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互いに研磨しよう

「うーむ」
そう唸り声を上げる者がいた。フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)だ。
彼はある悩みに直面していた。
「時代……か」
彼の悩みというのは軍の教導内容についてだ。
今まではスパルタな内容で厳しく訓練を行なっていたが、最近とある噂を聞きどうしたものかと悩んでいるのだ。
内容はこうだ『とある鬼教官の教導訓練は厳しくあまり受けたくない』。そんな言葉だ。
常ならば何を軟弱な、と叱り付けているところだが最近の若い連中がこぞってそんな言葉に同調している姿を見て、今のままでいいのか……。と言う悩みを抱いているのだ。
このままでは、若い兵達が離れていってしまう。それは困る。だが、その彼のやり方が間違っているとは到底思えないのだと言う。
そんな悩みを聞いてたが、彼にこうした方がいいと言う答えを明確に返せなかった。
「……時間をとらせたな。さあ、行くと良い。これは私が解決すべき問題だ」
そう言ってフレデリックはその場を離れた。
……どうしようか。そう悩み。とある答えに行き着いた。
そうだ。自分自身も誰かに何かを教えてみよう。
そう考えたのだ。
そうと決まれば、即実行だ。
誰かを捕まえて教導と言うものをしてみよう。
それをフレデリックに伝えよう。そう決めた。
そう唸り声を上げる者がいた。フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)だ。
彼はある悩みに直面していた。
「時代……か」
彼の悩みというのは軍の教導内容についてだ。
今まではスパルタな内容で厳しく訓練を行なっていたが、最近とある噂を聞きどうしたものかと悩んでいるのだ。
内容はこうだ『とある鬼教官の教導訓練は厳しくあまり受けたくない』。そんな言葉だ。
常ならば何を軟弱な、と叱り付けているところだが最近の若い連中がこぞってそんな言葉に同調している姿を見て、今のままでいいのか……。と言う悩みを抱いているのだ。
このままでは、若い兵達が離れていってしまう。それは困る。だが、その彼のやり方が間違っているとは到底思えないのだと言う。
そんな悩みを聞いてたが、彼にこうした方がいいと言う答えを明確に返せなかった。
「……時間をとらせたな。さあ、行くと良い。これは私が解決すべき問題だ」
そう言ってフレデリックはその場を離れた。
……どうしようか。そう悩み。とある答えに行き着いた。
そうだ。自分自身も誰かに何かを教えてみよう。
そう考えたのだ。
そうと決まれば、即実行だ。
誰かを捕まえて教導と言うものをしてみよう。
それをフレデリックに伝えよう。そう決めた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.足りないところを教える
2.教導と言う自分なりの正解を出す
3.感じたことを伝え、フレデリックに納得してもらう
2.教導と言う自分なりの正解を出す
3.感じたことを伝え、フレデリックに納得してもらう
場所:訓練場
天候:晴れ
時間:昼ごろ
一言
一人教導官を立て、他の者達に自身の得意な事を教える。教導をする人は自分なりの教育というものを行ってみる。それに対し他の者達は何がいけないのかを教えてもらったり、反発したりする。その経験を持って誰かに何かを教え、何かを伝えられるとはどう言う事なのかと言う答えを出し、フレデリックにその答えを言おう。
あなた達の答えを聞かせてください。よろしくお願いします。
天候:晴れ
時間:昼ごろ
一言
一人教導官を立て、他の者達に自身の得意な事を教える。教導をする人は自分なりの教育というものを行ってみる。それに対し他の者達は何がいけないのかを教えてもらったり、反発したりする。その経験を持って誰かに何かを教え、何かを伝えられるとはどう言う事なのかと言う答えを出し、フレデリックにその答えを言おう。
あなた達の答えを聞かせてください。よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
