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【北方迎撃戦】夜闇に紛れて、側面からぶん殴れ!

●
「邪神の徒めが」
北の海からやってきたミトラースの信徒の視界に、森の木々より笠一つ分突き出た塔。
キノコを採る者のために作ったらしい。
「奢り、浮かれ、浪費し、閉じこもる者共め。よくも、よくも、偉大なる神に献身する我らが同胞を」
魔女狩りたちは、感極まってすすり泣く準神民に神妙な顔をしつつ辟易している。
その同胞に、魔女狩りは含まれていない。確実に。
「神のための戦いに命を献じることができるのは幸いである。同胞に続くことが許されたのは幸いである。我らは邪神の徒をことごとく滅ぼし、遍く我らが神の威光を世界の隅々にまでいきわたらせねばならない」
神の威光を説く者。そこに関しては全く異論はない。
「祝福されし神の戦士たちよ。私がいる限り、諸君らは神へ最大限の献身ができると約束しよう」
魔女狩りは舌打ちしつつ頭を垂れた。
神ならまだしも、お前なんぞにいいようにされるのはまっぴらだ。
●
「由々しき事態ですわ、皆様」
プラロークであるマリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)は、強く強くハンカチを握りしめている。
「シャンバラがイ・ラプセル打倒を旗印に船団を出したのを駐留していた自由騎士が発見。水鏡が北の森に設営された新たな「聖霊門」を予知いたしました。第二波がやってまいりますわ。まだ起こっていない悲劇は回避しなくては」
マリオーネの目がオラクルに注がれる。
「国王陛下より、魔女狩りを迎撃せよとのご命令です。皆様方のたゆまぬ尽力がご武運を引き寄せることを祈ります」
「皆様。『キノコタワー』は、遭難した方々が目印にして森から出るために作られたものですわ。シャンバラの手合いは冒涜的と思ったようですわね。かわいいのに」
先日「巨大キノコ出現?」などと新設された『キノコタワー』が新聞をお騒がせしたばかりだ。
そもそも物見の塔がいるといったのはマリオーネではなかったか。まあ、形状をキノコにしろとは言っていなかったが。
「現在、国防騎士団北部駐屯部隊が『たまたまあった』キノコ小屋を『一時的に徴収し』、迎撃準備をしておりますの。『獣対策』として物資を運びこまれたばかりでようございました」
プラロークは、キノコタワーを無視できない一派がいる。と、言う。
「今回、皆様方には夜闇に紛れてキノコタワーの駐留部隊を襲う侵入者部隊の側面を攻撃。駐留部隊への助太刀ですわね。敵戦線を分断し、戦闘不能にしていただきます」
言い回しが微妙だ。生かすも殺すも現場の判断と言うわけだ。我らがアクアディーネは慈悲深い。
「かの地の聖職者のバトルスタイルの情報が断片的ですが入ってきています。『ネクロマンサー』と言うそうですわ。戦闘に傷つき戦えなくなった仲間を戦わせますの。操り人形のようですわね。スキルを使わせた例は確認されていません。死体は操れないようですので――」
マリオーネの表情は険しい。選択は部隊に任される。
「先方の気質が知れますけれど、魔抗力を強化し、通常攻撃はすべて範囲攻撃です。敵味方の別なくですわ」
肉を切らせて骨を切るというよりは、味方の肉も切りつつ進むというお国柄らしい。
「さらに、敵の足を引っ張る能力が報告されています。呪文に限らず、大技を使うときはそれなりの連携をお勧めしますわ。それ以外に隠し玉があると考えてしかるべきでしょう。何を逆手に取られてもひっくり返せるよう準備してくださいな」
これは能力の話ではないですけれど。と、プラロークはくぎを刺す。
「シャンバラから来る侵入者は狂信者の集まりです。それぞれ立場上の格差はあるようですが、神への狂信は共通しています。彼らを信仰の同胞と連帯させることのないよう。わざわざ奮起させることはありませんわ」
そうですわね。と、マリオーネは、んっんっと咳払いした。
「ミトラースの根性悪! ――などと口に出さないでくださいましね。言いたくなったら、アクアディーネ様のご尊顔を思い出して下さいませ」
「邪神の徒めが」
北の海からやってきたミトラースの信徒の視界に、森の木々より笠一つ分突き出た塔。
キノコを採る者のために作ったらしい。
「奢り、浮かれ、浪費し、閉じこもる者共め。よくも、よくも、偉大なる神に献身する我らが同胞を」
魔女狩りたちは、感極まってすすり泣く準神民に神妙な顔をしつつ辟易している。
その同胞に、魔女狩りは含まれていない。確実に。
「神のための戦いに命を献じることができるのは幸いである。同胞に続くことが許されたのは幸いである。我らは邪神の徒をことごとく滅ぼし、遍く我らが神の威光を世界の隅々にまでいきわたらせねばならない」
神の威光を説く者。そこに関しては全く異論はない。
「祝福されし神の戦士たちよ。私がいる限り、諸君らは神へ最大限の献身ができると約束しよう」
魔女狩りは舌打ちしつつ頭を垂れた。
神ならまだしも、お前なんぞにいいようにされるのはまっぴらだ。
●
「由々しき事態ですわ、皆様」
プラロークであるマリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)は、強く強くハンカチを握りしめている。
