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難破船のマーマン。或いは、水底を泳ぐもの……。

●難破船のマーマン
嵐の夜の、その翌日。
とある海水浴場に難破船が流れ着く。
おそらく、船が沈んだのは1、2ヵ月ほど前だろう。
船の船底には大穴が空き、そこから海水が流れ込んだのだ。
海面に覗く船首部分からなら、船の内部に侵入することもできるだろうか。
もっとも、船内の大半は海水に満ちているだろうけれど。
難破船の調査のために、海水浴場の管理人は私物の船を発進させた。
破損のひどい難破船。物資や、あるいは乗員の遺体などは嵐の中失われたのだろう。
少なくとも、周囲の海面にそれらしいものは浮かんでいない。
遺体を目にせず済んだという事実に、管理人は思わず安堵の吐息を零した。
けれど、次の瞬間……。
「っ!? な、なんだぁ!?」
ズドン、と管理人の乗る船が激しく揺れた。
船底をハンマーで叩かれたかのような衝撃。
慌てて操舵輪にしがみつき、管理人は海面へと視線を落とした。
果たして、そこには……。
「……っ! こりゃ、なんだ? 何が潜んでやがる?」
船の真下を横切る影。
それはウミヘビのような細い尾と、人の上半身を持つ〝何か〟であった。
ゆっくりと長い尾をうねらせながら、それは海中を泳いでいた。
どうやら難破船の周りを周回しているようである。
「ここは、まさか、あれの縄張り……なのか?」
そんな答えに辿り着き、管理人はゆっくりと船を旋回させた。
これ以上、難破船の近くにいては自分の命が危ういと判断したからだ。
静かに、けれど素早く去っていく船を海中のそれは見つめていた。
青白くうじゃけた肌に、皮膚の削げた顏。
眼球もすでに腐り落ちた、暗い暗い眼差しで。
●海底へ誘う者
「おそらく海中戦を得意とする〝還リビト〟だと思うけど……」
異常なのは、その下半身。
そう告げて『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は表情を曇らせる。
還リビト〝マーマン〟の上半身は、普通の人間のそれである。
半ばほど腐った皮膚。胸から腹部にかけては皮膚さえなく、腐った内臓が覗いているが、それでもその形状は人間のそれと大差ない。
だが、下半身は既に人のそれではなかった。
無数の人間の皮膚を、ひと塊に纏め上げ、長く伸ばしたかのような。
ウミヘビか、あるいはウツボのそれに似た長い下半身……おそらく、下半身だけで十メートルは超えるだろうか。
「海を泳ぐための変異……なのかしら? ほかの乗員の遺体を取り込んで、下半身を形成しているのね」
それほどまでに、彼は生きたかったのだろう。
かつての仲間たちの遺体を取り込んでまで、自由に海を遊泳できる身体を欲したのだろう。
既に己が息絶えているのだと、彼はきっと気付いていない。
そして……。
「還リビトと成り果てて、仲間の遺体を取り込んでなお、船は彼にとって大切なものなのでしょう」
だからこそ、彼は船を守っているのだ。
「船周辺の海中や浸水した船内がマーマンの行動範囲のようね。水面に顔を出すことは滅多にないわ」
ゆえに、マーマンとの戦闘は海中が主となるだろう。
あるいは、船内へ入り込めば水中のマーマンを攻撃できるかもしれない。
もっとも、船内での戦闘行為はその分船体を傷つける。
船内を侵す水量が増えれば、自由騎士たちが行動できる範囲も減ることになる。
「マーマンは海中から水弾を撃ち出したり、錨を振り回したりといった攻撃を行うわ」
水弾には【スロウ】が、錨には【ウィーク】が付与されている。
「海中での戦闘はマーマンの得意とするところ……いかに早く、奴を海上へ引きずり出すが肝かしら?」
なんて、言って。
バーバラは仲間たちを送り出す。
嵐の夜の、その翌日。
とある海水浴場に難破船が流れ着く。
おそらく、船が沈んだのは1、2ヵ月ほど前だろう。
船の船底には大穴が空き、そこから海水が流れ込んだのだ。
海面に覗く船首部分からなら、船の内部に侵入することもできるだろうか。
もっとも、船内の大半は海水に満ちているだろうけれど。
難破船の調査のために、海水浴場の管理人は私物の船を発進させた。
破損のひどい難破船。物資や、あるいは乗員の遺体などは嵐の中失われたのだろう。
少なくとも、周囲の海面にそれらしいものは浮かんでいない。
遺体を目にせず済んだという事実に、管理人は思わず安堵の吐息を零した。
けれど、次の瞬間……。
「っ!? な、なんだぁ!?」
ズドン、と管理人の乗る船が激しく揺れた。
船底をハンマーで叩かれたかのような衝撃。
慌てて操舵輪にしがみつき、管理人は海面へと視線を落とした。
果たして、そこには……。
「……っ! こりゃ、なんだ? 何が潜んでやがる?」
船の真下を横切る影。
それはウミヘビのような細い尾と、人の上半身を持つ〝何か〟であった。
