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【万世一系】秩序の守護者

●
和を以て貴しとするはずのアマノホカリの民が、今や和を忘れ果て、忠孝の道も見失いつつある。
武村重秀は本気で、そう思った。
「黒岩……そなた今、何と申した……?」
「殿の御耳に、御心に届くまで、幾度とて申し上げましょうぞ」
平伏していた黒岩十兵衛が、重秀の許しを得る事なく顔を上げた。
「大滝、蛇谷、赤沼、鹿乃石、三山、竹沢……以上6村、この度の年貢を免除いたしました。これらの村人どもは今や、飢えて死ぬるか邪宗門に身を投ずるか、そこまで追い詰められておりますゆえ」
領主・武村家の重臣で、主に徴税に関わる職務を司っている男である。
そのような役職の者が、勝手に税を免除してしまう。それは私腹を肥やすに等しい行為だ、と重秀は思う。
「勝手な行いを……! その方、領主にして主君たる余を軽んずるか!」
「されば御手討ちを」
黒岩が、ぎらりと眼光を向けてくる。
「この首、どうぞ刎ねられませ」
「黒岩……うぬは……」
「さあ、お腰のものを抜きなされませ。立派な大小は飾りにござるか」
「だっ誰ぞある! こやつを斬れ! この痴れ者を斬首せよ!」
「殿、御自らなされませ。もののふを束ねられる御方、そうでなければなりませぬ」
主君にかような暴言をぶつける黒岩を、誰も斬ろうとしない。重秀が命令を叫んだと言うのに、誰も駆け付けて来ない。飛び込んで来ない。
脇息にすがりつき青ざめる重秀を睨み据えながら、黒岩は許しもなく立ち上がった。
「手ずからの誅殺……主君に背いた者への罰など、それしかないのですぞ。出来ぬなら大名たる資格なし! 夏美様に家督を譲られるが良かろう」
暴言を残し、黒岩は去って行く。
青ざめ、見送る重秀の傍らで、囁く者がいる。
「総領娘・夏美様の御声望は凄まじいものでありますなあ……黒岩殿の仰せられた通り、家督をお譲りになってはいかがかと」
嘲笑、に近い口調である。
「事を荒立てず御隠居なされば、夏美様とてお父上を粗略にはなさいますまい」
「黙れ……月堂……」
重秀は呻いた。
「余は、主君であるぞ。父親であるぞ、領主であるぞ……子は父に、家臣は主君に従う、それこそが天下泰平というものであろうに……」
「天下泰平、それは万民が天朝様に順う事を言うのです。貴方もですぞ、重秀殿」
月堂の声が、重秀の耳から脳髄に這入り込んで来る。
「戦乱の世は、下々の者たちが天朝様を軽んずる事から始まったのです。まずは重秀殿、貴方が天朝様への忠誠を取り戻しなさい。さすれば武村家は忠臣の第一等、アマノホカリ様の御加護のもと栄達も叶いましょう。宇羅の鬼どもが統べる悪しき世においては、決して望めぬ栄達ですぞ」
「……何を、私はすれば良いのだ。天朝様への忠誠、無論あるがそれを示すために」
月堂血風斎。
この男の存在を知っているのは、武村家においては当主・重秀ただ1人である。娘の夏美は知らない。黒岩も、主君の傍らにこの男がいる事にすら気付いていなかった。
「なに。これまで通り、我らの動きを黙認して下されば良いのです。御領主が見て見ぬ振りをして下さったおかげで我ら、目的のものを見つける事が出来ました」
村がひとつ、皆殺しの目に遭った。
八木原家と特に関わり深かった、と噂された村である。重秀としても、いずれ皆殺しにするつもりであった。
「ただ、総領娘様……夏美姫が、我らの存在に薄々感付いておられる御様子。あの方は今や武村の御家中を完全に掌握なさいました。我らでは太刀打ち叶いませぬ」
黒岩十兵衛だけではない。武村家は今や、主だった家臣ら全員が夏美に心服し、主君たる重秀を蔑ろにしている。
宇羅幕府が、天津朝廷を蔑ろにしているようにだ。
「全て……全ては、宇羅の鬼どものせいである……あやつらが天朝様に背いたがため、アマノホカリの規範が乱れ……子が親に、臣が主に、刃向かうのだ……規範を、定めねば」
自分・武村重秀が、その魁となる。私利私欲はない。
「父親に背く娘など、許しておいては規範が定まらぬ……そうは思わぬか、月堂」
「夏美様は、御立派な姫君であられる」
月堂は言った。
「御領内に、マガツキが現れたそうですな。夏美姫、御自ら討伐に行かれたとか。御武運お祈り申し上げるしかありませぬ……いかに剛勇の姫君とて、マガツキ相手では何が起こるかわかりませぬゆえ」
●
民が、現領主・武村家と旧主・八木原家を比較する。
それは仕方がない事だ、と武村夏美は思っている。
聞くところによると八木原玄道は、決して仁愛の君主ではなかったという。千国大名として成り上がる過程で、大いに殺戮を行ってきたようである。
結果、このような魔物が生まれてしまう。
「八木原はすでに滅びた! と言っても、わからぬか」
巨大な斬撃を跳んでかわし、着地しながら、夏美は言った。
白骨化した大量の屍が、邪悪な力によって集められ結合し、民家の屋根に達する大きさの人型を成している。
それは、無数の人骨で組成された甲冑であった。肉体ではなく瘴気を内包する、巨大な甲冑。
異形の鎧武者である。かつて八木原家に滅ぼされた者たちの、集合体。
その右手からは大量の瘴気が溢れ出し、伸びて固まり、刀剣を形作っている。
マガツキだ。
かの異邦人たちの故郷では、イブリースあるいは還リビトなどと呼ばれているらしい。
村人たちは、残らず避難させた。
いや。子供が2人、逃げ遅れていた。幼い兄妹である。
「ひ、姫さまぁ……」
兄が、鞍上で妹と抱き合ったまま、弱々しい声を出す。
夏美の愛馬・寿丸に、2人を騎乗させたところである。
「しっかりせよ。そなたはな、妹を守らねばならんのだぞ」
抜き身を構え、マガツキと対峙したまま、夏美は言った。
「その馬に身を任せておれば良い……わかっておろうな寿丸? 貴様は今、私を乗せているのではないぞ。子供らに痛い思い恐ろしい思いをさせぬよう、ゆるりと優しく、それでいて疾風のように走れ。行け!」
主の理不尽極まる命令に異を唱えるが如く、不満げに嘶きながら、それでも寿丸は駆け出した。背にしがみつく幼い姉弟を、どうにか振り落とさぬように。
マガツキの巨体が、それを追おうとする。夏美は立ち塞がった。
「八木原に縁ある者、のみならず……もはや生きとし生けるもの全てが敵、というわけか。させぬ」
寿丸の蹄の音が、遠ざかって行く。
危ないところであった、と夏美は思った。
寿丸がいなかったら、あの幼い姉弟を人質に取られていたかも知れない。
「姿を見せよ」
巨大な瘴気の斬撃をかわしながら、夏美は声を投げた。