「シャンバラがイ・ラプセル打倒を旗印に船団を出したのを駐留していた自由騎士が発見。水鏡が北の森に設営された新たな「聖霊門」を予知いたしました。第二波がやってまいりますわ。まだ起こっていない悲劇は回避しなくては」
マリオーネの目がオラクルに注がれる。
「国王陛下より、魔女狩りを迎撃せよとのご命令です。皆様方のたゆまぬ尽力がご武運を引き寄せることを祈ります」
「皆様。『キノコタワー』は、遭難した方々が目印にして森から出るために作られたものですわ。シャンバラの手合いは冒涜的と思ったようですわね。かわいいのに」
先日「巨大キノコ出現?」などと新設された『キノコタワー』が新聞をお騒がせしたばかりだ。
そもそも物見の塔がいるといったのはマリオーネではなかったか。まあ、形状をキノコにしろとは言っていなかったが。
「現在、国防騎士団北部駐屯部隊が『たまたまあった』キノコ小屋を『一時的に徴収し』、迎撃準備をしておりますの。『獣対策』として物資を運びこまれたばかりでようございました」
プラロークは、キノコタワーを無視できない一派がいる。と、言う。
「今回、皆様方には夜闇に紛れてキノコタワーの駐留部隊を襲う侵入者部隊の側面を攻撃。駐留部隊への助太刀ですわね。敵戦線を分断し、戦闘不能にしていただきます」
言い回しが微妙だ。生かすも殺すも現場の判断と言うわけだ。我らがアクアディーネは慈悲深い。
「かの地の聖職者のバトルスタイルの情報が断片的ですが入ってきています。『ネクロマンサー』と言うそうですわ。戦闘に傷つき戦えなくなった仲間を戦わせますの。操り人形のようですわね。スキルを使わせた例は確認されていません。死体は操れないようですので――」
マリオーネの表情は険しい。選択は部隊に任される。
「先方の気質が知れますけれど、魔抗力を強化し、通常攻撃はすべて範囲攻撃です。敵味方の別なくですわ」
肉を切らせて骨を切るというよりは、味方の肉も切りつつ進むというお国柄らしい。
「さらに、敵の足を引っ張る能力が報告されています。呪文に限らず、大技を使うときはそれなりの連携をお勧めしますわ。それ以外に隠し玉があると考えてしかるべきでしょう。何を逆手に取られてもひっくり返せるよう準備してくださいな」
これは能力の話ではないですけれど。と、プラロークはくぎを刺す。
「シャンバラから来る侵入者は狂信者の集まりです。それぞれ立場上の格差はあるようですが、神への狂信は共通しています。彼らを信仰の同胞と連帯させることのないよう。わざわざ奮起させることはありませんわ」
そうですわね。と、マリオーネは、んっんっと咳払いした。
「ミトラースの根性悪! ――などと口に出さないでくださいましね。言いたくなったら、アクアディーネ様のご尊顔を思い出して下さいませ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.通称「キノコタワー」に駐留している部隊への助太刀
2.1を満たすため、一部隊を完全に戦闘不能にする。
2.1を満たすため、一部隊を完全に戦闘不能にする。
田奈です。
まずは、大事なこと。
「この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません」
駐留している同胞への助太刀です。
側面から忍び寄って、ぼこぼこに奇襲するお仕事ですよ。
*敵:駐留部隊襲撃部隊
ネクロマンサー×1
武装の質が良く、連帯の輪からはみちょっぽいのですぐわかります。
限定的にバトルスタイルのスキルが報告されていますが、他にもあると想定されます。
敵の攻撃の出鼻をくじくスキルが中心のようです。
魔女狩り(フェンサー)×3
あまり地面を歩かない。
手数ではなく、立体機動を重視したタイプ。
魔女狩り(バスター)×2
俺が火力だ。と言う系統。
防具は軽め。動ける重火力。
魔女狩り(癒し手)×2
範囲攻撃で互いを傷つけることもいとわず戦う連中をフォローする。
*場所:北部森林外縁部
森です。
長得物を振り回せるくらいの間隔はありますが、枝がありますので飛行戦闘は無理です。
方向はキノコタワーで確認できるでしょう。
木々が遮蔽物になるので、遠距離攻撃を有効に行うには工夫が必要です。
皆さんが到着した時点で、夜です。雨の心配はありません。夜襲ですので明かりをつけるタイミングを考えてください。
落ち葉の下は深度三メートル以上の天然の落とし穴になっている場合があります。
鳴子も張られています。
それらの位置が記入された地図は用意されています。事前に確認できますが、現場を下見をする時間はありませんし、見ながら戦闘は不可能です。
皆さんが相談した配置につき、倒すべき相手を視認したところからスタートです。
まずは、大事なこと。
「この共通タグ【北方迎撃戦】依頼は、連動イベントになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することに問題はありません」
駐留している同胞への助太刀です。
側面から忍び寄って、ぼこぼこに奇襲するお仕事ですよ。
*敵:駐留部隊襲撃部隊
ネクロマンサー×1
武装の質が良く、連帯の輪からはみちょっぽいのですぐわかります。
限定的にバトルスタイルのスキルが報告されていますが、他にもあると想定されます。
敵の攻撃の出鼻をくじくスキルが中心のようです。
魔女狩り(フェンサー)×3
あまり地面を歩かない。
手数ではなく、立体機動を重視したタイプ。
魔女狩り(バスター)×2
俺が火力だ。と言う系統。
防具は軽め。動ける重火力。
