MagiaSteam
キロネックスと楽器輸送船




 通商連輸送船。イ・ラプセルに向けて様々な楽器を積載したその船は順調な航海を続けていた。
「もうすぐイ・ラプセルか。……ん? なんだあれは……」
 乗組員が船体横にへばり付く何本ものゲルのようなものを発見した。
 不思議に思った船員は経験豊富な老船員を呼ぶ。
「あれって……なんですかい?」
「おいおい、こんな老いぼれをわざわざ寒い甲板に連れ出すなんてよぉ」
 笑いながらその場へやってきた老船員の表情が凍りつく。
「嘘じゃろ……この大きさ……信じられん」
 老船員はその場にへたり込む。
「どうしたんでさ?? アレは一体!?」
「海の暗殺者……殺人クラゲだ……しかもこんな大きさのものは見た事がねぇ……」
「まさか……イブリース化……ですかい……」
 すぐに船長へこの事実が告げられる。
「総員戦闘態勢!! クラゲ共を引きはがせぇーーっ!!!」
  
 それからどれだけの時間が過ぎただろうか。
 船員達の奮闘もむなしく、輸送船は船員もろとも海の底深く沈んでいった──。


「プラロークからすでに情報は聞いてるわよね」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は船着場に集った自由騎士達に改めて状況を説明する。
 予てより希望が出ていた、純粋な音楽を楽しむための数々の楽器。
 ミズーリが通商連との契約を終え、その第一陣となる輸送船。それがイブリース化した海洋生物に襲われるのだという。
 ミズーリからしてみればせっかくの成果が無駄になってしまう。堪ったものではない。
「というわけで、今から船を出すわ。本格的に船を襲う前にはたどり着くはず。みんなには輸送船を襲うモンスターを迎え撃って欲しいの」
 常日頃より通商連との様々な駆け引きや交渉を行ってくれているミズーリ。その仕事ぶりが表に出る事はあまりない。だが自由騎士はミズーリの人知れぬ働きを知っている。
「当然だろ。まかせとけ」
 そう言って自由騎士達は影の功労者を労い、その恩に応えるのであった。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.ギガントキロネックスの討伐
2.船員の無事
麺です。くらげの足を麺の変わりに……するのはやめておきましょう。

この依頼はブレインストーミングスペース
リュリュ・ロジェ(CL3000117) 2018年12月10日(月) 22:12:14
の発言等を元に作成されました。

24の目、4つの脳、15本の触手に50万もの小型ダーツのような触手を持つ殺人クラゲ、キロネックス。
その毒はイブリース化する前でも、たった1匹で60人もの人間を殺せる毒を持つといいます。
そんなクラゲがイブリース化しました。イ・ラプセルの民が今よりもっと音楽を楽しめるよう輸送船の死守をお願いします。
無事死守した暁には、佐クラのショップが潤うことになるかと思います。

●ロケーション

 イ・ラプセル東の海上。少々波が高くなっておりシケ気味です。
 何かしらの対策が無い場合、回避にマイナス効果がついた状態となります。
 輸送船の回りにはイブリース化により巨大化したクラゲが5匹。
 その毒は非常に強力でその身に受け、全身に毒が回れば自由騎士と言えども身動きが取れなくなります。
 遠距離からの攻撃が有効ですが、クラゲ本体の殆どは海中のため、効果的にダメージを与えるには工夫が必要です。
 なおミズヒトの方は水中戦でも一切のデメリットを受けないため、本体を狙いやすくなります。
 3匹討伐すれば残りは逃げていきます。


●登場人物(敵モンスター含む)

