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薬師エミルからの依頼

●
「これはいいところに。件の薬師エミル殿から自由騎士に依頼があったようですぞ」
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)が街を歩いていた自由騎士に声をかけた。
薬師エミル。以前自由騎士がその身を持って生成された薬の効果を確かめた、腕利き(と思われる)薬師だ。その際にとあるクマの自由騎士がしっかりとコネクションを作っていたため、今回自由騎士に依頼が来たようだ、という話らしい。
「それがなにやら厄介なものらしいですな……詳しい話は詰め所で聞いてくだされ」
詰め所でエミルからの依頼を託った者から自由騎士に告げられた内容はこうだ。
「北の山間部にあるス・ミーレ峡谷。ここにある材料をとってきてもらいたい。欲しい材料は2つ。マダラセアカグモの糸。ヨツユ草の花だそうです」
「花と糸か」
「はい。ヨツユ草。これは名の通り夜にしか花を咲かせません。よって峡谷には夜に向かう必要があります。またマダラセアカグモですが……こちらはこの峡谷では以上に巨大化しており、非常に交戦的な種です。糸を採取するべく巣に触れば確実に襲ってくるでしょう。それと……この材料どちらも採取後一定期間で品質が変わってしまうらしいのです。そのため採取は纏めて行わなければなりません」
「ヨツユ草を夜に採取したあと、明るくなるまで待ってクモを相手するってのは無理って事か」
「そういう事です」
「で、これはどんな薬の材料なんだ?」
「そちらはお聞きしておりません」
「聞いてないのかよ」
「はい。一応聞きはしたのですが……『ふふふ、秘密です♪』の一点張りで」
「……まぁ行くしかないか」
そう言うと自由騎士は謎の薬の材料を探しに峡谷へ向かうのだった。
「これはいいところに。件の薬師エミル殿から自由騎士に依頼があったようですぞ」
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)が街を歩いていた自由騎士に声をかけた。
薬師エミル。以前自由騎士がその身を持って生成された薬の効果を確かめた、腕利き(と思われる)薬師だ。その際にとあるクマの自由騎士がしっかりとコネクションを作っていたため、今回自由騎士に依頼が来たようだ、という話らしい。
「それがなにやら厄介なものらしいですな……詳しい話は詰め所で聞いてくだされ」
詰め所でエミルからの依頼を託った者から自由騎士に告げられた内容はこうだ。
「北の山間部にあるス・ミーレ峡谷。ここにある材料をとってきてもらいたい。欲しい材料は2つ。マダラセアカグモの糸。ヨツユ草の花だそうです」
「花と糸か」
「はい。ヨツユ草。これは名の通り夜にしか花を咲かせません。よって峡谷には夜に向かう必要があります。またマダラセアカグモですが……こちらはこの峡谷では以上に巨大化しており、非常に交戦的な種です。糸を採取するべく巣に触れば確実に襲ってくるでしょう。それと……この材料どちらも採取後一定期間で品質が変わってしまうらしいのです。そのため採取は纏めて行わなければなりません」
「ヨツユ草を夜に採取したあと、明るくなるまで待ってクモを相手するってのは無理って事か」
「そういう事です」
「で、これはどんな薬の材料なんだ?」
「そちらはお聞きしておりません」
「聞いてないのかよ」
「はい。一応聞きはしたのですが……『ふふふ、秘密です♪』の一点張りで」
「……まぁ行くしかないか」
そう言うと自由騎士は謎の薬の材料を探しに峡谷へ向かうのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.魔物を倒し、薬の材料を手に入れる。
あけましておめでとうございます。
麺二郎です。生まれて始めてのインフルを体験しました。もう堪忍してくださいと思いました。
この依頼はブレインストーミングスペース
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033) 2018年12月18日(火) 20:51:09
猪市 きゐこ(CL3000048) 2018年12月18日(火) 20:59:03
エルシー・スカーレット(CL3000368) 2018年12月18日(火) 21:54:51
の発言等を元に作成されました。
以前自由騎士に多大なインパクトを与えた薬師のエミルから薬の調合に使用する材料を手に入れて欲しいと依頼がありました。
彼女は以前に自由騎士に試してもらった薬以外にも色々な薬を開発中のようです。
できれば協力してあげて頂きたいと思います。
●ロケーション
ス・ミーレ峡谷。北の山間部にある峡谷。巨大マダラセアカグモ群棲地帯。夜。月明かりが照らしますが、それほど明るくありません。幅30m高さ50mほどの地割れがそのまま峡谷になり、峡谷を縦横無尽にギガントマダラセアカグモの巣が張り巡らされています。
その傍らにヨツユ草の花も咲いています。ヨツユ草は熱に弱いため戦闘時も気を配る必要があるでしょう。
●敵&登場人物
・巨大マダラセアカグモ x30
全長1mほど。巣に絡まった獲物に猛毒を流し込み捕食する。反してその糸は加工することでシルクのように滑らかで艶のある糸となり、重宝されている。
巣は人が乗れるほどの強度がある。中心となる部分(捕食する)以外は粘々していない。
八脚 物近範 8本の脚を器用に伸ばして攻撃してきます。【スクラッチ1】