魔女狩り(癒し手)×2
範囲攻撃で互いを傷つけることもいとわず戦う連中をフォローする。
*場所:北部森林外縁部
森です。
長得物を振り回せるくらいの間隔はありますが、枝がありますので飛行戦闘は無理です。
方向はキノコタワーで確認できるでしょう。
木々が遮蔽物になるので、遠距離攻撃を有効に行うには工夫が必要です。
皆さんが到着した時点で、夜です。雨の心配はありません。夜襲ですので明かりをつけるタイミングを考えてください。
落ち葉の下は深度三メートル以上の天然の落とし穴になっている場合があります。
鳴子も張られています。
それらの位置が記入された地図は用意されています。事前に確認できますが、現場を下見をする時間はありませんし、見ながら戦闘は不可能です。
皆さんが相談した配置につき、倒すべき相手を視認したところからスタートです。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年10月28日
2018年10月28日
†メイン参加者 8人†
●
「あれがキノコタワーなんやね。すごい可愛らしいな! 自分の目で見ることができてすごい嬉しいわぁ」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、ぎりぎり夕映えに燃えるようなキノコタワーを見ることができた。
「で、ございましょう!?」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は、ぱっと晴れやかな笑みを浮かべ、三秒静止、んっんっと咳払いすると令嬢の慎みを以てにっこり微笑んだ。今はまだその時ではない。この激情は溜めねば。
「後に残る建造物の建設に関われたのは、自由騎士ならではだな」
しみじみと語るのは、『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)だ。
後まで残るかはこれからの働きにかかっている。下手を打てば炎上・焼失。明日の朝には残骸と化している可能性がある。こうともいえる。ランスロットは残す気満々と。
これから森は夕闇の領域に落ちる。
敵が迫るという建造物の円錐状の傘が、やがて黒々と木々の間から見て取れるだろう。
「皆さん、地図見ておきましょう。いやあ、前回の作業に参加した甲斐があると言う物ですね」
『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は、すでに全部頭に叩きこんである。作成にかかわっているのだから不思議ではない。
「確か落とし穴があるんだよな」
四闇に紛れるため黒い衣装を着てきたブラッド・アーベントロート(CL3000390)が地図をのぞき込む。
「落とし穴なんて作ってあるの? 折角あるなら活用したいわね」
『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は、ノンリーサルトラップには賛成だ。
キノコタワー周辺の精密な高低差とはまってはいけない落ち葉だまり、張り巡らされた鳴子の位置が詳細に書き込まれた地図。
この落ち葉だまりが天然の落とし穴になる。深さ三メートルだ。まったく足がかからない落ち葉のプールの深さは3メートルを優に超える。そこはドロドロに発酵している腐葉土。これまたズブズブだ。落ちたら最後、かなりの戦意喪失は免れない。
その落ち葉だまりにいちいち棒を突っ込んで調べて回った『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は、別にこの戦争で勝とうが負けようが、ヨウセイの末路がどうだとか一切合切興味無い。アマノホカリを後にして各国を行脚する者が他国家に帰属しては本末転倒だ。
(ただ一つだけ、我々の手でそれなりの労力と思い入れを費やしたこのキノコタワー周りの施設を台無しにされる事が気に食わないので……)
結構大変だったのだ。詳細は騎士団記録参照。
それにしても、なんで正式名称が『キノコタワー』になった経緯が引っかかっている。ちなみに、最初にキノコタワーと言い出したのが誰かは記録に残っていない。
「難しい話はお任せー」
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は、にひっと笑った。
「こっそり忍び寄ってボッコボコだね!」
それに関しては全員一致だ。ぼっこぼこは間違いない。二度とイ・ラプセルに攻め込もうと考えないように完膚なきまでに相手の戦意を喪失させるのだ。
●
からんからんからんからん。
ちょっとした段差。飛び越えると、何かに足がかかる感触。明らかに人工物の音。音がするだけだ。あとは茫漠とした無音がある。あるいは同胞が蹴り立てる落ち葉の音と自分の一度詰まった呼吸音。
攻め込んでいるのはこちらなのに追われているような気がする。
あのふざけた建物は罠ではないのか。あの準神民はイ・ラプセルの連中の悪ふざけにまんまと乗せられているのではないのか。あいつらはなんだか先回りばかりする。間抜けな魚を誘う疑似餌ではないのか。ばかばかしい形をしているほど魚はかかりやすいという。黒々と夜空を「冒涜的に」切り取る塔が見える。
からんからんからん走る後方でまだ音がしている。
●
夜目の利くアリシアは、仲間のフォローに余念はない。おかげで、みな問題なく潜伏予定地点にたどり着けた。