・船長
 触手によって揺れる輸送船の操舵に集中しています。

・船員7人
 銛などで触手が船内に入り込むのを防いでいますが、老船員が若い船員を庇いクラゲの毒に犯されています。
 処置をしなければ6ターン後に絶命します。

・ギガントキロネックスx5
 イブリース化したキロネックス。その体長は20メートルほど(通常3メートルほど)に巨大化。
 その脅威は上の説明のとおりです。

 触手   攻遠範 何本もの触手を伸ばして攻撃し、高い確率で毒を受けます。【ポイズン2】
 触手連打 攻遠単 複数の触手による、単体への連続攻撃。高ダメージ。【ポイズン2】 
 消化   攻近単 1ターン目で対象を捕獲し、2ターン目以降体内に取り込み消化液を浴びせます。3ターン目に衣服が溶かされ、6ターン以内に脱出できなければ戦闘不能となります。
 
 消化中はクラゲの本体が海上に浮上しており、チャンスでもあります。わざと囮となり、本体を浮上されるのも一つの作戦です。万が一仲間が消化された場合、一定のダメージを本体に集中的に浴びせる事で救出可能です。

●同行NPC

『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示が無い場合は味方のBS回復に専念します。
 ジローを囮とする事も可能ですが、少し寂しそうな表情をします。
 所持スキルはステータスシートをご確認ください。

皆さまのご参加心よりお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年01月06日

†メイン参加者 6人†




 輸送船へ向かう自由騎士たちを乗せた船内。
(私も演奏家の端くれ。この事態を見過ごすことはできないのであります。ミズーリ殿、楽器達、楽器を運んでくださる船員の方々……そして音楽を愛する方々の為、できる限り尽力するのであります!)
「もしかしたら、私も運ばれてくる楽器と素敵な出会いを果たせるしれないでありますし……」
『楽器と共に歩むもの』ドロテア・パラディース(CL3000435)は小声でそんな事を呟きながら、「こほん!」と咳払い一つ。演奏家のドロテアにとって楽器は無くてはならないもの。この輸送船の無事はドロテアにとっても重要だ。
「楽器を運ぶ船……この船を守ったら……もっと楽しい音楽が……イ・ラプセルで見られるね……楽しみだから……頑張る……」
 誰に伝えるわけでなく小声でそう気合を入れたのは、『笑顔のちかい』ソフィア・ダグラス(CL3000433)だ。コミニュケーションをとるのが苦手なソフィアではあるが、様々な楽器が奏でる音楽がもたらすものの重要さは理解している。
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)もまた積荷の楽器に興味津々だ。
「見慣れたものか……はたまた異国の未だ見知らぬものなのか……」
 一刻も早くその音色を聞きたいものだ──はやる気持ちを抑えつつ、先ずはイブリース退治に気持ちを引き戻す。その瞳はまっすぐに今はまだ見えない戦場を捉えている。
「お祭りの多い国だから、楽器は何としても輸入して貰わないとね」
『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は自由騎士であると同時に学徒でもある。
 国を挙げたお祭りや行事には、学徒の協力は必要不可欠。関わる事も多いアリアは自ずとその重要性を感じていた。
「海の狩りは専門外だから詳しい事は知らないのだけれど……確か海のスズメ蜂とか言われてる殺人クラゲらしいわよ」
 そんなアリアの横で今回の獲物について話すのは『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)。
「見えてきましたぞっ!!」
 襲われている輸送船が自由騎士達の視界に入る。その船体にはおびただしい量のクラゲの触手。
「ちょっとだけ麺っぽくておいしそうかも?」
「アレ食べられるのはすごく大きい亀さんぐらいだよ……って!?」
 おどけるヒルダに少し呆れ顔のアリアだったが、改めて見た敵の巨大さと触手の数に顔が僅かに引きつる。
 うち、欲しい楽器があるんよ。そんな事を思うのは『艶師』蔡 狼華(CL3000451)。
「貢……頂いたもんが壊れてしもて、新しいもん探しとったとこや。歌に楽器に踊り、芸事はうちの商売道具。質のええもん揃えんとなぁ。まぁ、ええもん期待しとりますわ」
 その心はすでに積荷に移っているようだ。