「マガツキにとっては、おぬしらも私も等しく敵だ。隠れたところで見逃してはもらえぬぞ」
無言の気配が複数、夏美の背後に降り立った。
全員、殺意の塊であった。背後から、夏美の命を狙っている。
何者の群れであるのかは、わかる。父・重秀がこのところ身辺に置いている者たち。
「私を殺したところで……」
振り向かぬまま、夏美は会話を試みた。
「……このマガツキが、おぬしらを逃がしてくれるわけがなかろう? わからぬか」
返答は、忍者刀を抜き放つ鞘走りの音のみであった。
和を以て貴しとするはずのアマノホカリの民が、今や和を忘れ果て、忠孝の道も見失いつつある。
武村重秀は本気で、そう思った。
「黒岩……そなた今、何と申した……?」
「殿の御耳に、御心に届くまで、幾度とて申し上げましょうぞ」
平伏していた黒岩十兵衛が、重秀の許しを得る事なく顔を上げた。
「大滝、蛇谷、赤沼、鹿乃石、三山、竹沢……以上6村、この度の年貢を免除いたしました。これらの村人どもは今や、飢えて死ぬるか邪宗門に身を投ずるか、そこまで追い詰められておりますゆえ」
領主・武村家の重臣で、主に徴税に関わる職務を司っている男である。
そのような役職の者が、勝手に税を免除してしまう。それは私腹を肥やすに等しい行為だ、と重秀は思う。
「勝手な行いを……! その方、領主にして主君たる余を軽んずるか!」
「されば御手討ちを」
黒岩が、ぎらりと眼光を向けてくる。
「この首、どうぞ刎ねられませ」
「黒岩……うぬは……」
「さあ、お腰のものを抜きなされませ。立派な大小は飾りにござるか」
「だっ誰ぞある! こやつを斬れ! この痴れ者を斬首せよ!」
「殿、御自らなされませ。もののふを束ねられる御方、そうでなければなりませぬ」
主君にかような暴言をぶつける黒岩を、誰も斬ろうとしない。重秀が命令を叫んだと言うのに、誰も駆け付けて来ない。飛び込んで来ない。
脇息にすがりつき青ざめる重秀を睨み据えながら、黒岩は許しもなく立ち上がった。
「手ずからの誅殺……主君に背いた者への罰など、それしかないのですぞ。出来ぬなら大名たる資格なし! 夏美様に家督を譲られるが良かろう」
暴言を残し、黒岩は去って行く。
青ざめ、見送る重秀の傍らで、囁く者がいる。
「総領娘・夏美様の御声望は凄まじいものでありますなあ……黒岩殿の仰せられた通り、家督をお譲りになってはいかがかと」
嘲笑、に近い口調である。
「事を荒立てず御隠居なされば、夏美様とてお父上を粗略にはなさいますまい」
「黙れ……月堂……」
重秀は呻いた。
「余は、主君であるぞ。父親であるぞ、領主であるぞ……子は父に、家臣は主君に従う、それこそが天下泰平というものであろうに……」
「天下泰平、それは万民が天朝様に順う事を言うのです。貴方もですぞ、重秀殿」
月堂の声が、重秀の耳から脳髄に這入り込んで来る。
「戦乱の世は、下々の者たちが天朝様を軽んずる事から始まったのです。まずは重秀殿、貴方が天朝様への忠誠を取り戻しなさい。さすれば武村家は忠臣の第一等、アマノホカリ様の御加護のもと栄達も叶いましょう。宇羅の鬼どもが統べる悪しき世においては、決して望めぬ栄達ですぞ」
「……何を、私はすれば良いのだ。天朝様への忠誠、無論あるがそれを示すために」
月堂血風斎。
この男の存在を知っているのは、武村家においては当主・重秀ただ1人である。娘の夏美は知らない。黒岩も、主君の傍らにこの男がいる事にすら気付いていなかった。
「なに。これまで通り、我らの動きを黙認して下されば良いのです。御領主が見て見ぬ振りをして下さったおかげで我ら、目的のものを見つける事が出来ました」
村がひとつ、皆殺しの目に遭った。
八木原家と特に関わり深かった、と噂された村である。重秀としても、いずれ皆殺しにするつもりであった。
「ただ、総領娘様……夏美姫が、我らの存在に薄々感付いておられる御様子。あの方は今や武村の御家中を完全に掌握なさいました。我らでは太刀打ち叶いませぬ」
黒岩十兵衛だけではない。武村家は今や、主だった家臣ら全員が夏美に心服し、主君たる重秀を蔑ろにしている。
宇羅幕府が、天津朝廷を蔑ろにしているようにだ。
「全て……全ては、宇羅の鬼どものせいである……あやつらが天朝様に背いたがため、アマノホカリの規範が乱れ……子が親に、臣が主に、刃向かうのだ……規範を、定めねば」
自分・武村重秀が、その魁となる。私利私欲はない。
「父親に背く娘など、許しておいては規範が定まらぬ……そうは思わぬか、月堂」
「夏美様は、御立派な姫君であられる」
月堂は言った。
「御領内に、マガツキが現れたそうですな。夏美姫、御自ら討伐に行かれたとか。御武運お祈り申し上げるしかありませぬ……いかに剛勇の姫君とて、マガツキ相手では何が起こるかわかりませぬゆえ」
●
民が、現領主・武村家と旧主・八木原家を比較する。
それは仕方がない事だ、と武村夏美は思っている。
聞くところによると八木原玄道は、決して仁愛の君主ではなかったという。千国大名として成り上がる過程で、大いに殺戮を行ってきたようである。
結果、このような魔物が生まれてしまう。
「八木原はすでに滅びた! と言っても、わからぬか」
巨大な斬撃を跳んでかわし、着地しながら、夏美は言った。
白骨化した大量の屍が、邪悪な力によって集められ結合し、民家の屋根に達する大きさの人型を成している。
それは、無数の人骨で組成された甲冑であった。肉体ではなく瘴気を内包する、巨大な甲冑。
異形の鎧武者である。かつて八木原家に滅ぼされた者たちの、集合体。
その右手からは大量の瘴気が溢れ出し、伸びて固まり、刀剣を形作っている。
マガツキだ。
かの異邦人たちの故郷では、イブリースあるいは還リビトなどと呼ばれているらしい。
村人たちは、残らず避難させた。
いや。子供が2人、逃げ遅れていた。幼い兄妹である。
「ひ、姫さまぁ……」
兄が、鞍上で妹と抱き合ったまま、弱々しい声を出す。
夏美の愛馬・寿丸に、2人を騎乗させたところである。
「しっかりせよ。そなたはな、妹を守らねばならんのだぞ」
抜き身を構え、マガツキと対峙したまま、夏美は言った。
「その馬に身を任せておれば良い……わかっておろうな寿丸? 貴様は今、私を乗せているのではないぞ。子供らに痛い思い恐ろしい思いをさせぬよう、ゆるりと優しく、それでいて疾風のように走れ。行け!」
主の理不尽極まる命令に異を唱えるが如く、不満げに嘶きながら、それでも寿丸は駆け出した。背にしがみつく幼い姉弟を、どうにか振り落とさぬように。
マガツキの巨体が、それを追おうとする。夏美は立ち塞がった。
「八木原に縁ある者、のみならず……もはや生きとし生けるもの全てが敵、というわけか。させぬ」
