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子供戦隊、各色分担

●
目標を作らずに歩いている人間特有の、ふらふらとした足取りの男がいる。
街中ですれ違ったその男は眉を寄せ表情を曇らせていたが、それがあなたの顔を見つけてぱぁっと輝いた。
ああ、まるでその顔は「やっと押し付けられる相手を見つけた!」とでも言いたげで――実際にそのとおりなのだろうと察したあなただったが、逃げ出すより早く、彼、『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)に捕まってしまった。
彼に押し付けられた厄介事とは、こうだ――。
●
「赤センシャー!」
「黄センシャー!」
「あかせんしゃー!」
「……アカセンシャー……」
「きいろー!」
その地域に少し前、巡業で訪れた大衆演劇の一座がいたのだが、その演目が実に子供ウケする内容だったのが発端、らしい。揃いの服を明るい色に染めた正義の味方が、悪事を働く輩をこらしめるという……端的に言えばよくあるやつだ。だいたいの場合は五人くらいのチームで構成され、色で性格もおおまかに決まっていることが多いため、芝居の中ではわかりやすい部類に入る。
赤は情熱的だったり熱血だったり、リーダー役を担うことも多い。
それもあってか、子供のごっこ遊びで色がかぶることも、それでちょっと子どもたち同士が険悪気味になることも、まあたまには聞く話だ。
だが、たまに聞く問題であるということは、特別に有効な解決策がない、という意味でもある。それでちょっと揉めてしまっている、というのがヨアヒムから押し付けられた厄介事の中身だった。子供が意地を張っているだけなら放っておけばよい話だろうとも思えるのだが。
●
「僕が赤センシャーだよ!」
赤センシャーを名乗った少年は、どこから調達したのか赤い布をマントのように巻きつけて、子供の手で振り回すのにちょうどよい棒を天に振りかざす。
あなたが赤センシャー、とつぶやくと、棒を持った子は力強く頷いた。
「悪いやつを倒す、カラーセンシャーのリーダーなんだ!」
他の子達は彼の言葉に頷いている。……この、棒を手にした子が五人組の中心となっているのだろう。
「あかせんしゃー、カッコイイよな!」
その横で同じように布を巻き付けた子が鍋につかうお玉を構えたが、彼の布は緑色だ。よくよく話を聞けば、彼はその布を赤センシャーが身につけていた色だと言うではないか。うまれつき赤と緑の区別がつかない人というのも、まま聞く話ではある。だが、棒の子はそれをまだ理解していないのか、不可解だと言いたげな顔をお玉の子に向ける。その様子に気がついたようで、少しおどおどとした少女は意を決したように穴のあいた鍋をかぶると、棒の子とお玉の子の間に割り込むように「……わたしも、アカセンシャー……」と口にした。
「きいろー。おねーちゃんといっしょー!」
マザリモノの幼子が、黄センシャーを名乗った少女の服の裾を掴んでにっこりと笑う。髪を大人びた編み込みにしている少女も、おねーちゃんと呼ばれるのは好きなようで、嬉しそうに笑っているが――掴まれた服はレースが多くあしらわれていたりと質の良い生地を使っているのが明白だ。事前にヨアヒムから耳打ちされたことが事実なら、この子の親は貴族だとかでいくらか身分に誇りを持っているらしく、子供とはいえマザリモノの異性と遊んでいることにあまり良い顔をしていないそうだ。――あまり話を長引かせてしまえば親の耳に届く可能性がある、それは良い結果を期待できない。仲の良い友人同士を引き離すような事態は避けたいものだ。
●
ところでひとつ確かめておくが――あなたはこの程度の子供の揉め事なんて、それほど気にすることでもないと、思うだろうか?
そんなことはないはずだ。
カラーセンシャーは既に数十年の歴史を誇る人気の演目なのだから。
……ほら、いろかぶりで友人とやりあった記憶が、あなたにもきっとあるはずだ。
覆面で演者がわからないことを前提として演目が作られているから、色で役割を決めていることがもっぱらだ。その中でも特にアカセンシャーは前衛で攻撃をする役回りとなることが多い。他には壁役などが配置されていることもあるが、話を聞く限り、子どもたちが見た先日の演目でのカラーセンシャーは役者の都合か、皆が皆、軽戦士スタイルを取っていたようだ。それも色かぶりの原因のひとつだろう。
軽戦士スタイル以外にもいろんな魅力があるはずだと、そう考えたあなたは、ひとつの疑問に合点がいった。なるほど、ヨアヒムに押し付けられるわけだ。
――自分たちほど、バトルスタイルの手本となるような者はそう居るまい!
