MagiaSteam
タルタロス。或いは、地の底の鳥籠……。



●牢獄に咲く花
 今は破棄されたとある牢獄。
 高く厚い岩の壁に囲まれた難攻不落の大監獄。
 当時の罪人たちからは、通称【タルタロス】の名で呼ばれていた。
 一説によれば、タルタロスには軍や警察機関とは独立した、ある特殊組織が存在していたとのことだ。
 その組織とは、罪人たちによって構成された【道連れ衆】と呼ばれるものだ。
 蛇の道は蛇、といったところか。
 死刑を待つばかりの罪人たちは、同じ罪人を捕らえることで監獄からある恩赦を受けた。
 減刑である。
 中には、誰よりも多くの罪人を捕らえた功績により、罪人でありながら監守たちから気安く接されていたものもいるそうだ。
 だが、いかに刑が軽くなるとはいえ、罪人たちが大人しく監獄側の命令に従うだろうか?
 近年では「道連れ衆は脳や肉体を改造されたことにより、監守たちには従順であった」という説もある。
 しかし、タルタロスが破棄されたのは数十年も昔のことだ。
 当時の資料も残っておらず、もはや真実は闇の中……。
 今は遺跡として、観光資源として利用されている。
 そんなある日……。
「監獄の奥、牢獄の並ぶ区画でさ……俺は確かに、呻き声を聞いたんだ」
 観光に来た客が、以上のようなことを言い出した。
 同じ主張を行う者はその後も後をたたず、タルタロスには国の捜査が入ることになる。
「壁の亀裂の隙間からその声は漏れていた。たぶん地下じゃねぇかな」
 そのような報告があったこともあり、捜査に訪れた騎士たちは監獄の地下へ捜査の目を向けた。
 捜査の結果、監獄の地下には運動場ほどの空間があることがわかった。
 そして、その地下空間には7体の【還リビト】がさ迷い歩いていることも……。

●作戦開始
「ってわけで、お前らに頼みたいのはタルタロス地下で発見された還リビトたちの討伐だ」
 抜かるなよ、と『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は皮肉気に口角を吊り上げる。
「タルタロスの地下の空間だが、鳥かごのように周囲を檻で囲まれている。檻には魔術的な細工が施されているみたいでな、檻の外から中へは攻撃が届かないようだ」
 加えて言うなら、檻の内部からの攻撃も外に溢れることはない。
 また、檻の出入り口は狭く1人ずつしか出入りができない仕様のようだ。
「しかも、放っておくと数秒で勝手に閉じるらしい。おそらく、中にいる奴らを逃がさないためだろうな」
 その証拠に、檻の扉に長く手を触れていると、強力な電流が流れる仕組みになっている。
 誰かが支えて、扉を開けっぱなしにしておく……なんてことは不可能だ。
「檻の周辺には無数のカンテラが設置されているみたいだぜ? 光源を確保したいのなら、戦闘前に灯しておけよ」
 明かりを灯すことにより、もしかすると還リビトたちの動きも活発になる可能性もある。
 そこは、参加メンバーの相談によって決めるべき部分だろう。
「7体の還リビトは【道連れ衆】とやらで間違いないだろうな。だが……」
 と、そこで言葉を途切れさせ、ヨアヒムは眉間に皺を寄せた。
 その場に集う自由騎士たちは、視線で言葉の続きを促す。
 意を決したようにため息を零し、ヨアヒムは吐き捨てるようにセリフを続けた。
「7体の還リビトは、どれも身体を改造されているらしい。檻の中には無数の骨が散らばっていたって話だからな、おそらくは腐敗や風化の少なかった7体が還リビトになったんだろう」
 身体を改造されている、とヨアヒムは言った。
 改造の範囲は個体によって様々だ。
 たとえば、腕を数本縫い付けられた者もいる。
 下半身を大蛇のそれに付け替えられた者もいる。
 巨大な獣の頭部に、上半身を埋め込まれた状態の者もいる。
 どれも、まともな人間の所業とは思えない有様。
 けれど、おそらくはその改造を施したのはタルタロスの監守や、その協力者なのだろう。
「どいつもこいつも【ショック】の状態異常を付与して来やがる。しっかり対策しておけよ」
 動きが止まったその隙に、集中攻撃を受けてはたまらない。
「それから、一等注意が必要なのが牛頭の還リビトだ」
 ほかの個体よりも一回り身体が大きく、そしてひどく狂暴らしい。
 手足には無数の鉄球が括りつけられているが、それを意にも介さずに動き回るのだ。
「仮に〝ミノス〟と呼ぶが……こいつは【ショック】に加えて【ウィーク】状態も付与してくるぞ」
 生きて帰って来てくれよ、と。
 そう言ってヨアヒムは、仲間たちを送り出す。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
病み月
■成功条件
1.還リビトの殲滅。
●ターゲット
ミノス(還リビト)×1
牛頭の道連れ衆。大半の個体よりも一回り大きな身体を持つ。
手足には無数の鉄球がつながれており、それを武器として振るう。
また、ひどく頑丈かつ狂暴であるようだ。