寿丸の蹄の音が、遠ざかって行く。
危ないところであった、と夏美は思った。
寿丸がいなかったら、あの幼い姉弟を人質に取られていたかも知れない。
「姿を見せよ」
巨大な瘴気の斬撃をかわしながら、夏美は声を投げた。
「マガツキにとっては、おぬしらも私も等しく敵だ。隠れたところで見逃してはもらえぬぞ」
無言の気配が複数、夏美の背後に降り立った。
全員、殺意の塊であった。背後から、夏美の命を狙っている。
何者の群れであるのかは、わかる。父・重秀がこのところ身辺に置いている者たち。
「私を殺したところで……」
振り向かぬまま、夏美は会話を試みた。
「……このマガツキが、おぬしらを逃がしてくれるわけがなかろう? わからぬか」
返答は、忍者刀を抜き放つ鞘走りの音のみであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.マガツキ1体、及びニンジャ5人の撃破
2.武村夏美の生存
2.武村夏美の生存
お世話になっております。ST小湊拓也です。
シリーズシナリオ『万世一系』全4話中、第2話であります。
アマノホカリのとある村に、マガツキ『白骨鎧武者』が出現しました。これを討滅して下さい。
白骨鎧武者は、巨大な瘴気の剣で斬撃を繰り出してきます(魔近範、BSカース2)。
現在、領主・武村家の姫君であるサムライ武村夏美(ノウブル、女、17歳)がこれと戦っていますが、謎の忍者集団が彼女を背後から攻撃しております。
夏美が、マガツキ1体と忍者5人に挟撃されている形です。
忍者5人は全員が前衛。忍者刀による攻撃(攻近単、BSポイズン1)の他、以下のスキルを使用します。
体術・飛天空蝉
解説:機に臨み変に応ず。軽やかな動きにて敵の攻撃を誘導し、自分ではなく仲間に代わりに受け止めてもらう。別名、変わり身の術。1キャラ2回まで(重複不可)
効果ターン中、被ダメージを任意の仲間1人が1回肩代わり。効果2T。
火遁・劫火焔舞
解説:飛んで火にいる夏の虫。毒素に反応して激しく燃焼する魔導の炎を広域にまき散らし、敵を焼き尽くす。毒と魔導の合わせ技。
魔遠範(命+2 、魔導+(敵BS数×10))。
隠形・遁法煙玉
解説:睡眠毒を混合した発破を地面に投げ、毒煙を展開する。
ダメージ0、BSアンコントロール1及びヒュプノス。自身に回避×1.3、移動20m。
自由騎士の皆様の到着時点で夏美は若干のダメージを受けていますがBSはありません。回復も戦闘も可能で、指示には従ってくれます。
夏美はスキル『一刀両断』(EP20/近距離/攻撃:命-5 攻撃+140 必殺 効果3T)を使用します。
場所は無人の村の広場、時間帯は昼。
最初に自由騎士全員で中央に押し入る、マガツキあるいは忍者5名に背後から攻撃を仕掛ける、それぞれに人数を振り分ける……等、陣形の組み方はお任せいたします。
それでは、よろしくお願い申し上げます。
シリーズシナリオ『万世一系』全4話中、第2話であります。
アマノホカリのとある村に、マガツキ『白骨鎧武者』が出現しました。これを討滅して下さい。
白骨鎧武者は、巨大な瘴気の剣で斬撃を繰り出してきます(魔近範、BSカース2)。
現在、領主・武村家の姫君であるサムライ武村夏美(ノウブル、女、17歳)がこれと戦っていますが、謎の忍者集団が彼女を背後から攻撃しております。
夏美が、マガツキ1体と忍者5人に挟撃されている形です。
忍者5人は全員が前衛。忍者刀による攻撃(攻近単、BSポイズン1)の他、以下のスキルを使用します。
体術・飛天空蝉
解説:機に臨み変に応ず。軽やかな動きにて敵の攻撃を誘導し、自分ではなく仲間に代わりに受け止めてもらう。別名、変わり身の術。1キャラ2回まで(重複不可)
効果ターン中、被ダメージを任意の仲間1人が1回肩代わり。効果2T。
火遁・劫火焔舞
解説:飛んで火にいる夏の虫。毒素に反応して激しく燃焼する魔導の炎を広域にまき散らし、敵を焼き尽くす。毒と魔導の合わせ技。
魔遠範(命+2 、魔導+(敵BS数×10))。
隠形・遁法煙玉
解説:睡眠毒を混合した発破を地面に投げ、毒煙を展開する。
ダメージ0、BSアンコントロール1及びヒュプノス。自身に回避×1.3、移動20m。
自由騎士の皆様の到着時点で夏美は若干のダメージを受けていますがBSはありません。回復も戦闘も可能で、指示には従ってくれます。
夏美はスキル『一刀両断』(EP20/近距離/攻撃:命-5 攻撃+140 必殺 効果3T)を使用します。
場所は無人の村の広場、時間帯は昼。
最初に自由騎士全員で中央に押し入る、マガツキあるいは忍者5名に背後から攻撃を仕掛ける、それぞれに人数を振り分ける……等、陣形の組み方はお任せいたします。
それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2021年01月06日
2021年01月06日
†メイン参加者 6人†
●
「っっしゃあ! 出番だぜ!」
「とっとと終わらせて呑むぞう」
「うひひひ、こりゃまたエルシー嬢に負けんほど尻とフトモモのがっちりした姫君じゃのう。たまらんのう」
「……頼むから黙ってろクソジジイ」
装甲歩兵4名が、そんな会話をしながらも巧みな連携で、忍者たちの動きを封じ込めにかかる。『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が引き連れて来た兵士たちだ。
忍者5人とイブリース1体による挟撃に遭っていた女剣士が、こちらに気付いたようであった。
「おぬしらは……」
「お久しぶりですね姫君、ちょっと余計な手出しをさせてもらいますよっ」
女剣士……武村家総領娘・夏美姫は、忍者たちによる波状攻撃を辛うじて凌ぎきったところであった。いくらか傷を負っているようだが、浅手である。
そこへ、しかしイブリースの巨大な一撃が襲いかかる。燃え盛る瘴気で組成された大刀。
それを振るっているのは、人骨で出来た巨体である。
無数の白骨で構成された全身甲冑。中身は肉体ではなく、渦巻く瘴気だ。
そんな異形の鎧武者に、エルシーは一撃を叩き込んでいった。鋭利な五指を牙にして、猛獣の顎を形作る。
人骨の甲冑に食らい付いた猛獣が、そのまま吼えた。
エルシーの両掌から、気の奔流が迸っていた。
白骨鎧武者の巨体が、ヘし曲がりながら痙攣する。
そこへ夏美が間髪入れず、激烈な斬撃を叩き込む。
「本当に……都合良く、駆け付けてくれるのだな。ありがたいが、何やら恐ろしくなってきたぞ。何もかも読まれている、という気がする」