目標を作らずに歩いている人間特有の、ふらふらとした足取りの男がいる。
街中ですれ違ったその男は眉を寄せ表情を曇らせていたが、それがあなたの顔を見つけてぱぁっと輝いた。
ああ、まるでその顔は「やっと押し付けられる相手を見つけた!」とでも言いたげで――実際にそのとおりなのだろうと察したあなただったが、逃げ出すより早く、彼、『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)に捕まってしまった。
彼に押し付けられた厄介事とは、こうだ――。
●
「赤センシャー!」
「黄センシャー!」
「あかせんしゃー!」
「……アカセンシャー……」
「きいろー!」
その地域に少し前、巡業で訪れた大衆演劇の一座がいたのだが、その演目が実に子供ウケする内容だったのが発端、らしい。揃いの服を明るい色に染めた正義の味方が、悪事を働く輩をこらしめるという……端的に言えばよくあるやつだ。だいたいの場合は五人くらいのチームで構成され、色で性格もおおまかに決まっていることが多いため、芝居の中ではわかりやすい部類に入る。
赤は情熱的だったり熱血だったり、リーダー役を担うことも多い。
それもあってか、子供のごっこ遊びで色がかぶることも、それでちょっと子どもたち同士が険悪気味になることも、まあたまには聞く話だ。
だが、たまに聞く問題であるということは、特別に有効な解決策がない、という意味でもある。それでちょっと揉めてしまっている、というのがヨアヒムから押し付けられた厄介事の中身だった。子供が意地を張っているだけなら放っておけばよい話だろうとも思えるのだが。
●
「僕が赤センシャーだよ!」
赤センシャーを名乗った少年は、どこから調達したのか赤い布をマントのように巻きつけて、子供の手で振り回すのにちょうどよい棒を天に振りかざす。
あなたが赤センシャー、とつぶやくと、棒を持った子は力強く頷いた。
「悪いやつを倒す、カラーセンシャーのリーダーなんだ!」
他の子達は彼の言葉に頷いている。……この、棒を手にした子が五人組の中心となっているのだろう。
「あかせんしゃー、カッコイイよな!」
その横で同じように布を巻き付けた子が鍋につかうお玉を構えたが、彼の布は緑色だ。よくよく話を聞けば、彼はその布を赤センシャーが身につけていた色だと言うではないか。うまれつき赤と緑の区別がつかない人というのも、まま聞く話ではある。だが、棒の子はそれをまだ理解していないのか、不可解だと言いたげな顔をお玉の子に向ける。その様子に気がついたようで、少しおどおどとした少女は意を決したように穴のあいた鍋をかぶると、棒の子とお玉の子の間に割り込むように「……わたしも、アカセンシャー……」と口にした。
「きいろー。おねーちゃんといっしょー!」
マザリモノの幼子が、黄センシャーを名乗った少女の服の裾を掴んでにっこりと笑う。髪を大人びた編み込みにしている少女も、おねーちゃんと呼ばれるのは好きなようで、嬉しそうに笑っているが――掴まれた服はレースが多くあしらわれていたりと質の良い生地を使っているのが明白だ。事前にヨアヒムから耳打ちされたことが事実なら、この子の親は貴族だとかでいくらか身分に誇りを持っているらしく、子供とはいえマザリモノの異性と遊んでいることにあまり良い顔をしていないそうだ。――あまり話を長引かせてしまえば親の耳に届く可能性がある、それは良い結果を期待できない。仲の良い友人同士を引き離すような事態は避けたいものだ。
●
ところでひとつ確かめておくが――あなたはこの程度の子供の揉め事なんて、それほど気にすることでもないと、思うだろうか?