5個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/10
6/10
公開日
2020年11月09日
2020年11月09日
†メイン参加者 6人†
「はい! と言うことで今日はおいしいパスタの作り方を学びましょう」
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は手を胸の前で一つ叩き、満面の笑みでそう言った。
「体格も体力も関係なく、誰でも努力すれば美味くなるという意味では鍛錬に通ずるところもあるでしょう。と、言うわけで皆さん……パスタです!」
「……何故、パスタなのかしら?」
この場は教導に対する意見交換会の様な場であると思っていたエルシー・スカーレット(CL3000369)は困惑を隠しきれずそう呟いていた。
「あー、なんでと言われましても……なんででしょうね……」
とある人物によって連れ来られた何処か今日は暗い顔をした少年ナバル・ジーロン(CL30000441)はエルシーの呟きになんとなくどうでも良さそうなぶっきらぼうな声でそう言った。
「パスター!」
「さあ、食うぞ!」
そんなナバルとは真逆にこの二人は明るいものだ。デボラ・ディートヘルム(CL3000511)とシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は早くも教導を受ける気がないのか後で皆が食べるために置いてある机と椅子に座り食べる気だけはある様子だ。
「やれやれ、だな」
そんな皆の様子を見て彼女はため息混じりな声を上げた。非時香・ツボミ(CL3000086)。彼女はナバルが持ってきた小麦の袋に座りこのパスタの作り方を教える教導の様子を遠目に見ていた。
「……どう転ぶかね」
「さて、今日は生地から作りましょう!」
彼女の心配の声などどこふく風。アンジェリカはそう言ってツボミの近くの小麦の袋を持ち上げながらそう言った。
「料理に大切なのは愛情です。イブリースを屠るが如く作りましょう」
「?」
アンジェリカの言葉が不可解だったのかエルシーは首を傾げる。
「……『誰かの笑顔を思って作りましょう』、です」
「え? ええ、そうなの? ありがとうナバル」
「……いえ……」
「?」
エルシーはナバルの様子に疑問を持ったが、そう言う時もあるだろう。そう考えこの時は何かを言うことはなかった。
「今日はトマトソースを使ったパスタです。では、まず私が作ってみますので皆さんはまず見ていてください」
そう言って、手早くパスタを作っていく様はどことなく慣れを感じさせる。
皆は真剣というわけでもないが、意味合いは違っても真面目にアンジェリカの様子を見つめている。
と、その時だ。
アンジェリカがトマトを潰した。
「っ!」
ナバルはそれを見て体を揺らした。目も見開きしばらくしてから目を逸らした。
「……」
それを見てわずかに目を尖らせるツボミ。何やら彼女は何かを知っている様だが何かを口にしようというそぶりは見せない。
「ねぇ、どうかしたの?」
ナバルの様子がおかしいと気付き声をかけたのはエルシーだった。
「……いや~なんでもないですよー!」
何かを誤魔化す様にわざとらしい明るさでエルシーにそういうナバルだが、彼女にはやはり様子がおかしいのだとしか思えなかった。
「そう」
だが、そうは思ったがエルシーは何も勘付かなかったという様に一言そういうだけだった。
「……はぁ」
ナバルは一つため息をつきなんとか湧き上がった感情をとりあえず飲み込んだ。
何があったか、何を思ったか、何を感じたかなどこの場で説明する気もなかったし、しようとも思わなかったからだ。だから、とりあえず側だけでも取り繕う事にしようそう思った。
誰かに心配をかけるなどあってはならないからだ。
「はい、出来ました。トマトソースのパスタです」
「お、大盛り、ですね……」
「ええ、食べたい盛りの人達がいる様でしたのでいっぱい作ってしまいました」
「それにしても多いわね」
「美味しいアルデンテが食べられると聞きまして!」