噛み付き 物近単 噛み付き毒を流し込みます。【ポイズン1】
糸を吐く 物遠単 一定期間動けなくなります。
皆様のご参加おまちしております。
麺二郎です。生まれて始めてのインフルを体験しました。もう堪忍してくださいと思いました。
この依頼はブレインストーミングスペース
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033) 2018年12月18日(火) 20:51:09
猪市 きゐこ(CL3000048) 2018年12月18日(火) 20:59:03
エルシー・スカーレット(CL3000368) 2018年12月18日(火) 21:54:51
の発言等を元に作成されました。
以前自由騎士に多大なインパクトを与えた薬師のエミルから薬の調合に使用する材料を手に入れて欲しいと依頼がありました。
彼女は以前に自由騎士に試してもらった薬以外にも色々な薬を開発中のようです。
できれば協力してあげて頂きたいと思います。
●ロケーション
ス・ミーレ峡谷。北の山間部にある峡谷。巨大マダラセアカグモ群棲地帯。夜。月明かりが照らしますが、それほど明るくありません。幅30m高さ50mほどの地割れがそのまま峡谷になり、峡谷を縦横無尽にギガントマダラセアカグモの巣が張り巡らされています。
その傍らにヨツユ草の花も咲いています。ヨツユ草は熱に弱いため戦闘時も気を配る必要があるでしょう。
●敵&登場人物
・巨大マダラセアカグモ x30
全長1mほど。巣に絡まった獲物に猛毒を流し込み捕食する。反してその糸は加工することでシルクのように滑らかで艶のある糸となり、重宝されている。
巣は人が乗れるほどの強度がある。中心となる部分(捕食する)以外は粘々していない。
八脚 物近範 8本の脚を器用に伸ばして攻撃してきます。【スクラッチ1】
噛み付き 物近単 噛み付き毒を流し込みます。【ポイズン1】
糸を吐く 物遠単 一定期間動けなくなります。
皆様のご参加おまちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年01月30日
2019年01月30日
†メイン参加者 6人†
●
「ふぅ~~思いのほか大変だったな」
途中一息ついた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は、遥か上から見下ろす月を見ながら言葉を漏らす。
出発前に商人のコネクションを利用し、下調べをしていたウェルスを先頭に、自由騎士達は峡谷を下っていく。
ここはス・ミーレ峡谷。大地自体が大きく割れて現れたような深い谷に自由騎士達は訪れていた。
「それにしても最初の薬やフードといい、妙に隠し事が多いなエミル嬢は」
「ふふ、謎多き女性も魅力的じゃないですか」
ウェルスの軽いぼやきに『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は笑いながら答える。以前エミルの薬の効果をその身を持って味わっているが故だろうか。2人は今回率先して協力を名乗り出ていた。
「まぁそうなんだが……あれだけの美人(獣)、もっとお近づきになりたいというか……」
ウェルスの行動はぶれる事無くわかりやすい。そしてそれは男としてきっと正しい。
「まあ私も彼女からの依頼という事で、(興味本位で)協力を申し出てみたのですが……」
くすりと笑いながらそう言うのはカンテラを持つ『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。フーリィンもまたエミルの薬の効果をその身で体感した1人。他にも変わった薬を扱うという薬師エミルの材料調達依頼、と言うのだから興味津々といったところであろう。
「私は……前のお薬の噂を聞いて釣られたなんて……あるわっ!」
声高に宣言しふんすと胸を張るのは『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)。その様子を見て、ウェルスがきゐこのとある部位を見つめながらうんうんと頷いているが、きっときゐこが怒るので気づかなかった事にしておこうと思う。皆も内緒にしておいてほしい。
「ま、それはそれとして! 新しい薬も気になるわね……」
効果次第だけど、できたら次は試してみたいわね──きゐこはそんな事を思いながら歩を進めていく。
「ふむ……夜に咲く花、シルクのような糸か。どんな薬になるのかさっぱり分からないが……また面白い薬なのだろうな」
顎に手を当て、そう言うのは『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)だ。大量の蜘蛛が相手と聞いたときには若干の躊躇はしたものの、それ以上に新しい薬への興味がウィリアムの探究心を刺激したようだ。
自由騎士達の目の前に現れたもの。それは月明かりを受け白銀に輝く密集したマダラセアカグモの巣だった。そしてその傍らにはこれもまた儚く淡い光を放つヨツユ草の花。
「綺麗……」
その光景を見た『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はその美しさに思わず息を呑む。
だが、その景色の中にはもう一つ、僅かながら鋭い光を放つものがあった。その赤い光は時間が経つごとに増えていく。それはマダラセアカグモの眼。自由騎士達の存在に気づいた巨大化したマダラセアカグモ達が集ってき始めたのだ。