そんなことはないはずだ。
カラーセンシャーは既に数十年の歴史を誇る人気の演目なのだから。
……ほら、いろかぶりで友人とやりあった記憶が、あなたにもきっとあるはずだ。
覆面で演者がわからないことを前提として演目が作られているから、色で役割を決めていることがもっぱらだ。その中でも特にアカセンシャーは前衛で攻撃をする役回りとなることが多い。他には壁役などが配置されていることもあるが、話を聞く限り、子どもたちが見た先日の演目でのカラーセンシャーは役者の都合か、皆が皆、軽戦士スタイルを取っていたようだ。それも色かぶりの原因のひとつだろう。
軽戦士スタイル以外にもいろんな魅力があるはずだと、そう考えたあなたは、ひとつの疑問に合点がいった。なるほど、ヨアヒムに押し付けられるわけだ。
――自分たちほど、バトルスタイルの手本となるような者はそう居るまい!
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.カラーセンシャーは良いぞ
2.バトルスタイルここが良いぞ選手権
3.死者等、自分たちでフォローできない被害発生の禁止を厳守
2.バトルスタイルここが良いぞ選手権
3.死者等、自分たちでフォローできない被害発生の禁止を厳守
●前提
カラーセンシャーという題材は覆面で顔のほとんどを隠すため、演者が変わっても話の大筋に変化を加えることなく興行を続ける事ができる利点があり、長年の人気演目となっています。
君も子供の頃に見ただろ? 見たよね? 見てたでしょ?
ということで、今日はカラーセンシャーごっこに付き合ってもらう。
●場所とか時間とか
昼間の街の片隅、小劇団が小さな芝居を見せることができる程度の大きさの広場
●ちいさなおともだちにプレゼンしよう
軽戦士スタイルだけの演目を見たのが原因で、子どもたちは物語で活躍したらしいアカとキに夢中になってしまいました。他に何人いたか、何色が配役されていたのかもあまり覚えていません。
でも、昔の演目を見たことのあるあなたたちからすれば、子どもたちの名乗りはとても不自然に感じてしまう状態のはずです。
どうせだったら、過去に見た自分が格好良いと思った色のセンシャーとそのスタイルの良さを子供たちに見せつけて、憧れさせてみよう!
方法は……なんでもいい。純粋にプレゼンをしても良いし、簡単な演舞を見せても良い。なんだったら芝居を始めたって良い。周囲の大人たちを急に巻き込んでも、子どもたちがここしばらくカラーセンシャーごっこに勤しんでいるのは知っているので街中で斬りかかるふりをされた「カンサイジン」くらいの反応してくれるはずだ。しらんけど。
あと日常的な小物であればそのへんから借りてきても良いし持ってても良い。
●これを読んでいるおともだちへ。
この題材で書いておいてこんなこと言うのはズルイと承知の上ですが、プレイングに際し、某お笑い番組のアレをそのまんまパクった内容はアウトとします。
何のことかわからない人は、おうちの人に聞いたりせずに思うままにプレイングを書いてください。
カラーセンシャーという題材は覆面で顔のほとんどを隠すため、演者が変わっても話の大筋に変化を加えることなく興行を続ける事ができる利点があり、長年の人気演目となっています。
君も子供の頃に見ただろ? 見たよね? 見てたでしょ?
ということで、今日はカラーセンシャーごっこに付き合ってもらう。
●場所とか時間とか
昼間の街の片隅、小劇団が小さな芝居を見せることができる程度の大きさの広場
●ちいさなおともだちにプレゼンしよう
軽戦士スタイルだけの演目を見たのが原因で、子どもたちは物語で活躍したらしいアカとキに夢中になってしまいました。他に何人いたか、何色が配役されていたのかもあまり覚えていません。
でも、昔の演目を見たことのあるあなたたちからすれば、子どもたちの名乗りはとても不自然に感じてしまう状態のはずです。
どうせだったら、過去に見た自分が格好良いと思った色のセンシャーとそのスタイルの良さを子供たちに見せつけて、憧れさせてみよう!