「食って食って食いまくるぞ!」
「ええ、どうぞ、たくさん食べてください」
デボラとシノピリカは皿とフォークを持ってパスタを取り分けその口に放り込んでいく。
「さて、ではこれから皆さんにも作って頂きます」
そう言ったアンジェリカはやはり笑顔だった。
「やれやれ、私の家事能力は基本見様見真似の経験則。レシピとか分量とかさっぱりだ」
「では、ツボミさんはお鍋を担当してもらいましょう」
「私は食べる方に回るはそっちが目的だし」
「ええ、それではエルシー様はあちらの机にこれを持っていってください」
「ええ? それで良いの?」
「では、残ったナバル様にはソースを作って頂きます」
「は、はい……」
「では、始めましょう」
●
「こんな、感じか?」
「ええ、そうですツボミ様。想像と破壊を繰り返す神話を白桃の螺旋を描きながら再現するイメージで掻き回してください」
「そうか、想像と破壊を繰り返す神話の如くだな。……もう一度言ってくれるか?」
そんな会話のそばでトマトソースを作っているナバル。彼の様子をパスタを食べながら見ていたエルシーは一言思わず呟いていた。
「おかしいですね」
「何がかしら?」
そう尋ねたのはデボラだ。
「えっ! あ、ああ……ナバルのことよ」
「まあ、確かに元気がない様じゃのう」
そう言ったのはシノピリカだ。
「確かに、あんな顔をされてはパスタが美味しくなくなる」
「ええ、まあね」
「ああ言うのは放っておけば良いのよ。思考は停止していない様だし、何を気にしているかは知らないけれどそのうち前に進めるでしょう」
「……それは、そうね」
「それより、アンジェリカさんのパスタ、美味しいです! 麺を噛んだ瞬間口の中に生き生きとした小麦が踊り出す。目を瞑れば小麦畑が頭の中で再現され、それに絡んだソースが春のせせらぎの様に爽やかかつ緩やかに、そうこれは舞踏会!」
「そう言えば、これの原料である小麦はナバルの郷里で作られたのじゃろう? 見える、見えるぞ……暖かい農村、優しい両親、無邪気な幼なじみ……優しい故郷、別れを告げて旅たつ若者!」
「その心は!」
「うまーーーい!」
「はぁ、話しは変わるけどデボラとシノピリカは今回の相談どう思う?」
「? 何もおかしくはないのでは? あのままでいいと思います」
エルシーの質問にデボラはそう答えシノピリカはこう言った。
「ワシはスパルタ派じゃな。受けが悪いからこそ存在し続け泣かねばならぬと思うのう」
「そう」
そう尋ねたエルシーの答えも彼女たちとそう変わらない。時代にあわせればいいと言うわけでもないのだ変わらなければいけないとは思えなかった。
戦場では少しの油断が明暗を分ける。それを考えたら厳しくなるのは当たり前で緩んだ気持ちで戦場出るのは危険である。そう考えているからだ。
だからこそ、今のままでいいと言うのが彼女たちの考えだ。
答えは決まっていてこんなことをしても意味はなし、そう思ったからこそ共同に不参加という道を選んのだ。
では、共同を受けている側はと言うと……。
「そういえば、アンジェリカ、貴様何を思ってパスタ料理の教導なんざしようと思ったのだ?」
そう尋ねたのは今まさにパスタについたお湯を切っている作業を行っているツボミだ。教導する側を任せたが、まさかパスタの作り方の教導を行うなんざ思ってもみなかったからだ。
だからこそ、何故、と今更ながらに問うていた。
「何故、ですか? うまくなるからです」
「? うまくなる?」
アンジェリカのその答えにツボミは小首をかしげながらそう言った。上手くか美味くか、どちらだろうかと言う疑問とこれと戦闘訓練の教導が繋がるように思えなかったからだ。
「上手くなるし、美味しくもなる。料理とは創意工夫でどうとでもなります。美味しくもなるし、逆にまずくすることもたやすい。でも、そうなるにはいくつもの失敗と苦しくなる程の研鑽が必要です。失敗もあるでしょう。…でも、そこから学べるものが確かにあって、取り入れるべきことは山ほど、完成と思ってみてもそれはは山のごく一部でしかなく、まだまだ取り入れることはたくさん。私にとって、パスタ料理がそうであるように、皆さん、いえ、ツボミさんにもそういうもの、あるんじゃないですか?」