「今、大きなくりを通過」
鳴子の音がカスカの耳に届いた。サブロウが追い込んでいるのだ。
「――迎え撃つわ」
最初は癒し手から。そして、ネクロマンサーを。
ネクロマンサーの回復手段を断ち、できる限り速やかに戦闘を終わらせる。
木の陰に溶け込むように身をひそめたオラクル達は、カスカの合図を待っている。
加速要素の励起。カーミラは気を体の隅々に巡らせ、アンネリーザは視点を俯瞰。ジュリエットは、開幕ドラマチック一発に備えている。隊の側面からぶっ飛ばしてやるための念入りな支度。
カスカの反対側には、バックアップとしてブラッドが身を潜めている。
かざされるカンテラの光。間髪入れずに、チュッドーン! と炸裂するアイドルオーラ。
「おーっほっほっほ!!! わたくしの名はジュリエット・ゴールドスミス。
このわたくしに出会ったが最後、貴方方はここが年貢の納め時なのですわ!!」
聞いていなかったらオラクルたちの対応は一拍遅れたろう。そのくらいのインパクトだ。
ジュリエットの口上の間に、カーミラが装備から癒し手を捕捉し、まっしぐらに突っ込んでいく。あらゆる障害物もものともしない、通常ならありえない間合いからの神速の強襲。膝が癒し手の顔にめり込んだ。穆王八駿。伝説の駿馬に轢かれるがごとし。
さらに、アンネリーザが撃ち込んだ銃撃が着弾する。念には念を入れ、だ。
「間抜けが! それで奇襲のつもりか!」
「――もちろん」
落ち葉でふかふかした地面から、ジュリエットの周囲を埋め尽くすように水晶の刃が突き出してくる。まったく予想していない個所からの攻撃。
「連なる水晶の刃は、さながら宝石の城のよう。ですわ!」
ジュリエットを血祭りにあげるべく接近していた者たちが城に赤黒い雫を伝わせる。
「おーーーっほっほっほ!!! 『玻璃の城』は、覚えたばかりのわたくしの新! 必殺技! なのですわ!!! この技で、イ・ラプセル王国自由聖騎士団の威信を示して御覧にいれますわ!!!」
憎悪の視線に負けぬよう自らを鼓舞しながら、あえてジュリエットは高笑いを続ける。
装備を見極めたブラッドが癒し手と思えるものを指さした。目が合ったアリシアが小さく頷く。
癒し手が声を上げる間もなく、ブラッドの小夜時雨がオラクルの急所を二度穿ち、アリシアの最高速を載せた曲刀がその意識を刈り取る。
普段なら、死にはしない。と捨て置き、次の攻撃対象を探すところだ。
しかし、そうする前に鈍く重い痛みがアリシアとブラッドの腹を穿った。二人は別に寄り添っていたわけではない。
倒れた者が襲ってくる。不殺を旨とするならば避けられない不利な状況だった。
●
カスカの銀の髪が剣気の流れ。吹き荒れる嵐のごとき斬撃に、シャンバラの徒はもれなく切り刻まれる――一名を除いては。
ネクロマンサーはすぐに特定できた。羽を折りたたんでいるソラビトだ。
しかし、なかなか攻撃できない。徹頭徹尾、かばわれていた。
「やられてみると面倒ですね」
カスカは眉をひそめた。
あえて挑発的に動き回り、自らに攻撃が集中するように立ち回るも敵の攻撃が基本的に範囲なので戦士どもがネクロマンサーの側をなかなか離れない。よって、敵に連携を切り崩すための大技だ。ぜひ足並みを乱してほしい。
「骨身に染みこんでますけど、客観的にみると何とも胸糞が悪いものですな」
サブロウも辟易している。
シャンバラの徒には、自由騎士団のオラクル達にはない概念が――越えられない身分差、職分差があった。
戦闘ユニットとしてオラクルたちはそれぞれの役割はあっても対等である。オラクルとしての出自は問われない。
しかし、準神民と上級信民の間には差がある。好悪の情を乗り越えて命を投げ出さねばならぬ信仰がある。神を仕えるがゆえにいけ好かない相手のために刃の前に身をさらす絶対的狂信。
「立ち上がれ。息ある内に我らが神のために奉仕せよ」
ネクロマンサーは、オラクルの前に癒し手を肉壁として押し立てる。
癒しの呪文を唱えるべき口はうつろに開き、その端から血泡を吹いている。
それをぬぐうこともせず、明らかに焦点が合ってない目で手にしたロッドを振り回す。
そして、その圧は容赦なくオラクルの血肉をえぐる。躊躇した間に来る攻撃は通常なら痛手を分散できるものが攻撃範囲にいるものすべてに降りかかるのだ。
「ネクロマンサーの言葉を素直に信じれば、奴は仲間以外は操れないと考えていいだろう。あの状態は「神への献身」なのだ。異教徒は及びじゃないと考えられる」
敵の状況を分析したランスロットは、連携のため側に来たアリシアにかいつまんで説明した。
「うちら、操られたりしないんやね?」
「おそらくは――なら、やりようはある。ネクロマンサーを動けなくなった仲間から分断すればいい。まずは一人倒そう」
そういって、ランスロットは息を吸い込むと腹の底から咆哮した。戦士の咆哮。鎖から放たれた猛獣のように伝来の大剣を手近な重戦士に叩きこむ。恐怖がシャンバラの徒の手足を使い物にならなくさせる。体より先に心が負ける。
「こいつが倒れたのに気が付かれないくらい、ネクロマンサーを追い立ててくれ。君の方が早い」
「任せて。敵さんでも戦闘不能の仲間を操って、まだ戦わせるところなんてみとうない!」
アリシアが走っていく中、ランスロットは重戦士を覚えた落ち葉だまりの中に蹴りこんだ。ネクロマンサーがいかに操って暴れさせても、効果範囲の落ち葉が細かくなるだけだ。