ゆっくりと長い尾をうねらせながら、それは海中を泳いでいた。
どうやら難破船の周りを周回しているようである。
「ここは、まさか、あれの縄張り……なのか?」
そんな答えに辿り着き、管理人はゆっくりと船を旋回させた。
これ以上、難破船の近くにいては自分の命が危ういと判断したからだ。
静かに、けれど素早く去っていく船を海中のそれは見つめていた。
青白くうじゃけた肌に、皮膚の削げた顏。
眼球もすでに腐り落ちた、暗い暗い眼差しで。
●海底へ誘う者
「おそらく海中戦を得意とする〝還リビト〟だと思うけど……」
異常なのは、その下半身。
そう告げて『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)は表情を曇らせる。
還リビト〝マーマン〟の上半身は、普通の人間のそれである。
半ばほど腐った皮膚。胸から腹部にかけては皮膚さえなく、腐った内臓が覗いているが、それでもその形状は人間のそれと大差ない。
だが、下半身は既に人のそれではなかった。
無数の人間の皮膚を、ひと塊に纏め上げ、長く伸ばしたかのような。
ウミヘビか、あるいはウツボのそれに似た長い下半身……おそらく、下半身だけで十メートルは超えるだろうか。
「海を泳ぐための変異……なのかしら? ほかの乗員の遺体を取り込んで、下半身を形成しているのね」
それほどまでに、彼は生きたかったのだろう。
かつての仲間たちの遺体を取り込んでまで、自由に海を遊泳できる身体を欲したのだろう。
既に己が息絶えているのだと、彼はきっと気付いていない。
そして……。
「還リビトと成り果てて、仲間の遺体を取り込んでなお、船は彼にとって大切なものなのでしょう」
だからこそ、彼は船を守っているのだ。
「船周辺の海中や浸水した船内がマーマンの行動範囲のようね。水面に顔を出すことは滅多にないわ」
ゆえに、マーマンとの戦闘は海中が主となるだろう。
あるいは、船内へ入り込めば水中のマーマンを攻撃できるかもしれない。
もっとも、船内での戦闘行為はその分船体を傷つける。
船内を侵す水量が増えれば、自由騎士たちが行動できる範囲も減ることになる。
「マーマンは海中から水弾を撃ち出したり、錨を振り回したりといった攻撃を行うわ」
水弾には【スロウ】が、錨には【ウィーク】が付与されている。
「海中での戦闘はマーマンの得意とするところ……いかに早く、奴を海上へ引きずり出すが肝かしら?」
なんて、言って。
バーバラは仲間たちを送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビト、マーマンの撃破
●ターゲット
マーマン(還リビト)×1
難破船の乗員が還リビトと化した存在。
腐りかけの上半身と、死体を束ねて形成した尾のような下半身が特徴。
下半身を含めれば全長10メートルを超える非常に長い体躯を誇る。
難破船の周囲や、船内の浸水箇所を巡回するように移動する。
・水弾[攻撃] A:魔遠貫【スロウ2】
水の弾丸を撃ちだす攻撃。
・撃錨[攻撃] A:物遠範【ウィーク1】
錨を振り回し対象を薙ぎ払う。
●場所
海水浴場沖に流れ着いた難破船とその周辺。
船首部分が海面に突き出している。
船首から船内へと侵入することも可能。
船内には浸水していない部分も多く、そこなら自由騎士たちも問題なく行動できる。
ただし、船内での戦闘行為を繰り返すほどに浸水箇所が増えていく。
また、現場の海上までは管理人の船を借りることができる。
マーマン(還リビト)×1
難破船の乗員が還リビトと化した存在。
腐りかけの上半身と、死体を束ねて形成した尾のような下半身が特徴。
下半身を含めれば全長10メートルを超える非常に長い体躯を誇る。
難破船の周囲や、船内の浸水箇所を巡回するように移動する。
・水弾[攻撃] A:魔遠貫【スロウ2】
水の弾丸を撃ちだす攻撃。
・撃錨[攻撃] A:物遠範【ウィーク1】
錨を振り回し対象を薙ぎ払う。
●場所
海水浴場沖に流れ着いた難破船とその周辺。
船首部分が海面に突き出している。
船首から船内へと侵入することも可能。
船内には浸水していない部分も多く、そこなら自由騎士たちも問題なく行動できる。
ただし、船内での戦闘行為を繰り返すほどに浸水箇所が増えていく。
また、現場の海上までは管理人の船を借りることができる。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年07月14日
2020年07月14日
†メイン参加者 4人†
●
とある海水浴場沖、船首を海面に突き出した難破船が漂着していた。
難破船が沈んだのは、およそひと月かふた月ほど前。船底には穴が空き、物資のほとんどは既にどこかへ消えている。