「まあね、アクアディーネ様のお導きって事にしといてよっ」
小柄な人影が、狼のように駆けて来て鎧武者を直撃した。
白骨で出来た巨体に、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の拳が突き刺さっていた。
エルシー、夏美、カノン。3者による立て続けの攻撃を食らった白骨鎧武者が、痙攣し、よろめきながらも、瘴気の大刀を振るい構える。
その間、カノンが夏美の腕を掴んで引く。
「さ、夏美さんはこっちへ」
「共に戦ってくれる……という事で、良いのだろうか? 夏美姫」
細い全身で魔力を練成しながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が言った。
「逃げた子供たちの身の安全を確保しておきたい、とも思うが」
「……それは寿丸に任せておく。私は、この場で戦おう」
「どうか、ご無理はなさいませんように」
言いつつセアラ・ラングフォード(CL3000634)がマグノリアと並んで立つ。2人とも美少女だ、とエルシーは思った。
美少女2人が、手を取り合っている。マグノリアのエスコートに応じて、セアラがしとやかに細身を翻す。
その舞踏が、魔力の大渦を発生させていた。自由騎士2人による死と破壊のダンスであった。
忍者5人が、跳躍し逃げ出そうとして装甲歩兵たちに阻まれる。そして、魔力の大渦へと追いやられ巻き込まれる。
轟音を立てて渦を巻く魔力の嵐は、忍者たちを激しく撹拌し吹っ飛ばしながら、イブリースの巨体をも直撃する。人骨の破片が少量、舞い上がった。
直撃に耐えて踏みとどまる白骨鎧武者に、『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)が狙いを定めている。魔法の杖をかざし、魔導力を錬る。
「武村夏美さん、でしたね。何かややこしい事になってますけど貴女のお手伝いをします」
魔法の杖がくるりと回転し、キラリと光を振り撒いた。
「人を守ろうとしているのは……どう見ても、貴女の方ですからね。ややこしくても、そのくらいはわかります」
その煌めきが膨張し、激しく冷たく吹き荒れた。超局地的な猛吹雪であった。冷気と氷雪の塊が、イブリースに激突する。
白骨鎧武者の巨体が、ひび割れながら凍り付いた。
そこへ『ただ真っ直ぐに』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が、ぶつかって行く。
「そうですね、事情の精査は後回しにいたしましょう!」
まっすぐに構えられた輝剣ジャガンナータを先端とする、砲弾の如き突進。
キジンの乙女の力強い肢体が、気の輝きをまとう光の砲弾と化していた。
「今は夏美様、貴女と共に勝利を!」
直撃を食らった白骨鎧武者が、後方に揺らいだ。ひび割れた全身から、鮮血のように瘴気が噴出する。
よろめき、踏みとどまったイブリースの周囲で、忍者5人がよろよろと立ち上がった。
マグノリアが、声をかける。
「気を付けたまえ。イブリース……マガツキは、君たちの味方というわけではない。生きとし生けるもの全ての敵、と言うべき存在だ。基本的には、より近くにいる生命体に攻撃を加える……もう少し、離れた方がいい」
「私たちに、じゃなくてマガツキに殺されちゃいますよ」
マリアが言う。
そうなってくれた方が楽だ、というのはエルシーならずとも思うところであろう。
「カノンたちに殺されるのも、マガツキに殺されるのも……覚悟の上?」
言葉と共にカノンが、愛らしい両手の五指で力強く印を結ぶ。
「君たちのそれは覚悟じゃあないよ。自分の頭で考えてない、自分の心で決めたわけでもない」
オニヒトの少女の小さな身体から一瞬、巨大な鬼の姿が現れ立ちのぼった。
幻覚、であろう。
幻覚であるはずの鬼が、幻覚ではない力を授けてくれた、とエルシーは感じた。
「自分の命を捨てさえすれば、人の命を奪ってもいい……君たちはね、そう思い込みたがってるだけ。そんなの覚悟でも勇気でもないからね」
「そのような方々には、生きて惨めな思いをしていただきます」
機械化を遂げたデボラの全身が、燃えるような光を帯びた。
鬼の力、であった。エルシーの両手でも、紅竜の籠手が同じ光を放っている。
「……鬼が……鬼どもが……っ!」
忍者たちが毒刃を閃かせ、斬りかかって来る。その刃よりも毒々しい眼光が、カノンとマリアに向けられている。
「宇羅の者ども、生かしておけぬ! 滅ぼす!」
「天朝様の御ために!」
「……なるほど。オニヒトは全員、宇羅一族の関係者に見えちゃいますか」
マリアが、続いてセアラが言った。
「天朝様……それは思考を奪う、呪いの言葉なのですね」
彼女たちの盾となる形に、デボラが防御の構えを取る。
そこへ、毒刃の雨が降り注ぐ。
「無駄です……そんなもので、私という盾を切り裂く事など!」
デボラの一見たおやかな機械四肢で、装甲が開いた。
「……私、理解いたしました。あの益村吾三郎様は、天朝様に背いてしまったから、あんなに思い悩んでいるのですねっ」
鬼の力を宿した銃火が迸り、忍者たちを薙ぎ払っていた。
吹っ飛んだ忍者5人が、辛うじて着地する。
そこへエルシーは、同じく鬼の力を宿した拳を叩き込んでいった。真夏の日照と台風をイメージして作り上げた、攻撃の舞踏。
「貴方たちは、思い悩むのが恐いから! 自分で考える事をやめた! そういうのね、臆病って言うんですよ!」
●
巨大な瘴気の剣が、エルシーを、夏美を、カノンを、デボラを、薙ぎ払った。
前衛の女性闘士4名が、大量の血飛沫を噴出させる。辛うじて致命傷は免れた、ようである。燃え揺らめく瘴気の斬撃は、しかし彼女たちの肉体を灼き斬っただけでなく、生命力そのものを削り取ったはずであった。
「……さすが、手強い」
マグノリアが片膝をつき、息を切らせている。
魔力の消耗が激しい、のは彼だけではない。セアラもマリアも、魂を雑巾の如く絞る思いで、懸命に魔力を錬成しているところである。
限界の近い自由騎士たちと対峙したまま、白骨鎧武者はなおも荒れ狂った。瘴気の大刀を振り上げ、振り下ろす。
忍者5人に向かって、である。
まさしくマグノリアの言う通り、イブリースは生きとし生けるもの全ての敵。自由騎士団も忍者たちも、この白骨鎧武者にとっては等しく殺戮の対象なのだ。
力尽きた、ように見えたカノンが倒れず踏みとどまり、踏み込んだ。小さな身体が、小型肉食獣のように低い位置からイブリースを強襲する。
一見可愛らしい握り拳が、超高速で弧を描き、鎧武者の腹部を直撃した。人骨で出来た巨体がへし曲がり、瘴気の斬撃があらぬ方向へと空振りする。