「さて、と。先ずはクモを減らさないとな」
ウェルスが銃を構える。
「今後も継続して材料を入手する必要があるとしたら、蜘蛛は全滅させない方がいいのよね? たぶん」
エルシーの言葉には一理ある。
「そうね。今回は蜘蛛の糸採取が目的だし、今後の事も考えたら全滅させない方がいいように思うわ。あとは……熱に弱いヨツユ草のこともあるから攻撃方法は考えないといけないわ」
きゐこが同意すると、同じように他のメンバーも頷く。
「うぅ……やっぱり蟲は苦手です……」
月明かりの中に光る大量の蜘蛛の眼を見てアリアが身を強張らせる。この依頼においてアリアは珍しく及び腰だった。というのも今回の依頼と自身の戦闘スタイルの相性の悪さを感じとっていた為だ。
機動力を活かし、縦横無尽に駆け回るアリアにとって、峡谷に張り巡らされた粘着性の高い蜘蛛の巣は大きな枷となる。さらに広い攻撃範囲を持つ蛇腹剣『萃う慈悲の祈り』もその攻撃範囲の広さが仇となり、巣に絡まる可能性が高い。そもそも巨大な虫が平気な女子は少ないであろう。
「くるぞっ!!」
ウィリアムの声に合わせて自由騎士達はみな戦闘態勢へ。回復の要であるフーリィンは後方へ下がり、すぐにノートルダムの息吹を唱える。自由騎士達を自然回復の加護で優しく包み込む。
「サンキュー! フーリィン嬢。んじゃ、全滅させない程度にひと暴れするぜっ」
ウェルスが放った弾丸は薄氷を纏い、巣を縦横無尽に動き回る巨大なクモの動きを鈍らせる。ヨツユ草が熱に弱いことを考慮したうえでの攻撃。これが見事に功を奏していた。
「それにしても数が多いわねっ」
わしゃわしゃと近づいてくる巨大グモを片っ端から殴り飛ばすエルシー。怯む事無く真正面からその拳を叩き込んでいく。
巨大グモといえど幾多の経験を積んだ自由騎士にとって見ればその個々の攻撃力はさほど脅威では無い。だが周囲を取り囲むように現れた巨大グモの出血を伴う攻撃に加え、毒を持つ牙、更には遠距離から吐かれる粘着性の糸にも対応しなければならない。体力以上に精神力を消耗する闘いである。
一方、エコーズによる遠距離攻撃に順ずるアリア。虫に対する苦手意識もあってかその攻撃は普段の速度を載せた攻撃に比べれば、僅かに精細に欠いているようだった。それでも近づきたくない一心でアリアは魔導の矢を放ち続ける。
「やった! あ……れ?」
アリアは倒したマダラセアカグモのサイズが変わらない事に気づく。イブリース化したモンスターは巨大化するものも少なくない。そしてイブリース化が解ければ基本的にそのサイズも本来の大きさへ戻る。アリアはこの巨大化したマダラセアカグモもイブリース化によるものと勘違いしていたのだ。
(倒しても小さくならないよぉ……)
アリアに生まれた一瞬の躊躇。その瞬間の狙ったように四方から糸が吐かれ、アリアは手足の自由を奪われてしまう。
「い……いやっ!!」
糸はアリアの身体の至る所に付着し、腕や足、服にテンションをかけ始める。いやいやと首を振るアリアだったが、その細腕では糸から逃れる事はできない。クモ達はまるで嬲るようにゆっくりと吐いた糸を手繰り寄せ始める。次第に引き裂かれ、剥ぎ取られていくアリアの衣服。露になっていくアリアの柔肌。動けないアリアににじり寄る巨大なクモの群れ。
峡谷に降りてきた時はむしろ美しいとまで思った白銀に輝く糸。その糸によってよもや事になるなんて──そもそもの虫に対する嫌悪感と衣服を剥ぎ取られていく羞恥心も相成り、表情を強張らせ涙を滲ませるアリア。
「そこまでよっ!!」
「そこまでなのだわっ!!」
そんなアリアを救ったのはエルシーときゐこ。
きゐこの放った強力な電磁力場は、周囲のクモにダメージを与えると共にその動きを鈍らせる。
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
それに合わせるようにエルシーが放つ一撃は打撃を与えたクモを貫き、その衝撃を後方までも伝播させていく。
「もう大丈夫よ」
きゐこがその電磁力場で近くのクモの動きを封じている隙に、アリアの糸を持ってきた工具で剥がしていくエルシー。
「うぅ……べとべとするぅ……」
未だショックから抜けきれないアリアに絡みついた糸を、エルシーが剥がしきったその時だった。
きゐこの放つ電磁力場の届かぬ場所で複数のクモの赤い眼が光る。
遥か後方から無数に放たれた糸はエルシーの両腕ときゐこの足元を捉える。次々と放たれる糸。
エルシーは両腕の自由を奪われ、きゐこは足元にへばり付く糸によってずるずると引きずられてしまう。
「わ、わわわわわ……ちょっ!!」
そしてきゐこはそのまま宙吊りに……なるとどうなる!? はい! ここで今一度きゐこさんの服装を確認してみよう。そう! 正解。全身すっぽりのローブでぇす♪ このまま宙吊りになるとどうなる? ええ、ご想像の通りそうなりますよね。
「ちょっ、んcwじぇjfりだwkf」
声にならない言葉を発しながら必死にローブを抑えるきゐこ。抵抗せずローブがぺろんとめくれてしまった日には、その構造上どこまで見えてしまうのか、考えるだけでも恐ろしい。温泉では不覚にも晒してしまった(強い衝撃により見たものの記憶には残っていないが)乙女の秘密を死守すべく守りに徹するきゐこ。深く被ったフードの中のきゐこの表情や、如何に。
ここでアリアに続いてまたもやサービス(?)シーンなのかと思われた方もいるだろう。しかし皆さんはお気づきだろうか。今まさにクモの糸に囚われた2人の乙女のPOW値。実はこの依頼に参加した自由騎士の中でトップクラスである事に。