ブラッドとジュリエットはマナを集めて癒しに変え、仲間に振りまいた。ジュリエットは出端で衆目を集めた分余計に傷を負っている。未だ倒れていないのは自らが癒し手であるからに他ならない。
ランスロットが的確に敵の状況を読みつつ全体の連携を維持し、癒し手がきちんと機能している分、勝利の天秤はアクアディーネのオラクルに傾く。
「邪教の徒め。享楽の女神の走狗め。偉大なる我らの神の深遠なる御手に仇なす罪深さをその命で贖うがいい」
ネクロマンサーが呪文を唱え終わると、森の中の空気が変わった。
ずしりと重苦しくなった空気が体の動きを著しく阻害する。
「なんや、これ。足がやたらと重いわ」
アリシアの義足の緑色の液体が重たげに液面を震わせる。
カスカ、カーミラ、サブロウも体の異常な重さを禁じ得ない。
「わが神の権能を受けよ」
オラクル達に叩きこまれる、シャンバラの徒の殴打。
「異教徒め、異教徒め、異教徒め!」
ネクロマンサーが神の偉大さに打ち震えながら、異教徒を害する恍惚に顔をゆがめる。
複数からの範囲攻撃はまんべんなくオラクルたちを痛めつける。
味方五と巻き込む狂乱の殴打。
目の前が暗くなる。短時間に食らうダメージが多すぎる。こちらの手番があまりに遠い。
しかし、ここで自分の生をあきらめるような人生なら、アクアディーネの声に応えたりはしない。オラクル達は自らの英雄要素を虚空に投げて、線上からの退場を拒否して立ち上がる。
「――一切容赦なく、惜しみなく参りますわよー!!」
ジュリエットの癒しの形はネクロマンサーの術を打ち破る。
「回復させ時だな!」
状況を見定めたブラッドの呪文が豊穣の雨となりオラクルに降りかかる。
「――それにしても、誰がなんだと?」
異口同音。シャンバラの徒の悪態に、オラクル達はその発言内容を誠に遺憾に思った。
「――敵方の精神論による効能は通り、此方の精神論は無意味と、そんな不平等がまさか罷り通しはしないでしょうね――前者がそういう権能だと言われてしまえばそれまでですが」
カスカが煽る。彼女の心は平らかなままだが、それでも今はここで刀を振るう。
「なので、あの後家の提案、アクアディーネを思い浮かべる案は案外有効かもしれませんよ?」
オラクルの脳裏に現れて『死なせてしまうのはなしですよ?』 と、小首をかしげて念を押す女神の青い髪は色彩学的に精神的平穏を促す。
誰も殺さずこの未曽有の事態を収束したい。全力で当たっても相手を殺さないという権能を与える蜂蜜を砂糖で煮るかのごとき甘い夢を抱く女神。死なせてはだめだし、死んでもだめだという、頑是ない子供のような女神の意向。
どこで生まれようが、何から生まれようが、その声を聴いて応えるアクアディーネの信徒は、ある意味この世で指折りの苦難を強いる女神の理想を諦めない。
「しかし、生殺の別を気にするとは……僕も偉くなった物です」
サブロウは大きく息をつく。
サブロウの常識では、生殺与奪は、君主があるいはさらにその上に座す神が決める。民草は畏れながら命を拝すのだ。
「いやはやなんとも、優しくて自由な我が国よ!だからこそ、忠を尽くしたくもなる」
「いくら主義の異なる敵であろうとも、相手はわたくし達と同じただのヒト。その命を奪うことは……わたくしには、できませんわ」
ジュリエットはつぶやく。
「ネクロマンサーの能力が厄介なのは分かる。でも、厄介だから殺そうっていうのは容認できない……」
アンネリーザは、スナイパーライフルを構える。
連続射撃。頭部に突き刺さる銃弾。容赦ない軌道を描いてシャンバラの徒に撃ち込まれる。毒の茨は回復の余地を与えない。
「私は例え敵だろうと人が死ぬのは見たくないし、仲間が人を殺す所はもっと見たくない」
仲間が傷つけられないように。仲間がとどめを刺さなくてはならない事態にならないように。
(アクアディーネ様の不殺と浄化の権能は、戦争というこの状況でも、人が生きる事の尊さを見失わない為に授けて下さるものだと思う)
「……だから、誰も死なない事を願うわ」
誰が見ても、もう敵が戦えないことが、仲間に敵本人も納得せざるを得ないほど完璧に。
アンネリーザの手指はそのために銃身を握り、引き金を引くのだ。
殺さないけれど、我らの国土は蹂躙させない。我らの同胞を殺させない。ここで脱落してもらう。
神話級のわがままを通せるだけの存在であり続けるため、女神よ。我らに祝福あれ。
狂信の熱に酔っていたネクロマンサーが気が付けば、立ち上がらせた者は再び地に這っていた。
「予定ではあなたをなるべく早めにと思っていたのですが、いやはやままなりませんな」
無駄なく撃ち込まれる一撃。
サブロウが飛び切り悪い顔をつくりながら、ネクロマンサーをシャンバラの徒を落とした落ち葉だまりから引きはがすように追い立てていく。
そちらには。
「ばあ」
すっかり気配を消していたカーミラが潜んでいた。
逃げる隙なんてない。アリシア、カスカ、さらに後方にランスロット、アンネリーザの照準も合わせられているし、癒し手二人も攻撃手段を残している。
カーミラは、しっかり大地を踏みしめて、ネクロマンサーのどてっぱらにとびっきりの一撃を叩き込んだ。うちかまれた衝撃にネクロマンサーがとらえた世界がぐちゃぐちゃに攪拌される。
「こっそり忍び寄ってボッコボコだね!」
カーミラはどうだ。と胸を張った。初志貫徹であった。
●
落ち葉だまりに投げ込まれたシャンバラの徒を捕縛する仕事が残っている。
時間としてはさしたる時間はたっていない。
星の位置もほとんど変わっていない。