カノンが今度こそ力尽き、残心を決められず、よろめいた。
結果として助かった忍者5人が、そんなカノンを睨み据えて印を結ぶ。
「……鬼が……ッ!」
炎が生じ、カノンを襲う……寸前でマリアは、魔力の錬成を完了させていた。
「いいんですよ。貴方たちには、人の心なんて期待していませんから」
杖をかざし、錬り上げた力を解き放つ。
電磁力の嵐が、忍者5人全員を飲み込んで吹き荒れた。
「いざとなったら、死んで逃げればいい……そんな事考えてる人たちにはね、何も期待しません」
忍者たちを電磁力で拘束しつつ、マリアは思い出していた。磐成山で出会った1人の侍、その暗く重く沈んだ表情を。
益村吾三郎が今のところ、死んで逃げる道を選ばずにいるのは、あの子供たちがいるからだ。
生きて、子供たちを守る。
そうしながらも吾三郎は、己の心の中にしか存在しない『天朝様』に、裏切りと不忠を責められ続けている。斬殺した仲間たちが夜毎の夢に現れる、そんな日々を送っている。
「……わかりますよ。自分の頭で考え始めると、あの人みたいに苦しむ事になります。だったら自分で何も考えず、上から言われた通りに殺して死んでこの世から逃げる。楽ですよね、その方が」
「あの益村吾三郎様は」
言いつつセアラが、女神アクアディーネへの祈りを念じたようだ。
「天朝様と……御自分のお仲間たちを、庇っておられたのですね」
桃色に近い赤毛が、ふわりと舞い上がる。
セアラの優美な全身から、癒しの力がキラキラと溢れ出していた。
魔導医療の煌めきが、負傷した前衛の女性闘士たちを包み込む。
「だから、殺戮の罪をお1人で背負ってしまわれる……」
「迷いなく『天朝様』に忠誠を捧げていた……純粋な若者、なのだろうね。彼は」
マグノリアが、立ち上がった。
「純粋な人々を利用して、暗躍する者がいる。天津朝廷への忠誠を口にしながら、その実……自身が、アマノホカリの全てを手に入れるために」
水色の瞳が、静かに激しく発光している。
「……月堂、血風斎」
怒り、に近いものをマグノリアは燃やしているのだろうか。
「その企み……無駄に、終わらせる。悪しき企みは、必ずや反発者を生む。企みの首謀者を、脅かす……」
燃える何かが、形になった。マリアは、そう感じた。
「……自身は血の1滴も流さない暗躍など、己の首を絞める結果にしかならないという事。僕たちが、思い知らせる」
白骨鎧武者の巨体、鳩尾の辺りに、それは突き刺さっていた。マグノリアの、魔力の塊。
白銀色の、巨大な楔であった。マガツキを貫通している。
穿たれた鎧武者が、瘴気の剣を振り上げたまま痙攣している、その間。
セアラによる治療を受けたカノンが力を取り戻し、猛然と踏み込んでゆく。痙攣するマガツキに、拳を叩きつけてゆく。
「自分の頭で考えられないなら、せめて自分の目で! よく見ておくんだねっ」
電磁力の嵐に拘束されつつある忍者たちに、声を投げながらだ。
「恨みで動く、大きな屍! このまんまじゃ、これが君たちの未来の姿だよ!」
●
全身ひび割れた白骨鎧武者の、特に亀裂が密集している部分に、エルシーが拳を打ち込んでゆく。
「ほらほら、もっとお魚を食べないと! 骨が丈夫になりませんよ? 強くて美しいカラダを作るため、何ならお食事指導してあげましょうか。まずは私のパンチを喰らって下さいッ!」
人骨の破片と瘴気の飛沫を大量に飛び散らせながら、それでもマガツキが反撃に出た。
燃え盛る瘴気の大刀が、一閃する。
その凄まじい斬撃を、デボラは割り込んで受けた。輝剣ジャガンナータで、受け止めていた。
「く……っ! 何という、怨念……」
デボラは歯を食いしばり、祈りを念じた。
「死せる方々よ……アクアディーネ様の導きを、どうかお受け下さい……」
気力を、ジャガンナータの柄へと流し込む。
刀身が、瘴気の刃と噛み合ったまま、白くまばゆく輝き燃え上がる。気の輝き。
「浄化を……お受け下さい……」
輝ける刃が、瘴気の刀身を粉砕していた。
気の光をまとうジャガンナータを、デボラはそのままふりかざし、一閃させた。
「セフィロトの海にて、お眠り下さい……目覚め、這い上がった先が、優しい世界でありますように」
巨大な気の塊を、思いきり叩きつけるような斬撃。
白骨鎧武者は砕け散り、その破片が消滅してゆく。
「お見事」
エルシーが褒めてくれた。
「死んだ人たちが、安心して生まれ変わって来られるような優しい世界……作りたいですね。こんな人たちがいるようじゃ難しいですけど」
こんな人たち、と呼ばれた忍者5人を、マリアが手際良く縛り上げている。
5人とも、生きてはいる。自害をするだけの余力も、なさそうだ。
マグノリアが、まるで医者のように彼らの身体を点検している。
「……爆薬の類はない。まあ、それほど安いものでもないからね……さあ、どうしよう。尋問をするかい? 僕としては、聞き出したい事はいくつもあるが」
「ううん……どうでしょう」
デボラは、豊かな胸を抱えるように腕組みをした。
「この方々が、それらをご存じかどうか。こう申し上げては失礼ですが」
「……末端、ですからね。まあ私たちも似たようなものですが」
マリアが容赦のない事を言った。
「正直、この人たちと話をするのは時間の無駄という気がします」
怯え抱き合う子供2人を乗せた馬が、戻って来た。マリアはそちらへ向かった。
倒れていた夏美が、
「……その忍びどもの知っている程度の事であれば、私でも話せると思う」
カノンに抱き起こされながら、言う。
「おぬしらには……またもや、世話になってしまったな」
「貴女が無茶をなさるからですよ、夏美様」
セアラが言いつつ、夏美に魔導医療の光を投げかけている。
「姫君の命知らずを、出来る限り止めて欲しいと。私たち、仁太様に頼まれておりますから」
「……あやつを、助けてくれたのだな」
夏美が、カノンの小さな両腕から身を起こした。
「仁太に調べさせたところ、様々な事がわかった。この者どもが……八木原の血を引く子供を捜し出す、そのためだけに1つの村を皆殺しにした事もな。おぬしらがいなければ私が今、こやつらの首を刎ねているところよ」
「皆殺しを実行した者たちは、もうこの世にはいない」
マグノリアが言った。
「実行者たちに命令を下した者が……まだ、健在だ」
「そうです。月堂血風斎」
水鏡から得た情報を、デボラは口にした。
「その名を、夏美様はご存じでしょうか? この刺客たちを貴女は『御父君の身辺にいる者たち』と即座に見抜かれたようですが」
「……本当に、何でも知られてしまうのだな。おぬしらには」
夏美が、苦笑したようだ。