物資だけでなく、船員たちの遺体さえも見当たらない。もっとも、沈没した時期を考えれば、たとえ残っていたところで既に腐敗し尽くし、目も当てられぬ有様だろうが。
否……。
「航海の途中で命を落とした方がイブリース化したのですね」
船の船首に立つ影は4つ。
白い翼を広げた『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)が、海面を覗き込みながら、そんなことを呟いた。
船の周囲、海中を泳ぐ長い影。ウツボかウミヘビのように長い下半身をくねらせ泳ぐ何者か……それは、かつてこの船の船員を務め、今は還リビトと化した哀れな遺体、難破船を守護する〝マーマン〟と呼ばれる怪異である。
人のそれをはるかに超える長い下半身。それは、いくつもの遺体を繋ぎ合わせて出来ていた。
「水中は奴の土俵だからな! なんとかして奴を水中から引っ張り上げたい所だよな!」
持参したロープを結び合わせながら、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はそう告げる。
ぎゅう、と結び目の固さを確認し、ジーニーは結んだロープを『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)へと手渡した。
ロープを受け取ったエルシーは、一つ頷くと視線を『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)へと向ける。
「海中でマーマンとやり合うのは不利よね。漢を見せる時よ、オルパさん!」
「マーマンと海中で戦うのは避けたい……わかる。危険な役目を女子にさせるわけにはいかない……これもわかる」
船首に空いた穴の縁、腰に結びつけられたロープを片手で弄びながら、オルパは眉間に皺を寄せた。
苦々し気に表情を歪め、わざとらしいため息を一つ。
そんなジーニーに、エルシー、ジーニー、レオンティーナの視線が集中している。
やれやれと、銀の髪を掻き揚げて……。
「そうか……俺がマーマンの釣り餌になるのは仕方がない流れなのか」
仕方がないな、とあきらめたようにそう呟いて。
オルパは船首から、船の内部へ跳び込んだ。
●
ジメジメとした湿気、強い潮水の香り。
薄暗い船内の一部には、まだ空気が残っており海水の侵食を阻んでいた。とはいえ、その大半は海水に浸かっており、加えて言うなら船体に空いた穴の向こうにはコバルトブルーの海が広がっている。
船体に空いた穴の向こう。長い影が横切った。
マーマンだ。彼は自由騎士たちの侵入を察知したのだろう。船体に空いた穴の付近を、警戒するように周回している。
「作戦には全力を尽くすが、失敗しても責めるなよ?」
仲間たちへ指を突きつけ、オルパは念を押すようにそう告げた。
「大丈夫、オルパさんならできるわ。私、信じています」
「がんばって! 応援していますわ」
エルシーとレオンティーナが、オルパへ向けて声援を送る。
「あぁ、もう……それじゃ、作戦開始といくぜ」
肺一杯に空気を吸い込み、オルパは海へと飛び込んだ。
着水と同時に、視界を黒い影が横切る。
それは、マーマンの尾であった。
(長いな……全長10メートル以上って、相当だぞ? パワー負けしないだろうな?)
腰のダガーに手をかけて、オルパは眉間に皺を寄せた。
歪んだ視界のその先で、オルパへ迫る青白い影。肌のうじゃけた男の顔には、既に唇や眼球は存在していない。
腐り落ちたか、あるいは魚や蟹に喰われたのだろう。
マーマンの手には、1本の鎖。その先には錨が繋がっている。
長い尾で螺旋を描きながら、マーマンは鎖を操った。海水の中、振り回された錨がオルパへ襲い掛かる。
咄嗟に短刀でそれを防ぐが、海中では本来の速度が出せない。
錨がオルパの胴を打ち据え、肺の中の空気を吐き出す。
(が……はっ!?)
オルパに生じた一瞬の隙。マーマンは、彼の視界から姿を消した。
(下か……このっ!)
海水の流れを追って、オルパはマーマンの位置を追う。視線を真下へ向けた瞬間、オルパの顎に強い衝撃。矯正的にオルパの顔が上へ向く。
衝撃の正体は、マーマンの放った水弾だ。
オルパの視線が切れた瞬間、マーマンは一気に急浮上。オルパの首へ、錨の鎖を巻き付けた。
暗く染まる視界の中で、オルパはマーマンの胴を掴む。
手のひらに感じるじゅくじゅくとした感触。指の先が、腐敗した皮膚に突き刺さる。
(いまだ! 俺の息が続くうちに引っ張り上げてくれぇ!)
瞬間、オルパは脳裏でそう告げる。
オルパの合図を受け取ったのは【テレパス 急】を行使していたジーニーだった。
「来たっ! 一気にマーマンを引っ張り上げるぜ!」
「えぇ、行くわよ! マーマン釣り!」
ジーニーとエルシーは、ロープを握る手に力を込める。
呼吸とタイミングを合わせ、2人は同時にロープを引いた。
ぴぃん、とロープは突っ張って、重たい感触が2人の手に伝う。
(う……ぅぇっ!)
