如雨露から与えられる水のように優しくキラキラと、ティルダの杖から氷の粒が光のシャワーのように降り注ぐ。そんな幻想的な光景とは裏腹に、馬は冷気の棺へと押し込められ、鋭い威嚇の声を上げた。重力に圧され、足は泥濘に沈み、体表は氷に覆われてゆく。
「ヒュィイ! ヒュン!」
 成すすべもない馬の悪あがきか。首を振り回し、がちがちと歯を鳴らす。
「最後の抵抗か。気を付けろよ」
「任せるネ!」
 ツボミが組み上げた煩雑かつ美妙な術式がルーへと宿る。ルーは近付くのも躊躇われる暴れ馬にあろう事か左腕を掲げ、喰らいつかせた。
「この一撃を喰らうといいネ!」
 噛みつき、馬の動きが止まったその一瞬。ルーの右ストレートが横っ面に極まり、白目を剥いた馬の巨体が宙を舞った。


「よしよし。お前達も好きでイブリース化したわけじゃないものね」
 馬の扱いに長けたエルシーに撫でられ、浄化された馬は気持ち良さそうに鼻を鳴らす。愛馬用ではあったが林檎を与えれば美味しそうに咀嚼し、野生へと帰っていった。
「うふふ〜ご挨拶が遅れましたぁ。わたくし、シェリルと申しますぅ」
「あ、ありがとうございます。私はバーンズ商会の者でして、このお礼は必ず」
 恐る恐るといった様子で立ち上がった青年がちらちらとエルシーに視線を向けている事で、合点がいったとでもいうようにシェリルが手を叩く。
「あっ、いきなり亜人のわたしが話しかけたらびっくりしちゃいますよね?」
「いやそんな、気に障ったのなら申し訳ない。ただ亜人は首輪が無いと……危ないので。異国よりいらしたなら――」
「私達はフリーエンジンよ。貴方も奴隷商人なら聞いた事はあるわよね?」
 まどろっこしいやり取りをするよりは、とエルシーがはっきりと要件を口にすると、途端に青年の顔色が悪くなる。
「あの、反社組織の……?」
「ああ勘違いするな、貴様をどうこうするつもりはない。が、我らは奴隷の保護が目的でそこは譲れん」
 ツボミがフォローを入れるも、青年の顔色は優れない。困惑しているといったところか、背後の奴隷と幾度も顔を見合わせている。
「どうして、こんな所にいたんですか? スレイブマーケットに行くには遠回りだと思うのですけど……」
「それは、その」
 ティルダの一歩踏み込んだ質問に、青年が口ごもる。彼とは腹を割って話しても良さそうだと判断したガラミドは、率直に尋ねた。
「そんなに大事だったのか?」
 ガラミドが背後の女性を指せば青年は面食らい、観念したとでも言うように溜息を吐く。
「……お話ししましょう」