・道連れ[攻撃] A:物近単[ショック]
改造された身体で、力任せの殴打を放つ。


・バーサーク[攻撃] A:物近範[ウィーク2]
鉄球を振り乱し、周囲の敵を薙ぎ払う。


【道連れ衆】(還リビト)×6
身体を改造されたかつての囚人のなれの果て。
現在下記の個体が確認されている。
腕を数本縫い付けられた個体。
下半身を大蛇のそれに付け替えられた個体。
巨大な獣の頭部に、上半身を埋め込まれた個体。
残る3体も、似たような改造を施されていることが予想される。
また、活発に活動する個体を優先的に狙う性質を持つ。

・道連れ[攻撃] A:物近単[ショック]
改造された身体で、力任せの殴打を放つ。


●場所
大監獄【タルタロス】の地下。運動場ほどの広さを持つ巨大な監獄。
鳥籠のように、周辺を檻で囲まれている。檻の外にはカンテラが備えられており、火を灯すことで光源の確保が可能。
檻には魔術的な仕掛けが施されており、外から中へ、中から外へ、の攻撃やスキルを遮断する。
出入口は狭く、1人ずつしか通れない。
出入口の扉は自動で閉じる。
また、扉に長く触れていると強力な電流によりダメージを受けるので注意が必要。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
11モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2020年06月13日

†メイン参加者 4人†




 今は破棄されたとある牢獄。
 高く厚い岩の壁に囲まれた難攻不落の大監獄。
 当時の罪人たちからは、通称【タルタロス】の名で呼ばれていたその監獄には【道連れ衆】と呼ばれる、人体改造を施された罪人たちが収監されていた。
 監獄の破棄と共に、道連れ衆の存在もそれに関する資料も失われ、すでに実在さえも疑わしいものとなっていた……そのはずだったのだが。
 
 大監獄【タルタロス】地下。
 鳥籠のような巨大な檻に囲まれた、運動場ほどの広い空間。その檻の中には異形の人影。
 それは動物と接合された、かつての囚人の慣れの果て。
 たとえばそれは、腕を数本縫い付けられた個体であったり。
あるいは、下半身を大蛇のそれに付け替えられた個体であったり。
または、巨大な獣の頭部に、上半身を埋め込まれた個体であったり。
 その数は全部で7体。そのどれもが、人体を改造された【還リビト】である。
 おそらくは、地下牢獄に放置されていた死体が変異したものだろう。
「いくら死刑囚とはいっても、こんな人体改造が許されていいはずがないわ。道連れ衆は脳を改造されていたって説があるらしいけど、この有様をみたらうなづけるわね」
地下牢獄の手前、苦い顔をした『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が拳を握りしめ、そう呟いた。
暗所で視界を確保するためか、夜間用眼鏡を装着している。
 幾分昔の出来事とはいえ……たとえ死刑囚を対象としたものとはいえ、その所業はあまりに惨い。
 凄惨。その一言に尽きるだろう。
 道連れ衆となった囚人たちは、その任務に応じて減刑を受けていたのそうだが、それにしても惨過ぎる。身体だけでなく、脳までいじられていたという噂も真実味を増すというものだ。
「ふむ。余もこれまで妖怪や魑魅魍魎……この国では幻想種か? そういった類はよくみてきたが、道連れ衆の人体改造とやらはまるでそれらの様じゃの」
 手にしたカンテラを顔の高さにまで掲げ、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は腰に下げたひょうたんへと手を伸ばす。
 ひょうたんの中身は酒だ。酔拳を修めた彼女にとって、戦闘前の飲酒はもはや習慣だ。
 とはいえ、今回ばかりはその手も止まる。
 だが、酔わねば本領を発揮できない。
 仕方なし、とひょうたんを取り喉の奥へと酒精を流し込むのであった。
「こんな辛気臭い場所では酒もうまくない! さっさと終わらせて飲みにいくぞ」
「えぇ、それがよろしいかと。それにしても、タルタロスの監守たちは……どうしてこんなことまで」
 気遣うような視線を天輝へ送り、セアラ・ラングフォード(CL3000634)は思案する。
 道連れ衆と呼ばれる彼らは、凶悪犯を捕縛するために組織された死刑囚によるチームだったと聞いている。
 蛇の道は蛇、ということか。
「道連れ衆か。なんだか名前も気の毒な感じだな、きっと看守がつけたんだな」
 戦斧を肩に担いで、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はそう呟いた。
 金色の髪と、褐色の肌をした女丈夫・ジーニーとはいえ、さすがに改造された囚人たちを直視するのは精神的にくるものがあるのか、眉間には深い皺が刻まれている。
 檻の中の道連れ衆たちが、自由騎士の接近に気が付いた。
 緩慢な動作で、けれど強い戦意を滾らせながら檻の出入り口へと近づいてくる。
「いいわ、行きましょう。私が最初に檻の中に入ります」 
 と、そう言って。
朱色の籠手を嵌めた手で、エルシーは牢の扉を開け放つ。