方法は……なんでもいい。純粋にプレゼンをしても良いし、簡単な演舞を見せても良い。なんだったら芝居を始めたって良い。周囲の大人たちを急に巻き込んでも、子どもたちがここしばらくカラーセンシャーごっこに勤しんでいるのは知っているので街中で斬りかかるふりをされた「カンサイジン」くらいの反応してくれるはずだ。しらんけど。
あと日常的な小物であればそのへんから借りてきても良いし持ってても良い。
●これを読んでいるおともだちへ。
この題材で書いておいてこんなこと言うのはズルイと承知の上ですが、プレイングに際し、某お笑い番組のアレをそのまんまパクった内容はアウトとします。
何のことかわからない人は、おうちの人に聞いたりせずに思うままにプレイングを書いてください。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
1個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
11/30
11/30
公開日
2020年05月24日
2020年05月24日
†メイン参加者 11人†

●
最初にわざと、ぎしり、と軋んだ音を響かせた。
自身の脚が鳴らした苦手な音にも『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は表情ひとつ変えず、湾曲した刀が一番きらめく軌道を描くように腕を、腕からつながる全身を、その体すべてを支える脚を躍動させた。人の目を惹き付ける、踊るような剣の軌跡。
文字通り舞うような剣舞を終えたとき、アリシアの周囲にはちょっとした人だかりができていた。
その最前列に五人の子供たちの姿をみつけ、アリシアは微笑む。
(うちもあの頃はこんな目しとったんやろか)
親にねだって連れて行ってもらった己の記憶が、目の前の子供達の姿に重なって見える。
「これが、ダンサーや。華麗に蝶のように舞って、蜂のように鋭く刺す、めっちゃ華麗でかっこいいスタイルやで!」
わぁ、パチパチパチ、と。子どもたちの喜んだ声と拍手が響く。その中には、子どもたちと一緒になって見ている大人のものも含まれていた。
場が温まったのを感じて、アリシアは舞台袖――彼女が踊っている間に手筈通り、ロープを広場の頭上に張り渡し、その左右に大きな布をかけて身を隠せるようにしただけのごく簡単な舞台が完成していた――に合図を送る。
それを受け、アリシアと入れ替わるように舞台へと飛び出した『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が素っ頓狂な声を上げた。
「良い子の皆ー! こーんにーちわー!
楽しくてカッコ良いカラーセンシャーショーの時間だよー☆」
上機嫌なのかそれとも自棄か。酒精の香りを漂わせた彼女は顔にある三つの目すべてを細めて、『お約束』のセリフを掲げた。
――ところでカラーセンシャーという催しは、かつてとある商隊が始めたと言われている。
旅の合間には護衛を務める戦士が、街の滞在中に暇潰しに始めたとも、素行の悪い戦士が悪さをしないようにやらせたとも言われるが、全ては昔話、真相はとうに誰にもわからない。ただ、今となっては件の芝居を演じた者達のように、商隊の護衛を兼ねた大衆演劇の一座、という集団もいるというわけだ。
「商いだけに、飽きない工夫が必要です……ってな!」
広場に子どもたちを集めるよりいくらか前、周囲の大人たちに舞台作りの協力を求めていたときに、そう言って鷹揚に笑った樽のような体型の商人がいたことを思い出し、『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は眼鏡の下の眉間を揉んだ。
●
「わ、わたしは悪の魔法使い、ダークネクロン……!
カラーセンシャーなんて、やっつけてやります、がおー」
天哉熾 ハル(CL3000678)に続いて出てきた『決意なき力』アルミア・ソーイ(CL3000567)がボロボロのフードを被って、脅かすように手を上げる。
ハルは客列の子供たちを見回し妖艶な笑みを見せた後、舞台中でオロオロしている(※演技)ツボミを見て小首をかしげた。
「お酒を飲んでる時の血って、少し味が変わる気がし――」
「たいへん! 悪の組織アクダマーの怪人達が大暴れ! キャー☆たすけてー」
子供が試してみようとか考えたらまずい話題だと察し、ツボミは若干展開を巻いた。
手順取りの合図に、アルミアはツボミの足元を大げさに指差した。
「くらえー、ダーク魔術スワンプー。
沼に足を取られれば無力、このままだとわたしたちの一方的勝利ですよー」