「むぐぐぐ……こんな糸……くらい……ハァーーーーーっ!!!」
まず束縛を逃れたのはエルシー。両腕にへばり付く糸を鍛え上げられたその腕力でむんずと掴み、強引に引き裂いた。急激に糸を引っ張られたクモ達が宙を舞う。
「私を縛りつけようなんて……100年早いのよっ!」
そしてそれを見たきゐこもまた冷静さを取り戻し、魔導スタイルとは思えぬほど鍛えられたその握力を遺憾なく発揮する。
「こう見えて私も割と力にも自信あるのだわ!」
きゐこは裾を結び、フードがずり落ちない事を確認すると力を込めて糸を引きちぎっていく。
最後のひと束を引きちぎり、落下するきゐこを受け止めたのはウェルス。今までどこに居たなどと野暮なことは言ってはいけない。それぞれがそれぞれの戦場で必死に戦っていたのだ──おそらく。
「とりあえず糸の対処法(?)もわかったし、ここからは一気に行くぜっ!!」
ウェルスが銃を構えなおす。
「皆さん、もう一息ですっ」
後方で回復を行いながら、常に全体の状況を見ていたフーリィンが声を掛ける。
夜目の効かないフーリィンは危険を覚悟しながら、カンテラの明かりにその身を照らされていたもの、仲間がそれぞれクモを引き付けるように行動していた事、更には自身も糸に対して細心の注意を払っていた事もあり、糸による束縛は一切受けず自由騎士たちを癒し続ける事が出来ていた。
「私の目が青いうちは、誰も倒れる事なんて許しません!」
そういうフーリィンの顔には、これまでも様々な困難の中で自由騎士を癒し続けてきた回復手としての誇りと自信が浮かぶ。
青みがかった長い銀髪を靡かせ、アウイナイトを思わせる青の瞳を持つ蒼光の癒し手は、今日もその役割の重要性を誰よりも重く受け止め、穏やかな笑顔を見せながら仲間の後方で大きな存在感を放つ。
そして闘いは佳境へと突入する。ウェルスの放つ弾丸が、エルシーの気合の篭った拳が、動揺しながらも放たれるアリアの魔導の矢が、ウィリアムが練成する傀儡兵士の鋭き刃が。そして──
「うがぁぁぁ!! さっきはよくも……やってくれたのだわ!!(あやうく丸見えになるところだったのだわ!!)」
杖をぶんぶん振りながら激おこぷんぷんのきゐこが、それでも意識を集中して繰り出したのは『鵺泣く空の霹靂鏃』。幾多の矢の如き雷の流星群は周囲のクモ達を沈黙させるのに十分な威力を誇っていた。
あれほど大量に居たクモ達も、気づけばその数を半数ほどにまで減らしていた。
「だいぶ減ってきたな」
戦いが始まると同時にウィリアムは可能な限りクモと距離を取り、スパルトイで呼び出した命なき兵士での攻撃を行っていた。距離さえとってしまえば気をつけなければいけないのは糸のみ。ウィリアムが努めて行う冷静な判断とその直感はいつに無く冴え渡っていた。攻撃面だけではない。範囲攻撃と回復の要であるきゐことフーリィンには適切にアンチトキシスを付与。消費の激しい2人の魔導力をしっかりと補っている。
「そろそろだなっ、エルシー、ウェルス、頼んだっ!」
ウィリアムが2人に声を掛ける。材料回収の合図だ。
そのままクモを引き付けるべく攻撃を続けるウィリアムと回復サポートを続けるフーリィン。
だが、数が減ってからのクモの動きに若干の違和感を感じたウェルスがここで仕掛ける。
「試してみるか。……獣化変身っ」
突如ウェルスがその身を変化させる。その姿は3メートルはあるであろう巨大な熊へと変化していた。
野生の持つ獰猛さを醸し出し、荒々しく身体を揺さぶるその姿。巨大といえど1メートル程度のクモの目にはどう写ったのか。その答えはすぐに判明する。
「グオオオオオオォォォァァァァァーーーッ!!」
巨大な熊と化したウェルスが、その体躯を眼一杯広げながら力一杯吼えた。
その瞬間、この場の力関係が決まる。
ウェルスの猛る声が響き終わった頃には、残ったクモ達は峡谷の闇へと消えていたのだった。
●
ウェルスの変身能力により逃げていったマダラセアカグモ。10数匹ほど倒したクモ達も、自由騎士の持つ不殺の能力によりしばらくすれば戻ることだろう。あとは必要なものを採取するだけだ。
「それにしてもウェルスさんそんな事も出来たんですねぇ」
名実共に熊そのものとなったウェルスにフーリィンが興味津々で話しかける。
「ん? まぁな。一か八かの賭けだったけどうまくいって何よりだぜ」
そういうと元に戻ったウェルス。少しドヤ顔。
「そうですね……ばっちりだったと思います♪」
ふふふ、と笑うフーリィン。
「それじゃ、改めて材料の回収だな」
ウィリアムの言葉で自由騎士達はそれぞれ回収に着手する。ウェルスは儚い光を放ちながら花を咲かせるヨツユ草を回収する。
(これが今咲いてる中じゃ一番だな)
ウェルスはそっとその花を別のポケットにしまった。
一方のエルシーときゐこ。クモの糸を切断すると丁寧に束ねていく。
エルシーは考える。シルクのように輝く糸。せっかくなのだから本来の糸としての使い道、衣服には使えないのかしら──そこはやはりエルシーもお年頃という事なのだろう。
きゐこもまた思考する。人が乗れるほどの強度もあるし、これ私たちの新しい防具の材料にも使えないかしら──きゐこが目をつけたのはその実用性。
多めに採取した糸にはエルシーの密かな想いと、きゐこの限りない探求心が詰まっている。
「ほれ、アリア嬢」
そういってウェルスがアリアに手渡したのは先ほど採取したヨツユ草の花。
え、という顔をしたアリアにウェルスが言葉を続ける。
「来る前から気にしてたみたいだからな。結構大変な依頼だったんだ。このくらいのご褒美は必要ってもんだろ?」
そういいながら茶目っ気たっぷりにウィンクするウェルス。
