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不浄の泉

イ・ラプセルにある小さな町。そこでは人々が協力しながら穏やかに過ごしていた。
彼らはよく、町の近くにある林の泉を利用していた。その泉はとても澄んでいて綺麗な水が湧いていた。
その日も町の人たちは生活のため、娯楽のため、様々な目的を持ってその泉に向かっていた。
町の人たちが泉に着いてそれぞれの目的をこなしていると、突然叫び声が響いた。
「う、うわぁああああああああ! なんだこれ!」
叫んだ人の目線の先。そこには水の入った桶があった。しかし、中に入っているものは水と言っていいのか分からないものだった。
――桶の中で水らしきものが生物のようにぐねぐねと動き回っていたのだ。
意志を持ったように動く水らしきものは、桶の中で激しく動き回ったかと思うと、勢いよく飛び出して泉の中に入っていった。すると、今度は泉から湧き出ている水が激しく波打ち始める。それが静まると、勢いよく触手のようなものが飛び出してきた。
「な、何が起こってるの!?」
周囲にいた人々は驚愕に目を見開く。その中で、様子が変わった人たちがいた。その人たちは突然獣のような咆哮を上げると、近くにいた人たちに向かって殴りかかったのだ。
「きゃっ!? あ、あなたどうしたの!?」
殴りかかってきた男性に、女性は信じられないと言った視線を向けながら必死に呼びかける。しかし男性がそれに答えることはない。それどころかますます凶暴になっていく。
突如として騒然となった泉。正気を保っている人々は、己の命を守るために我先にと逃げ出した。
●
自由騎士たちは現在、演算室へと呼び集められていた。
「今回みんなにお願いしたいのはイブリース化した泉の討伐なんだ」
君たちにそう告げたのは、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)だ。
――泉?
君たちは声を揃えて首を傾げる。クラウディアは神妙な面持ちでこくりと頷いた。
「そう、泉。今回見えた未来では泉の水がイブリース化して周囲を攻撃するようになったんだ」
それに加えて、泉の水を飲んだ人もイブリース化してしまい凶暴化してしまっていたとクラウディアは語った。
「だから、みんなには泉の討伐の他にもイブリース化した人の対処もお願いしたいんだ」
今から行けば泉や町の人達がイブリース化した直後には現場に到着できるだろうとクラウディアは言った。
「相手は水だし対処が難しいかもしれないけど、被害が大きくなる前にみんなお願い!」
クラウディアの言葉を受け、君たちは現場に急行した。
彼らはよく、町の近くにある林の泉を利用していた。その泉はとても澄んでいて綺麗な水が湧いていた。
その日も町の人たちは生活のため、娯楽のため、様々な目的を持ってその泉に向かっていた。
町の人たちが泉に着いてそれぞれの目的をこなしていると、突然叫び声が響いた。
「う、うわぁああああああああ! なんだこれ!」
叫んだ人の目線の先。そこには水の入った桶があった。しかし、中に入っているものは水と言っていいのか分からないものだった。
――桶の中で水らしきものが生物のようにぐねぐねと動き回っていたのだ。
意志を持ったように動く水らしきものは、桶の中で激しく動き回ったかと思うと、勢いよく飛び出して泉の中に入っていった。すると、今度は泉から湧き出ている水が激しく波打ち始める。それが静まると、勢いよく触手のようなものが飛び出してきた。
「な、何が起こってるの!?」
周囲にいた人々は驚愕に目を見開く。その中で、様子が変わった人たちがいた。その人たちは突然獣のような咆哮を上げると、近くにいた人たちに向かって殴りかかったのだ。
「きゃっ!? あ、あなたどうしたの!?」
殴りかかってきた男性に、女性は信じられないと言った視線を向けながら必死に呼びかける。しかし男性がそれに答えることはない。それどころかますます凶暴になっていく。
突如として騒然となった泉。正気を保っている人々は、己の命を守るために我先にと逃げ出した。
●
自由騎士たちは現在、演算室へと呼び集められていた。
「今回みんなにお願いしたいのはイブリース化した泉の討伐なんだ」
君たちにそう告げたのは、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)だ。
――泉?