 たどり着いた輸送船。すでにそこは激しい戦場と化していた。
 触手の船内への浸入を阻止せんと奮闘する船員達。毒を受けたものもいるようだ。
 自由騎士達はすばやく輸送船へ乗り移り、戦闘体勢に入る。
「はぁ…今回はクラゲかいな。こんだけ大きゅうならはると可愛げも無いなぁ……」
 ふぅとため息をつく狼華も普段の華やかな着物から動きやすい衣装へ。準備は万端だ。
「先ずは船体についた触手を引き剥がさないと」
 アリアが勢いよく海上へ飛び出す。その卓越したバランス感覚は海上での移動をも可能としていた。
 そのまま海上を駆け回り、船体にへばり付く触手に次々と剣撃を浴びせてゆく。
 一方の船上のヒルダは、老船員の元へ駆け寄る。
「死ぬんじゃないわよ!」
 ヒルダは老船員の息がある事を確認すると、襲い掛からんとする触手を前に仁王立つ。
 その後ろでは『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)が毒の回復を試みる。
「一本ずつ狙ってもきりが無いわね……」
 ヒルダが両手に持ったブランダーバスをクロスさせ、一呼吸する。
「くらいなさいっ!!」
 ヒルダが撃ち放つは絶え間ない連射による灼熱の弾幕。その灼熱は船体上部を覆いつくさんとするキロネックスの触手を焼き焦がしていく。
「やっぱり火は有効みたいね……アリアッ!!」
 ヒルダの炎により船体から引きはがされた触手が、アリアの一撃で一本、また一本と切り刻まれていく。
「うちはフェンサーやさかい、あんま遠くから攻撃すんのは得意やあらしまへんけどなぁ……ここは踏ん張りどころやね……」
 狼華は回復役のメンバーを守りながら気の刃で船体にへばり付く触手を攻撃する。
「うう……」
 毒を受けた老船員がソフィアとドロテアの回復により意識を取り戻す。
「船員の皆さんは船の中へ! 中から鍵をかけて絶対に外には出ないでくださいっ!!」
 ドロテアが老船員に肩を貸す船員達にそう告げる。
「わかった……アンタ達は大丈夫なのか?」
「私達は大丈夫でありますっ!! 自由騎士ですからっ!!」
 ドロテアは船員へ笑顔を見せる。船員達が皆避難したとしても決して楽観視できる状況ではない。それでも船員達に少しの不安も与えぬよう彼女は笑顔で大丈夫と言った。そこには自由騎士としての確かな矜持。
 ソラビトのドロテアはキロネックスがどれだけ船体を揺らそうとその影響は受けない。いつも通りのポテンシャルで挑めるのは頼もしいかぎりだ。
 そして影響を受けないのはリュリュも同じだ。ソラビトの特性を生かし、わずかばかり浮いた上体を保っている。リュリュもまた2連の魔弾で船体を覆う触手をはがさんと奮闘する。
 その中でもドロテアの攻撃が効果を発揮する。そのリラの音色は僅かながらもキロネックスの動きを封じ、無防備な本体を水面付近に浮かび上がらせることに成功する。
「っ!! やりました!! 作戦成功であります!!」
 浮かび上がったキロネックスを待つのは海上を疾走するアリアの全速度を乗せた風の刃とヒルダの放つ灼熱の弾幕。更にはリュリュが放った2つの試験管。その劇物は時間差でキロネックスの本体に命中し、その身を溶かす。
 動けぬまま集中砲火を受けたキロネックスは、その触手を天高く掲げ大きく震わせるとそのまま動かなくなった。
「やったであります!! まずは一匹!!」
 ドロテアが思わずガッツポーズ。船の中央で皆を回復していたソフィアにもその声は届き、最初の吉報に安堵の表情を浮かべる。
「(……でも……まだあと4匹……油断は……禁物だよ……)」
 ぼそぼそと小声でしゃべるソフィアの声は他の自由騎士には届いていないかも知れない。
 それでも気を引き締めなおし、皆にノートルダムの息吹で回復支援するソフィアの表情を見た自由騎士達は、その気持ちを肌で感じ取る。激しい敵の攻撃の中、最前線で戦う皆の後ろにはただ直向に癒し続けるソフィアがいる。まだ幼さの残るソフィアもまた船員達の、自由騎士達の行く末を担う重要な存在なのだ。
 自由騎士がこのまま一気に触手を引き剥がし、優位に持っていくかと思われたのだが──。
 100の目、15の脳、60本の触手。残る4匹のキロネックスの数の暴力はいずれ劣らぬ自由騎士達と言えど一筋縄でいくものではない。
「それにしたって……剥がしても剥がしてもこりゃきりがありゃしまへんえ」
 速度強化し、その抜群の平衡感覚で縦横無尽に船上を駆け回り、触手を剥がしまわっていた狼華にも疲労の色が見える。本体にダメージを与えなければ剥がした触手は何度でも船体へ絡み付いてくる。