「……ありがとう」
手渡された花を大事そうに胸元に当て目を閉じるアリア。
今回はアリアにとって災難続きだった。色々相性が悪く、実力を発揮しきれなかった上に、怖い目にもあってしまった……でもその結果こんな素敵なものを手に入れる事が出来た。
帰ったら押し花にチャレンジしてみないと──アリアの顔には自然と笑みがこぼれていた。
「ふぅ。これだけの量があれば十分だな。じゃぁ急いで戻ろう!」
ウィリアムの言葉に皆が頷く。
(しっかし、この糸を見ると……つるつるした麺が食べたくなってきたな)
無事材料集めを終え岐路に着く自由騎士達の足取りは軽かった。
●
自由騎士団詰め所。
依頼達成の報告を受けたエミルは、すぐに詰め所に材料を受け取りに来た。
「あら、こんなにたくさん! ありがとう! ……あら?」
「また会ったな、エミル嬢」
そこには花束を持ち、決めポーズ決め顔のウェルス。
「さてさてエミル嬢。秘密が多い女性はとても魅力的だが、正直何に使うか分からない素材を突然集めさせるのは感心しないぜ?」
「……そうですね……」
耳と尻尾が下がり、しょんぼりとするエミル。
「ま……まぁ、お嬢なら変な物は作らないと思うから、これ以上は詮索しないさ。そう気を落とさないでくれっ」
そのあまりの落ち込みように、すぐさまご機嫌をとるウェルス。男はつらいぜ。
「そういえば……お胸が平らになるお薬、今は在庫ないかしら?」
フォローするようにエミルへ言葉を掛けたのはエルシー。そのけしからんお胸をまた小さくしたいとはなんともけしからん発言だ。これには世の男性諸君も共に異を唱えて頂きたいものである。
「今は他の薬の調合を試しているので……しばらくは作れないかも知れません」
「じゃあじゃあ! 大きくなる方はどうなのかしらっ」
前のめり気味に会話に入ってきたのは星影の美少女我らがきゐこさん。
「そちらは確か……1本残っていたはず。必要ならお譲りできますよ」
きゐこの表情がぱぁぁと明るくなったのはいうまでも無い。そこからのきゐこの動きは早かった。代金を渡し、薬を受け取ると……詰め所からすぐさま出て行ってしまった。その後何処かできゐこが至福の時間を過ごす事は言うまでもないのだが。
謎のイブリースが現れない事を麺は祈った。なんとなく察した自由騎士の偉い人も祈った。
「あらら。行っちゃった。それにしてもエミルさん、もっとちょくちょく行商に来てほしいわ。それに……蜘蛛の糸とヨツユ草の花でどんなお薬を作るのか、そろそろ教えてよ。だめ?」
詰め所を飛び出していったきゐこを見送りながらエルシーはこの依頼の核心に迫ろうとする。
「えっと……実は──」
エミルの話ではある程度の効果予想は出来るものの、結局は作ってみないと本当の意味での効果はわからないという。
「今回の薬の効果に付いては反転効果が見込まれる、とだけお伝えしておきますね」
エミルはありがとうと再度ぺこりと頭を下げると帰っていった。
「さてさて、今度はどんな変わったお薬になるんでしょう。願わくば人を笑顔にするものであってほしいです♪」
いずれお披露目されるであろう未知の薬にわくわくが止まらないフーリィン。きっと薬が完成した暁には真っ先に駆けつけてくるのだろう。
「……あ! デートの約束取り付けるの忘れたっ!!」
そこには悔しがる熊と「また次の機会だな」と神妙な顔で肩を叩くウィリアムの姿があった。
「ふぅ~~思いのほか大変だったな」
途中一息ついた『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は、遥か上から見下ろす月を見ながら言葉を漏らす。
出発前に商人のコネクションを利用し、下調べをしていたウェルスを先頭に、自由騎士達は峡谷を下っていく。
ここはス・ミーレ峡谷。大地自体が大きく割れて現れたような深い谷に自由騎士達は訪れていた。
「それにしても最初の薬やフードといい、妙に隠し事が多いなエミル嬢は」
「ふふ、謎多き女性も魅力的じゃないですか」
ウェルスの軽いぼやきに『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は笑いながら答える。以前エミルの薬の効果をその身を持って味わっているが故だろうか。2人は今回率先して協力を名乗り出ていた。
「まぁそうなんだが……あれだけの美人(獣)、もっとお近づきになりたいというか……」
ウェルスの行動はぶれる事無くわかりやすい。そしてそれは男としてきっと正しい。
「まあ私も彼女からの依頼という事で、(興味本位で)協力を申し出てみたのですが……」
くすりと笑いながらそう言うのはカンテラを持つ『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。フーリィンもまたエミルの薬の効果をその身で体感した1人。他にも変わった薬を扱うという薬師エミルの材料調達依頼、と言うのだから興味津々といったところであろう。
「私は……前のお薬の噂を聞いて釣られたなんて……あるわっ!」
声高に宣言しふんすと胸を張るのは『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)。その様子を見て、ウェルスがきゐこのとある部位を見つめながらうんうんと頷いているが、きっときゐこが怒るので気づかなかった事にしておこうと思う。皆も内緒にしておいてほしい。
「ま、それはそれとして! 新しい薬も気になるわね……」
効果次第だけど、できたら次は試してみたいわね──きゐこはそんな事を思いながら歩を進めていく。