君たちは声を揃えて首を傾げる。クラウディアは神妙な面持ちでこくりと頷いた。
「そう、泉。今回見えた未来では泉の水がイブリース化して周囲を攻撃するようになったんだ」
それに加えて、泉の水を飲んだ人もイブリース化してしまい凶暴化してしまっていたとクラウディアは語った。
「だから、みんなには泉の討伐の他にもイブリース化した人の対処もお願いしたいんだ」
今から行けば泉や町の人達がイブリース化した直後には現場に到着できるだろうとクラウディアは言った。
「相手は水だし対処が難しいかもしれないけど、被害が大きくなる前にみんなお願い!」
クラウディアの言葉を受け、君たちは現場に急行した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリース化した泉と町の人の討伐
こんにちは、酒谷です。
今回はイブリース化したお水の討伐となります。
●敵情報
*泉 1体
イブリース化した水が湧き出ている泉です。泉の水はグニャグニャと自在に形を変えます。物理攻撃はほとんど効きません。魔導攻撃でダメージを狙うといいでしょう。また、攻撃は敵味方無差別に行ないます。
攻撃方法
・叩きつけ 攻遠全
水を触手のように変形させて、自身の周囲にいる敵を叩きつけます。また、一度に複数の敵を狙ってきます。
・しめつける 攻遠単【パラライズ1】【移動不能】
水を触手のように変形させて敵を締め付けます。締め付けられた敵は締め付けを解除されるまでは継続的にダメージを受けます。
・腐敗した水 魔遠全【ポイズン2】
腐って毒となった水を周囲にばら撒きます。直接当たればもちろんのこと、地面などに残った水に触れても【ポイズン2】の状態になります。
*町民 10体
イブリース化した泉の水を飲んでしまいイブリース化してしまった町の住人です。ただ単に凶暴化しているだけで全く驚異ではありません。
攻撃方法
・噛みつき 攻近単
近距離にいる敵に噛みつきます。噛みつかれるとその場に拘束されます。振りほどくには攻撃するかターン消費が必要です。
・殴る 攻近単
近距離にいる敵を自身の手や落ちているもので殴ります。
●場所情報
時刻は日中、晴れやかな青空が広がってます。
・泉のある林
町の近くにある林の中です。町民が泉を利用していることもあり、そこそこ綺麗に整備されています。ひらけた場所で障害物もなく、地面もしっかり踏み固められているので移動などに支障はないでしょう。しかし、水などが地面に撒かれるとその箇所にはぬかるみが出来るでしょう。
●その他
逃げ出した町民はイブリースたちの攻撃が届かない場所までは逃げていますので安全です。
泉は敵味方関係なく周囲にあるものを攻撃します。自由騎士たちはもちろんのこと、イブリース化した町民を攻撃することもあるかもしれません。被害を最小限に押さえるならば、町民は泉から引き離して対処するといいでしょう。
今回はイブリース化したお水の討伐となります。
●敵情報
*泉 1体
イブリース化した水が湧き出ている泉です。泉の水はグニャグニャと自在に形を変えます。物理攻撃はほとんど効きません。魔導攻撃でダメージを狙うといいでしょう。また、攻撃は敵味方無差別に行ないます。
攻撃方法
・叩きつけ 攻遠全
水を触手のように変形させて、自身の周囲にいる敵を叩きつけます。また、一度に複数の敵を狙ってきます。
・しめつける 攻遠単【パラライズ1】【移動不能】
水を触手のように変形させて敵を締め付けます。締め付けられた敵は締め付けを解除されるまでは継続的にダメージを受けます。
・腐敗した水 魔遠全【ポイズン2】
腐って毒となった水を周囲にばら撒きます。直接当たればもちろんのこと、地面などに残った水に触れても【ポイズン2】の状態になります。
*町民 10体
イブリース化した泉の水を飲んでしまいイブリース化してしまった町の住人です。ただ単に凶暴化しているだけで全く驚異ではありません。
攻撃方法
・噛みつき 攻近単
近距離にいる敵に噛みつきます。噛みつかれるとその場に拘束されます。振りほどくには攻撃するかターン消費が必要です。
・殴る 攻近単
近距離にいる敵を自身の手や落ちているもので殴ります。
●場所情報
時刻は日中、晴れやかな青空が広がってます。
・泉のある林
町の近くにある林の中です。町民が泉を利用していることもあり、そこそこ綺麗に整備されています。ひらけた場所で障害物もなく、地面もしっかり踏み固められているので移動などに支障はないでしょう。しかし、水などが地面に撒かれるとその箇所にはぬかるみが出来るでしょう。
●その他
逃げ出した町民はイブリースたちの攻撃が届かない場所までは逃げていますので安全です。
泉は敵味方関係なく周囲にあるものを攻撃します。自由騎士たちはもちろんのこと、イブリース化した町民を攻撃することもあるかもしれません。被害を最小限に押さえるならば、町民は泉から引き離して対処するといいでしょう。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2020年06月11日
2020年06月11日
†メイン参加者 5人†

●
「水、いや正確には泉のイブリース化か。また厄介なのが出たもんだ」
現場となる泉に向かいながら、『エレガントベア』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそう呟いた。それに同意したのは『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だ。
「ああ。水は生活に必要不可欠なものだからな」
「でも何故、泉がイブリース化したのかしら?」
今回の事件にそんな疑問を呈したのは天哉熾 ハル(CL3000678)だった。『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は少しばかり難しい顔をして首を小さく横に振る。