ジーニーの脳裏に、オルパの呻き声が響いた。
「ぐぅ、なかなか重たいわね」
「だが、パワー勝負なら負けないぜ! うおおぉぉぉーーーっ!!」
気合一声。
エルシーとジーニーは腰を落とすと呼吸を止めた。
2人の腕に血管が浮き、両腕の筋肉が盛り上がる。
一瞬の硬直。
そして……
「う……ぉぉぉおお!?」
オルパの悲鳴と共に、マーマンの巨体が甲板目掛けて投げ出された。
一度は甲板に上がったものの、オルパは再び船首の穴から船内へと転がり落ちた。
無酸素状態が長く続いたせいか、オルパの顔色は蒼白だ。
「ここは私が受け持ちますわ!」
翼を広げ、レオンティーナはオルパの元へと飛び寄った。よろしく、と一言告げてエルシー、そしてジーニーは急ぎ甲板へと上がる。
そんな二人を見送って、レオンティーナは翼を広げ胸の前で手を組んだ。
展開される魔法陣。溢れ出す淡い燐光は、回復術の輝きだ。
「オルパさんが不在のままだと戦線が維持できませんわ……頑張ってくださいまし!」
囁くようにそう告げて、彼女は静かに祈り続ける。
溢れ出した燐光は、はらはらとオルパの体に降り注いだ。
その身に負った傷を癒し、失われた体力を回復させる。
「……う、げほっ」
血混じりの海水を吐き出して、オルパはゆっくりと身を起こした。
蒼白だった肌にも、わずかに血の色が戻る。
そんなオルパに手を差し伸べて、レオンティーナは微笑んだ。
「さぁ、参りましょう」
そう呟いた彼女の頭上で、船首の一部が轟音と共に砕け散る。
ぎょっ、と目を見開いたレオンティーナは視線を頭上へ。
振り回される錆びた錨と、それにしがみつくジーニーの姿が視界に映った。
「え、えぇ……?」
一体何が起きているのか。
ただ唯一言えることがあるとするならば、甲板上での戦闘は未だ激化の一途を辿っているのだろう。
ジーニーの斧が空を割る。
エルシーの拳が水弾を砕いた。
甲板上でとぐろを巻いて、錨を構えるマーマンは、海中へと撤退すべく視線を左右へ彷徨わせていた。
眼球など、すでに失われて久しいというのに、その暗い眼窩に一体何が映っているのか。
けれど、ジーニーとエルシーとて歴戦の戦士に違いないのだ。
敵の狙いを看破し、その妨害を行うための最適解を2人は即座に導き出した。
つまりそれは、間髪入れぬ連続攻撃。
ジーニーの斧が振り下ろされたその直後、反対からはエルシーの突きが放たれる。
錨や尾を用いて、マーマンはそれらを捌いているが、じわじわと海とは逆……甲板の中央へと押しやられていく。
「っし! 逃がしゃしねぇぜ!」
エルシーの拳が、マーマンの顎を打ったその瞬間。
一瞬の隙を突いたジーニーは、マーマンの尾へと斧の後端、ハンマー部分を叩きつけた。
甲板が揺れるほどの衝撃。
木っ端が散って、甲板に大きな穴があく。
「っと、ここじゃまずいな」
と、そう呟いてジーニーは再度斧を頭上へ振り上げた。
二度目の衝撃。
ジーニーの降ったハンマーは、マーマンの尾を船室の壁に縫い付ける。
「ナイスアイディアね!」
尾を縫い止められたことで、マーマンの動きが僅かに鈍る。
その隙を突いて、エルシーはマーマンの懐へと迫る。
「ぁぁぁっぁあああああああああああああああああああああ!」
咆哮と共に放たれた拳が、マーマンの胸部を強く打つ。
マーマンの身体が浮くが、甲板に尾を固定されているせいで一定の距離以上後方へと跳ぶことはない。
マーマンは強く歯を食いしめると、ジーニー目掛けて腕を振る。
その手には1本の鎖。
先端に繋がれた錆びた錨が、ジーニーの横腹を打ち据えた。
「う、げほっ……!?」
ジーニーの身体が宙へ浮く。衝撃で、その手から斧を取り落とす。
ガラン、と甲板に転がる戦斧。
振り回される錨とともに、ジーニーの身体が宙へと舞った。
ジーニーを救出すべく、エルシーはマーマンの顔面目掛けて拳を打ち込む。
けれどマーマンは、開放された尾をくねらせて素早く後退。錨を振り回しながら、エルシーの拳を回避した。
「くっ……このっ!」
進路を塞ぐ尾を殴りつけ、エルシーは甲板を蹴って跳びあがる。
一瞬で、マーマンとの距離を詰めたエルシーだったが……。
「うわぁぁああ!!」
大きく身体をのけぞらせたマーマンは、錨を甲板へと叩きつけた。
轟音と共に甲板に大きな穴が空く。
否、甲板だけでなく船体にも深い亀裂が走った。海水が船内へと侵入し、船はゆっくりと沈んでいく。
木っ端に埋もれたジーニーは、苦し気な呻き声をあげていた。
●
鋭い拳打は嵐のごとく、マーマンの尾を打ち据える。
マーマンは尾をくねらせながら、その身を上空へと持ち上げた。