 奴隷商人の男はザカリー、女性はゾーイと名乗った。教養を身に着けさせる為に共に過ごすうちに恋仲になり、父親にばれて自分で売りに行けと言われ今に至る――と至極情けない顔でザカリーは話す。駆け落ちするくらいの気概があればと思う反面、家業が嫌いなだけで家族が嫌いなわけではなく、心中は複雑らしい。
「話は分かったわ。でも、彼女は私達が連れていくわ」
 エルシーの言葉に、彼は頷いた。
「それで構わない。そもそも私が寄り道をしなければ、彼女を危険な目に遭わせる事は無かったんだ……」
「それなんだがな、貴様にはぶっちゃけ好感を感じる故、適正価格を払って買い取っても構わんのだが。マーケットは絶賛我々が襲いまくっとる故……」
 ゾーイが出品されるはずだったオークションがフリーエンジンを名乗る自由騎士達によって中止に追い込まれた話も、近いうちに蒸気ラジヲで流れるだろう。ツボミ達が危惧するのは、この状況下で奴隷の売買を成功させた彼を、周囲がどう思うかだ。
「なるほど、痛くない腹を探られる事になると」
「話が早くて助かる。形だけでもオレ達に強奪された事にするのを勧めるぜ」
「色々ご配慮頂き、感謝しかない。それでお願いします」
 ガラミドの提案に乗る形で、ザカリーは頷いた。
「それに……少なくとも、彼女を『売った』という罪悪感だけは感じずに済みそうだ」
 思わずといった様子でぽつりと零れた彼の言葉に、ティルダは何かを決心したような表情で口を開いた。
「あ、あのっ……もし、女性と離れるのが嫌なら、そして奴隷商人を続けたくないなら」
 ――一緒に来るのはどうでしょうか。
 その言葉に、ザカリーは目を見開いた。
「私は奴隷商人で、君は、その」
 ティルダも迫害を受けた境遇から、奴隷商人への忌避感が無いわけではない。ただ。
「ゾーイさんを、奴隷でははなくヒトとして扱っているのが……嬉しかったので」
 とはいえ無条件で受け入れるのは不可能だ。シェリルが心苦しそうな面持ちで伝える。
「然しそれは、フリーエンジンが奴隷制度を撤廃させる迄、貴方を監視するのと同義ですう……」
 彼が意図せずとも、万が一にも漏れた情報はあっという間に広まる。立場が立場だけに、彼の自由は制限される。
「……流されて決めれば後悔しか生まんし、その末は貴様もその娘も不幸になる」
 彼女と別れずに済むかもしれないという選択肢に、一瞬目が輝いたのをツボミは見逃さない。衝動的に飛びつきかねない男に釘を刺しておく。
「厳しく聞こえちまってたら悪いな。……腹括った上で選んで欲しかったんだよ。どんな風向きになっても大切にしたいのが何か、とかな」
 事が事だけに慎重になれと、ガラミドも助言をする。ザカリーは口を噤み、顔を伏せた。
「生まれも立場も家業も身分も今は横に置け。『自分が何を望むのか』だ。貴様は、どうしたいのだザカリー」

「ご主人様……」
 ゾーイは主人が決断するのを、固唾を飲んで見守っていた。自分の事であるにも関わらず一切口を挟まないのは、奴隷として教育されているが故か。
「ちょっといい?」
 そんな彼女に、ルーがそっと寄り添った。
「これからあたし達は奴隷制度をぶち壊す予定よ。そこの『ご主人様』が行き場を失う可能性は大きいの」
 大陸訛りの無い口調で、諭すように話しかける。普段の彼女を知る人ならば、違和感を覚えた事だろう。
「あなたが生き残って、生計を立てられるようになって、その後もし彼がやってきたら迎えてあげてもいいんじゃない?」
「わたくしが?」
 顔の横の短い角はマザリモノの証。奴隷という名の所有物でしかなかったゾーイの目には、自立したルーの姿は眩しく映る。自分も彼女のようになれるのだろうか。
「わたくしが、ご主人様を支える? そんな、そんな……考えた事もございませんでしたわ!!」
 目から鱗が落ちるとはこの事か。酷く嬉しそうな笑顔を見せたゾーイに、ルーはあっけにとられるが、釣られるように破顔した。
「ちなみに、イ・ラプセルはアタシやあの先生みたいなマザリモノも暮らす国ヨ。覚えておいてネ? 同じ種族同士、安くしとくヨ!」

「後悔はないわね?」
「ええ。家に残っている奴隷達がせめて、待遇の悪い――奴隷を使い捨てるような所に売られないように。私に出来るのはそれくらいです」
 共に行かない事を決断し、ザカリーは言う。女恋しさについていった所で、フリーエンジンに居る亜人やデザイア達に合わせる顔が無いと。いくら償えど奴隷商であった事実は消えないが、やれる事から始めたいと。
「奴隷制度は必ずぶち壊すわ」
「君たちが失業させてくれる事を祈ってるよ」
 エルシーの宣言に肩を竦め、小さく笑う。

 ザカリーは去っていく自由騎士達の背に、ふと思い出したように叫んだ。
「ゾーイ、最後の命令だ! 『自由に生きろ』!」

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

奴隷の保護に加え、奴隷商人の息子さんの意識改革にも繋がりました。
ご参加ありがとうございました。
MVPは最後までどなたにするか迷いましたが、デザイアに今後の目標を作ってくださったあなたに。
あとリプレイ中で褒める余裕がなかったので、ここで失礼致します。
「バニー着てこなかったのえらい!」
FL送付済