「それは分かりません。ですが、救いましょう、人も水も……全てを」
「はい。町の人達の憩いの場所、きっと取り戻してみせましょう!」
アンジェリカの言葉に『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も力強く頷く。
そう話している彼らの目に、徐々に泉のある林と近くの町が見えてきた。
●
林に到着して早々にウェルスは普段から進み慣れている林道を先行していた。
泉に近づくに連れてウェルスの耳に何やら喧騒が聞こえてくる。そして、唐突にウェルスの目の前に顔面蒼白にした人が数人現れた。どうやら泉の元から避難してきた町民達のようだ。向こうもウェルスに気付いたようで驚いたように目を見開いた。
「俺達は自由騎士団だ。イブリース化した泉はこの先か?」
ウェルスが端的に聞けば、人々は壊れた機械のように何度も頷く。そんな彼らにウェルスは後続の自由騎士の指示に従うように伝えると、そのままイブリース化した泉の元に駆け出す。
ウェルスが到着すると、そこには実に奇妙な光景が広がっていた。泉から触手のような形になった水が複数伸びて、ぐねぐねと意思を持ったように蠢いている。そして、時折ビタンビタンと周りの地面を無差別に叩いていた。その姿はさながら暴れている大蛇のようだ。その周囲には完全に理性を失って獣のように唸り声を上げている人々がいた。ウェルスはそんな彼らに向かって冷静に銃を構えた。
ウェルスの少し後方からは他の自由騎士達が彼の後を追っていた。その途中で泉から逃げてきたらしい町民達とすれ違う。自由騎士か? と回りにくくなっている呂律で聞いてくる町民達に四人は頷いた。
「助けにきました! もう大丈夫です!」
エルシーは町民への被害がこれ以上広がらないように、さらに下がっているように町民達に指示を出す。その間にアンジェリカは医療団体から派遣された衛生部隊に町民の避難と治療を頼んでいた。
指示出しや状況確認をしながら四人がウェルスに合流すると、泉の周辺を灼熱の弾幕が覆った。ウェルスのバレッジファイヤだ。イブリース化した町民達を圧倒したそれは、確実に彼らの浄化への一歩となっている。
ウェルスの攻撃でイブリース化した町民達の意識が自由騎士達に向いた。その意識を逃さないようにエルシーは零元を使って町民の注意を自身に引きつける。
「ほらほら、こっちよ!」
エルシーの挑発が届いたのか、イブリース化した町民達は一斉に彼女の元へと向かっていく。エルシーは上手いこと注意を自分に向けさせ続けながら町民達を泉から引き離す。泉から町民全員を十分に引き離したエルシーは、数人が自身の攻撃の射程に入った瞬間に太陽と海のワルツを放った。エルシーから放たれた熱くも優雅なる殺戮円舞曲は確実にイブリース化した町民達を無力化した。ウェルスは意識を失った町民達を戦場から引き離しながら、泉を浄化する準備としてエルシーと自身にスクリプチャーをかけ始めた。その隙を守るようにテオドールは残った町民達をトロメーアで無力化しようと試みる。テオドールが唱えた呪は町民達を内を縛り付け麻痺させた。そして、残りの町民達も意識を失い地に倒れ伏した。
「……ひとまずは大丈夫そうだな。後は任せてもいいだろうか?」
イブリース化していた町民達が誰一人として死亡していないことを確認したテオドールは、アンジェリカが指示を出していた衛生部隊と避難していた町民達に、意識を失っている町民達の避難と治療を引き継いでもらうように声をかけた。それに対してどちらも快く了承する。それを確認したテオドールは、ウェルスとエルシーとアイコンタクトをして元凶である泉の元へと向かった。
一方、ハルとアンジェリカは他の三人がイブリース化した町民達の浄化をする時間を稼ぐために、真っ先に泉の元へと向かった。
ハルは先手必勝というように素早く自身にダーケンガルメントを付与する。その後ろでアンジェリカは最初に一発大きいものを叩き込もうと、自身の身の丈ほどある十字架を振り上げた。彼女の救済の祈りで十字架が金色の輝きを纏う。アンジェリカはそのまま全力でそれを一振りした。放たれた山吹色の衝撃は奇妙に蠢いていた水の触手を薙ぎ払った。続けてアンジェリカは先程の衝撃で動きが鈍っている水の触手に対してマーチラビットを放つ。その炸裂弾頭は本来液体である水に対して効果は薄いように見えるが、一時的に動きを止めることは出来たようだ。ハルはその隙を見逃さなかった。水の触手が動きを止めている間に、リュンケウスの瞳で見極めた位置にジュデッカを叩き込む。魔導の力を纏った刃は確実に水の触手を切り裂いた。切り離された水の触手はそのままボチャンと力ない音を立てて泉に還っていく。
「やはり、物理的な攻撃はあまり効かないようですね」
「それでも、町民達を泉の攻撃から多少なりとも守れるんじゃないかしら?」
分かりきっていた結果を目の当たりにして出たアンジェリカの感想に、ハルはやけに色っぽい笑みを見せる。ハルの言葉にアンジェリカは頷く、動きを止めるだけならこれが自身の出せる最適解だと。
そうして二人が周囲に水の触手の攻撃が向かないように叩き落としていると、町民達を浄化し終えたウェルス、テオドール、エルシーが合流してきた。三人がやってきたことにより、イブリース化した町民は無事だと判断したアンジェリカは、防衛から攻撃へと方針を変更した。アンジェリカは水の触手に向けていた武器を一時的に下ろしステップを踏む。大渦海域のタンゴは水の触手全てを巻き込む大渦を生み出した。水の触手は細々にちぎれて細くなっていく。
「やはりこちらのほうが有効のようですね。激流を制するは濁流……一気に勝負を決めましょう!」
アンジェリカは言いながら、追撃と言わんばかりに再度ステップを踏む。細くなった触手は粉々にちぎれ飛び、ぽちゃんと力なく泉に落ちていった。
続いて、今度はエルシーが攻撃を仕掛けた。エルシーは、新たに生み出された水の触手を見据えて数瞬だけ考える。
――コイツはまいったわね。水って拳で殴れないわよね……でも、極めれば流水を斬る事もできるかも!?