「クラゲの分際でうちに気楽に触れられると思たら大間違いや。うちへのお触りのお代は高うつくえ?」
 同じ事に繰り返しの中で狼華もいくらかの触手の攻撃をその身に受け、ダメージは蓄積され続けていた。
「このまま一気に引き剥がせば……きゃあっ!!」
 ふいにヒルダが足を掬われ地面に倒れる。後衛を守るため常に最前で奮闘するヒルダのその足には触手が巻きついていた。
 ヒルダとて油断したわけではない。ただ自由騎士6人に対して襲いくる触手のその数75本。全ての動きを把握すること自体不可能なのだ。
「く……ぅっ」
 触手の巻きついた足に鈍い痛みが走る。神経毒を流し込まれたようだ。不意にヒルダから力が抜けた瞬間、次々と触手がヒルダに襲い掛かる。触手は軽々とヒルダを逆さ吊りに持ち上げ、さらに何本もの触手がねっとりとした粘液と共にヒルダの衣服の中まで這い回る。そのおぞましい感覚にヒルダは思わず、身をこわばらせる。
(くっ……皆の前で……はぁ……こんな……あふぅっ……)
 毒が回ったのであろうか──鋭い目線とは裏腹にその頬は上気し、呼吸は荒い。
 絡みついた触手はまるでヒルダを弄ぶかのように、緩急をつけながらその上気した柔肌を味わんが如く服の下で蠢き、粘液に塗れさせていく。毒針の鈍い痛み、触手の締め付け、生臭くねっとりとした粘液、そのどれもがヒルダを未体験の領域へと誘う。
(は……ぁっ……)
 思わず洩れた吐息にヒルダ自身驚く。これほどの屈辱が──これほどの屈辱があるものか!!! 思わず唇を噛みしめるヒルダ。
「ヒルダを離せぇぇぇぇっ!!」
 そこに吹いたのは一陣の風。先ほどまで海上で吹き荒れていた疾風が今、ヒルダを救出せんと船上に吹き荒れる。その疾風は凄まじい怒気を纏い、ヒルダを拘束していた触手を次々と切り刻んでいく。
「(拘束が緩んだ……!)うぉぉぉぉーーーーっ!!!」
 ヒルダが叫ぶ。僅かに残った力を振り絞り、引き金を引く。その弾丸の放つ強烈な衝撃波はヒルダから触手を引き剥がし、拘束を解く。そのまま力なく落下するヒルダを、ドロテアは翼を広げ羽ばたきながら受け止める。
「大丈夫でありますか!! ヒルダ殿! すぐに解毒します!!」
 ソフィアも駆けつけパナケアで回復を施す。全身粘液塗れとなり深い毒こそ受けたものの、回復は十分に間に合いそうだ。
 その様子を見たアリアがほんの一瞬気を緩めた時だった。
「アリア!! 後ろ!!!」
 リュリュが声をかけたが、間に合わない。アリアが後ろから触手に捕獲される。
「くっ! 離せっ!! 離せぇっ!!」
 アリアが触手に剣を突き立てるも、触手に動きを阻害される今の状態では、アリアの持ち味である速度を活かした攻撃を行う事が出来ない。その間にも次々と触手がアリアを体内に取り込まんと、その手に、足に絡み付いていく。
「い……いやぁぁーーーーっ!!」
 思わずアリアから出たのは少女のような叫び声。その目にはうっすらと涙が浮かぶ。それは得体の知れないものに蹂躙される恐怖の感情。
 じたばたと手足を動かし何とか脱出を試みるも、絡みつく触手はその粘液と共にアリアの身体の自由を奪っていく。
「まずいっ!! このままじゃ取り込まれるぞ」
 リュリュはすぐに救出を試みようとしたのだが──残る3匹の触手が船体に激しく襲い掛かる。狼華も果敢に攻め、何本かの触手を切り落とすことに成功して入るものの、如何せん数が多すぎる。放っておけば船は沈む──リュリュも先ずは残る3匹の触手の対処を行わざるを得ない。
「いやぁーーー!!! 離して!! 離してってばぁ!! むぐっ!!」
 絶叫するアリアの体中を触手がべっとりと粘液を擦り付けながらずるり、ずるりと這い回る。
「ヒルダ殿っ!! アリア殿が!!」
 未だ回復途中のヒルダを癒すソフィアに合わせて、ドロテアがハーベストレインで更なる回復を施す。
「アリア……待ってて」
 今すぐにでも助けに行きたいヒルダだったが、今は思うように動かぬ身体が回復するのをただ唇をかみ締めて待つしかない。
 その間にアリアは体内へと取り込まれていた。
 体中のすみからすみまでを舐られるような感覚に加えて、自身の服が溶かされていくリアル。アリアの心に巣くうのはただ恐怖の感情。そこにいるのは自由騎士のアリアでなく、一介の少女アリア。
「いやぁ……いやぁ……助けてぇ……」
 嗚咽を漏らすアリア。
「くそっ!! 相手する数が多すぎるっ!!」
 せめて残りが3匹なら……リュリュがそう思ったときだった。