「……」
ツボミ事態医学を嗜んでいるためその言葉には共感できた。個人的に目指すものが完成したとしても、問題はまだまだいくつも転がっている。そんなことを知識を得るたびに知ってしまう。だからアンジェリカの言葉は確かにと頷けた。
「大体、私たちが戦闘訓練をしても、目指すところが違いすぎて教えようもありませんし、この辺りがちょうどいいかな、と思いまして」
照れくさそうにそういうアンジェリカだった。
そんな話をしている時だ。
「出来ましたよ」
ナバルがそういってトマトソースの完成品を持って近寄ってきた。
「ありがとうございます。ナバル様。では、盛り付けましょう」
●
「出来ましたね」
「ふむ、終える側が絶対の自信を持っているとこうすればいいのだと安心できるな」
「そうですね」
「……そう言えば、これが始まったそもそもの原因である相談の答えはどうするんですか?」
「うん? 教える側が悩んでいる様ではダメダメだ、だな」
「成功とは共有するもの簡単なことから少しずつ自信を持たせハードルを上げていく過程がきっと教え、継続させるために大事なものだと私は思います」
「そう、ですか」
「おっかわりぃ!」
「ワシのことは暴食のシノピリカと呼ぶがいい!」
「言っておくけど、私麺料理に関してはうるさいわよ。後話は聞いていたけど私たちは三人は変わらずって意見ね」
そんなことを言いながら、彼らは食事をし、作り、紅茶をのみ、その場を楽しんだ。
「ふむ、少し麺が柔らかい。煮すぎましたねツボミさん」
「アンジェリカ。貴様のようにパスタにどっぷり浸かっている者と一緒にするな。大体この位だろうよ」
「うーん、ちょっと酸っぱいかも。酸味が強いよナバル様」
「デボラさん。俺、一応ずぶの素人……」
「なーにを甘っちょろいことを言っておる! 故郷に帰ったら幼馴染に美味しいパスタを毎日食わせてやるのだろう? ナバル」
「オレ、そんなこと言ってませんよ! シノピリカさん!」
「うん、すこし、美味しくない」
「なら。さらに特訓ですよツボミ様、ナバル様!」
そう言って席を立ち簡易キッチンに向かうアンジェリカ。
そんな彼女の様子にツボミとナバルはやれやれと苦笑いをしながら二人も席を立つのだった。そんなアンジェリカが行ったパスタの教導はそんな感じで幕を下ろした。
だが、後日フレデリックに各々の答えを言い。彼の悩みは解決されはしたが、とある教導官に対するイメージは変わらず鬼教官として認識されるわけで、彼としてはそれで本望だったろうが、やはりサボりや軍を去る者が多くいた。曰く、その教官のやり方についていけないという意見が多くあった。
軍は確かに強くはなるが、その彼の教導は誰かに寄り添い、誰かの糧になる教導を出来たかと言うとそうでもないのだろう。
どちらかと言うと、独りよがりで押し付けている所もあった。
それが彼なりの優しさだったとしても、受け取り側がそう受け取らねばそれはきっとただの独りよがりにすぎないのだろう。
変わる時に変わり、変わってはいけない時に変わらない。それはきっと難しいもので、一人に気付くのは難しい。
人の振るまいを見て、自身の振る舞いを治せるかもその人の心情次第であろう。
とどのつまり、彼には誰かに何かを伝える時、大切な何かが抜けていたのだ。
それは、交流や個人個人に対する一生懸命さ、なんてものが抜けていたのかもしれない。
変わることが大切なのではなく、今この時に何が大事なのか、それを理解していなかったことが原因なのだろう。
彼は良くも悪くも軍の教導員だった。全体を見ることには長けていた。でなければ軍を強くすることなど不可能だ。
だがやはり、彼には人の心をつかんで離さない技術や振る舞いが欠如していたはずだ。
だからこそ、人の心は離れていくのだ。
飴と鞭という言葉があるが、鞭しか与えないものには人はついていかない。飴しか与えないものの周りには餌に植えた獣しか集まらない。
そういう意味では鞭しか与えなかったとある教官には人の心を集める求心力が抜けていたとも言えるだろう。
人を頑張らせる力がなかったとも言える。