エルシーは自身の内側にぐっと気を溜め込むと、しっかりと踏み込んで獅子吼を叩き込んだ。しかし、全力で叩き込んだにも関わらずあまり手応えがない。水の触手はエルシーの拳を包むようにぐにゃりと蠢いた。
「上等よ! この五体こそが武器! かかってらっしゃい!!」
エルシーはぐねぐねと動く水の触手から距離を取ると、今度は体内で気を極限まで練り込み始める。
「くらいなさい!」
エルシーから放たれた回天號砲は、出現した水の触手の根本に打ち込まれてそのまま触手一本を泉から切り離した。
次の瞬間だった。泉は仕返しと言わんばかりに腐敗した水を勢いよく噴き上げた。大粒で落下してくる水は思わず顔をしかめてしまうくらいの腐敗臭を撒き散らしながら大地を目指す。ウェルス、エルシー、アンジェリカは落下位置をしっかりと見極めて水を避けた。しかし、テオドールとハルは直撃してしまう。水のわりに粘度があったらしいそれは二人の体にぬめりと纏わり付く。そこから腐敗が侵食するような感覚にテオドールとハルは思い切り顔を顰めた。地面に落ちた水も大地を侵食するようにじわじわと染み込んでいく。
腐敗していく大地を苦々しく見ながら、ウェルスは早々に片を付けようと愛銃の銃口を水の触手に向ける。そこから放たれたシルバーバレットはもう一本触手を撃ち落とした。
「よし、行けそうだな」
確かな手応えにウェルスは独り言ちた。
彼の弾丸に続いたのはハルだ。ハルは初手からのリズムを崩すことなく刀を構える。彼女は再びジュデッカを放つ。その刃は徐々に数も力も失っていく触手の一つを華麗に切り裂いた。そして、業剣は泉から繋がる触手の動きを一時的に止めた。
「さて、この後はどうするのかしら?」
腐敗に侵食されている様子など一切見せずに美しき所作で刀を構え直したハルは、触手の動きを見逃さないように注視した。
数瞬動きを止めた触手を狙って、テオドールは自身を蝕み始めた毒に抗いながらコーリングコネクトを唱えた。それに応えるように呪は水の触手の内側に入り込んでいく。
「そろそろ浄化できそうだな」
テオドールの言葉通り、深淵まで縛り付ける決して解かれることのない呪いは確実に泉を浄化へと誘っていた。
アンジェリカのステップ、エルシーの気、ウェルスの弾丸、ハルの刃、テオドールの呪。様々な方法で引き裂かれ、撃ち抜かれ、切り裂かれ、呪縛され、徐々に水の触手は力強さを失っていく。
「もう終わらせましょう!」
「はい!」
エルシーの言葉にアンジェリカが頷く。そして、二人は同時に攻撃を放った。素早い動きで放たれたエルシーの回天號砲が水の触手を打ち抜いた瞬間、アンジェリカの大渦海域のタンゴが水の触手全てを巻き込んで渦を巻く。それに絡め取られて水の触手は力なく泉に落ちる。再度、出現した水の触手は次の瞬間にはハルのジュデッカに切り裂かれ、残った触手はテオドールのコキュートスによって凍りついた。
「これで最後かしらね」
「ウェルス、頼むぞ」
「ああ、任された」
四人が創り上げた道にウェルスはしっかりと銃口を向ける。そして泉の全てを打ち砕く浄化滅砲・対悪魔擲弾発射を放った。凍てついた触手に食い込んだ榴弾は、鮮やかに思えるほど美しく凍りついた水の触手を粉々に粉砕した。光を反射しながら落ちていく氷の破片はカラカラと泉に落ちていく。
そして、泉は静寂を取り戻した。
●
先程の喧騒が嘘のように静まり返り清浄を取り戻した泉。
自身の毒をクリアカースで除去したテオドールは、エルシーと一緒に泉から離れた場所でイブリース化していた町民を介抱していた衛生部隊や町民達の元に向かった。
「怪我した者がいれば申し出よ、治療しよう」
「大丈夫ですか? どこか痛むトコロはありますか?」
テオドールとエルシーの呼びかけに町民達は各々返答を返す。彼らの返答を総合すると、全くの無傷というわけにはいかなかったが比較的大きな傷を負ったものは既に衛生部隊の人に治療されており、残っているのは比較的軽傷の人だけとのこと。その傷もテオドールのハーベストレインで瞬く間に治癒した。エルシーはそのまま町民達の元に残り、未だに恐怖や動揺は治まっていない人達に優しく声をかけ続けた。
ウェルスは念のため泉周辺の林を見回っていた。今回の元凶であった泉を浄化したから大丈夫だとは思うが、もしもの可能性を考えてのことだった。しかし、イブリース化した野生動物はおろか、ごくごく普通の野生動物すら見当たらない。もしかしたら、戦闘の音を聞きつけて遠くに去ったのかもしれない。警戒を完全に解くことはできなくともひとまずは大丈夫そうだと、ウェルスは元の場所まで戻っていった。
自身の毒を取り除いたハルは、凪を保っている泉を覗き込みながら僅かに目を細める。彼女の頭の中では泉がイブリース化した原因の考察が始まっていた。
――見たところ、泉自体にイブリース化した原因はなさそうねぇ。だったら近くの林の方かしら?