キノコタワーに陣取った駐屯部隊の命数もまだわからない。
だが、このほんのわずかの時間の間に、アクアディーネとミトラースの権能として世界に示された有り様がぶつけられた。
目に見えぬものは戦の趨勢として世界に刻まれる。殺さずに勝つと腹を決めたアクアディーネの――その徒の一つの勝利がそこにあった。
「あれがキノコタワーなんやね。すごい可愛らしいな! 自分の目で見ることができてすごい嬉しいわぁ」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、ぎりぎり夕映えに燃えるようなキノコタワーを見ることができた。
「で、ございましょう!?」
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は、ぱっと晴れやかな笑みを浮かべ、三秒静止、んっんっと咳払いすると令嬢の慎みを以てにっこり微笑んだ。今はまだその時ではない。この激情は溜めねば。
「後に残る建造物の建設に関われたのは、自由騎士ならではだな」
しみじみと語るのは、『スウォンの退魔騎士』ランスロット・カースン(CL3000391)だ。
後まで残るかはこれからの働きにかかっている。下手を打てば炎上・焼失。明日の朝には残骸と化している可能性がある。こうともいえる。ランスロットは残す気満々と。
これから森は夕闇の領域に落ちる。
敵が迫るという建造物の円錐状の傘が、やがて黒々と木々の間から見て取れるだろう。
「皆さん、地図見ておきましょう。いやあ、前回の作業に参加した甲斐があると言う物ですね」
『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は、すでに全部頭に叩きこんである。作成にかかわっているのだから不思議ではない。
「確か落とし穴があるんだよな」
四闇に紛れるため黒い衣装を着てきたブラッド・アーベントロート(CL3000390)が地図をのぞき込む。
「落とし穴なんて作ってあるの? 折角あるなら活用したいわね」
『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は、ノンリーサルトラップには賛成だ。
キノコタワー周辺の精密な高低差とはまってはいけない落ち葉だまり、張り巡らされた鳴子の位置が詳細に書き込まれた地図。
この落ち葉だまりが天然の落とし穴になる。深さ三メートルだ。まったく足がかからない落ち葉のプールの深さは3メートルを優に超える。そこはドロドロに発酵している腐葉土。これまたズブズブだ。落ちたら最後、かなりの戦意喪失は免れない。
その落ち葉だまりにいちいち棒を突っ込んで調べて回った『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は、別にこの戦争で勝とうが負けようが、ヨウセイの末路がどうだとか一切合切興味無い。アマノホカリを後にして各国を行脚する者が他国家に帰属しては本末転倒だ。
(ただ一つだけ、我々の手でそれなりの労力と思い入れを費やしたこのキノコタワー周りの施設を台無しにされる事が気に食わないので……)
結構大変だったのだ。詳細は騎士団記録参照。
それにしても、なんで正式名称が『キノコタワー』になった経緯が引っかかっている。ちなみに、最初にキノコタワーと言い出したのが誰かは記録に残っていない。
「難しい話はお任せー」
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は、にひっと笑った。
「こっそり忍び寄ってボッコボコだね!」
それに関しては全員一致だ。ぼっこぼこは間違いない。二度とイ・ラプセルに攻め込もうと考えないように完膚なきまでに相手の戦意を喪失させるのだ。
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からんからんからんからん。
ちょっとした段差。飛び越えると、何かに足がかかる感触。明らかに人工物の音。音がするだけだ。あとは茫漠とした無音がある。あるいは同胞が蹴り立てる落ち葉の音と自分の一度詰まった呼吸音。
攻め込んでいるのはこちらなのに追われているような気がする。
あのふざけた建物は罠ではないのか。あの準神民はイ・ラプセルの連中の悪ふざけにまんまと乗せられているのではないのか。あいつらはなんだか先回りばかりする。間抜けな魚を誘う疑似餌ではないのか。ばかばかしい形をしているほど魚はかかりやすいという。黒々と夜空を「冒涜的に」切り取る塔が見える。
からんからんからん走る後方でまだ音がしている。
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夜目の利くアリシアは、仲間のフォローに余念はない。おかげで、みな問題なく潜伏予定地点にたどり着けた。
「今、大きなくりを通過」
鳴子の音がカスカの耳に届いた。サブロウが追い込んでいるのだ。
「――迎え撃つわ」
最初は癒し手から。そして、ネクロマンサーを。
ネクロマンサーの回復手段を断ち、できる限り速やかに戦闘を終わらせる。
木の陰に溶け込むように身をひそめたオラクル達は、カスカの合図を待っている。
加速要素の励起。カーミラは気を体の隅々に巡らせ、アンネリーザは視点を俯瞰。ジュリエットは、開幕ドラマチック一発に備えている。隊の側面からぶっ飛ばしてやるための念入りな支度。