突然ぬかるんだ足元に、ツボミの体ががくりと腰まで沈みこむ(※仕込んでおいた落とし穴に自分で飛び込んで座っているだけです)。身動きの取れないツボミへと、ハルが忠兵衛を大きく振りかぶった。ひと目でわかる大ピンチに、子どもたちが悲鳴をあげ、青い顔をする。
その時――なんか格好良い音楽が流れ、(お約束の)声が響いた。
「待ちなさい、アクダマー!」
音の発生源は、どうやら巨大な十字架を手にポーズを決めた『マスクド・パスター』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)のようだ。シスター服の上に金色の布を羽織らされたアンジェリカは、「ゴールドセンシャー!」と名乗りを上げた。
巨大な盾をズシンと地面に打ち下ろし、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は力強く叫ぶ。
「大地を開拓する堅き刃! シルバーセンシャー!」
続いて祈りの鉄塔――どう見ても大型フレイルである――を地面にズガンと叩きつけ、『ベルなんとかオリジナル』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は高らかに叫ぶ。
「わたくしは魔法のセンシャーマギアス! ピンクセンシャー!」
「……ブルーセンシャー」
最後に飛び出したルエ・アイドクレース(CL3000673)は一瞬「アオ……ブルー……」と悩んだせいでわずかに間が空いたが、そのぶん冷静に見えたので結果的にOKです。
見ていた樽体型商人が「ほぉー、重戦士が複数か」と呟く。
いやそんなことはないはずだがと思いつつ舞台に目を向けたライモンドが見たのは、一人が片刃の剣を持っている以外、でかい盾とでかい十字架とでかいフレイルを持って謎の爆発を背にポーズを決める姿だった。今度は眼鏡を外して眉間を揉んだ。
●
事前に打ち合わせたとおり、派手に見えるように考慮した演舞の組み合わせで、一進一退の攻防を演じるカラーセンシャー役を見ながら、子どもたちは困惑した顔を見合わせる。
「ねえ、アカセンシャーがいないよ?」
「キセンシャーもいないね……」
――想定していたとおりの困惑に、ナバルは内心でガッツポーズをした。ナバル自身も、一番好きだったのは赤だったという記憶がある。
(もちろん赤以外の戦士もかっこいいからな、子供たちにも、そのカッコよさを教えなきゃ!)
ナバルはハルとアルミアに目配せする。小さくうなずくとアルミアは中央に飛び出した。
「えーい、もう一度、沼におとしてやります……!」
いかにも怪しげな手の動きで、何かやってる風に見せかけるアルミア。ちなみに何もしていない。ただ怪しく見せているだけだ。
ルエは子どもたちのすぐ近くまで小走りに向かうと、ほら、と舞台の中央を指し示した。
「敵に真っ正面から突っ込んで戦うってのは確かにかっこいいけど、例えば横から新たな敵が出てきたら困るよな――だから周りの様子を調べて伝えるのも、大事な仕事なんだ」
ほら、今がまさにそうだ。と子どもたちの注意を舞台へと向けさせる。
怪しげな手付きのアルミアに向かってエリシアが、させるかとばかりに飛び出す。
「マジカルパワーで悪者を一発ノックアウトですわよ!
さあ食らいなさいマジカルー! 殴打!」
「それを待っていたわ」
ゆらり、と。音もなく忍び寄ったハルが、エリシアの背後を取る。
その瞬間、舞台上のすべてがスローモーションになった(身体表現的物理で)。
幼子が手で口を覆う。
一番しっかりした子が、一際大きな声で叫んだ。
「ピンク、うしろー!」
つられて他の子供たちも、「うしろ、うしろ!」と声を上げる。
気づかない(そぶりの)エリシアの後ろで、ハルが忠兵衛を大上段から振り下ろす。
ガギィ! と、なんの演出もない音が響いた。
●
「防御タンクはとても重要なスタイルだ。――名前はともかく。
オレがいる限り、仲間の誰一人として失わせはしない!」
ハルとエリシアの間に割り込んだナバルが、己の背丈ほどもある盾で刃を受け止めていた。それは事前に示し合わせた通りのものとはいえ、ふたりとも渾身であった。打ち合った結果、ふたりは刃と盾のはなった火花のように弾き飛ばされた。
――舞台から離れ、客席の方へと。
「っで、えええ!?」
樽な商人が悲鳴を上げる。食い入るように見ている子どもたちと違い、大人である彼にはそうして倒れ込みそうになっているふたりの状態が、ブックではない、本当に観客に危害が及びかねない状態であることが理解できたのだ。
センシャーごっこに付き合って怪我をさせられるとか、冗談じゃない!