考えて、ハルは見回りに行ったウェルスとは別の方角の林を軽く見回る。けれど、これといった収穫はなかった。なら一体何が、と考えてながら泉のところまで戻ってくると、同じく何かを考え込んでいる様子のテオドールと目が合う。互いに考えていることがなんとなく分かったのだろう、テオドールはハルに何か見つかったかと問いかけた。ハルはそれに対して肩を竦める。
「残念ながら何も見つからなかったわ。なーんにも無ければ、それに越したことはないけれど」
「ああ。だが、一度清掃した方がいいやもしれんな。何か出てくるかもしれんぞ」
油断はできないと話している二人にアンジェリカが声をかける。
「どうかなさいましたか?」
アンジェリカの問いに二人はそれぞれの考察を述べる。それを聞いたアンジェリカは、確かにあり得ることだと頷いた。
「でしたら、泉の方にも汚染浄化を施しておきますね」
先程まで周囲に撒き散らされた水にも施してきたところなんです、とアンジェリカは言う。
「一時的な気休めかもしれませんが」
「なら、頼もうか」
「そうねぇ、気休めかもしれないけれど」
承ったアンジェリカは早速泉に対して汚染浄化を施す。そして、もうイブリース化しないようにという願いを込めてその場で作成した聖水を泉に混ぜ込んだ。
アンジェリカが泉に術を施している間、テオドールは再度町民達の元に向かった。彼らがこの後どうするのか、具体的には今まで通りに泉を使うのかどうかを確認するためだ。テオドールに聞かれた町民達は、視線を彷徨わせたり不安な表情をしたりとあまりいい反応は見せない。それでも、一部の人達はこの泉から離れることを嫌がった。一通りのことを施し終わったアンジェリカは、その反応を見てキランと目を光らせた。
「では、みなさん。パスタを食べてから決めてみませんか?」
ぽかん。そんな音が聞こえてきそうだ。町民達や衛生部隊の人達のみならず、他の自由騎士達も唖然とした様子でアンジェリカを見る。一同の視線を受けながら、アンジェリカはどこにしまっていたのか分からないパスタセットを用意した。そして、泉の水を使ってテキパキとパスタを準備しだす。半分ほどの人の理解が追いつかない中、あっという間に美味しそうな匂いを漂わせたパスタが完成した。笑顔で振る舞ってくるアンジェリカに一人、また一人とパスタに手を付ける。それは自由騎士達や衛生部隊にとってはとても美味しい、町民にとっては慣れ親しんだパスタの味だった。
「どうですか?」
アンジェリカの問いかけに町民達は軽く頷きながら、互いの意思を確認するように目配せをする。そして、彼らが出した結論は。
――今まで通り、この泉と一緒に町で暮らそうと思います。しかし今回のこともあるので、ここでこれまで通り暮らしながら、少しずつ新しい暮らし方も考えていこうと思います。
泉を浄化して町を去っていく自由騎士達に、町の代表はそう語った。
こうしてイブリース化した泉との戦いはひとまずの終わりを迎えた。けれど、彼らの戦いはまだ終わらない。人と人との戦争はすでに次のステップへと進んでいるのだから。
「水、いや正確には泉のイブリース化か。また厄介なのが出たもんだ」
現場となる泉に向かいながら、『エレガントベア』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそう呟いた。それに同意したのは『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だ。
「ああ。水は生活に必要不可欠なものだからな」
「でも何故、泉がイブリース化したのかしら?」
今回の事件にそんな疑問を呈したのは天哉熾 ハル(CL3000678)だった。『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は少しばかり難しい顔をして首を小さく横に振る。
「それは分かりません。ですが、救いましょう、人も水も……全てを」
「はい。町の人達の憩いの場所、きっと取り戻してみせましょう!」
アンジェリカの言葉に『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も力強く頷く。
そう話している彼らの目に、徐々に泉のある林と近くの町が見えてきた。
●
林に到着して早々にウェルスは普段から進み慣れている林道を先行していた。
泉に近づくに連れてウェルスの耳に何やら喧騒が聞こえてくる。そして、唐突にウェルスの目の前に顔面蒼白にした人が数人現れた。どうやら泉の元から避難してきた町民達のようだ。向こうもウェルスに気付いたようで驚いたように目を見開いた。
「俺達は自由騎士団だ。イブリース化した泉はこの先か?」
ウェルスが端的に聞けば、人々は壊れた機械のように何度も頷く。そんな彼らにウェルスは後続の自由騎士の指示に従うように伝えると、そのままイブリース化した泉の元に駆け出す。