甲板を蹴って跳べば、マーマンの上体へ至れるだろうか。けれど、その一瞬の隙をマーマンが見逃すとは思えない。
身動きの取れない空中で、水弾や錨の一撃を受けるのは避けたいところだ。そう判断し、エルシーは一瞬、動きを止めた。
その瞬間。
視覚外から放たれた、尾による殴打がその側頭部を打ちのめす。
エルシーの姿勢が崩れた瞬間、マーマンは尾を巧みに操り高く宙へと身を躍らせた。
そのまま海へと飛び込むつもりだ。
けれど、しかし……船内から飛ぶ白い影が、マーマンの頭上へと迫る。
その手には弓。
陽光を反射する鋭い矢じり。
「戦乙女の矢、受けてみなさい!」
頭上から放たれる1本の矢が、マーマンの肩を貫いた。
レオンティーナは、さらに追加の矢を番えマーマンへ向けて狙いを定める。
矢に付与された加護により、マーマンは一時的な眠りに落ちているようだ。力なく身体を投げ出したまま、マーマンは海へと落ちていく。
「また海に逃げられては厄介だ。いや、美しいお嬢さん方のお役に立てるのであれば、俺は喜んでやるさ。たとえ火の中水の中。今回は本当に海中なわけだがな……」
落下するマーマンへ向け、オルパは2本のダガーを振るう。
放たれるは魔力の矢。
うち1本はマーマンの背へ、もう1本は激しくうねる尾の中ほどに突き刺さる。
ぶち、と鈍い音を立てマーマンの尾が途中で切れた。
甲板に飛び散る腐肉の欠片。ひどい臭いが周囲に満ちた。
「うぁ……ひどい臭いですわ」
眉間に皺を寄せながら、レオンティーナは矢を射った。
その矢はマーマンの腹部を貫き……その衝撃で、マーマンは意識を取り戻す。
短くなった尾をくねらせて、マーマンは空中で姿勢を調整。
頭から、海中へと飛び込んでいく。
その身が水面へ消える刹那、マーマンは手に持った鎖を放った。
「え……きゃっ!」
マーマンを追って甲板の縁に足を乗せたエルシーに、鎖が固く絡みつく。バランスを崩したエルシーは、そのまま甲板に転がった。
立ち上がったジーニーは、顏を濡らす血を拭って甲板の縁へ駆け寄った。
一瞬、その視線は甲板に転がる戦斧へと向けられる。
「あぁ、もう。私の武器重いからなぁ。海の中で振り回せないし……そもそも、沈んじゃうよねコレ」
仕方ないか、とそう呟いて、ジーニーは海へと飛び込んだ。
その背に向けてオルパは【スクリプチャー】を行使する。オルパによる強化を受けたジーニーは、獣のような笑みを浮かべて「後は任せろ」とそう告げた。
「後で難破船の中を探してみようと思ってたのに……」
「難破船のお宝ですか。探す時間はなさそうですわ」
エルシーに巻き付く鎖を外しながら、レオンティーナは困ったような顔をする。
一瞬、2人の視線がオルパへ向くが……。
「それは任務外だからな……」
そう断って、腰に巻き付くロープをほどいて投げ捨てた。
一方、海中ではマーマンとジーニーが最後の戦いを繰り広げていた。
激しく振り回される拳が、マーマンの頬を打ちぬいた。【バーサーク】のスキルにより強化された膂力を持って、ジーニーはマーマンを追い詰めていく。
マーマンの放った水弾が、ジーニーの腹部を撃ち抜いた。
肺の中の空気を吐き出し、ジーニーは苦悶の表情を浮かべた。
けれど、ジーニーの瞳にはいまだに強い戦意が灯る。
握りしめた両の拳は、まるで斧を握るかのよう……。
身体を捻り……そして。
「とっておきだぜ! スーパー! トルネェェエドォ! アターック!!」
マーマンの胴へ目掛けて、その両拳を打ち付けた。
激しく渦を巻く海流が、マーマンとジーニーの身体を海上へと弾き飛ばした。
水飛沫と共に宙を舞う2人。
ジーニーは、弱々しくも笑みを浮かべ……。
「これで終わりだ」
マーマンの喉を、2本の矢が貫いた。
それはオルパとレオンティーナの放った矢だ。
落下するジーニーの身体を抱きとめて、エルシーは視線をマーマンへ。
腐った身体を崩壊させながら、マーマンは海へと沈んでいった。
とある海水浴場沖、船首を海面に突き出した難破船が漂着していた。
難破船が沈んだのは、およそひと月かふた月ほど前。船底には穴が空き、物資のほとんどは既にどこかへ消えている。
物資だけでなく、船員たちの遺体さえも見当たらない。もっとも、沈没した時期を考えれば、たとえ残っていたところで既に腐敗し尽くし、目も当てられぬ有様だろうが。
否……。
「航海の途中で命を落とした方がイブリース化したのですね」
船の船首に立つ影は4つ。
白い翼を広げた『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)が、海面を覗き込みながら、そんなことを呟いた。