目をつぶって身を固くし、衝撃に備え――何も訪れず、商人は恐る恐る目を開ける。
ライモンドの命じたスチムマータが、そして『みつまめP』ナナン・皐月(CL3000240)が、ハルとナバルをそれぞれ受け止めていた。
「協力を願った手前、これぐらいはな」
「皆を怪我させちゃったら、大変だーーー!! ってなっちゃうからねぇ!」
不測の自体が起きた際に、観客に被害を出さないために。そのために、ライモンドとナナンは客側で待機していたのだ。
「つ……ついかせんしだ!」
子供が興奮した声を上げ、ナナンは「えっへへー!」と笑う。
「ナナンはヒーローなのだ! ナナンも悪役の人から、小さい子達と皆を守るねぇ!」
ライモンドは「……黒だ」と口にする。
「ついかせんしのヒーローと黒!? すごい!!」
テンションの上がった子どもたちの前で、ナナンがひょいと、ライモンドがゆっくりと舞台に混ざる。
「これは……アタシたち、追い詰められたみたいね?」
センシャーたちをゆっくりと見回し、ハルが服の袖で顔を覆うような仕草を取る。
「あとは任せたわね、ダークネクロン」
「! 逃しません……!」
アンジェリカがハルとアルミアに向け(かつ当たらないように)黒炎を放つ。
炎が消えた時、そこには胸を抑えて倒れようとするアルミアの姿だけがあった。
「うわー、やられたー」
ばたり。
断末魔(?)を残したアルミアが倒れ込むと、子どもたちは(あと観客の一部の大人も)一際大きな歓声を上げた。
●
「カラーセンシャー、前に見たのと全然違ったね」
「でも今日のやつ、けっこうすきかも」
「……踊るのも、キレイだった」
興奮気味の子どもたちが口々に感想を言うのを、なんだかんだで最後までつきあってくれた近所の大人たちが微笑ましく見ている。中には「ネクロンがなんか、ツボだ」「クロセンシャー……!」とか言ってる大人もいたが、大人の感想は今回お呼びでないので無視である。
子どもたちと一緒にすっかりカラーセンシャーショーを堪能していた『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)だったが、どうしても気にかかったことがあったので、ひょいと布をめくり、客側からは隠れていた舞台袖代わりのスペースを覗き込んだ。
「がおー。ケガはどうなったんだぞ」
「おっと、気づかれてたか」
そこにいたナバルは、ごく簡単なケガの処置を済ませようとしていたところだった。演舞ではない本気でやり合う一撃に、最初から多少のケガは織り込み済みではあったのだが。ヒーラーがいるならまた話は違ってくる。
治療を始めたサシャの様子を、マザリモノの幼子が不思議そうに見つめ――やがて、興味津々といった表情で、サシャへと小走りに駆け寄っていった。
〈了〉
最初にわざと、ぎしり、と軋んだ音を響かせた。
自身の脚が鳴らした苦手な音にも『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は表情ひとつ変えず、湾曲した刀が一番きらめく軌道を描くように腕を、腕からつながる全身を、その体すべてを支える脚を躍動させた。人の目を惹き付ける、踊るような剣の軌跡。
文字通り舞うような剣舞を終えたとき、アリシアの周囲にはちょっとした人だかりができていた。
その最前列に五人の子供たちの姿をみつけ、アリシアは微笑む。
(うちもあの頃はこんな目しとったんやろか)
親にねだって連れて行ってもらった己の記憶が、目の前の子供達の姿に重なって見える。
「これが、ダンサーや。華麗に蝶のように舞って、蜂のように鋭く刺す、めっちゃ華麗でかっこいいスタイルやで!」
わぁ、パチパチパチ、と。子どもたちの喜んだ声と拍手が響く。その中には、子どもたちと一緒になって見ている大人のものも含まれていた。
場が温まったのを感じて、アリシアは舞台袖――彼女が踊っている間に手筈通り、ロープを広場の頭上に張り渡し、その左右に大きな布をかけて身を隠せるようにしただけのごく簡単な舞台が完成していた――に合図を送る。
それを受け、アリシアと入れ替わるように舞台へと飛び出した『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が素っ頓狂な声を上げた。
「良い子の皆ー! こーんにーちわー!
楽しくてカッコ良いカラーセンシャーショーの時間だよー☆」
上機嫌なのかそれとも自棄か。酒精の香りを漂わせた彼女は顔にある三つの目すべてを細めて、『お約束』のセリフを掲げた。
――ところでカラーセンシャーという催しは、かつてとある商隊が始めたと言われている。
旅の合間には護衛を務める戦士が、街の滞在中に暇潰しに始めたとも、素行の悪い戦士が悪さをしないようにやらせたとも言われるが、全ては昔話、真相はとうに誰にもわからない。ただ、今となっては件の芝居を演じた者達のように、商隊の護衛を兼ねた大衆演劇の一座、という集団もいるというわけだ。
「商いだけに、飽きない工夫が必要です……ってな!」
広場に子どもたちを集めるよりいくらか前、周囲の大人たちに舞台作りの協力を求めていたときに、そう言って鷹揚に笑った樽のような体型の商人がいたことを思い出し、『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は眼鏡の下の眉間を揉んだ。
●
「わ、わたしは悪の魔法使い、ダークネクロン……!