ウェルスが到着すると、そこには実に奇妙な光景が広がっていた。泉から触手のような形になった水が複数伸びて、ぐねぐねと意思を持ったように蠢いている。そして、時折ビタンビタンと周りの地面を無差別に叩いていた。その姿はさながら暴れている大蛇のようだ。その周囲には完全に理性を失って獣のように唸り声を上げている人々がいた。ウェルスはそんな彼らに向かって冷静に銃を構えた。
ウェルスの少し後方からは他の自由騎士達が彼の後を追っていた。その途中で泉から逃げてきたらしい町民達とすれ違う。自由騎士か? と回りにくくなっている呂律で聞いてくる町民達に四人は頷いた。
「助けにきました! もう大丈夫です!」
エルシーは町民への被害がこれ以上広がらないように、さらに下がっているように町民達に指示を出す。その間にアンジェリカは医療団体から派遣された衛生部隊に町民の避難と治療を頼んでいた。
指示出しや状況確認をしながら四人がウェルスに合流すると、泉の周辺を灼熱の弾幕が覆った。ウェルスのバレッジファイヤだ。イブリース化した町民達を圧倒したそれは、確実に彼らの浄化への一歩となっている。
ウェルスの攻撃でイブリース化した町民達の意識が自由騎士達に向いた。その意識を逃さないようにエルシーは零元を使って町民の注意を自身に引きつける。
「ほらほら、こっちよ!」
エルシーの挑発が届いたのか、イブリース化した町民達は一斉に彼女の元へと向かっていく。エルシーは上手いこと注意を自分に向けさせ続けながら町民達を泉から引き離す。泉から町民全員を十分に引き離したエルシーは、数人が自身の攻撃の射程に入った瞬間に太陽と海のワルツを放った。エルシーから放たれた熱くも優雅なる殺戮円舞曲は確実にイブリース化した町民達を無力化した。ウェルスは意識を失った町民達を戦場から引き離しながら、泉を浄化する準備としてエルシーと自身にスクリプチャーをかけ始めた。その隙を守るようにテオドールは残った町民達をトロメーアで無力化しようと試みる。テオドールが唱えた呪は町民達を内を縛り付け麻痺させた。そして、残りの町民達も意識を失い地に倒れ伏した。
「……ひとまずは大丈夫そうだな。後は任せてもいいだろうか?」
イブリース化していた町民達が誰一人として死亡していないことを確認したテオドールは、アンジェリカが指示を出していた衛生部隊と避難していた町民達に、意識を失っている町民達の避難と治療を引き継いでもらうように声をかけた。それに対してどちらも快く了承する。それを確認したテオドールは、ウェルスとエルシーとアイコンタクトをして元凶である泉の元へと向かった。
一方、ハルとアンジェリカは他の三人がイブリース化した町民達の浄化をする時間を稼ぐために、真っ先に泉の元へと向かった。
ハルは先手必勝というように素早く自身にダーケンガルメントを付与する。その後ろでアンジェリカは最初に一発大きいものを叩き込もうと、自身の身の丈ほどある十字架を振り上げた。彼女の救済の祈りで十字架が金色の輝きを纏う。アンジェリカはそのまま全力でそれを一振りした。放たれた山吹色の衝撃は奇妙に蠢いていた水の触手を薙ぎ払った。続けてアンジェリカは先程の衝撃で動きが鈍っている水の触手に対してマーチラビットを放つ。その炸裂弾頭は本来液体である水に対して効果は薄いように見えるが、一時的に動きを止めることは出来たようだ。ハルはその隙を見逃さなかった。水の触手が動きを止めている間に、リュンケウスの瞳で見極めた位置にジュデッカを叩き込む。魔導の力を纏った刃は確実に水の触手を切り裂いた。切り離された水の触手はそのままボチャンと力ない音を立てて泉に還っていく。
「やはり、物理的な攻撃はあまり効かないようですね」
「それでも、町民達を泉の攻撃から多少なりとも守れるんじゃないかしら?」
分かりきっていた結果を目の当たりにして出たアンジェリカの感想に、ハルはやけに色っぽい笑みを見せる。ハルの言葉にアンジェリカは頷く、動きを止めるだけならこれが自身の出せる最適解だと。
そうして二人が周囲に水の触手の攻撃が向かないように叩き落としていると、町民達を浄化し終えたウェルス、テオドール、エルシーが合流してきた。三人がやってきたことにより、イブリース化した町民は無事だと判断したアンジェリカは、防衛から攻撃へと方針を変更した。アンジェリカは水の触手に向けていた武器を一時的に下ろしステップを踏む。大渦海域のタンゴは水の触手全てを巻き込む大渦を生み出した。水の触手は細々にちぎれて細くなっていく。
「やはりこちらのほうが有効のようですね。激流を制するは濁流……一気に勝負を決めましょう!」
アンジェリカは言いながら、追撃と言わんばかりに再度ステップを踏む。細くなった触手は粉々にちぎれ飛び、ぽちゃんと力なく泉に落ちていった。
続いて、今度はエルシーが攻撃を仕掛けた。エルシーは、新たに生み出された水の触手を見据えて数瞬だけ考える。
――コイツはまいったわね。水って拳で殴れないわよね……でも、極めれば流水を斬る事もできるかも!?