船の周囲、海中を泳ぐ長い影。ウツボかウミヘビのように長い下半身をくねらせ泳ぐ何者か……それは、かつてこの船の船員を務め、今は還リビトと化した哀れな遺体、難破船を守護する〝マーマン〟と呼ばれる怪異である。
人のそれをはるかに超える長い下半身。それは、いくつもの遺体を繋ぎ合わせて出来ていた。
「水中は奴の土俵だからな! なんとかして奴を水中から引っ張り上げたい所だよな!」
持参したロープを結び合わせながら、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はそう告げる。
ぎゅう、と結び目の固さを確認し、ジーニーは結んだロープを『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)へと手渡した。
ロープを受け取ったエルシーは、一つ頷くと視線を『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)へと向ける。
「海中でマーマンとやり合うのは不利よね。漢を見せる時よ、オルパさん!」
「マーマンと海中で戦うのは避けたい……わかる。危険な役目を女子にさせるわけにはいかない……これもわかる」
船首に空いた穴の縁、腰に結びつけられたロープを片手で弄びながら、オルパは眉間に皺を寄せた。
苦々し気に表情を歪め、わざとらしいため息を一つ。
そんなジーニーに、エルシー、ジーニー、レオンティーナの視線が集中している。
やれやれと、銀の髪を掻き揚げて……。
「そうか……俺がマーマンの釣り餌になるのは仕方がない流れなのか」
仕方がないな、とあきらめたようにそう呟いて。
オルパは船首から、船の内部へ跳び込んだ。
●
ジメジメとした湿気、強い潮水の香り。
薄暗い船内の一部には、まだ空気が残っており海水の侵食を阻んでいた。とはいえ、その大半は海水に浸かっており、加えて言うなら船体に空いた穴の向こうにはコバルトブルーの海が広がっている。
船体に空いた穴の向こう。長い影が横切った。
マーマンだ。彼は自由騎士たちの侵入を察知したのだろう。船体に空いた穴の付近を、警戒するように周回している。
「作戦には全力を尽くすが、失敗しても責めるなよ?」
仲間たちへ指を突きつけ、オルパは念を押すようにそう告げた。
「大丈夫、オルパさんならできるわ。私、信じています」
「がんばって! 応援していますわ」
エルシーとレオンティーナが、オルパへ向けて声援を送る。
「あぁ、もう……それじゃ、作戦開始といくぜ」
肺一杯に空気を吸い込み、オルパは海へと飛び込んだ。
着水と同時に、視界を黒い影が横切る。
それは、マーマンの尾であった。
(長いな……全長10メートル以上って、相当だぞ? パワー負けしないだろうな?)
腰のダガーに手をかけて、オルパは眉間に皺を寄せた。
歪んだ視界のその先で、オルパへ迫る青白い影。肌のうじゃけた男の顔には、既に唇や眼球は存在していない。
腐り落ちたか、あるいは魚や蟹に喰われたのだろう。
マーマンの手には、1本の鎖。その先には錨が繋がっている。
長い尾で螺旋を描きながら、マーマンは鎖を操った。海水の中、振り回された錨がオルパへ襲い掛かる。
咄嗟に短刀でそれを防ぐが、海中では本来の速度が出せない。
錨がオルパの胴を打ち据え、肺の中の空気を吐き出す。
(が……はっ!?)
オルパに生じた一瞬の隙。マーマンは、彼の視界から姿を消した。
(下か……このっ!)
海水の流れを追って、オルパはマーマンの位置を追う。視線を真下へ向けた瞬間、オルパの顎に強い衝撃。矯正的にオルパの顔が上へ向く。
衝撃の正体は、マーマンの放った水弾だ。
オルパの視線が切れた瞬間、マーマンは一気に急浮上。オルパの首へ、錨の鎖を巻き付けた。
暗く染まる視界の中で、オルパはマーマンの胴を掴む。
手のひらに感じるじゅくじゅくとした感触。指の先が、腐敗した皮膚に突き刺さる。
(いまだ! 俺の息が続くうちに引っ張り上げてくれぇ!)
瞬間、オルパは脳裏でそう告げる。
オルパの合図を受け取ったのは【テレパス 急】を行使していたジーニーだった。
「来たっ! 一気にマーマンを引っ張り上げるぜ!」
「えぇ、行くわよ! マーマン釣り!」
ジーニーとエルシーは、ロープを握る手に力を込める。
呼吸とタイミングを合わせ、2人は同時にロープを引いた。
ぴぃん、とロープは突っ張って、重たい感触が2人の手に伝う。
(う……ぅぇっ!)