カラーセンシャーなんて、やっつけてやります、がおー」
天哉熾 ハル(CL3000678)に続いて出てきた『決意なき力』アルミア・ソーイ(CL3000567)がボロボロのフードを被って、脅かすように手を上げる。
ハルは客列の子供たちを見回し妖艶な笑みを見せた後、舞台中でオロオロしている(※演技)ツボミを見て小首をかしげた。
「お酒を飲んでる時の血って、少し味が変わる気がし――」
「たいへん! 悪の組織アクダマーの怪人達が大暴れ! キャー☆たすけてー」
子供が試してみようとか考えたらまずい話題だと察し、ツボミは若干展開を巻いた。
手順取りの合図に、アルミアはツボミの足元を大げさに指差した。
「くらえー、ダーク魔術スワンプー。
沼に足を取られれば無力、このままだとわたしたちの一方的勝利ですよー」
突然ぬかるんだ足元に、ツボミの体ががくりと腰まで沈みこむ(※仕込んでおいた落とし穴に自分で飛び込んで座っているだけです)。身動きの取れないツボミへと、ハルが忠兵衛を大きく振りかぶった。ひと目でわかる大ピンチに、子どもたちが悲鳴をあげ、青い顔をする。
その時――なんか格好良い音楽が流れ、(お約束の)声が響いた。
「待ちなさい、アクダマー!」
音の発生源は、どうやら巨大な十字架を手にポーズを決めた『マスクド・パスター』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)のようだ。シスター服の上に金色の布を羽織らされたアンジェリカは、「ゴールドセンシャー!」と名乗りを上げた。
巨大な盾をズシンと地面に打ち下ろし、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は力強く叫ぶ。
「大地を開拓する堅き刃! シルバーセンシャー!」
続いて祈りの鉄塔――どう見ても大型フレイルである――を地面にズガンと叩きつけ、『ベルなんとかオリジナル』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は高らかに叫ぶ。
「わたくしは魔法のセンシャーマギアス! ピンクセンシャー!」
「……ブルーセンシャー」
最後に飛び出したルエ・アイドクレース(CL3000673)は一瞬「アオ……ブルー……」と悩んだせいでわずかに間が空いたが、そのぶん冷静に見えたので結果的にOKです。
見ていた樽体型商人が「ほぉー、重戦士が複数か」と呟く。
いやそんなことはないはずだがと思いつつ舞台に目を向けたライモンドが見たのは、一人が片刃の剣を持っている以外、でかい盾とでかい十字架とでかいフレイルを持って謎の爆発を背にポーズを決める姿だった。今度は眼鏡を外して眉間を揉んだ。
●
事前に打ち合わせたとおり、派手に見えるように考慮した演舞の組み合わせで、一進一退の攻防を演じるカラーセンシャー役を見ながら、子どもたちは困惑した顔を見合わせる。
「ねえ、アカセンシャーがいないよ?」
「キセンシャーもいないね……」
――想定していたとおりの困惑に、ナバルは内心でガッツポーズをした。ナバル自身も、一番好きだったのは赤だったという記憶がある。
(もちろん赤以外の戦士もかっこいいからな、子供たちにも、そのカッコよさを教えなきゃ!)
ナバルはハルとアルミアに目配せする。小さくうなずくとアルミアは中央に飛び出した。
「えーい、もう一度、沼におとしてやります……!」
いかにも怪しげな手の動きで、何かやってる風に見せかけるアルミア。ちなみに何もしていない。ただ怪しく見せているだけだ。
ルエは子どもたちのすぐ近くまで小走りに向かうと、ほら、と舞台の中央を指し示した。
「敵に真っ正面から突っ込んで戦うってのは確かにかっこいいけど、例えば横から新たな敵が出てきたら困るよな――だから周りの様子を調べて伝えるのも、大事な仕事なんだ」
ほら、今がまさにそうだ。と子どもたちの注意を舞台へと向けさせる。
怪しげな手付きのアルミアに向かってエリシアが、させるかとばかりに飛び出す。
「マジカルパワーで悪者を一発ノックアウトですわよ!