「ふむ……夜に咲く花、シルクのような糸か。どんな薬になるのかさっぱり分からないが……また面白い薬なのだろうな」
顎に手を当て、そう言うのは『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)だ。大量の蜘蛛が相手と聞いたときには若干の躊躇はしたものの、それ以上に新しい薬への興味がウィリアムの探究心を刺激したようだ。
自由騎士達の目の前に現れたもの。それは月明かりを受け白銀に輝く密集したマダラセアカグモの巣だった。そしてその傍らにはこれもまた儚く淡い光を放つヨツユ草の花。
「綺麗……」
その光景を見た『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はその美しさに思わず息を呑む。
だが、その景色の中にはもう一つ、僅かながら鋭い光を放つものがあった。その赤い光は時間が経つごとに増えていく。それはマダラセアカグモの眼。自由騎士達の存在に気づいた巨大化したマダラセアカグモ達が集ってき始めたのだ。
「さて、と。先ずはクモを減らさないとな」
ウェルスが銃を構える。
「今後も継続して材料を入手する必要があるとしたら、蜘蛛は全滅させない方がいいのよね? たぶん」
エルシーの言葉には一理ある。
「そうね。今回は蜘蛛の糸採取が目的だし、今後の事も考えたら全滅させない方がいいように思うわ。あとは……熱に弱いヨツユ草のこともあるから攻撃方法は考えないといけないわ」
きゐこが同意すると、同じように他のメンバーも頷く。
「うぅ……やっぱり蟲は苦手です……」
月明かりの中に光る大量の蜘蛛の眼を見てアリアが身を強張らせる。この依頼においてアリアは珍しく及び腰だった。というのも今回の依頼と自身の戦闘スタイルの相性の悪さを感じとっていた為だ。
機動力を活かし、縦横無尽に駆け回るアリアにとって、峡谷に張り巡らされた粘着性の高い蜘蛛の巣は大きな枷となる。さらに広い攻撃範囲を持つ蛇腹剣『萃う慈悲の祈り』もその攻撃範囲の広さが仇となり、巣に絡まる可能性が高い。そもそも巨大な虫が平気な女子は少ないであろう。
「くるぞっ!!」
ウィリアムの声に合わせて自由騎士達はみな戦闘態勢へ。回復の要であるフーリィンは後方へ下がり、すぐにノートルダムの息吹を唱える。自由騎士達を自然回復の加護で優しく包み込む。
「サンキュー! フーリィン嬢。んじゃ、全滅させない程度にひと暴れするぜっ」
ウェルスが放った弾丸は薄氷を纏い、巣を縦横無尽に動き回る巨大なクモの動きを鈍らせる。ヨツユ草が熱に弱いことを考慮したうえでの攻撃。これが見事に功を奏していた。
「それにしても数が多いわねっ」
わしゃわしゃと近づいてくる巨大グモを片っ端から殴り飛ばすエルシー。怯む事無く真正面からその拳を叩き込んでいく。
巨大グモといえど幾多の経験を積んだ自由騎士にとって見ればその個々の攻撃力はさほど脅威では無い。だが周囲を取り囲むように現れた巨大グモの出血を伴う攻撃に加え、毒を持つ牙、更には遠距離から吐かれる粘着性の糸にも対応しなければならない。体力以上に精神力を消耗する闘いである。
一方、エコーズによる遠距離攻撃に順ずるアリア。虫に対する苦手意識もあってかその攻撃は普段の速度を載せた攻撃に比べれば、僅かに精細に欠いているようだった。それでも近づきたくない一心でアリアは魔導の矢を放ち続ける。
「やった! あ……れ?」
アリアは倒したマダラセアカグモのサイズが変わらない事に気づく。イブリース化したモンスターは巨大化するものも少なくない。そしてイブリース化が解ければ基本的にそのサイズも本来の大きさへ戻る。アリアはこの巨大化したマダラセアカグモもイブリース化によるものと勘違いしていたのだ。
(倒しても小さくならないよぉ……)
アリアに生まれた一瞬の躊躇。その瞬間の狙ったように四方から糸が吐かれ、アリアは手足の自由を奪われてしまう。
「い……いやっ!!」
糸はアリアの身体の至る所に付着し、腕や足、服にテンションをかけ始める。いやいやと首を振るアリアだったが、その細腕では糸から逃れる事はできない。クモ達はまるで嬲るようにゆっくりと吐いた糸を手繰り寄せ始める。次第に引き裂かれ、剥ぎ取られていくアリアの衣服。露になっていくアリアの柔肌。動けないアリアににじり寄る巨大なクモの群れ。
峡谷に降りてきた時はむしろ美しいとまで思った白銀に輝く糸。その糸によってよもや事になるなんて──そもそもの虫に対する嫌悪感と衣服を剥ぎ取られていく羞恥心も相成り、表情を強張らせ涙を滲ませるアリア。
「そこまでよっ!!」
「そこまでなのだわっ!!」
そんなアリアを救ったのはエルシーときゐこ。
きゐこの放った強力な電磁力場は、周囲のクモにダメージを与えると共にその動きを鈍らせる。
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
それに合わせるようにエルシーが放つ一撃は打撃を与えたクモを貫き、その衝撃を後方までも伝播させていく。
「もう大丈夫よ」
きゐこがその電磁力場で近くのクモの動きを封じている隙に、アリアの糸を持ってきた工具で剥がしていくエルシー。
「うぅ……べとべとするぅ……」
未だショックから抜けきれないアリアに絡みついた糸を、エルシーが剥がしきったその時だった。
きゐこの放つ電磁力場の届かぬ場所で複数のクモの赤い眼が光る。
遥か後方から無数に放たれた糸はエルシーの両腕ときゐこの足元を捉える。次々と放たれる糸。