 扉を開け鳥籠の中へと入ったエルシーに、2体の道連れ衆が殺到する。
否、正確に言うなら7体すべてが寄って来ているのだがとりわけ速かったのがその2体というわけである。
 大蛇の下半身を持つ個体と、獣の頭部に人の上半身が縫い付けられた個体である。
「まだまだ……なるべく多くの個体を間合いに入れて」
 腰を低くし、エルシーは敵の動きに意識を這わせる。
 そうしながらも、その全身に気を滾らせて開放の時に備えていた。
 今の彼女は、例えるならば爆発する寸前のダイナマイトのようなものだろう。
 やがて……。
「ぐ……今っ!」
 蛇の下半身を持つ道連れ衆の攻撃が、エルシーの頬を引き裂いた。
 飛び散る鮮血に視界を潰されながらも、エルシーは正拳突きを前方へ向け繰り出した。
 初めの一撃が、蛇の下半身を持つ道連れ衆の顎を打ち抜く。
 よろけた拍子に、胸部へ向けて体当たり。
 迫る獣型の個体がエルシーの肩を食いちぎった。
 だがエルシーは止まらない。腐り、濁った獣の瞳に全力の拳を叩き込む。
 しゃがれた咆哮は獣のものか。
 ステップを踏んで、2体の頭上を跳び越えて、さらには多腕の道連れ衆へ蹴りを。
 続け様に2連撃。
 そして……。
「……固い!」
 最後に放った渾身の一撃は、巨大な鉄球に受け止められた。
 衝撃と激痛がエルシーの腕を襲う。
 痛みに顔をしかめるエルシーを見て、鉄球を放った道連れ衆……ミノスとあだ名される個体は、不気味に笑ったように見えた。

 一方そのころ、エルシーの作った隙を突き仲間たちが檻の内部へと駆けこんでいる。
 この檻の特性か、内部と外部を遮断する効果が付与されているのだ。
 つまり、檻の中に入らねば道連れ衆にダメージを与えることができないのである。
「檻の中に入るのは、あまりいい気分ではないのう。さっさと終わらせるかの」
 ひょうたんの中身を喉の奥へと流し込み、天輝はひっくとしゃっくりを一つ。
 よろけるような、あるいは流れる水のような動きでもって、檻に張り付いていた蛇型の顎を掌打で打ち上げた。
 還リビトである道連れ衆が痛みを感じているかは分からない。
 天輝の感覚では「クリティカルヒット」と言えるほどに、タイミングと角度は適当なものであったのだが……。
「っとと」
 振り回された太い尾が、天輝の足元を薙ぐ。
 咄嗟に宙へ舞うことで、その一閃を回避する。
 変わりに、獣型の道連れ衆が大口を開けて天輝へと跳びかかる。

「道連れ衆って、もう人間とは呼べないぐらいな魔改造じゃん! いくら減刑したいからって、ここまでやるか?」
 獣型の牙が天輝に届くその寸前、横合いから跳び込んだジーニーの戦斧が獣型の横っ面を深く切り裂く。
 飛び散る鮮血の色は黒。
 獣の部分はノーリアクションだが、頭部に埋め込まれた人の身体はわずかにだが怯んだような仕草を見せた。
 それを目にして、ジーニーは露骨に嫌悪感をあらわにする。
 天輝とジーニーの視線が交差し、一瞬で意志の疎通を終えた。
 着地したジーニーが戦斧を下から上へと振り上げる。
 落下する天輝が、勢いを乗せた掌打を獣型の頭部……人型部分の頭部だ……へと叩き込む。
 上下からの同時攻撃を受け、獣の下あごは吹き飛び、人部分の首はへし折れた。
 残す道連れ衆は、あと6体。