カスカの反対側には、バックアップとしてブラッドが身を潜めている。
かざされるカンテラの光。間髪入れずに、チュッドーン! と炸裂するアイドルオーラ。
「おーっほっほっほ!!! わたくしの名はジュリエット・ゴールドスミス。
このわたくしに出会ったが最後、貴方方はここが年貢の納め時なのですわ!!」
聞いていなかったらオラクルたちの対応は一拍遅れたろう。そのくらいのインパクトだ。
ジュリエットの口上の間に、カーミラが装備から癒し手を捕捉し、まっしぐらに突っ込んでいく。あらゆる障害物もものともしない、通常ならありえない間合いからの神速の強襲。膝が癒し手の顔にめり込んだ。穆王八駿。伝説の駿馬に轢かれるがごとし。
さらに、アンネリーザが撃ち込んだ銃撃が着弾する。念には念を入れ、だ。
「間抜けが! それで奇襲のつもりか!」
「――もちろん」
落ち葉でふかふかした地面から、ジュリエットの周囲を埋め尽くすように水晶の刃が突き出してくる。まったく予想していない個所からの攻撃。
「連なる水晶の刃は、さながら宝石の城のよう。ですわ!」
ジュリエットを血祭りにあげるべく接近していた者たちが城に赤黒い雫を伝わせる。
「おーーーっほっほっほ!!! 『玻璃の城』は、覚えたばかりのわたくしの新! 必殺技! なのですわ!!! この技で、イ・ラプセル王国自由聖騎士団の威信を示して御覧にいれますわ!!!」
憎悪の視線に負けぬよう自らを鼓舞しながら、あえてジュリエットは高笑いを続ける。
装備を見極めたブラッドが癒し手と思えるものを指さした。目が合ったアリシアが小さく頷く。
癒し手が声を上げる間もなく、ブラッドの小夜時雨がオラクルの急所を二度穿ち、アリシアの最高速を載せた曲刀がその意識を刈り取る。
普段なら、死にはしない。と捨て置き、次の攻撃対象を探すところだ。
しかし、そうする前に鈍く重い痛みがアリシアとブラッドの腹を穿った。二人は別に寄り添っていたわけではない。
倒れた者が襲ってくる。不殺を旨とするならば避けられない不利な状況だった。
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カスカの銀の髪が剣気の流れ。吹き荒れる嵐のごとき斬撃に、シャンバラの徒はもれなく切り刻まれる――一名を除いては。
ネクロマンサーはすぐに特定できた。羽を折りたたんでいるソラビトだ。
しかし、なかなか攻撃できない。徹頭徹尾、かばわれていた。
「やられてみると面倒ですね」
カスカは眉をひそめた。
あえて挑発的に動き回り、自らに攻撃が集中するように立ち回るも敵の攻撃が基本的に範囲なので戦士どもがネクロマンサーの側をなかなか離れない。よって、敵に連携を切り崩すための大技だ。ぜひ足並みを乱してほしい。
「骨身に染みこんでますけど、客観的にみると何とも胸糞が悪いものですな」
サブロウも辟易している。
シャンバラの徒には、自由騎士団のオラクル達にはない概念が――越えられない身分差、職分差があった。
戦闘ユニットとしてオラクルたちはそれぞれの役割はあっても対等である。オラクルとしての出自は問われない。
しかし、準神民と上級信民の間には差がある。好悪の情を乗り越えて命を投げ出さねばならぬ信仰がある。神を仕えるがゆえにいけ好かない相手のために刃の前に身をさらす絶対的狂信。
「立ち上がれ。息ある内に我らが神のために奉仕せよ」
ネクロマンサーは、オラクルの前に癒し手を肉壁として押し立てる。
癒しの呪文を唱えるべき口はうつろに開き、その端から血泡を吹いている。
それをぬぐうこともせず、明らかに焦点が合ってない目で手にしたロッドを振り回す。
そして、その圧は容赦なくオラクルの血肉をえぐる。躊躇した間に来る攻撃は通常なら痛手を分散できるものが攻撃範囲にいるものすべてに降りかかるのだ。
「ネクロマンサーの言葉を素直に信じれば、奴は仲間以外は操れないと考えていいだろう。あの状態は「神への献身」なのだ。異教徒は及びじゃないと考えられる」
敵の状況を分析したランスロットは、連携のため側に来たアリシアにかいつまんで説明した。
「うちら、操られたりしないんやね?」
「おそらくは――なら、やりようはある。ネクロマンサーを動けなくなった仲間から分断すればいい。まずは一人倒そう」
そういって、ランスロットは息を吸い込むと腹の底から咆哮した。戦士の咆哮。鎖から放たれた猛獣のように伝来の大剣を手近な重戦士に叩きこむ。恐怖がシャンバラの徒の手足を使い物にならなくさせる。体より先に心が負ける。
「こいつが倒れたのに気が付かれないくらい、ネクロマンサーを追い立ててくれ。君の方が早い」
「任せて。敵さんでも戦闘不能の仲間を操って、まだ戦わせるところなんてみとうない!」
アリシアが走っていく中、ランスロットは重戦士を覚えた落ち葉だまりの中に蹴りこんだ。ネクロマンサーがいかに操って暴れさせても、効果範囲の落ち葉が細かくなるだけだ。
ブラッドとジュリエットはマナを集めて癒しに変え、仲間に振りまいた。ジュリエットは出端で衆目を集めた分余計に傷を負っている。未だ倒れていないのは自らが癒し手であるからに他ならない。
ランスロットが的確に敵の状況を読みつつ全体の連携を維持し、癒し手がきちんと機能している分、勝利の天秤はアクアディーネのオラクルに傾く。
「邪教の徒め。享楽の女神の走狗め。偉大なる我らの神の深遠なる御手に仇なす罪深さをその命で贖うがいい」
ネクロマンサーが呪文を唱え終わると、森の中の空気が変わった。