エルシーは両腕の自由を奪われ、きゐこは足元にへばり付く糸によってずるずると引きずられてしまう。
「わ、わわわわわ……ちょっ!!」
そしてきゐこはそのまま宙吊りに……なるとどうなる!? はい! ここで今一度きゐこさんの服装を確認してみよう。そう! 正解。全身すっぽりのローブでぇす♪ このまま宙吊りになるとどうなる? ええ、ご想像の通りそうなりますよね。
「ちょっ、んcwじぇjfりだwkf」
声にならない言葉を発しながら必死にローブを抑えるきゐこ。抵抗せずローブがぺろんとめくれてしまった日には、その構造上どこまで見えてしまうのか、考えるだけでも恐ろしい。温泉では不覚にも晒してしまった(強い衝撃により見たものの記憶には残っていないが)乙女の秘密を死守すべく守りに徹するきゐこ。深く被ったフードの中のきゐこの表情や、如何に。
ここでアリアに続いてまたもやサービス(?)シーンなのかと思われた方もいるだろう。しかし皆さんはお気づきだろうか。今まさにクモの糸に囚われた2人の乙女のPOW値。実はこの依頼に参加した自由騎士の中でトップクラスである事に。
「むぐぐぐ……こんな糸……くらい……ハァーーーーーっ!!!」
まず束縛を逃れたのはエルシー。両腕にへばり付く糸を鍛え上げられたその腕力でむんずと掴み、強引に引き裂いた。急激に糸を引っ張られたクモ達が宙を舞う。
「私を縛りつけようなんて……100年早いのよっ!」
そしてそれを見たきゐこもまた冷静さを取り戻し、魔導スタイルとは思えぬほど鍛えられたその握力を遺憾なく発揮する。
「こう見えて私も割と力にも自信あるのだわ!」
きゐこは裾を結び、フードがずり落ちない事を確認すると力を込めて糸を引きちぎっていく。
最後のひと束を引きちぎり、落下するきゐこを受け止めたのはウェルス。今までどこに居たなどと野暮なことは言ってはいけない。それぞれがそれぞれの戦場で必死に戦っていたのだ──おそらく。
「とりあえず糸の対処法(?)もわかったし、ここからは一気に行くぜっ!!」
ウェルスが銃を構えなおす。
「皆さん、もう一息ですっ」
後方で回復を行いながら、常に全体の状況を見ていたフーリィンが声を掛ける。
夜目の効かないフーリィンは危険を覚悟しながら、カンテラの明かりにその身を照らされていたもの、仲間がそれぞれクモを引き付けるように行動していた事、更には自身も糸に対して細心の注意を払っていた事もあり、糸による束縛は一切受けず自由騎士たちを癒し続ける事が出来ていた。
「私の目が青いうちは、誰も倒れる事なんて許しません!」
そういうフーリィンの顔には、これまでも様々な困難の中で自由騎士を癒し続けてきた回復手としての誇りと自信が浮かぶ。
青みがかった長い銀髪を靡かせ、アウイナイトを思わせる青の瞳を持つ蒼光の癒し手は、今日もその役割の重要性を誰よりも重く受け止め、穏やかな笑顔を見せながら仲間の後方で大きな存在感を放つ。
そして闘いは佳境へと突入する。ウェルスの放つ弾丸が、エルシーの気合の篭った拳が、動揺しながらも放たれるアリアの魔導の矢が、ウィリアムが練成する傀儡兵士の鋭き刃が。そして──
「うがぁぁぁ!! さっきはよくも……やってくれたのだわ!!(あやうく丸見えになるところだったのだわ!!)」
杖をぶんぶん振りながら激おこぷんぷんのきゐこが、それでも意識を集中して繰り出したのは『鵺泣く空の霹靂鏃』。幾多の矢の如き雷の流星群は周囲のクモ達を沈黙させるのに十分な威力を誇っていた。
あれほど大量に居たクモ達も、気づけばその数を半数ほどにまで減らしていた。
「だいぶ減ってきたな」
戦いが始まると同時にウィリアムは可能な限りクモと距離を取り、スパルトイで呼び出した命なき兵士での攻撃を行っていた。距離さえとってしまえば気をつけなければいけないのは糸のみ。ウィリアムが努めて行う冷静な判断とその直感はいつに無く冴え渡っていた。攻撃面だけではない。範囲攻撃と回復の要であるきゐことフーリィンには適切にアンチトキシスを付与。消費の激しい2人の魔導力をしっかりと補っている。
「そろそろだなっ、エルシー、ウェルス、頼んだっ!」
ウィリアムが2人に声を掛ける。材料回収の合図だ。
そのままクモを引き付けるべく攻撃を続けるウィリアムと回復サポートを続けるフーリィン。
だが、数が減ってからのクモの動きに若干の違和感を感じたウェルスがここで仕掛ける。
「試してみるか。……獣化変身っ」
突如ウェルスがその身を変化させる。その姿は3メートルはあるであろう巨大な熊へと変化していた。
野生の持つ獰猛さを醸し出し、荒々しく身体を揺さぶるその姿。巨大といえど1メートル程度のクモの目にはどう写ったのか。その答えはすぐに判明する。
「グオオオオオオォォォァァァァァーーーッ!!」
巨大な熊と化したウェルスが、その体躯を眼一杯広げながら力一杯吼えた。
その瞬間、この場の力関係が決まる。
ウェルスの猛る声が響き終わった頃には、残ったクモ達は峡谷の闇へと消えていたのだった。
●
ウェルスの変身能力により逃げていったマダラセアカグモ。10数匹ほど倒したクモ達も、自由騎士の持つ不殺の能力によりしばらくすれば戻ることだろう。あとは必要なものを採取するだけだ。
「それにしてもウェルスさんそんな事も出来たんですねぇ」
名実共に熊そのものとなったウェルスにフーリィンが興味津々で話しかける。
「ん? まぁな。一か八かの賭けだったけどうまくいって何よりだぜ」
そういうと元に戻ったウェルス。少しドヤ顔。
「そうですね……ばっちりだったと思います♪」
ふふふ、と笑うフーリィン。