 ワタシが一体引き受けますぞ──

 そう言い少し寂しげな表情をしながら勢いよく海に飛びこんだのはジロー。程なくキロネックス一体の触手の動きが消化に向けて鈍る。
 活発に動く触手が減ったことでリュリュと狼華にもアリアを取り込んだキロネックスへの攻撃の余裕が生まれた。さらに──
「すぐ助けるわ、アリア!!!」
 そこには回復を終えたヒルダの姿。その美しい戦闘ドレスは触手の粘液で見る影もない。
 あとは頼むわね──ソフィアにそう目配せするとヒルダは迷わず船から跳ぶ。海上に姿を現し、今まさにアリアを消化せんとするキロネックスの頭上へと。
「よくもクラゲ風情の分際でアリアと私にありとあらゆる事をしてくれたわね……」
 ヒルダの銃を持つ手がふるふると震えている。
「食らいなさいっ!! 織女星の弾丸(あーくらいとばれっと)ーーーーーっっ!!!」
 超至近距離からのヒルダの全火力総動員の螺旋攻撃。そこにあわせるはリュリュの劇薬と狼華の気の刃。
 凄まじい爆音と閃光があたりを包む。
 爆音の後には動かなくなったキロネックス。そこにヒルダとアリアの姿は無い。
「アリアさん救出成功であります!!」
 空中から声がする。そこには衣服の大半を溶かされぐったりとしたアリアを抱えたドロテア。
 そして──ざばぁと波しぶきを上げて海の中から現れたのはヒルダとソフィア。ミズヒトのソフィアは、ヒルダの目配せで何を求められたかを正確に理解、そして実行に移していたのだった。
「ケホッケホッ。ありがとね、ソフィア。助かったわ」
「……普通の事を……しただけ……」
 そういい俯くソフィアだったがその顔は僅かに綻んでいた。