ずしりと重苦しくなった空気が体の動きを著しく阻害する。
「なんや、これ。足がやたらと重いわ」
アリシアの義足の緑色の液体が重たげに液面を震わせる。
カスカ、カーミラ、サブロウも体の異常な重さを禁じ得ない。
「わが神の権能を受けよ」
オラクル達に叩きこまれる、シャンバラの徒の殴打。
「異教徒め、異教徒め、異教徒め!」
ネクロマンサーが神の偉大さに打ち震えながら、異教徒を害する恍惚に顔をゆがめる。
複数からの範囲攻撃はまんべんなくオラクルたちを痛めつける。
味方五と巻き込む狂乱の殴打。
目の前が暗くなる。短時間に食らうダメージが多すぎる。こちらの手番があまりに遠い。
しかし、ここで自分の生をあきらめるような人生なら、アクアディーネの声に応えたりはしない。オラクル達は自らの英雄要素を虚空に投げて、線上からの退場を拒否して立ち上がる。
「――一切容赦なく、惜しみなく参りますわよー!!」
ジュリエットの癒しの形はネクロマンサーの術を打ち破る。
「回復させ時だな!」
状況を見定めたブラッドの呪文が豊穣の雨となりオラクルに降りかかる。
「――それにしても、誰がなんだと?」
異口同音。シャンバラの徒の悪態に、オラクル達はその発言内容を誠に遺憾に思った。
「――敵方の精神論による効能は通り、此方の精神論は無意味と、そんな不平等がまさか罷り通しはしないでしょうね――前者がそういう権能だと言われてしまえばそれまでですが」
カスカが煽る。彼女の心は平らかなままだが、それでも今はここで刀を振るう。
「なので、あの後家の提案、アクアディーネを思い浮かべる案は案外有効かもしれませんよ?」
オラクルの脳裏に現れて『死なせてしまうのはなしですよ?』 と、小首をかしげて念を押す女神の青い髪は色彩学的に精神的平穏を促す。
誰も殺さずこの未曽有の事態を収束したい。全力で当たっても相手を殺さないという権能を与える蜂蜜を砂糖で煮るかのごとき甘い夢を抱く女神。死なせてはだめだし、死んでもだめだという、頑是ない子供のような女神の意向。
どこで生まれようが、何から生まれようが、その声を聴いて応えるアクアディーネの信徒は、ある意味この世で指折りの苦難を強いる女神の理想を諦めない。
「しかし、生殺の別を気にするとは……僕も偉くなった物です」
サブロウは大きく息をつく。
サブロウの常識では、生殺与奪は、君主があるいはさらにその上に座す神が決める。民草は畏れながら命を拝すのだ。
「いやはやなんとも、優しくて自由な我が国よ!だからこそ、忠を尽くしたくもなる」
「いくら主義の異なる敵であろうとも、相手はわたくし達と同じただのヒト。その命を奪うことは……わたくしには、できませんわ」
ジュリエットはつぶやく。
「ネクロマンサーの能力が厄介なのは分かる。でも、厄介だから殺そうっていうのは容認できない……」
アンネリーザは、スナイパーライフルを構える。
連続射撃。頭部に突き刺さる銃弾。容赦ない軌道を描いてシャンバラの徒に撃ち込まれる。毒の茨は回復の余地を与えない。
「私は例え敵だろうと人が死ぬのは見たくないし、仲間が人を殺す所はもっと見たくない」
仲間が傷つけられないように。仲間がとどめを刺さなくてはならない事態にならないように。
(アクアディーネ様の不殺と浄化の権能は、戦争というこの状況でも、人が生きる事の尊さを見失わない為に授けて下さるものだと思う)
「……だから、誰も死なない事を願うわ」
誰が見ても、もう敵が戦えないことが、仲間に敵本人も納得せざるを得ないほど完璧に。
アンネリーザの手指はそのために銃身を握り、引き金を引くのだ。
殺さないけれど、我らの国土は蹂躙させない。我らの同胞を殺させない。ここで脱落してもらう。
神話級のわがままを通せるだけの存在であり続けるため、女神よ。我らに祝福あれ。
狂信の熱に酔っていたネクロマンサーが気が付けば、立ち上がらせた者は再び地に這っていた。
「予定ではあなたをなるべく早めにと思っていたのですが、いやはやままなりませんな」
無駄なく撃ち込まれる一撃。
サブロウが飛び切り悪い顔をつくりながら、ネクロマンサーをシャンバラの徒を落とした落ち葉だまりから引きはがすように追い立てていく。
そちらには。
「ばあ」
すっかり気配を消していたカーミラが潜んでいた。
逃げる隙なんてない。アリシア、カスカ、さらに後方にランスロット、アンネリーザの照準も合わせられているし、癒し手二人も攻撃手段を残している。
カーミラは、しっかり大地を踏みしめて、ネクロマンサーのどてっぱらにとびっきりの一撃を叩き込んだ。うちかまれた衝撃にネクロマンサーがとらえた世界がぐちゃぐちゃに攪拌される。
「こっそり忍び寄ってボッコボコだね!」
カーミラはどうだ。と胸を張った。初志貫徹であった。
●
落ち葉だまりに投げ込まれたシャンバラの徒を捕縛する仕事が残っている。
時間としてはさしたる時間はたっていない。
星の位置もほとんど変わっていない。
キノコタワーに陣取った駐屯部隊の命数もまだわからない。
だが、このほんのわずかの時間の間に、アクアディーネとミトラースの権能として世界に示された有り様がぶつけられた。
目に見えぬものは戦の趨勢として世界に刻まれる。殺さずに勝つと腹を決めたアクアディーネの――その徒の一つの勝利がそこにあった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
FL送付済