「父がな、おかしな者どもを召し抱えたのは知っていた。止めるべきか、とは思ったのだが」
「存じておりますよ夏美様。貴女……お忙しいのでしょう?」
セアラが言う。
「優れた実務能力をお持ちの姫君が、忙しく働き回っておられる間……お暇な父上が、良からぬ事をなさる。小人閑居して不善を為す、という央華の言葉通り……あ、いえ失礼をいたしました」
「いや、仰せの通りだ異国の姫よ。我が父・武村重秀はな、まさしく不善を為す小人よ」
夏美が天を仰ぐ。
カノンが、ぽつりと声をかける。
「……カノンたちはね、夏美さんみたいな女の子を1人知ってるよ。その人のお父さんはね、いろいろ駄目なところはあったけど、何だかんだで立派な領主様だった……夏美さんの、家族の事とか、聞いてもいい?」
「大した話ではないが」
夏美は微笑んだ。
「私の母は、もう亡くなっている。私が幼い頃に病でな……セアラ殿、おぬしに似ていた。控え目なようでいて今思えば、重秀を完全に尻に敷いていたな。武村の家中の事は、全て母が切り盛りをしていた。母が存命であれば、あの父も暗愚なだけの善人でいられたかも知れん」
「……夏美さん。お父上に、会わせてもらうわけにはいきませんか」
エルシーが、左掌に右拳を打ち込んだ。良い音がした。
「手荒な事はしません。ただ、ちょっと……喝を、ね。絶対喝です、ぜつ☆かつ! ですよ」
「……やめておきましょう、エルシー様」
デボラは言った。
「私ちょっと、手荒な事をせずにいられる自信がありません」
「私も、それを止める自信がない」
夏美の口調は、冷めたものだ。
「いや……そもそも、おぬしらに手を汚させるつもりはない。私が月堂もろとも」
「……それは、お止めいたしますよ。夏美様」
セアラの口調は、揺るぎない。
「月堂血風斎は、法で裁くべきだと思います。村の殺戮に関わりあるのならば、武村重秀様も……アマノホカリの法、イ・ラプセルの法、どちらになるのかはわかりませんが」
「証拠が、必要となるかな」
マグノリアが、綺麗な顎に片手を当てた。
「最も有力な証人が、磐成山にいる……」
「生き残った子供たち、それに……益村吾三郎様」
頑なに罪を被り続けている若侍の顔を、デボラは思い浮かべた。
「正式な裁判となれば……あの方は、自ら刑死を選ぶでしょう。果たして証言をして下さるでしょうか……」
「していただかなければ」
セアラが言った。
「他者の罪を被る。それは、他者を救う事にはなり得ません……誰よりまず、あの子供たちが救われていないと私は思います」
「っっしゃあ! 出番だぜ!」
「とっとと終わらせて呑むぞう」
「うひひひ、こりゃまたエルシー嬢に負けんほど尻とフトモモのがっちりした姫君じゃのう。たまらんのう」
「……頼むから黙ってろクソジジイ」
装甲歩兵4名が、そんな会話をしながらも巧みな連携で、忍者たちの動きを封じ込めにかかる。『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が引き連れて来た兵士たちだ。
忍者5人とイブリース1体による挟撃に遭っていた女剣士が、こちらに気付いたようであった。
「おぬしらは……」
「お久しぶりですね姫君、ちょっと余計な手出しをさせてもらいますよっ」
女剣士……武村家総領娘・夏美姫は、忍者たちによる波状攻撃を辛うじて凌ぎきったところであった。いくらか傷を負っているようだが、浅手である。
そこへ、しかしイブリースの巨大な一撃が襲いかかる。燃え盛る瘴気で組成された大刀。
それを振るっているのは、人骨で出来た巨体である。
無数の白骨で構成された全身甲冑。中身は肉体ではなく、渦巻く瘴気だ。
そんな異形の鎧武者に、エルシーは一撃を叩き込んでいった。鋭利な五指を牙にして、猛獣の顎を形作る。
人骨の甲冑に食らい付いた猛獣が、そのまま吼えた。
エルシーの両掌から、気の奔流が迸っていた。
白骨鎧武者の巨体が、ヘし曲がりながら痙攣する。
そこへ夏美が間髪入れず、激烈な斬撃を叩き込む。
「本当に……都合良く、駆け付けてくれるのだな。ありがたいが、何やら恐ろしくなってきたぞ。何もかも読まれている、という気がする」
「まあね、アクアディーネ様のお導きって事にしといてよっ」
小柄な人影が、狼のように駆けて来て鎧武者を直撃した。
白骨で出来た巨体に、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の拳が突き刺さっていた。
エルシー、夏美、カノン。3者による立て続けの攻撃を食らった白骨鎧武者が、痙攣し、よろめきながらも、瘴気の大刀を振るい構える。
その間、カノンが夏美の腕を掴んで引く。
「さ、夏美さんはこっちへ」
「共に戦ってくれる……という事で、良いのだろうか? 夏美姫」
細い全身で魔力を練成しながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が言った。
「逃げた子供たちの身の安全を確保しておきたい、とも思うが」
「……それは寿丸に任せておく。私は、この場で戦おう」
「どうか、ご無理はなさいませんように」
言いつつセアラ・ラングフォード(CL3000634)がマグノリアと並んで立つ。2人とも美少女だ、とエルシーは思った。
美少女2人が、手を取り合っている。マグノリアのエスコートに応じて、セアラがしとやかに細身を翻す。
その舞踏が、魔力の大渦を発生させていた。自由騎士2人による死と破壊のダンスであった。
忍者5人が、跳躍し逃げ出そうとして装甲歩兵たちに阻まれる。そして、魔力の大渦へと追いやられ巻き込まれる。
轟音を立てて渦を巻く魔力の嵐は、忍者たちを激しく撹拌し吹っ飛ばしながら、イブリースの巨体をも直撃する。人骨の破片が少量、舞い上がった。
直撃に耐えて踏みとどまる白骨鎧武者に、『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)が狙いを定めている。魔法の杖をかざし、魔導力を錬る。
「武村夏美さん、でしたね。何かややこしい事になってますけど貴女のお手伝いをします」
魔法の杖がくるりと回転し、キラリと光を振り撒いた。
「人を守ろうとしているのは……どう見ても、貴女の方ですからね。ややこしくても、そのくらいはわかります」
その煌めきが膨張し、激しく冷たく吹き荒れた。超局地的な猛吹雪であった。冷気と氷雪の塊が、イブリースに激突する。
白骨鎧武者の巨体が、ひび割れながら凍り付いた。
そこへ『ただ真っ直ぐに』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が、ぶつかって行く。