さあ食らいなさいマジカルー! 殴打!」
「それを待っていたわ」
ゆらり、と。音もなく忍び寄ったハルが、エリシアの背後を取る。
その瞬間、舞台上のすべてがスローモーションになった(身体表現的物理で)。
幼子が手で口を覆う。
一番しっかりした子が、一際大きな声で叫んだ。
「ピンク、うしろー!」
つられて他の子供たちも、「うしろ、うしろ!」と声を上げる。
気づかない(そぶりの)エリシアの後ろで、ハルが忠兵衛を大上段から振り下ろす。
ガギィ! と、なんの演出もない音が響いた。
●
「防御タンクはとても重要なスタイルだ。――名前はともかく。
オレがいる限り、仲間の誰一人として失わせはしない!」
ハルとエリシアの間に割り込んだナバルが、己の背丈ほどもある盾で刃を受け止めていた。それは事前に示し合わせた通りのものとはいえ、ふたりとも渾身であった。打ち合った結果、ふたりは刃と盾のはなった火花のように弾き飛ばされた。
――舞台から離れ、客席の方へと。
「っで、えええ!?」
樽な商人が悲鳴を上げる。食い入るように見ている子どもたちと違い、大人である彼にはそうして倒れ込みそうになっているふたりの状態が、ブックではない、本当に観客に危害が及びかねない状態であることが理解できたのだ。
センシャーごっこに付き合って怪我をさせられるとか、冗談じゃない!
目をつぶって身を固くし、衝撃に備え――何も訪れず、商人は恐る恐る目を開ける。
ライモンドの命じたスチムマータが、そして『みつまめP』ナナン・皐月(CL3000240)が、ハルとナバルをそれぞれ受け止めていた。
「協力を願った手前、これぐらいはな」
「皆を怪我させちゃったら、大変だーーー!! ってなっちゃうからねぇ!」
不測の自体が起きた際に、観客に被害を出さないために。そのために、ライモンドとナナンは客側で待機していたのだ。
「つ……ついかせんしだ!」
子供が興奮した声を上げ、ナナンは「えっへへー!」と笑う。
「ナナンはヒーローなのだ! ナナンも悪役の人から、小さい子達と皆を守るねぇ!」
ライモンドは「……黒だ」と口にする。
「ついかせんしのヒーローと黒!? すごい!!」
テンションの上がった子どもたちの前で、ナナンがひょいと、ライモンドがゆっくりと舞台に混ざる。
「これは……アタシたち、追い詰められたみたいね?」
センシャーたちをゆっくりと見回し、ハルが服の袖で顔を覆うような仕草を取る。
「あとは任せたわね、ダークネクロン」
「! 逃しません……!」
アンジェリカがハルとアルミアに向け(かつ当たらないように)黒炎を放つ。
炎が消えた時、そこには胸を抑えて倒れようとするアルミアの姿だけがあった。
「うわー、やられたー」
ばたり。
断末魔(?)を残したアルミアが倒れ込むと、子どもたちは(あと観客の一部の大人も)一際大きな歓声を上げた。
●
「カラーセンシャー、前に見たのと全然違ったね」
「でも今日のやつ、けっこうすきかも」
「……踊るのも、キレイだった」
興奮気味の子どもたちが口々に感想を言うのを、なんだかんだで最後までつきあってくれた近所の大人たちが微笑ましく見ている。中には「ネクロンがなんか、ツボだ」「クロセンシャー……!」とか言ってる大人もいたが、大人の感想は今回お呼びでないので無視である。
子どもたちと一緒にすっかりカラーセンシャーショーを堪能していた『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)だったが、どうしても気にかかったことがあったので、ひょいと布をめくり、客側からは隠れていた舞台袖代わりのスペースを覗き込んだ。
「がおー。ケガはどうなったんだぞ」
「おっと、気づかれてたか」
そこにいたナバルは、ごく簡単なケガの処置を済ませようとしていたところだった。演舞ではない本気でやり合う一撃に、最初から多少のケガは織り込み済みではあったのだが。ヒーラーがいるならまた話は違ってくる。
治療を始めたサシャの様子を、マザリモノの幼子が不思議そうに見つめ――やがて、興味津々といった表情で、サシャへと小走りに駆け寄っていった。
〈了〉