言葉にするのは簡単だが、それは実際にはひどくむつかしい。一人二人ならまだしも多くのものを見なければならない彼の立場ではそれを行うのはさらにむつかしいものだろう。
それをわかってくれる者はその教導官には現れることはなかった。
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は手を胸の前で一つ叩き、満面の笑みでそう言った。
「体格も体力も関係なく、誰でも努力すれば美味くなるという意味では鍛錬に通ずるところもあるでしょう。と、言うわけで皆さん……パスタです!」
「……何故、パスタなのかしら?」
この場は教導に対する意見交換会の様な場であると思っていたエルシー・スカーレット(CL3000369)は困惑を隠しきれずそう呟いていた。
「あー、なんでと言われましても……なんででしょうね……」
とある人物によって連れ来られた何処か今日は暗い顔をした少年ナバル・ジーロン(CL30000441)はエルシーの呟きになんとなくどうでも良さそうなぶっきらぼうな声でそう言った。
「パスター!」
「さあ、食うぞ!」
そんなナバルとは真逆にこの二人は明るいものだ。デボラ・ディートヘルム(CL3000511)とシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は早くも教導を受ける気がないのか後で皆が食べるために置いてある机と椅子に座り食べる気だけはある様子だ。
「やれやれ、だな」
そんな皆の様子を見て彼女はため息混じりな声を上げた。非時香・ツボミ(CL3000086)。彼女はナバルが持ってきた小麦の袋に座りこのパスタの作り方を教える教導の様子を遠目に見ていた。
「……どう転ぶかね」
「さて、今日は生地から作りましょう!」
彼女の心配の声などどこふく風。アンジェリカはそう言ってツボミの近くの小麦の袋を持ち上げながらそう言った。
「料理に大切なのは愛情です。イブリースを屠るが如く作りましょう」
「?」
アンジェリカの言葉が不可解だったのかエルシーは首を傾げる。
「……『誰かの笑顔を思って作りましょう』、です」
「え? ええ、そうなの? ありがとうナバル」
「……いえ……」
「?」
エルシーはナバルの様子に疑問を持ったが、そう言う時もあるだろう。そう考えこの時は何かを言うことはなかった。
「今日はトマトソースを使ったパスタです。では、まず私が作ってみますので皆さんはまず見ていてください」
そう言って、手早くパスタを作っていく様はどことなく慣れを感じさせる。
皆は真剣というわけでもないが、意味合いは違っても真面目にアンジェリカの様子を見つめている。
と、その時だ。
アンジェリカがトマトを潰した。
「っ!」
ナバルはそれを見て体を揺らした。目も見開きしばらくしてから目を逸らした。
「……」
それを見てわずかに目を尖らせるツボミ。何やら彼女は何かを知っている様だが何かを口にしようというそぶりは見せない。
「ねぇ、どうかしたの?」
ナバルの様子がおかしいと気付き声をかけたのはエルシーだった。
「……いや~なんでもないですよー!」
何かを誤魔化す様にわざとらしい明るさでエルシーにそういうナバルだが、彼女にはやはり様子がおかしいのだとしか思えなかった。
「そう」
だが、そうは思ったがエルシーは何も勘付かなかったという様に一言そういうだけだった。
「……はぁ」
ナバルは一つため息をつきなんとか湧き上がった感情をとりあえず飲み込んだ。
何があったか、何を思ったか、何を感じたかなどこの場で説明する気もなかったし、しようとも思わなかったからだ。だから、とりあえず側だけでも取り繕う事にしようそう思った。
誰かに心配をかけるなどあってはならないからだ。
「はい、出来ました。トマトソースのパスタです」
「お、大盛り、ですね……」
「ええ、食べたい盛りの人達がいる様でしたのでいっぱい作ってしまいました」
「それにしても多いわね」
「美味しいアルデンテが食べられると聞きまして!」
「食って食って食いまくるぞ!」
「ええ、どうぞ、たくさん食べてください」
デボラとシノピリカは皿とフォークを持ってパスタを取り分けその口に放り込んでいく。