 残るキロネックスは3匹。1匹は消化行動中。1匹は船体に攻撃を行っているがもう1匹は2匹が討伐された事ですでに闘争心を無くし逃げ出そうとしていた。

「1匹だけの攻撃ならば船が沈む事はなさそうだ」
 リュリュが状況を冷静に判断する。
「であれば……あとは消化中のアイツを全力で倒すのみでありますっ!!」
 ドロテアが目標を改めて宣言する。
「そろそろ触手ばかりを切り落とすのも飽きてきたとこですえ」
 狼華は触手の粘液で切れ味の落ちた小太刀と短刀を見てため息を一つ。
「……あと一匹……」
 ソフィアはアリアに回復を施しながら、目標となる1匹に視線を移す。
「(くぅぅぅうぅぅ~~~~~~)……許さないっ」
 顔を真っ赤にして身をよじるアリアはまだ少し涙目だ。布率20%程度のその姿は青少年には目の毒である。
「お返ししてやらないとねっ(チラッチラッ)」
 ヒルダは不謹慎かなと思いながらも、服の大半が消化されあられもない姿になったアリアから視線を外せない。 

「「「「これで最後だーーーーっ!!!」」」」
 自由騎士達は消化活動中のキロネックスへそれぞれが必殺の技を叩き込む。
 消化中だったキロネックスはさしたる反撃をする事もなく、自由騎士の極大攻撃を受けそのまま活動を停止した。
 3匹目が討伐されると残る2匹は、状況を察したか動かなくなった3匹を連れ、海深くに消えていった。

 こうして輸送船は自由騎士達の文字通り身体を張った活躍によりギガントキロネックスの襲来による沈没の危機から脱したのだ。
 なお、ジローの救出は本当にぎりぎりだったらしく、救出されたその姿は一糸纏わぬ生まれたての赤ん坊のようであったという。救出後、ジローは誰にも見られないところで男泣き。


 自由騎士一向はそのまま輸送船にのり、イ・ラプセルまでの道のりに同行する事になった。
 乗ってきた小型船舶は輸送船に連結されている。
「今回は船員さんの救出を最優先にしましたが……こんな化物放置する訳にはいかないので、すぐに残りも退治しに来ないとですね」
「アリアったら。今はそんな事いいじゃない」
 アリアはヒルダと共に毛布に包まれ、暖を取りながらそういった。
 本来であればあれほどの体験をすれば思い出すのも憚られるであろう。アリアは強いな。ヒルダはそう思う。そういうヒルダの体験もまた筆舌に尽くしがたいものであったはずなのだが。

「貨物の無事なようだし、楽しみだな。どんな楽器がお披露目されるのか」 
 一通りの船の無事を確認したリュリュはほっと胸をなでおろしていた。これでイ・ラプセルのまつりごとももっと賑やかになるな。そう思うと次の祭が楽しみで仕方ない。
「そういえば箏は積荷ん中にあるやろか?」
 狼華が欲しているのはアマノホカリに由来する弦楽器だ。
「輸送船には弦楽器、打楽器、管楽器が色々揃ってるはずでっさぁ。まぁ細かくはあっしらはわかんねぇですけど」
 船員の一人がそう言った。

 イ・ラプセルの祭りを彩る様々な音色を奏でる楽器たち。
 そのお披露目ももうすぐだ。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ミューカスガンナー』
取得者: ヒルダ・アークライト(CL3000279)

†あとがき†

通商連から輸送された楽器は無事、イ・ラプセルに届けられました。
程なく佐クラのショップに並ぶことでしょう。

MVPは期せずして囮となった貴方へ。

ご参加ありがとうございました。
ご感想など頂ければ幸いです。
FL送付済