エルシーは自身の内側にぐっと気を溜め込むと、しっかりと踏み込んで獅子吼を叩き込んだ。しかし、全力で叩き込んだにも関わらずあまり手応えがない。水の触手はエルシーの拳を包むようにぐにゃりと蠢いた。
「上等よ! この五体こそが武器! かかってらっしゃい!!」
エルシーはぐねぐねと動く水の触手から距離を取ると、今度は体内で気を極限まで練り込み始める。
「くらいなさい!」
エルシーから放たれた回天號砲は、出現した水の触手の根本に打ち込まれてそのまま触手一本を泉から切り離した。
次の瞬間だった。泉は仕返しと言わんばかりに腐敗した水を勢いよく噴き上げた。大粒で落下してくる水は思わず顔をしかめてしまうくらいの腐敗臭を撒き散らしながら大地を目指す。ウェルス、エルシー、アンジェリカは落下位置をしっかりと見極めて水を避けた。しかし、テオドールとハルは直撃してしまう。水のわりに粘度があったらしいそれは二人の体にぬめりと纏わり付く。そこから腐敗が侵食するような感覚にテオドールとハルは思い切り顔を顰めた。地面に落ちた水も大地を侵食するようにじわじわと染み込んでいく。
腐敗していく大地を苦々しく見ながら、ウェルスは早々に片を付けようと愛銃の銃口を水の触手に向ける。そこから放たれたシルバーバレットはもう一本触手を撃ち落とした。
「よし、行けそうだな」
確かな手応えにウェルスは独り言ちた。
彼の弾丸に続いたのはハルだ。ハルは初手からのリズムを崩すことなく刀を構える。彼女は再びジュデッカを放つ。その刃は徐々に数も力も失っていく触手の一つを華麗に切り裂いた。そして、業剣は泉から繋がる触手の動きを一時的に止めた。
「さて、この後はどうするのかしら?」
腐敗に侵食されている様子など一切見せずに美しき所作で刀を構え直したハルは、触手の動きを見逃さないように注視した。
数瞬動きを止めた触手を狙って、テオドールは自身を蝕み始めた毒に抗いながらコーリングコネクトを唱えた。それに応えるように呪は水の触手の内側に入り込んでいく。
「そろそろ浄化できそうだな」
テオドールの言葉通り、深淵まで縛り付ける決して解かれることのない呪いは確実に泉を浄化へと誘っていた。
アンジェリカのステップ、エルシーの気、ウェルスの弾丸、ハルの刃、テオドールの呪。様々な方法で引き裂かれ、撃ち抜かれ、切り裂かれ、呪縛され、徐々に水の触手は力強さを失っていく。
「もう終わらせましょう!」
「はい!」
エルシーの言葉にアンジェリカが頷く。そして、二人は同時に攻撃を放った。素早い動きで放たれたエルシーの回天號砲が水の触手を打ち抜いた瞬間、アンジェリカの大渦海域のタンゴが水の触手全てを巻き込んで渦を巻く。それに絡め取られて水の触手は力なく泉に落ちる。再度、出現した水の触手は次の瞬間にはハルのジュデッカに切り裂かれ、残った触手はテオドールのコキュートスによって凍りついた。
「これで最後かしらね」
「ウェルス、頼むぞ」
「ああ、任された」
四人が創り上げた道にウェルスはしっかりと銃口を向ける。そして泉の全てを打ち砕く浄化滅砲・対悪魔擲弾発射を放った。凍てついた触手に食い込んだ榴弾は、鮮やかに思えるほど美しく凍りついた水の触手を粉々に粉砕した。光を反射しながら落ちていく氷の破片はカラカラと泉に落ちていく。
そして、泉は静寂を取り戻した。
●
先程の喧騒が嘘のように静まり返り清浄を取り戻した泉。
自身の毒をクリアカースで除去したテオドールは、エルシーと一緒に泉から離れた場所でイブリース化していた町民を介抱していた衛生部隊や町民達の元に向かった。
「怪我した者がいれば申し出よ、治療しよう」
「大丈夫ですか? どこか痛むトコロはありますか?」
テオドールとエルシーの呼びかけに町民達は各々返答を返す。彼らの返答を総合すると、全くの無傷というわけにはいかなかったが比較的大きな傷を負ったものは既に衛生部隊の人に治療されており、残っているのは比較的軽傷の人だけとのこと。その傷もテオドールのハーベストレインで瞬く間に治癒した。エルシーはそのまま町民達の元に残り、未だに恐怖や動揺は治まっていない人達に優しく声をかけ続けた。