 後衛に控えたセアラの元へ、蝙蝠の翼を持った道連れ衆が迫りくる。
 暗所でも視野は十分に確保できているのだろう。
 的確に仲間たちの攻撃範囲を回避しながら、滑るような動きで迫る。
 その翼がセアラの喉へ向けて叩き込まれる、その寸前。
「戦闘なら他の方に挑んでください。私の本分は回復ですので!」
 と、そう言って。
 セアラは聖遺物を用いて、翼の一撃を受け止めた。
 弾き飛ばされたセアラは、檻に背中を強くぶつける。
 けれど、彼女は悲鳴を零すことはおろか、瞳を閉じさえしなかった。
 展開するは癒しの魔法。
 自身や仲間たちへ向け、回復術を行使する。
 そうすることが最高率だというように。
 そして、事実……。
「攻撃こそ最大の防御らしいぜ! どりゃあ~っ!」
 大戦斧による横一線が、蝙蝠型を真っ二つに切り裂いた。

 蛇型の個体にトドメを刺した天輝は多腕の個体へと視線を向けた。
 多腕の個体と並ぶようにして天輝へ向かってくるのは、両の手足を獣のそれに付け替えられた個体であった。
 2体並んだ道連れ衆を視界に収め、にぃと天輝くは口角を吊り上げる。
 蛇型の個体から受けた傷も、すでにセアラの回復術によって癒えていた。
 淡い燐光の軌跡を描き、暗闇の中天輝が疾駆する。
「還リビトなら火葬であろう。そら、あの世へ送り返してやるぞ」
 頭上へ向けて、天輝はカンテラを放る。
 ひゅおん、と宙を舞うカンテラがちらちらとした炎の灯りを暗闇に散らす。
 カンテラを放った姿勢のまま、天輝は頭上へ向けて手を翳したまま動きを止める。
 展開された赤い魔法陣。
 周囲の温度が、ひゅっと数度ほど低下した。天輝の魔法陣が周囲の熱を吸収し、火炎球を形成したのだ。
 天輝はそれを、道連れ衆たちへ向けて放るように投げつける。
「皆、避けてくれよ」
 と、天輝が告げた瞬間、檻の内部を大火炎が吹き荒れる。

 獣のような咆哮が、檻の内部に響き渡った。
 エルシーの雄叫びを正面から浴び、ミノスは僅かに身を硬直させた。
 けれどそれはほんの一瞬。
 振り回された鉄球が、エルシーの横腹を殴打する。
 ミシ、と骨の軋む音。
「できれば緩慢な動きの還リビトを1体ずつ各個撃破していきたいところだけど」
 血混じりの唾を吐き捨てて、エルシーは強い視線をミノスへ向けた。
 手足に鉄球を括られている割に、なんと動きの素早いことか。
 牛頭巨体のミノスはやはり、ほかの道連れ衆とは一線を画す実力を備えているらしい。
 還リビトゆえか、それとも元来の性能か、ミノスの体力は膨大だ。
「それなら……」
 根競べ、というべきか。
 踊るようなステップで、エルシーはミノスに拳を叩き込む。
 1発、2発、3発と。
 続け様に放たれる拳のラッシュ。
 けれどミノスも怯まない。
 がむしゃらに振り回される鉄球が、エルシーの身体を打ち据える。
 ガツン、と。
 頭部への一撃を受け、エルシーは体制を大きく崩した。
 視界が暗転。一瞬だが、意識が飛んだ。
 その隙をついて、ミノスは姿勢を低くして、牛角による刺突を放つ。

「回復……いえ、ここは!」
 思考は一瞬。
 セアラは即座に魔力を練り上げ、それを一気に解き放つ。
 道連れ衆は活発に活動する個体を優先的に狙う。そのため、ここまでセアラは移動や動作を最低限に抑えるように行動していた。
 けれど、ここに来て彼女は道連れ衆に狙われるリスクを取ってでも、エルシーの援護を選んだのだ。 
 回復が完了する前に、エルシーが戦闘不能に陥るだろうと判断したからだ。
 吹き荒れる魔力の渦が、ミノスの身体を……そして、ジーニー&天輝と交戦中だったサイに似た個体を飲み込んだ。
 魔力の渦に弾かれて、エルシーの身体が弾き飛ばされる。
 どうやら意識を取り戻したようだ。血塗れの顔を抑えて、小さく呻き声をあげている。
 魔力の渦が消えると共に、セアラはエルシーの回復へ移った。