「そうですね、事情の精査は後回しにいたしましょう!」
まっすぐに構えられた輝剣ジャガンナータを先端とする、砲弾の如き突進。
キジンの乙女の力強い肢体が、気の輝きをまとう光の砲弾と化していた。
「今は夏美様、貴女と共に勝利を!」
直撃を食らった白骨鎧武者が、後方に揺らいだ。ひび割れた全身から、鮮血のように瘴気が噴出する。
よろめき、踏みとどまったイブリースの周囲で、忍者5人がよろよろと立ち上がった。
マグノリアが、声をかける。
「気を付けたまえ。イブリース……マガツキは、君たちの味方というわけではない。生きとし生けるもの全ての敵、と言うべき存在だ。基本的には、より近くにいる生命体に攻撃を加える……もう少し、離れた方がいい」
「私たちに、じゃなくてマガツキに殺されちゃいますよ」
マリアが言う。
そうなってくれた方が楽だ、というのはエルシーならずとも思うところであろう。
「カノンたちに殺されるのも、マガツキに殺されるのも……覚悟の上?」
言葉と共にカノンが、愛らしい両手の五指で力強く印を結ぶ。
「君たちのそれは覚悟じゃあないよ。自分の頭で考えてない、自分の心で決めたわけでもない」
オニヒトの少女の小さな身体から一瞬、巨大な鬼の姿が現れ立ちのぼった。
幻覚、であろう。
幻覚であるはずの鬼が、幻覚ではない力を授けてくれた、とエルシーは感じた。
「自分の命を捨てさえすれば、人の命を奪ってもいい……君たちはね、そう思い込みたがってるだけ。そんなの覚悟でも勇気でもないからね」
「そのような方々には、生きて惨めな思いをしていただきます」
機械化を遂げたデボラの全身が、燃えるような光を帯びた。
鬼の力、であった。エルシーの両手でも、紅竜の籠手が同じ光を放っている。
「……鬼が……鬼どもが……っ!」
忍者たちが毒刃を閃かせ、斬りかかって来る。その刃よりも毒々しい眼光が、カノンとマリアに向けられている。
「宇羅の者ども、生かしておけぬ! 滅ぼす!」
「天朝様の御ために!」
「……なるほど。オニヒトは全員、宇羅一族の関係者に見えちゃいますか」
マリアが、続いてセアラが言った。
「天朝様……それは思考を奪う、呪いの言葉なのですね」
彼女たちの盾となる形に、デボラが防御の構えを取る。
そこへ、毒刃の雨が降り注ぐ。
「無駄です……そんなもので、私という盾を切り裂く事など!」
デボラの一見たおやかな機械四肢で、装甲が開いた。
「……私、理解いたしました。あの益村吾三郎様は、天朝様に背いてしまったから、あんなに思い悩んでいるのですねっ」
鬼の力を宿した銃火が迸り、忍者たちを薙ぎ払っていた。
吹っ飛んだ忍者5人が、辛うじて着地する。
そこへエルシーは、同じく鬼の力を宿した拳を叩き込んでいった。真夏の日照と台風をイメージして作り上げた、攻撃の舞踏。
「貴方たちは、思い悩むのが恐いから! 自分で考える事をやめた! そういうのね、臆病って言うんですよ!」
●
巨大な瘴気の剣が、エルシーを、夏美を、カノンを、デボラを、薙ぎ払った。
前衛の女性闘士4名が、大量の血飛沫を噴出させる。辛うじて致命傷は免れた、ようである。燃え揺らめく瘴気の斬撃は、しかし彼女たちの肉体を灼き斬っただけでなく、生命力そのものを削り取ったはずであった。
「……さすが、手強い」
マグノリアが片膝をつき、息を切らせている。
魔力の消耗が激しい、のは彼だけではない。セアラもマリアも、魂を雑巾の如く絞る思いで、懸命に魔力を錬成しているところである。
限界の近い自由騎士たちと対峙したまま、白骨鎧武者はなおも荒れ狂った。瘴気の大刀を振り上げ、振り下ろす。
忍者5人に向かって、である。
まさしくマグノリアの言う通り、イブリースは生きとし生けるもの全ての敵。自由騎士団も忍者たちも、この白骨鎧武者にとっては等しく殺戮の対象なのだ。
力尽きた、ように見えたカノンが倒れず踏みとどまり、踏み込んだ。小さな身体が、小型肉食獣のように低い位置からイブリースを強襲する。
一見可愛らしい握り拳が、超高速で弧を描き、鎧武者の腹部を直撃した。人骨で出来た巨体がへし曲がり、瘴気の斬撃があらぬ方向へと空振りする。
カノンが今度こそ力尽き、残心を決められず、よろめいた。
結果として助かった忍者5人が、そんなカノンを睨み据えて印を結ぶ。
「……鬼が……ッ!」
炎が生じ、カノンを襲う……寸前でマリアは、魔力の錬成を完了させていた。
「いいんですよ。貴方たちには、人の心なんて期待していませんから」
杖をかざし、錬り上げた力を解き放つ。
電磁力の嵐が、忍者5人全員を飲み込んで吹き荒れた。
「いざとなったら、死んで逃げればいい……そんな事考えてる人たちにはね、何も期待しません」
忍者たちを電磁力で拘束しつつ、マリアは思い出していた。磐成山で出会った1人の侍、その暗く重く沈んだ表情を。
益村吾三郎が今のところ、死んで逃げる道を選ばずにいるのは、あの子供たちがいるからだ。
生きて、子供たちを守る。
そうしながらも吾三郎は、己の心の中にしか存在しない『天朝様』に、裏切りと不忠を責められ続けている。斬殺した仲間たちが夜毎の夢に現れる、そんな日々を送っている。
「……わかりますよ。自分の頭で考え始めると、あの人みたいに苦しむ事になります。だったら自分で何も考えず、上から言われた通りに殺して死んでこの世から逃げる。楽ですよね、その方が」
「あの益村吾三郎様は」
言いつつセアラが、女神アクアディーネへの祈りを念じたようだ。
「天朝様と……御自分のお仲間たちを、庇っておられたのですね」
桃色に近い赤毛が、ふわりと舞い上がる。
セアラの優美な全身から、癒しの力がキラキラと溢れ出していた。
魔導医療の煌めきが、負傷した前衛の女性闘士たちを包み込む。
「だから、殺戮の罪をお1人で背負ってしまわれる……」
「迷いなく『天朝様』に忠誠を捧げていた……純粋な若者、なのだろうね。彼は」
マグノリアが、立ち上がった。
「純粋な人々を利用して、暗躍する者がいる。天津朝廷への忠誠を口にしながら、その実……自身が、アマノホカリの全てを手に入れるために」
水色の瞳が、静かに激しく発光している。
「……月堂、血風斎」
怒り、に近いものをマグノリアは燃やしているのだろうか。
「その企み……無駄に、終わらせる。悪しき企みは、必ずや反発者を生む。企みの首謀者を、脅かす……」
燃える何かが、形になった。マリアは、そう感じた。
「……自身は血の1滴も流さない暗躍など、己の首を絞める結果にしかならないという事。僕たちが、思い知らせる」
白骨鎧武者の巨体、鳩尾の辺りに、それは突き刺さっていた。マグノリアの、魔力の塊。