ウェルスは念のため泉周辺の林を見回っていた。今回の元凶であった泉を浄化したから大丈夫だとは思うが、もしもの可能性を考えてのことだった。しかし、イブリース化した野生動物はおろか、ごくごく普通の野生動物すら見当たらない。もしかしたら、戦闘の音を聞きつけて遠くに去ったのかもしれない。警戒を完全に解くことはできなくともひとまずは大丈夫そうだと、ウェルスは元の場所まで戻っていった。
自身の毒を取り除いたハルは、凪を保っている泉を覗き込みながら僅かに目を細める。彼女の頭の中では泉がイブリース化した原因の考察が始まっていた。
――見たところ、泉自体にイブリース化した原因はなさそうねぇ。だったら近くの林の方かしら?
考えて、ハルは見回りに行ったウェルスとは別の方角の林を軽く見回る。けれど、これといった収穫はなかった。なら一体何が、と考えてながら泉のところまで戻ってくると、同じく何かを考え込んでいる様子のテオドールと目が合う。互いに考えていることがなんとなく分かったのだろう、テオドールはハルに何か見つかったかと問いかけた。ハルはそれに対して肩を竦める。
「残念ながら何も見つからなかったわ。なーんにも無ければ、それに越したことはないけれど」
「ああ。だが、一度清掃した方がいいやもしれんな。何か出てくるかもしれんぞ」
油断はできないと話している二人にアンジェリカが声をかける。
「どうかなさいましたか?」
アンジェリカの問いに二人はそれぞれの考察を述べる。それを聞いたアンジェリカは、確かにあり得ることだと頷いた。
「でしたら、泉の方にも汚染浄化を施しておきますね」
先程まで周囲に撒き散らされた水にも施してきたところなんです、とアンジェリカは言う。
「一時的な気休めかもしれませんが」
「なら、頼もうか」
「そうねぇ、気休めかもしれないけれど」
承ったアンジェリカは早速泉に対して汚染浄化を施す。そして、もうイブリース化しないようにという願いを込めてその場で作成した聖水を泉に混ぜ込んだ。
アンジェリカが泉に術を施している間、テオドールは再度町民達の元に向かった。彼らがこの後どうするのか、具体的には今まで通りに泉を使うのかどうかを確認するためだ。テオドールに聞かれた町民達は、視線を彷徨わせたり不安な表情をしたりとあまりいい反応は見せない。それでも、一部の人達はこの泉から離れることを嫌がった。一通りのことを施し終わったアンジェリカは、その反応を見てキランと目を光らせた。
「では、みなさん。パスタを食べてから決めてみませんか?」
ぽかん。そんな音が聞こえてきそうだ。町民達や衛生部隊の人達のみならず、他の自由騎士達も唖然とした様子でアンジェリカを見る。一同の視線を受けながら、アンジェリカはどこにしまっていたのか分からないパスタセットを用意した。そして、泉の水を使ってテキパキとパスタを準備しだす。半分ほどの人の理解が追いつかない中、あっという間に美味しそうな匂いを漂わせたパスタが完成した。笑顔で振る舞ってくるアンジェリカに一人、また一人とパスタに手を付ける。それは自由騎士達や衛生部隊にとってはとても美味しい、町民にとっては慣れ親しんだパスタの味だった。
「どうですか?」
アンジェリカの問いかけに町民達は軽く頷きながら、互いの意思を確認するように目配せをする。そして、彼らが出した結論は。
――今まで通り、この泉と一緒に町で暮らそうと思います。しかし今回のこともあるので、ここでこれまで通り暮らしながら、少しずつ新しい暮らし方も考えていこうと思います。
泉を浄化して町を去っていく自由騎士達に、町の代表はそう語った。
こうしてイブリース化した泉との戦いはひとまずの終わりを迎えた。けれど、彼らの戦いはまだ終わらない。人と人との戦争はすでに次のステップへと進んでいるのだから。