ジーニーの脳裏に、オルパの呻き声が響いた。
「ぐぅ、なかなか重たいわね」
「だが、パワー勝負なら負けないぜ! うおおぉぉぉーーーっ!!」
気合一声。
エルシーとジーニーは腰を落とすと呼吸を止めた。
2人の腕に血管が浮き、両腕の筋肉が盛り上がる。
一瞬の硬直。
そして……
「う……ぉぉぉおお!?」
オルパの悲鳴と共に、マーマンの巨体が甲板目掛けて投げ出された。
一度は甲板に上がったものの、オルパは再び船首の穴から船内へと転がり落ちた。
無酸素状態が長く続いたせいか、オルパの顔色は蒼白だ。
「ここは私が受け持ちますわ!」
翼を広げ、レオンティーナはオルパの元へと飛び寄った。よろしく、と一言告げてエルシー、そしてジーニーは急ぎ甲板へと上がる。
そんな二人を見送って、レオンティーナは翼を広げ胸の前で手を組んだ。
展開される魔法陣。溢れ出す淡い燐光は、回復術の輝きだ。
「オルパさんが不在のままだと戦線が維持できませんわ……頑張ってくださいまし!」
囁くようにそう告げて、彼女は静かに祈り続ける。
溢れ出した燐光は、はらはらとオルパの体に降り注いだ。
その身に負った傷を癒し、失われた体力を回復させる。
「……う、げほっ」
血混じりの海水を吐き出して、オルパはゆっくりと身を起こした。
蒼白だった肌にも、わずかに血の色が戻る。
そんなオルパに手を差し伸べて、レオンティーナは微笑んだ。
「さぁ、参りましょう」
そう呟いた彼女の頭上で、船首の一部が轟音と共に砕け散る。
ぎょっ、と目を見開いたレオンティーナは視線を頭上へ。
振り回される錆びた錨と、それにしがみつくジーニーの姿が視界に映った。
「え、えぇ……?」
一体何が起きているのか。
ただ唯一言えることがあるとするならば、甲板上での戦闘は未だ激化の一途を辿っているのだろう。
ジーニーの斧が空を割る。
エルシーの拳が水弾を砕いた。
甲板上でとぐろを巻いて、錨を構えるマーマンは、海中へと撤退すべく視線を左右へ彷徨わせていた。
眼球など、すでに失われて久しいというのに、その暗い眼窩に一体何が映っているのか。
けれど、ジーニーとエルシーとて歴戦の戦士に違いないのだ。
敵の狙いを看破し、その妨害を行うための最適解を2人は即座に導き出した。
つまりそれは、間髪入れぬ連続攻撃。
ジーニーの斧が振り下ろされたその直後、反対からはエルシーの突きが放たれる。
錨や尾を用いて、マーマンはそれらを捌いているが、じわじわと海とは逆……甲板の中央へと押しやられていく。
「っし! 逃がしゃしねぇぜ!」
エルシーの拳が、マーマンの顎を打ったその瞬間。
一瞬の隙を突いたジーニーは、マーマンの尾へと斧の後端、ハンマー部分を叩きつけた。
甲板が揺れるほどの衝撃。
木っ端が散って、甲板に大きな穴があく。
「っと、ここじゃまずいな」
と、そう呟いてジーニーは再度斧を頭上へ振り上げた。
二度目の衝撃。
ジーニーの降ったハンマーは、マーマンの尾を船室の壁に縫い付ける。
「ナイスアイディアね!」
尾を縫い止められたことで、マーマンの動きが僅かに鈍る。
その隙を突いて、エルシーはマーマンの懐へと迫る。
「ぁぁぁっぁあああああああああああああああああああああ!」
咆哮と共に放たれた拳が、マーマンの胸部を強く打つ。
マーマンの身体が浮くが、甲板に尾を固定されているせいで一定の距離以上後方へと跳ぶことはない。
マーマンは強く歯を食いしめると、ジーニー目掛けて腕を振る。
その手には1本の鎖。
先端に繋がれた錆びた錨が、ジーニーの横腹を打ち据えた。
「う、げほっ……!?」
ジーニーの身体が宙へ浮く。衝撃で、その手から斧を取り落とす。
ガラン、と甲板に転がる戦斧。
振り回される錨とともに、ジーニーの身体が宙へと舞った。
ジーニーを救出すべく、エルシーはマーマンの顔面目掛けて拳を打ち込む。
けれどマーマンは、開放された尾をくねらせて素早く後退。錨を振り回しながら、エルシーの拳を回避した。
「くっ……このっ!」
進路を塞ぐ尾を殴りつけ、エルシーは甲板を蹴って跳びあがる。
一瞬で、マーマンとの距離を詰めたエルシーだったが……。
「うわぁぁああ!!」
大きく身体をのけぞらせたマーマンは、錨を甲板へと叩きつけた。
轟音と共に甲板に大きな穴が空く。