「さて、ではこれから皆さんにも作って頂きます」
そう言ったアンジェリカはやはり笑顔だった。
「やれやれ、私の家事能力は基本見様見真似の経験則。レシピとか分量とかさっぱりだ」
「では、ツボミさんはお鍋を担当してもらいましょう」
「私は食べる方に回るはそっちが目的だし」
「ええ、それではエルシー様はあちらの机にこれを持っていってください」
「ええ? それで良いの?」
「では、残ったナバル様にはソースを作って頂きます」
「は、はい……」
「では、始めましょう」
●
「こんな、感じか?」
「ええ、そうですツボミ様。想像と破壊を繰り返す神話を白桃の螺旋を描きながら再現するイメージで掻き回してください」
「そうか、想像と破壊を繰り返す神話の如くだな。……もう一度言ってくれるか?」
そんな会話のそばでトマトソースを作っているナバル。彼の様子をパスタを食べながら見ていたエルシーは一言思わず呟いていた。
「おかしいですね」
「何がかしら?」
そう尋ねたのはデボラだ。
「えっ! あ、ああ……ナバルのことよ」
「まあ、確かに元気がない様じゃのう」
そう言ったのはシノピリカだ。
「確かに、あんな顔をされてはパスタが美味しくなくなる」
「ええ、まあね」
「ああ言うのは放っておけば良いのよ。思考は停止していない様だし、何を気にしているかは知らないけれどそのうち前に進めるでしょう」
「……それは、そうね」
「それより、アンジェリカさんのパスタ、美味しいです! 麺を噛んだ瞬間口の中に生き生きとした小麦が踊り出す。目を瞑れば小麦畑が頭の中で再現され、それに絡んだソースが春のせせらぎの様に爽やかかつ緩やかに、そうこれは舞踏会!」
「そう言えば、これの原料である小麦はナバルの郷里で作られたのじゃろう? 見える、見えるぞ……暖かい農村、優しい両親、無邪気な幼なじみ……優しい故郷、別れを告げて旅たつ若者!」
「その心は!」
「うまーーーい!」
「はぁ、話しは変わるけどデボラとシノピリカは今回の相談どう思う?」
「? 何もおかしくはないのでは? あのままでいいと思います」
エルシーの質問にデボラはそう答えシノピリカはこう言った。
「ワシはスパルタ派じゃな。受けが悪いからこそ存在し続け泣かねばならぬと思うのう」
「そう」
そう尋ねたエルシーの答えも彼女たちとそう変わらない。時代にあわせればいいと言うわけでもないのだ変わらなければいけないとは思えなかった。
戦場では少しの油断が明暗を分ける。それを考えたら厳しくなるのは当たり前で緩んだ気持ちで戦場出るのは危険である。そう考えているからだ。
だからこそ、今のままでいいと言うのが彼女たちの考えだ。
答えは決まっていてこんなことをしても意味はなし、そう思ったからこそ共同に不参加という道を選んのだ。
では、共同を受けている側はと言うと……。
「そういえば、アンジェリカ、貴様何を思ってパスタ料理の教導なんざしようと思ったのだ?」
そう尋ねたのは今まさにパスタについたお湯を切っている作業を行っているツボミだ。教導する側を任せたが、まさかパスタの作り方の教導を行うなんざ思ってもみなかったからだ。
だからこそ、何故、と今更ながらに問うていた。
「何故、ですか? うまくなるからです」
「? うまくなる?」
アンジェリカのその答えにツボミは小首をかしげながらそう言った。上手くか美味くか、どちらだろうかと言う疑問とこれと戦闘訓練の教導が繋がるように思えなかったからだ。
「上手くなるし、美味しくもなる。料理とは創意工夫でどうとでもなります。美味しくもなるし、逆にまずくすることもたやすい。でも、そうなるにはいくつもの失敗と苦しくなる程の研鑽が必要です。失敗もあるでしょう。…でも、そこから学べるものが確かにあって、取り入れるべきことは山ほど、完成と思ってみてもそれはは山のごく一部でしかなく、まだまだ取り入れることはたくさん。私にとって、パスタ料理がそうであるように、皆さん、いえ、ツボミさんにもそういうもの、あるんじゃないですか?」
「……」
ツボミ事態医学を嗜んでいるためその言葉には共感できた。個人的に目指すものが完成したとしても、問題はまだまだいくつも転がっている。そんなことを知識を得るたびに知ってしまう。だからアンジェリカの言葉は確かにと頷けた。