 サイの身体。角の根元には、囚人の目が覗いていた。
 サイの表皮の内側に、囚人の身体が埋め込まれているのだろう。サイの分厚い表皮に守られている限り、囚人にダメージは与えられないと、そういうことだ。
 反面、その動きは鈍重だ。
 加えて今は、ジーニー&天輝、そしてセアラの攻撃を受けて体力を大きく減らしている。
 地面を蹴る動作を数度繰り返し、サイ型の個体は弾丸のような速度と勢いで跳び出した。
「角ごとへし折ってぎったんぎったんにしてやるぞ!」
 迎え撃つように、ジーニーは斧を大上段へ振りかぶる。
 サイの体の中で、唯一囚人の生身が覗く角の下。
 そこを目掛けて、ジーニーは斧の一撃を叩き込んだ。
 檻全体が揺れるほどの衝撃。
 サイとジーニーは、それぞれ後方へ弾き飛ばされ……。
「……っしゃぁ!!」
 立ち上がったのは、ジーニーだった。


「皆さん、後はその1体だけです!」
 淡い燐光が周囲を舞った。
 セアラの回復術が、仲間たちの傷を癒す。
 燐光を纏ったエルシーが、顏を濡らす血を荒く拭った。
 天輝は、景気づけとばかりにひょうたんの中身をすべて飲み干す。
 ジーニーは、斧の調子を確かめるように素振りを数度。にぃ、と獣染みた笑みを浮かべた。
 はじめに動いたのはミノスであった。
 左右の腕を頭上へ翳し、力任せに鉄球を地面へ振りおろす。
「調子に乗るなよ、牛野郎! パワー自慢はお前の専売特許じゃないって事を教えてやるぜ!」
 腰を低く落としたジーニーは、かち上げるように斧の一撃を鉄球目掛けて繰り出した。
 衝撃がジーニーの体力を削る。
 真正面から攻撃を受けたことにより、ジーニーの体力は限界だ。けれど、それこそ彼女の望むところ。発動させるスキルは【バーサーク】。損傷を力に変える狂気の御業。
 狂化し、強化されたジーニーの身体能力は、ここに来てミノスのそれを上回る。
「おぉ、っらぁ!」
 渾身の力を込めた一撃が、ミノスの鉄球を粉々に砕いた。
 満身創痍。けれど、それはミノスも同じことだ。
 鉄球を砕かれたミノスは、攻撃手段を1つ失ったことになる。
 ならば、こそ。
「手数は減ったな。これでこちらの被ダメージも軽減されると言うものよ」
 降り注ぐ鉄球の破片を掻い潜るようにして、天輝がミノスへ接近。
 その手に作った冷気の光球をミノスの腹部へと叩き込んだ。
 さらに、ミノスの太い胴に添うようにして背後へと回る。
 狙うは膝だ。
 ミノスの膝裏へ向け、鋭い手刀を叩き込む。
 その数は10を超えただろうか。
 体勢を崩し、ミノスはその場に膝を突いた。
 そして、トドメを担うはエルシーだ。
「安心しなさい。元死刑囚とはいえ、死者の魂は弔うわ。またイブリース化されても困るしね」
 と、そう呟いて。
 赤く染まったミノスの瞳を真正面から睨み返して、エルシーは咆哮とともに拳を放つ。
 眉間にめり込んだ彼女の拳は、確実にミノスの脳を破壊せしめて見せたのだろう。
 白目を剥いたミノスは、そのままガクリとうつ伏せに倒れ込んだのだった。
 ポロリ、と。
 傷だらけの角が、地面に落ちる。

「ココで慚愧の瞳を使う気にはなれないなぁ、さすがに」
 散らばる遺体や遺骨を眺め、ジーニーは深くため息を吐いた。
 彼女の瞳は、死者の記憶をほんの1分だけ垣間見ることができるのだ。
 顔をしかめるジーニーの隣では、セアラが胸の前で手を組み静かに祈りを捧げている。
 死刑囚とはいえ、死者は死者。
 その死をもって、既に罪は許されたものと彼女は考えているらしい。
「檻の中に入れられた方達の為にお祈りを。それから、地下の調査は、何か記録でも残っていたりするでしょうか……?」
 祈りを終えたセアラは、檻の外周へと視線を向ける。
 ともするとこの場のどこかに、道連れ衆に関する資料が残っているのではないか、と。
 そんなことを考えて。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『傷だらけの黒角』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
FL送付済