「それじゃ、改めて材料の回収だな」
ウィリアムの言葉で自由騎士達はそれぞれ回収に着手する。ウェルスは儚い光を放ちながら花を咲かせるヨツユ草を回収する。
(これが今咲いてる中じゃ一番だな)
ウェルスはそっとその花を別のポケットにしまった。
一方のエルシーときゐこ。クモの糸を切断すると丁寧に束ねていく。
エルシーは考える。シルクのように輝く糸。せっかくなのだから本来の糸としての使い道、衣服には使えないのかしら──そこはやはりエルシーもお年頃という事なのだろう。
きゐこもまた思考する。人が乗れるほどの強度もあるし、これ私たちの新しい防具の材料にも使えないかしら──きゐこが目をつけたのはその実用性。
多めに採取した糸にはエルシーの密かな想いと、きゐこの限りない探求心が詰まっている。
「ほれ、アリア嬢」
そういってウェルスがアリアに手渡したのは先ほど採取したヨツユ草の花。
え、という顔をしたアリアにウェルスが言葉を続ける。
「来る前から気にしてたみたいだからな。結構大変な依頼だったんだ。このくらいのご褒美は必要ってもんだろ?」
そういいながら茶目っ気たっぷりにウィンクするウェルス。
「……ありがとう」
手渡された花を大事そうに胸元に当て目を閉じるアリア。
今回はアリアにとって災難続きだった。色々相性が悪く、実力を発揮しきれなかった上に、怖い目にもあってしまった……でもその結果こんな素敵なものを手に入れる事が出来た。
帰ったら押し花にチャレンジしてみないと──アリアの顔には自然と笑みがこぼれていた。
「ふぅ。これだけの量があれば十分だな。じゃぁ急いで戻ろう!」
ウィリアムの言葉に皆が頷く。
(しっかし、この糸を見ると……つるつるした麺が食べたくなってきたな)
無事材料集めを終え岐路に着く自由騎士達の足取りは軽かった。
●
自由騎士団詰め所。
依頼達成の報告を受けたエミルは、すぐに詰め所に材料を受け取りに来た。
「あら、こんなにたくさん! ありがとう! ……あら?」
「また会ったな、エミル嬢」
そこには花束を持ち、決めポーズ決め顔のウェルス。
「さてさてエミル嬢。秘密が多い女性はとても魅力的だが、正直何に使うか分からない素材を突然集めさせるのは感心しないぜ?」
「……そうですね……」
耳と尻尾が下がり、しょんぼりとするエミル。
「ま……まぁ、お嬢なら変な物は作らないと思うから、これ以上は詮索しないさ。そう気を落とさないでくれっ」
そのあまりの落ち込みように、すぐさまご機嫌をとるウェルス。男はつらいぜ。
「そういえば……お胸が平らになるお薬、今は在庫ないかしら?」
フォローするようにエミルへ言葉を掛けたのはエルシー。そのけしからんお胸をまた小さくしたいとはなんともけしからん発言だ。これには世の男性諸君も共に異を唱えて頂きたいものである。
「今は他の薬の調合を試しているので……しばらくは作れないかも知れません」
「じゃあじゃあ! 大きくなる方はどうなのかしらっ」
前のめり気味に会話に入ってきたのは星影の美少女我らがきゐこさん。
「そちらは確か……1本残っていたはず。必要ならお譲りできますよ」
きゐこの表情がぱぁぁと明るくなったのはいうまでも無い。そこからのきゐこの動きは早かった。代金を渡し、薬を受け取ると……詰め所からすぐさま出て行ってしまった。その後何処かできゐこが至福の時間を過ごす事は言うまでもないのだが。
謎のイブリースが現れない事を麺は祈った。なんとなく察した自由騎士の偉い人も祈った。
「あらら。行っちゃった。それにしてもエミルさん、もっとちょくちょく行商に来てほしいわ。それに……蜘蛛の糸とヨツユ草の花でどんなお薬を作るのか、そろそろ教えてよ。だめ?」
詰め所を飛び出していったきゐこを見送りながらエルシーはこの依頼の核心に迫ろうとする。
「えっと……実は──」
エミルの話ではある程度の効果予想は出来るものの、結局は作ってみないと本当の意味での効果はわからないという。
「今回の薬の効果に付いては反転効果が見込まれる、とだけお伝えしておきますね」
エミルはありがとうと再度ぺこりと頭を下げると帰っていった。
「さてさて、今度はどんな変わったお薬になるんでしょう。願わくば人を笑顔にするものであってほしいです♪」
いずれお披露目されるであろう未知の薬にわくわくが止まらないフーリィン。きっと薬が完成した暁には真っ先に駆けつけてくるのだろう。
「……あ! デートの約束取り付けるの忘れたっ!!」
そこには悔しがる熊と「また次の機会だな」と神妙な顔で肩を叩くウィリアムの姿があった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『糸と花』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
材料集めも終わりエミルは薬の生成に入ったようです。
また完成した暁には自由騎士達の前に姿を現すことでしょう。
MVPは動物変化の活用法のひとつを見せた貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
ご感想などいただければ幸いです。
また完成した暁には自由騎士達の前に姿を現すことでしょう。
MVPは動物変化の活用法のひとつを見せた貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
ご感想などいただければ幸いです。
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