「大体、私たちが戦闘訓練をしても、目指すところが違いすぎて教えようもありませんし、この辺りがちょうどいいかな、と思いまして」
照れくさそうにそういうアンジェリカだった。
そんな話をしている時だ。
「出来ましたよ」
ナバルがそういってトマトソースの完成品を持って近寄ってきた。
「ありがとうございます。ナバル様。では、盛り付けましょう」
●
「出来ましたね」
「ふむ、終える側が絶対の自信を持っているとこうすればいいのだと安心できるな」
「そうですね」
「……そう言えば、これが始まったそもそもの原因である相談の答えはどうするんですか?」
「うん? 教える側が悩んでいる様ではダメダメだ、だな」
「成功とは共有するもの簡単なことから少しずつ自信を持たせハードルを上げていく過程がきっと教え、継続させるために大事なものだと私は思います」
「そう、ですか」
「おっかわりぃ!」
「ワシのことは暴食のシノピリカと呼ぶがいい!」
「言っておくけど、私麺料理に関してはうるさいわよ。後話は聞いていたけど私たちは三人は変わらずって意見ね」
そんなことを言いながら、彼らは食事をし、作り、紅茶をのみ、その場を楽しんだ。
「ふむ、少し麺が柔らかい。煮すぎましたねツボミさん」
「アンジェリカ。貴様のようにパスタにどっぷり浸かっている者と一緒にするな。大体この位だろうよ」
「うーん、ちょっと酸っぱいかも。酸味が強いよナバル様」
「デボラさん。俺、一応ずぶの素人……」
「なーにを甘っちょろいことを言っておる! 故郷に帰ったら幼馴染に美味しいパスタを毎日食わせてやるのだろう? ナバル」
「オレ、そんなこと言ってませんよ! シノピリカさん!」
「うん、すこし、美味しくない」
「なら。さらに特訓ですよツボミ様、ナバル様!」
そう言って席を立ち簡易キッチンに向かうアンジェリカ。
そんな彼女の様子にツボミとナバルはやれやれと苦笑いをしながら二人も席を立つのだった。そんなアンジェリカが行ったパスタの教導はそんな感じで幕を下ろした。
だが、後日フレデリックに各々の答えを言い。彼の悩みは解決されはしたが、とある教導官に対するイメージは変わらず鬼教官として認識されるわけで、彼としてはそれで本望だったろうが、やはりサボりや軍を去る者が多くいた。曰く、その教官のやり方についていけないという意見が多くあった。
軍は確かに強くはなるが、その彼の教導は誰かに寄り添い、誰かの糧になる教導を出来たかと言うとそうでもないのだろう。
どちらかと言うと、独りよがりで押し付けている所もあった。
それが彼なりの優しさだったとしても、受け取り側がそう受け取らねばそれはきっとただの独りよがりにすぎないのだろう。
変わる時に変わり、変わってはいけない時に変わらない。それはきっと難しいもので、一人に気付くのは難しい。
人の振るまいを見て、自身の振る舞いを治せるかもその人の心情次第であろう。
とどのつまり、彼には誰かに何かを伝える時、大切な何かが抜けていたのだ。
それは、交流や個人個人に対する一生懸命さ、なんてものが抜けていたのかもしれない。
変わることが大切なのではなく、今この時に何が大事なのか、それを理解していなかったことが原因なのだろう。
彼は良くも悪くも軍の教導員だった。全体を見ることには長けていた。でなければ軍を強くすることなど不可能だ。
だがやはり、彼には人の心をつかんで離さない技術や振る舞いが欠如していたはずだ。
だからこそ、人の心は離れていくのだ。
飴と鞭という言葉があるが、鞭しか与えないものには人はついていかない。飴しか与えないものの周りには餌に植えた獣しか集まらない。
そういう意味では鞭しか与えなかったとある教官には人の心を集める求心力が抜けていたとも言えるだろう。
人を頑張らせる力がなかったとも言える。
言葉にするのは簡単だが、それは実際にはひどくむつかしい。一人二人ならまだしも多くのものを見なければならない彼の立場ではそれを行うのはさらにむつかしいものだろう。
それをわかってくれる者はその教導官には現れることはなかった。