白銀色の、巨大な楔であった。マガツキを貫通している。
穿たれた鎧武者が、瘴気の剣を振り上げたまま痙攣している、その間。
セアラによる治療を受けたカノンが力を取り戻し、猛然と踏み込んでゆく。痙攣するマガツキに、拳を叩きつけてゆく。
「自分の頭で考えられないなら、せめて自分の目で! よく見ておくんだねっ」
電磁力の嵐に拘束されつつある忍者たちに、声を投げながらだ。
「恨みで動く、大きな屍! このまんまじゃ、これが君たちの未来の姿だよ!」
●
全身ひび割れた白骨鎧武者の、特に亀裂が密集している部分に、エルシーが拳を打ち込んでゆく。
「ほらほら、もっとお魚を食べないと! 骨が丈夫になりませんよ? 強くて美しいカラダを作るため、何ならお食事指導してあげましょうか。まずは私のパンチを喰らって下さいッ!」
人骨の破片と瘴気の飛沫を大量に飛び散らせながら、それでもマガツキが反撃に出た。
燃え盛る瘴気の大刀が、一閃する。
その凄まじい斬撃を、デボラは割り込んで受けた。輝剣ジャガンナータで、受け止めていた。
「く……っ! 何という、怨念……」
デボラは歯を食いしばり、祈りを念じた。
「死せる方々よ……アクアディーネ様の導きを、どうかお受け下さい……」
気力を、ジャガンナータの柄へと流し込む。
刀身が、瘴気の刃と噛み合ったまま、白くまばゆく輝き燃え上がる。気の輝き。
「浄化を……お受け下さい……」
輝ける刃が、瘴気の刀身を粉砕していた。
気の光をまとうジャガンナータを、デボラはそのままふりかざし、一閃させた。
「セフィロトの海にて、お眠り下さい……目覚め、這い上がった先が、優しい世界でありますように」
巨大な気の塊を、思いきり叩きつけるような斬撃。
白骨鎧武者は砕け散り、その破片が消滅してゆく。
「お見事」
エルシーが褒めてくれた。
「死んだ人たちが、安心して生まれ変わって来られるような優しい世界……作りたいですね。こんな人たちがいるようじゃ難しいですけど」
こんな人たち、と呼ばれた忍者5人を、マリアが手際良く縛り上げている。
5人とも、生きてはいる。自害をするだけの余力も、なさそうだ。
マグノリアが、まるで医者のように彼らの身体を点検している。
「……爆薬の類はない。まあ、それほど安いものでもないからね……さあ、どうしよう。尋問をするかい? 僕としては、聞き出したい事はいくつもあるが」
「ううん……どうでしょう」
デボラは、豊かな胸を抱えるように腕組みをした。
「この方々が、それらをご存じかどうか。こう申し上げては失礼ですが」
「……末端、ですからね。まあ私たちも似たようなものですが」
マリアが容赦のない事を言った。
「正直、この人たちと話をするのは時間の無駄という気がします」
怯え抱き合う子供2人を乗せた馬が、戻って来た。マリアはそちらへ向かった。
倒れていた夏美が、
「……その忍びどもの知っている程度の事であれば、私でも話せると思う」
カノンに抱き起こされながら、言う。
「おぬしらには……またもや、世話になってしまったな」
「貴女が無茶をなさるからですよ、夏美様」
セアラが言いつつ、夏美に魔導医療の光を投げかけている。
「姫君の命知らずを、出来る限り止めて欲しいと。私たち、仁太様に頼まれておりますから」
「……あやつを、助けてくれたのだな」
夏美が、カノンの小さな両腕から身を起こした。
「仁太に調べさせたところ、様々な事がわかった。この者どもが……八木原の血を引く子供を捜し出す、そのためだけに1つの村を皆殺しにした事もな。おぬしらがいなければ私が今、こやつらの首を刎ねているところよ」
「皆殺しを実行した者たちは、もうこの世にはいない」
マグノリアが言った。
「実行者たちに命令を下した者が……まだ、健在だ」
「そうです。月堂血風斎」
水鏡から得た情報を、デボラは口にした。
「その名を、夏美様はご存じでしょうか? この刺客たちを貴女は『御父君の身辺にいる者たち』と即座に見抜かれたようですが」
「……本当に、何でも知られてしまうのだな。おぬしらには」
夏美が、苦笑したようだ。
「父がな、おかしな者どもを召し抱えたのは知っていた。止めるべきか、とは思ったのだが」
「存じておりますよ夏美様。貴女……お忙しいのでしょう?」
セアラが言う。
「優れた実務能力をお持ちの姫君が、忙しく働き回っておられる間……お暇な父上が、良からぬ事をなさる。小人閑居して不善を為す、という央華の言葉通り……あ、いえ失礼をいたしました」
「いや、仰せの通りだ異国の姫よ。我が父・武村重秀はな、まさしく不善を為す小人よ」
夏美が天を仰ぐ。
カノンが、ぽつりと声をかける。
「……カノンたちはね、夏美さんみたいな女の子を1人知ってるよ。その人のお父さんはね、いろいろ駄目なところはあったけど、何だかんだで立派な領主様だった……夏美さんの、家族の事とか、聞いてもいい?」
「大した話ではないが」
夏美は微笑んだ。
「私の母は、もう亡くなっている。私が幼い頃に病でな……セアラ殿、おぬしに似ていた。控え目なようでいて今思えば、重秀を完全に尻に敷いていたな。武村の家中の事は、全て母が切り盛りをしていた。母が存命であれば、あの父も暗愚なだけの善人でいられたかも知れん」
「……夏美さん。お父上に、会わせてもらうわけにはいきませんか」
エルシーが、左掌に右拳を打ち込んだ。良い音がした。
「手荒な事はしません。ただ、ちょっと……喝を、ね。絶対喝です、ぜつ☆かつ! ですよ」
「……やめておきましょう、エルシー様」
デボラは言った。
「私ちょっと、手荒な事をせずにいられる自信がありません」
「私も、それを止める自信がない」
夏美の口調は、冷めたものだ。
「いや……そもそも、おぬしらに手を汚させるつもりはない。私が月堂もろとも」
「……それは、お止めいたしますよ。夏美様」
セアラの口調は、揺るぎない。
「月堂血風斎は、法で裁くべきだと思います。村の殺戮に関わりあるのならば、武村重秀様も……アマノホカリの法、イ・ラプセルの法、どちらになるのかはわかりませんが」
「証拠が、必要となるかな」
マグノリアが、綺麗な顎に片手を当てた。
「最も有力な証人が、磐成山にいる……」
「生き残った子供たち、それに……益村吾三郎様」
頑なに罪を被り続けている若侍の顔を、デボラは思い浮かべた。
「正式な裁判となれば……あの方は、自ら刑死を選ぶでしょう。果たして証言をして下さるでしょうか……」
「していただかなければ」
セアラが言った。
「他者の罪を被る。それは、他者を救う事にはなり得ません……誰よりまず、あの子供たちが救われていないと私は思います」