否、甲板だけでなく船体にも深い亀裂が走った。海水が船内へと侵入し、船はゆっくりと沈んでいく。
木っ端に埋もれたジーニーは、苦し気な呻き声をあげていた。
●
鋭い拳打は嵐のごとく、マーマンの尾を打ち据える。
マーマンは尾をくねらせながら、その身を上空へと持ち上げた。
甲板を蹴って跳べば、マーマンの上体へ至れるだろうか。けれど、その一瞬の隙をマーマンが見逃すとは思えない。
身動きの取れない空中で、水弾や錨の一撃を受けるのは避けたいところだ。そう判断し、エルシーは一瞬、動きを止めた。
その瞬間。
視覚外から放たれた、尾による殴打がその側頭部を打ちのめす。
エルシーの姿勢が崩れた瞬間、マーマンは尾を巧みに操り高く宙へと身を躍らせた。
そのまま海へと飛び込むつもりだ。
けれど、しかし……船内から飛ぶ白い影が、マーマンの頭上へと迫る。
その手には弓。
陽光を反射する鋭い矢じり。
「戦乙女の矢、受けてみなさい!」
頭上から放たれる1本の矢が、マーマンの肩を貫いた。
レオンティーナは、さらに追加の矢を番えマーマンへ向けて狙いを定める。
矢に付与された加護により、マーマンは一時的な眠りに落ちているようだ。力なく身体を投げ出したまま、マーマンは海へと落ちていく。
「また海に逃げられては厄介だ。いや、美しいお嬢さん方のお役に立てるのであれば、俺は喜んでやるさ。たとえ火の中水の中。今回は本当に海中なわけだがな……」
落下するマーマンへ向け、オルパは2本のダガーを振るう。
放たれるは魔力の矢。
うち1本はマーマンの背へ、もう1本は激しくうねる尾の中ほどに突き刺さる。
ぶち、と鈍い音を立てマーマンの尾が途中で切れた。
甲板に飛び散る腐肉の欠片。ひどい臭いが周囲に満ちた。
「うぁ……ひどい臭いですわ」
眉間に皺を寄せながら、レオンティーナは矢を射った。
その矢はマーマンの腹部を貫き……その衝撃で、マーマンは意識を取り戻す。
短くなった尾をくねらせて、マーマンは空中で姿勢を調整。
頭から、海中へと飛び込んでいく。
その身が水面へ消える刹那、マーマンは手に持った鎖を放った。
「え……きゃっ!」
マーマンを追って甲板の縁に足を乗せたエルシーに、鎖が固く絡みつく。バランスを崩したエルシーは、そのまま甲板に転がった。
立ち上がったジーニーは、顏を濡らす血を拭って甲板の縁へ駆け寄った。
一瞬、その視線は甲板に転がる戦斧へと向けられる。
「あぁ、もう。私の武器重いからなぁ。海の中で振り回せないし……そもそも、沈んじゃうよねコレ」
仕方ないか、とそう呟いて、ジーニーは海へと飛び込んだ。
その背に向けてオルパは【スクリプチャー】を行使する。オルパによる強化を受けたジーニーは、獣のような笑みを浮かべて「後は任せろ」とそう告げた。
「後で難破船の中を探してみようと思ってたのに……」
「難破船のお宝ですか。探す時間はなさそうですわ」
エルシーに巻き付く鎖を外しながら、レオンティーナは困ったような顔をする。
一瞬、2人の視線がオルパへ向くが……。
「それは任務外だからな……」
そう断って、腰に巻き付くロープをほどいて投げ捨てた。
一方、海中ではマーマンとジーニーが最後の戦いを繰り広げていた。
激しく振り回される拳が、マーマンの頬を打ちぬいた。【バーサーク】のスキルにより強化された膂力を持って、ジーニーはマーマンを追い詰めていく。
マーマンの放った水弾が、ジーニーの腹部を撃ち抜いた。
肺の中の空気を吐き出し、ジーニーは苦悶の表情を浮かべた。
けれど、ジーニーの瞳にはいまだに強い戦意が灯る。
握りしめた両の拳は、まるで斧を握るかのよう……。
身体を捻り……そして。
「とっておきだぜ! スーパー! トルネェェエドォ! アターック!!」
マーマンの胴へ目掛けて、その両拳を打ち付けた。
激しく渦を巻く海流が、マーマンとジーニーの身体を海上へと弾き飛ばした。
水飛沫と共に宙を舞う2人。
ジーニーは、弱々しくも笑みを浮かべ……。
「これで終わりだ」
マーマンの喉を、2本の矢が貫いた。
それはオルパとレオンティーナの放った矢だ。
落下するジーニーの身体を抱きとめて、エルシーは視線をマーマンへ。
腐った身体を崩壊させながら、マーマンは海へと沈んでいった。